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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 外伝その8「剣製Ⅱ」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/31 15:38

SIDE-ヴィータ

まあ、なんだ。
別によ、上機嫌な事をとやかく言う気はねぇ。
ほんの数時間前までちょっと沈んでた事を思えば、表情が晴れやかになって帰って来た事は喜ばしいと思う。
イマイチ理由がわかんねぇけど。

ただ、うちのリーダーはあんまそういう意味での感情の起伏が大きくない。
正確には、感情の浮き沈みをあまり表に出さないと言った方がいいか?
気落ちしている時もそれを悟られないように仏頂面だし、嬉しい時もほんのちょっと口角が上がるくらいが精々。

なのに、ちょっと見ないうちに掌を返したように浮足立っているのを見た時は、悪い夢でも見てるんじゃないかと思った。
それは多分、あたしに限らず付き合いの長いザフィーラやシャマルも似たようなもんだろう。
実際、お互い思いっきり頬をつねり合ってこれが夢じゃない事を確認したしな。
だけど、だからこそ目の前の不可解極まりねぇ事態が現実であることを認めざるを得ない。

いやまぁ、気落ちしたまんまでもそれはそれで困るし心配なんだけどな。
それに比べれば、こうして機嫌を直してくれているのは、やっぱり喜ぶべきなんだろう。
はやてやアイリも、事情が呑み込めないなりに安心してたみたいだし。
でもよぉ、はっきり言っちまうと…………………アレは気色悪ぃと思うんだわ。

「ふ、ふふ…………ふふふふふふ♪」

何がそんなに楽しいのか、あるいは嬉しいのかしらねぇが、唐突に笑みを零すのはやめてほしい。
しかも、なんか逝っちゃったような感じに漏れる笑い声とか、空を見上げてニヤけるのとかマジでキモイ。
少なくとも、うちのリーダーのキャラじゃねぇ!
ずいぶん長い付き合いだけど、あんなシグナム見たことねぇぞ。

「なぁシャマル、お前変なモンでも食わせたんじゃねぇよな?」
「ああ! ひっどぉ~~~いヴィータちゃん!
 私の愛情の詰まったお料理を食べて、どうしたらああなるのよ!」
「愛情以外にも、心身に有害な成分が含まれているからではないか?
 シグナムのあの表情を見るに、充分あり得る可能性だと思うが」
「じゃあ、ザフィーラとヴィータちゃんで実験してみましょう。ここに偶然、今日私が作った卵焼きが」
「「人体実験は自分でやれ!」」
「ぶぅ~~~…………実験じゃないわよぉ」

つーかよ、どこの世界に白身がパステルグリーン、黄身がピンクな卵焼きがあるんだよ。
どこからどー見ても致死毒物にしか見えねぇっての。
あれ、ホントに鶏の卵から作ったのか? どっかの無人世界の良くわかんねぇ生き物の卵とかじゃねぇのか?
相変わらず、どうしてこいつが料理をすると謎のケミカル物質ができちまうんだか……。
士郎の奴に色々習ってる筈なのに……むしろ、こんな奴に教えなきゃならねぇアイツに同情する。
こいつ、医務官とか料理人よりも暗殺者とか科学者にでもなった方がいいんじゃね?
でも、あんなもん食えば確かにシグナムがおかしくなっちまった事も納得がいくんだよなぁ。

「せやけど、ほんまにシグナムはどないしたんやろか?」
「そうねぇ。何て言うか、新しい玩具を待ちかねてる子どもみたい」
「「「いや、どう考えてもシグナムのキャラじゃない」」」

守護騎士三人で、アイリのコメントにツッコミを入れる。
正直言ってよぉ、シグナムがそんな子どもみたいなリアクションを取るなんてありえねぇって。
そんな事が起こったらアレだ、明日は雨とか雪の代わりに隕石が降る、世界の終末レベルで。

「夕食もどこか上の空だったもんねぇ」
「お箸、逆さまに持ってましたよね」
「つーか、皿かじってたぞあいつ」
「危うく尻尾を食われるところだった……」

なんだ、気にすんなってザフィーラ。
尻尾の毛もそのうちまた生え揃うって、だから泣くな。

「……………重症やね」
「「「「重症(だ・だわ・です)」」」」

満場一致、その点についてはだれも異論を挟まない。
まさか、シグナムのそんな間抜けな様子を見る日が来るとは思わなかった。
いつものあたしなら、これをネタにからかったり小言を封じる切り札にしたと思う。

でも、そんな気がなくなるくらい今日のシグナムは異常だ。
早いとこなんとかしねぇと、あたしらの精神衛生上不味い。
将がフヌケちまってると、あたしらの沽券にもかかわるしな。
しゃーねぇ、ここは餌で釣ってみるか。

「お~い、シグナム。そろそろおめぇの好きな大河ドラマの時間だぞぉ」

シグナムは時代劇が大好きだ、近所のじーちゃん並に。
ついでに言うと、ヨーロッパ方面の中世の話とかも大好きだ。
早い話、騎士とか侍が出てくるなら大抵のものが好きなだけなんだけどな。

そして、とにかく『忠義』とか『士道・騎士道』って言葉にめっぽう弱い。
特に忠臣蔵とか新撰組、あとは白虎隊とか見た時には、なんか色々影響受けて変になってたしな。口調とか態度とか。
ああ、そう言えばあの時もひいたなぁ……待てよ、結構シグナムって変になりやすい気がしてきたぞ……。

そう言えば、『義賊』や『市井に紛れる』とかの設定も大好きだもんな。
鼠小僧や水戸黄門、必殺仕事人、遠山の金さん何て出てくる俳優全部暗唱できたし。

いや、今はそれは置いとこう。
とにかくあの大河ドラマは今のシグナムの大のお気に入り。
どんな事があろうと決して見逃さず、蒐集してた時でもちゃっかり録画してたくらいに。
こいつを出せばいくらシグナムがおかしくなってたって……そう思ってた時期があたしにもあった。

「ああ、そうか……………………………今日はいい。気分が乗らんのだ」
『っ!!!???』

その言葉があたしらに与えた衝撃は計り知れない。
あの、あのシグナムが!
もうマニアとかを通り越してオタクの領域に足を踏み入れてそうなシグナムが『気分が乗らない』だと!?

「しゅ~~ご~~~!!」

はやての号令により、即座に居間の隅に集まる一同。
お互いに膝を抱えて屈みこみ、額を突き合わせての緊急家族会議が開催された。
しかし、シグナムはそんな事も気付かない様で相変わらずテラスでニタニタしてる。やっぱり気色悪い。

「どない思う、今の」
「ありえねぇだろ、“あの”シグナムがあのドラマを自分から見逃すなんて!」
「ですよね、ヴィータちゃんと番組争いになった時、物凄く大人げない手段を使ってまで固執してたのに……」
「うむ、アレは守護騎士云々以前に、そもそも人としてどうか。
まあ、アレに引っかかるヴィータもヴィータだが……」
「うっせぇな! しょ、しょうがねぇだろ! いきなり『庭にヒマラヤ級の特大アイス二十段重ねが!?』とか言われたら、そりゃそっち見るだろ!! ヒマラヤだぞ、ヒマラヤ! それも二十段!!」
((((いや、きっと誰も見ないと思う))))

あたしの必死の弁解に、誰もが声にこそ出さないがそう言いたそうな顔をしている。
ちなみに、その際の番組争いは平和的解決を望むはやての提案により「叩いて被ってじゃんけんポン」で行われた。無論、参加者があたしらなんだから、無駄に高度な応酬があった事は否定しねぇけどよ。
そこでシグナムが切った切り札が、今言った通りのあまりに姑息な策。
そして、まんまと騙されたあたしはよそ見をしている隙に頭を叩かれてあえなく敗北。
あたしの中でも、特に屈辱にまみれた敗北の記憶だ。

「でも、アレは本当に重症ねぇ……どうしようかしら?」

あのよ、ホントにアイリは状況を理解してんのか?
そんなのほほ~んとした口調で言われても、全然そうとは感じられねぇんだけどよ。
強権を振り回す独裁者ではあるんだけど、根本的にぽやぽやっとした世間知らずないいとこのお嬢だからなぁ、アイリって。とはいえ、ザフィーラはもうその辺に突っ込む気もねぇらしい。

「ここは、気つけにシャマルの必殺技(料理)でも口に押し込むか」
「そうだな、ショック療法ってのはありだと思うぜ」
「人の料理をなんだと思ってるんですか!?」
「アレやな、食べた瞬間に目とか口から光が出てくる感じ」
「それは、違った意味で危険だと思うんだけど……」

あたしとザフィーラだけじゃなく、はやてまで加わってのコメントに苦笑いを浮かべるアイリ。
だけど、結構的を射てると思うんだわ。
シャマルに限れば、アイツのそれは「必殺技と書いて料理と読む」くらいでちょうどいいと思う。
でも、さすがにちょっと反省する点がなくもない。あたしらも動揺してたんだ。

「………………………確かに軽率だったか」
「だな、いくらなんでも言っていい事と悪い事があった」
「そうです、ちゃんと謝ってくれれば私だってそこまで目くじら立てたりは……」
「気つけどころか地獄に落としちまったんじゃシャレにならねぇ」
「まったくだ、我らもどうかしていたな。そんな危険な賭けに出るなど……」
「シャマル、そんな泣かんでぇな。ちょっとしたジョークやないか」
「違います、アレは本気と書いてマジと読む目です!」

部屋の隅でさめざめと泣くシャマル。
実際に割と危険物なんだから、おめぇにそんな強く否定する権利はねぇと思うぞ。

「しょうがないわね、みんな心当たりがないみたいだし……」
「なんかいい案があるん? アイリ」
「案と言うほどのものでもないけど、とりあえず直接聞いてみようと思って」
「「「「おお!?」」」」
「みんな、そんな初歩的な事を忘れてたの?」

アレだ、基本的すぎて盲点だったんだわ。
いや、割と悪乗りしてた面がないわけじゃねぇけど。

とりあえず、あたしらを代表して発案者のアイリがシグナムの方に向かう。
そこで尋ねてみたところ、シグナムはむしろ「待ってました」とばかりに今日の事をまくしたててくれた。



外伝その8「剣製Ⅱ」



時は遡って高町家。
唐突なシグナムの申し出に、とりあえず士郎はその訳を聞いた。
聞いてみれば「ああ、なるほど」と誰もが納得するような内容。

まあ、正確にいえば「整備」と言った方が正しいのだが。
とにかく、それに対する士郎の回答はというと……。

「まあ、それくらいなら別にいいけど……」
「そうか。すまんな、恩に着る。代金は払うが懐に優しいと、その…………助かる」
「別にいいって。身内から金を取る気はないよ…って言うと凛は怒るだろうけど、初回サービスって事にしておいてくれ。ところで、やっぱり早めに仕上げた方がいいか?」
「……そうだな、しばらくは局からの仕事も入っていないし、当面は大丈夫だろう。
ちなみに、やるとしてどれくらいかかる?」
「レヴァンティンの状態にもよるが、どれだけこだわっても半月中には」
「それなら問題ない。できる限りこだわってやってくれ」

士郎の問いに今後のスケジュールを思い返していたシグナムだったが、すぐに答えは出た。
急ぎの仕事もない身なので、その間に仕上げてもらうことにしたらしい。

「なら、善は急げか。さっそくで悪いんだが、レヴァンティンを貸してくれ。
 このままひとっ走り、工房まで行ってこようかと思う」

士郎の申し出に、シグナムは少々顎に指をやって思案しだす。
シグナムの性格からして即答するだろうと思っていたのだろう、士郎は意外そうに首をひねった。
そしてその口から出たのは、士郎にとってはちょっと意外な頼み。

「………………………迷惑でなければ、私も同行させてもらっていいか?」
「別にいいけど…凛の工房と違って面白いものなんてないぞ」
「いや、私にとっては充分興味深い。アルテミスの時は状況が状況だったからな、中の様子を詳しく見る余裕もなかったが、お前が剣を鍛えると言うのなら他の作品も見てみたい」

とはいえ、本来魔術師の工房がどんなものかはアイリから聞き及んでいるのだろう。
その表情からは「無理にとは言わないが」と言う配慮が読み取れた。

だが、それは取り越し苦労に過ぎない。
まっとうな魔術師なら確かに工房の中など公開する筈はないが、相手は士郎だ。
この男に限れば、工房の中身を知り合いに公開する程度は何とも思っていない。
まあ、はっきりと口にすれば後で凛の小言が待っているだろうが。

「分かった、別に見られて困る物があるわけでもないしな。勝手に持ち出さないでくれるなら、だけど」
「安心しろ、盗人の様な真似をする気はない」
「その辺は疑っていないよ。
だけど……そうだな、しばらくレヴァンティンがないわけだし、代わりに好きなやつを持って行ってもらっていいぞ。忍さんに工房を用意してもらって以来、結構いろいろ作ってるからさ」
「すまん、好意に甘えさせてもらう。さすがに、手元に剣がないのはどうも落ち着かなくてな」

まずないとは思うが、レヴァンティンを整備している間に荒事に巻き込まれる可能性は絶無ではない。
どれだけ平穏に身を浸していようと、過去においては平穏が乱されてこなかったとしても、それは今後を保証する材料にはなりえないのだから。

「なんなら、気にいったやつがあれば買ってもらってもいいぞ」
「魅力的な提案だが……浮気をするとレヴァンティンが拗ねる。遠慮させてもらおう」

悪戯っぽく提案する士郎に、シグナムもまた冗談で応じる。
実際、士郎の言はシグナムとしても魅力的なのだが、愛着のある相棒を蔑ろにするつもりなど元からない。
まあ、ちょっとしたコレクションとして揃えてみたいとは思うわけだが……それではやはり本末転倒だろう。
道具は使われてこそ、ただの飾りにされてしまっては折角産まれてきた彼らがかわいそうと言うものだ。

そうして二人は、さっそく月村家に向かうべく恭也達に挨拶して門の方に向かうのだった。



  *  *  *  *  *



場所は変わって月村家の庭の隅。そこに立つ、一件のやや小ぶりな二階建ての小屋。
外見的には、和風の様相が強い……と言うよりも、土蔵や蔵と言った方が近いかもしれない。
そこに向けて、五人の男女が連れ立って歩いていた。

だが、本来は士郎とシグナムの二人だけの筈だ。
残りの三人が誰かと言えば……

「そう言えば、わたしも士郎君の工房ってちゃんとは見たことないんだよね。
 凛ちゃんのところもだけど……」
「え? なのはも見たことないの?」
「『人に見せるものじゃない』って言って入れてくれないんだもん、凛ちゃん」
「うぅ~、楽しみだなぁ……ちょろまかしたりできないかな?」

フェイトとなのは、そして美由希である。
フェイトとなのはが同行している理由は簡単。単純に士郎の工房に興味があるのだ。
美由希の場合はもっと興味の対象が限定的で、シグナム同様士郎の作品に釣られて付いてきたというべきか。
そして、士郎はなのはの呟きに一応魔術師としての一般論を口にする。

「それがまっとうな魔術師のあり方だ。俺みたいなのが珍しいんだから、勘違いするなよ」
「「はぁ~い」」
(まるで、遠足の引率をする教師だな)

溜め息交じりに注意する士郎に、内心でシグナムはそんな感想を抱く。
それはきっと、ウキウキワクワクが止まらないフェイトとなのはの様子も原因だろう。
しかし、傍から見れば彼女も十分落ち着きなくソワソワしている。
美由希にも言える事だが、二人とも士郎の造った剣に興味津々なのだ。

「さて、たいしたもてなしもできないけど入ってくれ」

そう言って、士郎は工房の戸をあける。内部は大きく二つの区画に分けられていた。
一方は土間となっており、鉄を熱する為の炉や刃を鍛える鍛床が備え付けられ、壁には素人には用途不明の道具が整然と並べられている。素人にわかる範囲では、槌と鋏に似た形状の道具と言う程度か。あとは、炉にくべるのであろう薪が大量に壁際に積み上げられていた。
もう一方には畳が敷かれ、ちゃぶ台や座布団、食器棚がある。他にも、中心には囲炉裏があり、炊事場や二階への階段などまで完備していた。おそらく、こちらが居住空間になっているのだろう。

閑話休題。
そこでフェイト達はある事を思い返す。
そう言えば、はじめアルテミスが安置してあったのもこの土間だった。
しかし同時に気付く。ここが鍛冶場である事は疑いようもないが、それにしては足りないものがあるのだ。
それは……

「武器が見当たらんな。外観から察するに、二階のスペースはたかが知れているが……そこか?」
「いや、二階は押し入れと机にちょっとした本棚くらいしかないぞ。押し入れの中も布団しかないし」
「つまり、そこで寝泊まりするわけか……。しかし、それではどこに保管しているのだ?」
「ああ、さすがにその辺に立てかけておくわけにもいかないしな。こっちだ」

疑問を口にするシグナムに対し、士郎は唐突に畳のうちの一つをはがす。
さらに、その下に敷き詰められていた木の板を一枚一枚はがしていくと、そこには……

「隠し階段か………また手の込んだものを」
「うわぁ…………これじゃ忍者屋敷だよ」

あまりに念のいった隠しっぷりに、さしものシグナムと美由希も呆れている。
フェイトとなのはに至っては、『そこまでやるか』と絶句する始末。
士郎としてもそういう反応は予想していたのか、少し居心地悪そうに頭をかき、蝋燭を手に階段を下りて行く。
四人は、そんな士郎を追って人一人がやっと通れるくらいの階段に踏み出した。
そうして蝋燭の明かりを頼りに降りて行く中、美由希がある事に気付いた。

「なんか、妙にごつごつしていると言うか……外に比べて手作り感がすごいんだけど」
「そりゃあ、俺が掘ったんですから当然ですよ」
「へぇ、士郎君が掘ったんだぁ…………ん?」

あまりにもさりげなく士郎が口にするものだから、思わずうなずきかける美由希。
だが、すぐさまその意味を悟り四人はそろって驚愕の声を上げる。

「「「「掘ったぁ!!!」」」」
「ええ、まあ。一応忍さんには許可を取りましたよ」

元々、忍が用意したのは外から見える範囲と内装まで。
地下室など彼女は一切手をつけていない。
つまり、今士郎達がいるこの地下空間は後から士郎が自分で作ったものなのだ。
まあ、隠し部屋などあの外見では地下に造るしかなさそうだし、仕方がないと言えばそれまでだが。

「ねぇ、士郎君。崩れたり………しないよね?」
「いや、地盤があまり強くないみたいでな。掘ってる最中にも何度か落盤を……」

なのはの質問に、素っ気なく返答する士郎。
だが、その答えはなのはとフェイトの肝を冷やすには十分すぎる。
この上にあるのは、小ぶりとはいえ一軒の建築物。
そんな物が落盤と一緒に降ってきたらと思うと、正直ゾッとする。というか、今すぐ逃げたい。

「ごめんね、士郎君! わたし、やっぱり外で待ってる!」
「あ、待ってなのは!?」
「まあ、待て。折角だから下の様子も見て行くといい」

即座に逃げ出そうとするなのはとフェイトだったが、いつの間にか投影していた鎖で拘束される。
小学生の少女を鎖で拘束すると言うと何やらいけない雰囲気満々だが、正直色気の欠片もない縛り方だ。
この際なので、亀甲縛りを慣行する程度の気配りが欲しいものである。

それはともかく。
そうして二人はやむなく士郎に囚人の如く連行されるのだった。

「さて、ここだ」
「だいぶ深いな。三階分くらいは降りたのではないか?」
「なんというか、掘ってるうちに興が乗ってな。ついつい掘り過ぎた」

そんな士郎のコメントに、思わず内心で「おいおい」とつっこむ面々。
これで士郎は割と凝り性なので分からなくもないが、それにしても限度と言うものがあるだろうに。

というか、深く掘り過ぎてほとんど外の明かりだって届いちゃいない。
今は士郎が持つ蝋燭の明かりで辛うじて足元くらいは見えるが、1m先の視界さえ危ういのである。
当然、美由希としては早めに明かりをなんとかしてほしいと思うわけで……。

「でもさ士郎君、蝋燭の明かりだけだとほとんど何にも見えないんだけど」
「あ、すみません。今明りをつけますね」

士郎がそう言うと、「パチン」と何かのスイッチが入る音がする。
すると、一瞬天井が軽く明滅し、その後天井から放たれる裸電球の光が辺りを照らしだした。

「ねぇ士郎君、もしかしてここの配線も?」
「ああ、俺がやった」
「蝋燭の明かりだけで?」
「いや、俺だけなら別に蝋燭もいらないんだけどな……凛に『見えるか!?』と怒鳴られた」
((((フクロウ、あるいはネコ?))))

夜目の利く動物となると、まあ、真っ先に思いつくのはこの辺りか。
士郎の場合、視力を強化することで普通人にとっては真っ暗闇の様な空間でも、割とよく見えてしまうのだ。
実際、彼がこの地下室を造った時や降りて来る時は蝋燭すら使っていない。

「さて、一応これがこの半年の成果だな。
まあ、いくつかは忍さんに捌いてもらったから全部じゃないけど……どうした?」
「にゃはは、まだ目が慣れなくて……」
「うぅ、目がチカチカするよぉ……」

なのはとフェイトの二人は、どうやら暗い空間に目が慣れてしまい電灯の光に戸惑っているらしい。
美由希やシグナムなどは、こういった環境変化にまだ慣れているのか、あまり動じた様子はない。
と言うよりも、単純に壁に立てかけられているいくつかの刀剣に目を奪われていると言った方が正しいか。

「…………………………私、今日からここに住む」
「いやいや、いきなり何を口走ってるんですか、美由希さん」
「いかんな、試し斬りをしたくてウズウズするぞ……」
「シグナムは怖い事を口走るな!!」

連れてきて早々、士郎は自分の選択を『失敗したかなぁ』と後悔していた。
滅多にお目にかかれないレベルの業物に囲まれて、半ば錯乱気味の美由希。
何気なく手に取った刀に魅せられたのか、瞳の奥に危険な光を宿すシグナム。
まあ、士郎でなくてもこんな危険人物達を連れてきたのは失敗だったと思うだろう。

「はぁ…………ところで、フェイト達はどうだ? そろそろ目も慣れてきたと思うんだが」
「あ、うん。わたしはもう大丈夫。なのはは?」
「うん、わたしもだいぶ平気になってきたよ」
「そうか。だが、お前達にはやっぱりつまらないだろ」

確かに、美由希の様な例外でもない限り年頃の娘にこのような空間が面白い筈がない。
壁も天井も、床に至るまでほとんどむき出しの地面。
一応木材で補強はしているようだが、どちらかと言えば危うさの方が先立つ空間だ。
当然飾り気などある筈もなく、どこの炭鉱だと言わんばかりに天井からつるされる裸電球。
壁を埋め尽くす……とは到底言えず、まばらに刀や剣が安置されている。

圧巻と呼ぶには数が足りず、魅了されるほど見せ方に工夫はされていない。
少なくとも、刀剣類にあまり明るくない人間には「なんだこりゃ?」と思われるような空間だ。
しかし、実のところこの二人も大概例外だったりするのだ。

「そんなことないよ! わたし、刀とかの事は良くわかんないけど、これ何てホントに綺麗だもん」

そう言ってなのはが指差したのは、実はこの中でも指折りの一振り。
士郎としても、なかなかに上手く出来たと割と満足している一品だ。
恐らく過去を振り返っても、士郎が鍛えた剣の中ではトップテンに入るであろう。
ここには十程度しかないとはいえ、その中から迷わずそれを選ぶとは……。

(……考えてみれば、なのは自身は剣術をやってなかったとはいえ、身近に恭也さん達がいたんだもんな。
 それは、本人が気付かないうちに審美眼くらい身についても不思議はないか)

実際問題として、高町家の面々が持つ小太刀は名品揃いだ。
使いつぶす事を前提とした練習刀はともかく、彼らが主武装とする小太刀は士郎(父)自ら選び抜いたもの。
稀代の剣士であった彼が厳選したのだから、当然生半可なものである筈がない。
なのはも、幼少期から自然とそう言った物を見る機会もあった。
おかげで、本人に自覚はないが彼女の刃物を見る目は確かなのである。

「うんうん、私たちの教育の成果だよ」
「まあ、確かにその通りなんでしょうね。とはいえ、さすがにフェイトは……フェイト?」

さすがにフェイトには良くわからないだろうと予想……むしろ願う士郎はフェイトの方を見る。
できれば、彼女には極々普通の感性を持っていてほしいと思うらしい。
刀を見て目を輝かせる少女と言うのは、まあ、なかなかにレアでありアレな感じだ。
せめてフェイトだけは、年頃の娘らしくあってほしい。

だが、当のフェイトはと言うと、壁に安置されている刀や剣を見つめたまま微動だにしない。
それどころか、どこか魂を抜き取られてしまっているような印象さえ受ける。
また、士郎が声をかけても肩を叩いても、彼女は一向に反応を示さない。

(おかしいな、ここにそんなヤバい物はない筈なんだが……)
「…………………………………」

ひたすら無言で時でも止まったかのように士郎の作品を見つめるフェイト。
表情は抜け落ち、呼吸すら忘れてしまったかのようだ。
とはいえ、シグナムや美由希の様に紅潮し興奮するでもなく、なのはの様によくわからないなりに芸術品でも鑑賞するようにしきりにアレこれ見て回ったりもしない。
そうして待つ事しばし、ようやくフェイトの様子に変化が訪れた。

「シロウ」
「ん? どうした?」
「上手く言えないんだけど、なんでこの子達は空っぽなの?」
「空っぽ?」
「うん。何て言ったらいいのかな、詳しいことなんて素人のわたしにはよくわからない。でも、なんとなく感じるんだ。この子達はみんな、なにか足りない物があるって……これがシロウの言ってた未完成って事なの?」

フェイトは士郎に視線を向けず、手近なところにあった刀をその白くしなやかな指先で優しく撫でる。
慈しむように、愛おしそうに、まるで赤子の頬を撫でる慈母の様に。

同時に、フェイトの言葉にシグナムや美由希、なのはも再度近くにある剣や刀の刀身に目を向ける。
フェイトの言う、『足りない物』とやらを見極めようとするように。
だが、なのははともかく、刃物の専門家である筈のシグナムや美由希の眼を以ってしても、フェイトの言う事が理解できない。

しかし、士郎はその理由を正確に理解していた。
原因となったのは、かつて彼がフェイトに与えたあのペンダントだろう。

(そうか……フェイトにとっての基準は、俺が作ったあのペンダントだもんな。
 アレは魔術を施してある剣の形をしたアクセサリー。なら、それを基準にしてみれば、確かにここにある剣達はフェイトからすれば『何かが足りない』と感じるのも道理か)

言うなれば、一種の間違い探しだ。
フェイトにとって、魔術を施された剣の形をした物品、と言うものに当てがある。
一時期彼女は、暇さえあれば士郎からもらったペンダントを眺めていた。
そうしているうちに、実物を見なくても明確にその細部までイメージできるほど目に焼き付けたのだろう。
だからこそ、サイズや製造工程こそ違えど、作者を同じくするこの場の剣達になくて、自分のペンダントにある『何か』に無意識的にでも気付く事が出来たのだ。

そもそも士郎の打つ剣は、魔剣となって初めて完成となる。
つまり、その為の準備はすでになされているのだ。
しかし、この剣達には魔剣としての力がない。だからこそフェイトは『足りない』と感じたのだ。
逆にシグナムや美由希の場合、彼女達の中にある基準が普通の刀剣類である為に、士郎の造った剣達に違和感を覚えなかったのだろう。

「フェイト、ちょっとついてきてくれ。見てほしい物がある」

士郎は何を思ったのか、唐突にフェイトをそう声をかけてさらに奥に案内する。
なのは達も、とりあえずはその後を追う。士郎も特に咎めたりはしなかった。

そうして辿り着いたのは、この場には明らかな不釣り合いな代物。
やけに頑丈な鎖で封をされた、見るからに重そうな一枚の鉄扉。
士郎は鎖をはずし、重い扉をゆっくりと開く。
その奥から姿を現したのは、明らかに他の刀剣達とは異質な剣だった。

まず目を引くのはその扱い。
他の刀剣達は、壁にフックの様なものを二ヶ所打ちこみ、二点で支えるようにして安置されている。
だが、この奥の部屋にある剣は違う。天井から伸びた鎖が柄や鍔に絡まり、宙づりにされていた。
その為刀身はどこに触れる事もなく、柄と鍔に絡まる鎖もそこまでは伸びていない。

次に皆の目を引いたのは、その刀身だ。
その刀身は刀の様に反っていたり片刃だったりすると言うわけではなく、両刃の刃は直線を描いている。
だが、問題はそんなところではない。問題なのは、切っ先がない事。尖っていないとか、丸くなっているとかではなく、まるで途中で折れたように切っ先がないのだ。
それだけでなく、とてつもなく薄い。横から見れば、線か糸としか見えないほどに薄い。
厚みなど欠片もなく、これでは強度など皆無に等しいだろう。
そんな、明らかに剣としては異質な何かがそこあった。

「衛宮……………これは何だ」
「俺の一つの目標だよ。ただ純粋に斬ることのみを突き詰めた剣を作ろうと思って、色々試しているうちにいつの間にかこうなってたんだ。
とりあえず斬れ味を追求するなら刃は薄い方がいいと思ってたら、気付けば強度を度外視してこのありさま。
斬る事を追及するなら『刺す』という機能はいらない。だから切っ先は捨てた。
その途中経過がこれだよ」

士郎の言わんとする事は理解できないでもない。
だがそれは、あまりにも極端と言うか、いっそ暴論と言ってもいい。
いや、それはむしろ、素人の発想としか言えない。
にもかかわらず、その結果として造られた剣にはシグナム達の背筋を寒くする何かがあった。

「フェイト、お前の眼にはこれはどう映る?」
「……………………………………分からない。
足りないと、足りてるとか、そういう事じゃなくて……」
「……そうか」

フェイトは、まるで理解不能な何かに出会ったかのように瞳を震わせる。
彼女は思う、そもそもこれは『剣』と呼んでいいのか、と。
今自分が目にしているのは、そう言ったカテゴライズで済ませていいものではない気がした。

しかし、どうしてそう感じるのかがフェイトにはわからない。
その間に、先ほどの士郎の発言の真意を美由希は問う。

「士郎君、今途中経過って言ったけど、それってどういう……」
「そのままの意味ですよ。こいつはまだ完成していない、物質的な斬れ味はかなりのものですけど、俺が目指す域には届いていません」
「士郎君が、目指す域?」
「ええ。と言っても、言わば絵物語みたいなものですよ。『斬る』という概念の通じる全てを斬る事が出来る剣。
『斬』の概念武装、それが俺の目指す域です。こいつは、昔色々試してみてるうちにたどり着いた形でして。
しばらく鍛冶場から遠ざかっていて勘が鈍ってましたけど、やっとあの頃の段階まで追いつけました」

それはつまり、昔も一度それを為そうとした事があると言う事。
そして、再度それに挑み、今ようやくその段階に再び辿り着いたと言う事なのだろう。

「なんで、こんな風に宙づりにしてるの?」
「簡単な理由だ。不完全ではあるが、それでもかなりの危険物なんだよ。ちょっと見てろ……」

なのはにそう言って、士郎はおもむろに剣を投影し、宙づりにする鎖を断ち切る。
すると、剣は当然重力にひかれて落下した。

下には、かなり頑丈そうな鋼鉄の台座。
普通に考えれば、衝突した瞬間に剣が弾かれる。
しかし、現実は違った。

「「「「なっ!?」」」」
「ま、こんなもんか」

なんの抵抗もなく、まるで豆腐にでも落ちたかのように剣は台座に埋まった。たいした音を立てる事もなく。
そして今、フェイト達の前に台座から柄と鍔が生えているかのような異様な光景が広がっている。

「切れ味が鋭すぎるんだ。鞘に入れても、鞘を切っちまって保管出来やしない。
 他の剣みたいに保管しようとしても、置いた瞬間に地面に向かって真っ逆さまだよ。
 危なっかし過ぎて、ああやって柄とかを固定するくらいしかできないんだ」
「いったい……どれほど鋭ければそんな事が……」
「単純な刃先の厚さなら単分子レベルだ。ま、その分研ぐのも一苦労だったけどな」
(そういうレベルの問題か? すでにこれは、剣としては至高の鋭さがあると言ってもいいぞ)

士郎の説明を聞き、内心でシグナムはそう漏らす。
いったい、これのどこが未完成だと言うのか。
しかし、その答えはすぐにもたらされた。

士郎は無造作に柄を掴み、埋まった剣を引き抜く。
すると、引き抜かれた剣には…………………剣身がなかった。

「これは……?」
「単分子の厚みと言っても、どうしても斬った瞬間に衝撃は走る。
 その衝撃に剣身が耐えられないんだ。一度でも何かを斬れば、その瞬間に粉々。
 側面を叩かれたりすれば、それこそ古紙より脆い。小石がぶつかっただけでも折れるんじゃないか、こいつ?」

そのあまりに予想外の事実に、皆あいた口がふさがらない。
確かに斬れ味は凄まじいが、そんな物が実戦で役に立つかと言えば……。

「早い話が欠陥品なんだよ。斬れ味は一級品だが、使い勝手の悪さが並みじゃない。
 この台座だって、剣身の半分ほども切れちゃいないぞ。その前に砕けたからな」
「…………………なるほど、確かに欠陥品だ。衝撃を加えぬように斬るなど、どんな達人にも不可能だろう」
「そういう事。魔力で強化してみる事も考えたんだが、無駄だった。
そもそも魔力を通した瞬間にその負荷で砕けるんだからな」
「試したのか?」
「俺の能力ならそれができる。単純に同じ物を投影すればいいだけだからな」
「以前にもこれと同じ物を作ったと言ったな、ならば改めて作る必要もないだろう」
「どちらかと言えば、剣鍛の技術を思い出す為にやったからな。
欠陥品のくせに、べらぼうに作るのが難しいんだぞ、こいつ」

肩を竦めて嘆息する士郎。
技術的には困難極まりないくせに、実用性は皆無。
その上、放置しておくには危なっかしいことこの上ないと来た。
正直、こんな物を作った人間の正気を疑うような代物だろう。

「とりあえず、このままじゃダメって事はわかった。鋭さもこれ以上は望めないだろうしな。
何より、単に鋭さを追求するだけじゃ、致命的な欠陥を抱える事になる」
「別のアプローチの案はあるのか?」
「……………………………………ない」
「「「「は?」」」」
「だからないんだって。方向性を変えようにも、斬れ味を追求していった結果があれなんだ。
 方向性を変えるって事は、そもそも『斬れ味』を捨てるってことだぞ」
「む……」

確かにその通りなのかもしれないが、それでは結局致命的な欠陥が生じてしまう。
つまり、堂々巡りになってしまうと言う事ではないだろうか?
しかし、そこでフェイトとなのはがそれぞれ別案を口にしてみる。

「刃先じゃなくて、中心部分を厚くして強度を上げられないの?」
「というか、そもそももっと硬い物を使うとか……」
「一通り試した。フェイトの案は結局刃先が砕けちまうから意味がない。
 なのはの案にしても、強度を上げる工夫をしてみたんだが……」

上手くいかなかったのだろう。
通常の兵器としての単分子カッターなどであればそんな事にはなるまいが、アレはさらに斬れ味を増す為の工夫が施されている。それを捨てればある程度の強度は確保できるが、その代わりに斬れ味を減じてしまう。
つまり、それはそれで本末転倒なのだ。

「ゲームとかだと、ミスリルとかオリハルコンとかって言うのを使った武器は強いけど……」
「ないわけじゃない。ミスリルは、分類としては普通の銀と変わらないんだが、特殊な環境で長い時間をかけて魔術的な要素を強く帯びた銀を魔術師の間ではそう呼ぶんだ。
採掘できる割合は、普通の銀100㎏に対して1g程度。その性質上、一級の霊地で鉱脈があることが条件になるから、そういう意味でも見つけるのは大変だ。
そして、まとまった量を買おうとするとアタッシュケースから溢れる位の札束が必要になる」

それも、時計塔などの魔術組織があればの話。
士郎や凛が自力でそれらを発見するのは、はっきり言って現実的ではない。

まあ、宝具には割と使われていたりする事が多く、その他の伝説級の貴金属も多い。
これもまた、士郎に宝具の再現が出来ない理由の一つ。
また、仮に材料を調達できても、そもそもその材料の質が不十分。
神秘に満ちていた時代のそれと、現代のそれとでは、比較にならないほどの差があるのだ。

「さて、話がそれたな。そろそろ上に戻って整備に取り掛かるとしよう」

そうして、五人はもと来た道を戻って鍛冶場へと移動する。
だが、ちょうど階段を上りきったところで、突如士郎の脳裏に凄まじい大音量が響き渡った。

『士郎! 聞こえるなら返事しなさい!!』
「どわぁっ!?」

繋がったラインを通じて怒鳴ってきたのは凛。
その音量、勢い、そして唐突さに思わず士郎は体勢を崩し背中から倒れた。
強かに打ちつけた腰は鈍く痛み、士郎は腰をさすりながら立ちあがって凛に応じる。

『イテテ、どうしたんだよ凛、いきなり』
『よし、ちゃんとつながったわね。アンタ、今どこにいるの?』
『ん? 工房だけど』
『そう…………ある意味好都合ね。時間はある? 重要な話だからなくても作りなさい!』
(それ、時間があるか聞く意味あるのか?)
『なんか思った?』
『っ!? い、いや何も……』

念話越しに心でも読まれたのかと思い、思わず凄まじい速度で首を振る士郎。
凛には見えていないと承知していながら、ついついやってしまうのだ。
覆しようのない精神的上下関係の賜物である。

『で、話って何なんだ?』
『……………………………剣鱗の事よ』
『アレがどうかしたのか?』
『どうしたじゃないわよ! ああ、もう! なんで私も気付かなかったのかなぁ……アレ、私たちが思ってたよりとんでもない物だったみたいよ』
『だから、何が?』
『アイリがね、クリスマスの時にあんたから除去した剣鱗をちょっと調べてみたらしいのよ』

元々、アインツベルンは貴金属の扱いに長けた錬金術師の家門である。
そのホムンクルスであるアイリが、固有結界の暴走の結果発生したあの刃に興味を示すのはある意味で当然だ。
それ自体は別にどうという事ではない。
だが、問題なのは調べた結果として判明した事実にある。

『アレ、そもそもまっとうな金属ですらなかったみたいなのよ。ある意味、当然と言えば当然だけど』
『なんだ、驚異の新物質とかそういう話か?』
『当たらずとも遠からず。考えてみれば当然なのよね、アレはあらゆる剣を構成する要素を内包した世界が生みだした刃。それも、何かを複製したとかじゃなくて暴走して発生した、言わば“結晶”よ。
 私の言ってる意味、分かる?』
『いや、さっぱり……』

自身の返答に、念話越しでも凛が頭を抱えている姿がありありと想像できる士郎。
とはいえ、彼としてはそんな遠回りな説明をされても困る。
元より、対策を練るのは得意だがそう言った意味での魔術的な理解力が高いわけではないのだから。
そんな士郎に対し、凛は苛立たしそうにしながらも丁寧に説明していく。

『いい? そのスカスカの頭でもわかるように説明してあげるとね』
『失敬な』
『事実でしょうが。
 そもそも、UBWの中にはあらゆる剣の要素で満たされているけど、剣が複製される際にはその中から選別された要素で剣を複製している筈なのよ。そうでないと、オリジナルその物の複製にはならないしね。
 あらゆる要素があるって事は、ある剣には含まれない筈の要素もある可能性があるんだから』

そこまでなら士郎にも理解できる。
あらゆる要素があるとは言うが、その全て要素を活用しているとは言えないのだ。
たとえば、料理に置き換えてみよう。キッチンがあり、そこには無数の材料と調味料があるとする。料理をするとして、その全てを活用できるかと言えば……否だ。
何でもかんでも入れてしまえば、結果的に本来目的としていた物と違うものになってしまうだろう。
それと同じ事が、UBWにも言えるのではないだろうか。

『でも剣鱗はアンタのうちから生えてくるけど、特定の剣ってわけじゃない。恐らく、選り好みなんてしないで、とりあえず一定量の剣の要素を寄せて集めて形にした物がアレなんだと思う。
 その意味するところは………………………アレ自体が無数の剣の要素の結晶なのよ。物質化した最小規模の固有結界と言いかえてもいいわ。あるいは、そこに内包した要素は『固有結界の縮図』と言うべきかも。
とにかく、複製された武器より、アレはよほど忠実にUBWのあり方を継承している筈なの』

言ってしまえば、先ほど例に出したキッチンの小型レプリカと言ったところだろう。
内包している量も、大きさも異なるが、その比率と種類だけはオリジナルに迫る。
だとするのなら、あの刃にはあらゆる剣に通じる要素が練りこまれている事になるのではなかろうか。

『アイリが言うには、物質的に見れば色々な金属が混ざり合っただけのものらしわ。
でも魔術的に見た時、アレはアンタの属性を抽出した様なものとしての面が見えてくる。
ある意味、魔術的なレアメタルって事になるわね。しかも、現状アンタからしか採取できない』
『待ってくれ、俺の持つ知識だけだとイマイチ理解が及ばないんだが………それは、凄い事なのか?』
『だからあんたはいつまでたっても半人前のへっぽこなのよ!! いい? 分かりやすく言うと、アレは衛宮切嗣の起源弾の弾頭と同種なのよ。起源弾の場合、切除した肋骨から本人の属性を引き出して、強調して、不純物を排除して、そうやって武器として加工されてる。
 だけど、アンタの剣鱗の場合、あとは武器として加工するだけ。その前段階のプロセスは既に終わってるの。
 でこの場合、武器として加工するとしたらあんたならどうする?』
『そりゃあ、剣は剣として使うのが一番だろ?
 使いやすくなるようにちょっと加工すれば、すぐにでも……って、まさか!』
『分かったみたいね、つまりはそういう事。
きっとあれは最高の材料になる筈よ、剣を鍛えるって意味ではね。
その分他には使い道がないだろうけど、アンタには関係ないでしょ』

凛の言う通り、他の目的の為に使っても単なるガラクタにしかなるまい。
だが、剣として再加工すれば、その可能性は計り知れないのではないだろうか。
試す価値は………充分にある。

『じゃ、伝える事は伝えたから、あとはアンタの思う様にやりなさい。
 ただし、あんまり無茶な事はしないように。それさえ守れるならとやかく言わないから』

そう言って凛は念話を切った。
士郎はと言うと、顎に指を当てて何やら思案している。
そして何か考えがまとまったのか、目前のシグナムに視線を向けた。

「……シグナム」
「どうした?」
「レヴァンティンの事だが、整備と言わずに、思い切って打ち直して見る気はないか?」
「なに?」
「以前から考えてはいたんだ。デバイス、それもアームドデバイスに魔術的な加工をしてみたらどうなるかってさ……………興味はないか?」
「ふっ、何があったかわからんが、眼の色が変わったな…………………正直、興味がないと言えば嘘になる」

士郎の提案は、シグナムにとっても興味深いものだったらしい。
二人の顔には怪しげな笑みが浮かび、何やら不穏な空気が醸し出されている。

「ちょうど、たった今面白い材料のあてが出来た。そいつを使えば興味深い事になると思うぞ」
「ほぉ、それはどんなものだ?」
「こいつだよ。『鎧甲、展開(トレース・オン)』」
「え、シロウ!?」
「士郎君、何を!?」

士郎がやろうとしている事に気付いたフェイトなのはは、大慌てで制止するが間に合わない。
二人が制止した時には、すでに士郎の右手の甲には刃の鱗が出現していた。
士郎はその一部をむしり取り、残りを解呪する。
そして、むしり取った手のひらサイズの僅かに血の付着した刃の鱗をシグナムに提示した。

「こいつは、言わば俺自身の能力と属性、そして起源の結晶らしい。
こいつを使えば、ミスリルとまではいかなくても……」
「なるほど………そう言えば、お前の詠唱にもあったな『身体は剣で出来ている』と。
 お前自身が文字通り一振りの剣であり、古今東西無数の剣の集合体でもある。
そのお前の身体から精製された“剣の種”か…………確かに面白い」

それは、事実上士郎の提案を受け入れた事を意味している。
なのは達はまだ士郎がまた剣鱗を使った事に対し外野で何か言っているが、二人の耳には入っていない。

「で、私に何かする事はあるか?」
「そうだな……………とりあえず、髪の毛と血を貰っていいか?」
「ふむ…………バッサリいった方がいいか?」
「ちょ、シグナム!?」
「ダメですよシグナムさん! 折角長くて綺麗な髪なのに!!」
「おわ!? こら、何をするお前達!?」

いきなりレヴァンティンでショートカットになろうとするシグナム。
フェイトとなのはは大慌てでシグナムの腕にしがみつき、それを阻止する。

「ねぇ士郎君、何に使うのか知らないけどそんなにたくさん必要なの?」
「いえ、俺として数本もらえればそれでよかったんですけど……」
「じゃあ、早く止めてあげたら? なのは達、かなりテンパってるよ」
「そうなんですが……………………もうちょっと見てたくありません、アレ」
「まあ、確かにちょっと面白い光景だけど……」

何しろ、十歳に満たない子ども二人と大人の取っ組み合いだ。
正直、なかなかお目にかかれるものではない。

そうして三人が実はあまり意味のない取っ組み合いを続けること数分。
結局士郎達は止めに入ることなく、なのは達が力尽きたところでようやく事情を説明したのだった。

「と言うわけで、血にしても髪にしてもそう沢山はいらないんだ」
「なんだ、そうだったのか」
「「そういう事はもっと早く言って!!」」

シグナムは特に気にした素振りも見せないが、フェイト達にはふくれっ面で怒られる士郎。
幼いとはいえ二人も女の子。髪は女の命ともいうし、割と思い入れが強かったのかもしれない。
実際、本人はあまり凝った手入れをしていないにもかかわらず、シグナムの髪は非常に美しい。
それをもったいないと思うのも、無理からぬことだろう。

「で、こんなものをいったい何に使うのだ?」
「ん? 剣鱗と一緒にレヴァンティンに練りこむ」
「え? でも、不純物なんて入れたらまずいんじゃないの?」
「普通の剣ならそうです。質の良い鉄は必要不可欠ですからね。血や髪の毛なんて入れたら、質の悪い鉄にしかなりませんから。でも、魔剣として鍛え直すなら話は別です。
髪は魔力をため込んだり通したりする導線でもあるんですよ。こいつを加工して練りこむと、剣の中で魔力を通す道…魔術回路の代替品にできるんです」
「そんな物なんだぁ……じゃあ、血にも何か意味があるの?」
「ええ。まず、血をはじめとした体液には魔力が溶けています。なので、こいつを練りこむと言う事は、剣自体に持ち主の魔力を練りこむのと同義なんです。
 また、言うまでもありませんが血液には鉄分が含まれています。これが“繋ぎ”の役割になって、髪や魔力なんかと剣を強く結びつける触媒にもなってくれるわけですね」

美由希の質問に、士郎は丁寧かつ噛み砕いて説明していく。
剣は結局どこまでいっても身体の一部にはなりえない。だが、それに限りなく近づける事はできる。
持ち主の身体の一部を用いる事で、より持ち主との親和性を高めようと言うのだ。

不純物を加える分、どうしても材料の質は悪くなってしまう。
しかしその代わりに魔術的、象徴的な意味としての性能が向上する。
魔力抜きで測れば性能は悪くなるだろうが、魔力を用いて使う時の性能は比べ物にならない。

「他に必要な物はあるか? 材料の調達くらいならできるかもしれん」
「そうだな、そうしてもらえると助かる。
あると有り難いのは隕鉄、竜の牙とか鱗……後は火を象徴するものとして溶岩とか」

シグナムの魔力変換資質が「炎熱」である以上、やはり「火」を象徴する品がある事に越した事はない。
そう言ったものがあった方が、『炎』という特性をより際立たせ強化できる。
また、隕鉄は地球外の存在である為に魔術的には大きな意味があるし、幻想種の血肉は材料として貴重かつ優れている。前の世界ではまずお目にかかれないが、こちらの世界ではその限りではない。
発見しやすい分質が下がるかもしれないが、折角なのだから使ってみたい。

「分かった、とりあえずリストを作ってくれんか? 出来る限り調達してみよう」
「あ、それならわたしも手伝います」
「うん、わたしもクロノ達にちょっと話を聞いてみる」
「そんな気をつかわなくてもいいぞ。俺もだいぶ動けるようになってきたし、こいつが済む頃にはお前達も多分かなり忙しくなる。休めるうちに休んどいた方が……」
「ううん、友達が困ってるのを見過ごすなんてできないよ」
「そうだよ。わたし達にできる事があるなら、遠慮なく言って。今に限らずこれからも。
 わたし達もできる限り、シロウがやりたい事を応援したいんだから」
「だが……」
「こういう時は好意に甘えておけ。
それに今回に限らず、今後はレヴァンティンの整備はお前に頼りきりになるだろう。
その礼だ、今後も都合が付く限り私も材料の調達を手伝おう」
「………………………わかった、じゃあそれが代金の代わりって事にしておいてくれ」

三人の申し出に、最終的に士郎は折れた。
士郎一人にできる事などたかが知れているし、この手の事は人手が多いに越した事はないのだから。

とりあえず、調達してもらいたい資材のリストは翌日までに渡すと言う事でその場は切りあげた。
シグナムの様子がおかしかったのも、ひとえにこれが原因。
早い話が、アイリが予想した通り「新しい玩具を待ち望む子どもの心境」だったわけである。

そしてこの事を知った八神家一同が、家族の為と言う事で資材調達に乗り出したのは言うまでもない。
ついでに言うと、ハラオウン家でもリンディやエイミィが面白がったりして、管理局のデータベースから色々情報提供してクロノまでパシらせたのだった。
余談だが、その夜士郎が密かに「くくく、腕が鳴るぞぉ」とテンションが上がっていたのはアルテミスだけが知る秘密である。



  *  *  *  *  *



そして、二週間後の八神家。
当初の予定よりだいぶ大がかりになった分時間がかかったが、ようやく士郎から関係者一同に連絡が入った。

本来なら、この場にいる必要があるのはシグナムだけだった筈だ。
しかし、手伝ってくれた礼がしたいと言う事でほぼ全員が呼び集められた。
ただし、人数が多すぎるので士郎の工房では入りきらず、仕方なく八神家で行われることになっていたりする。
とはいえ、その場の雰囲気は士郎が予想していた物とは明らかに異なっているが。

「さあさあ、やってまいりましたこの時間! 題して『ニューレヴァンティンお披露目会!!』。
 全くもってなんのひねりもない地味なタイトルですが、その辺は華麗にスルーするとしましょう♪
では早速、主賓のシグナムに今の心境を聞いてみたいと思います。シグナム、今のお気持ちは?」

お祭り騒ぎが大好きなエイミィは、どこからか取り出したマイクを手に騒ぎまくる。
いったいどこの名物司会者か、と言った様子だが、誰もつっこまない。

アースラの良心であるクロノは諦め、リンディやアイリは「あらあら」と上品に笑っているだけ。
凛やヴィータはめんどくさそうにし、はやてとアルフはとりあえずその雰囲気を楽しんでいる。
他の面々の場合、子ども組は場の空気に飲まれ気味で苦笑い、大人組は一歩下がって呆れていた。
ただし、士郎だけは「なんでこんなことになった」とばかりに頭を抱えているが……誰も相手にしちゃいない。

「ふふふ、早くだれか斬ってみたいな。今日の私は血に飢えている」
「はい、かなりアレなコメントありがとうございました!」

『なにか』ではなく『誰か』というのは非常に問題があるのではあるまいか。
というか、レヴァンティンではなくシグナムが血に飢えている事こそが大問題だ。
だが、管理局の高官であるリンディは相変わらず笑ってスルーしている。

「エイミィ……楽しそう。なんていうか、すっかりはまり役って感じだけど、前からああなの?」
「はい、とりあえず何かイベントがあれば首を突っ込んで騒ぎたてるお祭り人間なんです」

苦笑しながら友人を生温かい目で見る美由希だが、クロノは疲れたように溜息をついている。
彼女の悪ノリにさんざん巻き込まれ……もとい付きあわされた身としては、色々と思うところがあるのだろう。

似たような経験があるのか、隣に立つ恭也は無言でクロノの肩をたたく。
二人の視線が交差し、何らかの意思疎通がなされたのか、二人は揃って影のある笑みを浮かべる。
しかし、当のエイミィはそんなことは軽く無視してテンションがだだ上がりだ。

「さあ、士郎君! 機密情報にハッキングしたり、書類を改竄したり偽造したりして手に入れた材料で生まれ変わったレヴァンティンをここに!!」
「あなたいったい何したんですか!?」
「ふっ…………それを聞くのは野暮ってものよ」
「訳の分からない渋さを出さないでください。あなたのテンションの緩急についていけないんですけど」
「とりあえず、権力なんて乱用してなんぼなんだからさ♪」
「良いんですかリンディさん、こんなこと言ってますよ!?」
「あらあら、ばれなければいいのよ、ばれなければ。死体の無い殺人は事件にはならないのよ」

そのあまりにも公僕として問題だらけの発言に、士郎は空いた口がふさがらない。
思わずクロノに目をやるが、即座に逸らされる。

(いいのか? こんな人たちがエリートで……)

思わず管理局の将来を心底心配する士郎だった。
まあ、リンディの言う通りばれないようにうまくやるのだろう、きっと。良いか悪いかはともかくとして。

「もういい………気にしたら負けなんだよな、きっと」
「そうそう、諦めて状況を楽しんだ人が勝ちだよ。はやてちゃん達を見なよ」
「アイツらは元からあなたの精神的同胞だと思いますから、参考になりませんって」

士郎達をそっちのけで勝手に盛り上がっているはやてとアルフ。
元から、きっかけさえあれば好き勝手やってしまうタイプなのだろう。
普段は一応空気を読んで抑えているが、こういう場ではそんな気は更々ないらしい。

「ほら、シグナムが待ってるよ」
(……ん? どわ!? な、なんつう目で睨んでるんだアイツ……)

それはもう、『早く寄越せ』という気持ちが丸分かりの目で士郎を睨むシグナム。
きっと、さっきから待たされてもう辛抱たまらないのだろう。
これ以上待たせると命が危険だと、士郎の本能が告げていた。
それだけ、シグナムから放たれる気配は色々ヤバいのだ。

「えっと……………待たせたな」
「そうだな。待っている間は一日千秋の思いだったが、今となっては一瞬だった気もする」

そうしてシグナムは士郎から差し出されたレヴァンティンの柄を握る。
どうやら、体面を取り繕う程度の余裕はまだあったらしい。
だが柄を握ったその瞬間、それまで燻っていた感情など遥か彼方に吹き飛び、彼女の目が驚きに見開かれた。

「これは……!」
「どうだ、満足してもらえたか?」
「素晴らしいな、まだ抜いてもいないと言うのに、切っ先まで神経が繋がっているかのようだ。
 これほどまでに変わる物か……」
「伊達にお前の血肉を使ってないってことだよ。基本的に、デバイスは魔力を流すものであって宿すものじゃない。今まではその都度魔力を流し込んでいたんだろうが、今のレヴァンティンにはお前の魔力が宿っている。
 だいたい、元々レヴァンティン自体がデバイスとしてかなりレベルの高い一品だったんだろ? そこへさらに魔術を上乗せしたんだから、そう感じるのも当然だ」
「なるほど。それに羽毛の様に軽い手応えでありながら、手に吸い付くようなこの握り心地とそこから伝わる力強さはどうだ。軽い筈なのに、頼りないとは到底感じられん」
「重量的には以前より若干重くなってる筈だ。だけど、その分魔力の流れ道を整えたし、そのせいだろう。無意識に漏れる魔力がよどみなく流れて循環してるんだ」

抜かずともわかる。内外共に蒐集をしていた時とは比較にならない程レヴァンティンが研ぎ澄まされている事が。
次元世界最先端のデバイス技術を誇る管理局により一新されたシステムに加え、異界の技術により剣として生まれ変わったのだ。元々レヴァンティンは優れた剣だったが、そこからさらに別種の技術が上乗せされたその成果。
それが、長くレヴァンティンと共に歩んできたシグナムには握った瞬間に分かった。

「シグナム、抜いて私たちにも見せてくれないかしら?」
「あ、そうでしたね。申し訳ありません、アイリスフィール。
 らしくもなく、浮足立っていたようです」
「そうね、あなたのそんな無邪気で子どもみたいな顔、はじめて見たわ」

いつの間にか微笑みながら歩み寄ってきていたアイリにそう言葉をかけられ、シグナムは思わず赤面する。
頬に手を添えて見れば、だらしなく緩み自然と笑みが浮かんでいたことが分かった。

「で、では……!」

そんな自分をごまかす様に、シグナムは努めて大きめの声を出してレヴァンティンを鞘から抜き放つ。
現れた剣身は、以前と寸分変わらない優美なシルエットを描いている。
だが、その刃は室内灯の光を反射して燦然と輝き、吸い込まれそうなほどの透明感を宿していた。

同時に皆が気付く。
レヴァンティンの剣身が、うっすらと紅く輝いている事に。

「これは……剣身自体が紅く染まっているのか?」
「いや、違う。火を象徴する素材を溶かしこんだし、魔術的な加工もしたが原因はそこじゃない。
 紅は火を象徴する色だ、紅く輝いて見えるのはお前達風に言うなら魔力光みたいなものだよ」
「レヴァンティンに宿る、魔力の輝きと言う事か」

シグナムは感慨深そうに呟きながら、レヴァンティンの剣身を見つめる。
レヴァンティンの出来はシグナムも満足がいくものだったのだろう。
一度鞘に納め直したシグナムは、深々と士郎に頭を下げる。

「礼を言う。しかし、お前には世話になってばかりだな」
「いや、こっちこそ満足してもらえたなら何よりだよ。それにいい物を作らせてもらえたし、おあいこだって」
「だが、レヴァンティンの加工は難しかったのではないか?」
「まあ…な。連結刃の一つ一つを加工していくのは、骨の折れる作業だったよ……」

そう答える士郎の顔には、濃い疲労の色が浮かんでいる。
いったいいくつあるのか定かではないが、あの全てに手を加えるとなれば膨大な作業量だろう。
よく見れば、士郎の眼の下には途轍もなく濃い隈がある。
下手をすると、数日単位で寝ていないのではあるまいか。

「そ、そうか……く、苦労をかけたな」

その士郎のあまりの疲労っぷりに、思わずシグナムもたじろぐ。
それだけ、士郎の今の顔色は不健康そのものなのだ。
とそこで、凛がある事を尋ねる。

「そう言えば、アンタあれ使ったんでしょ? どうだったの?」
「……ああ、そっちか。何と言うか…………存外扱いが難しい」
「どういう事?」
「色々試してみて少しわかったんだが、あらゆる剣の要素を内包してるって言うのも考えものだな。
 レヴァンティンにとっては不要な要素まで含まれてるんだからさ」

凛の問いに、士郎は肩をすくめながら答える。
考えてみれば当然の話で、あらゆる要素の全てがレヴァンティンにとってプラスに働くとは限らないのだ。
中には、他の要素と衝突してレヴァンティンの長所を阻害するような要素もあっただろう。

過ぎたるは猶及ばざるがごとし、という言葉がある。
何事でも、限度を超えればそれは足りない事と同じようによくないと言う事だ。
それと同じように、『あればいい』と言うものでもないのだろう。

「では、結局アレは使わなかったのか?」
「いや、それでもアレが剣の材料として有益な可能性は否めない。それはさすがにもったいないだろ?
だから、要は必要な要素だけを抽出できればいいんだ。いくつかの剣をリストアップしてそれをイメージしながら剣鱗を使うと、ある程度それが反映されることが分かった。そこで、無数にある要素の中から、レヴァンティンの強化に使えそうな要素のみを引き出して使用したんだ。
シグナム、ちょっとレヴァンティンに魔力を流してみてくれないか?」
「…………………わかった」

シグナムは再度レヴァンティンを抜き、ゆっくりと感触を確認するように魔力を流し込む。
すると、それまでうっすらと淡く紅い光を宿していたレヴァンティンがシグナムの魔力光に染まる。
同時に、その剣身には幾筋かの血管の様な、あるいは電子回路の様な線が浮き上がった。

「これは……?」
「それがさっき言った魔力の通り道だよ。まあ、人間でいうところの血管みたいなものだな。
 そこから魔力が浸透していくようにしてある」
「って言うかシグナム! 燃えてる! レヴァンティンが物凄い勢いで燃えてるんだけど!!」

改めて解説士郎だが、周りとしてはそれどころではない。
シャマルが指摘した通り、宿す光が変化したと思ったその瞬間、レヴァンティンが炎に包まれたのだ。

「なに!? バカな、魔力の変換はしていない筈だ!!」
「へぇ、剣の方で勝手に変換しちゃうんだ……火属性の魔剣としては一級品なんじゃない?」
「みたいだな」
「みたいって、アンタがそうしたんじゃないの?」
「いや、そこまではしてない。というか、あの材料だけじゃそうはならない筈だ。
だから、多分これが剣鱗を使った影響なんだろう」
「どういうこと?」
「これは推測なんだが、ちゃんと使用する剣に合わせた要素で精製した剣鱗を使うと、そいつの持つ特徴とかを著しく強化するみたいだな。いや、どちらかと言うと格と言うか精度と言うか、そういうのを引き上げるのかな?」

自分の体から採取された物とは言え、まだ分からない事が多いだけに士郎にも確信は持てない。
今後、色々試してみて調べて行くしかないのだろう。
一つ分かったのは、適切な使い方をすれば著しくその性能を強化できると言う事。
とはいえ、シグナム達としてはそれどころではない。

「シグナム! 早く消せっての、このままじゃ家が燃える!?」
「言われずとも分かっている!」
「だったら、さっさと魔力流すのやめろよ!!」
「すでに止めた! だが、勝手に燃え盛って治まらんのだ!!」
「アイリ、これどないしたらええんや! このままやと、わたしら明日からホームレスになってまう!?」
「あらあら、性能が上がったのはいいけど、凄いじゃじゃ馬になっちゃったみたいねぇ……」
「えっと、えっと……消火器どこでしたっけ!? ううん、先に消防車!?」
「暴れるな! 下手に動くと被害が増す! とにかくまず表に出ろ、シグナム!!」
「わ、わかった!!」

どうやら、シグナムでも上手く抑えられないらしい。
能力が向上したのはいいが、その分だいぶ扱いが難しくなったようだ。
これは、何かしら対策を講じるか、大至急シグナムに火加減を覚えてもらうしかあるまい。

「凛」
「なに?」
「悪いんだが、封印用の護符とかそういうの作ってもらえないか? あのままだと、さすがに危険すぎる」
「そうよねぇ……よほどの事がない限り完全開放するのはヤバいわ、アレ。
 オッケー、とりあえず抑え込めそうな物を作ってみる」

何しろ、原因となったのは魔術を取り入れた事にある。
ならば、抑え込むためには同様に魔術を用いた方が確実だろう。
ついでに、あまりポンポンと剣鱗を材料に剣を鍛えるのは控えた方がよさそうだと、士郎は自戒するのだった。

しかし、そうしている間にもリビングの天井が焦げ始めている。
幸い、その場にいたのは皆優れた能力を持つ魔導師や魔術師たち。
とりあえず凛とクロノに鎮火してもらう事で、八神家は焼失の憂き目に会う事は免れた。
その後、士郎がせっせと焼け焦げた天井や壁、床の修理に勤しんだのは言うまでもない。






おまけ

レヴァンティンの鎮火が終わってからしばし経った。
士郎はねじり鉢巻きに釘を加えながら、金槌片手に大工よろしく天井を修理している。
そこで、唐突に無事なリビングの一角で談笑している面々に話しかけた。

「そうだ、フェイト、なのは、それにクロノ」
「「「?」」」
「お前たちにも渡しておくものがある」

そう言って、士郎は給仕をしているリニスに目配せをした。
士郎の意を受けたリニスは、士郎が持ってきたカバンからいくつかの小箱を取りだしテーブルに並べる。

「あの、リニスさん。なんですか、これ?」
「開けてみてください」

なのは達の前に並べられたのは、木製の重厚な漆黒の匣。
三人が恐る恐るそれらを開けると、中には白い布に包まれた何か。
三人は一度お互いに視線を交差させ、代表してクロノが自身の前にあるそれを広げる。
出てきたのは、柄も鞘も漆黒に染め上げられた一振りのナイフだった。

「士郎、これはなんだ?」
「レヴァンティンを鍛え直すついでに造ってみた。
 とりあえずはお前達三人分。ホントは全員分作るつもりだったんだが、時間が足りなくてな。
 みんなの分は、もうしばらく待ってくれ」
「………………………………レヴァンティンみたいな危険物なら、クーリングオフするぞ」

友人からの贈り物とあれば、本来なら喜ぶべきところだろう。
その意味でいえば、クロノの反応は失礼極まりない。
しかし、先のレヴァンティンの事を考えれば、そういう反応が返ってくるのも当然だ。

「安心しろ、そいつらにレヴァンティンほどの格はない。
 ちょっとした護符でしかないから、護身用程度に思ってくれ。ま、フェイトに渡したペンダントと違ってお守りじゃなくて、武器として使える護符だけどな。
 この前心配かけたお詫びと、普段世話になってるのと資材調達を手伝ってもらった礼だよ」
「……そういう事なら有り難く頂戴するが……」

そう言われてしまえば、さすがに突き返すのも気が引けたのだろう。
まだ少々いぶかしんではいるが、大人しく受け取るクロノ。
なのはとフェイトも、ちょっとおっかなびっくりではあるが自分の前におかれたそれを手に取った。

なのはとフェイトに渡された物は、基本的にはクロノが持っている物と大差ない。
長さ、形状、その他もろもろほとんど同形のナイフだ。
違いがあるとすれば、刻まれている模様など。詳しい事は門外漢の彼らにはわからない。

それは、素人目に見てもそこらの市販品とは別格である事は明らか。
というか、刃物の専門家である恭也や美由希の兄妹の目が爛々と輝いている。
その事からも、これがかなりの一品である事は明らかだ。
故に、むしろ普段から世話になっているのは自分だと思っているなのはとしては、ちょっと気が引けてしまったりする。

「でも、こんな高そうな物もらえないよ……」
「気にするな。そもそも、材料の何割かはお前たちに調達してもらったんだしな」
「「へ?」」
「いや……実を言うとあのリストな、結構レヴァンティンには使わない材料を……」

紛れ込ませていたのだろう。
相手が魔術の素人なのをいいことに、こっそりそういう事をしていたのだ。

もちろん、体良く利用しようとしたと言うのとは“若干”ニュアンスが違う。
今後の事を考え、近々フェイト達用に護身用の護符でも造るつもりだったのだ。
そこで、折角だからとレヴァンティンの資材調達と一緒にそちらの材料も集めてもらったのだろう。
確かにこれなら、なのは達が遠慮する理由は微塵もない。

「士郎、お前最近やる事が汚くなってないか?」
「どうだろうな?」
「まあ、いいさ。君が作ったんだから役に立つ事は間違いないだろう」
「評価してもらえるのはありがたいが、そこまで性能の高い物じゃない。
魔力がつきた時、魔力が使えない時にでも使ってくれ。
魔力が使えない環境じゃ性能は半減するが、それでも並みの刃物よりはよく斬れると自負してる」

本人はそう言うが、アレだけの剣を鍛えられる士郎が作ったナイフだ。
例え真価を発揮できなくても、下手な刃物よりよほど斬れるであろうことは想像に難くない。
三人とも、特に拒む理由もないし喜んで受け取った。

ただし、士郎は同時に自身の背中に突き刺さる視線の存在に気付く。
別に殺意や敵意などはない。ただ、途轍もないレベルでの情念がこもっていた。
それこそ、士郎をして悪寒を覚えるほどの、濃密な情念が。

(私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい私も欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!!!)
(振り向く必要すらないなぁ……ああ、胃が重い…というか痛い)

と、内心で嘆息しつつ鳩尾に手を当ててさする士郎。
間違いなく、確実に、命を賭けたっていいが、自身の後ろでこの視線と情念をぶつけてくる人物が士郎には見なくてもわかった。当然だ、この場でそんな物をぶつけてくる人間など一人、高町美由希以外にいない。

兄と父の方針で未だに欲しくても手に入らないと言うのに、妹が先に手に入れたとなれば怨みがましくもなる。
それがたとえナイフだったとしても、割と刃物マニアな彼女にとっては喉から手が出るほど欲しいのだ。
それも、今回お披露目になったレヴァンティンを見たことでより一層。

以後、士郎は美由希と会う度にこの視線を向けられることとなる。
幾度の戦場越えて不敗なんて謳ったところで、所詮は人。
当然ストレスだって感じるし、過度のストレスは体調も崩す。
何が言いたいかと言うと、一ヶ月後、ようやく身体が本調子になった頃、士郎は胃潰瘍で入院するのだった。

無論、この時の士郎は、まさかそこまで追いつめられるとは微塵も思ってないわけだが。
とそこで、それまで例のお茶に舌鼓を打っていたリンディがある提案をする。

「ねぇ、士郎君。ちょっといいかしら?」
「なんでしょうか?」
「参考までに聞きたいんだけど、あなたが鍛えた剣とかナイフって、魔力がなくても使える?」
「使えなくはないですよ。あらかじめ魔力を付加しておけば特に問題ありませんし」
「それじゃあ、その魔力を付加した剣でバリアジャケットを破れる?」
「?」

質問の意図が良くわからず、士郎は首を傾げ、それから思案する。
魔導師のバリアジャケットは強力な守りだ。物理的な攻撃であれば、生半可な物は防ぎきってしまう。
これを破るとなれば、単純に「切れ味が鋭い」だけの刃では太刀打ちできまい。
それこそ、恭也達並みの技量でもなければ。しかし……

「…………………使う人次第ではありますが、出来なくはないでしょう。付加した魔力の程度にもよりますが、バリアやシールドが相手でない限りそこそこの腕があれば破れると思います」
「そう……」

士郎の答えを聞き、今度はリンディが黙りこんで思案する。
他の面々には相変わらずリンディが何を知ろうとしているのかよくわからないが、クロノとエイミィだけはその真意に気付く。かつて話したそれを、今回持ちかけるつもりなのだろう。
聞きたい事もいま聞く事が出来たのだから。

「士郎君、できればあなたの作品を管理局(私達)に売ってもらえないかしら?」
「……一応、理由を聞かせてください」
「その様子なら、もう察しはついているのでしょ? あなたが考えている通り、管理局の人手不足は深刻よ。
 それこそ、フェイトさん達の様な子どもの手を借りなければならないほど」
「俺が言うような事じゃないでしょうけど、管理する範囲を狭めればいいんじゃないですか?」
「そうね、きっとそれが一番なのだと思うわ。時空管理局と言う組織の規模に対して、その管理領域は広すぎる」

士郎の言葉に対し、リンディも思うところがあるのか暗い声音で首を振る。
そこからは、手に負えない範囲にまで手を広げてしまった管理局への複雑な感情が見え隠れしていた。

「時空管理局は決して小さな組織じゃないわ。それこそ、次元世界で見れば最大規模と言ってもいいでしょうね。
でも、人手不足という時点で、その管理領域は手に余っている事を意味する。
本来なら、身の丈に合った広さにとどめるべきだったのでしょうね」

リンディの言う通り、何事も限度と言うものがある。
はっきり言って、『人手不足』という問題を抱えている時点で手を広げ過ぎたのは明らかなのだ。
しかし、では適切な範囲とはどの程度かとなると、その判断は難しい。
それが、成長途上にあった頃なら尚更だ。

「でも、残念ながら人にしても組織にしても、そして社会にしても成長している時と言うのは向う見ずなものよ。
行ける所まで、後先考えずに突っ走ってしまう。
本来なら、トップに立つ人がちゃんと手綱を握るべきだったのでしょうけど、『もう少し』という誘惑は強烈で、なかなかうまくいかないのが現状なんでしょうね」
「…………」
「そして、一度広げてしまった領域を縮めるのは難しい。
内外から『見捨てるのか』と批判されるし、そもそも折角手に入れた管理地を捨てるのを躊躇ってしまう」

士郎が言った事は決して間違ってはいない。
だが、それが現実的に可能かと言うと首をかしげざるを得ないだろう。
出来ないと言う事はないだろうが、一朝一夕で出来る事ではない。
それこそ、管理領域を広げる為に費やした時間の数十倍の時間を要する筈だ。
それが理解できない士郎ではない。

「……そうですね、共感はできませんが理解はできます。やるとしても、十年単位での話になるでしょう。
 さっきの言葉は忘れてください」
「いいえ、あなたの言った事は間違っていないわ。人の業と言ってしまえばそれまでだけど、いつかはなんとかしなくちゃいけない問題だもの。でも、なんとかする間の繋ぎが必要なのよ。
 だけど、その為に子どもたちが犠牲になるのは社会として絶対に間違っている。どれほど優れた能力を持っていようと、子どもは子ども。社会と大人に庇護されるべきだわ。
 こんな事をしている私に、そんな事を言う資格は本当はないんだけど……」

リンディの言う『こんなこと』とは、なのはやはやてなどのスカウトの事。
一局員としては彼女達の才は魅力的で、何としてでも欲しいと思う。
それだけ管理局が抱える人手不足、人材不足は深刻なのだ。

いや、人手も人材も決して乏しいわけではない。
しかし、次元世界という広大な領域を管理するには圧倒的に足りないのだ。数も、質も。
だが一母親として、そんな現状が正しいとはリンディも思わない。

「でも、代案なき否定は無価値よ。むしろ害悪ですらある。
幼い才能を発掘し活用する事を否定するのなら、それに代わる何かが必要になの。
理想は大切だけど、それだけを口にする人間には誰もついてきてくれない。
その理想を現実にする指針を、方策を提示しなければダメ。例え、実現の可能性がどれほど小さくてもね」
「なるほど。子どもを使わないのなら、大人を使うしかない。ですが、一人ひとりの魔導師にかかる負担をこれ以上引き上げるのは現実的ではない。となれば、後できる事は一つ。
 魔導師以外の人材の活用と言う事ですか」
「そうよ。質量兵器の使用に大きく制限がかかっている以上、魔導師に普通の人が対抗するのは難しい。
 魔導士が関与しない事件にしても、魔導師を派遣した方が安全性は跳ね上がるわ。まあ、絶対には程遠いけど。
だけど、私達はより堅実なやり方を選択しなければならない。その結果、魔導師にかかる負担は増し、そうでない人達は後方勤めが中心になる。
でも、あなたの剣やナイフは制限の対象になるような火器じゃない。にもかかわらず、使い方によっては魔導師と戦うことさえ可能とする」

故に、それらを配備することで少しでも人材の活用につながる筈だ。
少なくとも、本当は前線に立って戦いたいと思いながらも出られない普通の局員。
そんな彼らに希望を与え、一筋の光条をもたらす事が出来る。

「魔術を世に広めるわけにはいかないっていうあなた達の方針は知っているけど…………………どうかしら?」
「…………少し時間をください。凛ともいろいろ話し合ってみたいんで」

士郎個人としては、自身の剣を提供することに抵抗はほとんどない。
魔術の秘匿云々については「不味いなぁ」程度にしか思わないのだから、それも当然だろう。
魔剣が広まる事にしても、所詮は刃物に過ぎない。
どれだけよく斬れても、出来る事には限度がある以上それほど危機感は抱かない。
極端な話、果物ナイフでも人を殺せる以上、危険性でいえばそう大差はないのだ。
如何に士郎の魔剣でも、それはあくまで剣として破格なだけで、銃火器ほどの殺傷性はないのだから。

だが、使い方によっては確かにリンディのいうようなことも可能だろう。
それは、顔も知らぬ子ども達の明日を守ることに繋がる。
如何に正義の味方をやめたとしても、前途ある子ども達の未来は守られるべきだと思う。
故に、凛と相談したいと言うのは、生粋の魔術師である凛への配慮以上のものではないのだ。

そういう意味でいえば、すでに結果は見えていたのかもしれない。
凛と士郎、そしてアイリとの間で様々なやり取りはあっても、最終的な結論はすでに出ていたのだろう。
数日後、士郎はリンディの申し出を受け、鍛えた魔剣や護符の一部を管理局に金銭などと引き換えに提供する事を決意したのだった。






あとがき

遅くなって申し訳ございません。
なんとなくやってみた、シグナム…というよりもレヴァンティン若干魔改造のお話でした。
剣鱗の事を始め、色々突っ込みどころが多いでしょうが、出来ればあまりに気にしないで頂けると幸いです。

それにしても、当初は一話で終わらせるつもりだったのが、例の如く二話に跨ってしまいましたね。
つくづく進歩がありません。むしろ、悪化していると言った方がいいのかも。
この調子だと、今後このSSはどんなことになるのやら。我ながら心配です。


P.S
どうやら、四神やら属性やらの所で間違っていたようです。
どうも、以前読んだ小説の設定が刷り込まれ勘違いしていた模様。
ちょっとつじつま合わせやらなんやらが難しいので、その辺は全面的にカットしました。
お騒がせしてしまい、申し訳ございません。


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