<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4610] 外伝その7「烈火の憂鬱」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/25 02:23

SIDE-シグナム

桜の季節を間近に控えたある日。
居間では主やアイリスフィール、シャマルなどが「花見」とやらの打ち合わせをしている中、私は愛剣レヴァンティンを手に庭で黙々と素振りをしていた。

「……………………………」

蒐集をしていた時と違い、最近ではほとんど全力を出す事もない。
あの頃はミスを取り返してくれる者はおらず、一つのミスが命取りと言っても良い状況だった。
だが、管理局から任される仕事は、基本『絶対に失敗しない』様に幾重にも「保険」がかけられている。
仮に私が何かミスをしても、それを補うための準備が入念になされているのだ。
それは、組織と言う大きな存在だからこそできるやり方であり、本来であれば当然の在り方だろう。

しかしその分、良くも悪くもあの頃の様に鬼気迫るものが私にはない。
いや、それだけならばまだいいのだが、問題はそれで心が、技が鈍る事。
技でも心でも、常に砥いでいなければ瞬く間に鈍ってしまう。
それは、仮にも守護騎士の筆頭であるこの身には決して許されない事だ。

(一応は、テスタロッサと模擬戦もしているが……やはり、な)

物足りなさとでも言えばいいのか、テスタロッサとの模擬戦はどこかスポーツの様な空気がある。
別段、テスタロッサが相手として不足があると言うわけではない。
あの年としてはテスタロッサの腕前は十分以上だし、剣を交える度に研ぎ澄まされていくその魔導を見るのは今の私の密かな楽しみの一つだ。
未だ私を脅かせるほどの力量ではないとはいえ、予想をはるかに上回る速さで迫ってくるその才能には背筋が寒くなる事もある。

しかし………………………やはりそこまで。
どれほどの才があり、如何に成長著しくとも、アレの刃にはない物がある。
言葉にするのは難しいが、「何があろうと敵を討とうとする怨念染みた執念」と言ったところか。
それが悪い事とは思わない。それがない事がアレの美点と言えなくもないだろう。

だが、長く命のやり取りをする場で生きてきた身としては、僅かに物足りないものがあるのも事実。
抽象的な表現になるが、心と体が、そして刃が砥がれていくような空気。
緊迫しざらついた、死が目前で手招きしているような緊張感と恐怖。
テスタロッサと対峙した時には、そう言ったものがない。

代わりにあるのは、清涼感にも似た心地良さだ。
それはそれで新鮮で悪くないのだが……時に、自分の刃が鈍っていくような錯覚に陥る事がある。
悪い表現になるが、「ぬるま湯につかっている」と強く意識する瞬間があるのだ。

だからこうして、暇があれば素振りをするのが私の休日の過ごし方。
普通の素振りと違う事があるとすれば、素振りでありながら私の剣には確かに殺意が乗っている。
まぶたの裏には、これまで戦い斬り伏せてきた数多の敵の姿。
彼らの事を思い返し、記憶に沿って再度彼らを斬っていく。

(愚かな自慰行為…としか言えん事は自覚しているのだがな)

自分のやっている事の不毛さに、思わずため息が漏れる。
だがそれでも、こうでもしていないといざという時に剣が鈍ってしまいそうだ。
それだけ今の生活が穏やかで、殺伐としたものから縁遠いと言う事なのだろう。
それはそれで大変結構な事だ。
主やアイリスフィール、ひいては彼女らの住む世界が平穏そのものである証左なのだから。

しかし、この身は騎士。
主の未来を血と屍で汚したくないという思いは確かにある。
それでも、いざとなれば私はこの手を血で染めるだろう。
それは私に限らず、守護騎士全員に言える気構え。
だと言うのに、その刃が鈍ってしまっては笑い話にもならない。

実際に命のやり取りをする以上に実戦の勘を維持する方法はないが、さすがにそれは不味い。
今の我々は管理局の保護及び管理下にある。いや、それでなくても今のご時世にそんな理由で人斬りはできないし、元よりそう言った理由で人を斬るのは私としても不本意だ。

(とはいえ、死合うとまではいかずとも、それを前提として技術を磨く者と立ち合えるといいのだが……。
 衛宮………はダメだな。やっと体が治ったばかりで今はリハビリ中、さすがに無理は言えん)

となると、あと残っていそうなのは遠坂くらいか。
アレも衛宮と似た様な口だから、心を研ぐ意味では不満はない。
近々、頼んでみるのも選択肢の一つかも知れん。

などと思考に頭の片隅で考えつつ、そのまま私は記憶を掘り返しながらの素振りを続ける。
そこで、いつの間にか老人会主催のゲートボールから帰ってきたヴィータが縁側から声をかけてきた。

「シグナムゥ~」
「なんだ?」
「いや、剣に殺気を乗せんのは別にいいんだけどよ、そう言うのは隠れてやってくれよ。
 なんつーか、あたしまで触発されそうでさ……」
「この際だ、私としてはお前が相手でもいいのだが……」
「気持ちは分からねぇでもないけど、ヤダ。
何より、あたしらでやりあったら理由はどうあれはやてがうるさいぜ」
「むぅ……」

そう、確かにヴィータの言う通りなのだ。
主はそのあたりに対し我々とでは認識が違う。
恐らく、どんな理由があろうと殺気交じりの模擬戦など許してはくれまい。
それだけ我らの事を慈しんでくださっているのだから、騎士としても一個人としてもうれしい限りだ。
とはいえ、こういう時に限っては申し訳ないが悩みの種と言わざるを得ない。
しかしそこで、ふっとある事を思い出しヴィータに問いかける。

「そう言えば、整備に出していたアイゼンは戻ってきたのか?」
「おう! 中身も一新、さすがは管理局だな、新品みたいになって返って来たぜ」
「そうか……」

蒐集をしている間は碌に整備もしてやれなかったが、これでこれまでの無理の清算はできたらしい。
報告するヴィータの声は喜色に満ち、相棒が元気になって返ってきた事を心底から喜んでいる事がうかがえた。

「なんだよ、ノリ悪ぃな。レヴァンティンだって整備から返って来たんだろ?」
「ああ、消耗していたパーツも交換してもらえたし、システムに関しても最新式を入れてもらったが……」
「にしちゃあ浮かねぇ顔してんな。なんか不満でもあるのか?」
「不満と言うか、仕方のない事と分かってはいるのだが……刃の出来がな」
「ああ、そっちか。レヴァンティンは剣だもんな……」

そう、管理局に整備してもらいレヴァンティンもだいぶ前より具合が良くなった。
それは事実。事実なのだが……正直、刀身の仕上がりに不満が残ると言わざるを得ない。
大抵のデバイスには自己修復機能があり、多少の欠損や疲労は勝手に治してくれる。それはベルカ式のアームドデバイスも例外ではなく、多少刀身が欠けた程度はおろか、へし折れてしまってもなんとかなってしまう。
まあ、完全修復には当然時間はかかるのだが……。

とはいえ、それはやはり「なんとかなる」と言う程度の話に過ぎない。
未だ、機械では人間の技術、とりわけ名工や職人と言われる人間の技術には追い付けないのが現状。
特にアームドデバイスは純粋な武器としての性能も求められる為、そう言った伝統的な技術から無縁ではいられない。実際、戦乱の時代のベルカでは腕の良い鍛冶師などは非常に重宝されたものだ。

「管理局に腕のいい奴を紹介してもらったんだろ?」
「…………うむ。腕が悪いとは言わん…言わんのだが、昔の方がやはり腕は良かったな」
「そりゃ仕方ねぇって。今はミッド主流だし、そもそもそういう伝統技術自体が廃れて来てんだからよ」
「まぁな、この世界でも町工場の職人から伝統工芸に至るまで、次の時代を担う技術者を育成できない事が問題になっている。どこの世界でも、人や社会が抱える問題は大して変わらんと言う事か」

その世知辛い時代の移り変わりに、思わずため息をつく。
アイゼンが鉄槌と言う形態なため、ヴィータは私ほど顕著に不満は感じないらしい。
だが、最盛期のベルカを知る身としてはやはり今の技術には不満を感じる。

何しろ、武器の製造技術というのはある意味デバイスの中身以上に繊細な面を持つ。
また、腕に武器が追い付いてこないというのは中々にもどかしい。
しかし、今の時代ではその繊細な技法が失われつつある。
一剣士としてそれは非常に嘆かわしい事ではあるが、ぼやいてどうこうなるものでもない。

いっそのこと、この世界の職人に研いでもらうことも考えた。
だが、デバイスを魔法を知らない者に預けるわけにもいかない。

「やはり、金をためて『本物』の名工に依頼するしかないか……」
「高ぇんだろ?」
「ああ…………おそらく、数年先の話になるだろうな」

今の時代にも、本物の職人がいないわけではない。
実際、今回依頼した相手は、『比較的安価な中で腕のいい職人』と言う事で紹介してもらったのだ。
つまり、金に糸目をつけなければもっと上を望む事もできると言う事。
だが、当然ながらそう言った人物に依頼するとなると値がはる。
今の私の収入では、家に入れる分やその他雑費を差し引くとだいぶ先の話になるだろう。
その道の長さを考えると、やはりどうしても重いため息をついてしまう。

「ああ、なんだ…………頑張れとしか言えねぇわ。
 なんなら、あたしからも少し出すか?」
「…………………いや、いい。これは私の問題だ、お前達に迷惑をかけるわけにはいかん」
「ま、おめぇがそう言うんなら良いけどよ」

正直、ヴィータの提案には心惹かれるものがあるが、守護騎士筆頭としての矜持がそれを許さない。
自分でも難儀な性分だと思うが、あまり家族を煩わせたくないのだ。

「ん? どこいくんだ?」
「いや、とりあえず気分転換に散歩にな」
「そっか……………まあ、あんまり思い詰めんなよ」

そうして、私は主達に外出する旨を伝え、いくつか買い出しを頼まれて家を出た。
まさか、身近にその「本物の職人」がいるとは思いもせず。



外伝その7「烈火の憂鬱」



場所は変わって、とある十字路。
そこに今、一人の少女が信号が変わるのを待ってたたずんでいた。

容姿こそまだ幼いが、すれ違えば思わず足を止めて後ろ姿を追ってしまいそうな可憐な娘だ。
長く伸びた金糸の様な髪が風に揺れ、肌の白と黒い衣服とで絶妙なコントラストを描いている。
その眼は陽光を受けて細められているが、まぶたの隙間からのぞく紅玉の瞳には優しい光を宿していた。

また、その少女の右手には紙袋が下げられている。
とそこで、金髪の美少女…フェイトは視界の端に何かを捉えそちらに顔を向けた。
すると、そこにいたのは彼女にとってもなじみ深い長身の凛とした空気を纏う女性がいたのだ。

「あ……」
「……む」

ちょうど相手の方もそこでフェイトの存在に気付いた様で、互いに相手の事を視界に納めて僅かに声を漏らす。
フェイトとは違いモデルでも務まりそうなほどに背は高く、成熟した女性ならではの柔らかな曲線を描く肢体に周囲の男性達の眼は惹きつけられる。

だが、それも長くは続かない。即座に彼らの視線は上方へと修正され、その顔立ちに釘付けにされた。
まず強く目を引くのは、切れ長の蒼い瞳。意思の強さが容易にうかがい知れ、彼女から儚さや弱々しさと言った印象をまるで感じさせない。下手にナンパなどしようものなら、痛い目を見るのは明らかだ。
桜色の長い髪は高い位置で結われポニーテイルにされ、キビキビとしたその歩みはいっそ小気味よくさえある。

フェイトとは違った意味で、一度眼にすれば決して忘れられなくなるであろう鮮烈な空気を放つ美女だ。
だが、その美女…シグナムはそんな周囲の反応を務めて無視し、そのままフェイトの横まで歩み寄った。

「えっと……こんにちは。シグナムもお出かけですか?」
「……ああ、気晴らしに散歩でもと思ってな。先日の怪我はもういいのか?」
「あ、はい。絶妙な力加減だって、診てくれた医務官の先生も言ってました」
「そうか」

元来、それほどおしゃべりな部類ではないシグナムが相手なためか、会話がはずんでいるとは言い難い。
フェイト自身、どこか緊張した様子でチラチラと信号を見据えるシグナムの表情を横目でうかがっている。
とはいえ、フェイトとしては色々話をしたいと思っている相手でもあるので、少し戸惑いながらも一生懸命話題を探して話を振る。
内心では、「こういう時には場を和ませるのが得意なはやてがいると助かるのに」と思いながら。

「でも、なかなか上手くいきませんね。アレから何度か模擬戦をしましたけど、未だに全敗ですし」
「当たり前だ。そう簡単に負けては烈火の将の名が廃る。
 何よりお前はまだ若い、これから先まだまだ伸びて行くだろう。それこそ、私の思いもしない速さで。
今負けてしまっては、この先私は置いていかれるばかりではないか」

そうこの二人、闇の書事件が落ち着いてからと言うもの大体月二回から三回ほどのペースで模擬戦をしてきた。
もちろんその全てにおいてシグナムが勝利を収めているのだが、戦う度にフェイトの成長に驚かされている。
シグナムとしてはその成長に感嘆と喜びを覚えているが、だからこそ負けるわけにはいかない。

フェイトの成長を促す要因の一つに、壁としての自分の存在がある事を彼女はしっかりと理解している。
壁や困難は簡単に乗り越えられないからこそ意味があるのだ。
好敵手と刃を交える事は確かに楽しいが、同時に先達として彼女の成長を見届けたいという思いもある。
故に、彼女の大きく高い壁となり、フェイトが遥か高く遠くへと飛んでいけるようにしてやりたいとも思う。
無論、ただのふみ台などで終わるつもりなど毛頭ないわけだが。

「我らの背は遠いぞ、精々精進する事だ」
「分かってます。あなたにも、士郎にも、必ず追いついて…………追い越します。
それがきっと、みんなの期待にこたえる事だと思いますから」
「楽しみにさせてもらおう。私としても、好敵手には強くあってもらいたい。
 お前が強くなればなるほど、私も高みを目指す甲斐があると言うものだ」

そう言って、シグナムは目を閉じて僅かに微笑む。
密かに「子の成長を望み喜ぶ父親とは、こんな気持ちなのかも知れんな」などと思いながら。
しかし、確かに彼女は母性より父性が強そうな人物だが、それはそれでどうなのだろう。

「ところで、それは………………土産か?」
「はい、ちょっとお願いしたい事がありまして」
「この方向だと……衛宮達の家か」

シグナムはここからでは見えない洋館の方へと視線を向ける。
それはちょうどこの信号を渡った先であり、フェイトの関係者の中でこの先に住む人物をシグナムが知らないからこその予想だった。

そこでちょうど信号は変わり、フェイトは一瞬進むべきか迷う。
シグナムの行き先がこっちなのかわからない。
仮に違ったとして、ここで会話を打ち切るのもどうかと思ったのだ。
しかし、先にシグナムは横断歩道に一歩を踏み出すのを見て、フェイトはあわててその後を追う。
フェイトが追い付いてきたところで、シグナムは再度口を開いた。

「大方、衛宮達に近接戦の手ほどきでも頼みに行くと言ったところか?」
「う……分かります?」
「当然だ。現状、お前は接近戦で私に負け越しだしな、対策を練ろうと考えるのは必然だ」

闇の書事件の時は、シグナムが負傷していたり対シグナム用に戦術を練って戦っていたりしていた。
だがすでに傷も癒え、その戦術の方向性を知られてしまった今となってはあまり効果がない。
はっきり言ってしまえば、フェイトが士郎達から授かった策はほとんど役に立たなくなっている。
なので、こうなってくると元々の地力の差が如実に表れる為、多少の速度差など歴戦の騎士であるシグナム相手では容易く覆されてしまう。
その結果、ここ最近は近接戦では圧倒されっぱなしで、なんとか遠距離攻撃に活路を見出そうとする内容が多い。

しかし、それでは遠近両用型のフェイトの長所を活かせない。
同居中の執務官達もあまり白兵戦は得意ではないので、フェイトには頼るあてが少ない。
さすがに、模擬戦の相手本人に近接戦の対策及び指導を受けようと思えるほど図太くもない様だ。
そんなわけで、こうして改めて士郎達に近接戦の教授をお願いしようとして現在に至る。

「だが、確か今も高町と共に衛宮達から指導を受けているのだろう?」
「ええ、まあ。以前は基礎訓練とシグナム達と戦う事を前提とした戦術指導がほとんどでしたけど、今は完全に基礎訓練がメインですね。
というか、ほとんど戦い方も教わってないんですが……代わりに、最近は銃器とかの座学が多いんです」

その事に僅かに不満を感じているのか、フェイトの表情は浮かない。いや、実際に不満そうなのだ。
如何に士郎がまだ復帰できていないとはいえ、やはり基礎訓練ばかりでは満足できないと言うのも無理からぬ話である。
しかし、シグナムは正確に士郎達が何を考えて基礎訓練や知識を蓄える事に重きを置いているかを看破していた。

(やはり、衛宮達はテスタロッサ達よりもずっと先を見据えているな。今すぐ力になると言うような内容ではなさそうだが、その代わり数ヶ月、数年先で今日の訓練が二人の力になるだろう。
 テスタロッサ達からすれば不満かも知れんが、局員として、一戦闘者として必要な土台を築いている最中なのだから、こればかりはどうしようもあるまい)

根本的に、二人が学び身につけねばらないものは戦う術ばかりではない。さらに言えば、そもそも土台が士郎達からすれば脆い。だからこそ、こうして士郎達はなのは達の土台作りに重きを置く。
元々のスペックが高いが故に大抵の事はなんとかなってしまうからこそ、おろそかになりそうな部分を補強しようと言うのだ。

「そりゃあ、基礎が重要と言うのは嫌と言うほど実感してますけど……」
「不満を感じていると言うのなら、まだまだ認識が甘い。
私に勝ちたいのなら、一から鍛え直すくらいでなければな。
そもそも、お前は武器の扱いが拙い。武器に振り回されているようでは話にならんぞ」

呟くフェイトに、シグナムは思った事をそのまま口にする。
実際問題として、フェイトがさらに強くなるにはその強さを支える為の土台が必要不可欠なのだ。
脆い土台の上に築けるものなど程度が知れている事を理解しているからこその意見。

また、まだ身体が成長途上なこともあるが、フェイトはまだバルディッシュに振り回されている部分がある。
それはデバイスとしてよりも、純粋に一つの武器として。
手足が伸びきっておらず、筋力的にも技術的にも未成熟なのだから当然だ。
だがそこで、自身の発言からシグナムはある事に気付く。

「もしや、その為か?」
「はい。わたしも正直それは自覚してました。シグナムと正面から打ち合っても、わたしじゃ勝負になりません。
 だからこの機に、一度ちゃんと武器の使い方を勉強しようかと思って……」

少し恥ずかしそうにうつむきながら、フェイトはそう答える。
リニスからも色々教わりはしたが、武器の扱いと言う点では彼女も本職ではなかった。
しかし、士郎は基本武器全般何でもいける口だ。その技量はシグナムも認める所である。
純粋な技量のみを問えばシグナムの方が遥かに優れているが、それでも軽んじられるレベルではない。
むしろ士郎の場合、純粋な技術以外の面が厄介なのだが……。

「悪くない選択だ。確かに、アレは人に教えるのは上手かろう」
「え? そうなんですか?」
「気付いていなかったのか? 指導者としてはわからんが、『教える』のは私などよりよほど上手い筈だぞ。
 まあ、私など比較対象として不適当なのだがな」

そう言って、シグナムは自嘲するように苦笑する。
本人に言わせれば「柄ではない」らしいのだが、客観的な認識として「人に物を教える」のに自分は不向きだろうとも思っているのだ。
それは謙遜などの類ではなく、確固とした理由があってのもの。
しかし、フェイトにはそのあたりの事が良くわからない。

「あの、良ければなんでシグナムが比較対象として『不適当』なのか、教えてもらえませんか?」
「ん? たいしたことではない。私はこういう存在だからな、技術を身につけるのに苦労した事がほとんどない、それが理由だ。無論、修練や努力はして来たがな」
「? ? ?」
「こう言えば分かるか? 仮に私の技を誰かに教えたとしよう、だが教えられた者はその技が上手くできない、ここまでは良くある事だ。問題なのはな、その上手くできない理由を私では解決してやれん事にある。
 上手くいかないからには何かしら原因があるのだろうが、できる事が当たり前の私にはそれが理解できん。故に、どうすればその原因を取り除いてやれるのかも教えられん」
「……………………」

なんとかシグナムなりに分かりやすく伝えようとはしているようだが、フェイトの表情は釈然としない。
言わんとしている事はなんとなくわかる様な気もするのだが、やはりはっきりとしないのだ。
そんなフェイトの内心にシグナムも気付いたのか、例を変えて見る事にした。

「そうだな…………なら、仮にお前が誰かに飛び方を教えようとしたとしよう。術式にも魔力にも問題はない、だがなぜか相手は飛べない。原因はイメージ不足だった、こんな時お前ならどうする?」

魔法には割とイメージが重要だったりする。
如何に科学的な装置を用い、論理的な術式で編まれていようと使うのは人間なのだ。
『できる』と思えなければできるものもできないと言う事なのだろう。

「えっと……それなら空を飛ぶ自分をより明確にイメージしてもらえばいいと思います」
「だが、人間はそもそも飛ぶ生き物ではないぞ」
「そ、それならわたしが飛ぶのを見てもらったり、わたしが抱えて飛んでみたりして……」
「その場合は『飛ぶ』のではなく『飛ばされる』と言うのではないか? ハングライダーと何が違う?」
「そ、その…その……こう、フワッと浮いて、ビューンと……」
「そんな抽象的かつ擬音語ばかりの表現で伝わると思うのか?」
「………………………………………………………………………無理です」

度重なるシグナムの指摘に、ついに白旗を上げるフェイト。
シグナム自身はと言うと、予想通りの結果だったのだろう。
特に何を言うでもなく、軽くため息をついてからこう告げた。

「多少の差異はあるだろうが、つまりはそういう事だ。
 我々が感覚的にやれてしまっている範囲だと、その事を上手く伝えられん。失敗などされてもその原因を理解し、解消する引き出しが我らにはないのだ。そして、私達にはそういう部分が多い。
 憶えておけ、私もお前も、思い上がりなどではなく確固とした事実として人並み以上の能力を、恩恵を得て存在している。スタート地点が違うと言った方が分かりやすいか? そこから先の事であればアドバイスもできるが、その前の事で我らに教えられる事はないのだ」

同じ空を飛ぶという技術一つをとっても、フェイト達にはイメージ構築の段階で苦労した経験がない。
だが、普通の魔導師の場合まずここで躓く。空を飛ぶ自分と言うものがイメージしにくいのだ。
妄想レベルならそうでもないが、魔法として行使できるほどとなると困難極まりない。
しかし、そのイメージの構築の仕方をフェイト達が教える事は難しい。なぜなら彼女らは、はじめからそれが出来てしまっていたのだから。

たとえば、我々が歩き方を事細かに説明しようとしても難しい様なものだ。
無意識的にできてしまうからこそ、説明できる事が少ない。
重心の移動の仕方、筋肉を動かす順とその際の強さ、これらを説明するだけでも難しい。
実際にはそれよりもっと複雑なのだ。

「でも、なら何で士郎は教えるのに向いているんですか?」
「アレは我等とは真逆の男だ。奴に才はない、だからこそ一つ一つの技術を丹念に磨き修得してきた。
 我らが理解できないはじめから踏破していた部分を、アレは血の滲むような思いで歩んできたのだからな。なら、どうして失敗するのかはアレが身にしみて良く知る点。
どうすればそれを解決できるかなど、奴は熟知しているだろうよ」

たった一つの技術、それを身に付けるのに苦労してきた士郎だからこそ教える事に長ける。
少なくとも、なぜ躓くのか理解できないシグナム達よりよほど上手く教えられるだろう。

「その意味で言えば、遠坂も人に物を教えるのはあまり上手くなかったかもしれんな」
「でも、凛は教え上手だと思うんですけど……」
「奴は衛宮の師でもあるのだろう? おそらく、衛宮に教える時に色々苦労したのではないか。
 アレはあまり要領の良いタイプではなかろうし、教えるとなれば相当苦労した筈だ」

そう、士郎は魔術的な才能に恵まれていない。
投影やそれに付随する魔術ならいざ知らず、それ以外に関しては三流どころではないのだ。
そんな士郎に指導してきたのだから、凛の指導力が上がるのは必然と言える。
凛には到底理解できないような部分で失敗する士郎を導くために、凛がどのような創意工夫をして来たのかは、余人には理解の及ばない範疇だろう。
だが、これがあったからこそ凛は指導者として優れた能力を身につける事が出来たのだ。

「まあ、天才肌の者は確かに教える事にはあまり向かない場合が多いが、例外はあるし、そもそもやり方次第だ。
自身の感覚的な部分を伝える技術を身につける事ができればいいわけだからな。
基礎を固め、整理し、理論として他者に伝えられる形にまで昇華することができれば……そして、それができたからこそ、アレは優れた指導者なのだろう」
「それって、何か違うんですか?」
「教える事が上手い事と、指導者として優れている事は違う。技術を伝える事と、育成する事は別物なのだ。
 優れた指導者は総じて『教え上手』だが、『教え上手』な者が優れた指導者であるとは限らん。
 指導者に求められるのは、ただ技を教える事だけではない。心と体を正しい方向へ導いてこその指導者だからな。おそらく、衛宮はそちらにはあまり向かんだろう」

正直、フェイトにはシグナムの言っている事の半分も理解できない。
自分が人に教えるのには向かない事は理解できたし、シグナムも同様である理由もわかった。
閃きと感性で技術や魔法を身につけてきた彼女には、その感覚的な部分を教える事が出来ない。
少なくとも、今はまだ。

対して士郎は、そう言った感覚的な部分がほとんどない。
フェイト達が感覚的に知っていた部分を、士郎は自己研磨の中で身につけてきたからこそ、少なくともフェイトよりは教えるのが上手い。
とはいえ、士郎は決して優れた指導者と言うわけではないらしい。
だからこそ、技術は伝えられても育て導く事が出来ないらしく、そういった点に凛は優れている。

フェイトに分かった事など、そう言った表面的な部分だけ。
だが、それでもわかった事がある。

(とりあえず、士郎に教わるっていうのは悪い選択じゃないってことだよね)

そうして、フェイトとシグナムは連れ立って遠坂邸を目指して歩を進める。
どうやら目的もなく散歩していたシグナムは、そのままフェイトについていくことにしたらしい。
おそらく、フェイトの申し出に士郎達がどうこたえるか興味がわいたのだろう。



  *  *  *  *  *



場所は変わって、高町家。
その純和風の門前には………………………なぜかフェイトとシグナムが立っていた。
なぜ遠坂邸に向かった筈の二人がここにいるのかと言うと……。

「え、士郎? アイツなら、今なのはのところにいるわよ」

遠坂邸に着きさっそく士郎に会おうとしたフェイトだったが、家主の凛からもたらされたのはこんな言葉だった。
なんでも、以前から時々高町家を訪れているらしい。
夕方まで帰ってこないとの事だったので、仕方なくフェイト達は士郎を追ってこうして高町家まで足を運んだと言うわけだ。

そうして高町家の呼び鈴を鳴らして待つ事少々。
木製の門を開いて顔をのぞかせたのは、フェイトの親友であるなのはだった。

「あ、フェイトちゃん、シグナムさん。いらっしゃい」
「うん、ごめんねなのは、いきなりお邪魔しちゃって」
「すまんな、邪魔をする」
「あ、ううん、全然大丈夫。シグナムさんも気にしないでください」

軽く頭を下げて謝罪する二人に、なのはは軽く手を振りながら笑って応える。
だが、良く見れば気づいただろう。なのはの表情が僅かにひきつっている事に。

「と、とりあえず中にどうぞ」
「あ、うん」
「……」

そうして二人はなのはに促されて敷地の中に入ったのだが、少々歩いてシグナムの表情が変わった。
その表情は険しく、まるで戦闘時の様に厳しい。
フェイトもそれに気付き、一体どうしたのかと不思議そうな表情を浮かべる。

「シグナム?」
「あの、どうしたんですか?」
「高町…………あの道場には、いま誰がいる?」

そう言ってシグナムが視線を向けたのは、庭の隅にある木造平屋の建築物。
一般的道場と呼ばれるものだが、庭先にある為サイズは決して大きくない。
恐らく、柔道か剣道の試合用に使えば、一面分しかないくらいだろう。
しかし耳を澄ませば、そちらの方向から木と木がぶつかる衝突音が聞こえてくる事に気付く。

「じ、実は……」

そうして、なのはが今度は明らかに苦笑いの表情を浮かべる。
百聞は一見に如かずとばかりに二人を道場の方に案内するなのは。
フェイトとしては士郎に会いたいだけなのだが、何やらタイミングを逸してしまって問う事が出来ない。

シグナムはシグナムで、そちらの方に完全に興味が移ったようだ。
その顔にはそれまで同様の厳しい表情だが、同時に何か高揚しているような印象を受ける。
そしてその原因は、すぐに判明するのだった。

道場の扉が開かれると同時に、裂帛の気迫がフェイト達の身体を打ち、フェイトとなのはは思わず半歩下がる。
それは、道場の中央に立つ二人から放たれたものだった。

「はあぁぁぁぁ!!」
「ふっ、せい!!」

片や、短めの二本の木剣を手に正面の相手に踏み込んで行く、長い黒髪を三つ編みにした高校生くらいの少女。
片や、身長ほどの長さがある木製の棍を手に、腰を低くした構えで少女を迎え撃つフェイト達と同年代の少年。

少女が間合いに入った瞬間、少年は巧みな棍さばきでその機先を制す。
初撃は踏み込むために出された脚、その脚を刈りとるかのように少年は低い位置への払いを放つ。
少女は僅かに足を下ろすタイミングをずらすことでその払いをやり過ごし、再度踏みこんでくる。

だが、それも予想の範疇だったのだろう。
少年は身体の捻転を利用し、初撃よりさらに速度を増した二撃目で少女の首を薙いでくる。
咄嗟に少女は身をかがめて回避するが、取り残された三つ編みを棍が打つ。

そこで少年は手首を返し棍で小さな円を描く。
その間に少女は少年の懐深くへ潜り込もうと疾駆するべく、前傾姿勢を取る。
そのまま後ろ脚に力を込め、思い切り板張りの床を蹴ろうとした瞬間、少女の首が後ろに引っ張られた。
それはまるで、何か紐で頭部を括りつけられたかのよう。

フェイトもなのはも、その突然の事態に驚きに目を見開く。
しかし、その事に誰よりも驚いたのは少女自身だった。

「え!?」
「甘い!!」

如何なる手品を使ったのか、少女の三つ編みはいつの間に棍に絡め取られていた。
少女のひそかな自慢である艶やかな黒髪が、少女の頭を引っ張った元凶。
少年は少女が体勢を崩した瞬間を逃さず、さらに体を崩す様に棍を操る。

結果、まんまと少女は板張りの床に身体を叩きつけられた。
辛うじて受け身を取りダメージを分散したが、起き上がるより早く追撃が来る。

「フン!!」
「ヤバ!?」

少年は倒れた少女の真上から棍を叩きつけてくる。
床の上を転がってそれらを回避していくが、それでは反撃はままならない。
少女は床を転がりながら、どこからか取り出した木製の針の様なものを少年に向けて投擲した。

少年はそれを容易く撃ち落とすが、その隙に少女は起き上がり再度構えを取る。
やはり少年は自ら動こうとはせず、道場の中心で待つ。

だが、フェイトやなのはにもわかった。
ああして道場の中心に陣取られているからこそ、少女は攻めあぐねているのだと言う事を。
実際、少女は少年の隙を探す様にぐるぐると彼の周りをゆっくりと円を描くように回るが、少年は常に自身の正面に少女が来るようにそちらに身体を向けるだけでその場から動かない。

道場の端にいる者と中心に立つ者、その移動距離の差は歴然。
少女がどれほど速く激しく動いたとしても、少年は最小限の動きで容易く少女を正面に捉える事が出来るのだ。

やがて、少女も背後や側面を尽くのは無理とあきらめたようで、動くのをやめどっしりと腰を落とす。
そして睨み合うこと数十秒。少女はゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、『来ないのならこちらから行くぞ』とかにはならないかな?」
「こうして待っていた方が有利ですからね、自分からそれを捨てる気はありませんよ。
 というか、こっちの方が間合いが広いんですからそれを詰めてどうするんですか?」
「はは、やっぱり……」

少女…美由希の問いかけに士郎はそう応じる。
堅実に、自身の有利を決して捨てようとはせず、ゆっくりと気長に待つつもりなのだろう。
その声に焦れた様子はなく、いくらでも待つと言う意思を言外に伝えてきた。

とそこで、二人の動きが止まっている間に道場の隅で二人の戦いを観戦していた二人の男性から、フェイト達に声がかかる。
それは、なのはの父である高町士郎と、同じく兄の恭也だった。

「なのは、見学するならこっちに来なさい」
「あ、うん、お父さん」
「そちらは、フェイトちゃんと…確かシグナムさんでしたか」
「あ、はい、お邪魔してます」

確認するように問いかけてくる恭也にフェイトは頭を下げ、シグナムも無言のまま会釈する。
そうして、三人は恭也達と合流した。

「あの、これって……」
「ああ、士郎のリハビリを兼ねた美由希の鍛錬だ。
 士郎は武器全般何でも使えるからな、良い練習相手になって助かっている」
「俺達だと同門だから手の内がわかってるからなぁ、偶には他流とやらせたいと思っていたんだ」

恭也はややぶっきらぼうに、士郎(父)は快活に笑ってそう答える。
なのははこの事はもう知っていたようで、ちょっと困ったような表情を浮かべている。
シグナムはと言うと、二人の話を聞いているのかいないのか、さっきから士郎達から目を離さない。
だが、なのはとしてはつい最近まで車いすで生活していた友人の事が心配で気が気でないだけに、僅かに咎めるような視線を隣に立つ兄に向ける。

「でも、士郎君も無茶だよ。あんな怪我して、最近やっと動けるようになってきたんだよ」
「そうでもない。士郎も自分の体調の事は熟知しているからな、ああして極力体に負担のかからない動きをしている」
「確かに、長物を使うのは少々負担が大きいかも知れんが、接近して派手に打ち合ったりしない分あの方が衛宮の身体にかかる負担も小さいか」

恭也は特に気にした素振りも見せずにそう応じ、それにシグナムも同意した。
士郎とて一端の戦闘者、自分の状態に合わせて戦い方を変えることくらいはする。
二人もそれくらいは承知の上だからこそ、特に心配などはしていない。
そんな二人を見て、フェイトは士郎(父)に話を振る。

「そういうものなんですか?」
「ああ。それに、美由希としても今までと勝手が違うだけに攻めあぐねているからね。
 やはり、士郎君が相手をしてくれると助かるなぁ。いい経験になる」

士郎(父)は娘の良い練習相手がいて上機嫌らしい。
実際、恭也と稽古をしていてもあまりこういう状態にはならない。
二人でやり合うと、多少の睨み合いや隙の探し合いにはなっても、ここまで硬直する事はほとんどないのだ。
それだけ美由希にとってやりづらい状況に追い込まれていると言う事であり、だからこそ美由希としては頭を悩ませざるを得ない。
おそらく、恭也達としてはこの状況は願ったりかなったりの状態なのだろう。

「む、動くか」
「「え!?」」

シグナムの声を聞き、フェイトとなのはは即座に士郎達の方へと視線を向ける。
すると、ちょうど美由希が士郎に向けて何かを投擲した瞬間だった。
投擲されたのは、先ほどと同じ木製の釘。だが今回士郎は、それを弾かず軽く身をよじって回避する。
それに対し、フェイトは思わず疑問の声を漏らす。

「え? 今度は弾かないの?」
「ああ、今美由希が使ったのは俺が以前士郎に倣った投擲技法で、『鉄甲作用』という」
「それって、確か!」

恭也の回答に、その名に聞き覚えのあるなのはが声を上げる。
それは、以前士郎が使った着弾時の衝撃を数倍に引き上げる特殊な技術。
それを証明するように、美由希の放った木製の釘は壁にぶつかると同時に凄まじい音を立てて突き刺さった。

「さすがにあんなものを弾こうとすれば体勢が崩れるか……衛宮の判断は正しい」
「だが、それこそが美由希の狙いでもある」
「え? それって……あっ!」

恭也のコメントの真意を問おうとするなのはだったが、その言葉が最後まで紡がれる事はなった。
なぜなら、それより先にその意味を悟ったからだ。美由希自身の行動によって。

美由希は釘を投擲すると同時に動き出しており、士郎のすぐ正面まで迫っていた。
しかし、士郎も早々思い通りにさせてはくれない。
払いでは間に合わないと判断し、その場で美由希の額と水月に向けて刺突を放とうとする。

初撃の額への一撃は外れる事前提の牽制。
人間、顔への攻撃はどうしたって怖いし警戒心が強い。
視覚が情報の大半を占めるからこそ、眼のある頭部への攻撃には敏感なのだ。
だからこそ、牽制として意味がある。
初撃を回避ないし防御した瞬間、意識の離れた面積の広い胴体を打つつもりなのだ

だが、士郎のその目論見は完全に外される。
初撃は目論見通り首を傾けて回避されるも、続く本命の二撃目が美由希の胴体に突き刺さる……筈だった。

「せいっ!」
「っ!?」

美由希は士郎の次の手も予想し、二撃目を二本の木剣を交差させて防いで見せる。
続いて、懐に入り込もうと踏みこんでくる美由希。
それに対し、士郎は一端距離を開けようと棍を薙ぐ。
しかし、予想外に美由希の踏み込みが早く、望まぬ鍔迫り合いへと持ち込まれた。
美由希は強引に押し切らんと床を踏む脚と木剣を持つ腕に力を込め、士郎は苦渋の表情を浮かべる。

「はぁぁぁあぁぁぁぁ!!」
(ちぃっ! さすがに、体格差は如何ともし難い…か)

女性とは言え、手足の伸びきった美由希と子どもの身体の士郎では士郎の方が不利。
特にそれが、体重と筋力がものを言う力比べとなればなおの事だろう。
もっと強化を強めれば話は別かもしれないが、今の体調ではまだ無理はできない。
何より、それではこの試合の意味がないのだから。
そして、ついには力任せに押し切られる。

「…………………はっ!!」
「おっと……!?」

たたらを踏みながら数歩後ろに下がる士郎。
すぐさま体勢を立て直し構えるも、美由希はその一瞬の隙を見逃さない。

「隙あり!!」

美由希は二本の木剣を高々と振り上げ、渾身の力を込めて唐竹に振り下ろす。
無論、士郎とてその直撃をむざむざ受けるつもりはない。
回避は間に合わないが、それでも即座に棍を頭の上で水平に構え、美由希の一撃を防御する。

「りゃあぁあぁぁあぁあぁぁ!!!」
「ぐっ!?」

二人の得物が衝突した瞬間、何かの砕ける音が道場に響いた。
良く見れば、士郎の棍は中心でへし折られている。
今の美由希の一撃で折られたのだ。先の一撃には、御神流の技の一つ『徹』も織り込まれていた。
その結果、棍は受けた衝撃に耐えられずにへし折れたのだ。

とはいえ、まだ勝負は決していないとばかりに美由希は構えを解かない。
士郎の手には折れたとはいえ二本の棒がある。それも先の尖った危険な棒が。
むしろ、このほうが士郎本来のスタイルに近いと言えるだろう。
しかし、士郎はその二本の棒を放り捨てて両手を挙げて宣言した。

「勝負あり、ですね。俺の負けです」
「………………………………いいの? 士郎君、まだやれるでしょ?」
「病み上がりにこれ以上はきついですよ。正直、手が痺れて……」

そう言って、士郎は両手をプラプラさせる。
先の一撃の衝撃で、両手が痺れているのだろう。
確かに、それではこれ以上戦うのは難しい。
元々病み上がりの体でもあるし、稽古という意味ではこの辺りが頃合いだ。

もしこれが実戦だったなら話は別だったろうが、それは詮無い事。
元よりこれは、ルールを決め、互いに制限を設けて行った練習に過ぎないのだから。

「頃合いか、二人ともそろそろ休憩にするぞ!」
「あ、うん。オッケー恭ちゃん。それとありがとね、士郎君。おかげでいい練習になったよ」
「いえ、こちらこそ、おかげさまでだいぶ感覚が戻ってきました」
「それにしても、剣とか槍だけじゃなくて棍も使えるんだ。ホント器用だよねぇ」
「そうでもないですよ。俺の場合、単に槍術を応用してるだけですからね。
 まっとうな杖術や棍使いとはやっぱり違いますから」

その言葉の通り、今回の場合身に付けた槍術を応用しているだけに過ぎない。
刃物なら全般的に使える士郎だが、その手の打撃系の武器には不慣れなのである。

「でも、私や恭ちゃんは小太刀と暗器がほとんどだからね、色々使えるのは尊敬するよ」
「恐縮です。本物には遠く及ばないとはいえ、美由希さんみたいな人にそう言ってもらえると鼻が高いですよ。
こんな俺でも、あなた達の力になれる、経験を積む一助になれるんだと思うと」

美由希の言葉に、士郎は頭をかきながら照れたように応える。
士郎の技術はその大半が解析の結果として憑依経験の模倣に過ぎない。
もちろんそれらの技術を身体に沁みこませるための鍛錬は怠ってこなかったが、それでもやはりどこか自分を卑下するような印象が強い。
そして、そんな士郎の態度は美由希としては少々問題だと思う。

「う~ん、士郎君はちょっと謙遜しすぎな気がするんだけどねぇ」
「全くだ。そもそも、あらゆる技術の継承は模倣から始まる、どんなやり方でもそれらの技術はお前の血となり肉となっているんだ。なら、何も恥じる事はない。むしろ、胸を張るべきだ」
「そんなものですかね?」

美由希に続き恭也からもそうコメントされ、士郎は困ったように首を傾げる。
二人の言わんとする事はわかるのだが、元々自分の技術に誇りなど持たない性質だ。
士郎と彼らとでは、誇りの置き場所が違う。士郎の誇りは『結果』におかれるのであって、彼らの様に『自分自身』や『修得した技術』に向けられるものではないが故に。
とそこで、ようやく思考が復帰したフェイトが士郎に挨拶する。

「シロウ、その…………おはよう」
「ああ、おはようフェイト、それにシグナム。だけど、珍しい組み合わせだな」

一瞬この挨拶で適当なのかフェイトは迷ったようだったが、士郎は気にした素振りもなく応じる。
ただ、士郎の眼にはこの状況は中々珍しいと映ったようだ。
しかし、当の本人であるシグナムはそう思わなかったらしい。

「そうか? 私とテスタロッサが一緒にいるのはそう珍しくないと思うのだが」
「いや、フェイトとシグナムの組み合わせはそうでもないんだけど、お前達二人でこの場所って言うのがな」
「ああ、確かに…言われてみればそうか」

士郎の言う通り、フェイトとシグナムの二人が高町家にいると言うのはなかなかない状況だろう。
フェイトが高町家にいるのは珍しくもなんともないが、シグナムとなのはだと組合せとしてはあまりないためだ。

「しかし、だいぶ本調子になってきたようだな」
「そうでもない。今回だって体をほぐす程度だしな、美由希さんも重りをつけてたし、まだまだ本調子には程遠いよ。だから、その『以前の決着をつけよう』的な目で見るなって!」
「むぅ、そうか? 私としては、このまま有耶無耶になるのは不本意なのだが……」
(俺としては、このまま有耶無耶にしてほしいんだけどな)

シグナムの呟きに、士郎は内心でそう漏らす。
正直、あの時は手の内を知られていなかったからこそなんとかなった。
だが、今となってはあの手の奇襲も効果は薄い。
もしもう一度やり合っても、あの時ほどの接戦になるとは到底思えないのだ。
早い話が……『もう一度やっても勝てる気がしねぇ』のである。

もちろん、それはまっとうな剣での勝負になればの話なので、士郎は無理にそれで戦うは必要ない。
勝てないなら勝てないなりに、勝てるように戦い方を変えられる柔軟性が士郎の長所の一つ。
極端な話、キロ単位での遠距離狙撃に集中すればまず負けはないのだ。
近接戦にしても、『やりよう次第』と言うのが正解だろう。無論、以前に比べればはるかにやりにくいわけだが。

「で、まだなんでこの組み合わせでこの場所にいたのかの説明をしてもらってないんだが?」
「あ、そうだよね。そう言えば、まだ用件とか聞いてなかったっけ」

士郎が改めて口にした疑問に、なのはもそのあたりを聞いていなかった事を思い出した。
とはいえ、いつまでも立ち話も何なので、皆一端道場を出て縁側に移動する。
士郎は茶坊主でもしようと思ったのだが、客人と言う事で押しとどめられてしまった。
ちなみに、実は士郎(父)は翠屋から抜け出してきた身なので、『ごゆっくり』と声をかけてから店に戻っている。そうして僅かに人数の減った士郎達は、縁側で緑茶などすすりながら話の続きにとりかかった。

「えっと、シグナムとはバッタリ道端で会って……」
「ちょうど暇にしていたのでな。テスタロッサの用件にも興味があったので同伴していただけだ」
「じゃあ、フェイトちゃんの用って? 電話じゃダメだったの?」
「実は、用があったのはなのはじゃなくてシロウなんだ」
「? 俺に?」
「うん、はじめは家の方に言ったんだけど、凛にシロウはなのはの家に行ったって聞いて」
「「ああ、そういうこと(か)」」

そこでようやく合点がいったとばかりになのはと士郎は同時に手を打つ。
それなら、なぜフェイトが少し居心地悪そうにしているかも理解できる。
要は、友人の家にきておいて、その友人には用がないと言うのがバツが悪かったからなのだろう。

「それで、俺に何の用があったんだ?」
「実はね……シロウに武器の使い方を教えてほしいんだ」
「それは、普段の訓練の延長……魔法の足を引っ張らない範囲で使えるようになりたい、っていうわけじゃないんだな」
「うん。そんな片手間じゃなくて、本気でちゃんと使えるようになりたいんだ」
「まあ、早い話が、私と接近戦で渡り合えるようになりたいと言う事だ」
「その、多少語弊はあるけど……概ねそんな感じ」

シグナムのコメントに僅かに心外そうにするフェイト。
別にそれだけが理由と言うわけではない、と言いたいのだろう。
しかし、当面の目標がそれなのだから否定する事も出来ない。

そうしてフェイトの希望を聞いた士郎は、腕を組んで空を見上げて考え込む。
いったい何を悩んでいるのかフェイトには良くわからないが、答えを急かすような事はしない。
士郎の事だから、なにか理由があって悩んでいるのだろうと考えたのだ。
その点に関して、フェイトの士郎への信頼はゆるぎないものだった。
そして、数十秒ほど黙考した士郎はゆっくりとフェイトに視線を向け、出した答えを告げる。

「結論から言うと、悪いんだが断らせてもらう」
「「え!?」」
「……」

フェイトとなのはの二人は、思ってもみない士郎の言葉に驚愕し、シグナムからも険の籠った視線で睨まれる。
もちろん士郎なりにちゃんと考えた結果なのだが、これだけでは説明不足なのは明らか。
無論士郎とて、ここで終わりにするつもりはない。

「まあ、聞いてくれ。フェイトの事だから中途半端ないい加減な気持ちで言ってるんじゃないだろ」
「……うん」
「その辺は俺も疑ってない。フェイトには充分な才能があるし、意思もあるんだから特に問題はないさ。
 だから、問題なのは俺の方なんだよ」
「えっと、どういう事なの、士郎君?」
「単刀直入に言ってしまえば、俺がフェイトに教えられることなんてほとんどないんだ」

士郎は肩を竦め、溜め息交じりにそう呟く。
それはまるで、その事が残念でたまらないと言わんばかりだ。
イヤ、あるいは本当に残念に思っているのかもしれない。
そこで、それまで黙って話を聞いていたシグナムが重い口を開いた。

「………………………それは、お前のスタイルの問題か?」
「それもある。俺はフェイトみたいなスピードタイプじゃないからな」
「その口ぶりだと、それだけではなさそうだが……」
「まぁな。だがやはり、根本的な問題として俺の剣はフェイトには向かないだろう。
今シグナムが言ったようにスタイルの違いがいい例だ。
俺の剣は脚を止めた状態で使う『守りの剣』、そこからのカウンターだからな」

確かにそれは、機動力が持ち味のフェイトの長所には向かないだろう。
士郎とてそれ以外の戦法を教えられないわけではないが、彼が最も得意とするのがそのスタイルである以上、できるなら似た様なタイプの方が好ましい。
そうして士郎は、軽く首を振りながらさらに教えられない理由を説明する。

「バルディッシュは形態が斧と鎌、それに大剣だから俺でも使い方くらいは教えられる。やろうと思えばさらに形態も増やせるだろうからその辺はなんとかなるが、その先は無理だ。
 俺とフェイトじゃスタイルが違いすぎる。俺の得意とする戦術を教えても、フェイトにはあまり意味がない。
 持ち味が違いすぎて、とてもじゃないが参考にならないんだ。
いや、そもそも教えられる事自体が多くないんだよ。俺の剣に技らしい技はない。鶴翼は俺の特性があって意味がある技だしな」

スタイルが違いすぎて参考にならず、『士郎自身の技』のストックが多くない。
士郎の剣で技らしい技は士郎の特性があって初めて意味を為すものがほとんどであり、後は単なる基本技に過ぎず、わざわざ士郎から学ばねばならない類のものではないのだ。
故に、士郎には基礎部分以外の発展的な使い方の指導ができない。
しかし、シグナムはさらに疑問点を問い質す。

「だが、これまでの憑依経験とやらから得た技を教えることくらいはできるのではないか?」
「確かにそれくらいならできる。でも、結局のところそれは手札を増やしてやるだけ過ぎないだろ。
 フェイトが求めているのは、もっと先にある物だと思ってるんだが?」
「……………確かにな。技はもちろん必要だが、そこから先に進めねば意味がない。
 上辺に張り付けただけでは、張り子の虎も同然。修得した技術は高め、研ぎ澄まし、自身の中で昇華してこそ深みが出る。同じ技でも、力量が違えば威力に差が出るのは必然だ。
そして、お前はレパートリーは増やせても、力量そのものを引き上げる事が出来ない」
「そう言う事。よく『浅く広く』って言うが、俺はその典型だよ。
一つ一つの『技(スキル)』は教えられても、一つの纏まった『術(アート)』を指導し高めるには不向きだ。
正直、短期的な話ならともかく、長期的に見ると俺じゃ役者不足と言わざるを得ない」

士郎の持つ技を教えるだけならできるが、純武術的な意味で育成するには彼は不向き過ぎるのだ。
単に小手先の技術を教える事なら士郎にもできる。あるいは、全くの素人に基礎となる土台部分を身につけさせることもできるだろう。しかし、そこから先に士郎に教えられる事はない。

いや、教えられることがないと言うのは言いすぎかもしれない。
だがそれでも、フェイトほどの天賦の持ち主なら、すぐに士郎から教わることなどなくなる。
戦術や単体の技なら学ぶこともあるだろうが、士郎では修得したそれらを高めてやれない。
彼はあくまでも『技術』と言う名の『道具』の扱いが巧いだけで、優れた『技能者』ではないのだから。

言わば、技術的な意味での『深さ』が士郎には決定的に欠けているのだ。
それはつまり、『教え上手』ではあっても『指導者』としての能力には欠けていることの証左でもある。
士郎自身その自覚があるからこそ、フェイトの申し出を断ったのである。

「そっか……」

一応納得が言ったのか、フェイトは非常に残念そうにしながらもそれ以上食い下がりはしない。
基本的に誰にでも優しく頼みごとを断らない士郎が、ここまで明確に拒絶した以上芽がない事は明らか。
『できない頼み事は受けない』というのが一応士郎の方針でもあるし、そういう事なのだろう。
しかし、その代わりに士郎はある案をフェイトに提示した。

「ただ、その代わりと言っては何だが、ちょっと提案がある」
「え?」
「フェイト、御神流を学んでみる気はないか?」
「御神流って……?」
「ちょ、ちょっと士郎君、それ本気!?」
「いたって大真面目だぞ。御神の剣はどちらかと言えばスピード重視だし、フェイトとの相性も悪くない。
 それに、前々から考えてはいたんだ。俺や凛じゃフェイトに本格的な近接戦を教えられないからさ。
 俺達の方でも、恭也さん達にフェイトの近接戦の指導をしてもらおうとは考えていたんだ」

士郎の言葉の通り、フェイトと御神流の相性は決して悪くないだろう。
少なくとも、士郎の剣を学ぶよりかは遥かに意味がある。

また、連綿と受け継がれてきた技術と言うのは、ある程度は『誰にでも伝えられる』融通の良さがある。
長い時間の中で様々な人物に技術を伝えてきたことで、そう言った柔軟性が生じるのだ。
御神流の場合だいぶ使い手を選ぶが、士郎の見立てではフェイトなら十分に使いこなせる。

それに、無理に御神の剣を学ばなくても、恭也達の指導を受けるだけでもいい。
タイプ的に似た面があるからこそ、彼らから学ぶ事は多い筈だ。
士郎から様々な技術を学び、それをフェイト向けに恭也達に昇華させてもらうだけでもいい。
とにかく、教わるのなら士郎より恭也達の方がいいと言うのが、士郎達の出した結論なのだ。

「……………………」
「まあ、急いで結論を出す事じゃない。じっくり考えて、なんなら恭也さん達の練習とかも見てから決めればいいさ。一応、恭也さん達にはもう話は通してあるから、好きな時に頼んでみるといい」

なんともまあ手の早い事で、すでに根回しは済んでいるらしい。
ただ、そう語る士郎の表情には一抹の寂しさがあった。

(できるなら、俺自身の手で育ててやりたかったんだけどな。
誰かに教えるとか、伝えるとかいう事を無視してやってきたツケ…と言う事か、これは)

士郎には元々、誰かに自分が培ってきたものを伝える意思がなかった。
一代限りの、自分だけで完結する儚い剣。それが士郎の認識だった。
これもまた、士郎に指導者としての能力が欠如している原因の一つ。

「……………………………それじゃあ、少しやってみようかな」
「良いのか? もう少し悩んでも良いんだぞ」
「シロウがそこまで言うんだもん、きっと得られるものはあるんだと思う」
「信じてくれるのはありがたいんだが、思考停止されると困る」

フェイトの出した答えに、士郎は思わず渋面でそうこぼす。
実際、フェイトの信頼は一歩間違えると危うい物になりそうなものだ。
士郎としては、フェイトのそういうところが危なっかしく思えるのだろう。
とはいえ、一応フェイトがそう決めたのなら士郎に否はない。

「まあ……と言う事なんで、いいですか、恭也さん?」
「ああ、構わない。ただ、以前も言ったと思うが御神流を教える気はないぞ。
 アレは、フェイトちゃんみたいな子には不要なものだ」
「分かってますよ。俺からすればそうは思えないんですけど、恭也さん達が言うなら異論は挟みません。
 それに、もしかしたら途中で気が変わるかもしれませんしね。俺としては、そちらに期待させてもらいます」
「……好きにすればいい」

士郎のコメントに、それまで少し離れたところで茶を飲んでいた恭也が応じる。
彼としてはフェイトを鍛えるのは一向に構わないのだが、さすがに御神流を教える気はないらしい。
御神の剣は『道』とかそういうものから外れていると言うのが彼らの認識。
実際、その技術は現代的な剣術やフェイト達とは明らかに方向性を異とする、純粋な「殺人の為の技術」なのだから。故に、フェイトの様なタイプには不要だと考えているのだろう。
とそこで、横合いからシグナムが士郎に耳打ちする。

「衛宮」
「どうした?」
「先ほどの稽古を見る限り、彼らの剣はかなり実戦的だな」
「ああ。古流剣術で、戦場意識もかなり強く残ってる流派だしな。
 どちらかと言えば、剣道とかよりも俺達寄りだと思うぞ」

この場合の俺達とは、『魔導師』ではなく『魔術師』の事を指す。
あるいは、実際に戦場で人を殺してきた士郎達自身の事を指しているのかも知れない。
どちらにせよ、それはシグナムが求めているものに限りなく近い筈だ。

「そうか………………確か、恭也だったな」
「はい。なのはがいつもお世話になっているそうですね」
「いや、私などは何もしていない。むしろ、私の方が世話になったくらいだ。
 だが、好意に甘えてもいいのであれば一つ頼みごとをしたい」
「…………」
「初対面の相手にこんな事を頼むのは非常に不躾であると自覚している。
だが非礼を承知で頼みたい、良ければ手合わせ願えないか?」

その言葉に、フェイトやなのはは驚きの表情を浮かべる。
ただし、士郎はなんとなくこういう流れを予想していたのだろう。
顔に手を当て、「あちゃあ」という声が漏れている。
どちらもバトルマニア気質なだけに、二人が出会えばこうなる事は目に見えていたのだ。
結局は遅いか早いか程度の差でしか無かろうが、それでも士郎としては溜め息の一つでもつきたい気分だった。

「それは、俺もかまいません。勘ですが、あなたはきっととても強いのでしょう」
「光栄だな。私の勘でも、あなたはかなり腕が立つようだ。一剣士として、是非とも刃を交えてみたい」
(いや、もうそれ勘じゃなくて確信ですよね?)

二人から醸し出される妙な空気にのまれ、誰もが口をつぐんでいる中、士郎は内心でそうツッコム。
実際問題として、この二人なら相手の大雑把な力量を測るくらいわけはない。
魔法抜きと言う条件で戦えば、それこそシグナムでも不覚をとっても不思議はないのだから。

「では、今からでも……」
「そうですね、道場……では手狭になりそうだ。庭でやりましょうか」
「やめような、シグナム。別にやり合うなとまでは言わないが、いくらなんでも唐突すぎだ。
 大体、今の自分の立場を考えろ。一般人と真剣でやり合うのはさすがに不味い!」
「そうだよ恭ちゃん、確かにシグナムさんは強そうだけど、なんか複雑な事情があるみたいだし!」
「「………………………仕方がない」」

士郎と美由希の必死の説得により、なんとか渋々剣を引っ込める恭也とシグナム。
正直、この二人がやり合えば文字どおりの意味で血戦や死闘になりかねない。
それを理解しているからこそ、二人は必死で止めたのだ。
特にシグナムの場合、保護観察下にある身でもあるしあまり派手な行動は控えるべきである。

「まあ、残念ではありますが、手合わせはまたの機会と言う事で」
「すまんな、折角の機会をこちらの事情で潰してしまった」
「いえ、お気になさらないでください。多分、この先も機会はあるでしょう。
しかし、お前達の周りは飽きなくていいな、士郎」
「ほっといてください。騒がしくしている原因の一つはあなたにあるんですからね」
「そもそもお前がそう言ったものに好かれる体質なんだ、諦めろ」

うなだれる士郎に対し、恭也は実に的を射た意見を投げかける。
それがあまりにも正論な気がして、士郎の背負う影はますます暗く重くなるのだった。
とりあえず、これでシグナムの不満は解消されるのだからいいのだろう。
ただし、確実にその度に流血沙汰になると言う確信を抱く士郎なのだった。
とそこで、恭也にしては珍しい単語が彼の口からこぼれる。

「ところで、話は変わるがフェイトちゃんの事は確かに引き受けた。約束通り、謝礼の方は頼むぞ」
「ええ、もちろんですよ」

どうやら、この件に関してフェイトの指導をする代わりに見返りを貰う手筈になっていたらしい。
そんな事とはつゆ知らなかったフェイトは、大慌てで士郎に問いただす。

「し、シロウ! それ、ホントなの!?」
「ん? ああ、頼みごとをするんだから礼をするのは当然だろ」
「で、でもそれならわたしが自分で払うから……!」
「大丈夫だ、謝礼と言ってもそう大したものじゃない」

慌てるフェイトに対し、士郎はどこまでも冷静に応じる。
謝礼の内容がどんなものかまでは分からないが、フェイトとしては自分の為にそこまで骨を折ってもらうのは申し訳なくてたまらないのだろう。
そこで、謝礼の内容が気になったのかシグナムが問う。

「ところで、なんなのだ、その謝礼と言うのは」
「だから、大したものじゃないって。恭也さんの小太刀にちょっと手を加えるだけだ」
「……………それは、魔術的な物か?」
「ああ、俺達以外に魔術師はいない事もわかったし、相手が恭也さんならそこまで目くじら立てる事でもないしな。俺としても、面白い物を作らせてもらえそうだし悪い話じゃない」
(まあ奴の属性は“剣”だからな。刀剣類に細工を施すくらいはできても不思議はないか……)

そう結論し、一人納得するシグナム。
しかしそれは正しくない。と言うか、そもそも恭也の小太刀事体が士郎の鍛えた業物である。

だが、シグナムはそれを知らない。
故に、士郎が恭也の小太刀に何かしらの細工をすると考えたのだ。
とそこへ美由希が喜色満面の様子で首を突っ込んでくる。

「それならさ、今度は私の小太刀も作ってくれないかな!」
「ダメだ」
「なんで!? 恭ちゃんばっかりずるい!! 私も士郎君が鍛った小太刀が欲しいんだよ!!」
「あのな、身の丈にあった武器と言うものがあるんだ。士郎の剣は確かに業物だが、俺達がそれにふさわしくなければ意味がない。武器に頼っているようでは武器使いとしてはまだまだ未熟だ」
「恭ちゃんは士郎君の小太刀持ってるのに?」
「だからこそ極力使わないようにしている。アレは、まだ俺には荷が重い」
「なのに手を加えてもらうの?」
「別に今すぐというわけじゃない。俺がそれにふさわしい剣士になった時、手を加えてもらおうと思っているだけだ。お前も欲しいのなら、腕を磨いてそれにふさわしい実力を身につけろ」

創る本人である士郎そっちのけで言い争う兄妹。
とはいえ、恭也の言っている事も実にもっともだ。
優れた武器を持てばその分強くなれるだろうが、それは本人が強くなったわけではない。
士郎の創る剣にはそれだけの力があるからこそ、使い手もまたそれにふさわしい力量が求められるのだ。
だが、割と武器の力に頼っていると言えなくもない士郎としては、恭也の言葉は実に耳に痛いのだが。

しかし、シグナムにとってはそれどころではない。
確かに士郎の属性は知っていたし、彼が剣を投影する事を得意とする事も知っている。
だがまさか、実際に刀を鍛つ事が出来るとは思っていなかっただけに、その驚きはただ事ではない。

「お前、そんな事も出来たのか?」
「あれ? 言ってなかったか?」
「聞いていないぞ!!」

小首を傾げる士郎に怒鳴るシグナム。
いつの間にかすっかり置いてけぼりを食ってしまったなのはとフェイトは、自分達そっちのけでヒートアップする二組を茫然と傍観する事しかできていない。
しかし、そんな事全く気にしていないシグナムは士郎にさらに詰め寄る。

「なら、剣の整備もできるな」
「ま、まあ……」
「……………………よし。それなら、お前の鍛えた剣を見せろ」
「いきなりいったい何なんだ?」
「良いから見せろ、話はそれからだ」

士郎の声音は困惑に満ちているが、シグナムの目はやや…いや、かなり据わっている。
宝具を主武装として使う士郎が鍛えた剣、これだけでも期待が高まると言うのに、士郎は大抵の武器から製造工程を読み取ることができる能力を持つ。
その意味するところは、投影以外での宝具の再現だ。さすがにそこまでは士郎でもできないし、シグナムも期待はしていまい。
だがそれでも、鍛冶師としてこれほどチートな能力を持つ士郎が鍛えた剣なのだから、期待するなと言う方が無理な話なのである。

とはいえ、士郎としては何が何やら状況が良くわからない。
ただ、シグナムから放たれる妙な圧力に押され、仕方がなく彼は一振りの剣を投影しシグナムに渡した。

「と、とりあえずこんなところでどうだ?」
「……ふむ」

鞘におさめられた剣を、シグナムはひったくるように受け取り即座に抜き放つ。
そこから現れたのは、陽光を受けまるで濡れているかのようにしっとりとした輝きを放つ、朴訥な西洋剣だった。
それを見て、剣には疎いフェイトやなのはも感嘆のため息をつく。

「「ふわぁ、キレイ……」」
「うぅ、やっぱり良いなぁ……私も欲しいよぉ」
「そんな物欲しそうにするな、意地汚い」
「だってだってぇ、あんな綺麗なんだよぉ!
 頬ずりして一緒にお風呂に入って、抱いて寝て、一日中眺めてたって飽きないよ!!」
「とりあえず、それは明らかに危ない人だな」

割と刀剣マニアな美由希は、口論していた事も忘れてシグナムの持つ剣を食い入るように見つめている。
彼女の本分は剣ではなく刀だが、それでもやはり通じるものがあるのか見つめる瞳は非常に熱心だ。
いや、いっそその熱は病的と言ってもいいかもしれない。
そんな妹に恭也は深いため息をつくが、横目で士郎が最近鍛えたであろう剣を見て『また腕を上げたか』と内心で高揚していたりする。早い話が、似たもの兄妹と言う事だ。

「…………………………見事だな、まさかこれほどとは……」
「まあ、俺は色々反則してるからな。
製造方法って言うのは本来門外不出だが、俺に限ってはそれは意味がないし」
「技術を盗む事の何を恥じる。盗む事も含めてお前の実力だろう。
 なにより、盗んだ技術を活かせないのであれば宝の持ち腐れだが、お前はそれを見事に活かしきっている。
 いや、それどころか更に独自の創意工夫もしているな」
「分かるのか?」
「ああ。と言っても、半ば以上勘だがな。なんとなくそんな気がしたが、やはりか」

それで満足したのか、シグナムは剣を再度鞘に戻して士郎に返す。
後ろからのぞいていた美由希は名残惜しそうにしているが、仕方なく諦めたらしい。
しかしそこで、士郎は更なる爆弾を無意識で放り込む。

「まあ、アレはまだ未完成なんだがな」
「なに!?」
「ちょ、士郎君、本当なの!!」
「だってアレ、すごくキレイだったのに……!」
「別に綺麗だから完成と言うわけでもないだろ。綺麗なだけなら宝石でいい、剣や刀は切れてこそだ。
 もちろん切れ味には自信があるけど、俺が鍛える剣としてならあれはまだ不完全だよ。
 まあ、それを言うと恭也さんに鍛った小太刀もそうなんだが……」

顎に指をやり、思えい返すように呟く士郎。
それに対し、シグナムのまゆがつり上がる。

「お前は、未完成な品を世に放つと言うのか?」
「言わんとする事はわかるつもりだが、さすがにホイホイと魔剣を外に出すわけにもいかないだろ?」
「魔剣? どういう事だ」
「あのな、俺は魔術師であって鍛冶師じゃないんだぞ。俺が鍛えた剣がまっとうなものの筈がないだろ。
 魔術師が鍛える剣って言えば、当然魔剣と相場が決まってる。とはいえ、無闇に世に出すわけにもいかないから、基本的に魔術的な施術をしないでおいているんだがな」

頭をかきながら困ったように士郎は説明し、それを聞きようやくシグナム達も合点がいったのか納得の表情を浮かべる。
その事についてはかつて説明を受けていた恭也や美由希に関しては、特に驚いたりはしない。
ただ、これだけの業物でも未完成であると言う事実だけは、いつまでも慣れないわけだが。

「もしや、先ほど言っていた手を加えると言うのは……」
「ええ、俺がそれにふさわしい使い手になった時は、こいつを完成させてもらう事になってるんです」

そう言って恭也が握るのは、かつて士郎が鍛えた小太刀だ。
魔力を持たない恭也だが、それならそれで小太刀の方に工夫をすればいいだけの話に過ぎない。
実際、士郎としても魔力を持たない人間向けの魔剣と言うテーマは面白いと思っているのだ。

そこで、シグナムは再度口を閉ざして黙考する。
何を考えているのか余人にはよくわからない。
だが、シグナムは唐突に顔をあげ士郎に頭を下げた。

「頼む、衛宮! レヴァンティンを鍛え直してくれ!!」
「は?」

あまりに脈絡のないその頼みに、士郎は間抜けな返事を返す事しかできなかった。






あとがき

さて、A’s編最初の外伝でございます。
何やら中途半端なところで切れていますが、実はこれ次の「外伝その8」に続くのですよ。
今回はあくまでフェイトとシグナムのこの時点での状況なんかに触れ、次回で主に鍛冶師としての士郎の状況に触れる事になりますね。

それと、アームドデバイスの整備に職人が必要、みたいなところは私の独断と偏見です。
個人的にはどこまで言っても繊細な技術で機械が人間に追いつくのは難しいと思いますし、アームドデバイス何てモロに武器としての性能が求められると思うんですよ。
となると、それ専門の技術者などがいても不思議じゃないんじゃないなぁと。
そんな作者自身にもよくわからない迷走の果て、今回のお話が出来上がりましたとさ!

ホントは一話で終わらせるつもりだったんですが、いつの間にか長くなり二話に分ける事になりましたけどね。
まあ、いつもの事いつもの事。私のこの辺は一向に進歩しないのです。
いや、前回「次の次で第二部ラスト」何て言っておいて、思いっきり嘘になってしまったのはホントもうわけない限りです。思わせぶりな事を書いて、誠に申し訳ございませんでした。
出来るなら、今後ともお見捨てなきようお願い申し上げるのみです。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034069776535034