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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:1963cf14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/18 14:19

SIDE-士郎

正直、こんな時に限って戦えない自分が不甲斐なくて仕方がなかった。
こんな体では足手纏いにしかならない事は承知しているし、無理をしても皆の足を引っ張るだけである事も理解している。
だから、リニスの説得に応じその言葉を信じることにした。
下手に動くより、その方が二人とも安心して戦えると思ったからだ。

無論、なんとか拘束から脱しようと足掻いてはいた。
リニスを安心させる為にああ言ったが、黙って座ってなどいられる筈がないのだから。

しかし、今日ばかりはそんな自分の見通しの甘さがイヤになる。
もし、もっと強硬にリニスに拘束帯を外すよう要求していれば、こんな事にはならなかったのではないか。
出来る事は微々たるものかもしれない。だがそれでも、その微々たる何かが戦局を動かした可能性はある。
その可能性があるからこそ、ヌルイ判断をした自分が赦せない。

今まさに俺の視線の先で、バインドで拘束された凛がフェイトに良く似たマテリアルにより斬り伏せられようとしている。それどころか、やや遅れてその横から桜色の砲撃が迫っていた。
「凛!?」
思わず、意味など無く、届かぬと知りながらあいつの名を叫んでいた。
如何に凛と言えど、これではどうしようもない。

助けに入ろうにも、身体は拘束されている。
いや、そもそも自由の身であったところで、負傷したこの体は思うように動いてはくれない。
そして、仮に万全の状態だったとしても、この距離を攻撃が当たる前の僅かな時間で詰められるはずもなし。
これだけの距離があっては、身体も術も……なにも間に合わない。

だが、そんな事は既に頭の中にはない。今頭にあるのは、何よりも大切な存在の安否だけ。
動かぬ身体を無理矢理にでも動かそうと捩るが、ギシギシと言う音を立てるだけで微動だにしない。

俺がそうしてもがいている間にも、大剣が凛の腕を襲い、砲撃がその身を襲う。
「ぁ…………!?」
絶望色に染まった声が漏れる。

(どうして俺はこんなところにいる、どうして俺はアイツの傍にいない、どうして俺の手はこんなにも短い、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…………どうして俺の手は、いつも一番大切な時に届かない!!!)
そんな疑問が頭を駆け巡り、自身への憤怒と憎悪が思考を焼きつくす。

しかし、最悪の未来予想は現実のものとはならなかった。
着弾直前に気付いた凛は、反撃の為に炎を纏わせた槍の方向を転換し、寸での所で槍で迎撃する事に成功する。
その結果砲撃の軌道は逸れ、凛は辛うじて直撃だけは免れた。

だが、その事実に安堵する間もなく、いつの間にかマテリアルが凛の懐に潜り込んでいる事に気付く。
そこで、アレが一体誰を素体としていたかを思い出した。
「マズイ……避けろ!!」
しかし、そんな声が届くはずもなく、マテリアルの拳は凛の体に吸い込まれるようにしてめり込む。
なまじ目が良い分、驚愕に歪む凛の顔も、腹にめり込む拳も鮮明に見て取る事が出来てしまった。

体勢を崩した凛は、それまでの疲労が噴出したように一気に落下して行く。
それを目視するのとどちらが先か、知らず知らずのうちに身体に力が込もっていた。
「あ、あぁぁぁあぁあぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!!」
強化さえ使えぬこの身に、拘束帯がちぎれるはずがない。
そんな事は先刻承知していたが、今の俺にそんな事を考える余裕はなかった。

今は只、真っ逆様に落下する凛の下に急ぎたかった。
負傷の事も、身体を拘束されている事も、距離も、何もかも思慮の外。
そんな事を考えている暇があったなら、一ミリでも前に進もうと無駄な足掻きを試みていた。

自由を許された数少ない部位である指が、必死に拘束帯を掻き毟る。
少しでも前に出ようと身体を前傾させるべく、拘束帯が食い込むのも無視して全身の筋力を総動員し体を動かす。
より強く体に力が入る様、あらんかぎりの力で歯を食いしばるうちに何かが裂ける音がした。
同時に、口内に血の味が充満し鼻に鉄の匂いが届くが、それに気付く事もない。

ただ一歩でも前へ、一ミリでもアイツの近くに。それ以外には何も考えられない。
腕が千切れれば僅かにでも動けるのなら、躊躇はしなかっただろう。
それほどまでに、この時の俺は眼に移る光景だけに意識の全てを傾注していた。

だが、思いだけでは現実は動かない。どれだけ強く、どれほど真摯に願った所で、それだけなら無意味。
動けぬこの身には、現実を動かせる要因がなに一つとして存在しない。

そして、真っ逆様に落下する凛にトドメを刺すべく、マテリアルの一人が追撃にでる。
それに対し俺は、身を捩ってもがき、叫ぶことしかできなかった。
「やめろ………………………………………………やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ、やめろ―――――――――!!!!」
届く筈もない言葉、叶う筈もない切望、覆る筈のない現実。
俺の口からあふれ出した懇願は、ただ虚しく虚空に消えていく。

だがそこで、起こらない筈の奇跡が起こった。
追撃するマテリアルのすぐ横に、赤い…紅い、朱い、緋い火が灯る。
その火は瞬時に燃え上がり炎の奔流と化し、そのままマテリアルを呑みこみ押し流す。

同時に、上空で凛と追撃するマテリアルの様子を俯瞰するように眺めていたマテリアルにも変化が起こる。
まるで、唐突に車にでも跳ねられたかのようにその体が弾き飛ばされた。

闇夜の中にあっては、何が起こったのかすら正確に認識することは困難だ。
だが俺の眼には、事を為した張本人達がしかと写っている。
「シグナム………それに…ヴィータ、か」
その姿と共に凛が体勢を立て直したのを見て、思わず全身から力が抜け安堵のため息が漏れる。

そこでようやく気付く。
散々暴れまくったおかげか、深く打ちこまれていた杭は抜け、身体が横倒しになっている。
どうやら、いつの間にか椅子ごと倒れてしまっていたらしい。
頬や身体に鈍く宿る痛みも、おそらくはそれが原因だろう。

しかし、その程度の事を喜んではいられない。むしろ、自分への怒りは増すばかりだ。
「なんで……なんで俺は………!!」
『あまり自分を責めるな、士郎』
怒りにまかせて頭を床に叩きつけようとする俺の内から、気遣わしげな声が響く。

それは、ここ数日の間ですっかりなじんだ『アルテミス』の声だった。
「アルテミス、か?」
『やっと届いたか。まったく、私がどれだけ声を涸らしたと思っている。
人の声を散々無視するなど、無礼にも程があるだろう。それで、少しは頭が冷えたか?』
どうやらこの様子だと、随分前から俺に向けて何か語りかけていたらしい。
だが、俺にはいつからこいつが俺を呼んでいたかわからない。
それだけ、俺は冷静さを欠いていたという事か……。

その事実に、半人前だった頃に戻ったかのような気恥ずかしさを覚え、すぐさま否定した。
(経験を積んだからって、一人前と言えたわけでもないか……)
聖杯戦争から十年が過ぎたが、いまだに一人前には程遠いと思い知らされた気分だ。

しかし、いつまでもそうして自嘲してもいられない。
なにより、新たな相棒は思っていた以上に厳しかった。
『悔いるのも良い、責めるのも良い……だが、そんなことは全てが済んだ後でも間に合うだろ!!
 後悔も、自責も、現実を動かすためになんら寄与しない! 今お前がすべきことは何だ!!』
「……わかってるよ。ここで倒れてても何の意味もない。
ちょっと行動の幅が広がった程度で喜んでる暇も、自分の無能さに腹を立てる猶予も……ないんだよな」
『わかっているならそれでいい。今の私と違って、お前は今を動かせるのだろう?』
そうだった、宝石に閉じ込められて身動き一つできないこいつに比べれば、俺は遥かにましだ。
こいつがしたくてもできない事が出来るのに、こんなところでウダウダやっていては叱られるのは当然だろう。

とはいえ、このままで出来る事は限られる。
『それで、この後はどうするつもりだ?』
「まずは、この抗魔術を何とかする。俺にできるとすれば、魔術による援護だけだからな」
構造的に身体が動かせない以上、出来る事は限られている。
魔術を使っても、この傷んだ体には負担が大きいだろうが、そんな事は知った事じゃない。
もう二度と、ただ見ている事しかできないなんて御免だ。

手も足も未だ拘束されたまま。それどころか、イスと言う邪魔者まで一緒にいる始末。
それでも顎と胴体を巧く使い、床を這いずって目的の場所を目指す。
とにかく、まずはこの拘束帯とそこに付与された抗魔術の解除だ。
それを為さない事には、何も始まらない。

そうして、まるで芋虫のように遅々たる速度で進むその様は、他者が見れば滑稽に映る事だろう。
「無様だと、笑うか?」
『ああ、確かに無様だな』
まったく、歯に衣着せずにハッキリと言ってくれる。

いや、実際にこれ以上ない程無様な格好だろう。
この体勢も、援軍が来たのに未練がましく足掻く事も、何もかもが。
しかしそれでも、立ち止まろうとは微塵も思わない。
どれほど無様でも、出来る事があるのに何もしないのには耐えられない。

そしてアルテミスもまた、そんな俺を嗤いはしなかった。
『だが、今のお前の姿を嗤う者がいたとすれば、それは救い難い程の蒙昧だ。
 何かに必死になる者を、懸命に何かを為そうとする者を嗤う事以上の愚行はない。そうだろう?』
「さて、お前と違ってそんな偉そうなことを言える身じゃないからな……まあ、嗤われた所で何が変わるわけでもなし、俺には関係のない話だ」
そう、何も関係ない。誰が嗤おうが、何を言われようが知った事じゃない。
為すべき事がある。求める事がある。その為に醜態を晒す必要があるのなら、喜んで晒すさ。
元より、結果の為に格好や過程を気にしていられる余裕なんて、俺にはないんだから。

そうしているうちにも、扉を抜け廊下に出る。
間に合うかどうかはわからないが、やれる限りの事はしよう。
凛やリニスには怒られるかもしれないが、そうでないとこの新たな相棒にそれこそ嗤われる。
嗤われる事に比べれば……まあ、怒られる方がマシだろう。



第47話「闇の欠片と悪の欠片」



SIDE-凛

危地に駆けつけてくれた守護騎士達。
ヴィータはマテリアルSを殴り飛ばした先を険の宿った視線で睨む。
同時に、シグナムもまたマテリアルLへの警戒を怠らない。
その姿勢から、二人とも「まだ何も終わっていない」と考えている事は明らか。
不意を打っただけで倒せるほど、甘い相手ではないという証左だろう。

とそこで、三人に同行していたシャマルとザフィーラが謝罪する。
「ごめんなさい、闇の欠片達の対処に思いのほか手間取ってしまって……」
「ここに来るまでも、我等を阻むように何度も現れてな。
……いや、言い訳は見苦しいな。遅くなった、すまない」
「ま、それは良いわ。ちゃんと間にあってくれたんだから文句は言わないわよ。ところで、はやては?」
「はやてちゃんはすずかちゃんのお家の防衛戦に参加しています。
 なのはちゃんのご家族も今はそちらにいるそうですから、関係者は全員集まった事になりますね」
「元より、主はやては魔法の錬度も戦闘の経験も不足しておられる。ましてや、今はその手に馴染む杖もない。
 提督からは獣達の排除を任されたのだ」
なるほどね、確かにそれが妥当なところか。今のはやてには、同等以上の能力の敵と戦う力はない。
魔力量や術のレパートリーには申し分ないが、いかんせんそれ以外の要素が欠如し過ぎている。
ある意味、アレ程アンバランスな状態も珍しいだろう。

「それで、なのは達は?」
「残った闇の欠片達の対処に回っています。
 さすがに、今凛ちゃんに会わせるのはまずいだろうと……」
「リンディさんには感謝ね。確かにその方がいいわ」
正直、会ってもどんな顔をしていいかわからない。

だが、あまり悠長に話している場合でもないか。まだ、ピンピンしているのが一人いるわけだしね。
「塵芥如きが王の決定に逆らうなど分際を知れ、痴れ者どもが!! その首、即刻削ぎ落としてくれる!」
「いや、それはご遠慮願おうか。君達にも事情があるんだろうが、それはこちらも同じだからね」
「!? バインドか、小細工を!」
「シグナム達に気を取られて気付かなかったようだね。君は、少し慢心と油断が過ぎるんじゃないかい?
 それと、小細工や搦め手なんて言うのは僕にとっては褒め言葉だよ。どうもありがとう」
いつの間にか接近していたクロノの放ったバインドが、幾重にも折り重なりマテリアルを拘束する。
やれやれ、いくらなんでも戦力を集め過ぎなんじゃないかな?

そんな私の考えを察したのか、クロノがその理由を明かす。
「別にそうでもないさ、一番反応の大きい三つがここにいるんだからね。なら、こちらもそれ相応の戦力を送るのが当然さ。おそらく、彼女らが闇の欠片の中枢だろうし」
「ここで一網打尽にできるに越した事はないからな」
ま、ザフィーラの言う事も最もか。
折角一ヶ所に集まってくれてるんだし、どうせならスマートにいきたいだろう。

にしても、やけにタイミングが良いわね。
「それは良いけど……まさか、出待ちしてたんじゃないでしょうね」
「少しは信用してくれてもいいんじゃないか?」
「そういう事は、ちゃんと敵を仕留めてから言いなさいよ。
 きっちりトドメもささずに気を抜くのは、ちょっといただけないかな。ホラ……」
やはり、あの程度では倒しきれなかったか。
瓦礫の山から二つの人影が現れ、クロノのバインドは容易く砕かれ脱出を許す事となった。
ほら、やっぱりさっさと息の根止めておけばよかったじゃない。

「くっそ~……寄ってたかって邪魔ばっかりして、お前ら少しは気持ち良く戦わせろよ!!」
「彼女の意見は無視するとして、今のはかなり効きました。さすがは闇の書の守護騎士です」
「はっ! 何が『さすが』なものか。敵の生死も確かめず気を抜くとは、かつては血と怨嗟にまみれた誉れ高き闇の書の守護騎士が、小烏の下で随分と腑抜けたものだ」
「訂正しろ。闇の書ではなく、我等は夜天の騎士だ」
「そーだバーカ! いつまでも間違った呼び方するなんて情報が古いんだよ!!」
「それに、生死を確かめなかったわけじゃありませんよ。
元から、この程度で終わるなんて思ってませんでしたから」
「しかし、主への侮辱は聞き捨てならんな。その報い、必ずや受けてもらうぞ」
敵味方共にその戦意はうなぎ上りに上がっていく。
こっちはちょっとダメージが大きいし、ここからは任せるしかないか……。

だけどそこで、一つの異変に気付く。
「ちょっと待ちなさい、アンタさっき腹から血が出てたはずじゃ……」
「うん? そんなモノは止まった!!」
バカだと傷の治りが早くなったりするのかしら?

「誰がバカだ!!」
「あなた以外いませんよ。しかし、別に頭が悪いと傷が早く治るとも聞きませんね。
 わたし達にそんな機能はありませんし……となると、やはり『アレ』のせいですか」
「アレとはなんだ?」
なのは似の……面倒ね、マテリアルSとか言ってたし「S」で良いや。
そのSの言葉にクロノがいぶかしむ様に問いかける。

その問いに、オリジナルの律義な性格が反映されているのか、Sは一応答えてくれた。
「話す理由も意義もありませんが……まあ、良いでしょう。
 本来、わたし達が実体を得るにはもう少し時間がかかる筈でした。しかし、漂っていた闇の残滓と『ソレ』が結合した事で、我々は通常より早く実体を得たと言う事です」
「その『アレ』だの『ソレ』だのってのは何?」
「我々にもわかりません。ただそれは……「ぐぅ…あ、あぁぁぁぁあぁあぁぁ――――――――っ!」……まったく、今度は何ですか?」
突然絶叫を上げるL。その体を、見覚えのある黒い紋様が浸食していく。

アレは、確か……
(令呪? いや、似てるけど違う)
そう考えた瞬間、知らない筈の知識と何かが合致し、急速に答えを導いていく。
引き出された知識は未だに整理されておらず、私自身にも上手く把握しきれてはいない。

だが、それでも理解できた事はある。
「アンタ達…まさか、アレを取り込んだの……」
もしそうなら、確かにこの現象も納得がいく。
アレは宿主を生かそうとする性質があったし、あの終末の夜で見た獣がいることにも説明がつく。
なんであれがこっちにあるのかは甚だ疑問だけど、あるとしたら考えるだけ無駄だ。
あるものはある、原因を考えるのは後でもできるんだから。

そしておそらく、こいつらが無意識のうちにここに集まったのもそのせいだ。
向こうからすれば、聖杯を破壊した私達は真っ先に殺したい相手の筈。
とはいえ、今の様子からして初めの主導権はこいつらにあったのだろう。
しかし、徐々に浸食されてきている。傷を負ったLの方は、その治療のために他より一足早く浸食が進んだってところか。

とすると、もうあっちには本来の人格なんて残って無いわね。
闇の書の歴史はおよそ千年と聞く。なるほど、確かに積み上げられた歴史は尋常なものではない。
だけど、そんなモノ子ども騙しに過ぎないのだ。
なにせ向こうは何千年も前から続く、神代から願われてきた『人間の理想』そのもの。
存在の重みの桁が…………次元が違う。

闇の残滓が『アレ』を触媒にして実体化し、今まさに『アレ』が闇の欠片を支配しようとしている。
最終的にどっちが主導権を握るかは知った事じゃないが、どっちにしろロクな事にはならない。
最悪の場合、『砕け得ぬ闇』と『この世全ての悪』の両方が顕現する。

「どうやら、あなたには心当たりがあるようですね」
「一応はね。私自身、まだ詳細は断片的で判然としないけど。
 にしても、どこでそんなモノ引っかけたのよ。こっちの孔は、ちゃんと塞いである筈なのに」
「そうなのですか? 我々が発見した時は、思い切りダダ漏れになっていましたが?」
んなバカな。それだけ漏れてれば嫌でも気付く…………ってあれ? 何か見落としてる気が……。

「ついでに聞くけど、それどこ?」
「八神はやての家の付近です」
それかぁ――――――っ!! そう、こっちに来たのは私達だけではなかった。
私達が使った方に影響が出たって事は、向こうにだって影響は出た筈。

というか、むしろアイリスフィールが死んだ筈の時間軸を考えればあっちの方が濃度はずっと濃い。
残りカスだけでここまでになるか疑問だったのだけど、それなら納得だわ。

あ~あ、だから見落としがあるんじゃないか気にしてたのに。
まさかもう一ヶ所の方を失念していたとは……なんて『うっかり』。
「凛、イマイチ状況が理解できないんだが、なんで君は頭を抱えているんだ?」
「気にしないで、ちょっと自己嫌悪してるだけだから」
ま、救いがあるとすればやる事は変わらないって事ね。とにかく核となる部分であるこいつらを殲滅すれば、それで解決するわけだし。念の為、後で八神家の様子を見に行っておこう。

「そうか……まあいい、今は彼女らを倒す方が先だ。
 シャマルは凛の治療を、ザフィーラはリニスと一緒に近づいてくる獣達の排除だ。残りは……」
「マテリアル達をぶっ潰せばいいんだろ」
「ああ。それに、テスタロッサとの決闘の前の良い前哨戦になるな。
 烈火の将、シグナム。推して参る!」
クロノの指示に従い、それぞれが自身の役割を全うするべく動き出す。
ヴィータはSを、シグナムはLを、クロノはDに向かって疾駆する。

Sの方は冷静に距離をとりつつ、誘導弾を撒き散らしてヴィータの進軍を防ぐ。
ヴィータはそれに対し、ガチガチに守りを固めながら除雪車か砕氷船の如く弾雨を掻き分けていく。

真っ先に正気を失ったLは、獣染みた唸り声を上げながら空を疾走する。
思考能力を失ったからこそ、その本能に任せた動きは後先が無視され、逆に動きのキレが良くなっていた。
シグナムはそれを冷静に捌きつつ、一瞬の交錯に合わせて敵の体を削る作業に終始する。
おそらく、限界を迎えて動きが鈍った瞬間に必殺の一撃を入れる算段なのだろう。

クロノが向かったDの方も、基本的な戦術はSのそれに近い。
広域型のアレからすれば、とにかく距離を取って戦うのが基本なのだろう。
しかし、距離を取りたいと言う意味では同じなクロノとの利害は一致し、ヴィータの方とは違う静かなせめぎ合いが続く。

そんな三者三様の戦いの中で、真っ先に変化が起こったのはシグナムの所だった。
シグナムは唐突に軽く息をつき、体から力を抜く。
アイツ、一体何をするつもりなわけ? 今の戦い方でも、向こうは考えなしだからとりあえず勝てる筈なのに。



Interlude

SIDE-シグナム

とてつもない速度で飛来するそれは、喉が避けんばかりの咆哮と共に大剣を振り抜く。
「あ”あ”ぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」
しかし、やはり本能に任せたそれは直線的過ぎる。
速度の点でいえば制御を無視した分速くなったが、こう単調では見切るのは容易い。
動きを正確に追うのは難しいが、金色の軌跡から進路を予測する事は出来る。
同様に、来る斬撃もある程度は構えや肩の動きから読む事が可能だ。

まるで鉄砲玉のように飛んで来ては弾き、いなし、避けるを繰り返す。
同時にその間隙を縫い、少しずつではあるが切っ先をその体に埋めていく。
そうしている間に、相手の体は交錯するごとに紅に染まる。
まあ、切ったそばから黒い何かで塞がっていくので、見た目は傷だらけという印象はないか。

しかし、本当に獣だな、これは。
「……テスタロッサとの勝負の参考になるかと思ったが、これでは意味がないか。
 お前は確かに速いが、そこに知性が無いのであればアレの本領には到底届かん」
そう、テスタロッサは決して速さだけの少女ではない。
臨機応変にそのスピードを活かして見せる知性こそが、アレの武器の一つ。
ただ獣のように襲いかかるだけの敵では、仮想敵としては成り立たない。

それに、遠坂から受けた傷は塞がってはいても治ってはいないらしい。
当然と言えば当然だが、単に傷を埋めただけか。
速いには速いが、動きにはどこかぎこちなさがあり精彩を欠いている。

このままでもいずれは自滅するだろうし、徐々に削っていけばそれも早まる。だが……
「……やはり、待ちの姿勢というのは性に合わんな」
こうチマチマした作業は趣味ではないし、どうせなら気持ち良く剣を振り抜きたい。
つまらない意地なのかもしれんが、それでも敵を弱らせてから倒すと言うのはな。

やはり、どうせやるなら真っ向から斬り伏せるに限る。
そう意を決し、堅実な戦術からギャンブルに戦い方を切り替える。
剣を握る手からは適度に力を抜き、逆に刀身には紅蓮の炎が猛り狂う。

そのまま両手で軽く柄を握り、上段に振り上げる。
「がぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!」
「ふっ!」
そして、呼気ともとれるほど小さなそれと共に、目の前の敵に向けて到底視認できない速度で振り下ろす。
その瞬間空気が破裂し、業火が爆発するように膨れ上がった。

炎が治まると、私の背後にはマテリアルLの姿。その体は所々が焦げ、先の炎に焙られた事を物語っている。
だが、こちらも無傷とはいかんか。
「ぐっ……さすがに、速いな。とてもではないが、防御までは手が回らんか」
そう言った所で、私の右肩から背中にかけて鮮血が吹き出す。

私に刻まれた傷は決して浅くはなく、これでは戦力の大幅な減衰は避けられない。
しかし、それは相手も同じ事。
「確か、肉を切らせて骨を断つ、とはこの国の言葉だったな。
 こちらも一太刀浴びはしたが、その代価……確かにもらいうけたぞ」
空中で回転する白と黒、そして赤を帯びた何か。
それが私達の間を通過し、大地に向けて落下していく。

地に落ちたそれは――――――人の腕。白は人の肌、黒はバリアジャケット、赤は血の色だ。
テスタロッサとよく似た少女の左腕は、肩から先が消えていた。同様に、その白い肌からは血の気が失せている。

当然だろう。あの一瞬の交錯の瞬間、渾身の一振りで斬り落としたのだから。
「敵とはいえ、子どもの腕を斬り落とすのは、やはり良い気分はしないな」
手に残る不快さは、やはり如何ともしがたい。
戦いを好む事は否定しない。強敵と戦える事には心躍るが、それでも人体を両断する感触は嫌なものだ。

…………………矛盾だな。これでは、確かに腑抜けといわれても仕方がないか。
「しかし、それもまたよし。その矛盾も含めて、今の私の力なのだから」
「ぐ…ぁ……あぁ」
「さすがに腕が再生したりはしないか。だが、無理矢理傷を埋めると言うのも、こうして見ると醜悪だな」
一応切った腕はそのままだが、血は既に止まっている。黒い何かで詰め物でもしたかのようだ。
これは、主には見せたくない光景だな。

だが、片腕を失った手負いの獣は、無理に攻め立てる事はせずに遠巻きにこちらを睨み、唸り声を上げる。
どうやら、戦の趨勢を察する程度の本能は残っていたか。
「そう睨むな。別段、何か特別な事をしたわけではない。
 これはテスタロッサにも言える事だが、お前達は速いが守りが薄い。故に、当てる事に集中して威力は二の次にしただけの事だ。一応魔力を込め、炎を帯びこそはしたが力は抜いていた。
 ただ速く振り抜く、それだけを意識するのなら余計な力はこめない方がいいからな」
単純な移動スピードなどではテスタロッサの方が上だが、一撃の速度でならその限りではない。
拳を握り締めるより、軽く握った状態の方が速いと言うだけの話。

「勝負ありだ。その腕ではその剣を扱えきれまい。
重量は軽くとも、それだけの大きさなら遠心力はバカにならん。体が流され、致命の隙を晒す事になるぞ」
「あ”ぁぁぁぁぁあぁあぁぁ!!」
などと言った所で、相手にそれを解する思考能力は既にないか。

ならば、せめてもの慈悲は……
「これで終わりにしよう。できるなら、本調子のお前と戦いたかった」
レヴァンティンを連結刃へと変え、縦横無尽に振るう。

片腕を失った分身軽になったようだが、時間の問題だ。
体に蓄積したダメージは、既に十分動きを鈍らせている。
無理矢理動かそうにも、構造的に動かなくなりつつあるのだ。
いくら痛みを無視して筋肉を動かしても、動かすべき筋肉が切れていては動かない。
今の奴は、まさしくそういう状態なのだ。

レヴァンティンを振るい、徐々に敵を追い込んでいく。
伸ばしきれるだけ刃を伸ばし、縦横無尽に刃の蛇を走らせる。
本能的に回避する分、逃げる先は予想しやすい。
そちらに先回りするように切っ先を操り、回避先を潰していく。

やがて、レヴァンティンの切っ先が奴の体にめり込んだ。
動きが止まった瞬間を逃す事無く、レヴァンティンを戻し渾身の力で振り抜く。
「終わりだ。飛竜……一閃!!!」
炎を帯びた切っ先が、夜を引き裂かんばかりの勢いでマテリアルに向けて疾駆する。
あの崩れた体勢では、最早回避は叶わない。

その終わりの一撃を、奴は末期の咆哮と共にデバイスで受け止める。
しかし、渾身の一撃はそれを容易く砕き、奴の体を刺し貫く。
そのまま炎に焼かれ、今度こそ奴は活動を停止した。

Interlude out



SIDE-凛

「シャマル、まだ終わらない?」
「すみません、かなりダメージが大きいのでもう少し待って下さい」
ま、あんなのを受けたんだから当然と言えば当然か。
大分動くようにはなって来たけど、未だに感覚がないしね。

しかし、そんな事を言っているうちにも戦いは進んでいく。
「だぁ――――っ、全っ然近づけやしねぇ!!
 こんにゃろう、間合いの測り方がべらぼうに上手くなってやがる」
「わたしはある意味闇の書でもありますからね。あなたの恐ろしさも戦い方も熟知しています。
 その意味でいえば、オリジナルよりあなたとの戦い方は弁えているつもりですよ」
などと言いながら、またもヴィータの一撃を軽やかに回避する。

踏ん張って踏ん張って近づいても、一撃入れようとしたところで綿のようにフワフワとかわされてしまう。
或いは、誘導弾を上手く使って鼻先を掠める事で足を止め、その間に再度距離を取られるの繰り返し。
割と短気なところのあるヴィータには、さぞかし鬱陶しく感じているだろう。

「とはいえ、これでは埒が明きませんね。こちらとしても、もうあまり時間はなさそうですし」
そう呟き、Sは自分の顔の右半分に手を当てる。
良く見れば、その下には件の黒い紋様がうっすらと浮かびあがっていた。
アイツも徐々に浸食されてきていると言う事か。

「まあ、その分力は上がってきている様ですから、その点はありがたいのですけど」
「あん? 砲撃でも撃つってか?」
「そうしたいのは山々ですが、大技を使う隙を見せるのは避けたいですね。
 下手に隙を見せると、その瞬間に轢死した蛙の様にされそうですし」
「ちっ……」
良く状況を弁えている。砲撃は威力がデカイけど、その分隙も大きい。
使うのなら、邪魔されない必中の状況を作ってからでないと意味がない。

そして、その隙をヴィータは簡単には与えない。
間断なくプレッシャーをかけ、砲撃を撃つタイミングを外す技術が群を抜いて上手い。
砲撃の構えを取ろうにも、そこで突っ込んでくるものだからさぞかしやり辛いだろう。
勇気と知略、その両方がバランスよく成り立っている。
性格と戦闘スタイルに眼がいって忘れそうだけど、アレでかなりの戦巧者だわ。

しかしそれは相手も同じ事。思うように事が運べないながらも、冷静に状況を分析している。
「困りましたね、どうも千日手っぽくなってきました。
このままいけば、最後にはわたしが呑まれて終わりですか」
「の割には、全然慌てねぇんだな」
「わたしは『理』のマテリアルですから、『理』性が揺らいでは画竜点睛を欠くというものでしょう」
難しい言葉知ってるわねぇ。でもあの様子だと、何かしら考えがあると見た方がいいか。

「安心しろ、呑まれる前にきっちり叩き潰してやるからよ」
「その前に、あなたが討たれると言う可能性もありますがね」
「はっ、一体どうするつもりだってんだよ」
「そうですね、こんなのはどうでしょう?」
言うや否や、マテリアルはバリアを纏いそれが一気に膨張する。
そのままヴィータ呑みこんだ球形の魔力の膜が、今度は逆に徐々に収縮しサイズを小さくしていく。

やがてその膜がマテリアルに触れるが、まるで何事もなかったかのように素通りする。
「まさかアレって……ケージ?」
「っぽいわね。防御と見せかけて、本命は拘束ってわけか」
シャマルの呟きに私も同意する。おそらく、触れる対象を限定した特殊なケージなのだろう。
自分は素通りし、一度はいった敵は抜け出せない様に術が組まれている。
実際、膜に触れたヴィータは内側に向けて弾かれていた。

だが当然、ヴィータも脱出しようと行動を開始する。
数度殴られたところで、ケージに蜘蛛の巣状のヒビが入っていく。
「やはり、長くは持ちませんか。まあ、十分予想の範疇ですね。それでは、ブラスト…ファイアー」
桜色のケージに向け、同色の砲撃が放たれる。
アレが接触対象を限定したケージなら、あの砲撃は素通りの筈だ。
となれば、籠の鳥のヴィータは直撃する事になる。

しかし、百戦錬磨のヴィータがそう簡単にやられる筈もなし。
「ざけんな! アイゼン!」
《ja!》
その場でアイゼンを変形させ、噴射を利用し体を回転させる。

そのまま、迫りくる砲撃に向けてハンマーの突起を叩きつけた。
「ラケーテン、ハンマ――――!!」
ゴガン、という凄まじい音と共に爆発が生じる。
極太の砲撃と乾坤一擲の一撃、その正面衝突。

その結果は、誰もが予想だにしなかったもの。
殴られた砲撃は向きを変え、射手に向けて突き進み、それをマテリアルは直前で回避する。
しかし、そのあまりの光景に唖然とし呆れ返っていた。

ヴィータの方は、衝突の反動で真逆に吹っ飛び、近くの民家を破壊している。
まあ、たった今元気に出てきたところだけど。
「また、なんという無茶な真似を。
わたしの砲撃を殴り返し、あまつさえ衝突の反動を利用してケージから脱出するとは……」
「はっ! アイツの砲撃はこんなもんじゃねぇ!! お前のは軽すぎんだよ!!」
どこまでが本当なのか受けていない私にはわからないが、それがヴィータの言い分だ。

しかし、その言葉にマテリアルは変な回答を返す。
「そうですか、少々……ショックです。
 これは、なんとしてもわたしの方が優れていると証明せねばなりませんね。
 具体的には、我が星光を以て蒸発させるあたりが理想的ですか……」
まさか、ヴィータの言葉を真に受けたわけじゃあるまいが……よくわかんないわね。
グッと拳を握りしめ、何やら基本方針を再確認していらっしゃる。

にしても、なんだってまたこう物騒な単語が好きなのかしら。
ま、おかげで何をするつもりなのかはだいたい予想できたけど……。
そもそも、アレがなのはを模してる以上、ねらいはアレだろうとは思ってたけどね。

だが、ヴィータとてそう簡単にアレを使わせる筈がない。
そう思っていたのだけど、事態は予想以上に深刻だった。
なにせヴィータの奴……
(やべぇな。なんとか直撃は避けられたけど、腕が痺れて力が入らねぇ。
 まったく、なのはの奴といいこいつといい、出鱈目な砲撃使いやがって……)
などという状態だったのだ。
しかし、その時の私達はその正確な状態を知らない。

だが、対戦相手であるマテリアルはその状況を理解していた。
「その様子では、どうやら無傷というわけでもなさそうですね。
 ならば、ここで畳掛けるとしましょう。パイロシューター」
そう言って、二十にも及ぶ誘導弾が放たれる。
ヴィータは必死になってかわすが、反撃には出ない。
その様子から、私達もヴィータの異変に気付く。

しかし時既に遅し。もう、奴の準備は整っていた。
「ブレイク」
ヴィータの周囲に集まっていた誘導弾が爆ぜ、その爆風がヴィータの小さな体を煽る。
それを続けざまに二十。全ての誘導弾が連鎖爆発し、ヴィータの体を翻弄した。

そして……
「ルベライト。準備は整いましたよ、ルシフェリオン」
《了解。ルシフェリオンブレイカー、発射態勢に入ります》
ヴィータはバインドにより拘束され、身動きが取れない。
それに合わせ、マテリアルも自身のデバイスを変形させて詰めに入る。

当然、トドメの一撃はアレだった。
「アレって、なのはちゃんの集束砲……!?」
「スターライトブレイカー、か。やっぱり、最後はそれよね」
シャマルは私の治療で動けない。仮に動いても、それに対応する準備くらいは整っているだろう。
それに関しては私やザフィーラに対しても同じはずだ。

そうしている間にも、マテリアルの前に桜色の光が灯る。
やがてそれは星々の光が集うかの様に魔力を喰らい、徐々にそのサイズを大きくしていく……筈だった。
「これは……周囲の魔力は十分な筈なのに、なぜこれほど集束率が悪いのですか……?」
マテリアルから、信じられないと言わんばかりの呟きが漏れる。
一度完成してしまえば防御など無意味な筈の砲撃は、その完成がいっこうに訪れない。
それどころか、集う光の粒は小さく数も少ない。それは誰の目にも明らかだ。

ま、当然種も仕掛けもあるんだけど。
「上手くいったみたいね」
《そうですね、仕込んでおいて正解でした》
「あなた方の、仕業ですか?」
「まあね。アンタがなのはのコピーなら、当然集束砲を使う可能性は考えるでしょ。
 なら話は簡単よ、使えない様に邪魔をしてやればいい」
他の魔法と違い、こいつにだけは公然とジャミングがかけられる。
術の構成に割り込むよりかは、よっぽど楽だしね。

「ですが、どうやって……」
「何も難しい事はしてないわ。集束系が使えるのはアンタだけじゃないって話。
 この空間内にある魔力は、それだけなら誰の物でもない。なら、私にだって使用権はある筈でしょ?
 そして、集束使い同士の戦いは綱引きよ。どっちがより多くの魔力を引っ張れるかっていうね」
「まさか、あなたも集束魔法を使っていると言うのですか……しかし、そんな素振りは」
「別にそこまではしてないわ。っていうか、そこまでしたらさすがに気付くでしょ。
 だから、私は魔力を集めるんじゃなくて集める“邪魔”をしてるだけ。こっちからは引っ張らないけど、引きずられない様に支えている様なものよ」
元より、大気中の魔力を利用するのは魔術にもある技術だ。
こちとらキャリアは二十年以上。十年も生きていない小娘の、それもコピーなんぞにばれるヘマはしない。

「なら、まずはあなたを排除します。その上で、もう一度集束砲を使えばいいのですから」
予想外の事態に一瞬動きを止めたが、私を排除しようと急いでその砲口を向ける。

しかし、明らかに動きだしが遅い。それにアンタ、大事な事を忘れてるでしょ。
「ふ~ん、でもいいの? 私の相手なんかしてて。上、見た方がいいと思うんだけどなぁ」
「まさか!?」
「ナイスフォローだぜ、凛!! 轟天…爆砕!!」
既にバインドから逃れていたヴィータは、上方を取りアイゼンを構える。
振り上げると同時にそのサイズが変わり、巨大な鉄槌へと変貌した。

「ギガント……シュラ―――――ク!!!」
「くっ、ブラストファイアー!!!」
砲撃と鉄槌の衝突。今度は相討ちとはならず、巨大な鉄槌を前に砲撃はまるで爪楊枝のようだ。
即ち、圧倒的質量と魔力に叩き潰され、無残にも砕け散った。

そして、その天墜の一撃は一直線にマテリアルへと迫る。
寸前にシールドを展開するが、そんなものアレの前では紙と大差ない。
「おらぁ――――――――っ!!」
「あぁぁあっぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
そのまま鉄槌は振り抜かれ、マテリアルを地に埋めた。
ヴィータはアイゼンを戻し、油断なく鉄槌の跡を見下ろす。

これで、こっちはケリがついたわね。さすがに、アレを受けた立てる筈が……。
だが、思いの外しぶとかったようで、折れたデバイスを手にSは立ち上がる。
「はぁ…はぁはぁはぁ……」
「いい執念だ。まだやるか?」
「……………いえ、さすがにこれ以上は動けませんね。立っているのがやっとです」
「そうかよ」
その言葉に偽りはないだろう。事実、足元はおぼつかずふらふらしている。
今なら、指で軽く押すだけでも倒れる筈だ。

しかし……
「浸食が進んでいますね。傷が埋まり、破損個所を補修してまた戦えるようになるのも、時間の問題でしょう」
「…………」
ヴィータはその言葉に応えない。だけど、事実あれの体の周りを黒い泥の様なものが蠢いている。
おそらく、その言葉通り数分としないうちにまた動けるようになるだろう。

だが、マテリアルの口から零れたのは意外な言葉だった。
「ですから、今のうちにトドメを刺していただけませんか?」
「どういうつもりだ?」
「大層な理由はありません。確かにわたしは直復活するでしょうが、それはわたしであってわたしではありません。雷刃の様に、自我を失った獣と化すでしょう。実際、今こうして意識を保つことすら一苦労ですから」
息は荒く、眼から光が失われつつある。
その事が何よりも鮮明に、その言葉の正しさを証明していた。

なるほど、『だから』か。
「正直、あんな醜態を晒すのは御免被りたいのですよ。彼女のアレは、わたしの趣味ではありませんでしたから。
 ですから、そうなる前にトドメを刺していただきたい。他の誰かではなく、わたしに勝ったあなたに。
 わたしに『あなたに敗れた』という事実をいただきたい。このままだと、わたしの最期は『この泥に呑まれて消えた』という、つまらないものになってしまいますので……」
それだけが心残りだと、マテリアルは言う。
死力を尽くして負けたのだから、それに関して悔いはない。
しかし、それが別の醜悪な何かに塗り潰されるのが我慢ならないのだと。

せめて、最後は自分自身として消えたい。勝者の手によって消える、それこそが彼女の最期の矜持。
そんな意地を、ヴィータは潔しと受け取った。
「わかった。目的もやり方も賛同できねぇが、それでもおめぇは立派な戦士だったよ。
 それを、あたしはずっと覚えてる。おめぇはあたしに負けて消えるんだ。
それは誰にも穢させねぇ。何があろうとその事実を守ってやる。だから――――――――安心して逝け」
「……ありがとうございます」
「あばよ。テートリヒ・シュラーク」
ヴィータは小さく呟き、終わりの一撃を打ちこむ。
それは決して強力なものではなかったが、打たれた箇所からマテリアルは崩壊していく。

その最後の顔は、ついぞ表情というものがなかったマテリアルに浮かんだ小さな笑み。
鉄槌の騎士から送られた安堵を胸に、星光の殲滅者は夜に消えた。

さて、クロノの方はどうなってるかな。
アレもかなり厄介そうだけど、アイツは大丈夫でしょうね。
それになのは達の方も気になるし、夜はまだまだ長そうだ。



Interlude

SIDE-クロノ

僕とマテリアルDの戦いは、他の二組が『動』だとすれば『静』の戦いだ。
どうやら、タイプ的に似たようなところがあるのか、互いにそれほど目立った動きは見せない。

移動スピードは決して速くなく、直射弾や誘導弾を放ちながらの策の練り合い。
そのため、詰将棋の様に互いの次の手を、腹の内を探り合う。
おかげで、こっちが置いた布石を潰され、相手の巡らした策謀を解体するの繰り返しだ。
正直、他の二人の様に派手に動き回ってくれた方が嵌め易いんだけどな……。

しかし、それは相手も同じ気持らしい。
「ちっ、足掻くか下郎。王の時は金よりも貴重だと言うのに……」
「生憎と、それが僕の仕事だからね。とはいえ、こうして牽制し合ってばかりいても芸がないか。
 そろそろ、こちらも動かせてもらうよ」
そう宣言し、先に動いたのは僕の方。
動いた方が負ける、という状況は確かにあるけど今はそうじゃない。
単に、お互い次の一手を決めかねていたが故の硬直だ。

ならいっそ、こうして考えなしに場を動かすのも手だ。
何より、僕だけ何もしていないと思われるのは心外だからね。

スティンガースナイプを放ちながら、折りを見て設置型のバインドをばらまいていく。
まあ、それは向こうも承知の上の事の様だが……。
「またバインドか? 存外芸がないな、塵芥!」
「そうでもないさ。なんとかとハサミは使いようという奴だよ」
さすがに闇の書の欠片だけあって、その魔導の知識は尋常ではない。
さっきからずっとそうなのだが、使う術の尽くを解体されてしまう。

破壊ではなく解体だ。
破壊なら、それこそ魔力の強い者やバインド破壊系の術を使えば簡単にできる。
しかし、解体するとなると話が違う。術の構成を一瞬にして見抜き、式に割り込み解体する事で無力化する。
そんな事が出来る術者なんてまずいない、余程そう言った事に特化していない限り不可能だろう。

だが、奴はそれをいとも容易くやってのける。
誰よりも豊富な魔導の知識と、それを応用できる能力があるのだろう。
それははやてにも潜在的にその可能性がある事を意味するが、難しいだろうな。
アレは、マテリアルという特殊な存在だからこそできる領域だ。
はやてがこの先数十年研鑽を続ければできるようになるかもしれない、そう言う領域。

まあ、確かにすごくはあるんだが、実用的かというとそれほどでもない。
同じような結果を出すにしても、それなら破壊してしまった方が手間はかからないしね。

アレだ、相当自己顕示欲が強いのだろう。
こいつは効率的な手段ではなく、自分の凄さをアピールする戦い方を好む傾向にある。
王を自称するだけあると言うべきか……とにかくそれがこいつの弱点だ。
「知っているかい? 設置型のバインドは一度置くと動かせない。だから、相手がそれにかかるように戦いを組み立てなくちゃいけないんだけど、自立行動するようプログラムを組めばその限りじゃないんだ。
例えばそう……特定魔力の自動追跡とかね!」
その瞬間、マテリアルの体を一条の光の縄が包み込む。
ディレイドバインド、設置型バインドに自立行動するプログラムを組み込んだ特別製。

移動速度は遅いし、複雑な分一度に作れる数もその強度も低くなってしまったけど、こう言う時には役に立つ。
ここまで使わずにいたのは、そんな搦め手はないと誤認させるためだったんだが、上手くいったか。
「ほう…………なかなか面白いな。だが、こんなもので本当に我を縛れると思うたのか?」
今まさに拘束しようとしたバインドを鷲掴みにされ、それが霧散する。
破壊じゃない、また解体された。この程度ならまだ余裕だと、そう言われた様なものだ。

だけど、誰がこれが狙いだと言った。今僕の手にあるのは『氷結の杖 デュランダル』だぞ。
「! これは!?」
「確かに君の解体能力はたいしたものだ、僕には到底マネできそうにない。それは認めよう。
そして君は、どんな術でも解体できる自信が有るようだが、その自信が命取りだよ」
「くっ、こんなもの!」
「無駄だよ、それ自体はただの氷だ。術式を解体するも何もあったものじゃない。
 僕が術をかけたのは君ではなく、この辺りの空間そのものさ」
マテリアルの体を、徐々に氷が浸食していく。
ただしそれは、今言った通りマテリアルが凍っていっているわけではない。眼に見えないほど小さな氷の粒を作り、それを彼女の体にぶつけて大きな結晶にしているだけ。
氷そのものは単なる結果に過ぎないのだから、彼女の特技もまた意味を為さない。

「こう言う魔力の使い方は主義じゃないんだが、君は強いからね。そうも言っていられない。
 このまま、氷の彫像になってもらおうか」
後はそれを破壊してしまえば僕の勝ち。
散々バインドに拘ったのも、全てはそれを印象付け、こいつに気付かれないようにするためだ。

しかし、やはりそう簡単に入ってくれないらしい。
「クックック……なるほど、なかなかの策士だ。だがこうは考えなかったのか?
 我が、うぬ以上の策士であると」
その瞬間、マテリアルの体がぼやけ消滅する。
当然覆っていた氷は置き去りにされ、地に落ちた。
いったい、何が起こった……。

だがその答えが出る前に、真上から何かが降ってくる。
「アロンダイト!!」
巨大な魔力の塊が襲いかかり、辛うじて回避する。
しかし、それは唐突に爆発し付近にいた僕もまた巻き添えを食らう。

そうだった、はやての特性は広域攻撃。
なら、放った攻撃は大げさすぎるほどに避けなければ意味がない。

その厄介さを痛みと共に再確認させられる。
マズイな、今のダメージはデカイ。直撃じゃなかったのが救いだが、それでも……。
だけど、奴は一体何をしたんだ。

とそこへ、砲撃の放たれた方角から哄笑が響く。
「ハハハ、どうやら何が起こったかわからんようだな。
 なに簡単な話だ、なぜ王たる我がうぬの様な塵芥の相手をせねばならん。そして、我等の体を構築しているのは闇の欠片であり、我はそれを統べる王であるぞ。なら、同じ事ができたとしても不思議はなかろう」
「自分自身の思念体を、作っていたのか……」
確かに理屈の上では可能だろうが、本当にそんな真似が出来るなんて……。
それはつまり、事実上こいつは個でありながら集団である事を意味する。

……イヤ待て、さすがにそんな事がある筈がない。
確かに自分の思念体を作る事は出来るかもしれないが、何の条件もないなんてあるものか。
なら、その秘密を暴く事が出来れば……だけど、戦いながらそれをするのは至難。

となれば、できる人間に頼ればいい。元からその為に、仲間っていうのはいるんだから。
「エイミィ!」
『うん、さすがにそれはあり得ないよ。だいたい、それならなんでもっとたくさんのコピーを使わなかったのか疑問だし、コピーに戦わせている間に攻撃してこなかったのもおかしい。
 少し時間をちょうだい、必ず突きとめて見せるから』
通信で相棒に真相究明を依頼し、その間の時間を稼ぐべく次なる一撃を回避する。
謎が解けるまでの間、何が何でも耐えきってやろう。
これからの幾ばくかの時間が正念場だ。

「ちょろちょろと動くでないわ、塵芥! 大人しく消えよ!」
「お断りだよ。今ここで落ちたら、エイミィにあわせる顔がない」
雨の様に放たれる誘導弾や直射弾、或いはダガーの雨あられ。
それらを必死になって回避し、時にシールドで受け止めていく。
その度に体が軋むが、意地の一本勝負で耐えきる。

「ふん、しぶとさがうぬの武器か? ならば、一思いに踏みつぶしてやろう!
 エクス……カリバ――――――!!」
その単語には背筋が寒くなるものがあるが、士郎のそれとは違う。
正確には、はやてのラグナロクに近い砲撃。
範囲は広い、威力も馬鹿げている。

だが、防ぎきれないとは思わない。
「おぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
シールドとバリアを四層展開し、その上でデュランダルを使い自分の体を氷で覆う。

その結果は……
「…………オノレ! この一撃を耐えるか!!」
正直、生きた心地がしなかったがそれでも何とか耐えた。
それはひとえに、相棒への信頼に他ならない。

そうして数分が経った頃、僕は見事なまでのボロ雑巾になっていた。
だが、それでも動く事は出来る。そして、エイミィからある一つの推察を告げられた。
ああ、僕は良い相棒を持ったよ。エイミィから聞かされた推察は、確かにこの状況と合致する。

痛む体に鞭打って、最も信頼する相棒からもらった答えを叩きつける。
「やっとわかったよ。そう言えば、君が攻撃してきたのはコピーを消してからだった。
その事から考えて、その影武者はおそろしくリソースを食うんじゃないか? たぶん、君自身は他に何もできなくなるくらい」
「ちぃ……」
それなら、色々な事に辻褄があう。
不意打ちする機会なんて幾らでもあったのにそれをしなかったのは、しないんじゃなくてできなかったからだ。
要は、分身にしろ本体にしろ、一度に襲ってくるのは一人まで。
なら、一人倒しても油断せず構えていれば、十分対処は可能な筈だ。

とはいえ、もし知らずに戦っていたら負けは確実だろう。
疑心暗鬼に囚われ、自滅していた自分がありありと思い浮かべられる。
本当に、エイミィがいてくれてよかったと心から思う。

だけど、さすがにこれまでのダメージが尾を引いている。
さて、どうしたものかな……。
「よくぞ見抜いた、と言いたいところだがそれがどうした? うぬは満身創痍、その状態で如何にして戦う?
 どうやらどこぞの下郎からの入れ知恵の様だが、遅すぎたな。無能な仲間を持つと苦労すると言う良い見本だ」
「なに……?」
その言葉にカチンと来た。力の抜けかけていた体に活力が戻り、思考に火が灯る……イヤ、脳髄が灼熱する。
今にも意識のブレーカーが落ちそうだったが、その一言のおかげでもう少し戦えそうだ。

絶対に、何が何でも、その言葉を撤回させてやる!!
「いくぞ、デュランダル」
《OK, Boss》
デュランダルを振るい、スティンガーブレイドを展開していく。
ただし、いつもの様なエクスキューションシフトとは違う。

確かに数の上ではエクスキューションシフトのそれだが、今回は纏めて飛ばす事はしない。
一本一本、正確に飛ばす場所を計算した上で順々に放っていく。
「行け!!」
「ふん、そんなモノが当たるとでも思うたか!」
当然、そんな攻撃が当たる筈もなく軽々と回避されていく。
しかし、それでも止まる事なく刃を放ち続ける。

一見すれば、破れかぶれで放っているだけに見えるだろう。
だが、その本数を徐々に増やしていきそれらは道路や周囲の民家に突き刺さっていく。

そして、準備が整った。全ての刃を放ち終え、僕の周りに対空する刃はもうない。
結局、一本たりとも当たりはしなかった。しかし、既に目的は達している。
「最後の悪あがきも徒労か。慈悲だ、一撃で消してやろう」
「いや、終わったのは君の方だ」
マテリアルはトドメとばかりに砲撃の体勢に入るが、そうはさせない。
地に突き立った刃が光を放ち、そこからそれぞれ光の線が上り立つ。

その一本が彼女の体に触れると、それに伴い他の線もそこに向けて集まっていく。
「これは……バインドか!?」
「忘れたのかい? 僕は、元々バインドが一番得意なんだ。
 なら当然、真に頼みにするのは攻撃魔法じゃなくてバインドの方だろう?」
スティンガーブレイドに偽装しているが、こいつの本質は変則バインドだ。
一種の設置型バインドで、所定の位置に突き立てそこからバインドの糸を伸ばす。
そして、それに触れた者に向けて他のバインドも襲いかかると言うトラップ。

大抵の場合、派手な攻撃魔法を使った後、使われたそれに注意を向ける者は少ない。
なぜならそれらは、既に終わった魔法の残骸に過ぎないと思うからだ。
だからこそ、こう言う小細工をする余地がある。

一本一本では大した事はないが、百近くも集まれば強度はそれなり。
ま、それでも彼女なら容易く解体できるんだろうが、それをさせるつもりはない。
このバインドには、同時に氷結魔法も付加してある。
捕まった瞬間から、彼女の体は氷で覆われて行く。
幾ら解体しようとも、結果として生じてしまった氷までは影響されない。

やがて、マテリアルの体はその大半を氷に覆われ身動きが取れなくなる。
だが氷を置き去りにして、再びマテリアルの姿が消えた。
「かかりおったな、戯け!!」
喜悦を含んだ声と共に背後から感じる、膨大な魔力の感触。
僕は既に満身創痍だ。仮に防御しても、耐えきれる筈がない。

もし、直撃したのならね。
「いいや、これも想定の範囲内だよ」
砲撃が直撃する瞬間、僕の姿がぼやけ砲撃がすり抜けた。

「幻術だと!?」
「そんな大層なものじゃないさ。魔力じゃなくて、単純に周囲との温度差で光を屈折させただけだよ。
 蜃気楼か陽炎の類だと思えばいい」
氷結魔法の応用で大気の一部を限界まで冷却し、その温度差によってズレた像。
彼女が撃ったのはそっち。二分の一の確率だったけど、上手くいったか。

そして、砲撃後の一瞬の硬直をついて密着距離まで詰める。
「しかし、何を驚いているんだい? 思念体を作れる君からすれば、この程度はお遊びだろう?
 ああそうか、君にはこの程度の『児戯』を見抜く眼もなかったんだっけね。心ない事を言ってすまなかった」
今まで散々いたぶってくれた礼とばかりに、士郎を参考に精々嫌味な口調で言ってやる。

すると、案の定気位の高い彼女は激昂した。
「貴様、王たる我を愚弄するか!?」
「何しろ礼儀も知らない若輩でね。多少の非礼は許して欲しいな『陛下』」
そう言って、マテリアルの腹部にデュランダルを突きつける。
下手に動けば、その瞬間に撃ち貫けるように。

それにしても、士郎がああいう口調を使う理由が少しわかるな。
確かに、これは痛快かもしれない。

とはいえ、またフェイクだったりしたら終わりだ。これ以上戦う余力が僕にはない。
「エイミィ?」
『索敵完了。大丈夫、間違いなく本体だよ』
なら後は、トドメの一撃で終わりだ。

「どうやらチェックメイトのようだね、僕の勝ちだ」
「……うぬは、何か失念してはおらんか? 我は王ぞ、なら当然いてしかるべきものがいるであろう」
「なに?」
王にいて当然のもの? 単なるブラフかもしれないが、それにしては何か引っかかる。
これは、余計な事をしていないでさっさと終わらせた方がいいかもしれない。

だが、それは数瞬ばかり遅かった。
「わからぬのなら教えてやろう。それはな、王には配下がいるは必定。
 やれ、クズども! この下郎を誅戮せよ!!」
『■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――!!!!』
その言葉と共に、周囲の大地で蠢いていた漆黒の獣達が集い、群れから山へと変貌する。
幾重にも折り重なり、僕に向かって雪崩れ落ちてきた。

卑怯、とは言うまい。僕だって仲間の力を借りている。そもそも、あれらはマテリアルの同胞だ。
それどころか、彼女こそが彼らの中枢である事を考えれば、これもまた彼女の力と取る事もできる。

視界の端で、ザフィーラ達がなんとか抑えようと頑張ってくれているのが見えた。
だが、いかんせん数が違いすぎる。
一度にこれだけの相手をするのは、個人戦に長けるベルカ式の使い手である守護騎士達では辛い。
なにより、僕と彼らとの間には距離がある。
今すぐ、限界以上の速度で動いたとしても絶対に間に合わないのは火を見るより明らかだ。

身体を反転させて獣達を迎撃するのも得策ではない。
致命的な隙を眼の前のマテリアルに晒す事になるし、多少は抗えても最終的には漆黒の奔流に呑まれる。

ならせめて、相討ち覚悟で背後を無視して彼女を討つしかない。
そう覚悟した瞬間、聞き慣れた声が僕の耳に届いた。
「ならば、私が手を出すのも許容範囲だな。
そちらが配下ならこちらは暫定的とはいえ仲間になる。それなら文句はあるまい?」
その言葉と共に、白銀の豪雨が降り注ぐ。
その硬質の輝きを以て漆黒の奔流を穿ち、引き裂き、粉砕し、全てを押し流していく。

「っ――――――! そう言えば『天の時は地の利に及ばず、地の利は人の和に及ばず』って言葉があったか。
 ああまったく、本当にその通りだったよ」
それにしてもあのバカ、重傷の体でなんて物を使ってるんだ。
まさか、傷が悪化して死んだりしないだろうな。そんな事になったら、寝覚めが悪すぎるぞ。
でも、これで背中の心配をする必要はなくなった。なら、さっさとケリをつけてしまう事にしよう。

だがそこで、純白の輝きが視界を塗り潰す。
一瞬の隙を突いてマテリアルが右手をつきだし、そこに膨大な魔力を宿していたのだ。
「消えろ!!」
(間に合うか!?)
染みついた動作が無意識のうちに身体を動かす。
砲撃が放たれるより刹那早く、無意識のうちにつきだされた右手をデュランダルの柄頭で軽く小突いていた。
その結果僅かに軌道は逸れ、顔のすぐ横を通って砲撃は虚空に消える。

そのままデュランダルを鳩尾に叩き込み、そこから一気に破壊の魔力を流し込む。
「ガッ!? きさ、ま……」
「ブレイク…インパルス!!」
意識しないでも反応できるように仕込んでくれた師達に、心から感謝した瞬間だ。

崩壊していくマテリアルに向け、最後の言葉をかける。
「今度こそ本当に終わりだ。今回は、僕に天秤が傾いたようだね。
 正しくは“僕達”にだけど」
勝てたのは僕一人の力によるものじゃない。
だからこそ、孤高であった彼女は僕に負けたんだ。

Interlude out






あとがき

とりあえず、雷刃の扱いが酷くなっちゃったなぁ。
まあ、話の都合上仕方無かったんですよ。別に、私は彼女が嫌いなわけじゃありません。
王様は、なんか典型的な竜頭蛇尾になってしまった気がチラホラ。
……どうしてこうなったのか、自分でも不思議です。
逆に、星光の方はかなり良い役だった気がしますね。
口調とかイメージしやすかったので、書きやすかったからかも。

一応予定では次でこの事件は終わりになります。
基本的なところは原作と似たような感じなので、大幅にカットしました。
元々これ、次につなげる為のクッションの様な感じですからね。

ついでに、冒頭の士郎のアレはちょい変な感じになった気もチラホラ……。
いえ、今の彼の中に占める凛の割合をちょっと出してみたかったのですがね。


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