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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第十八話「OUTER」
Name: にぼ◆6994df4d ID:bd132749 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/15 02:41

 一番古い記憶は、大好きだった母さんと微笑みあった記憶。
 だけど母さんといたのは私じゃなくて。
 死んでしまった私の姉さん、アリシア。
 アリシアの記憶を受け継いで生まれてきた私はだけど、アリシアにはなれなかった。
 母さんは私の手を取ってくれなかった。
 少し寂しい記憶を残して逝ってしまった。
 私の大切な子達にはそんな思いをさせたくなくて頑張ってきたけれど――それでも、頭の片隅の淀みを拭えない。

『思いを押しつけているのではないのか?』
『一方的なものではないのか?』

 ……怖い。

 その疑問と直視するのが、怖い。
 あの子達の笑顔を見る度に、怯えてしまう。

 ――私は。

 自分の子供達にそれを確認する勇気すらない私は、あの子達の親だと胸を張って言えるのだろうか。


 第十八話「OUTER」

 厄介だな、とフェイトは心中で吐き捨てた。
 フェイトもある程度の予想はしていたが、やはりスカリエッティのアジトに展開されているガジェットの数は半端ではない。
 いくら薙払っても、わんさか湧いてくる。
 さらに、共に突入したシスターシャッハと離れ離れになってしまった。
 そのシャッハの前に戦闘機人が現れた事を考えると、より警戒を深めなければならない。

「はあぁっ!!」

 駆け抜けて、一閃。

 確かな手応えと、背中に爆音を受けた所で一呼吸しようとして――

「――っ!」

 振り返り、きぃん、とバルディッシュで飛来した何かを弾く。

「……流石、素晴らしい反応ですね」

 その声と同時、無人兵器が小手調べは終わりだ、と言わんばかりに攻撃を止めた。
 現れたのは、公聴会で自分の前に立ち塞がった二人の戦闘機人。
 結構な因縁と、少しの焦りからフェイトは眉を顰める。
 貴方は我々には勝てない、等と宣っていた紫髪の戦闘機人が声を発した。

「フェイトお嬢様。こちらへいらしたのは帰還ですか。それとも、反乱ですか」

 淡々と、問われる。
 フェイトはその機械地味た無表情に白々しいと内心で毒づいて、身構えた。

「犯罪者の逮捕、それだけだ」

 努めて感情を押し殺した筈の声はしかし、怒りが確かに漏れ出ている。
 フェイトが相手側に棚引かない事など向こうも分かっている筈。
 それでも尚、紫髪の機人は食い下がった。

「フェイトお嬢様。貴方の居場所はそちらではありません。お考え直しを」

 何を偉そうに。
 お前達に私の居場所を決められて堪るか。
 考え直すも糞もない事なのに、しつこく喚くな。
 様々な言葉が巡り、それでもフェイトは苛立ちを抑えつけて機人達を睨み付けた。

「自分の居場所は自分で決める。――私には、家族や仲間がいるっ」

 フェイトは自分に言い聞かせる様に語調を強める。

「貴方なら分かる筈です。お嬢様もエリオ・モンディアルも、その身体に掛かった呪いが消える事はない」

 同時、巨大モニターが現れる。
 映っているのは――

「エリオ、キャロ!」

 フェイトの大事な子供達。
 埃塗れで、所々に傷を作り、それでも戦っている。

 まるで傀儡だ、と紫髪の戦闘機人がそうはっきりと呟いて、モニターから視線を外す。

「……黙れ」
「作られた身体、作られた記憶、呪われた運命。救いは、無い。その事をお嬢様は良く理解しておられるでしょう?」
「黙れっ!」
「現実から目を逸らし、あるべき未来を考えようとしなかった貴方が我々を批判出来るのですか!?」

 戦闘機人の語調が荒くなる。
 ピリピリとした空気の中、戦闘機人は責めるような目付きでフェイトを見据えて。

 貴方もプレシア・テスタロッサと同じだ、と。

 確かにそう、言い放った。
 フェイトが拳を強く握り締める。

「何を――!」
「違うとでも? では何故彼等はあそこにいるのですか? 何故彼等は貴方の戦場で血を流しているっ!?」
「っ……」
「いいえ、言わずとも分かります。貴方は彼等を失う事を恐れ、いいように操っているのでしょう?」
「ち、ちがうっ……」

『思いを押しつけているのではないのか?』
『一方的なものではないのか?』

 フェイトは思わず俯く。
 誰にも言えず溜め込んできたものを、容赦無く突き付けられ。
 不安が、恐怖が、溢れた。

「母親と同じ。自分の為だけに、周りの全てを道具として利用する。
 取り繕った甘い言葉を掛け続けて、巧みに誤魔化して。……違いますか?」
「私、私は……」

 足に力が入らなくなって。
 へたり込もうとして。
 フェイトは、思い切り歯を食い縛った。

(子供達が戦っているのに、私だけが挫けるのは……駄目!)

 何とか踏張って。
 視界の隅――モニターに映るエリオとキャロの瞳を見て、フェイトは既視感を覚え。
 瞬間、その正体に気付いた。

 彼等の瞳の奥に、ある。
 一番の親友と、尊敬する人が持つ光。
 不屈の意志と、最後までやりとげる使命。
 それが確かにあった。

「……ぅ」
「……今、何と?」

 か細い呟きは、戦闘機人に届かなかった。
 フェイトは顔を上げる。
 今度は届かせるために。
 相手の言葉の全てを否定する為に、腹の奥から思い切り、声を絞り出した。

「――違うっ!!」

 深呼吸。
 バルディッシュを突き出して睨み付ける。

「あそこは、私の戦場ではない。……エリオとキャロの戦場だっ」

 モニターに映る子供達に、弱々しさは感じられない。
 間違いなく、六課で見聞きした事を、仲間の意志を受け継いでいっているのだ。
 まだ十歳なのだから、相当苦労して、相当努力したのだろう。
 そんな、誇るべき自分の子供を信じられなくてどうする、私。
 フェイトはそう一通り自己嫌悪して、それによって自らを奮い立たせる。

「たとえ命令されたとしても、誰の強制でもない、あの子達が選んだ戦いだ。誰かが肩代わり出来る物ではない、あの子達だけの戦いだ。
 あの子達は、あの子達自身の戦いをしている。……失ってはならない物を守る為に!」

 高ぶる感情の中、フェイトの冷静な部分が考えていた。
 前の私ならきっと、動揺して、挫け、崩れ落ちてしまっただろう、と。
 けれど、決してそうはならない。


『悩み、迷いながらも歩み続ける。
 そうすれば道は、誰にだって見付ける事が出来る』


 いつか、尊敬する彼にそう言った言葉は、自分への励ましでもあったのかもしれない。
 フェイトはそう思って、一瞬だけ苦笑して。
 キッと相手を見据える。

「私の名前はフェイト。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン!
 紛い物なんかではないし、誰の使いでもない。……私達は、自分の意志で、自分自身の戦場にいるっ!!」

 迷う事はない。
 恐れる必要もない。

「バルディッシュ、行くよ」

『yes sir』といつも通りの返答が、フェイトにはとても頼もしく思える。

 オーバードライブ、真・ソニックフォーム。
 ライオットザンバー・スティンガー。

 ――起動。

 体が軽くなるのを実感して、二刀をしっかりと握り直す。
 フェイトの奥の手は、戦闘機人達に確かな警戒心を与えた様子だった。

「……装甲は薄い。一撃当てれば――セッテッ!」

 風を切り裂いて飛び込んでくる銃声。
 沈黙を保っていた戦闘機人が目を見開いて、左肩を押さえる。
 続いてもう一つ銃声が響くが、紫髪の戦闘機人が斬り返す。
 それが狙撃による物だと認識した瞬間、フェイトは動いた。
 感覚を爆発させて、一瞬で詰め寄り。

「――あああぁあぁぁっ!?」

 バルディッシュを、彼女の右肩へ、突き刺した。
 無表情だった戦闘機人の顔が歪み。
 だらりと垂れた右腕付け根の刺し口から火花が散り、彼女の得物が地面に転がる。

「っ、速い……!」

 腕を突き出した紫髪の戦闘機人が眉を顰め、呻くと同時、フェイトの脇腹から血が流れ落ちる。
 傷は浅いが、防御の全てを犠牲にしスピードへと回した結果だ。
 ともかく、これで片方は無力化出来た。

「――スネークさん、ユーノ!」

 距離を取ったフェイトは、通路の奥から姿を現した二人に歓喜の声を上げた。

「無事で良かった……!」
「や、フェイト。待たせたね」
「……」

 連絡を受けてはいたものの、元気な姿を見る事が出来た喜びは計り知れない。
 だがしかし、フェイトに近付いてくるスネークの表情は堅く、険しかった。

『フェイト、スカリエッティは此処にいないのか?』

 会ってから開口一番でそれなの、とスネークの念話に困惑。
 フェイトは平静を装いつつ、分かりませんと返答する。
 フェイト自身、この戦闘機人達を撃破してシャッハと合流、その後スカリエッティの下へ向かう予定だったので、分かる訳もない。

『……ふむ。どちらにせよ、今はあいつを何とかせんとな』

 フェイトが小さく頷くと、スネークは一歩踏み出して声を張り上げた。

「おい、スカリエッティの居場所を教えて貰おうか」
「それは無理な相談だ、ソリッド・スネーク。私達は未来の為に戦っている、引く訳にはいかない」
「奇遇だな、俺もそうだ」
「……私達とは相容れない正義の下でか」

 いや、と声を上げるスネーク。
 口調は軽いが、表情は真剣そのものだ。

「生憎、十年前から正義の為に戦った事はない。正義を語り戦って、世界が良くなった事など、歴史上一度もない」
「……ふん。どちらにせよ、排除するまでだ、人間」

 瞬間、戦闘機人の姿が消え、フェイトも飛び出した。
 スネークを庇うようにガギィッ、と二刀を交差させ、戦闘機人の攻撃を受け止める。

「……ぐうぅっ!」
「貴方の、相手は、私だっ……!」
「――分かった、俺は五月蝿いハエを落とそう」

 スネークが素早く視線を変える。
 その先には、大量のガジェット。

「……はいっ、スネークさんも、頑張ってっ」
「フェイト、僕も……!」
「大丈夫、ユーノは、スネークさんのフォロー、お願いっ」

 フェイトは拮抗状態のまま答え。
 分かった、とユーノがスネークの側へ駆け寄る。

「ユーノ、どうした。フェイトの手伝いは良いのか? ホッとしているみたいだが」
「べっ、別に戦闘機人を相手せずに済んでホッとしてる訳じゃないよ! 僕は、そもそも戦闘専門じゃないの。 
 この場合フェイトの邪魔になるだけだし、適材適所って奴。ああもう、こう見えても一応Aランクなんだ、舐めてもらっちゃ困る! っていうか君一人ってのも心配だしさ!」
「はは、心配してもらえるだなんて、涙が出るほど嬉しいな。…………さぁ、いくぞっ」

 フェイトは後ろで繰り広げられる会話に仲が良いなぁ、と僅かに微笑んで。
 思い切り、押し返す。

「ぐっ!」
「……っ!」

 距離を取って、大きく息を吸い込んで、力が湧いてくるのをフェイトは実感する。
 横目で、両腕を不能にしながらも未だ戦意に燃えるセッテと呼ばれた戦闘機人にも警戒。

「セッテ、待機していろ! ……お嬢様。一対一で、決着をつけましょう」

 にやり、とフェイトは笑う。

 迷っても悩んでも、もう挫けない。
 決して、へこたれない。

 その決意と共に、身構え――

「――貴方達を、逮捕します!」





 巣を守る蜂。

 倒しても倒しても果敢に飛び出してくるガジェットは形容するに、その通りだった。
 対する自分は駆除業者の代理人というところか、とジョニーは内心で呟く。
 同時に壁際、柱の陰へと滑り込んで。
 グレネードのピンを慣れた手つきで抜き、放り投げる。

 ――爆発。

 先程から、これの繰り返しだった。
 降り注ぐ射撃の嵐に戦々恐々としながら、攻撃、破壊、そして前進。
 均一的な直線通路だから起こる、パターン化された戦闘。

 ここは、俺の知らない世界だ。
 そして俺は今、そこを駆け抜けている。

 ジョニーは荒い息の中、そんな風に考えていた。
 此処には、無線機で駆け付けてくれる仲間はいない。
 戦う目的についても、国家への忠誠や愛国心、ましてや祖父に対する憧れの想いでさえもない。
 戦闘機人の少女達を救う為に、少女達へ牙を剥くのだ。

 知らない世界を走る恐怖。
 体中に伸し掛かる疲労感。
 今までの自分がいなくなってしまうような、身悶えするような心細さ。

 だがしかし、心身を蝕むそれ等があってもジョニーの胸中に立ち止まりたいという欲望は一向に湧いてこなかった。
 自分に出来る事と出来ない事を受け入れ、勇気を体中に奮い湧かせて現実に向き合っていくしかないと分かっていたからだ。
 それは非常に精神を削る行為である。
 けれど――

(――あの伝説の男だけにしか出来ない事じゃない!)

 見えない恐怖、そして見える恐怖のどちらとも戦いながらも、ジョニーは必死に走り続ける。
 少女達に、外の世界を見せる為に。

「けど、これはちょっと、不味くないかっ!?」

 何せ、一対多数。
 壁際の凸凹以外に遮蔽物の無い一本道で無人兵器の軍隊と戦うのは、ジョニーにとって体力的にも精神的にも辛かった。
 致命傷は無くても、生傷の数は数え切れない。
 心は折れていなくとも、押し寄せる不安に軋んだ音を立てている。

「うおおおぉっ!」

 ジョニーは絶望を振り払うように腹の奥から声を上げて、サブマシンガンの9ミリ弾をばらまいた。

 ――爆発、爆発、誘爆。

 
 ひゃっふう、と雄叫びを上げるところだろうがそんな余裕はない。
 映画でしか見れないようなその光景は、ジョニーへ笑いをもたらしてはくれなかった。
 幸い、弾薬にはゆとりがある。
 管制室までこの調子でいくのだろう。
 とても辛いが、この調子で行けば管制室まで何とか辿り着けるまでの所まで来た事だけは救いか。

「もうちょっとだ、頑張れジョニー!」

 気合いの一声で自身を鼓舞するジョニー。
 やる気も否応なく再充填され、それまでの疲れも多少は吹っ飛んだ。
 吹っ飛んだのだが。

 ごとん、ごとごとごと、と。

 そんな物音に振り返って、ジョニーは凍り付いた。

「……ひっ」

 血の気が失せたジョニーの視線の先には、大量のガジェット。

 挟み撃ち。
 ピンチ。
 ヤバい。
 絶対無理だ。

 絶望的な言葉の数々がジョニーの脳内を占領する。
 うああ、と壁を背に息を呑んで。
 いやらしくじりじりと迫るガジェット達を弱々しく睨み付けるジョニー。

「きょ、強行突破あるのみかっ!?」

 スネークから手渡された武器は各種グレネードとサブマシンガン、そして別れる際に受け取ったC4爆弾のみ。
 この数に効果があるかは分からないが、チャフで撹乱し態勢を立て直す。
 多少の傷は覚悟しなければならないだろうが、今のジョニーに選択できる道はそれだけだった。

(や……やるぞっ)

 チャフに手を伸ばし。
 気合を入れ直したジョニーはしかし、それを発揮する機会は得られなかった。

「うおああぁぁっ!?」

 突然奇妙な浮遊感に襲われたのだ。
 真っ暗に染まる視界。
 そして、強く服を引っ張られる感触。
 ジョニーはそれ等の感覚に、まさか、と視線を彷徨わせる。
 と同時に浮遊感が消え失せ、ジョニーは地に転がった。
 腰からじわりと広がる鈍痛に顔を歪め。
 それでも急いで起き上がったジョニーの前には――

「――セインッ!」

 驚きの視線を向けるジョニーに対して、セインは別段変わっていない様子だった。
 その異常に一瞬当惑して、ジョニーは再確認する。
 彼女等にとって自分は、突然に反旗を翻した裏切り者だという事に。

「……何故、此処に?」

 言葉を選ぼうとして、それでもそんな問い掛けしかジョニーの口から出てこなかった。

「んー、向こう側にあたしと同じ能力の奴がいてさ、逃げ回ってた」
「逃げ回ってたって……このアジト中を?」

 スカリエッティのアジトは広大だ。
 下手をしたら戦闘機の空中戦にも引けを取らない事をやっていたのかもしれない、と目を丸くするジョニー。

「うん、トーレ姉はSオーバーの相手してるから。まぁ、此処はあたしの庭だし」
「……それで俺を見付けて、か?」

 セインがジョニーの問いを無視して、彼の間近へと詰め寄る。
 ジョニーはもう一度彼女の顔を確認して眉を顰めた。
 そこにあったのは、快活な彼女には全く似合わない悲痛な面持ち。

「ササキッ、ササキはあの男に何を言われたの……!?」

 ジョニーはその言葉で、セインの意図を瞬時に理解した。
 彼女達は、自分が局側に誑かされて裏切ったと思っている。
 ジョニーの反応を促すように、セインがぐい、ぐい、と軽く揺さ振った。

「……違うんだ、セイン。俺は自分の意志で行動している」
「嘘! ササキの事だから良い待遇とかちらつかされてっそれでっ……!」

 顔を真っ青にさせたセインが、ジョニーの体を必死に揺らす。

「ねぇササキ、今なら間に合うよ。こっちに戻ってきてよ! ササキがいないと私達……淋しいよっ」

 ジョニーは自分よりも一回りも二回りも小さな少女の両肩を掴んだ。
 彼女の気迫に負けぬ様、その瞳を真っすぐに捉える。

「違う。俺が局側についたのは……君達の為だ」

 ぇ、とセインが小さく漏らした。
 ジョニーの言葉が余程想定外だったのか、目を丸くしている。

「良いか、君達はスカリエッティの下に居るべきじゃない。外の世界へと解放されるべきだ」

 数日前のチンクの言葉を思い出したのか、セインがジョニーから視線を逸らした。
 ジョニーは肩を掴む手に、言葉を発する喉に力を込める。

「スカリエッティに協力する理由もないだろ? スカリエッティの野望に賛同している訳じゃないだろう?」

 静かに問うと、セインは困ったように唸る。
 やがて不安に揺れる瞳をそのままに、ジョニーの方へ顔を向けた。
 それでも相変わらず、視線が交される事が無い。

「わ、私、理由は、ある。……理由、あるよっ!」

 言葉を詰まらせながら叫ぶセイン。
 直後の、どうしてというジョニーの問いにセインは黙り込んだ。
 それは答えを探している沈黙である事は明白で。
 だが、あえてジョニーは黙って返答を待った。

「……だって。……だって、私達は造られた生命で、今の世界は私達が胸を張って居られる場所じゃないから……!」
「違う。それは違うぞ、セイン」

 同時に、キッとセインがジョニーを睨み付ける。
 違わない、と張り裂けんばかりの大声が響き渡って、ジョニーは思わずたじろぎそうになった。

「違わないよ! 外に疎い私達でも、外の連中がどう考えてるか分かるもん!!」
「……俺はっ? 俺だって外の人間だ!」
「ササキは変人だもんっ!!」
「な、馬鹿、おっ俺は至って正常だ!」

 多少不便な体質を抱えているが、真っ当な青年だという自覚はある。
 それなのに変人と真っ赤な顔で言われてしまうと、ジョニーも声高に反論するしかない。
 が、そんなジョニーに反してセインの熱はあっさりと引いた。

「……私は、皆と居られれば良い。でも他の皆が苦しむ世界を壊すって言うなら、私も戦う。戦うもん……」
「……セイン」
「外の連中を殺す事だって構わない。……奴等が『化け物』って言うなら、『化け物』らしく――!」

 ――パン!

 薄明かりの中、ジョニーの想像以上に甲高い音が鳴り響いた。
 身体能力もずっと劣っているだろうジョニーだったが、それでも平手打ちを止める事が出来なかった。

「化け物なんかじゃない。君は、君達は人間だ!」
「――っ」
「何度でも言うぞ。君達は外の世界を知るべきだ。……そりゃあ、外には酷い奴ばかりなのは確かだ。
 人間よりも政治を優先させる奴もいる。命のやり取りに充足を感じるバカもいる位だ。だけど俺は知ってる。……良い奴だって、腐る程いるんだ」

 ジョニーは一歩歩み寄って、セインの頬を撫でる。
 勿論そこから感じる体温も、少しだけ顔を赤らめるセインの様子も、人間のそれだった。

「体は機械でも、心は人間だ。俺が断言してやる、何度だって言って見せる。……君達は、人間さ」
「っ、……ぐずっ……」
「自信を持て。君は知らないかもしれないが、外の世界にもそう言ってくれる奴はたくさんいるんだ」

 ジョニーはゆっくりと手を離し、扉へと体を向けた。
 弾倉の交換を済ませて、戦闘準備を万全にする。

「セイン、待ってろ。俺が解放させてやる。君達が外の世界で一緒にいられるように、笑い合えるように!」
「……信じて、良い、の?」
「それは……それは、君が自分で決める事だ。だって、君は人間なんだから。
 君達の人生は君達のものだ。自分の人生を精一杯、自由に生きろ」
「……ササキ、私は――」
「――その上で聞かせてくれ。……俺を信じてくれるか、セイン?」

 扉へと視線を向けるジョニーからはセインの様子が伺えない。
 数秒の間を置いて、背中を突かれる。
 振り返った先には、俯き、ゆっくりと手を差し出しているセイン。
 ジョニーは一瞬停止し、それでも迷わずにセインの手を取った。
 と、同時。

「う、おっ」

 ジョニーの体が浮いた。
 勿論マジシャンの奇術による浮遊ではなく、セインがジョニーの手を掴んだまま移動を始めたのだ。
 セインの能力をフル活用した数十秒間にも満たない空間旅行の末に辿り着いたのは、ジョニーの知っている場所だった。

「此処は……管制室前じゃないか。セイン、これは――」
「あたしは、戦っている最中にしがみ付いてきたササキを振り払っただけ」

 え、と小さく洩らすジョニー。
 セインは人差し指を立てて、「確認」を一人進める。

「ササキがどういうつもりかは知らないし、あたしは自分の戦闘に夢中になってたからササキに気を回す余裕は無かった。分かった?」
「……良いのか? 君は――」
「分かったっ?」
「あ、あぁ、分かった。ありがとう、セイン」

 どもりながらもジョニーは答え、感謝を告げ。
 よろしい、とセインは目頭を拭うと、寂しそうに微笑んだ。

「信じる。私、ササキを信じるよ」
「……ありがとう」
「私達、負けたら全てが終わると思ってた。私も、皆もドクターからそう言われ続けてきたしね」

 ジョニーは彼女の頭に手を置き、ゆっくりと撫でた。
 気持ち良さそうな彼女を見て嬉しいという感情に満たされる。

「でも、待ってる。ササキの言葉を信じて待ってるよ」
「任せろ。何たって俺はジョニーの血筋だからな」
「あはは――む、来たか。じゃね、ササキ。……ササキに会えて私、ちょっと安心したよ」

 微笑んで勢い良く壁の向こうへと消えるセインを見送って、ジョニーも気合いを入れ直して。
 GSRを構え、管制室へ飛び込む。

「っ! ……むぅ」

 誰も、いない。
 室内は、中々の広さだった。
 奥に長いその部屋の中央には、それに合わせて設置されたのか大きな作業台。
 そして、その奥にどっしりと構えている巨大な機械。
 あれが恐らく母体だろう、とジョニーは慎重に歩みを進める。

(ウーノは此処にはいないのか……?)

 いる筈だった人物の不在にジョニーは顔を顰め、作業台に視線をやる。
 その陰なら、人一人位優に潜めそうだ。
 不届き者が潜んでいるかもしれない、と注意を払いつつ、一歩一歩確実に踏みしめ。
 ばっ、と踏み込む。

「――っ、…………ふぅ」

 無人。

 結局不届き者等は存在せず、ジョニーは何事もなく端末の前に辿り着いた。
 誰もいないなんて事はまず警戒を高めるべき要素だ。
 ジョニーもそれは重々理解しているが、罠だとしてもどうしようもない。
 戦闘機人達にはジョニーといえども手も足も出ないのだから。

「時間が無い。……やるぞっ」

 たどたどしい手つき。
 しかしはっきりとした意志の下、ジョニーは空間モニターを起動させて操作を開始する。
 要は、ガジェット達を行動不能にさせれば良いのだ。
 それさえ出来れば、形勢は一気に傾く。

「えっと……」

 ピピッ。

 ぼん。
 ぼぼぼぼぼぼ。

 大量のモニターがジョニーの前に現れた。
 ぱちくりと、瞬き。
 圧倒的情報量。
 数秒、佇んで。

「うん、無理だ。俺には手が付けられないな、こりゃ傑作はははは」

 無理無理、とジョニーは首を振る。
 そのまま踵を返そうとして。

「いやいやいや、それじゃダメだろっ!」

 蹲り、頭を抱えるジョニー。
 ハイテク分野や比較的得意だけれど、複雑過ぎて地球っ子のジョニーの手には負えない。
 同時に、腹の奥で鳴り響く不快音。

「ストレスは、腹に、悪い……あー、くそっ」

 ウーノに操作させるつもりだったのに、どこにいるのか、それも適わない。
 取り得る最終手段としてジョニーの思考に颯爽と現れた選択肢は――

「――ぶっ壊すしかないかっ」

 AIと管制システムによって組織され、脅威になっているガジェット。
 AIをコントロールする事は出来ずともせめて、管制システムを破壊すれば多少なりとも効果はある筈だ。

「C4設置なら得意なんだ、よ、っと」

 ジョニーはスネークから受け取ったC4を手に、その全てを慎重かつ冷静に端末へと貼り付ける。
 
 後は、この場所から離れて起爆スイッチを押すだけ。
 もう後戻りは出来ない、と立ち上がろうとして。

「っ――!?」

 感じたのは、後方に確かな人間の気配。
 敵だ、とジョニーの全身が危険信号を発する。

(足音はしなかったのにっ――)

 数瞬後、ジョニーの手は無意識の内にGSRへと伸びていた。
 つまり、全力で抗う敵だと直感が示している。

「任務、完了というところか?」

 低く呟かれた声に、身体を捻って。
 銃口を敵へと向けたと同時。

「――がっ!!」

 頭部に重い衝撃。
 引き金を何とか引くものの、銃口は見当違いの方向へと向いているのが確認できた。
 銃を握る手が相手の腕によって押され、銃線を逸らされていたのだ。

 ――駄目だ、此処で終わっちゃいけない。

 そう思いつつも、世界はぐにゃりと崩れていく。
 感覚は鈍り、急速に闇が視界を覆い尽くしていく。

(く、そ。せめ、て……)

 薄れゆく意識の中。
 ジョニーは自分の責務を強く想い――C4のスイッチに、指を添わせた。




 ズズン。

 そんな重く響く音と強い地面の揺れに、その場にいる全員が動きを止めた。
 が、それも一瞬。
 真っ先に戦闘機人が動き始め、フェイトも戦いを再開する。
 目にも止まらぬ高速の戦いは、スネークにも手出しのしようがない。
 と、スネークへガジェットの射撃が降り注ぎ、それをユーノが防いだ。

「スネーク、気を付けて!」
「分かってい……待て、様子がおかしい」

 ユーノの注意に返答したところで、スネークは奇妙な異変を感じた。
 ガジェットのカメラ、目の動きがおかしい。
 忙しなく細かく動き、焦点が定まっていない様子だ。
 同時に、別のガジェットが――戦闘機人へと飛び掛かった。

「何っ!?」

 勿論、一瞬の内に斬り捨てられるが、戦闘機人には明らかな動揺の色。
 フェイトにもガジェットが飛び掛かろうとして、スネークは直ぐ様FAMASで狙い撃った。
 ――ガジェット達は今、見境が無い状態だった。
 ガジェット同士の戦いにはならずとも、それ以外の、ボスである戦闘機人にすら無差別に攻撃を加えている。
 きっちりと隊列を組んでいたのが今は、各々がはしゃぎ回る子供のように勝手気まま行動している。

「スネーク、これは!?」
「……間違いない、ジョニーだ。管制システムを操作、いや、破壊したのか?」
「っ……」

 その言葉に戦闘機人が僅かに反応を示したのをスネークは見逃さなかった。
 手当たり次第に銃弾をばらまいて、ふと思い出したように戦いを続ける戦闘機人へと声を上げる。

「……そういえば、ジョニーから伝言があるぞ! 『外の世界を見るべきだ、ジョニーが言うから間違いない』だそうだ!」
「……裏切り者の、戯言だ」

 数瞬の沈黙の後に吐き出された言葉は苦し紛れだった。
 明らかに、うろたえている。

「戯言? 奴は君達の為に、外の世界を見せる為に、行動を起こしたらしいぞ?」
「関係無い……私はドクターに従うっ」

 戦闘機人はフェイトへ猛攻撃を加えながら、直ぐ様反論した。
 その言葉に、スネークはFAMASの引き金を絞りながら、大声で嘲る。

「『外側の者達』へと与えられる『天国』かっ? 馬鹿馬鹿しいにも、程があるっ」
「それが、私達の選んだ、道だっ!」
「『スカリエッティの道』だろうっ?」
「違う!」
「……いいだろう、教えてやる。自分達の殻に引き籠もって、酔っ払っていても……日の光を拝む事は、一生、ないぞっ!!」
「――だ、まれええぇッッ!!」

 スネークの叫びが、逆鱗に触れたようだった。
 戦闘機人が、光となる。
 文字通り光速でスネークへと迫り――

「させ、ないっ!!」

 ――フェイトが間に割り込む。

 交わる剣。
 火花が散る中、必死の形相で、フェイトが声を上げる。

「道は、いくらでも見付ける事が出来る……私にだって、貴方にだって!」
「が、ああぁっ!」

 戦闘機人は弾け飛ばされるが、怒号と共に、フェイトへと再び飛び掛かる。

「ライオットザンバー……カラミティッ!」

 フェイトの二剣が交わって大剣と化し、振りかぶされ――

「はあああぁっ!!」
「うおおおおぉっ!!」

 ――衝突。

 戦闘機人の武器が、砕け落ちる。
 そして、そのままの勢いを残して、戦闘機人が吹き飛んだ。
 フェイトが瞬息で詰め寄り、大剣を突き付ける。

「貴方達を……逮捕します」

 苦しげに呻く戦闘機人にフェイトが静かに告げて、勝敗は決した。

「…………我々の、負けだ」

 落ち着いたのか、戦闘機人に抵抗する素振りは見られない。
 セッテと呼ばれた戦闘機人も、がっくりと項垂れている。
 だが、これで終わりという訳にもいかない。
 粗方のガジェットを停止させた所で、勝負の余韻に浸る事も無くスネークは戦闘機人へと駆け寄った。
 まだ、やる事が残っているのだ。

「意識を失う前に教えて貰おう。奴は何処だ。……スカリエッティは、何処にいる?」
「……」

 言いあぐねる戦闘機人に、答えろ、とスネークは声を強めた。
 フェイトの所にいると思っていただけに、焦りも大きい。

「……ドクターは――」

 紫髪の戦闘機人の声を遮るように巨大な空間モニターが現れた。

『――私は、管制室にいる』
「スカリエッティッ!!」

 モニターには何も映っていない。
 ただ淡々と、奇妙なまでに静かな声が響く。
 と、スネークの視界が突如茜色に染まった。
 ユーノが慌てた声を上げる。

「ス、スネーク!」

 隔壁ロックが、スネークとユーノ達を分断するように大量に出現したのだ。
 管制室へと続く道のみ、隔壁が張られていない。

『さぁ。私の下まで来たまえ、スネーク君』

 ぽつりと漏らして、モニターが消失し、沈黙が広まる。
 そして、そこから抜け出すようにスネークが動き始めて、それにユーノが反応した。

「スネーク!!」
「……行ってくる」
「待って、駄目、危険だ! せめて隔壁を解除するまでっ……!」

 ユーノの必死な声に、スネークはゆっくりと振り返る。

「管制室にはジョニーがいる筈。奴が心配だ、行かなければならない」
「……糞っ、フェイト、急ごう!」
「うっ、うん!」

 もはや、一刻の猶予も無い。
 スネークに待つつもりはなかったし、ユーノもそれを理解しているのだろう。
 ユーノがフェイトと共に、モニターとの睨めっこを始める。

「――スネーク、すぐに行くから、死んじゃ駄目だよ!」

 その言葉を背に、スネークは元来た道へと駆け出していった。



 休む事無く走り続け、メタルギアの残骸を横切り。
 ジョニーと別れた小部屋に着いて漸くスネークは足を止めた。
 呼吸を整えつつ、通信を開く。

『シャーリー、聞こえるか。状況はどうなってる?』
『あ、はいっ、ナンバーズは全員無力化、なのは隊長達がゆりかごから脱出中です!
 地上のガジェット達は突如統率が崩れ、順調に撃破されていってます。だから、残るは――!!』
『スカリエッティだけ、だな。分かった』
『スネークさん、私には応援する事しか出来ないけど……頑張って下さいっ』

 了解、と一言返して通信を切り、気がかりなくジョニーが進んだ道を踏み出す。
 途端に、大量のガジェットの残骸がスネークを出迎えた。
 足の踏み場を探すのが苦労しそうな数だ。

(全て、奴が一人で片付けたのか……?)

 真偽は定かではないが、考えている時間も惜しい。
 スネークは掻き分けるように、迅速に進む。

(……一匹もいないとは)

 進んでも、進んでも、ゴミが広がっているだけ。
 正に、不自然。
 先程のスカリエッティの様子を思い出して、警戒を強める。
 そうしてやはり敵と遭遇する事もなく、スネークは一際大きな扉の前へ辿り着いた。

「此処に、スカリエッティが……」

 深呼吸の後、M9に弾が装填されている事を確認し――管制室へと踏み込む。

「……」

 静寂が支配する空間。
 そして漂う、焦げた匂い。
 中央に設置された台の向こう、部屋の奥に、巨大な機械――恐らくはジョニーが破壊した、中枢だ。
 その横。
 ぽつりと佇む後ろ姿を、スネークが見間違える事は無かった。

「来たか」
「……スカリエッティ」

 振り返るスカリエッティ。
 同時、スネークは初めて『それ』を見て、思わず眉を顰めた。
 スカリエッティの顔には、笑みがあったのだ。

 スネークが初めて見る、人間らしい、狂気に染まっていない、穏やかな笑みが。

「待っていたよ。ソリッ……いや、『スネーク』君」


 終焉が、近付く。


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