キャロ「これから、初めてのじっせんになります。 いつも一緒のフリード。 一緒にくんれんをしているスバルさんにティアさんにエリオくん。 わたしたちをきたえてくれるなのはさん。 それに、フェイトさんにリインさん。 たよりになるみんながいて、そんなみんなと一緒なら、心配することなんてなにもありません。 それなのに、なんでこんなに不安なんでしょう? ・・・どうしよう、ふるえが止まらない・・・」 魔法少女リリカルなのは【かんりきょくのこっくさん】 第14話「なのは、フェイト、いざとなったら頼むぞ。 いや、ほら・・・弾除けになるとか、さ」「あ」「一郎っ! てめー何度目だっ!!」「す、すいません!」「やる気がねーなら帰るか、ああっ!?」 機動六課内の厨房では、出来上がった料理を床に落とした一郎が、料理長に怒鳴られていた。 普段の一郎とは比べ物にならないほど集中できていない。 説教が終わり、一郎は落とした料理を片付け始めたが、すぐにその手が止まる。 そのまま固まってしまった一郎にアギトが声をかける。「イチロー、大丈夫か?」「ん、アギトか。 大丈夫ってなにが?」 何でもないかのようにふるまうと、一郎は片付けを再開した。 しかしそれも長くは続かず、一郎の動きは再び止まってしまった。 そんな挙動不審な一郎を、アギトは溜め息をつきながら見つめていた。 機動六課初の実戦となる今回の任務は、山岳地帯を走行する貨物車両からロストロギアの一種であるレリックを確保する事と、そのレリックを狙う機械兵器・ガジェットドローンの全機破壊の二つが目的となる。 現場に向かう途中、ヘリの中で任務の内容をリインフォースⅡから聞きながらも、キャロの頭はパニックに陥っていた。 頭の中が真っ白で、任務の内容が頭に入ってこない。「(なのはさんは大丈夫って言ってくれたのに、どうして?)」 自分を励ましてくれたなのはは、フェイトと共に制空権を確保する為に先に出撃してしまって、もうここにはいない。「(あんなにくんれんしたのに・・・)」 俯いていた顔を上げると、キャロは周りを見渡した。 自分以外の新人3人は、多少緊張している様子が見られても、自分のように震えている者はいない。「(だめ・・・こわい・・・)」 両手で自分の体の震えを抑えながらも、ついには弱気な考えが頭をよぎる。 そんな、キャロの気持ちが限界を超えようとしている時に・・・、《キャロ、大丈夫か?》 アギトからの念話がキャロに届いた。《アギトさんっ!?》 声に出して叫びそうになるキャロだったが、なんとか堪えてアギトに返事をした。《任務中にどうかと思ったんだけど、心配になってさ》《ありがとうございます。 でも、大丈夫です》《・・・そっか、ならいいけど》 キャロはアギトに心配をかけないよう平静を装うが、いつもキャロの事を気にかけているアギトには、不安や緊張を隠し切る事は出来なかった。《あの、一郎さんは?》 それでもキャロは念話を続けた。 無意識に、一郎の事を考える事で不安をかき消そうとしているのかもしれない。《えっ、ああ・・・。 大丈夫、キャロにがんばれって伝えるよう頼まれたよ》 念話をしながら少しは落ち着いたおかげか、アギトの返答が一瞬詰まったのをキャロは気付く事が出来た。《一郎さん、どうかしたんですか?》《いや、別になにもないって》《アギトさん》《うっ》《・・・・・》《・・・ハァ、わかったよ。 出来れば、出撃前のキャロには話したくなかったんだけど》 根負けしたアギトは、キャロに念話を送った事を後悔していた。 自分自身もキャロを心配してテンパっていた事には気付けなかったようだ。《アイツは今、すげーまいってる》《え?》 一瞬、アギトが何を言っているのか理解できなかった。《注文受ければ間違える。 作り出したら今度はさ・・・料理を焦がしたり、出来た料理を床に落としたりして、もう滅茶苦茶だよ。 料理長に怒鳴られて、あたしも一緒に厨房から追い出されちまった》《一郎さん、が?》《今は隊舎の裏にいるんだけど。 あっちこっちうろうろして、まるで落ち着きがない》《・・・・・》《あたしが声をかけると平気な顔するんだけどさ、すぐ元に戻っちまう》《わたし、一郎さんに心配かけてるんですね》 キャロの声がだんだんと小さくなっていき、アギトは焦った。《それは違う!! キャロはそんなこと考えなくていいんだ。 一郎のことならあたしがなんとかするから》《一郎さん、きっと困ってます》《だから違うって!!》 やはりキャロは落ち込んでしまったのだと、アギトはそう考えていた。 しかし実際は、キャロが考えていた事はアギトの想像とはまるで違っていた。「(そうだ・・・思い出した)」 今までは頭がパニックで真っ白になってしまい、何も考えられなくなっていたが今ならわかる。「(なんのために、わたしが管理局に入ったのか)」 高町家で桃子が言っていた事。 たとえ一郎と離れる事になっても、それでも自分が頑張れる理由。 それは・・・、「一郎さんのために、わたしはがんばるんだ」 不安で揺れていた目を見開くと、キャロははっきりと声に出した。「(不安に思うことなんかない。 こわくなんてない。 一郎さんが心配してる。 困ってる。 なら・・・)」 “こんな事ぐらい”で、立ち止まってなんかいられない。《アギトさん》 再びアギトに念話を送った時には、キャロの中から迷いはすっかり消えていた。 《キャロっ!!》 その頃アギトは、キャロからの念話が途切れた事で気が動転していた。《一郎さんに伝えてください》 そんなアギトに対して、キャロは落ち着いた様子で話を続ける。《すぐに帰りますから、そうしたらわたし、一郎さんの作ってくれるスープが飲みたいです》《スープ?》《はい。 一郎さんと初めて会ったときに、わたしに作ってくれたんです》 詳しくはわからないが、キャロにとってとても大切な事らしい。《そっか。 わかった、必ず伝えるよ》《ありがとうございます。 アギトさんも、心配かけてごめんなさい》《あやまんなって。 大丈夫なんだよな?》 先程までと違い、キャロの声は真っ直ぐアギトに届いたが、それでもまだ心配だった。《はい。 思い出しましたから、こんどはもう平気です》《思い出した? なにを?》 アギトの質問にキャロは、「・・・ないしょ、です・・・」 少し考えてから、恥ずかしそうに言った。 キャロがアギトとの念話を終えると、ヘリはちょうど降下ポイントにたどり着いたところだった。 まずはスターズ分隊のスバルとティアナが先に降りた。「次は僕達の番だよ」 キャロを見ずに、平坦な声でエリオが呟く。「うん!」 迷いを感じさせないキャロの返事に、エリオは思わず振り向いて、キャロを見つめていた。 するとそこには、先程まで震えていた様子など微塵も見せないキャロがいる。 「・・・」「どうしたの?」 黙って見つめてくるエリオに、キャロは首をかしげる。「なんでもない」 エリオは顔をそむけて気を取り直すと、普段よりも無機質に答えた。「次っ、ライトニング!」「「はいっ!!」」 ヘリパイロットのヴァイスに向かって返事をすると、キャロとエリオは貨物車両に向かってヘリから飛び出した。 ・・・つづく。