次元世界の中心、ミッドチルダ。 機動六課宿舎から徒歩5分の場所に、その店はあった。
今、1人の男がその店の前に立ち、ミッドチルダ語と日本語の両方で書かれた看板を見上げながら、ポツリとつぶやいた。
「翠屋ミッドチルダ支店、オリ主のお約束だな」
そう言ってクスリと笑った男は、扉を開けて店内に入る。 扉の上部についている鈴から音が鳴ると、カウンターの中で作業していた青年が顔をあげてこちらを見た。
大人としての若々しさと、少年のあどけなさの両方を併せ持つ青年は、入ってきた男の姿を見た瞬間に満面の笑みを浮かべる。
それに気がついた男も微笑み返すと、腰ほどの高さの人影が近寄ってくる。 金髪で左右の瞳の色が違う少女の案内されて、カウンターの空いている席に座る。
「いらっしゃい、天崎君」
「ああ、久しぶりだな、和真」
出されたコーヒーを一口飲む、ブラックだが苦すぎず、薄すぎず、丁度いい味わいが舌を刺激した。
さらにサービスとして出されたクッキーをかじり、思わず「お、うまいな」感嘆の声を上げた。
「8年のキャリアは伊達じゃないな。 最初は消し炭を作ってたのに」
「なのはが怪我したとき、必死に頑張ったから。 僕は魔法で助けられないから、これくらいは、ね……」
店内を見渡すと、先ほどの少女、高町ヴィヴィオがウェイトレスとして手伝っていた。
テーブル席に今日のランチを運んでいる。 見ていて危なっかしいが、幼いながらも頑張る姿に何となく昔の和真が重なって見えた。
そんなヴィヴィオが料理を運んだテーブルには3人の男が座っていた。
「よーし、ヴィヴィオ、パパって言ってごらん」
「いやいや、パパはこっちだ」
「よこしまな奴らめ。 ママのお兄さんだよ、おじさんって言ってごらん」
「何やってんだお前らは……」
アルス、蒼牙、ディストがヴィヴィオを懐柔しようとしていた。 その様子を見て、同じ席についているジェフリーはため息をつく。
10年たってもなのはとフェイトを諦めていない二人は、ヴィヴィオのパパになろうと必死に頑張っている。 自称フェイトの兄のディストだけはママの兄、叔父になろうとしていた。
当のヴィヴィオはそれを知ってか知らずか、ニコニコと笑いながら純粋な返事をする。
「うん、わかった。 おじちゃん」
「いや、だからね」
「ヴィヴィオ~、あっちのテーブルをお願い」
「は~い、パパ」
和真の支持にしたがって、ヴィヴィオは別のテーブルへお冷を運んでいった。 アルスと蒼牙はがっくりと机にうなだれ、ディストはガッツポーズを取った。
このおじちゃんと、ディストが望むおじちゃんはニュアンスが違う気がするが、本人が満足しているのだからいいのだろう。 ジェフリーは余計な突込みを入れずに、運ばれたコーヒーを楽しむことにした。
別のテーブルでは、水色の髪の少女が注文を受けていた。 リインフォースが生き残ったこの世界でも、トリッパー達の頼みによってはやてはリインⅡを生み出したのだ。
もっとも、機動6課の人数は足りているので、いつもはこちらの手伝いをしているが。
「これ、はやてに渡してくれる?」「カムイさん、ラブレターは自分で渡した方がいいですよ~。 はやてちゃんいつも苦笑いしてます。 脈、無いですよ」
「お父さんってよんでほしい」「ヴォルフさん、寝言は寝てからいってくださいね~」
「……付き合ってください」「だまれこのロリコンが」
「コーヒーとケーキセット」「はいは~い、紫音さんにはサービスしちゃいます。 なんたってお姉さまの命の恩人ですから」
初代リインフォースが消えようとするのを、トリッパー達は必死になって止めた。 大団円にするための最後の鍵をアルバート・グレアムが残していたからだ。
アルバートの持っていた厨二の書は夜天の書のコピー、そしてそのデータは無限書庫で見つけたと言っていた。 つまり、無限書庫を探せば夜天の書の元データが見つかる。 かもしれなかった。
無限の資料がある無限書庫でそのデータを見つけ出すのは、砂漠に落ちた針を探すことよりも難しい。 しかし、リインフォースはギリギリまで待つことを選択する。
そしてデータを発見したのは、管理局に入ったものの結局前線に行くのが嫌で無限書庫勤務を希望した紫音だった。 それがどうやらリインⅡに気に入られたらしく、紫音は翼の嫉妬の視線を受ける日々を送っていた。
「正義の魔導師アーチャー、銀行強盗を捕縛、人質は全員救出。 管理局に入ったらどうだ?」
「それはカッコよくない。 アウトローの方がヒーローっぽいからな」
「ミッドチルダで一番の流行ファッションは腕に包帯、10台前半で大人気、ねぇ」
「ガツガツ、意外なものが、モグモグ、流行るもんだな。 ランチセットお代わり!」
ザップは1人、管理局に入らずに正義の味方をしていた。 その方が厨二病らしく活動できると思っているからだ。 しかし、本人に内緒で嘱託魔導師登録がされていることを彼は知らない。
烈火とファルゲンが読んでいる雑誌のページをめくると、『20年前の闇の書事件、再審請求またも棄却される』という記事があった。 写真にはブラウンが写っている。
ブラウンは闇の書被害者遺族を纏め上げ、裁判の請求をしたり、過激派を押さえたりと忙しくしているらしいが、彼なら道を踏み外したりしないだろう。
これまでの間、リュウセイはずっと食事を続けている。 食べ終わった食器が山のように重なるが、それでも食べるのを止めない。
管理局に入り、本格的に戦うようになってからリュウセイの食事量は一気に増えた。 運動量と関係あるらしいが、スバル・ナカジマと大食い対決をしたときは本気で店が潰れかけ、以来すこしばかり自粛をするようになった。 あくまで、すこしばかりだが。
「お、俺が最後か」
店の入り口が開き、新たな客が入ってくる。 19歳になった鬼道炎である。
刹那の隣に座ると、同じようにコーヒーを飲んでクッキーをつまむ。 その味が気に入ったのか、さらに二つ、三つと手を伸ばしす。
鬼道が席についてしばらくたつと、店の隅に置いてあるテレビでニュースが始まった。 女性レポーターがマイクを持ち、画面にアップで映し出された。
『ここ管理局地上本部では、公開意見陳述会が開始されました。 8年前の大改革以来、積極的に新しいことに挑戦し、成功を収めてきた時空管理局。 その先陣を切るレジアス・ゲイズ中将への期待は今回も大きく――あれ? なんですか? 攻撃です! 地上本部が何者かの攻撃を受けています!』
「はじまったか」
「ああ、やるとしたら絶対このタイミングだろうな」
「予想できた事態だ。 準備も万全!」
コーヒーを飲み終えると同時に、彼らはデバイスを起動して一斉にシールドを張る。
その直後、窓ガラスを破って店内に投げ込まれるピンポン玉ほどの玉。 中には『爆』という文字が浮かび上がっていた。
その玉が強い光を放つと、爆発が起き、炎が暴れ周り、翠屋ミッドチルダ支店は一瞬にして瓦礫の山となった。
「くっくっくっく、ヒャーッハッハッハッハ! 不思議なもんだなぁ! 二度と読まないと思うクソSSほど、更新されたら読んじまうぜ、ヒャッハァ!」
そして瓦礫の前に降り立つ、最凶のチートトリッパー、アルバート・グレアム。 彼の高笑いが響く中、瓦礫の山が吹き飛び、中から17の人影が現れた。
真塚和真、ヴィヴィオ、リインⅡを守るように囲む14人のトリッパー。 彼らの活躍で中心の3人には傷一つ付いていない。
「文殊か、厄介な能力を身に付けやがって」
「この分だともう2~3個は新ネタを覚えていると考えた方がいいな」
「手に入れたのはネタだけじゃないぜ! 60人のダーク好きアンチ管理局トリッパー、130人の俺特製戦闘機人、そして2300体の俺のオリジナルガジェット! それをまとめるのは、よく分からない封印が解けて聖王として覚醒したこの俺! アルバート・グレアムだヒャッハァ!」
大声で戦力自慢をするアルバート、しかしトリッパー達は慌てない。 むしろ余裕の表情で聞いていた。
その様子が気に入らないアルバート、笑うのを止めて機嫌が悪そうな顔をする。
それを見た刹那が手を上げると、次々と新たな人影が現れた。 14人のトリッパーを合わせるとその数は丁度100。
「甘いな、戦力を増強したのはお前だけじゃない!」
「なにぃ!」
「公開意見陳述会の警備をサボってこっちに来た機動6課!」
「さあ! 気合入れていくで!」
「和真くん、必ず守るからね」
「あなただけは、必ず捕まえる!」
「よく分からんうちに管理局がまともになって、改心していつの間にか和真と知り合っていたスカリエッティ一味!」
「てんちょーは守るっす、ここのケーキ食べれないの嫌っすから」
「店長からケーキの作り方教えてもらうの、そしてドクターに!」
「糖分は脳の働きを活性化するのでね。 この店が無くなるのは困るんだ。 ……もう無くなっているが」
「10年前もお世話になり、今も数が増えている管理局トリッパーのみなさん!」
「いくぞ、みんな!」
『おおおおおおお!』
「何故か10年たっても小さいままのシロ、そして10匹を超えるアルフとシロの子供達!」
「ぐるるるるるる!」
「ウォーン!」
「アタシとシロさんの愛の力で、アンタなんか食いちぎってやるよ!」
アルバートの軍団と、和真を中心とする軍団がにらみ合う。
一触即発の空気の中、沈黙を破ったのはやはりアルバートの笑い声だった。
「ヒャッハァ! やっぱりそうこなくちゃ面白くない。 Sts終了後のオリジナルストーリーはダーク系だぜ!」
「させるか! 真塚和真の友達100人、俺達は絶対に負けない!」
「そいつは期待ができるな、さあ――」
「お祭り(カーニバル)は続くぞ! ヒャッハァ!」
第97管理外世界、地球。 日本、○○県海鳴市。
座土マナミはふと空を見上げた。 何があるというわけでもない、青い空が広がっているだけだ。
思い出すのは、別世界へと旅立っていった生徒達。 彼らと過ごした日々は、彼らが卒業してからも、一日たりとも忘れたことは無い。
時々連絡は来るが、やはりたまには実際に会いたいと考えてしまう。 もっとも、あのアクの強い男子達に毎日会えば疲労が溜まってしまう事は6年間でよく理解しているが。
「あ、せんせいだ」
「せんせ~」
公園の前を通りかかると、遊んでいた子供達が近寄ってくる。 彼らは今年入学したばかり、マナミは再び一年生の担任になっていた。
10年前のような異常な子供達ではない、何処にでもいる普通の子供達。 しかし、それが何となく物足りないように思えてしまう辺り、マナミも彼らに影響されていたのだろう。
そんな子供達がマナミの周りに集まって取り囲んだ。 そして服を引っ張り、公園においてるベンチにマナミを座らせ、子供達自身は地面に直接座った。
「せんせー、お話して」
「この間のHRで話してくれたの、もう一度聞きたい!」
その言葉で、マナミは子供達が何を求めているかを理解する。 それは、彼女が新しい子供達の担任になると必ず話す物語だった。
マナミは微笑んで、話を始める。
「それは、不屈の心を持つ子供達の物語。 まるでお祭り(カーニバル)みたいに楽しく、騒がしく、きらびやかな物語。 先生がその15人の男の子を初めて見たとき――」
完