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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第5話「魔法少女との邂逅」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/08 16:59

遠坂凛は、自他ともに認める天才である。

ここ一番でうっかりをやらかす血の呪いこそあるが、いや、それがあるからこそ物事を完璧にこなし、うっかりの入る余地をなくそうと努めてきた。
大半の場合は、それでもなおうっかりをやらかしてしまうわけだが。

いかに「魔法使い」の弟子の家系でもある名門とはいえ、わずか六代目にして魔法のきざはしに手をかけた、彼女の才能を疑う者はいない。
無論、才能だけで至れるほど、魔法とは生易しい領域ではない。

彼女が幸運だったことも事実だ。
弟子の特性があったからこそ、そこへと至る手掛かりを得られた。
だが、その手掛かりを解き明かすためには、才能だけでは足りなかっただろう。

そのまばゆい才能に目を奪われがちだが、そこに辿り着けるだけの、厳しい修練も積んできている。
五大元素複合属性という、奇跡に等しい天賦の才におぼれることなく、さらなる高みを目指して自己を磨きあげてこられたことも、彼女が天才たる所以。
先代たちがヒントさえ掴めていなかった領域に踏み込めたのは、類稀な才覚だけでなく、幸運とたゆまぬ自己研鑽の賜物だ。

その結果、彼女は元いた世界において、若輩の身で「王冠」の階位を得た。これだけでも、十分に異例なことだ。
さらに、その時代最高の魔術師の称号である原色でこそないが、最高位の術者として「緋(カーディナル)」の色名も授かった。
遠坂凛は「魔法使い」の称号を除く、あらゆる名声を手にした稀代の魔術師であったのだ。
また、それらを紙屑同然に捨ててしまえるほどの器の持ち主でもある。


それ程の度量を備えた遠坂凛が、現在珍しいことに頭を抱えてうなっている。

弟子にして、相棒にして、恋人である衛宮士郎の問題行動と、十年にわたり付き合ってきた彼女でも、目の前の光景には頭を抱えるしかないようだ。
むしろ、トラウマのようなものが引き出されて、現実逃避に走ってさえいる。
珍しいどころか、彼女の本性を知るものが見れば、明日は季節外れの雪どころか、槍が降るのかと危惧するはずだ。

だが、この場に衛宮士郎がいれば、凛の奇行と目の前の光景、どちらに驚くかは想像に難くない。
むしろ凛を慰め、その奇行には理解を示すだろう。
彼にとってもそれは、忘れたくても忘れられない出来事なのだから。

要は、何が言いたいかのというと。
いま凛の視線の先には、クラスメイトにして友人であり、監視対象でもある高町なのはがいる。
そして、その姿を見た者は十人中十人が、口を揃えて言うだろう。

「魔法少女!!」と。



第5話「魔法少女との邂逅」



SIDE-凛

時刻は深夜に差し掛かろうとしている。
私は予定通りに、今日も見回りをしている。

しばらく前に、士郎からはパスを通じて連絡が入り、ひと悶着あったがなんとか交渉の席をもうけられたそうだ。
アイツもこの十年で腹芸を身に着け、駆け引きにも長けている。おそらく問題ないだろう。
交渉時に、多少魔術のことを明かすことになるのは仕方ない。
それで友好関係が築けるのなら安いものだ。
本当に重要な、アイツの力の本質や宝石剣のことさえバレなければ、あとはどうにかなる。


これまで深夜の調査をしているうちに、妙な感触の魔力の残滓を感じることはあった。
だが、場所に脈絡がなく、次の発生場所が予測できない。
なかには、昼間に魔力を使用したと思われるところもあった。
下手をすると、秘匿を完全に無視した輩の仕業かもしれない。

なのはを監視すれば何かわかるかもしれない。
しかし、その家族に監視されている以上迂闊なことはできないので、今日も当てもなく深夜の散歩となる。
士郎の方が一段落つけば監視も解けるかもしれないので、それまでは地道に足を使うことにする。


そこへ覚えのある魔力を感じる。
量は見違えるが、あの夜やこれまでの調査で感じたものと同質だ。
秘匿というものを、完全に無視した力の解放。一体何を考えているのか?
正直怒る気にさえならず、呆れてしまう。
そう思って現場に向かう、そこは学校。

「発生源はここだったみたいだけど、残滓はあってももう源はないのかしら。
あちゃあ、逃げられたかなぁ?
 あ、これって!?」
突如魔力が消え、治まったのかとも思うが、すぐに否定する。
消えたのではなく、これは遮断だ。
目の前に結界が張られている。強度、範囲ともにそれなりだが、いかんせん隠密性が低い。

「士郎の張る結界ほどひどくはないけど、丸わかりなことには変わらないわね。
さすがに一般人に気づかれることはないでしょうけど、結界としては二流以下ね」
調べてみるが、これなら破るまでもなく侵入できそうだ。
効果はあくまでも、内部のものを外に漏らさないためのもの。侵入を防ぐことはできない。


  *  *  *  *  * 


そして今に至る。
「……何やってんのよ、あの子」
なのはがここにいるのは別にいい。
彼女が関わっている可能性は高かったし、結界があった以上だれかがいるのはほぼ確実。
だから、それがなのはかもしれないとは思っていた。

だが、あの恰好はいったい何なのか。
別にセンスが悪いわけではないが、その様はまさにまごうことなき魔法少女。
「はぁ、私って魔法少女とかいうのと、前世で何かよっぽど奇妙な縁があったのかしら?」
溜息と共に、そんな感想が思わずもれる。なんだか、頭が痛くなってきた。
というか、なんで学校の制服を改造したみたいな格好なのよ。

あのバカ杖が言うには、お供のマスコットキャラは一流の魔法少女の証らしい。
で、ちゃんと例のフェレットがその役目を担っている。
そのうえ喋って、生意気にもアドバイスしている。
はじめは外見から、野性味あふれる小動物系かと思ったが、どうやらそれ以外の要素も持っているらしい。
時に励まし、時に助言を送る王道的マスコットだ。
やり取りを見る限り、なのはの素養を引き出したのはあれの仕業か。

さらに杖の方も喋っている。
だが、あのバカ杖のような放射能ばりの禍々しさはない。むしろ清澄なくらいだ。
なのはもあれには信頼を置いているようで、いっそ羨ましくさえある。
あのバカ杖になんとか見習わせられないだろうか、と思考が横道にそれたので引っ張り戻す。

「……確かに杖ではあるんだけど、妙に機械的なのよねぇ」
言葉は英語のようで、構造も礼装にしては機械的だ。
私たちの使うものとは、根本的に方向性が違うのかもしれない。
などと、痛い頭をなんとか起動させて考察する。

「で、その魔法少女のお相手が、あれってことか……」
対する例の魔力の源は、なのはを威嚇しているやけに攻撃的なフォルムをした、ウサギのような魔獣。
こんな街中にあんなのがいるなんて、一体どういうことなのだろう?

なのはは多少緊張しているようだが、落ち着いた様子で対峙する。
この様子だと、こういった事態は初めてではないようだ。
とりあえず物陰から様子を見る。
「さあ、お手並み拝見させてもらいましょうか? 白い魔法少女さん」


さっきからなのはは、動き回るばかりでなぜか攻撃しない。
体毛をより合わせたような触手での攻撃を避けながら、足を止めて何かをしようしている。
攻撃が出来ないんだったらそもそも戦わないだろうし、多分別の理由だろう。
もしかしたら、攻撃以外の方法であれを沈める方法があるのかもしれない。
だが、思い通りにさせてもらえるはずもなく、触手は縦横無尽に動き回って、動きを止めたなのはに襲いかかる。

回避行動を取ってこそいるが、あまり上手い動きとは言えない。
行き当たりばったりで、とにかく避けているという印象が強い。
この調子では、運動神経の悪いなのはがいつまでもよけ続けられるはずもない。
だが、当たりそうになる攻撃は、肩のユーノが魔法陣のような障壁で防御している。
おかげで、何とか対抗出来ていると言ったところか。

「見たことのない術式ね。
異世界だから当然かもしれないけど、いくら結界が張ってあるからとはいえ、あんまり派手にやり過ぎるのは問題じゃないかしら? 別に、侵入できないというわけじゃないんだから……」
そうしているうちに、なのはが相手の触手に捕まる。運動神経の切れているあの子では当然の結果だ。
ユーノからのサポートがあったためとはいえ、よくいままでかわせていたと思う。

一瞬ためらうが、結局手を出すことにする。
「しょうがないわね。せっかくの手掛かりだもの、みすみす失うわけにもいかないか。
割と心の贅肉だけど、友人を見捨てるのも後味が悪いし」
溜息をつきながら、羽織っている外套の懐から小箱を取り出す。

そのなかには、一つ一つが異なる宝石をはめ込まれた、五つの指輪が収められていた。
それらを取り出し、右手の五指に指輪をはめていく。
これは、それぞれが五大元素に対応した私の礼装だ。
他の宝石のような一回でなくなるタイプではなく、決められた効果を発揮する魔術品。
これを作ってからは、宝石の消費が減りありがたい。
ただでさえ今は収入がないせいで、ストックが少ない。
魔力を貯めているのもまだそれほどではない以上、この場はこれで凌ぐ。

心臓をナイフで刺すイメージで、魔術回路を起動させる。
同時に、左腕に刻まれた魔術刻印も淡い光を灯す。
これで臨戦態勢が整った。あとは詠唱と共に魔力を運用するだけだ。
「『――――Anfang.(セット) Wind(風よ)』」
遠くの何かに囁きかけるように詠唱する。
それと同時に薬指の宝石に魔力を注ぎ、術式を呼び起こす。
起動した式が風の呪を編み、刃状にして飛ばす。
狙いは触手!
あまり狙い撃ちは得意ではないが、長く伸びた触手のどこかを切れればいいので、大雑把でもいける。

これが終わったら、なのはやユーノから情報を絞り出さなければならない。
有無を言わせないためにも、貸しを作っておかないとね。
魔獣の方はわからないことが多いので、とどめはなのはに任せるのが無難そうだ。

さあ、ひとつ戯れてみましょうか。



Interlude

SIDE-なのは

今日のジュエルシードは、深夜の学校。
わたしの通うのとは別だけど、比較的近くにあるところだ。
こうして封印をするのにも少し慣れてきたけど、今日は勝手が違う。
封印のために、足を止めて集中しようとすると攻撃されてしまい、上手くいかない。
そうしているうちに、ウサギさんの毛で出来た触手に捕まってしまう。

「なのは!」
ユーノ君が叫んでいる。
でも、きつく縛られて抜け出せない。

どうしようと焦っていると……
「『―――――――――――Wind(風よ)』」
……そんな、小さく囁くような声が聞こえた。

すると、わたしを縛る触手が見えないナイフで断ち切られ、自由になる。
声の方を見ようとすると
「よそ見をしない!! 前を向いて、相手を見る。
サポートするから、その間に体勢を整えてとどめを刺しなさい。
あんなのを相手にしようとした以上、対処法は知ってるんでしょ? なら、そっちに集中なさい。
それまでは時間を稼ぐから」
そう叱られてしまいました。
確かに今は封印が先、終わったらちゃんとお礼を言いたいな。
でも、どこかで聞いたような声としゃべり方なんだけど……?

「『Zwei(二番),Brennen Sie(炎の剣), erschießt einen Feind!(撃ち抜け!)』」
いつの間にか出てきていたその子が、聞いたことのない言葉で何かを言っている。
日本語や英語じゃないみたいだし、どこの国の言葉だろう。
結果は、炎が矢のようになってウサギさんを襲う。

それはだめ! あの子は、本当はそんなことがしたいんじゃない。
傷つけるのは可哀そうだ。
「やめて、その子はわざと暴れているんじゃないの……。
 ただそうなってしまっているだけだから、傷つけないで」
そうお願いをすると、呆れたように溜息をついている。
暗くて顔は見えないけど、あからさまに肩をすくめているのはシルエットだけでもわかる。
というか、わざと聞こえるように溜息をついているのではないだろうか。

「はあ、それじゃあ無抵抗にやられるのを待つ気?
 向こうが攻撃してくるんだから、無抵抗でいたらやられるわよ、っと。
『Brennen Sie(劫火よ), verbrennt alle Schmutzigkeit!(不浄を焼き尽くせ!)』」
そういって今度は向かってくる触手を、壁のようにした炎で燃やしてしまう。

あれも魔法なんだろうか?
ユーノ君におしえてもらったのでは、わたしの持ってる魔法のイメージとは少し違うところもあった。
だけど、この子の使う魔法はそのイメージ通りだ。
呪文を唱えて、不思議な現象を起こす。その姿は、まさに魔法使いのよう。

「あれは、ジュエルシードというものが原因なんです!
 それさえ封印できれば、倒す必要はありません」
そうユーノ君が答える。
そう、だから封印さえできれば傷つけなくていいんだ。

暗いせいでよく見えないけど、あの子は話を聞きながら、どうやら左手の人さし指を向けている。
その先から、黒い弾丸みたいなものを撃ち出しているみたい。
左腕の大部分からでる緑色の光で、かろうじて様子がわかる。
それをウサギさんの前に撃ち、動きを抑えている。
わたしよりもずっと動きが洗練されていて、場違いだけどかっこいいと思ってしまう。

「ジュエルシード? まあ、詳しいことは後で聞くわ。
 ならその封印とやらをさっさとやって頂戴。動きはこっちで抑えるから。
『Funf(五番), Ein Fluß wird schwer gefroren!(凍てつけ 冬の川!)』」
そう言うと、今度はウサギさんの足元が凍りついて身動きができなくなる。
たしか相手を拘束する魔法があって、バインドとかケージって言うんだっけ?
でもやっぱり、ユーノ君から聞いたのとは違うみたい。

とにかく、やっと動きが止まったので、大急ぎで封印に入る。
「いくよ、レイジングハート。リリカル、マジカル………」




そうして封印は完了して、さっきの子と顔を合わせて驚く。
「り、凛ちゃん!!?」
そう、わたしを助けてくれたのは、わたしの一番新しいお友達の遠坂凛ちゃんだった。

Interlude out



SIDE-凛

なんとか封印とやらを終えて、今なのはと顔を合わせたところ。
暗いせいで、こっちの顔まではわからなかったようだ。素っ頓狂な声を上げている。
その慌てる顔が面白くて、ついからかいたくなるが、今は我慢。
先に聞かなければならないことがある。

「こんばんは、高町さん。
さてこれはどういうことか、重箱の隅をつついて壊してしまうくらいに、詳し~~~く、教えてもらいましょうか?」
そう言って、一切のごまかしは聞かないという意味を込めて、笑いかける。
対するなのはは、顔が引きつっている。
肩でこちらの様子を見ていたユーノも、地震にでもあったように震えている。


要約すると、ユーノは異世界の住人らしい。
パラレルワールドのようなものかと聞くが、違うらしい。
それは並行世界とは別の次元世界というくくりの中らしく、並行世界のようなIfではなく、完全に別の世界、あるいは別の星を指しているとのこと。
この場合の世界間転移は、通常の空間転移の延長のようだ。

次元世界の司法機関であり、時には警察や軍隊的役割を担う管理局という組織があるそうだ。
そこの規定によると、地球は管理外世界という区分にあり、魔法技術のない世界とされているらしい。

ユーノの説明によると、彼らの使う魔法は魔力を一つのエネルギーとみなした、科学に近い力のようだ。
つまり未来へ向かって疾走するもののようで、私たちの行使する魔術とは真逆の方向性。
それなら秘匿を考えていないのも納得がいく。
みんなが使う技術である以上、秘匿する意味はない。

結構すんなり受け止められるのは、ひとえに士郎のおかげだろう。
昔アイツの土蔵を見た時から、そのデタラメぶりに幾度となく殺意を覚えてきたが、人間は慣れるものらしい。
いつしか、あきらめにも似た心境になった。
そのおかげか、今聞いたこともこれがこの世界の常識ということで、諦観してしまえる。

郷に入っては郷に従え、とは昔の人たちは素晴らしい言葉を残してくれた。
これがこの世界の常識であるのなら、それに受け入れるのが筋なのだろう。
それに合わせるかはこちらの自由だし、水が合わないのに無理に合わせる必要はない。
合わなかったのなら、その時は互いに関わらないようにすればいい。

そんなユーノが、何故ここ地球にいるかというと。
本業は遺跡発掘で、滅んだ世界の調査をする若き考古学者らしい。
だが、ジュエルシードなるものを発見し、それを輸送している最中に事故か何かで紛失。
責任を感じて一人、回収にやってきたのだと言う。

なのはが関わっているのは、一人でやろうと無理をして失敗。
そこで現地の才能のある人間の助力を請おうとして、なのはが引っ掛かったらしい。
まぁこれほどの貯蔵を持つ子だ、資質的には申し分ない。
なのはもやる気らしいので、とりあえず特に問題はないか。
当の本人が自発的にやっている以上、余程のことでない限り外野がとやかく言うことではない。

だが、あの詠唱はどうかと思う。
そもそも、この世界においてリリカルだのマジカルだのいうもので、マトモなものはないのである。
これは実体験からくる確信だ。

ジュエルシードの性能は「願いを叶える」という私にとっては懐かしい響きだった。
ただ、叶え方は妙にずれているらしく、騒動になりやすいらしい。
かなりの魔力を内包しているため、取り扱いには注意が必要とのことなので、ちゃんとした封印のできるなのはに最後は任せるのが得策のようだ。


「あなたは魔導師なんですか? でも初めて見る魔法でしたけど」
今度は、逆に向こうから質問される。

下手な嘘や黙秘は怪しまれるので、当たり障りのない返答をする。
「魔導師じゃなくて魔術師、魔法じゃなくて魔術よ。
そっちがどう判断したかは知らないけど、こっちもそういう技術はあるわよ。
 私はその継承者。
私自身、他所にまだ魔術を伝えている人間がいるかさえ知らないけど、この世界にそういった技術が存在するのは確かよ。
まぁ、こっちのは基本秘匿されているし、使う人間も少ないから外から調べたんじゃわからないのかもね」
嘘は言っていない。他所のことは知らないし、士郎は私の弟子だから除外。
ないとされた技術があることの辻褄を合せる。

「そうなんだぁ。そういえば凛ちゃんに魔力があるって、ユーノ君も言ってたもんね。
そういえば、士郎君にもちょっとだけあるって言ってたっけ。
あれ、じゃあ士郎君も?」
肩の上にいるユーノに視線を向けながら、確認している。
ユーノの方でも、小さな頭を縦にコクコクと動かして同意する。

士郎のことは可能な限り隠したい。
ジュエルシードはロストロギアと呼ばれるもので、管理局はこれの回収・管理もしているとのことなので、後で出張ってくるかもしれない。
私のことは、すでになのはたちは知っているから仕方がないが、士郎のことも知られてしまう可能性が出てくる。
管理局が聞く通りの組織なら、非人道的なことはしそうにないが、用心すべきだ。
あいつは保護指定動物だから、下手に本質がばれると厄介なことになりかねない。

何より、組織というものがどれほど信用できない存在なのかは、前の世界で骨身に沁みて知っている。
魔術協会や聖堂協会から追われるようになると同時に、いろいろな組織から誘いを受けた。
聞こえのいい言葉を使っていたが、利用しようという下心が見え見えだった。
そのせいか、組織というモノに関わること自体に、生理的な拒否感がある。

まぁ、管理局のような秩序を守るための機関が必要なのは否定しないし、組織という存在が何かとメリットが多いのも事実だ。
詳しい活動内容は知らないが、一応人々からの支持を集めている以上、それなりに正当性のある組織なのだろう。
ユーノの話から、真っ当な正義感から所属する人間も多いことがうかがえる。
だが、組織とはそれ自体が独立した生き物だ。構成する人間の考えとは別に、独自の考えを持つ。
それは大義だったり、そもそもその組織が発生した際の目的だったりと色々だ。
問題なのは、その考えの前には個人のことなど容易く切り捨てる事。
どれほど建前が立派でも、その性質は変わらない。

別に、それが間違っていると言うわけではない。むしろ組織としては当然のことだ。
また「普通」の人間なら、まずそんな目に会うことはない。
けれど、私たちは群を抜いて「普通」からかけ離れている。そのため、人一倍その危険にさらされやすい。
特に問題のない情勢ならそんなマネはしないだろうが、危機的な状況ともなればその限りではない。
個人を犠牲にすることで何とかなるのなら、間違いなく利用される。

否定はしないが、そんなのは御免被る。
大義を振りかざして、必要なことだからと実験材料や生贄にされてはたまらない。
絶対に魔術協会のような事はしない、とは誰にも言えないのだ。

色々あって、私たちの基本方針は「個人は信用しても組織は信用するな」が原則。
更に言えば、信頼する相手は徹底的に選別する。
私が全幅の信頼を置いた人間なんて、前の世界では五人に満たないだろう。
士郎は安易に人を信用してしまうところがあるが、さすがに滅多なことでは相手を信頼することはなくなった。
向こうでは、裏切りや利用することを前提に近づいてくる連中がほとんどだったせいだ。そんなことが続けば、必然私たちの人を見る目はシビアになる。

ただでさえ私たちは、組織なんてものとは肌が合わない。真っ先に切り捨てられるタイプだ。
関わるとすれば一員になるのではなく、外部からの協力者が限界だ。それ以上に近づくのは危険すぎる。
まあ、私にとって組織とは身を預けるものでなく、利用するためのものだし。
もし関わることになったら、精々体よく利用して使い潰してやるつもりだ。
こんなだから肌が合わないんだろうなぁ。

それにユーノが他の世界の住人である以上、そこから情報が漏洩しない保証はない。
なのはのことも、その人柄から少しは信頼しているが、重要事項を教えられるほどではない。
うっかり口を滑らせることもあるだろう。そうなれば、物騒な連中が動く可能性も出てくる。
そんな連中には、子どもの口を割る方法などいくらでもある。
ならば、私たちに「教えない」以外の選択肢など元からない。

だからといって、正直に「教えない」なんて言うのは馬鹿のすることだ。
当然、解答にはそれなりに配慮する。
「なのは。アンタだったら自分の家族に、そんなことを教える?」
と、答えにもならない答えをする。
なのはは家族には伏せているので、私もそうなのだとミスリードを誘うのが目的だ。

私の問いに対し、なのはは少し申し訳なさそうな顔をする。
おそらくは、家族に対してのものだろう。
「そっか、そうだよね。あんまり心配とかさせたくないし」
上手く乗ってくれたようだ。
秘匿するものとも言ってあるので、一応納得したらしい。


話は今後のことに移る。
あまり関わりたくないが、放っておくと士郎が関わろうとするのは間違いない。
なら、いっそ懐に入ってしまうか。私のことは、もうなのはたちには知られている。
もし管理局が関与してきても、なのはたちに協力していたという方が印象もいいだろう。
それにこの子は、どこか危なっかしくて放っておけない。

そもそも士郎には、関わるなという方が無理!
この手のことが身近に起こっていたら、間違いなく首を突っ込む奴だ。
だったら完全に外部の者を装って、私たちとは無関係の魔術師ということで、危ない時のフォローを任せよう。
士郎は魔術師ではないと思わせているし、回路を閉じると魔力は感知しにくいらしい。
それでも漏れることはあるが、私のことでさえ魔力が多めの人、という程度の認識だったようだ。
ただでさえ魔力が私ほどの量でない士郎なら、上手く誤解してくれるだろう。

これには他にもメリットがある。
他所に魔術師がいると仮定して、そいつらが関与してくる可能性は低い。
士郎が外部の者を装ってくれれば、他にも魔術師がいるという証言を補強する材料にもなる。
仮に管理局が介入してきても、これで少しは私たちに向けられる目が弱くなるだろう。
「じゃあ、今後は私も協力はするわ。あんなのがごろごろされてちゃ落ち着かないもの。
さっさと終わらせて、平穏な生活に戻りましょ」
一応今後の方針を心の内で決め、それを悟らせないように笑顔で協力する旨を伝える。

だが、なのはとユーノはそれにたいへん驚いている。
「で、でも凛ちゃん! とっても危ないんだよ!!」
自分のことを棚にあげて、そんなことを言うか。士郎みたいなことを言ってくる。

「あのねぇ、アンタがそれ言う? 危ないのはアンタも、お・な・じ!
 それに私はちゃんとものを修めてるから、アンタみたいな素人よりはマシよ」
そういうと黙り込んでしまう。
言っていることは皆事実、自分が素人だという認識もあるのだろう。
先ほどの戦いでも、私が効率よくやっていたのを見ていた。
なら自分が心配できる立場ではないのもわかるはずだ。

「う~ん。それじゃあ……手伝ってくれる?」
控え目に訪ねてくる、私が譲る気がないのはわかっているのだろう。
巻き込んだことに対する罪悪感もあるようだが、秘密を共有する友人の存在が嬉しくもあるようだ。
なんとか抑えようとする顔には、少しだけ笑みのようなものが浮かんでいる。

ここに協力関係が成立した。
向こうは知らないが、幾ばくかの打算と思惑を潜ませて。


  *  *  *  *  *


その後、士郎に事の顛末を話し、互いに今日あったことを交換する。

なのはにはああ言ったが、どうやらこの世界には本当に魔術師はいないらしい。
混血のような人間や、超能力じみた能力の持ち主はいるようだが、それはまた別だ。
少なくとも、こちらから積極的に関わりたい相手ではない。

しかし、同時に納得もする。
以前から感じてはいたが、今回の戦闘で確信したことがある。
それは、私の使っている魔術、一つ一つの性能が向上しているのだ。
今までは周りを警戒して、最低限の魔術の行使で抑えてきたので、気のせいかもしれないと思っていた。
だが、本格的に攻撃呪を編んでみたことで、通常以上の威力が出ていることがわかったのだ。

これは魔術基盤を用いる存在が、この世界では私と士郎の二人しかいないせいだ。
魔術を秘匿するのは、使う者や知る者が増えることで、力が分散することを防ぐため。
元が十しかないものを二人で使えば、当然一人が使える分は半分の五になる。
ところが、この世界で魔術を扱える存在は私たちだけ。
力の源泉を独占してしまっているために、全体的な性能が向上したのだ。

これは、魔術師的には最高の環境と言える。
基盤を完全に独占するなど、元の世界では魔法にでも至らない限りは不可能だった。
だが、ここではそれが当たり前だ。私たちの方から漏らさない限りは、力が分散する恐れはない。
まさか並行世界を渡ることで、これほどの恩恵が得られるとは思わなかった。
本来は身を守るために逃げてきたのだが、怪我の功名というやつだ。

まぁ、実を言うと士郎の場合、それほど影響はないようだ。
アイツの主要魔術は、そのすべてが自身の固有結界からの副産物にすぎない。
UBWを使えるのは、その持ち主であり創造主である士郎だけ。
ならば、元から基盤は独占されているも同然だ。

固有結界という魔術を用いる者は他にいても、自身の心象風景を具現化するという性質上、同じものは二つとない。
そのため、固有結界という括りの中にありながら、それ自体が独立した魔術でもある。
他に使える者がいない以上、力の分散もおこらない。
こちらの世界に来たところで、士郎にとってはあまり変化がないのだろう。


ジュエルシードに関しては、士郎は私の提案を承諾した。
できる限りなのはたちには関わらず、こちらに任せること。
もし関わるのなら、ちゃんと変装することを確約させる。
ま、前者の方はそれほど期待していないけど。

変装は投影で手足をすっぽり隠す格好をし、帽子を目深に被り、サングラスをかけ手袋もはめる。
さらに黒髪のカツラをつけて、個人の特定ができないようにする。
本当はマスクも付けさせたいが、それでは完全に不審者なので妥協する。
士郎は目立つ風貌をしているので、やり過ぎということはない。
白い髪や褐色の肌は、特徴として十分すぎる。外套も今回は投影品だ。
あれは目立つしかさばるので、余計な情報を与えてしまうかもしれない。

設定としては、たまたまこの辺りに魔力を感じて調査にきたということでいく。
本来秘匿すべきものなので、大っぴらになるのは困るから手を貸したことにすれば大丈夫だろう。
私がいるときは、特に発言は控えるように言い含める。
何かのはずみで、普段のやり取りが出てきてしまうのは避けたい。

こうしてとりあえずの形は決まった。

ついでに、月村忍からの土地の管理を委託したい、という申し出は受けることにする。
収入がないと宝石も買えやしないので、これはいい機会だ。

この世界には魔術師がいない可能性が高かったので、いざとなれば、士郎の投影品を足がつかないように売りさばこうかとも思っていた。
いくらばれ難いものとはいえ、危ない橋を渡らなくて安堵する。
ただ、私がそう言うと、士郎の方も心底安心したように息をついていた。

まぁ、多少交流があった方が向こうも安心するだろう。
やはり見えるところにいて、言葉を交わすほうが信用してもらえる。

街の名士でもある、月村家とのコネクションができたのはありがたい。
いろいろ怪しいとこだらけの上に、不便なことも多い私たちとしては、強力なバックがついてくれるのは助かる。
それにせっかくの霊地なので、有効に利用したい。
一番のポイントであるあの家のあたりがよどんでしまうと、こちらにまで影響が出るので困る。

なにやら、すずかからの宣戦布告のようなものを伝えられたが、士郎はいったい何をしたのか。
アイツは意識しないで殺し文句を言うところがあるから、時折よその女を引っ掛けてくる。
あるいは殺し文句とまではいかなくても、無駄に好感度を上げるようなことを言ったんだろう。
おそらくは今回も似たようなことをしたに決まってる。
毎度のことだが、どうしてこいつはいつもこうなのだろう。ホトホト呆れ果てる。

まぁ、これは仕方がないのかもしれない。
アイツに好意を抱く人間というのは、特殊な境遇にいることが多い。
普通人にはあまりモテないが、出自や経歴に特徴のある人間にこそモテる。桜やルヴィアがいい例だ。
士郎から聞いた話だと、すずかもその例に漏れない。

士郎は他人が内に抱えているものを、無理に理解しようとはしない。
理解した気になっているとしたら、それは思い込みだと解っているからだ。
同じ事柄に対しても、受け止め方は人それぞれだし、何より同一人物でもその時々で変わってくる。
そんなものを完全に理解してやれるはずがない。

だからといって、それを気にしなかったり、否定したりもしない。
ただその人が持つ属性の一つとして受け入れ、付き合っていく上で必要な配慮をするために聞くべきところをしっかり聞いてくるのだ。
士郎自身が特殊な境遇にいたせいか、先入観が入ってこない。
そもそもアイツには、そういった観念がない可能性もあるけど。
私に対しても、魔術師だということも含めて一人の女として扱った。
頑なに強くあろうとしていた私に、弱さを表に出すことを教えたのは、ほかならぬ士郎だ。
おかげで、士郎限定だが弱さを出すのに抵抗がなくなってしまった。

すずかが惹かれたのも、士郎のそういうところなのであろうことは理解できる。
やろうと思ってできることではなく、本人も無意識にやっていることだからこそ、惹き付けてしまうのだ。

だが、相手がだれで、理由が何であろうと関係ない。
いつもどおり、返り討ちにしてやればいい。
なにせ士郎は私のものだ。他人に持って行かれるなど、決して許さない。
すずかには悪いが、新しい恋を探してもらうことにしよう。

まぁ、これまでの問題のほとんどが一気に解決に向かったのは良かった。
だが、何で入れ替わりに新しい問題が浮上するのか、心底納得いかない。
私たちは、そういう星のもとに生まれてきたということだろうか?
愚痴を言っても始まらないが、そうでもしないとやっていられない心境だ。

とにかく、この新たに出てきた問題を解決しないことには、私たちの平穏は回復されない。
そういうわけだから、さっさと片付けられるといいのだが。



SIDE-士郎

俺は今、街を散策している。別に暇なわけではない。
凛からジュエルシードなる物の存在を聞き、その捜索のためだ。
凛の感じた魔力はてっきり魔術師か何かの仕業だと思っていたので、深夜に絞って見回りをしていた。
だが、それでは不十分なことがわかった。

「そいつがいつ発動するかわからなら、昼も夜も関係ないもんなぁ」
そんな危険物を放置しておくわけにはいかない。
なのはや凛と違い、俺では魔力をたどって探すことはできない。
よって、こうして足を使い地道に探している。

だが、正直鬱になる。
この広い街で、石ころ一つを探すなど気が遠くなる作業だ。
見つかればめっけもので、ほとんど気休めでしかない。
さらに、偶然見つけても迂闊に手だししないように言われている。
願いをかなえるという性質上、生き物が触媒になる可能性が高く、俺がそうなるかもしれないらしい。

「ところで、俺みたいな願いのやつでも、発動したりするのか?」
俺の望みは、凛との平穏な生活であるから、こいつらが発動しないことが願いでもある。
そういった場合はどうなるのか、興味はある。

また発動したものを下手に攻撃して、致命傷を与えてはシャレにならない。
ジュエルシード自体も、未知の部分が多いのでしかるべき手順で封印するのが無難だからだ。
とすると、俺自身は暇なつもりではないが、実際にできることはほとんどないので、あまり変らないのかもしれない。

発動した時は、凛が念話なるもので位置を聞き、それを俺に伝えることになっている。
「念話か、便利ではありそうだよな。
今度凛に習ってみるか。まったく別の様式らしいし、もしかしたら出来るかもしれないしな」
これは魔導師の技術らしいが、さすがに凛はすぐに身につけたようだ。
凛から魔法の存在を聞いた時「魔術は駄目でも魔法なら」と、つい思ってしまったのは秘密だ。
まぁ、俺はどのみちなのはたちに知られていないので、その情報を直接は聞けない。
まったく、清々しいくらいにできることのない受身状態だ。

一応凛との間でなら、似たようなことはできる。
オーソドックスな魔術に「共感知覚」というものがある。
魔力のパスが繋がった契約者との間で、感覚器の知覚を共有することが可能なものだ。
これの応用で、繋がったパスを通して思念を送ることができる。
俺たちは、これを十年前の聖杯戦争の終盤、ギルガメッシュとの決戦に際しUBWを使うのに必要な魔力を賄うため、凛から魔力供給を受けられるようにこれを繋いでいる。
それはこの体になってからも健在だ。

おかげで、元の世界にいたころから「念話もどき」ならばできていたのだ。
そういえば昔これを繋いだばかりの頃「魔力をもっていったんだから使い魔のようなもので、絶対服従が当然」なんて、とんでもない無茶を言われたっけ。

それと、念話がどうかはわからないが、俺たちの使うそれは基本的に傍受も妨害もできない。
直通回線を設けているようなものなので、まず外部からの割り込みがかけられない。
もし思念がつながらなくなるとすれば、よほど特殊な環境に置かれているか、どちらかがパスを閉じている場合だ。
そのかわり、当然のことだがパスの繋がっていない相手には思念を送ることはできない。
よって、こいつは俺と凛専用の秘匿回線でもあるわけだ。


凛たちは、今日は地元のサッカーチームの観戦に行っている。
なのはのお父さんである、高町士郎さんがオーナーと監督を兼務するチームの応援を頼まれたらしい。
俺も誘われたが、その後は翠屋に行くらしく、恭也さん対策の出来ていない現状での遭遇は避けたい。
それに士郎さんは、俺と恭也さんの戦いのことを知っている可能性がある。
恭也さんたちの師でもある以上、恭也さんのプランに乗り気かもしれないので、この人も危険だ。

「こっちも早く対策を練らないといけないのにな。なんでこう俺は厄介事に好かれるのか。
 凛にうっかりの呪いがある様に、俺には厄介事の呪いでもあるのか?」
かなり本気で心配になる呪いだ。ぜひとも杞憂であってほしい。
桃子さんとの料理談議はとてもためになるので会いたかったが、翠屋に行けないのでそれも当分は無理。
あれ? 俺案外、本当に暇を持て余してるのかもしれない。


そんなことを考えつつ、当てもなくさまよう。
すると、俺でもわかるくらいの魔力の奔流を感知する。
報告は来ないが現場に向かって走る!
すると見えたのは、巨大な樹。
「おわ!? 妙な願いの叶え方をするって言っていたけど、これはどんな願いが発端なんだ?」
あまりに現実離れした光景に圧倒される。
これはもう植物と呼んでいいレベルではない。

ある意味では、噂に聞くアインナッシュの森よりとんでもないかもしれない。
あれほどの人外魔境ではないが、高層ビルより巨大な樹が根を張り、辺りに甚大な被害を出している。
さすがに高さ数十mの樹木など、あの吸血森林にもあるかどうか。
実際に見たことがあるわけでもないし、もしかしたらあるのかもしれない。
しかし活動期間以外は、普通の森に擬態しているらしいし、基本的な姿はそこまで異常ではないと思うのだが。
そのかわり、活動期間中の内部は異常の極みだろうな。

そんなことは、今はどうでもいい。
とにかく、現状の把握を優先すべきだ。
「人的被害が少ないのが救いか……。見たところ、軽傷がせいぜいのようだし。
これだけの大事で、この程度で済むことこそ奇跡だな」
俺は大急ぎで近くの高層ビルの屋上に上がる。
その際に投影で変装するのも忘れない。
樹の成長はすでに止まっているらしく、これ以上被害が拡大することはなさそうだ。

俺の解析は構造を理解するものだが、生物相手にはできない。
相性の問題らしく、無機物なら一応問題ない。
しかし、複雑な構造や巨大なものは直接触れる必要がある。
月村邸では罠が解析に引っかかり、その表面的な構造から種類を特定するという変則を使った。

今回もそれを試す。
樹の解析はできないが、その中にある核となる部分にはジュエルシードがあるはずだ。
それが解析にかかることを期待する。

結果は、発見できたが攻撃できないというもの。
発動したのは人間らしく、攻撃すれば巻き込んでしまう恐れがある。
ジュエルシードだけを狙おうにも、発動の触媒になったであろう少年が、胸に抱えるようにしている。
いくらなんでも、射線上にいられては避けようがない。

ここは、なのはに任せるしかなさそうだ。
『まずいことになったぞ、凛。ジュエルシードが発動した。それも、とんでもなく派手な形で』
魔力供給用のパスを使っての念話もどきで凛に報告し、なのはにつないでもらう。

パスを閉じていたらどうにもならなかったが、打ち合わせどおりちゃんとオープンにしていたようだ。
すぐに返事が返ってくる。
『わかってる、こっちでも確認した!
さっき別れちゃったんだけど、もうなのはが動いてて、封印に向かってるみたい。
アンタはなのはの護衛について。
いまは大人しいけど、封印しようとしたら、何かアクションがあるかもしれない』
それに同意して、早速捜索に移る。

屋上から千里眼で辺りを見渡す。
俺の眼は、4キロ先の人間の顔も識別できるのでこれを利用する。
しかしそれだけでは不十分。こうもビルの乱立しているところでは、どうしても死角ができる。
そこで、あらかじめ用意しておいた低級の使い魔で、その死角を埋める。
俺が使っているのは目立たない3羽の雀。
魔術全般に才能のない俺でも、それなりに使える初歩の術だ。

まぁ雀といっても、外見がそれに近いだけで、厳密には生物ですらない。
材質は鋼で、嘴の部分は針のように鋭く尖り、翼は鋭利な刃物になっている。
俺の属性は「剣」なので、使用する使い魔もそれと相性のいいものの方が、少しは上手く扱える。
凛が翡翠で出来た使い魔を用いるのと同じことだ。
鋭利な翼は、一般的なナイフ程度の切れ味は持っているので、攻撃に使用することもできる。
俺が使うにしては、意外と使い勝手のいい物だ。

この二つを利用して、死角をなくすように探す。
見つけるのにさして時間はかからなかった。
俺がいるビルより少々低い建物の屋上に、人影を発見する。
後ろ姿だが、あれはなのはで間違いなさそうだ。
凛から聞いていた衣装とも一致する。
距離は十分射程内、何が起きてもサポートできる。

(しかし、本当に魔法少女してるなぁ。
あの呪いの杖が凛を洗脳してお披露目したのは、途方もなく痛々しかったのに。
やる人間とその理由だけで、こうも変わるのものなのか?)
聞いていはいたが実物を見ると、また違った感慨が沸く。
つい思考が脱線してしまったので、切り替えることに。今はそれどころではない。

なのはは今まさに巨樹に向けて、行動に出ようとしていた。
もし反撃があった場合に備えて、弓を投影し備える。
これも干将・莫耶同様に体に合わせてサイズを縮めたものだ。
封印作業は滞りなく進み、特にトラブルもなく終わった。
なのはの手際は、あの年で、それも素人であることを考えれば驚異的で、疑う余地のない天才だ。
やっていることがやたらと派手なのは、魔法とやらがそういうものだからだろう。

ただ、終わった後にいつもの元気がなさそうだったのが、少し気になる。
使い魔を介して見た横顔から推察するに、対応が遅かったことに責任を感じているのだろう。
むしろ、突発的事態に対してよくやったと思う。
しかし、俺には声をかけることはできないので、凛にフォローを頼むことにする。

「『投影、消去(トレース・カット)』」
事態は一応終結したので、変装を解き街に降りる。


  *  *  *  *  * 


巨樹は消えたが、怪我人はまだいるので救助に参加する。
今回俺は、特に何もしていないからな。
せめてこれぐらいはやらないと気がすまない。

先ほど見た限りでは軽傷者ばかりだった。
しかしちゃんと探せば、落下物にぶつかったり転んだりして、骨折などをしている人もいる。
道具のない状況で対応しきれない重傷者は、混乱の中やってきた救急車に乗せるのを手伝う。
逆に、その場の応急処置で済む人たちには、もはや手慣れてしまった手当てを施していく。

とにかく目につく怪我人たちの治療をしていると、眼の端にある光景が映る。
それは、一人の女の子が転んで倒れている姿だった。
本来ならもっと優先しなければならない怪我人もいるのだが、どうやら彼女は車イスらしい。
見たところ、今の騒動で一緒に倒れてしまい、車イスが起こせなくて困っているようだ。

急いで駆け寄り、手を差し伸べる。
「大丈夫か? 怪我はしてなさそうだな」
見たところ、怪我らしい怪我もなくて安堵する。
女の子が怪我をするのは、やはりよろしくない。

「あっ、おおきにな」
ショートヘアの女の子が、軟らかい笑顔と関西圏の独特の発音で感謝してくる。
あまり語気の強さがないので、先入観だが京都とかの出身かと考える。

車イスも起こして、その上に座らせる。
「いや、たいしたことはしてないよ。こんなの当然のことだろ?」
そう、この程度は当然だ。
災害や事故現場での救助活動は、人として当たり前のこと。

「そうやね、当然や」
俺の言ったことに同意を示す女の子。
でもその顔は、さっきよりもなお嬉しそうにしている。
どうしたのだろうか?

「? 聞いてもいいかな。なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
「う~ん、特に理由はないんやけど、そやねぇ。
 恥ずかしいんやけど、わたし、あんまり男の子と話したことなくてなぁ。
 それで、ちょう珍しい体験ができたからかなぁ?」
そう言って、女の子は照れたように頬を掻く。
なるほど、普段あまり接しない種類の人との関わりが新鮮なのか。

……そうだな、これも何かの縁か。
「俺は衛宮士郎。君は?」
「え?」
いきなりの自己紹介に驚く女の子。

「いや、これも特に理由はないんだけどな。
 強いて言うなら、お互い名前を知っていたら、この先もしすれ違ったりしたら、相手のことを思い出すかもしれないだろう?
 せっかくの珍しい経験だからな。思い出に残る方がいいと思ってさ」
そう、理由なんてそのぐらいでしかない。

「……確かにそうやな。わたしは八神はやて。平仮名で、はやてや。
 よろしゅうな、士郎君!」
名前を呼ぶときに、少し気合いのようなものを感じた。
お互いに名乗りあったのだから、もしかしたら覚えていて、次の機会があるかもしれない。

「こちらこそよろしくな、はやて。
 どこかですれ違ったときは、声でもかけてくれ。
 じゃあ、俺はほかの人の手伝いに行ってくるから、これでな」
俺はそう言って、あるいはあるかもしれない再会を願って、その場を後にする。
もし次があったら、それはとても素敵なことだと思う。



Interlude

SIDE-はやて

「また声をかけてくれ、かぁ。
 う~ん、残念やなぁ。それやと、士郎君の方から声はかけてくれへんのかなぁ?」
たった今この場を去っていった少年の言葉を反芻して、苦笑する。

普段なら初めて会った男の子の名前を、姓ではなくいきなり名の方で呼ぶことはしない。
彼の言うとおり、いい思い出になるように頑張って名の方を呼んだのだが、帰ってきたのは予想外の言葉だった。

「よし! じゃあ、次に会ったら絶対に声かけて、今度は向こうから声をかけるように言ったろ!!」
そう考えて、この日の出来事を決して忘れないように、胸に刻む。


誓いは固く、この願いは成就し、いずれ再会することになる。

Interlude out



SIDE-凛

昨日のことはすでに、士郎から聞いているが、そんなことはおくびにも出さずになのはの話を聞く。
場所はなのはの部屋、表向きは遊びに来たことにしている。

話の内容は、報告の形をした懺悔に近い。
もっと自分が早く動いていればや、あの時気づいていたのに、など自分の失敗を責め続けている。

たいていの場合、ジュエルシードは発動でもしない限り見つけるのは困難だ。
そのことから、私たちはどうしても後手に回りやすい。
そんな中で、今まで被害らしい被害が出なかったことは僥倖だったが、いつまでもそうはいかない。
ついに来るときがきた、というのが私の感想だ。

「はぁ、あのねぇ反省するのはいいけど、あんまりネガティブになっても仕方ないでしょ?
 気持ちを切り替えて、今回の失敗を活かしなさい」
そう言ってフォローするが、あまり効果はなさそうだ。
どうも他人を慰めるのは得意ではない。
私は結構すっぱり切り替えられる方なので、どうすれば他の人がそうできるのかは、いまいちわからない。
そこで話を変えることにする。

「ユーノ。ちょっと教えてほしいんだけど、魔導師たちはどうやって魔力を生成しているの?
 なにか、そのための器官があると思うのだけど」
この中で唯一、まともな知識のあるユーノに尋ねる。
魔法関連の話なら、なのはも興味をひかれるだろう。

ユーノはなのはの様子を気にしつつも、私の質問に答える。
「……えっと。はい、確かにあります。
 リンカーコアと言って、だいたい心臓のあたりにある器官で、それが魔力の源です」
特定の部位にあるという時点で、魔術回路とは違うようだ。
魔術回路にも核のようなものがあるが、それはいくつかあり、核を結ぶバイパスのようなものが全身に張り巡らされている。
少なくとも一か所に集中しているということはないので、完全に別物とみていい。
それなら魔力を行使するときに、なのはが平然としているのもうなずける。
魔術回路の場合は苦痛を伴うので、素人のなのはが表情一つ変えないのは、不思議だったのだ。

他にも、厳密には魔力を生成する器官ではないと言う。
正確には、大気中の魔力を体内に取り込んで蓄積し、それを外部に放出するための器官であるらしい。
あくまでも一度蓄積しなければならないので、魔術回路のように直接大気中の魔力をくみ上げて、そのまま行使することはできないようだ。
おそらくは、マナ(大源)をオド(小源)に変換しているようなものだろう。
魔術回路を使用すると苦痛を伴うのは、人である肉体がそれを拒むために起こる拒絶反応だ。
リンカーコアで魔力使用する際に苦痛がないのは、拒絶反応がないせいだろう。
魔術回路は独自に魔力を生み出せるが、リンカーコアにはそれができない。
拒絶反応の有無はそこが原因かもしれない。

「ところで、魔術師は違うんですか?」
ユーノからも質問が返される。専門は違えど、学者のはしくれとして興味があるのだろう。
別に、それほど重要なことを聞かれているわけではないので、教えてもいいか。

なら、これは必須だ。
「あの……何でメガネをかけるんですか?」
「その方が気分でるでしょ?
そうね。私たちのは魔術回路って言って、ほぼ全身に張り巡らされてる疑似神経がそうよ。
 これは本数で表現されて、もちろん多い方がより魔力を多く生成できるわ」
毎度お馴染みの、メガネを着用しての説明に入る。やはり、これがあった方がしっくりくる。

フェレットの表情などわからないが、何やら呆れているような声音で納得する。
「はぁ、そうですか。
魔術回路?
それはこの前学校で助けてくれたときに左腕が光ってましたけど、それのことですか?」
よく見ているようで、魔術刻印にも気づいていたようだ。
いや、暗い所で発光しているものがあれば、気づいて当然か。

「それは魔術刻印ね。
形になった魔術で、ある魔術を極めるとそれをカタチに残すことができるようになるの。
それを刻印にして、後継者に譲るわけ。
そうすることで、その術を学ぶことなく行使できるようになる、一種の魔導書ね」
魔導師には技術を伝えることはあっても、術そのものを継がせるということはないらしく、しきりに感心している。
聞いた限り魔力さえあれば、適性の違いで得手不得手はあれど、大抵の術は修得できるものらしい。

そういった誰でも「頑張れば使える」術とは別に、レアスキルと呼ばれる、その人あるいは一部の人しか使えない術もあるらしく、これを持つ人はいろいろと優遇されるらしい。
士郎など、間違いなくこれに該当する。
それに魔術は適性によりできることが大きく異なるので、ある意味私もそうかもしれない。
というか、この世界で宝石魔術が使えるのは私だけのなのだから、十分該当するのかも。

「へぇ、便利ですね。じゃあそれがあれば、すぐにでも魔術が使えるんですね」
「一概にそういうわけでもないけどね。それの使い方がわからなきゃ使えないし。
ただし、譲ることができるのは身内に限ってよ。
血の繋がりのある人との間じゃないと、譲っても刻印が無力化するから。
それに形になっているといっても、それは一つしかないから継承できるのも一人だけ。
魔術が一子相伝なのも、これが理由の一つね」
ピッと人さし指を立てて解説する。
狙いどおりなのはも興味があるのかこちらを見ている。

この程度なら別に知られても問題ない。魔術の具体的内容や私の秘儀にも触れてはいない。


少し気持ちに区切りがついたのか、なのはが質問してくる。
「凛ちゃん、わたしにも魔術って使えないかなぁ?」
まぁそう言うだろうとは思っていた。

予想はしていたので、答えは決まっている。
「聞いてなかった? 魔術は人にぽんぽん教えるようなものじゃないの。
 それにあんたは今、ジュエルシードで手一杯でしょうが。
余計なことをしてる余裕あるの?」
もとより教える気はないが、理詰めで却下する。
なのはは結構強情だ。
一度決めるとごり押ししてくるので、その前に阻むことが必要だ。

「うぅ、確かにそうだけど……」
「だいたいね、魔法と魔術両方とも。なんてのは虫が良すぎるのよ。
方向性が違うって言ったでしょ。
上手くかみ合えばいいけど、そうじゃなかったらかえって扱いづらくなるかもしれないんだから」
そう、魔術は過去に向かって疾走するもの。
なのはの使う魔法は、科学に近く未来へと向かうものである以上、方向は正反対。
上手く組み合わせればかみ合うかもしれないが、そうでなかったら目も当てられない。
最悪どっちつかずになり、両方の足を引っ張ってしまうかもしれない。
まぁ、興味のあるテーマではあるので、いつか試してみたいところだ。

「そもそも、リンカーコアとやらで魔術が使えるかもわからない。
使えない場合は魔術回路が必要だけど、それを持っているかもわからないんじゃ、試しようがないわ。
調べる方法はあるけど、今のところそれにかまけている時間もない。
 手を出すなら新しい魔法にしなさい。それなら使えるのはわかってるんだから」
不明な点や未知のところも多く、これはこれから調べていくことだ。
今はまだ手を出すべき段階ではない。
ついでにもっと精進して、今ある技術を発展させるように言う。
これはいずれ必要になるかもしれないからだ。


  *  *  *  *  * 


なのはは今、切れてしまったお菓子と紅茶を取りに行っている。
この家のお茶は、経営している喫茶店で出しているものと遜色なく、私の舌をうならせるほどだ。
当然ではあるが、近所の店ではここで出している茶葉は購入できない。
お金は払うので、また茶葉を分けてもらいたいところだ。
その場合、士郎は翠屋に近づきたくないらしいので、私から頼むことになる。

思考がそれた。なのはが席を外しているうちに、ユーノに聞きたいことがあったのだ。
「ユーノ。アンタこの件が片付いたら、ここを出ていくのよね?」
これは質問ではなく確認。
悪く言えば、彼は異物だ。
本来魔法という技術のない世界に、それを持ち込んだ招かれざる者なのだから。

「はい、そうなります。管理外世界に無断で来訪すること自体、犯罪というほどでもないけれど、褒められたものではないですから」
まぁ当然だ。
世界を管理するなんて大仰なことをしている連中がいる以上、秩序はきっちり保たねばならない。
本来ないものを、持ち込んだりすれば秩序が乱れる。

「そう。そうなったらなのはのことはどうするの?
 きれいに別れて、今回のことはちょっと変わった思い出にしてもらう?」
意地悪く聞くと、ユーノがうつむく。
正直、意気消沈してうつむくフェレットというのは妙な光景だ。

それと女の勘だが、こいつはなのはに気でもあるのだろうか。
フェレットと人間の恋など、どうやって成立させるのか見当もつかない。

「そのつもりです。
ただ、もちろんお礼はするつもりです。
僕にできることなんて「レイジングハートをわたすくらい?」……ええ、そうです」
やはり予想通りのようだ。彼はまじめで責任感が強い。
なのは自身の意志でもあるとはいえ、巻き込んだのは彼だ。当然、罪悪感もあったのだろう。

そして、そんなユーノにできるお礼は一つだけ。
それが、魔導師の杖「レイジングハート」を感謝の気持ちとしてわたすことだ。

ま、とりあえず期待通りの答えがきけたいし、これで良しと言ったところかな。
「ふぅ。……そう、安心したわ。そうじゃなかったらどうしようかと思ったもの」
これで一安心と、安堵のため息をつく。

ユーノは、何故私がそんな反応をするのかわからないのか、首をかしげながら聞いてくる。
「なんで安心なんですか?
 今までのあなたを見ていると、むしろ逆に渡さずに帰るように言うと思ったんですけど」
普通に考えればそうだが、ちょっと事情が異なる。

ここはこいつにも協力してほしいところだし、ちゃんと説明した方がいいか。
「本当はそうして欲しいんだけど、そうもいかないのよ。
 なのはは間違いなく天才よ。それも天賦の才なんて域に収まらないほどの。
あれほどの才能だと、逆に力がないのは危ないのよ。
 知ってる?魔性は魔性を招き寄せる。あれだけ突出していると、もう才能ではなく呪いの領域よ。
眠ったままだったならまだしも、もうなのはの才能は目覚めている。
そうすると、余計なものを呼び込んでしまう可能性がある。今回みたいにね」
そう、なのはにこれほどの才能がなければ、今頃はかつてと同じ日常を謳歌していたはずだ。
それが並外れた才能で、魔法なんてものを引っかけた。
これでユーノと別れ、私も魔術師ではなくただの友人として接するようになったとしても、またどこで魔法と関わるかわからない。

それがユーノのような相手ならいい。だが、そうでなかったら。
もし命にかかわる出来事や、相手に遭遇するとしたら、身を守る術が、運命に抗うための力が必要になる。
私や士郎がいつまでも守る、というわけにはいかないのだから。

「だからなのはには、魔法をちゃんと身につけておいてほしいのよ。
 あの子の性格なら悪用はしないだろうし、本人も結構乗り気だしね。
 それに未来の可能性が広がるのは、そう悪いことじゃないわ。それに縛られるかは、あの子次第だけどね」
そう、結局最後に自分のあり方を決めるのは自分自身だ。
その結果、才能に縛られ不幸になっても、冷たいようだが、それは本人の責任でしかない。

「……そうですか。
じゃあ僕の役目は、別れの時がくるまでに、なのはに魔法を正しく身につけてもらうことなんですね」
話が早くて助かる。なのはがこれから何かあったときに、自分の力で前に進めるようにしなければならない。
心の贅肉も甚だしいが、やるからには徹底的にが私の流儀。
もう関わってしまったからには、ちゃんと面倒見てやらないと、遠坂凛の名折れだ。


そうしてなのはのいないところで、「その後」のことを取り決める。
この予測が見事的中することになるのだが、それはまた別の話。






あとがき

やっぱり、何だか詰め込み過ぎな気がします。
もう少し一つ一つの部分に厚みを持たせられるといいのですが、これが今の筆者の限界です。勘弁してください。


早速ですが、とりあえず凛の礼装に関する説明をしたいと思います。
主な礼装は、五種類を考えてあります。作中に出た五つで一組の指輪、Fate本編にも出てくるアゾット剣、魔力を貯めている使い捨ての宝石、虎の子の宝石剣です。他にも一つあるのですが、それはそのうちに出そうと思います。
ただし、現在の状態だと使い捨ての宝石は、まだ時間もそれほどたっていないのであまり多くは貯められていません。威力が低く、当分は派手なことはできないでしょう。
アゾット剣の方は、言峰から貰ったものはもう使ってしまったことにしているので、別の新しいものになります。こちらも、まだそれほど強力なものではありません。
魔術とはお金と時間がかかるのです。

ここからは指輪の説明をしようと思います。
作中にもあるとおり、五大元素に対応している五つの宝石を用いた指輪です。指輪型なのは、やはり武装というのはそれなりに携帯に便利でないと、使い難いだろうと考えたからです。
属性に関しては、地水火風までは割と分かりやすいのですが、最後の空がいまいちわからないので独自設定になります。一応は純粋魔力を運用する属性で、使い方としてはなのはたちの通常の魔力弾に近いものを想像して下されば、よろしいかと思います。
他にも独自設定はあり、例えば地属性だと質量操作や重力関係の魔術も使え、風属性は雷の類も操作可能で、水属性の場合は氷なども操れることにしています。
一応それぞれに番号がふられています。親指が一で属性は地。人さし指が二で属性は火。中指が三で属性は空。薬指が四で属性は風。最後に小指が五で属性は水になります。
ちなみにこの礼装は、ガチの殴り合いもできます。敵を殴る度に、燃やしたり、凍らせたり、電撃で痺れさせたり、風で切ったりします。これはこれで物騒な礼装です。

他の魔術品としては、遠坂邸にあった宝箱を参考にして作ったトランクがあります。
礼装は魔術行使をサポートする武装、というのが定義らしいので、これはそれとは別の魔術品として考えています。なので、五つの礼装とは別物だということを明確にしておきます。
イメージ的には、青子さんが志貴に会った時に持っていたトランクが近いと思います。
これはこちらに来る際に、いろいろと荷物を入れていた入れ物の一つです。宝箱の方は遠坂邸に置いてきてます。あれは重いし嵩張るので、持ち運びには不便でしょうから。
ライフラインが確保できるまでは、半ば冷蔵庫扱いをされていました。あの宝箱の中が、外部と時間の流れが違うという性質を利用したもので、下手な冷蔵庫よりも保存性能が高いからです。たしかhollowでは、中で一時間が経つと、外では一日が経過していたはずです。一月放置しても、中では三十時間程度しかたっていないのですから、素晴らしい保存性能でしょう。そのうえ、入れれば入れるほどに内容量は上がるので、食品ぐらいならいくらでも入れられますね。
欠点は、入れるモノと保存の仕方によっては、中が非常に生臭くなることです。生肉や魚介類・野菜の匂いのするカレイドステッキってどうでしょう。魚臭いステッキを持った魔法少女、なんか嫌です。

主だったところは、こんなところでしょうか。以降、作中でも補足していこうと考えています。


凛の位階や色名には特に意味はないのですが、宝石剣を作ったのならそれくらいにはなっているだろうと思ってのものです。少なくとも凛ならば「王冠」くらいにはなれるでしょうし、橙子さんも若くして色名を授かっているので、これらを得ることもなくはないはずです。
なぜ「緋」なのかというと、「魔法使い」の青子さんが原色なので、そこを基準にし「魔法使い手前」ということで、原色に近い色を選びました。「緋」は「濃く明るい赤色」で、近いけど違うモノ、という意味で考えています。


今回、少々フライングしてはやてを出しましたが、特別な意図はありません。
強いてあげるなら、このまま巨樹の件を終わらせてしまうのも、少し淡泊過ぎる気がしたからです。まぁ他には、A’sへの足掛かりになればいいなと思ったからですね。フラグの方もどうしようか検討中で、あるいは惚れるのではなく、親友(悪友)になる可能性もあります。むしろ、こちらの方が高いくらいですね。
早い話が特に決めていません。もう少し時間をかけて考えようと思います。


結界に関しての説明もしようと思います。
魔法の方は強度や範囲には優れているのですが、作中にもある様に結界に長けるユーノでさえ、それほど隠密性は高くありません。鋭い一般人なら、違和感に気づくこともあるくらいです。つまり、その道の人(魔術師)には丸わかりということです。ただこの世界には凛たち以外には魔術師がいないので、それでも特に問題はないんですけどね。
魔術の方は、本来なら強度・範囲ともに魔法には及ばないのですが、時間をかけて入念な準備のもと行えば、十分追い越せます。隠密性に関しては凛の結界を基準にすると、補助に長けるユーノやシャマルが集中すれば気づけるというレベルで、特に意識していないとまずわかりません。

同じ様な術でも「汎用性と即効性に秀でる魔法」と「隠密性に長け、入念な準備の上ならば魔法以上の効果も期待できる魔術」という関係でいいと思います。礼装なども、ある意味では入念な準備をした成果なので、この括りで大丈夫なはずです。



質問への返信をさせていただきます。

kkk様。正式なルールではそうなのですが、まだ小学生なこともありますし、そこまで厳しくルールに縛られていないことになっています。私自身このルールを知ったのは、「ネギま」を読んでからだったので、学校の体育のレベルなら、それほど気にしなくていいと考えました。

アナゴ様。できればとらハの話も書ければいいのですが、あくまでもメインは「なのは」なこともありますし、申し訳ございませんがその予定はありません。私自身、あまりとらハの設定やキャラクターを把握しきれていないので、書いても中途半端なものになり、ご期待に添えることができそうにないのも理由です。夜の一族を出したのも、4話の騒動や繋がりを作るために持ってきたのが目的なので、あまり重視していません。
訪問の口実に関しては、そのうちでてきます。ですが、それほど詳しくやる予定はありません。
ノエルの自動人形の設定に関しては、ファリンのこともあって非常に困りました。いくらなんでもファリンが(あのドジさで)自動人形なはずはないですし、姉妹関係らしいので二人とも人間ということにしています。上記のように、設定等を把握しきれていないというのも理由です。
ついでに、月村邸やさざなみ寮が地脈のポイントとしていますが、冬木にあてはめるなら、月村邸は柳洞寺、さざなみ寮は言峰教会、士郎たちの家が遠坂邸のような位置づけです(いろいろな意味で)。


次回はフェイトとの遭遇です。
フェイトは特に好きなので、上手く書けるといいんですが、試行錯誤の連続です。
ご期待に添えるよう頑張っていきますので、今後とも宜しくお願いします。

ご意見・感想だけでなく、ご要望もお気軽に寄せてください。
どの程度こたえられるかはわかりませんが、参考にさせていただきたいのでお待ちしております。
それでは、失礼いたします。



あとがき パート2

前回まではなかったドイツ語の詠唱を加筆しました。
るしふぁー様から教えていただいた無料翻訳サイトのおかげで、ドイツ語詠唱も表記できるようになりました。
二度目になりますが、重ねて御礼申し上げます。
用法や意訳の入れ方がこれで合っているのかなど、まだまだ不安は尽きませんが、一応はこの形で進めていきます。
何かおかしな所がありましたら、是非お教えください。

他にも、巨樹の事件時における士郎と凛の会話が描写不足というご感想をいただき、手を加えました。
今後士郎と凛の間で交わされる『』内の会話は、特別な描写がない限りはパスを利用しての「念話もどき」とお考えください。
『』を使う時は、複数人同時の発言の場合か、魔術の詠唱や念話もどき、及びなのはたちの使う「念話」になります。
わかりにくい文章になってしまい、ご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。

皆様の感想やご指摘によって、少しずつましになっていると思いますので、これからもお願いいたします。


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