はやて「先日、カリムから新しい預言が届いた。 それによると、どうやら地上本部で開かれる公開意見陳述会が狙われる危険性が高いらしい。 なにする気か知らんけど、絶対に機動六課が阻止してみせるわ。 それと、アギトが前線に出ることが決まって、今後はたぶんシグナムかヴィータと組むことになる。 明日ユニゾンしてみて相性のよかったほうに決めることになるけど、アギトはすっかり忘れとったみたいや。 そのことを話したら随分と微妙な顔しとったなぁ。 いっちゃんと一緒におるのが当たり前になってたってことなんやろうけど、あんま深く考えんほうがええよ。 まぁ、いっちゃんみたいにアギトの気持ちをまったく考えんのもどうかと思うけど。 いっちゃんか・・・。 はぁ、不安や。 どんどんいっちゃんのことが心配になってくる。 きっと今までのイメージが強すぎるせいやろな。 別にいっちゃんが前線に出る訳やないのに、ちっとも不安が消えん。 どうしても、私やフェイトちゃんの時のようなことがまた起こるんやないかって思ってしまう。 勿論、あの時のことは感謝してる。 してるけど・・・でも・・・怖いんよ。 いっちゃんを六課に入れなければ、なんてことにだけは・・・お願いやからならんでほしい。 にしても、なのはちゃんとフェイトちゃん・・・。 何時の間にいっちゃんと元通りになってったん? いつもみたいに気にしないことにしたってどういうことや!? ・・・はぁ。 一人で悩んでるのもアホらしいし、直接聞くしかないんかなぁ?」 魔法少女リリカルなのは【かんりきょくのこっくさん】 第26話「たとえお前が嫌がっても、俺はお前を一生逃がすつもりはないから(ニコッ)」 勤務時間が終わり、帰ろうとした所で一郎は料理長に捕まった。 アギトが傍にいない理由を聞かれ、二人で食堂のテーブルに着くと、一郎は料理長に今日の事を説明する。 今後アギトが前線に出る事が決まり、明日シグナムとヴィータのユニゾンを行う事。 はやてからその話を聞いたアギトが固い表情をしていたため、緊張しているのかと思って励ました所、急に怒り出して飛んでいってしまった事。 キャロから聞いた話によると、アギトにはリインフォースⅡが付いてるらしい事。 一郎の話が終わり、黙っていた料理長が口を開く。「あほう」 「ぐっ・・・」 自分自身よく分かっているだけに何も言い返せない。 一郎が何も言えずに黙っていると、料理長は一郎の頭を突付きながら、「てめぇのここの中にはおがくずでも詰まってんのか?」「・・・・・どうなんでしょうか?」「こっちが聞いてんだよ。 で、今からどこ行くつもりだったんだ?」「え・・・いや、帰ろうかと・・・」“ゲシッ!!” 蹴られた。 「いっ!! ・・・なにすんですか」 一郎は痛む足を押えながら料理長を見上げた。「んなこったからあほうだってんだお前は。 とっととアギトんとこ行ってこい」「いや、でも・・・今はリインが付いてるっていうし、俺は明日にでも・・・」 一日置いた方が冷静になれるのではと一郎は考えているのだが、「・・・・・はぁ」 料理長は、心底馬鹿にしたような目つきをしながら溜め息を吐いた。「お前、アギトがなんで怒ったのか未だにわからない訳じゃないよな?」 もしそうだったら、今度は蹴るだけで済ませるつもりは無い。「いえ、わかってると思います。 あいつは融合騎として生きるんじゃなく、俺と一緒にいることを選んだ。 その選択の意味を、あいつほど重く考えてはいなかったってことですよね?」 アギトに怒られてすぐは分からなかったが、リインフォースⅡの説明を聞いてようやく理解した。 シグナムかヴィータとユニゾンする事がベストで、アギトもそれは分かっているのだろうが、簡単に割り切れるものではないらしい。「わかってんならとっとと行けよ」 だったらなんで帰るなんて言い出すんだか・・・。 料理長は呆れながら一郎を見るが、「いいじゃないですか、明日ちゃんとアギトには謝りますから。 ほっといてください」 一郎はまだ踏ん切りが付かないようだ。 そんな一郎に、料理長は再び溜め息を吐く。「っとになさけねえな。 お前に女の気持ちがわかる訳ねえんだから一晩考えたってなにも変わらねえよ」「関係ないでしょそれは。 っていうか、なんでそんなことまで言われなきゃならないんすか?」 段々一郎の口調も荒くなってきた。 自分の考えが足りなかったとはいえ、そこまで言われては流石に一郎もいい気分はしない。「一緒だ一緒。 だから未だに嬢ちゃん達になにも言えねえんだろうが、このへタレ」「それこそ関係ねえっていうか余計なお世話だーーーーーっっっっっ!!!!!」 一郎は大声で叫ぶと、この場から離れる為に帰ろうとした。 しかし、「なんや、でっかい声出して」 一郎に会いに来たはやてが食堂に入ってきたため、出て行く機会を逃してしまった。 気を取り直しはやてに話し掛ける一郎。「はやて、なんかあったのか?」「え・・・あ、まぁ・・・そうなんやけど・・・」 話しにくい事なのだろうか、何故か口篭もるはやて。「けど?」「あー、ちょっとな。 いっちゃんに聞きたいことがあって来てみたんやけど、今忙しそうやしまた後で・・・」 ほっとしたような、でも少し残念なような微妙な気持ちになりながら、はやては足早に食堂を出て行こうとした。 しかし、一郎は慌ててはやての腕を掴んで引き止める。「いや、ちょうどいいところに来てくれた。 用は済んだから一緒に行こう」 「ええの?」「ああ、大したことじゃなかったから」「でも・・・」 そう言って、はやては料理長を見た。 何があったのかは分からないが、先程の大声を聞く限り大した事のように思えるが。 すると、はやての視線の先にいる料理長が口を開く。「本当にちょうどよかった。 実はな、今こいつとあんた達の話をしようと・・・」「喋るなーーーーーっっっっっ!!!!!」 再び大声を出して料理長の話を邪魔した一郎。 料理長に駆け寄ると、はやてに聞こえないように小さな声で口止めをする。「・・・・・なんなん?」 間近で一郎の大声を聞かされたはやては、耳を押さえながら二人の様子を見ていた。 一方その頃、アギトは機動六課の隊舎上空に浮かんで空を見ていた。 リインフォースⅡは何も言わずにアギトの隣で同じようにしている。 暫く経った頃、アギトがようやく口を開いた。「悪かったな、リイン」「なにがですか、アギトちゃん?」 アギトの言っている意味が理解出来ていないかのように、リインフォースⅡはアギトの謝罪を受け流した。「別にあの二人がどうって訳じゃないんだ。 ただ・・・」「いいんですよ。 ちゃんとわかってます」 リインフォースⅡはアギトの話を止めた。 リインフォースⅡには始めから分かっていた。 自分にとってのはやて達が、アギトにとっては一郎なのだ。 その関係は特別なもので、たとえ選んだ道が違っていても、同じような思いを抱いている自分にはアギトの気持ちがよく分かる。「なんでこんな簡単なことを考えなかったんだろうな・・・」 アギトは自分の考えの浅さに呆れてしまった。 自分が前線に出るというのなら、融合騎としての自分が求められるのは当然の事だった。「ついこの間まではすげー迷ってたんだけどなぁ」 シグナムにしろヴィータにしろ、きっと良いロードになるに違いない。 かつて自分の望んでいた事が短期間とはいえ叶うというのに、なぜ躊躇うのだろう? いくら考えても答えは出ない。 アギトが隣を見ると、リインフォースⅡは優しく微笑んでいた。 自分の考えを見透かされている気がして、アギトは不機嫌そうな顔をする。「・・・なに笑ってんだよ」「笑ってないですよー」「笑ってんじゃねえか」「きっとアギトちゃんの気のせいです」 そう言って、リインフォースⅡは満面の笑みを浮かべてアギトを見つめた。「てめぇ!!」 アギトは半ば八つ当たり気味にリインフォースⅡに掴みかかろうとする。「きゃっ!?」 間一髪回避したリインフォースⅡ。「避けんな!」「アギトちゃん、なんだかお顔がとっても怖いですよ?」 そう言いながらも、リインフォースⅡの顔は笑ったままだ。 そんなリインフォースⅡを見てアギトは益々腹を立てる。「リインッ、待てっ!!」「きゃあきゃあきゃあ♪」 必死の形相で追い掛け回すアギトと、笑いながら逃げ回るリインフォースⅡ。 機動六課の上空で繰り広げられる二人の追いかけっこは、二人が疲れるまで暫くの間続いていた。 はやても加えて三人でテーブルに着くと、はやては今まで気になっていた事を一郎に聞いた。 一郎を達を連れて聖王教会に行って以来ずっと気にしていたのだが、気が付けば未だに気にしているのは自分だけだった。 はやてから話を聞いて、一郎はようやく三人の様子がおかしかった理由を知った。 思わず舌打ちして毒づく。「クロノのやつ、余計なことを・・・」「ってことは、やっぱり本当なん?」 はやてが聞くと、一郎はどう答えるべきか悩んだが、「・・・さぁ、どうだか」 結局、そう言って誤魔化した。 一郎を見ながらはやては、「ふ~ん。 そうなんや・・・」 自然と零れてくる笑みを堪える事が出来なかった。 どうやら誤魔化す事は出来なかったらしい。 付き合いが長いにも関わらず、そんな答えで誤魔化せるのはフェイトぐらいのものだ。「・・・・・はぁ」 溜め息を吐く一郎。 絶対にという訳では無いが、あまり知られたくは無かった。 とはいえ、知られてしまった以上は仕方が無い。 というより、はやてや、はやてを通してなのはとフェイトに知られるのは此の際大した問題では無い。「(問題は・・・)」 一郎はこの場にいるもう一人の人物に目を向ける。「・・・・・」 先程から一言も喋ってないが、料理長の目はこう言っている。 面白い事を知った。 にやにやと笑っている料理長を見ながら、一郎は明日から面倒な事になると思い憂鬱になった。 本気の追いかけっこは二人が疲れて終了した。 体を動かして少しはすっきりしたのか、アギトの顔にも笑みが浮かんでいる。 少し休憩し、落ち着いた所でリインフォースⅡが話を切り出す。「それじゃあ、イチロウのところに戻りましょう」「え~」 先程までとは打って変わって嫌そうな顔をするアギト。「え~じゃないです。 さ、行きましょう」 そう言ってリインフォースⅡがアギトの手を引っ張るが、「いや、明日でいいって・・・」 一郎と同じような事を言って抵抗した。 リインフォースⅡは一旦手を離し、駄々をこねるアギトを見ながら苦笑する。 「もう、駄目ですよアギトちゃん。 イチロウだってきっと待ってます」「あいつはもう帰ったって。 だからさ、今日はとりあえずキャロのところにでも・・・」「だーめーでーすー」 叱るような声を出してアギトの提案を却下するリインフォースⅡ。「いや、でもさぁ・・・」「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。 アギトちゃんがイチロウのことを思ってるのと同じくらい、イチロウだってアギトちゃんのことを大切に思ってるんですから」 リインフォースⅡの真っ直ぐな言葉に顔を赤くするアギト。「いや、あたしは別に・・・。 っていうか、あいつがそんなこと思ってるかなんてわかんないし・・・」 俯くアギトに、リインフォースⅡは明るい声を出して励ます。「そんなことありません」 一郎もアギトも普段強気というか強引な所があるのに、自分の事になると臆病な所がある。「イチロウも恥ずかしいから、アギトちゃんに知られないように隠そうとしてるんですよ」「なんでそんなことを?」「それはアギトちゃんだって知ってるはずです」 自分に関係している事だからうまく考えられないだけだ。 リインフォースⅡはアギトに向かって楽しそうに言う。「イチロウは・・・お馬鹿さん、なんですよ♪」 ・・・つづく。 ◆あとがき◆ えー、今回ははやてをメインにおいた話を展開させて・・・・・まぁ、出せただけましかなと思ってます。 次からは公開意見陳述会がスタートするので、今回のようなのんびりした展開はラストまで無いかもしれません。