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No.5159の一覧
[0] ループ(リリなの転生物)前書き [BIN](2009/02/24 00:14)
[1] ループ(リリカル転生・習作)[BIN](2009/01/01 01:45)
[2] ループの二(好評のようなので)[BIN](2009/01/01 01:46)
[3] ループの二ノ一[BIN](2009/01/01 01:48)
[4] ループの二ノ二[BIN](2009/01/01 01:50)
[5] ループの二ノ三[BIN](2009/01/01 01:52)
[6] ループの二ノ四[BIN](2009/01/01 01:52)
[7] ループの二ノ五[BIN](2009/01/01 01:52)
[8] ループの二ノ五ノ外――ムカつく変な奴。(俗にいう外伝)[BIN](2009/01/01 01:54)
[9] ループの二ノ六[BIN](2009/01/01 01:54)
[10] ループの二ノ七[BIN](2009/01/01 01:54)
[11] ループの二ノ八[BIN](2009/01/01 01:54)
[12] ループの二ノ終[BIN](2009/01/01 01:55)
[13] ループの二・五ノ一[BIN](2009/01/01 01:55)
[14] ループの二・五ノ二[BIN](2009/01/01 01:55)
[15] ループの二・五ノ三[BIN](2009/01/04 03:45)
[16] ループの二・五ノ四[BIN](2009/01/01 01:53)
[17] ループの二・五ノ五(修正しただけ)[BIN](2009/01/01 01:52)
[18] ループの二・五ノ六[BIN](2009/01/01 01:52)
[19] ループの二・五ノ七(ゴメン、また修正だけなんだ)[BIN](2009/02/23 22:06)
[20] ループの二・五ノ八。[BIN](2009/01/01 01:49)
[21] ループの三ノ一(すずか編 通称どN)[BIN](2009/01/03 03:10)
[22] ループの三ノ二(すずか編 通称どN)[BIN](2009/01/04 03:44)
[23] ループの三ノ三(すずか編 通称どN)[BIN](2009/01/07 00:03)
[24] ループの三ノ四(すずか編 通称どN)修正しました[BIN](2009/01/11 03:07)
[25] ループの三ノ五(すずか編 通称どN)修正しました[BIN](2009/01/11 03:07)
[26] ループの三ノ六(すずか編 通称どN・完結)[BIN](2009/01/13 13:50)
[27] ループの四ノ一(やっとこさA,s…に入れてない?!)[BIN](2009/01/19 10:45)
[28] ネタ、作者の病気。反論は受け付けない俗にいうIF-----TS注意!![BIN](2009/01/10 23:02)
[29] 作者の病気は皆の病気?今回は軽度、前回は中度-----TS注意!![BIN](2009/01/17 08:23)
[30] ループの四ノ二(やっとこさA,s…に入れてない?!)[BIN](2009/01/19 10:44)
[31] ループの四ノ三(やっとこさA,s…に入れてない?!)[BIN](2009/01/21 21:02)
[32] ループの四ノ四(やっとこさA,s…に入れてない?!)[BIN](2009/01/21 23:54)
[33] ループの四ノ五(やっとこさA,s…に入れてない?!)修正しただけなんだぜ?[BIN](2009/01/22 10:24)
[34] ループの四ノ六(やっとこさA,s…に入れてない?!)[BIN](2009/01/25 00:54)
[35] ループの四ノ七(やっとこさA,s…に入れてない?!)シグナムの紹介を追加[BIN](2009/01/26 20:29)
[36] ループの四ノ八(やっとこさA,sに入りました!!)修正[BIN](2009/02/08 23:00)
[37] 俺のあたまがバニングス!!!!!!!!!!! 熱病だ…自重しようTS注意!![BIN](2009/02/23 22:30)
[38] ループの四ノ九(やっとこさA,sに入りました!!)ミスッタ、ゴメンなさい[BIN](2009/02/23 22:28)
[39] ループの四ノ終(やっとこさA,sに入りました!!)修正しました[BIN](2009/07/07 22:21)
[40] ループの五ノ一[BIN](2009/04/13 03:32)
[41] ループの五ノニ[BIN](2009/04/26 20:00)
[42] ループの五ノ三[BIN](2009/05/11 22:58)
[43] ループの五ノ四[BIN](2009/05/13 23:20)
[44] ループの五ノ五[BIN](2009/05/18 01:48)
[45] ループの五ノ六[BIN](2009/05/18 01:45)
[46] ループの五ノ七(ヴィが活躍?)[BIN](2009/05/22 00:52)
[47] ループの五ノ八[BIN](2009/05/31 23:39)
[48] ループの五ノ九[BIN](2009/06/11 23:06)
[49] ループの五ノ十[BIN](2009/06/23 22:17)
[50] ループ・たたり編。開始[BIN](2009/06/20 14:29)
[51] タタリ編ー2[BIN](2009/07/07 22:15)
[52] タタリ編ー3[BIN](2009/07/24 23:29)
[53] タタリ編ー4[BIN](2009/07/07 22:11)
[54] タタリ編ー5[BIN](2009/07/24 23:27)
[55] タタリ編ー6[BIN](2009/08/15 01:35)
[56] タタリ編七[BIN](2009/09/12 21:06)
[57] タタリ編八[BIN](2009/10/15 01:49)
[58] タタリ編九[BIN](2009/10/21 02:16)
[59] タタリ編十[BIN](2009/11/16 02:55)
[60] タタリ編―十一[BIN](2010/01/22 23:08)
[61] タタリ編十二(少し修正・改行)[BIN](2010/03/23 03:03)
[62] タタリ編 十三(修正しました)[BIN](2010/03/23 02:48)
[63] 日常?(修正しました)[BIN](2010/03/23 02:44)
[64] 日常2?(修正しました)[BIN](2010/03/23 02:39)
[65] A'sに入った!! 一[BIN](2010/03/23 03:22)
[66] ループのA'sの一[BIN](2010/04/20 23:55)
[67] A´sの二[BIN](2010/05/12 19:12)
[68] A'sの三[BIN](2010/06/08 22:45)
[69] A'sの四(2010.06.12修正)[BIN](2010/06/12 01:33)
[70] A'sの5[BIN](2010/07/03 21:15)
[71] A´sの6[BIN](2010/08/27 20:45)
[72] A´sの7[BIN](2010/11/24 23:35)
[73] A´sの8[BIN](2010/12/31 23:29)
[74] A´sの9[BIN](2011/03/27 16:24)
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[5159] タタリ編九
Name: BIN◆d3245a21 ID:4b8c7aee 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/21 02:16





『通りゃんせ 通りゃんせ ここはどこの 細通じゃ』

ガサリと音を立てて草むらから少女が現れた。

『天神さまの 細道じゃ ちょっと通して 下しゃんせ』

自分の娘より少し年下の少女…の様なモノだった。

『御用のないもの 通しゃせぬ この子の七つの お祝いに』

長い金髪にこの国でいう巫女服という物を着ているが、明らかに人ではなかった。
揺れる二本の尻尾に頭から生えている獣の耳。ルーダーは思う。コレが妖怪というモノなのかと。使い魔とは格が違う。独立した生命体。纏う雰囲気からして違う。放つ力はなぜか心を刺激する。
恐怖なのかもしれない。畏れナノかもしれない。ただ断言できる。コレは人が恐れてイイモノで恐れを持たなければならないモノなのだと。

『お札を納めに まいります 行きはよいよい 帰りはこわい』

ルーダーがそう確信した様に、氷村遊は動揺した。なぜか? 焼いた筈の傷がないのだ。ソレはオカシイ。焦げ後すらない。毛並みが所々焦げていたはずだ。
無様に這い蹲っていた筈だ。
蹴り飛ばした時には瀕死だった筈だ。
なのに、それら全ての欠片も無い
何よりも違うのは力が違う。危険だと全てが警戒音を鳴らす。アレは危険だ。先程までとは違う。力が違う。何よりもそれ以上に何かが違う。
考える前に体が動く。アレは直ぐに殺さなければ拙い。

「死ネェェェェェェェ!!!!!!!!」

『こわいながらも』

だが遅い。この場には久遠を知る者が一人残っている。全ては知らない。だが、『久遠』を知り『タタリ』を知る者が一人だけ残っている。

「ハァァァァァ!!!」

高町恭也の咆哮が全てを動かせた。神速での抜刀。掠るだけで終わる一撃。それに気を取られない氷村。ルーダーが少女の前に展開したラウンドシールド。一瞬だけ動きが止まった。ファラリスが躊躇無く自身の傷に指を突き入れた。

「ギィッ?!」

仰け反る氷村。その仰け反った状態で見えた。見えてしまった。口から下が真っ赤に染まった明智良哉が。笑っている明智良哉が見え、口の動きを読んでしまった。

「また貴様かぁぁぁ!!!!!!!!!」

「「通りゃんせ 通りゃんせ」」

全てが覆された。









死にたくない

シニタクナイ

嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

消えたくない!!

泣く。女が泣く。妄念が啼く。怨霊が鳴く。嫌だと叫ぶ。
復讐は果たされない。望みは叶わない。嘆きが止まらない。怒りが収まらない。

クソッタレとソレは叫んだ。新しく取り込んだモノの知識が教えてくれた。新しく取り込む度に知識は増え、怒りは増し、嘆きが止まらない。
こんな所で止まれない。こんな事では許されない。彼が浮かばれない、浮かばれる筈も無い。彼は居ないのだから。

(弥太…弥太弥太弥太!! )

許せるものか、止まれるモノか!!

あぁ、だが哀しい事にこの場で終わってしまうのだろう。タタリは此処で終わってしまうのだろう。取るに足らぬ存在だと思っていたモノは意外と強かった、その中に在った潜在的な力が強かった。何よりも相性が悪かった。微かに見えたその血統の祖に近しい位置にそいつは居た。



狐から生まれた、女から生まれたタタリが狼に勝てる筈がない。あぁ、口惜しい。意識を食われ自我を喰われ力を喰われ最後に存在さえも喰われてしまう。
口惜しいくちおしいクチオシイ…

叫びは聞こえないだろう、嘆きは聞こえないだろう、怒りを感じる事もないだろう。

口惜しい…自身が消えれば、誰が伝えるのか? 笑っていた男の事を、心優しい少年の声を

口惜しい…自身が消えれば、誰が覚えておくのだろうか? あの温もりを、暖かさを、心地良さを!!

手がさし伸ばされた。見覚えが有る手だった。だから、私はその手を掴んだ



嘆きが聞こえる、怒りを感じる。感じるどころではない、ソレは正に自分の物なのだ。肩代わりさせていた。ずっと縛っていた。彼女を縛っていたのは人の想いだ。でも、ソレをさらに強くしたのは自分だった。
だって、そうでしょう? 彼は犠牲になった。人は彼を忘れない。人は理由はどう在れ彼を祀った。彼の温もりは忘れ去られるだろう。声も、形も、その生き様も、何もかも、彼を構成する殆どの事が忘れ去られてしまうだろう。
だが、存在は残る筈だった。そういった存在が居たという事を遺せる筈だった。
自分が全てを駄目にしてしまった。自分こそが彼を完全に殺してしまった!!
残ったのは私の行動だった。消してしまったのは私の行動だった。絶えられる筈も無い。一番愛した。誰よりも好きだった。彼が居れば他はどうでも良かった。あの時、自身の全てが彼だった。
だから、身代わりを作ってしまった。造ってしまった、創ってしまった。あのまま殺されれば其れで良かった。だが、醜くも残ってしまった。全てを忘れて残ってしまった。
あぁ、彼女が強いのは当たり前だ。彼女はずっと、覚えていて、苦しんでいた。私が負けるはずだ。縛られる筈だ。彼女に全てを任せてしまえば良かった。


少し前まで私ならそう思ってしまったのだろう。

「ずっと…背負って行くから…」

彼の様に、幾らでも傷を負をう。幾らでも後悔しよう。幾らでも反省しよう。そして…最後は決着をつけて見せる。

見せるから…

「もう、眠っても大丈夫」

貴女事、背負っていくから

「もう…貴女は貴女を許してあげて?」

伸ばした手で、伸ばされた手を掴む。彼女が笑った様に見えた。


時間は一瞬、一瞬で良かった。放たれた雷に当たる瞬間に自身の雷を当てて相殺して一瞬だけ繋げた。その結果、相殺しきれなかった雷に焼かれたが、彼女とは繋がれた。
蹴り飛ばされたのは痛かったが、実質痛いだけで問題はなかった。
アレは既に終わっている。解っていない。解る筈も無いのだろう。なぜ、人が妖怪を恐れるのか。亡霊風情に解る筈も無い。力だけ妖怪に成ったとしても、アレは所詮亡霊という枠からは出られない。
それよりも、気になるのは明智良哉の存在だった。死んでしまったかも知れない。否、ソレは今の所は無いが何れそうなるかもしれない。アレの一撃は自分でも痛い。
人の姿になるとガッっと音が聞こえた

(生きてる)

嬉しい。あの人間はまだ足掻いている。こんな、情けない化物の為に足掻いている。当初の計画通りに動いてくれている。それだけで嬉しい。
あの暴力の嵐から自身を庇ってくれた。あの時の自分では死んでしまうだろう嵐から守ってくれた。書きかけの印に線を足す。
呼んで欲しい。名前を呼んで欲しい。あの強い魂を持つ人間に、ボロボロで薄汚くて継ぎ接ぎだらけの魂を持つ男に読んで欲しい。
一緒に戦わせて欲しい。

「ぐ…お゛ん!!」

あぁ、あぁ!! 呼んでくれた。先に立つモノが呼んでくれた。なら、そこまで行ける。私は答えを出す前に、問題を見る前に投げ出してしまった弱いモノだ。だけど、貴方が教えてくれた。答えの一つを教えてくれた。
全てを飲み込み切り捨てる鋼の人よ。貴方は受け入れた、貴方は噛み締めた。貴方は全てにけじめを着けながら歩いていた。だから、その後ろをトボトボと着いていきます。
怖がりながら、貴方の支えに成れるように。だから…

「進んで…良哉」

黄泉路の門が開いた





全てが覆る様な感覚が奔った。全ては変わっていない。変わっていないが、この状況が望みだった。唯一、明智良哉が氷村遊に勝てる決戦場を作ることが狙いだった。人が怨霊に勝てる場所を作ることが目的だった。

久遠曰く。亡霊に抗うには強き心、命、魂を持って打ち砕く

人は亡霊に勝てない。勝てるのは一部の特殊な力を持った人間だ。大多数の人間では勝てない。

だが、亡霊に亡霊をぶつければ? 魂に魂をぶつける事が可能なら…勝てる見込みはあるのだ。
成りたての怨霊なら特に。

全ては確認していた。

氷村遊は悲鳴を上げる。痛みに膝を突く。全て人間と同じ反応だ。

「お前っ!! お前がぁぁ!!」

――――――――――――つまり

久遠の二尾が唸り、氷村を空へと打ち上げる。

――――――――――――奴は

誰よりも早く動いたのは高町恭也だった。

落ちてくる氷村に対して、抜刀ではなく無手で喰らいつく。

「御神流」

落ちてくる氷室に合わせて体を下に入れる。何もしなければ『激突』する。だが、その瞬間に真上に蹴りを放ち其の侭氷村の体を反転させながら地面に叩きつける。

「猿落とし!!」

「ギッ!!……!!」

もがく。悪霊が苦しむ。

―――――――――――生きていた時の己に縛られている。

体を抉られた分けじゃない。存在の一部を失った分けでは無い。つまり、そういう事だ。

(ルーダーさん、ファラリスさん。今なら、全てが効きます!!)

「了解!!」

「貴方は?」

あぁ、ファラリスさんは鋭いなぁ。

「大丈夫ですよ。この場でなら、俺は大丈夫です。」

「信じるわ!!」

さぁ、俺もはじめよう。

「久遠」

「うん」

手が合わさった




氷村遊は痛みにもがきながら開放した。混乱が有る。動揺もしている。何よりも恐怖している。

(早く…早く殺さなければ!!)

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「しまっ?!」

全身から放たれる雷撃。直線ではなく円。点ではなく面で蹂躙する。その雷撃の威力は直線のモノよりも威力は劣る。だが、ソレは雷。当たれば痺れる。焼ける、運が悪ければ死に到る。雷が放たれてしまえば避ける事など無理に等しい。しかも、今回のこの攻撃はここに居る全員が初見であり、放つ前の予兆など分らない。
高町恭也は逃げられない。声を上げるも時は既に遅く、その一撃を甘んじて受けるしかない。覚悟は一瞬、驚きはその後できた。
それは、モニターで彼等の戦いを見ていた月村忍も同じだった。

「っ?! 恭也!!」

間に合わない。ノエルに連絡しても間に合わない。最悪の可能性が頭にチラつく。冷静さを失いそうになり、ガタッと言う音で後ろを振り向く。
月村すずかが呆然としていた。

(しまった!!)

忍はすずかに黙っていた。すずかが狙われていた可能性が高かった事、ソレをすずかのクラスメイトが防いだかも知れない事。その所為ですずかと同じ年の少年が血塗れに成っている事。恭也が死ぬかもしれないという事。彼等が死ねば、次は自分達の可能性が高いという事。

「恭也…さん? あれ? なんで?」

モニターの向こう側で、高町恭也は無傷とわ言えないが立っていた。所々火傷の様な傷ができ、服も所々が焦げていたが五体満足だった。

『ふぅ…フィールド系を張るのは久しぶりだったが…無事か? 恭也?』

『えぇ…問題有りません。』

不可視の壁が恭也を守りきった。会話からして、ルーダー・アドベルトが守ったのだろう。それに少しだけ、落ち着きを取り戻す。顔をモニターに向けたまま忍はすずかに言う

「…終わったら、全部話すから…部屋に戻っていなさい。すずか」

ソレは姉としての優しさから出た言葉だった。しかし、すずかは動かない。魅入っている。
動く気配の無いすずかを不思議に思い、また、後ろを向く。すずかは震えていた。その震えは恐怖から来るものだろうと思った。故にすずかの従者であるファリンを呼ぶ。
妹の震えが止まらない。手を伸ばし、優しく抱きしめようとして…忍は飛び引いた。

「す、すずか?」

近づいて分った。あの震えは…

「ハ…っ…あぁぁ」

『私達』特有の飢えだ

拙い。これはいけない。すずかにはまだ早すぎたのだ。すずかが『飢え』を我慢しているのは知っている。

(くっ?! 刺激が強すぎた!!)

すずかの視線はモニターの一部に釘付けになっている。画面の端、妖狐と手を合わせている眼帯の少年。確かに彼はすずかのクラスメイトだった。しかし、それ以上の関係は無かった筈だ。調べれば調べる程にあの少年とすずかの接点は無いに等しい。すずかの友人、アリサ・バニングスと少年の中は最悪に近いモノだった。すずかからもその様な事を聞いている。調べる限りではアリサちゃんの一人相撲の様だったが…。
そして、嫌う人が居るのだろうか? と思ってしまうぐらい良い子ななのはちゃんを苦手としていたという事も分っている。
何よりも、あの少年の事をすずかが気には成っても心を寄せる事は無いと半ば核心している。情報だけでしかあの少年の事を知らないからかも知れない。だが、そう思えるだけの事を隠している。
あの少年の両親は死んでいないと周囲は思わされている。だが、あの少年の両親は間違いなく死んでいる。あの少年、明智良哉は実の親の死を隠匿している。
墓も有った。私が其処を見に行った時、其処には人が来た痕跡は無かった。
何よりも、その両親の死を隠匿した方法が分らない。病院にも、会社にも知り合いにも、その情報が無い。
確実に大きな組織が関与している。私はそう思う。

「すずか!! 確りしなさい!!」

「…あっ……お姉ちゃん? なんで…明智君が…」

良かった、まだ大丈夫だ

「ファリン!! ファリン!! すずかを連れて下がりなさい!!」

私の叫び直ぐ駆けつけたファリンにすずかを預け、私は私の仕事をする。

「まぁ…忍ちゃんにはコレくらいしか出来ないんだけどさ」




体が熱い。喉が渇く。視界に映ったのは赤。彼の口から流れ胸元を汚し、体中から赤い毛糸の様に流れ出てとても美味しそうに見えた。
何も知らない。戦っている理由も、血塗れな理由も、恭也さんと居る理由も、その戦いをお姉ちゃんが見ている理由も、何も知らない。当たり前だ、だって彼は私達を避けていた。私達に近づこうとはしなかった。誰にでも優しかった彼は、私達には優しくは無かった。
何か酷い事をしてしまったのだろうか? なのはちゃんと考えた事がある。
アリサちゃんは彼の目が気に入らないムカつくと言っていたが、私はそうでもない。あの目は深い。とても深い。まるで海を見ている様にな気がする。そして、どこか壊れ物の様にも見えて…かなり不思議だった。
たぶん、クラスの皆もそうだと思う。彼が居なくなった教室はどこか騒がしかった。ソワソワとしていた。其の時に私は思った。

空気

酷い意味では無く、良い意味で空気。

無ければ困る。有っても其処まで気にはしない。当たり前だから。授業中に先生が何度その名前を呼んだか。休み時間、何人が彼の名前を呼んだか。
私は彼の事を何も知らない。知りたかったけど知らない。気になっていたけど知らない。ずっと、ずっと気になっていたけど、彼が近づけさせてはくれなかった。
画面越しに見た彼はぜんぜん違った。静かな優しい雰囲気は無かった。爛々と強い光を灯していた右目。力なく垂れ下がる左腕。口の端から滴る血も気にせず獰猛に笑っていたあの表情。
ドレもが初めてだった。見た瞬間に頭の中が真っ白になった。渇いて渇いて仕方が無かった。だから、私は知りたい。大嫌いな血液を飲みたく無いというのも有った。でもそれ以上に知りたい。あの場を見る限り、彼は私達側に居る人なのだろう。なのはちゃんやアリサちゃん達とは違う側の人間なんだろう。

彼を知りたい。正反対の印象を受けたあの瞳。あの笑み。

「ファリン…お願い」

「ダ、ダメですよ?!あぁ~でもでも、すずかちゃんのお願いも聞いてあげたいですけど~」

ゴメンね、ファリン。でも、私は知りたい。

「うっ、う~……分かりました。すずかちゃんが私に我侭を言ってくれたから、ソレに従っちゃいます!!」

「ありがとう、ファリン」

明智君、私は彼方の事が知りたい





合わさる掌。互いの暖かさが交じり合い、安心感を二人の心に宿す。方や血塗れ少年、方や無傷少女。
少年は右腕を横に伸ばし、少女は左腕を伸ばす。掌が合わさり指が絡む。少女が一瞬だけ振るえ、少年が苦笑した。大地に奔った不可視の四つの線。交わり一つの形を作りだした四つの線。大地には異物が一本、そして少女、久遠が草薮に隠していたもう一本の異物を予め刺してあった異物の近くに投げ、突き立てる。
合わさった手が、絡まった指が互いの鼓動を伝える。

「シュベルト…カートリッジ……フル・ロード!!」

『Ja!!』

シュベルトと呼ばれた槍が一人でに飛び、二本の異物、鉄パイプの上で停止し、空薬莢を五つ吐き出す。
鉛色の線がシュベルトを包み、さらにもう一本の線を作り出す。

氷村遊は動けずに居た。その完成していくモノを見ながら動けないで居た。
眼前の高町恭也とルーダー・アドベルト。この二人のが氷村遊を動かせないで居た。虚実を交えた二人の連撃。ソレを裁くのは容易い。容易い筈だった。能力では確実に劣っている筈の二人の人間に押されている。
何よりも氷村遊をその場に縛っているのは、ファラリス・アテンザだった。

「チィ!!! 女ぁぁ!!」

ファラリスに近づこうとすれば、恭也とルーダーに邪魔される。明智良哉に向かおうとすれば、耐え難い痛みが体を奔り動きを鈍らせる。

「予想以上に痛みに弱いのね?」

顔面蒼白の女が言う。目を瞑ったまま、脂汗を掻いて言う。何をされているのか理解が出来ない。故に怒りが募る。久遠が出てきてから体に奔る痛みが倍になった。混乱してしまうのも仕方が無い。
ファラリス・アテンザはレアスキルと呼ばれる固有能力を持っている。

『一方的な精神干渉』

実際はもっと違う名前なのだが、ファラリスはそう書いて『マインド』と読んでいる。
精神干渉に拠る『幻痛』が痛みの正体なのだ。使用条件は相手の体に接触する。コレをクリアすると、半径三十メートル内でその力を使用できる。
それでも、その力は弱く相手に何かしらの不安を与える程度のモノ。集中し難くする程度のモノだ。だが、この力には上がある。
使用条件2。相手に自身の体液(血液、汗、唾液)を付着させる事。だが、この場合での精神干渉は自身にも影響が出る。だが、その分威力は桁違いのモノに成る
現在、ファラリスが使用しているのは後者での能力使用。
ファラリスは、自身が今負っている傷、過去に負った傷の痛みを強く思い出し、相手に送り付けている。何倍にも強くして。

精神がガリガリと削られる。それでも笑って魅せる。釘付けにする。ファラリスは思う。胸から下腹部に掛けてが濡れている。薄目で下を見れば真っ赤に染まっていた。流石に出血が酷かったので背に負った傷はある程度治療はしておいた。
胸にも腹にも傷はない。古い傷跡しかない。

(そろそろ…限界ね)

ファラリスはそう思った。目を開ける。ルーダーと恭也が善戦しているが決定打が決まらない。何よりも首を切り落とした程度で死ぬとは思ってもいない。
そんな時、歌が聞こえた

「とおりゃんせ とおりゃんせ ここはどこの細道じゃ」

綺麗な少女がそう歌った

「やめしゃんせ やめしゃんせ ここは黄泉への細道じゃ」

掠れた少年が歌い上げる

「天神様の 細道じゃ ちょっと通して 下しゃんせ」

「国母神様の 細道じゃ 早く帰って 下しゃんせ」

「御用のないもの 通しゃせぬ この子の七つの お祝いに お札を納めに まいります」

「御用があっても 通しゃせぬ この方七つの末子故 お慰めに 玉を納めに まいりんさい」

「行きはよいよい 帰りはこわい こわいながらも 通りゃんせ 通りゃんせ」

「行きはよいよい 帰りはない 大岩をどけれたら 通りゃんせ 通りゃんせ」

氷村が叫ぶ。それは抗う事が出来ない卑劣な法だと声にならない叫びを上げる。

四つの線が交わり、ソレは鳥居を作り出す。大地に描かれた『地下』に繋がる黄泉路の門。

その上に並ぶ二つの門。方や黄泉より道を繋ぎ、方や天より道を繋ぐ。

少女と少年の間を天が通り、冷たい鋼の門が黄泉じの門を開く。

辺りに現れた亡者の残り微が二つの門を潜り消えていく。地下への門が吸い込み、天の門が送り出す。

「さぁ、氷村遊。此処から先は」




全力だ



傷一つない明智良哉が氷村遊の眼前で言った







あとがき


すずか…だと?



よっしゃ!! へし折ってやんよ!!

頑張ったんじゃないかなぁ~とおもう。今日、朝五時から出勤なんだぜ?

良哉君、結構ギリギリだったりします。

最後のやめしゃんせ やめしゃんせは完全に独自設定だし、噛み合いませんので深く考えないでください。ソレっぽいものと思ってください。責任持ちません
皆様の自由に…考えてみても、イミフだと思います。

それでは、お休み


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