<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4610] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/23 00:27

それは、当人達にとっては極々当たり前になったある日。
今日も今日とてフェイト・テスタロッサと高町なのはの二人は、ちょっと普通じゃない訓練に明け暮れていた。

現在二人は、遠坂邸の庭に置かれた秀麗な装飾の為されたテーブルの前で、何やら細かい作業に没頭している。
その幼い顔には玉の汗が浮かび、表情は真剣そのもの。
…………というより、どこか焦りと恐怖が宿っている。
最早その表情は、追い詰められた小動物のそれに近いかもしれない。
まあ、扱っている物が扱っている物なので、二人の様子も無理はないのだが。

そして、そんな二人から少し離れたところで、士郎と凛は二人の手元の様子を観察する。
やがて二人が何らかのアクションを起こそうとした瞬間、フェイトとなのははそろって声を上げて天を仰ぐ。

「「お、終わった~~!!」」
「ん、合格。ギリギリだけどなんとか間に合ったわね」

そんな二人に対し、凛は一応は満足そうに二人の手元になる何かを回収しつつ微笑む。
二人はそんな凛を見て「あ~やっと終わった」とばかりに、喜色に満ちた表情を浮かべた。
しかし、現実はそんなに甘くない。凛の傍らに立つ士郎は、二人に休む間を与えずに声と何かを投げかける。

「だな。じゃあ次だ」

凛の言葉に同意しつつ、士郎は無造作な動作で二人に向けて新たに歪な直方体の何かを放り投げる。
二人はつい反射的にそれを受け取り、握ったものを見て蒼白になる。
だがフリーズしていた時間は一瞬、手の内にある物を正しく認識したフェイトは大慌てで抗議した。

「え!? ちょ、シロウ!! 少し休ませ……」
「ほらほら、早くしないと時間切れになるわよ」

フェイトの抗議の声を払いのけ、凛は「急げ急げ」とばかりに手を振る。
こうなったら何を言っても無駄と思い知っている二人は、涙目になりながら再度テーブルに向かう。

その様子を、やや離れたところにあるテラスから見つめる幾組かの視線。
年齢は様々なれど、そこに込められた感情は等しく「呆れ」だった。

「また無茶な事をやらせてるわね、凛達は」
「全くだよ。つーか、どこから持ち込んだんだい、アレ。
 まさか………また密輸したんじゃないだろうね?」
「あの……実はあれ、ほとんど士郎君の手製らしいよ。
 いくつかはお姉ちゃんや士郎さんの昔のコネを使って密輸してるみたいだけど、それだと高いらしいんだ。
でも、材料を手に入れるだけなら日本でもそんなに難しくなくて安いからって……」
「「ああ、そんなことまでできるんだ、アイツ……」」

呆れるアリサ、疑問を口にするアルフ、それに対する答えを申し訳なさそうに告げるすずか。
それぞれ用意された紅茶やクッキーを口に運びつつ、本心では凛や士郎の無茶っぷりにドン引きしていた。
まあ、如何に屋敷には認識疎外の結界が張られていて、中で何が起こっても滅多なことでは外にばれないとはいえ、やらせている内容が内容だ。普通に考えて、こんな住宅地で子どもにやらせることではない。

とはいえ、この面々の中ではむしろ良識派の方が少数派だ。
必然、この程度は当然的な思考の持ち主たちの感想はまた異なる。

「まあ、確かによくやるわな、なのは達もよ。飽きもしねぇで何回も何回も」
「しかし、テスタロッサ達もだいぶ慣れてきたな。
はじめのころは、いちいち動転して時間切れだったというのに」
「人間、やはり習うより慣れろという事だろうな。何事も慣れだ、慣れてしまえば大抵の事はどうにかなる」

ヴィータやシグナム、それにザフィーラは当初に比べれば目覚ましい進歩を遂げたであろう二人をそう評す。
だが本人達が聞けば、きっと涙を浮かべながら大きな声で抗議した筈だ。
もしこれが魔法に関する訓練であれば、二人はそれほど苦労はしなかっただろう。
しかし如何せん、今まで触れた事もない分野だっただけにはじめのうちはかなり苦労した。
それを根性論的な「慣れ」の問題にされてはたまったものではない。

その事が容易に想像できるアリサなどは、どこか憐れみにも似た感情が湧いてくる。
だがその感情も、すぐ近くでボケた事をのたまう二人の女性の声で吹き飛んだ。

「うふふふ、二人とも元気ねぇ~」
「ですよねぇ……二人ともすっかり解体が上手になりました。
上手になるとますます楽しくなるんでしょうねぇ、ああいうのって」

恐らく、というか確実にアイリの発言は世間的に大いにズレている。
当然、さっきまで憐れみの感情を抱いていたアリサ達は、その感情すら忘れ去り一様に頭を抱えた。
無理もない、今二人がやっている事を「元気」とか「楽しくなる」とかそういう括りで考える事は明らかに間違っている。
とはいえ、皆もアイリの発言に突っ込む気力もなく、盛大に溜息を突く。
だが、そのズレた発言に対しすかさず突っ込む少女が一名。

「ああもうアイリもシャマルも……どこの世界に『爆弾』で遊ぶ子どもがおるんや!!」
「? でも、火薬の量は減らしてあるんだから、花火みたいなものだって二人は言ってたけど?」
「やですねぇ、あんなの破裂しなければただの鉄屑ですよ、はやてちゃん」
「あの二人の常識は戦場の常識で、世間一般では非常識やからな。
それに、破裂しようがしまいが危険物であることには変わらへんで、念のため」

はやての言い分は間違っていない、というよりも大いに正しい。
にもかかわらず、どこか抜けたところのある二人は頭に疑問符を浮かべるのみ。
それどころか、他の守護騎士達にしたところで「え? 何言ってるの?」みたいな顔をしている始末。

そんな家族に対し、いよいよもってはやては頭を抱える。
一応とはいえ平和な日本で暮らしてきた彼女だ。守護騎士や士郎達のそういう「戦場意識」はまだ理解できない。
彼女としては、家族達のそのあまりにズレた思考に頭痛をおぼえずにはいられないのだろう。
だがしかし、実のところ似た様な思考回路を持った人間が、彼女たちの周りには結構いる。
それに心当たりのあるアリサやすずかは、眉間に皺を寄せながらその人物達の事を思い出す。

「そういえばいつだったか……士郎さんに『下から槍で突かれるから、畳の縁は踏まない方がいい』って言われた事があったわね。あの時は『どこの危険地帯よ』って思ったもんだけど……」
「うん。わたしも恭也さんに注意された事があるよ。
それに思い出して見ると、なのはちゃんも“絶対”に踏まないよね。
それにペンとかみんな材質が鉄だから、カバンも妙に重いし……」
「結局、なのは……いえ、高町家はそういう種類の人間ってことか」

友人のそんな一面に、思わず親友たちはがっくり肩を落とす。
本人は気付いていないが、あれでなのはの危機管理及び回避能力は高い。
凛達の指導もあるが、それ以上に高町家で兄達を見ながら自然と培われたものが大きい。

たとえば、高町家は全室鍵及びチェーン付きで、その全てが常時ロックされている。
ついでに言えば、扉にはのぞき窓まであるし、その扉自体鉄板が挟んである始末。
つまり、誰かが部屋に押し入ろうとしてもそう簡単には入れず、訪ねてきた相手を扉を閉じたまま確認できるという事。もちろん、なのはにはカギを必ず占め、誰かが来た時にはのぞき窓から確認する習慣が身に付いている。
しかも、本人は友人達に指摘されるまでそれが一般的でないとは知らず、指摘された時は大いに驚いていた。
だが、そんな生活を送っているのは当然なのはだけではない。

「? それは何かおかしなことなのか? この家も全ての壁に鉄板が挟んであるし、全室鍵付きだ。
それに士郎も凛も、ベッドの下に布団を敷いて眠っているぞ。もちろん私もだが」
「当然、ベッドの底には鉄板が敷いてあるのだろうな?」
「まったく、何を言っているのだ将。その程度は当たり前だろう。
 この家では滅多にないだろうが、暗殺者が来たらどうするのだ」
「同感だ」

と、アルテミスの言葉に一切の迷いなく頷くシグナム。
そんな会話を聞きつつ、つい「なんで暗殺者が来るの!?」と心中で突っ込まずにはいられない良識人達。

だが実のところ、士郎達や守護騎士達には暗殺される心当たりは売るほどある。
故に、彼らの認識は決して間違ってはいないのだが、この辺りは平和な国で生きてきた者たちとの認識の違いだ。
如何に自身の過去や経験を教え聞かせてきたところで、一朝一夕で認識を共有できるはずもなし。

その上、士郎達は過去の因縁を全て置き去りにしてきた状態なので、少々説得力にも欠ける。
これでは、良識人達に理解を求めるのはより一層難しい。
しかしそこで、それまで何やら思案していたザフィーラが口を開く。

「…………ふむ、この際だ、いっそ衛宮に協力を求めるか」
「なにをだ?」
「ああ、あたしらの家はさ、はやての体の事を考えて『ばりあふりー』ってのには気を使ってるんだけどよ、そういう侵入者対策がからっきしでさ」
「そういえばそうだったな。しかし、やはり不用心と言わざるを得ん。よくそれで眠れたな、お前達は」
「うむ、はじめはなかなかに苦労した」
「本音を言えば設備くらいは整えたいのだが、如何せん先立つものがなくてはな……」
「仕方ないので、お金が貯まるまでは私達が交代で夜の見回りをしてるんですよ。
 でも、士郎君に手伝ってもらえれば、格安で何とかなるかなって」
「なるほどな、日曜大工は士郎の得意分野だ、頼めば二つ返事だろう。私からも口添えしよう」
「言っておきますけどね、アルテミス。
あなた方が考えている事は、“断じて”日曜大工なんて領域の話じゃありませんから」

大真面目な様子でとんでもない事を相談する守護騎士達と、最近になってようやく自由に出歩けるようになったアルテミス。
そんな面々に対し、数少ない良識派の一人リニスが苦言を呈する。
彼女とてそれなりにハードな人生(猫生?)を送っているのだが、如何せんキャリアと質が違う。
ハードとは言っても、リニスの生きてきた場所は比較的に平穏な日常の中だ。
寝込みを襲われる可能性など、本来彼女は想定していない。
この辺りが、双方の認識の違いの根源だ。
とそこで、そこに関してはもうあきらめの境地に達しているはやては優しくリニスを諭す。

「無理ですって、リニスさん」
「はやてさん?」
「シグナム達のあれは、もうどうにもならへん。たぶん、一生付き合ってく位の覚悟でないと」
「そういうものなんですね」
「そういうものなんです」

お互いに手をがっちり握りあい、深くため息をついてうなだれる二人。
これもまた戦争の犠牲者なのだろうかと、かなり真剣に悩んでいる。
そんな二人に対し、他の良識派たちは「わたし達はまだマシだったのか」と同情のまなざしを向けていた。

そうこうしているうちに、なのは達の方も一段落ついたらしい。
二人は再度、盛大に喝采を上げた。

「「今度こそ…………終わった――――――――――!!」
「よしよし、じゃあ次ね」
「って、まだやらせるの!?」

休む間も与えてくれない凛に抗議の声を上げるなのは。
だが、そんなもの凛が斟酌する筈もなし。
凛は差もそれが当然であるかのように、なのは達にピンを抜いた手榴弾を放る。

とはいえ、なのは達とてこれまでで凛達の手口は学習済みだ。
当然、それ相応の対処はできるようになっている。

「なのは!!」
「うん!!」

そう互いに視線を交わし合い、凛から放り投げられた手榴弾を投げ返すなのはとフェイト。
確かに、これはもう相当に慣れたものだ。
爆発する前に投げ返す、単純にして最も効果的な対処法を即座に実行できる。
ピンが抜かれてから爆発までにそう間のない手榴弾には、おそらくこれが最善の対処法の一つだろう。

そうして投げ返された手榴弾は庭先に転がり、そこでちょっとした爆発を起こした。
それを確認した士郎と凛は、素直に感心した様子で二人をほめる。

「お―――、やるな」
「ん、これなら一応及第点をあげてもいいかな。
実際、解体の方もだいぶスムーズになってきたし、そろそろ頃合いだと思うんだけど?」
「そうだな。欲を言えば俺達に投げ返すくらいの気概がほしいところだが、そろそろか」
「え、それじゃあ!?」
「やった―――――――――――!!」

士郎の言葉を聞き、二人は目に涙を浮かべて抱き合いながら喜びを分かち合う。
なにしろ、二人が訓練に関してなのは達をほめる事などめったにない。
ならば、ほめられ慣れていない二人としては喜びもひとしおだ。

その上ここ数日、通常の訓練と並行してひたすら解体訓練ばかりさせられていた。
いい加減うんざりしてくるし、なによりいつ爆発するか気が気でない。
この数日の間に二人にたまったストレスは、それはもうただならぬものだった。
如何に火薬の量を調節してあるとはいえ、怖いものは怖いのである。

これだけそろえば、それは歓声の一つくらい上げたくなるだろう。
だが、そんな二人のストレスにまみれた生活はまだまだ続く。

「じゃあ、明日からは本格的な爆発物解体の授業ね。これまでは割とシンプルな物しかやってなかったけど、次からはダミーのコードとか入れて複雑にするから気をつけなさい。間違ったのを切ると爆発するから。
 というわけで、ここからは全面的に士郎にまかせた」
「了解だ、凛にそういったものは期待してない」
「別にいいでしょ、要は爆発を防げればいいのよ。詳しい工学とかの知識なんていらないんだから。
 そういうのは、教える側が持っていればいいの」
「俺だって詳しいわけじゃないんだがな。
結局、今までの積み重ねから来る経験則だし、専門家にはかなわないぞ」
「よく言うわ、高層ビルの発破解体だってできるくらいの知識があるくせに」

などというやり取りを交わす二人。
二人の間にある空気は普段のそれと変わらないのだが、内容が物騒極まりない。
そして、その物騒極まりない内容の授業を受ける側は当然たまったものではないわけで……。

「っていうか!?」
「まだやるの!?」
「当たり前だろ。次元世界は質量兵器は原則禁止だが、それを破ってこその犯罪者だろうが。
 爆弾なんて連中の常套手段だし、魔法を封じられたりした場合を考えればあって困る知識と技術じゃない」
「そ、それは……そうだけど」
「うぅ、鉄砲の授業から解放されたと思えば、今は爆弾。全然魔法関係ないの……」

苦い記憶がよみがえったのか、二人はそろってめそめそと袖を濡らす。
ちなみに、これより数週間前までは、士郎達による「銃の基本的構造とその解体方法、及び対処法」という名の特別集中講義を受講させられていた。もちろん、講義で使われたのは正真正銘の密輸した実銃だ。
さらに言えば、魔法障壁越しとはいえ一度ならず二人は士郎に撃たれていたりするし、撃った事もある。

何しろ対銃技術など、彼女らの進路を考えれば基礎中の基礎。
そのためには、まず銃というものを知らねばならない。
なら当然、実際に撃って撃たれてみる以上の訓練はあるまい。
という考えの下、士郎達はだいぶ無茶な訓練を課し、なのはたちにちょっとしたトラウマを植え付けている。

ちなみに、銃器や手榴弾などはさすがに自作が難しいらしく、そのほとんどを月村忍や高町士郎のコネを利用しての密輸で入手している。その代わり、通常の解体訓練に使う爆弾はそのほとんどが安価な士郎の自作なのだが、これからはそうもいかない。
それというのも、構造が複雑になればなるほど、既製品を使わざるを得なくなっていく為だ。
その為、これからしばらくは色々金策に苦労することになる士郎達だった。

もちろん、爆弾が終われば「はい、卒業」というわけでは断じてない。
この後にも罠やサバイバルを始め、まだまだ教える事はあるし、その後はそれらを複合した演習を予定している。
具体的には士郎を仮想敵にして、それはもうえげつない方法で打ちのめすのだ。
たとえば人質だったり、たとえば不意打ちだったり、たとえば市街戦、たとえばゲリラ戦と多岐にわたる。
そしてそれらは、なのは達がこれまで経験した事のない、だがこれから経験する可能性のある状況を再現しての演習。最低でもそこまでやって、やっと二人は及第といえる。

というわけで、『元・魔術師殺し』による「対質量兵器及び対犯罪者訓練」はまだまだ続くのであった。
なにしろ、本人がそちら側の人間だ。執拗に二人の弱点を突き、非道・外道と呼ばれる手段に訴えてくるため、よりリアルな演習になる事は間違いないだろう。
当然、その度に二人が士郎達の手で徹底的にズタボロにされるのは言うまでもない。

だが、これもまた士郎達なりの愛情なのである。
それを一応わかっているだけに、あまり強く文句はいえずに悲嘆にくれるしかないのだが。

そうして、一応午前の部はつつがなく終了した。
とはいえ、凛と士郎としては正直もう少し急いで詰め込みたいのが本音だったりする。

「むぅ、でもちょっと予定より遅れ気味ね」
「そうだな、もう少しペースを上げるか」
「シロウ、これ以上ペースを上げられると、体がもたないんだけど」
「安心しろ、まだもう少し大丈夫なはずだ」
「な、何を根拠に……?」
「フェイトにもなのは同様、内功は積ませてきたからな。計算上、もう少し厳しくしても耐えられるはずだ」
「そうねぇ、まだもう少し余裕があるはずよね。
 ああ、安心しなさい。ちゃんと、生かさず殺さずやってあげるから」
「生かしてよ!? お願いだから!!」
(うぅ……凛ちゃん、わたし達よりわたし達の体に詳しいの……)

フェイトにしてもなのはにしても、これ以上厳しい訓練をさせられては体がもたない…と、本人達は思っている。
しかし、実際に鍛えている側として「まだ耐えられる」様に、「狙って」鍛えているのだ。
そのため、結局二人の主張が受け入れられる事がないのは明白。
それがわかっているだけに、どれほど抗議してもどこか弱々しさが見え隠れする。
しかしそこで、凛達が急ぐ理由をアリサがリニスに問うた。

「ところで、何をそんなに急いでるんですか、凛達は?」
「ああ、フェイト達が局の訓練校の短期プログラムに参加する日取りが決まりましてね。
それまであまり時間がないんですよ」
「えっと、それとこれに何の関係があるのかな、凛ちゃん?」
「さすがに、プログラムが終われば本格的に局員だからね。
せめてその前に、必要最低限の事だけでも叩き込んでおかないと話になんないのよ」
「だな。初任務でいきなり人質救出なんて任務だったりしたら、今のフェイト達じゃ役に立たない。
 二人の能力は広い場所での派手な戦闘に特化している。場所にもよるが、下手をすると人質にまで被害が出かねない。そんな戦い方をする奴を繊細な任務に就かせるとは思えないが、万が一という事もある。
 最低でも立て篭もった敵への対処法とブービートラップの類への対処法、それに閉所や人質を巻きこまない戦闘方法を身につけさせないと。ああ、後は交渉術も必要だな」
「というわけで、教えなきゃならないことが山積みだから、大急ぎで詰め込むわよ」

アリサとすずかの問いに、丁寧に答えていく凛と士郎。
なにぶん、なのは達は今までかなり自分達向きの戦場でしか戦った事がない。
おかげで、自身の長所を活かせない、あるいは活かしにくい場所での戦いのノウハウがない。

本来なら、苦手な場所で戦わないようにすることも含めて、個人の力量のうちだ。
しかし、どうしてもやりづらい場所でやらなければならない時もある。
局員として働く以上そういう事もあるのだから、当然無知なままではいられない。
もちろんその程度の事は訓練校でも教えるだろうが、如何せん短期プログラム。どこまで徹底できるかは眉唾だ。
そんなわけで、やはり自分達の手で徹底的に叩き込んだ方が確実という結論に至ったのである。

「ふ~~ん、つまりこの状況は自業自得なわけね」
「そうね、二人がもっとゆっくりしてくれれば、こんなに急ぐ必要もないんだけど」
「「はぅ~~~~~~…………」」

アリサと凛の無情なやり取りに、仕方がないとは言えうなだれるなのはとフェイト。
確かに凛の言うとおり、もう少しゆっくりとした予定を立てればよかっただけに、文句も言えない。

とそこで、唐突にシグナムがその手に持っていた皿とフォークを士郎に向けて投げつけた。
だが、士郎はそれを事も無げにあらぬ方向に曲げた左腕でキャッチする。

「ったく、いきなり何するんだよ、シグナム」
「他意はない。テスタロッサ達に最低でもこの程度の事は出来るくらいになれと、そう言いたいのだろう?」
「まぁ、確かにそうなんだが…な!」

シグナムの言葉に溜息をつきつつ、士郎は手に持っていた皿とフォークを投げ返す。
それをさらにシグナムは両手の指でそれぞれ挟んで止め、即座に士郎の急所めがけて投げる。
当然士郎も、投げ返されたそれをさらにまた投げ返す。ただし、ついさっきまで自分が使っていた食器も混ぜて。
シグナムはシグナムでシャマルやヴィータの食器を強奪して投げるものだから、加速度的に両者の間で飛び交う食器の数は増えていく。

やがて相当な数と速度に及んだ食器の雨を、双方ともにキャッチボール感覚で投げ合っている。
それは最早、ジャグリングのパフォーマンスに近い。
どうも、二人してムキになっている部分がある様で、お互い引くに引けなくなっているようだ。
しかしそれを見て、意味合いは様々なれど外野は小さく声を洩らす。

『おぉ~~~!』
「わたしたちも、あれができるようにならないといけないのかな、フェイトちゃん」
「たぶん……そうなんだと思う」

当たり前のように割れ物や先の尖った金属を目や首に投げつけ、それを平然と止める二人を見て、なのは達は先の長さにうなだれる。
別にあんな曲芸ができるようになる必要はないのだろうが、訓練が進めば自ずとできるようになるのだろう。
だがそこで、唐突にヴィータがある疑問を口にした。

「ところでよ、前々からずっと思ってたんだけどさ」
「どうしたの? ヴィータちゃん」
「いや、士郎のアレ、正直キモくねぇか?」
『あ…あははははは……ちょっと、ね』

ヴィータの言うあれとは、すなわち出鱈目な方向に曲がる士郎の左腕だ。
如何に義手とはいえ、外見は普通の腕なのだから気味が悪いと言ったらない。
下手をすると、夢に見そうなくらいだ。
しかし、さすがにそれに正直に同意する事ははばかれるようで、誰もが苦笑いを浮かべていた。
そして、ちゃっかりそのやり取りを聞いていた士郎は不満そうに口を尖らせる。

「失敬な。まあ、気持ちはわからんでもないが、結構便利なんだぞ。大抵の所に手が届くし」
「そういう問題じゃないでしょうが……! こう、アレよ、見てると背筋がゾワゾワするのよね」
「ああ、分かる。なんていうか、黒板を爪で引っ掻いてる感じだろ?」
「そうそう、そんな感じ」
「ますます失敬な」

士郎の発言にアリサは心底呆れた様子だ。ついでに言えば、どうも居心地悪そうに肩をゆすっている。
また、そのアリサの感覚に同意を示すヴィータ。いや、これは何もヴィータに限った話ではない。
皆声にこそ出さないが、誰もが似たような感想を抱いている。
だがそこで……

「そういえば……」
「ん? まだ何かあるのか?」
「……士郎君のそれ、一体だれにやられたのかと思いまして。
士郎君の腕を落とすなんて、いったい何者なのだろうと……」
『ああ、確かに……』

シャマルの問いは、ある意味この場にいる全員が抱いていたものだ。
士郎は確かに強いが、それ以上に戦い方が巧い。
士郎以上に強い者はいるだろうが、それでもそう簡単に腕をおとされる姿が想像できないのだ。
その問いに対し、僅かに思案した士郎はゆっくり口を開く。

「ん~……まあ、隠すほどの事でもないか。
 取られたのは、六年くらい前だったな。やったのは……」
『やったのは?』
「アルトルージュ・ブリュンスタッド」
『…………………………………………………………って、だれ?』

士郎は実に気軽にそのビッグネームを告げる。
だが残念なことに、並行世界の有名人の事など彼女らが知るはずもなし。
なんか偉そうな名前、位にしか認識されていない。
そう、たった一人を除いて……。

「ブ――――――――――――!!??」
「って、ブワッ!! ばっちぃ!?」

士郎の発言の意味を知るアイリは、思わず口に含んでいた紅茶を吹き出す。
結果、噴出した紅茶はアイリの膝の上で心地よさそうに撫でられていた、子犬形態のアルフに直撃する結果となった。だが、そんな事を気にも留めないほどに、アイリの驚きは大きい。

「ゲホ、ゴホゲェホ!?」
「ア、アイリ大丈夫か?」

気道に紅茶が侵入したのか、アイリはいまだにむせ続けている。
さすがに見かねたはやては、大急ぎでその背中をたたく。

「ゲホゲホ…ハァ、ハァハァ、ハァ…ハァ…………ア、アルトルージュ・ブリュン…スタッド?
 死徒の姫君、黒血の月蝕姫、血と契約の支配者の?」
「まあ、そうなります」
「なんで、あなたは生きてるの?」
「悪運、としか言いようがありませんね。正直、さすがにあの時は死ぬと思いましたから」

その時の事を思い出し、しみじみと士郎は語る。
今までいくつも死線を超え、実際に死んだ事さえあるが、それでもあれ以上絶望的な死に直面した事はほとんどない。それこそ聖杯戦争の頃を含めても数えるほどだ。
しかし、そんな二人の会話の意味などなのは達に分かるはずもなく。

「あの、その人ってどんな人なの、士郎君?」
「というか、そもそも人じゃないんだがな」
『へ?』
「いわゆる吸血鬼、それも夜の一族ほど優しい連中じゃないぞ。
 まあ、一般的な吸血鬼像を思い浮かべてくれれば概ね間違いない。ただ……」
『ただ?』
「何というか、アレだ」
「長く生きてる連中なんかは特にそうなんだけどね、やっばい能力を持ってる奴が多いのよ、これが」
『ヤバいの?』
「「ヤバい。会わないで済むなら絶対に会いたくないな(わ)」」

なのは達の問いに、士郎と凛は力強く頷く。
士郎が一度言い淀んだのも無理はない。死徒はすなわち、掛け値なしの怪物に他ならないのだ。
何しろ、血を吸われるという事は死を意味し、死してなお支配され操り人形とされる。
あまつさえ、適性などあろうものならその者もまた吸血鬼となって人を襲う。
何より、夜の一族とは比べ物にならないほどの再生能力「復元呪詛」と、あらゆる意味で常軌を逸した個々によって様々な特殊かつ奇怪な能力の数々。はっきり言って、永遠にお近づきになりたくない怪物である。

「有名どころだと、自分の身の消滅と引き換えに必ず敵を消去する能力を持ってる奴とか、全長二百メートルはあろうかっていう魔獣と、さらにそれと同格とされる魔獣を三体従えてる奴とかもいるしな」
「『永遠』を求めて『存在する』ことに特化した連中になると、死んでも転生を続けて生き永らえたり、体を『混沌』と呼ばれる泥の集合体みたいなものにして、大抵のダメージは無効化できるような奴もいたはずよ、確か。
というか、そもそもまともな実体をもたない奴もいるって聞いたことがあるし……」
「そ、そんな者までいたのか、お前達の所には……」
「何なんですか、そのチート……?」
「まあ、信じられないっていうシグナムの気持ちは当然だし、シャマルの言いたい事もわかる。
だけどさ………………いたんだから仕方ないだろ?」
「ねぇ。なんていうか、剣で真っ二つにした程度で死んでくれたらめっけものかなぁ?
 とりあえず、シグナムとかみたいなタイプとは相性が悪いと思うわよ。徹底的に殲滅できる、はやてとかなのはの方がまだ相性はいいかもね。弾丸を見てかわせるような連中だし、当てるだけで一苦労よ」

それは断じて『程度』などという言葉にふさわしくないが、本当にそういうレベルの存在なのだ。
そして、士郎はこれも何かの機会という事で、訥々と六年前の事を語り出す。

「そう。あれは……月が、本当に月が奇麗な夜のことだった」



リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」



時は六年前の冬。
場所は北半球の寒極として知られる「オイミャコン」の近く。
ロシア東部のインディギルカ川下流域付近の小さな街。
限りなく北極に近く、一月の平均気温は-50℃まで下がる人が暮らすにはあまりに厳し過ぎる地。

ただでさえ大自然の猛威にさらされるそこが、その年人々は更なる試練を課された。
例年に比べても尚厳しい寒さに加え、過去その土地で記録された事のない様な大地震に見舞われたのだ。
家屋の大半は倒壊、それに巻き込まれて大勢の人が生き埋めとなり凍死。
運良く(この場合は、むしろ運が悪かったのかもしれないが)生き残った者たちも、命の危機にさらされた。

何しろ、物資のほとんどは雪と氷に呑まれ、寒さを凌ぐ事さえままならない。
政府からの救援を待とうにも、場所が場所だ。
準備だけでも時間はかかるし、向かうとなればさらに時間がかかる。
なにせ、地震という広範囲に影響を与える災害の性質上、救援を待つのはその街の住人達だけではない。
また、救援に向かう人員を死なさない為、万全の準備を整え物資をかき集めねばならないからだ。
挙句の果てに、空路も陸路も連日続く吹雪で碌に使えない始末。
これでは救援が絶望的なのは、だれの目にも明らかだ。

故に、彼らは僅かに残った家屋に身を寄せ合い、無駄と知りながらも極寒の地獄に耐えるしかなかった。
万が一の奇跡が起こり、全員が死に絶える前に救援が来る事を祈って。

だがそんな人々に手を差し伸べずして、なんの「正義の味方」か。
士郎と凛は、あえてその極寒の地獄に踏み込んだ。

身軽な二人ならば、必要な装備を整える時間も少なく済むし、何より彼らは魔術師。
まともな人間では到達することさえ難しい場所でも、二人ならば多少の無茶は可能。
二人は可能な限りの物資を携え、最も過酷なその場所を目指した。一切の乗り物を用いず、その足で。
他の場所であれば、ロシア政府がなんとかする。ならば、彼らの手がとどない範囲を埋めようと考えたのだ。

とはいえ、運べる物資などたかが知れている。
どれほど積載し、節約しても数日分にしかなるまい。
曲がりなりにも一つの街、その人口を生かすための物資を持ち込むのは不可能だった。

そこで士郎達が取った行動は、常軌を逸しているとしか言いようがない。
内容そのものは簡単だ。士郎と凛の二人掛かりで、政府からの救援が来るまで何度も物資を補給すればいい。

だが、そんな事は正気の沙汰ではない。如何に魔術師とはいえ、寒極の地を徒歩で行軍するなど自殺行為。
近くに位置する街はどこも地震の影響を大なり小なり受けている以上、物資に余裕はほとんどない。
ならば、ある程度離れた所から調達するしかない。
しかも集落の人々には時間がない以上、それはかなりの強行軍になる。
一度や二度なら耐えきれるが、何度も行えばそれだけ命を削るのは明白。

だが、それをするからこその滅私の魔術使い『衛宮士郎』。
いや、むしろ士郎にとっては『人を殺さずに済む』だけマシだったかもしれない。
そんな訳もあり、凛との半ば以上武力を交えた話し合いの末、最終的に凛は折れた。

これは、二人がそんな強行軍を行っていた時にあった出会い。
できるなら、決して出合いたくなかった化け物との邂逅。
そして、士郎がその左腕を奪われた時の話である。



『ハァ………ハァ…ハァ………ハァハァ………ハァ』
「みなさん、もう少しです! もう少しで隣町に尽きますから、もう少しの辛抱です!!」
「ほら、シャンとする! チンタラしてると氷の彫像になるわよ、嫌ならさっさと歩きなさい!!」
「あ、ああ」
「……ったく、ハァ…人使いの荒いお譲ちゃんだ」
「ハァハァ、全くだ。オイ衛宮、そんな女より俺の娘はどうだ?
 お前さんなら、娘をやってもいいと思ってるんだがな」
「セルゲイさん、アンタの娘はまだ十才だろ。勘弁してくれ」

最前列で雪を掻き分けて進む士郎の返事に、セルゲイと呼ばれた男は大笑いしようとして口を閉ざした。
防寒具を着こんでいるとはいえ、この猛烈な吹雪の中で大口をあけるのはしんどい。
如何に屈強な大男でも、普通人でしかない彼にそんな真似は出来なかった。
凛が密かに魔術による加護を与えていたとしても、そこに大差はないだろう。
だがそんな男衆のやり取りを聞いた殿を務める凛は、あからさまに不機嫌な口調で告げる。

「フン! そんな軽口が叩けるんならもっとペースを上げてもよさそうね」
『か、勘弁してくれよ嬢ちゃん!?』
「嬢ちゃんじゃないって言ってんでしょうが、このオヤジども!!」

足元に無限にある雪を手に取り、雪玉として投げつける凛。
とはいえ吹雪の中では視界が悪く、結局誰にもあたらず白銀の世界に消えていく。

士郎と凛以外の人間がこの場にいる理由はそう難しいものではない。
生存者の中でも比較的健康で屈強な者たちを選りすぐり、彼らに女子供、あるいは老人を抱えさせて近くの街に非難させようとしているのだ。
もちろん、士郎と凛もそれぞれ誰かを抱えている。帰りはともかく、行きはまだ荷物も少ないからだ。
それというのも、予想以上に生存者が多く(これ自体は喜ばしい事だが)、その分一人一人に行き渡る物資は少なくなった。これでは、長期間にわたって彼らの命を保つのが難しくなる。
そのため、動けるうちに近くの街へ避難させた方がいいと考えたのだ。

士郎達と違って遠方に行くわけではないし、それならまだ生きてたどり着ける可能性はある。
また、まだ比較的に被害の少ない街へ行くことができれば、生存の確率はぐっと上昇するだろう。
何より、そうすることで僅かなりとも士郎達への負担も減り、物資の運搬がしやすくなるのは間違いない。
こういった諸々の事情から、当初の予定を変更しこのような無茶をせざるを得なくなった。

とはいえ、さすがに一度に全員を移動させることなどできない。
そのため生存者をいくつかのグループに分け、これは第何陣目かになる。
そしてその集団の一人が、今度はひどくまじめな口調で口を開く。

「ハァハァ…………ハァ、だがよ、ホントに感謝してるんだぜ、俺達は。
 お前さん達が来てくれなきゃ、俺達はきっと野垂れ死んでたはずだ」
「だな、お前らがどこの超人かしらねぇけどよ、来てくれた時は涙が出たもんさ。
 ありがとう、俺達を、俺達の家族を助けてくれて」
「感謝には早いわよ、下手するとこのまま凍死するかもしれないんだから、感謝は生き残ってからにしなさい。
いくら比較的元気なのを集めたとはいえ、アンタ達の体力だってかなりヤバいんだから」
「ですね。今はとにかく、自分とその背にいる人たちが生き残る事だけ考えてください」
「ああ、そうだな。アンタらと違って、俺らは自分の心配をするだけで精一杯だった」
「それと、感謝は形ある物で示して頂戴。口だけなら何とでもいえるわ」
「お前なぁ……こんなときに言う事か?」
「ハハハ、確かにそりゃそうだ。衛宮、嬢ちゃんの言う通りだよ。よし、生きてたどり着けた時はうちのかみさんの世界一の料理を食わせてやろう」

苦しそうに笑いながらも、彼の声には活力がみなぎっている。
いや、それは何も彼に限った話ではない。誰もが「ああ、ならうちのも食ってけ」だの「独り身でわりぃが、俺の手料理を食わせてやる」だの言って上機嫌だ。
どれほど絶望的な状況でも、かすかな希望一つで人は生きていける。この光景がそれを証明していた。
凛としてもこういう人達は嫌いではないらしく、調子を合わせて憎まれ口をたたく。

「料理人なら、ここに極上のがいるから期待しないで待ってるわ」
「ちっ、手厳しいなぁオイ……」
「ふふ、精々良いお礼を考えて頂戴」
「ケッ、ホントにいい女だよ、お前さんは」

ちゃっかり報酬を貰う約束を取り付ける凛。
冗談なのかどうなのかは判別が難しいが、とりあえず士郎は何も言わない。
いや、むしろ呆れかえっているのかもしれないが……。

(これだけの事があったんだから、この人たちの生活は今後間違いなく苦しくなるってのに……。
そんな人たちから巻き上げるようとするなんて、こいつは鬼か? ……って、あくまだったな、そういえば)

というのが、割と士郎の本音だったりする。
だが、同時に凛の為し得た事柄についても思考が及ぶ。

(だが、いまはとにかくこの人たちが生き残る事が最優先だ。
結果的に凛との会話で活力が戻っているんだから、下手に口出ししてもマイナスにしかならないよなぁ……)

そんなわけで、色々思うところはありつつも、結局はだんまりを決め込む士郎。
しかしそこで異変に気付く。
先ほどまで衰える気配さえなかった吹雪が突如終息を始め、やがて満天の星空が上空に広がった。
特に、天空で淑やかな光を放つ月は非の打ちどころのない満月で、誰もがその美しさに見とれてしまうほどだ。
他の面々もそれに気づき、一様に歓声を上げる。

『ぉ……おぉ!!』

誰もが「やったぞ」「これでだいぶ楽になる」「たすかるぞ」と喜びの声を上げ、神に感謝をささげている。
無理もない、この状況では絶望感に囚われていて当然。
それを気丈に振舞う事で思考の外に追いやっていたが、ついに天は彼らを救いたもうた。
最早、彼らの心に絶望の影はない。
だが、それを鵜呑みにできずにいる者たちがいた。

『どう思う?』
『いくらなんでも不自然すぎでしょ。さっきまでの吹雪がいきなり消えるなんてありえない。
 通り過ぎたのだとしても、通り過ぎた吹雪がどこにも見当たらないなんて事があると思う?』
『思いたい……というのが本音だな。こんなところで、そんな真似ができる者と出会いたくはない』
『まあ、それは同感だけどね』

喜び歓声を上げる人々に聞こえぬよう、繋がったパスを通して二人は会話する。
広く遮蔽物のない土地では、遠方で降る雨をまるでカーテンのように目視することもできると言う。
今士郎達がいる場所もそういった場所だ。
にもかかわらず、ついさっきまで彼らを襲っていた吹雪の影も形もない。
吹雪が通り過ぎたのだとしても、どこを見てもその痕跡すらないのは異常だ。

(これじゃまるで……っていうか思いっきり、どっかの誰かが邪魔なものを全部追い払った感じよね。
 規模は広そうだし、お願いだからこっちになんて来ないでよ……)

空には雲ひとつなく、地表は僅かな風が流れるだけ。
そして、その風に乗って凍りついた水分がダイヤモンドダストとなって舞い散っている。
あまりにも、あまりにも出来過ぎた状況に凛がそう思ったのも無理はない。
そして、それはおおむね正しかった事を、後に二人は知ることになる。

だが今は、そうして天に祈ってばかりいても仕方がない。
凛は即座に誰にも気づかれないよう術を編み、認識疎外の魔術を展開する。

本来、現代科学でも今起こっているような事態は引き起こせないし、神秘の側でもそんな事はまず不可能だ。
なにしろ吹雪とは大自然の猛威そのもの、それもこんな極北の地のそれとなれば日本のものとは桁が違う。
多少の天候操作ならできなくはないかもしれないが、これはそんなレベルではないのだから。
それを為した何者かとは、一体どれほどまでの怪物なのか。
しかしそこで、彼女の前を歩く男の一人が何かを発見した。

「お、おい…あれはなんだ?」

男の指差した先にあったのは、純白の雪原の中にある唯一つの異物。
一言で言うならば、それは黒。髪も、衣服も気配さえも漆黒の少女。
だがその肌は衣服と対比するかのように白く、瞳は血のように紅い。年の頃は十代半ばといったところか。
そんな少女が、雪の白に溶け込まんばかりの純白の大型犬のような生き物の背に優雅に座っている。

いや、厳密に言えば、とてもではないが犬とは言えない生物だ。
犬というには余りに禍々しい。だが、犬としか形容のしようのないシルエットをした生き物。
この極寒の世界で、そんな生き物の背に華奢な少女が座っているのは異様な光景だ。

その上、その少女の服装は豪奢ではあるが、あまりにも軽装に過ぎる。
身に纏っているのは深い闇の様な漆黒のドレス。
それも肩や背中を大きく露出させ、体のラインを強調するかのようなデザインだ。
しかし、下品や淫靡さとは無縁。年の頃には不釣り合いだが、妖艶……という言葉がしっくりくる。

そんな恰好でこの寒気の中に身を置けば、五分と経たずに凍死してしまうのは明らか。
にもかかわらず、その少女も犬も苦しそうな素振りさえ見せない。
それどころか、誰もが雪と氷で衣服を白く染め上げていながら、少女にはそんなものは付いていない。
まるで、雪も氷も意図的に少女を避けているかのようだ。

そんな少女を見て、男達はまるで白昼夢でも見たかのように立ち止まり思考が停止する。
しかし、止まる事の出来ない者がここにいた。

「逃げろ!!」
『なっ……』
「何を言ってるんだ、衛宮。ありゃあ只の……」
「アンタ達にもわかるだろ、アレは子どもなんかじゃない!」
「だ、だが……」
「アレが何かなんて言う詮索は後回し、とにかく逃げるわよ!
 止まったら死ぬ、そのつもりで走りなさい! 急いで!!」

二人の剣幕に押されるが、それでも誰も動き出せない。
状況を理解できず、体が反応してくれないのだ。

(ったく、これだから素人は!!)

半ば以上八つ当たりに近いと理解していても、凛は内心でそう思わずにはいられない。
だがそんな感情も、続いてかけられた士郎の言葉によって霧散する。

「凛」
「何よ」
「俺が足止めする。お前は皆を連れて逃げてくれ」
「ハァ!? アンタ、自分が何言ってるか……」
「分かってる。何かまではわからないが、アレは見た目通りの生き物じゃない。
 だからこそ、迂闊に背を見せるべきじゃない、そうだろ?」

士郎の言う事は正しい。
目の前のそれがどういう類の存在なのかまでは分からないが、背を見せるのは愚行だと本能と経験の両方が全身全霊で告げていた。
決して巨大な気配を放っているわけでもないというのに、二人はそう直感しそれを疑っていない。
得体のしれない何か、そんな者に背を向ければ格好の餌食だと分かっていたのだ。

「なら、私も残るわよ。アンタ一人だけなんて、危なっかし過ぎるっての」
「ダメだ! あの人たちだけでこの雪原を渡るのは無理だし、他にも何か出てこないとも限らないんだぞ」
「うっさい! とにかく私は残る、アンタの意見なんて聞いてないわ!
 速攻でアレを殺して、その上で追い付けばいいだけでしょうが!!」

士郎は百匹単位で苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるが、反論する時間は与えられなかった。
それまで彼らの事を見向きもしなかった少女と犬が、突如彼らの方を向いたのだ。
今のやり取りの声が届いたわけではない。声も含め、気配や匂いなど全てが結界により隠蔽されている。
少女が士郎達の方に視線を向けたのは、純粋に少女自身の力。
同時にそれは、超一流の魔術師が張った認識疎外の結界をも、容易く看破できるだけの力を有していることを意味する。とはいえ、凛自身はその事実にそこまで心を揺さぶられはしなかった。

(ま、所詮は即席だしね。そこまで期待はしてなかったから、見破られたこと自体は別に良いけど……。
 問題なのは、見つかった事。全く、ここからどうしたものかしらね。
それにあの眼、こっちを放っておく気はなさそうかな……)

少女の視線は欲情しているかのように艶やかで、新しい玩具を見つけた子どものように邪気がない。
だが、それが凛達の背筋を寒くする。
邪気がないにもかかわらず、その身に纏う死の気配があまりにも濃密で、思わず息をのんだ。

それは、間違いなく死徒と呼ばれる者の気配。
幾度となく彼らと戦った事のある士郎達には、即座にそれがわかった。
しかし凛は、同時に違和感も覚える。

(でもホントにあれ、死徒なのかしら? 何ていうか、ちょっとおかしな感じが……)

士郎はそれに気づかない。卓越した魔術師である凛だからこそ、その僅かな違和感を拾う事が出来たのだろう。
それは真祖との混血であるが故の違和感なのだが、この時の凛は気付く事が出来なかった。
そもそも、深く考える時間は許されない。白い犬の眼を見た瞬間、士郎達の思考は凍りついた。

(なんだ、アレは…………わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない!!!)

何もかもがわからない。その性質も、力の程も、どんな感情を抱いているのかも。
その存在が、力が、あまりにも巨大すぎて士郎の尺度では測りきれない。
というよりも、アレを“人間”が計ること自体が過ちであると直感した。
あるいは、虫や獣などであれば計れるのではないか、そんな気さえする。

だが、そんな事に意味はない。計れない、それが全て。
分かるのは唯一つ。それは……

(アレが動く前に、逃げるしかない!)

アレが動けば、全てが無に帰す。それは本能の警鐘、それは絶対的で覆る事のない定律。
そのことを、その瞳を見た瞬間に誰もが理解した。

逃げられるかなど定かではない。そんな事が計れる相手ではない。
アレは最早、彼ら「人間」の理解の範疇を超えた存在。
否、そも理解してはならない領域の存在であるが故に。

『う、うわぁああぁぁぁ―――――――――――!!!』

士郎と凛の二人を除く全員が恐慌状態に陥り、我先にと逃げ出す。
理性など残ってはいない。あるのは唯、本能的で根源的な恐怖心と生存本能のみ。
体裁をかなぐり捨て、脇目も振らずに彼らは逃げていく。
そんな様子を見て、士郎は思わず安堵する。

(アレが何かはどうでもいい。俺がすべきは、とにかく足止めする事。
 そして、適当なところで逃げる事か…………逃げられればの話だが、せめて凛だけでも……)

そう覚悟を決め、士郎はその手に愛剣である干将・莫耶を投影した。
同時に、凛もまた宝石を両の五指の間に挟み、左腕の魔術刻印を輝かせる。
そして、静かな声で相方の方を向くことなく告げた。

「士郎、少しでいいわ、一人であいつを足止めして」

士郎はそれに対し何も言わない。凛の意図はまだ分からないが、それに従うつもりなのだろう。
逃げる為か、それとも別の何かの為かは分からない。
だが、凛が講じた策ならば彼に疑うなどという思考はなかった。
何があろうと、この最高の相棒を信じる。それは、何があろうと揺らぐ事のない彼の真実だった。

「私はその隙にでかいのを用意する。アンタには、それまでの時間稼ぎをしてもらうわ」

それは、士郎に半ば死ねと言っているのと同義だ。
得体のしれない一人と一匹。それも、一匹の方は明らかに手に負える存在ではない。
それを一人で相手にしろなどと、正気の沙汰とは思えないだろう。
それは無論凛とて承知している。だがそれでも、これが現状における最善の手なのだ。

「賢明だ。それで仕留められるかはわからんが、僅かでも隙ができれば僥倖。逃げるには十分だろう」
「……」
「なに、そう案ずる事はない。単独行動は、弓兵の得意分野だからな」

そう言って一歩、士郎は凛を庇うように前に出た。
そんな二人の様子に何を思ったのか、白い犬もまた黒い少女を守るかのように身を乗り出す。
しかし、黒い少女はそれを制した。

「おやめなさい。あなたが出たら刹那もかからずに終わってしまうわ。
 月夜の晩酌に新鮮な血もいいけれど、貴族は狩りの『過程』をも楽しむものですよ。
小うるさい二人がいないんですもの、偶には私にも楽しませて頂戴な」
「クゥン……」
「良い子。それに今宵はこんなに月が綺麗なんですもの、月夜のダンスパーティーとしては中々でしょう?
 折角の殿方からのお誘いを無碍にしては、品格を問われてしまうわ。
 そうは思わなくて、深紅の騎士様?」
「くっ、君の様な見目麗しい淑女と踊れるなど光栄の至りだよ。
だが、恥ずかしながら舞踏会の作法などには疎い田舎者でね、多少の無礼には目を瞑って貰いたい」
「無骨な騎士という事ですね。瀟洒で洗練された紳士も良いけれど、そういった朴訥さも嫌いではありませんよ」

その言葉に、士郎は自然と皮肉気な笑みを浮かべる。
少なくとも、目の前の少女があの犬ほど危険な存在とは思えなかった。
並々ならぬ魔と死の気配を放ってはいるが、この程度ならばそう脅威ではない。
これ以上の死地を、士郎は幾度となく乗り越えてきたのだから。

(何より、あの少女からはそれほど大きな力は感じられない。
吹雪を消したのも、恐らくはあの犬の仕業に違いないだろう。正直、アレは得体が知れなさすぎる。
アレに比べれば、あの少女はまだマシだ。あるいはメレムの様に、あの犬こそがこの少女の力なのかもしれないが、どちらにせよあの少女自体の力はけた外れというほどでもない。
なら、あの犬さえ出てこないのであればなんとかなる)

少女の失策は、自身の快楽を優先するあまりにあの白犬を自身から離してしまった事。
そう判断したからこそ、先の様なセリフを吐く余裕が彼にはあった。

「ところで凛、一つ確認していいかな?」
「いいわ、言ってみなさい」
「ああ。時間を稼ぐのはいいが―――――――――別に、アレを倒してしまったもかまわんのだろう?」
「……ええ、遠慮はいらないわ。あの小娘に、ガツンと痛い目をあわせてやりなさい」
「そうか、ならば期待にこたえるとしよう」

それは、虚勢でも何でもなく確かな自信に裏付けられた言葉。
アレの放つ気配は確かに魔的だが、それ以上に危険な気配を彼は知っている。
アレならばまだ、自分一人でもなんとかできない事はない。
凛もそれに関しては同意見だった。二人の警戒の対象はあの白犬であって、黒い少女ではない。

だが、二人は気付いていなかった。
少女から感じられる戦力が高くないのは、単にそれが彼らに知覚をできなかっただけ。
あまりにも深く、あまりにも暗い深淵の奥深くにそれが隠されていたが故に、二人はそれに気付けなかった。

傍らにある存在は少女の守護者かそれに準ずる存在。あるいは、少女の上位に位置する死徒が付けた護衛か。
死徒の中には容姿の美しさを気に入られ、愛玩目的で引き込まれた者もいると言う話を士郎は聞いた事があった。
その可能性に思い至った為に、少女の戦力は、そのほとんどを傍らの存在に依存していると思ってしまったのだ。

それこそが、歴戦の強者である筈の二人の決定的な過ち。
少女の傍らにある存在があまりにも巨大すぎたが故に、その深淵を見通せなかった。
いや、仮に見通せたところで、これが相手では……。
過ちというのなら、「出会ってしまった」それに尽きるのかもしれない。

「名を…名乗る必要はあるかね?」
「いいえ。もしあなたが私に迫る事が出来たのなら、その時には聞いてさしあげましょう」
「そうか。ならばその言葉、撤回する間も与えん!」
「期待していますよ。存分に力を振るいなさい、魔術師。
 その神秘が万が一にも私に届いたのなら、あなたの名を永劫刻む事を約束しましょう」

雪原を疾走し斬り掛からんとする士郎に対し、少女はあくまで優雅な態度を崩さない。
己が間合い敵を捉える直前、士郎は決して大振りにならない範囲で剣を振りかぶる。
それはただ、理想的なまでにコンパクトで、一切の無駄を削ぎ落とし最適化された動作だった。

化け物を相手に膂力で競うのは無謀。
故に、優先すべきは速度と手数。それが幾度の死線を経て士郎が至った結論。
もちろん威力を無視していいわけではないが、士郎にとってその優先順位は低い。
もとより、宝具という最高レベルの武具を振るう士郎だ。
多少の威力の乏しさは、宝具が有する抜群の切れ味で補えるからこその方法論だった。

狙いは首、もしこのまま士郎が剣を交差させるように振り抜けば、黒白の双剣が彼女の細い首を落とすだろう。
だが、少女はその鋭い一閃を払いのけるべく、無造作に両腕を持ち上げる。
そして、両者の剣と爪が衝突し甲高い音を立てた。

「おおおおおおおおおおお!!!」

雄叫びは士郎の物。
一撃目は難なくその硬質化した爪にはじかれた。
だがその程度で士郎が怯む筈もない。むしろ、この結果自体は初めから予想の範疇だ。

だからこそ士郎は、そのまま嵐のような連撃に打って出る。
左右の剣をリズミカルに、時に意図的にリズムを崩し、時に振るう順を入れ替えて。
それどころか、僅かでも隙を見せれば足を払い、あるいは蹴りを放って体勢を崩しに来る。
それはまるで、四肢がそれぞれ全く別の生き物のように襲いかかる、そんな光景だった。
もし並みの者が不規則に吹き荒ぶ刃の嵐にさらされれば、秒と経たずにこまぎれにされる事だろう。

「あらあら、凄い剣ですね。このままだと、あっという間にバラバラにされてしまいそう」
「戯言を!」

士郎が悪態を突くのも無理はない。言っている内容に反し、その口調はどこまでも軽い。
一見すれば余裕がある様には見えないのに、その声と言葉からは危機感が感じられない。
士郎は全身全霊、持てるすべての力と速度、そして技と戦術をつぎ込んでいる。
にもかかわらず、少女はその剣戟を危ういところでその身に届かせない。

いや、確かに肌に触れる寸前で弾き、紙一重の所を剣風がその白磁の肌を撫でていく。
しかし、見る者が見れば気づくだろう。
それは、完全に見切っているからこそできる完全に最適化された防御と回避なのだと。
故に、少女はどこまでも優雅に、本当に踊っているかのように士郎の剣戟をかわしていく事が出来る。

これだけの事が出来るのなら、確かに危機感に欠けていて当然だろう。
だが、士郎にとってそれ自体は問題ではない。
相手がどういう存在かを考えれば、これは必然の状況だ。
膂力だけではなく、速度という点においても人間である士郎の方が不利なのだから。
当然、どう対処していくかのプランもある。

故に、問題は別にあった。それは刃を交えた瞬間から感じ始めた僅かな違和感。
余裕だけではない何か、士郎はそれを感じ取っていた。
だからこそ、士郎はさらに剣戟の激しさを増していく。
呼吸に割く労力すらも惜しむように、ただ剣を振る腕と大地を踏み締める脚、そして目の前の敵にのみ意識と力を注ぐ。

肉体の限界を越え、腱と骨格と筋肉が悲鳴を上げる。
今にも関節が抜けそうになりながら、少しでも身体の操作を…力の流し方を誤れば人体の稼働限界域を越えそうになりながら。それでも決して、士郎は剣舞を緩めようとしない。
それどころか、肉体の危険信号の全てを無視し、尚も士郎は無謀なまでに回転を上げていく。
常人の眼にはそれは最早剣戟などではなく、無数に空を奔る黒白の光条に見えただろう。

はっきり言ってしまえば、いくらなんでも初手からこれはやり過ぎだ。
こんな戦い方を続ければ、体力も体ももたない。もし長引くような事があれば、士郎は勝手に自滅する。
逆に言えばこれは、士郎が今すぐケリをつけるつもりであることの証左だ。

必然、士郎の繰り出す剣戟は上限などないかのように加速し、激しさを増していく。
それはいっそ、捨て身の特攻のようにさえ映るかもしれない。
だが、士郎は決してそんなつもりはないし、むしろ計算づくでこの行動を選択していた。

相手が死徒であるのなら、何かしら奥の手がある。
それを出させる前に終わらせるのが、この世界の定石だ。
特に、相手の情報がない時には出方をうかがうか、即座に仕留めにかかるかの二択。
足止めと逃走を最終目的としているこの戦闘において、出方をうかがうよりも先の先に出て主導権を確保し続けた方が分はいい。下手に見に回り、竜が出てきてはたまらないが故に。

本来守勢を得意とする士郎が、こうも攻めに回るのはそれが理由。
そしてその甲斐あって、士郎はその剣から空振りや鍔迫り合いとは異なる手応えを覚え始めていた。
それは皮を裂き、肉を抉り、血の匂いを鼻孔にもたらす、ヒトを斬った時特有の感覚だ。

「先ほどまでの余裕はどうした、吸血鬼!
 我が双剣、確かに貴様に届いているぞ!!」

その言葉の通り、徐々に士郎の双剣は少女の体に届き、その身を紅く染め始めていた。
はじめは辛うじて薄皮をひっかく程度だったものが、やがてその深度を増しその身にめり込み血をまき散らす。

同時に、宙に舞う僅かな血の飛沫は氷点下50度を下回る外気によって一瞬のうちに凍結する。
結果、少女の周りには銀と紅のダイヤモンドダストが舞い、一種幻想的な光景を演出していた。
そのこの世のものとは思えない舞台で、二人は尚も舞う様に剣と爪を奔らせる。

「飾り気のない、人を斬る事だけに特化し研ぎ澄まされた純粋な剣技。
例えるなら、噂に聞いた極東の人斬り包丁でしょうか。
ですが最も目を引くのは、やはりその双剣ですね。その剣の前では、あなたの研鑽も霞んでしまう。
かなりの業物とお見受けしますが、誰の作で銘はなんというのでしょうか?」
「……名ぐらいは聞いた事があるのではないかね。干将・莫耶だ」
「ああ、あの……確かに、それなら私に傷くらいは付けられますか」

そんなやり取りをしつつも、士郎の声には焦りが生じ始めていた。
今のところは特別士郎が不利というわけではない。
銃弾を見てから回避できる肉体的ポテンシャルを有する死徒を相手に、身体能力で競うなど愚の骨頂だ。
故に、序盤舞う様に剣を回避されたこと自体は、驚きはしても予想の範囲を越えはしなかった。
むしろ、徐々に剣が届くようになってきた事を考えれば、優位に立ちつつある。
これまでの事を総合的に見て、予想通り相手の力はそれほどのものではないと言っていいだろう。

では、上手くいきすぎている事への疑念なのかと問われれば、士郎は「否」と答える。
今の状態にしても、少しずつ剣が届くようになった事自体は計算通りの結果だ。
動けば動くほどに体は暖まり、文字通り身も凍るような寒さで固まっていた体はほぐれていく。
一撃放つごとに士郎の剣の冴えが増していき、身体の稼働域が広がっていく。

もとより、これを狙っての後先考えない全力疾走染みた剣戟だったのだ。
倒すためではなく、その布石。
ここまでの剣戟の全ては、肉体のコンディションをより「万全」に近づける為の時間稼ぎであり、布石に過ぎない。

とんでもない荒療治ではある。僅かでも読み間違えれば、一瞬でも判断が遅れればそれが死に直結する危うい策。
だが、生と死の境界に立つ今、そんな事に斟酌してはいられない。
たとえ長く維持はできずとも、たとえ一歩間違えば身体を壊すことになろうとも、引き出せる全ての力を注がねばならない戦場に、今まさに士郎は立っているのだから。
故にこの愚直な特攻こそが、生き残る可能性を開く唯一無二の策だった。
ならば、剣戟の激しさが天井知らずに増していくのは、必然でさえある。

そうして徐々に稼働域が広がってきた分、士郎の剣も伸びやかな物になっていく。
踏み込みと同時に脚先から練り上げた力をロスすることなく切っ先に伝え、少女に斬り掛かる。
時に剣を逆手に持ちかえ、時に片方の剣を投擲し、剣戟の多彩さも加速度的に増していく。

もとより士郎は、他者と比較して技量が格別に優れているわけでも、天賦の身体能力があるわけでもない。
あくなき研鑽の果てに、文字通り刃のように研ぎ澄まされた剣技、それが本質。
才能などではなく、ただひたすらに基本となる九つの斬撃を繰り返すことのみによって可能となる一つの極致。

難しい技になら、複雑な身体運用になら、習得に才能を要するだろう。
だが、次々繰り出される無数の剣戟の中に、特別な部分など何一つない。
足運びから腕の振り、そして力の練り方に至るまで、だ。技らしい技などない、それこそが特別だった。
もっとも基本的な動作から極限まで無駄を排したからこそ可能な、誰にでも到達できる迅さ。
その「基礎の極限」が、今まさに魔性の怪物に届いている。

だがそれでも、あと一歩と言うところで士郎は攻めきれずにいた。
斬撃の合間を縫い、士郎は瞬時に身体を反転させ少女の背後に回り斬り掛かる。
しかしそんな奇襲も、少女に致命傷を与えるには至らない。

「せいっ!! はぁ!」
「ふふふ……ああ、危ない危ない。確か、こういう時は『後ろの正面だぁれ』と言うのがマナーでしたか?」
「不愉快だな、君にとっては子どもの遊戯かも知れんが、こちらは本気なのだがね。
 男を踊らせるのは淑女ではなく、悪女のやり口だぞ」
「手厳しいこと。ですが、女を本気にさせるのも殿方の器量のうちですよ」

確かに剣は届いているが、命にまであともう半歩というところで届かない、それが幾度となく続く。
それに対し苛立ちがない筈もなく、それを見抜いた少女は優雅な所作で士郎をさらに挑発する。

「ほらほら、どうなさったのですか。もっと深く踏み込んだ方がいいのではなくて?
 このような時は、殿方がリードするものですよ」
「安い挑発だ。生憎と、そんなものに乗るほど若くはない!」
「あら、残念……」

どこまで本心なのかはわからないが、少女は口元に白い繊手を添えて笑う。
そんな所作を前にしても、士郎の感じる得体のしれない何かは一向に消える様子がない。
それどころか、少女の仕草の一つ一つからその「何か」が滲み出ているかのようだった。

それは、先ほどから感じていた違和感と同種のもので、戦うほどに鮮明になり不気味さを増していく。
剣が少女の体に届くたび、底なしの暗黒を覗いているようだった。

得体のしれない者に対処するには、徹底的かつ完全な殲滅こそが望ましい。
可能か不可能かはともかく、最低でもその程度の気構えは必要不可欠だ。
ならば当然、それを為すために持てる力と技の全てを傾注すべきだろう。
そう結論した直後に、士郎は少女と鍔迫り合いとなる。

「ちぃっ!? 貴様、この瞬間を狙ったな!!」
「ええ、そちらも適度に暖まったようですしね」

少女が攻めに転じなかったのは、これが理由。
単純かつ明快に、士郎のコンディションが整うのを待っていたのだ。

ぶつかり合っているのは黒白の双剣とか細い指から延びる紅い爪。
普通に考えれば、押し勝つのは肉体的・武器的に優れた士郎であることは疑いようもない。
少女の余裕は、いっそ自殺行為としか言えないもの。

だが相手は普通ではない。少女の姿をしていようと、魔物の膂力は人間のそれを遥かに凌駕する。
いや、そもそも生物としての根本的な性能が違うのだ。
復元呪詛の恩恵により肉体へのダメージを気にせず全性能を振るえる者と、そうでない者。
それ以外にも存在する様々なハンディキャップと、そこから生じる性能差は確固として存在する。
日本人としては恵まれた体躯を持ち、その肉体を鋼の様に鍛え上げ、さらに魔力で身体能力を底上げした。
これでやっと対等になれるかどうか、この少女はそういう領域の存在なのだ。

それを知る少女は、士郎を押しのけようと力を込めた。
力比べをするのも一興、その顔に張り付いた笑みはそう語っている。
同時に、幼さを宿した面持ちの奥からは、魔的なまでの妖艶さが顔を覗かせていた。
しかし、そのタイミングに合わせて士郎は大きくその場から飛びのく。

「あら?」
「生憎だが、君の様な者と真っ向勝負をするような趣味はない。
 君は私を騎士と呼んだが、騎士道……いや、およそ『道』と付くものはみな私からは縁遠いものばかりだよ」

勢い余って僅かにバランスを崩した少女に向け、士郎は懐から取り出した小型の円筒状の何かを放り投げる。
そしてそれは、ちょうど少女の手が届くか否かというところで、「ゴッ!」という音と共に目も潰れんばかりの光を発した。直後、全てを飲み込む白く輝く業火が生じ少女の形をした魔を飲み込んだ。

「ったく、ホントにえげつない真似するわね、アンタは」

その光景を、やや離れたところで見ていた凛は、呆れたかのように呟いた。
それを聞く士郎もまた、肩を竦めて凛の言葉に同意する。

「返す言葉もないな。本来、たった一人を殺す為に焼夷弾を使うなど、普通に考えれば鬼畜外道の所業だろうさ」
「その辺の常識を求められても困るんだけどね。その手の協定とかはよく知らないし……で、死んだと思う?」
「まさか、相手は死徒だ。それなりに年月を経ているのなら、あの程度で死ぬはずがない。
とはいえ、使ったのはエレクトロン焼夷弾だ。二千~三千度の炎に焼かれれば復元するにしても時間はかかろう。何より、この炎はまだ十分以上続く」

人間を相手にするには、明らかに不必要に強力な火力と持続時間だろう。
だが、士郎が想定していたのは対人戦ではない。
こんな物騒かつ正気を疑うような兵器を常備していたのは、ひとえに今の様な状況を想定していればこそ。
人間にはオーバーキルでも、死徒が相手ならば話は別だ。
それどころか、これだけやっても殺しきることは難しい。
となれば、選択肢は限られてくる。追い打ちをかけるか、あるいは……。

「って事は、逃げるなら今ね」
「そういう事だ」

そう言って、今度は白犬の方を士郎は見るが、動く様子はない。
その事からも、あの少女がこの程度では仕留めきれていない事は明白。
だが、全身をくまなく地獄の業火で焼いたのだ、時間稼ぎには十分。

同時に士郎は先ほど感じた不吉な予感を思い出し、早々にこの場を離脱したくてたまらなかった。
正直、これだけやってもなお生きた心地がしないと言うのが彼の本音なのだ。
いくらなんでも焼夷弾の直撃を受ければ足止めくらいはできる筈だが、楽天的にはなれずにいる。

そして、士郎のその本能的な直感は正しかった。いや、むしろ楽天的だったとさえ言える。
相手が並みの死徒であれば、今しばらく程度は足止めできただろう。
しかし、相手はそんな生易しい相手ではなかったのだから。

「あら、もう行ってしまうの?
 舞踏会は始まったばかりですよ、もう少しゆっくりしていかれてはいかがかしら」

白く輝く炎の中から、鈴を転がした様な涼やかな声が届く。
二人の嫌な予想通り、まだ戦いは始まったばかりだった。






あとがき

すみません、思いのほか長くなってしまい二つに分けました。
冒頭の訓練というか日常風景はいらないかなとも思ったんですが、次にいつこれを差し込めるかわからなかったのでねじ込んだ次第です。
あと、その日常風景部分が半分近くを占めていますが、後編の方と合わせればそう占める割合は多くないのでご容赦ください。元々は一つの話だったものですから。
とりあえず今回の「前編」は序章で、次回「後編」が本番というかそんな感じの位置になりますね。

それと、冒頭部分で「なのはの筆記用具はほとんど金属製」という割と意味不明な一文がありますが、これはとらハ3をやった事のある人なら分かるんじゃないですかね。
恭也や美由希も、いざという時に武器にできるような筆記用具しか持たないらしいのです。なら、なのはの持ち物が二人と似たり寄ったりな感じでも不思議はないでしょう。地味に筋トレになりそうですけどね、指の筋肉とかの。


余談ですが、エレクトロン焼夷弾というのは、実際に第二大戦中に使用されていた兵器です。本来はいくつも束ねて空襲に使っていたそうなのですが、逆に言うと個々のサイズはそう大きくありません。調べてみたところ、当時ですら4.2センチで4ポンドほどと、思っていた以上に小さかったみたいです。
士郎の場合相手にする敵が敵なので、通常の手榴弾などよりもこちらの方が使い勝手がよく、勝手に手榴弾的に改造し常に一つは持ち歩いている様な感じです。というか、破片や爆風で攻撃したり、一瞬の熱と炎で燃やしたりするようなタイプの兵器じゃ、死徒とかには相性が悪いと思うんですよ。
それならいっそ、摂氏二千~三千度の炎を上げ十~十五分に渡って燃え続けるこの兵器の方が、化け物相手には向いているでしょう。その上こいつ、酸素を使って燃焼するのではなく化学反応を利用して燃えるので、土の中だろうが水の中だろうがお構い無しに燃え続けるという代物です。なので、一度燃焼が始まると消火剤も無意味な為、燃え尽きるまで待つしかないという危険極まりない兵器だったりします。
とはいえ、なにぶんミリタリーに詳しくないので、目も当たられないような見落としとか素人故の勘違いがある可能性が大いにあります。なので、もし何かお気づきになりましたらお教えください。大急ぎで訂正させていただきます。

最後に今回「寒極」という言葉が出てきました。
普段あまり耳にする事のない単語でしょうが、造語や「極寒」の誤字などではなく実際に存在する言葉です。
これは「かんきょく」と読みまして、南半球と北半球のそれぞれで最も低い地上気温が観測された地点を指します。ちなみに、最悪-60度を下回る事すらあるそうな……死にますね、確実に。
もう人の住む場所じゃありませんて。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.031834125518799