事件だ。事件だ。大事件だ。 長期出張から帰って来るゲンヤさんを迎えに行ったギンガとスバルちゃんが空港の火災事故に巻き込まれた。ニュースでは阪神大震災などを思い出させる勢いで、空港が燃えている映像を映していた。家でおかえりパーティの準備をしていた俺とマリエルはまさに大慌ての大パニックだ。クロエやゲンヤさん本人に連絡を取ろうとしても繋がらず、ニュースでの救助活動は遅々として進んでないように見える。 俺はいても立ってもいられず、ソーセキを片手に家を飛び出した。マリエルがクロエに何度も電話をしている隙にだ。空港まで子供が歩いて行ける距離ではないので、飛行魔法を躊躇わず使用する。暇に空かせて作った改良型飛行魔法で、機動性を殺した変わりに魔力をほとんど使わず、その為魔力探査の魔法にもほとんど引っかからない。小回りがまったく利かないので、本当に移動にしか使えない飛行魔法だ。 これから行く所は火災現場だ。当然、管理局の救助隊やらなんやらがわんさかといるだろう。そいつら全員の目をこの拙い飛行魔法が誤魔化しきれるとは到底思わない。だが、ここで何もせずにギンガやスバルちゃんにもしもの事があったら俺は一生後悔するだろう。 ほどなくして、真っ赤に燃える空が見えてくる。既に事故発生からかなり立っているのに管理局は大規模な救助活動をまだ開始していなかった。おかげで奇跡的に見つからずに現場に忍び込めたのだが、それが良いとは口が裂けても言えなかった。「あちっ…」『【マスターアイリーン。バリアジャケットを着用してください】』 炎が燃え盛る空港を前に、俺はソーセキに注意をされてようやくバリアジャケットを付けていなかった事に気付く。よほど慌てていたのだろう、これから危険な場所に飛び込むのだからそれでは困る。俺は即席で日本の消防隊のような銀色のバリアジャケットを覆面込みで身にまとうと、燃え盛る建物の中に突入した。 空港は至るところが燃え盛っており、どんな爆発があったのか建物の内部構造も所々崩れ落ちていた。俺はバリアジャケットに耐熱と空調の機能を最大限に行わせる(場違いな事に、これは元々クーラー代わりの魔法だった)。限度はあるが、爆発に巻き込まれでもしない限りこれで大丈夫だろう。危険だが、時間もないということで広大な空港の敷地を低空飛行で飛んでいく。調整で今度は逆にスピードを殺し、機動性を重視してみるが、あいにく狭いところでの飛行魔法など練習したこともない。何度も危なっかしく、瓦礫にぶつかりそうになりながら疾走する。「ソーセキ! 生命反応探知!」『【探知プログラム、”生命反応”基準…起動。……1…10…22…、この付近でも多数の反応があります】』 ソーセキの報告に、俺は戸惑った。そう、人が多数いた空港が燃えているのだ。他の人間がいても、なんら不思議じゃない。しかし、俺に助けられる人数などたかが知れている。そう、それこそ連れて逃げるならギンガとスバルちゃんだけで精一杯だ。「……ソーセキ。ギンガとスバルちゃんがどれかなんて……分からない、よな?」『【はい、不可能です。大人の生命反応を探知からフィルターで除外する事は出来ますが、それが限界です】』「……っ」 唇を強く噛む。魔法が万能じゃないなんて、普段構成を編んでいる俺には至極当然で当たり前の事だ。しかし、それでも。出来ることが広がった分、きっと出来ることがあるなんて勘違いしてしまった。その過信が、今この状況で嫌というほど思い知らされていた「……生存者を見つけたら、片っ端から転移魔法で外に放り出そう。構成はきちんと保存してあるな?」『【もちろん保存してあります。が、その案を実行した場合、マスターアイリーンの魔力が持ちません】』「ぎりぎりまで助けるだけだ。あとは管理局に任せよう。……フィルターで、大人を排除しておいてくれ」『【了解しました】』 インテリジェントデバイスとはいえ、AIのソーセキが言い淀むことはない。しかし、俺の苦悩を感じ取ってくれたのか、最低限の警告だけで済まし、命令を実行に移してくれた。民間人の……しかもたった6才の子供がこんな無茶をしているのだ。普通のインテリジェントデバイスならしつこいぐらいに警告を鳴らすだろう。しかし、ソーセキは俺の気持ちを汲んでくれたのだ。「……よしっ、目的は決まった。なら、あとは実行に移すだけだ!」『【了解しました、マスター】』 宙に地図が浮かび上がる。いつかとは違い、空港の見取り図がない今は実に大雑把な地図だ。そこに、光点が次々に記されていく。……全部で9。多い。いや、この空港にいた人数を考えれば、少なすぎる。探知は空港全域に届いてはいないが……相当な数の人間が死んだだろう。もしかしたら、既にギンガとスバルちゃんも……。 そこまで考えて、首を振って無理矢理悪い想像を打ち消す。まだ生きていると信じるしか俺に手はない。俺は再び宙へ浮き上がると、一番近くの光点へと高速で飛んでいった。「ふ、ふぇっ……」「よーし、良い子だ。今外に出してやるから動くなよ」『【転送プログラム起動します】」 瓦礫の影で暑さに負けてぐったりしていた子供を、管理局の救助部隊がいた近くの原っぱへ空間転移させる。転移魔法はかなりの魔力を食うから、今頃次々と転送されていった子供達に魔力反応で気付いて回収している筈だ。 今の子供で、5人目。途中で家族連れがいたので父親母親子供まとめて3人送ったので転移魔法で飛ばしたのは7人……。9人だと思って、俺自身の分を含めて10人分の想定で魔力を消費してたのが裏目に出た。これでも飛行魔法に使う魔力をぎりぎりに抑えて移動していたのだが……二人も、子供を見捨てなきゃいけなくなった。「ちっ……」 舌打ち一つ。しかし、立ち止まっている暇もなく、次の光点へと飛んでいく。次に近いのは二つ並んだ光点。もしかしたら、これがギンガとスバルちゃんかもしれない。地図を横目で確認しながら、随分と慣れた飛行魔法を駆使して一直線に飛んでいく、が。「……あ」 ……二つ並んでいた光点の一つが、地図上から、消えた。その意味を俺は理解できなかった。生命探知から光点が消えた、その意味が。何度見直しても、光点は二つに戻りはしない。過去に戻ることが出来ないのと同じように、一度消えた”光”は戻らない。「にーちゃ、にーちゃ……」 現場に着いた俺は、宙からその光景を呆然と見ていた。そこにいたのは今の俺より小さな子供と、その子を炎の熱さから少しでも守るようにと全身で抱きしめて倒れている少年の姿だった。子供はその少年を呼びながら、ひたすら腕を揺すっている。宙にいる俺に気付きもせず、ただ少年が起きるまで、弱々しい呼び声を上げて。「……ぁぁ」 息が詰まりそうだった。少年は……既に息絶えている。魔法は万能じゃない。死者を生き返すことなど、このミッドチルダでも不可能だ。もしかしたら、残った魔力を全て回復魔法に注ぎ込めば、まだ僅かに蘇生するかもしれない。だが、俺は医者じゃない。どんな回復魔法を使えばいいのかなんて、検討も付かなかった。 残った魔力、それを考えればここで…少年の遺体が抱きかかえる子供だけ、転送すべきだ。必死に小さな手でしがみつく、幼子を引き剥がして。ただでさえ、魔力は残り人数に足りていない。バリアジャケットを纏って空を飛んでいる以上、こうして佇んでいるだけでも魔力は減っていく。一刻も早く、そうするべきだ。でもだけど「……ソーセキ。”二人”を転送だ」『【しかし、マスター。魔力が足りなくなります】』「いいから早くしろ! 管理局の医療班だったらまだ助かるかもしれない!」『【了解しました、マスター】』 炎の中の二人が、転送のミッドチルダ式魔法陣に包まれて消えていく。 ……そして、残った魔力は後一人分。残った子供は後二人。そして、最後の一人分の魔力は自分の脱出用だった。 冷たい方程式という言葉がある。元はSF小説だったと思うが、空気も燃料もぎりぎりの宇宙船に密航者が忍び込んでいたという話だ。密航者はまだ成人前の少女で、それでもその少女を船外に放り出さなければ元いた乗員が死んでしまう、そんな冷たい結果しか待っていない話だった。 海での難破を例に上げても、定員オーバーで救命用のゴムボートが沈みそうだからと捕まっていた他の人間の手を引き剥がしても罪には問われない。どんなに人間の命が大事だといっても、いや、大事だからこそ、情に流されて全員が死ぬような結末だけは避けなければならない。 ここで、俺が切り上げても誰も文句は言えないだろう。むしろ、よくやったと言える。何の見返りも義務もない俺が、死んでしまった少年を除いても6人もの子供を助けたのだ。ここに無理矢理来た意味も確かにあった。残った子供も絶対死ぬというわけじゃない。管理局の救助が間に合う可能性だって……。「……がーーーーっ!!! ちげぇだろ俺!? 何言い訳してんだ!!」『【マスター?】』「ソーセキ、残りの二人。行くぞ」『【ですが、マスター。魔力が……】』「一人は転送、もう一人は俺が抱きかかえて脱出すれば足りる! 行くぞっ!」 ソーセキの返答を待たず、再び移動し始める。そのプランがいかに無謀だからといっても、もしも残りの二人がギンガとスバルちゃんだったら、俺は死んでも死に切れない。 魔力は残り少なくとも、目標が定まったなら一直線。迷う事に意味はない。ただひたすら、こうして飛びながらも魔力を節約するよう飛行魔法の構成を変えつつ俺は飛翔した。 嘘から出た誠、という言葉は元いた日本にあったが、まさか本当になるとは思わなかった。「スバルちゃん!」「……えっ、その声って……アイリーン、ちゃん?」 燃え盛る炎の中を、覚束ない足取りでスバルちゃんが歩いていた。それは見知らぬ子供の一人を転送し、最後の一人に辿り着いたその時の事だった。スバルちゃんの格好は、せっかくおめかしをしていたのに煤で汚れてぼろぼろで。しかし、怪我はしていないようだ。 俺はスバルちゃんの前に降り立つと、バリアジャケットの覆面を剥いで正面から抱きしめた。いや、身長差から言えば抱きつく、と言った方が正解なのかもしれないけれど。 スバルちゃんはまさに信じられないといった表情で呆然としていたが、すぐに俺の身体に手を回してぎゅっと抱きしめてきた。「また迷子になってたの? スバルちゃん」「ち、違うよ! ……じゃなくて、どうしてアイリーンちゃんがここに」「空港で事故があったってニュースで聞いてね。迎えに来たんだよ」「迎えにって……そんな無茶な」「スバルちゃん、文句や異論は後。ギンガは?」 ギンガの名を出すと、スバルちゃんは涙に濡れた顔をふにゃっと歪ませた。まさか……。だが、最悪の想像は実現せず、空港で爆発があり、パニックになった際に逸れてしまったとの事だ。 探すか、と一瞬考えが頭を掠めたが、どちらにしてもこの近くに子供の生命反応はない。残りの魔力から考えれば、探知範囲外まで探す事など出来ないし、ギンガは現役の陸士候補生だ。きっと…きっと大丈夫だ。「よし、脱出するよ。スバルちゃん」「え、あ、で、でも、ギン姉は!?」「ギンガなら大丈夫。この近くにはいないみたいだし、ギンガなら自力で脱出できる」「でも、怪我して動けなかったら!」「……ごめん、スバルちゃん」 食い下がるスバルちゃんに、俺は謝ることしか出来なかった。よっぽど情けない表情をしていたのだろう、スバルちゃんも「ごめん」と小さな声で謝ってきた。謝る必要なんてこれっぽっちもないのに。 バリアジャケットの構成を弄り、スバルちゃんも耐熱と空調の範囲内に入れようとした、そんな瞬間だった。 ---ッ!! 音にならない耳をつんざくような轟音が鳴り響く。空港内のどこかが、また爆発したのだ。激しい振動が俺達のいる所まで揺さぶり……。 視界の隅で、大きな、大きな白い像が、俺達に向かって倒れこんでくるのが見えた。「ソーセキィっ!!」『【プロテクション】』 俺に出来たのは、頼りになる相棒の名を呼びながら杖をその像に向かって振り上げることだけだった。ソーセキは即座に反応し、俺達の前面に魔法による障壁を生み出す。が。像が障壁に接触した途端、障壁魔法の構成がぶちぶちと千切れていくのが目に見えて分かった。とっさに生み出したこの魔法だけでは、この像を支えきれないのだ。持つのはおそらく、後数秒。 俺は障壁魔法の処理をソーセキだけに任せると、本当に久しぶりに俺単体だけで魔法の構成を練った。この場面で選択する魔法は……。「加重軽減っ!!」 笑える事に雑用魔法として組んでいた、荷運び用の魔法だった。誰でも使えるようにと、この魔法は俺が使える中でも極端に構成を簡単にしている。だからこそ、デバイスなしでもたった数秒で発動が間に合った。数トンはあるだろう像が軽くなる。障壁魔法は薄皮一枚しか残っていなかったが、それだけでも支えられるほどに像の重量が減ったのだ。像はまさに目と鼻の先、掲げたソーセキの寸前で止まっていた。「間に合っ……ぐっ!?」「ア、アイリーンちゃんっ!?」 視界が、黒く染まっていく。手足の感覚が、途切れる。この感覚は……魔力の枯渇による物だった。加重軽減魔法の制御が俺の手から離れそうになるのを、意識が途絶えそうになるのを、歯を食いしばりながら堪える。当初の勢いは既になくなっているが、像の重量だけでも俺達を圧死させるのには十分過ぎるのだから。「スバ…ル…ちゃ……逃げ…」「な、何言って、そんなこと、出来るわけないよっ!」「はや……もう、持たな……」 限界だった。10人もの人を転送し、ここまでバリアジャケットと飛行魔法をフル活動させ、こうして今は想定以上の重量を支えている。俺にもう出来る事は、この最後の魔法を離さないように握り締めるだけ。ソーセキも……障壁を保つだけで精一杯だった。 もう、俺にはこの像の下から這い出すだけの余力はない。少しでも身体を動かせば、その瞬間魔法の制御が出来なくなって、像は俺達を潰すだろう。 だから、スバルちゃんを逃がす事ぐらいしか、もう俺には出来なかった。 ……失敗したなぁ。 しかしまあ……上出来だ。どうせ、俺は二度目の人生だ。もしかしたら、三度目があるかもしれないし。などと思考が横に流れ始める。集中力まで切れてきた証拠だが、この命に代えてもスバルちゃんが逃げる時間ぐらいは稼いでみせる。一緒にスクラップになるソーセキや、幼い娘を亡くす事になるクロエやマリエルには悪いが……。 そんなことを思っていた俺の視界を、スバルちゃんの背中が遮った。「な……」「アイリーンちゃんは……わたしの妹だ! だから、わたしがっ、わたしがっ……守るんだ!」 スバルちゃんの足元に、ミッドチルダ式でもベルカ式でもない魔法陣が構築される。いや、魔法陣というより何かの機械の配線図にすら見えるその奇妙な図形は、青い光を激しく発光し始め、スバルちゃんの身体を覆っていく。これは……。「ぁぁぁあああああああっ!!」 握られた拳は力強く。妹だと思っていた少女は俺を庇うように立ち上がり。その小さな拳を……巨大な像に向かって打ち放った。アッパーカットのように振り上げられた拳は、少なくとも少女の柔な拳より固い筈だった像のどてっぱらに突き刺さり、「でりゃああああぁぁっ!!」 青い光が像から放たれたかと思うと、全身を粉々に打ち砕かれながら空へと舞った。 俺はその光景を呆然と見上げ……いやいや、待て待て。いくら重量軽減で軽くなってるっていったって、像の強度まで変わる訳じゃない。さっきのスバルちゃんの芸当が魔法だとしたら、像を押し返すことぐらい出来るかもしれないが、粉砕するなんてありえなすぎる。第一重量がゼロに近くなっていたんだから、どんなにスバルちゃんの拳に威力があろうともめり込まず弾き飛ばされるのが当然で。 なんて、悠長な考えはそこで中断された。粉々になって弾けとんだ像が、天井に突き刺さって今度は崩れた天井もろとも落ちてきたのだから。「マジかよっ!?」「ええええっ!?」 魔力はもう尽きている。逃げるには落ちてくる瓦礫が多すぎ、広範囲すぎる。俺とスバルちゃんに出来る事はなく、降って来る瓦礫から目を逸らすように頭を手で庇う事ぐらいしか……。 その瓦礫の数々は、横から激流のように放たれた桃色の光に飲み込まれて、塵も残さず消え去った。「君達、大丈夫?」 怒涛の展開に唖然とする俺を尻目に、空から白いバリアジャケットを身に纏った女性が降りてきた。年の頃はおそらく16才前後。手には杖型のデバイスを持っており、桃色の魔力光の残滓を全身から放っていた。 恐らく先ほどの光の激流……砲撃魔法は彼女が放ったのだろうが、とてつもない魔力を感じた。魔力探知のスキルは持っていないが、これだけアホみたいに多いと嫌でも感じ取ってしまう。具体的な魔力量は分からないが、平常時の俺の数十倍ぐらいは軽くあるだろう。なんだか自分が二世代ぐらい前の旧型パソコンになった錯覚に囚われる。「……ええ、まあ」「そう、良かった。よく頑張ったね」 嫉妬ではないが、あまりの格の差に返事もおざなりになってしまう。彼女は俺が命の危機から脱し呆けているとでも判断したのか、優しく頭を撫でてきた。というか、ただの子供扱いだな。うん。 ついでスバルちゃんの方に視線を向ける。こちらもほけーっと呆けていたが、女性の視線が向くと急に姿勢を正した。「君も怪我とかしてない?」「だ、大丈夫です!」「それだけ元気なら確かに大丈夫そうだね」 スバルちゃんの角ばった返事に、女性は少しだけおかしそうに微笑んでから俺にしたようにスバルちゃんの青い髪を優しく撫でた。借りてきた猫のように首を竦め、大人しくしているスバルちゃん。うぅん、俺なりにスバルちゃんには慕われていたと思ってたが、さすがにこうも態度が違うと傷付くな。 と、良く考えれば和んでいる場合ではない。「すみません。管理局の方ですか?」「ええ、そうだけど」「ソーセキ。さっきの生存者のデータを。フィルターで弾いた分も含めて」『【了解しました、マスター】』 気付いているとは思うが、万が一草原で放置されっ放しでも困る。ソーセキを女性のデバイスに接触させて、データを送り込む事にした。お互い初対面でもケーブルで繋いだりする必要はないから、デバイスは便利である。 すると、赤い宝石をメインに置いた女性のデバイスが受け答えを始める。彼女のデバイスもインテリジェントデバイスだったようだ。男性の声がサンプリングされているソーセキと違い、女性の声がそのデバイスからは聞こえてくる。「……凄い精度だね。うん、協力ありがとう。助かったよ」「いえ……」 管理局の女性は褒めてくれたが、あとでしっかりお叱りを受けることになるだろう。今渡したデータを解析すれば、事故後に侵入したことなどもろばれなのだから。犯罪には……なるのか? まあ、俺は6歳だ。逮捕されたりってほどの事はないだろう。 少年法に甘える考えを抱きながら(ミッドチルダに少年法があるかは微妙だが)、脱出の為に飛行魔法を構築しようとした、のだが。バリアジャケットが俺の意思とは関係なく解けてしまった。「……あれ?」「アイリーンちゃん!?」 膝から力が抜け、顔から地面へと倒れこむ。顔を容赦なく打って痛いと思う間もなく、身体の感覚が急速に抜け落ちていく。そういえば、魔力はもう切れていたんだっけ。 スバルちゃんの悲鳴のような甲高い呼び声を聞きながら、俺の意識はあっけなく途切れた。