嘘から出た真というか、アホな考えを神様が聞き届けてくれたのか、道端を歩いていたら見事空から降ってきた本が直撃しました。ただし、持ち主がきちんといる漫画本が。子供(と言っても今の俺達より年上だ)が友達同士で取り合いになり、すっぽ抜けた週刊誌が見事道を暢気に歩いていた俺に直撃したらしい。もちろん怒ってもいい過失の事故だった訳だが、俺が怒る前にノアちゃんの方が先にブチ切れて叩きのめしてしまった。まったく容赦のないフルスイングが少年Aの顔面に直撃する。倒れこんだ少年に馬乗りになり、マウントポジションで執拗に顔面を狙い続ける彼女にはさすがの俺も背筋にうすら寒い物を覚えた。それを必死になって取り押さえたのはもちろん俺である。顔中に青タンやら痣やらを作って半泣きになった少年達にそれ以上死人に鞭を打つような真似も出来ず、許すしかなかった訳だ。 痛いわ、疲れるわ、怒りを振り下ろす先がなくなるわ、まさに降って沸いたような災難だった。誰か俺の不幸でも天に祈ったのか? 具体的には掲示板とかで。 とりあえず、再発を防ぐ為にもソーセキに飛来物を感知したら自動で障壁魔法を張るようセットしておこうと思う。 しかし厄払いが間に合わなかったのか、帰宅すると何故か管理局からスカウトが来ていました。俺の厄日はまだ終わってないらしい。というより大殺界とか天中殺と言った方が正しいのかもしれない。「はぁ。誰でも使える砲撃魔法の開発?」「うむ。君が書いたこのレポートは読ませてもらった。難易度の高い魔法を簡略化、そして魔力動源を確保する事によって、誰にでもどんな魔法でも使うことが可能になると」「それって、読書感想文の暇つぶしに書いた代物なんですけど……」「じょ、冗談の代物なのかねっ!?」「いや、本物ですけどね」 むっつりした顎髭の濃い親父が家のソファに座り、開発プロジェクトに関する書類を差し出してきた。そこに目を通すと、いるわいるわ、高学歴な方の数々。そして、俺が入るべき空白の席は、なんとその開発プロジェクトの次席。いや、まだ7才なんですが、俺。 確かに砲撃魔法というのは、総じて難易度が高い。射撃魔法と違って魔力の圧縮や収束に掛かる術者の負担が桁違いだし、少し手綱を手放せば暴走しかねない。そして、魔力の圧縮や収束は使用者の才能でなんとかしている部分が大半なのだ。才能の無い奴が使っても、ろくな威力になりはしない。その一方で、才能のある人間が使えば一撃必殺、目を剥く様な威力になる。 だからこそ、砲撃魔導師は魔導師の中でも花形になるのだ。それを誰でも簡単に使えるようになったら、今の魔導師の勢力図は引っくり返る事になる……かもしれない。「んー、お断りします」「何故だねっ!? 出来んのか!? それともこの条件でもまだ不服なのか!?」「いや、落ち着いてくださいよ」 ハッスルする良い年したおっさんをどうどうと抑える。 管理局のかなりお偉いさんらしく、クロエから「頼むからぁぁぁ」と泣き付かれなければとっくのとうに追い出していただろう。いや、そもそも会わないかも。今もリビングの扉の向こうでそわそわ覗き込もうとしている人影が擦りガラス越しに見える。バレバレだからやめてくれ、クロエ。恥ずかしい。 これが「簡単・掃除・綺麗♪」が売りの清掃魔法とかなら、飛びついたんだが。「まず第一に難しいです。砲撃魔法の構造自体は単純ですから、さらに収束・圧縮プログラムなんかを一から開発しなければいけないですし」「それはそうだろう。だが、我々はやらなければならんのだ。陸と空、そして海の人材差はあまりに大きすぎる。それを無くす為にも……」「第二に、それです。それだけ苦労して完成させても貴方の意図にはあんまり意味ないです。普通の人も砲撃魔法を使えるようになるかもしれないですけど、今砲撃魔法を使える人はもっとパワーアップすると思います。そしていずれ犯罪者の方々も使うようになるでしょうから、将来的にはまったくの無意味になる気が」「なにっ!?」「第三に、砲撃魔法を使えるぐらいの魔力をどこから調達するんですか? それを使えるだけの魔力を持ってる人がいるなら、その人に撃たせた方が早いです」「……む、むむぅ」「そして、最後に。私は攻撃魔法が嫌いです。以上」 一応言いたい事は言い切ったので、お茶を啜って相手の対応を待つ。まあ、ちょっと意味は違うんだが、巨艦大砲主義者みたいだし、これだけ言えば引き下がってくれるだろう。 ……と思っていたのだが。「ならば、砲撃魔法……いや、攻撃魔法でなければ協力してくれるのだな?」「へ?」「攻撃魔法は確かに重要だ。だがしかし、低魔力魔導師の最大の問題点はその防御能力の低さにある。少々高ランクの犯罪者が出てくれば、成すすべなく一撃で打ち倒される。犯罪者の中には、殺傷設定で攻撃をしてくる人間もおるから、どうしても前線から遠ざけるしか手が無いのだ」「……い、いやいや、ちょっと待って下さい? 確かに攻撃魔法じゃないですけど。私は戦闘行為自体」「頼む。力を貸してくれ。アイリーン・コッペル」 ……えぇ? 俺にどーしろと。 もちろん不満たらたらな俺は、社会人としてふざけんなと言いたくなる滅茶苦茶な条件をぶつけてみるのだが、あっさり認めてもらってしまった。「すまん。まだ名乗っていなかったな。私はレジアス・ゲイズ少将だ。これからよろしく頼むぞ、アイリーン」「……はい」 結局丸め込まれてしまった。 頭の固い軍人崩れかと思ったら、滅茶苦茶口上手いでやんの。やってられない。訓練校に入ったスバルちゃんより先に、何故か普通校の俺の方が管理局入りする羽目になってしまったのだった。 プロジェクト終わったら、金貰って速攻抜けてやる。 警察機構というより、軍事組織に限りなく近い時空管理局は正直好きになれない。日本という戦争アレルギーの国で育ったのだから当然だ。だが、半ば強制的にとはいえ、仕事を任された以上手を抜く訳にはいかない。砲撃魔法と違って開発=双方の被害拡大といった図式に繋がらないので仕方ないと妥協した部分もあるが。「おはようございま」「おはよー、サブリーダー。今日も可愛いねー」「独り占めなんてずるーい。私も抱っこするー」「ははは、今日もサブリーダーは愛されてますなぁ」「いいから仕事してください」 挨拶をする前に、よってたかって同じプロジェクト内の人から可愛がられる。砲撃魔法開発プロジェクトの次席という位置はそのままスライドし、何故かプロジェクトのサブリーダーとして座っていた。いや、サブリーダーって雑用係の上にまとめ役だろ? 子供の俺で良いのかよ、という全身全霊のツッコミは役に立たなかった。名目だけで、もう一人サブリーダーがいるので。そっちは普通に名前で呼ばれてる。学校での「いいんちょ」呼ばわりとほとんど変わらない気がするのは、本当に気のせいだろうか。 現在俺は外部開発員としてここに席を置いている。局員になりたくなかったし、学校も辞めたくなかった俺は「参加する代わりに放課後だけね」なんて子供のお手伝いかと言わんばかりのふざけた提案をしたのだが、レジアスのおっさんは許可してしまったのだ。それでも何故か俺は准尉の臨時階級を与えられて、准士官待遇。いいのか、それで。 と、そう思っていたのだが、実際開発プロジェクトの面子に会うと納得してしまった。おっさんは俺の発想や構想が欲しかっただけで、俺のプログラマーとしての腕は何一つ信用していなかったのだ。だからこそ、それさえ貰えれば放課後のみでも一向に構わないと判断したのだろう。つくづく食えないおっさんだ。 もちろん、そんな状態では悔しいので率先して俺は魔法の構成を打ち立てた。基礎を全部自分で作ってやると言わんばかりに、案を出すのではなく、サンプルを提出してやったのだ。おかげで学校では寝っ放しである。 俺が作ったのは、バリアジャケットの簡易化バージョン。そもそもバリアジャケットの強度は本人の魔力量とイコールだ。だったら、いらない機能を削りまくった上に実際構築する際に増幅系統を整えてやれば強度は跳ね上がるだろう。この前みたいに耐熱やら換気やらの機能は、必要になってからもう一つ構成を用意して外部接続してやればいいのだ。 当初俺の出したサンプル魔法は、それはもう非難轟々だった。子供だから直接言われはしなかったが、不満たらたらなのは目に見えて分かった。なんせ高性能なバリアジャケットを求めて出来上がったのが今のバリアジャケットだ。いくら消費が少ないからといって、劣化版のバリアジャケットなど誰も着たくないだろう。現に今の状態で純粋な魔力攻撃じゃなく炎の魔法を喰らったら効かなくても熱でぶっ倒れる。俺も着たくない。 しかし、改良を進めていく内に段々と皆の視線から険が取れていった。必要な物は後から最低限に付けるという俺のコンセプトを理解してくれたのもあるだろうが、この構成だとバリアジャケットを他人に付けられると分かった途端、評価は一変した。 なんせこれだとCランク魔導師がAランク魔導師のバリアジャケットを身に纏えるのだ。元々バリアジャケットの消費量というのは多くなく、使い捨てで使うならそれは強力な防具になりえる。これだけでも、上からの評価は上々だった。「まあ、結局高ランク魔導師に頼ってるのは変わらないんですが」「サブリーダー。基礎の簡易バリアジャケットが理解されないからって拗ねないで下さいよ」「拗ねてません」 低ランク魔導師が自分でバリアジャケットを作っても、この構成なら3~5倍は従来のバリアジャケットより強度が出るのだ。そこに注目しろと言いたい。まあ、Aランク魔導師のバリアジャケットが10として、Cランク魔導師のバリアジャケットが0.5から2.5になるんじゃ華にならないのは分かるが。 出来たばかりの魔法なので、まだ全面的な施行はされていない。一部の訓練部隊がテスト運用しているだけだ。それにこれは純粋強度を上げただけのバリアジャケットなので、搦め手には弱いのだ。高ランクの魔導師向きじゃない。まだまだ改良の余地はあるだろう。 そういえば、臨時とはいえ管理局に入るにいたって自分の魔導師ランクを調べてもらった。なんとAランク。ギリですね、と調査員に言われた時はぶん殴ろうかと思った。人の喜びに水を差すんじゃない。まあ、クロエがAランク、マリエルに至ってはAAランクだったらしいので、順当な所だろう。 といっても、このランクは非公式だ。ランクを貰うにはランク認定試験とやらを受けなくちゃいけないらしいし、それには模擬戦闘も混ざっている。運動オンチで日常魔法が一番得意な俺じゃ2ランク下のCランクさえクリア出来るか怪しい。まあ、魔導師ランクを貰うとそれに色々制限やら義務やらが引っ付いてくるらしいので、どちらにしても受けるつもりはないんだが。筆記オンリーにならんもんかね。ああ、もしかしたら通信士や医療魔導師の資格だったら戦闘は関係ないかもしれない。今度調べておくか。■■後書き■■この作品は暢気で魔法オタクな主人公と不穏当な設定で出来ています。(ry結局主人公は管理局入り。外様のおミソ扱いではありますが。これよりガンガン本編軸の話が出てまいります。