あの人の第一印象は、なんだか良く分からないけどすごく怖い人、だった。僕の不注意が原因なんだけど、とてもとても怒らせてしまって思い出すだけで身体の芯が震えるような目に合わされた。傍から見ていただけの同僚のキャロもトラウマになってしまうぐらいで。僕に至っては今思い出すだけでも足が震える。地面がこれほど愛しく、大事な物だなんて思わなかった。 次に会った時の印象は、僕より一つ下なのにすごく頭の良い人。僕も魔法の勉強は一生懸命やったつもりだったけれど、大人の人達と混ざって議論なんかとても出来ない。そう、あの人は僕より年が一つ下なんだ。てっきりヴィータ副隊長のように見た目だけだと思っていたのに、キャロによるとまだ9歳なんだとか。嫉妬……も正直感じたかもしれない。けれど、それ以上に感じたのは羨望だった。僕は何よりも早く一人で立てる大人になりたかったから。「モンディアル三等陸士?」「は、はいっ!?」「話、ちゃんと聞いてましたか?」「も、もちろんですっ! コッペル准尉!」 水色の髪に水色の瞳。本来なら優しい色なんだけど、最近の僕にはちょっとトラウマ気味だ。警戒色の赤の方が気が休まるくらい。今も厳しい訓練の後にミーティングルームに僕だけ呼び出されてお説教の真っ最中で、水色の瞳が僕を冷たく睨んで来ていた。 何故かまでは分からないけれど、彼女、アイリーン・コッペルさんに悪い意味で特別視されているみたいだ。だって、明らかにスバルさんたちと僕では対応が違う。意地悪、ではないんだろうけど。言葉は丁寧、態度も真面目、けれどそれだけに正論で批難されると反論も出来ずに落ち込む羽目になる。……それになんだか言葉の裏に”足手纏い”とか”セクハラ小僧”とか、そういった色が見え隠れしている気がしてならないのだ。後者は面と向かって言われたし、事故とはいえ自分でも僕が悪かったと思う。 でも、前者は認める訳にはいかない。いや、今そう思われていても絶対取り返さなきゃ。「モンディアル三等陸士は近代ベルカ式の近接戦闘を主としているせいか、魔法を感覚で捉えるのが上手いですね」「あ、ありがとうございます!」「しかし、逆に言えば自分で扱ってる魔法の特性を頭で理解して、活用するという工夫に欠けてます。根っからの体育会系ですね。もうちょっと理論の方も大事にして貰えると私の仕事も捗るんですが」「す、すみません……」 どうしてこの人は上げてもすぐに落とすんだろうか。かといって最初に落としたら落としっ放し。それどころか追い討ちを掛けてくることすらある。キャロやスバルさん達には優しいのに……もしかしたら、根本的に嫌われているのかもしれない。怖いのと悔しいのと悲しいのがごっちゃになって、アイリーンさんの前に立つと混乱してしまう。そんな自分を情けないと思う。もっと、強くならなくちゃいけないのに。 今日の模擬戦もなのは隊長には手も足も出なかった。新人の僕と歴戦の魔導師であるなのは隊長では比べるのもおこがましいのかもしれないけど、それでも僕達は4人で、相手は魔力のリミッターまで付けていたんだ。もうちょっと、上手く出来たと思う。もう少し速く、強く踏み込めたと思う。腕時計型になっている待機状態のストラーダを掴む。僕の槍は届かない。どうしても、なのは隊長やヴィータ副隊長に届かせられるイメージが浮かばない。 ……僕はなれるんだろうか、フェイトさんのように。守られるだけじゃなく、僕も誰かを守れるぐらいに、強くなれるんだろうか。「……んー?」「うわぁっ!? ……な、なんですかっ、アイ…コッペル准尉」 気が付けば、すごく間近から水色の瞳に覗き込まれていた。 背は僕より少し低く、キャロと同じくらい。けれども、思わずうろたえながら後退した僕にはとても大きく、見下ろされている気分になる。色々考えすぎていて、接近に気が付かなかったみたいだ。 心臓の音がうるさい。激しく16ビートで鼓動する心臓を押さえながら問う僕に、アイリーンさんは非常に訝しげな表情で見て来ていて。何かまた失敗したのか、と僕は自分の行動を思い返す。ぼーっとしていただけが理由なら、きっと彼女はストレートに叱責していただろうから。 と、納得いったようにアイリーンが頷きながら手を打ち合わせると、僕の鼻先に指を突き付けて来た。「ああ、思い出した。負け犬の面だ」「い、いきりなり何ですかっ!?」「……こほん。もとい、思い出しました、これは負け犬の面です」「丁寧な言葉遣いに直してくれなんて言ってませんっ! ほとんど変わってないですし!!」 こともあろうに、人の顔を指して負け犬呼ばわりだ。さすがにそこまで言われる云われはない。僕が内心コッペル准尉ではなくアイリーンさんと呼んでいるように、彼女も僕の事をモンディアル三等陸士に振り仮名を付けて負け犬とでも呼んでるんじゃないだろうか? ありえそうな想像だけに自分で考えてへこんでくる。 年下の上司に反抗すべきか、泣き寝入りすべきか。僕が真剣に頭を悩ませていると、先にアイリーンさんの方が口を開いた。しかし、その口から紡がれた次の言葉は……僕の予想を外れた内容だった。「モンディアル三等陸士、貴方、自分を駄目な人間だとでも思っているんじゃないですか?」「……え?」 胸の内側に冷たい金属が刺し込まれるような、そんな悪寒がした。今までだって染み入るような毒舌だったけれど。その言葉は、僕の中心をあまりに容易く打ち抜き、貫いた。 駄目な人間。 使えない人間。要らない人間。 そもそも、人間かどうかすら怪しい……ニンゲン。 手が震えている、それを自覚して僕は慌てて逆の手で押さえ込んだ。激昂してアイリーンさんに殴りかかろうと思ったからじゃない。動揺する自分を、見られたくなかった。感付かれたくなかった。 僕は一人でも立派に立てる大人になる為にここへ来た。僕のような誰かを一人でも守る為に強くなろうと決心した。しかし、それは裏を返せば今の自分に他人が必要としてくれるような価値を感じていなかったからだ。今の自分は無価値。フェイトさんの優しさに頼って、縋るだけの、そんな存在。そんなものに……誰が価値を見出してくれるのだろう。 僕は僕だけの価値が欲しかった。オリジナルのエリオ・モンディアルとしてじゃない。かといってクローンで良く出来た模造品のエリオ・モンディアルとしてもじゃない。 今、ここにいる”僕”の価値だ。「はぁ、そうですね。確かに今の貴方は魔力が対して大きい訳ではなく、飛び抜けた魔導師としての腕を持っている訳でもないです。頭が回る訳でもない、というか基本他人(ティアナさん)任せ。唯一優れていると思われる近接戦闘の腕は、隊長陣は元よりスバルちゃんにも勝てるか疑問ですしね」「……そ、そこまでは、思ってない、です」「どうしました。さっきみたいな激しいツッコミは? まあ、本当の事しか言ってませんから、痛烈に打ち返してあげますけど」「ぐっ」 く、悔しい。激しく悔しい。お門違いなのかもしれないけど、本気で腹が立ってくる。 確かにこの人は天才で、言っている事も正しいのかもしれないけど、どうしてこうも言動に優しさがないのだろう。フェイトさんの優しさを十分の一でも見習うべきだ。可愛くない。そう、この人を一言で言うとぜんっぜん! 可愛げがない! そんな僕の憎しみにも近い視線をどう受け取ったのか分からないけれど、彼女は淡い水色の髪を指で掻いた。それから、僕をもう一度見て溜息を吐いて……「……未熟な時に馬鹿だのカスだの罵られるのは、どの世界だって変わらないぞ、少年」「は……はい?」 先ほどとは違う意味で意表を突かれた。だって、見た目だけならキャロと変わらない、あれだけ丁寧な口調で毒舌を吐いていた完璧な彼女が……。僕が言うのもなんだけど、親が見たら絶対泣きそうなやさぐれた男口調で喋ったのだ。 一瞬、違う人間がどこかで喋っているのかと思った。きょろきょろ辺りを見回して、ミーティング室に僕と彼女の二人しかいないのを確認して、ようやく認められた。「だから。訓練始めて何日も経ってない分際なんだから、クソミソに叩かれるのは仕事の内と思っておけっつってんだ、クソ坊主」「え、ええええええええっ!?」 驚愕の叫び声を上げる僕に、実に五月蝿そうにアイリーンさんは両手で耳を塞いだ。というか、口調だけでなく、仕草や表情まで何かやさぐれてる。もしかして、これが彼女の素、なんだろうか。 驚愕冷め止まない僕に、ゴンッ、と激しく音が鳴る位に拳骨を振るった彼女は、痛そうに手を振りながら、冷めた視線を僕に送ってきた。「いっ、つぅっっ……な、何するんですかぁ……」「間抜けな面してるからだ。男ならビシッと構えろ、ビシッと」「何その理不尽な理由!? 正論ですらなくなった!?」「知るか。腹割って話してやるから、年上の言うことは良く聞け」「アイリーンさんの方が年下でしょうっ!?」「細かい事言うな」 もう一度殴られた。頭を抑えて蹲る僕に、アイリーンさんも椅子を引き寄せて座り込む。椅子の背を前に、股を開いたとても行儀が良いとはいえない座り方で。 ……劣等感を感じていたのと同時に、僕は完璧過ぎるぐらい優秀なアイリーンさんに憧れに近い感情を抱いていたのかもしれない。だから、そんな仕草がとてもショックだった。ある意味、先ほど図星を突かれた時よりも。 しかし、そんな僕の心の痛みなどやっぱり気にしてはくれず。しゃがみ込んでいる僕の頭に手を置いて、ぐぐっと顔を近づけて来た。僕の中では警戒色になっている、あの水色の瞳がすぐ目の前にある。「あのな。未熟だったり、下手だったりする時期がない奴はいないんだよ。それが人より長いか短いかってだけでな」「で、でもっ……! 最初から凄くて、上手い人だっています! ……それに、努力してそんな人達に追いつける保障なんてないじゃないですか」「あー、まあ、そりゃあな。本物の天才には勝てないか。スタートからして違うし」「そこは否定するところじゃないんですかっ!?」 あまりの適当さに、僕は全身全霊を込めて叫ぶ。丁寧口調で冷淡に毒舌を吐いていたアイリーンさんも相当だったけど、今のアイリーンさんはもっと酷い。ほんの少し期待してしまった分、涙まで滲んできた。僕の本心を掘り返すだけ掘り返しておいて、こんなのあんまりだ。 しかし、アイリーンさんはとことん僕の予想を裏切るのが好きらしい。涙ぐむ僕の頭をその手で掻き混ぜてくると……落ち着いた、まるで大人の男の人のように優しい口調で言った。「でもな、お前の才能はどこまで行ってもお前のもんだ。突如天才になったりする訳じゃないし、強くなったりもしない。結局”お前”が進みたければ、自分で努力するしかないんだよ」「……」「頑張った結果、天才さんにも勝てる結果が出せるかもしれないし、出せないかもしれない。陳腐で使い古されてる言葉だけどな、やらなきゃ始まらないんだ。最初から諦めてたら、80点取れる筈のテストも落第点にしかならねえぞ? ……負け犬根性出して、うじうじ言ってる暇あったら、もっと俺達にぶつかってこい。隊長達も俺も、お前を苛めたくて罵ってんじゃないんだ。成長する為の手助けぐらいしてやるから」「……」 僕はその時、馬鹿みたいに口をぽかんと開けて惚けてしまっていた。 絶望と苦痛の闇に沈んでいた僕を、その手で闇の中から引き上げてくれたフェイトさん。そんな優しい恩人の人と、まるで正反対の冷たさと厳しさしかなかったアイリーンさん。だからきっと、フェイトさんと違って彼女は僕の事が嫌いで、必要としていない最たる人だと思っていたんだ。 なのに、今僕の目の前で話している彼女は、フェイトさんと同じに見えた。まったく同じではないけれど。優しくも厳しく、情に訴えかけるのではなく理を持って。アイリーンさんらしい言葉で、僕に一生懸命語りかけてきて。そう、同じなのは……”僕”に対して真剣に向き合って、心を砕いてくれていたことだ。 オリジナルではなく、クローンの僕にでもなく。この、”僕”に。「それに……別にお前さんの才能がないって訳じゃない。俺の専門じゃないからはっきりと断言はしてやれないけどな。子供の割には良くやってると思うよ」「……くっ」 ……最後に、そっぽを向いて言葉を締めた彼女に、僕は耐え切れなくなって吹き出してしまった。だって仕方ないだろう? フェイトさんみたいな大人の人が言うならともかく、僕より一つ下の女の子が無骨で不器用な慰めを口にしたのだ。少し困ったような難しい表情で語る彼女が、可笑しくて溜まらなくなってしまった。 肩を震わせていた僕が遂に声を上げて笑い出すと、訝しげにこちらを見ていたアイリーンさんは顔をみるみる内に赤く染めて、拳を握って振り上げてきた。「ま、待って、待った! ぼ、僕が悪かった、ですから……ぶふっ!」「良い度胸してるな、おい。人がお前の為を思って語ってやったってのに……!」「だ、だって、いくら何でも……」「チッ。優しくするのはやめだ。盾だ、盾になれ。魔導師として成長なんてしなくていいから、スバルちゃん達の為の肉盾になれ」「え、ちょっ。確かにガードウィングですけど! 肉盾とは激しく違うような!」「うるさい、フォワード唯一の男だろ。お前の仕事だ」「うわぁっ!? なんか無茶苦茶本音っぽいーっ!?」 拳をあくまで僕の頭や顔面に振り下ろそうとするアイリーンさんを、必死に押し留める。けど、笑いの衝動は中々消えなかったもんだから、アイリーンさんの怒りも解けない。二人きりのミーティングルームで、随分長い事取っ組み合いをすることになってしまった。 間違いない、こっちがアイリーンさんの素だ。天才だということには変わらないのだろうけど、僕が思っていたような理不尽なまでの完璧超人ではなかったみたいだ。 しばらくして、息を荒げながら僕が両手首を掴む形で、睨み合う。お互い肩で息するほどの争いだったけれど、アイリーンさんはすぐには呼吸が戻らないようだった。戦闘魔導師でもない女の子だから、体力がないんだ。また一つ、アイリーンさんの欠点を見つけてどうしてか気分が良くなる。優越感……とは違うと思うんだけれど。「はぁ、はぁ……くそ、いい加減離せ。腕が痛い」「あ、す、すみませんっ」「……ったく、貧弱な身体だな」 苦々しい訴えに慌てて両手を離すと、アイリーンさんの両腕にくっきり赤い手形が残ってしまっていた。恨みがましい目で睨まれ、さすがに申し訳ない気持ちになる。手首を痛そうに手で擦るアイリーンさんはどんなに男っぽくても女の子ということなんだろう。フェイトさんに知られたら怒られるかな、と自問自答してせっかく上がった気分が落ち込む。絶対怒られるからだ。 しかし、アイリーンさん本人は手形が付いてしまったことなどあまり気にしていないようで、ひとしきり擦ると「やれやれ」と肩を竦めながら立ち上がった。「……もう私は帰ります。モンディアル三等陸士は元気そうですので」「あ、いや、その……」「物事ははっきり言って下さい。優柔不断な男なんて、日の丸背負った国だけで充分です」 良く分からない例えを口にするアイリーンさんは、もうあの慇懃無礼なコッペル准尉だった。先ほどの性格が素だと確信した僕ではあったけれど、幻だったんじゃないかと思えるぐらいにいつも通りだった。 ……感謝したら良いのか、謝ったら良いのか。僕はどうするべきなのか分からなかった。僕と揉み合ったせいで乱れた制服を手早く直してしまうと、アイリーンさんが背を向ける。たぶん、だけど。彼女は心配してくれたんだと思う。さっきまであれだけ仲の悪かった僕を、だ。僕がまだ彼女に憧れの気持ちを抱くのなら……きっと、そんな度量の大きさに憧れるべきなんだ。才能じゃなく、卑屈に縮こまっていた僕をあっさり引き上げてしまった、そんな度量を。 ……ああ、そうか。言うべき事が、見つかった。 迷ってばかりいた僕はようやく答えが見つかった事にいてもたってもいられず起き上がると、ミーティングルームの扉を開けて挨拶もなしに立ち去ろうとするアイリーンさんの腕を掴んだ。今度は痛くならないよう、力を加減して。「……もう。なんですか、モンディアル三等陸士。まだ何か用事が?」「あの、その」「物事ははっきり……」「こっ、これからよろしくお願いします、アイリーンさん! 僕、頑張ります!」 喉が引き攣って、出だしをどもってしまった。それに声量も無闇に大きすぎた。穴があったら入ってそのまま埋め立てて欲しい気分になりながら、僕はアイリーンさんの腕を掴んだまま硬直していた。いや、だって、僕は”今度こそ”ちゃんと挨拶するべきだと思ったんだ。上司だけど、直接の所属も違うけれど。仲間なんだから。 案の定というか、振り向いて僕の顔を見るアイリーンさんの表情は驚いた、まさに馬鹿を見るような視線で。大きく大きく、今日何度目かになる溜息を吐かれた。挨拶をやり直したことに、後悔はしてない。後悔はしてないけれど。……なんだかとても挫けたくなった。 しかし、だ。 情けない顔をしているだろう僕に、アイリーンさんは呆れたように表情を崩して苦笑しながら口を動かした。どこか無骨だけれど、優しい音色を紡いで。「まあ……よろしく。期待してるよ、エリオ」 そこで話が終われば、綺麗だったんだけど。 不覚にも、僕ことエリオ・モンディアルは怖くて悔しくて嫌いだった女の子から何故か目が離せなくなってしまっていた。だから、一言だけ言って格好良く去ろうとする彼女が外した僕の手が、もう一度掴もうと伸びてしまって。「あれ、アイリーンちゃん。エリオくんとの相談まだ終わってなかったの?」「ううん、今終わった所だよ、キャロちゃん。これから食事……って」 うん、紛れもない事故だった。変な姿勢で座り込まされていた僕は、今頃になって足の痺れを感じ、足から力がスコンと抜けた。腕を掴もうとしていた僕の手が、目標から逸れて何かを掴む。足が痺れて倒れ込もうとしている僕にとって、溺れるものはなんとやらだったのだから。「ちょ、おまっ……!」「きゃっ!?」 べしたーん、とアイリーンさんと僕、それにドアの向こう側にいたらしきキャロを巻き込んで倒れ込んだ。勢い良く突っ込んだ訳ではないのでそこまで激しい倒れ方ではなかったけれど、僕は慌てて顔を上げて。「……」「……」「……兎さん?」 最後のはキャロの台詞だ。僕の目の前にあったものは丸くて白くて、あまつさえウサギさん柄だった。どうやら、とっさに伸ばした手がアイリーンさんの腰に引っかかって思い切り引き下げてしまったようだった。 当然、僕は瞬時に青褪めて立ち上がろうとした。その手に、なんだか柔らかく暖かい二度ほど味わった感触。もう見たくもなかったけれど、キャロが小さく声を跳ねさせた。 挨拶違うよ、ただの事故だよ。ほんとだよ。「……ソーセキィィィィィィィ!!」「ちちちちちち、違います、わざとじゃないです事故なんです許してぇぇぇぇ!!」 もちろん、許されなかった。■■後書き■■この作品には本編と番外編の間で著しい差が発生しております。(ry最後のオチは書きたかったんだから仕方がない。番外編は全く雰囲気の違う話を書けるので重宝しています。