将来の夢 真塚和真
僕は将来
そこまで書いたけど、これ以上続きが思い浮かびません。
将来、未来、大人の自分、僕はいったい何をしているんでしょうか?
「あんたも書けてないの?」
鉛筆を指でくるくる回しているとアリサが話しかけてきました。
それに気がついたなのはとすずかも僕の席の近くに集まります。
僕も、ということは他にも書けてない人がいるわけで、席に近づいてきた3人の顔を見ると誰が書けていないかすぐにわかりました。
なのはが少し浮かない顔をしています、きっと僕と一緒で将来のイメージを思い描けないんだと思います。
「なのはちゃんは翠屋を継ぐんじゃないの?」
「うん、多分そうなんだけど……本当にそれでいいのかなって」
すずかの質問にもうまく答えられないようです。
どんな未来がいいか? ならすぐにでも答えることが出来ます。
みんなが笑顔で、みんなが元気で、みんなが幸せな未来がいいに決まっています。
でもそんな未来に辿り着くため、自分に何が出来るのかが僕にはわかりません。
僕はすずかみたいに運動ができるわけじゃないし、アリサやなのはみたいに得意な勉強があるわけじゃないです。
そんな僕が出来ること……
「天崎君は将来なにするの?」
自分で考えても思い浮かばないので隣の席の天崎君に聞くことにしました。
天崎君は一年の時から同じクラスです、というか30人中男子の15人となのは、アリサ、すずかの3人の女子
つまり18人が三年生になった時のクラス替えでもバラバラにならずに固まったままでした。 ついでに先生も一年のときからずっと同じ先生です。
三年生になった最初の授業で、教室に入ってきた瞬間に先生が倒れたのはよく覚えてます、先生には体に気をつけて欲しいです。
ずっと同じクラスでも、話題が無かったらクラスメイトと話すことってそんなに多くないです、その点席が隣の天崎君は結構会話することが多いです。
天崎君はいい人です、教科書を忘れたら見せてくれるし、難しい問題は一緒に考えてくれます。
けど、天崎君は友達になってくれません。
あくまでクラスメイトなんです、なんだか僕と距離をとろうとしています、僕のほうから話しかけないと基本的に何も答えてくれません。
一度刹那と呼んだことがあります、友達になりたいという気持ちを込めて呼びかけました。
返事は拒否でした。
天崎と呼ぶように釘を刺されました。 友達になるつもりは無いと言われました。
アリサは天崎君を嫌っています、友達になりたくないと言う奴を無理に友達にしなくていいと言いました。
でも天崎君は時々うらやましそうに、見守るように僕達に視線を向けています。
目線が合うと急いで視線をそらしますが、間違いなく心では友達になりたがっているはずです。
だから、今日も僕は天崎君に声をかけます。
「俺? 何も考えてないから、今がよければいいし、じゃあ俺は帰るから」
「なによ、参考にならないわね」
アリサはちゃんとした答えを出さない天崎君に不満のようです。
すずかは軽い考えに苦笑し、なのはは自分の答えの参考にならず少し落ち込みました。
結局いつまでも学校に残っても仕方が無いので僕達も帰ることにしました。
学校を出るまでの間、妙に天崎君が最後に見せた表情が気になりました。
あの顔は……なのはを守ろうと不良の前に立ちふさがった恭也さんと同じ顔でした。
「あれ? 声が聞こえる」
公園の近くを通りかかったらなのはが急に立ち止まりました。
キョロキョロと周りを見ながら公園の中に入っていき、傷ついたフェレットを見つけました。
元気が無いです、このままだと死んじゃうかもしれません。
いそいで動物病院に連れて行きます、死んじゃうのは駄目です、それだけは絶対にだめです。
フェレットを抱えて走り動物病院に辿り着きました。
幸いにも他の患者の動物はいません、これならすぐにお医者さんが診てくれます。
診察台の上に寝かされたフェレットを心配そうに見つめます、すごく苦しそうだけど大丈夫でしょうか?
お医者さんは色々とフェレットに触ったり聴診器を当てたりして調べていましたが、やがてにっこりと微笑んでくれました。
このフェレットは心配しなくていいそうです、けど一応入院して様子を見るらしいです。
安心しました。 みんなもほっとしています。
明日また、みんなでフェレットの様子を見に来ることにしました。
元気になってるといいな。
「へぇ~、そんなことがあったんか」
家に帰って今日のことをはやてに話しました。
小学校に入る前に悪くなったはやての足は、まだ治っていません。 むしろ悪くなっています。
けどはやてはそれを顔に出しません、心配かけまいと空元気を出してます。
それに気がついているからお父さんとお母さんも何も言いません、はやてはやさしいから、心配されていると分かると元気がなくなってしまうのです。
「でもまぁ、フェレットをうちで飼うこともはできんな。 うちはシロがおるし」
はやてがシロという言葉を言うと同時に、廊下からトコトコと足音が聞こえてきました。
次に扉の向こうからワンワンと鳴き声が聞こえてきます、どう聞いても犬です。
僕とはやてはちょっとだけ顔を見合わせ、同時に笑いました。
扉を開けるとちょこんと小さなオスの犬が座っています。 ふわふわの毛が可愛いです。
去年のはやての誕生日に、お父さんが連れてきた新しい家族です。
ふとはやてが呟いた 「犬ってかわええなぁ」 で購入を決定したらしいです。 犬の色とか種類はお父さんの趣味です。
そんなシロは甘えん坊で名前を呼んだらすぐにやってきます。 名前じゃなくてもシロという単語が入っていればとにかくやってきます。
お座りしているシロを抱きかかえてはやての膝に乗せてあげます。はやては膝に乗せたシロを撫でるのが大好きです。
僕もたまに一緒に寝たりします。 あったかくて気持ちいいです。
「アリサちゃんちは犬がいっぱいおって、すずかちゃんちは猫がいっぱいおるし、飼うのはなのはちゃん?」
「なのはの家は翠屋だし、食べ物のお店はそういうのに厳しいって聞いたことがあるよ」
「そっかぁ、なら飼い主募集かな? みんなでポスター作ることになるかもなぁ」
ふと作文のことを思い出しました。
はやてには、将来の夢はあるんでしょうか?
「将来かぁ……足が治ったらやけど、保母さんなんかええかもな」
「保母さん?」
「そう、和彦さんと真子さんのおかげで大人から子供に与えられる物ってのを感じてな、わたしもそういうことができたらなぁ~って」
すごいです、はやてがそういうことを考えているなんて始めて聞きました。
ちゃんと将来のことも考えています、僕の方は……
「あ、ちゃんと和真からも大事なもんいっぱい貰ったよ? それに今も貰い続け取るし」
少し考え込んだら、はやてに変な誤解を与えてしまいました。
僕ははやてに何かをあげれているんでしょうか? それではやてが喜んでくれるなら、とっても嬉しいです。
お母さんの晩ご飯に呼ぶ声が聞こえたので台所にいきました。
晩ご飯のカレーは美味しかったです。
晩ご飯を食べて、宿題を終わらせて、ちょっとだけはやてとゲームして、お風呂に入って、あとは寝るだけになりました。
今日は僕がシロと寝る日です、昨日ははやての番だったから今日は僕であっています。
「シロ~」
……来ません。
おかしいです、呼んでも来ないなんて一緒に暮らし始めた直後だけです。
耳をすましても足音が聞こえません。 何があったのでしょうか?
探してみると玄関の扉が開いていることに気がつきました。
誰も外には出ていないはずです、シロでは扉を開けることは出来ません、ならなんで開いているんでしょうか?
靴を履いて外に出てみます、やっぱりシロの姿は見えませんし、だれもいま――
気がつくと家の前とは別の場所にいました。 ワープ? 瞬間移動?
意識を失う前に何かが当たったような気がしました。
でも体は痛くありません、それよりもなんだか疲れています、運動した覚えもありません。
「わん!」
近くにシロがいました。 シロと一緒に移動したのでしょうか? シロのいるところにワープしたのでしょうか?
とりあえず海鳴ということは分かりました。 何となく見覚えのある場所が遠くに見えます。
たぶん歩いて帰れます、心配させちゃいけないし早く帰らないといけません。
「シロ、帰るよ」
「わん?」
シロは宝石みたいなものをくわえていました。
なんだか高価そうです、こういうのは交番に届けないといけません。
そう思っていると突然その宝石が輝き始め……シロの体が見る見る大きくなっていきます!
すごいです! 生命の神秘です!
シロは一年たっても小さいままでしたが、ついに成長期に入ったようです。 犬の成長期ってこういう風に大きくなるって初めて知りました。
きっとお父さんに頼んで少し高価なドッグフードに変えたのが良かったんです、これなら散歩の時に大きい犬から隠れる必要はありません。
大きくなったシロは僕の顔をペロペロなめてきます、いつも僕がシロを撫でてるからきっとそのお礼です。
これだけ大きいなら背中に乗れるかもしれません、気分は金太郎です、クマじゃなくて犬ですけど。
はやてにも見せたいです、足の動かないはやてがシロの背中に乗ったら楽しく散歩できます。 きっとはやても喜ぶでしょう。
僕を背中に乗せたシロは振り落とさないようにゆっくりと、それでも体が大きいから結構速いですが、家に向かって歩き始めました。
「これは……予想外だった。 こうなったら――」
「そうか? 俺は結構予想できたがな」
「お前は!?」
「これ以上、真塚和真に手出しはさせないぜ。 アルス・エヴォリュアル」
「やっちまえばこっちの物だ。 邪魔はさせないぞ、天崎刹那」