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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第十六話「希求」
Name: にぼ◆6994df4d ID:bd132749 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/01 00:08

等間隔に設置された灯りが、視界の端で勢い良く流れていく。
だが、その速さが気に入らない。
――もっと、もっと急げ。
どれだけ急いでも、時間は待ってくれないのだから。
最後までやり遂げる使命。
成し遂げなければならない使命がより、体を奮わせる。
しかし、ふと、顔を顰める。
走り続けた事による苦痛からではない。
とある事に気付いたからだ。

――俺はいつも、置いてきぼりだな。

様々な出来事に振り回され、いつも出遅れ、そして気付いたら多くの物を失っている。
追い付きたい、という単純な望みが湧き上がってくる。
その為にも、スネークはひたすらに走る。
戦いの中へと向かって。

第十六話「希求」

バンダナの先を揺らしながら駆け込む先は、この地下アジトの中でもかなりの巨大さを誇る空間。
そこは、一週間前にスネークが捕縛された場所だ。

「……メタルギアッ!!」

スカリエッティご自慢のメタルギアも、異様な存在感と共にスネークを待ち構えていた。
その機体に与えられたコードネームはSOLID。
荒い息を整える最中にも迫り上がってくる不快感に、スネークは顔を歪ませる。
……急がねば。
起動前に破壊出来るのならばこれ以上に幸運な事は無い――
――の、だが。
C4プラスチック爆弾を取り出したスネークの前に、モニターが現れた。
見間違える事も無い、全ての元凶。
画面一杯の薄ら笑いにスネークは怒鳴り声を上げる。

「……スカリエッティッ!」
『――やっと蛇が巣から出てきたみたいだっ! ジョニー君の手引きで出てきたみたいだが、目的はSOLIDの破壊かい?』

言うまでもない、とスネークは嘲笑う。
核の発射等、許すつもりは無い。
――ここで、メタルギアを破壊する。

「……管理局も本格的に動いている。下らない計画は諦めるんだなっ」

スネークの言葉にスカリエッティが目を丸くする。
そしてクスクスと笑ったかと思えば、さもおかしいといった様子で大声を上げた。

『フフ、下らない? 下らないだって? 君が言うか、スネーク君!』
「……」
『私達は皆、世界の闇として、影として作られた怪物だ。呪われた運命に今も束縛されているっ』

リキッド・スネーク。
噛み締めるようにゆっくりと、その名前を呟くスカリエッティをスネークは睨み付ける。

『彼もそうだ。彼も運命から解放されようと自ら立ち上がった。……君によって、それも失敗に終わったがね』
「……奴はただ、盲目だっただけだ」

ビッグボスの遺伝子を再現する為に、「優性」ソリッドの対極である「劣性」として生み出されたリキッド。
彼は自分という存在に関わった全てへ復讐しようと決起した。
遺伝子という名の呪いに縛り付けられた、体中に付き纏う絶望を打ち破るために。
溢れる憎悪を自分自身の呪われた肉体にも振りまき。
そして、『スネーク』の系譜には未来など無いと信じきって。

――しかし、道は一つではない。
落ち着いて周りを見渡してみれば、未来へと繋がる道は無数に広がっているのだ。
スネークも、戦いの中で生の充足を得る事が自身の人生における全てだと思っていた時期がある。
確かにビッグボスを再現する為に生み出された戦士である以上、戦いとは切っても切れない縁があるのかもしれない。
逃げ続けて、それでも逃げることの出来ない戦いを幾度と無く経験してきたのだから。
それでもスネークには、自分の為だけでない戦いを選択する事が出来る。
子供達が悩み、苦しみ、そして笑い合う未来作りの一旦を担う事が出来る。

「――未来は誰にでも、どんな生まれ方の人間にも平等に存在している。それに気付いていないのはお前達だ」
『いいやっ我々に未来なんて無い! 作られた理由がある限り、存在理由は作った連中にしか無い。これは……「私」という全存在を賭けた戦いだ!!』

自分という者は自分以外の何者でもない。
そんな当たり前の事が否定される恐怖。
たった一つの悲痛な願いを元に、スカリエッティが戦って目指すのは、何者にも束縛される事の無い支配の外側に存在する天国。
強い抑揚でそれの創設の決意を語るスカリエッティに、スネークは辟易した。
――これ以上話していても無駄だ。

『……スネーク君。つまりは君も、本来はこちら側に来るべき存在なんだけどね、どう思う?』
「ふん、丁重にお断わりさせて貰おう。……俺は貴様等を止める。絶対に、だ」

ははは、とスカリエッティが笑い声を上げる。
まるでスネークの答えを予想していたかのように。

『大層な自信だ。まぁその選択が、現実から目を背け続けてきた君の象徴かもしれないねぇ』
「……」
『フッ、フフフッ、SOLID対ソリッド……被造者同士の決戦だなんて、心が湧き立つよ!』

スカリエッティの軽口に、やはりか、と眉を顰める。
――この変態野郎が俺を生かしておいた理由。
それはメタルギアによって無惨に殺されるソリッド・スネークを見たかったからに違いない。
だが、そう簡単に負けてやるつもりなど、さらさら無い。
スネークは無言で身構え、それに合わせてモニターに映るスカリエッティも行動を起こした。

『君の戦いを観賞したい所だが、ゲストの相手をしなければならないのでね。ここで失礼させて貰うよ』

ゲスト、という言葉にスネークは反応。
そして、思い当たるのは。
――フェイトか?

「……シャーリー、彼女に注意するように言っておいてくれ」
『分かってます!』

嫌な予感がする。
わざわざスカリエッティがフェイトの元へ出張るのだ、何かある事は間違いない。
この化け物を倒すだけでは駄目。
スカリエッティを、ゆりかごを何とかしないと事件は解決しない。
生命の息吹を吹き込まれたのか、メタルギアが活動を開始。
その角張った翼を目一杯広げると同時に、耳をつんざく咆哮が空間全体に響いた。
野獣を連想させるそれは、人間の恐怖心を駆り立てるには十分な物だ。
スネークは普通の人間なら立ちすくんでしまう圧力にも屈せず、真っ向から立ち向かう。
ともかく今は目の前の戦いに集中だ。
そう自分に言い聞かせ、思考を切り替える。

『――さぁっ! 歴史の闇に還るかっ、それとも歪な「影」として「光」に抗ってみせるか……スネーク君っいくぞ!!』

スカリエッティの演説が終わり、モニターが消失する。
戦いの始まりは、メタルギアの肩の魔力砲が放つ閃光。
――スネークはこのような敵と戦ったきた長年の経験で、攻撃のタイミングを予期していた。
大体は自己満足の演説の終了と共に、だ。
それらの経験を喜ぶべきかどうか、微妙な心境だが。
ともかく、攻撃の始まりが分かれば避ける事は可能。
スネークは消し炭にならぬよう、思い切り横にローリングして回避する。
先程まで立っていた場所に魔力砲が着弾。
弾ける光と熱風がスネークの頬を焦がす。
その衝撃で一瞬スネークの目の前を星がちらついて、激しい耳鳴りが襲った。

「っ――!!」

スネークは声にならない叫びを上げると、頭を何度か小突いてふらつく体を何とか立ち上がらせた。
――俺は今、メタルギアと戦っているんだ。
スネークはREXのミサイルを避けた時を思い出して、そう改めて自覚させられた。
身を翻し、スティンガーで脚部を攻撃する。
駄目だ、効いていない。
悪魔に動じる様子は感じられなかった。
もう一発今度は腹に撃ち込んで、同様の結果に舌を打つ。
このメタルギアの装甲はやはり、相当な物なのだろう。
当ても無くちまちま撃ち込む余裕も時間もない。
何の情報も無いのはさすがに辛いか。

『スネークさん! 過去のメタルギアはどうやって倒したんですか?』

堪えきれないのか、シャーリーが苦しげに声を上げた。
――アウターヘブン、ザンジバーランド、そしてシャドーモセス島での戦い。
起動前に破壊したTX-55メタルギア、そしてスネークの親友フランク・イェーガーが操縦するメタルギア改Dは致命的に脚部が脆かった。
リキッドが操るメタルギアREXは、センサーを集結させたレドームを壊し、コックピットを抉じ開け中から破壊した。
――つまり、この化け物との戦いではどれも参考に成り得ない。
それを早口で伝えると、シャーリーの苦しげな声が返ってくる。

『AI制御された無人機にはコックピットなんて無いでしょうしっ……うぅ~……!』
『……なんとかなる、弱点は何かしらある筈だ』

自身が勝利した姿を思い描く。
そしてもう一度、なんとかなる、と内心で呟き。
そうやって自分自身を勇気付け、スネークはメタルギアに向き直った。
それに、こいつは無人機。
リキッドやフランクが操縦したメタルギアから感じた程の威圧感、恐怖感は感じなかった。
巨大ロボットは人間が直接動かすべき、なんてのはオタクの友人の弁だがよく言ったものだ。

メタルギアの唸りが再び部屋を満たすと同時に翼が動き、青い噴射炎が地面に向かって噴き出された。
ふわり、とその巨体が持ち上がる。
――本当に空を飛んだぞ、おぞましい。
器用に羽の向きを変えて、軽やかに、スネークへと近付いてくる。
そして自由電子レーザーが力を蓄え始めるのを見て、スネークは戦慄した。
あれに当たれば体が綺麗に分断される事は間違いない。
スネークはフランクを思い出して、彼の二の舞にならないように直ぐに行動を起こした。
高密度のレーザーが甲高い、耳障りな音を出しながら発射され、スネーク周辺の空気を切り裂く。
スネークはジグザグに走り回る事でかろうじて回避。
苦し紛れにチャフグレネードを投げ、それがセンサーを撹乱させる事を期待するが、やはり動じない。

――くそったれ。

寿命が縮むような恐ろしい攻撃の中、悲嘆に暮れる余裕も無く回避していると、しばらくしてメタルギアが綺麗に着地してみせた。
どうやら、レーザーでスネークを切り刻むのは諦めたようだ。
しかし、メタルギアは安堵する間を与えてくれない。
メタルギアの翼を包むカバーが開き、オレンジ色の中身とミサイルポッドが露出。
どうやらホーミングミサイルで応戦する事を選んだらしい。
飛ぶだけでは無く、攻撃能力も兼ね備えていたのだ。
標的を定めて飛来する幾つものミサイル。

「ぐぉっ……!!」

スネークは回避行動を取ったお陰で体がバラバラになる事は避けられたが、メタルギアの足元へと吹っ飛ばされてしまった。
なんと運が悪い事か。
寝転がった状態で呆然とメタルギアを見上げる。
それは、畏敬の念さえ呼び起こす程の巨体だった。
――そして、俺を滅ぼす悪魔の兵器だ。
メタルギアの賢いAIも転がり込んだスネークを見逃すつもりは無いらしく、巨大な足を持ち上げて彼を踏み潰そうとした。
ゴロゴロと体を丸太のように転がして、体がぺしゃんこになるのを寸前で回避する。
揺れる地面の所為で、体を起こす事すら一苦労だ。
それでもスネークは急いで立ち上がり、可能な限り全速力で距離を取る。
――光が見えてきた。

(ミサイルポッドが弱点に違いない!)

堅い外殻に身を包んでいるという事は、中身は柔いのだろう。
少なくとも、翼は落とせる。
ならば、スネークはそれを狙うだけだ。
翼のカバーが開くまで逃げ回り、射出されるホーミングミサイルの網を掻い潜りながら、カバーが閉じる前に攻撃する。
そこまで妙な既視感と共にシミュレーションした所で、なかなかハードじゃないか、と苦笑する。

「……だが、やるしかない」
『スネークさんっ……頑張って!!』

祈るような応援に、ああ、と短く返して拳を握る。
スネークはおおよそ三、四分間だろうか、メタルギアが繰り出す猛攻を必死に凌ぎ、機会を待った。
勿論象に豆鉄砲を撃ち込むような事なのも分かっていたが、スティンガーやグレネードを何発も撃ち込んだ。
余りにも絶望的で長い、数分間の攻防の後、ようやくメタルギアが動いた。
肩に付けられた二発の魔力砲がそれぞれ光を帯び、順番に爆ぜる。
スネークはハリウッドの映画を思わせる見事なダイビングを披露させ、その二発を辛くも避け切った。
それに合わせてメタルギアの翼カバーが開く。
中々悪知恵は働くようだ。
数秒後には、追い詰められたスネークに爆撃が降り注ぐだろう。

――そしてそれは、最大のチャンスでもある。

スネークは無理矢理な態勢でスティンガーを放った。
成形炸薬弾がメタルギアの右翼に直撃するのと、ミサイルポッドからホーミングミサイルが射出されたのはほぼ同時。
右翼から発射されたミサイルは、数瞬後に自らが飛び立った巣を攻撃されて巻き添えを食らい誘爆を起こし、それがさらなる追撃となる。
爆発音を覆い隠す程の、恐ろしい、甲高い悲鳴がメタルギアから発せられた。
ざまあみろ、だ。
右翼が大きく火花を散らして、だらしなく肩からぶら下がった状態になった。
元気な左翼が、より右翼の不恰好さを際立たせている。
――これで、飛ぶ事は出来なくなったぞ。
少なくとも、ゆりかごとの合流は不可能。
だが、スネークにそれを喜ぶ暇は無かった。
左翼から飛び出した四つのミサイルはまだ生きていて、スネークに依然として牙を剥いているのだから。
毒付く暇もなくスネークはスティンガーを放る。
そしてFAMASを構えると、がむしゃらに5.56ミリ弾丸を空中にばらまいた。
奇跡的に弾倉が空になった時には四つのミサイルは見事に破壊され、スネークに着弾する前に弾けていた。
スネークは咄嗟に腕で爆風から顔を守ったが、スニーキングスーツ越しでも伝わった焼けるような痛みに悶える。

『――っ、スネークさんっ!!』
「っ!? くそっ!」

ほんの一瞬の隙。
慌てて振り返ると、メタルギアが地面を揺らしながら迫っている。

『甘いぞ、スネーク!』

そんな幻聴が聞こえたような気がして、慌ててバネのように体を跳ね起こした。
けれども既にメタルギアは踏み潰さんと足を上げていて、スネークはその影にすっぽりと埋まっている。
駄目だ、間に合わない。
本能的に腕を上げて体を庇う動作を取るが、無駄である事は自明だった。

――俺はここで死ぬのか。
これで、終わりなのか。
スネークは遂に目を閉じる。

そして、轟音が響いた。

「っ……!?」

空気が止まる。
おかしい、俺はまだ生きているのか?
そんな疑問と共にうっすらと目を開けば、影に覆われていたはずの足元が照らされていて。
その光に導かれるまま頭上を見上げると、翡翠のバリアがメタルギアの足を受け止めていた。
スネークが、何が起きているのかを把握する前に、怒号が飛び込んでくる。

「早く、逃げろっ!」

この場所にある筈の無い叫び声。
だが、スネークの体は自然とそれに反応していた。
瞬時にローリングし影の外へ飛び出して、声の元へと視線を向け、目を丸くする。

「――ユーノ!?」
「やぁ、スネーク。……ふむ、少し重いね、ちょっと待ってて」

彼が平然と言うや否や、翡翠の巨大なバリアが鉛直方向上向きに加速。
二足歩行のメタルギアはバランスを崩し、轟音と共に不様な格好で転んでみせた。
スネークは土煙の先のメタルギアをちらりと見て、得意気な表情のユーノに向き直る。

「何故っ……!?」

何故此処にお前が。
その単純な疑問さえ余りの驚きに、喉で詰まり言葉となって出てこない。

「おいおい……分かるだろう? 君を助けに来たのさ」

スネークと対照的に、フフン、と得意気に眼鏡を押し上げているユーノ。
幻では無いようだ。
スネークの口から動揺、驚愕、安堵を筆頭とした、様々な感情を乗せた息が漏れ出す。
――少なくとも、悪い物ではない。

「ゆりかごの場所が分からなかったのか、方向音痴。ヴィヴィオは向こうだぞ」
「なのはと分担作業さ。向こうはなのはが、こっちは僕が、ね」

クロノから無理矢理許可を取ったんだ、と明るく笑うユーノ。

「……司書長様がわざわざ助けに来て下さるなんて、全米が感動の渦に呑み込まれるよ」

スティンガーを素早く拾い上げながら皮肉るスネークへ、ユーノは途端に真剣な表情を見せると首を振ってみせた。
僕は無限書庫司書長ではないと、そう言って。
ユーノは訝しむスネークに素早く近寄り、治癒魔法を掛ける。
体を包む柔らかな光と、暖かい感覚。

「今は仲間として、親友として恩人を助けに来た、唯のユーノ・スクライアさ」

――無視し続けても存在を主張していた傷の痛みが、やんわりと遠退く。
司書長としての仕事は全て終わらせてきたからこれはプライベートだね。
そんな、余りに場違いな軽口を叩いているユーノが憎たらしくて――非常に心強い存在だった。
スネークは一歩前に出て、スティンガーに弾を再装填する。

「フン、貴重なプライベートを潰させてしまって申し訳ないよ。……体は鈍ってるんじゃないのか、相棒?」
「まさか。君の後ろは任せてくれよ」
「よし。……あのグロテスクな翼はもう動かんが、ここから完全に手詰まりだ。どうする」

――翼を落としたところで、核発射は止められない。
涙が出る程ありがたい増援でも、攻撃力に関しては些か頼りない。
堅牢な複合装甲はそう易々とは砕けないだろう。
ユーノが視線を走らせ、おもむろに呟く。

「一つ、考えがあるんだけど。聞いてくれるかい?」
「待ってくれ、ポップコーンとジュースの準備がまだだ」
「……君、僕の事どう思ってるんだ」

ヒクヒクと顔を引きつらせながら視線を向けてくるので、スネークは肩を大げさに竦めた。

「クドクドと無駄に長話をする骨董オタク、と言ったところか?」

骨董オタク、という言葉にユーノはその顔に、あからさまな不快感を滲ませた。
青年は怒りを露にしながらスネークへ詰め寄る。

「オタクは止めろ! そもそも僕が、要点を分かりやすーく簡潔に話さなかった事があるか!?」

単純明快、簡単な質問。
スネークは顎髭に手をやり、記憶を掘り返して。
ざらざらとした感触を味わいながら、即答。

「ふむ、無いな」
「うおい! くそ、助けに来た事を今更後悔してるよっ」
「はは。……へらず口はそこまでだ。考えとやらを教えてくれ」

君から始めたんじゃないか、とむすくれるユーノへ、スネークは不適な笑みを投げ掛ける。
戦場でユーノとこんな掛け合いをするのも久しぶりだ。
ユーノは呆れたように大きく溜め息を吐くと、考えの内を話し始めた。

「君が六課にやってきたくらいの頃。フェイトがガジェットⅢ型残骸の動力部に、ロストロギアを見つけたんだ。」
「ロストロギアが、Ⅲ型に?」
「局の保管庫から盗まれたものさ。……それの名前は、ジュエルシード」
「……随分気前が良いじゃないか」

大量に戦線投入されているガジェットⅢ型。
嫌になる程見続けてきたそれに、過去の貴重な遺産が組み込まれる。
どうにもおかしい話だが、ある程度の推測は可能だった。
いくらでも代えが効く機体の心臓、動力部へそれが組み込まれていたという事は――

「盗みだされたロストロギアは二つで、残りの一つはまだ見つかっていない。恐らく……」
「――動力として出力可能なロストロギアが、メタルギアに組み込まれている……?」

そういう事。
ユーノが神妙な面持ちで一言、そう頷いた。
そのⅢ型はテストで、その結果が好評を博してメタルギアにも使用される事となった、という憶測。
成る程、信じる価値はありそうだ。

「それさえ止めれば、なんとかなると思う。……動力部の位置は――」

ちらり、と藻掻き続けるメタルギアを一瞥するユーノに合わせて、スネークも視線を巨体に向ける。
――人間は心臓から体中に血液を送り、脳が下す命令で活動している。
スネークが可能性の最も高そうな胸部に注目し、その事に気付いたユーノが同調の意志を見せる。

「心臓発作を起こさせる訳か。そのジュエルシードとやらを破壊すれば良いのか?」

とんでもない、とユーノが慌ててその案を却下した。

「暴走したら適わないからね、僕が封印処理をするよ。確保しなきゃ」
「封印処理? ここからパパッと出来ないのか」
「無茶言わないでくれよっ」

魔法が何でも出来ると思い込まないでくれ、とユーノが不満気な表情を見せた。
――まずった。
スネークが後悔する間もなく、そのままユーノの愚痴が始まる。

「あーあー、そもそもここはAMF濃度が酷くて僕にはとてもよろしくない環境なんだよ、って言っても君みたいな魔法いらずで戦える非常識人間には分からないかなっ?」

あぁ成る程、と少し気圧されつつ頷く。
メタルギアにはAMFが搭載されているとかジョニーが言っていた事を思い出して、後悔。
さすが伝説の傭兵、なんてしつこく皮肉るユーノへスネークは素直に謝罪し、話の軌道を修正する。

「すまなかったユーノ、落ち着け」
「……ゴホン。ともかく、ジュエルシードは体内深くにあるだろうから、せめて胸部外壁を崩してこじ開けてくれれば僕が何とか――」
「――成る程な、了解だ」

あっさり返事をしたのが逆に妙な不安を与えてしまったのか、ユーノが大丈夫かい、と問い返してくる。
スネークは苦笑し、この世界で最も長い付き合いである親友の肩を軽く叩いた。

「なんとかなるさ。どうにかこじ開けてみせる、任せておけ」

一瞬の間を置いて、ユーノがくく、と笑いをこぼした。

「そうか。……そうだね、君がそう言うなら心強い事この上ない」

滑らかに、それでも機械らしい動きで立ち上がり始めるメタルギア。
そして同時に発せられる、怒りの咆哮。
身構えたスネークの背中に、ユーノから物憂げな声が掛かる。

「スネーク。いつか、君に話したよね。……地球にばらまかれてしまったロストロギア」

何ヵ月も前。
汚いテントの中で話された内容を思い出し、そして直結する。
――そのロストロギアが、ジュエルシードか。
スネークは無言を貫き、メタルギアが立ち上がる様を睨み付ける。

「ジュエルシードは、象徴なんだ。僕の弱さ、僕の罪のね。ここで……これで一つの区切りを付けるっ」
「――ユーノ。……さぁっ行くぞ!!」

掛け声と共に始まったコンビ戦。
それを彩るかのようなメタルギアの爆撃。
勿論、それらが目標へと到達する事はない。
スネークの前に展開された壁が、それらを全て受け止めるのだから。

『いつも通り、攻撃に集中してくれて構わないよっ』
『それはどうも、遠慮はしないから安心してくれ』

とても苦しい状況の中、最後に行われてから半年ばかり経っていた相棒を共にした戦い。
その合間の、軽口の叩き合い。
それらの全てが、酷く懐かしく感じた。
ユーノが作り出す障壁が、降り掛かる攻撃からスネークを守り。
時には鎖がメタルギアを捕縛し、動きを止める。
スネークは親友が生み出した隙を最大限利用。
正確に、コツコツとスティンガーをメタルギアの胸部に当てていく。
まるで扉が開くのを、ひたすらノックして待ち続けるかのように。

――そしてようやく、堅い扉が軋みの声を上げる。

何発目だろうか、スティンガーの成形炸薬弾がメタルギアに喰らい付いた時。
ギギギ、と。
確かにその異質な音は、メタルギアの咆哮に混じって、スネーク達の耳へと届いた。

『――ユーノッ!』
『うん!!』

それまで援護に回っていたユーノが、スネークの呼び掛けに含まれた意味を瞬時に理解。
グググ、と溜める動作を見せる。
スネークもスティンガーにもう一発弾を素早く装填して、照準を合わせた。

――これで、終わりだ!

ランチャーからミサイルが射出され、真っすぐメタルギアに吸い込まれていく。
盛大な爆発音と共に、メタルギアが実際に痛みを感じているかのように咆哮を上げた。
胸部を覆うプレートがずるり、と剥がれ落ちるのと同時に、スネークの真横を高速で通り抜ける影。
それは、メタルギアの体内奥から漏れる青い光へと、ロストロギア――ジュエルシードへと数秒で到達する。

「……、――ジュエルシード、シリアル八……封印っ!!」

呪文の後に、メタルギアの体内を突き抜けるように眩い光が放たれ、空間を支配。

――スネークが目の眩みから復帰した時には、全てが終わっていた。

余りに小さな宝石は既にユーノの手の中に収められていて、メタルギアに流れる時間は停止している。
こんな物がメタルギアの中枢を担っていたなんて。
力が抜けたかのように、メタルギアソリッドはガクン、と膝を付いて、そのまま倒れこんだ。
――勝った、か。

『スネークさん、ユーノ司書長! やりましたね! 凄かったですよ!』
「ケホッ……気に入ってもらえてよかっ……ゲホッ、ゴホッ!」

シャーリーの声が響くのだが、生じた土埃を思い切り吸い込んでしまって、苦しげに咳き込むスネーク。
彼と対照的に、感慨深げなユーノがスネークの元へ舞い戻る。

「スネーク、罪や過ちは誰にでもある。それらが消える事はないけれど、僕らは前へ進まなければならない。それが人間なんだからね。……やっと、一区切り付いたよ」
「ゲホッ……そりゃあ、おめでたい。だが、この事件はまだ終わりじゃない」

そうだったね、と苦笑するユーノ。

「フェイトの所にスカリエッティが行く筈だ、急いで追うぞ」
「了解であります、中尉っ」

青年の、慣れていないのか不格好な敬礼。
スネークは複雑な気分と共に、それに対してジトリと視線を向ける。

「……似合わんから止めておけ」
「むぅ……」

黒幕がまだ残っているのだ、こんな事件はさっさと終わらせてしまおう。
スカリエッティにだけは、負けられない。
奴の考えを認める訳にはいかないのだから。


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