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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第一話「始まり」
Name: にぼ◆ad77d98e ID:14d1127d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/19 18:36
アラスカ、フォックス諸島沖。
季節はもうすぐ春になろうか、という時期だが、この地方はまだまだ凍てつくような寒さが続いていた。
少し先の景色さえ見えない程だったブリザードも、夜明け前にはすっかり止んでいる。
凍結した海面に日の光がキラキラと反射して出来上がった、幻想的な風景。
そこに時折聞こえてくるカリブーの鳴き声が、どこか浮き世離れした空間を演出している。
その中を一台のスノーモービルが、けたたましい音と共に駆け抜けていた。

第一話「始まり」

「スネーク、本当に大丈夫?」

スノーモービルに乗っていた女性が心配そうな声を上げる。
背後からの、モーター音に負けない声量にバンダナを揺らす男、ソリッド・スネークは身じろいだ。
同時に、ぴり、と体のそこかしこが鋭い痛みを主張する。
スネークは無表情を通しながら背後にちらりと目をやり、遠くなっていく島を一瞥。
先程まで生死を掛けた死闘を繰り広げていた事を思い出し、小さく溜め息を吐いた。
シャドーモセスと呼ばれるその島に、スネーク達はつい数十分前までいたのだ。
その島で起こった未曾有のテロ事件を解決する為に。
スネーク達の奮闘の結果、テロ組織は壊滅。
リーダーのリキッド・スネークもモセスの土となり、事件は解決となった。

――確かにスネークが負っている数多くの傷も、決して小さくはない。
だがそれ等の痛みよりも苦痛だったのは、精神的なものだった。
この十数時間に渡った事件の全てが夢だったのではないかという錯覚を起こした時、それ等の傷が即座に現実感を提供してくれるのだ。
眩暈を起こしそうな現実が容赦無く降り注いできたのだから、それ等に対して憂鬱にもなってしまうのも仕方がないだろう。
しかし、現実は現実だ。
ひたすら全てから目を逸らし続ける逃避は許されない。
だからこそ、スネークはそれを払い除けるよう無理矢理に声を明るくした。

「大丈夫だメリル、問題無い。 ……それにオタコンの荒運転に任せていたら、こいつも今頃沈んでるだろうさ」

軽い口調で話すスネーク。
メリルはその様子を不安気に見つつも最後には納得したのか、そうね、と笑い声を上げた。
形成される和やかな雰囲気。
直後、槍玉に上げられて不満に露にする男、オタコンの憮然とした声がスネークに降り掛かる。

「ジープの運転なんて初めてだったんだ! あれだけまともに運転出来たんだから十分だろっ?」

――あれがまともだったとは、よく言えたものだ。
身体が吹っ飛ばされかねない荒々しいドリフトを何度も体験した身としては、それを認める訳にはいかない。
オタコンの苦しい自己弁護を否定するように、スネークは笑い続ける。
それが一層彼の機嫌を損ねる事に貢献したらしい。

「くそっ。スネークこそ、うっかりして本当に事故を起こさないでくれよ?」
「ほぅ、今すぐにでも振り落とされたいか? ここから歩きだと、まだまだ長いぞ」
「……そんな事をしたら、君の事を呪ってやるさ」

物騒な言葉を吐くオタコンに、スネークは何か言い返そうと思考する。
勿論、安全運転は続行中だ。
オタコンと初めて会った時の記憶を脳内で倍速再生し――思い出した。
そう。
初めて会ったその時に、ロッカーの中のオタコンは『それ』をやってしまっていたのだ。
スネークは思わず顔がニヤけるのを自覚しながら、それを止めようとはしない。

「呪うって、ロッカーを濡らす勢いでか? フフン、恐ろしいもんだな」
「す、スネーク!」

正に会心の一手。
事実、オタコンの慌てふためく声が悲鳴のように響き渡るのだから痛快だ。

「なぁにスネーク、ロッカーって何の事?」

不適に笑うスネークに興味津々な様子で食い付いてきたのはメリルだ。
当然羞恥に染まるオタコンの顔は、余計に酷くなる事だろう。
恐らくこの先、彼の大きな弱みになる筈だ。

「ああ。初めて会った時――」
「なんでもない、なんでもないよメリル! ……くそ、スネーク、覚えてろよっ」
「ああ、いつまでも、末長くあの時の事は覚えておいてやるから安心しろ」
「そっちは忘れてくれって! ……あ、スネーク、見て!」
「……ああ。見えてきたな」

アリューシャン列島の一部として知られている、フォックス諸島。
ここで救援のヘリが、アラスカの海に沈んで死亡した事になっているスネーク達を待っているはずなのだ。
スネークはようやく安堵の息を漏らした。
心残りや不安な事はまだ残っているが、とりあえずこれで事件は本当の意味での終焉となる。
そして初老の友人、ロイ・キャンベル大佐に対して込み上がってくる、深い感謝の念。
彼は実の娘を人質に取られていて、スネークに隠し事をせざるを得なかった。
スネークもその事に関して、随分と酷い言葉を浴びせてしまったのだ。
互いに無線越しに謝ったものの、指先程の小さなわだかまりは未だ残っているだろう。
それを消化する為にも、今度彼の元にスコッチを持って行こう、とスネークは決意する。
スコッチの、シングルモルトのストレートを氷は入れずに、というのが彼の好み。
きっと美味い酒が飲める筈だ。

そうしてやがて、スネーク達は島へと到着する。
ここまで無事に自分達を運んでくれたスノーモービルとはここでお別れだ。
大佐が用意したヘリのローター音が力強く響き渡り、それに負けじと背中越しから歓喜の声が湧き上がった。
メリルとオタコンは目を輝かせてスノーモービルから飛び降り、弾かれたようにヘリの方向へと走っていく。
スネークも彼らの様子に苦笑しながら、降りようとして――

「む……ぅ……?」

――地面に、崩れ落ちる。

ぐにゃり、と歪む視界。
何が起きた?
世界が崩れていっているのか?
まさか。
必死に手を胸に当てるが感覚が鈍っているのか、そこに感じる事が出来るものは少ない。
それでも自身の心臓が生きている事だけは分かる。
少なくとも、心臓発作ではないようだ。
つまり、血を流しすぎたか。
伝説の英雄、不可能を可能にする男。
そう呼ばれ賞賛されてきたスネークも、やはり人間である事には変わりない。
戦い続ければ疲れ果てるし、体の中を循環する血液が少なくなれば、当然動けなくなる。
メタルギアREX、そして宿敵リキッド・スネークとの戦いを殆ど休み無しで続けてきたのだ。
むしろ、よくここまで持ったというべきか。

ヘリが吐き出す轟音が頭の中で暴れ回り、不快で堪らなかった。
地面が揺れている感覚がするのは、地震か、それとも自分の体の異常か、それすらも分からない。
瞬間、視界を埋め尽くす眩い光に圧倒され、スネークは遂に目を閉じる。
そして、スネークの意識はあっという間に闇に呑み込まれた。



「う、ぐ……うぅ……」

スネークは呻きながら、重い目蓋をゆっくりと持ち上げた。
視界にぼんやりと広がるのは、薄汚れた茶色の天井。
体をゆっくりと起こし、霞を振り払うように頭を何度か振る。
どこかのテントなのだろうか?

その中はなかなか広かった。
スネークがアラスカで隠遁生活をしていた時の住まいと少し似ていて、どこか懐かしさを覚える。
最もテントで過ごしていたのはあまり長い期間ではなく、その後に作った木造の小屋の方が付き合いが長かったのだが。

スネークはゆっくりと周りを見回してみるが、この空間にある物は僅かな生活道具。
そして、見た事も無い薄汚れた骨董品のような小物がいくつも並んでいるだけだった。
顔のような模様の置物。
毒々しい黒紫色で、妙な形をした容器のような物。
これを集めた人間の趣味の悪さが伺える。
黒紫色の小物を手に取ってまじまじと見ても、骨董の知識の無いスネークの心に喜びを生み出す事は出来ない。
当然、扱いも貴重品のそれとは大きく異なり――

――かちゃん。

あ、と思わず声に出した時には、既に小物は地面に吸い込まれた後で。
慌てて手に取ろうとするも、取っ手の部分は見事にポッキリと折れている。

「……ふむ」

まぁいいか、と違う小物の陰に見えないように置いて、忘れ去る。
兵士には思考を瞬時に切り替える判断能力は必須なのだ。
続けて視界をずらしていくと、テントの端に見慣れた物を発見する。

「俺の、装備……?」

見てみるが、荒らされた様子はない。
それどころか、スニーキングスーツを含めた、シャドーモセス潜入時の装備品が揃っている。
それと同時に、未だ倦怠感が残る身体を動かしても痛みが薄い事に気付き、上半身が裸である自身の体を観察。
やはり、シャドーモセス脱出の際リキッドとの銃撃戦で腹部に負った大きめの傷を含めた殆どの怪我が完治していた。
傷の跡が残っているのだから、今までの事は全て夢でした、なんて事は無いだろう。

――ここは、どこなのだろう?

改めてそんな疑問に駆られるが、装備品の中に先折りタバコが紛れているのを発見し、スネークは頬を緩める。
寝起きで上手く体が動かなくても体が覚えているのか、タバコをくわえる動作はいつもとなんら変わりはない。
直接火を付けて吸うタイプのタバコではない、所謂モスレムなのが唯一の不満点か。
やはり直接火を点けるのと、化学反応で着火するタイプのこれとでは味が全然違うのだ。
ともかくスネークが少し喫煙しただけで文句を言ってきた、騒がしい見張り役もいないから気楽に吸えて良い気分である事に違いはない。
肺一杯に紫煙を満たし、それをゆっくり吐き出すと共に、混濁していた意識が鮮明になっていく事を実感する。

「俺は、確か……」

確か、フォックス諸島に着き、スノーモービルから降りた所で意識を失ったはず。
当然、メリル達が助けてくれたのが一番妥当な考えだろう。
しかし、安易な決め付けはいけない。
状況がおかし過ぎるのだ。
あの大きさの傷が治るのには、しばらく時間がかかるはずなのに、既にほぼ完治している。
一体何日もの間、寝ていたのか?
オタコン達は今どこに?
スネークは再び装備品に視線を向ける。
この装備は間違いなく自分の装備だ。
中でもこの如何わしい本は間違いなく、絶対に自分の物であると確証と愛情を持って言える。
だが、そもそもこれがおかしい。
REXを破壊した時、どこかへいってしまったはずの武器・装備品の数々が、なぜ綺麗に纏まった状態でここにあるのか?
わざわざ誰かが回収し、自分の元に?
いや、理由が考えられない。
武器をそのまま側に置いておくというのは、スネークが武装していても何ら問題は無い、つまりスネークが暴れてもすぐに鎮圧・対処出来るという自信の表れなのだろうか?
さすがに、銃火器という存在すら知らない先住民族が助けたなんて事は無いだろう。
様々な疑問がスネークの頭の中を駆け巡り、そのどれもが消化されない事に少しだけ苛立ちを覚える。

「……くそ」

毒付くその言葉さえ、どこか弱々しいかった。
とにかく、このままじっとしていてもしょうがないだろう。
ひとまず様子を探る為、スネークは名残惜しそうにタバコの火を消し、装備を整えた。
身につけるスニーキングスーツは体を程良く締め付け、自然と気も引き締まる。
少し汗臭いのは、男の勲章という事にしておこう。
最初の頃は、きつい、と苦言を呈していたのだが、もはや違和感も感じられないのだから複雑な心境だ。
愛着があるバンダナを付ける事も忘れはしない。
最後にM9――殺傷能力の無い麻酔銃――に弾を装填し、スネークはそれを構えながら出口へとゆっくり足を進めた。
高鳴る心臓を静めるように深呼吸。
出口の隙間越しに得られる情報はあまりに少なく、精々雑草が目に付く位だ。
息を殺し、気配を絶ち――飛び出る。

「……此処は」

外に出たスネークの視界に飛び込んできたのは、沈みかけた太陽が作り出す情熱的な赤色で彩られた夕焼けと、ひたすらに森、森、森。
拍子抜けする程空気が澄んでいて、思わず深呼吸をしたい衝動に駆られる。
勿論飛び出してきたスネークを待ち構える、槍で武装した原住民達もいる筈が無い。

どうやらこのテントは森林地帯の中、少し開けた平地にあるようだ。
しかし、車両が通れるような、整備されたような道はどこにも見当たらない。
スネークは開けた場所に呆然と立つ行為にむず痒さを覚え、手頃な木陰に身を落ち着けた。
悲しいかな、一種の職業病だ。
ともかく、オタコン達が自分を救助した可能性がさらに低くなってしまった。
頭を抱えたい事実だ。
少なくとも、自分を助けた人間が直接的な害意を持っていない事が唯一の救いか。

「だとすれば……」

警戒しつつ思考を巡らせて、思い当たる節は一つ。
スネークの事を知っていて、何かまた下らない事をさせる、とかなのだろう。

伝説の男、ソリッド・スネーク。
アウターヘブン蜂起、そしてザンジバーランド騒乱を解決へと導き、世界を核の脅威から救った英雄。
そんな訳で本人としては嫌気が差すのだが、スネークは傭兵や軍関係者の間、いわゆる「裏の世界」ではちょっとした有名人だ。
その経歴に目を付け、有効活用したがる輩も多少なりともいるのだろう。
では、それは誰なのか。
スノーモービルから崩れ落ちたスネークをオタコン達が気付くよりも早く誘拐した、という事実。
それはつまり、犯人はシャドーモセス事件の詳細に精通している人間だ。
少なくとも、アラスカで隠遁生活を送っていたスネークが、事件解決の為に再び召喚された事実を知っている事になる。
もし米軍だったとしたならば、政府にとって好ましくない情報の塊であるスネークは既に殺されているだろう。

「とすると……ゴルルコビッチ?」

シャドーモセス事件でテロ組織に合流する予定だった、旧ソ連の残党集団が候補に上がる。
が、しかし、彼らがスネークをこのように放置しておくとも思えない。

――ダメだ、状況がさっぱり分からない。
手がかりが少なすぎて話にならなかった。
スネークが現状に辟易しつつ、全く堪ったものではないな、と小さく呟いた時。

「――っ!」

背中にザラリとした感触が伝わった。
鳥肌が立ち、後ろからよろしくない何かを感じる。
第六感が脳内に鳴らすアラーム。
これは危険だ、避けろ!

スネークは自らの本能に従うまま、素早く横に飛びのき、それを回避した。
結果、スネークが立っていた場所をその『何か』が勢い良く通り過ぎる。
銃声は無い。
しかしそれは、スネークの命を刈り出す銀色の刃でも、体を貫く弓矢ですらなかった。

「――うおっ!?」

きっちり避けた筈のスネークに再び迫るのは、淡い緑色の光を放つ鎖。
まるで猟犬の意志を持ったかのように追い詰めるそれは、スネークをあっという間に捕らえてしまった。
その鎖は捕まえた片腕からもう片方の腕へと結びつき、本人の意志を無視して磁石のように互いに引き寄せる。
刹那、抵抗する間もなく見事な手錠が完成。
同様に両足も縛られて、スネークは気付けば銃は取り落とし、身動きも取れなくなっていた。
当然バランスも崩し、地面に転がってしまう。

「ぐっ……これは、一体?」
「んふふふ……決まった」

情けなくもミノムシのように這いずりながら、声のする方へ顔を上げる。
そこにいたのはオタコンでも、メリルでもない見知らぬ顔の男だった。
中性的な顔つき。
ハニーブロンドで、緑のリボンで纏めている長髪。
ずれた眼鏡の奥に光る翡翠の瞳。
その姿は、どこかオタコンと似た雰囲気を放っている。
いや、薄汚れた上着を纏っているがまだ若く、男というよりは青年と言った方が良いだろう。
青年のしてやったり、という得意気な顔にスネークは苛立ち、大きな溜め息を吐いた。

「……お前は?」
「貴方を助けた人間ですよ」

助けた、という言葉にスネークは身じろぎし、青年に皮肉を込めて笑いながら言い返す。

「助けた? 面白いジョークだな、俺は今お前に縛られているぞ」

ごろごろ、と浅ましくも見せ付けるように藻掻いてみせるが、青年の笑みは崩れない。

「テントに戻って来たら、助けた人間が武器を構えて出歩いているんですよ? いやぁ、そのまま出ていって撃たれたら堪りません」
「……ふむ」

スネークは誰彼構わず発砲するような、落ち着きの無い単純・軟弱・石頭の三拍子が揃った兵士ではない、と自認している。
しかしこの異常な事態に警戒するなと言う方がどうかしているだろう。
相手に聞こえるよう、もう一つ大きく溜め息を吐き、不満を込めた視線を青年に送る。
このまま勢い良く転がっていって、青年を転ばせてやりたい気分だ。

「なら、俺の装備品を傍に置いて放置したお前は相当狂ってるんだろうな」
「知らない場所で目を覚まして、おまけに身ぐるみを全部剥がされてたら余計に悲しくなるでしょう?」

――成る程。
つまり彼は、スネークへの害意が無い事をアピールしたかったらしい。
しかしその結果、スネークがこのような形で転がっている事を考慮すれば、その考えが甘かった事は間違いない。

「残念なことに、そういうのには慣れてる」
「な、慣れてるって……」

目を丸くして驚いている青年を尻目に、シャドーモセスでの電撃拷問を思い出して、大きく身震い。
あれも二度とやられたくないトラウマの一つになりつつある。
スネークは青年にちらりと視線をやって、嘆息する。

「……男に看病されるよりは、美人に手厚く看病してもらいたかったな」
「うわっ。……あー、僕もちょうど今、貴方を助けた事を後悔し始めた所ですよ」

先程までの笑みはどこにいったのか、青年の顔には呆れの色が強い。
その瞳に敵意は感じられなかった。
スネークはジョークだ、と吐き捨てて真剣な眼差しを向ける。

「……残念だが俺には縛られて喜ぶ趣味は無い。お前の趣味はどうだか知らんが、本当に助けてくれたのなら外してくれ」
「ぼ、ぼぼ僕にだってそんな趣味はありませんよっ!」

スネークのからかいに青年は顔を赤くし、パチン、と指を鳴らす。
その瞬間、淡い緑の鎖はシュルシュルと解かれスネークの体を解放し、消え去ってしまった。
その動きはまるで蛇のようで、なんとなく複雑な気分になる。
どんな技術だったのか気になるが、今知りたいのはもっと別の事だ。
かなりの強さで縛られて、未だ痺れが取り切れない手首を擦りながら立ち上がり、青年に問い掛ける。

「お前は、メリルかオタコンの知り合いか? それとも大佐が寄越した救援の人間か?」
「……ふむ。いいえ、恐らく違います。僕はユーノ。貴方は、この森の中で倒れていたんですよ」

森の中、と反芻する。
ずれた眼鏡を直しながら名乗る青年の言葉によって生まれたのは、純粋な疑問だ。
自分が倒れたのは、フォックス諸島沿岸部のはず。
こんな、車両も通れないような森林地帯で倒れた記憶など生憎持ち合わせてはいない。
まさか、オタコン達がこんな所に放り投げてどこかへ行ってしまってなんて事は有り得ないだろう。
『呪うって、ロッカーを濡らす勢いでか? フフン、恐ろしいもんだな』
『……くそ、スネーク、覚えてろよ』

……恐らく。
頭の中を通り過ぎる物騒な可能性を自信無く否定して、ユーノと名乗る青年に再び問い掛ける。

「俺の武器は何故ここに?」
「何故って……倒れている貴方の横に散らばってましたけど。あの量をわざわざ一緒に運んだんです、感謝して下さいね」

何故ここに、無くしたはずの装備一式があるかは結局謎のまま、という事か。
何はともあれ、無いよりはあった方が良い事は確かなのだから、いつまでも気にしても仕方ないだろう。

「ああ、感謝しよう。……それで、ここは一体どこなんだ?」
「ここはミッドチルダ南部の辺境、タルタスの近くですよ」
「ミッドチル、ダ? タルタス? アメリカでは聞かないが……」

耳にするのは、聞き覚えの無い地名。
脳内の記憶を忙しなく漁ったところで、芳しい答えは見付からない。
やはりか、と困ったように頬を掻くユーノの様子を見て、スネークは訝しむ。
ユーノはひとしきり深呼吸すると、スネークを真っすぐ見据えた。
森のざわめきも意識の外に消えて静まり返り、待つべきは目の前の青年の言葉だけ。

「いいですか、落ち着いて聞いて下さいね。ここは、地球ではありません」
「……は?」

一気に言い切られたユーノの言葉に、容易く思考は停止。
スネークの間抜けな声が、辺り一帯にこだました。



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