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No.6363の一覧
[0] トリッパーズ・カーニバル(主人公以外の男子全員~【真・完結】 [ark](2009/09/18 07:06)
[1] いち[ark](2010/04/28 22:56)
[2] にわめ[ark](2009/02/20 20:16)
[3] さーん[ark](2009/02/07 02:21)
[4] しー[ark](2009/02/07 20:52)
[5] ごー[ark](2009/02/13 00:14)
[6] ろっく[ark](2009/02/10 02:42)
[7] なな[ark](2009/02/10 02:49)
[8] はち[ark](2009/02/13 00:14)
[9] [ark](2009/02/13 00:15)
[10] じゅー[ark](2009/02/13 23:42)
[11] じゅーいち[ark](2009/02/19 14:08)
[12] じゅうに[ark](2009/04/11 20:03)
[13] じゅうさん[ark](2009/04/11 20:04)
[14] じゅうし[ark](2009/05/04 21:01)
[15] じゅうご[ark](2009/05/04 21:01)
[16] じゅうろく[ark](2009/05/04 21:02)
[17] じゅうなな[ark](2009/05/04 21:02)
[18] いちぶ、かん[ark](2009/05/14 22:39)
[19] じゅうく! 第二部開始[ark](2009/06/21 14:21)
[20] にじゅー[ark](2009/06/21 14:22)
[21] にじゅう……いち![ark](2009/06/21 14:22)
[22] にじゅーに[ark](2009/06/21 14:22)
[23] にじゅうさん[ark](2009/06/21 14:19)
[24] にじゅうよん[ark](2009/06/21 14:19)
[25] にじゅうごー![ark](2009/06/21 19:33)
[26] にじゅうろっく[ark](2009/07/29 19:50)
[27] にじゅうなーな[ark](2009/07/29 19:51)
[28] にじゅーはっち[ark](2009/08/06 23:04)
[29] にじゅうく~[ark](2009/08/06 23:05)
[30] さんじゅー[ark](2009/08/06 23:06)
[31] さいご![ark](2009/08/06 23:07)
[32] せってい[ark](2009/08/06 23:13)
[33] がいでん[ark](2009/02/28 11:53)
[34] 外伝2 高町恭也(仮)の自業自得[ark](2009/06/12 22:36)
[35] 外伝3 不幸なトリッパーが手に入れた小さな幸せ[ark](2009/07/29 20:34)
[36] おまけその1、本編or外伝で使わなかったボツネタ[ark](2009/09/15 18:23)
[37] おまけ2、最終回のボツネタ[ark](2009/09/15 18:24)
[38] おまけ3、次回作のボツネタ、ちょっとだけクロス注意[ark](2009/09/18 07:05)
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[6363] にじゅうごー!
Name: ark◆9c67bf19 ID:675ebaae 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/21 19:33
 太陽の光が暖かい原っぱ、そこに人工的な光が集まり輝くを増していく。
 辺りを覆いつくすほど強い光が発生した後に光が収まると、そこに現れたのは4人の少年だった。
 鬼道炎、ザップ・トライフォン、龍堂翼、ジェフリー・マークハント
 彼らは闇の書に蒐集させるリンカーコアを集めるために、地球を離れて別世界にやってきたのだ。
 10月の終わりごろから八神はやての体調が悪化し始めた。 当然、その原因を知っているヴォルケンリッターはリンカーコアの蒐集に行こうとする。 が、その前に彼女達はトリッパーに相談をした。
 5ヶ月以上続けているヴォルケンリッターとの夜の見回りは信頼を得るに十分だった。 結局最初以来ブラウンが攻めてくることは無かったが、過ごした時間は無駄にはならなかった。
 そうして決まったヴォルケンリッター無実作戦、18人でローテーションを組み、はやての護衛と人間以外の動物からリンカーコアの蒐集をおこなうことになった。
 3倍以上の人間がいるのだから集められる量も3倍というアルスの言葉はある意味正解だった。 最初に14人分のリンカーコアを蒐集させたこともあり12月に入った時点で闇の書は400ページ、なかなか順調な結果と言えるだろう。
 アースラが来るとトリッパーズは動き辛くなるので、原作より早いペースで蒐集した方がいいだろうと思ったのだ。

「で、ここの原生生物はいいリンカーコアを持ってるんだろ? 早く集めようぜ」
「魔力があるということは、それを利用した攻撃をする可能性もある。 まずは情報収集をするべきだ」
「……あっちに街がある」
「そうだな、この世界の倫理観とかで狩猟禁止だったら厄介だし」
「こら! 君達!」

 4人で今後の相談をしていたら、突然声をかけられた。 驚いてその方向を見ると1人の老人がこちらに向かってきている。
 その老人は4人の目の前まで息を切らしながら走ってくると、汗だくになりながら肩で息をする。 年齢の割りに激しい運動をしたのだから当然だろう。
 メンバーは少し戸惑ったがすぐに冷静になる。 どうせ誰かから話を聞かなくてはならないのだ。 だったらそれがこの老人でもいいだろう。
 老人が落ち着くのを待ってから話しかけようとするが、それより先に老人が口を開いた。

「何も、ぜぇぜぇ、持たず……草むらに入ると、野生の……モンが、ぜぇぜぇ、危ない、ぜぇ」

 途中何度も息をつくせいでうまく聞き取れないが、大体の内容は理解できた。 それと同時にこの世界がどんな世界なのかも理解した。
 特にジェフリーと鬼道はソレをかなりやりこんでいる。 この後の展開を予想すると心が躍りだすかのように嬉しくなってくる。
 そして、その期待に答えるかのように老人は4人についてくるように言った。 当然ついていく。 まさかリアルでアレを見る機会があるとは思わなかった。
 案内されたのは予想通りの研究所、奥に通されると机の上に4つのボールが置いてあった。 原作では3つだが、もう一個は黄色のヤツだろうと予想する。 こちらも4人で丁度いい。
 老人はワクワクしている4人の表情を確認すると、ニッコリ笑って宣言した。

「好きなのを一つあげよう」

 その言葉と同時に4人は我先にと机の周りに集まり、上においてある赤白のボールを手に取り……その中にいる少女と目が合った。
 鬼道とジェフリーの動きが止まる。
 おかしい、自分達が想像していたのは赤いトカゲとか青い亀とか緑のカエル、黄色いネズミだ。 断じて女の子ではない。
 ボールの中の女の子はつぶらな瞳でじっとこちらを見つめている。 鬼道は目を合わせたままボールを机の上に戻した。
 それから後ろを向き、深呼吸をしてから振り返る。 そこにいるのはやはり赤いトカゲではなく女の子だった。 何度繰り返してもソレは変わらない。

「改造パッチが当たってやがる……」
「オリジナルじゃないとは思っていたけど……」

 頭を抱えてうずくまる二人、顔をあわせて同時にため息をつく。
 顔を上げるとザップは苦笑いをしていた。 二人の心情を察してどう言葉をかけたらいいか困っているのだろう。
 ただ、半分笑いをこらえている辺りこの状況を楽しんでいるようだ。
 そして、龍堂はじっと机の上のボールを見ていた。 他の三人には目もくれず、一人で真剣に考え事をしている。 声をかけても反応しない。
 3人は龍堂がどういう人間なのかを思い出した。 そんな三人の気持ちなど無視して龍堂はボールの一つに手を伸ばす。

「君に決め 「決めんなボケェ!」 ゲブハッ!」

 ジェフリーの飛び蹴りを受けた龍堂は壁に激突して動きを止めた。
 ビクンビクンと痙攣を繰り返し、首が変な方向に曲がっているような気もするが、気のせいだ。 この程度なら数分で復活するだろう。

「危ないところだった。 この世界にあいつを解き放ったら乱獲しかねん」
「管理局にばれないように、適度にリンカーコアを取って……取って……くぅっ! 静まれ! 暴れるな!」

 今度はザップがおかしくなった。 ボールに向けて包帯を巻いた左腕を伸ばし、それを押しとどめるように右腕で押さえつけている。
 たまに意味も無くこういう行動をすることはメンバー全員が知っていることだが、今日は本当に苦しそうだ。
 ただ、腕を押さえている割には肉体的な痛みで苦しんでいるのではないらしい、もっと精神的な苦しみに見える。

「どうした? リンカーコアがどうかしたのか? って、ああ、なんとなく理解できた」
「何かリンカーコア集めに問題があるのか?」
「想像してみろ、俺達がこの世界の原生生物からリンカーコアを奪っているところを」

 そう鬼道に言われてジェフリーは想像してみる。
 リンカーコアを奪うのはまず相手を行動不能にすることから始まる。 バインドで拘束してもいいが、破られる可能性も考えると非殺傷攻撃で気絶させた方がいい。
 そうして動けなくなった相手の胸元に手を当てて蒐集用の魔法を使うと手が相手の体内に入っていき、引き出すとリンカーコアが一緒に取り出せるのだ。
 外傷は無いが意識を失い地面に倒れる少女、少年はゆっくりと近づき、少女の胸元に手を当てる。
 ずぶずぶと少女の体内に入っていく少年の腕、苦しさを感じるのか少女の吐息は段々と激しくなっていき……

「理性と欲望の間で苦しんでいるのか。 考えてみれば9年以上禁欲し続けてるんだよなぁ」
「そういうビデオも借りれないし、本も買えないし、道端で拾ったエロ本を秘密の場所で仲間と見るって、中学生か俺達は。 小学生だけど」
「この世界はヴォルケンリッターに任せた方がいいかな? 仲間内から犯罪者を出すのはさすがに気が引ける」
「……帰るか」
「そういやもう12月だったな。 ヴォルケンズとなのはの仲も良いし、原作みたいにはならないだろうけど」

 気絶したままの龍堂を引きずりながら研究所の外に出て、人目の無いところで転移魔法を使う。
 視界の端では、老人が再び 「危ない」 と叫びながら草むらにいる赤い帽子の少年に向けて走り出していた。




「お母さん!」

 そう叫びながらフェイトは病室の扉を開けた。 看護婦が静かにするように注意するのも無視してベッドのプレシアへ近づいていく。
 いつもは静かに入ってくるフェイトだったが、今日は様子がおかしい。 少し怒っているようにも見える。
 驚いたプレシアは思わず手に持っていたリンゴとナイフを落としてしまう。 慌てて拾おうとするが、それより早くフェイトが拾って近くのテーブルに置き、プレシアの目の前までやってきた。

「お母さん、リンディさんから聞いたよ。 私をリンディさんの所に預けるって、なんで? 私お母さんと一緒にいたいのに!」
「ああ、そのこと」

 必死なフェイトとは対照的に、プレシアは落ち着いて返事をした。 そのことを聞かれると想定していたらしい。
 プレシアは少しだけ微笑みながら、フェイトの質問に答えた。

「嘱託になったのならアースラでの活動が多くなるわ。 どうせ住む場所を決めなくてはならないのだし、管理局の施設よりは顔見知りと一緒の方がいいでしょ?」
「それは、そうだけど……。 でも管理局の施設ならすぐにお母さんに会えるし」

 簡単には納得しそうに無いフェイトの様子を見てプレシアはため息をついた。
 わが娘ながらここまで頑固だとは思わなかった。 少しばかり融通の利かない性格だと思っていたが、どうやら引く気は無いらしい。
 こんな風に育てた覚えは、と言う言葉を出そうとして思いとどまる。 フェイトがこうも自分と離れるのを嫌がるのは自分のせいだと思い出したからだ。
 アリシアを選んでフェイトを捨てる決断をしてから、プレシアはフェイトに辛く当たった。 フェイトに嫌われて、アルハザードへ旅立つために。
 結局それを行うことは無かったが、辛く当たった期間に比例してフェイトの思いも大きくなっていたのだろう。
 犯罪者として裁かれる立場にいるプレシアの面会許可はそう簡単に取ることはできないのだが、看護婦からの話ではフェイトが毎日のように面会許可を求ているらしい。 面会できる日は文字通り朝から晩までプレシアの病室に入り浸るようになった。
 そのことを聞かされて、そこまで思ってくれているフェイトに嬉しさ半分、毎回手続きをしてくれているであろうクロノへの申し訳なさ半分という妙な気持ちを感じるようになっていた。
 本当は自分だってフェイトといたい。 しかし、フェイトのことを思うならそれよりもいい提案があることをプレシアはリンディと話し合っていた。

「実はリンディさんから聞いたのだけど、アースラは地球に行くらしいわ」
「地球に?」
「ええ、それで地球に活動拠点を作るらしいの。 つまり、普段は地球に住むのね。 なのはちゃんや坊やとも会えるわよ」
「なのはに和真、それにみんな……。 アルフだってシロと会いたいだろうし、でも……」

 かなり葛藤していることが分かった。 友達に会いたいという気持ちと母親から離れたくないという思いがせめぎあっているらしい。
 きっとどちらも選べず悩み続けるだろう、そう考えたプレシアはフェイトの背中を押すことにした。
 もっとも、現在のプレシアの立場を考えればどちらを選ぶべきかなど決まっている。

「私の判決はまだでないし、貴方みたいに無罪というわけには行かない。 残念だけど毎日会えるわけではないわ。 だったら、その間は友達と一緒の方がいいでしょ? 転送すればすぐにミッドまで来れるのだし」
「……分かった。 手紙書くから、なのはに送るみたいにビデオメールとか、みんなと一緒にお見舞いに来るから。 待ってて、お母さん」
「ええ、待ってるわ」

 その後、面会時間ギリギリまで話をしてからフェイトは病室を出る。
 扉の外ではクロノが腕を組んで待っていた。 少しばかり怒っているような、呆れているような雰囲気を出している。
 そんなクロノの姿を見て、これからの行動について話している途中で飛び出してきたことを思い出した。
 そういえば面会許可を取っていないのにプレシアのお見舞いに来れたのは、自分が飛び出した後急いで許可を取ってくれたのだろう。 これから世話になるというのに、初っ端から迷惑をかけてしまった。

「えっと、ごめんなさい」
「元々出発前に面会許可を申請するつもりだった。 たいした違いは無い」
「それでも、話を聞かずに飛び出しちゃって……」
「そう思うなら嘱託としてちゃんと働くんだ。 それがプレシアの減刑にもきっと役立つ」
「うん、それで、地球に行くんだよね? まさかなのはや和真に何かあったの?」

 フェイトが不安そうな顔をした。
 なのはは大抵のことでも大丈夫だろうが、和真はそうはいかない。 もしかしたら危ない目にあっているかもしれない。
 一般人なんだからそうそう巻き込まれることは無いと思うが、それでもなのはや他の友達に関係があると自分から関わりそう怖い。
 そんなフェイトの気持ちを察したクロノは首を振ってその考えを否定した。 とりあえずなのはと和真が大丈夫だと分かって安心するがクロノの表情が晴れないことが気になった。
 どうしたのかと尋ねると、ため息をつきながら何枚かの書類を渡される。 それはフェイトが嘱託としての初仕事に関する書類だった。

「管理外世界における魔導師の原生生物襲撃事件? これが私の最初の仕事なんだ」
「そんなに気合を入れなくてもいい。 目撃情報のところを読んでくれ」
「えっと魔導師の姿は、ジャージ、体操服、頭からかぶった黒い布、これってもしかして……」
「ああ、あいつらだ」

 今度は二人同時にため息をつく。 97管理外世界を中心とした事件、特徴的なバリアジャケット、犯人を特定するには十分すぎる情報だった。

「少しばかり彼らから話を聞く必要がある。 向こうでの生活準備もあるし、出発しよう」
「うん、早く皆に会いたい」
「それに、こっちに残っていると色々大変なんだ。 大きな事件を起こした者は注目されるが、さすがに一日30件以上の面会申請を処理するのは疲れる」
「私と母さん、そんなに注目されてたんだ」

 フェイトの公判中、会ったことも無い管理局員からの面会申請が大量に届いた。
 もちろん事件に関係の無い人間を面会させるわけにはいかないのですべて却下したが、クロノの執務官人生で間違いなく一番の事務仕事をしたといえるだろう。
 それをするくらいなら母親のお茶に付き合う方がまだマシだと思える辺り末期のような気もするが、自覚しているからまだ大丈夫だと自分に言い聞かせる。
 先に整備ドックで待っていたリンディ、ユーノ、アルフと合流し、アースラは再び地球に向けて発進した。




「止まれ」

 そう声をかけられて、男は足を止めた。 振り向くと1人の管理局員が立っている。
 何の用かと疑問に思ったが、今はやるべきことがある。 その管理局員を無視して先にするもうとするが、局員は先回りして男の行く手を塞いだ。
 横を通り抜けようとするが通すつもりは無いらしい、約束の時間まであまり余裕が無い。 さっさとしょうがないから話を聞くことにした。

「行かせるわけにはいかない。 死ぬぞ」
「どういうことだ?」
「俺が調べた結果、PT事件終了後だけでも13名が行方不明、もしくは任務中に死亡している。 共通点は……ギル・グレアムに面会した」

 その言葉を聞いて男は驚いた。 これから会う予定の人間こそ、そのギル・グレアムだったからだ。
 男は、いわゆる現実の世界からやってきたトリッパーだった。
 魔力を持っていたので魔導師となり、管理局に入り、下っ端の武装局員として適当に過ごしていた。 そんな時、PT事件が起きたのを知り、今度は闇の書事件が起きることを思い出したのだ。
 ここでグレアムを説得し、協力すれば原作よりもいい結果になるのではないかと考えて話をする約束を取ったのだ。 もちろん、いざとなればグレアムが八神はやてにやろうとしていることをバラすと脅すつもりだった。
 グレアムは少しばかり自分の信念に酔っているところがあるが、根はいい人物で、話し合えば分かってくれると思っていた。 それだけに、目の前の局員の話は無視できない。

「信じられないな。 そんなことしているなら何で逮捕されない?」
「グレアムは捨て身の覚悟だ。 後のことなど考えずに持てる限りの力を使っている。 そうなった権力者はやっかいだぞ、平局員を消す程度造作もないだろう」
「本当にやばそうなら逃げる。 忠告は感謝するよ」

 そう言って、男は管理局員の横をすり抜ける。
 この局員の話が本当かどうかは分からない、仮に事実だとしても自分だってそこそこの腕前を持つ魔道師だ。 リーゼ姉妹は厄介だが逃げる程度はできるはずだと思っていた。
 少しずつ、男と局員の距離が開いていく。 少しばかり時間には遅れるだろうが急げば何とかなると考えたとき、局員が叫んだ。

「SSSクラスの魔力、恐らく闇の書に関係するチートデバイス、リーゼ姉妹を手なずける手腕、原作知識、これが向こうのトリッパーだ」

 原作知識、という言葉に反応して男は止まる。
 この世界が物語の世界だと分かっているのは、現実からやってきた人間だけ。 そんな言葉を使うのは自分と同じ状況の人間ということになる。
 つまり、目の前の局員も現実からやってきたトリッパーと言うことになる。
 だとすれば、先ほどまでの話も一気に信憑性が出てきた。 言ったとおりのスペックを持つ化け物が相手なら、Bランク程度の自分では一瞬で消し炭にされてしまうかもしれない。
 どうしようかと思う、急に恐怖がわいてくる。 そんな男の肩を、局員は軽く叩いた。

「今は仲間を集める時期だ。 決戦の日は分かっているな? グレアムとの会談は行ったほうがいい、休むと怪しまれる。 次元犯罪がどうとか、適当に話をしてさっさと帰るんだ」
「……分かった」

 肩を落として歩いていく男の背中を見送る。 彼がグレアムの一味、アルバート・グレアムの手によって消されるか、それとも無事生き残るかは彼自身と話術と運に掛かっている。
 男の無事を願いながら、局員、ブラウン・クルーガーは手帳を開いた。

「次は……14時から、この時期にグレアムにアポを取っている平局員は十中八九トリッパーという予想は当たったか。 艦長クラスを引き込めればかなり楽になるんだがな」




「おばあちゃん。 冷えるし、部屋に入った方が良いよ」
「もう12月だしね。 今晩はキムチ鍋にしようか」

 そう言って星を見ていた老婆はアパートの一室に入った。
 中では娘が鍋とガスコンロの準備をしている。 冷蔵庫の中から鍋の材料と大量のキムチを取り出して煮込みだした。
 料理が出来上がるまでの間、バラエディー番組を見ながら雑談をして過ごす。 TVでは生き別れの家族と感動の再会というコーナーをしている。

「そういえば、あの人どうしてるかな? 6月くらいにおばあちゃんが連れてきたあの人」
「ああ、怪我が治ったらすぐ出て行ったからね。 まぁ、元気にしているだろうさ」
「そうだといいけど、心配だなぁ」
「あら? マナミはああいう男が好みなのかい?」

 祖母の質問に、マナミは一瞬きょとんとして、次に大爆笑した。
 しばらく腹を抱えて笑い続け、隣の部屋から文句が来たところでやっと落ち着く。

「ないない、だって5歳以上年下なんだよ? 弟みたいなものだし」
「年下は駄目かい? ならこの話はやめとこうかねぇ……」
「お見合い? まぁ、結婚願望無いわけじゃないし、おばあちゃんの紹介だし、会ってみるだけなら……。 どんなひと?」
「不破さんって人の息子さん、今大学生なのかな? 数年前に父親の命を助けてねぇ、その時に約束したんだよ。 確かこの街に住んでるはずだけど……。 まぁ、その辺はいつか外伝にでも……作者の気が向いたらいいんだけどねぇ……」
「外伝? 作者? おばあちゃん、何言ってるの?」
「いやいや、年をとると独り言が多くなってねぇ。 さぁ、鍋が煮えてきたよ」

 鍋のふたを取ると、赤い蒸気が立ち上った。 辺りに少しばかり鼻につくキムチの匂いが立ち込める。
 二人は小皿を用意し、程よい辛さのキムチ鍋を堪能する。 二人前より多かった具はみるみる減っていき、あっという間に汁だけになった。
 窓の外では白い少女と赤い少女がビル街に向けて飛んでいたが、それに気がついたのは最後の雑炊を楽しむ一人の老婆だけだった。


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