<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4610] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/18 14:36

SIDE-凛

この世界にやってきて、しばらくは一応平穏な日常が過ぎていった。
だがここにきて、おかしなことが起こり始めた。

ある日の深夜、突如魔力を感知した。
量はそれほどではなかったが数が多く、この街全体に散っていった。
士郎が言うには、同時に空間のゆがみのようなものを感じたらしい。

だがその後は、一度とある住宅街の道路で派手に争ったような形跡が発見されたこと以外、目立った動きは見られない。
もう決着がついている可能性もあるにはある。
しかし、それでも警戒するに越したことはないので、夜は見回りをすることにしたが、今のところ成果はない。


時を同じくして、なのはの魔力に変化が生じた。
それまで、ただ垂れ流しの状態だったのが、制御されているようなのだ。
そういえば最近なのはが持っている、赤い首飾りに魔力が宿っているようなので、なんらかの魔具の可能性がある。

それと、なのはの魔力に変化が起きるのと前後して、ペットを飼い始めたと言っていた。
いつもどおり私たちと別れ、塾に向かう途中に拾ったフェレットらしいのだが、そいつからも魔力を感じるので魔獣か使い魔の類なのではないかと思う。
放課後、頻繁に通うようになった「翠屋」に行ったときに見せて貰った。

余談だが、士郎が料理をするのは周知の事実で、屋上でこの五人で食べる際には、必ず士郎のおかずは略奪される。
そのことをなのはから聞いていたのか、その後は二人で料理談議に花を添えていた。
その様は、まるで井戸端会議をする主婦(夫)の如く! アイツ、ほんとに所帯じみてるわね。

士郎の家事能力はもともと高かった。
しかしロンドンで金ピカ二号こと、ルヴィアの下で執事のバイトをするようになってからは、味にうるさい雇い主の要求でさらに料理の腕は上がった。
特筆すべきはそのレパートリーで、世界中を回ったせいか、その内容は料理百科事典のようだ。
執事スキルに至ってはすでにプロの領域、骨の髄まで従僕根性が染みついている。

ただ気になったのは、士郎が店にやってくるとなのはのお父さんと紹介されたマスターと、お兄さんだという店員さんが、ひどく警戒しているようなのだ。
それも警戒の仕方から、只者じゃないことが分かる。

正中線に揺らぎはないし、足運びも熟練の武芸者のそれだ。何かの武術の達人たちらしく、警戒の仕方もさりげなく、それでいて一部の隙もない。
正直、気づいても迂闊なことができないので、見つけるまでが大変だった。
同時に、紹介された時は耳を疑った。
なのははあんなに運動音痴なのに……。

そういえば最近では、士郎は翠屋に行くと進んで給仕をしている。
なぜ翠屋で給仕なんかしていたのかというと、女の子に囲まれているのはどうも落ち着かないのだと言う。
翠屋はいつ行っても繁盛しているので、あまり私たちにかまけていられないこともあり、桃子さんはありがたがっていた。
私たちの世話だけでなく、いつの間にか注文を取っていたり、ウェイターの真似事をしたり、時には厨房の方で何やらゴソゴソやっていた。
半ば以上店員と化していると思うのは、私だけだろうか。


そんなある日、翠屋で士郎が私たちのお茶の世話をしていると、あまりに様になるその姿から、すずかのお姉さんという人がある依頼をしてきた。
なんでも彼女たちの屋敷には何人かメイドがいるらしいのだが、その中の一人は大変なドジっ子らしく、その人に見習わせたいので来てほしいと言う。

こちらとしては願ったり叶ったりだ。
いろいろとすずかを探っているが、一向にそれらしい様子がない。
強いてあげるなら、年不相応の運動神経の持ち主なことだが、それだけでは弱い。
ここらで核心に迫りたかったので、都合がいい。
もちろん私も同行したかったのだが、予定の関係で訪問は夜になるというので、欠席。

もしも当たりの時は私もいた方が都合はいいのだが、この街の異変となのはの関連を調べるためには毎日見回ることが大切だ。
よって、今回は私だけが見回りをすることになる。
まぁ、アイツならいざとなれば一人でも切り抜けられるくらいの力はあるし、万が一の場合にはラインから様子もわかる。

士郎は最後まで私一人で見回りをすることに反対していたが、とりあえずそれぞれできることをしようということで押し通し、その話を受けた。



第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」



SIDE-士郎

太陽は沈み、夜の帳が街を覆う。

一般家庭では、夜の食事と団らんが最盛期のはずだ。
いま俺は、すずかの家の門前にいる。万が一を考えて、聖骸布製の外套を着こんでの訪問だ。
こんな時間を指定した以上、あちらがこの土地の管理者ならば、なにかしらの行動に出るかもしれない。

気分はこれから工房攻めをするかのように緊張している。
場合によっては荒事になるかもしれない以上、準備は怠れない。
さすがに銃は持ってきていないが、それ以外は抜かりない。
友人の家に行くのに、こんなことをしなければならないことに一抹の罪悪感を覚えつつ、チャイムを押す。

「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが、どちら様でしょうか?」
少しの間をおき、若い女性の声で尋ねられる。
聞き覚えのない声なので、おそらくは使用人の人なのだろう。

「お招きにあずかりました、衛宮士郎です。月村忍さんは御在宅でしょうか?」
人間第一印象は大切だ。できる限り丁寧な口調で返す。
すると、やはりかなり高度な機械的セキュリティを施しているらしく、勝手に門が開いた。
入れ、ということだろう。



Interlude

SIDE-恭也

窓からターゲットの姿を確認する。
辺りも暗くなってきたので見え辛いが、門前の監視カメラから姿を確認できる。
例の少年で間違いないようだ。今日は深紅の外套を羽織っている。
その姿には、年に似合わぬ威風すら感じる。

初めて見たのは、うちの喫茶店「翠屋」になのはたちと一緒に来た時だ。
それとなく監視していたが、驚いた。
常人ではまず気付かないように監視していたのに、家族だという女の子と共にあっさりそれに気づいてしまった。

さすがに、すぐには俺と父さんが警戒していることには気づかなかったようだが、警戒されていることに気づかれただけでも驚きだ。
向こうの方でも、気付いていないふりはしていたが、人間ならば一瞬の違和感まで消しきるなど不可能だ。
だが、それだけでも只者ではないことはわかる。忍たちが刺客ではないかと警戒するのも当然だ。

しかし、あんな子どもを刺客として送り込むなど、虫唾が走る!

見たところそれ以外は普通の少年……、いや、あの年で母さん相手にあれほど料理の話ができる以上そちらも只者ではない。
なのはから料理上手な子と聞いてはいたが、まさかいきなりレシピを教えてほしいと頼み込んでくるとは……。
そういえば、事情を知らない母さんは彼のことを大層気に入っていたな。

まぁそれは置いておいて、いま月村邸には俺や住人たちだけでなく、美由紀もいる。
月村家の詳しい事情は話していないが、念のため協力してもらった。
本当は父さんにも来てもらいたかったが、片割れの女の子のこともあり、それに対する対策のために残ってもらっている。

杞憂で終わればよし。
だがその可能性は低い以上、万全の態勢で事に当たるべきだ。
あちらも、それ相応の用意は済ませているはずなのだから。

どうやら伏兵はいないらしく、一人のようだ。切り捨てられたか、それとも一人で十分なのか。
本当に見た目通りの子どもかさえ疑っておくべきだ。
あの年齢から考えれば、あり得ないほどに立ち振る舞いには隙がなく、手にはマメができていた。
尋常ではない訓練をしてきたのだろう。
あまり才能は感じられなかったが、油断すべきではない。
油断は死に繋がると、徹底的に叩きこまれてきた。

「恭ちゃん」
美由紀が小声で話しかけてくる。

「あの士郎君が、本当に忍さんたちの命を狙っているの?
 そりゃ只者じゃなさそうだけど、あんな子どもが……」
美由紀の気持ちもわかる。俺にだってその思いはある。しかし忍たちのいる世界ではそれも通じない。
たとえ子どもの姿でも、条理の外の力を持っているかもしれない。

「それを確かめるためだ。もし違っていれば笑い話ですむが、そうでなかったら笑えないぞ」
「……うん、それはわかってるんだけど……やっぱり、ね」
この態度を甘いととるか、優しいととるかはそれぞれだ。
しかし、この場に限っては甘い! 甘いのだが、その甘さを忘れないでほしいとも思ってしまうから、矛盾している。

「おしゃべりはここまでだ。
ターゲットが門をくぐるぞ! 絶対に目を離すなよ、少しでも情報が欲しい」
そうして、衛宮士郎は敷地の中に足を踏み入れた。


そこからは驚愕の連続だった。
敷地内に入った直後に門が閉まり退路が絶たれる。
それに驚いているうちに、起動したセキュリティは、ゴム弾の掃射による奇襲をしかける。
もし杞憂であったのなら、ここでケリはつくところだ。
しかし、ギリギリのところで気づいたようで、それを慌てて回避した。
それだけなら、ある程度訓練を積んだ者なら可能だ。

だが、異常なのはその後。
状況を確認するように一度左右を見回してから、一気に走りだす。その速さが尋常ではない。
スピードそのものはそれほど驚くものではないが、十歳に満たない子どもが、大人顔負けの速さで動くなんて普通はあり得ない。
一体どんな体で、どう鍛えればこの幼さでこれほどの身体能力を得られるのか。
また、懐から出した双剣は中国のもののようで、遠目にも名工の作だとわかる。
こんなものを用意していたのだから、はじめからそのつもりということか。

それだけではない。はじめは罠が動き出す前に通り抜けようと考えたのかと思った。
だが、それが間違いであったことはすぐに判明した。
なんと彼は、あらかじめ罠がどこに、何が設置されているのか分かっているかのように、全て難なく回避、ないし双剣で迎撃していく。

いくらなんでもそれはあり得ない。
ただでさえ暗くて視界が悪いのに、軽く見まわしただけで遠くにあるものも含めて、すべて発見するなど不可能だ。
しかし彼は、その不可能を可能にしている。

「これで決まりだな」
静かにそう言う。どうやって罠を見つけたのかはわからないが、彼が刺客であるのはまず間違いない。
ならば俺が打って出る!
美由紀には伏兵として待機してもらいつつ、すずかちゃんの護衛を任せ、俺は一対一を挑むことにする。
先ほど確認する限り仲間はいないはずだが、どんな時も例外はある。念のために余剰戦力は残しておくべきだ。

Interlude out



SIDE-士郎

どうやら歓迎はされていないらしい。俺は完全に敵とみなされている。

門をくぐってすぐの奇襲には驚いた。
まさか、ここまであからさまに排除しにかかるとは思わなかった。
何か仕掛けるとしても、もっと内側に引き込んでからだと思っていたので、意表を突かれた。

一度辺りを見回して解析の眼を向ける。
構造はわからなくても、罠の位置と種類の概要ぐらいはつかめるので戦場などでは重宝する。
それから、懐に手を入れ投影で干将・莫耶を作り上げる。これなら懐から出したように見えるはずだ。

あとは足を強化し最短コースを走りつつ、邪魔なものは切り捨てる。
速度は一般の成人男性の全力疾走くらい。
子どもの体では、強化をしてもそれほどずば抜けた能力に至れるわけではないが、少し軽めにしておいた。
本気で排除しにかかっている以上、手の内をさらし過ぎるわけにはいかない。

助かったのは、悪くてもすぐに殺されることはなさそうなことか。
突然の奇襲といいその後も、本物の鉛玉をはじめとした致死性の高い武器は使われていない。
生け取りが目的なのだろうか?

それにしても、罠の中に妙なものが混ざっている。
陳腐ではあるが落とし穴は有効なので別にいいが、なぜロボットが配備されているのか?
魔術によらない、完全な機械というのがまた驚く。
「日本のロボット工学って、こんなに進んでいたか?
これも世界の違いなのかもしれないけど、それにしたってロケットパンチはないだろう」
この警備システムを作った人は、文字通り紙一重なのではないだろうか。
まぁ、遠野家地下王国の例もあるし、日本の金持ちの家というのはこういうものなのかもしれない。


  *  *  *  *  *


微妙に頭痛を覚えつつ、一気に屋敷まで駆け抜ける。
おそらくは中もトラップハウスの類だろうと思い、建物全体を直接解析しようと扉に触れようとする。
驚いたことに触れる直前で扉が開き、危うくバランスを崩しかけるが、何とか踏ん張る。

殺気と共に、白銀の一閃が目の前を通り過ぎる。
峰うちのようだったが、もう少し前に出ていたら頭をかち割られていた。
前方には二振りの小太刀を構えた、漆黒の剣士がいる。
翠屋でウェイターをしながら、こちらを監視していた人の一人だ。
確かなのはのお兄さんだったはずだ。

さすがにここでは互いの距離が近すぎるので、お互いに数歩引く。
いつでも斬り合いができる間合いだ。
できれば一度体勢を立て直したいが、外に出ても罠だらけなので迂闊に逃げることもできない。

「ずいぶんな歓迎だな。こちらでは客人に向かって罠を仕掛け、刃を突き付けるのが礼儀なのかね?
 それに、君はこの屋敷の住人ではあるまい。
出迎えさえ寄越さずにいきなり攻撃とは、家主の度量が知れるというものだ。
 せめて刀を向ける理由くらいは教えてほしいな。身に覚えのないことで殺されたのではたまらない」
頭を戦闘用に切り替える。
この口調はあまりいい気分ではないが、話術もれっきとした戦術である以上使えるものは使い尽くす主義だ。
挑発や皮肉で相手が冷静さを欠き、隙を見せてくれるのなら安いもの。
たとえ効果がなくても、ありそうなものは片っ端から使うのが俺のやり方であり、そうでもしないと生き残れないかった経験則でもある。

「……単刀直入に聞く。目的は何だ? 何のためになのはやすずかちゃんに接触した。
家族といったあの子も仲間なのか? それとも、カモフラージュのつもりか」
冷静だな。
まともに取り合わず、場の主導権を確保するため俺の質問にも答えず、高圧的な態度で聞いてくる。

だが、それをわざわざ表立って称賛してやる義理はない。
むしろ、せっかく手に入った挑発のネタを存分に使わせてもらおう。
「質問にも答えないか……。まったく、一から礼儀というものを学ぶべきだぞ。
その年で礼節をわきまえないなど、恥ずかしくはないのかね? それも小学生に注意されるなど……」
肩をすくめ、呆れたように溜息をつく。
それらの動作と言葉の一つ一つを、できる限り嫌味にふるまう。
相手が答えない以上、こちらが答える義理はない。ここは丁重に無視させてもらう。
この様子では、俺が魔術師であると知って仕掛けてきたわけではなさそうだ。
しかし、ではなぜこうまで殺気立っているのか。

多少警戒されているのは知っていたし、ここに来るまでに魔術で足を強化したので、その際の身体能力を脅威ととるのはわかる。罠を見抜いたのも異常だろう。
だが、俺はまだこちらにとって不利益な行動は取っていないはず、ならば脅威ではあっても危険ではないはずだ。
何か後ろ暗いことでもあるのだろうか?

「俺の質問に答えろ!! そうしたら答えてやる」
このままでは一向に進まないので妥協したらしい。
あまりこういったやり取りは得意ではないのかもしれない。
見たところ純粋な剣士のようだし、性に合わないのだろう。

「質問したのは私が先なのだが……。まぁよかろう。
目的と言ったな。それならば知っているはずだ、従者の心得というものを教授しに来たのだよ。
さあ、こちらの質問にも答えてもらうぞ。とりあえず、改めて刀を向ける理由から聞こうか」
質問には答えた。相手が聞きたがっている方ではないが、特に指定もされなかったことだし問題ない。
そもそも先に質問したのはこちらだ、相手に気をつかってやる理由はない。

「くっ、そんなことを聞いているんじゃない!!」
「おや? 答えれば教えてくれるのではなかったのかね? それでは話が違うのだが……。
 まったく、困ったものだ。
約束すら守れんとは、つくづく一般常識というものが欠けているな。
剣よりも先に、マナーというものを身につけるべきだぞ。
それでは社会に出てやっていけない。社会不適合者になるだけだ」
やはり実直な剣士らしく、あんないい加減な答えは許せないらしい。
だが、おかげで精神的に隙ができてきた。

ここから揺さぶっていくとするか、と考えていると……
「待って恭也。無礼をお許しください、これは月村の当主たる私の責任です。
 私たちが聞きたいのは、あなたが当家の者に接触してきた理由です。
現在当家は少々複雑な状況にあり、場合によっては命の危険もあります。
多少過敏になるのは致し方ないと思いませんか?」
そこへすずかの姉の忍さんが姿を現し、話に割って入ってきた。
恭也さんは一瞬驚いていたが、すぐに俺に視線を向け警戒する。いまので冷静さを取り戻してしまったか。

それはともかく……
「ふむ、潔く謝罪するのは感心だがね。ならその魔眼を引っ込めてくれないか?
 どんな効果があるか知らんが、私には無意味だよ。この外套には、中身への侵入を防ぐ効果がある」
そう、この女性は口では謝罪を述べているが、その実魔眼で何らかの暗示か催眠でも掛けようとしていた。
だが、これでこの人は黒だ。
少なくとも、条理の外の力の持ち主であることは間違いない。二人は驚愕に顔を歪ませる。

「夜の一族のことを知っているようだな。やはりそうか! 答えろ、何が目的だ!」
再び刀を向けてくる。
これでは碌に話もできそうにない。一度こちらが優位に立ってから、もう一度交渉すべきかもしれないな。
それにしても「夜の一族」、やはり混血か何かなのだろうか?

「交渉は決裂のようだな、理想的ではないが致し方ない。無理にでも口を割ってもらう!!」
そう言って、干将・莫耶を手に疾駆する。相手は間違いなく、俺よりも剣士としては格上。
そのうえ巧妙に隠してはいるが、美由紀さん同様に暗器の類も装備しているところをみると、やはり殺し合いを前提とした剣術を修めているのだろう。
ここからは命をかけた死合いだ。油断はない。
元より衛宮士郎が戦うべきは常に自分自身なのだから、そこには一切の妥協も許されない。


小太刀は、元来守りのための刀で攻撃力では通常の刀剣よりも劣るのが常だ。
なのに、この恭也という人は、それでいて十全な攻撃力を発揮する。

初めこそ、俺が相手の体勢が整う前に仕掛けたことで優位に運んでいた。
だが、今ではすっかり逆転し基本防戦一方だ。
だがもともと俺の剣術は守りを得意とし、そこからのカウンターこそが持ち味なので、一番俺らしい状況であるともいえる。
それにこの展開は予想通りだ。
玄関で対峙した時から、一挙手一投足に注意を払い分析していたのだから。

「はぁ!!」
気合いと共に、袈裟から振り下ろされる。
この若さでその鋭さに感嘆しつつも、干将で受ける。

「ふっ!」
すかさず胴を切り払ってくる。一瞬のよどみもない連撃だ。日々の精進の賜物なのだろう。
これは受けずに、バックステップでかわす。

さて、感心ばかりもしていられない。
およその力量は掴めた。まだ暗器もあるので迂闊なことはできないが、そろそろ反撃に移るとしよう。



Interlude

SIDE-恭也

只者ではないことはわかっていたはずだ。
俺は手加減などしていない。
だが、心のどこかで侮っていたのかもしれない。
こんな子どもに負けるはずがない、そんな風に考えていたのかもしれない。

この年齢でこの錬度、打ち合っている今でも才能を感じさせないこの少年の強さは、純粋な鍛錬の賜物だ。
日々愚直に振り続けてきた剣、その成果。

特筆すべきは防御のうまさだ。
守りの堅牢さなら美由紀はおろか、俺よりも上かもしれない。
それを可能にしているのは、年の頃に不釣り合いな卓越した剣技と、あの猛禽のような眼だ。
彼は俺の剣だけでなく、足運びから視線まで俺のすべてを視認している。
相手の動きをみるのは基本だが、およそ相手の動きを全て把握するなど、そうそう出来ることではない。

その防御はまさに鉄壁。
これを崩すのは簡単ではない。
しかし骨こそ折れるが、このまま押していけばいずれ押し切るだろう。
鋼糸や飛針もまだ使っていない。使おうとすれば気づかれるだろうが、要は使い方だ。
わかっていようと関係ない。動きに変化をつけて、そこから崩していくこともできる。

だが、その必要はなさそうだ。
いま徐々に隙ができ始めている。

右のわき腹!
いま致命的な隙ができた。
ここを狙って小太刀を振りぬく。
一応峰を向けてあるので、死にはしないだろうが、これで終わりだ!

キンッ

「な!?」
だがそんな予想は覆される。
確実に取ったと思った一撃が、難なく防がれ驚愕する。
一度は読み違えたかとも思ったが、違う!!

その後も、何度か隙ができては打ち込み、防がれるを繰り返す。
時にはカウンター気味に反撃もされた。
それは、綺麗な弧を描いて俺の胴を薙いで来る。
寸でのところで身を引き、それを避ける。

信じがたいことだが、わざと隙を作っているのか? そうでなくては説明がつかない。
ある意味では理にかなっているが、正気か?
確かにこれなら攻撃箇所が読めるので、より長く持ち堪えられる。
だが、些細なミスが即命取りだ。そもそも、隙の作り方に違和感がない。
こいつは一体、どれほどこんなことを続けてきたのか。

そんなこちらの内心はお見通しと言わんばかりに、奴が嫌味ったらしく声をかける。
「どうした、顔が引きつっているぞ?
 そんなに自分の剣が防がれるのが不思議かね?」
などと、わかっていてわざとそんなとぼけたこと言ってくるこいつに腹が立つ。

「ふざけるな!!
お前、正気か!? これは一か八かの賭けのようなものだ。勝てば戦い続けられるが、負ければ死ぬぞ!」
そう、こんなことは認められない。
まるで自分の命をギャンブルのチップのように使うなど、守るための剣を使う俺達には絶対に許されない。
守るということは、同時に自分も生き残らねば意味がないのだから。

俺の怒声に、特に感銘を受けた様子も見せずに一応肯定の意を示す。
その冷静さのせいで、まるで小馬鹿にされているような気さえしてくる。
「ふむ、正論だな。
だが格下が格上に勝つにはイカサマを使うか、賭け金を上乗せするしかあるまい。
 なに、要は賭けに負けなければいいのだよ!」
そう言って、奴はまた隙を作る。
今度は首、それが狙っているのだとわかっていても、剣士としての本能が隙を攻撃してしまう。

いいだろう。
ならば、防げない一撃を加えてやる!

Interlude out



SIDE-士郎

敵の雰囲気が変わる。
先ほどまでは意図的に作られた隙に動揺していたが、腹を据えたか。

天才、といっても過言ではない剣士であり、才能の上に胡坐をかいてきたわけではないようだ。
だが、どうやら人を殺した経験はなさそうだ。
しかし、動揺してもなおキレを失わない剣技は見事だ。
腹を据えた以上、何か仕掛けてくるだろう。

先ほどまでと変わらない剣戟、首に隙を作りそこに攻撃を誘導して防ぐ……防ごうとした。
「なに!?」
防いだはずの剣が防御を抜き、首に迫る。
体勢が崩れるのもかまわずに、全力で離脱する。
薄皮一枚をかすめていったのには肝を冷やした。
もし直撃していれば、それだけでケリがついていただろう。

後先考えないでの離脱だったせいもあり、バランスが崩れる。
体勢を整えつつ、今起こったことを分析する。
(防御を抜けるとは、どういうことだ?
いや、そんなことを考えるのは後だ。そんな時間をくれるほど、生易しい相手ではない。
重要なのは防御できない攻撃があるということ)
大急ぎで思考をまとめ、対策を練る。

(だがどうする?
すべて回避していてはジリ貧だ。原理はわからないが、おそらくは繊細な技のはずだ。
なら、いっそ力技を仕掛けるか)
しかし、崩れた体勢を整える間もなく、間合いを詰め次の剣が横一文字に振るわれる。
また抜けてくるのではないかと思いつつも、この体勢では回避することもできないので、とにかく受ける。

ギンッ!!!

今度は受けられた。
おそらく一連の流れの中で仕掛ける類の技で、単なる振り払いでは使えないのかもしれない。
だが、今度は別の問題が生じた。両手で双剣を交差させて受けたのが不味かった。
今度の剣戟は、受けるととんでもない衝撃を受けるらしい。
不十分な体勢で受けたせいで、倒れないようにするので手一杯になり、両手の剣を弾かれてしまう。
敵は勢いをそのままに、回し蹴りを見舞ってくれる。

ゴッ!

小学生の体は面白いように飛んでいき、二メートルほど間を開けることになる。
戦っているうちに、少しずつ移動していたので、すぐ後ろには壁があり、出入り口までは結構ある。
これでは逃げるのも難しい。

これは厄介な相手を敵にした。
場合によっては、代行者級の実力かもしれない。
身体能力は強化である程度補えるが、この体にまだ慣れ切っていないのが痛い。
まあ慣れていたとしても、基本性能と技量では間違いなく劣っているが。

「もう武器はないぞ。潔く降参したらどうだ。悪いようにはしない」
優しいことだが、このまま負けるわけにはいかない。
いくつか伏兵の気配もする以上、すでに状況的には負けている。
今までのことを考えると、投降したとしても、非人道的な扱いを受ける可能性は低いようだ。

だが、俺の後ろには凛がいる。
凛のための正義の味方を謳う以上、敗北は許されない。
幸いなことに状況を打開し、交渉に持ち込む方法はある。
こうなったら先ほどの案を実行に移すとしよう。

再び懐に手をいれ、詠唱をする。
「『投影、開始(トレース・オン)』」
作り上げるのは、かつてアインツベルンの城の壁に飾られていたハルバート。
レニウム製で、その重量はとても人間に扱える物ではないが、俺の左腕の義手に限って言えば問題ない。
こいつにはいくつかのギミックがあり、その一つが魔力を通すことでの膂力の増強だ。

非常識な重量の武器という意味では、バーサーカーの斧剣といい勝負だが、俺の左腕はそれさえも振り回せる。
故にこのハルバートも問題なく扱える。
振るたびに、体が流れてしまうのが難点だが。
実際に使おうと思えば、いくら膂力が上がっていても上下の動きぐらいでしか使えない。
横に振ろうものなら、その瞬間に致命的な隙を作ることになる。

「なんだと!? いったいどこから……」
さすがに驚いているようだ。
当然か。どう見たって懐に入れていられる大きさじゃない。

こいつの特徴でもあるあまりの非常識さで、相手の判断を鈍らせるのも目的。
いまの内にケリをつけてしまおう。
ここで戦闘経験の差が出たようだ。むこうは、あまりのことにまだ立ち直っていない。

上段に振りかぶり一気に間合いを詰め、力の限り振り下ろす!!

ズンッ!!!!

非常識な武器で、非常識な攻撃を行う。
やはり最強の攻撃の一つは相手の考えもしない攻撃だな、と再認識する。
小太刀で受けたようだが、そんなもの小枝と変わらない。
両方とも、真二つに折れてしまっている。良い刀だが、業物ではないようだ。それでは荷が重すぎる。

恭也さんは腕を抑えている。
あんなものをいなすこともせずに受けたのだから、相当痛むはずだ。
振りおろした際の感触からして折れてはいないようだが、捻るぐらいはしているかもしれない。
さっきの一撃がかすめたのか、出血もしている。
大事ではないが、床にちょっとした血だまりくらいできている。まぁ知ったことではない。

ハルバートを突き付け宣言する。
「紆余曲折はあったが、私の勝ちのようだ。
御当主、一つ取引といこうではないか。こちらの要求をのむのであれば、彼の命は助けよう。
ただし、もし受け入れられないようなら、この場で彼には死んでもらうことになる……」
できる限り酷薄な笑みを浮かべて要求する。要は人質だ。

「聞くな、忍!!」
威勢よく吠えているが、彼にはそもそも発言する意味はない。
決めるのは彼女だ。

「黙っていてくれないか。話が進まん。
 こちらの要求は三つ。私の質問に答えること。私たちのことを他者に漏らさないこと。
そして、凛と私の身の安全の保証だ。ああ、聞いたことは私と凛だけの秘密にすることを約束しよう。
人の秘密を吹聴するような、下劣な趣味はないのでな」
この二人が恋人同士なのは、既に聞き及んでいる。
それでもなお切り捨てる者もいるかもしれないが、彼女も馬鹿じゃないだろう。
俺の要求の意味するところもわかるはずだ。

「あれ? 安全の保証って、それだけ?」
どうやら気づいたらしい。
内心で安堵する。もし突っぱねられたらどうしようかと思ったが、上手くいったようだ。

とはいえ、今はまだ交渉中。
外面では、相変わらずの鉄面皮を維持する。
「そうだ。『夜の一族』とやらが何かは知らないが、君がこの地の管理者なのだろう?
私は君たちに聞きたいことがあっただけだ。
ただ、迂闊にそのことを聞くのは危険なので、こう回りくどいことになってしまったのだが。
 何を勘違いしているのか知らんが、私に君たちを害する意志など元からない」
二人揃って、唖然としている。
まったく、勘違いで殺されては堪らない。

空気が凍りつく中、慌ただしい足音が二つやってくる。
「恭ちゃん今の音は!?」
大急ぎでやってきたのは、なのはの姉の美由紀さんだった。
この人も待機していたのか。

隣にはすずかもいるが、様子が変だ。
怯えているのかとも思ったが、そうではなさそうだ。俺も恭也さんも、少なからず怪我はしているがそれほど深くはない。
せいぜい少し出血したくらいか。

だがすずかは硬直し、その目は潤み、顔は紅潮している。
その視線の先には、恭也さんの血だまりがある。

魔眼に、血への反応、「夜の一族」という名。
いくつかのピースが合わさり、一つの推論を導き出す。


  *  *  *  *  *


場所は変わって、応接室。
あのあと、美由紀さんが騒ぎ出してしまったが、伏兵として隠れていたノエルさんというメイドさんが落ち着かせてくれた。
いまは席を外している。
どうやら彼女には聞かせられないようだ。

とりあえず今は、当主である忍さんから大まかな状況説明を受けている。
つまりは刺客に狙われることがある立場にいて、俺をその刺客と思ったらしい。
まぁ自分で言うのもなんだが、確かにそれらしくはあるか。

疑惑の原因は以前予想した通り、俺が門前の監視カメラを見つけてしまったことらしい。
警戒されているのは分かっていたが、ここまでの危機感を覚えていたのは予想外だった。
不審なものがあるとつい観察してしまうのは、長いこと戦場にいたためにできた癖のようなものだ。
まさかこんな形で裏目に出るとは。

「……というわけで、勘違いしていたことは謝ります。
でも、あなたにも非はあるわよ。誤解を招くことばかりして、それを解かないのだもの。
多少過激な応対になっても仕方ないわ」
「そんなことは私の知ったことではないが、まあ理解はできる。こちらにも非はあろう。
これが多少かというと疑問ではあるが……まあいい。
とにかく私たちは、あなた方とことを構えたいわけではない。
この地に流れ着いたのも偶然からだ。他意はない」
嘘ではない。この地に来たことは偶然でしかない。
こちらに不利益がない限り、誰かと敵対するつもりもない。

ただ、すずかたちに脅威が迫れば排除することになるだろう。
こちらに火の粉がかかっては困るし、彼女らはすでに俺たちの日常の一部なのだから。

「じゃあ、私たちや周りの人たちの命、あるいは安全を脅かす気はないと?」
当主は改めて尋ねる。
彼女たちにとって最も重要なのは、身内を中心とした関係者の平穏らしい。
しかし、別に他人がどうなろうと知ったことではない、というわけでもないようだ。
一番気にかけているのが身内だというだけで、そこまで冷酷ではなさそうだ。

元の世界だと、不法侵入しただけで殺そうとしてくる輩も多かったが、できれば人死には出したくないらしい。
これらの点は、一般人のような感覚が強いように思う。

「無論だ。むしろ私たちは、平穏をこそ望んでいる。
詳しくは言えんが、命からがら逃げてきたといったところだ。
ああ、追手の心配はいらんよ。もう奴らがこちらを追うことはできないからな。
そちらに迷惑をかけることもない」
「一応信用するけれど、もし何か妙なことがあったら真っ先に疑われるのは覚悟して欲しいわ。
 それで、聞きたいことというのは? 残りの条件を飲むのは問題ないけど」
こればかりは仕方がない、あまり多くを話していない以上こんなところか。
疑われたとしても、こちらにはその妙なことを起こすような人脈もコネもない。
冤罪でも掛けられない限りは、とりあえず問題はない。


「では、魔術というものを知っているか?」
いい加減疲れたので、早速本題に入る。
さっきの戦闘では、だいぶ危ないところまで追い詰められたので、精神的な疲労が並みじゃない。
あまり根気良く腹の探り合いや駆け引きをする余力はないので、率直に聞くことにする。

俺の手札は大半が奥の手のようなものなので、そう滅多に使えないものが多くある。
使えばもっと楽に勝てたかもしれないが、その場合恭也さんの致死率も跳ね上がるので、さすがに使えなかった。
まったく、経験不足であるとはいえ代行者にも迫るほどの力の持ち主相手に、宝具抜きの通常戦闘などするものではない。軽く二・三回は死ねた。

「魔術? あの呪文を唱えたり、魔法陣を使っておどろおどろしい儀式をしたりする?」
「当たらずとも遠からずと言ったところか。
厳密にはそうとは限らないのだが、概ねそうだ。
私たちはその魔術を継承する者で、命を狙われることになったのもそれが原因だ。
その様子だと知らないようだな」
それなりに裏に精通している以上知っていそうだが、知らないということはそもそも存在しないか、失われたといったところか。
これで魔術師が存在しないことは確実と言っていい。
最大の心配事項がなくなったので、これでやっと枕を高くして眠れるというものだ。

「少なくとも私たちにとっては、ファンタジーの領域を出ない話ね」
おそらくは自分だってその領域の人間だろうに、知らぬふりか。
さすがに伊達に当主の座にいるわけではない。

一応こちらもそれに合わせておく。
知っていて当たり前という風に対応するのは、変な疑惑を招きかねないからな。
「そうか、知らないのは無理もない。
基本一子相伝で、外には漏れないからな。
個人主義者が多いせいで、魔術師同士でもあまりつながりを持たないので、私も自分たち以外に魔術師がいるか知らないのだ。
これほどの土地を管理する者なら何か知っているかとも思ったのだが」
それに一番聞きたかったことは聞けたので、あとは適当にはぐらかせばいい。

仮に詳しく説明すると時間もかかるので、それはまた後日、凛のいるときにでもすることにしよう。
あくまでも、話すとしたらだ。わざわざすべてを話さなければならないわけでもないので、それが答えられる範囲なら、聞かれた時に教えればいいか。

「管理って、別にそんなのしてないわよ。
 というか、ここってそんなにすごいの?」
これ程の霊格の土地に住んでおきながら、知らないのか。
まぁ、魔術の存在そのものを知らない以上、しょうがないのか。

この家に入ってからというもの、どうりで少しよどんでいるような気がしたわけだ。
たいていの場合、川などと同じで、人間が余計なことさえしなければ滅多に異変は起こらない。
それでも、適切な処置をした方がより流れがよくなるのも事実。
よどんでいるというよりも、流れが悪くなっているか、不純物でもたまっているのだろう。

「ああ、この海鳴というところは素晴らしい霊地だ。なかでもこの家のあるところは、一番のポイントだぞ。
 うまく管理してやれば、悪運や災難、霊障の類も避けられる。ふむ、どうもここは少しよどんでいるようだな。
なんなら、凛に頼んで管理するのもよかろう。
彼女のことだから報酬を請求するかもしれんが、何、安いものだろうよ」
気のない感じで薦める。
だが、内心何とか受けてもらいたくて、焦る気持ちを抑えるのに必死だ。

魔術師が存在しない以上、誰にも魔術による違法を裁けないことになる。
このままそのことが凛に知れれば、俺はかつて冗談で済んだことが現実になってしまう。
それは、投影による複製品の売り逃げだ。ただでさえ後ろ盾はなく、金銭的にも余裕があるとは言えない。
いざとなればかなりヤバい手段に出ることも必要だが、できればそんな犯罪に加担したくないので、何とか受けてほしい。
だが、弱みを見せるわけにもいかないので、こうして適当な口調で提案している。

「あれ、あなたはできないの?」
痛いところを突いてくる。
一応凛からオーソドックスな魔術は一通り習ったが、錬度はどれも「一応できる」程度だからな。
魔法陣を敷いたりするのは得意なのだが、つくづく作る人間でしかないということか。

「あいにくと非才の身だ。
私にもできないことはないが、はるかに時間がかかるし、精度も悪い。やるとすれば凛の手伝いだろう。
なんなら、私の方から話を通しておくが?」
「あ、じゃあお願い。専門技術だからね。相応の報酬は出すわよ。もちろん成果があれば、だけど」
どうやら挑発されているらしい。
それほど即効性を期待されても困るが、せっかくの収入源だ、大切にするとしよう。
こちらは自分の未来がかかっているのだ。いい加減な仕事などするはずもない。


あとは「夜の一族」とやらのことか。
どうやら特殊な一族であるようだから、できれば知っておきたい。
知ったからどうこうするわけではないが、もし他のそういった存在と敵対するようになった場合を考えると、情報はあった方がいい。

忍さんから聞く限りでは、推論通りある種の吸血鬼のようなものらしい。
だが、こちらのように真祖や死徒がいるわけではない。
特別な力を持っているらしいが、それでも元の世界の吸血鬼たちのような、超越的な能力を持っているわけではないようだ。
俺が相手にしてきた連中に比べれば、かわいいものだ。
あれらを比較対象にするのが、そもそも間違っているのかもしれないが。

ピンきりではあるが、中には一度殺したくらいでは殺しきれないようなのもいるからな。
本来向こうの吸血鬼というのは、真っ当な人間の手に負えるような存在ではないのだ。

忍さんたちのことは、俺の感覚では吸血鬼なんて、仰々しいモノとはとらえられない。
吸血鬼らしく血こそ求めるが、血を吸われた者には特に異変はなく、精々が貧血を起こすくらいとのことだ。
もちろん吸い過ぎれば、命にかかわることもあるそうだが。

先ほど、すずかが血に反応していたのはそのせいか。
普段、そう血を見る機会はあまりないから、反応したといったところなのだろう。
最近では血を吸うとしても、吸うのは輸血用血液らしい。
輸血パックから血を吸う吸血鬼というのも、なかなかにシュールな光景だ。
そんな状態で、新鮮で活きのいい血液が目に入れば、反応してしまうのは当然だろう。
その血を求める衝動にしたところで、死活問題ではないらしい。
おそらく美由紀さんは、このあたりのことを知らないので席を外したのだろう。

一通り話を聞き終えて、すずかがつぶやく。
「わかった? わたしね、人の血を吸う化け物なんだよ」
とても寂しそうに、自己嫌悪を感じさせる声で言う。

よく見れば、膝の上で握りしめられた手はわずかに震えている。
それはおそらく、怯えからくるものなのだろう。
畏怖・拒絶・嫌悪、それらの感情が向けられることに対する恐怖。
人は他者を拒絶するとき、とてつもなく冷たく恐ろしい目をする。

すずかはそれが向けられるのが、怖くて仕方がないのだろう。
自身を化け物なんて呼ぶのは、それに対する防壁でもある。
自分をそういうものと思い込むことで、心を固くし、少しでも傷つかないようにしている。

すずかはずっとそのことを悩み、苦しんできたのだろう。
自分は人間を食い物にする化け物だと、責め続けてきたのかもしれない。すずかの性格ならありそうだ。
だが、すずかは化け物の定義を勘違いしている。
血を吸うから化け物なのではない。化け物を化け物として成立させる要因は、もっと別のところにある。
本当の化け物を知る身として、そのあたりを訂正しておかなければならない。
的外れな悩みで、感じなくてもいい罪悪感を覚えているのはよくない。

「すずか。君は勘違いをしている。君は化け物じゃない。
そもそも、化け物の定義をまちがっている」
「え? 化け物の、定義?」
すずかは慰められることは予期していたのか、それには反応せず、少し顔をあげてもう一つの方を聞き返してくる。

「そうだ。それは人間社会を端から端まで否定する、殺戮機構。ただいるだけで害悪となる、毒のことだ。
 怪物は本能、あるいはあらがえない欲求で人を襲うのではない。それは、優れた理性で人を襲う。
 人間以上の力で、喜悦をもって人に害をなすのが化け物だ。
 すずかは、自分がそんなものだという気か?」
これはずるい聞き方だ。そんな風に聞かれて、そうだと答えられる人間はまずいない。
逆にいえばそう言えるそいつこそ、本当の化け物かもしれない。

少なくとも俺の知る化け物連中は、人間に危害を加えることに何の罪悪感も持ってはいなかった。
持っているとして、人間の脆弱さに対する侮蔑や憐れみくらいか。
あとは、そこに何の感情も持っていないかだ。

黒の姫君はどちらかというと、後者の方だったように思う。
血を吸うことに快楽のようなものは持っていたようだが、その対象である人間には、特別な感情はなかったように感じられた。
人間は、あくまでも食料であり嗜好品。
さまざまな意味で娯楽として見ている節があった。
俺が見逃されたのもそのせいだろう。

化け物との間には、能力以前に精神的な位置づけとして、越えられない壁がある。
すずかにはその壁が感じられない。
こうして罪悪感にさいなまれている時点で、すずかはそんな化け物たちとは違うと断言できる。
「ち、ちがう! わたしはそんなものじゃない!!
……でも、それでもやっぱりわたしは、人の血を飲む化け物なんだよ」
一度は語気を荒げて否定するが、すぐにまた消え入りそうな声で勘違いを口にする。
どうやら筋金入りらしい。

他者、あるいは世界のせいにしないのは立派だが、あまり自虐的になっても意味はない。
ずいぶん昔、どこかで似たようなやり取りをした気がするが、覚えはない。
だけど、確信はある。その時の相手も、最後には自分の願いを思い出し、踏みとどまっていたはずだ。
そうだ。これはきっと、伝えなければ、気付かせなければならないことだ。
このままでは、すずかはいつかなのはたちから離れ、他者との関わりを拒んで生きていくことになる。
失わないために、拒絶されないために、進んで孤独になろうとする。……なんて矛盾。
それは、あまりに悲しすぎる。

すずかにそんな生き方をさせないためにも、絶対にこのままでいさせるわけにはいかない。
さぁ、最後のひと押しをするとしよう。
「なるほど、確かにすずかの体は、血を欲するのかもしれない。
じゃあ聞くけどさ。すずかには、望むものはないのか?
心を開ける友人、友達と過ごす時間、それすらもいらないっていうのか?」
すずかが息をのむ。いつの間にか、俺も元の口調に戻っていたが、気にしない。
いまの反応だけで十分だ。それだけで、すずかがどれほどなのはたちのことを思っているかがわかる。

ここまで意固地になってしまっていると、ちょっとやそっとでは崩せない。
ならばからめ手にでも出て、情の方から崩すことにしよう。
付き合いの短い俺の言葉では、すずかの心には届かない。
だが、心を通じ合わせた友人たちへの思いなら、この殻を破ることができるはずだ。

「血を欲する本能、みんなを大切だと思う心、どちらも真実だ。否定なんてできるはずがない。
 でもな、重要なのはそれを持っているということだ。
大切に思える人がいる。それこそが、すずかが人間である証拠に他ならないんだ」
その心があれば、本能に抗うことだってできるし、大切な人たちに助けを求めることだってできる。
たとえ本能にのまれそうになっても、その心と大切な人たちが、すずかをこちらに引き留めてくれる。

それなら、すずかが化け物になることなんて、あるはずがない。
「大丈夫だよ。すずかの悩みは、この先もずっと付いて回るかもしれないけれど、誰かを大切だって思える心があるのなら、化け物になんてなることはない。
世界のすべてが否定しても、俺が認めるよ。その心がある限り、すずかは間違いなく、みんなと同じ人間だ」
俺に言えることはここまでだ。だが、ちゃんと伝えたかったことは伝わったようだ。
表情は、さっきまでの暗く沈みこんだものではなく、とても穏やかなものになっていた。
同時にその目から零れる涙は、今まで心にため込んできたあらゆる感情を押し流しているように見える。


俺が締めくくってから少し間を開けると、すずかは声を上げて泣き出してしまった。
正直、女の子に泣かれるのは非常に困る。
でもその様子は、ただ悲しいから泣いているのとは違うことが分かる。
まあ、慰めたり謝ったりできない分、よけいにどう対処していいかわからないのだが。

ただ、これですずかの心の重石が軽くなったのなら、こんなガラクタの心しか持てない俺でも、役に立ててよかったと思う。
すぐになのはたちに話すことはできないかもしれない。
だが、いずれ話せるようになるだろうことは確信できた。
それだけ泣き終わったすずかの顔は、泣く直前の穏やかなものとも違う、憑き物の落ちた晴れやかな顔をしていたから。

凛には今回の事情を話さなければならないので、すずかのことも話すことは了解してもらった。
あいつにしても、だからといって態度が変わるはずもないので、それはまたすずかの背中を押すことになると思う。


こうしてやっと一つの課題に区切りがついた。
……ついたというのに、今度は凛から、別の問題が発生したことを知らされるのだった。




おまけ

その一 すずか編

とりあえず交渉の方は一段落ついた。

情報交換から協定の取り決めまで、大まかなことが済んだのは、もう日付が変わる直前だった。
夜の一族では、自分たちのことを明かすときは契約のようなものをして、秘密を守ることを誓約するらしい。
それは今度、凛と一緒に来た時にでもすることで合意する。

あとは家に帰って、凛に今回のことを報告するだけだ、と思って肩の力を抜く。
「士郎君」
すずかはまだ起きていたのか。応接室から出てきた俺に話しかける。
彼女は途中で退席しており、もうとっくに眠っていたと思ったのだが。
目とその周りが赤いのは、眠いからだけでなく、さっき泣いたのもあるのだろう。
そのことを思い出し、少し居心地が悪い。
あれは俺が泣かせたようなものだし、理由はどうあれ、女の子を泣かせたのには変わらない。
罪悪感とは違うが、どうにも落ち着かない。

そんな若干挙動不審にそわそわしている俺に、すずかが話しかけてくる。
「あの、今日はごめんね。わたしが話しちゃったせいで、こんなことになっちゃって……」
すずかが申し訳なさそうに謝ってくる。
先ほどのことには触れてこないし、俺の方があまり気にし過ぎても仕方がないので、頭を切り替える。

たしかに、危うく完全に敵対関係になってしまうところだったが、結果的には進展もあったので、よかったと考えている。
こちらとしても強力な後ろ盾ができ、今後は何かとやりやすくなるはずだ。
少なくともちゃんと購入できるまでは、現在の住居は月村家の預かりとなるので、突然ホームレスになる心配はなくなった。
これでライフラインの方も確保できるので、やっと憲法にもある健康で文化的な生活を送ることができる。
せっかく直したテレビが無駄にならずにすんで、嬉しい限りだ。
他にもいろいろ便宜を図ってくれるらしいので、一気に事態が進展したという意味では、今回の事は結果的にプラスに働いたと言える。

「別に謝ることはないよ。
まぁちょっと大変なことになりそうだったけど、おかげでこうして繋がりを作るきっかけになったんだ。
結果オーライだよ」
ここまで来ると、俺もいつもどおりの話し方に戻す。あれは肩がこるんだ。

「そっちが本当の話し方なんだ。いつもと違う話し方をしてて、まるで別人みたいだったよ」
「あれは無理してそうしてるだけなんだ。あっちの方が交渉や駆け引きには向いてるからな」
そう言って、肩をすくめる。
まったく、アーチャーの奴はずっとこんな話し方をしていて、疲れなかったのだろうか。


そうして話しながら玄関に向かう。
先ほどの戦闘で壊したところはすでに直されていて、手際の良さに感心する。
「それじゃあ帰るよ。今度来るときは、ちゃんとした歓迎をしてほしいな。
 見送り、ありがとな」
わざわざこんな時間まで起きていて、ここまで見送ってくれたので礼を言う。

だけど、なんですずかの顔は赤くなってるんだ?先ほどの血への反応とは違うようだ。
そもそも俺の血はすでに止まっている。
「どうした?顔が赤いけど……」
「な、何でもないの!?ちょっと聞きたいことがあって」
聞きたいこと? なんだろう。
もしもさっきの泣かせてしまった時の話だとすると、非常に不味い。
ここを追求されると、俺には反論のしようがない。ある意味、弱みを握られたのと同じだ。
これから先、すずかには一切頭が上がらなくなってしまう。

それでなくても、今夜はだいぶ疲れたので、できれば後日に回したい。
だが、女の子の頼みを断るのも気が引けるので、余程厄介なことでもない限りはちゃんと答えるつもりでいる。
「え~と、ね。凛ちゃんとは、その……恋人なのかな? って」
うつむきながら、そんなことを聞いてくる。
予想していたのでは、化け物云々の話以外だと、魔術をはじめとした俺たちの能力や、生い立ちのあたりだと思っていたのだが……。

やっぱり女の子だからか、そういった話に興味があるのだろう。
「………ああ……そうだな。一緒に暮らしている家族なのは確かだけど。
 うん、恋人って言って差し支えないと思う」
ただ、改めて言うとなると気恥ずかしいので、頭をかきながらそっぽを向いて答える。

そういうとすずかは、少しの間じっとしてから大きく深呼吸をして、口を開く。
「そっか…。あのね、凛ちゃんに伝えてほしいんだけど」
一瞬悲しそうな顔をしていたが、すぐに気合たっぷりの熱血した顔になる。

むぅ、すずかにしては珍しい表情だ。
「これからは、チャンピオンに挑む挑戦者の気持ちでいくから。油断してると貰っちゃうよ、って伝えて」
確かにあいつは、我らがチャンピオンではある。でも、何を貰っちゃうのだろう?
その質問には、結局答えてもらえないまま帰ることとなる。




帰宅してからそのことを凛に話すと、非常に冷たい視線で……
「ふ~ん。よかったわねぇ、衛宮君。すずかと仲良くなれて。
こっちが戦っている最中に、そんなことしてたんだぁ」
笑っているのに不機嫌という、高等スキルで返される。
闘っていたのは俺もなのだが。その夜は、話すべきことを話すと、後は無言で睨みつけられた。
……なんでさ。

ただ小声で「油断も隙もあったもんじゃない。これからは首輪でもつけようかしら」などと、物騒なことを呟いていた。
俺が何をしたというのか。





その二 恭也編

帰り道は途中までは恭也さん、美由紀さんと一緒だ。

そこで、俺が恭也さんにどうやって勝ったのかを、美由紀さんがしきりに聞いてくる。
自分よりも完成された剣士である恭也さんが、俺のような子どもに負けたことが信じられないのだろう。

気持はわかる。
この人の力量を知っていれば、悪い冗談にしか聞こえない。
決着のついていた場面を見ていなければ、美由紀さんも信じられなかっただろう。
とはいえ、夜の一族に関しても部外者であるこの人にそれを言うわけにもいかず、「秘伝です」と言って口を紡ぐ。

恭也さんもそれに乗ってくれて、
「他人の秘技を詮索するものじゃない! 本人が言いたくないのだから無理強いするな」
と言ってフォローしてくれる。
それに対し感謝をこめて目礼する。

だが、俺はこの人の人となりを勘違いしていたらしい。この言葉には続きがあった。
「詮索はするものじゃないが、戦いの中で見切るのなら問題はない! そこでだ士郎君、いや士郎!!
今度俺と稽古をしないか? 家には道場もある。
負けた俺が言うのもなんだが、君と俺の間にそう差はないと思う。
力量の近いもの同士で鍛錬した方が効果的だし、互いに刺激し合えるのはいいことだ。
君さえよければ、是非相手をしてほしいのだが」
言っていることはわかる。
技量ではあちらが上だが、実際に戦えばそう簡単に決着はつかないだろう。
俺は守勢に長けるので、そう簡単には負けない自信はある。
まぁ、通常戦闘の範疇内だと、俺が勝つ可能性なんて一割に満たないだろうが。
今回使ったあの二種類の剣戟も、そういうものがあるとわかっていれば対処のしようもある。
たがいに磨き合うのは、俺もいいことだと思う。

ですが恭也さん……その表情はどうかと思いますよ。
実にうれしそうに笑っていますが、その目は全く笑っていない。
俺が猛禽なら、この人の眼は飢えた狼だ。
それも飢えているのは、練習相手なんて生易しいものではない。
ギリギリのラインまで追い込み合える強敵だ。
おそらくこの人と稽古をすれば、その都度地獄の底を垣間見ることになるだろう。
まさかこんなバトルジャンキーな人だったとは……。

道場の存在には惹かれるが、そんな命知らずなマネはしたくない。鍛錬よりもまず命が大事。
「申し出はとても嬉しいし、俺自身興味はあります。
ですが、あいにく俺たちは二人で暮らしているので家事とかも分担していて、あまり時間が取れないんですよ。
 いつか機会があったら、そうさせてもらいます」
刺激しないようにできる限り丁重に、また非の打ちどころのないように返答する。
こんな方法でいつまでもつか疑問だが、少しでも時間を稼いで対策を練らなければならない。

恭也さんは、舌打ちこそしないが心底残念そうだ。
美由紀さんはやけにテンションの上がっていた恭也さんを、不思議そうに見つめているが、あの目は見ていないらしい。
またも厄介なことが増えてしまい、いい加減にしてほしい思いで帰路についた。




あとがき

……ついにやってしまった。
戦闘パートがこんな体たらくで、本当にいんでしょうか。
あらかじめ期待しないでほしいとは言いましたが、自分で読みなおしていて凹みました。
できれば、あまり突っ込まないで下さるとうれしいです。ただでさえ鬱なので。

気を取り直して、すずかとのやり取りなんかもどうでしょう。
できる限り、士郎の思いや考えなんかを描写してみたつもりです。
フラグに関しては、別にハーレムにする気はないです。全編やりとおしたと仮定して、おそらく(凛を除いて)6人くらいですかね。それでも十分に多いというのは、この際気にしない方向で。
そもそもフラグが立ったとしても、それは決して回収されないのですから、酷い話です。

あと、なのはの夜間外出に関しては、恭也たちは最初のユーノを助けに行った時以来、気づいてはいません。
これは、なのはがユーノに頼んで、外出する際には気づかれないように対策を講じてもらったためです。
なので高町士郎の方は、なのはが家にいるものと思って警戒しているのです。


次回にやっと「魔法」と関わります。
ちょっと詰め込み過ぎな展開になることが予想されるので、ご容赦ください。


最後に感想に寄せていただいた疑問に対する、返信をさせていただきます。

光獅様、感想および疑問点を寄せていただきありがとうございます。

一つ目は多くの方も指摘された、保護者に関する問題です。
それは今回のことで、一応の解決を見たと考えています。月村家がバックについてくれるので、保護者ではありませんが、強力な後ろ盾ができたので、はやてに近い生活環境になりました。資金の方も、月村家の雇われ管理人となり、給金も出るので何とかなるでしょう。日常生活を送る分には、これで問題はだいぶ解消されたことにしています。あっ、それとA‘sに入って少しすると、便宜上の保護者ができます。

二つ目の魔術の威力や効果の変動についてです。
多少なり変化はあるのですが、今までは外部に魔術師がいる可能性も考えて、最低限の出力での魔術行使で済ませていました。そのため、もしかしたらそうなのかもしれないとは思いつつも、確信が持てていませんでした。次回あたりで、そのあたりにも触れることになりますので、それまでお待ちください。

三つ目のアリサの精神年齢に関することです。
確かに高過ぎるのではないかと、私も思います。ですが個人的には凛との絡みをさせたかったので、苦しいとは思いつつもこのような形になりました。
厳密には、アリサは頭のいい子ではありますが、天才(IQ200以上)というほどではありません。凛の本性にしても、本能的に察知しただけで、頭を巡らせてのものではありません。設定上似た者同士ですから。
また、凛の方は特別合わせているという意識はありません。よくある設定ですが、体の若返りに影響され、精神の方も引っ張られていて、そのせいもあります。この姿になって日も浅いですし、経験も知識もあるので、スイッチで切り替えるかのように、非日常時には精神的な意味での切り替えができます。士郎も似たような感じです。

四つ目に士郎の魔力についてです。
士郎が単独で固有結界を展開できるのは、万全の状態でも一・二分が限度で、凛が万全の状態でバックアップして、やっと十分に届くくらいです。その意味では魔力量はそれなりなのですが、世界が違えば基準も違うので、士郎のランクが量のみでDの上位なのはその基準が高いせいです。凛でだいたいAAを予定しています。前にも書きましたが、リンカーコアの方が貯蔵量は多いための基準としました。
アーチャーの腕に関しては、一度HFを見直してみました。厳密には食いつぶされるまでに十年の猶予があり、その間に一人前になって腕を御することができれば、何とかなるというものでした。
なにせ士郎とアーチャーの組み合わせだからこそできたことなので、前例は言峰も知らないでしょうから、生き残る手段としての解説のように解釈しています。「これならば生き残れるかもしれないぞ」くらいの感じだと思います。士郎のスペックがそう高くないのは各所で言われていることでもあり、当方の士郎もそれほどスペックは高くないことにしています。


以上で、この場は失礼させていただきます。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.042365074157715