とある日、時空管理局の管理外世界でロストロギアが発見された。 本来対策を講じるべき遺失管理部では手が足りずに、機動六課が派遣される事になる。 魔法少女リリカルなのは【かんりきょくのこっくさん】 第15話「この話はいいから先に進もーぜ。 ルーテシアが俺を待ってんだからよ」 派遣任務に就くスバルとティアナが屋上のヘリポートに集まるとなぜかその場に一郎とアギトがいて、傍にいるキャロがはしゃいでいた。 キャロと一緒に来たエリオはすでにヘリの中で待機している。「あれ、お兄ちゃんもですか?」 不思議に思ったスバルが尋ねると、「さあな。 あいつ等もなに考えてんだか」 一郎は溜め息をつきながらそう言うが、同じ任務につけることでキャロは嬉しそうだ。「あっ! よかった、一郎くんとアギトもちゃんと来たみたいだね」 次になのはとフェイトがヘリポートに現れ、一郎とアギトを見てほっとしている。 一郎はなのはに近付いて軽く睨む。「どういうつもりだ、なのは?」「え、なにが?」「なにが、じゃねえよ。 なんで俺が派遣任務に付き合わなきゃならん」 ロストロギア関連の任務に、調理スタッフの自分とアギトが必要だとはどうしても思えない。「いや、ほら・・・、 もしかしたら長期の任務になるかもしれないし、今回は人数も多めだから一郎くん達いると助かるかなあって」 いまいち説得力に欠けるなのはの説明だが、それよりもなのはの目が僅かに泳いでいる事に不信なものを一郎は感じた。 一郎がなのはの横を見ると、フェイトは分かりやすく顔を背けてくれた。「フェ・イ・ト?」 一郎はゆっくりとフェイトに近付くと、両肩に手を置いて優しく話し掛けた。「お前はまさか、俺に隠しごとなんてしないよな?」 優しいのは声だけで、一郎の顔は全く笑っていなかった。「え、あの・・・」 困ったフェイトはなのはに助けを求める。「なのは~」「だめだよフェイトちゃん。 一郎くんをびっくりさせようって、はやてちゃんと一緒に考えたでしょ?」「やっぱなんかあるんじゃねえか」 一郎はフェイトを問い詰めようとしたが、フェイトは一郎から離れてなのはの背後に隠れてしまった。 どうしたものかと迷っていると、なのは達にとっての救いの手は思わぬ所からやって来た。「一郎さんは一緒にいくのいやなんですか?」 アギトを頭に載せたキャロが、上目遣いで一郎を見つめる。「いや、別にそういう訳じゃ・・・」 「一郎さんも一緒って聞いたので、わたし・・・」 だんだんキャロの目が潤んできた。 アギトはキャロから一郎の頭上に飛び移り、髪の毛を軽く引っ張る。「(おい、どうすんだ?)」 アギトにとっては、任務云々よりもキャロが泣きそうな事のほうが重要らしい。 周りを見渡せば、非難を込めた目が一郎を射抜いていく。「(え、俺!? なぜに?)」 じっくり考えたいところだがそんな時間は無い。 キャロは今にも泣き出しそうで、一郎としてもそんなキャロをほっておく気は無い。 とはいえ、「(アギトだけならまだしも、衆人環視のもとでやらなくちゃならんのか?)」 一瞬躊躇いを見せた一郎だったが、すぐに腹を括る。 腰を落とすと、キャロと同じ目線で優しく語りかけた・・・先程のフェイトの時とは違って、今度は心から。「あのな、キャロ。 別に嫌ってわけじゃない」「・・・そうなんですか?」「もちろん。 ただな、俺がいたら邪魔になるだろ?」「そんなことないです」 今まで一郎の事を邪魔になんて考えた事すらない。 一郎は別にそういう意味で言った訳ではないのだが。「ありがとな。 でも、ロストロギアが発見されて俺が役に立てることなんかないし、ならなんで俺がって思っただけだよ。 だから、一緒に行くのが嫌って訳じゃない」 頭を撫でると、ようやくキャロは落ち着いたようだ。 キャロが一郎に抱きつくと、周りから暖かい視線が降り注ぐ。「(・・・勘弁してくれ・・・)」 今すぐにでも逃げ出したい一郎だったが、キャロの為にもなんとか耐え続けた。 抱き合う二人を見ながら、「(あんなに無茶ばっかりやってた一郎くんが、なんてまともな発言を・・・)」 なんて事を思わないでもなかったが、さすがに口に出すほど空気の読めないなのはではない。 なのはが横を向くと、すぐ傍でフェイトが涙ぐんでいる。 どうやら感動しているようだ。 その後、派遣任務に就く残りのメンバーのはやて・シグナム・ヴィータ・リインフォースⅡ・シャマルがやって来て、ようやく一同は出発する事になった。 ヘリの中で一郎は自分が連れてこられた理由をはやてから聞いた。「ロストロギアが海鳴市で発見されたってことか。 別に黙ってる必要はないだろうが」「いやあ、そのほうがおもろいと思って」 まさかキャロが泣くような事態になるとは思わず、はやては素直に詫びた。「まあ、いいけど。 それより、本当に俺がいて邪魔にはならんのか?」「大丈夫やって。 待機所としてアリサちゃんの別荘を貸してもらえることになったんよ。 せやから、いっちゃんとアギトにはそこにいてほしいんや」 はやての話を聞いた一郎は嫌な予感がしていた。「アリサの別荘ってことは、あいつも来るのか?」「そうやね」 案の定の展開に、一郎は次第に気分が重くなっていった。「一郎くん、今でもアリサちゃんと仲悪いんだよね。 わたしは仲良くしてほしいんだけど」 なのはが話に入ってきて、会う度に喧嘩を始める二人を心配する。 何もわかってないなのはに対して、溜め息をつく一郎をはやてが慰めていた。「まあまあ、そこがなのはちゃんのええところなんやから」 一郎は別にアリサの事が嫌いな訳ではないが、アリサにとっては、昔からなのはが楽しそうに一郎の事を話すのが気に入らないらしい。 すると今度は、ティアナが一郎達に質問をしてきた。「今から行く地球って所は、昔皆さんがいらしたんですよね?」「そうだよ。 わたしとはやてちゃんと一郎くんはそこの出身なの」「私は小さい頃に暮らしていたんだ」 なのはとフェイトが答える。「私達は六年ほど過ごしたな」 次に、ヴォルケンリッターを代表してシグナムも答えた。「わたしも少しだけですけど」「えっ、キャロも!?」 ティアナはまさか、キャロまで地球にいたとは思わなかった。「一郎さんと一緒に、なのはさんのお家におせわになっていたんです」「その頃はまだ出会ってなかったから、あたしは行ったことないけど」 そう話すアギトの体は、何時の間にかサイズを変えて大きくなっていた。 リインフォースⅡもそうだが、地球で目立たない為に二人は普通の子供として振舞うらしい。「へー、そうだったんだ・・・ん?」 色々な事を知って感心するティアナだったが、隣を見るとスバルの元気がない。「どうしたのよ?」「えっ、ああ・・・うん」 いつも喧しいぐらいに元気なスバルなので、こうも落ち込んでいるとやけに気になる。 ティアナが不思議に思っていると、一郎がスバルに近付いて髪をくしゃくしゃに掻き混ぜる。「まーだ気にしてんのかお前は」「だって」「だってじゃねえよ、ったく。 ・・・そんなこと気にするより、その酷い髪型気にしたほうがいいんじゃないか?」 自分でやっておきながら、スバルの乱れた髪を指差して一郎は笑った。「あうっ。 今お兄ちゃんがやったのに・・・」 髪を押さえながらスバルは頬を膨らませる。「あの、どういうことなんでしょうか?」 ティアナはフェイトに尋ねる。「そっか、ティアナは知らないんだね。 四年前に一郎とスバルが空港火災に遭遇したのは知ってる?」「はい、スバルから聞きました」 複雑な表情をしながら話してくれたスバルの顔は今でも覚えている。「その時に一郎が大怪我しちゃって、リハビリのためにキャロと一緒に地球に戻る事になったの」「そうだったんですか」 だから一郎とキャロが地球で過ごしていた頃の話を聞いて落ち込んでいたのか。 今まで詳しくは聞かなったので、そういう事情があったとは知らなかった。 再びスバルを見ると、直した髪を乱されて笑いながら一郎に文句を言っていた。「あら、はやてのところをクビにでもなった?」 一郎とアギトがアリサの別荘の前に転送されると、不敵な笑みを浮かべたアリサの嫌味が一郎を出迎えてくれた。「相変わらずだな、アリサ」 いつも通りといえばいつも通りの対応に、一郎は苦笑しながら手を差し出す。「ふんっ」 叩きつけるように自分の手を合わせ、これまたいつも通りの挨拶を終えた。 傍で見ていたアギトは以前アリサの事を一郎から聞いていたので、仲がいいとはとても見えない二人を見ても何も言わなかった。「それでなのは達は?」 久しぶりの親友達との再会に、アリサははやる気持ちを押さえきれない。「あいつ等はもういったよ。 市街地の捜索って言ってたかな」 一郎の言葉にあからさまに肩を落とすアリサ。 しかし、一郎の傍にいるアギトに気が付くとその表情が一変する。「一郎っ、この子がアギトなの?」 なのはからのメールで知ってはいたが、実際に会うのはこれが初めてだ。「ああ、俺の相棒だ」 そう言って、傍で見ていたアギトをアリサの目の前に押し出す。「えーっと・・・アギト、です。 よろしく」「うんっ! あたしはアリサ、よろしくね」 そう言ってアギトの頭を撫でた。 アギトは頭を撫でられるのは好きではないのだが、初対面の人間で一郎の知り合いという事もあって我慢した。「一郎といつも一緒だからって、こいつみたいに無愛想なのはだめよ。 せっかくかわいいんだから」 そう言って、そのまま一人で別荘の中に入っていこうとする。「あいつ・・・。 アギト、前にも言ったと思うがアリサは・・・」「いいよ別に。 何度も言わなくてもわかってるって」「そうか、ならいいけど」 一郎もアリサの後を追った。 追いついてすぐに口喧嘩を始める二人を見ながらアギトは思う。「(見てればわかるさ。 結局、あたしと同じって事だろ)」 でなければ、喧嘩しながらあんなに楽しそうな顔で笑う訳がない。 この日の捜索は、教会本部からの情報で事件性もロストロギア本体の攻撃性もない事がわかりひとまず終了した。 待機所へと戻る途中、分かれて捜索していたライトニング分隊とスターズ分隊は合流してなのはの自宅、喫茶翠屋に寄ることにした。 店に近付くといきなりキャロが走り出して、何のことかわからないスバルとティアナを慌てさせた。「「キャロっ!?」」 他のメンバーはわかっているのか平然としている。 皆が店に入ると、店中では桃子がキャロを抱きしめて感動の再会を果たしていた。「あらなのは、おかえり。 ・・・どうしたの?」 久しぶりに会う妹が微妙な笑いを浮かべている事に首を傾げる美由希。 キャロの後だからなのか、美由希の態度もあっさりとしたものだった。「いや、いいんだけど・・・」 一応ここは自分の実家では? そういう思いもないではないが、目に涙を溜めながら抱き合う二人を見ているとそんな気持ちも吹き飛んだ。「なのは、帰ってきたな」「お父さんっ!」 今度こそ嬉しそうな顔をするなのはだったが、「一郎も帰ってきてるのか? アギトちゃんにはぜひ会いたいと思ってたんだが」「うわぁ~~~~~ん!!!」 なのはが泣きながら店の奥に走っていく様子を、スバルとティアナは唖然としながら見ていた。 その後、すっかり拗ねてしまったなのはを皆でなだめてから、ケーキと飲み物を受け取って待機所へと向かう事にした。 すずかの元へ寄っていたはやて達がすずかと共に別荘に着き、夕食の準備をしていた一郎達を手伝っていると、翠屋に寄っていた連中が待機所に到着した。 なのはとフェイトがすずかとの再会を喜んでいると、別荘にエイミイと美由希とアルフがやって来る。 そしてその頃、ちょうど夕食の準備ができたので皆でバーベキューをする事になった。 「そうか、それはまた楽しそ・・・じゃなかった、災難だったな」 食べながら翠屋であった事を聞いていた一郎は、思わず本音が出てしまいなのはに睨まれた。「別に拗ねたとかじゃないもん!」 なのはの反論も、皆の笑いを誘うばかりで効果は無い。「桃子さん、キャロのことすごく可愛がってるから」「あーフェイトちゃんまでー」「俺としてはありがたいんだけどな」 今でも、自分だけでは行き届かない部分を桃子がなんとかしてくれたと思っている。「せっかく来たんだし、出来ればアギトを連れて挨拶に行きたいんだが大丈夫か?」 とはいえ、任務中という事もあり無理を言うつもりは無い。「なに言うてるん? そんなん当たり前やろ」 そんな一郎に対してはやては当然のように言った。 元々、そのために無理矢理連れてきたのだから。「その人って、前に何度も話してくれた人だろ?」 一郎の隣にいるアギトが一郎に聞いた。「ああ。 なのはの母親で、俺やキャロがすごくお世話になった人だ」 ・・・つづく。