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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第42話「天の杯」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/20 11:34

SIDE-士郎

夢を見ている。

俺がまだ幼かった頃の話。
それは、なんとも奇妙な二人の男の短い物語。
片や、火災で両親と家と、それまでの自分を亡くした伽藍堂の子ども。
片や、妻と理想を失い、娘に会うことすら叶わず、その身を呪いに侵された男。
そんな二人が、父子の素振りを通していた。

初めの出会いは――――――――――互いが色々なモノを失った焼け野原。
俺は火事場から助け出されて、気がついたら病室にいて、体中包帯だらけ。
状況はわからなくても、自分が独りになったことだけは、漠然と理解できた。
まあ、周りには似たような子どもしかいなかったから、受け入れる事しかできなかっただけなのだが。

子ども心に「これからどうなるのかな」なんて不安に思っていた頃に、男はひょっこりやってきた。
しわくちゃの背広にボサボサの頭。
病院の先生よりちょっとだけ若そうな…………でもなぜか、俺には人生に疲れ枯れ果てた『老人』の様に見えた。

俺がそんなことを思っていると、そいつは白い陽射しにとけ込むような笑顔を浮かべる。
「こんにちは、君が士郎君だね」
表情も言葉も堪らなく胡散臭くて、とんでもなく優しい声だったように思う。

「率直に聞くけど、孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな」
と、いきなり本題に入りやがった。

親戚なのか、と訊いてみれば………
「いや、紛れもなく赤の他人だよ」
なんて返答する、とにかくうだつのあがらない、頼りなさそうな大人だった。

けど孤児院とそいつ、どっちも知らない事に変わりはない。それなら、とそいつの所に行こうと決めた。
それはたぶん、あの地獄の底で俺を覗きこむ目とか、助かってくれと懇願する声を覚えていたからだろう。
そう、あの時薄れ行く意識の中で思ったんだ。俺を助けた男の眼に涙を溜めて微笑んでいたその表情が、なんて―――――――――――幸せそうなのだろうと。
この男の傍にいれば、この男の後を追えば、自分もいつかそうなれる、そうなりたいと思ったから。
だから俺は、そいつと一緒に行くことを決めたんだ。

そうやって、俺達はお互いを何も知らないまま『父子』という関係で落ち着く事となった。
その際………
「初めに言っておくとね、僕は“魔法使い”なんだ」
ホントに本気で、仰々しくそいつは言った。
まあ、その時のやり取りなんてほとんど覚えていない。
ただ事あるごとに、親父はその思い出を口にしていた。照れた素振りで、何度も何度も繰り返したのだ。

そんなことがあって、俺は衛宮切嗣の養子になって、衛宮の苗字を貰った。
「衛宮士郎」
それが俺の名前となり、本当に俺はそれまでと別の人間になったという事。
同時に、切嗣と同じ名字だと言う事が、堪らなく誇らしかった。
それだけ、かつて『■■士郎』だった子どもは、衛宮切嗣という存在に憧れていたのだ。

それから二年。ちょうど親父を言い負かして弟子にしてもらった頃。
俺が一人で留守番できるようになると、切嗣は頻繁に家を空けるようになる。
爺さんはいつもの調子で「今日から世界中を冒険するのだ」なんて子どもみたいな事を言い、本当に実行した。

それからはずっとその調子。
一ヶ月いないなんて事はザラで、酷い時には半年に一度しか帰ってこなかった事もある。
そのおかげで、広い武家屋敷だった衛宮の家を俺一人で管理する羽目になった。
子どもだった俺にはあまりに広すぎ、はじめは途方にくれたものだ。
一応臨時保護者みたいなのはいたのだが、その人物のあまりの家事能力の低さから、一度として役に立った記憶がない。まあそんなだったから、自然と家事が得意になっていたけど。

でも、その生活が好きだった。
旅に出ては帰ってきて、子どもの様に自慢話をする衛宮切嗣。
その話を楽しみに待っていた、彼と同じ名字の子ども。
―――――――――――――いつも少年の様に夢を追っていた父親。
呆れていたけど、その姿はずっと眩しかったのだ。
だからより一層、いつかはそうなりたいという願いを強くしていったのかもしれない。

だけど、今思えば、爺さんはそんな俺をどう思っていたのだろう。
今の俺は、もう爺さんに何があったかだいたいのところを知っている。
切嗣に憧憬の念を抱き、切嗣のことを何も知らずに目標とした俺は、さぞかし不安を抱かせただろう。
それは、切嗣の手記からも僅かに読み取れた。
また、何かが僅かに違っていれば、俺が切嗣の危惧した通りの結末になっていた事は十年前にわかっている。

なにより、俺は本当に切嗣のことを何も知らなかった。
馬鹿正直に切嗣の言葉を信じていたけど、なんで親父が旅に出るのか、その事に全く疑問を持たなかったのだ。
爺さんはずっと、たった一人の「本当の肉親」を迎えに行っていた。でも、それはついに叶わなかった。
半病人も同然だった切嗣には、城に辿り着くことはおろか、それを囲う結界の基点すら見つけられなかったのだ。
だから、ただ吹雪の中を凍死する寸前まで彷徨い歩くことしかできなかった。
俺はそんなことも知らずに、ただのうのうと切嗣の帰りを待っていたのだ。

そんな無理が祟ったのか、いつしか親父は家にこもって漫然と過ごす事が多くなった。
今でも思い出せば後悔する。それが死期を悟った動物に似ていたのだと、どうして気付かなかったのか。
あの時すでに、切嗣には外に出ていくだけの力さえ残っていなかったのだろう。

そうして、その時は来た。
それは、月の綺麗な夜。冬だと言うのに気温はそう低くなく、僅かに肌寒いだけ。
俺と爺さんは何をするでもなく、縁側で月を眺めていた。

そうやって月見をしていると、切嗣がおもむろに口を開く。
「子どもの頃、僕は正義の味方に憧れてた………」
俺から見たら正義の味方そのものだった親父は、懐かしむように呟いた。

俺は、それに対してむっとなって言い返す。
「なんだよそれ。憧れたって、諦めたのかよ」
俺は切嗣がそうやって自分を否定する言葉を口にするのが嫌いだった。
無知であるが故の羨望が、それを許容できなかったのだ。

だが、切嗣は手記の中で「諦めていればよかった」のだと書いていた。
それが、今なら多少理解できる。俺もまた、早く諦めていれば失ったモノはもっと少なかったのだろう。
だけど、俺はまだマシだ。俺の近くにはまだ何よりも大切なものがあって、こうして新たな生を生きている。
だが、爺さんは俺以上に多くのモノを失った。素直に諦めていれば、どれだけ救いがあったのかと後悔していた。

親父は俺の言葉にすまなそうに笑って、遠い月を仰いだ。
「うん。残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。
 そんなこと、もっと早くに気がつけばよかった」
その声はどこまでも静かで、だからこそ深い悲しみと悔恨を宿していた。

俺もまた何もわからないなりに、切嗣の言う事だから間違いないと思ったのだ。
「そっか。それじゃしょうがないな」
「そうだね。本当に、しょうがない」
相槌を打つ爺さん。その心の内で何を思っていたのか、もはや知る術はない。
だけど俺はこの時、一つの決意を抱いていた。

いや、決意なら前からあった。でも、俺はこの時初めてそれを親父の前で口にしたのだ。
「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。
 爺さんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ」
まったく、なんて身勝手な言葉だろう。それがどれだけ残酷な事か知りもせずに、明るい未来だけを見ていた。
切嗣が歩んできた道を辿るその意味、その過程で失うであろう多くの宝をまるで考えていない。

だがここで、夢が道筋から外れる。
本来なら俺は「まかせろって。爺さんの夢は俺が、ちゃんと形にしてやるから」と続けようとし、その前に切嗣は……
「ああ―――――安心した」
と、微笑って静かに目を閉じ、息を引き取ったのだ。
いったいそれがどれほどの救いになったのかはわからないが、切嗣は見たこともないような安堵の表情を浮かべて眠った。それが、本来通るべき道筋。

しかし、ここで俺の誓いを阻む様に切嗣が言う。
「いいや、君はよくやってくれたよ、士郎。僕の様に壊れることなく、道を歩み切ってくれた。
 愚かな僕が忘れていた誇らしさを、輝きを、君が取り戻してくれたんだ。
 あの日の景色と誓いを忘れずに、貴く無垢な祈りのカタチのまま、過つことなく生き抜いた。
 それで僕は十分に報われたし、救われたよ。だから、その誓いは……もういいんだ」
切嗣の手が俺の手にかぶせられる。労うように、感謝するように。
全てを救う正義の味方にはなれなかったけど、切嗣はそれでも許してくれる。
紛い物のツギハギだらけの俺だけど、それでもよくやったと褒めてくれた。
ああ……俺はやっと、あの時に貰ったモノを返せたのかもしれない。

そこで俺は切嗣の方を向く。切嗣もまた、俺の方を見てお互いの視線が交わる。
その顔は、俺が知るどんな切嗣の表情よりもなお穏やかで、安らかだった。そう、死の間際のあの時よりも。
「僕への誓いはもう果たした。これから先、君は君のために生きなさい。
 君の大切な人と…幸せになっていいんだ。そして、それが……………今の僕の夢だよ」
それは、常に切嗣の手から零れ落ちていったモノ。
手に入れるという事は、即ち既に喪っているのと同義だった切嗣の人生。
自分が最期まで手にできなかった、人並みの幸せのために生きて良いのだと、父は言う。
かつて誓った理想とは異なる生き方を選んだ俺の背を、優しく押してくれる。
そして、それは裏切りではないのだと、俺の心の澱を洗い流してくれた。

ああ、それが爺さんの夢だと言うのなら、俺は……
「まかせろって。爺さんの夢は俺が、ちゃんと形にしてやるから」
あの時とは全く違う覚悟と決意を以て応えよう。

「ああ、安………」
「だから、アイリスフィールさんを守るよ。
イリヤスフィールは守れなかったけど、あの人は俺がちゃんと守るから。
 はやても守護騎士たちも……あの人の家族を守る。あの人の家族を、もう死なせない。
 だって、切嗣の家族は――――――――――――――――俺の家族なんだから」
あの人は、俺をどう受け止めるだろう。拒絶かもしれない、憎悪かもしれない。
でも、それならそれでいい。俺はただ、あの人とその家族を護りたい。
家族を失って、どうして幸せになれよう。俺は俺の幸せのために、あの人たちを護るんだ。

その俺の想いと意志がどこまで伝わったのか、切嗣はしばし無言。
そうして言葉より先に手が動き、それに刹那遅れて切嗣がゆっくりと口を開く。
「…………………………………ありがとう、士郎」
最後にそう言って、切嗣は俺を抱きしめる。
決して強くはない。だが、その温かさが心に染み渡る。

その顔は首の後ろにあって分からなかったけど、全身で受け止めるその感触が誇らしかった。
だから、護ろう。生きて生きて生き抜いて、俺の大切なモノを全て護り抜こう。
凛を、アイリスフィールさんを、はやてや守護騎士達を、そしてこの世界で得た掛け替えのないもの全てを。
それこそが、切嗣への何よりの手向けの華になるだろうと信じて。



第42話「天の杯」



眼を開けて、最初に飛び込んできたのは真っ白の何かだった。
「―――――――――っ」
眩しい。目を覚まして光が眼に入ってきただけだったが、まだ眼が光に慣れていない。
咄嗟に腕で防ごうとするが、重くて上がらない。

同時に、全身に鋭い痛みが走った。
「ぁ―――――――くっ………」
叫びそうになるのを何とか堪え、歯を食いしばる。

そこで、真横から声が聞こえた。
「ふぅ、起きたわね。具合はどう?」
首が上手く動かないので、なんとか横目でそちらを見る。
そこにいたのは、眼もとにうっすらと隈を作った凛だった。

だが、状況が飲み込めない。
まだ頭がはっきりせず、自分がなぜこんなところにいるのか理解が及ばない。
「ここ、は…………?」
「アースラの医務室よ。アンタは固有結界の暴走で死にかけて、それをアースラで治療したの。
 アイリスフィールには後でお礼を言っておきなさい。彼女がいなかったら、アンタは死んでたかもしれないわ。
さすがに、まだ死なれちゃ困るって思ったのかしらね」
肩を竦めるように言われて、やっと記憶がよみがえってきた。
闇の書の闇がまとった空間の歪みの消去のために固有結界を使って、その最中に違和感を覚えたのだ。
そして、闇の書の闇のコアの消滅と前後して暴走を抑えきれずに…………憶えているのはここまで。
その後は、凛の言ったとおりになったのだろう。

しかしそこで、凛の目が曇る。
「その……ごめん、衛宮君。
私が………………………………私が気付かなかったせいで、こんなことになっちゃって」
何を言っているのか、そんなことは今更聞くまでもない。固有結界の暴走、そのことに凛は責任を感じている。
ベッドの上で握られる手は震え、その曇った眼にはうっすらと涙の光があった。

だけど、こんなのは凛らしくない。なにより、こいつに泣かれるのは困る。
「それは、凛の責任じゃないだろ。自分のことなのに、気付かなかった俺が悪い」
「ううん、気付く手掛かりはあったわ。私は…それを見逃した。
私の刻印は、まだこの体に馴染み切っていない。
なら同じ様に、士郎の『世界』が今の体に馴染んでいない可能性があることに気付けたはずよ」
「それなら、尚更だろ。お前のそういう所をフォローするのが俺の役目だし、何よりやっぱり自分の事だ。
 今まで、特に違和感がないからって安心してた。だけど、そんな都合のいいことがあるはずないのにな」
凛の体と遠坂伝来の魔術刻印は、前の体に比べて拒絶反応が強い。
てっきり刻印ならではのものだと思っていたが、あまりに浅はかだった。
そんな自分の短絡思考に、今更ながら呆れてしまう。

「………………頼む、そんな顔しないでくれ。
こうして生きているんだ、なら最悪の事態になる前に気付けて良かったじゃないか」
出来ればここで、凛の眼に滲んだ涙をぬぐってやりたいが、今の体ではそれさえもできないことが情けない。

しかし、それに気付いたのが今回で良かったとも思う。
こっちの世界に来た当初は、いろいろドタバタしていて確認のために固有結界を試す暇がなかった。
そのままジュエルシードに関わって、管理局の存在を知り、管理局に目を付けられないためにこれまで使わずにきたのだ。もし、もっと別のタイミングで使っていたら、それこそ死んでいたかもしれない。
管理局と関わっている今暴走したのは、不幸中の幸いだろう。
おかげで、ちゃんとした治療を受けられて、こうして一命を取り留めたのだから。

「……そうね、確かに士郎の言う事も一理ある」
「だろ? ところで、やっぱりもう固有結界は使えないのかな?」
正直、そうなったら困る。あれは俺の手札の中で一番の大技だ。
それがあるとないとでは、いざという時に戦う術に不安が残る。

だが、そこで凛の口から出たのは意外な言葉だった。
「それは……たぶん大丈夫。あと数年すれば、定着させた魂も問題ないレベルにまで馴染むだろうって話だから。
確証はないけど、魂さえ今の体に馴染めば使用に問題はないはずよ。
 まあ、それでも慎重に様子を見るべきだろうけどね」
「わかるのか?」
凛は桜と違い、魂に関しては専門外だ。
まったくわからないという事はないだろうが、それでも門外漢であることに変わりはない。

いや、待て。凛の口調は、まるで誰かから聞いたかのような口ぶりじゃないか。
「私じゃなくて、アイリスフィールの見立てよ。治療している時に気付かれちゃったみたい。
 さすがは第三魔法を追い求めてきたアインツベルン…ってところなんでしょうね」
第三魔法は、魂の物質化だ。たしかにそれなら、魂の定着に気付いても不思議はないか。

「一応、その辺の事は口止めしてあるわ。たぶん、信じていいと思う」
凛の人を見る目は確かだ。そう言うなら、きっと大丈夫だろう。

「ただ、今回の事でいろいろ気付かれちゃったのは痛いけどね。
 固有結界の事も、第四次を経験しているだけにおおよその推測はできてるみたいだから。
 まあ、管理局にはさすがにどういうモノかまでは分からないと思うけど」
そういえば、爺さんの手記や教授の話だと、第四次のライダーも固有結界を持っていたんだったか。
確かにそれなら、固有結界そのものは初見じゃない。気付くヒントになるだろう。

「まあ、それはいいとして……闇の書はどうなったんだ?」
「相変らず自分の事に頓着しないわね…………」
俺が話題を変えたことで、凛の調子が戻ってきた。ジト眼で不機嫌を露わにしている。
まあ、俺が自分の事を蔑にしているのが気にくわないからだが。
でも、これでもマシになった方だと思うから、今日くらいは大目に見て欲しい。

さすがに怪我人をいじめる気はないのか、一つ溜息をついて答えてくれる。
「……………まあ、いいか。そういう奴だもんね、アンタは。
あの後、防衛プログラムの再生は確認されていないわ。この分なら大丈夫でしょ」
そうか、それならよかった。これで、はやてや守護騎士達がどうこうなることはないなら一安心だ。

そのことに、思っていた以上に安堵する自分がいる。
同時に、何かが頭の端に引っ掛かった。
大切なことだった気はするのだが………………よくわからない。

まあ、無事ならそれでいい、そういう事で納得することにした。
そこで、足元に人影があることに気付く。
「………………フェイト?」
「ああ、ずっとアンタのこと心配しててね。一晩中ここにいたわ。
 なのは達もさっきまでいたんだけど、リニスに頼んで今はベッドの中」
では、なぜフェイトだけここにいるのだろう、と思ったが………すぐに理解する。
フェイトの手はしっかりと布団を握りしめていた、これが原因か。

凛も自分のことには触れないが、その眼の下の隈が全てを物語っている。
こいつも、ずっと俺の事を見ていてくれたのだろう。
そんなみんなに、心からの謝罪と感謝を。

そういえば、一晩中と凛は言っていなかったか?
「あれから、どれくらい経ったんだ?」
「ざっと半日ね。というか、アンタよくアレだけの怪我して半日で起きれたわね」
凛の声音には、心底からの呆れがある。まあそれも、こうして一命を取り留めたからこそだろう。
むしろ、こうしていつも通りに振る舞ってくれることをありがたく思う。

「で、いい加減アンタの今の状態の話をするわよ。
正直、管理局の医療技術や魔法、それにこっちの治癒魔術を使っても、完全回復には二・三ヶ月かかると思う。
 これだと、当分は車イスと杖での生活でしょうね。学校の方には交通事故ってことで話を通すけど」
そうか、道理で体が全然動かないはずだ。となると、しばらく家事はお預けだな
ガーデニング………どうしよう。日々の手入れが大切なのに……。

いや、今は命があったことを喜ぶとしよう。
「まあ、しょうがないか。命があるんだ、文句を言ったら罰が当たるな」
「アンタは…………………」
「そ、そう睨むなって。ところで、すずかやアリサは?」
「そっちも大丈夫。アイリスフィールはこっちに来てもらったけど、二人はちゃんと家に帰ってるから。
 無事も確認できてるけど、なのはたちはいろいろ話すつもりみたいね」
「そうか。二人がそうするつもりなら、それでいいんじゃないか?」
俺の問いかけに、凛は「そうね」と素っ気なく返す。
魔法の事は別に俺達がどうこう言う事じゃないし、リンディさんが何も言わないならいいだろう。

魔術については……すずかは知っているからいいとして、問題はアリサか。
この際だし、俺としては別にみんなが知っている程度は話してもいいと思うんだが……。
あとは、「夜の一族」の事もあるか。まあ、すずか自身の事なわけだから、そっちはすずかの意思次第だな。

「そろそろ休みなさい。アンタはまだ大手術を終えたばかりの重傷患者なんだから」
「わかった。実際、疲れてきたみたいだ」
瞼が重い。どうやら、たったこれだけの会話でも相当に疲労するほど、体力が低下しているようだ。
凛の言うとおり、一度眠ることにしよう。
無理に起きていてもできることはないし、みんなを心配させるだけだ。

「じゃあ、悪いけどおやすみ。何かあったら起こしてくれ。それと…………」
「はいはい。ついでに、フェイトに何かかける物を取ってくるわ。
 アンタは怪我人らしく、大人しく寝てなさい」
そう言いながら、凛はイスから立ち上がって医務室の扉に向かった。
フェイトの事は頼めたし、これで風邪を引く心配はないだろう。

凛が部屋を出るついでに明かりを消してくれたので、室内は一気に暗くなった。
「……………………ああ、さすがに眠いな」
思っていた以上に、体は休息を欲していたらしい。
凛が部屋を出るのと前後して、一気に睡魔が体を支配する。

体の力を抜き、眼を閉じる。
そのまま、まるで落下するように俺は眠りについた。



SIDE-凛

時刻はおよそ午前八時頃。
一度目を覚ました士郎に大まかなこれまでの事を説明した私は、疲れて眠ってしまったフェイトにかける物を取りに行く途中。

「さすがに、あの状態で聴かせるわけにはいかないわよね」
実を言うと、私は起こったことの全てを話したわけじゃない。
必要な事と、士郎に聞かれた事をアイツに不要な負担をかけない範囲で話しただけだ。

例えば、はやてもまたアースラの一室で眠っている事。
これは、これまでロクに魔法を使った事がなかったのに、いきなりあんな大規模魔法を使用した事の反動だ。
体には特に別条はなく、ちゃんと休めば問題はないらしい。
とはいえ、士郎が聞けば心配することは明白だし、わざわざ話すようなことじゃない。

あとは、アイリスフィールもはやて同様に眠っている事。
手術の終了し椅子に座ったところで、そのまま糸が切れたように眠りについた。

どうも、今の彼女にとって魔術の行使は相当な負担を強いるらしい。
実際、手術を始めるにあたってシャマルが苦言を呈したりもした。
しかし、そこは目の前に死にかけの重体患者がいる状況だ。
それも、アイリスフィールとしてはまだ聞かねばならないことが多くある相手。
かなりの負担がかかったようだが、それでも最後までちゃんと協力してくれたことには感謝している。
とはいえ、やっぱりこれも士郎に話すのは、容態を考えると不味いのよね。
そういうわけで、あえて触れずに話を打ち切ったのだ。

ただし、彼女が今眠っているのはアースラではなく自宅。守護騎士達の頼みで自宅へと送り届けられたのだ。
アースラの面々はこっちの方がいいと説得したが、ホムンクルスである彼女にそれは当てはまらない。
紆余曲折あって、なんとかアイリスフィールを自宅に帰す事が出来た。
守護騎士たちだけでは説得は無理だっただろう。
だがそこはそれ、魔術に詳しくてアースラ側からそれなりに信用されている私がいる。
協力してくれた貸しもあったので、その辺の説得には私も手を貸したのだ。
まあ、さすがにそのまま放置というわけにもいかないので、一応監視がついているらしいけど。


それはそれとして……タオルケットをフェイトにかけたら私も一度眠るとしよう。
さすがに、この肉体年齢で徹夜は効く。
魔力もほとんど空だし、いい加減休まないと体が保たないわ。
魔力自体は眠らなくても休んでいればある程度は回復するとは言っても、やはりキツイものはキツイ。

などと思いながら歩いていたら、とある部屋の中から人の話し声が聞こえてきた。
本来なら無視するところなのだが、場所が場所だ。なにせそれは、はやての眠る部屋。
それも、中から聞こえてきたのは「暴走」という不穏な単語。
「さすがに、ちょっと気になるわね」
どういう話の流れでそんな単語が出てきたのか分からないけど、無視する事は出来ない。
せっかく助けた奴にいきなり死なれたのでは、いくらなんでも虚しすぎる。
半年前まではしょっちゅうだったことだが、それでもいい気分のすることではない。

こっそり扉に身をよせ、中の音を拾うべく耳を澄ませる。
「…………やはり、か」
「修復は、出来ないの?」
聞こえてきたのは、なにやら深刻そうなシグナムとシャマルの声。
どういう事かはわからないけど、伝わってくる空気は暗い。

続いて聞こえてきたのは、はやてがリインフォースと名付けた管制プログラムの声。
その声は淡々とし、揺るぎようのない事実、とばかりにシャマルの問いを否定する。
「無理だ。管制プログラムである私の中から、夜天の書本来の姿が消されてしまっている」
「元の姿が分からなければ、戻しようも無い……と言うことか」
「そういうことだ」
どうやら、夜天の魔導書を本来の姿に戻せるか否かの相談らしい。
だが、それでどうしてこんなにも意気消沈しているのだろう。いったい、戻せないからどうだと言うのか。

そんな、まるで通夜の会場の様な空気に疑問を覚えつつ、引き続き聞き耳を立てる。
「主はやては……大丈夫なのか?」
「何も問題は無い。私からの侵食も完全に止まっているし、リンカーコアも正常作動している。
 不自由な足も、時を置けば自然に治癒するだろう」
とりあえず、はやてに何かあるというわけではないのか。
だとすると、あと考えられるのは……………ダメだ、やっぱり門外漢じゃたいしたことが分からないわ。
これは、大人しく盗み聞きするしかないな。

「そう。それならまあ、良しとしましょうか」
「ああ……心残りは無いな」
「防御プログラムが無い今、夜天の書の完全破壊は簡単だ。破壊しちゃえば暴走することも二度とない。
 ………代わりに、あたしらも消滅するけど」
消滅? それも、夜天の魔導書の完全破壊?
何故今更、そんなことをする必要があると言うのか。

とはいえ、これ以上聞いていても確信に触れることは難しそうだ。
そうなると、あとは直接聞くしかないか。
「…………ま、乗り掛かった船だもんね」
一瞬の逡巡。正直、このまま聞かなかったことにした方が利口な気がする話の様だ。
でも、もうここまで関わってしまった。こんな半端なところで手を引くのは、私の主義に反する。

それに………
「見守るって………言っちゃったからなぁ」
さすがに、一度約束したことを投げ出しては私の沽券にかかわるしね。

個人としての私、遠坂の当主としての私、どの視点から言ってもこれをなかった事にすることはできそうにない。
なんか言い訳臭いけど、しょうがない。意を決して、私は扉を開けた。
「ちょっといい? どういう事なのか、聞かせて欲しいんだけど」
「り、凛ちゃん!? どうしてここに………」
「たまたま通りがかったのよ。運悪くね」
本当に運が悪い。いや、むしろ良かったのか? 少なくとも、蚊帳の外にされなかったのは良い事だと思うけど。
どっちかはわからないけど、無視できなかった自分の性分には困り果てる。

「ちょうどよかった。お前にも頼みがある」
「私? 言っとくけど、安くないわよ」
「聞いていたのだろう? お前達に、私を消してもらいたい。
できればあの騎士にも頼みたいのだが、あの怪我では無理だろう」
そういうリインフォースの眼には、まるで悟りでも開いたかのような落ち付きがある。
ただ、その落ち着き方が気にくわないわね。

それに、何で私がこいつのそんな頼みを聞いてやらなければならないのだ。
「イヤよ」
「なぜだ?」
「理由はよくわからないけど、何が悲しくて自殺の手伝いなんてしなくちゃいけないのよ。
迷惑だから他人を巻き込まないで、したいなら自分でしなさい」
そう、そう言うのは趣味じゃないのだ。殺すなら、こっちの身勝手と我が儘で。
私はずっとそうしてきた。命を奪う理由を、他人に依存することが許せない。
人の事をどうこう言う気はないけど、私自身には許さないと決めている。
善悪ではなく、私が納得できるかどうか、そういう問題だ。

「どうしてもか?」
「どうしてもよ。ついでに言うと、なのはにもさせる気はないわ。
 あの子は私の教え子。他人の弟子に余計な荷物背負わせないでよね」
こいつは「お前達」と言った。それはつまり、私以外の誰かにもそれを頼む気という事だ。
士郎は除外されているみたいだし、他で真っ先に思いつくのはなのはやフェイトだ。

フェイトは私の管轄外だから私にとやかく言う権利はないとしても、なのはにそんなことをさせるつもりはない。
少なくとも、あの子が私の教え子でいるうちは絶対だ。
命を奪うと言うのは、その命への責任を負うと言う事。善悪以前のもっと単純な問題、奪う側としての義務だ。
まだ九歳のあの子に、そんな重苦しいモノを背負わせるなど許さない。
それも、よりにもよって殺される本人からの頼みだなんて尚更だ。

「あ、あの凛ちゃん、これには事情が………」
「アンタ達の事情なんか私の知ったことじゃないわ。
もう一度言うけど、死にたいなら自分でやりなさい。他人の手を煩わせるんじゃないわよ」
「いずれ…防御プログラムが再生されるとしてもか?」
なるほど、それが理由か。これで一応は納得がいった。
夜天の魔導書の自己修復機能のせいで、そんな厄介なものまで復活してしまうから、その前に根本的に解決しようというのだ。
盗み聞きしていた話を考えると、それを止めることもできないということか。
止める方法にあてがあるのなら、こんな結論に至る筈がない。

ああ、確かに事情はわかった。
「生憎だけど、それでも考えは変わらないわ。
 それに、はやてがそれを許すとでも思っているの?」
「防御プログラムはいつ再生するか分からない。それを止める術もない。
ならば、一刻も早く私が消えるのが最善だ。そうすれば、主はやてが危険に晒されることもない。
元より、選択の余地などないのだ」
許す許さないの問題じゃない、か。
そりゃあね、命がかかっている場面でそんな議論に意味はないわよ。
是非を問うのは、そもそも生きていることが前提だ。まずは生き残ること、あとはそれからなのだから。

「時間がないのはわかった。他に方法がないのもわかったわ。
でもはやては、アイリスフィール以外の家族を全て失う事になるのよ」
それでいいのかと、主を悲しませるのを良しとするのかと、そう問いかける。
私の言葉で止まるような連中ではないだろうし、止めるならこれしかない。

まあ、元から期待なんてしてないけど。
「いや、逝くのは私だけだ。他の者達は、すでに夜天の魔導書から解放されている。
 それに、私が主と過ごした時間は、皆の中で最も短い。主の悲しみも、小さなもので済むだろう」
「わかったわ、好きにしなさい。ただし、こっちも勝手にさせてもらうけど………」
そう言い残し、私ははやての部屋に背を向ける。
こっちの魔法相手に私が出来る事は少ない。少なくとも、夜天の書を元に戻すなんて事は不可能だ。
それに、これでイリヤへの義理も果たした。私に出来るだけの事は言ってやったけど、それも無駄だったわね。

それにしても、やはりどこまでいっても「道具」という事なのだろうか。
アイツは人の心の機微がまるでわかっていない。
確かに、絆を育むのに時間は重要な要素だろう。
長く共に歩めば歩むほど、喪失の哀しみが大きく深くなるのは道理だ。

では、短ければそんなことはないのか? 答えは、否だ。
例え共有した時間が短くとも、喪失の哀しみと空白はあるし、それが小さいとは限らない。
人間の心なんて、小一時間もあれば一変し得る。

時間経過と絆の深さはイコールではないのだ。
時間など、どれだけ重要でも、あくまで無数にある“要素の中の一つ”でしかないというのに。
理屈一辺倒で考えてしまうあたり、ある意味らしいと言えばらしいのだろうが。
まったく、これじゃあはやても苦労するわ。

そんなことを考えながら歩いていき、ふっと立ち止まる。
「あちゃ~………いつの間にか士郎の部屋、通り過ぎてるわ」
辺りを見回してみると、かなりの間考え込んでいたらしいことがわかった。
どうやら私自身が思う以上に、アイツへの苛立ちは強いらしい。

「凛? こんなところで、何をしているんですか?」
「リニス。ちょっとね、フェイトにこれをかけてやろうと思って」
そう答えて、持っていたタオルケットを掲げる。

そのまま私たちは、士郎のいる医務室に向けて連れ立って歩きだす。
そこで、何となくリニスに尋ねた。
「ねぇ、リニス」
「はい?」
「もし、もしもの話だけど………あなたが犠牲になることで私や士郎、あるいはフェイトを救えるとしたら、どうする?」
聞くまでもない問いだ。リニスなら、迷うことなく犠牲になる道を選ぶ。
むしろ、使い魔という存在の在り方を考えれば、それをしない方が使い魔失格なのだろう。

だが、予想外にもリニスはしばし考え込む。まあ、答えはすぐに出たみたいだけど。
「…………そう、ですね。私は、お二人やフェイトのためとなるのなら、命を捨てる覚悟はあります。
 それに、元より死んでいたはずの身。今更、死を恐れるのもおかしな話ですしね」
「そうよね」
うん、やっぱりそうだ。私もそう思う。
別に、リインフォースの言う事を否定するつもりはない。
ただ、アイツの勘違いが気にくわないのだ。自分が消えるのなら、はやての哀しみは小さいという的外れな思考。
それが私を苛立たせる。

しかしここで、リニスが思ってもいないことを言う。
「ですが、今私は幸せですよ」
「? それがなに?」
「ですから、幸せなんです。私は今ある幸せを失くしたくありませんし、手放したくもありません。
 おかしな話ですし、さっき言っていた事と矛盾しますが、一度消えかけたからこそ私は死にたくありません。
 あんな冷たくて寂しい思いをするのは、もう二度とイヤですね」
リニスは微笑みながら、断固たる決意を込めて言葉を紡ぐ。

それはアレか? 私たちの犠牲になって死ぬのは嫌だという事?
「あ、勘違いしないでください。覚悟があるのは本当ですから」
「じゃあ、どういうことよ」
「え~…なんと言うか、とにかくそういう時は足掻こうと思うんですよ。
 足掻いて足掻いて、もうこれ以上無理と言うくらいに足掻いて、足掻く事に疲れて諦めた時……この身を捧げます」
迷いのない瞳。実際そういう状況になったら、リニスは今言ったことを実行するだろう。
未練たらしく徹底的に足掻き抜く、足が止まるその瞬間まで。そう確信させるに十分な告白だ。

「無様でも、みっともなくても良いんです。それが希望につながるという事を、私は半年前に知りました。
つまりは経験則ですね」
「無駄に終わるかもしれないのに?」
「無駄、大いに結構です! その程度の事で諦められるほど、私の幸せは安くありませんから!!」
潔さの欠片もない決意だこと。でも、そういう考え方は嫌いじゃない。
むしろ、実にポジティブで私は好きだ。小利口になって諦めるのなんて、それこそ馬鹿でもできる。
本当に難しいのは、そうやって絶望の中でも諦めない意志を持つ事。

そうだな、ちょっと私らしくなかったかも。託されたモノを放り出すなんてね。
向こうの事情なんか知ったことじゃない。こっちはこっちで勝手にやるって言ったばかりだ。
「どうかしましたか、凛?」
「………………………はぁ。あ~あ、私もヤキが回ったなぁ。
 ここまで来ると、心の税金を払いきるのも一苦労だわ」
まったく、義理は果たしたってことで手を引けばいいのに……。何をやろうとしてるのかな、私は。

でも………仕方がない。
リインフォースの勘違いを訂正しないと気が済まないし、なにより中途半端は嫌いだ。
「リニス!」
「は、はい!?」
「家に帰るわよ! ついでに、士郎も連れて来て! 動けなくても少しは役に立つはずだから」
「え………ええ!? で、ですが、士郎は安静にしていないと…………」
「急げ!!!」
「はい!!」
ウダウダ言っているリニスを怒鳴り付け、病室向けて尻を叩く。
リニスは一目散に走って行き、あっという間に姿が見えなくなった。

さて、こっちはこっちでやることやるか。
「まずは士郎の帰宅許可で、次に転送装置の使用許可ね。
この際だし、リンディさんを脅迫しちゃおうかしら…………………うん、ナイスアイディア! 偉いぞ私♪」
後者はともかく、前者は力技になるわね。
重傷人を動かそうというのだ、あのなんか言ってた責任者の人がまたうるさいだろう。
となると、やっぱりリンディさんに丁寧にお願い(脅迫)して、何とかするしかないな。

やっぱり、何もしないうちから諦めるなんて柄じゃない。
やるからには徹底的に、がモットーだ。
どうせ諦めるのなら、やることやってからじゃないと後味が悪い。

とはいえ、あまり時間はないだろう。
時間を稼ごうにも、「打開策はこれから探す」なんて言って思い止まるはずもない。
そうである以上、手立てを用意してからじゃないと説得は無意味。

とりあえず家の書庫を漁って、何か使えそうなモノがないか引っくり返してみるとしますか。
さあ、忙しくなるわよ。なんてったって、ここからは時間との勝負なんだから。



Interlude

SIDE-アイリ

今私は、白銀の世界へと変貌した丘を、はやての車イスを押しながら必死に駆け上がっている。
「はぁっはぁっはぁっ…はぁっはぁっ、は…………」
「ア、アイリ……大丈夫なん?」
「大…丈夫よ。今は早くリイン……フォースの所に行かなくちゃ、ね?」
息切れしながらも、力の全てを振り絞って走る。
本来なら、昨日あれほどの魔力を使った私では、これだけ動くのは無理だ。

でも、人間というモノは不思議なもので、こういう時には限界以上の力が出せる。
所謂、火事場の馬鹿力という奴だろう。後でどうなるかが怖いけど、今はそんなことは考えない。
何よりもまず、はやてが感知したリインフォースの異常を確認しないと。

私とはやては、いつの間にか慣れ親しんだあの家で眠っていた。
私に関しては、みんなやあの遠坂の子が何とかしてくれたのだろう。
自室で二人抱き合うように眠っていたのだけど、先に目覚めたのは私。
正直、魔力の使い過ぎで体は鉛の様に重く、呼吸するだけでも一苦労なほどに消耗していた。

だけど、はやての寝顔見ているだけで、そんなモノは忘れられる。
心の中にあった混沌とした気持ちも落ち着くのを自覚した。
今の私にはこの子がいる。もしもこの子と出会えていなかったら、私は生きる気力を失っていたかもしれない。
それだけ、あの子たちから聞いた真実の一端は衝撃的だったから。

そういう意味で言えば、一息に真実の全てを知ることが無かったのは結果的には良かったのだろう。
おかげで、こうしていまの自分が手にしている、大切なモノを再確認する事が出来た。
それに、真実の全てを聞く覚悟も。

でも、今はそれどころじゃない。
「はやて、どっち!?」
「あっちや!」
私にリインフォースとの共感はできない。頼れるのは、はやての感覚だけ。

そして、その感覚が正しい事が証明された。
「リインフォース!!」
「はぁっ、はぁっは……みんな!!」
降り積もる雪の中で、私たちはそれを見つける。
視線の先にあるのは、魔法陣の中心に立つリインフォースとその後ろに立つ守護騎士たち。
それと、リインフォースを挟んで正対するデバイスを構えた二人の少女。

「はやてちゃん……!」
「アイリ!」
「動くな! 動かないでくれ、儀式が止まる」
私たちを視界に納め、シャマルとヴィータが動きそうになるのをリインフォースが制する。
儀式? いったい、なにをするつもりなの。

既に何が起ころうとしているのか理解しているのか、はやてがそれを必死に止める。
「アカン、やめてぇ! リインフォースやめてぇ!!」
何とか私たちは丘の上に辿り着き、魔法陣の手前で止まった。
私はそこで膝をつき、肩で息をする。ここまで何とか保ったけど、さすがに限界だ。
もとから、あまり運動は得意じゃないから。

はやては一瞬そんな私に心配そうな視線を向けるが、私は「大丈夫」と伝えようと何とか微笑みを浮かべる。
強がりであることははやても察しただろうが、それでも決然とリインフォースに向き直った。
「……………破壊なんかせんでええ! わたしが、ちゃんと抑える!
 大丈夫や、こんなん…せんでええ!!」
まさか、リインフォースは自ら消え去ろうとしているの?
事情は分からない。たぶん、何かしらどうしようもない理由があるのだろう。
そうでなければ、こんなことになる筈がない。

はやては今にも泣きそうな眼でリインフォースを見つめる。
そんなはやてを、リインフォースは悲しそうな、困ったような眼で見返す。
「主はやて、よいのですよ」
「いいことない……いいことなんか、なんもあらへん!!」
「随分と長い時を生きてきましたが、最後の最期で、私はあなたに綺麗な名前と心を貰いました。
 騎士たちもあなたのお傍にいます。アイリスフィール……母上もおられます。
 なにも………寂しくお思いになる事はありません」
リインフォースは、まるで幼子をあやすように優しく話しかける。
それは、死を覚悟した永久の別れの言葉。それが、かつて最後に夫……切嗣と話した時の私とダブって見えた。

はやてはその言葉の意味を理解し、抑えきれずに涙をこぼす。
「ですから、私は笑って逝けます」
まるで、だから心残りなど何もない、と言わんばかりに……リインフォースは晴れやかな顔で告げる。

ああ、私もあの時……切嗣に同じことをしたんだ。
こちら側の立場になってやっとわかった。
それはなんて…………残酷な事だったのだろう。

「………話聞かん子は嫌いや! マスターはわたしや、話聞いて!
 わたしがきっと何とかする。暴走なんかさせへんて、約束したやんか!!」
「………はやて……」
思わず、はやてに声をかけるが、その先を何と続けていいのか分からない。
私はかつて、あちら側にいた。そんな私に、どんな言葉がかけられるだろう。

それは必死な呼びかけ。何とか思いとどまらせようと、できもしないことを叫ぶ。
それが出来るのなら、リインフォースは消えはしない。それが分からない筈がない。
それでも、心がそれを受け入れられないのだ。

だが、その心の底からの叫びを以てしても、リインフォースの決意は覆らない。
「その約束は、もう立派に守っていただきました。主の危険を祓い、主を護るのが魔導の器の努め。
 あなたを守るための、最も優れた方法を……私に選ばせてください」
「せやけど………ずっと哀しい思いしてきて、やっと……やっと救われたんやないか!」
リインフォースの言葉の意味を少なからず理解できるからこそ、はやての眼から涙がこぼれる。
どうやって止めていいか、わからないから……。

「あなたにも、いずれわかる時が来ます。海より深く愛し、その幸福を護りたいと願える方と出会えたなら。
 あなたにならわかるでしょう? アイリスフィール」
そう言って、リインフォースは私を見る。私は、その眼を直視できない。
分かるから、分かってしまうからこそ、見ることが出来ないのだ。あそこにいるのは、私自身の鏡像だから。

そんな私からリインフォースが視線を外したところで、はやてが叫ぶ。
「じゃあ、あの約束はどうするつもりなん! 一緒に生きるって…言ったやないか!!」
「私の意志は、あなたの魔導と騎士達の魂に宿ります。私はいつも、あなたのお傍にいます」
そんなモノは幻想だ。死した者はただ消えるのみ。生きている者の手には届かない場所へ。
ああ、今ならわかる。失う側に立ったことで、私がどれだけ切嗣を絶望させていたのか。

堪えきれなくなったのか、遂にははやての声から力が失われ泣きじゃくる。
「これから………もっと幸せにしてあげなアカンのに」
そうだ、彼女はこれまでの分の幸せを手にする権利と、義務がある。
何より、主であるはやてがそう望むのなら、それに応えるのが彼女の務めだろう。

「大丈夫です。私はもう、世界で一番幸せな魔導書ですから」
幸せ? 本当に、それでいいの?

その疑問が、私の中で一点に集約する。そうだ、いいはずがない。
こんなものはエゴだ。どれだけ正しくても、所詮は彼女の自己満足に過ぎない。
それは同時に、かつての自分の行いをそうと断じるのと同義だった。
そのことに抵抗がないわけではない。でもそれ以上に、はやてが泣いている今が許せなかった。

ああ、一つだけある。彼女を救う方法が……
「いいえ。あなたは消えない。生きるのよ、リインフォース」
「アイリ?」
「アイリスフィール?」
そうだ。この身は聖杯。持ち主の願いを叶える万能の釜。
すでにその力を失ったとはいえ、それでもその役目は未だ健在。

あるんだ、一つだけ。誰も欠けることなく生きる術が。
「何を言って……」
「第三魔法『ヘブンズフィール』。その詳細は、知っている?」
「え!? 第三魔法って……」
私の言葉に、なのはさんが驚きの声を上げる。

「第三魔法『ヘブンズフィール』。確か……魂の物質化、でしたね」
「そう。別名、天の杯とも呼ばれる真の不老不死の法。だけどそれは何も、不死者を作るだけのものじゃない。
 それは、精神体でありながら単体で物質界に干渉できる、高次元の存在を作る神の御業」
「………まさか!? いけません! そんなことをしては、あなたの命が……!!」
私のやろうとしていることを悟ったのか、リインフォースの表情に初めて笑み以外の感情が現れる。

まだ話の意味が分からないのか、はやてやなのはさん、それにテスタロッサさんが疑問気な表情をしていた。
「え? 命……? どういう事なん!?」
「別に、死ぬつもりはないわ。『大切な誰かのために自分を犠牲にする』私は、その傲慢をやっと理解したから」
「傲慢? 私が、傲慢だとおっしゃるのですか」
「ええ、そうよ。あなたはかつての私と同じ。あなたの言う事は、非の打ちどころのない正論よ。
 でもね、はやてを泣かせては本末転倒とは思わない?」
そう言いながら、はやての肩に手をのせる。
そうだ、この子を泣かせては意味がない。なぜあの時の私は、その傲慢に気付かなかったのだろう。

こんなのは、所詮は身勝手な善意の押しつけだ。
良かれと思い、相手の心に傷を負わせる。それのどこが、愛情だというのだろう。
もし、本当に愛しているのであれば、例えどれほど正当な理由があろうと、死を選んではいけないのだ。
生きる事に勝る正しさなど、ありはしないというのに。
私は、今頃になってやっとその事を理解できた。

「あなたが本当にはやての幸福を願うのなら、生きることこそが最良よ」
「そうだとしても………それは、叶いません」
「そうね。魔導には無理かもしれない。でも、こっちの魔法にならそれが出来る。
 第三魔法を以て、あなたの精神を夜天の魔導書から分離、物質化します!!」
場に、驚愕をあらわす沈黙が流れる。
魔法という、神々の領域とも言える奇跡。
それを行使しようというのだ、前の世界の魔術師であれば失笑を買うところだろう。

「お止め下さい、アイリスフィール! あなたの体は、あなた自身が一番わかっているはずです!
 そのような体で無茶をすれば、あなたの命が……!!」
「そうね、確かに命がけよ。でも、上手くいけば全てが丸く収まるわ」
「最悪……………いえ、高確率であなたは死に、術も成功しないのではありませんか?
 その術は本来、このような場所で使えるものではないはずです。
 およそ望み得るすべての条件が揃い、その上でやっと賭けが出来る。そういう術ではありませんでしたか?」
鋭い子だ。実際のところは、そのとおり。
願望器としての聖杯もない、力の源となる英霊の魂もない、そもそもユスティーツァを納めた術の中核となる大聖杯がない。ましてや、今の私は前日の無理が祟ってこうして立っているだけでも精一杯。
これで第三魔法の一端でも引き起こせれば、それこそ奇跡だろう。

「意識の転移」という方法もあるけれど、それは今は使えない。使っても意味がない。
アレは、肉体が刺激を受ければすぐに意識を引き戻してしまう。
リインフォースの意識を何処かに移しても、体の方を消す時に意識が引き戻されては意味が無いのだ。
何より、本体が死ねば転移させた意識も消えてしまう。それ故に、この術は不老不死の術となり得ない。
だから、打てる手はこれだけ。肉体がどうなろうと関係の無い、精神のみで存在できるようにするしかない。
それも、上手くいく可能性はあまりに低いと言わざるを得ないけど……。

なにより、私の体が耐えられない可能性が高い。
どれほど上手くいっても、彼女を救うのが限界という事を否定できる材料はない。
だけど、全員が生きる可能性が開けるのもこれだけなのだ。
「それでも、賭ける価値はあるわ……」
「認められません。私のためにあなたを主はやてから奪うなど、認められるわけがないではありませんか!」
「あなたはいいのに?」
「この方法であれば、逝くのは一人。あなたの方法の場合、それが二人になる可能性が高すぎます。
 それなら、どちらを選ぶかなど考えるまでもありません」
きつく睨みつけながら、リインフォースは私の考えを否定する。
ええ、確かにその通りよ。私の考えは、賭けとすら呼べない代物。
真っ当な思考が出来る人なら、そんなマネは決してしない。

そう、真っ当な思考ができれば。
「私は、あなたに逝って欲しくないのよ」
「それはあなたの我が儘であり、駄々を捏ねているにすぎません」
「そうね、確かその通りよ。だって私は―――――――――――――――もう、家族を亡くすのは嫌だから」
ずっと、私は残される側ではなく、残していく側だと思ってきた。
だから、考えたこともない。残される側の気持ちというモノを。

でも、そんな固定観念は裏切られ、私が最後まで残ってしまった。
夫も、娘も………………もういない。その事実に、これほど打ちのめされるとは思ってもみなかった。
切嗣は、ずっとこの喪失感に耐え、戦ってきたのだ。

だけど、私には耐えられない。こんな心の虚無に耐えられるほど、私の心は強くないから。
この空隙がこれ以上大きくなるくらいなら、私は………
「あなたが何と言っても、私はやるわ」
「それこそ…………あなたのエゴではありませんか!!」
「ええ、そうよ。そうと理解した上で、それをするの。あなたよりよほど性質が悪いけど、その分……」
説得になど応じない。言ってしまえば、単なる開き直りだ。
自分の我が儘を通すため「そうだ、だからどうした」と言っているだけにすぎない。
でも、そうであるが故に説得の無意味さが分かるだろう。

「それに、私はあなたと違って死ぬつもりはないわ。これはかなり大きな違いじゃないかしら?」
「……………………わかりました」
「そう……なにが、わかったの?」
「力づくで、あなたを止めます」
やっぱり、そうなるのよね。

手元にあるのは特製の針金だけ。
それで彼女を拘束し、みんなが止めに入る前に第三魔法を使う。
(上手くいく…………ことを祈るしかないわね)
何を…ではない。一から十まで、その全てをだ。

Interlude out






あとがき

とりあえず一言、Interludeなげぇ! あれ? なんか割と最近にも似たような事を言った気が……。
最近よくある、元は一話だったものを二話に分けたせいですね。すみません、たびたび。
なんか、この辺で区切った方が面白みがありそうなのでこっちを採用しました。
そして、土壇場になっての仲間割れ(?)。この話はいったいどこに向かうんだろう……。

というか、このままだとアイリが死んじゃうんですけどね。
それも、やったからって上手くいくとは限らない大博打。っていうか、むしろ失敗する可能性の方が高いですし。
ですが、アイリに打てる手の中では、これくらいしか思いつかなかったのでしょうね。
それも、すでに夫と娘を失った身としては、これ以上家族を失いたくないと思うのは無理もないかと。
一応、何かの奇跡で上手くいけば、全員生き残るハッピーエンドもあり得なくはありませんから。
まあ、それこそ天文学的確率以上に低い可能性ですけどね。

つまり、このまま行くとマジで共倒れになってしまうわけです。
となれば、あとは自主退院(?)した士郎と凛、それにリニスに期待するしかないわけですね。
とはいえ、このままだと間に合わないわけですが、どうなる事やら……。

一つ確かなのは、次回あたりで一つの区切りにはなるでしょう、という事です。
少なくとも、A’s本編の重要どころはこれで終わるわけですしね。
あとは魔法バレやら預言の事、それと生きていればアイリへの告解とかですか。
まあ、最後の一つに関してはアイリが生きていなければ意味がありませんけど。
というか、そうでないとさらに士郎のトラウマが大変なことに……。
それ以外は、A’s本編とは微妙な位置関係ですからね。重要ではあるんでしょうが。

最後に、やっぱりアイリのリインフォースへの言葉は割と賛否両論に分かれそうなんですよね。ある意味、原作を否定している様なものですから。
とはいえ、リインフォースの言葉や行動は正論でこそありますが、やっぱり個人的には「本末転倒」なんだと思うんですよ。「はやての命」と言う意味でなら間違いなく正しいと思いますが、「はやての心」に焦点を当てるとまた別の問題なんじゃないでしょうか。
まあ、だからと言って客観的に見てどっちを支持するかと言えば、やっぱりリインフォースの判断なんですけどね。アイリの言っている事は、リスクを無視した我が儘と同義ですから。
適切かどうかわかりませんが、リインフォースの考えは「正しい間違い」で、アイリは「間違った正しさ」というやつなんじゃないかなぁ、と思います。言葉遊びと言えばそれまでですけどね。


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