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No.4894の一覧
[0] 魔法世界転生記(リリカル転生) test run Prolog[走る鳥。](2011/01/31 01:14)
[1] test run 1st「我輩はようじょである。笑えねーよ」[走る鳥。](2010/10/27 00:34)
[2] test run 2nd「泣く子と嘆く母親には勝てない。いや、勝っちゃあかんだろう」[走る鳥。](2010/10/27 00:35)
[3] test run Exception 1「幕間 ~マリエル・コッペルの憂鬱~(アイリーン3才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:36)
[4] test run 3rd「ピッカピカの一年生。ところでこっちって義務教育なんだろうか?」[走る鳥。](2010/10/27 00:40)
[5] test run Exception 2「幕間 ~ノア・レイニー現委員長の憤慨~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:37)
[6] test run 4th「冷たい方程式」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[7] test run Exception 3「幕間 ~高町なのは二等空尉の驚愕~(アイリーン6才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[8] test run 5th「無知は罪だが、知りすぎるのもあまり良いことじゃない。やはり趣味に篭ってるのが一番だ」[走る鳥。](2010/10/27 00:41)
[9] test run 6th「餅は餅屋に。だけど、せんべい屋だって餅を焼けない事はない」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[10] test run 7th「若い頃の苦労は買ってでもしろ。中身大して若くないのに、売りつけられた場合はどうしろと?」[走る鳥。](2010/10/27 00:42)
[11] test run Exception 4「幕間 ~とあるプロジェクトリーダーの動揺~(アイリーン7才)」[走る鳥。](2010/10/27 00:38)
[12] test run 8th「光陰矢の如し。忙しいと月日が経つのも早いもんである」[走る鳥。](2010/10/27 00:43)
[13] test run 9th「機動六課(始動前)。本番より準備の方が大変で楽しいのは良くある事だよな」[走る鳥。](2010/10/27 00:44)
[14] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」[走る鳥。](2010/10/27 00:45)
[15] test run 11th「席暖まるに暇あらず。機動六課の忙しない初日」[走る鳥。](2010/11/06 17:00)
[16] test run Exception 5「幕間 ~エリオ・モンディアル三等陸士の溜息~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2010/11/17 20:48)
[17] test run 12th「住めば都、案ずるより産むが易し。一旦馴染んでしまえばどうにかなる物である」[走る鳥。](2010/12/18 17:28)
[18] test run 13th「ひらめきも執念から生まれる。結局の所、諦めない事が肝心なのだ」[走る鳥。](2010/12/18 18:01)
[19] test run Exception 6「幕間 ~とある狂人の欲望~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2011/01/29 17:44)
[20] test run 14th「注意一秒、怪我一生。しかし、その一秒を何回繰り返せば注意したことになるのだろうか?」[走る鳥。](2012/08/29 03:39)
[21] test run 15th「晴天の霹靂」[走る鳥。](2012/08/30 18:44)
[22] test run 16th「世界はいつだって」[走る鳥。](2012/09/02 21:42)
[23] test run 17th「悪因悪果。悪い行いはいつだって、ブーメランの如く勢いを増して返ってくる」[走る鳥。](2012/09/02 22:48)
[24] test run Exception 7「幕間 ~ティアナ・ランスター二等陸士の慢心~(アイリーン9才)」[走る鳥。](2012/09/14 02:00)
[25] test run 18th「親の心子知らず。知る為の努力をしなければ、親とて赤の他人である」[走る鳥。](2012/09/27 18:35)
[26] test run 19th「人事を尽くして天命を待つ。人は自分の出来る範囲で最善を尽くしていくしかないのである」[走る鳥。](2012/11/18 06:52)
[27] test run 20th「雨降って地固まる。時には衝突覚悟で突撃することも人生には必要だ」[走る鳥。](2012/11/18 06:54)
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[4894] test run 10th「善は急げと云うものの、眠気の妖精さんに仕事を任せるとろくな事にならない」
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:3173a66a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/27 00:45
 ナカジマさん家のスバルちゃんですが、機動六課への就任が決定したそうです。頬に絆創膏を付けたスバルちゃんが満面の笑顔で報告してくれました。
 いや、スバルちゃんが知る前から知ってたんだけどね。最近書類の類まで処理し始めたから。相棒のティアナさんの方も無事合格。そっちは準備で色々忙しいので、残念ながら顔を合わせることは出来なかった。まあ、これから嫌というほど顔を合わせるんだから別に良いけど。
 学校の方には仕事の都合で度々休むことになるかもしれない、とだけ言っておいた。え、今更ですか? そうですね。でも、言っておく事が大事なのである。親しい友達のノアちゃんもそうだが、「いいんちょ」がいないと寂しいと言ってくれたクラスメート達にちょっと胸にジーンと来るものがあったのは秘密だ。でも、お前達。来なくなる訳じゃないんだぞ? お別れ会はしなくてよろしい。

 そしてついにというか、直接の上司になるエースオブエース、タカマチ・ナノハ一等空尉に会う日がやってきた。のだが。

「スバルにはもう会ったけど、大きくなったねー」

 と、親戚の子に久しぶりに会ったお姉さんみたいな非常にフレンドリーな態度で接してきた。ハグ付きである。ヤガミ部隊長の話で少し出ていたが、彼女は俺の事を覚えていたらしい。それも非常に優秀なお子様として。まあ、確かに事件当時俺は6才で、素人ながらインテリジェントデバイスを振り回して救助活動を(勝手に)していたが。それが、多忙な彼女に記憶に残るほど優秀に映ったのだろうか。

「お礼も言ってませんでしたね、タカマチ一等空尉。あの時は助かりました」
「……や、やだなぁ。そんな固くなんなくてもいいよ?」
「いえ、タカマチ一等空尉に助けられなかったら、あえなく焼死体が二つ出来上がるところでしたから。ありがとうございます」
「う、うーん……」

 何故か難しい顔をするタカマチ一等空尉。いや、実は分かってますがね? 上司に子供として対応されても困るのだ。ヤガミ部隊長みたいに割り切って接してくれればいいのだが。そういえば、ここに俺が来たのは彼女の推薦らしい。そこの所をちょっと聞いてみよう。

「ああ。ごめんね、迷惑だった?」
「いえ……まあ……そんなことないですよ? ただ、何で私みたいな素人をわざわざ呼び寄せたのかと思って」

 そう、実際の能力がどうあれ、俺は実績もない素人なのだ。簡易バリアジャケットを作ったのだってまだ正式には認められていない。対外的に見れば、プロジェクトの端っこに参加していただけの子供だろう。同じプロジェクトにいた同僚も凄腕揃いだったし、構成を見て欲しかったのならそっちから引っ張ってくれば良かったのだ。
 という旨を説明すると、タカマチ一等空尉は気まずい表情を浮かべて、

「うんと……怒らないで聞いてね? スバルやティアナの魔法見てあげてたんだよね? でも、最近は見てなかった」
「ええ、そうですが……」
「レイジングハート……私のデバイスが言うにはね、昔からよく使い込んでる魔法はいいんだけど、最近になって覚えた魔法がちょっと拙いって言ってたの。それで、じゃあそれまで魔法を見てた貴女にちょっと意見を聞いてみたらどうかなって言ったんだけど」

 待て待て。なんか話が怪しくなってきた。タカマチ一等空尉のデバイスが何だって? 新しく覚えた魔法が荒いのは当然だろう。構成オタクの俺が関わってたって新しい魔法構成の粗はいくらでも出てくるんだ。自力で最近使い始めた二人の魔法が他と比べて荒いのは当たり前だ。
 それに聞いた限りじゃとても”推薦した”なんて感じじゃないように思えるが。

「そしたら、はやてちゃんが『おお、それはええな。取ろう!』……って」
「待て」
「や、やっぱり怒った?」
「……怒ったというか、呆れました」

 散々スバルちゃん達絡みの陰謀や、レジアスのおっさんとの裏取引を想像していたのに。何だ、その間抜けな成り行きは。タカマチ一等空尉は俺より随分背が高いというのに「怒った? 怒った?」とちょっと可愛い涙目の仕草。自分より小さな女の子にやるなよ、と思うのと同時に中身男の俺にはヒットである。それならまあ、仕方ない、かぁ?

「はぁ。受けちゃったからにはやりますけど。あんまり押し付けられても困りますよ?」
「う、うん。二人で頑張って新人の子達を見て行こうね!」

 よし、一応口約束ゲット。これで雑用で使い潰されたら文句の一つも言える。言えるだけだが、ないよりマシだろう。しかし、このエースオブエース、妙に可愛い。何才だ、この人。少なくともあの時見た化け物のようなエース級魔導師の雰囲気は微塵も感じられない。あの時から4年も経っているのだが、今の方が幼く見えるぐらいだ。
 しっかし、相手が新人とはいえ、本当に戦いなんて全然経験ない俺が教官側に回っていいのかね。色んな意味で新人以下だぞ、俺。……まあ、考えても仕方ない。出来る事を精一杯やるだけだ。





 うん、まあ、雑用は嫌だと思ったし、あんまり押し付けるなとも言いました。しかし、やりすぎ……いや、病気だ。ワーカーホリックだ。

「寝てください」
「あ、うん。もう後これだけだから」
「2時間前にも同じ事を言いました。寝てください」
「え、でも、これをやっちゃわないと……」
「明日でも十分です。寝てください」
「お願い、アイリーン。これだけやらせて?」
「寝ろっつってんだよ! ソーセキ、バインド!」
「【拘束プログラム】』
「えっ、ちょっ!?」
「レイジングハート、解除したら分かってんだろうな!?」
『【私もマスターには休養が必要だと判断します】』
「レ、レイジングハート!?」

 エースオブエースのタカマチ・ナノハ一等空尉は頭のおかしい上司でした。いや、命が掛かってる戦闘をこなさなきゃいけない仕事で、平均睡眠時間が一時間半とか狂ってるから。タカマチ一等空尉の補佐になってから一番重要な仕事といえば、いつまで経っても休もうとしない彼女のを無理矢理ベッドに叩き込むことだった。オーバーSランク魔導師だから疲れない、なんてことは絶対無い。現にベッドに拘束魔法で縛り付けると、物の5分もしない内に寝入ってしまうのが何よりの証拠だ。俺にも経験があるが、一定以上眠気が過ぎるとナチュラルハイに陥って逆に元気になる。もちろん、それは錯覚だ。
 まあ、仕事が忙しい以上多少は仕方がない部分もあるが、彼女の場合は完全に行き過ぎだ。ナチュラルハイが常に掛かっている状態で、しかも魔力で体力を下手にカバーしているもんだから本人が自力で疲労に気付けない。ダメ過ぎる。

 そんな訳で、人間の最低睡眠時間だと(日本では)言われている睡眠時間3時間を今日も守らせると、先ほどまでタカマチ一等空尉が向かっていた画面を見る。……これから世話をする新人のデータだ。無論、そのデータ確認は教育を担当するタカマチ一等空尉や俺の義務だ。だが、タカマチ一等空尉はそれこそデータに物理的な穴が開きそうなほど幾度も見返している。本人曰く完璧にしてから新人達を迎えたいそうなのだが。俺から言わせれば今の内に休んでおいて、新人達が来てから一緒に頭を突き合わせて悩む方が効率的だと思うんだがね。
 まあ、良い意味でも悪い意味でも手が抜けない人間なんだろう。なまじ優秀な分、それで押し通せてしまっているのが不幸だと思う。正直、本人はそれで幸せと感じてるんだから放っておけば? と放置しときたい所だが、彼女の補佐が俺の仕事だ。そういう訳にも行かない。スバルちゃん達のこともあるし、タカマチ一等空尉が潰れたら困るのは彼女達だ。

 スターズ分隊、スバル・ナカジマ二等陸士、ティアナ・ランスター二等陸士。
 ライトニング分隊、エリオ・モンディアル三等陸士、キャロ・ル・ルシエ三等陸士。

 以上四名が新人フォワード達だ。スバルちゃんとティアナさんはミッドチルダ基準で成人の15才だが、ライトニング分隊の二人はなんと10才である。アホかと、バカかと。日本じゃまだ小学4、5年って年だぞ? まだ第二次成長期も始まるか始まってないかって年だ。ありえない。まあ、今の俺も似た様な年(というか同学年)なんだが、つくづく魔導師基準の異常さが浮き彫りになる。俺みたいに頭を使うだけの職業はともかく、10才で訓練&実戦漬けにしたら成長も止まりそうな物だが。
 しかし、ミッドチルダの労働基準法に文句を言っても仕方ない。本人達は納得済みなので、俺達に出来る事は過不足なく鍛えて実戦に送り出してやるだけだ。……ああ、こんな考えなのか、タカマチ一等空尉は。でも、一日睡眠90分間生活はやっぱりダメだ。
 しかし、驚く事にこの中の全員が全員見事に陸戦魔導師。つまり、皆空飛べないのである。いや、スバルちゃんは飛べないこともないが、レアスキル紛いのオリジナル魔法で空に道を引いてその上をダッシュしているだけだ。隊長陣は皆空戦魔導師なのだというのだから、空戦になったらどうするんだろう? 地上で援護射撃? いやいや、俺が飛行魔法を改良して無理矢理飛ばせばいいだけの話か。空を飛ぶ才能ないとか知らん。飛べ。

 ……あれ? これってレジアスのおっさんが言ってた誰でも飛べる飛行魔法開発プロジェクトじゃね? まさかこれも計算の内か!? マジかよっ!? 俺一人で!?
 タカマチ一等空尉じゃないが、これじゃあ寝る暇がない。新人達が来るまで……あと一週間だ。それまでになんとかサンプル品だけでも仕上げておかないとならない。こうなったら新人達には悪いが、試作品で飛んでもらう。それでテストしながら改良する。それしかない。
 改良型飛行魔法はもちろんストックにあるが、それでも才能のない人間を自由自在に飛ばすのは無理だ。これから全く新しい構成を作らなくてはならないだろう。冗談抜きで一週間寝られそうにない。うーがー! やってらんねー!





 新人達が六課に来る一週間後。の一日前。俺はタカマチ一等空尉の執務室で高笑いを上げていた。俺って天才じゃね?と。この一週間、ろくに寝てない。タカマチ一等空尉が逆に心配してくるほど寝てない。でも、仕事終わらないから寝れない。もとい、終わってなかったから寝てない。もう寝れるがな。
 そう、誰でも飛べる飛行魔法のサンプルは完成したのだ。しかも、到底無茶な期日通りに。自画自賛するのも無理ないだろう。しかし、開発と同時にタカマチ一等空尉の補佐もこなさなくちゃならないので、執務室に小さな机を持ち込んで一緒に仕事をしていたのだが。それすらも完璧にこなしながら納期内。俺天才としか言いようがない。
 まあ、自分を褒めるのはそれぐらいにして置いて、一度ぐらい試運転をしなくてはならないだろう。新人達でテストをするといったが、さすがにα版のバグ取りすらしないまま使わせるのは俺の印象が悪くなるだけだ。それは後々の仕事に響いてくる。誰か適当な生贄……もとい、人材を探しさなくてはいけない。

 自分の執務室で相変わらずデータとにらめっこしていたタカマチ一等空尉と目が合う。が、物凄い勢いで首を左右に振られた。まだ何も言ってないのに、さすがというか勘の良い女性だ。しかし、最初から飛べるタカマチ一等空尉ではどうせ意味がない。出来れば新人達と同じ、飛行魔法に適性のない陸戦魔導師が最良だ。こんな時こそ職権乱用……じゃなかった、使える権利を行使する時である。
 機動六課の直接的な戦力はそれほど多くない。部隊長を始めとした隊長陣に、フォワードの新人四人。それに部隊長のデバイス兼部隊長補佐として登録されているリインフォース空曹長、そして会った事のない狼型の使い魔がもう一匹と行った所だ。その人数を数えれば10人にも満たないが、まあ、直接戦闘担当はオーバーSランクやらニアSランクやら、山ほどいるのだからそっちは問題ないだろう。
 ソーセキに端末から六課のメインデータにアクセスさせ、所属する局員を検索する。俺が探しているのはそうした直接戦力に数えられる人達ではなく、バックアップ担当や事務畑の人間だ。俺の想像通り、その中には陸戦魔導師の資格を取っている人間がそれなりにいた。ビンゴだ。最初から後方担当ではなく戦闘員から転向して来た奴や、資格を取るだけ取っている資格オタクが絶対いると思ったのだ。

 検索結果をソーセキに覚えさせ、早速協力してくれる人間を探すことにしよう。今はどこも忙しいが、総当りで頼んでいけば一人ぐらい付き合ってくれるだろう。

「タカマチ一等空尉」
「え゛っ!? ちょ、ちょっと今は手が離せないかな! でも、アイリーンが作った物はきっと良い物だと思うよ!?」
「……何を言ってるんですか。ちょっと出かけて来るので、用が会ったら端末で呼び出してくださいと伝えようと思っただけです」
「え……あはは、そ、そうなんだ」
「間違っても念話で用件を伝えようとなんてしないで下さいよ。念話は履歴が残らないんですから、後で情報を整理しようとした時に困るのはタカマチ一等空尉です」
「う、うん、分かった」

 ……後で聞いた話だが、きっちり3時間は眠って正気を保っていたタカマチ一等空尉とは違い、俺は相当テンパった表情で独り言&含み笑いを零しながら飛行魔法の構成を組んでいたらしい。そりゃあ、そんな人間の作った試作魔法の実験台になんぞなりたくないだろう。事実、突貫工事で作り上げた魔法には重大な欠陥があったが、その時の俺には気付けなかった。眠気で鈍った頭ではタカマチ一等空尉の焦った表情の意味が分からず、気にしないことにして執務室を後にした。
 もう一人平時の俺がそこにいたら、鈍器で殴ってでも止めただろう。眠気限界突破の人間がやった仕事なんて、酔っ払いの絡み酒並に性質が悪いのだから。



 ここ最近で一気によれよれになった感のある制服を手で簡単に整えてから、俺は見周りも兼ねて色々な部署を回ることにした。ほとんどの部署は初日の搬入作業で把握しており、それ故に幸い顔も売れている。話を聞いて貰うだけなら、実に簡単に了解して貰えた。が、残念ながら試作魔法の実験となるとそうも行かない。飛行魔法は敷居の高い魔法と認識されていて、さらに頼み込むのは陸戦魔導師にだ。才能があるなら、エリートとして名高い空戦のランクを最初から取ってしまうだろう。ようは、飛行魔法と聞いただけで尻込みしてしまうのだ。
 しかしそれでも、午前中いっぱいを使ってリストに乗っている人を手辺り次第に当たっていけば、物好きな輩も見つかるものだ。

「へえ、そりゃあ面白いな」
「そういう訳なんで、ヴァイス陸曹。協力していただけると助かります」

 俺の話を楽しそうに聞いてくれたのは、ヘリコプターののパイロットであるヴァイス・グランセニック陸曹。そう、なんとヘリコプターである。車だなんだはまだ理解の範疇内だったが、ローターの回転によって揚力を産み出して空を飛ぶヘリコプターだ。飛行魔法が空を飛ぶ第一の手段であるこのミッドチルダでどう航空力学が発達して誕生出来たのか非常に気になる。まあ、次元航行艦なんていう違う世界に行くことが出来るSFの宇宙船もどきまであるぐらいなのだから、ヘリコプター如きに驚くのは間違ってるのかもしれないが。
 ヴァイス陸曹は着任してからずっと自分が操縦する事になる輸送ヘリJF704式(超々高価な備品。訓練施設の次に六課の予算を使っている。機動六課の本部に使った金より高い)を調整していたらしいのだが、俺が顔を出した辺りでちょうどよく終わっていた。だからこそ、こうやって喋ってられる余裕もあるという訳だ。
 しかし、ひょろひょろしたいかにもデスクワークのグリフィス准陸尉と違い、ヴァイス陸曹はいかにも体育会系の頼れる兄ちゃんといった感じである。どちらも顔は優男タイプのイケメンだがな。自分がこんな情けない身体のせいか、結構嫉妬する……というより純粋に羨ましい。ヴァイス陸曹は24才らしいので、ちょうど前の”俺”と同年齢だ。結構ノリもいいし、友人に一人欲しいタイプではあった。まあ、こっちはアイリーンになってから+10年なので同年代の友人として考えるのはいささか傲慢かもしれない。
 階級はこちらの方が上だが外来だし、子供に敬語を使うのも辛かろうと彼に「敬語はいいですよ」と言ったらタメ口どころか完全に年下扱いに切り替えてきた。良い根性をしている。正直気に入った。グリフィス准陸尉と同じく、友人付き合いが出来ないのが非常に残念だ。

「ふーん、そりゃ構わないけど、俺の魔力量はほとんどないぜ? 多分コッペルの三分の一もねえ」
「それこそ構いませんよ。”誰でも飛べる”が基本コンセプトですから。魔力はさほど必要ありません」
「本当ならすげえな、それ」

 感心したように呟くヴァイス陸曹に気分を良くする俺。自分の仕事が評価されることは、いつの時代、どこの世界でも同じ事だ。”本当なら”という言い草は実績で取り消させれば良い話だし。
 本人の申告通りヴァイス陸曹の魔力量は決して高くない。というか、かなり低い。なのに陸戦魔導師B+ランクを取っているそうだから、感心してしまう。一度扱う魔法の構成を見せて欲しい所だが……まあ、今日の所は試作飛行魔法の実験が最優先だ。

「では、協力して貰えるということで?」
「そうだな……ああ、それで新人達の手助けになるなら安いもんだ。構わないぜ」
「ありがとうございます」

 と、ヴァイス陸曹は快諾してくれたのだが、このまますぐに実験という訳にも行かなかった。なんせ飛行魔法である。許可を取る為に2、3書類を書かなくちゃならないし、問題なことに彼は魔法処理に使えるデバイスを所持していなかった。いや、正確には所有しているのだが、彼のデバイスはヘリの操縦サポートや管制処理を行っているらしく、無駄なデータを入れる余地はないのだそうだ。まあ、それも特に問題はない。管理局の汎用デバイスを使えば良い話だ。もう一枚申請の書類が増えてはしまうが。

 明日になれば新人達がギュンギュン空を飛ぶ”予定”なので、申請はあっさり降りた。前もって根回ししていたので当然だ。ヴァイス陸曹と雑談をしながら、訓練所へと向かうことにする。六課の訓練所はとある機械を動かさない限り、ただの海辺なので飛行魔法を試すにはもってこいなのだ。万が一失敗して落っこちても下は海だ。落とすつもりはないが、ヴァイス陸曹も安心して飛べる事だろう。

「しっかし、随分小さいな。アイリーン、お前いくつだ?」
「人の頭を勝手に撫でないで下さい。9才ですよ」
「うげっ、そんな年でオリジナル魔法を組んだのか」
「不安になりましたか?」
「いや、驚いただけだ。天才ってのはいる所にはいるもんだなぁ」
「ここの隊長達の方がよっぽどだと思いますが」
「俺からすれば、どっちもどっちだけどな」

 いや、タカマチ一等空尉は今の俺より下の年齢でAAAランクの空戦魔導師だったらしいし、そんな化け物と同列に並べられるのは心外だ。それに俺の場合、前世の経験というチートがあるので、30過ぎたおっさんがやってると考えれば普通だろう。いや、優秀程度には評価されたいがな。
 とまあ、寝不足で考え事をしながら歩いていたのが悪かったんだろう。ちょうど六課の建物から出ようと玄関を通り抜けようとした所で、誰かと正面衝突してしまった。普通なら体重の軽い俺が吹っ飛ばされて終わる話だが、向こうの体重も……ついでに背も俺と対して変わらなかったが為に、ゴチンと頭突きし合う羽目になってしまった。実に鈍い音がした、痛そうだ。いや、俺も痛い。

「すみません、大丈夫ですか?」
「あ、あうぅ……だ、だいじょうぶれす~」

 桃色の頭髪をした少女がくるくると渦巻状に目を回していた。見た所今の俺と同年代の少女だが、フード付きの白い外套に髪と同色の可愛らしいワンピースを纏っており、ただ単に長い髪を後ろで纏めている俺とは比べ物にならないほど女の子をしている。まあ、本物の少女に女の子らしさで勝ったら普通に凹むが。かなり造詣の整った美少女…というには、少し幼すぎか。彼女とは初対面だったが、見覚えのある顔だった。
 そう、件の新人の一人、キャロ・ル・ルシエ三等陸士だ。俺もタカマチ一等空尉ほどではないが何度もデータを確認したし、間違いようがない。着任は明日の予定の筈だが、一日ぐらい早く来てもおかしくなかった。
 しかし、どう接するべきだ? この年代の子と接するのは昔のナカジマ姉妹しかり、クラスメートしかりそれなりに経験あるが、さすがに部下にした事なんてない。いや、徹底的に部下として接するなら楽なんだが、同年代にそんな態度を取られたんじゃこの年頃だと反抗するか拗ねるかのどっちかになりそうな気がする。

「あ、あの、キャ、キャ、キャ……」
「あー……気にしないで良いから、ひとまず落ち着いて。キャロ・ル・ルシエ三等陸士」
「は、はい、キャロ・ル・ルシエ三等陸士です! よろしくお願いします、ぶつかってごめんなさい! ……って、あれ?」

 先に名前を呼ばれたにも関わらず、自己紹介しながら謝るという芸を初っ端から見せてくれた少女は自分で言ってから首を捻っている。名乗った身分はちょいと現実離れしているが、その反応は年相応で実に微笑ましい。
 ……さっきからちょっと感想が親父臭いかもしれない。精神的な成長は良いが、中身親父化は嫌だ。気をつけよう。

「アイリーン・コッペル准尉です。フォワード陣の魔法構成を調整するのが私の仕事ですので、これから色々と付き合う機会があると思います。ルシエ三等陸士、よろしくお願いしますね」
「え、あ……はい! アイリーン准尉!」

 最大限に親しみを込めて手を差し出したのだが、緊張丸出しと言った様子でルシエ三等陸士は敬礼を取ったまま固まってしまった。うむむ、同僚として認めますよ、というポーズだったのだが、失敗しただろうか……。
 などとお互いに困っていると、ヴァイス陸曹が苦笑いを浮かべながら割り込んできた。

「おいおい、チビっ子二人。これから一緒に頑張ってく仲だってのに、なーに堅っ苦しい挨拶してんだ。特にアイリーン、何いきなり威圧してるんだ」
「い……威圧って。最初だからこそ、きちんとするべきかなと」
「階級持ち出した上で仕事の上司だって名乗ったら、そりゃあ萎縮や遠慮の一つもするさ。なあ?」
「あ、はい……い、いいえ!? そんなことはぜんぜんっ!」
「ほらな」

 呆れきったヴァイス陸曹の視線。彼女のフォローの言葉がまさしく萎縮して遠慮している図なのだから、反論も出来ず。気を使ったつもりで、子供に気を使わせているんじゃ世話がない。あー、仕方ない。このまま仕事に突入したんじゃ、怖くて相談しにくい人などと思われて、仕事に支障をきたす。こうなったら禁断の秘技を使わざるを得まい。

「こほんこほん……あー、マイクのテスト中、マイクのテスト中……」
「……?」
「えっと、ごめんね。実は同い年の子と話すの慣れてなくて……だから、ちょっと緊張しちゃって……」
「え……あ、き、気にしないで下さい! 私も慣れてないですから!」
「キャロちゃんって良い人だね。あ、ごめん。馴れ馴れしく呼んだりして」
「……ううん、気にしないで下さい。ルシエの名前で呼ばれるより、そっちの方が好きです」
「だったら、私のこともアイリーンで良いから。……良かったら、お友達になってくれる?」
「はい、アイリーンさん!」
「ふふふ、言い方固いよ、キャロちゃん。お友達なんだから対等にね」
「あ……うん、よろしくね。アイリーンちゃん」
「うん、よろしく」

 笑顔のキャロちゃんと握手をする。俺の手も小さいので大きさ的には変わらなかったが、やはり女の子の手というのは柔らかかった。うん、なんとかマイナスイメージを反転できたようで、良かった良かった……。対見知らぬ大人用の猫被り猫撫でぶりっ子モードを使った甲斐があるってもんだ。
 嬉しそうにはにかむキャロちゃんの背後で、ヴァイス陸曹が複雑な顔をしているが、にっこり笑顔を向けて”余計な事を抜かすなよ”と威圧しておく。敬語とはいえ、ほとんど素の内容で触れ合っていたのだ。今のが演技だということぐらいヴァイス陸曹にはバレバレだろう。いや、キャロちゃんぐらい天然……もとい、純粋じゃなかったらこの流れで普通騙されない。
 まあ、ちゃん付け同士で呼ぶお友達は正直どうかと思うが、仲良くしたいってのは本心だ。これから一年間付き合っていく仲なのだから、楽しく過ごせるのに越した事はない。仲良くなった子供が前線に戦いに行くってのは胃が若干痛くなりそうだが、それはもうスバルちゃんやティアナさんもいるのだし同じ事だ。いっそ仲良くなりまくって、出来る限りの事をしてやろうと思う。
 しかし、どうするか。せっかくヴァイス陸曹に飛行魔法の試運転を頼んだのに、一番テストに丁度良い人間と会ってしまった。なんせこれからこの魔法と一番触れ合っていく人間だ。少しでも早くその魔法と触れ合った方が熟練度も上がるというものだろう。……まあ、テストに使う人間は一人でも多い方が良いか。

「キャロちゃん、これから新人達用に作った飛行魔法のテストをしにいくんだけど、一緒に来る?」
「え、飛行魔法?」

 本人からしてみれば思っても見なかった事なのだろう、俺の提案にキャロちゃんは戸惑った表情を見せた。陸戦魔導師からしてみれば、当然かもしれない。空戦魔導師から挫折してなるのが陸戦魔導師……ってのはさすがに言い過ぎだが、飛行魔法が使えるならそのまま空戦魔導師になってしまうのが普通なんだそうだ。陸戦、空戦って括り自体が飛べる飛べないの区分けだ。飛べるのに陸戦魔導師ランクで取っている人間はよほどそれに執着があるか、もしくは地面に伏せていた方が本人の能力的に戦いやすいかのどちらかだろう。
 などと解釈していたのだが、キャロちゃん本人の弁によると一応空を飛ぶ事が出来るらしい。マジですか。

「フリード……あ、私の竜なんだけど、その上に乗って飛べないことも」

 すまなそうにキャロちゃんが言ってくる。「こっちは一週間貫徹で仕上げたのに!?」と表情に出してしまったのかもしれない。いや、他の面子に使うから全くの無駄な訳ではないのだけれど。
 そういえば、彼女の得意魔法は召喚魔法だった筈だ。竜に乗って空を飛ぶっていうのはまたファンタジックな光景だが、そういう生き物が実在してるってのは結構前から知っていたので驚くには値しない。ミッドチルダにそういう類の生き物は生息していないんだが、他世界だと割と珍しくもないらしい。で、このキャロちゃんのように異世界から管理局に入った人間が使い魔として連れてくる例も珍しくないので、竜はさすがに初めてだが地球じゃまず見られないような生き物をミッドチルダ市街で何度となく目撃したことがあるぐらいだ。
 召喚魔法とは、そういった生物、あるいは無機物に魔力でマーキングを付けてその場に転移させてくる魔法だが、それに加えて魔法的な繋がりを持たせてその生物を操るのも召喚魔法の括りに入る。俺もマーキングを付けて呼び出すぐらいは出来なくもない。が、後者は無理だ。他の生物と繋がるってのもぞっとしないし、そもそもそっち系の(生物とラインを繋げる)才能がないらしい。魔法の構成を弄り回せば出来るのかもしれないが、それには召喚魔法を実際に使いながら改良する必要がある。そもそも全く素養がない俺にその条件はきつすぎた。まあ、キャロちゃんの協力があれば出来るかもしれないけど、そこまでして召喚魔法を改造すべきなのかは疑問が残る所だ。少なくとも、苦労に見合った採算が取れると判断出来ないとやる気がしない。

 しかし、生き物の背に乗って空を飛ぶって無茶苦茶危険じゃないか? 普通の馬でさえ、落馬して命を落とす事故があるぐらいだ。まあ、バリアジャケットもあるし、早々そうした自体にはならないと思うが……うぅむ。

「まあ、飛べて損もないだろうし、良かったら来ない? そのフリードって竜から落ちた時のリカバーとして、多分どっちにしても覚えてもらうことにはなると思うし」
「……うん、そうだね」

 やや気乗りしなさそうな表情ではあったが、キャロちゃんは納得してくれたようだ。やっぱりこの年代の子供は繊細でやり辛い。ジェネレーションギャップかもしれないが、いまいち考えていることも分かりにくいし。
 ヴァイス陸曹が「俺は用済みか?」と問うて来たが、そんな訳はない。とりあえず、キャロちゃんが試す前の生贄……もとい、身代わりとして空を飛んでもらおう。もちろん自分の作った作品にそれなりの自負を持っている。しかし、試作品ってのは何らかの不具合が付き物だ。それを無くす為にテストするのだから当然ではあるのだが。
 段々とヴァイス陸曹が嫌そうな表情を浮かべてきたので、前言を翻される前にとっととテストを行うことにしよう。

「あ、そうだ。アイリーンちゃん。ちょっと待ってて」

 訓練所に向かおうとする俺とヴァイス陸曹を制止して、キャロちゃんが小走りで外に出て行ってしまう。どちらにしても訓練所は外なので、俺達が追いかけると……玄関先には何段重ねにもなったダンボール箱がふらふら歩いていた。いや、もちろん段ボール箱が歩く筈もなく、おそらく誰かが持って歩いているんだろうが。キャロちゃんはその歩くダンボールにに向かって、「エリオくーん」と大きな声で呼びかけていた。
 なるほど、顔は見えないがアレを持っているのがエリオ・モンディアル三等陸士という訳だ。キャロちゃんと同じライトニング分隊で、やはり10才の子供だった筈だ。キャロちゃんと違って性別は男だが、10才じゃガキンチョも良い所である。クラスメートの馬鹿男子を思い出すとちょっとげっそりする。子供に戻って実感した事なんだが、この年代は女子の方が圧倒的に大人だ。いや、男子が子供過ぎるのと、女子が大人を意識した行動を取り始める、といった方が正確か。その落差が男子をより馬鹿に見せるのである。大人になってからの男の馬鹿さとは違うので、正直頭が痛い。
 いやまあ、個人差があることなので、本人と話す前にこんなことを考えるのはちょっと失礼だったかもしれない。

「エリオ・モンディアル三等陸士。一旦荷物を降ろして下さい」

 そう声を掛けたのは、加重軽減魔法を掛けてやろうと思ったからだ。重い荷物を持っている時にいきなり過重が消えると後ろに引っくり返る羽目になる。しかし、モンディアル三等陸士は階級を呼ばれた条件反射か、こともあろうに荷物を持った状態で敬礼しようとし……。

「はいっ、うわあ!?」
「エ、エリオ君!?」
「ちょっ!?」

 ぐらりと、俺の方に向かってダンボールの山を崩してきやがった。どこぞの戦闘特化戦魔導師どもと違い、とっさの判断なんぞ出来ない俺は倒れこんでくるダンボールをアホな顔つきで見上げるしか出来ない訳で。
 しかし、マスターが呆けていても、優秀なインテリジェントデバイスであるソーセキが待機モードで障壁魔法を発動した。攻撃魔法のような攻性の高い物なら防ぎきれなかったかもしれないが、ダンボールごときなら十分。余裕を持って弾き飛ばせる、筈だったのだが。

「あぶないっ!」
『【ソニックムーブ】』
「げふっ!?」

 見知らぬデバイスの魔法起動音と同時に、横様から衝撃が貫いた。胴体辺りに棒状の物が叩き込まれて一瞬息が止まる。もちろん覚悟も何もない状態でそんな衝撃に俺が耐えられる筈もなく、地面に倒された。いや、正確には固い地面ではなく、もっと柔らかい……人の身体に上に転がる事となったのだが。
 クッションがあったとはいえ、引き倒された時のショックは相当な物だった。頭が混乱して身体を起こすことすらできない。そんな状態で俺を襲ったのは「大丈夫ですかっ!?」というまだ大人になり切れない男子特有の高い声と、俺の胸部を握り締められ、あまつさえ揉みしだかれる感触だった。

「……何をしている?」
「え、いや……その、僕の持ってた箱の下敷きになりそうだったので、救助を」
「そっちじゃない。いや、そっちもだけど、その手の事だ」
「手……うわぁっっ!?」

 仰向けに倒れていた俺の胸からようやく両手が剥がされた。身体を拘束していた腕が無くなると俺は”下手人”の上から起き上がり、服の埃を払いながら冷たい視線で見下ろしてやった。そこにいたのは、赤毛の少年。お前はどこのゲームの主人公だと突っ込みたくなるようなツンツン頭の……

「揉ンデヤル三等陸士だな。起きろ」
「は、はいっ! ……ってなんか発音違う気がっ!?」
「アイリーン・コッペル准尉だ。早速のご挨拶ありがとう」
「すみませんっ! さ、触る気は」
「その前だ、口でクソ垂れる前と後にサーを付けろこのエロ小僧! いつまで寝てるつもりだ!」
『【ターゲティングモード。砲撃プログラムスタンバイ】』
「サー! すみません! サー!」

 起動状態のソーセキを顎先に突きつけてからようやくこっちが激怒していることに気付いたのか、飛び上がるように起き上がり直立不動で敬礼したまま動かなくなるエリオ・モンディアル三等陸士。最近段々と膨らんで来るのを見ては凹んでいた所を思うさまに揉みしだかれたのだ、頭の一つも来る。一丁前にわきわきと感触を確かめるように手を開いたり握ったりをしていたのにも腹が立つ。俺の胸とはいえ、なんてラッキースケベだこの野郎。女っ気のない、そしてこれから一生そっち方面とは全く縁のない俺への嫌味か?
 冷や汗を流したまま敬礼を続ける赤毛小僧に「もうちょっと小突き回したろうか、アーン?」などと久々に加虐心を燃やしているとキャロちゃんがはわわわと目を回しながら慌てていたので、仕方なくソーセキを下ろした。
 具体的にどうなったのかは良く分からなかったが、モンディアル三等陸士なりに俺を助けてくれようとした結果なのだろう。あの一瞬でダンボールの向こう側から、俺を抱えて崩れ落ちる箱の範囲を脱出したのだ。10才にしてどんな化け物だと問いたい。戦闘魔導師としての実力は俺に分からないが、地球にいる軍人レベルでは到底敵わないだろう。スバルちゃんにティアナさん、そしてキャロちゃんと新人フォワードは女の子ばかりなので(ちなみに隊長陣に至っては全て女だ。この男女比どうにかならんのか)子供とはいえ戦闘能力の高い男がいるのはありがたかった。

「……ふぅ。次から気をつけてくださいね。モンディアル三等陸士」
「すみませんでした……アイリーンさん」

 まあ、ガキ相手にムキになりすぎた部分もある。ヴァイス陸曹など一歩離れた位置でニヤニヤとした笑みを隠さず俺達の様子を観察していた。大失態である。
 こういう時に逆切れするような馬鹿男子だったらそれこそ頭の一つも物理的に冷やしてもらう所だが、反省している子供にいつまで怒っているのも大人気ない。仕事に障りも出かねないし、今回の事は水に流すとしよう。
 すると、今まで両手を振り回して混乱していたキャロちゃんが、おずおずと割り込んできた。

「あ、あの……アイリーンちゃん?」
「……いえ、さっきの乱暴な口調は叱る為の演技ですよ?」
「そうだったんだ。……とと、そうじゃなくて。エリオ君に悪気なんてないから怒らないであげて」
「うん、まあ。特に怒ってなかったし。胸を鷲掴みされてちょっとイラっとしただけだから」
「(嘘だっ!?)……ご、ごめんなさい」
「それにきっと挨拶なんだよ」

 内心まだちょっと許し切れてない気がしないでもない。キャロちゃんはそれを聞いて朗らかに笑いながらポンと両手を合わせた。「挨拶?」と俺が首を捻ると、キャロちゃんは笑顔のままで頷いて。

「エリオ君と初めて会った時、私も触られたから。きっとエリオ君の挨拶なんだよ」
「……触られたって、どこを?」
「え、胸」
「ちょ、ちょっ、キャロ!? それはちがっ」
「ほう。ソーセキ、氷結魔法。Aランクのあっただろ?」
『【了解しました、マスター】』
「ま、待ってください! アイリーンさん、誤解です!」

 いや、待てん。まさか常習犯だったとは。大人しいキャロちゃん相手にしかも挨拶だと? 会う度に挨拶だといってキャロちゃんの胸を揉みしだくつもりだったのか、このクソガキは。10才だからといって油断した。
 10才にして立派な性犯罪者は自分の犯行が露見して大慌てで自分の罪を否認している。ヴァイス陸曹が「おいおい」などと言いながらストップを掛けて来ようとしたので、「女の敵を庇うなんて、貴方も同じ穴のムジナですか?」と一睨みするとすごすご引き下がった。弱いな、おい。

「誤解か。なら弁明を聞こうじゃないか、エロオ・揉ンデ犯ル三等陸士」
「僕の名前が凄いことに!? あ、あの時はキャロを助けるのに手一杯で気が回らなかったんですよ!」
「手一杯ねぇ。その割に一杯の手で揉むものは揉んでるじゃないか。なぁ?」
「比喩表現ですーっ!」

「…アイリーンちゃん、怒ってないって言ったのになんでまたあんなに怒ってるんだろ」
「ちびっ子……お前さん、わざとじゃないよな?」
「え? 何のことですか?」

 後ろでキャロちゃんとヴァイス陸曹の二人が何やら話しているが、このエロ赤毛小僧の処罰が先だ。氷結魔法で氷付けにしてやろうと思ったが、無許可で攻撃魔法なんぞぶっ放したらこっちが捕まってしまう。仕方ないので、爽やかな笑みを浮かべて赤毛小僧の肩を軽く叩く。同時にミッドチルダ式魔法陣が俺の魔力光である白色で地面に描かれ、今までだった赤毛小僧の私服が瞬時に真っ白の和服……日本でいうところの死に装束に変化した。

「なんですかこれっ!?」
「エリオ・モンディアル三等陸士。飛行魔法の試験運用テストに参加するよう命ずる」
「へ? 飛行魔法?」
「復唱ーっ!!」
「エ、エリオ・モンディアル三等陸士! 飛行魔法の試験運用テストに参加するであります!」
「では、試作α版飛行魔法の概要について掻い摘んで説明する。この飛行魔法は誰でも空を飛べるということを前提に製作し、一番難しい空中での姿勢制御を”バリアジャケット”に全て依存させることによって成立している。これは適正のない人間が戦闘を行いながら維持し続ける事がもっとも難儀だと判断したからだ。よって、このバリアジャケットは簡易的にではあるが、術者の僅かな行動をトレースし、サポートするよう飛行魔法を発動させる。今回は試作型飛行簡易バリアジャケットの構成を教え込む時間も惜しいので、私が代わりに起動した。質問は?」
「す、すみません。一割も理解できないです」
「よろしい、ならば実践だ。ジャンプしろ」
「ジャ、ジャン……うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁ……!?」

 赤毛小僧が疑問符を浮かべながらジャンプをした途端、まるで打ち上げロケットのごとくバリアジャケット背面から黄色の魔力光を噴射して、性犯罪者の身体を空高くへ舞い上げた。行動トレースの感度は最高にしてある。限界性能テストをするのは怖かったのだが、手加減のいらない被験者がいたのでちょうど良かった。バリアジャケットには観測用のビーコン魔法も練り込んであるので、どれだけ高く打ち上がってもデータ取得に支障は来たさない。ソーセキの分析によると一気に上空3000mまでぶっ飛んだようで、最大加速・最大速度試験の結果は良好だ。
 煙を引いて空へと打ち上げられたモンディアル三等陸士を、観客であるキャロちゃんとヴァイス陸曹はぽかーんとした表情で見上げていた。新作魔法の感想を聞きたい所だ。

「……アレ、本当は俺がやる筈だったんだよな?」
「そうですけど」
「……あれ、新人のわたしたちが使うんだよね?」
「そうだよ」
「「あんなの使えるか(ないよ)!!」」





■■後書き■■
この作品は魔砲少女には未来永劫なりえない魔法オタクな幼女が主人公となっております。
(ry

エリオの扱いは当初から決まっていました。
キャロの扱いも当初から決まっていました。
ヴァイス陸曹もなんとなく立ち位置は決まっていました。
なのはさんは適当です。
でも、ワーカーホリックなのは間違いないと思います。


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