~ 当時を振り返って ~ エリオ「・・・この頃のことを思い出すのは、正直恥ずかしいです。 確か・・・地球で一郎さんと会話をした後だったと思います。 その頃から一郎さんは僕に話し掛けてくるようになって、一緒にいることが増えていきました。 当時、周りに合わせて大人しくしていた僕は、傍から見れば年上のお兄さんに懐いているように見えたらしいんです。 実際は、そんなほのぼのした感じではなかったんですが・・・。 なんで一郎さんを拒絶しなかったのか、あの頃はわかりませんでした。 ・・・最低な話ですが、暴力で訴えることもできたはずです。 でも、今なら少しわかるような気がします。 僕が今まで出会ってきた人は、対応が三種類に分かれます。 優しくするか・・・拒絶するか・・・無視するか・・・。 拒絶や無視はなんとも思いませんでした。 周りに壁を作って閉じこもっていた僕には、気にするほどのことでもなかったからです。 優しくされること・・・これは主にフェイトさんやキャロがそうだったんですが、これも当時の僕には逆効果でした。 他人の優しさを素直に受け止められることは、あの頃の僕には不可能でした。 でも・・・一郎さんは、その三つのどれにも当てはまらなかったんです。 僕のことを知っているのに、それでもなんでもないかのように話し掛けてきました。 フェイトさんなら、同じような境遇の僕に同情でもしているんじゃないかって考えることも出来たんですが、一郎さんに対しては、どうしたらいいのかわかりませんでした。 素直に仲良くすることなんて当然できないし、かといって強く拒絶することもできない・・・。 出来ることといえば、一郎さんに悪態を吐くくらいでした。 きっとそのせいだったのか、この頃の僕は段々不機嫌になっていきました。 ・・・はっきり言ってしまうと、理解できない一郎さんにいらついていたんです・・・。 僕の人生を変えるきっかけになった出来事はその頃におきました。 今では一番大切・・・・・なのかな? よく判りませんが、まあ・・・そんなあの人と初めて本気でぶつかり合った、忘れられない出来事です。 話は、機動六課がホテル・アグスタでの警備任務を終えた頃の話です。 僕が学んだ事は二つ。 一つは、一郎さんの話は正しかったということ。 二つ目は・・・、 結局のところ、一番たちが悪いのは一郎さんなんだっていうことです」 魔法少女リリカルなのは【かんりきょくのこっくさん】 第17話「なぜ俺を連れて行かなかった!? 俺のスペシャルな能力が覚醒してルーテシアとフラグを立てる絶好の機会だっただろーが!!」 機動六課隊舎内の厨房で、一郎は料理を作りながら首を傾げていた。「アギト、キャロは特に問題ないって言ってたんだよな?」 六課に帰還する前にキャロと念話で話をしたアギトに聞いてみる。「ああ。 任務は成功したらしいし、怪我したやつもいないってさ」「・・・じゃあ、なんであいつ等はあんなに沈んでるんだ?」 そう言って、出来上がった料理を皿に盛り付けると、珍しく静かに食事をとっているスバル・キャロ・エリオを見た。 いつも明るく喋りながら食べるスバルは特に元気が無く、いつも十人前は食べる所を五人前程で食事を終えて俯いている。「一人足りないんだから、そいつが原因じゃないか?」「・・・だろうな」 一郎がそう呟きながら3人のいるテーブルを見ると、ちょうど一人分のスペースが空いていた。 「・・・んで、なんかあったのか?」「う~ん。 あったっていえばあったんだけど・・・」 気になった一郎は、今回の任務の報告書をまとめていたなのはに聞きに来た。 新人達と同じく少し気落ちした様子のなのはは、一段落したようで手を止める。 一郎が作ってきたキャラメルミルクを差し出すと、受け取ろうとしたなのはの手が一瞬止まる。「どうした?」「・・・ううん、なんでもない」 が、せっかく自分のために作ってくれたものを断る事つもりなど無く、ありがたく受け取って口にした。「・・・・・おいしい・・・・・」 「だったらもう少しうまそうな顔したらどうだ? おもいっきり不満そうに見えるんだが」「おいしいから不満なの」 一郎が相手では仕方無いとはいえ、こうも簡単に自分より美味しく作ってしまうと不機嫌にもなるというものだ。「まあ、そうだろーな」 一郎があっさりとそう告げると、なのはは立ち上がって一郎を睨みつけた。「やっぱり、わかってて作ってきたんでしょっ!」「いつまでもつまんねーツラしてるからだ」「つまらないって・・・、 別に一郎くんに面白いなんて思われたくないもんっ!」「お前はただでさえその凶悪な魔法で周りから恐れられてるんだから、少しは顔で笑いを取ろうとか思わんのかっ!!」「思う訳ないでしょっ!! わたしを一体なんだと思ってるのよっ!?」 そうして一郎となのはの口喧嘩が始まるが、もはや見慣れたのか、周りの隊員も止めに入る事は無かった。「・・・なるほど、そういうことか」「うん」 暫くして喧嘩をやめ、いつもの調子を取り戻したなのはが今日あった出来事を一郎に話した。 今日の任務はホテル・アグスタで行われた骨董オークションの警備で、出品物のロストロギアをレリックと誤認したガジェットが攻撃してきたらしい。 なのは・フェイト・はやてがホテル内の警備を担当していた事や、結局正体を確認できなかった謎の魔導師による召喚魔法などによって苦戦はしたものの、なんとかガジェットを破壊する事は出来た。 しかし・・・、「ティアナが危うくスバルを撃ち落すところだったと」「ヴィータちゃんが間に合ってくれたから大丈夫だったんだけど・・・」 ティアナは限界を超えた力を制御しきれず、放たれた弾丸がスバルめがけて飛んでいったらしい。「なんかあるのか、あいつ」「えっ!?」「前から無茶をするやつだとは思っていたが、限度ってもんがある。 なにか理由があるんじゃないのか?」「・・・」 なのはは話すべきか迷ったが、隠す事でもないと思い、一郎に話す事にした。 なのはからティアナが無茶をし続ける理由を聞いた一郎は、「・・・随分とまあ、しんどそうな道を選んだもんだ」 溜め息をつきながらそう呟いた。 ティアナには魔導師の兄がいて、その兄は任務中に死亡してしまった。 そんな兄を上層部が役立たずと切り捨てた事で、ティアナの心は深く傷ついたらしい。 それからティアナは、執務官になるという兄の夢を自分が変わりにかなえるために、強くなるために無理を続け、今回の無茶な行動に至ったのだとなのはは考えている。「まあ、とりあえず理由らしきものはわかったし、そろそろ戻る」 そう言って立ち去ろうとする一郎に、なのはが慌てて声を掛けた。「えっ、ちょっと待って!? 心配してるんじゃないの?」「してないとは言わんが、お前の教え子だろ? 俺にどうしろってんだ」 そう言われると、なのはとしては黙るしかない。 別になのはは一郎になんとかしてほしい訳ではないのだ。 ティアナのことは勿論自分で何とかするつもりでいる。「それに・・・俺の役目はどうやら終わったらしい」 「・・・?」 一郎が去り際に言った言葉は、なのはには理解する事が出来なかった。 一方そのころ・・・、「エリオ、もうゴハンは食べた?」 寮に戻るエリオをフェイトが話し掛けて引き止めた。「はい。 今日は早めに休もうと思います」 対するエリオの返事は、丁寧ではあるがどこかそっけない。「そっか。 今日は出動があったし、疲れてるよね」 相変わらずのエリオの様子に、フェイトは少し落胆しながらも話を続ける。「明日からも訓練は続くし、休める時にちゃんと休まないとね」「・・・」「えっと、あとは・・・」 無言のエリオにフェイトは段々焦っていく。「そうだ、最近一郎と一緒にいることが多くて驚いちゃった。 仲良くなったんだね?」 困ったフェイトは、エリオが一緒にいる事が多い一郎の話をし始めた。「一郎はとっても優しい人だから、きっとエリオも「すみません」・・・え?」 フェイトの話をエリオは無理矢理中断させた。「疲れているんで、いってもいいですか?」「え、ああ・・・うん、そうだよね。 ごめんね、疲れてるのに」「いえ、では失礼します」 そう言って、エリオは寮に入っていった。「(やっぱり・・・)」 離れていくエリオを見ながらフェイトは考えていた。「(エリオの顔、歪んでた)」 よく見ていなければ気付かないぐらい一瞬だったが、一郎の話をした時に、今まで変化が無かったエリオの顔色に変化が見られた。「(どうしてなんだろう)」 それがたとえ嫌悪であろうと、エリオが一郎に対して感情を表に出しているのは間違いない。「(私じゃ駄目なのかな?)」 何でも構わない。 エリオの思いをぶつけて欲しいのだ。「(・・・きっと、今のままじゃ駄目なんだ・・・)」 ティアナの事で皆が心配している中、フェイトは一人、別の事で静かに闘志を燃やしていた。 ・・・つづく。