<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4610] 第44話「亀裂」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/26 21:30

SIDE-シグナム

リインフォースの件が終わって数時間が経った。
私はあのすぐ後にハラオウン提督に呼び出され、艦船アースラの一室で向き合っている。

用件は……まあ概ね予想通り、今回の事件に関する事情聴取。
とはいえ、それもちょうどいましがただいたいのところを語り終えたところだが。
「……そうだったの。あなた達も大変………いえ、これは私が口にすべき事じゃないわね。
だけど、ごめんなさい。足早に話させてしまって」
「あ、いえ……こちらこそ、大変ご迷惑をおかけしました」
一度は同情の言葉が漏れそうになったようだが、それを何とか飲み込んで提督は凛とした表情を崩さない。

「それでも、よ。本当なら、あなたもリインフォースの……今は、アルテミスだったわね。
 彼女が生き残れた事を、仲間やはやてさん達と喜んでいたいところでしょ?」
「否定はしません。しかし、本来我々はまだあなた方に拘束されていなければならない身のはずです。
 それを条件付きとはいえ、こうして自由にさせていただけているだけで、十分過ぎる温情でしょう。
 むしろ、私としてはあなたの立場が心配になるくらいなのですが」
本来私が心配すべきことではないのだろうが、それでもやはりこれは温情が過ぎるのではなかろうか。
これほどの高官ともなれば、出世競争はさぞかし激しいだろう。下手に付け入る隙を見せれば、それを利用されてあっという間に転落、などという事にもなりかねない。
この方には恩も好感もあるだけに、その可能性こそが心苦しい。
ましてや、我々は過去この方の……いや、それは私などが口にしていいものではないか……。

それはそれとして、さすがにいつまでも我々からの事情聴取を先延ばしにもできるはずもない。
出世競争など以前に、職務怠慢と言われかねないのだから。
まあ、だからこそ我々の内から一人を船に呼び出したのだろう。
細かい事情などはわからないが、この辺りが我々への配慮と局へのポーズの妥協点なのかもしれない。
しかし、それでも本来なら全員を呼び出すべきところを一人しか呼んでいないのだから、騒ぎたてようとする輩は少なからず出そうなものだが……。
はめられない自信があるのか、それともそんなことには興味がないのか。

そんな私の懸念を察したのか、ハラオウン提督は肩を竦める。
「気にしなくていいわ。あなたの言う事も最もだけど、そこまで出世に興味があるわけでもないし、私としては今くらいの地位で満足してるしね。これ以上うえに行くと、それはそれで権力闘争やら派閥争いやらが鬱陶しそうですもの。行きたくないと言えるほど無欲じゃないけど、必死に上を目指そうと言う気にもならないのよね」
まるで「困った困った」とでも言いた気に、提督は苦笑を浮かべる。
私などにしてみれば、このような人にこそより高い所に行ってもらいたいと思う。
まあ、そう思わせる事も含めてこの人の人心掌握術だとしたらと思うと、それはそれで空恐ろしいものがあるが。

などと、思考が脇道にそれていたところで、提督の振った話題に意識が引き戻される。
「さて、じゃあ今日のところはこのくらいかしらね。追々他の皆からも話を聞かなきゃいけないけど、それはまた先の話ですもの。
…………それはそれとして、あなた達は凛さんや士郎君の事をどれくらい知っているのかしら?」
その言葉に、思わず全身に緊張が走る。

いずれ聞かれるとはわかっていた。
衛宮や遠坂が管理局と一定の距離を取っているのは予想していた事だ。
となれば、管理局が二人の情報を欲しいと思うのは当然だろう。

「それは、命令でしょうか?」
「いいえ、単なる好奇心よ。というか、それは今回の件とは別件ですもの。
 私達にその事を無理に聞く権限なんてないし、あなたが話さないからと言って、はやてさん達には何の不利益もないわ。だから、話すかどうかはあなたが決めてちょうだい」
「……………………では、申し訳ありませんがお答えする事はできません」
わざわざ我々から聞かねばならないという事は、つまり二人が知られたくない事なのだろう。
アイリスフィールと衛宮の関係については、シャマルからある程度聞いている。
この先どう転ぶかはわからないが、アイリスフィールの息子かもしれない人物の不利益になる様な事は言えない。

それに、アイリスフィールの正体に繋がりかねない事は言うべきではないだろう。
あの方もまた、何かと厄介な出自を持っておられる方だからな。
今はまだ眠っておられるだけに、尚更迂闊な事が出来ない。
せめて、アイリスフィールか衛宮達のどちらかから意見を聞かねば判断しかねる問いだ。

「そう、それじゃあ仕方がないわね」
「申し訳ありません。恩に、仇で返す様な真似をしてしまい……」
「気にしないで。フェイトさん達はともかく、私達はこれが仕事ですもの」
そう言って提督は気軽に微笑む。
元からさして期待はしていなかったのか、或いは落胆を隠しているのかは判断できなかった。

二人連れ立って部屋を後にし、私が転送ポートに向かおうとしたところで提督とわかれる。
もうかなり遅い時間だと言うのに、まだ帰らないつもりなのだろうか。
「提督はまだお帰りにならないのですか?」
「ええ、実はまだやらなくちゃいけない事が残ってるのよ。
 厄介な案件が…………残っているから」
そう呟いた提督の顔は、これまで見たどの表情よりも硬い。
その表情の意味するところは私にはわからないが、なにか強い覚悟をもって臨んでいる事だけはわかる。

「ああ、それと……」
「なにか?」
「ちょっとはやてさんに伝言をお願いしていいかしら?」
「伝言、ですか?」
「ええ。確か明日、すずかさんやアリサさん達に魔法や私達の事を話すのよね?」
「はい。主やテスタロッサ達はそのつもりの様です」
もしや、それを止めようと考えているのだろうか。
確かに、そう簡単に管理外世界の住人に話すべきことではないのだろうが……。

「ああ、別に二人に話さないでって言うんじゃないの。
ただ、クロノ達も立ち会う事になると思うから、あらかじめ伝えておこうと思って。
フェイトさん達にはこっちから伝えておくけど、はやてさんにはあなたの方からお願い」
「それは構いませんが……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「簡単よ。さすがに立会人もなし、ってわけにはいかないでしょ?」
確かに、管理外世界の住人に教える以上そういうものも必要になるのだろう。
何か問題が起きるかもしれない、という話ではなく、一種の形式として。

まあ、こればかりは仕方がないか。
それに、クロノ執務官も同席しているなら万が一にも何かあってもどうにかなるだろう。
そうして、私達は安心しきっていた。まさか、あんな事になるとは思いもよらずに。



第44話「亀裂」



SIDE-凛

リインフォース改め、アルテミスの一件が終わってなんとか闇の書事件が終結した翌日。
お互いの秘密の暴露大会が開かれる折となり、関係者が月村邸に集合する事になった。まあ、例外として昨日の無理が祟った士郎は、自室のベッドに縛り付けてリニスに監視させているから欠席となったけど。
文法がおかしい気もするけど、気にしてはいけない。

なのはとフェイトは一度病院に戻ったはやてを迎えに行き、私は一足早く月村邸に向かっている。
はやてを迎えに行くのに同行しなかったのは、ハッキリ言ってしまえばなのは達と会わないためだ。
昨日はドタバタしていたし、アルテミスの処置が終わってすぐに士郎も眠ってしまったので、力技でその場はお開きにできた。しかし、さすがに今日は相当な質問攻めが予想される。

前に剣鱗を使った時だって、フェイトはかなり士郎の事を心配していた。それは、話を聞いたなのはも同じ。
今回に至っては、もう少し処置が遅れていれば死んでいたかもしれないほどの重傷を負ったのだ。
たぶん、この前みたいな言い訳では納得してくれないだろう。
さすがに、今日の会合をボイコットすると言うわけにもいかないから否が応でも顔を合わせる事になる。

だから、幾ら気が乗らなくてもこればかりは仕方がない。
今回暴露される互いの秘密のどちらにも精通している身として、無関係を通す事は出来ないのだから。

だが、だからと言ってこっちにも色々と事情がある。
あの子たちが士郎の事を心配するのは当然だけど、それでもホイホイと話せる事ではない。
気持ち的に、出来れば会う時間を減らしたいと思ってもそこは仕方がないだろう。



まあ、そんなわけで一足早く月村邸についたのはいいのだが、士郎が欠席する理由はちゃんと説明しなければならない。そうして、大雑把な士郎の現状を聞いたアリサの反応は……
「はい、予想通り予想通り……って、言うとでも思ったかぁ―――――――!!!
 なんなのよ、そのズタボロっぷりは―――――――――!!!」
ばーにんぐ、良い具合に燃え上がってるわねぇ。
その炎を向ける対象がいないだけに、より一層燃え上がってるわ。

とはいえ、これもなのは達と同行するのを避けた理由の一つ。
何が悲しくて行きに質問攻めにされ、目的地についてこんな怒鳴り声を聞かなきゃならないんだっての。
そのどちらか一方でも減らしたいと思うのは人情だろう。
前者は逃げられても後者は避けられない以上、私の選択はそう間違っていないと思う。

だがここで、行き場のなかった炎はその矛先をこの場にいない人間から、私に向けた。
「一体何があったのしっかりはっきり説明しなさい、コラ――――――――!!!
 ……って、へ? きゃん!?」
「あ、アリサちゃん……!?」
掴みかからんばかりの勢いで私に迫ってきたアリサを、文字通り適当に放り投げる。
まあ、かなりアレな形相で迫って来たもんだから無意識に、ね。
ついでに、面倒なのでモノはついでとそのまま関節を極めて大人しくさせた。

しかし、その程度では気持ちがおさまらないのか、アリサは往生際悪くジタバタともがく。
「はぁ。気持ちはわからないでもないけど、少しは落ち着きなさいよ」
「うぅ~~~~~~……こ、この程度でぇ…フン!」
「え、嘘!?」
完全に極めていたと思ったのに、どんな手品を使ったのかものの見事に関節技から脱出するアリサ。
そしてそれだけでは終わらず、瞬時にどっしりと腰を落としたかと思うと、あっという間に私のバックを取った。

それを見たすずかは……
「なにぃぃ―――――!? あの地を這うが如き戦闘態勢は、イングランド古の捕縛術、ランカシャースタイルだぁ―――――!!」
随分とノリがよくなったわね。
っていうか、あんたそういうキャラだっけ? なんか昔、似たような人に会った記憶が……。

だが、それにはさすがに虚をつかれ、驚愕から思わず対処が遅れる。
まさか、一般人のアリサがアレから抜けるなんて……。
「もらった!!」
「って、このおへそから持っていかれる感覚は………アンタ、まだそんな事に拘ってたの!?」
「くらいなさい、天誅!!」
もう完全に本来の目的を見失っているだろうアリサは、それでもなお完璧なフォームでバックドロップに持っていく。もし外野から見ていたなら、それはさぞかし惚れ惚れとする様な美しさだったろう。

実際、この場で唯一の観客にして実況は、ドゴンという鈍い音と共に叫んだ。
「マーベラス! なんという美しいブリッジ!!
 やりました! これは最早スリーカウントを待つまでもないでしょう……って!?」
アリサの勝利を宣言しようとしたところで、すずかの声に驚愕の色が混じる。

それは当然だろう。なぜなら……
「あぁ……さすがに今のはヤバかったわ……」
「あ、アンタ……」
「なんと遠坂選手、両腕をクッションとして使い、見事バニングス選手渾身のバックドロップから頭を守りきったぁ!!!」
「悪いわね。昔、もうイヤってほどかまされた技だからさ、不意をつかれても受け身くらいとれちゃうわけよ」
昔取った杵柄、ってやつかしら。まさか、こんなところでルヴィアとの対戦が活きてくるとは思わなかったけど。

それにしても、この子たち絶対に当初の目的を忘れてるわよね。いい加減、冷静になってもらいたいわ。
「うぬぬぬ……」
「はいはい、悔しいのはわかったからそんなに睨まないでよ。
 それに、ちゃんとなんで士郎がそうなったかも話してあげるから」
話せる範囲でという注釈は付くけど、とはあえて口には出さない。
言っても面倒な事になるだけだし、話せないものは話せないんだから仕方がないのだ。
別に、こっちだって意地悪で教えないわけじゃないんだし。

しかし、そこである事に気付く。
「ちょっとすずか」
「え? どうかしたの、凛ちゃん」
「なんか、外から銃声とか爆音がするのは気のせい?」
そうなのだ。アリサとの小競り合いで今まで気付かなかったけど、さっきからずっと何かが爆発する音がする。
ついでに、何やら悲鳴染みた叫び声も。

そんな私の指摘に、大慌てですずかも耳をすませる。するとその顔はドンドンと青ざめていく。
「こ、この音は…まさか!?」
「ちょ!? ど、どうしたのよ!!」
「警備システムが作動してる!!!」
「なんですってぇ!!??」
すずかの言葉に、アリサが驚愕の叫びをあげる。
アリサも知ってたんだ、ここの異常なまでのセキュリティの堅さ。

「悲鳴が聞こえるってことは……まさか、なのは達が!?」
「そ、それはないよ! なのはちゃん達はちゃんと登録してるから!」
ちなみに、フェイトやはやてもちゃんと登録済みらしい。もちろん私も。

だが、そうなると誰がかかったのかしら? こんな真昼間から襲撃を仕掛けてくるバカはいないだろうし。
「そ、そっか。じゃあ、どっかの運の悪い人が引っ掛かったってことね。
 それならまぁ、大丈夫か」
「うん、この前も新聞屋さんが引っ掛かってたから……」
アンタ達、人としてそれでいいの?
私も人の事を言えた義理じゃないけど、常識人に見えてこの子たちも大概ずれてるわね。

ん? はて、何か忘れている様な気が……。
なんだったかしら?



Interlude

SIDE-クロノ

「なんなんだこれは――――――――――!!!!」
「ちょ、クロノ君叫んでないで前、前! なんか、ミサイルっぽいのが飛んでくるよ!!」
エイミィの言うとおり、何やら流線型の物体が猛スピードで僕達の方に迫ってくる。その数、実に十。
ええい、さっきから一体何がどうなっているんだ、ここは。僕達は、ただフェイト達が友人達に自分達の秘密を話す場に立ち会うために来ただけのはずだ。
にもかかわらず、どこぞの戦場真っ青な質量兵器の雨あられにさらされているのは何事!?



確か、事の起こりは母さんからのこんな指示。
「まあ、別に守秘義務とかそういう堅苦しいのは気にしなくても良いんだけど、それでも一応ポーズは必要でしょ? というわけだから、忙しい所悪いんだけど行って来て頂戴。
 あ、それとこれは菓子折りよ。いつもフェイトさんがお世話になっているんですもの、これくらいはね」
「艦長。これじゃあ、ただのお宅訪問です」
「え? 建前はどうあれ実体はそんなものでしょ?」
「エイミィ、それはぶっちゃけ過ぎだ」
確かに事実上そんなものなのかもしれないが、それでもそれを口にしてどうする。
それに、他にも用件がないわけじゃないというのに。

だが、この二人を相手に何を言っても無駄なのはもうこれまでの経験で思い知っているのも事実。案の定……
「もう、クロノは堅すぎよ」
「そうそう、もうちょっと気楽に考えなよクロノ君」
「二人がお気楽極楽過ぎるんです!!」
ダン、とデスクが軋むくらいの勢いで叩いたが特に効果なし。
状況の不利を悟った僕は(いつもの事だが)、そのまま話に花を咲かせようとするエイミィをひっぱって退出。

そして、フェイト達の友人の一人、月村すずかの自宅を訪ねた。
それを見たエイミィは、感慨深げに一言。
「……うわぁ、すんごい豪邸。安月給の公務員には夢のまた夢だね。
 あ~あ、何処かに将来こんな豪邸に住まわせてくれる優良物件は落ちてないかなぁ」
「? そこでなぜ僕を見る。言っておくが、そんな物件は僕にも当てはないぞ。
 まあ、なんだ。頑張って自分の足で探す事だ」
時々……いや、実のところはしょっちゅうなんだが、エイミィはよくわからないことを口走る。
まあ、確かにこの豪邸はすごい。端が見えないんじゃないかと錯覚しそうな広大な庭と、門からかなり離れたところにある白亜の洋館。さらに、その後ろには森まで広がっている始末。
報告では、月村すずかという少女は何やら特異な能力を持っているようだが、それと関係があるのだろうか?
そう考えずにはいられない様な、そんな豪邸だ。

とはいえ、フェイト達はまだ来ていないと思うが、こんなところで立っているのも間が抜けている。
そんなわけで、後ろで何か言っているエイミィを無視して呼び鈴を鳴らす。
「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが、どちらさまでしょうか?」
チャイムが鳴って少し間を置き、若い女性の声で尋ねられる。

「クロノ・ハラオウンと」
「エイミィ・リミエッタです。月村すずかさんに御会いしたくまいりました」
普段はどれだけおちゃらけていても、エイミィだって立派な管理局員だ。
ちゃんと場の空気をわきまえる事くらいできるし、人様のお宅を訪れる時にはちゃんとそれらしく振る舞う事が出来る。できれば、普段からこの調子でいてくれると、僕の胃は大助かりなんだがなぁ。

そんな事を考えているうちに、なにやら電子音の様なものがしたかと思うと目の前の豪奢な門が開く。
全自動か。どうやら相当にお金をかけているらしい。
「どうぞお通りください」
「あ、開いた開いた。でもこれだけのお宅だと、やっぱり執事さんとかメイドさんとかいるのかな?
 そのへんはどうなの、クロノ君。やっぱりメイドさんとかドキドキする?」
「一体何の話をしているんだ、君は?」
「え? クロノ君の好みの話」
くぅ、どうして彼女はいつもこうなんだ。
思わずその場にうずくまって頭を抱えたい衝動にかられる。

だが、こんなところで相棒のフリーダムさに頭を抱えていても仕方がない。
そんな僕を無視してエイミィはどんどん進んでいくし、諦めて僕もその後に続く。
すると、唐突にサイレンが鳴りだし、門の両脇から緊急車両などに使われている様な回転灯が顔を出す。
「警報! 警報! 侵入者あり、侵入者あり!! 登録されている声紋、および身体データと一致しません!
 第一級戦闘配備、侵入者を排除します!」
「「はいぃぃ――――――――――――――――!!??」」
驚いている隙に、背後の門はあっという間に閉門。退路は断たれた。

だが、そんな事態に驚いている暇は与えてもらえない。
広大な庭の至るところから何かが顔を出す。それは……
「アサルトライフル!?」
「嘘!? この国って民間人の銃器の所持は法律で禁止されてなかったっけ!?」
確かそのはずだが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
こんなところで立ち止まっていたら、そのまま蜂の巣だ。

となれば、する事は決まっている。
「走れ―――――!!!」
「イエッサー!!」
気のせいかな、僕が叫ぶ前にエイミィが走り出していた気がするんだが……。



そんなわけで、今僕達は目下全速力で目の前に迫る驚異から逃げ回っている。
「クロノ君! こうなったら、もう魔法でブワッと!!」
「バカ言うな! 管理外世界でそうホイホイ使っていいわけないだろ!!」
「ホイホイじゃないよ! これは間違いなく命の危機、緊急事態だよ!!」
「だからと言って……!」
「クロノ君の石頭ぁ~~! チビ、朴念仁、唐変木、童貞、ロリコン、鬼畜――――――――!!
 幼女好きの変態、クロノ君に襲われるぅ~~~~~!!」
「待て! ドサクサに紛れて人聞きの悪い事を言うな!?」
って、今はそれどころじゃない。
今度は……火炎放射機か。どうやら警備システムの様だが、これを配備した人は何を考えているんだ。
これはもう不審者の撃退ではなく、抹殺を目的としているとしか思えない。

「あちちち……こうなったら最後の手段だね」
「! 何か手があるのか!?」
「うん。クロノ君がさっさと魔法を使ってくれたら使わなくてもよかったんだけど、仕方ないよね……」
「その辺はすまないと思うが、何か策があるのなら早くしてくれ!」
自分がどちらかと言えば堅物の部類に入る事は承知しているし、その事は申し訳なく思う。
だけど、何かこの場をどうにかする手があると言うのなら早くしてほしい。

「オッケー。それじゃあ、クロノ君……」
「なんだ?」
「あとよろしく!!」
そう言った瞬間、エイミィの足が僕の足を払う。

全速力で走っている最中にそんな事をされれば、当然―――――――――転ぶ。
「は? え、エイミィ―――――――!?」
「クロノ君、君の尊い犠牲は忘れないよ(泣)」
パートナーの死を乗り越えて、少女は涙しながらも一歩を踏み出すのであった。

「って、何を考えているんだ君は――――――――!!」
「だってぇ~、クロノ君がさっさと魔法使わないのが悪いんだよ~」
悪びれもせず、そんな事をのたまうエイミィ。
そんな事を言っているうちに、何やらワイヤーの様なものが倒れている僕に触れ、その瞬間――――――――感電した。しまった、これじゃあ体が動かない。
出力は弱めだったのか、意識はなんとか保つ事が出来た。うん、僕にしては運がいい。

ふ、ふふ、ふふふ…それにしても……そうか、そんなに魔法を使ってほしかったのか、エイミィ。
なら、その期待に答えてあげようじゃないか。
「くぅ……私はいいパートナーを持ったよ。
安心して、クロノ君。艦長には、君は立派に戦ったって……はれ? あのぉ、クロノ君。これなぁに?」
「知らないのか? レストリクトロックだ」
「いや、そうじゃなくてさ、なんで私に?」
「ははは、そんなの決まってるじゃないか――――――――――――――道連れだよ」
ほら、パートナーは一心同体じゃないか。それなら、君も僕につき合ってもらうよ。
いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも……いいように遊ばれている僕だと思うな。

「クロノ君の外道―――――――!!」
「人の事を言えた義理か!! 君にだけは言われたくないぞ!!!」
「目標の停止を確認。最大出力のレーザーにて、対象二名を抹消します」
「「は?」」
って、それどころじゃなかったんだったぁ!!
だが、気付いた時は時すでに遅し。もはや、逃げる時間も術も残されてはいなかったのだ。

そうして、僕達は愚かな足の引っ張り合いの果てに――――――――眩い閃光に呑まれた。

Interlude out



SIDE-凛

あ、やっと静かになったわ。それにしても、何か忘れてる気がするんだけど、なんだったっけ?
まあ、思い出せないのなら大して重要な事じゃないのだろう。

などと自己完結し、ちょっと用を足しに部屋を出て偶々玄関の前を通ると、唐突に玄関が開いた。
「嘘!? まさか、あの警備システムを抜けたの!?」
詳しい事はよくわからないけど、マッドの忍さんが作ったここの警備システムを抜けてくるとは。一体何者!?

と思ったんだけど、入って来たのはとてもよく見知った人間達だった。
「あ…お、おはよう、凛ちゃん」
「おはよう、凛」
「凛ちゃん、おはようさんや」
「って、なのは達じゃない。何やってんのよ、アンタ達」
ああ、警戒して損した。って、アレ? じゃあ、何で警備システムが動いたんだろう。
それに、何で三人のは顔はこんなにひきつっているのだろう? しかも、バリアジャケットまで着こんで。

しかし、その答えはすぐに判明する。
「ん? その後ろにいるのはエイミィ? あと、ついでにクロノも。なんでそんなに焦げてんのよ?」
「僕は……ついでなのか?」
まあ、今の突っ込みは聞かなかった事にしよう。

「なんか事情がよくわからないけど、とりあえず………おはよう」
「「お、おはよう。そして…………ぐっばい」」
こう、ガクッとその場に倒れ伏す二人。
はぁ、やっぱり事情はよくわからないけど、何があったかは理解したわ。



その後、二人を治療し事の顛末を聞いた。
それによると原因は、なんと言うか……いわゆる、連絡不備という奴だろう。
私やなのは達はクロノ達が来る事は知っていたのだが、リンディさんがすずか……ひいては月村家に二人が来る事を知らせ忘れていたのだ。で、来るとは思っていなかった人たちが来たものだから警備システムが起動、色々あって二人はコゲコゲになったと、そういう話。

ちなみに、辛うじて生きてここまでたどり着けたのは、なのは達のおかげ。
はやてと一緒に門前に来た時、警備システムに襲われているクロノ達を発見。
ギリギリのところでレーザーから救い出したらしい。悪運強いわねぇ。

しかし、本当に夜の一族の事までばらしていいのかなぁ?
一応、管理局やらなのはとかに夜の一族の事をばらしていいのか忍さんに問うたけど、どうも本人的にはそこまで頓着していないらしく「すずかが良いならいいよう」という軽いノリだった。
まあ、なのは………というか、高町家には遅かれ早かれ話す事になっていただろうし、そこは問題じゃない。

だから、問題なのは管理局の方。
念のため、管理局の事は一足先に忍さんに教えておいたんだけど……
「う~ん、でもすずかのもう事はバレてるんだよね?」
「ええ、まあ」
「だったら無理に隠そうとしても無駄でしょ。こうなったら、なるようにしかならないわ」
それはそうなのだろうが、豪胆というかなんというか。
変に警戒心を持たれてもアレだし、それならいっそ全部ぶっちゃけちゃえ、という考えはわからないでもない。
夜の一族は表面的に見れば危険に写るが、ちゃんと諸々の事を知るとそこまで脅威を感じる存在じゃない。少なくとも、魔法を使える魔導師達からすればそこまで危機感を煽られるような存在ではないのだ。
少なくとも、存在を知られてしまった以上は「自分達は危険な存在ではない」とアピールするくらいしか対処法がないだろう。そう言う意味では、確かに全部バラしてしまった方がお互いの為なのかもしれないなぁ。

まあ、とりあえず忍さんが良いというのなら良いのだろう。
どうせ私達は部外者だ。当事者であるすずかや忍さんがその気なら、私達がとやかく言う事じゃない。
とはいえ、もし管理局が何かしらのアクションを起こすようなら、私達も動かざるを得ないか。
さすがに、この半年で一番世話になった人たちを見捨てるのは心苦しいし。

いや、そんなことは何かあってから考えるしかないか。
今何を考えても、何が起こるかわからない以上あまり意味もないし。
さて、さしあたっては一応役者が揃ったわけだし、告白大会は開催といきますか。

で、早速問題発生。ハッキリ言おう、もの凄く空気が重い。
原因は、秘密を暴露せねばならない側にある。その不安と期待の入り混じった空気だろう。
もちろん、秘密を聞く側としても緊張やらなんやらいろいろあるだろうけど、やはりそっちの方が問題だ。
自分、或いは自分達の秘密を聞いてこれまで通り接してくれるのか、それとも……。
きっと受け入れてくれるはず、そう信じているのだろうが、それでも不安が消えるはずもない。
そう考えれば、どうしてもおかしな空気になってしまうのは仕方のない事だろう。
一部、どっかの上司と部下の間にもよろしくない空気があるが、それは無視の方向で。

しかし、いつまでもこうして固まっていても芸がない。
誰かしらが司会進行をしなきゃならないんだろうけど、適任はやっぱり…………私か。
一応、この場で語られるであろう秘密を一番知っているのは私なんだし、当然の役回りよね。

はぁ、気は乗らないけどやるとしますか。
「じゃあ、サクサク進めるわよ。先に、なのは達の方からね。
 まあ、つまりはこの間の事とか、なんでフェイトと出会ったとか、そういう話。いいわね三人とも」
「「「あ、うん」」」
すずかを後回しにしたのにはそれなりに理由がある。
すずかの性格上、自分の秘密を話すのにはまだ抵抗があるはずだ。本人にその意思があっても、踏ん切りはつきにくいだろう。なら、先に相手の秘密を聞いてしまった方が話しやすいかもしれないからね。

さて、事の起こりは半年前にまでさかのぼる。
現在はジュエルシード事件、或いはP・T事件とも称される、21個の宝石を巡る一連の事件。
ユーノが偶然発見した、「ジュエルシード」と呼ばれるロストロギア。それは、使い方によっては一つの世界の消滅どころではすまないほどの危険物。
それが偶然か、或いは必然か。輸送中の事故によってこの世界に散逸し、ユーノは何とかそれを回収しようとするも、力及ばず負傷。やむにやまれず念話で助けを求めたところ、それを聞き届けたのがなのはだった。
そうしてなのはは、ユーノからレイジングハートを託され魔法に関わることとなる。

時を同じくして街の異常に勘付いた私が調査していると、偶然にもジュエルシードを戦闘中のなのはを発見。
成り行きから手伝うようになるが、管理局と関わりたくなかった私はとりあえず士郎の事は秘匿。
なのはと行動を共にしつつ、士郎には正体を隠した上でのバックアップをさせる事となった。

ところが、月村邸のジュエルシードを封印する際に競争相手が現れる。それがフェイトだった。
自分達だけだと思っていたところに、敵となる人物が現れた事で私達は方針を変更。
私となのははジュエルシードの捜索と並行して、戦闘訓練に手をつけるようになる。
同時に、士郎は目的その他諸々不明のフェイトの元へ潜り込み、いざという時にはジュエルシードの強奪を目論んだ。
その結果、形式的には二つのグループに分かれて私達は争う事となった。
まあ、その最中でフェイト達の本拠地で眠っていたリニスを見つけたりしたのは余談である。

しかし、そこへリンディさん達時空管理局が介入。
まあ、交渉やらなんやらで色々ありはしたが、最終的には管理局と共闘する事となった。
だが、同時期にフェイト達が士郎と縁切りしたものだからさあ大変。大慌てで士郎にフェイトを捜索させるも手掛かりがつかめず、私と士郎も身動きが取れなくなってしまう。

そんなある日、アリサが負傷したアルフを発見。そこからフェイト達の陣営の情報が管理局にもたらされると同時に、士郎の事も露見。仕方なく士郎の事を明かし、士郎も管理局に合流した。
その後、なのははフェイトと決闘。結果的にはなのはの勝利となる。だが、そこでフェイトの母であり事件の黒幕であるプレシアが動いた。

プレシアはアルハザード……私の推測では根源の渦と思しき場所へ至ろうと次元震を引き起こす。
そこでフェイトの出生の秘密なんかも明らかになったりはしたのだが、割と繊細な問題なだけに今はその辺りは伏せて話を進めた。

結果のみを言えば、この事件はプレシアの死で決着。
最悪の事態だけは防がれ、なのはとフェイトの間に友情が芽生えたり、他にも余計なものが芽生えたりもしたがこれまた余談だろう。
ついでに、魔法の理論やらあり方やらの概要なども説明はしていたのだが、大して面白くもないので割愛。
おまけで、私達の魔術についても管理局側が知っている程度には説明したけどね。

まあそういう感じに、割と早足で半年前の事件を語り終えたのだが、皆の反応はというと。
「ふ~ん、なのはがあの時変だったのはそういう事だったの」
「ごめんね、アリサちゃん、すずかちゃん。話すのに、こんなに時間がかかっちゃって」
「ううん、ちゃんと話してくれたんだもん。なら、わたし達はそれで良いよ。ね、アリサちゃん?」
「ん、まあね」
秘密にしていた事を怒るのではなく、ちゃんと話してくれた事を二人は喜んでいる。
というかあんたら、魔法っていう非常識に触れたにしては反応が薄いわね。

すずかは置いておくとしても、アリサはどうなのよ。
「別に驚いてないわけじゃないわよ。
ただ、そんなことよりもフェイトとの馴れ初めとかの方が重要ってだけでしょ?」
「御尤も」
なるほど、確かにアリサにとってはそうなのだろう。
この子からすると「魔法」や「魔術」という仰天物の事実さえも「そんなこと」になってしまうらしい。
いやはや、器が大きいというかなんというか、肩を竦めるしかないわ。

そこで、ちらりと横を見てみると。
「はぁ……なんちゅうか、色々あったんやねぇ。人に歴史ありってやつやな」
「アンタ、人のこと言えるの? この先はあんたの話になるんだけど、そっちだって大概じゃない」
「そうかな?」
天然なのか、それとも狙ってなのか……。

ちなみに、一応は立会人という役柄の二人はというと、とりあえず問題がなさそうな事に安堵のため息をついていたりしている。
正規の管理局員として、色々気を使ったりしていたのかしらね。よくわかんないけど。

などと考えていると、なのはが何やら神妙そうな顔つきでうなだれる。
「でも、ごめんね。わたし達がもっとしっかりしてれば、二人を巻き込んだりしないで………ふにゃ!?」
なのはがすずかとアリサに謝ろうとするが、それをアリサのチョップが制する。

ついでに、なのはの頬をつまみぐにゅぐにゅと弄くりまわす。おお、良く伸びる。
「別にアレはなのは達のせいじゃないでしょ? それどころか、なのは達はわたし達を助けてくれたわけだし、負い目に感じる事なんてないじゃない。それとも何? なのは、アンタ魔法が使えるようになったからって『わたしが全部守らなきゃ』とか考えてるんじゃないでしょうね」
「ひょ、ひょんにゃちゅもりふぁ(そんなつもりは)……」
「ならよし。確かに魔法ってのはすごそうだし、わたしにそんなまねはできないわよ。でもね、魔法だって万能じゃないんでしょ。なら、出来なかった事ばっかり見てても仕方ないじゃない。上手く言えないけど、そっちばっかり見ててもきっと良くない事になると思うわよ。
 フェイトとはやても、わかってる?」
「「う、うん」」
人生経験が足りないからか、言いたい事はまだ上手く言葉にはできないらしい。だが、アリサの言っている事は真理だ。そして、出来なかった事ばかり見ていた典型が衛宮切嗣やアーチャーだろう。
そっちばかり見ていては、自分のしてきた事に後悔や苦悩しか持てない。そんなことではきっと、そう遠くないうちに壊れてしまう。それを、アリサは何となくとはいえ既に分かっている。
いやはや、ホントに女傑だわ、あの子は。ある意味なのは達よりとんでもない。

そして、そう感じたのは私だけではないらしい。
「なんと言うか、すごい子だな……」
「クロノ君も、少し耳が痛いんじゃない?
 だけど、さすがはなのはちゃんの親友というべきか。それとも、逆なのかな?」
と、少し離れたところで年長者二人がぼそぼそと話をしている。
あの二人の目から見ても、アリサは際立って映るのだろう。

とはいえ、いつまでもこれじゃあ話が進まないか。
せっかくの為になるお話のところ悪いけど、ちょっと話を急がせてもらおうかな。
そこで、ちょっと強めに手を叩く事で皆の視線を集め話を進める。
「じゃ、次の話に移るけど良いわね?」
皆、声には出さず静かに頷き返す。

さて、話はジュエルシード事件から半年後に移る。
地球を中心に、個人転移で行ける範囲の世界で魔導師や魔力を持つ現地生物の襲撃事件が相次いで発生したのだ。
そして、その手が地球に住むなのはや私達に延ばされたのは必然だろう。

ある日の夜、なのははヴィータに、私達はザフィーラに襲われた。
結果を言えば「惨敗」という言葉がしっくりくるだろう。
なのはは倒れ、救援に来た私達やフェイト達も大なり小なり傷を負った。
にもかかわらず、襲撃者達の確保はおろか、その情報すらもほとんど得られなかっただのから。
分かった事と言えば、せいぜい一連の事件にロストロギア「闇の書」が関わっている事がわかって程度だしね。
その上、守護騎士達とは別の仮面の男まで出てくる始末だ。

その後、私達は治療やその他諸々の事情もあって、一度管理局の本局に身を寄せる事となった。
そこで、まあ紆余曲折あって再度管理局と共闘することとなる。
そうして、なのはの保護やら事件への対応のためにリンディさん達管理局員達は海鳴りに滞在することが決まった。まあ、フェイトが私達と同じと同じ学校に通う事になったのは、せっかくの機会というのもあったらしい。

そうして短い平穏を過ごしつつ傷を癒し、並行してなのは達は力を蓄えるべく動き出す。
きたる再戦の時、なのは達は新しい力を手に守護騎士達と戦うが、ついぞ決着はつかなかった。
その代わり思いもよらぬ事態が起こる。それが、新たな魔術師アイリスフィールの参戦だった。
管理局側はてっきり彼女が闇の書の主だと予想したのだが、実のところはそうではない。
本来の主は蒐集の事実を知らず、守護騎士達は主を救うために動いていたのだ。

三度目の対戦は別の世界で行われるが、そこで私は仮面の男の尻尾を掴むことに成功する。
そこで、事態の黒幕に管理局の高官が関わっている事を突きとめ、その人物に取引を持ちかけた。
その人物の目的は闇の書の完全封印であり、ならば交渉の余地があると踏んだからだ。
ちなみに、その黒幕は今のところはやてに知らせるのはショックが大きそうなので伏せて話している。
怪しさ全開なのだが、さすがに後見人が黒幕でした、というのはタイミングを計った方がいいだろう。

そして、決戦の日クリスマス・イブ。
なのは達とはやてに秘密でお見舞いに行ったところ、敵対していた守護騎士達と遭遇。
そこで、なのは達にも事態が知れることとなった。

その後、闇の書を意図的に完成させ、はやてに管理者権限を握らせるべく行動する事になる。
色々とトラブルはあったがはやては無事管理者権限を掌握し、闇の書の闇とでも呼ぶべき改変されたプログラムを切り離した。
総仕上げに総掛かりでの決戦を経て、闇の書の闇は消滅。

だが、夜天の書に掛けられた呪いはそれだけでは消えてくれなかった。
管制人格、リインフォースは自らの消滅を以てその呪い諸共、夜天の書の歴史を閉じようと試みる。
その際、何人かのお節介でリインフォースの人格と記憶だけは保存する事に成功し、夜天の書の歴史と心中する事だけは防ぐ事が出来た。
―――――――――――――めでたし、めでたし。

と、まあ大雑把に説明するとそんな感じだろう。
「で、わたしとすずかはそれを偶然目撃したってわけか」
「そういう事になるわね。ついでに言うと、その終盤に士郎は能力を暴走させたってわけよ」
意図的に出来る限り軽い口調でそう説明する。
別に重々しく話す様な事でもなし、ならこのくらいで良いだろう。

とはいえ、この程度で納得する子たちでもないし、変に追及されても面倒か。
なら、ドンドン話を進めていくのが吉かな。
「ま、多少省いたりもしたけどだいたい概要はこんなところよ。
 詳しく聞きたかったら、また別の機会にでも少しずつ聞いてちょうだいな」
「ふ~ん……まあ、確かに一気に話すのにも限度があるわよね」
「アイリさんとはやてちゃんに、そんな事があったなんて……」
この中では、およそ最もはやてやアイリスフィールという人物を知るすずかは、特に思う処が多いらしい。
アリサと違い、未だに聞いた話を咀嚼している様子だ。

「……それにしても、なのはは良くおじさん達に隠してられたわよね」
「えへへ、その辺りはわたしもすごく気を使ったから。
 心配させないようにするのは本当に大変だったんだよ」
感心するアリサに、何処か自慢気ななのは。アリサがどの程度高町家の人々のとんでもなさ加減を理解しているか知らないけど、それでもこれだけの事を家族に隠しきるのは難しい事は理解している。
だからこそ、それを今日までまがりなりにも隠しきったなのはに感心しているのだろう。

だけど、実はそうじゃないのよねぇ。
まあ、どうせ今夜にでも家族に話すつもりらしいし、その時になればわかるだろう。

さて、一応魔法関係の大雑把な話は終わったんだけど、ここから夜の一族関係か。
すずかにとっては一種のトラウマみたいなものだし、表情を見る限りかなり不安そう。
とはいえ、ここまできた以上避けられない話題よね。
実際、忍さんはOK出して、すずかにもその意思があるんだから。

そして、その時は来た。すずかは意を決したように口を開く。
「………じゃあ、今度はわたしの番だよね」
「う、うん」
なのはは躊躇いがちに頷き、フェイトやはやてもどこか落ち着かない様子だ。
アリサは一応平静なようだが、はてさて内心はどうなのやら。

と、そこでクロノとエイミィが口を開く。
「それじゃあ、僕達は一度席をはずすよ」
「え? クロノ、どうして?」
「エイミィさんも?」
「ほら、私達が立ち会うのは魔法関係の話までだからさ。それとは無関係のすずかちゃんの秘密を聞くわけにはいかないでしょ?」
まあ、すずかとしても友達に話すならともかく、これまでほとんど話した事もない人たちに秘密を明かすのは無理だろう。そういう意味では、二人の気配りは至極当然のものだ。

「そんなわけだ。話が終わったら、またあらためて呼んでくれ」
「メイドさんにお屋敷の中を案内してもらうから、気にしないで大丈夫だよ」
そう言って、二人はさっさと部屋を後にする。
念のため、私とカーディナルで部屋の中を走査するが特に盗聴器の類は確認できない。
つまり、魔力・機械の双方でここでの会話を盗み聞きできる代物は存在しないと言う事。
どうやら二人の今の発言は、確かに本心からのものだったようだ。

となれば、早速話を進めるとしますかね。でも、一応聞いておくか。
「いいのね?」
「うん。二人の秘密を聞かせてもらったんだもん。わたしの秘密も話さないと、フェアじゃないよ」
別にそういう問題でもないのだろうが、それですずかに踏ん切りがつくなら良いか。
どうせ、遅かれ早かれいつかは話すつもりだったはずの事だ。
なら、何がきっかけでも問題はない。

「なんて言うか……その、わたし達は……普通の人たちとはちょっと違う生まれ、なんだ」
「普通じゃないのなら、ここにも四人いるじゃない」
すずかの言葉に、素っ気なく返すアリサ。
まあね、魔法やら魔術やらを使う人間を「普通」と呼ぶ習慣はこの世界にはない。
その自覚はあるのか、なのは達はどこか苦笑気味だ。

「ううん、それでも皆は人の血を吸ったりなんてしないでしょ?」
「「「「へ?」」」」
すずかの言っている意味がよくわからないのか、私とすずかを除く四人が首をかしげた。

そこでいったんすずかは押し黙り、大きく深呼吸してから口を開く。
「わたし達は自分たちの事を『夜の一族』とか『吸血種』とかって呼んでるんだ。
 吸血鬼って言った方がわかりやすいのかな……」
ゆっくりと、絞り出すようにすずかはその言葉を口にする。
吸血鬼という表現が妥当なのかどうかはこの際置いておくとしても、一番夜の一族と符合させやすいのがそれなのは否定しない。血を吸う、という意味でいえばそうなわけだし。

しかし、その意味がさっぱり分からない人がいたりしたのだった。
「ああ……話の腰を折るようで申し訳ないんだけどさ、言葉の意味をよくわかってない人間がいるみたいよ、そこに」
「ごめん、よく分からないから、説明してほしいんだけど……『きゅうけつき』ってなに?」
こけた、それはもう盛大にこけた。
誰が? そんなのは決まってる。出身地が地球の、私を除く人間全員がだ。

イヤね、考えてみれば当然なのよ。
こっちでは吸血鬼なんてポピュラーな怪物だけど、次元世界的に知れ渡っているかと言えばそうではないだろう。
アメリカ人に「座敷童ってなんだ」と聞いても、わかる奴などほとんどいない。早い話がそう言う事だ。

ついさっきまで震えていたすずかだったが、あまりの事に呆然としている。
となると、誰かがその辺りを説明しないといけないのか。
適任はやっぱり……私なのよね。
「吸血鬼っていうのは、読んで字のごとく『人の生き血を吸う怪物』の事よ。
 ていっても、空想上の怪物なんだけどね」
少なくとも、この世界に死徒がいないのならそれで問題ない。
とはいえ、アイリスフィールと暮らしていたはやては知っているかと思ったけど、どうやら今の表情を見るに聞いた事はないみたいね。

「他にも太陽の光が苦手だったり、不老不死だったり、霧や狼に変身するとか伝承の内容はいろいろだけどね」
「それが、すずかってことなの?」
私の説明を聞き、フェイトは確認するようにたずねてくる。

それに対する私の返答は……
「違うわよ」
「え?」
「あくまで一番イメージしやすいのがそれってだけで、厳密に言えば吸血鬼とも違うのよ。
 詳しい説明はすずかに聞きなさいな」
結局のところ、私はどこまで行っても部外者でしかないのだ。
ならば、やはり当事者に説明してもらうのが一番だろう。

その結果、再度全員の視線がすずかに集中する。すずかも一度話の腰が折れた事で良い具合に力が抜けたのか、今度は先程ほど気負うことなく口が開いた。
「さっきも言ったけど、正確には夜の一族って呼ばれてるんだ」
「夜の…一族?」
「うん。定説では、遺伝子障害の定着種って事になってて、体の中で生成される栄養価、特に鉄分のバランスが悪くて、完全栄養食である血を飲むの。だから、一応吸血種とも呼ばれていて……」
「つまり、コウモリとかヒルとか、或いは蚊の親戚だと思えばいいのよ。
吸血鬼とか言うからややこしくなるのよねぇ」
「ちょっと凛。すずか、思いっきりへこんでるわよ。その説明であってるわけ?」
むぅ、言い方が悪かったかしら。
無害な感じを強調するなら、実際にいるモノを例にした方がいいと思ったんだけど。

そこで、なのはが尋ねてくる。
「えっと、つまり……血を吸われたからって、吸われた人までってことには……」
「ならないわよ。というか、私も士郎も一度ならず吸われるし、安全は保証するわ」
その言葉を聞き、今度は私にも視線が集中する。
まあね、別に吸われたからって害があるわけでもなし、払うもの払ってくれたら別にかまわないのよ。

「あ。でも、別に輸血パックでもいいのよね?」
「うん。正直、すごくまずいんだけど……」
ほぼ全員が「ああ、なるほど」って感じの反応を示す。
血の味などわからないなりに、何となく感じるものがあるのだろう。

「あと、特徴としては異常な筋力とか鋭い感覚器官、それと並外れた再生回復能力があげられるわね。
 それらの高性能な肉体を維持するために、普通の食事だけじゃ足りないと思ってくれればいいと思うわ」
「その一つが、あの時あの蛇のお化けみたいなのの動きを止めた力なの?」
アリサが確認するようにすずかに尋ねる。
その表情に恐れはなく、むしろ素っ気ないくらいだ。

「うん。血が濃いと、個人でそれぞれ違う力を持ってる場合があるんだ。
 わたしの場合はあの『圧縮』で、お姉ちゃんが『暗示』」
いや、こうして改めて聞いてみるとホントに個々人での違いが激しいわ。
姉妹での共通点が、精々「魔眼」程度なんて。
この手の異能は、割と近親者同士だと似たようなものを発現するはずなんだけどなぁ。

まあ、色々脅かしはしたけど、結局のところ夜の一族そのものはそこまで危険な存在じゃない。
むしろ、魔導師とか高町一家の方がよっぽど危険じゃないかな?
少なくとも、私は恭也さん達と戦うくらいなら手ぶらでここに攻め込む方を選ぶけど。

そうして、すずかは恐る恐るといった様子で親友たちの様子をうかがう。
「ごめんね、皆。ずっと、秘密にしてて……きゃっ」
そこで、謝罪の言葉を口にするすずかの頭をアリサがワシワシと乱暴にかき回した。

「いいわよ、謝んなくて。それだけ言いにくかった事でしょ?
 それに、隠し事の一つや二つあって当然だし、その程度でどうこうなるほど浅い付き合いをしてたつもりもないわ。だから、隠し事をしてたって事は全然気にしなくていいの。
それを言ったら、そっちのなのは達だってそうなんだし」
「にゃははは……。それを言われちゃうとわたし達も弱いからなぁ」
「せやね。隠し事をしてたのは同じやし……」
どうやら、この子たちの間では吸血種云々など問題ではなく、隠し事をしていた事に焦点が当てられているようだ。らしいと言えばらしいし、なのは達も人の事を言えた義理じゃないからいいとしても、アリサの胆力は並外れてるわ。

「ま、実際問題として血を飲まないと栄養が偏るのも事実だし、偶には飲ませてもらったら?」
「り、凛ちゃん!?」
「冗談……ってわけでもないけど、献血と大差ないしその程度の感覚でいいのよ」
実際、私達からしてみればその程度の感覚なのだ。似たような知り合いもいたし。
吸血種だの何だのと言うから複雑になるだけで、もっと砕けた考え方でも問題はない。

だが、すずかとしてはそう簡単に割り切れる事でもないらしく、念を押すように尋ねる。
「みんなは、怖くないの? わたしは人の血を吸って、普通じゃできない事が出来るんだよ?」
「何をいまさら……貧血になるくらいなんでしょ? それに、普通じゃできない事が出来るって言い出したら、なのは達はどうなのよ」
「それはそうかもしれないけど……色々、迷惑をかけちゃうかもしれないよ?」
「大丈夫。これでも、わたしもなのはも荒事にはもうだいぶ慣れてるから」
まあ、確かにあんたたちほど荒事に慣れた小学三年生もそうはいないわね。
ただ、その認識が過信、あるいは増長に繋がらないといいのだが……。

「それにしても、凛達は初めから知ってたってわけね?」
「初めからっていうのがどのあたりを指しているかにもよるけど、前から知ってたのは事実よ。
 ついでに言うなら、教えてもらったというより偶々突き止めたって言う方が正しいけど。
 ちなみに、今は一応友好関係って事になるわね」
「なんかそれって、時空管理局だっけ? そっちと仲が良くないみたいに聞こえるんだけど」
「仲が悪いってわけじゃないわよ」
とはいえ、月村と管理局だったら間違いなく月村家とのつながりを重んじる。
こっちの方がまだ……っていうか、断然信用できるし。

さて、じゃあ残すところはアレかな。
「ま、それはそれとして、さっさとやる事やっちゃったら?」
「へ? やる事って…なんなん?」
「えっと、一族の掟でね。契約っていうのがあるの」
はやての問いを受け、すずかが控えめに告げる。

まあ、契約って言ってもそこまで堅苦しいものじゃない。血の洗礼なんて言うけったいなものもあるらしいけど、こっちは単純に秘密を共有して生きていく事を「誓う」というものだ。
そして、当然この子たちがそれを厭うはずもない。
「全てを忘れるか、それとも友達…あるいは恋人として秘密を共有してずっと生きていくか。それを選んでもらうの。お姉ちゃんになら、本当に全てを忘れさせることもできるから」
「じゃあ、お兄ちゃんは恋人の方を選んだんだ」
とは、なのはの独白。まあ、一応はそういう事になるのだろう。
あそこまで来ると、ほとんど婚約に近い気もするんだけど。

「えっと……それで、みんなはどうするの?」
「凛ちゃんと士郎君はもうその契約っちゅうんは済ませてるんやろ?」
「あ、うん」
「なんか、先を越されたみたいで気に食わないけど……答えなんて決まってるでしょ」
「「「うん♪」」」
他の面々に視線を投げかけるアリサに、なのはたちは満面の笑みで頷く。
まあ、恋人になるって選択肢はさすがにないだろうし、なら確かに答えは決まっているか。

そして……
「「「「これからもよろしく、すずか(ちゃん)」」」」
「…………うん、うんうん」
笑って手を差し出す四人を前に感極まったのか、すずかは静かに涙する。
ま、予想通りと言えばそうだけど、それは言うだけ野暮ってものか。

とはいえ、話はこれで終わりはしなかった。
すずかの言葉に触発されたのか、フェイトがゆっくりと口を開く。
「…………少し、いいかな?」
その表情は、さきほどまでのすずかに負けず劣らぬ不安に埋め尽くされていた。
それを見れば、フェイトの事情を知る者たちは彼女が何を言おうとしているのか自ずとわかる。
なのはの方は何か言おうとするが、フェイトの目を見て押し黙った。
たぶん、何を言っても考えは変わらないと察したのだろう。

別に、わざわざ話さなきゃならない事でもないのに、本当に律義な子たちだ。
まあ、これも知る側からの意見でしかないのかもしれないけど。

「すずかは自分が普通じゃないって言ったけど、それはわたしも同じなんだ。
 わたしは…………アリシアのクローンだから」
その言葉と共に、場は静寂に支配される。
よく見れば、フェイトの手は膝の上で固く握りしめられ、小刻みに震えている。

私としても迂闊に何か言える雰囲気ではなく、どうしたものか困り果ててしまう。
あの子たちがこれを聞いたからってどうこうという事はないだろう。
特に、はやてに至ってはホムンクルスであるアイリフィールと暮らしていたのだから。
フェイトも、この子たちになら話しても大丈夫と信頼して話したのだろうが、それでも不安や恐怖は当然ある。
きっと受け入れてくれる、でも拒絶されるかもしれない。信頼と不安が天秤を盛大に揺らしている事が、今のフェイトの表情にありありと浮かんでいた。

「アリシアって、確かフェイトのお姉さん……だっけ?」
「うん。母さんは、本当の娘であるアリシアを取り戻そうとしてわたしを作って、記憶を転写して、でもそれは上手くいかなくて……結局わたしは、母さんの望んだアリシアにはなれなかった」
そう語るフェイトのは俯き、握りしめた手を、細い肩を、小さな体を震わせる。
呼吸は荒く不規則で、額からはジンワリと汗まで滲んでいた。

だが、そこである事に気付く。アリサの眼つきがきつくなり、プルプルと震えだす。
そして……
「だぁ―――――――――――っ! 辛気臭いわねぇ!! そんなのわたしの知った事か――――――!!!」
なにかが切れたのか、盛大に爆発するアリサ。
ずっと聞く側に回っていただけに、いろいろとフラストレーションがたまっていたのだろう。

「「「「あ、アリサ(ちゃん)!?」」」」
「だってそうでしょ! アリシアは何が好きで、どんな風に笑うのかわたしは知らない。だけど、フェイトの事なら少しは知ってる。世間知らずで天然が入ってる所とか、嬉しい時には照れて俯きながらも笑ってくれる所とかを見てきた。
でも、それは全部アリシアじゃなくてフェイトの個性でしょ!! だから、フェイトがアリシアって人のクローンって言われても、正直しっくりこない。当然よね、わたしが友達になったのはアリシアじゃなくてフェイトなんだから。なら、それを聞いたからって今までと何が変わるってのよ!!」
まあ、何も変わらないでしょうね。
アリシアになれなかったクローンと言われても、アリシアを知らないあんたからすればそんなことは関係ない。
アリサはフェイトしか知らず、アリシアを知らない。だからこそ、その背後にあった悲劇ではなく、目の前にある奇跡を見て喜ぶ事が出来る。こうして、フェイトという友人と出会えた奇跡を。

「うん。わたしも、アリサちゃんと同じ気持ちだよ。アリシアさんやお母さんの事は悲しいけど、わたしもフェイトちゃんと出会えてよかった。だからやっぱり、ここにいるのがフェイトちゃんでよかったって思う」
「……………アリサ……すずか……」
「せやね。それに生まれの事を言い出したら、アイリかて……ヒッ!?」
すずかたちに乗じて余計な事を言おうとするはやてに殺視線を向ける。
やっぱり知ってたか。だけど、それを話されて他に漏れると何かと面倒なのよ。
フェイトとアイリスフィールは、確かに似たような生まれかもしれないけど、それでもクローンとホムンクルスはやっぱり異なる。私達にとっては大差ないかもしれないし、生まれで貴賎が決まるわけでもない。けど、余計な連中に知られる可能性は減らしたい。研究者の類に知られると、厄介な事になりそうだからなぁ。

「はやて?」
「え、ええっと……ヴィータ達かてああいう生まれやから、あんまり気にせんでもええと、わたしは思います」
と、どこか虚ろな目で話すはやて。
まあ、そのうち頃合いを見て話す事になるかもしれないし、それまで我慢してもらいましょ。

そうして、アリサはフェイトとすずかへと歩み寄り、素っ気なく手を差し出す。
「ま、とりあえず……これからもよろしくって事で」
「「うん」」
他の面々も同様に歩み寄り手を差し出し、それを二人は涙目になりながらもしっかりと握り返した。
ま、なるようになったって事かしらね。

そこへ、先程のアリサの怒鳴り声を聞いたのか、クロノ達が大慌てで部屋に入ってくる。
「だ、大丈夫か!?」
「いま、なんかすごい音が聞こえたけど、みんな大丈夫?」
それに対しアリサを除く全員が苦笑いを浮かべ、アリサはどこか恥ずかしそうにそっぽを向く。

とはいえ、これで話す事はだいたい終わりかなぁと思ったところで、クロノが待ったをかける。
「あ、済まないんだが、少しいいか?」
「クロノ?」
「ちょっとね、すずかちゃんに提案があるんだ」
「え? わたしに、ですか?」
クロノとエイミィの言葉に、どこか困惑した様子で尋ね返すすずか。

まさかとは思うけど、例によって例のごとくなのかしら。
「君さえよければなんだが……」
「ストップ。ハッキリ言うけど、すずかの能力は燃費と使い勝手が悪いわよ。あんまり応用も効かないし。
 その上本人は性格的に戦闘向きじゃないし、自分の能力も好きじゃないみたいだしね」
ちらりとすずかの方を見ると、何処かしょんぼりした様子。
でも、実際管理局でクロノ達みたいな仕事をするのはあんたには向かないと思うのよ。

「えっと、クロノ君。それってもしかして……」
「すずかちゃんを管理局に勧誘するん?」
「まあ、一応はそういう事になる。だが……」
「アンタね、いくらなんでも見境がなさすぎない?」
私の言葉を聞き、クロノがどこか憮然とした様子で押し黙る。
まあ、大方の予想はできている。クロノはあんまりこういうことには気乗りしていない風だし、おそらくリンディさん辺りからの指示なんだろう。

そこで、少し険悪になりつつある場を察してエイミィが仲裁に入る。
「まあまあ、確かに勧誘しているのは本当だけど、凛ちゃん達が思ってるのとは違うと思うよ」
「何が違うってのよ?」
「私達はね、別にすずかちゃんに武装局員になってほしいとかそういう風には思ってないの。
 なんて言うか……すずかちゃんには『先生』になってほしいなって」
『先生?』
クロノとエイミィを除く全員が異口同音に疑問を口にする。

「どういう事か、詳しく説明してもらえるんでしょうね?」
「ああ。これはあまり知られていない事なんだが、彼女の様な能力を持った人間というのは、管理局の方でも稀に確認される。ただ、その大半が能力の制御に難があって、一般社会に溶け込めない場合がほとんどなんだ」
「どうも、魔法や科学とかだと上手く解明できない能力みたいでね。管理局の方でも色々研究とか制御訓練とかやってるんだけど、あんまり効果がなくて……」
なるほど、だいたい何を考えているのかは予想がついた。
よくよく考えてみれば当然なのだ。すずかたちにあるのだから、この世界にも少なからず異能者の類はいるだろう。とはいえ、だからと言って制御できるかどうかはまた別の問題。
異能の制御は個人の感性によるところが大きいし、上手く制御できずに社会からあぶれてしまう異能者というのはいつの時代も後を絶たない。

とはいえ、異能者というのは基本的には普通は共通のチャンネル(常識)も持っていて、それを使い分けて生きている。
そういった人たちは、おそらくその存在を管理局に知られることなく静かに生きている場合がほとんどのはずだ。
だが、なかには共通のチャンネルを持っていない者もおり、それを私達は『存在不適合者』と呼ぶ。
管理局で把握できている人間は、おそらくほとんどはこちらなのだろう。

いや、一概にそうとも言い切れないか。そもそも、社会から外れてしまう者の全てがそうとは限らない。
共通のチャンネルは持っていても切り替えが上手くできない者、クロノが言った通り制御能力に難がある者も含まれているはず。ならば、その辺りさえちゃんと身につけられれば、彼らは一般社会に帰っていく事が出来る。
でも、管理局にはその辺りを教える事が出来ない。だからこそ、それを教えられる者を求めるのだろう。

「僕達にできる事と言えば、問題を起こしたり、或いは社会から爪弾きにあったりした人たちを保護……いや、名目上は保護なんだが、ほとんど隔離に近い状態で身柄を預かることしかできていない。
 だが、君はどうやらちゃんと自分の能力を制御できているみたいだ。だから……」
「そのノウハウを管理局に伝えて、できればそういう人たちに能力を制御する訓練をしてほしいって事になるね」
基本的に、異能というのは偶発的に発現する一代限りの変異遺伝だ。本来、人間という生き物を運営するのに含まれない機能で、超常現象を引き起こす回線であるそれは魔術でもその原理を解明できていない場合も多い。
どうやら、それは管理局の方でも大差ないらしい。

魔法や魔術というのは結局は後天的に身につける技術であり、異能の様に先天的なものではない。
先天的なものに影響は受けるが、あくまでも技術そのものは後から覚えるのだ。
それこそ、人体実験でもしない限り異能を根本的に解明するのは難しいだろう。制御法にしても同じだ。

しかし、血筋としてその能力を伝えてきた夜の一族には、そんな能力を制御するためのノウハウがある。
実際、すずかも基本的にはそれに沿って訓練した。
確かにそのノウハウがあれば、能力を制御できずに社会から外れてしまった人たちを、元の社会に返す事も出来るかもしれない。

「えと……わたしは……」
「ああ、別に今すぐ答えを出してくれなくても良い。
ただ、そういう未来もある、という事を知っていてほしかっただけだ」
「うん。そういうわけだからさ、もし興味があったら連絡してくれるかな。
 詳しい事がわからないと決められないだろうし、そういう機会はちゃんと用意できるから」
二人は困惑気味のすずかに優しく話し、答えを急ぐ事はなかった。
それにしても、わざわざついてきたのはこれも目的だったわけか。
まあ、自分の能力が好きになれないすずかは、きっとそうやって社会から外れてしまった人たちの気持ちも他の人間よりかは理解してやれるだろう。そういう意味でも、彼女は適任なのかもしれない。

ま、それにしたところで決めるのはすずか自身だ。
とりあえず告白大会も一応終わったわけだし、堅苦しい話はこれで終わりかな。

だが、そうは問屋がおろしてはくれなかった。
「待って、凛。まだ、話してくれてない事が、あるよね?」
「なにかあったっけ?」
「はぐらかさないで!!」
珍しく、本当に珍しくフェイトが怒鳴る。
その思いもよらぬ反応に、その場にいたほぼ全員が目を見張り驚きを露わにした。

「シロウの事、昨日はあんな事があったから聞けなかったけど、ちゃんと説明して」
「説明も何も、さっき言ったじゃない。アイツが魔術の制御を誤って、その結果暴走したって。
 それ以外に言う事なんてないでしょ」
「嘘!」
「本当よ。っていうか、嘘をつく意味がないわ」
「嘘だよ!! だって、なんで士郎が制御ミスをしたのか、それを教えてくれてない……。
 凛が使って良いって言ったのなら、ちゃんと大丈夫な理由があったんだと思う。でも、実際にシロウは制御ミスをして、あんな酷い怪我をした! なら、何か原因があったんでしょ?
 もし、制御が難しいってわかってて備えてなかったって言うのなら、わたしは凛を……!!」
「許せない? 許せないとして、だったらどうするつもり?」
にらみ合う私とフェイト。なのはやすずか、それにはやてはそれを見て不安そうにこちらを見つめる。
突然噴出した険悪な空気に、先程までのような温かさはない。

しかしそこで、ダンとテーブルを叩く音が部屋に木霊する。
「落ち着きなさいよ、二人とも!」
「アリサ」
「そうね、睨み合ってても仕方がないか」
アリサの一喝に、私とフェイトはそれぞれ眼を反らし合う。
とはいえ、それでもなお場を埋め尽くす険悪な空気は微塵も衰えてはいない。

「凛」
「何?」
「別に、アンタ達が何を隠して様とそれはいいわ。さっきも言ったけど、隠し事の一つや二つあって当然だし、それを無理に聞き出す権利なんてわたし達にはない。
 でもね、こうしてフェイトは心の底から士郎の事を心配してる。もちろんわたし達も。なら、ちゃんと納得のいく、せめて不安を取り除くくらいの説明はするべきなんじゃないの。それが命にかかわる事なら」
他の皆も同意見なのか、なのはやすずか、そしてはやても静かにうなずく。
確かに、この子たちの言っている事は至極まともな意見だ。それどころか、当然のことだと言えるだろう。
それが真実士郎の命にかかわると言う事を知っている以上、無条件に放置はできないだろう。

「そうね、アリサの言う事は正しい」
「じゃあ!」
「だけど、私に言える事はさっき全部言った。それ以上私が言える事はない。それが全てよ」
確かにフェイトの言うとおり、術の暴走は私にとっても予想外であり、その原因も一応わかってる。
だけど、それを口にすることはできない。下手に余所に知られて実験動物にされるのは御免被る。

そこで、フェイトはアプローチを変えてきた。
「なら、あの世界はなんなの?」
「それとこれとは無関係でしょ」
「無関係じゃないよ! アレのせいで、シロウはあんな事になったんでしょ?
 なんで、何も教えてくれないの? そんなにわたしが、わたし達の事が信用できないの!?」
涙目になりながら……否、事実涙を止めどなく流しながらフェイトは問う。
仲間だと、友達だと思っていた私が何も話してくれない事に憤っている。

「全部教えろ、なんて言わないし、言えない。
 でも、シロウがあんな事になった理由くらい…教えてよ。
そうじゃないと、どうやって次を防げばいいかわからない」
たぶん……というか、まず間違いなくフェイトの言っている事の方が正しいのだろう。
フェイトは士郎の事を心から心配して、次がないようにその原因を知ろうとしているだけだ。

「何も話してくれなきゃ、わたしは凛の事を……」
それ以上はフェイトは口にしないが、続く言葉は予想できる。
おそらくは「信じられない」とでも言おうとしたのだろう。

まあ、言っている事は至極もっともだ。
私だって、こんな重要な事をひたすらに隠そうとするやつに背中を預ける事なんてできない。
だが、こちらにも話せない事情がある。保身と、こっちに来てからできたもう一つの事情がね。
「…………」
「何も、言ってくれないんだね」
寂しそうに、悲しそうにフェイトは俯く。
他の皆も同じ気持ちなのか、フェイトの方へと近づいていく。

その光景に、どこか……距離を感じる。物理的な意味ではなく、精神的な意味で。
いや、それはいまさらか。元からあったものが、ここにきて浮き彫りになっただけなのかもしれない。
私とあの子たちの間には、目に見えない境界線がある。どれだけ近しく思っていても、この境界線がある限り、私達はきっと根本的には同じところに立つことが出来ない。

その事を僅かにでも寂しく思う自分がいる事に、少なからず驚きがあった。
魔術師なんてそんなものだと、ずっと昔に理解していたはずなのに。

まあ、それもいた仕方なし。魔術師である私が、真っ当な人間であるこの子たちとの中に紛れ込む事は出来ても、本当の意味で溶け込む事など土台無理な話だったのだろう。

だがそこで、一瞬私とはやての眼が合った。
彼女だけは、私達の事情をほんの少しとはいえ知り得る立場にいる。
そんなはやての眼は何かを言いたそうにしており、私もなにが言いたいのか何となくわかるつもりだ。

しかし、はやてがその何かを言う前に念話で機先を制する。
『悪いんだけど、何も言わないでちょうだい。アイリスフィールの事情、少しくらいは知ってるんでしょ?
 こっちも似たようなものでさ、話せない事情ってものがある事を察してくれると助かるんだけど……』
『凛ちゃん……せやかて、みんな……!』
『わかってる……わかっているつもりよ。でもね、やっぱりこれは知らなくていい事よ……』
知るべきか否か、そんな事は私が決める事じゃないのだろう。
保身を抜きにしても、私は酷く傲慢なのかもしれないと思う。
だから、許せなんて言うつもりはない。

そもそも、保身だけが目的なら話してもそれほど問題ではないのだ。
それは、この子達が決して余所の人間に対して話せないようにすれば済む。
その程度の制約を掛ける程度、そう難しい施術じゃない。
話したくても話せないようにすれば、それは情報を漏らしていないのと同義なのだから。

しかし、出来るなら私はそんな事この子たちにしたくない。
となれば、選択の余地はない。黙して語らず、ただ口を噤むしかないではないか。
「じゃ、私はこれで帰る事にするわ」
だからこそ、出来る限りいつもどおり軽い口調でこの場をあとにする。

「…………ぁ」
そう漏らしたのは誰だったのか。
振り向きたい衝動にかられるが、結局足を止めることなく私はドアノブを握り、部屋の扉をあける

だが、出ていこうとする直前……
「本当にいいの? 凛ちゃん」
そう、エイミィが問いかける。
その問いに対する答えを、私は持ち合わせていなかった。

「じゃあね、良いお年を」
年末恒例の別れの言葉。
同時に、今年はもう会う事はないだろうと言外に伝える。
確定ではないが、多分そうなるだろう。

まあ、いずれは来るであろう終わりの時だ。
それが偶々今になった。ただそれだけのこと。
だけど、出来ればそれはもう少し先であってほしかったかな。
あの子たちとの日々は、ついそんな事を思ってしまうくらいには楽しかったから。



Interlude

SIDE-ユーノ

場所はなのはの家。
そこで僕は、リンディさんと一緒に高町家のみなさんにこれまでの事を伝えていた。

そして、全てを伝え終わったところで、リンディさんが深々と頭を下げ、床に頭をつける。
「その節につきましては、なのはさんを危険な目に会わせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。彼女の好意に甘え、皆さんとその大切なご家族に多大なご迷惑をおかけしました事を、謝罪させていただきます。
誠に、申し訳ございません」
弁解はない。許してくれともいわない。ただ深く、確固たる意志と覚悟を以てリンディさんは地に頭をつける。

だけどこの時の僕は、そんなことにも気付かずに驚きの声を上げることしかできなかった。
「り、リンディさん!?」
「いいのよ、ユーノ君。私は、責任を取らなければならないんですもの」
「そ、それなら僕の方こそ!!」
「それとこれとはまた別の問題よ。
私がした事は、管理局の提督以前に大人として恥ずべき事。だって、そうでしょ? 大人は子どもを守るのが役目なのに、その護るべき子ども達を危険な場所に放り込んだんですもの」
慌てる僕を制し、リンディさんは落ち着いた声音で自分の心の内を語る。
だから僕もそれに倣い、一緒に頭を下げた。僕もまた、なのはを巻き込んだ事に対する責任があるから。

その誠意が伝わったのか、或いは元から僕達を責める気などなかったのか。士郎さんはリンディさんに気軽に話しかける。
「お気になさらないでください。こうしてなのはは元気ですし、それどころか以前よりもずっといい目をしています。きっと、そちらでとても良い経験を積んだのでしょう。
 ですから、顔をあげてください。もし、まだ気に病まれているのなら、これからも良きお付き合いをしていく事で帳消しとしましょう。それに……」
そう言って、士郎さんの目がなのはに向いた。

「なのは」
「あ、はい!」
「リンディさん達に関わった事、魔法に関わった事を、後悔しているか?」
「そ、そんなこと! わたし、ユーノ君やリンディさん、クロノ君にエイミィさん……そしてフェイトちゃんやはやてちゃん達に会えて本当によかったと思ってる。だから、後悔なんて……」
そう、なのははきっと後悔なんてしていない。
でもね、気付いているの、なのは? 君は今、凛と士郎の名前を言わなかったんだよ。
日中にあった事はもう聞いているからこそ、その事が際立って感じた。

だけど、士郎さんは今の時点ではその事を知らない。だからこそ、そのまま話を進める。
「そうか……なのはもこう言っています。ですから、どうかそれ以上悔やまれないでください」
そうして、士郎さんはリンディさんに歩み寄り手を差し出す。
他の人たちも同じ気持ちなのか、優しい眼差しを送っている。

リンディさんもまた、これ以上伏している事こそが礼を失すると感じたのか、ゆっくりと手を差し出す。
ただ、その顔はいまだ伏せられたままで、そのまま士郎さんの手を握り返した。
「あり…がとう、ございます」
その声には嗚咽が混じり、士郎さんもどこかバツが悪そうにしている。
この人も同名の誰かさんと同じで、誰かに泣かれるのは苦手な性質なのだろう。

そこで、士郎さんは僕にも優しく言葉をかける。
「ユーノ君」
「あ…は、はい!」
「なのはを頼ってくれて、ありがとう。たぶん、なのははずっと誰かに必要として欲しかったんだろう。
 なんと言うか、昔色々あってね。なのはには寂しい思いばかりさせてしまって、そのせいなんだろうなぁ。
 まあ、そもそもの原因は俺なんだが……」
その昔というのに何があったのかは詳しくは知らないし、その時になのはが何を思い今に影響しているのかは知らない。だけど、それがなのはの根底にあって、そのあり方に影響を与えているのだろう。
幼いころに受けた影響が、後々にまで尾を引くのはよくあることと聞く。

「これは君に限った事じゃないんだが、これからもなのはと良くしてやって欲しい。
 なのはは末っ子だから、どうも俺たちはこの子を子ども扱いしてしまってなぁ。そのせいで、ずっとアイツが欲しがっていたものをやれなかったんだろう」
まあ、確かにそれが普通の感覚なんだろう。なのはと同世代の僕たちだからこそ、子どもであるなのは相手に「頼る」という選択肢が生じる。たとえば、クロノなんかではなのはくらいの子を相手に「頼る」という選択肢はあっても選びにくいだろう。
その意味では、確かになのはが欲しいものを与えられるのは僕たちの方なのかもしれない。

しかし、ここで終われば美談だったのに……
「ああ、それと……」
「はい?」
「なのはの婿になる男の最低条件は、俺と恭也と美由希を同時に倒せる事だから、心しておくように!!」
いや、それ無理。一人一人でも化け物じみてるのに、三人同時に相手にするとか無理だから。
以前フェレット形態で少しだけこの人たちの稽古を見た事があるけど、何で魔法抜きであんな動きが出来るのか不思議なくらい強かった。戦ったとしても、瞬殺される気しかしません。
っていうか、婿決定なんだ。嫁には行かせないんですね。

「ちなみに、交際は交換日記から始めてもらうからそのつもりでな」
実ににこやかに恭也さんは笑っているが、その眼が全然笑っていない。
むしろ、眼の奥にある光は餓狼か猛禽か……はたまた悪鬼羅刹の類だろうか。
士郎さんと恭也さんを除く全員は、その死刑宣告にも似た言葉を聞いて僕に向けて合掌していた。
泣いていいですか?

「う~ん。それにしても、魔法に魔術かぁ。いいなぁ、私も使ってみたいなぁ」
「ねぇ。あ、若返りの魔法とかってないのかしら?」
「お母さん。お母さんにそれ必要なの?」
たぶん、美由希さんと桃子さんのこのリアクションがこの中では一番まともなんだと思う。
とはいえ、桃子さん。それ以上若返ってどうするつもりなんですか? 子どもにでもなるんですか?

しかし、そこでなのはがずっと感じ続けた違和感を口にする。
「あのぉ、なんかさっきからお兄ちゃんとお父さんのリアクションが薄すぎる気がするんですが……」
「まあ、魔法云々はともかく、なのはが何かの騒動に首を突っ込んでいるのは一応知ってたからな。
 魔法というのはさすがに驚いたが、まあそう言うのもあるだろう」
順応力が高すぎるでしょう、士郎さん。

「ふえ!? もしかして、お兄ちゃんも?」
「当たり前だ。その意味では、なのはが家を抜け出していたのは美由希も気付いていたぞ」
「え? ああ、うんうん、気付いてたよ……っていうか、隠してたの?」
美由希さんの一言にうなだれるなのは。たぶん、心配させないように隠していたつもりなんだろうなぁ。

「それに、俺は一応士郎達から話を聞いてたからな」
「へ? 話って、なんの?」
「ああ、なのはが厄介事に首を突っ込んでいるけど、こっちでちゃんと見てるから安心してくれってさ。
 そうじゃなかったら、とっくの昔に問いただしてるところだぞ」
恭也さんの話を聞いて、なのはがそれはもう驚いた顔をしている。
でも、それは僕も同じ。まさかそんな裏事情があったなんて。

「もしかしてお兄ちゃん……」
「ああ、士郎達の秘密は俺も多少知っていた。まあ、その話は追々な」
そう言って、恭也さんはこの場での話を打ち切る。今の言葉通りなら、そのうちちゃんと教えてくれるんだろう。

だけど、士郎の名前を聞いて、なのは少し寂しそうに表情を曇らせる。
「なのは、士郎の事で何かあったのか?」
「え? あ、その……」
なのはは言葉にしづらいのか、しどろもどろになって最終的には黙り込む。

それを見かねて、リンディさんがなのはの肩を軽くたたく。
「なのはさん」
「あ、はい」
「一応フェイトさんに話は聞いているわ。だから、その事は私に任せてもらえないかしら?」
「え?」
「上手くいくかはわからないけど、なんとかしてみるから、ね?
 だから、少しだけ待っていてちょうだい」
そう言って、リンディさんはなのはに笑いかける。

詳しい事は教えてもらえなかったけど、何か考えがあるらしい。
でも、それでなんとかなるのなら頑張ってほしいと思う。
なのはが悲しそうな顔をしているのは、僕もいやだから。

Interlude out






あとがき

さぁて、とりあえず暴露大会一回目はこんな感じになりました。
って、全然士郎達の方は暴露してませんけどね!
すんなり話してくれるわけもありませんし、多少は色々とないとおかしいでしょう。
ただ、この調子だと暴露大会が終わるのにどれくらいかかるやら。
たぶん、割と暴露話は長くなると思います。まあ、この後色々ある予定なので……。

しかし、すずかの件については少々話を広げすぎたかなという気もしないでもありませんね。
まあ、異能の類は魔術とはまた別系統の能力ですし、魔術がないとしても異能者がいないことにはならないと思うんですよ。というわけで、そういう人たちは少数ながらも確認されてはいるが、管理局としては持て余しているという設定を捏造してみました。
で、割かしちゃんと制御できている風であるすずかに、その人たちの事を任せたいと思っているという感じになっています。

P.S

すいません、更新後すぐに少々誤字に気付きまして、大急ぎで直しました。
また、あとがきの方で今後の予定や内容と矛盾する記述があったので、それも削除しました。
ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.031329154968262