<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[6504] 第三話「道」
Name: にぼ◆6994df4d ID:994d3cd9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/19 18:37

青い空、白い雲。
心地良い風が颯爽と吹き抜けるそこに、鬼の形相を張り付けたスネークがいた。
一生懸命に摘んだブルーベリーとサーモンベリーを入れておいた袋を、谷底に落としてしまったのだ!

「糞ったれ!」

スネークは毒づきながらも慌てて空を飛び、滑空しながら追い掛ける。
しかし、袋の元まで辿り着いた時には余りにも遅かった。
狼が袋の中身を美味しく頂いていたのだ。
その狼はこちらを向き、威厳を放つその姿で、一言。

「うむ、なかなか美味かったぞ」

偉そうに何を言うか、と歯軋り。
いつの間にか足元にあったロケットランチャーを構え、声を低くする。

「そうか、だがそれは俺が取った物だ。弁償しなければ裁判所に訴えてやるぞ」
「よし、受けて立とう。だが、その前にまず目を覚ますのだな」
「何?」

ハッと目を開けば、見慣れぬ天井。
目を何度か瞬かせ、ようやく夢なのだと気付く。
ぼんやりとする思考でも、喋る狼など存在するはずはない、という事はきちんと理解していた。
視線をずらせば、何かの作業をしているのか緑のリボンで纏められた髪が揺れていて、引っ張りたい衝動に駆られる。

――ああ、そうか。

新しい生活が始まったのだ。

第三話「道」

「服?」

スネークとユーノが共に行動する事を決めた次の朝。
スネークが軍用携帯糧食のレーションを食べながら、怪訝な表情を浮かべる。
ちなみにユーノは干し肉。
レーションは栄養価も高いので進めたが、一口食べて不味い、と断られた。
服を買おうという予期せぬ提案に、何を言っているんだ、という反応をするスネーク。
そんなスネークを見て口元を引くつかせ当然だろう、とユーノは話し出す。

「君、ずっとその服装でいる気かい? この変質者め」
「……む」

変質者という言葉に不満を覚えつつも、体を見てみれば軍用のズボンに、スニーキングスーツ。
言われてみれば確かにそうだった。
一般人がいる中、大通りを今のスネークが歩いていたら問答無用で通報されるに違いない。
今流行りのコスプレだ、と言い訳しても残念ながらそれが通る事はほぼ有り得ない。
着慣れてしまったこのスニーキングスーツは、体表に密着させる事で内蔵の保護に加え、耐衝撃性にも優れている。
この上にボディアーマーを着用すれば、正に鉄壁。
行動のし易さ、戦闘における信頼性は一番だったが、この新しい生活には違う服も必要になるだろう。

「だがユーノ……服を買いに行く服が無い。これしか無いんだ」

ユーノは途端に顔をしかめた。
だが、スネークにも止むに止まれぬ事情というものがある。
己の名誉を守る為の主張だが、スネークも多少の服は持っている。
がしかしモセス事件の際、自分の小屋に置いてきたまま軍に拉致されてしまった。
その後丸裸にされて何もかも取り上げられ、体中を検査され、訳の分からない注射も受け、任務を断れない状況に追い込まれて――。
ぐぐ、と込み上げるものを何とか押さえ付ける。
俺は紛う事無く被害者なのだ、と。

だが、今頃あの小屋はどうなっているのだろう?
軍の連中にドアも壊されてしまったので、もしかしたらどこぞの輩に荒らされているかもしれない。
さらに、スネークが飼っていたハスキー犬も心配である。
自宅から出る際に、首輪を外しておいたが、無事だろうか?
少なくとも、世界最大の犬ぞりレースに出る事は不可能となってしまった。
せっかく訓練していたのにだ。
自ら建てた小屋とハスキー犬に想いを馳せて、沈鬱な気分になる。
スネークの胸中を知らないユーノにとっては所詮他人事なのだろう。

「全く……言ってて悲しくならないの? この変質者。……町での服は僕のを貸すよ」
「変質者変質者しつこい。まだあの骨董品の事気にしているのか? ハゲるぞ」
「あれはそう簡単には忘れられない。それに頭髪は君の方が心配した方が良いんじゃないか、三十三歳?」

年齢をネタに年長者を詰るのは若者の特権、とでも言うのだろうか。
綺麗に言い返され、それが的を得ているのだから、スネークには皮肉しか言えない。

「ふん、心配で夜も眠れんよ。……服は助かるが、金は大丈夫なのか?」
「こう見えても局員だった頃の貯金が結構あるんだ、任せてくれ。近々行く予定の遺跡の申請書類も出さないといけないし。頼むよ、立派な護衛さん?」

そう、一応スネークは考古学者ユーノの護衛という事になっている。
ちなみにユーノが名乗っている偽名は、「チャーリー」との事。
他人がいる時はそう呼ぶ決まりだ。
その名前を聞く度、ザンジバーランドの時の知り合いを思い出して懐かしく思う。
彼は元気でやっているだろうか?
彼も、まさかスネークが迷子になった挙げ句に、護衛をしている等とは思っていないだろう。
自分自身もびっくりしているのだから。

「努力するとも、チャーリー?」
「よしよし。後、質量兵器の事だけど……」
「他人には言わない、見せない、使わない、だろう? わかってるさ。……そうだ、ユーノ」
「ん、何?」
「タバコも買っていいか?」

ユーノは一瞬の間も作らずに、ダメ、ときっぱり言い放った。
実は割と勇気を出して行った提案だったのだが、容赦が無い。
スネークは必死に喰らい付く。
それは今後の死活問題だから。
俺がタバコを止める時は死ぬ時だけだ、と断言しても良い位だ。

「……頼む」
「駄目」
「この無くなりかけのモスレム一箱でこれから過ごせと? 肺が腐る!」
「駄、目! ニコチン中毒の君に解説してあげようか? タバコに含まれる化学物質、ベンゾピレンは肺癌に関係があるんだ」
「……」
「ベンゾピレンは体内に取り込まれるとBPDEに変化して、肺癌の原因と言われているP53遺伝子に結合する事が知られているんだ。……聞いてる?」
「……ああ、聞いてる、続けてくれ」

喫煙者に厳しい社会よ。
携帯灰皿を買ってポイ捨ても止めるから、もう少し風当たりを良くしてくれ。
数少ないヘビースモーカー仲間のナスターシャと、無線越しに熱く語り合ったのをスネークは懐かしむ。
嗚呼、口が寂しい。

「BPDEがP53の特定の三ヶ所に結合して突然変異を起こす事が、肺癌の原因とされているんだよ。怖いだろう?」
「……化学式を理解しても、タバコの良さはわからんよ」

饒舌に語るユーノに聞こえないように、ボソリと呟く。
が、ユーノはギッ睨み付けてくる。
地獄耳め。

「何か、言ったかい?」
「いや、何も。はあぁ……ほら、準備して行くぞ」

零れる溜め息。
残り数本しか入っていないモスレムの箱表面を愛しげに撫で、ぶっきらぼうに呟きながら着替え始めるスネークだった。



「はあぁ……」

ミッドチルダ南部、都市タルタスの中央公園に、金髪の女性の溜め息が響く。
長い金髪の先を黒いリボンでまとめ、その豊満な肉体は窮屈な管理局の制服を押し上げている。
整った顔立ちに、燃えるような紅い瞳。
見る人誰もが見惚れる容姿を持つその女性の名は、フェイト・テスタロッサ。
職業は時空管理局本局執務官。
執務官と言えば、志願者が泣きだしてしまうような倍率の高さを誇る事で知られている試験が知られる。
フェイトはそれを数回の敗北にも屈しず、見事に合格した正真正銘のエリートだ。
天気は雲一つ無い快晴だが、そんなフェイトの心の中は暗雲が立ちこめていた。

――用心深い。
憎々しげにぐぐ、と拳を握り締める。
フェイトが追っているロストロギア密輸グループ。
ここでその取引きが行われるという情報の元わざわざこの町に来たのだが、見事に外れた。
どうやら感付かれてしまったようで、また一から仕切り直しである。
溜め息をもう一つ。
その事だけならまだ、気合を入れ直して局に戻っているのだが、フェイトが公園のベンチに逃避するのにはまだ理由がある。
親友、高町なのはの事だ。

見ているこちらが元気になるような笑顔を持ち、誰よりも空が似合う女性。
時空管理局のエースオブエースと呼ばれる彼女を知っている人間は少なくない。
しかしそのなのはは最近、心から笑っていないのだ。
周りが何を言っても作った笑顔で大丈夫、と言うだけ。
本人はどうせ迷惑を掛けたくないなんて心情なのだろうが、友人としては堪ったものではない。

諸悪の根源は、なのはの、そして自分の親友であるユーノ。
彼は無限書庫司書長という役職にいながら、突然に辞表を残して失踪したのだ。
親しい友人にも何も話さずに失踪、今も尚連絡も取れない事から、何か事件に巻き込まれたのかとも心配した。
スクライア族の元へ訪れて聞いても、知らない来ていない最近顔も出さない全く淋しい云々、と言われてしまい余計に心配。
しかし辞職する直前にユーノが寮部屋の大掃除、荷物の整理を行っている姿を目撃されていた事。
そして彼の失踪が、彼に課せられていたプロジェクトが完遂された直後という事。
これらの点から、当局はユーノが事件に巻き込まれた可能性を否定した。
何か思う所があったのか、それか発掘民族なのに管理局に留まり続ける事を疎ましく思っていたのだろう、という判断に終わったのである。

元々、無限書庫は放置されていた、所謂物置状態だった。
埃が被っていたそれを、ユーノが正式な部署と言えるまでに磨き上げ、稼働させたのだ。
最初期は、「無限書庫が無くても管理局は機能していた」と反発の声も上がったが、時が経つにつれてそんな意見も消失。
今では誰もが認める重要部署となった。
――しかし、問題が発覚する。
当時の過酷な無限書庫業務は、司書長ユーノの能力に依存していた。
しかしある時、終わりの見えない資料請求がもたらす激務の山に呑まれて、ユーノは過労で倒れてしまったのだ。
当然無限書庫の部署としての機能は完全に停止。
必要な情報が無限書庫から期限までに届いて当たり前、という認識へ推移していた管理局全体に大混乱が巻き起こる。
この影響は数日間止まる事無く、勿論、フェイトやなのはの任務にも支障が出た。
当然の事ではあるが、一人が突然いなくなっただけで機能出来なくなる部署など論外である。
上層部は即座に司書長であるユーノに、状況の改善を促した。
つまり、ユーノがいない状況でも無事運営出来るように、という事である。
噂によると無理難題とも言える指示にもかかわらず、ユーノは熱心に取り組み続けたという。
数年越しでユーノは司書の増員、待遇の改善に加え、数々の問題点を消化して無限書庫の改革を行った。
そしてユーノは、自分自身がいなくても多少効率が下がるに留まった無限書庫を見事完成させて、姿を消した、という事である。

そこで黙っていられなかったのが、ユーノの知り合い達だ。
フェイト達にとって一番ショックだったのは、ユーノが幼なじみ兼親友であったはずの自分達に何も話さずに姿をくらませた事。

ユーノにとって、自分達はどういう存在だったのだろう?
相談をする必要等無い、友達ではなく唯の顔見知り程度の認識だったのだろうか?
執務官試験の勉強に付き合ってもらっていた時も、彼は内心迷惑だと思っていたのだろうか?

――終わりの無い自問は、ゆっくりと、確実に心を蝕んでいく。

頭の中を、マイナス指向の妄想がどんよりと覆っていた。
フェイトは負の連鎖に気付いて、いけないいけない、と悪しき考えを振り払う。
悲観的な想像はさらなる悲観的な妄想をも作り出し、心も体も負の感情で塗り潰すのだ。
はやての夢が近々完成しようとしている事もある。
失踪したユーノも探さなければならない。
何より、平然としているが、時々酷く寂しそうな表情を浮かべるなのはを支えなければいけない。
今こそ、フェイトがしっかりしなければいけないのだ。

なのはは普段は何事も無いかのよう活発に働き、それでも少ない休日が取れたかと思うとユーノ探しに駆け回り、痛々しい顔で帰ってくる。
それはユーノへの想いに気付いたのか、それともまだ友達だと思い込んでいるのか。
それは、なのはのみが知っているのだが。
ともかく、そんななのはを見ているのは心苦しいが――自分にも休息は必要である。
体が重く感じるのは、さっさと休息を取れ、という合図なのだろう。
がさごそと袋から取り出すのは、一つの菓子パン。
売店で買った、カスタードがたっぷり詰まったクリームパンが、少し遅い昼ご飯だ。
栄養・ダイエット的に問題があるが、たまには良いだろう。
あむ、とフェイトは勢い良くパンに噛り付く。

「……おいしい」

クリームのふんわりとした甘い香りに、思わず頬が緩む。
フェイトは元々甘い物は特別好きではなかった。
しかし、母親のリンディが造り出す極度に甘い味付けの料理を度々食事していたおかげで、多少好みが変わってしまったのだ。
ともかく、口の中に広がる甘さは少しの間だが、忙しい現実を忘れさせてくれる。
パンを食べ終えたら、お茶を片手に一息。
勿論義母のように無駄な砂糖は加えていない、至極普通の緑茶である。
適度な苦みがクリームの甘ったるさを流し、すっきりとした感覚が好ましい。

と、その時。
ふと公園の入り口の方から、こちらに両手一杯の荷物を抱えた男が歩いてきた。
整った顔に、無精髭。
身長は高いし体格も良いのだが、かといって粗暴な印象も受けない。
地球でいう『イケメン』という形容よりは、『男らしい』と言った方が正しいか。
チャラチャラで、ヒョロヒョロで、ダメダメな男性よりは、ガッチリとした男性の方が好みである。
それでも多少雰囲気は固い無表情という事もあって、その男には少々近寄り難い。

そんな男は、フェイトが座っているベンチに座ったかと思うと一転、頬を緩める。
そして袋からタバコを取り出し口にくわえると、待ち切れない、と言わんばかりにライターを取出し着火。
すぅーっ、と男は気持ち良さそうに煙を吸い、呻き声を漏らす。

「くうぅ……」

直後、はぁー、と煙を吐き出す男は感無量といった様子だ。

「……くす」

幸せそうにタバコを吸う男を見て、先程のクールなイメージとのギャップが滑稽で、思わず笑みが零れてしまった。
その様子に気付いたのか、男がフェイトに疑念の眼差しを向ける。

「あ、すいません、随分と美味しそうに吸ってるので、つい」

笑いを止めようとするが、くすくす笑いは止まらない。
だが、想像してみて欲しい。
映画に出てくるようなクールな男が、幸福そうな表情を満面に紫煙をくゆらせるのだ。
抱腹絶倒ものである。
友人達にも見せてやりたい位だ。
フェイトは、かつてこれほど美味しそうにタバコを吸う人を見た事がなかった。
タバコの匂い自体は嫌いでは無い。
しかし、タバコを吸う人なんて局でも中年の局員しかいなかったし、どちらというと正直汚いイメージしか持てなかったのだ。
しかしこの男は、なかなかタバコを吸う姿が様になっている。
フェイトの言葉を聞いて男は、ああ成る程、とタバコの箱を振ってみせた。

「最近は直接火を付けないタイプのタバコばかりでな。……やはり火を点けて吸うタバコは味が格段に違う、美味い。ゴネた甲斐があったよ」

ゴネた、とは何の事なのかが気になるフェイトだったが、男は構わず話し続ける。
その表情は、何か吹っ切れた様子で。

「……今まで何気なく見てきた事、やってきた事。それの何もかもが今は新鮮に感じる。自分がいかに狭い世界で生きてきたかよく分かるな」
「狭い、世界……?」
「ああ。自分の殻に閉じこもって、周りも見ずに酔っ払っていた」

そう語る男の瞳の奥には、寂寥の色が浮かんでいるように感じて。
何となく、気になった。
止められなかったくすくす笑いも、いつの間にか収まっていた。

「……でもそれなら、新しい自分をこれから始められますね」

フェイト自身も、母からの愛情を求めてひたすらに藻掻き、苦しんでいた時があって。
高町なのはという心優しい少女に出会えた事で、新しい自分を始める事が出来たのだ。

「新しい自分、か。……俺にはまだ分からない」
「……え」
「俺が信じていたこと、当然だと思っていた事が、ある事をきっかけに違うと気付いてしまった。今は自分が何者なのかすら分からない」

ぼんやりと宙に向けられた瞳に、フェイトはいつの間にか吸い込まれていた。
一体、彼は何を見て、生きてきたのだろう。
自分が何者なのか。
そんな疑問を感じる人間は殆どいない。
何故なら今ある自分は自分であり、他の誰でも無いからだ。
それは殆どの人の意識に深く根付いている。
だがフェイトはあるきっかけからその疑問を幾度と無く抱き悩んできた。
だから多少は理解出来る。
寂しげな表情を一瞬浮かべたその姿は、昔の自分に似ている気がした。

「自分が何者なのか、ちゃんと分かっている人なんていませんよ」

だから、強めに声を上げる。

「辛い過去があっても人は他人と触れ合い、色々なものを見聞きして、新しい道・目的を求めて歩くものです」
「……道」
「貴方にだってきっと見つかるはずですよ、生きる意味が」

――消せない傷跡が残ろうと、生きる意味を見失わなければ、人は強く生きていける。
烈火の将と呼ばれている友人の言葉だ。
ふと気付けば、見知らぬ男に饒舌に語っている自分がいた。
男が驚いた表情で、その瞳をフェイトに真っすぐ射貫かせていたので、少しだけ気恥ずかしさを感じる。
それでも、そこに後悔は欠片も存在しない。

「……それを見付けるかどうかは、貴方次第ですよ。どうです、見付ける事が出来ると思いますか?」

フェイトの試すかのような言葉に、男は拳を握り、言葉を発する。
そこからは、確固たる意志が溢れていた。

「見つかるとも。……見つけるともっ」

――この人は強い。
フェイトにその確証が生まれた。
男の瞳から確かな意志の強さ、決意の深さを感じ、満足気に微笑む。
自分の言葉が他人に少しでも良い影響を与えるのなら、それは素直に嬉しい事だ。
男はそう言い切ると同時に、ハッとして、頬を掻いた。

「すまない、熱くなってしまった。……今日はおかしいな、自分の事をこんなに話すとは」
「フフフ、でもその意気ですよ。……そしてその前に、忍耐力をつけなきゃ、ですね」

む、と男が不満気に唸る。
忍耐力が無いと言われたのが気に入らなかったらしい。
だから男が反論を口にする前に、フェイトは華麗に先手を打つのだ。

「俺は、」
「少なくともっ。……タバコには負けてますよね?」
「はは、タバコは俺の人生の一部だ。禁煙などしたい奴が勝手に……」

男がふと言葉を遮って視線をずらす。
フェイトもその視線を追うとそこには、園内に設置された時計。
男が来てから結構な時間が経っている。

「……ふむ、俺は知り合いと待ち合わせてるから、悪いがそろそろ行かせてもらおう」
「いえ、私も仕事に戻ります」

タバコの火を揉み消し、携帯灰皿に突っ込む男を見ながらフェイトも支度。
ポイ捨てしないのは個人的にかなり高得点だ。
というよりそれが当たり前の事で、携帯灰皿すら用意出来ない人はタバコなど吸わなければ良い。
男が準備を整えて立ち上がるのを見て、別れの挨拶。

「楽しかったです、ありがとうございました」
「こっちも参考になる話を聞けて幸運だった、ありがとう。君みたいな美人はディナーに誘いたかったが……じゃあな」
「……口説いてるんですか?」

美人と言われて悪い気は起こす筈もないだろう。
フェイトは微笑みながら、小首を傾げて問い直す。
男はそれに何も答えず、はは、と笑って立ち去った。
少しだけ、顔が熱を帯びるのを自覚。
よく声を掛けてくるナンパの類とは違い、嫌悪感は湧かなかった。
立ち去る男の背中を眺めながら少しの間ぼんやりとしていたフェイトだが、その姿が見えなくなった所で現実世界に帰ってくる。
何故だか、やる気も自然に湧いてきた。
よし、と気合いを入れ直して。

「……私も、頑張ろう!」

残ったお茶をぐいっと飲み干す。
重く感じていた体もいつの間にか羽が生えたかのように軽くなっていた。
またいつか会えるかもしれない。
名前すら知らない男への僅かな期待を胸に乗せて、フェイトは、自分の戦場に戻っていった。


おまけ

タルタスで買い物をした日の夜。
スネークの服も無事に買え、少しの生活用品と骨董品だけだった広いユーノのテントが密度を僅かに増した。
希薄だった生活臭も、同居人がいるだけで随分と違う。
ユーノの視界の端でスネークは一息つくと良い機会だから、と武器・装備品の手入れを始める。

「スネーク、ずーっと気になってたんだけど」

スネークが銃の手入れをしている横に回り込み、ユーノが声を上げた。
その顔には、純粋無垢な疑問の表情。
スネークは手を止めずに反応を返す。

「なんだ?」
「君の装備の中に、明らかにおかしい物が混じってる気がするんだけど」
「不必要な物なんて何一つない」

何をバカな事を、とスネークは即答。
しかし、ユーノの疑問は晴れる事はない。

「……只の傭兵に段ボールは必要なのかい?」

ぴくり。

時が流れる事を止めたかのように、スネークの動きが止まった。
何か不味い事を言ったのではないか、とユーノは困惑。
そして、バッと振り向くスネークの表情はあまりに力強い。
ユーノはその気迫に押され、無意識に後ずさった。
しかし、スネークとの距離は開かない。
後退しても、彼はじりじりと迫ってくるからだ。

「段ボールだと? 勿論だ」
「へ、へえ……」

スネークの目の色は既に変わって。
手入れをしていた銃を置き、ユーノに熱弁を振るい始めた。
その剣幕にユーノも驚きを隠せない。

「段ボールは敵の目を欺く最高の偽装と言える。潜入任務の必需品だ!」
「す、すごいね」
「……これまで何度もこいつのお陰で命拾いしたんだ」
「それはそれは……」
「この質感! この匂い! 被っていると、包まれるような安心感があり、それはもう官能的だとも……そうだユーノ、お前も被ってみろ」
「おおぉー………ってえ"ぇっ!?」

適当な相づちをしていた所でスネークの思わぬ提案を受け、ユーノは慌てて拒絶の声を上げようとする。
しかし、気付けばスネークの手には茶色の箱、段ボール。
さあさあ、とにじり寄ってくるスネークに言い知れぬ恐怖を感じるが、時既に遅し。

「え、いや僕は遠慮ちょ待って待っうわあぁ!!」
「……どうだ?」

――広がる闇。
鼻の中を占める独特の香り。
そして、小さな穴から彷徨い込んでくる儚い光。
得られるのは、いるべき所にいるという安心感。
直観的に察知したのは、人間は本来こうあるべきだという確信。
誇張でも何でもなく、その全てが安らぎに満ちている。
この奇跡的な体験に、ユーノは深い感動を覚えた。

「……悪くないね、いやむしろこれは良いかも」
「……! そうだろう? これの魅力が分かるとはお前には光る物を感じるぞ!」

スネークは顔を輝かせる。
同じ価値観を共有している友の存在に感動しているのだろうか。
そしてユーノは大きく頷いた。
段ボールに対する汚い偏見は、虚空の彼方に消え去っていたのだ。

「そもそもだな、俺が初めて段ボールを被ったのは齢二十三歳の時で――」

始まる長話。
そうしてスネークとユーノの段ボール談義で、夜は更けていく。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02459192276001