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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第十話「憧憬」
Name: にぼ◆6994df4d ID:bd132749 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/19 18:47

「ティアナ・ランスターは凡人である」

誰も口には出さないが、それは誰よりもティアナ自身が自覚している事だった。
初出動も特に失敗した訳ではないが、取り分け成功した訳でもない。
日々の過酷な基礎訓練を続けていても、実力を得た実感は持てなかった。
このままでは、周りの優秀な仲間達をぼんやりと眺めながら一人取り残される。
このままでは、兄が叶えられなかった夢を代わりに遂げる事が出来なくなる。
ティアナがそんな劣等感や焦燥を強く感じ始めた頃、その人はやってきた。
高町隊長と八神部隊長の出身世界から迷い込んできた人。
魔力を持たず、素性もよく分からないのに、信用しても良いと思ってしまう不思議な人。
バンダナの下に伺える精悍な目付きが印象的な人。
自分には無い、信じるに値する「何か」を持つ人。
自分と同じ射撃型でありながら、シグナム副隊長に果敢にも接近戦を挑み、その実力を認めさせた人。
その人の名前は、ソリッド・スネーク。

第十話「憧憬」

ティアナはゆっくりと自分に向かってくる拳を、体を捻らせて回避する。
それに合わせ、スバル目がけて確かめるようにゆっくりと腕を振るい、銃口を向ける。
録画映像をスローモーション再生させたようなそれがしばらくの間続いた所で、ティアナが声を上げた。

「よし。……スバル、お願い」

了解、とスバルが威勢の良い返事をして構える。
全く同じような動きで、それでいて先程とは比べ物にならない速さで拳を繰り出すスバル。
空気を切り裂くそれは、正に閃光。
耳の中を、風が生み出す轟音が突き抜ける。
体を思い切り捻らせてなんとか回避するティアナだが、体勢を崩した所為でその後が続かない。
バランスを失って尻餅を付いてしまう。

「ご、ごめんティア!」
「い、つつ……大丈夫。……あれを避けられないんじゃ実戦で通用しないわね」

今の自分では避けるので精一杯だった。
歪みそうになる顔を必死に押さえつつ立ち上がり、時計を確認。

「……そろそろ早朝訓練か、この辺にしときましょ」
「うん! 今日も頑張ろーねっ!」

快活な返事と共に、大きく伸びをするスバルを見てティアナはポツリと呟く。

「……悪いわね、付き合わせちゃって」

現状戦力に不安を抱き、それを解消して行動の選択肢を増やす為の特訓。
自分のわがままに付き合ってもらっているのは有り難いがやはり、申し訳ないとも思ってしまう。
輝く朝日と対照的な暗い表情のティアナに、スバルが満面の笑みを振りまく。

「いいの! ティアは戦力アップで、私とのコンビネーションも増える。一石二鳥だよっ!」
「……ん、ありがと」

眩しい笑顔のスバルに、本当に良い友人を持ったな、とティアナは悟られぬよう微笑んだ。
思えばルームメイト兼コンビとして初めて会った時も、無愛想な自分と仲良くなろうとスバルは必死に声を掛け続けていた。
あれから、スバルは生まれ持った素質をどんどん伸ばして強くなっている。
それに比べたら自分はどれほど強くなったのだろうか、とティアナは自問した。
そして、芳しくない答えを自答。
急速に暗くなっていく思考を無理矢理中断させる。
今の自分は前進あるのみなのだ。
亡き兄の想いを引き継ぐ為に。

「自主訓練か?」

ふとティアナ達に掛かる、男性特有の低い声。
それは、ソリッド・スネークの声だった。
本当ならもうすぐ元々の世界に帰る筈なのだが、スカリエッティと対峙して何を思ったか六課の活動に協力するらしい。
詳しい素性を知っている隊長陣曰く、地球の傭兵で潜入任務のプロ。
五十頭のハスキー犬を家族にもっているらしい。
クールで、正に大人といった雰囲気を持つのに、部隊長は変質者と言っていたのが気になる所。
アグスタ然り、どこにでも現れるその様は神出鬼没の一言に尽きる。
おはよーございまーす、と元気な挨拶を返すスバルにティアナも続いた。

「おはようございます、スネークさん、接近戦の訓練をしていました。……スネークさんは何を?」

ほんのりと汗をかいているスネークは一言、日課だ、と返した。
体をベストコンディションに保つ為なのだろうか、がっしりとした、逞しい体付きがその成果を証明していた。

「接近戦? 君の役割は確か……射撃による後方支援と戦術展開じゃなかったか?」
「もっと行動の選択肢を増やそうと思いまして。……今やっている基礎訓練では中距離からの射撃ばかりですから」
「……射撃で行き詰まった時の為に?」

射撃と幻術しか出来ないから駄目なんだ。
それが通用しなくなった時、何も出来なくなる。
そんなティアナの思いは、スネークにあっさりと見抜かれた。
スネークが鼻を鳴らす。

「確かに君の所に敵が来ないとは限らない。それどころか、孤立無援の状態で複数に囲まれる事だってあるだろうな」

接近における戦いを視野に入れる事も重要だ、と。

「だが、付け焼き刃の訓練が実戦で通用するとも思えない。だからなのはも基礎訓練を続けているんじゃないのか?」
「それは……」
「焦らずとも、君の『武器』をじっくり磨いていけば良いと思うがね」
「でもっ! ……でも、じっくりなんてしていられないんです。私は凡人、ですので」

ゆっくり傍観していたのでは、本当に皆から取り残される。
凡人がエリート達を追い越すのは無理かもしれない。
しかし死ぬ気で努力すれば、少なくとも肩を並べて歩く事は出来る。
ティアナはそう信じていた。
この男性も、分類してしまえばティアナとは無縁の世界に生きる人間。
結局、非才の人間の気持ちなど、天才の人々には分からないのだ。
スネークが間髪入れず、重い表情と共に口を開く。

「戦場に凡人はいない」
「……え……?」
「戦場は自分の考えを貫く為に武器を持つ場所だ。ヒーローもヒロインもいない。エリートも凡人も存在しない」

スネークの鋭い目付きが容赦無くティアナを射抜く。
気押されてしまい、気付けば一歩後退していた。

「君は劣等感だか自己嫌悪だかを解消する為にここにいるのか? ……下らん考えは捨てろ、甘えるな」
「っ……!!」

何時以来だろう、これ程迄の怒りを覚えたのは。
目の前が真っ赤に染まり、心臓の鼓動が活発化する。
ティアナはそれを隠そうともせずに、スネークへ睨み返した。


(あなたに、何が分かる!?)

ティアナは内心で叫び声を上げた。
誰よりも尊敬していた兄が殉職した際に、「犬死にランスター」と嘲笑した連中。
この感情は、彼らに抱いたのと同じ感情だ。
この男、ソリッド・スネークも何も知らないのに、偉そうな事を言っている。
ふざけるな。
馬鹿にするな。
貴方に何が分かる。
そんな、様々な言葉がティアナの中を駆け巡り、消化されないまま腹の中に溜まっていく。
ティアナは荒い息を必死に抑え付け、スネークから顔を背けた。

「……失礼、しますっ……!」
「あ、ティア、待って! スネークさん、あの、その、ごめんなさい!」

我に返ったスバルが慌てた声を上げ、歩き始めたティアナを追う。
ランスターの弾丸に撃ち抜けない敵はいない。
その言葉を、自分の実力を証明してみせる。
ティアナはその決意を新たに、隊長達の待つ集合場所へと歩いていった。



「それでは、ミッションスタート!」

機動六課の訓練場、仮想廃都市。
なのはの威勢の良い掛け声と共に、八機のガジェット型が活動を開始した。
それらは目の前の敵を即座に認識して戦闘モードに移行すると、青掛かった光線を放つ。
スネークは即座に跳躍して完璧な側転を披露し、瓦礫の陰に飛び込んだ。
スネークの隠れる瓦礫を襲う猛射の嵐。
空気が切り裂かれ、衝撃の強さが瓦礫越しに伝わる。
初っ端から容赦が無いな、とスネークは眉をひそめる。
ここでじっとしていてもやられるだけだろう。
スネークはFAMASと呼ばれるアサルトライフルの弾倉が装填されている事を確認すると、チャフグレネードのピンを抜いた。
無数の金属片をばらまいてレーダーを撹乱させるそれをガジェットの群れに投げ付け――数秒の後、爆発。
スネークは別の隠れ場所に向かって飛び出しつつ、混乱してダンスを踊るかのように動き回るガジェット達にFAMASの弾丸を叩き込んだ。

そのアサルトライフルはブルパップ式と呼ばれる仕様を採用している。
通常のアサルトライフルは弾倉をセットする機関部を引き金とグリップの前方に付けているのだが、それを後方に付ける事で銃の全長を縮め、取り回しがより効くようにするのだ。
その機構はスネークの肩に大きな反動を残す短所も抱えているが、同時にFAMASが放つ渇いた音はガジェットを正確に打ち抜いて爆発音を響かせる。
初めて手にした時は反動の大きさに慣れず使い辛さを感じたものだが、「慣れ」に助けられた。
今ではその反動が頼もしく思える程まで使いこなしている。
スネークが廃ビルの中へと駈け込んだと同時に、チャフの効果が切れたのかガジェット達が見失ったスネークを再び探し始めた。
スネークは一息入れながら空になった弾倉を取り替える。
ああ、タバコが吸いたい。
訓練の時は吸ってはいけない、等となのはは一方的な言葉をスネークに浴びせると、そのままライターを奪ってしまったのだ。
迫力があったその姿を思い出し、意外と尻にしかれるのだろうな、とユーノに僅かだが同情する。
緊迫した状況の中、どっしりと構えながら吸うタバコ。
紫煙が肺を満たし、それをゆっくりと吐き出す瞬間。
実に、素晴らしい。
それを思い浮べるとやはり口が淋しくなってしまい、遂にスネークは火の点いていないタバコをくわえてしまう。
もうすっかりニコチン中毒だ。
俺が死ぬ時はタバコの箱を大事に抱えているに違いないな、と苦笑を漏らす。

『スネークさん、後四機ですよ。頑張って下さい』
『了解』

残り半分か。
スネークはなのはの念話に一言返事を返して、ガジェットの群れを隙間から覗く。
さっさと終わらせてタバコを吸う事にしよう、とスネークは決意した。
空の弾倉を掴むと、スネークがいる廃ビルとは反対の方向へそれを思い切り投擲。
からん、という音にガジェットが一斉に振り向く。
ガジェット達の真上に感嘆符が見えた気がしたが、とにかくスネークに背中を曝け出す形となった。
スネークはニヤッと笑うとすかさず飛び出し、そのチャンスを一秒も無駄にする事無くガジェット達にFAMASの銃弾を叩き込んだ。
辺り一帯に走る爆発の光。
ガジェットの最後の哀れな一機も、仲間がやられながらもスネークに一矢報いようと藻掻くが、数瞬後には鉄クズと化していた。
ガジェットの残骸が煙を上げ、同時に様子を見ていたなのはが降りてくる。

「お疲れ様です、スネークさん」
「ああ。……悪いな、そっちの時間を割かせて」
「いえ、全然大丈夫ですよ。……それより、なかなか良い感じじゃないですか? 全機破壊までもっと時間が掛かると思ってました」
「……いや、はっきり良いとも言えない」

言葉を濁すスネークの様子を感じ取ったのか、なのはもやんわりと口を開く。

「まぁ、空戦が不利なのは否めないですけど……」

その通りである。
そもそもスネークは空を飛べやしないし、スバルやティアナのような面白い移動手段も持ち合わせてはいない。
FAMASの5.56ミリ弾丸も小型のガジェット型だから打ち抜けるものの、大型の型には辛いものがあるだろう。
ガジェットのAIがより賢くなっていけば、先程の戦闘のように都合良く事が運ばなくなっていく事態も容易に予想出来る。

「……スティンガーの許可が下りればな」

破壊力がダントツに高い地対空ミサイルのスティンガーに、上層部は顔を渋くさせたのだ。
許可があれば使えるとは言っても、やはり「比較的クリーンで安全な魔法文化」を推奨している世界なら仕方ないのかもしれない。
ちなみに、爆発と同時に直径1.2ミリの鋼鉄球を700個、60度の角度で撒き散らすクレイモア地雷も、余りにえげつない兵器で非人道的だという事で許可は下りなかった。
クレイモアはともかく、スティンガーに関してはなんとかして欲しいものである。
その攻撃力の高さは武装ヘリを落とし、悪魔の兵器メタルギアREXを破壊し、時には気高いカラスをも撃ち落とせる程頼れる兵器なのだ。
ジトリ、と冗談味を混じらせた非難の視線を投げ掛けると、なのはが慌てた様子で手を振ってみせた。

「わ、私にそれを言われましてもっ!? それに、ユーノ君だってまだ頑張って上層部へ掛け合ってくれてるんですから……」

彼女の言っている事も確かである。
義憤に駆られて立ち上がった民間協力者、等と言った所で無限書庫司書長という立場のユーノがいなかったら、スティンガーどころか拳銃さえ握っていられなかっただろう。

「冗談だ、あいつにも感謝はしている」
「そうですよ。ユーノ君、やる気満々なんだけど、凄く忙しそうですし。……疲れが溜まってないと良いんですけど」

少しばかり表情に影が差すなのはに、スネークはニヤリと不適に笑った。
その瞳は、新しいおもちゃを手に入れた子供のそれで。
――髭を撫で、それはもうわざとらしく嘆きの声を上げる。

「ああ、本当に申し訳無く思うよ。君達の貴重な、いちゃつく時間を割かせているのだからな」

魔法の言葉、とはよく言ったものだ。
凛々しさと強さを兼揃えた不屈のエースが、十九歳の少女へと戻る。
熟れた林檎のように、なのはの顔は真っ赤に染まった。

「な、ななな、何言ってるんですか! からかわないで下さいっ!」
「ハハ、照れる事は無い。甘くとろけるような恋も良いじゃないか?」
「あ、あうぅ……あ、ほ、ほら! 次はスターズの二人との模擬戦ですからっ!」

ほらほら、と赤い顔のままスネークの背中を押すなのは。
誤魔化すのは下手らしい。
なのはは大きく咳払いをすると、頬に赤みを残しつつも隊長の風格を取り戻し、スバルとティアナを呼ぶ。
スネークは意気揚揚と廃ビルから降りてくるティアナと擦れ違い様に目が合った。
それは敵意か憎悪か、強がりか。
ともかく良い感情ではないそれに睨まれ、随分と嫌われたものだな、と残念に思った。
五年待てばなかなかの美人になりそうなのだが。
なのはとの模擬戦で、スネークが否定した接近戦に挑むつもりなのだろうか?
胸をよぎる悪寒を気にしない事にして、スネークは観客席へゆっくりと歩み始めた。
スネークが目の当たりにした模擬戦は余りになおざりな物だった。
本来の役割を放棄したティアナはスバルを囮になのはに接近戦を挑むが、素手で受け止められ。
部下の異常な行動に、年相応の明るく優しい笑顔を持っていたなのはも当惑や悲痛、怒りを入り混ぜた暗い表情を浮かべる。
もう誰も失いたくないから、もう誰も傷つけたくないから――
――強くなりたい。
そう言って感情を爆発させたティアナは、失意に沈むなのはにあっさりと撃ち落とされた。

匍匐体勢。
スネークはゆっくりと息を吐いて、狙撃銃PSG-1のスコープを覗いた。
スコープ内の十字線の中央が、スネークのいる場所から数百メートル程離れた所を捉える。
夕焼けの中でも、スネークがマーキングした黒点ははっきりと見えていた。
スネークは僅かな手ブレすらも許さずに引き金を引くが、弾丸の着弾点は黒点から大きく右に逸れる。
思わずこぼれる溜め息。
やはり管理局に預けられている際に、誰かがスコープを弄ったらしい。
せっかく狙撃の達人が直接調整していた代物なのにだ。
くそったれ、と悪態をつきながら目測での調整・試射を地道に繰り返す。
ようやく黒点に寸分違わず命中し、強張った筋肉をほぐそうと立ち上がったスネークに声が掛かった。

「スネークさん!」

振り返れば、何かが弧を描いて飛来してくる。
反射的にそれを掴むと、手慣れた感触。
声の主、なのはが薄く笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。

「ライター、まだ返してませんでした」
「……そうだったな」

先程の出来事からすっかり失念していた。
ライターの腹を撫でながら懐からタバコを取り出し、火を点ける。

「……狙撃銃の調整、大変そうですね」
「気温や気圧の違いですら誤差が生じるからな」

だからそもそも照準がずれていたら話にならん、と付け加える。
だが、難しい調整でもスネークにとっては重要な武器であることに違いはない。

「こいつは俺にとって、君達で言う長距離砲撃に当たる。……念入りにやらないといけない」

そうですか、と微笑むなのは。

「……それで、俺に何の用だ? ライターだけじゃないだろう」

切り出すスネークに、俯いて口を閉ざすなのは。
流れる、沈黙。
それはしばらくの間続き、ようやくなのはが口を開いた。

「私の教導は間違っていたんでしょうか……?」
「……ティアナか」

やはり模擬戦での出来事を引っ張っているようだ。
気持ち良く一服した所で携帯灰皿に吸い殻を押し込める。
なのはは普段では見れない沈痛な表情で頷いた。

「……はい。色々と悩んでいたのは知っていたのに、もっとティアナの心に関して気に掛けて上げれば……」
「心・技・体。この中で教える事が出来るのは技術だけだ。精神に関しては自分で習得するしかない」
いつの時代も、どの世界でも、それは変わらない。
なのはの顔が歪んだ。

「じゃあ、私は技術だけを伝えろとっ……!?」

詰め寄るなのはに首を振る。
技術も大切だが、最も大事なのは精神だ。
心と体は密接に繋がっている。
精神を教える事は出来ないが――

「――それでも、きっかけは与える事は出来る」
「きっ、かけ……?」

精神を構築させていく為のきっかけ。
スネークのその言葉に、なのはは口を閉ざす。

「ティアナは自分の事を凡人だと言っていた。……色々と、周りには相談出来なかったのだろう」

彼女は卑屈になり、それによって何もかも見失っていた。
スネークの予測になのはが申し訳なさそうに唸る。
そう意識させないように努めていたのだが、と。

「新米兵士にとって上官はやはり、特別な存在だ。過ちのきっかけを与えないように腹を割って話し合う事だな」
「……そうですよね。……そんな当たり前の事すら今まで私は――」

落ち込むなのはに、スネークは手を突き出して言葉を遮った。
全く以て、世話が焼ける。

「後悔するよりも反省する事だ。後悔し続けた所で、それは何も生み出しはしない」
「……! ……はい、分かりました。ティアナが目を覚ましたら、ちゃんとお話します」

エースオブエースの顔に明るさが甦ってくる。
――まるでカウンセラーだ。
スネークは自身をそう感じた。
勿論今までそんな経験は無いし、むしろ苦手分野だと思っていたのだが何時の間にか、皮肉にもそれ紛いの事をしている。
ありがとうございました、と頭を下げて立ち去るなのはを一瞥し、スネークは再びタバコを取り出した。


「……それで君か、ティアナ」

機動六課のロビー。
スネークが携帯灰皿を満腹にさせる位にタバコを楽しんだ頃、ティアナが目の前に現れた。
溜め息と共に目蓋を揉む。
ここの連中はもしかしたら俺の事を相談員か何かと誤解しているんじゃないのか?
そんな切ない疑問をスネークが抱こうとして、物凄い勢いでティアナが頭を下げる。

「申し訳ありませんでしたっ!」

続いてロビー中に響く謝罪の言葉。
至近距離での突然の爆音に、スネークの耳が悲鳴を上げた。
思わずタバコを取り落としそうになって、なんとかそれを堪える。

「……今まで失礼な態度をとってしまって、本当にすいませんでしたっ!」
「なのはと話し合ったのか」

顔を上げて頷くティアナ。
赤らんだ瞳、それでいてどこか吹っ切れた様子。
なのはは上手くやれたようだ。

「……スネークさんの、言った通りでした」
「……基礎をじっくりとやる、なのはの教導の意味か?」
「そ、それもあるんですけどっ……その、『劣等感と自己嫌悪を解消するためここにいるのか』って」

スネークは甘えるな、と喝を入れた日を思い出す。
ティアナは俯き加減に話し始めた。
管理局員だったティアナの兄、ティーダ・ランスターの事。
殉職した兄の夢を継ぐ為。
そして、ランスターは負け犬ではないと証明する為に、ティアナも局員になった事。

「思い返せば私、勝手に周りと才能を比べて勝手に落ち込んだりムキになって……本当にスネークさんの言っている通りだったと思います」
「……それで? 今はどうなんだ?」

シャドーモセスでオタコン達がそう問いかけてきた時のように穏やかな声で、今度はスネークが問う。

「執務官になるっていうのはやっぱり、私にとって意地とかちょっとした憧れじゃない、ちゃんとした夢です!」

ここ最近見られなかった晴れやかな表情を浮かべて決意表明するティアナ。
そうか、と微笑む。
やはり美人には笑顔が良く似合うな、とスネークは感心。
同時に、五年後を見たいという欲求も再び湧いてきた。

「だから……」
「だから?」

少しだけ顔を赤らめ、呟くティアナ。

「私に、射撃型としての経験や戦いのコツ、教えて下さい!」
「断る。なのはの教導で十分じゃないか」

即答。
そんな面倒臭い事はごめんだ、と拒絶する。
そもそもスネークは、物を教えるのは苦手なのだ。
けれども、さすがなのはの教え子というべきか、ティアナからは諦める様子が微塵も感じられない。
正に不屈の精神。

「スネークさんの経験は私にとっても凄く役立つと思うんです!」
「またなのはに無断で勝手な事をしたら――」
「なのはさんも推奨していました。お願いします!」

余計な事を、と内心で盛大に毒付く。
周りから振り回され続ける事の多いこの人生は、スネークを休ませるつもりはこれっぽっちも無いらしい。

「あいつめ……とにかく、嫌だ」
「スネークさん!」
「絶対に嫌だ!」

終わらない押し問答をたっぷり十分間。
スネークは頭を縦に振る事しか出来なかった。

「ありがとうございますスネークさん、快諾してもらえて感激です!」

何をぬけぬけと。
ぱぁっ、と表情に明るさを咲かせるティアナに、げんなりしつつ文句を言おうとするが、警報がそれを阻害する。

「!! しまった!」

警報音と共に、スネークに容赦無く突き刺さる赤い警報灯の光。
そこかしこに現れるALERTの文字によって、緊迫感が満ちてくる。
慌ててSOCOMピストルを取出し、数十秒後にはぞくぞくとロビーに傾れ込んでくるであろう敵兵への準備を整える。
ソファーの陰に身を隠すスネークにティアナが怒鳴った。

「スネークさんっ何してるんですか、出動ですよ!」
「え? あ、あぁ……」

今まで、警報音に反応して逃げたり隠れたりが常だったので、自然と体が反応してしまった。
スネークは自身の情けない行動を恥じると共に、今までの事を振り返って嘆息する。

「……大丈夫ですか?」
「何でもない。……それより、君はもう大丈夫なのか?」

誤魔化すように問い返す。
なのはに撃墜され先程目を覚ましたばかりなのか、やはり疲れも滲ませている。
しかしティアナは、問題ないと言わんばかりに力強く胸を叩いてみせた。

「大丈夫です!」

スネークはティアナに瞳を覗いた。
そこからは、意地や気負いはいささかも感じれない。

「……よし、なら行くか」
「はい!」

まだまだ甘い所もあるだろうが、少しばかり頼れるような目付きになっている。
スネークはそんなティアナと共に駆け出した。



ジェイル・スカリエッティのアジト。
モニター上ではガジェット型が踊るかのように、鮮やかな飛行を続ける。
スカリエッティがそれに視線をやっていると、新たなモニターが表示される。

「やぁ、ルーテシア。君から連絡してくるなんて嬉しいよ」
「……遠くの空にドクターのおもちゃが飛んでるみたいだけど、レリック?」

モニターに映るルーテシアという名の少女の言葉に、スカリエッティはくつくつと笑う。

「だったら、まず君に連絡しているさ……おもちゃが破壊されるまでのデータが欲しくてね」
「……壊されちゃうの?」
「私の作品達がより輝くように、『デコイ』として使うガラクタさ」

少女の顔には表情が感じれない。
声にも抑揚は無く、それが逆にスカリエッティの笑みをより深めさせる。

「レリックじゃないなら私には関係ないけど……頑張ってね、ドクター」
「ああ、ありがとう。優しい、優しいルーテシア」

ごきげんよう、と幼い声が響き、モニターが閉じられる。
スカリエッティは緩む頬を抑えようともせず、機動六課にいるであろう男に思いを馳せる。

「そう。君と同じさ、スネーク君。多くの物を犠牲に作り出される、最高の作品! ……待っていてくれたまえ」

ウーノ、と呟くと同時にモニターが現れる。

「ウーノ。私は『アレ』の作業に戻るよ、こっちの方を頼む。データが取れ次第送ってくれ」

了解しました、と間を空けずに返ってくる了承の言葉を聞いて、スカリエッティはそこから立ち去った。


おまけ
機動六課の休憩所は、今日も賑わっていた。
そこの一角のテーブル、自由待機の新人四人とたまたま同席したスネークも同様だ。
歳の離れたスネークがいても、話し辛い、気不味い雰囲気はそこに無い。
最年少のエリオとキャロ曰く、理由は分からないが話しやすい、との事。
そんな中、ふとティアナが疑問の声を上げた。

「そういえばスネークさん、弾薬の補充とかどうしてるんですか?」
「……何?」
「いえ、いつもどこからか持っていますよね? 何故――」

ティアナが言い切る前に、それを遮る。

「――ティアナ。……細かい事を気にしてはいけない」
「! りょ、了解しました!!」

ビシィッと敬礼するティアナ。
スネークは、それでいい、とバンダナを撫でながら頷いた。
続いて、そのやり取りを見てしばらくの間笑っていた新人達の中、赤髪の少年エリオが声を上げる。

「あの、僕も気になってた事があるんですけど」
「言ってみろ」
「スネークさん、いつもタバコ吸ってますけど……タバコって、害があると分かっていても吸いたくなる程美味しいんですか?」

子供らしい質問に、スネークはニヤリとする。
よしきた、とスネークがタバコの魅力を精一杯伝えようとすると、フェイトから念話が飛んできた。

『エリオに変な事吹き込んだら、タダでは済みませんよ?』

少し離れたテーブルでなのはと談笑しているフェイトと視線が合う。
優しい表情、そして穏やかな瞳の先に黒い何かが見えた気がして、鳥肌。
彼女はすぐに視線を逸らすと、何事も無かったかのように談笑を再開した。

「……まぁ、体に悪い事は確かだな。だが、吸うだけがタバコではない。分かるか?」

スネークの言葉の意味が分からないのか、首を傾げる新人達。
タバコに存在価値に、吸う以外のものが思い当たらないようだ。

「……発想が貧困だぞ。任務では限られた装備を最大限に活用し、臨機応変に使いこなさなければいけない」
「臨機、応変」
「例えば、赤外線センサーを見る時にもタバコの煙は使えるし――」

思い出すのは、十年前の事。

「――タイムが2000増えたお陰で任務失敗(ゲームオーバー)せずに済んだ」
「たい、む? 2000?」
「ハハ、気にするな」

よく分からない、といった顔のスバルやエリオ、キャロ。
勉強になります、と一人感動して聞き入っているティアナ。
スネークも思わず苦笑してしまう。

「……よくわからないですけど、スネークさんにとって凄く大事な物だって事は分かりました」
「まぁ、それで良い」

そう話すエリオに、キャロも賛同の頷きをする。
スバルが身を乗り出してくる。

「ほんと、タバコの無いスネークさんなんて想像出来ないです! 後、子供の頃もですねっ」
「……俺だってガキの頃はあった。普通に駆け回って遊んでたぞ」

その時について色々教えて下さい、と興味津々に詰め寄る新人達。
まるでエサをねだる雛鳥のようだ。
スネークは自分の出自を思い返して少しだけ気分が沈むが、数十年前を思い出して懐かしむ。

「……子供の頃一番好きだった遊びはかくれんぼ。嫌いだった遊びは――やはりかくれんぼだな」

まさかの矛盾。
戸惑う新人達に、スネークは説明をする。

「隠れても、誰も見付けてくれないんだ」
「……成る程、隠れるの得意だったんですねっ?」

スバルが楽しそうに笑う。
しかし、スネークにとっては良い思い出とも言えない。

「五時間程ずっと隠れて待っていた事があってな、それで嫌いになった」

スネークは負けず嫌いな性格の所為で五時間もひたすらに待ち続けた記憶を思い出して、怒りに震える。
あれのお陰で今の忍耐力も付いたのだと、スネークは信じていた。

「……ねぇねぇエリオ君、スネークさんて……」

ちょっと、変だよね。
キャロが隣だけに聞こえるようにそっと囁き、エリオが頷く。
スバルも苦笑。
やはりティアナだけが先ほど同様に、忍耐力が素晴らしい云々と言ってスネークを賛美していた。
穏やかな時間が機動六課に流れていた。


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