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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第十三話「MGS」
Name: にぼ◆6994df4d ID:bd132749 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/28 01:11

薄暗い、小部屋。
天井の隅に存在を主張している機械が、一定のリズムで首を振っていた。
――監視カメラだ。
何度か往復するカメラがそっぽを向いた瞬間、スネークはSOCOMピストルでカメラを正確に撃ち抜いた。
専用の減音器の効果で、発砲した途端に音に気付いた敵が傾れ込んでくるという事も無い。
火花を散らし、力なくうなだれていく監視カメラ。

(……よし、ここで一休みしよう)

息を吐く。
スネークがここ、スカリエッティのアジトに潜入してから既に三時間程経っている。
少々埃っぽい小部屋の物陰に座り込むと、ブロック状の携帯食糧を口に放り込んで水筒を取り出す。
緊張が多少解れて、疲労を実感する。
思ったよりも体は疲れていたようだった。
スネークは乾いた喉に潤いを与え、おおよそ五時間前、ここに来る事となった原因の記憶を掘り起こした。

第十三話「MGS」

「つい先程、スカリエッティのアジトを発見しました。……貴方に単独潜入任務を頼みたい」

目の前の男、ヴェロッサ・アコースが淡々と切り出した。
――単独潜入任務だって?
スネークは心のどこかで半ば予想していたのかもしれないその言葉を聞いて、大きく溜め息を吐いた。
勿論相手に聞こえるよう溜め息をついたのだが、反応は無い。

「……奴は、データとしては多く残っているが逮捕歴は無い男……だったか、よくもまぁ見付ける事が出来たな?」

ヴェロッサは頷く。
それに合わせて緑の長髪が緩やかに揺れた。

「よくご存知で。ナカジマ三佐やフェイト執務官の、地道で丁寧な捜査のお陰ですよ。……色々と情報もありましたしね」
「……情報?」
「ああいえ、まだ確証の無い事です、お気になさらず。時間がありません、本題に入りましょう」
「フン、知る必要のある者にだけに伝える『ニーズ・トゥ・ノウ』か。……引き受けるとはまだ言っていないぞ」

状況を確認してからでも良いでしょう、と穏やかに言われて言い返せなくなる。
スネークは鼻を鳴らすとおもむろにタバコを取出し、口にくわえた。
が、ライターが見付からない。
くそ、と毒づく。

「発見は今から一時間前。アジトの場所はミッド東部森林地帯です」
「……俺に頼まんでも、他の優秀な局員様を掻き集めれば良いと思うがね」
「そういう訳にもいかないんですよ、これが」

スネークはクロノとカリムの話を思い出して、地上と本局の対立か、と問い掛ける。
ミッドチルダ地上本部と本局の対立。
本局が協力を申請しても強制介入という言葉に言い換えられて、いざこざのきっかけなっている。
それが枷となり表立った戦力投入は出来ない、と。
つまりは組織同士のいざこざ。
それで自分にとばっちりが回ってくる訳だ、地球のように。
ヴェロッサは座り直して手を組み、一層真剣な表情でスネークを見据えた。

「はい。本局は地上で表立った行動を起こせませんし、六課前線メンバーも陳述会の警備で一杯一杯。おまけに奴のアジトは高濃度のAMFで満たされています」
「……AMF。アンチ・マジリンク・フィールド」

魔力結合を阻害させるそれは、魔導士の天敵とも言える。
だが、そもそも魔力の無いスネークとは縁の無い話。
――成る程、大体読めてきた。

「対AMF戦に慣れてない教会騎士団。戦力的にも未だ不安なこの状況で真っ先に思い付いたのが――」
「俺という事か、成る程。……それで? 俺を単独潜入させて何をさせたいんだ」

スカリエッティの戦力を壊滅させられる力はスネークには無い。
あくまでスネークは一人の戦士なのだから、戦術核よろしく投入して相手を消し炭にするなんて不可能。
そもそも陳述会の終了を待ち、六課を含めた総力で総攻撃を仕掛ければ良い話だ。
それは即ちスネークにしか出来ない特別な任務を課す、という事。

「……私は義姉の、騎士カリムの預言を信じ、同時に憂慮しています。陳述会は局の『鍵』。ここを何とか切り抜けたい気持ちで一杯です」
「あんた等は地上の預言無視を非難してるが、預言を信じすぎでもあるな」

盲信の域に値するよ。
スネークがそう皮肉るが、彼の表情に変化は見られない。
だからこそ、とヴェロッサは力強く呟いた。

「貴方に頼みたい任務は二つ。……まずはアジトの極秘調査。貴方にはリアルタイムで映像を自動で録画・送信する端末を持って潜入して欲しい」

――つまり、敵戦力とアジトの構造の斥候。
敵を知る事が勝利への近道なのは言うまでも無いだろう。

「そして可能ならば、陳述会を襲うであろう敵戦力ガジェットドローンを統制する管制機能の無力化。……既にはやてからも許可は取れている」

後は貴方の判断だけだ、と付け加えるヴェロッサをスネークは軽く一睨みして黙り込む。
未来へ向けた二重、三重の手。
よく考えているじゃないか、とスネークが冗談混じりに褒めると微妙な笑いが返ってくる。
しかし、随分と難しい事を頼んでくれた。
恐らく警備は厳重だろう。
かなりの危険も覚悟しなければならない。
――だが、俺に打ってつけの任務じゃないか。
スネークのそんな考えが顔にも出ていたようで、ヴェロッサが体を乗り出させた。

「……貴方程の適任者はいない。アジトに張り巡らされている蜘蛛の巣のような魔力探知にも掛かる事も無いし、相当の戦闘力・精神力を兼ね備えている」
「お褒め頂いて恐縮だ」
「それに恐らく私の能力では、奴のアジトで先程言った任務をこなすのは難しいですからね」
「ふん……潜入方法は?」

それは潜入任務の根底であり、何よりも重要な位置を占める。
ニヤリ、とヴェロッサが不適な笑みを浮かべ、緊迫した空気が霧散していく。
整った顔立ちだが、真剣な表情よりはよく似合っていた。

「ズバリ、段ボールです。スネークさんが重宝しているとユーノ先生から聞きました」
「……ほぅ、段ボールを選んだ理由を聞こうか」

ヴェロッサは肩をすくめてみせ、スネークに明るく笑い掛けた。

「敵の不意を突いて潜入、という事を考えればこれは、一見古典的に見えても極めて有効な手段だ。……違いますか?」

目を見開く。
この男、よく分かっているな。
スネークは勢い良く同意の頷きを返した。
ヴェロッサが机の上のスティンガーに手を置き、表面を何度か撫でる。

「管制室に向かうまでに何かしらで必要になるでしょう。その為に何とか許可を取りました」
「……ユーノが走り回って取れなかった許可か。奴も泣いて喜ぶだろうな」

私も苦労したんですよ、とヴェロッサは軽く微笑むと、再び顔を引き締めた。
他に質問はありますか、と問うヴェロッサに、スネークは顎髭に手をやって何度か撫でる。

「無線サポートは?」
「シャリオ・フィニーノ一等陸士が。彼女は貴方の様子をモニタリングしながら、送られてくる情報を元にアジトのデータを順次作成していきます」

シャーリーか、と呟く。
ムサい男の声を聞いているよりはずっとマシだろう。

「……陳述会が無事に終了すれば、貴方からの情報を元に全戦力で総攻撃を仕掛けます。失敗すれば自力で脱出して頂くか、長い間救援を待って頂く事になりますね」
「ぞっとしないな」

陳述会の防衛に失敗するという事は、相当数の戦力が機能出来なくなる事を示すのだから。
そうならない事を祈るばかりだ。
ヴェロッサが大きく息を吐く。

「さて、話すべき情報は以上です。ソリッド・スネークさん、改めて。……この任務、引き受けて頂けますか?」

ヴェロッサは胸ポケットからライターを取出し、火を点けてスネークに差し出した。
ヴェロッサの瞳をじっと見据え、目の前の男から返ってくる真摯な眼差しと向き合う。
数秒の沈黙。
スネークはゆっくり頭を動かしてタバコに火を与え、何かの儀式のようにヴェロッサに見つめられたまま一服し、煙を吐き出す。

「良いだろう。……引き受けた」

――戦いを決断。
為すべき事を為すために、ソリッド・スネークは立ち上がる。


『こちらスネーク、待たせたな。地下三階に到着した』

順調ですね、と女性特有の柔かく高い声が脳内に響いた。
シャーリーだ。
単身潜入しているスネークの寂しさを紛らわせる、数少ない癒しの一つ。

『地下一階と地下二階はさすが、警備が厳重だったな。そっちの状況は?』
『お疲れ様です。こちらも問題無し、ですね。陳述会も異常無く進行しています』
「油断は禁物だな。……早く済むに越したことはない、急ごう」

地下に展開されているスカリエッティのアジトがどこまで続いているかは分からない。
エレベーターには四階まで表示されていたが、そこが必ず終着駅とは限らないのだ。
違うエレベーターから地下九十九階まである、なんて事は無いだろうな。
そんな不吉な考えに身震いして、即座に振り払う。
そんな恐ろしい事はアウターヘブンだけで十分だ。
地獄の梯子登りを思い出し、眉が寄ってしまう。

『地下一階の型、地下二階のⅠ、Ⅱ型格納庫は見ていていて気分が良いものでは無かった。Ⅲ型も恐らくこの階辺りに収納されているんだろうな』
『やはりそこで大量生産されているんでしょう。尚更管制システムを止めておきたい所ですね』
『そうだな。……よし、じゃあまた寂しくなったら連絡する。君の作業の邪魔にならないようにな』
『フフ、いつでも大歓迎ですよー。お互い頑張りましょうねっ』

スネークは通信を切ると立ち上がり、行動を開始した。
潜入任務の大前提は、敵に気付かれぬ用に気を付け、可能な限り接触しない事だ。
敵の隙が針の穴程の大きさであっても見逃す事の無いように、丁寧に索敵。
――まるでモグラだな。
苦笑を漏らしつつ慎重に進んでいく。
とは言え、今のスネークの相手はガジェット達が大半だ。
一分一秒を完全にコントロールする事の出来ない人間。
対して、体内に記されたプログラム通りにしか動けない機械達。
どちらが厄介なのかは言うまでもないだろう。
じっくりと冷静に、かつ迅速に進む。

「……地下三階は居住区か?」

ポツリと呟く。
リフレッシュルームに、ベッドルーム。
綺麗なキッチンルームまである。
恐らく廃都市区画の戦闘で出会った少女達――戦闘機人の生活スペースなのだろう。
彼女等が見当たらないという事は、やはり陳述会が危ないという事か。
――そして今、スネークの前方にはトイレがある。
入るか、入らずにこのまま調査を進めるか。
躊躇無く入る事を選び、自動扉の前に立とうとしたその時。
突然、扉が開いた。
勿論、スネークが開けたのではない。
トイレの中から男が現れ、互いに視線を合わせる。

――数瞬の沈黙。

男の頭上に、真っ赤な感嘆符が浮かび上がった。

「!! で、でで、出たぶほおおぉっ!」

男の顎に、スネークの拳が綺麗に埋まる。
強烈な一撃によってノックアウトされた男は、ゆっくりと倒れ込んだ。
このまま放置は不味いだろう。

「こいつは……」

頭の上で星を回すこの男は、廃都市区画で戦闘機人と共にいた男だった。
トイレの中へと引きずって、体をまさぐる。
なかなか鍛えているな。
引き締まった体に感心しながら目当ての硬い手触りに気付いて、それを取り出す。
――拳銃だ。

『シャーリー、聞こえるか』
『聞こえてますよ、危なかったですね』
『――この男、やはり地球人だ』

えええっ、と戸惑いと精一杯の驚きに満ちた声が返ってくる。
拳銃をじっくりと観察して、間違いない、とスネークは呟いた。
廃都市区画で発砲する場面があって気になっていたが、まさか本当に地球人だとは。
根拠を尋ねてくるシャーリーに解説。

『こいつはGSR、地球製のガバメントだ。……特徴的なデザインのスライド、やはり間違いない』
『はぁー、そうなんですか……』
『何故この世界に……よりによってスカリエッティに協力を?』
『……わかりません。でも、悩んでいても仕方がないですよ。気にせずに進みましょう』

そうだな、と呟いて男の体を再び引きずり、個室の便器に掛けさせる。
勿論GSRは没収。
しばらくはそのまま眠っていて貰いたいものだ。
トイレから出てその横、色の違う扉をくぐる。
巨大通路だ。
ガジェット型が巡回している。
それまでの階と同じ構造だが、大きく異なるものがあった。
壁に格納されたガジェット型と――

「――人体実験の、素体……」
『これは……酷い』

数えきれない人間達が、培養液の中にいた。
死んだように眠っている、という言葉が良く似合う。
スネークと同じ、利用させられる為だけに造られた――

「――っ……!!」

自分が目の前の培養液に浸かり、それを白衣の男達が眺めている。
そんな情景をスネークは想像して、大いに後悔した。
胃の中の物が逆流して、激しい吐き気に襲われる。
やめろ、落ち着け、違う。
自分にそう言い聞かせ、吐き気を必死に押さえ付ける。

『スネークさんっ……スネークさんっ! 大丈夫ですか!?』
『……問題無い』

スネークも、試験官の中で産まれたわけではないだろう。
下らない妄想を振り払うかのように、頭を振る。

『……助けてあげなきゃ、ですね』
『ああ。……そうだな。必ず、助ける。その為にも今は前へ進もう』

身を翻してエレベーターに向かい、地下四階へ。
しばらく順調に進んで行ったスネークは、ふと物音に気付くとすぐに段ボールを被って静止する。
段ボールの穴から様子を伺った。
ガジェット型、蜘蛛のような脚を付けた多脚型だ。
わしゃわしゃと動く様は、気持ちが悪いの一言に尽きる。
通り過ぎるのを待ってからそのまま走り出す。
ガジェット型が三体程巡回飛行している中に、チャフグレネードを放り込んで――爆発。
青い機体が披露する三流のダンスを横目に通路に飛び出し、ふむ、と頷いた。
このアジトの構造が大体把握出来た。
円を描くように巨大通路が走り、その円内部に様々な部屋が存在している。
とすると、地下四階の中央部分に管制室があるのかもしれない。
そこまで思考した所で、スネークはある事に気付いた。
それまでの階の巨大通路には無かった、円の外側へと続く扉がある。
いよいよ地下四階が特別な階だという確証が深まってきた。
スネークは警戒しながら扉をくぐり、進む。
待っていたのはガジェットの群れと、空間モニター。

『やぁっスネーク君、よくここまで来れたねっ! さすがだ、素晴らしい!』

まるでサンタクロースを待ちわびる子供のような、歓喜の声。
――ジェイル・スカリエッティ。
やはりスネークの潜入に気付いていたようだ。

「だが、ここから先へは進ませないよ」
「スカリエッティッ!!」
「ここで死んでもらう! 私がそれをじっくりと見ていてあげよう……フフフ、ハハハハハハッ!!」

スカリエッティの口元が狂喜に歪む。
首領から合図を受け取ったガジェット達がスネークへの攻撃を開始した。
気の早いⅢ型が一体飛び出し、スネークのFAMASにセンサーを撃ち抜かれて爆発。
スネークはそのまま薙ぎ払うようにミサイルランチャーを装備したⅠ型の群れを葬ると、周りをざっと見渡してⅢ型残骸の陰に隠れた。
――Ⅰ型八機と、Ⅲ型三機。
息を吐いてリモコンミサイルのニキータを構える。
この遠隔操作可能な偵察ミサイルのスピードは非常に速く、正確な操作が難しい。
だがフォックスハウンドの元教官で、徹底的な厳しさから鬼教官と呼ばれた男を思い出してスネークは胸に自信を湧かせる。
自分はあのマクドネル・ベネディクト・ミラーから、三ヶ月ものニキータ訓練の末合格を貰ったのだ、と。
ミサイルがスネークの肩、発射管から飛び出してⅢ型残骸を迂回し、ガジェット達から放たれる光線を潜り抜けて、見事命中。
マスターが見ていたら、誇りに思ってくれるだろうか。
その場を震わせる爆発は恐らく、ニキータのミサイルだけではなく巻き込まれたガジェットのもあるだろう。
覗き込んで、敵の数が随分と減っている事を確認。
よし、と力強く呟く。
スネークは続いてSOCOMピストルを手にしゃがんで覗き込み、そのまま飛び出し撃ちに派生させる。
伝説の傭兵の手元から乾いた音が三度鳴り、爆発音が同じ数だけ響く。
――後はⅢ型二体だけだ。
スティンガーを構えて飛び出し、成型炸薬弾を撃ち出す。
アームを取り付けられた二体の内一体は防御するようにアームを交差させ、もう一体はスネークへとそれを伸ばしている。
無駄だ、とスネークは呟いて、成型炸薬弾がガジェットを破壊する様を眺める。
大きな爆発をきっかけに、騒がしかった空間が一転して静まり返った。
土煙が晴れ、スネークはモニターを睨み付けた。

『……素晴らしい、凄いよスネーク君! 思った以上だ!!』
「この程度か、スカリエッティ?」
『……クク、クククッ!!』

不気味な笑いを残して、モニターが消え去る。
フン、と不満気に鼻を鳴らせて、ガジェットの残骸を跨ぎながら歩く。

『シャーリー、それらしい所へ来たぞ』

目の前には一際大きな自動扉。
最もこれがスカリエッティの寝室への扉等と言ったら話にならないのだが。
二秒、そして三秒経っても返事が返ってこないことに気付く。

『……シャーリー、こちらスネーク。聞こえてるか』

――返ってきたのは、雑音塗れの返答。

『スネ……さ……! ……課……敵襲……!』
『っ!? ……どうしたっおいっ! シャーリー!』

敵襲だって?
奴らが襲うのは、陳述会ではなかったのか?
シャーリーからの通信が、遂に沈黙した。

「ぐっ……」

どういう事だ。
言い様の無い不安と戸惑いに駆られるが、引き返す訳にもいかない。
身を焦がす焦燥にスネークはそれまでの疲労を無視して、銃口でポインティングさせたままゆっくりと扉の横に立つ。
一番緊張する瞬間。
特別な場所へ続くであろう自動扉がその大きな口を開いた瞬間、スネークが待ち伏せていたガジェット達によって蜂の巣にされる、という可能性も十分に有り得る。
いくら常人離れだの非常識だの言われていても、体を容赦無く蹂躙されては生きていられない。
余りに身近な『死』に脈打つ鼓動を激しくさせながら体を最大限隠して扉を開け、最大限の警戒を払いながら中を確認する。
――誰も、いない。
どうやら通路のようで、先に何かあるのだろう。
緊張感を保ちつつそのまま通路を抜けて巨大な空間に出るが、やはり誰もいない。
ガジェットさえも、そこを悠々巡回している事は無かった。
反対側に扉が確認でき、その先にまだ道がある事を示している。
時間が無い状況の中一刻も早く管制室へ急がねばならないのに、スネークの足が動く事は無かった。
――その空間の中央にある物に目を奪われていたからだ。

「『コイツ』は……」

スネークは半ば呆然と呟く。
周りの音は消え去り、『それ』が放つ威圧感によって生じた鳥肌が全身に伝わる。
目の前の『ソレ』は静かに、それでいて圧倒的な存在感と共にスネークを見下ろしていた。
アニメに見るような、より人間の形に近い巨大ロボットだ。
灰色掛かった細身の機体はおおよそ十数メートル。
腕に当たる場所にそれぞれ装着されている翼。
無骨な戦車、そして名前の通り恐竜という印象だったメタルギアREXに対して、こちらはまるで、有翼人そのもの。
視認できる武装は股に光る自由電子レーザーに、両肩の付け根の上にそれぞれ装着された魔力砲。
そして、REXには存在していなかった頭部に視線を移し――

「――レール、ガン?」

頭の上に、まるで角のように生えていた。
メタルギアREXの右肩に装着されていた物より小型化されているが、やはり間違いない。
通常のロケットとは違って推進燃料を燃やさず、磁場を使って大砲のように核弾頭を超高速で射出する事が出来るレールガン。
既存の弾道ミサイル検知システムからの追跡を回避できるそれは、政治的な面でも米政府のとっておきだっただろう。
こいつも核弾頭を発射する為のレールガンなのだろうか?
予期せぬ機体の登場で当惑するスネークの目の前に、突如空間モニターが現れる。
見間違える事はない、あの男。

『スネーク君、これは素晴らしい風格だろうっ?』
「スカリエッティ! こいつはっ……こいつは一体っ!?」

スネークはモニターの中、底の見えない深い笑みに怒鳴り掛ける。
だが、怒鳴られたスカリエッティの表情には変化が見られない。
それどころか目を細ませ、余計に口の端を吊り上げさせていく。
――狂喜。

『フフフ……メタルギアさ』

やはり、と唇を噛む。
スカリエッティはリキッドやビッグボスの存在、そしてスネークの出自を知っていたのだ。
メタルギアの事を知らない筈もないのだろう。
だが、スネークの脳内には止まらぬ疑問が埋め尽くす。

「どうやって……REXの設計情報を手に入れた」

当然、メタルギアREXを意識しての設計、そしてレールガンの改良タイプなのだろう、明らかにREXを彷彿させる部分が多い。
シャドーモセスでスネークを苦しめたREXの自由電子レーザー、作った本人曰くオタコン式ライトセーバーを始め、何かしらの手段でそれらの情報を手に入れた事は明白だ。
地球に行ったとでも言うのだろうか?
モニター上のスカリエッティはスネークの言葉に反応を示さず、恍惚な表情を浮かべる。

『スネーク君。君はメタルギアとよく似ている』
「……何?」

革靴の小気味良い足音と共に、スカリエッティがロボットの股を抜け、スネークの前に現れる。
陶酔しきっているその顔に、スネークはSOCOMピストルを躊躇無く向けた。

「君はメタルギアのコンセプトが『核搭載二足歩行戦車』だけだとでも思っているのかい?」
「……地球上のどこからでも核を撃てる、という目的を目指して作られたのが事実だろう」

核爆弾。
ヒロシマ、そしてナガサキで証明された核の威力は確かに未来へ伝えられた。
だが広く伝わった核に対する畏怖の念は、不幸にも核廃絶の道を作らない。
冷戦時代に突入して、待っていたのは核軍拡だ。
「やられたらやり返せ」という主義の元に作られるのは、「やったらやられる」という現実。
結果、敵も自分も報復攻撃の恐怖で縛り上げる事で均衡を保つ、所謂「核抑止論」が完成したのだ。
東西の明確なイデオロギー対立が核軍拡を助長、核軍拡がさらにイデオロギー対立の溝を深める。
それが冷戦であり、核の恐怖を象徴していた時代だった。
――そして、冷戦が終結する。
そんな訳で、、国家間の核抑止の必要性は薄れてしまった。
それでもやはり、一見して無くなった核攻撃の恐怖でも、宗教対立等で知られる地域紛争ではやはり脅威として残ってはいるのだが。

そういった中で革変を起こすために登場したのが、メタルギアという兵器だった。
メタルギアは強靱な足によって誰にも頼らずどこへでも赴き、自由気まま、どこからでも好きな場所へ核攻撃を行える性能を持つ。
どんな悪立地でも構わずに、だ。
『特定不能な地点からの核攻撃』という圧倒的な戦略的優位性を持ち、軍事バランスを簡単に引っ繰り返す事が出来る兵器。
ビッグボスがそれを用いて世界に宣戦布告し、そしてシャドーモセスで新たな核抑止の時代を作り上げるために開発された悪魔。

「ハハハ、違う。そんな物は副産物に過ぎない。君もメタルギアも、数々の代償を経て作り出された怪物。不可能を可能にする象徴っ……!」

それを、スカリエッティは狂ったような笑みと共に、即座に否定してみせた。

「メタルギアの本来の趣旨は、革新的な変化を遂げる時代と時代を繋ぎ、そして突き動かしていく事だよ」
「っ!? これはっ……!」

不意に地面から生えた赤い糸に足を取られる。

立ち上がる間もなく、何本もの赤い糸は縦横無尽に飛び回ってスネークの周囲を囲い、小さな檻を形成してしまう。
――しくじった。
スネークは悪態をついた。
にんまり、とあくどく笑うスカリエッティ。

「そう、偉大なる『金属の歯車』さ! ……なぁスネーク君、私は君を尊敬している、敬愛している!!」
「お断わりだ、嬉しくも無い」
「フ、フフ、フハハハハッ! ……だからこそっ! 私はメタルギアのコードネームをこう名付ける事にしたっ……!」

上昇し続ける抑揚を抑えきれないのか、スカリエッティはバッと腕を広げると、メタルギアを仰ぐ。
自分が作り出したそれを楽しそうに、そして何よりも愛しげに見つめ、言い放った。

「このメタルギアのコードネームは『SOLID』。……そう。――メタルギアソリッドさっ!!」
「メタルギア……ソリッド」

スネークは呆然と呟いた。
こんな物が自分をモチーフに作られた、等と聞かされれば嫌悪感もそれ相応に募っていくだろう。
更に、メタルギアの機体に小さく光っている『MG-SOLID』の文字に気付いて、舌打ち。
スネークは身動きが取れない状況の中、戦意を枯らす事無くひたすらに睨み続ける。

「貴様の狙いは何だ。レールガンで……メタルギアで核攻撃を仕掛けてどうするつもりだっ!?」
「フフ、良いだろう」

教えてあげよう、とスカリエッティは手元のモニターを操作し、スネークの目の前へモニターを表示させる。

「これ、はっ……!!」

炎に包まれた機動六課。
別画面では戦闘機人達の一人が幼い少女――ヴィヴィオを抱いて夜の闇の中を飛行している。
それは、どんな言葉・表現よりも分かりやすく、的確に管理局の敗退を示す図。
――くそっ、間に合わなかった。
スネークはたまらず歯軋りした。
ロングアーチスタッフ達の安否が気になる。
ぐ、と唸って、怒りを露にする。

「少女に手を出す程の変態野郎に付ける薬は無いなっ……!!」
「フフ、首尾良くいったみたいだ。……ゆりかごの起動ももうすぐか、楽しみだなぁ」
「……ゆりかご?」

スカリエッティがまた新たなモニターを作り出し、そこに戦艦が表示される。

「旧ベルカの巨大戦艦、質量兵器さ。あの少女が『聖王のゆりかご』起動の鍵となるんだよ」
「……貴様の切り札か」
「ゆりかごが二つの月の魔力を受ける事が出来る位置まで上昇出来たら、その実力を遺憾無く発揮する事が可能になり――このゲームは私の勝ちさっ」
「それがすんなり成功すると確信しているのか?」

管理局も体勢を立て直し、全力でそれを阻止しようとするのは自明だ。
ヴェロッサの顔を脳内にフラッシュバックさせる。
愚かな、と鼻で笑うスネークだが、スカリエッティには気にした様子は全く無い。

「当然、ゆりかご上昇への邪魔が入るだろうね。地上をガジェットや戦闘機人で攻撃したとしても、君の優秀な仲間達がそれを食い止める可能性の方が大きい。だが――」

――その為のSOLIDさ。
そう言ってスネークへ陰湿に笑い掛けるスカリエッティ。
悪寒が体を震わせる。

「まさか……」
「ミッド地上本部に核攻撃を行う。レールガンが放つ超高速の不意打ちによって自らの巣を失い、動揺と絶望に喘ぐ哀れな局員達……」

うっとりとした表情のスカリエッティ。

「……クク、そこから崩していき――ゆりかごは無事、軌道上に到着さ!」
「ミッドを核で消滅させるつもりかっ……!?」

さもどうでもいい、と言わんばかりに首を振ってみせるスカリエッティ。

「……ゆりかごは防衛面で戦艦後部・下部に死角があるから、SOLIDをそこに配置出来れば正に完全無欠っ……!!」
「あの化け物は飛ぶのか」

勿論さ、と陽気に笑ってみせるスカリエッティ。
その為の翼なのだろう。
――気に入らない。

「君の世界はなかなか優秀だ。クローン技術については勿論の事、機械工学、特にロケット工学に関しては参考になる部分が多かったなぁ」

やはり、地球に行ったという事か。
嫌悪感が噴き出してくる。
スカリエッティは指を軽やかに踊らせモニターを全て閉じると、白衣を揺らしながらスネークに近づいてくる。
目と、鼻の距離。
赤い檻越しに、スカリエッティの吊り上げられた口元がゆっくりと下がっていく。
――初めて見る、奴の無表情。
その奥に、僅かだが憎しみが伺えた。

「……なぁ、スネーク君。『SCENE(時代)』によってあらゆるものの価値観は変異する。昨日の悪は今日の正義に成り得るんだ」
「……何を言っている」
「我々は今は世界から忌まれる、『倫理』という壁に押しやられた存在だ。……そう。僕も君と同じ、人工的に造られた怪物なんだよ」
「……」
「そして同時に、『GENE(遺伝子)』も、『MEME(文化的遺伝子)』さえも未来へ伝える事を許されない存在だ」

未来に伝えられる事。
伝えるべき想い。
例え造り出された存在でも、自然に老いて、自然に死んでいく事が許されなくても、明日が無いとしても――!

(――俺にも未来を夢見る事は出来る!)

スカリエッティの言葉等には惑わされない。
つい先日なのはと話した事を思い出して、スネークの精神が自然と否定の声を上げた。

「何を信じるか、何を未来へ伝えるかは自分で決める。……お前の被害妄想に耳を傾けるつもりは無い」
「いいや、これは事実だ。今の我々には過去も、未来も無い。そして私はそれを黙って見ている程呑気では無い! ……SOLID、そしてゆりかごで時代を突き動かす!!」

拳を握り、何かを振り払うかのように腕を振るうスカリエッティ。
スカリエッティの憎しみの対象は彼を造り出した存在か、それとも自分という存在が認められる事の無い世界に対するものなのか。
完全に興奮しきっているスカリエッティの言葉は止まらない。

「そして生まれる新たな時代、世界っ! ……君や私のような『外側』の者達へと与えられる『天国』――アウターヘブンの完成だっ!!」

アウターヘブン。
そのたった一言で、スネークは怒りで真っ赤になる。
ふざけるな、とスネークは内心で盛大に毒付いた。
過去の亡霊が頭をもたげさせ、不快感は顔をしかめさせていく。
メタルギアだの、アウターヘブンだの、いくら何でも程というものがある。
ビッグボスもスカリエッティも、狂気に取り憑かれているのだろう。
そんな事を認める訳にはいかない。

「居場所が無いと妄想した挙げ句、全てを破壊して瓦礫の上で悠然と佇むのか?」
「ほう、妄想? 一個人ではなく社会が我々を造り出しておいて、それなのに我々は社会から評価されない。それは事実だろう」

スネークが反論しようとして、いやむしろ、とスカリエッティがそれを遮った。

「むしろ、社会は我々を淘汰しようとさえしている。淘汰すべきものだとしてね」
「……」
「そんな世界と相対さない方がどうかしている。それが私の考えだよ」
「……そして、俺と相容れない考えだ」
「フッ……とにかく、その為にも今はこれ以上君に動いて貰いたくないんだ」

だから、とスカリエッティをしなやかに指を踊らせる。
直後、高速で飛来する光弾。
頭部への重い衝撃に、堅固だったスネークの意識はあっさりと刈り取られた。
カリムが恐れていた預言が、実現しようとしている。


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