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No.4894の一覧
[0] 魔法世界転生記(リリカル転生) test run Prolog[走る鳥。](2011/01/31 01:14)
[1] test run 1st「我輩はようじょである。笑えねーよ」[走る鳥。](2010/10/27 00:34)
[2] test run 2nd「泣く子と嘆く母親には勝てない。いや、勝っちゃあかんだろう」[走る鳥。](2010/10/27 00:35)
[3] test run Exception 1「幕間 ~マリエル・コッペルの憂鬱~(アイリーン3才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:36)
[4] test run 3rd「ピッカピカの一年生。ところでこっちって義務教育なんだろうか?」[走る鳥。](2010/10/27 00:40)
[5] test run Exception 2「幕間 ~ノア・レイニー現委員長の憤慨~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:37)
[6] test run 4th「冷たい方程式」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[7] test run Exception 3「幕間 ~高町なのは二等空尉の驚愕~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[8] test run 5th「無知は罪だが、知りすぎるのもあまり良いことじゃない。やはり趣味に篭ってるのが一番だ」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[9] test run 6th「餅は餅屋に。だけど、せんべい屋だって餅を焼けない事はない」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[10] test run 7th「若い頃の苦労は買ってでもしろ。中身大して若くないのに、売りつけられた場合はどうしろと?」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[11] test run Exception 4「幕間 ~とあるプロジェクトリーダーの動揺~(アイリーン7才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[12] test run 8th「光陰矢の如し。忙しいと月日が経つのも早いもんである」[走る鳥。](2010/10/27 00:43)
[13] test run 9th「機動六課(始動前)。本番より準備の方が大変で楽しいのは良くある事だよな」[走る鳥。](2010/10/27 00:44)
[14] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」[走る鳥。](2010/10/27 00:45)
[15] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」[走る鳥。](2010/11/06 17:00)
[16] test run Exception 5「幕間 ~エリオ・モンディアル三等陸士の溜息~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2010/11/17 20:48)
[17] test run 12th「住めば都、案ずるより産むが易し。一旦馴染んでしまえばどうにかなる物である」[走る鳥。](2010/12/18 17:28)
[18] test run 13th「ひらめきも執念から生まれる。結局の所、諦めない事が肝心なのだ」[走る鳥。](2010/12/18 18:01)
[19] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2011/01/29 17:44)
[20] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」[走る鳥。](2012/08/29 03:39)
[21] test run 15th「晴天の霹靂」[走る鳥。](2012/08/30 18:44)
[22] test run 16th「世界はいつだって」[走る鳥。](2012/09/02 21:42)
[23] test run 17th「悪因悪果。悪い行いはいつだって、ブーメランの如く勢いを増して返ってくる」[走る鳥。](2012/09/02 22:48)
[24] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2012/09/14 02:00)
[25] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」[走る鳥。](2012/09/27 18:35)
[26] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」[走る鳥。](2012/11/18 06:52)
[27] test run 20th「雨降って地固まる。時には衝突覚悟で突撃することも人生には必要だ」[走る鳥。](2012/11/18 06:54)
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[4894] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:67080dc8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/29 03:39
 機動六課での俺の仕事は新人フォワード4人の魔法構築式見直しとタカマチ隊長の補佐、というか雑務代行であるが、正式な立場は外部からの技術局員となっている。そもそも俺が契約を結んだのはレジアス中将だ。現在の雇用主は機動六課、引いては時空管理局本局になるのだが一応の籍はまだレジアス中将のミッドチルダ地上本部になる。分かり易いように言ってしまえば、今の俺は日本で言う所の派遣社員に当たるのだ。人材派遣サービスミッドチルダ地上本部から株式会社機動六課に出向となった訳で……いかん、例え話なのに洒落になってない。とにかく、所属は機動六課だが、籍は地上本部にあるという事だ。

 つまり。何らかの処分が下される時は、縁が切れたと思っていたレジアス中将と対面しなければならない訳で。

『困った事をしてくれたな、コッペル技術准尉。規則には人一倍気を使う人間だと思っていたのだが……買い被りだったか?』
「……返す言葉もありません。申し訳ありませんでした」
『処分内容は、給与の10%をカット。期間は三ヶ月となる。本来ならば出向停止でこちらに戻って来て貰いたいのだが』
「おほほ。ご冗談をレジアス中将閣下。その件に関してはご相談の結果既に結論付いた事柄ではありませんか」
『八神二等陸佐、ちょっとした冗談だ。ちょっとしたな。それに辞令の最中に口を挟むのは感心せんな』
「これはすみません。ご冗談を挟まれるので辞令の途中とは気付きませんで」

 何この胃の痛くなる空間。投影モニター越しに交わされる古狸と子狸の睨み合いに、間に立たされた俺は表情を引き攣らせて、視線の火花をじっと堪えていた。今俺が軽い拷問を受けているここは機動六課本部のヤガミ部隊長の執務室。部屋の主であるヤガミ部隊長の他にもタカマチ隊長にライトニング分隊の隊長である金髪美人さん、もといフェイト・T・ハラオウン一等空尉までもが部屋に詰め掛けていた。全員俺への訓告に立ち会ってくれているのだ。タカマチ隊長と、あまり面識もないフェイト隊長は俺を心配して立ち会ってくれているようなのだが、正直居た堪れなくて逆にきつい。ヤガミ部隊長はやっぱレジアス中将と仲悪いし……どうしてこうなった。
 いや、全部俺の責任なんだけれど。

『とにかく、以後、気を付けるように。問題の魔法については、後日データを提出してくれ』
「て、提出義務はないようなー……」
『いや、ある。お前の権利を侵害するような真似はせんから、絶対に寄越せ。良いな?』
「……了解です」

 ぎゃうぅ、弱み握られたぁ。せっかくの自信作なのにぃ。
 俺が内心身悶えしているとようやくむさ苦しいオッサンの映った投影モニターが閉じた。通信が切れた事を確認して、一斉に全員から深い溜息が漏れる。先ほどまで嫌味の応酬を交わしていたヤガミ部隊長も椅子の背もたれに身を沈めると、当てつけるような深い溜息を吐いていた。

「まったく敵わんなぁ。レジアス中将ときたら表情こそ渋い顔やったけど、絶対内心大喜びやで。……アイリーン、機動六課に失点を塗り込む為に送られてきたんちゃう? ほんま困るわー」
「くっ……」
「はやてちゃん! 言い過ぎ!」
「そうだよ、はやて。可哀相だよ」
「いえ、いいんです……そう言われても仕方ないですから」
「そ、そんなことはないよ。アイリーン、頑張ってるよね。……はやてちゃん?」
「あ、ずっこい! そんな可憐な表情に健気な態度! すっかり私悪者やん!」

 タカマチ隊長が俯いた俺の頭を胸にぎゅっと抱き締めて、ヤガミ部隊長を軽く睨む。良いぞ、もっとやってくれ。……じゃなくて、ヤガミ部隊長の台詞は本気の皮肉ではなく、冗談交じりのからかいだ。実際、ヤガミ部隊長と顔を合わせる機会は少ないのだが、どこか波長でも合うのか顔を合わせる度に会話が弾んで明後日の方向にスーパーボールの如く飛ぶのが珠に傷である。

 さて、今回俺がこんな目にあっているのは職務時間だというのに自室で昼寝ぶっこいていたから、では勿論ない。そりゃ褒められた行為ではないが、せいぜい見つかっても注意されるぐらいの事柄だろう。第一、呼び出しにはソーセキが応対してくれるのだし、スバルちゃん達がスクランブル出動中待っている間仮眠を取るぐらいなら問題ない、筈だった。というか、そもそもの原因は……。

「なのはさんっ! どうして、アイリーンちゃんが処分なんて受けてるんですかっ!!」
「ちょっ、スバル! 落ち着きなさい!」

 どばーんっ、とばかりに扉を蹴破るように現れたのはスバルちゃん&ティアナさんのスターズ分隊コンビ。ティアナさんの羽交い絞めを諸共せず、平然と引きずって歩み寄ってくる姿は暴走機関車を髣髴とさせる。この反応は中途半端に事情を聞いたのかもしれない。情報源はおそらく、今回の原因で実行犯になったあの赤坊主、と。

「フェイトさん! なのはさん! アイリーンさんは何もしてないんですっ、処分なんてやめて下さいっ!」
「エ、エリオくん、だめだよ。まずは落ち着いて……」

 暴走するスバルちゃんをどう宥めたものかと頭を悩ませていると、その背後の入り口から次なる刺客、エリオ&キャロちゃんのライトニング分隊コンビまで現れた。しかも先ほどの再現のようにキャロちゃんの制止(服の裾を摘んで軽く引いているだけだが)を振り切りながらのご登場である。元々中にいた俺や隊長達は目を丸くして、新人達の暴走を見ていたのだけれど、やがてヤガミ部隊長から俺にアイコンタクトが飛んで来る。え、これ俺止めるの? いやまあ、そうですよね、俺が原因なんだから。

「落ち着いて、皆。まだ慌てるような時間じゃ」
「落ち着ける訳無いよっ! なんでアイリーンちゃんが!」
「そうですよっ、アイリーンさん! アイリーンさんこそ慌ててください!」

 うん、駄目だね。すっかり頭に血が登ってしまっている。割と普段から猪突猛進気味なスバルちゃんは置いといて、普段ツッコミ側であるエリオまでボケ役と化してしまっている。一体どこから突っ込めというのか? もう感情のままに喚き散らしている状態なので、とても話が通じるようには思えなかった。
 仕方ないので、一番鎮圧しやすいエリオの前に立つと、待機フォルムから杖型の起動フォルムへ変化させたソーセキを振りかぶり。

「せいやー」
「な、なんで殴……」
「【エレキテルショック】」
「うわっ……ぎゃいんっ!?」
「あ」

 防御体勢を取ったのでさり気なく肩に置いた手から軽い電撃魔法を流してやった。もちろん、非殺傷設定の上に最低出力で撃ったので、ダメージはなく、ちょっとばかり筋肉が勝手に痙攣するぐらいである。計算外だったのは飛び上がったエリオはそのまま仰け反って半開きになっていたドアに後頭部を撃ち付けたことか。
 見れば、あれだけ暴走していたスバルちゃんが押さえていたティアナちゃんと一緒になって引いている。ヤガミ部隊長はそれを指差して笑い、タカマチ隊長は引き攣った笑顔でこちらを見ている。フェイト隊長はやや目が怖かったが、キャロちゃんと一緒になってエリオの頭を擦ってやると、その視線もすぐに緩くなった。


 閑話休題。


「それで、どうしてアイリーンが処分を受ける事態になったのでしょうか? ……アイリーンの作った魔法をエリオが使用したからだとフィニーノ陸士が言っていたそうなのですが」

 幸か不幸か、エリオの痛打によって我に返った新人達は、一番冷静だろうティアナさんを代表にして質問してきた。うん、まあ、簡単に言ってしまえばその通りなのであるが、言葉が色々足りてない。処分といっても、給料三ヶ月一割カット程度なので本当に大したことじゃない。本来機動六課内の訓告だけで済ませられたそうなのだが、微妙な俺の立ち位置がレジアス中将まで引っ張り出すことになってしまって、こう大げさな事態になってしまったのだ。
 ちなみにフィニーノ陸士というのは、デバイスマイスターのシャーリーさんの事である。説明するなら、もうちょっとしっかり説明してくれれば良いのに。

「アイリーンの作った魔法……これのことやね」

 ティアナの言葉を受けて、ヤガミ部隊長が投影モニターで映像を再生する。俺もまだ見ていなかったのだが、どうやらスクランブル出動した時の録画映像らしい。エリオと巨大なガジェットが向き合っている。非常に心臓に良くない映像が続き、程なくしてエリオが負け、走っている列車の上から放り捨てられるという衝撃映像が映し出される。
 あ、死んだ。と思わず本人が横に突っ立っているのに俺が息を飲んだその時である。空中で身を翻したエリオがぴょんぴょん、ぴょんぴょんと実に身軽にガジェットの周りを跳び回り始めたのだ。

「……なにこれ」
「凄い……完全に飛行魔法の限界を超えてる」
「うわぁ、エリオ、すごい!」

 順にティアナさん、フェイト隊長、スバルちゃん。俺を含めて、全員映像に視線が釘付けである。器用な使い方してるなぁ、っていうか、使い慣れてない魔法でいきなり無茶するなよと内心ぼやく。皆に賞賛して貰えるのは浮かれたくなるぐらい嬉しいが、これが問題映像かと思うと針のムシロだ。ケチを付けやがって、とは自分のミスなので言えないのが辛い所。要するに、何が問題なのかと言うと。

「あの、アイリーンさんの作った魔法はこの通り僕を助けてくれました! 何がいけなかったんでしょうか! 何かがいけなかったとしても、それは僕が悪いんであって、アイリーンさんの責任じゃ……」
「それなんだけどね、エリオ。この魔法、私達に相談も報告もなし、だったよね?」
「え……でも、なのは隊長」
「いえ、モンディアル三等陸士。テスターをやらせたのはともかく、終わった後に貴方のデバイスから削除しなかった私の責任です。まだ使用するなとは口にしましたが、それも決して命令の類ではなく軽く言ってしまいました。それが問題だったんです」

 そう、組み立てたばかりのα版の試作魔法を、無許可で実戦投入させてしまうという最悪のポカミスを俺はやらかしたのだ。結果、エリオを助けることになったのだから良いじゃない、では済まないのが組織であり、規律というものだ。今回は偶然エリオを助けることになったが、逆に肝心な場面で停止して、エリオの命を奪い兼ねないほどの失敗に繋がる危険性もあった。処断されるには、充分な理由である。
 しかも、今回の場合、タイミングが悪かった。新デバイスの導入が決まり、エリオのストラーダもどれほどのリミッターを外すか、ハード・ソフト含めて事前にかなり入念なチェックが行われていた。だというのに、俺が試作魔法をインストールしたタイミングは、チェックの直後。リミッターを外す寸前という狙ったかのようにチェックの目をすり抜けるタイミングだったのである。おまけにリミッターを外した直後に、そのまま緊急出動してしまったので隊長陣が気付くことは不可能だ。つまり、俺が許可も無しに安易にエリオのストラーダに試作魔法をインストールし、しかもアフターケアも怠ったのが全ての元凶だったのだ。

「……という訳です。今回のミスは、処分には充分値するんですよ。ごめんなさい、エリオ」
「そんな……そんなっ! それだったら、勝手に使ったのは僕です! 僕も処分されるべきですっ!!」
「いいえ。貴方は私の命令で試作魔法をインストールしました。あの場面で試作とはいえ空を飛ぶ方法を選択するなという方が無茶です。貴方に責任は一切ありません」
「でもっ!!」
「あー、はいはいはい。やめえやめえ。なら、エリオ・モンディアル陸士。あんたはなのはちゃんにきびしーく訓練して貰って反省すること。アイリーンの魔法に頼らずガジェットを倒せていればこんな事にはならんかったしな。しばらく訓練量倍増しや」

 熱くなるエリオとの言い合いを、ヤガミ部隊長が手を叩いて無理矢理割って止めた。
 あー、もうだから言わないで内密に済ませてしまえばこう面倒臭いことにならなかったのに。さすがにヤガミ部隊長の意見には異論を挟めず、恨みがましい視線を子狸隊長に向けると、視線を即座に逸らされた。自分の失敗の責任を子供のエリオにまで負わせてしまうとか、どんなクズだ俺は。勘弁して欲しい。
 それでも何を拘っているのか諦め切れないらしく、エリオがさらに進言しようとした所で。ティアナさんがそのエリオを手で制止ながら前に出た。その表情は厳しく、目は真剣そのものだ。その視線は真っ直ぐヤガミ部隊長と……タカマチ隊長に向けられていた。なんぞ?

「ちょっと待って下さい。確かにアイリーンのしたことはミスかもしれません。けれど、それは少しでも私達を強くしようと努力したからで、現に結果はこうして出ています。それは考慮すべきじゃないでしょうか」
「……あ、あのー、ティアナさん?」
「アイリーン、あんたは悔しくないの? 駄目だったならともかく、実際にこんな凄い魔法作ってるじゃない。結果が出てるくせに、自分の意見を通さない訳? そんなのそれこそ傲慢よ」
「いや傲慢て」
「わ、わたしもティアに賛成です! が、頑張ったんだから、アイリーンちゃんが処分されるのはおかしいと思います!」
「僕も、そう思います!」
「わたしも、です!」
「……どうしてこうなった」

 何故かヒートアップしているティアナさんに、尻馬に乗る他三名の新人達。いや、ティアナさんが熱くなってどうするブレーキ役。新人達のリーダーなんだから、ここは冷静に宥めてくれる場面だろう。自分が先頭に立って上司批判、引いては組織批判してどーするんだ。俺が頭を抑えて蹲ると、ヤガミ部隊長も腹を抱えて執務机に突っ伏し小刻みに痙攣している。いや、良いのかそんな態度で治安組織の頭。
 ヤガミ部隊長がKOされてしまったので、今まで目を丸くして呆然としていたタカマチ隊長が苦笑しながらティアナさんに近付く。その後ろでおろおろと両手を左右に意味もなく動かしながらうろたえているフェイト隊長が妙に印象的だったが、それはともかく。

「……ティアナ? もしかして、アイリーンがクビになる、とか思ってたりする?」
「えっ。……ち、違うんですか?」

 ……なるほど。そう勘違いしていた訳か。
 我らがツンデレツインテールは、タカマチ隊長の言葉に表情を一変させ、恐る恐るといったていで問い返して。ぎぎぎ、と首を軋ませながらこちらに顔を向けてくる。居た堪れなくなった俺は、視線を僅かに逸らせながら、小さく独り言のように呟いた。

「処分内容は、三ヶ月間の給料10%カット、です」
「……ぎっ、ぎゃあーーっ!?」

 まさに断末魔。潰れた悲鳴を上げるティアナさんに、遂に耐え切れなくなったヤガミ部隊長がげらげら笑いだす。ああ、すまん。俺の失敗が原因で新たな被害者……しかも必要のない犠牲を強いてしまった。でも、これは自爆なので俺に責任を求められても困る。フォロー不可能だし。南無南無。目を両手で押さえながらオーバーリアクションで身悶え苦しむティアナさんに、俺は静かに合掌するのであった。

 ……いや、嬉しかったんだけどさ。





「ふ、ふふふふふ。スバル。今後一切、あんたの噂話を信用するのは止めるわ。後死んで果てなさい、私の心の平穏の為に」
「えー、いいじゃん。アイリーンちゃんの処分が軽かったんだからさー。なのはさんや部隊長も笑って許してくれたし」
「あれは笑われたって言うのよ! ああああああああ、死にたいっ、迂闊にもスバルの又聞きを信じた一時間前の私を殴り殺したい!」

「あ、あの、アイリーンちゃん、良いの? 放っておいて」
「良いの。今フォロー入れようとしても傷口に塩を擦り込むだけだから。それに、あれはただの照れ隠し」
「……ティアナさん、マウントポジション取って本気でスバルさんを殴打し始めましたけど?」
「一発だけなら誤射かもしれない」
「いやいやいや! もう十数発は放ってますからね!?」

 しかし、緊急出動して来た後だというのに元気だな。そりゃまあ、朝から夕方まで一日中きつい訓練をしているのだからそれに比べれば体力の消耗は少ないだろう。しかし、それでも初出動で精神的な消耗はあっただろうに、これだけ暴れ回る元気があるのだから実にタフである。ああ、若いって良いね。精神三十路越えの俺にはとても付いていけない熱血さだ。是非ともその調子で精進して貰いたい。

「ん、皆集まってるね。今回の出動について、反省会を始めるから席に着いて」

 新人+α(俺)が雑談をしていたミーティングルームに、タカマチ隊長とフェイト隊長の分隊長コンビが入ってくる。今回出動したのはスバルちゃん達新人四人に、スターズ・ライトニング両分隊の隊長二人、それにリーン空曹長が現場に当たったそうなのだ。ヴィータ副隊長とライトニング分隊の副隊長は他の現場にいた為駆け付けられず、不参加だったようだが。それでも、両分隊で初めて本格的に参加した任務でもあった訳だ。
 それにしても、タカマチ隊長もこんな仕事に付いている割に線の細い女性だと思っていたけれど、フェイト隊長はそれに輪を掛けて荒事に似つかわしくない美人さんである。それも、そんじょそこらのモデルやアイドルよりよほど上の外見だ。身体はボン、キュッ、ボン。確か元々は執務官、いわば現場での統括指揮をしているような役職の人間だから、かなりの切れ物でエリートの筈である。容姿端麗、頭脳明晰、そして出世頭のエリート。どんな完璧超人だ。

「ティアナ、あんまりスバルに乱暴しちゃ駄目だよ?」
「い、いえ! フェイト隊長! これは馬鹿の躾けです! 暴力じゃありません!」
「うぅ、ティアー。その発言が言葉の暴力だよぅ……」
「ほら、苛めたら可哀想だよ。ミーティングを始めるんだから、仲直り。ね?」
「う、はい……」

 でもまあ、エリートと言うより幼稚園か小学校の先生である。容貌はどちらかというと怜悧な印象を抱かせる感じなのに、醸し出すふんわかほわほわな雰囲気が全て相殺して、それどころか印象を逆転させている。いやはや、実に好みのタイプの女性なのだが……この身が恨めしい。まあ、前世の身体だったとしても、美人過ぎてとても口説き落とせるようには思えないが。
 おっとと、それよりも仕事だ。ミーティングだ。反省会である。幾人かここにいるべき人間が事件の後処理や別件で不在なので、その分俺が働かなければならないだろう。特に隊長陣はまだ仕事が残っている筈だ。さくさく終わらせてしまおう。

 先ほども少し見たが、改めて今回の出動の際の録画映像を最初から再生する。初出動の仕事をこうして映像として再生され評価されるのだから新人4人は緊張しているようだが、実際始まってしまえばこうした反省会自体は何度もやっているのでスムーズに進行した。皆の教官であるタカマチ隊長が行動の一つ一つにチェックを入れ、どうしてこういう行動に至ったか口頭で述べさせられる。その時は正しい判断だと思って取った行動でも、こうして改めて客観視させられれば粗も当然見えてくるだろう。そして、自分でも気付いた間違えを起立させられ、改めて間違った判断を口にしなければならないのだから一種の羞恥プレイである。完璧主義者で優等生肌のティアさんは実に苦々しい表情をするし、引っ込み思案な所のあるキャロちゃんに至っては黙り込んでしまう事も珍しくない。だがまあ、この恥かしさが反省を促し、今後に繋がるのである。多分。
 俺も昔はプレゼンでぼっこぼこに叩かれて凹んだものだ。叩かれた方が伸びるとは体育会系の理屈っぽく聞こえるが、痛い目を見た方が物覚えが良くなるのもまた事実だ。当初タカマチ隊長は「しばらくは細かい事に捉われずのびのびやらせて上げたい」等と言っていたが、却下である。尻を叩いてやるなら最初の内、何かと折れ曲がり易い新人の内にすべきだ。後になればなるほど修正は容易じゃなく、本人達の為にもならない。という意見を通して、反省会の頻度を数倍、羞恥プレイの口頭報告の制度を付け加えた犯人は俺だったりする。もちろん、恨まれそうなので内緒で。うはは、若い時の苦労は買ってでもしろってな。
 が、まあ、今回の反省会で一番テンパっていたのは俺なのだが。なんせヘリコプターで上空から飛び降り、走っている列車の上に乗り移るとか。いつからアクション映画になったんだ? マクレーン警部だってもうちょっと安全な乗り移り方するぞ。あとガジェットはビーム撃つなビーム。ぎゃあ、危ないから零距離特攻クロスカウンターなんて機械相手にすんなよスバルちゃん。録画映像を見ながら、終始はらはらしっ放しである。走っている列車の上でガジェットとくんずほぐれつの戦闘なんて愉快なことをされれば当然だ。

「着地用の浮遊魔法があるからって、ちょっといくら何でも危険過ぎません?」
「危険なのは確かだけど……これが私達の道だからね。出来れば安全にやらせてあげたい。でも、多少の危険を跳ね退けられないようじゃこれからもっと危なくなっちゃうから」

 隣の席に座っている彼女、エリオとキャロちゃんの保護者であるフェイト隊長に話し掛けるが、残念ながらそうした危険を覚悟しなければならないお仕事らしい。まあ、バリアジャケットもあるので、列車の車輪に巻き込まれるようなことでもなければ死にはしないとは思うが……。それでも初出動にしてはハードすぎる。隊長達は別行動で、フォローは戦闘能力が高いと言い難いリィンフォース空曹長のみってのもどうなんだ。戦闘に関してはド素人も良い所なので口を挟めないのがどうにも歯がゆい。
 そうして、映像は何度か切り替わり、遂に問題のシーンである。

「アイリーン、この魔法について説明してくれる?」

 エリオが縦横無尽にどでかいガジェットの周りを飛び回っている所で映像が止められる。普段は一度始めたら終わりまでは止めないタカマチ隊長の寸評も中断し、俺へと全員の視線が集まった。エリオには説明をしていたが、それでも本当極々簡単に使い方と効果を教えただけである。もしかしたら俺に任せようと説明は一切していないのかもしれない。ま、確かにこれは俺の仕事だろう。半分照れ、半分晒し者にされてる気分になりながら立ち上がってモニター前のタカマチ隊長の横に並ぶ。

「魔法構成担当のアイリーン・コッペル技術准尉です。モンディアル三等陸士の使用した試作魔法について説明させて頂きます。まだ仕様書としてまとめていないので今回は簡潔に口頭のみですが、隊長陣には明日にでも、他のフォワード陣には許可が下りたらすぐにでも書類にしてお渡し……」
「「「「……」」」」
「分かりました、すぐ始めますから睨まないで下さい。……では、こちらを見てください」

 形式を軽視し問題を起こしたばかりだったので、今回はきちんと形式に乗っ取って答弁しようと思ったのだが。隊長・新人含めて全員から火傷しそうな視線を貰ってしまったので省略する。特に正面、一番前の席に座ったティアナさんの視線がきついきつい。プライベートなら罵倒はもちろん手まで飛んできそうな雰囲気すら持っていた。
 現在静止している映像はエリオの速度でぶれていたので、ソーセキに命じて映像モニターにリンクさせて修正、クリアリングを施す。まあ、見易いように切り出した静止画を綺麗にするだけなので大した手間ではない。ソーセキの中の既存プログラムで充分対応出来る程度だ。ソーセキから送られて来た切り出した候補の内一枚、ちょうどエリオが跳ねた瞬間の映像をモニターに映し出す。注目すべき所はエリオの足元、黄色の魔力光を放って”足場”にしている場面だ。

「正式名称はまだ決まっていませんが、この試作魔法を一言で表すなら”空中歩行魔法”になります。空を飛ぶ魔法ではなく、空を歩く為の魔法ということですね。つまり」
「ちょ、ちょっと! あれが歩く!? 歩くなんてもんじゃなかったでしょ、あの速度! 空中を歩けるようになったぐらいであんな高速機動が出来るようになるなら誰も苦労は……」
「ティアナさん、ミーティング中ミーティング中」
「っ……す、すみません」
「こほん、続けます。今ランスター二等陸士が指摘したように、速度と機動性能に目が行っているようですけど、どちらかといえばこれは副産物に当たります。コンセプトは”どこでも足場に出来る”魔法ですので。……タカマチ隊長、ちょっと後ろに下がって下さいね」
「え? あ、うん」

 今回の魔法は運良くというか、既に完成しているプログラムの組み合わせで大分楽が出来た。でなければ突貫工事一日だけではいくらなんでもここまでちゃんとした形にはならなかっただろう。待機フォルムのソーセキに命じて、試作魔法を起動させる。まだデバッグ作業や最適化を行っていないので想定上の数値よりもやや重くなってしまっているが、それでもソーセキを起動状態に変える必要がない程度には軽く出来ている。どちらかといえば、画像のクリアリングの方が重いぐらいだ。横に立っていたタカマチ隊長に退いて貰ってスペースを確保すると、俺はミーティングルームの壁に近付き。そして、壁に足を掛け

「まあ、こんな感じですね」

 ”上下逆さまになった”皆がぽかんと間抜けに口を開けているのを、優越感と共に”見上げ”る。まあ、それも当然だろう。壁に向かって歩いていったと思ったら、そのまま壁を歩いていって天井に足でぶら下がるように平然と立っているのだから。しかし、ぶら下がっているとはいっても、俺の長い髪や六課の制服であるタイトスカートは垂れ下がっていない。皆から見れば天井からぶら下がっているように見えても、俺からすれば天井だった部分が引っくり返って床になっているようにしか見えないのだ。

「……あ、アイリーン准尉ってニンジャだったの?」
「違うでしょ、フェイトちゃん。これは……」
「まさか、重力制御!? ど、どこが”空中歩行”程度だってのよっ!?」
「”擬似”重力制御ですけどね」

 激烈な反応ありがとうございます。アイリーン人生での一番の自信作なので、ここまで驚いてくれると思わずにやけてしまう。なんせ、”あの”ティアナさんが信じられないものを見るような視線で見てくれている。普段は何かと意見の対立も多く、辛口な意見ばかりなので彼女の度肝を抜けたのが嬉しくてたまらないのだ。スバルちゃんとキャロちゃんはまだ呆然とした顔で天井に突っ立っている俺を言葉なく見上げている。唯一魔法の概要を知っていたエリオだけは俺と視線が合うなり苦笑した。生意気だぞ、エリオの癖に。
 問題ないとは思うがまだろくにデバッグも終わっていないα版だ。いきなり緊急停止したら真っ逆さまに落下して頭蓋骨陥没か首の骨を折ってしまいかねないので、壁を歩いて上下を元に戻す。ただし、今度は床から数十センチ上、つまり空中を足場にして、タカマチ隊長とほぼ同じ目線の高さに合わせる。

「という感じに、どこでも足場に出来る魔法です。難易度的には初級の浮遊魔法よりほんの僅かに難しいかなという程度ですし、持続の為の負担もほとんど掛かりません。まともに魔法行使の出来る人間ならばデバイスなしでも問題なく使用出来るでしょうね。デバイスの補助があるなら、他の魔法と並行使用しても負担はほとんどない筈です。さすがにまだ使用データが私とモンディアル三等陸士の物しかありませんから、調整にはもう少し時間がいりますけど」
「アイリーンちゃん、しつもーん」
「はい、ナカジマ二等陸士。プライベートじゃないんだから口に気を付けろ、なんて突っ込みはわざわざ言いませんけど、何ですか?」
「言ってるよねそれ!?」
「はいはい、良いから質問どうぞ」
「うぅ……まだ良く分かんないんだけど。これって逆さまになっても落っこちない、見えないウイングロード……で、合ってる?」
「スバルちゃんにしては的を射た解釈ですね。概ねそれで合ってますよ。他にも相違点はたくさんありますが。ウイングロードと違ってあらかじめ設置しておく必要はありませんし」
「わたしにしては……」

 何故かスバルちゃんが影を背負ってしまったがいつもの事なのでスルー。今回の魔法はまさにウイングロードから発想を得た物だ。ウイングロードの構成式を使った訳ではないのだが、念の為使用許可はギンガに取ってあるので著作権の心配はない(ちなみにスバルちゃんにはどうせ深く考えずにOKを出してしまうので確認すらしてない。いつか騙されて保証人の欄にサインしてしまいそうで、お兄さんは心配だ)。
 ウイングロードは元々スバルちゃんの母親、クイントさんが使っていたオリジナル魔法だ。空中に魔力を素材にして仮想の道を作り出すその魔法は、ローラージェットで走る場所を確保する用途で使用される。いわば、シューティングアーツの為だけに作り出された魔法だ。けれど、応用が効かない訳じゃない。何度かティアナさんがその上を走っていたように、シューティングアーツ以外の陸戦魔導師にも十分役に立ってくれる魔法なのである。
 しかし、哀しい哉。限定目的で作られたウイングロードは同伴するティアナさんにとって使い勝手が良いとは決して言える魔法じゃない。遮蔽物がないので狙い撃ちに合い、退避するにしても逃げる場所が酷く限定されてしまう、そして何よりウイングロードは相手の目にも丸見えなので容易に先読みされてしまうのだ。少なくともスバルちゃんのローラージェット並の機動力がないと良い的だろう。便利ではあるものの、ティアナさんのようなスタンダードな陸戦魔導師が利用するにはいささか辛い。第一、構成の仕様が非常にピーキーで、スバルちゃんやギンガといったクイントさんの実の娘ぐらいしか使用出来ないのだから汎用性は皆無だ。

「……これは私達が個人で使える、いえ、陸戦魔導師全般用に調整したウイングロード。そういう目的で作ったのね?」
「正解!」

 説明を受け、すぐさま製作方針を察してくれたティアナさんに良い笑顔で親指を立てる。まあ、リスペクトさせて貰ったのは”方針”であり、構成の面から見ればウイングロードとはほとんど別物である。いやはや、タカマチ隊長のアドバイスがなかったら、飛行魔法の分類じゃないというだけでせっかく身近にあった解決策を見逃す所だった。別に陸戦魔導師がわざわざ空戦という苦手分野で戦う必要はない。要するに空でも陸戦を行えるようにすれば良いのだ。
 そこで、今まで黙って説明を聞いていたフェイト隊長が手を上げる。俺が頷いて返すと、小首を傾げながら質問を口にした。

「でも、それだけじゃああのエリオの機動には繋がらないよね。どうやってあんな速度を出したの? 異常なほどの小回りの良さもだけど」
「それはさっきも言った通り副産物なんですが。……この魔法は加重軽減魔法を利用して作っているんです」
「加重……軽減魔法?」

 おそらく俺の提出したデータが手元に届いていないか、まだ読んでいないのだろう。スバルちゃんやティアナさんも使用している、俺のオリジナル魔法”加重軽減魔法”。これは簡単に言ってしまうと、浮遊魔法を発動させて無重力、低重力に近い環境を擬似的に作り出す魔法だ。そういう意味では飛行魔法の分類といえなくもないが、ようするに”重力の方向とは逆ベクトルに”浮遊魔法を発動させて擬似的に重量を0にする魔法なのである。今回の試作魔法も同じ要領で、使用者が足場と見定めた場所を基点として擬似的な重力が掛かるよう調整されている。既存の浮遊・飛行魔法との最大の違いは使用者が”足場”と定めた発動ポイントを基点にして強制的に1Gにしてしまうという点である。つまり、

「ポイントは三倍の重力がかかるような環境下だったとしても、魔法が発動した時点で身体に掛かる負荷を強制的に元の環境に戻す魔法でもある、ということなんです」
「……えっと?」
「例えば、全速力を出して地面に突撃すると、自分の体重の何倍もの衝撃が返って来ますよね? それをこの魔法は着地時に身体に掛かる負荷を強制的に”普通に立っている状態”に戻せるんです。もちろん、それは魔法による擬似的な環境ですから、設定でいくらでも変更が効きます。エリオ……モンディアル三等陸士のやった機動はその設定を0Gにすることで、速度を損なうことなく反動なしでベクトル変更していたんですよ」

 初速がアホみたいに上がっていたのは無重力下に近い環境で魔力による瞬間ブーストジャンプ(こっちの魔法構成式は失敗作の飛行魔法から流用した)を行ったせいである。もちろん一旦足場から飛び出してしまえば、普通の環境に戻るのだが、連続使用すれば発生した慣性を利用して本来の最大速を容易に越えられるという理屈だ。いや、元々素早く移動出来る方法として直線的に何度もジャンプをするような使い方は想定していたのだが、それをエリオは自分の運動神経で無理矢理ベクトルを変え続けるという脅威の応用をして見せたのである。自転車を普通に走らせるんじゃなくて、片輪だけで走ったりアクロバティックな方法で乗り回すようなものか。何重にも加速を重ねた速度による運動エネルギーは相当な物になるが、元々10トン以上の荷物を運べるように想定した加重軽減魔法だ。人間一人分ぐらいの質量なら、かなりの速度を出していても相殺出来る。もちろん、限度はある、が。

「モンディアル三等陸士の体重が40kgで時速200キロ近く出したとしても、衝突時間を仮に0.1秒と計算してその際に掛かる力積はおよそ2.3t。単純計算で適当にもほどがありますが、充分加重軽減魔法で相殺出来る数字です。加重軽減魔法での限界よりも、どちらかというと風圧での減速や音速の壁の方で問題が出るかもしれませんね」
「……な、なのは分かる?」
「……全然」
「まあ、ようするに無重力状態で初速が出せて、上下左右地上空中関係なく足場を作れる。そして着地時も慣性による負担が一切掛からない魔法だと思って下さい」

 こそこそ内緒話を始める隊長二人に苦笑しながら、俺は出来るだけ噛み砕いた説明を行う。実際の計算方式やら構成上の仕組みまで説明していない筈なのだが、それでもやや理屈に偏り過ぎていたようだ。
 一応今回はエリオが使用するということを前提に1Gで立ち止まれるモードと、踏み出す際0Gで魔力によるブーストがオートで発生するモードを設定しておいた。エリオの感覚のみだけで言うなら、空中上下左右関わらずどこでも足場になって、蹴り出せばロケットスタートのように速度が出る魔法、という所だろうか。俺が危惧したのは速度に追いつけず足を引っ掛けたり、障害物に激突する危険性だ。テストをエリオに任せたのも、俺のような運動神経がぶち切れた人間には手に余ると踏んだからである。まあ、エリオのような無茶な使い方をせず、直線的に距離を取るだけならばキャロちゃんにも問題なく使える筈だ。
 一通りエリオに渡した魔法の設定について説明すると、何故か呆れたような疲れたような表情でティアナさんが頭を抱える。胡乱げな視線をこちらに向けてきたかと思えば、額を押さえながら言葉を漏らした。

「加重軽減魔法の時点で大概だとは思っていたけれど。アンタのその発想はどこから出てくる訳……?」
「まあ。”足場”の設定やG周りの計算式には苦労しましたけど。ほとんど私が前から作っていた物を組み合わせただけなので、そこまで難しい物じゃ」
「そうじゃなくて! こんな非常識な発想が出てくる時点でおかしいのよ!? もう飛行魔法どころか別系統の魔法じゃない! それも、明らかにこれはどの既存魔法にも当て嵌まらない新魔法よ!?」
「何が気に食わないのかさっぱり分かりません。あとテーブルを叩かないように」
「そ、そうだよ、ティア。落ち着いて、どーどー」
「だからアンタは私を馬扱いすんなっ!!」

 ヒートアップして両手で何度も机を叩くティアナさんをスバルちゃんが宥めようとしているが挑発にしかなっていない。もうノリがミーティングからプライベートの物に移行してしまっていた。
 既存魔法に当て嵌まらない、ってことはないと思うんだけどなぁ。俺がやったのは元からある魔法や発想の組み合わせで、ちょっと違う使い方を整えて一つの魔法にしてやっただけだ。基礎になった加重軽減魔法にしたって浮遊魔法の応用であることには違いないし。さすがに一から理論立てて全く新しい魔法を作るには俺の頭の程度が足らない。元からある物を使って作った方が絶対に楽だし、質も上がる筈だ。本当の意味で全く新しい魔法ってのに憧れがない訳でもないのだが。

「……まだ理解し切れてない部分があるけれど、凄い魔法だね。飛行魔法で逆噴射しても慣性はどうしたって殺しきれないのに、それを浮遊魔法の改造でやっちゃうなんて」
「フェイト隊長、飛行魔法の推進力と浮遊魔法の浮力のシステムは全く別物ですよ。まあ、普通に使ってるだけの人からすればどこまで浮遊魔法でどこからが飛行魔法か分かり辛いかもしれませんけど」
「ということは、空戦でも恩恵は受けられるんだね」

 ティアナさんと同じぐらい、フェイト隊長もこの魔法に興味深々のご様子だ。空中固定砲台のタカマチ隊長と違って、フェイト隊長は速度重視、機動性能重視の空戦魔導師と聞いている。慣性を無視できる魔法だ、関心の一つも引かれたのだろう。まあ、仕様は完全に陸戦魔導師をターゲットにしているので、このままじゃあ空戦魔導師には使い辛いと思うけどな。

「あ、あの……」

 全員が全員、自分の考えに没頭しているのかミーティングルームに静寂が訪れている。そんな場面で、おそるおそる手を上げる者がいた。エリオの横の席で小さな召還竜、フリードを抱えて話を聞いているだけだったキャロちゃんだ。あまり強く我を押し通せる性格ではないし、静かになった所でようやく話しかけられたのだろう。

「何? どうかしたの、キャロちゃん。疑問があるなら答えるよ」
「ううん。そうじゃなくて。……今日の出撃のことなんだけど」
「……? 今日の出撃のことを隊長達じゃなくて、私に?」
「あ、う、その……隊長達にも言わないと……いけないと思うんだけど」

 何故かキャロちゃんは酷く言い辛そうな様子で言葉を濁らせている。いくら引っ込み思案な方だといっても、質問ぐらいで躊躇わない程度には慣れて来ている筈だ。考え事をしていた他の面子も何事だとキャロちゃんに視線が集まっていく。余計に言い辛くなるのではないかと心配したが、キャロちゃんは意を決したように、強い語調で一気に吐きだすように声を上げた。

「エリオ君が、全部終わった後に吐いちゃってたの! でも、エリオ君は別に平気だからって……!」

 その言葉に一斉に視線がキャロちゃんからエリオへと移される。もちろん、俺もである。そんな事実初耳だったからだ。視線を一心に集めた張本人のエリオは、慌てたように顔の前で両手を振り。

「い、いえ! ただ単に気分が悪くなっただけです! あ、あはは、鍛え方が足りてなかったみたいで情けなくて。でも、今は元気ですし、何も問題は」
「この……馬鹿っっ!! どうして報告しないッ!」

 思わず。言い訳を口走ってへらへら笑うエリオに。俺の口から罵倒が飛び出していた。エリオの前の机を押し退けて、頭をぶん殴り……いや、ぶん殴ろうと手を振り上げたところで自制する。代わりに胸倉を掴んで引き寄せると、目を丸くしているエリオを睨み付けた。先ほどまで浮かべていた笑みのままで固まって、口元が僅かに引き攣っている。

「どうなったか、全部報告しろ! 今! すぐ! ここで! 正確にっ!」
「あ、う……は、はい。ガジェットを倒した後、気が抜けて、そうしたら気持ち悪くなって……」
「……それで? どうしてそうなった?」
「え、いや。たぶん飛び回っていた時上下がぐるぐる入れ替わったから、それで酔っちゃったのかも……」
「……そうか、三半規管が急激な重力の変更についていけなかったんだ。軽減魔法で身体に負担がいかなくても、三半規管や脳は重力の方向のブレで揺さぶられて……タカマチ隊長、モンディアル三等陸士を医務室に。問題ないと思いますが、念の為精密検査をしておいた方が良いと思います」
「あ、アイリーンさん! 別にもう大丈夫で」
「あんまふざけた事ばかり言うと、その口縫い合わせるぞ」

 重力制御は擬似とはいえほぼ想定通りの数値が出ていたから、内臓の方は問題ない筈だ。しかしあれだけ上下左右関係なく足場を発生させまくっていたのなら、脳が頭蓋骨の中でかなりシャッフルされていてもおかしくない。正直、上下をあそこまで連続して反転させまくったのは俺の設計想定外。すぐにでも精密検査をするべきだ。頭を打ちつけたのとは違うが、医療に関しては専門外も良い所。念には念を。後で障害が起こる可能性だって皆無ではないだろうから。

「さっさと医務室に行……いえ、もう私が連れて行きます。隊長、ミーティングの途中ですが、退室しても良いでしょうか?」
「う、うん、どうぞ」
「アイリーンちゃん、わたしも行くっ」
「そう。それじゃキャロちゃんはそっちの腕を掴んで。逃がさないように」
「うん!」
「だ、だからっ、アイリーンさん!? ちょっとー!?」
「黙れ、口を閉じろ、呼吸以外するな」

 危機感の全く足りていないお子様の腕にがっしりアームロックを掛け、キャロちゃんと一緒になって引きずっていく。まったくホウレンソウ(報告、連絡、相談)はどこの世界でも基本だろうに。昔諦めた身体強化魔法は既に正式な物を覚えているので発動させ、ほぼ同体格のエリオを問題なく運んでいける。運動神経まではフォローしてくれないが、エリオを引きずる程度なら十分可能だ。
 しかし、先ほど戯れとはいえ電流を流してしまい、ドアに頭を打ちつけたのが気になる。普段なら、その程度気に止める必要はないのだけれど、今回はタイミングが悪過ぎた。……本当に、今日は凡ミスが多い。多すぎる。しかも、俺のミスの皺寄せが全てガキンチョに行っているのが死にたくなる。
 前回徹夜で失敗したというのに反省が全然、全く、これっぽっちも足りていなかったのだ。本物の馬鹿か俺は。ミーティングルームを出て一目散に医務室へ向かう。六課には専門の医務官がいる。脳の方まで調べられるかは分からないが、これだけのエリート部隊の面倒を見る人物だ。少なくとも俺なんかよりは適切な処置を取ってくれるだろう。

 ああ、徹夜の妖精さんとその場の勢いに身を任せるとろくなことがない。
 情けなさに思わず涙腺が緩みそうになるのを目元を擦って堪える。本当に、ろくなことがなかった。





■■後書き■■
この作品は新人達の初出動より、主人公自作の魔法解説に時間を使っています。
(ry

ツッコミどころ満載だろう新魔法。物理関係は専門じゃないので生暖かい目で見てね!
と、言うのはやっぱ甘えでしょうかねぇ。
読者の方々も感想版含めて色々予想していただいたようですが、当たっていたでしょうか?
問題はこの魔法の正式名称が決まっていないこと。試作魔法で押し通すのは限界ですし。
さて、どういった名前を付けたものか。読者様からの案も絶賛募集中。


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