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No.6363の一覧
[0] トリッパーズ・カーニバル(主人公以外の男子全員~【真・完結】 [ark](2009/09/18 07:06)
[1] いち[ark](2010/04/28 22:56)
[2] にわめ[ark](2009/02/20 20:16)
[3] さーん[ark](2009/02/07 02:21)
[4] しー[ark](2009/02/07 20:52)
[5] ごー[ark](2009/02/13 00:14)
[6] ろっく[ark](2009/02/10 02:42)
[7] なな[ark](2009/02/10 02:49)
[8] はち[ark](2009/02/13 00:14)
[9] [ark](2009/02/13 00:15)
[10] じゅー[ark](2009/02/13 23:42)
[11] じゅーいち[ark](2009/02/19 14:08)
[12] じゅうに[ark](2009/04/11 20:03)
[13] じゅうさん[ark](2009/04/11 20:04)
[14] じゅうし[ark](2009/05/04 21:01)
[15] じゅうご[ark](2009/05/04 21:01)
[16] じゅうろく[ark](2009/05/04 21:02)
[17] じゅうなな[ark](2009/05/04 21:02)
[18] いちぶ、かん[ark](2009/05/14 22:39)
[19] じゅうく! 第二部開始[ark](2009/06/21 14:21)
[20] にじゅー[ark](2009/06/21 14:22)
[21] にじゅう……いち![ark](2009/06/21 14:22)
[22] にじゅーに[ark](2009/06/21 14:22)
[23] にじゅうさん[ark](2009/06/21 14:19)
[24] にじゅうよん[ark](2009/06/21 14:19)
[25] にじゅうごー![ark](2009/06/21 19:33)
[26] にじゅうろっく[ark](2009/07/29 19:50)
[27] にじゅうなーな[ark](2009/07/29 19:51)
[28] にじゅーはっち[ark](2009/08/06 23:04)
[29] にじゅうく~[ark](2009/08/06 23:05)
[30] さんじゅー[ark](2009/08/06 23:06)
[31] さいご![ark](2009/08/06 23:07)
[32] せってい[ark](2009/08/06 23:13)
[33] がいでん[ark](2009/02/28 11:53)
[34] 外伝2 高町恭也(仮)の自業自得[ark](2009/06/12 22:36)
[35] 外伝3 不幸なトリッパーが手に入れた小さな幸せ[ark](2009/07/29 20:34)
[36] おまけその1、本編or外伝で使わなかったボツネタ[ark](2009/09/15 18:23)
[37] おまけ2、最終回のボツネタ[ark](2009/09/15 18:24)
[38] おまけ3、次回作のボツネタ、ちょっとだけクロス注意[ark](2009/09/18 07:05)
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[6363] さんじゅー
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/06 23:06
 アルバート・グレアム、ギル・グレアムの孫にしてトリッパー、今まで事態を静観していた彼は、最後の最後にとんでもない介入をしてきた。
 世界を滅ぼしうる闇の書の闇をこちらの攻撃から守ったのだ。 そんなことをしても、いったいどんなメリットがあるのか分からない。

「答えろ、アルバート・グレアム! 世界の未来を知るトリッパーがいったい何をしようとしている!」
「トリッパーがやることなんて、決まっているだろう」

 クロノの質問に、アルバートは少し気だるそうに返事をした。

「ひとつ、原作キャラとの接点を最低限にし、モブとして暮らす」 元穏健派トリッパーがその言葉に反応した。
「ふたつ、自分を主役としてその世界で好き勝手にする」 元過激派トリッパーが息を呑んだ。
「みっつ、その物語の不幸な出来事を無くし、ハッピーエンドにする」 14人のトリッパー全員が頷いた。
「まぁ、どれかって言うと2と3に近いかな? トリッパーとしては至極当然な行動だ」

 アルバートの言った内容は、ほぼすべてのトリップSSに共通する内容だった。 基本的にトリッパーの目的はこの3つのどれかと言っていいだろう。
 しかし、クロノは納得しなかった。 この3つはどれもアルバートには当てはまらないからだ。
 モブにしては関わりすぎている。 主役にしては影で動いている。 闇の書の闇を守ってハッピーエンドになるとは思えない。

「質問を変えよう。 何故こちらの攻撃を防いだ」
「闇の書の闇を使い、地球を滅ぼすためだ」

 その単純な答えに、全員が驚愕した。 こうも堂々と世界を滅ぼすと言えるとは、この男、よっぽど図太い神経をしているに違いない。
 だが、新たな謎が生まれることになった。 つまり、どうして地球を滅ぼすのか?
 その疑問を真っ先に声に出したのはなのはだった。

「なんで、何でそんなことするの? そんなことしたら、いっぱい人が死んじゃうよ」
「何で? 何でねぇ……おい! そこのお前!」

 アルバートが急にトリッパーの1人を指名した。 指名されたアルスは戸惑いながらも前に出てきた。

「GS美神のSSで一番好きなのはどんなやつだ」
「は?」
「GS美神だよ、それとも読んだこと無いのか?」
「ええっと……最強モノ? 小竜姫ヒロインで」
「エヴァだったら?」
「やっぱり王道の逆行モノ、少しばかりのアンチミサトが入っているといい感じ」
「ネギま」
「ネギの兄弟、ハーレム、実力を隠してるやつ!」

 アルバートとアルスの会話を理解できたのは、トリッパーだけだった。 他の者達は頭に疑問符を浮かべながら話を聞いている。
 GS美神? 最強? 逆行? ミサトって誰? ネギまってヤキトリの?
 話の意味が分からない者達を置いて、一通り好きなジャンルのSSについて話したアルス。 会話が終わった後は妙にスッキリした顔をしていた。
 会話といっても、アルバートの質問にアルスが一方的に答えていただけである。 アルバートは返事を聞くたびに「なるほど」と呟きながら頷いていた。
 これで何が起きるのか? 他の人間がアルバートの様子を伺っていると、少し震えているのが分かった。 その震えはどんどん大きくなり、ついに大爆笑を始める。
 先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは違う、気が触れているかのような笑い方に、なのは達は思わず一歩引いてしまう。

「くっくっく、ヒャーッハッハッハ! そんなモノが面白い? まだまだお子様だな」
「なんだと! じゃあお前はどんなのが好きなんだよ」
「GS美神は横島の力が危険視されて神族から狙われるもの、エヴァはシンジがサードインパクトの首謀者として殺されるやつ、ネギまは魔族襲来を父親のせいと知り魔法使いそのものを恨む!」
「お前……そのジャンルは!」
「ヒャッハァ! そうだよ、俺の好きなジャンルは、ダーク系SSだ!」

 その答えに、14人のトリッパーは戦慄した。 同時に、アルバートが何故地球を滅ぼそうとしているかを理解した。
 しかし、トリッパー以外の人間はまだ理解できない。 話の内容から、アルバートがあまり明るくない話や登場人物が苦しい目にある話が好きなのは分かった。
 しかし、それと地球を滅ぼすことが繋がらないのだ。 そういう話が好きだからって、実際に世界を滅ぼす気になるはずがないと思っているからだ。
 唯一の例外がクロノである。 彼はトリッパーの存在を知り、アルバートにとってこの世界が物語の中であることを知っている。 そのアルバートがダーク好きということは――

「お前は、この世界を滅ぼしてみんなの心に傷を付ける気か!? ここにいる人間を苦しめる。 そのためだけに世界を滅ぼすのか!?」
「正確には、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやての三人だ。 この三人が揃わないとStsが始まらないからな」
「そんな……私達を苦しめるために、世界を滅ぼすって……」
「ちゃんと闇の書から出れるか心配だったが、レイジングハートを叩き折ってワザと強化させたかいがあった。 原作どおりに進まず、八神はやてが死んじまったら楽しさ半減だ」
「そんなん、ゆるさへん!」
「いいねいいね、その目だ。 故郷を失った主人公達は復讐を誓いながら管理局で働く。 そして10年後、再び現れるこの俺、ラスボス、アルバート・グレアム! この戦いは、憎しみと血潮に染まるSts編のプロローグなんだよ! ヒャッハァ!」

 アルバートが叫ぶと同時に、闇の書の闇が大きく震えた。
 元々無差別に破壊をもたらすものである。 頭の上に人間が乗っていたらまずそれに反応するだろう。
 アルバートは24人の魔導師に加えて闇の書の闇とも戦わなくてはならない。 しかも、世界を滅ぼすというアルバートの目的のためには自分の手で闇の書の闇を破壊するわけにもいかない。
 たとえSSSの化け物だとしても、この状況を利用すれば戦えるかもしれない。 アルバートの力を一番良く知っているクロノは頭をフル回転させてどう戦うかを考える。
 しかし、アルバートは信じられない行動で闇の書の闇を無害化した。
 まず両手を合わせる。 食事をする前、もしくは日本で神に祈るときの姿に似ていた。 そこで一度気合を入れ、手を離し、今度は両手を闇の書の闇に当てる。
 何か魔法を使っているのか? しかしデバイスを使用している様子は無い。 やがて、手を離したアルバートはトリッパー達が集まっている方向を指差した。
 それだけで、闇の書の闇は巨大な魔力弾をその方向に打ち出す。 何とか全員回避に成功し、魔力弾は空のかなたに消え去るが、直撃していれば人間など消し飛んでいただろう。
 だが、一番の問題は闇の書の闇がアルバートの命令を聞いたことだ。
 ヴォルケンリッターやクロノは驚きを通り越して恐怖を覚えた。 どうすればそんなことが可能なのか? まったく理解できない。
 そしてトリッパー達は別の意味で驚いた。 アルバートが行った行動は、ある意味有名な動きだったからだ。

「ヤツはいったい何を?」
「ハガレンの、錬金術だ……」
「なんだ? それは?」
「あのやろう、闇の書の闇を作り変えやがった! バケモンか!?」

 闇の書の闇を自由に操るアルバートは余裕の表情を浮かべている。 厨二の書という強力なデバイスがあるにも関わらず、一枚のカードを取り出して新たなデバイスを起動した。
 氷結の杖デュランダル、受け取ったのはクロノでは無くアルバートだった。 ギル・グレアムの仲間で高い魔力を持つのだから、受け取っていたのは当然だろう。

「実はな、この世界を観察するうちに、世界を滅ぼすより簡単にダーク系SSにする方法を思いついた」
「なに……そうか!? ザフィーラ逃げろ! ヤツは和真を狙っている!」
「くっ、分かった」
「遅い。 デュランダル、エターナルフォースブリザードだ」
『OK,boss』
「え? 雪? うわあああああああん」

 鬼道の忠告も遅く、デュランダルから発射された冷気が和真に直撃した。 魔法への対抗手段の無い和真は一瞬にして氷漬けになってしまう。 ザフィーラが何とか抵抗しようとするが、一番近くに居たザフィーラも冷気の影響を受けてしまった。
 半分だけ氷漬けになり、落下していくザフィーラ。 途中でファルゲンが作り出した魔力の足場に落ちたので海面に叩きつけられずに済んだが、寒そうに体を振るわせる。 シャマルがすぐに回復を始めたのですぐに治るだろう。
 一方、完全に氷漬けになった和真は空中を移動してアルバートの横まで移動した。 どうやらアルバートが魔法で運んだらしい。

「そんな厨二の代表的な名前で、恥ずかしくないのか?」
「っくっくっく、だが性能は見てのとおり、そして効果もな」
「効果……相手は死ぬ!?」
「そんな……和真君が……死ぬって」

 なのはの顔が恐怖で青ざめる。 フェイトとはやても同じような表情をした。
 和真はこの三人と特に仲がいい。 なのはとは小学校入学以来の親友、フェイトとはプレシアとの和解に協力し、はやてに至っては家族である。
 それが死んでしまうことは、3人の心に傷を残してダーク系SSとするのに十分な出来事だろう。 原作のリインフォースとの別れとは違う、自分達を苦しめるために親友が殺されることに彼女達が耐えられるとは思えない。
 それを分かっているから、アルバートは和真をこの様な目にあわせたのだ。 万が一、闇の書の闇を倒されたときの保険として。

「このガキンチョが死ぬまで約20分、闇の書の闇が世界を滅ぼすまでの時間も20分、さあどうする!」
「決まってる、お前をぶっ飛ばす! 烈火キイイイイイイイック」
「右に同じ、エナジイィィィィコレダアアアアア」

 アルバートが和真を氷漬けにした隙を狙い、烈火とディストが上下のコンビネーションで攻撃を仕掛けた。
 並みの相手なら必殺のタイミング、反応などできるはずが無い。 しかしアルバートは烈火を右手、ディストを左手の指2本だけで受け止めていた。 その姿はまさしく――

「ヒャッハァ! 冥王さまより先に天地魔闘の構えをしちまったぜ!」
「そんな……これに反応するだと!?」
「俺の『円』は半径100メートル、不意打ちなんて無駄だぜ」
「H×Hの念能力!」
「だが、相手の位置が分かっても腕が塞がっているなら攻撃できないだろう! 必殺必中、バーニング――」

 二人の攻撃を防いで動けないアルバートに向かってアルスが切りかかる。 隙の大きい大技だが、相手が動けないなら命中する、はずだった。

「俺はダイの大冒険も好きなんでな! カラミティエンド! フェニックスウィング! カイザーフェニックス!」

 流れるような三段攻撃で烈火が叩き落され、ディストが吹き飛ばされ、アルスが炎に包まれた。
 これは天地魔闘の構えの元ネタを知らなかったアルスの失敗である。 元ネタを知っていれば、あの場面での攻撃は戸惑っただろう。
 だが、アルスの犠牲は無駄ではない。 元ネタを知っているからこそ攻撃を仕掛けることのできるタイミングも存在する。 天地魔闘の構えは3段攻撃の後にこそ最大の弱点が存在することを、龍堂は知っていた。
 300メートル以上の距離から飛来する高速の弾丸、察知できても反応できず、防御も間に合わず直撃するしかない一発。 それがアルバートに届く前に、見えない何かによって弾かれる。
 魔法ではない、別の力が働いていた。 2発、3発と連射するがすべて見えない力によって防がれてしまった。

「念能力『自動防衛装置(オートガード)』だ。 俺に遠距離攻撃は通用しない。 ちなみに、制約は20メートル以上の距離からの攻撃であること。 それさえ守れば核兵器でも防げる」
「軽すぎるだろうが! その制約!」
「ヒャッハァ! チートの特権だぜ!」
「だったら肉弾戦だ!」

 リュウセイがアルバートに殴りかかった。
 リュウセイの右腕のパンチをアルバートが左手で止め、アルバートの右腕のパンチをリュウセイが左手で止めた。 そもまま力比べの体勢で硬直する。
 リュウセイは苦しそうに力を込めているが、アルバートは余裕の表情で押しかえす。 硬直しているのもアルバートが力を抜いているからだとすぐに分かった。

「さすが戦闘機人、なかなかのパワーだが、念能力を解除して体に纏わせれば……」
「ちくしょう……俺がパワー負けしてる」

 本気を出したアルバートが、圧倒的なパワーでリュウセイを押しつぶす。 一気に押し切られたリュウセイは膝をついてしまい、どちらが勝ったかは明らかとなった。
 さらにアルバートはリュウセイに止めを刺す準備を始める。 リュウセイの右腕をワザと離し、自分の左手を自由にしたアルバートは、その左腕に魔法とは別のエネルギーの球体を作り出した。
 その球体の中では、まるで暴風雨のようにエネルギーが暴れまわっている。 その必殺技の名前を『螺旋丸』ということをリュウセイは知っている。

「ナルトまで、いくつ引き出しがあるんだテメェは!」
「ヒャッハァ! そんなのに答える義理なんざ……無い!」

 螺旋丸を発生させた左手がリュウセイの頭部に迫る。 そんなものを喰らったら人間の頭程度消し飛んでしまうだろう。 しかし、右手で押さえつけられているリュウセイは逃げることができない。
 絶体絶命の中、リュウセイの姿が突然消えた。 力を込めていたせいで前につんのめったアルバートが辺りを見回すと、その姿はファルゲンのすぐ隣に見つけることができた。
 とっさに転移魔法で回収したらしいが、他人と接触している人間を単独て転送している辺りフェルゲンの能力の高さが分かる行動だった。
 そしてアルバートを挟んでファルゲンの反対側には紫音がキャノン砲を構えて待機していた。 遠距離攻撃の効かないアルバートが念能力を解除するタイミングをずっと待っていたのだ。

「ディバイィィン……ブラスター!」
「さすがに人数が多いと、的確に隙を狙ってくるな。 魔力と気を……合成!」
「咸卦法? かまうか! 吹き飛ばしてやる!」
「できると思うのか? ヒャッハァ!」

 紫音の砲撃とアルバートが咸卦法で作り出したエネルギーがぶつかり合い爆発が起きる。
 衝撃波が空気を震わせ、煙が舞い上がり、ボロボロの紫音が海面に向けて落下していった。 急いでファルゲンが足場を作り、ヴォルフが受け止めなければ大怪我をしていただろう。
 その光景を、無傷のアルバートは不満そうに眺めた。
 正直、原作キャラ以外はどうなってもいい。 ダーク系SSの世界にするために、原作キャラには生き残ってもらわないと困るが、トリッパー達が死んだところで何の問題も無かった。
 むしろ、仲のいい友人トリッパーを2~3人殺した方がダーク系SSとして面白い方向に進むような気もする。 そのために、オリキャラ主人公を氷漬けにして、わざわざ時間をかけて殺そうとしているのだから。
 ただ、こうウロチョロされるのは少しばかり面倒くさい。 まるで夏に蚊がたかってくるような、そんな感覚。 すぐに仕留められるけど、数が多くてイライラしてしまう。
 そこでアルバートは少しばかり本気を出すことにした。 厨二の書を天高く掲げて魔力を込めると、再びページがバラバラになり空中に飛び出していった。
 それらが何枚かづつ集まると、今度は人間の形を作り出す。 そうして現れたのは25組100人のヴォルケンリッターの姿だった。

「こいつらの戦闘能力は全員AAAクラスだ。 ハッキリ言って本物より強い。 果たして勝てるかな?」

 その言葉に全員が絶望した。
 アルバート1人でも勝てるか分からないのに、さらに100人のAAAランク魔導師が加わってしまった。 この状況で勝てると希望を持てるほうがおかしい。
 全員の顔が絶望に染まっていく様を、アルバートは気持ちよさそうに眺めた。 いい兆候だ。 この圧倒的な恐怖を乗り越えるため、登場人物は自分の意思を殺して強さを求めるだろう。
 そして10年もたてば、立派なダーク系SSの登場人物として完成することは間違いない。 それより以前にも、高町なのは撃墜事件やゼスト隊壊滅などにも介入すれば、更に面白くなるだろう。

「ヒャーッハッハッハッハ! 今のお前たちじゃ絶対に勝てねぇ! 大人しく地球が滅びるのを見物して、また10年後に頑張るんだな!」
「だが断る」「ええ、断るわ」
「なにぃ……誰だ!」

 声のした方向にアルバートが振り向くと同時に、土砂降りの雨のように無数の魔法攻撃が降り注いだ。 アルバートは無傷だが、コピーヴォルケンリッターを10人ほど消滅させる。
 これにはアルバートの方が驚いた。 まさかここで援軍が来るとは思っていなかったのだ。 しかも1人や2人ではない、そこには50人を超える魔導師がデバイスを構えていた。 その中心にいるのは――

「ブラウン・クルーガー! この死に損ないが!」
「感謝するぞ。 これだけヴォルケンリッターがいれば、仇を討ち放題だ」
「そして、プレシア・テスタロッサ!」
「娘の友達に酷いことをしてくれてるわね。 許さないわよ」
「コイツは丁度いい! ここでプレシアを殺せば、ダーク系SSにまた一歩近づくってもんだ! ヒャッハァ!」

 コピーヴォルケンリッター軍団が現れた魔導師軍団に攻撃を仕掛ける。
 戦力差、約二倍。 そのすべてがAAA。 魔導師軍団の戦闘能力がどの程度かは分からないが、圧倒的不利であることに変わりない、はずだった。
 しかし実際は、魔導師軍団が多少不利だが一気に蹴散らされもしないというレベルの戦いを繰り広げていた。
 ヴォルケンリッターの4人はそれを見て驚く。 コピーヴォルケンリッターの戦い方は自分達と比べても遜色ないし、単体では自分達より能力が高いことも分かる。
 なのに、援軍の魔導師たちは戦えている。 ここの実力はコピーヴォルケンリッターより低いが、対ヴォルケンリッター用の戦法が抜群にうまいのだ。
 そんなことを考えているうちに、ブラウンとプレシアがこちら側に合流してきた。 ブラウンの目的を知っているヴォルケンリッターは警戒するが、カムイがそれを止めさせた。

「いいのか、味方して? ヴォルケンリッターは親の仇なんだろ?」
「100人以上いるんだ。 4人くらい見逃しても構わないだろう」
「あの魔導師たちは?」
「トリッパーをかき集めた。 ランクF~AAAまで、数をそろえることを最優先、連携訓練の仮想敵が俺の持っていたヴォルケンリッターのデータしかなかったが……逆に良かったみたいだな」

「母さん、どうしてここに?」
「そうだ。 貴方は監視付きで入院をしていたはずだ」
「許可は取れているらしいわ、偽造だけど」

 フェイトとクロノの質問に、プレシアは簡単に返事をした。
 それを聞いてクロノは眉をひそめた。 執務官としてはその発言は見過ごせない、詳しく話を聞こうとする。
 管理局の病院で治療を受けていたプレシア・テスタロッサ。 容態は少しづつ安定し、地球に向かったフェイトはどうしているかと考えていると、奇妙な男が現れた。
 ブラウン・クルーガーと名乗るその男は、様々なことをプレシアに教えた。 娘とその友達に危機が迫っている、圧倒的な強さを持つ敵、そしてトリッパーの存在。
 最初は半信半疑だったが、まだ公開されていない26年前の事故やF計画について、さらにフェイトへの対応を知っていたことで信じることができた。
 万が一信じなくて、娘を助けられないことになることを考えると、それ以上迷う余地は無かった。 ブラウンの探し出した提督クラスのトリッパーが偽造した許可証にサインをし、プレシアは地球へとやってきたのだった。

「ヒャッハァ! 俺を無視するとはいい度胸じゃねぇか! 嫌でも注目してもらうぜ、魔法の射手・闇の2300矢!」

 援軍に喜んでいたのもつかの間、突然アルバートが攻撃を仕掛けてきた。 2300本の魔法の矢が一斉にトリッパー達に襲い掛かる。
 しかし、プレシアは慌てない。 彼らを守るように前に出て、デバイスを向けてシールドを発生させ、2300本の魔法の矢をすべて防御する。
 時の庭園では和真を素手で叩いていたが、Sランク魔導師、プレシア・テスタロッサの真の力が垣間見え、メンバーの何人かから思わず感嘆の声が上がった。

「いいデバイスね。 これなら体への負担も少ないわ」
「管理局選りすぐりの頭脳系トリッパーの英知を結集したデバイスだ。 10年後、機動6課にデバイスマイスターとして入るため日夜努力してるからな。 本気になったらすごいのを作るぞ」

 ニヤリと笑うブラウン、コピーヴォルケンリッターと戦っている魔導師の何人かが戦いながら何やらアピールをしている。 彼らがプレシアのデバイスを作ったトリッパーなのだろう。
 心強い味方が加わったことで再び士気が上がるが、その雰囲気を壊したのはまたしてもアルバートだった。

「なるほど、確かにSランクのプレシアを相手にするのは面倒くさいな。 だが忘れてないか? 制限時間はもう半分以上過ぎてるぜ、ヒャッハァ!」

 その言葉で現状を思い出す。
 後10分ほどで氷漬けになった真塚和真は死亡し、闇の書の闇は世界を滅ぼしてしまう。 それまでにアルバートを倒し、闇の書の闇を倒し、和真を救出しなくてはならない。
 プレシアが加わったといっても、圧倒的に不利なことには変わりない。 この状況を打開するのは、まさに奇跡といえるほどの戦い方が必要になるだろう。
 再び悪い空気が流れようとする中、14人のトリッパーが顔を上げた。 その瞳に宿る闘志は消えるどころかますます強くなって、まさに炎のように燃え上がりだした。

「なめんなキ○ガイ!」
「なにぃ」
「俺達15人が揃えば、運命だって変えられる! さらにこれだけの仲間が居れば、奇跡だって引き起こせる!」
「だが、その15人目は氷漬けだ。 ヒャッハァ! これじゃあ奇跡なんて起きねぇ! どうすんだいったい?」
「決まってるだろ? なあ、みんな!」

『お前をぶっ飛ばす!』

「ヒャッハァ! いい度胸だ、返り討ちにしてやるぜ! 念能力! 天地魔闘の構え! 螺旋丸! 真空竜巻旋風脚! レイジングストーム! 目からビーム!」

 13人のトリッパーが一斉に襲い掛かり、次々と吹き飛ばされていく。 アルバートは状況に合わせて様々な攻撃を繰り出し、トリッパーを撃墜していった。
 なのは達も戦いに加わろうとするが、刹那が前に出てそれを止める。 当然なのはは納得できない。 今は少しでも戦力が欲しいはずだ。

「刹那くん、どうして邪魔するの?」
「もう少し待て、ヤツの手札を全部引きずり出すまで」
「でも時間が……」
「残り5分が勝負だ。 それまで力を貯めておいてくれ」


「「ダブルソードダイバー!」」

 カムイとヴォルフが大剣型アームドデバイスの上に乗り、サーフィンのように突撃する。
 それぞれを両手で受け止めるアルバート、直後、二人の後ろからジェフリーと鬼道が現れる。 二人ともカムイとヴォルフの後ろに隠れて近づいていたのだ。
 ジェフリーが真上からの炸裂弾、鬼道が後ろに回って胴を切りつける斬撃、アルバートは先の二人を天地魔闘の構えで吹き飛ばし、ジェフリーを最後のカイザーフェニックスで焼き尽くし、鬼道の刃を念能力の『堅』で防ぐ。
 堅のために自動防衛装置を解いた瞬間を狙って、翼と紫音が遠距離から攻撃をする。 それもシールド魔法と二指真空波で防ぐと、今度は真後ろから蒼牙のファントムスラッシュが襲い掛かる。
 20発のファントムスラッシュに対して2000発以上の魔法の射手を放ち、攻撃を行った蒼牙ごと打ち落とせば、烈火とリュウセイがバインドでアルバートの動きを拘束させる。
 二人のクロスボンバーが迫る中、力任せにバインドを引きちぎり、レイジングストームで真反対にいる二人を同時に吹き飛ばし、さらに攻撃後の隙を狙っていたディストの方を向き、昇竜拳で殴り飛ばす。
 空中に飛ぶのを待っていたザップとアルスに対しては、ザップの双剣型デバイスを錬金術でバラバラに分解して使用不能にし、アルスを蹴り一発で叩き落す。
 一度やられたトリッパーはファルゲンとシャマルが転移魔法で回収し、すぐさま治癒魔法で回復させていた。 しかし、回復させたそばからまた突撃をし、やられ、回収され、回復し、突撃するのローテーションが出来上がってしまっている。
 それはつまり、自分の出番を待っている高町なのはは、友人がボロボロになる様子を何度も何度も見せ付けられているということでもあった。
 思わず目を背けたくなるが、それをしてはいけない。 友人達は道を切り開くために戦っているのだから。 自然とレイジングハートを握る手にも力が入る。

「面倒くせぇ、わらわらとゴキブリみたいに沸きやがって。 全部まとめて吹き飛ばしてやる!」

 アルバートが一枚のカードを取り出す。 それには不思議な模様が描いてあった。 全部まとめて吹き飛ばす、と言ったからには範囲攻撃だろうと予想し、全員が防御の体勢をとる。

「スペルカード! 厨符『超弾幕結界』」
「ここに来て東方かよ! マジで節操ねぇな!」
「隙間がねぇ! 見た目二の次で当てることだけを考えてやがる、最低野郎が!」
「ヒャッハァ! 最高の褒め言葉だ!」

 全員が数千発の弾幕をうけ、全員が同時に負傷する。 今までは入れ替わり負傷していたおかげで波状攻撃ができたが、これでは回復するまで時間が掛かってしまう。
 その時、レイジングハートが残り時間が5分であることを知らせた。 なのはが刹那に確認を取るような視線を向ける。
 ここで「いい」と言えばすぐにでも突っ込んでいきそうな雰囲気を纏わせている。

「ファルゲン、ユーノ、シャマルさん! メンバーの回復は?」
「30秒で終わらせてやる!」
「よし、いくぞ! 作戦は念話で伝える!」

 その言葉に、今まで戦いを静観していた原作キャラたちが気合を入れる。
 アルバートもそれに気がついた。 どんな攻撃でもはじき返すとでも言うように口の端を吊り上げて笑う。
 

『まず、相手の動きを止めることが必要だ。 幸いヤツはどんな攻撃でも受け止める自信をもっている。 逃げるなんてことはしないはずだ』
「轟天爆砕! ギガントシュラアアアァァァァァァァァク!」
「ヒャッハァ! さすがにでかい、ぶっ壊しがいがあるぜ!」

 先陣を切ったのはヴィータだった。 巨大化させたグラーフアイゼンでアルバートを闇の書の闇ごと押しつぶそうとする。
 それに対抗するのは、アルバートの螺旋丸だった。 右手に球体を作り出し、グラーフアイゼンにぶつける。
 少しばかりの均衡、やがてグラーフアイゼンに亀裂が生じた。 しかしヴィータは力を弱めない、むしろ更に気合を入れて力を込める。 そしてついに、グラーフアイゼンが砕けた。

「ストラグルバインド!」

 その砕けたグラーフアイゼンの後ろからクロノが現れ、ストラグルバインドでその右腕を封じる。 巨大化したグラーフアイゼンの後ろに隠れて接近していたのだ。
 あらゆる魔法効果を無効化するストラグルバインドだが、咸卦法にも効果があると刹那はにらんでいた。 魔力と気の融合、ならば魔力部分だけでも消せば咸卦法は機能しなくなる。
 半ば賭けだったがこの目論見は成功し、アルバートの顔に始めて戸惑いが浮かんだ。 使用している彼自身、そうなることを知らなかったのだろう。

『次に念による防御を崩す。 ワザと念能力を発動させ、本体の防御力を下げるんだ』

「フェイト、貴方に魔法を教えたのはリニスだけど。 そのリニスにこの魔法を教えたのは、そして貴方に教えるように言ったのは私なのよ」
「母さん、そうだったんだ。 ありがとう」
「うまくできるか、見てあげるわ」
「うん! 見てて!」
「フォトンランサー」「サンダースマッシャー」
「「ファランクスシフト! ファイア!」」

 Sランクとカートリッジで強化したAAAランクの同時攻撃。二人分76基の魔力スフィアから合計2000発以上の攻撃魔法がアルバートに殺到する。
 ストラグルバインドで捕らえられ、バリアジャケットもかなり弱体化している今、さすがのアルバートと言えども喰らったら無傷では済まない攻撃だった。
 しかし落ち着いて念能力の自動防衛装置を発動すれば、2000発の攻撃魔法はアルバートを中心とした半径20メートルの壁にさえぎられてしまう。
 とりあえず、この攻撃の無効化に成功したアルバートは、ストラグルバインドを外すまでの時間を、あるものに稼がせることにした。

『アルバートと同時に闇の書の闇も倒さなくてはならない。 シグナム、頼んだぞ』

「ちぃ、闇の書の闇、バインドを解くまでの時間を稼げ」
「させるか! レヴァンテイン、ボーケンフォルム! 駆けよ隼、シュツルムファルケン!」

 変形したレヴァンテインから発射された魔力の刃が、闇の書の闇に直撃して大爆発を引き起こす。
 闇の書の闇の巨体が揺らぎ、大きなダメージを負ったことが分かった。 それを見てアルバートは思わず舌打ちをした。
 まず真っ先に自分を倒そうとすると思っていたので、このタイミングで闇の書の闇を狙うとは思っていなかった。 さらに先ほど弾き飛ばしたファランクスシフトの余波も闇の書の闇にダメージを与えてしまっている。
 こいつはもう役に立たない。 そう考えたアルバートは、もう一つの手札を呼び寄せる。

「コピーヴォルケンリッター! そんな雑魚どもは無視してこっちを手伝え!」
「させへんよ、みんなと同じ顔でやりにくいけど、あんたらの相手は私や! 闇に染まれ、デアボリック・エミッション!」

 援軍のトリッパー達を無視してアルバートに向かうコピーヴォルケンリッターの前にはやてが立ちふさがった。
 コピーヴォルケンリッターの戦闘力はAAAランク、しかしはやてはSランクの広域攻撃魔法を放つことができる。 なのはやフェイトですら直撃すれば危ない攻撃だ。
 完全に防御の体制になったコピーヴォルケンリッターをトリッパー達は次々と打ち落とす。 はやての魔法で大ダメージを負っている相手を倒すことなど、彼らには造作も無かった。

『咸卦法も、念による防御も封じ、バリアジャケットも大幅に弱体化した。 攻撃するなら――』

「うん、今だね。 レイジングハート、エクセリオンモード!」
『Ignition. A. C. S., standby.』

 なのはがレイジングハートを変形させた。 その目は真っ直ぐにアルバートを見つめている。
 ちらりと、アルバートの近くに浮遊する氷塊を見る。 中にはぐったりした様子の真塚和真が入っている。
 残り時間は3分も残っていない。 大切な友達を助け出すために、貯めに貯めた最後の力を一気に開放する。

「全力全開、エクセリオンバスタアアアアァァァァァァァァ!!!」

 レイジングハートを構えたなのはが、真っ直ぐにアルバートへ突撃する。

「ヒャッハァ! 魔力は弱まったが、チャクラはまだ残ってるぜ!」

 アルバートが螺旋丸を左手に作り出し、大きく振りかぶる。

「借りを返すぞ、COM、シュート!」

 なのはと共に20メートル以内まで接近したブラウンの攻撃が正確に螺旋丸へと直撃し、球体は爆発してアルバートの左手から消え去る。

「ヒャッ……ハァ?」

 その様子に、思わずアルバートは自分の左手を見つめ、なのはから目を逸らし――
 突撃したなのはが、ついにアルバートへとぶつかった。
 魔力のスパークが両者の間で発生し、辺りに光が撒き散らされる。 ぶつかり合う魔力の衝撃波が圧力となって周囲に暴風を巻き起こす。
 その被害を一番受けるのは、当然なのはとアルバートだ。 しかし、なのはの表情がどんどん苦悶に歪むのに対し、アルバートは少しずつ笑みを作り始めた。

「確かに驚いたが、SSSランクを甘く見すぎたな。 魔力が弱まっても、小娘1人の攻撃を防ぎきることぐらいはできるぜ! ヒャッハァ!」
「確かに、私1人じゃ貴方には勝てない。 けど、みんなが揃えば、奇跡だって引き起こせる!」

 なのはの魔力が一段と強くなった。 アルバートは思わず眉をひそめる。 まだ余裕で耐えられるが、想像以上のパワーに驚いたのだ。
 そこで更になのはの魔力が高まる。 これで終わりではない、まるで際限が無いようになのはの魔力が高まり続け、ついにはSランクを超えるほどの魔力を持った。
 明らかにおかしい、こんなことはありえない。 さらに魔力が高まり、アルバートにも耐えるのが精一杯になったとき、彼は気がついた。
 なのはの後ろに、まだ人間がいる。 その後ろにも、さらにその後ろにも、前の人間の背中に手を置いて、一列に並んでいち。
 それは、先ほどまで余裕であしらっていた14人のトリッパー達、ユーノ、アルフ、シャマル、ザフィーラ、アースラの名も無き武装局員まで繋がっていた。
 さらに人数は増える。 フェイト、はやて、プレシア、クロノ、そして援軍に来た管理局のトリッパー達。 彼らの魔力のすべてをレイジングハートに集中し、そのすべてをエクセリオンバスターにまわしている。

「ぐうううぅぅぅぅ、なるほど、さすがの俺も危ない、危ないが……危ないのはそっちも同じだ!」

 ピシッ

 何かが割れるような音が聞こえた。
 なのはは自分の手元を見て、目を開いた。 レイジングハートにひびが入っているのだ。

「そんな!? レイジングハート!」
「ヒャッハァ! そんだけ魔力を集めて、デバイスが持つはずがねぇ! そいつが壊れるまで、10秒耐え切れば俺の勝ちだ!」

 アルバートは苦痛の冷や汗をかきながらも、笑みを浮かべたままでそう言った。 そしてそれは、10秒耐え切るという自信の表れでもあった。
 たった10秒がやけに長く感じる。 レイジングハートは1秒ごとに亀裂が増え、いつ粉々になってもおかしくない状態になっていた。
 やがて、レイジングハートのすべての箇所に亀裂が生じ、無事な箇所が何処にも無くなった次の瞬間。

 パリィン

 モノが砕ける、乾いた音が辺りに響き渡った。
 その音になのはは絶望し、アルバートは最高の笑い声を上げる。

「アッヒャッヒャッヒャ! これで俺の勝ちだ! ヒャ「グルルルルル……ウォオオオオオン!」 なにぃ!」

 レイジングハートは無事だった。 いくつかのパーツが粉々になったが、まだ原形を保っている。
 壊れたのは、和真を捕らえていた氷の塊だった。 そして中から飛び出してきた、小さな白い影がアルバートへと飛び掛る。 和真のリュックサックに入っていたシロが、和真を捕らえていた氷を内側から砕いたのだ。
 アルバートに飛び掛ったシロは、アルバートのバリアジャケットに喰らい付くと力任せに引きちぎった。 まるで布が破れるように穴が開き、そこから連鎖するように体全体のバリアジャケットが消えていく。
 いくらSSSの魔導師といえども、バリアジャケットも無しに攻撃魔法を喰らえばひとたまりも無い。 しかも全力の自分と拮抗する威力がある魔法、一度均衡が崩れると後は押し流されるだけだった。

「ブレイク……シュゥゥゥゥゥゥゥット!」
「ばかな、犬に、犬のせいで負ける? このチートラスボスの俺が、ばかな! そんな! こんな! こんなクソSS、二度と読んでたまるかああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 なのはが最後の気合を入れると同時に、レイジングハートは砕け、アルバートは闇の書の闇と供に光の奔流に飲み込まれた。

「いまだ! エイミィ!」

 さらにクロノの合図で、闇の書の闇は宇宙へと打ち上げられる。
 供に吹き飛ばされた、アルバート・グレアムを巻き込んで。
 全員がほっと一息ついたのもつかの間、なのはが海面に向けて落下を始めた。 レイジングハートが機能しなくなったせいで飛行魔法を維持できなくなったのだ。
 じたばたするがどうにもならない。 重力に引かれての自由落下に対して、魔法の使えなくなったなのはに抵抗する術は無かった。
 その時、同じように落下する和真の姿を発見した。 しかも向こうは意識が無く、頭からまっさかさまに落ちている。 このまま海面に叩きつけられるのは明らかに危険だった。
 必死に手を伸ばし、和真を手繰り寄せたなのはは、和真を抱きかかえて少しでも落下の衝撃から守ろうとする。
 せめて和真だけでも守る、そう考えていたなのはだったが、和真の服に引っかかっている赤い球体に気がついた。 レイジングハートのコア部分、先ほど爆散したときに引っかかったらしい。
 迷うことなくそれを手に取り自分と和真を包み込むようにプロテクションを発動させた瞬間――
 二人は水柱をあげて海面に落下した。

「っぷは、和真くん、大丈夫? 和真くん!」
「ん~、なのは? あれ? なんで泳いでるの?」

 海面から顔だけ出したなのはが呼びかけると、和真は目を擦りながら返事をした。
 どうやら無事らしい、安心して気が抜けた瞬間、なのはと和真は同時にくしゃみをした。 12月の海は寒い、壊れたレイジングハートのプロテクションでは冷気を完全に遮断できなかった。
 そっと、レイジングハートのコアを握り締める。 一度壊れてから、一月もたたないうちにまた壊してしまった。 しかも前回より酷い。 修理はできるだろうが、申し訳ない気持ちになってしまう。
 和真がなのはの目元にそっと指を当てる。 知らず知らずのうちに泣いてしまっていたらしい。 和真が助かったことの嬉涙か、レイジングハートを壊した悲しい涙か、なのは本人にも分からなかった。
 でも、きっと笑っていい。 何となくだか、そんな気がする。 なのはが笑みを浮かべると、和真も笑みを浮かべ、しばらく二人で笑いあって過ごした。 
 そのうち仲間達が上空から降りてきて、二人を引き上げる。 その時、和真が空を指差す。

「見て、サンタさん!」

 全員がその方向を向くと、真っ直ぐ伸びる虹色の線が夜空に浮かび上がっていた。


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