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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第五話「進展」
Name: にぼ◆6994df4d ID:fe0e6eb0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/19 18:38

大地の匂い。
木々の匂い。
虫の匂い。
それらの濃厚な匂いが混ざり合う事で、森の匂いという存在は形成される。
それはあまりに独特で、他者の介入には敏感に反応を示すものだ。
例えば、そこに人間がいた場合はそれが顕著となる。
並の人間では森のセンサーを掻い潜る事は出来ない。
草木の不自然な揺れ、体臭や汗の匂い、踏み折られる小枝の音等が否応無く異質な存在としての痕跡を残す。

しかし、そこにいる男だけは違った。
気配も無い。
何も無い。
誰も、男を見る事は出来ない。
静かに伸ばされた腕だけが音も無く彷徨い、やがて静止する。
その手が握り締める銃は、真っすぐ木の枝に止まった鳥へと向けられていた。
それを察知出来るものはいない。

――かちり。

引き金を引く音が唯一、異常を周囲へ知らせる。
だが、それに気付いた時にはもう遅い。
発射された弾が空気を切り裂き、直後、鳥は抵抗すら出来ずに地面へと落下していく。
そうして一仕事為し終えた達成感と共に、男、ソリッド・スネークは獲物へと足を進めていった。

第五話「進展」

スネークが食糧を探し求めて既に数時間が経っていた。
金の無駄使いは良くないし自然を感じられるからそうしよう、とユーノが半ば強行に言い放った事に始まったのだ。
そのユーノは最近、思い詰めた表情をする事が多い。
若い頃はよく悩め、とはよく言ったものだが。
それでも、酒を飲める歳にすら届いていない青年がこれでもかと言うくらい真剣に悩んでいる様子を見せられれば、やはり気にはなる。
しかし、スネークにはどうしようもない。
どうした、と聞いたところで何でもない、と切り捨てられるのは明白だからだ。
だから、大人のスネークはなるたけ気にせず、平常運転で生活を続けるしかない。

ふっ、と鼻孔の奥が水の匂いを捕らえた。
――こんな風に森で食料集めをしていると、懐かしい記憶が蘇ってくる。
そう、アウターヘブン蜂起だ。
そこでの出来事はスネークにとってトラウマの塊のような物で、思い出す度に気分が沈む。
それでも、懐かしい。
現地調達は潜入任務の基本なので、レーションが切れた時はジャングルで同じように食糧調達をしたものだ。
こうやって自身の気配を消し、森の感覚を可能な限り自身に同調させながら行動して。
この森は南アフリカのジャングルとは気候も植生も異なるが、その記憶がもう10年も昔の事なのだな、とスネークは懐かしむ。

何事にも始まりはある。
それは伝説の英雄と呼ばれた男、ソリッド・スネークにもそう言える。
最初から強い兵士として生まれた訳ではない。
特殊部隊フォックスハウンドの隊員としての初陣である、アウターヘブン蜂起の時はまだまだ新米だった。
当時フォックスハウンド総司令官だった、スネークの遺伝学上の父親であるビッグボス。
彼は、傭兵派遣会社であり武装要塞国家としての形を作っていた、アウターヘブンのボスでもあった。

「武装要塞アウターヘブンに潜入、最終兵器メタルギアを破壊せよ」

新米隊員のソリッド・スネークはッグボスによってそれを命じられたのだ。
ビッグボスは、偽の情報を持ち帰らせ情報の撹乱を目論んだが、結果は大敗北。
二十世紀最強の兵士の遺伝資質を受け継いだスネークは、作戦を進めながら戦士としての才能を開花させていく。
そして、新兵器メタルギアと運命的な邂逅を果たす。
TX-55メタルギア。
核搭載二足歩行戦車。
それは、山岳部や湿地帯など、悪条件な場所にでも迅速かつ正確な核攻撃を可能にする兵器。
世界のパワーバランスを崩す事が出来る、悪魔と形容するに相応しいものだった。
スネークは起動前にそれを破壊。
そして黒幕のビッグボスを倒した。
彼が父親である事も知らずに。

それから四年後。
生き残ったビッグボスは、ザンジバーランドという小国の長として再びメタルギアを開発・使用して、軍事的優位の確保を試みていた。
既にフォックスハウンドを除隊していたスネークは、ビッグボスを倒せる唯一の存在として再度召喚される。
起動してしまったメタルギアの破壊、親友との地雷原での対決。
それを乗り切り、スネークは今度こそビッグボスの殺害に成功する。

死の間際、ビッグボスは自らを父だと告白した。
スネークと合間見えた時。
自分の若い頃と同じ顔が銃を向けてきた時。
自分の遺伝子を持ったクローンと死闘を繰り広げて倒された時。
ビッグボスは、どんな気分だったのだろう?

「敗者は戦場から解放されるが、勝者は戦場に残る。そして生き残った者は死ぬまで戦士として人生を全うするのだ」

ビッグボスの言葉を思い出して、スネークは空を仰ぐ。
そんな事はない、そんな事はないんだ、とスネークはその言葉から、戦場から逃げ出した。
けれど、気付いたらシャドーモセスで銃を握っていた。
生きる意味を探しているとは言え、自分は本当に戦いの中でしか生きられないのだろうか?
何事にも始まりがあり、終わりがやってくる。
ビッグボスも、もはやこの世にいない。
けれど、ビッグボスの存在は未だにスネークを束縛していた。

スネークは暗くなる思考を強制停止させ、木々を掻き分けながら歩く。
潜入している訳でもないのに、出来るだけ気配を消しながら移動している事にスネークは複雑な心境になってしまう。

「ひぃっ! ひいぃー!」

だが、そんな事を悩む暇も無く、男の叫び声が横から響いて来た。
スネークが声の方向へ近づくと、涙目になりながら悲鳴を上げる男。
そして男を今にも食い殺さんと、唸り声をあげ殺気を放っている巨大な熊。
スネークは人知れず苦笑した。
アウターヘブンのジャングルでは蛇やら軍用犬やらはいたが、さすがに熊はいなかったぞ、と。
涙目の男の視線が忙しそうに彷徨い、偶々その場に居合わせてしまったスネークを捉える。
スネークにとっては面倒に巻き込まれた憂い、男にとっては正に窮地に舞い降りた  行幸  か。

スネークは魔法どころか超能力すら使えないが、その男の心は正確に読み取る事が出来た。
どうか助けてくれ、だろう。
ユーノも悲鳴を聞き付け接近しているのだろうが、その前に熊は男を明日の為の栄養源にする筈。
スネークは気怠そうにM9を抜き、弾が装填されている事を確認。
引き金を引き、男に覆い被さった熊へと寸分違わず命中させる。
熊は背中への衝撃に反応、振り返ろうとして、そのまま倒れた。
麻酔銃なので、熊は昏倒しているだけだ。
地面に転がる濃い茶色の大きな巨体は圧倒させられる。

「た、助かった……?」
「ああ、間に合って良かったな」
「……は、はああぁ、そうか、助かったかぁ……」

自分の命が安全だという保障を感じて腰が抜けたのか、男はまだ涙目の状態で転がっている。
実に間抜けな姿だ。
銃をしまうと同時に、ユーノが駆け付けてくる。

「スネーク大丈夫!? ってあああああーー!!」
「ど、どうした?」

ユーノは、スネークと男の無事を見て安心そうな表情を浮かべたかと思うと、顔を真っ青にした。
そして、ワシャワシャと腕を振るい、スネークにがなりたてる。

「き、ききき、君! これっ! 保護指定受けてる絶滅危惧種の『星熊』っ! ま、まままさかころっ! ころしっ!?」
「死んでいないぞ、麻酔で眠っているだけだ」
「あ、ああ、そうなんだ……」

スネークの言葉を聞き、良かった、と安堵の息を漏らすユーノ。
スネークの無事を確認した時よりも安堵するとは、なんとも微妙な心境になる。
スネークがチラリと熊を見ると、額と胸部に星の模様。
単純なネーミングだな、とスネークは心の中で冷やかした。

「ああ、驚いた……でも保護区画にいる筈なのに、何故ここに……?」
「餌でも探しているんじゃないのか?」

そして哀れにも、この男は胃袋を満たす食材として目を付けられていたという訳だ。
ふと、ユーノはハッとすると再び顔を青くした。
顔の色を変えるのが得意な奴だ。
今度は何を言われるのだろうか、と身構える。
そして、スネークを襲う怒鳴り声。
それはユーノのものではない。

「お前達っ!」

先程の情けない声を出していた男である。
恐怖から立ち直ったのかしっかりと立ち上がり、スネークを睨み付けていた。
その体は意外にガッチリとしていて、よく鍛えられているのが分かる。

「まず、ありがとう。お前がいなかったら今頃この熊の胃の中だったろう……」
「感謝しているとは思えない態度だ」
「うるさいっ……一つ聞かせろ。その質量兵器は、許可を取ったものか? いや、どうせ取っていないのだろうっ」

有無を言わさぬ見事な断定。
さあな、としらを切るスネークだが、男の怒りを燃え上がらせてしまったらしい。

「貴様、質量兵器を使っておいてよくも抜け抜けと!」

何という熱血。
熊に襲われていた時の情けなさはどこへ行ったのだろう。
思えば、こんな性格の人間とはスネークの人生で初めて会ったかもしれない。
断言できるのは、こういう奴とは仲良くはなれないという事だけ。

「……言っておくが、これは麻酔銃だから質量兵器じゃな――」
「立派な質量兵器だっ!! この正義の使者、時空管理局の二等陸士、ウィリアム・バースの前で法を犯すとはいい度胸だな!」
「おい、話を聞け」
「俺が今日偶々休暇で、森を優雅に散策していたのが貴様等の運の尽きっ! C級質量兵器の所持・使用の現行犯で逮捕するっ!」

ウィリアムと名乗る男はスネークの言葉を遮って叫び、ビシィッ!! と指差す。
正義の使者が人を指差すのは礼儀的に如何なものかと思うのだが。
未だ真っ青なユーノに、大さじ三杯程の怒りを乗せて念話を飛ばした。

『ユーノ。お前、「質量兵器は子供ですら簡単に扱える破壊兵器」とか言ってたよな』
『……君の麻酔銃も質量兵器だよ』
『殺傷能力は無いぞ!』
『無くたって質量兵器! いいかい、質量兵器は威力別でSからCまで四つに区分けされてるんだ。核爆弾もS級にくるんだよ』

強めに言い返されてしまった。
ちらりとユーノを一瞥するが、さすが無表情。
怒濤の説明攻撃は続く。

『そしてA級、B級と威力別で分けられていって、最後C級に殺傷能力の無い麻酔銃やスタングレネードとかが来るんだ』
『……事前に言っておいて欲しかった』
『さすがに分かってるだろうと思ったんだよ! ああぁ、よりにもよって管理局員とか勘弁して欲しいよ……』
『おまけに、かなりの熱血漢だ。熱さでこっちまで火傷しそうだ』

見逃してもらいたいんだけどね、とユーノが無表情のままで嘆く。
耐えかねるようにようやく、二人で大きな溜め息。
ウィリアムが、格好良く決めたのを無視された事に怒り、顔を赤くして戦闘態勢に移った。

「貴様等無視するなっ! ……ええい喰らえ、正義を愛し悪を断罪するチェーエエン! バインドオオォッ!!」

ウィリアムが杖型デバイスを手にバインドを放つが、ユーノのそれと比べると速度も追尾性能も明らかに劣る。
当然、スネークは軽い足取りで楽々避けた。

「おい、話を――」
「避けられただと!? く、糞ったれ、弱者と庶民の味方、時空管理局員を馬鹿にしやがって! ……ならばこれでどうだ!」

スネークは言葉を遮られてうんざりとする。
これはもう何を言っても無駄なのだろう、と。
彼の脳内にあるのは恐らく、犯罪者を引っ捕らえる事だけか。
話を聞くつもりは一切無いらしい。
ウィリアムのデバイスの先が光を帯びる。
恐らく砲撃だ。
確かに、生身の身体に直撃したら、面白くない事になるだろう。
だから、スネークは――

「正義に燃える熱いハートを喰らえええぃ!! 全力っ全開!! でぃばうぅっ!」

――ウィリアムが叫び終える前、麻酔銃を彼に撃ち込んだ。
光を霧散させるデバイスと、豪快に地面に倒れこむウィリアム。
それを見て、疲れた表情のユーノが頭を振る。

「それで、気絶させてどうするんだい、スネーク」
「……まぁ、街の近くまで連れてってやるか」
「顔、モロに見られちゃったね……」

落胆するユーノに、スネークも肩をすくめるしかない。
熊に襲われる男を助けてこんな展開になると、誰に予測出来るだろうか。

「何、奴の上司は部下の命を助けた男を檻の中にぶち込んだりさせる前に、まともな仕事をさせるだろうさ」

まともならな、と付け加える。
まともならね、とユーノもそこでようやく苦笑い。

「向こうも人手不足だろうから、そうだと良いんだけど……はぁ、僕疲れちゃったよ」
「……俺もだよ。ああいうタイプの人間は初めてだ」

再び大きな溜め息を吐くユーノと、やはり疲れを感じているスネーク。
M9をしまって、目蓋を優しく揉む。

「……ユーノ、管理局はあんなのばかりなのか?」
「まっさか。あーあ、もう今日は街で食事しよっか?」
「ふむ、ステーキだな?」
「もう何でも良いよ……」

スネークが局員を助けてから僅か十分。
その短時間で二人とも精根尽き果てていた。
それでも男をどうにかしないと話は始まらない。
ウィリアムの足を引っ張りながら街へ歩きだすユーノとスネークだった。



時空管理局機動六課隊舎、医務室へと続く廊下。
フェイトは高町なのはとそこにいた。
数年前になのはを襲った事故以来、はやての守護騎士で本局の医務官でもあるシャマルがなのはの主治医として定期的な検査を続けている。
と言っても最近は、なのはが無理をしないように諫めるのが主体になっているのだが。
新人達の訓練が終わったタイミングで呼ばれたなのはだが、事務仕事がある、と逃れようとしていた。
しかし同じくはやての守護騎士、なのは率いるスターズ分隊副隊長のヴィータが見た目に似合わぬ重い腰を上げてくれた。
彼女がそれらをもれなく全て引き受けてくれたので、意気消沈のなのはとこうして今に至るという訳だ。
フェイトは途中までの付き添いである。
機動六課の初出動も無事成功し、ますます訓練に熱が入るのを見越して、無理しないように釘を刺すつもりなのだろう。
なのはが憂鬱そうな声を上げる。

「ああぁ、またシャマルさんに怒られちゃうかなぁ……」
「皆なのはの体を心配してるんだから、あんまり無茶しちゃダメだよ」
「あはは、分かってるよ。でも大丈夫、ありがとう」
「……もぅ」

あまり言う事を聞いてくれないなのはに、フェイトは大きな溜め息を吐く。
とはいえ、なのはの無茶にもある程度慣れてしまった自分もいるのだから嘆かわしい。

親友はやての機動六課が稼働し始めた今現在も、ユーノは失踪状態。
はやても部隊長として忙しい身の中、僅かな空き時間を見つけてユーノの捜索を協力してくれているが、依然として進展は無し。
なのはの精神的な疲れは大きいはずだ。
フェイトは自分の無力さが悲しく思えてくる。
気付かれぬように、こっそりと溜め息。
そして。
ふと、前から歩いてくる男性局員を見て、なのはが驚きの声を上げた。
男性局員もなのはの顔を見て驚きの表情を浮かべている。

「……ウィル君?」
「た、高町教導官! お久しぶりです! それにハラオウン執務官、お会い出来て光栄です! ウィリアム・バース二等陸士です!」
「初めまして、バース二等陸士」

ウィル、と呼ばれた局員は慌てた様子でビシィッ、と敬礼を返す。
フェイトも微笑みを浮かべて敬礼。

「もぅ、そんなに固くならなくていいよ、元気だった?」
「は、はい! お世話になった高町教導官には感謝してもしきれない位で……元気にやらせて頂いてます!」

ウィリアムのガチガチな様子に、なのはは苦笑している。
彼はなのはの元教え子という事か。
何故、彼が六課にいるのだろうか?
フェイトの疑問を代弁するかのように、なのははウィリアムに尋ねる。

「でも、なんでウィル君が六課に?」
「あ、いえ、ちょっとここの医務室に運び込まれたんです」

昨日の休暇中に熊に襲われまして、と話し始めるウィリアム。
なんでも、熊に襲われていた所を麻酔銃を許可無しで持っていた男に助けられたとの事。
しかし、麻酔銃も立派な質量兵器。
現行犯逮捕しようとして返り打ちに会い、気付いたら町外れで眠っていたという事らしい。
そんなドタバタな展開はなかなか無いだろうな、とフェイトは内心で苦笑する。
しかし逆にウィリアムは、話を進める内に怒気を帯びてくる。
さすがのエースオブエースも予想外の剣幕にたじろいでいるようだ。

「もう、俺悔しくて悔しくて! せっかくの休暇も潰れちゃったし……くそぉ! 正義を甘く見やがって……」
「ま、まぁ、助かったなら良いんじゃないかな? 何事も体が資本なんだから」
「でも! それでもっ……俺は休暇使ってでもあの二人組を捕まえます! この体を巡る熱い血が――」
「顔は覚えているんですか?」

ここでフェイト、会心のファインプレー。
止まらない熱血陸士の言葉を遮って質問する。
ありがとう、と念話で伝えられたなのはの感謝に小さく頷いた。
話を遮られたウィリアムは怒りに燃えた顔から一転、得意気な表情を浮かべる。
待ってました、と言わんばかりだ。

「フフフ、忘れやしませんよ。俺、記憶力は良いんです」
「わぁ、凄い!」

なのはの言葉が投げやりになってきている気がするのは気のせいだろうか?
正直、自分もそろそろ話を切り上げたい所だ。

「一人は恐らく三十代前半で茶色の髪、不精髭のキリッとした顔つきでした。あ、もう一人からスネークとか言われてました。ぷふっ、変な名前ですよね」
「えっ」

スラスラと述べるウィリアム。
フェイトはそれを聞き、思わず冷や汗をかく。
ウィリアムが話す特徴を聞き、忘れかけていた記憶が蘇ってきたのだ。
その特徴は、数か月前の名前も知らぬ男に似ている。
確証は無いが、そうに違いないと心のどこかで主張している自分がいた。
牧師の説教のような物を、張り切って男に話した事を思い出し、少し気恥ずかしくなる。
まさか、本当にあの男なのだろうか?

「ハラオウン執務官、ご存じなのですかっ!?」
「あぅ、えーといやいや、分からないなぁ、ごめんね」

あくまで推測に過ぎないのだから、と詰め寄るウィリアムにとぼける。
――しかし。
衝撃はそれでは終わらなかった。

「もう一人は二十代前半位ですかね。金髪をリボンで纏めてメガネをかけた中性的な顔つきでした。ふん、良い歳した男性がリボンとは趣味が悪い」

正にその瞬間。
時が止まった。
爆弾発言、とはこの事を言うに違いない。
全く夢想だにしない特徴がウィリアムから出てきたのだ。
ぽかん、と呆けていたなのはは一足早く、停止した時の中から脱出。
空気が激変して困惑しているウィリアムにそのまま詰め寄って。
ひぃっ、と情けない声を上げるウィリアム。

「そっ、そのリボンッ! 色は!?」
「え、えーと、確か……」

必死に思い出そうとするウィリアムに、答えを待つなのはは悶々としている。
もしも。
もしもその色が、緑ならば。
確率はぐーんと、鰻登りに上がる事だろう。

「……確か、緑でしたね、はい」

そう、緑ならば。
ほぼ間違いなく、ユーノ・スクライアだ。

「ど、どこ? 何処で会ったの!?」
「み、ミッド西部のリニックでひゃああ!」

なのははウィリアムからバッと離れ、そのまま来た道を戻ろうと走りだす。

「なのは!」
「フェイトちゃん! シャマル先生に言い訳お願いっ!」

ダダダ、と走り去るなのはの背中は既に小さくなっている。
小さい頃は運動が出来なかった少女が、逞しくなったものだ。
しかし感動に浸っている余裕は無い。
直感が危険信号を放っている。
シャマル先生に言い訳なんてしている暇は無さそうだし、早く追い付かなければ。
焦るフェイトの視界に入る、ポカーンと間抜け面で口を開けているウィリアム。

「バース二等陸士!」
「へ? は、はい!」
「シャマル先生に言い訳お願いします!」
「えええっ!?」

フェイトはそれだけ言い放ち、走り始める。
遂に、事態が進展する時が来たのだ。
フェイトはギュッと拳を握り締め、スピードを上げた。

「な、なんだったんだ……」

廊下には、ウィリアムの声が虚しく響くのみ。



リニックの街。
ここは大都会とは言い難い場所だ。
のどかな雰囲気。
だから騒音や大気汚染も他よりもマシで、いくらか心地が良い。
スネークは道路脇の樹に寄り掛かり、真っ青な空を眺めながらタバコをふかした。
昨日管理局員に顔を見られてしまったので、とりあえず移動しようと支度を進めている所である。
言わば面倒事からのとんずらだ。
スネークは必要な物を町で買い物、ユーノはテントで準備。
まさか、昨日の今日で追い掛けてくる事も無いだろう。
そうして現在、スネークの買い物は終わり、一息付いていた訳だ。
五分ほど気持ち良く吸って携帯灰皿に突っ込み、荷物を手に立ち去ろうとして――

――ガシッ!

強烈な力で肩を掴まれる。
スネークが何事かと後ろを振り替えると、そこには俯いた女性。
勿論肩は掴まれたままだ。
走っていたのか、肩で息をしていて栗色の髪が大きく揺れている。
その状態でしばらく女性は息を整えると、顔を上げる。
紅潮した頬。
敵意と好意、どちらも含まれていない面白い視線が向けられる。

「……なたが」
「……何だって?」
「貴方が、スネークさん、ですねっ!?」

――昨日の今日で、また面倒事か。
避けられないだろうそれに、スネークはただただ嘆息を漏らす。
だがそれもタバコの煙同様に、虚しく宙に溶けていくだけだった。




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