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No.4894の一覧
[0] 魔法世界転生記(リリカル転生) test run Prolog[走る鳥。](2011/01/31 01:14)
[1] test run 1st「我輩はようじょである。笑えねーよ」[走る鳥。](2010/10/27 00:34)
[2] test run 2nd「泣く子と嘆く母親には勝てない。いや、勝っちゃあかんだろう」[走る鳥。](2010/10/27 00:35)
[3] test run Exception 1「幕間 ~マリエル・コッペルの憂鬱~(アイリーン3才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:36)
[4] test run 3rd「ピッカピカの一年生。ところでこっちって義務教育なんだろうか?」[走る鳥。](2010/10/27 00:40)
[5] test run Exception 2「幕間 ~ノア・レイニー現委員長の憤慨~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:37)
[6] test run 4th「冷たい方程式」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[7] test run Exception 3「幕間 ~高町なのは二等空尉の驚愕~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[8] test run 5th「無知は罪だが、知りすぎるのもあまり良いことじゃない。やはり趣味に篭ってるのが一番だ」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[9] test run 6th「餅は餅屋に。だけど、せんべい屋だって餅を焼けない事はない」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[10] test run 7th「若い頃の苦労は買ってでもしろ。中身大して若くないのに、売りつけられた場合はどうしろと?」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[11] test run Exception 4「幕間 ~とあるプロジェクトリーダーの動揺~(アイリーン7才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[12] test run 8th「光陰矢の如し。忙しいと月日が経つのも早いもんである」[走る鳥。](2010/10/27 00:43)
[13] test run 9th「機動六課(始動前)。本番より準備の方が大変で楽しいのは良くある事だよな」[走る鳥。](2010/10/27 00:44)
[14] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」[走る鳥。](2010/10/27 00:45)
[15] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」[走る鳥。](2010/11/06 17:00)
[16] test run Exception 5「幕間 ~エリオ・モンディアル三等陸士の溜息~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2010/11/17 20:48)
[17] test run 12th「住めば都、案ずるより産むが易し。一旦馴染んでしまえばどうにかなる物である」[走る鳥。](2010/12/18 17:28)
[18] test run 13th「ひらめきも執念から生まれる。結局の所、諦めない事が肝心なのだ」[走る鳥。](2010/12/18 18:01)
[19] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2011/01/29 17:44)
[20] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」[走る鳥。](2012/08/29 03:39)
[21] test run 15th「晴天の霹靂」[走る鳥。](2012/08/30 18:44)
[22] test run 16th「世界はいつだって」[走る鳥。](2012/09/02 21:42)
[23] test run 17th「悪因悪果。悪い行いはいつだって、ブーメランの如く勢いを増して返ってくる」[走る鳥。](2012/09/02 22:48)
[24] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2012/09/14 02:00)
[25] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」[走る鳥。](2012/09/27 18:35)
[26] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」[走る鳥。](2012/11/18 06:52)
[27] test run 20th「雨降って地固まる。時には衝突覚悟で突撃することも人生には必要だ」[走る鳥。](2012/11/18 06:54)
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[4894] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:f52c132d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/18 06:52
 さあて、どうしたもんかな。
 現場に復帰し、未だ終わらない書類整理を行いながら、俺は頭を悩ませていた。先日撃墜されたティアナさん、のことではない。いや、関係はありありなのだけれど、少なくとも本人を直接どうこうしようという悩みではない。目の前に映ったデータに視線を移す。現在全面改装しているクロスミラージュの進捗状況だ。機動六課の専任デバイスマイスターのシャーリーさんから貰ったデータなのだが、クロスミラージュを元のように修復すべきかどうか、現在上から「待った」が掛かってしまっているらしい。なので、進捗状況の書かれたこのデータもコアの修復が行われているだけで壊れたフレームは全撤去、つまりデバイスとしては死んだままであるという事が記されている。
 修理に「待った」を掛けたのは上司、タカマチ隊長やヤガミ部隊長の判断だ。そして、実際修復するのもデバイスマイスターのシャーリーさんの仕事な訳で。結局俺がこのデータを見て何で頭を悩ませているかといえば。

「汎用デバイス、ねぇ……」

 ティアナさんが撃墜されたトラウマで銃を持てなくなってしまったのはエリオ他数名から伝え聞いていたが、そこで俺に降りてきた仕事はクロスミラージュから支給品のデバイスへ乗り換える為の魔法のコンバート作業だった。
 本人が復活するまで待てよとか、せめてデバイスだけでも修復しとけよとそう考えるのはむしろ当然だが。管理局の上層部から見たら、新人に超高性能専用デバイスを六課の予算で買い与えたのに、ろくに役に立たせる前に大破の上、銃を持てなくさせるという大失態である。潤沢な予算を掛けられている機動六課ではあるが、全部が全部好きなようにその予算を使える訳ではない。部隊長のさらに上……地上本部や本局に使用用途を含めて申請して、通らなければ予算は降りてこないのだ。そりゃあ修理の予算も認められない筈である。
 まあ、今の所、詳しい事情はヤガミ部隊長の所で止まってるらしい。現状で修理の予算を引き出そうとしても、どう考えても許可は降りないし、今下手に申請をすればそれで監査に目が付けられかねない。上の心象を悪くしてしまっては、実際ティアナさんが復帰してからも再申請を跳ね除けられる危険性すらあるのだ。だからこその「待った」だ。大人の事情が原因とはいえ、ティアナさんの事を思ってこその命令だ。それに”は”文句ない。うむ、見事な判断だと思う。
 そして、復帰を待つ間の一時しのぎとして、武装局員に標準配備されているストレージデバイスをティアナさんに貸与するということになりそうなのだが。

「これはいくら何でも無茶が過ぎるだろ……どうしろってんだ」

 問題は銃型のクロスミラージュから杖型ストレージへの乗り換えだ。杖でだって射撃魔法は使えるんじゃないの? タカマチ隊長もそうだし。なんて思った貴方(?)は甘すぎる。タカマチ隊長のレイジングハートは本人の射撃・砲撃特性に合わせてバージョンアップし続けた高性能専用機だ。クロスミラージュだって射撃特化の銃型デバイス、やはりティアナさんに合わせた高性能機。ははは、数世代前の型落ちPCで、最新鋭ばりばりのスパコンに併せてチューンナップされたソフトが動くと思うかね? 無理である。不可能である。いくら俺が魔法を軽くすることに特化した技術屋といったって、限度ってもんがある。

「こいつの処理能力じゃ下手すりゃ緊急停止(フリーズ)の可能性がある……こっちじゃどうにか動いても容量が足りない。やっぱ今までの魔法は辛すぎるな。かといって、魔法の種類まで変えさせるのは……うぬぬぬぬ」

 クロスミラージュのデータとは別に表示されたもう一つウインドウと睨めっこしながら思わず唸り声を上げる。管理局で正式配備されているデバイスの目録一覧だ。魔導師はそれぞれ自分に合ったデバイスを所有して当然だが、完全に一から魔導師本人に合わせて作った専用デバイスを使っている人間は極々少数だ。ぶっちゃけ、専用機は高過ぎて個人で中々手が出せる物じゃないのだ。そもそもデバイス自体が高級品で、インテリジェントのAI付きでドン、専用デバイスのワンオフ機でドドンと一気に値段が倍々ゲームと化す。大半の魔導師は量産品の中から自分に合った物を選んで使うことになる。それすら入ったばかりの新人にはかなりの負担になるのだが。
 なので、管理局では貸与という形で局員にデバイスを支給している。カタログにはかなり昔から使われている旧型から、最近採用された最新機までかなりの種類が揃っている。しかし、そこに共通しているのは全て”安物”で”ストレージ”の”杖型”であるということだ。この支給制度は管理局の訓練校からあり、さすがにそちらは訓練用だがラインナップとしてはそう変わらないらしい。そう、スバルちゃんとティアナさんが自作デバイスを使っていたのはこれが原因だ。銃型デバイスやシューティングアーツ用のジェットローラー型デバイスなんて、支給品には存在しないからだ。自腹切って自作デバイスを組み立てるなんて根性あるなぁ、と当時は感心半分微笑ましく思っていたのだが。思いきりブーメランで帰ってきやがった。いや、ブーメランというか、他人の自爆に巻き込まれた形だけど。

「むぐぐぐ……本人に相談するしか。いやいや、今は隊長達に任せるって決めたんだ。下手な干渉は……」
「ちょっと、アイリーンいる?」
「いや、しかし! 無難に流通している射撃魔法をインストールするだけなんて、俺のプライドが許さん! っていうか、術者の持ち味殺して溜まるか! くおぉぉ、これは俺への挑戦だな!? そうなんだな!? こーなったらシャーリーさんと共謀して、支給品のデバイスに見せかけた高性能機を自腹で……!!」
「やめなさい、そして落ち着きなさい」

 頭を抱えて身悶えしていた俺は、頭を引っ叩かれて我に返った。頭頂部を押さえながら顔を上げると、呆れた表情のティアナさんが丸めた紙を手に持って立っていた。ヤバイっ、そう思って慌ててクロスミラージュの修復状況のデータ、そして汎用デバイスのカタログデータの投影モニターを消すが。
 そんな俺を見たティアナさんは、溜息混じりにこちらを半眼で睨んできた。

「久しぶりね、アイリーン。帰ってくるなり仕事は感心じゃない。挨拶にも来ないで熱中してるんだから、よほど勤勉なのね」
「ひ、久しぶりです、ティアナさん。お元気にしてました……?」
「……まあ、あまり元気とは言い難いわね。さっきの台詞と今の反応からして、知ってるんでしょ?」

 約一週間ぶりに見たティアナさんは、恐れていたほどの変化を感じなかった。ティアナさんの鬼気迫る向上心は知っていたし、意外に脆い所があるのもなんとなく理解している。ここ最近で見慣れていた感のあった訓練用バリアジャケットではなく、六課の制服を着込んでいるのは若干違和感がないでもなかったが、デスクワークや公式行事の際には着ていたので不自然というほどでもない。あえて言うなら本人の自己申告通り、ちょっと元気がないかな、という程度だ。
 しかし、人間の心なんて一瞥しただけで分かるもんじゃない。内心、どれだけ荒れ狂っているか。先日半狂乱に陥った身としては、慎重にならざるを得ない。けれども、ここで知らないと嘘を吐いても白々しいし、俺は黙って頷いた。と、それを見たティアナさんは再び大きな溜息を吐いて、手に持っていた丸めた紙を差し出してくる。

「はい、これ。さっきアンタが喚いた内容の正式な要請書。支給品のストレージ使いたいから、出来るだけ早くして」
「え、いや、え? ……はい、確かに受理しました?」
「なんで疑問系なのよ。それとアイリーン。テンション上がると独り言を叫ぶのと、口汚くなる癖直しなさいよね。特に『俺』なんて一人称全然似合ってないわよ」
「放っておいて下さい」

 ええい、人の弱点を的確に突いてくんな。まだ情緒不安定なんだから、泣くぞ。
 冗談はさておき、受け取った書類に眼を通すとストレージデバイスの支給を求める旨とそれに合わせた魔法の提供と修正をティアナさん自身から要請する書類であった。え、何この人。自分で立ち直ってるの? 怪訝そうに眉を潜めてティアナさんの様子を伺うと、非常に嫌そうな顔をして彼女は表情を歪めた。

「ウザいから、気を使うのやめてくれる? スバルとか年少組とかなのは隊長とかスバルとかスバルとか、毎度毎度私を見る度にまるで自殺でもするんじゃないかって顔して、もういい加減うんざりしてるのよね」
「心配してくれてるのにそういう言い方ってどうよ……とはまあ、言わないですけど。気持ちは分かりますし」
「そ。ちょっと今他人に気を使う余裕ないから、アンタのそういう所は助かるわ。じゃ、頼んだわよ」
「ちょっと待ったぁ!」

 言うだけ言い捨てて、さっさと踵を返そうとするティアナさんを、俺は慌てて腕を掴んで引きとめた。……おおう、なんか身を乗り出したら、肋骨から嫌な音が聞こえたような。痛くはないけど、あまりこの姿勢は良くない。ぺたっと机に上体を伏せて、そのまま椅子のキャストに頼ってずるずる後退していく。おい、人を芋虫でも見るような目で見るな。こっちも必死なんだぞ。
 慎重に、悪化しないように身を起こそうともがいていると、ティアナさんが襟首を掴んで元のように座らせてくれた。やはり呆れたような目でこちらを見ている。先ほどから不機嫌で、不真面目とも取れる空気を身に纏っているが、受け答えはきちんと出来ている。本人も望んでいるようだし、もう俺も気にしないで話を進めることにしよう。

「何よ?」
「丸投げして逃げないで下さい。悩んでるのは見てたでしょう? ちょうど良いから、方針を話し合います。意見を聞かせて下さい」
「……」
「そこのタカマチ隊長の椅子持ってきて良いから座る」
「……分かったわよ」

 よし。勢いで押し通した。どこか不貞腐れた態度で、椅子を持ってきたティアナさんはデスクを挟んだ向かいに腰を下した。さすがに隊長達にもこんな態度は取ってないだろうが、らしくない。銃を持てなくなったというトラウマは、やはりそんなにも重いんだろうか?
 先ほど閉じた汎用デバイスのカタログデータを再度ウインドウ表示し、ついでにティアナさんの扱う魔法一覧を表示する。これがまた、馬鹿みたいに多い。他の新人達と比べると、4倍近く数に開きがある。もちろん、それら全てを使うのではなく、取捨選択する形で新しい魔法、より自分に合った魔法と挿げ替えてきたからだ。訓練校時代に扱ってきた魔法データもそこには残っている。今までのティアナさんが行ってきた努力の結晶だ。
 ……まったく躊躇しなかった訳でもないが。俺が指を動かすと、一覧の内7割弱が灰色に染まった。ティアナさんが申請したデバイスは武装局員の間でも特に信頼の置かれている安定した機種ではあるが、それでも所詮は支給品として登録されているような安物デバイス。特にティアナさんは難度の高い魔法ばかりを好んでいて、スペックぎりぎりまで使用していたのだ。こうなるのは必然とも言えた。彼女はその一覧をじっと凝視して。やや長い沈黙の後、独り言のように小さな声で呟いた。

「……これだけしか、残らないのね」
「銃型デバイスの特性に頼った魔法が多かったですからね。それにストレージは処理速度こそ早いですけど、インテリジェントのようなサポートは期待出来ません。ですから、ティアナさんのように限界ぎりぎりまで処理能力を行使するほどの魔法だと……調整すればもう1割ぐらいは扱えるようになると思いますが、攻撃魔法の類はかなりきついです」
「アイリーン。……アンタ、でも?」
「私でもってのはどういう意味か気になりますけど。これだけ先鋭化した魔法を調整し直すのは誰でもきついと思いますよ。……長い時間掛けて改良してきたんですから」
「……そう」

 杖型である、ストレージである事自体は特に悪くない。それぞれ一長一短であり、インテリジェントや特化型を上回る所はいくつもある。しかし、問題はあくまで支給されるのが低性能の安物デバイスである事、そして、別種のデバイスでも使えるように調整し直すにはティアナさんの魔法はあまりにも特化されすぎ、あまりにも完成に近付きすぎている事だ。これらの魔法をわざわざ別デバイス用にコンバートするぐらいなら、支給される杖型ストレージに合った魔法を新作した方が遥かに手軽で効率的だろう。使用可能として残った魔法の大半はバリアジャケットやら浮遊魔法やら、俺が作った便利系魔法やら。基礎的かつ初歩の魔法ばかりだ。とても戦闘なんて出来やしない。
 ティアナさんの表情は、能面のようだった。感情という感情が殺ぎ落とされて、綺麗なのに無機質さを感じさせる色のない顔付きは俺の背筋に薄ら寒い物を走らせた。根深い、そう思う。そりゃそうだろう、今までずっと心血注いできた努力が、泡になって消えてしまったんだから。……ちょっと自分のトラウマまで刺激されて、欝が入りそうになる。我慢我慢。
 医者じゃないので詳しいことは分からないが、トラウマなんて言って治るもんじゃない。俺は俺が出来る仕事の為に、説明を続ける。

「私から提案出来る方針は、大まかに分けて二つです。一つ、いずれ銃型デバイスに戻ることを見越して、あまり癖が残らないよう扱い易い魔法を入れておく」
「訓練校で習ったような、初歩の射撃魔法にするってこと?」
「私が多少手を加えますが基本的にはそうなりますね。直射、誘導、障壁、結界、バインド。標準なのは一通りぶち込んでおきます」
「……それでどれくらい戦えると思う?」
「戦闘のこと私に聞かれても困りますけど。……まあ、ティアナさんがまともに動けるんなら、元の6割ぐらいは行けるんじゃないですか? スペック的に」
「……6割」

 ガジェットを前にして足が竦むようなことがあれば、1割も難しいだろうけどな。前にヴィータ副隊長がティアナさんの持ち味は冷静な指揮官適性だって言っていたし、6割でもやっていけないことはないだろう。ティアナさんの目指していた場所に届くかどうかは別としてだが。
 そしてもう一つ、と俺は立てた指を増やす。

「もう一つの選択肢は、銃型デバイスはすっぱり諦めて、標準の杖に転向する方法ですね。今までが変わっていただけで、管理局の魔導師の大半は杖型デバイスですしね。なんだかんだで、スタンダードってのは強力ですよ? 積み重ねてきたものが違いますし、武装局員用に登録されている魔法のほとんどを扱えます。銃型ってのは元々ニッチみたいですしね。ポジション的に嵌れば強いですけど、どうしても防御面で甘くなるのは……ああ、と。ティアナさんには釈迦に説法でしたね」

 機動六課に配属されてから一月とちょっと、散々タカマチ隊長とヴィータ副隊長の教導官二人相手に論争してきたのだ。俺にもそれぐらいの知識は付いている。俺としては、お勧めは断然こっちだ。代用デバイスに簡易な基礎魔法で誤魔化すより、よほど力を取り戻すのは早いだろう。それにクロスミラージュを銃として復活させるよりは、標準の杖型として組み立てる方が予算の申請も通り易いと思う。まあ、銃型として生まれたクロスミラージュが杖型として組み直せるのかどうかは俺も知らんが、それはシャーリーさんの領分なのでぶん投げる。
 俺の示した選択肢にティアナさんは考え込んでいるようで、俯き加減に目を伏せていた。別に今絶対決める必要はないんだけどな。隊長達に相談はしなくちゃならんだろうし、今はとりあえず基本魔法でお茶を濁しておいて、トラウマが治らないようなら折を見て杖型に転向するって手段もある。こればっかりは俺のような技術屋にはなんとも言えない。

「もちろんタカマチ隊長には相談しなくちゃいけないですけど、ティアナさん本人の意思と私の意見があるなら、まず通ると思いますよ?」
「……アイリーンは、どう思う?」
「知りませんよ。いつも言ってるでしょ、私は素人で戦闘は専門外です」

 掠れて消え入りそうに聞いてきたティアナさんの弱音を切って捨てる。そんな重要な選択肢、他人が適当に決めて良いものじゃない。未来を誰も予測出来ない以上、せめて後悔しないように自分で決めるしかないのだ。
 重苦しい沈黙が執務室に横たわる。俺に出来ることといえば、せめてもの選択肢を出してやって、答えを黙って待ってやることのみだ。胃がキリキリしてくるので、なるべく早くして貰えると助かるけど。
 そうして、何分経っただろうか。重々しい口を開いて、ティアナさんが選んだ答えは。

「少し、考えさせて」

 保留であった。





「どうしたら良いと思う? アイリーンちゃん……」
「知らんがな」

 帰り支度をしていた俺を引き留めたのは、ティアナさんの相棒こと脳天気花丸娘のスバルちゃんだった。まあ、見る影もなく、背中に影を背負って肩を落としているんだが。その鬱々しさといったら、こっちまで引きずられて暗くなってしまいそうなほどだ。鬱陶しいことこの上ない。……ああ、これは当事者のティアナさんには溜まらんわ。
 六課への復帰の代わりにマリエルと約束したのは、ちゃんと毎日家に帰ること。家まで電車を乗り継いで1時間半だし、あまり遅くなるとマリエルから「車で迎えに行こうか?」メールが来るので、あまりもたもたもしていられないのだが。さすがにこんなスバルちゃんを捨ててはおけないので、少し遅くなる旨だけメールしてこうして話を聞いているのだが。あのティアナさんのことを相談されても、正直手に余る。

「アイリーンちゃんも冷たい……こう、励ましてあげようとか、その為にパーティを開いてあげるとか、思わないの?」
「いや、本人にはそれ嫌がらせにしかならないし。今は放っておいてあげるのが一番だよ」
「で、でも! わたしなら慰めてもらえたら元気になれるよっ!?」
「スバルちゃん。事故で歩けなくなって、他の人に『もう歩けないけどなんとかなるよ! 頑張ってね!』って慰められたらどう思う?」
「……うぅぅぅ、わ、分かってるけどぉ」

 だったら、そんな情けない顔しないで欲しい。慰めパーティを思い付いても強行していないのだから、今のティアナさんに逆効果だってことぐらいスバルちゃん自身理解しているのだろう。
 各人から聞いていた話通り、ティアナさんだけでなく新人達全員の士気が下がってしまっているようだ。特にスバルちゃんはティアナさんに訓練校時代からべったりだったし、わんこ気質だからご主人様の気落ちがそれはもう心配で心配で仕方ないに違いない。俺は鞄に発動させていた加重軽減魔法を解除してデスクの上に置き直すと、改めてスバルちゃんに向き直った。

「今ティアナさんは?」
「……デバイスなしで訓練してる。何度か、昔のアンカーガンを使おうとしてたみたいだけど。て、手が震えて、持てない、みたいで……ぐすっ……」
「泣かない泣かないー、スバルちゃんが泣いちゃうと私も悲しくなるからねー」

 涙ぐんで鼻をすするスバルちゃんの頭を、いつものように撫でて上げる。腕を伸ばすのはちょっときついので、一歩分空中を踏み締めて高台に乗り。スバルちゃんの藍色の頭を撫で回す。とはいっても、教導担当のタカマチ隊長も黙ってみてる訳じゃないだろうし、カウンセリングの一つも受けさせているだろう。だったら、もう素人の俺が出来ることはないに等しい。それにスバルちゃんの気持ちも分かるのだが、正直な話今のティアナさんを下手に刺激して爆発させてしまうのが怖い。所詮、俺には”分かったつもり”にしかなれない事柄なのだ。とても責任は負いきれない。うーむ、マリエルにアドバイスして貰ったようにクロエやゲンヤさんに頼ってみるか? でも、所詮見も知らぬ他人だしなぁ。
 まあ、仕方ない。向こうにまで欝が伝染してしまう可能性もあるので、あまり取りたい手段ではなかったが……。

「ソーセキ、メール出してくれる?」
「【どなたにでしょうか?】」
「かーさんとギンガ。かーさんには詳しい事情を伝えて今日はもしかしたら帰れないっていうのと、ギンガには相談があるからどこかで会えないかって」
「【了解しました】」
「ふぇ? ……ぎ、ギン姉に?」

 涙と鼻水できちゃなくなった顔に、ポケットティッシュを押し付けてちーんさせる。機動六課が総掛かりでどうにもならないものを、いくらスバルちゃんの姉で面識があるからといってどうにもならないと思うが。マリエルのアドバイス通り、少し頼ってみることにしよう。

「たまには話すのも良いでしょ? 私も着いていくから、相談してみよう?」
「……う、うん」

 それに、落ち込んでいるスバルちゃんを慰める役目は昔からギンガの担当なのだ。俺は宥めるだけで精一杯。それが肉親と幼馴染の差だと思うと、ちょっと嫉妬する。俺だって、スバルちゃんの兄……百歩譲って姉代わりだと思っているのだけど。年下か。ちっこいのが悪いのか。
 うん、明日からもうちょっと牛乳飲もう。背がスバルちゃんより大きくなれば、少しは貫禄も出るだろう。きっと。





「そんなことになっていたのね。六課で何かあったことは聞いていたんだけど……」
「うぅぅ、ギン姉ぇ。わたしもうどうしたら良いか」
「あらあら、スバルちゃんは甘えん坊ねぇ。何だか、昔に戻ったみたい♪」
「落ち込んでるんだから、茶化すのやめようよ、かーさん……」

 どこかレストランで食事をしながらゆっくり会話でも、と思ったのだが。どうも、マリエルからギンガにメールが行ったらしく、隊長に外泊許可を貰って俺の実家に戻ってきていた。俺は元々家通いだったので別に許可は必要ないが、スバルちゃんは六課の寮住まいである。ティアナさんを一人にするのもどうかと思ったのだけれど、タカマチ隊長の判断で許可してくれた。隊長も一度距離を取って、そっとしておいた方が良いと思ったのかも知れない。
 しかし、マリエルの言う通りこの空気は少し懐かしい。スバルちゃんは一時期この家で一緒に暮らしていたし、ギンガも訓練校に入る前までは良く遊びに来ていたものだ。あの頃は二人の母親のクイントさんも存命で、マリエルとも家族ぐるみの友人付き合いで家で談笑していた。あの頃から既に忙しかったクロエにゲンヤさんは、あまり両方が揃うということは少なく、たまに片方が居合わせては若干居心地悪そうにしていたのを覚えている。

「なぁ、アイは父さんのこと嫌いか? 最近ちっっっとも話してくれないし」
「とーさん。かーさんみたいなこと言わないでよ。気持ち悪い」
「……は、ははっ、そうだよな。アイも、とーさんと風呂入るのなんて嫌だよな」
「何でそこでお風呂になるの? まあ、嫌だけど」
「ぐっ……くううぅっ……可愛い一人娘が反抗期に……!」
「泣かないでよ……」

 ……ちょくちょく家で顔は合わせているし、入院した時は真っ先に駆け付けてくれたのだけど。何故か果てしもなく久しぶりに話した気がするクロエが、背後でビール片手にやさぐれていた。つい先ほど珍しく早く帰ってきて、娘である俺にスバルちゃん、ギンガが揃って家にやってきているのを見た時は手放しに喜んでいたのだが。スバルちゃんがギンガに引っ付いて姉妹水入らずを満喫しているので、ちょっとキッチンのテーブルで一人食事して貰っていたら大柄な身体を小さく丸めて男泣きし始めた。もしかして、最近の涙脆さはクロエから遺伝したんじゃなかろうな?
 クロエは地上本部の陸士部隊、つまりはミッドチルダの警備隊に所属している。少し前から昇進して部隊を一つ任されるほどになったらしい。しかし、陸士部隊はかなりの多忙で、俺が赤ん坊の頃からクロエは忙しそうにしていたのが昇進してからはもっと忙しくなり、ほぼ休み返上で働いていた。朝早くに出かけて、帰って来るのはほぼ深夜。泊まり込みも少なくなく、唯一の楽しみは家に帰って寝る直前に飲む一本の缶ビールのみ……いかん、これは笑えない。”俺”だった時は似たようなものだったので、本気で笑えん。未だにラブラブであるクロエとマリエルの両親が二人目を作らないのも、その辺に関係があるかもしれない。
 とにかく、せっかく居合わせたのだ。クロエにも相談に乗ってもらおう。後でお風呂一緒に入って背中流してあげるから、と進言してやると急に元気を取り戻した。男親なんて単純なものである。酔った勢いで話されても困るので、酔い覚ましに水を飲んで貰ってからリビングの方に合流する。ただまあ、途中からとはいえ先ほどの説明は聞いていたのだろう。俺の横に腰を下したクロエは顎鬚を撫でながら難しい表情で呟いた。

「ふむ、撃墜で怪我こそ負わなかったものの、心の傷が残ってしまった、か。厄介な症状だな」
「コッペルのおじさんっ、なんとかなりませんかっ!? ティアはずっと、ずっと頑張って来たんです、それなのにこんなのって……!」
「はいはい、スバルちゃん、クールダウンして。スバルちゃんが今興奮しても仕方ないでしょ。 ……で、とーさん、実際の所どうなの? そういった事例、他にもあるんでしょ?」
「うむ、そうだな。……武装局員が辞める理由の大半は交戦中の怪我が元で後遺症を残したり、そのティアナくんのように心に傷を負い、任務に恐怖を感じてしまっての引退だ。こういってはなんだが、珍しいことじゃない」
「そうですね……私の同期にも、やっぱり任務中の事故で怪我をして、魔導師を辞めた子がいました」

 クロエの言葉に神妙な面持ちで頷き、追随したのはギンガだ。ギンガは陸士部隊で捜査官をやっているので荒事の経験も多いだろうし、何よりスバルちゃん達に比べて年季も入ってきている。似たような経験があっても不思議ではない。

「早々殺傷設定を振り回す犯罪者と当たる訳でもないが、やはり危険な職務だからな。大なり小なり、その手の恐怖とは付き合っていかねばならん。……スバルくん、君のような災害レスキュー志望ならともかく、その子は執務官を目指しているという話だったね。もしも、”その程度”の恐怖を乗り越えられないのなら、向いていなかったということだ。諦めた方が良い」
「で、でも、あれはあんなことがあったからっ!!」

 遂に堪え切れなくなったように。スバルちゃんがテーブルに手を叩きつけながら身を乗り出す。目には涙が溜まり、隣にいるギンガが服を掴んで落ち着かせようとしても、どうにも今回ばかりは抑えられない様子だ。しかし、それを見ても陸上部隊の長を務めているクロエは顔色一つ変えずに言葉を続ける。

「今回は運が”良かった”。撃墜されたにも関わらず、致命的な怪我を負わなかったのだからね。……知っている筈だ。人は運が悪ければ、いとも容易く命を奪われてしまうと。君達のお母さんがそうであったようにね」
「とーさんっ! そんなこと、いくらなんでも言いすぎだ!」
「アイ、お前は黙っていなさい。これは前線に立つ魔導師にしか分からん話だ」

 よりにもよってクイントさんの事を引き合いに出したクロエに、今度は俺が我慢できなくなって思わず口を挟んでしまった。どれだけスバルちゃんとギンガの二人がクイントさんの死に嘆き悲しんだかはクロエも知っている筈なのに。二人の人生を変えてしまったといっても過言ではないほど、強烈なトラウマである筈だ。
 だけど、それも切って捨てられる。クロエの視線はスバルちゃんと、その隣にいるギンガにも向けられていて。

「君の希望する災害救助だって、決して例外という訳じゃない。我々はいつだって、命を失う危険性と隣合わせで仕事をしなければならん。怯えるなというのは無理な話だろうが、どこかで折り合いを付けていかなければ、やってなどいけん。……分かるね?」
「……はい、でも」
「若く将来もある君達にあまり言いたくはないんだがな。前線の局員というのは基本的に消耗品だ。慣れても、経験を積んでも、どんなに強くても。いずれどこかで必ず限界が来る。その限界を引き伸ばしてやるのも俺のような上に立つ人間の仕事だが、徹底的に折れてしまう前に引かせてやるのもまた必要なことなんだ。ティアナくんの件は、こうして又聞きしただけでも、決して浅い傷ではない」

 重苦しい言葉に、リビングの誰一人として言葉は返せなかった。スバルちゃんも、ギンガも。そして、俺でさえ、一様に硬い表情をしている。唯一背後に立っているマリエルの表情は分からなかったが、それでも厳し過ぎることをはっきり口にするクロエに、何かを言う事はなかった。クロエは胸ポケットから煙草を取り出すと火を付けて口に咥え、大きく煙を吸い、吐く。そのまま、数分の間、誰しも無言であった。やがて、一服したクロエが再び話を切り出し始める。

「トラウマを克服して、再び前線に復帰する。出来るに越したことはないだろうが、引くこともまた選択肢の一つだ。若い君達にはそれが逃げだと、敗北だと思うかもしれないがな。これは管理局の上官としてではなく、人生の先輩としてのアドバイスだ。頭の片隅にでも入れておいてくれると嬉しい」
「……はい、ありがとうございました。しっかり、胸に刻んでおきます」

 その言葉は、ティアナさんに向けた物というよりも目の前にいる二人にこそ言いたかったアドバイスなのだろう。それを聞いたギンガもすべてを納得出来た訳ではないだろうが、それでも真摯な態度で頷く。スバルちゃんはというと、すっかり言葉を無くして俯いてしまっていた。そりゃあそうだ、ティアナさんを元気付けて復帰する為の方法を探してきたのに、年長者から告げられたことは全くの真逆だったのだから。
 げしっ、とテーブルの下でクロエの脛を思いきり蹴っ飛ばしてやる。言っていることは納得出来た、が。スバルちゃんを泣かせろとは誰も頼んでない。せっかくギンガと話して元気を取り戻し始めていたのに、逆に落ち込ませてどうするんだ。痛みに小さく唸ったクロエがこちらになんとも言い難い視線を向けて来たが、顔ごと視線を反らしてやる。黙れと言われたから、黙って蹴飛ばしてやったのだ。文句あるか。

「さあ、難しい話は一段落したみたいだし、そろそろご飯にしましょう。お母さんお腹空いちゃったわー」
「それじゃ、かーさんは座って待っててね。私が何か作るから」
「だいじょうぶよー。かーさん、新しい料理に挑戦してみたの。今朝からずーっと煮込んでるから、きっと美味しくなってるわよー」
「……ちなみに何作ったの?」
「びーふすとろがのふ?」
「なんで自分で作った癖に疑問系!?」

 重苦しい空気を打ち払ったのは、ふわふわにこにこ脳天気に笑うマリエルの声だ。というか、ビーフストロガノフって確かロシア料理だろ? うちで地球産の料理雑誌なんて見た事ないのに、まさか自分の記憶に頼って作った創作料理じゃなかろうな。途端になんだかキッチンの方から異臭が漂ってきている気がしてくる。マリエルの料理の腕の微妙さを知っているギンガも、同じくそう感じたのか、俺と同時に立ち上がっていた。

「かーさん、ビーフストロガノフだけじゃなんだし、私も一品何か作るね」
「えー、でも皆でお代わり出来るようにたっぷり作ったのよ?」
「マリエルさん、私もたまには料理作ってみたいですし、アイリーンと一緒に何か作ってきますね」
「そお? ギンガちゃんまでそう言うなら……うーん、ご飯が豪華になるならいいのかしらぁ。じゃあ、お母さんもさらにもう一品……」
「かーさんは座って座って。久しぶりにあったギンガと二人で話もしたいし。……それに、女の子を泣かせるダメとーさんとスバルちゃん二人きりにするつもり?」
「ぐふっ!? ……い、いや、アイ? お父さんの今のアレはな? 二人の事こそを思って……」
「んじゃ、頼んだよー」
「聞いておくれっ、愛しの娘よ!」

 クロエの嘆きの声は無視して、キッチンへと踵を返す。くっ、一日煮込んだ料理の手直しなんて出来るか? しかし、大鍋一つ分を片付けるのはこの人数でも辛い。基本的に何でも美味しく頂けるスバルちゃんがあの調子だ、まともな戦力になるとは思えない。キッチンに入った俺は真っ先にマリエル特製の「びーふすとろがのふ?」を覗いて見たが、中身は白と黒が混ざらず散りばめられたカオスシチューだった。ビーフストロガノフなんて名前知ってるだけで実物を見たことなかったが、こんな怖気の沸き立つ代物だったか?

「ねえ。おじさまの事、放って良いの? 別に私達、ありがたいとは思っても恨んだりなんてしてないわよ?」
「良いの。別にとーさんの言った事、間違ってるなんて思ってないけど、スバルちゃん落ち込ませたのは事実なんだし」
「でも、あれはちょっと気の毒のような……」
「ああすれば、少しはスバルちゃんも気が紛れるでしょ? わざとだよ」

 キッチンに並び立つギンガの質問に平然と答えを返す。男の扱いなんてあんなもんで充分だ。身体を張って落ち込む女の子の笑いの一つでも取れれば御の字だろう。結局、スバルちゃんを慰めることも、ああいう苦言を言ってやることも出来なかった俺がクロエに嫉妬して八つ当たりした、なんてことはない。ああ、ないとも。
 鍋に入ったシチューもどきの味見をして、その強烈さにギンガと揃って顔を顰めながらも、俺は背後のキッチンに、そして先ほどの会話に意識を傾けていた。結局、人間の心の問題を解決する妙案などない。時間を掛けて、なるようにしかならないのだろう。そう思うと、溜息が出る。

「まあ、とーさんには後でフォロー入れておくよ。お風呂一緒に入る約束もしちゃったし。それより、水入れたらちょっとはマシになるかな、これ」
「厳しいと思うけど……これ以上調味料入れるのもね」
「量的に結構多くなっちゃうけど、ご飯とつまみになるおかずでも作ろうか。ギンガ、頑張って食べてね」
「……善処するわ」

 今出来ることと言ったら、それぐらいだ。せいぜい、楽しい夕食にしよう。ティアナさんの問題は、ティアナさん自身が解決するしかない。だったらせめて、相方のスバルちゃんをいつも通りの脳天気お馬鹿に戻してやることにしよう。そうすれば、ティアナさんだって少しはいつもの調子を取り戻せるだろうから。





■■後書き■■
test run 2nd以来、超久々のクロエ登場回でした。
クランクアップです、お疲れ様でしたー(ぉぃ


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