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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第十二話「未来」
Name: にぼ◆6994df4d ID:bd132749 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/22 21:10
銃を持ち、イラクで初めて人を撃ち殺した瞬間から、スネークがその重さを考えない時はなかった。
人が銃を握る時、その手に掛かる重さは『キログラム』という単純な単位だけではない。
人が人命を奪う度、その責任は絶える事なく積み重なっていくものなのだ。
それは誰にでも平等に、そして正当に、その手にのしかかっていく。
そしてスネークの手に掛かる重さは、あまりに重く感じられた。
これからもそれは重くなっていくのだろうか。
その答えは、まだスネークにも分からない。

第十二話「未来」

『伝説の傭兵』、そして『不可能を可能にする男』。
常に冷静沈着、どんな困難にも果敢に立ち向かう男。
そんな風に呼び讃えられてきた歴戦の兵士スネークは、珍しく困っていた。
表情にこそ表れてはいないが、逃げ出したい気持ちで一杯である。
機動六課の寮の一室、スネークの視線の先には、泣きじゃくる少女。
そして、その少女を必死にあやしながらスネークに念話を飛ばすなのは。
さらにその周囲で、新人達があたふたしている。

『スネークさん、助けて下さい……』
『断る。公費で腕の良いベビーシッターでも呼んでこい』
『ううぅ……』

聖王教会に行く件で、大事な話という事でスネークも隊長三人と同行する事になったのだが。
六課が保護した少女ヴィヴィオはなのはに懐いてしまって、離れたくないと駄々を捏ねたのだ。
なのはは新人達にヴィヴィオの面倒を見るように頼んだのだが、この通り。
子供の世話に慣れていない新人達は、この世の終わりなのではないかと思わせるような金切り声で泣き喚くヴィヴィオに圧倒されて、おたおたしているだけ。
結果、なのはは何を血迷ったのか最年長のスネークに事態の収束を頼んだ訳だ。
しかし、スネークも子供のあやし方等知っている筈もない。

そんなにっちもさっちもいかなくなった状態で、ふと現れた空間モニターはスネークにとってまさしく天恵そのものに思えた。

『あの、何の騒ぎ?』
『あっフェイトちゃん。実は……』

一層強まる泣き声。
よもやこんな場所でこんなうるさい子供と相対する事になろうとは、なんとも複雑な気分である。
その様子を見て事態を把握出来たのか、「すぐに行く」と言葉を残すフェイトとはやて。
数分後には、到着したフェイトによって騒々しかった空間は、魔法を掛けられたかのように落ち着きを取り戻した。


静音効果が高く、静かなヘリの中。
そこで、なのはが照れ臭そうに苦笑していた。

「ごめんね、お騒がせして……」
「いやー、ええもん見させてもらったわ」
「観客は楽しいだろうがな……そういえばフェイト、君はあの人形を使ってヴィヴィオに洗脳でも掛けたのか?」
「んなっ!?」

失礼な、とフェイトがむすっとする。
だが事実、ものの数秒で子供を大人しくさせたそれは、スネークにはサイコ・マンティスもびっくりな魔法に見えたのだ。
フェイトが人形を揺らすと同時にヴィヴィオが頭を揺らしていたので、あながち間違いでもないと思ったのだが。

「……私、子供あやしたりとか、そういう経験は豊富ですから」
「子持ちという事で解釈しても?」
「ふふ。スネークさん、次そんな妄言を口にしたらチョップをお見舞いしますよ。甥っ子と姪っ子の事です」
「あ、ああ。すまなかった」

軽い冗談だったのだが。
笑顔で右手を構えるフェイトの目が怖くて、スネークはすんなりと謝る。
女性は怒らせると何時の時代も恐ろしいものだ。
微笑ましくそれを見ていたなのはとはやてだったが、はやてがふと神妙な面持ちになった。

「……しかし、あの娘はどうしよか? なんなら教会に預けとくんでもええけど」
「平気、帰ったら私がもう少し話して何とかするよ。……今は周りに頼れる人がいなくて不安なだけだと思うから」

優しい瞳で語るなのはに、スネークも頷く。
あんな小さい少女に、あまり不安や重荷を背負わせるべきではない。
たとえ人工的に造り出された生命だとしても、幸せになる権利は十分にある筈だ。
多くの生命を奪ってきたスネークはともかく、あの純粋な少女には。
聖王教会、大聖堂の一室。
どうぞ、というノックに対する返事と合わせて、なのはとフェイトが入室と共に敬礼して名乗り上げる。

「高町なのは一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官であります」
「ソリッド・スネークだ」

敬礼どころか敬語すら使わないスネークに、なのはとフェイトが諫めるような視線を送る。
ふむ、と唸って流れるような金髪を揺らす女性、そして黒い制服に身を纏った黒髪の男に向き直る。
びしっと背筋を伸ばして、直立不動。

「失礼致しました、民間協力者のソリッド・スネークです。大仰に敬礼もした方がよろしいでしょうか?」

皮肉たっぷりに言い放つ。
ぷっ、と はやてが堪え切れずに吹き出した。

「スネークさんの敬語、何と言うか、合わへんですね」
「安心しろ、俺もそう思う」
「普段通りで構いませんよ。……初めまして、聖王教会、教会騎士のカリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」

清楚な美人のカリムがくすくすと笑っている。
スネークが会える美人は戦場ばかりという事もあって、どうしても性格に難がある女性ばかりだが、ここは地球と違い新鮮な気分。
この世界に住民票を移すのも良いかもしれない。
スネークはそんな事を考えながら、案内されるがままに席につく。
こういう高貴な雰囲気の場所は正直苦手なのだが、我慢するしかないのだろう。
口元の寂しさから、タバコをくわえたくなる。
クロノとなのは達から呼ばれた男がスネークに向けて口を開いた。

「初めまして、スネークさん。貴方の事はユーノから伺ってますよ」
「またか。……奴は何と」
「『頑固で負けず嫌いで強がりで意地っ張りな所があるけれど、十分信用出来る男』だと」

肩をすくめる。
正に言いたい放題だ。
頭が痛くなるのを感じながらも、スネークは差し出された手を軽く握り返した。
ユーノがシグナムを初め、色々と吹聴していそうで不安に駆られる。
が、そんな悩みに苦しめられる余裕も無くカーテンが閉まり、緊迫した空気に包まれた。
こほん、というクロノの咳払い。

「――六課設立の表向きの理由は知っての通り、ロストロギア・レリックの捜索と、独自性の高い少数部隊の実験例だ」

クロノ、カリム、そしてクロノとフェイトの母親リンディ・ハラオウンの支援。
さらに、三提督とかいう上層部の連中も協力を確約しているらしい。
たかが実験部隊、とは言えないだろう。
カリムが立ち上がり、その手に収められたカードを束ねていた布を取り去る。

「かの三提督までもが動く理由は、私の能力と関係があります。私の能力、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)」

眩い光と共にカードはカリムを取り囲むように円を描いて浮遊。
まるで、ケチなマジシャンが好みそうな演出だ。

「これは最短で半年、最長で数年先の未来を詩文形式で書き出した預言書を作成する事が出来ます」
「……預言だって?」

預言能力、即ち未来を見通す力。
二つある月が上手く重なった時にしか発動せず、回数にして年に一回。
古代語なので解釈も変わり、的中率も高くない、との事。
――頭が痛くなる。
スネークは目蓋を揉みながら口を開いた。

「それで、その未来予知の内容は相当酷いんだろうな? ……勿体ぶらずにさっさと教えてくれ」

どう考えてもその預言関連でここに呼ばれた事は間違いないのだろう。
――数年前から、ある事件が書き出されている。
カリムはそう言い、クロノ、はやてに視線を向け、頷き合う。
そしてゆっくりと噛み締めるように話し始めた。

「旧い結晶と無限の欲望が交わる地。
死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。
死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる。
それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ち、天国が誕生する」

法の船が砕け散る、という言葉になのは、フェイトが息を呑んだ。
スネークも眉をひそめる。

「それって……」
「……まさか」
「ロストロギアをきっかけに始まる、管理局地上本部の壊滅。そして――」

――管理局システムの崩壊。
一同言葉を失い、ひたすらに重苦しい雰囲気が漂った。
強固だと信じていたものが崩壊するというのは、確かに愕然とするのも仕方がないだろう。
まして数多の世界を管轄する管理局が無くなれば、影響は計り知れない。

――だが、馬鹿馬鹿しい。

スネークはカーテンを開けて部屋に光を取り込むと、大きく伸びをする。

「俺に解釈させてもらえば……翼。翼、ふむ。その預言は鳥人間コンテストの開催と失敗、だろうな」
「なっ……」

カリムがスネークへ唖然とした表情で視線を向けた。
続いて、明確な非難の色。
茶化している場合ではないだろう、と。

「そう『ビビる』必要も無いという事だ。狙われるのが分かっていて、その対処の為に君達は日々準備をしている。違うのか?」
「それは、そうですけど……」

流れるような動作でタバコを取り出して、くわえる。

「未来予知なんていらない。未来を変えていく勇気があれば、十分だ」
「そう、ですね。……でも」
「ん?」

ここは禁煙です。
その言葉と共に、シュッとカリムは素早い動作でスネークの口元のタバコを奪い去り、ゴミ箱に捨てる。
そこにあったのは、先程とは違う優しい微笑み。

「スネークさんの言う通り、希望を捨てず、前を向いてしっかりやるべきですね。局を、そして世界を守る。……皆さん、改めてお力添え、お願いします!」

決意の籠もった表情で頷き合う若者達。
スネークも、誰にも気付かれぬように拳を握った。
恐らく、スカリエッティが絡んでくるのは間違いないだろう。
どうせ碌でもない事を企んでいるだろうし、それを実現させてやるつもりもない。
絶対に。



「陸士108部隊より出向となりました、ギンガ・ナカジマです。よろしくお願いいたします!」

夏の暑さ漂う八月もあっという間に過ぎて、気付けば九月に突入。
よく通った挨拶と共に、落ち着きのある微笑みが六課の訓練場に振りまかれた。
周りにはお馴染みの新人達と隊長陣、そして珍しくシグナムもいる。
そして六課に出向扱いでやってきたギンガ・ナカジマだ。
スバルの二つ上の姉でありさすがよく似ているが、スバルとは違った美しさを持った美人である。

「……予想通りだな」

気付けば、スネークはそう呟いていた。
暖かく迎えられたギンガはスネークの言葉にキョトンとする。

「え、と。ソリッド・スネークさんですよね。何がでしょうか?」
「俺の予想通り、君は美人だった」

前回の出撃では声しか聞いていなかったからな、と付け加える。
途端に顔を赤く染めていくギンガに、スネークは苦笑を溢した。
こんな事を軽くあしらえないのでは、まだまだ若い。

「えええっ!? い、いきなり何をっ!」
「スネークさん、ギン姉を口説かないで下さい!」
「あのっ私まだそういう事にはちょっとっ! その、ごめんなさい!」

何だかんだで振られてしまった上、スバルに詰め寄られてしまう。
スバルは普段と違ってなかなか凄みがあり、その迫力にたじろぐスネーク。
そんな中、ふとスネークは殺気を感じた。
――誰もいない後方から。
勿論振り向いても誰もいなかったが、直後頭に感じた鈍痛が、何かがいた事を必死に訴えている。

「スネークさん、程々にして下さいね」

にこにこ。
穏やかに、そしてどこまでも優しい笑顔のフェイトが手を擦っている。
色々と聞きたい衝動に駆られたが、なんとかそれを堪える。
自重した方が良さそうだ。
今だに微笑んでいるフェイトが、そうだ、と手を合わせた。

「なのは。後でやる隊長戦、スネークさんにもフォワードチームに参加してもらわない?」
「いいねー」

なのはが賛同して、その横のシグナムも目の色を変える。
冗談じゃない。

「ふむ、久々にスネーク、お前と手合せ出来るな」
「……おい。俺はやるなんて一言も――」
「やるんですよ、スネークさん」

ね? とスネークの肩を掴むフェイト。
美人だからと言って男が何でも聞くというのは、思い違いも甚だしい。
スネークは振り払おうとするが、力強くキリキリと掴まれていてそれが出来ない。
みしみし、と音がするのはきっと、気のせいなのだろう。
流れる冷や汗。
六課手製のペイント弾を手渡され、スネークは遂に諦めた。



ALTERNATIVE MISSIONS
SEARCH FOR SNAKE
LEVEL 10

ソリッド・スネークを捕らえ、部隊長室へ連行せよ!
段ボールを被って隠れているかもしれない。十分に注意しろ!
制限時間 30分00秒
スネーク 1人

「……なんてね」
「なのはママ?」

首をかしげるヴィヴィオ。
何でもないよ、と苦笑を返して、繋がった手を優しく握り返す。
保護責任者としてなのはが親代わりとなる事に志願したので、この少女は今は愛娘という形だ。

隊長チームとフォワードチームの模擬戦でスネークは善戦。
彼はフォワード達と上手く連携しつつ、彼をしつこく狙うシグナムにペイント弾を何とか当てた直後、フェイトに撃墜された。
中々の健闘だったのだが、訓練の後から行方が知れない。
まぁ、それ自体はいつもの事。
しかし部隊長のはやてが、話があるという事でスネークを放送で呼び出したのだが、反応が無い。
そこでなのはに任務が与えられた訳だ。

「まだりょうにかえらないのー?」
「うん。スネークさんを探さないとね」
「へびのおじさんっ!」

最初こそヴィヴィオはスネークに近づこうとしなかったが、今は『蛇のおじさん』という愛称と共によく懐いている。
幼い子供でも話し掛けやすい何か、信頼出来る何かが彼にはあるのだ。
とはいえ今回のように呼び出し放送も無視したりと、色々性格に問題があるのだが。
そんな不思議な男スネークは、なのはの予想を裏切ってあっさりと見付ける事が出来た。
相も変わらずタバコをふかし、ベンチにゆったりと腰掛けている。

「へびのおじさーん!」

ヴィヴィオがスネークに向かって声を上げるが、反応が返ってこない。
様子がおかしい。
なのはが何度か声を掛けても結果は変わらず、肩を叩いた所でスネークはようやく振り返った。

「なのは、ヴィヴィオか。何だ?」
「何だ、じゃないですよ。スネークさんこそどうしたんですか?」
「……未来予知、いや、預言関連で少し昔の事を思い出していた」

そう語るスネークは、どこか寂しそうで、憂いに満ちていた。
普段のような、頼れる精悍な様子も伺えない。
何か、思い悩んでいるのだろうか。
ヴィヴィオを抱えて隣に座る。

「あの、私で良かったら何でも話して下さい」

君に話す事でもない、と苦笑してみせるスネーク。
それさえも無理矢理作ったものに見えた。
なのはには、六課でスネークを見ていて改めて分かった事がある。
なのはの恋人ユーノも言っていたのだが、スネークは他人から気遣われることを好んでいない。
そして自分一人で何でも抱え込んで解決しようとする節があるのだ。
それが、自分の宿命であるかのように。
なのはは思わず口を開いた。

「人は一人では生きてはいけません。スネークさんはもう少し人を頼った方が良いと思います。……だからお話、聞かせて下さい」

スネークには不器用な所があるのだろう。
だが、彼も普通の人間だ。
困っているのなら周りに助けを求めるべきだし、なのは自身、助けてあげたいと思っている。
スネークは、なのはとユーノの恩人なのだから。
頑固だな、と呟くスネークへ、なのはも明るく笑い掛ける。
もう何度言われたか分からない。
となれば、開き直るしかないだろう。
しばらくの沈黙の後ボソリと、いつもよりも低い声でスネークが話し始めた。

「……俺は。俺はシャドーモセスで色々な男と戦い、殺してきた。マンティス、レイブン、そしてリキッド」

スネークが静かに語り始める。
リキッドという名前は、以前スネークから聞いた話で知っている。
彼の、たった一人の、兄弟。

「彼らは皆こう言った。『お前には過去も未来も無い。今この瞬間だけを生きて戦い、人を殺している怪物だ。救われる事は無い』とな」
「そんな事はっ……」
「……ユーノとの旅で俺は、『人は未来に想いを伝える事が出来る』と知った。あいつとの旅以来、俺はそれを探し続けてきた」

タバコの先から流れる煙が儚く夕焼け空へ消えていき、スネークはそれをぼんやりと眺めている。
なのはも何も言えず、追うように黙って見ているだけ。

「俺は確かに作られた怪物なのかもしれない。おまけに、生まれながらに子供を作る能力を持たない存在だ」

生まれつき子供を作る事が出来ない体質。
それは余りに残酷で、悲しい。
もしも自分だったら、なんて想像ですぐに背筋が凍る。
ほんの少しだけ、ヴィヴィオを抱える力が強くなる

「そんな俺は果たして本当に、未来へ何かを伝える事が許されるのか? そもそもそれ自体間違っているのか?」

スネークは戸惑いを隠すかのように力強くタバコを揉み消し、携帯灰皿に突っ込んだ。

「その確証を得られないままに銃を握っている事に、ふと不安を抱いた。それだけだ。ただそれだけなんだ」

――悲しい人。
なのははそっとスネークの手を取る。
この手には、今までスネークが奪ってきた多くの生命に対する責任が積み重なっているのかもしれない。
だがそこには同時に、人である事を証明する暖かさがあった。

「スネークさんは怪物ではありません。私やユーノ君、部隊の皆が証人です。……それに貴方にだって、未来を夢見る事は出来ます」
「……未来を夢見る?」

聞き返すスネークに頷きを返す。
なのはの膝の上でウトウトと舟を漕いでいるヴィヴィオを優しく撫でた。

「ヴィヴィオや皆が幸せに、笑って暮らす事が出来る未来。それを実現する為にスネークさんが伝えられる事もきっとあるはずです」
「……未来の為に戦う、か。ありがちな話だ」
「世界は、そんなありがちな出来事の集合体ですよ」

柔らかい笑みを浮かべる。
スネークはそのまま沈黙し、しばらく立ち尽くす。
そしてだしぬけに、なのはへと振り返った。
普段の力強い精悍な目付き、そして信頼できる、頼れる表情。
いつもの、ソリッド・スネークだ。

「なのは、参考になった。……ありがとう」
「いえ、困った時はお互い様です。スネークさんのお陰で、私もユーノ君も笑っていられるんですから。……あ、そうだ」

ふと、スネークを部隊長室へ連行する任務を思い出す。
すっかり忘れていたようだ。
ヴィヴィオを揺すって起こす。

「ヴィヴィオ、そろそろ行くよ。……スネークさん、はやてちゃんが呼んでます。部隊長室へお願いします」
「ああ、分かった。今行――おいヴィヴィオ、髭を触らないでくれ」
「んー、じょりじょりー」

なのはは苦笑しながら寝惚けたヴィヴィオと手を繋ぎ、立ち去るスネークを見送った。
彼がどうか自分という存在に自信を持ち、強く、そして幸せに生きていく事を願って。



「スネークさん、どうぞ」

機動六課・部隊長室。
スネークを待っていたのは、厳しい表情のはやてだった。
いつものような好感を持てる温和な笑顔ではない。
スネークの遅刻を怒っている訳でも無さそうだ。
ソファーに座らされたスネークが一息付くと、はやては早々に重い口を開いた。

「早速ですがスネークさん、先日の聖王教会での話を覚えていますか?」
「……公開意見陳述会が狙われるという話だろう?」

勿論だ、と呟いた。
公開意見陳述会。
預言の解釈によって、敵に狙われる可能性が高いと危惧される催し物。
そもそも地上本部のレジアス・ゲイズ中将は預言自体信用していないらしい。
地上本部は本局と確執があり、本局側も表立った介入が出来ない。
だからその対策として地上で自由に動ける部隊、即ち機動六課が誕生した、と。

「……公開意見陳述会は中止にでもなったか?」
「いえ」

はやては腕を組んだまま、スネークの軽口にも反応を示さない。
自然とスネークの表情もより引き締められていく。

「スネークさん。貴方は公開意見陳述会の警備に行けなくなりました」
「……何だって?」

予想もしない宣告に、スネークは呆然と呟く。

「レジアス・ゲイズ中将自ら却下したんです。『魔力を持たない男を警備に付けるほど地上本部は脆弱ではない』と」

――何とも胡散臭い。
溜め息と共に目蓋を揉む。
そんな理由だけでないのは明らかだろう。

「……どういう事だ?」
「分かりません。何故中将がスネークさんを除外したか……」
「俺を会場に近付かせたくない?」

だとすれば、何故。
無言が返ってくる。
理由も目的もさっぱり分からない。
まさかとは思うが、スネークがどこぞのイカれた男のように、突然銃を乱射し始めると思っているのではないだろうか?
数秒の間、場を支配する沈黙。
……埒が開かない。

「何かある事は間違いないな……まぁ、許可が下りないなら仕方がないだろう。俺は当日大人しく留守番しているさ、酒でも飲みながらな」
「……何か、嫌な予感がします」

俯くはやてに、不安か、と問い掛ける。
気丈に部隊長という立場を努めていても、やはり年相応の弱さ、そして不安を抱えているのだろう。

「……ん、不安はいつだってありますよ。皆の事、これからの事。でも、今は悪寒が霧のようにずっと掛かってて……嫌な気分です」
「大丈夫さ、なんとかなる」

なんとかなるさ、ともう一度力強く続ける。
先程なのはに励まされ、ポジティブ思考に拍車が掛かっているようだ。
自信有りげに話すスネークに、ようやくはやてが顔を上げ、頬を緩めた。

「フフ、なんやスネークさん、結構楽観的なんですね」
「俺のモットーだからな。……希望を失ったら最後だ。希望が無くなったと思い込んだ瞬間に、無力になってしまう。絶望は死へとつながる」
「……そうですね。なんとかなる、なんとかしてみせる。ここを乗り切れば事態は必ず好転する!」

はやてはグッと腕を構えてスネークに向き直る。
部隊長らしく自信のある、頼れる目付きに戻っている。

「スネークさん、頑張りましょう!」
「そうだな」

未来の為に。


それから、一週間。
九月十二日、公開意見陳述会当日。
既に前線メンバーは警備に付いている。
そして今、機動六課で待機していたスネークの目の前には一人の男がいた。
笑みを浮かべているが真意が掴み辛い、緑の長髪男。
手元の時計にチラリと視線をやると、午前十一時五十五分。
公開意見陳述会の開始まで後三時間を切った所だ。

「初めまして、スネークさん。ヴェロッサ・アコース査察官です」
「アグスタで見た顔だな」
「あ、覚えてくれてたんですか。嬉しいなぁ」
「……何の用だ」

スネークとアコースを挟む机の上には、FIM-92A、通称スティンガーミサイルが静かに鎮座している。
スネークがシャドーモセスで活用、現在は局が保管している筈の携帯用地対空ミサイルだ。
スネークの装備でダントツの重量と破壊力の武器。
コレが今ここにあるという事は――

「――スネークさん。時間がありませんので、単刀直入に言います」
「……言ってみろ」
「つい先程、スカリエッティのアジトを発見しました。……貴方に単独潜入任務を頼みたい」

目を細めて、睨み付けるようにアコースを見る。
交差する視線。
戦いが、始まるのだ。


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