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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第38話「夜天の誓い」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/30 00:12

SIDE-アルフ

とある丘の上。
無茶して戦線離脱したあたしは、士郎の指示でリニスのところに送られた。

そこにはすでに先客がいて、それは闇の書の主である「八神はやて」って子の家族の一人「アイリスフィール」と、フェイト達の友達「すずか」と「アリサ」。
今は、そのすずかとアリサが話をしている。
「なのは達……大丈夫かな?」
「きっと、大丈夫だと思うよ。たぶん、士郎君だけじゃなくて凛ちゃんも一緒だと思うから」
「凛も? まあ、それなら確かに……」
凛のこの子たちへの認識ってどうなってるんだか。完全一般人のアリサをして、一発で納得させるこの説得力。
普段は普通に小学生してるはずなのになぁ。

でも、すずかの方はやっぱり士郎たちの事を知ってるっぽいね。
それに、さっきあの蛇の化け物を倒した時に、なんか見たこともない様な力を使ったらしい。
だとすると、この子ももしかして魔術師なのかね?
「いいえ。すずかさんは魔術師ではありませんよ、アルフ」
「リニス……何か、知ってんのかい?」
「少しだけ凛から聞いています。すずかさんは少し人と違う能力を持っている、という程度ですけど」
つまり、あんまりちゃんとは知らないのか。
知ってるとすれば、本人と士郎たちくらいってことなんだろうね。

「でも、なんかすごい能力をもってるんだろ? だったら、士郎たちを手伝ってもらった方が……」
「それは、やめておいた方がいいでしょう。凛から聞く限り、すずかさんの能力は非常に燃費が悪いそうです。
 さっきもそうだったのでしょう?」
そういえば、あの子は力を使った後ひどく消耗していたらしい。
一度使うだけでもそれだとすると、確かにあんまり使わない方がよさそうだよね。体に悪そうだ。
それに、フェイト達と違って戦闘経験もその手の訓練もほとんど積んでなさそうだし、やっぱり無理か。

それにしても、状況はかなりまずいね。
まさか、あたしが戦線離脱してすぐにフェイトと凛まで……。
一応士郎には何か心当たりがあるみたいだけど、このままってわけにもいかない。
できれば今すぐにでも飛んでいきたいけど、今のあたしでは足手纏いにしかならないのもわかってる。
リニスの手当てを受けたおかげで、少しは痛みが引いた。だけど、やっぱり「少し」でしかないのが現状。
とてもじゃないけど、あの戦闘に入って行って役に立てるとは思えない。
それが、堪らなくもどかしい。

と、そこでアイリスフィールが突然すずかとアリサを優しく抱きしめる。
「ア、アイリさん? どうかしたんですか?」
「私は平気よ。でも、あなたたちはそうじゃないでしょ?」
「「え?」」
「私はあの子たちの事はあまり知らないけど、それでも強いという事は知っているわ。
きっと大丈夫だから、そんなに怯えないで。信じて、待ちましょう」
怯える? って、つまり二人が何かを怖がってるってことかい?
とてもそうは……。

と思ったところで、自分の洞察力の無さに気付く。
よく見れば、二人の体は僅かに……本当に僅かに震えている。
考えてみれば、それは至極当たり前の話。今まで平穏な日常を過ごしてきたはずの二人が、いきなりこんな状況に放り込まれれば平常心ではいられない。
ましてや、そこに親しい友達がいるとなれば尚更。

むしろ、ああやって気丈に振る舞っていた二人の心の強さが稀有なんだ。
逆に言えば、それだけ二人が無理をしていたという事でもある。
それは、震えとなって僅かに垣間見える二人の本心が教えてくれているではないか。

でも、リニスでさえそれには気付けなかった。
なのに、アイリスフィールは極自然にそれに気付き、当たり前の様に二人を抱きしめ励ましている。
家族であり、娘同然という話であるはやての命がかかっているこの状況では、自分だって心穏やかでないはず。
なのに、それでもなおこの人は子どもたちのためにその素振りすら見せない。
泣き腫らした眼だけが、この人の心の内を教えてくれる。

そして、その姿に小さくない感銘を受ける自分がいた。
「ねぇ、リニス」
「なんですか?」
「母親って、こういうもんなのかね?」
「どうなのでしょうね……」
あたしの問いに対するリニスの答えは歯切れが悪い。まあ、無理もないか。
使い魔は生き物を素体にして作られる以上、あたしらにも一応親はいる。
だけど、使い魔になるという事は全く別の存在になるという事を意味し、元となった動物と今の自分を別々の存在と感じるのが通例だ。もちろん、あたしやリニスもその例に漏れない。
一応記憶は引き継いでいるけど、やっぱりどうしてもそれを他人事のように感じてしまう。

まあ、あたしの場合子どもの時に病気になって、そのまま群れを追い出されちまったからね。
親の事なんて引き継いだ記憶にもほとんどないし、尚更なんだけどさ。
その上プレシアはあんなだったから、一般的な母親ってのがどんなのか、あたしにはイマイチわからない。

それでも、アイリスフィールの姿を見て思う事はある。それは……
「でも、あんな人が母であったのなら、それは………………とても幸せなことだと思いますよ」
「うん。あたしも……そう思う」
そう。もしかしたらあれこそが、本来あるべき親の姿ってやつなのかもしれない。
子どもの一挙手一投足を気にかけ、些細な変化にも気付き、子どものためにならどんなことでも出来てしまう。
それが例え自分の子で無くても、あるいはそこまで親しい人間が相手でなくても、そんな事とは無関係に。
なんか、あの人を見てると腕っ節や魔法の強さなんて、たいしたこと無いように思えてくるから不思議だ。

なんでも、「母は強し」って言葉があるらしいけど、それはたぶんホントだね。
母親ってのは、力じゃなくて心が強い生き物なんだ。たぶん、どんな生き物よりも。
なんか、アレを見てるとここでこうしてるのが恥ずかしくなってくる。
あたしは、体が動かないってだけで何を諦めているんだか。
こんなあたしでも、もしかしたら何かできる事があるかもしれない。
だいたい、何ができて何ができないのか、そんなの行ってみないとわからないじゃんか。

いや、こうしてウダウダ考える事こそあたしらしくないな。
行きたいから行く、それでいいのかもしれないね。
「リニス」
「行くんですね?」
「うん」
さすが、あたしの事をよくわかってる。
でも、むしろこの展開を待ってた気がするのは気のせい?

「そうですか。では、こちらは任せなさい。あなたは何も心配せず、ただまっすぐ進みなさい。
 それと、あまり無理をしてはだめですよ」
ははは、そうしてるとホント母親みたいだよ。
まあ、育ててもらったのは本当だし、あながち間違ってもいないんだろうけど。

それなら、あまり心配させないようにしないとね。
「わかってるって、リニスは心配し過ぎだよ」
「当たり前です。私にとっては、あなたもフェイトもまだまだ手のかかる子どもみたいなものなんですから」
親にとっては、子どもはいつまでたっても子どもってやつかね。

「んじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
「はいはい」
「ハイは一回」
「はい」
そんな小言を背に受けながら、あたしは痛む体に鞭打って士郎たちの元へ向かう。
その小言に僅かなわずらわしさを感じる半面、何処か嬉しく思うのだから困ったもんだ。

さぁて、善は急げだ。急いで向こうに向かうとしよう。
せっかく無理して行ったのに間にあいませんでした、じゃあまりにも格好がつかない。
っていうか、そもそもご主人様のピンチなのに、使い魔がこんなところで油売ってるわけにいかないんだよね。
リニスみたく、ある時から役目を仰せつかってるわけでもないんだからさ。
ここは一つ、使い魔の面目躍如といこうじゃないか。



第38話「夜天の誓い」



Interlude

SIDE-はやて

わたしの隣に立った赤い人影、それは「凛ちゃん」やった。
「まったく、アンタがなかなか起きないから私まで出て来れなかったじゃない。
 今の私はアンタが起きてないと何もできないんだから、もっと早く起きなさいよね」
で、会って早々にお説教されてもうた。
あのぉ、せめてなんでお説教されるのかその理由くらい知りたいんやけど。
それと、頭をペチペチ叩くのはやめて~~……なんか、色々残念な人みたいやん。

そう言おうとしたんやけど、その前に目の前の女の人が口を開いてもうた。
「なぜ、お前がここにいる! お前は今、私の中で夢を見ているはずだ!」
「? ああ、そういうことか! もしかしてアンタ、私のこと本物だと思ってる?」
驚きを露わに問い質す女性。せやけど、当の凛ちゃんは初め言っている意味が分からなかったのか首をかしげ、それから手を打って納得の意を示す。

「えっと、これまでの口ぶりだとアンタが闇の書ってことでいいのよね。
しっかし、その話が本当なら私の本体はアンタに捕まったってことか。
我ながら、相変らず妙なところでうっかりしてるわねぇ。詳しいこと知らないけど」
などと、呆れるように溜息をつく凛ちゃん。

「本体? 凛ちゃん、それやとここにいる凛ちゃんが偽物って言っとる様に聞こえるんやけど」
「え? ああ、そうか。いきなりそんなこと言われてもわからないわよね。
 はじめに言っておくと、ここにいる私は本物じゃない。だから、偽物って言うのは一応当たり。
なんて言うか、残留思念とか精神的分身とかそういう感じの存在よ」
え、えっと………なんやいきなりわけわからへんのやけど。

そこへ、目の前の女の人。凛ちゃんの言葉を信じるなら、この人が闇の書ってことになる。
本人がそう名乗ったわけやないけど、わたしはそれを当たり前のように受け入れていた。
そういえば、「主」って言っとったしな。
「どうやってここに侵入した。ここは、私と主以外誰にも入れないはず」
「それは簡単。今の私ははやての一部。なら、ここにいても不思議じゃないでしょ?
 つまり、侵入したんじゃなくて初めからいたの」
「一部? それ、どういうことなん?」
「私は昨日のうちに、はやてに自分の魔力を込めた宝石を飲み込ませた。宝石は体内に入ると同時に溶解し、そのままはやてに吸収されたのよ。それは、闇の書が完成した時に外部からはやてに干渉しやすくするためだったんだけど、実を言うとそれだけじゃない。
 宝石は想念を貯めやすい『場』、流れを留める牢獄よ。あの宝石には、魔力の他に私の一部も封じておいたの。で、それも魔力と一緒にはやてに吸収された。それがここにいる私よ。
 だから、この私は文字通り『はやての一部』ってわけ」
よくわからへんけど、わたしなんや凄いことされとったらしい。
その場合、わたしは凛ちゃんを体の中に入れ取るわけやから、二重人格とかになるんかな。

「えっと、じゃあ私と凛ちゃんはこれからもずっと一緒ってことなん?」
「ああ、心配しなくていいわよ。この程度の存在濃度じゃ、保って二日か三日。
 そうすれば自然消滅するし、こうして顕在化すれば一気にそれも早まるわ」
「つまり、すぐに消えるってこと?」
「はい、正解♪」
まるで、できのいい生徒に対する先生の様に、凛ちゃんは上機嫌に褒めてくれる。

「それで、お前は私に何をするつもりだ」
「別に何もしないわよ。っていうか出来ないし。言ってみれば、私は魔力って言う電池で動く本体の影。
 その電池にしたって、こうして今の状態を維持するので精一杯だから、何かする余裕なんてないわ。
 それに下手に何かしたら、転生機能が動いちゃうじゃない」
「え? じゃあ何しに来たん?」
「えっと………………………応援? 『ふれー、ふれー、は・や・て~』みたいな感じに?」
なんで疑問形なん? ちゅうか、場の空気をぶち壊しにしそうなその気の抜けた応援やめて。
なんやこう、肩から力が抜けて車椅子からずり落ちそうや。

しかし、そこで凛ちゃんはさっきまでと打って変わって真剣な顔つきになる。
アカン、ペースの変化に置いてきぼりくらいそう。
「私はね、ただあなたの背中を押しに来ただけよ。
いくら一部になっているとはいえ、本来主じゃない私にできることなんてそのくらい。
それに、これはアンタ達家族の問題なんだから、外野が余計な手出しをするなんて野暮なだけでしょ?」
手出しはせえへんけど、代わりに口出しはするってこと? 屁理屈っぽいなぁ。
でも、家族の問題っちゅうのはその通りなんやと思う。
この子は、ずっと魔導書としての姿やったけど、いつも一緒にいた掛け替えのない家族や。
シグナム達と何も変わらへん。せやったら、わたしが何とかせなアカンよね。
まだ、何が問題かすら知らへんけど。

「……っと、無駄話はここまで。他に聞きたい事があるんなら、私の本体に聞いてよね。
 私がこうしてアンタと話していられる時間は、もうそんなにないんだから」
正直、もっと聞きたい事とかはあるんやけど、凛ちゃんの真剣な表情に口を噤んでまう。
この凛ちゃんには時間がなくて、何かしなければならないことがあるらしい。
それやったら、まずそれをしてからヤないとアカン。もし間に合わなかったら、この凛ちゃんが可哀想や。

そうして、凛ちゃんは本題に入る。
「と言っても、用件は簡単よ。闇の書も一緒なら話が早いわ。
 単刀直入に言うと、はやて………アンタ今すぐ闇の書の管理者権限を使ってこいつ止めなさい」
「あのぅ、状況くらい説明して欲しいんやけど」
「詳しいことなんて私も知らないわよ。さっきも言ったけど、私がアンタに取り込まれたのは昨夜のはず。
 闇の書の完成に合わせて、その前日に吸収させる予定だったから」
つまり、それ以降の事は知らへんってことか。
たしかに、それやったら聞いてもわからへんよね。

「とはいえ、それでもわかってることがあるわ。簡単に言うとね、アンタこのままだと死ぬわよ」
「ええ!? なんでそんなことになっとるん!?」
「闇の書が完成して、もう間もなく暴走を開始するわ。
そうなったらもう助からない。その上、外もエライことになるでしょうね。
 方法は一つ、闇の書の管理者権限を握って、暴走を止める。これだけよ、ね?」
そう言いながら、凛ちゃんは闇の書に向けてウインクする。
それを向けられた闇の書は俯き、肩を震わせていた。

わたしの事はともかく、人様に迷惑をかけるなんて絶対にアカン。
「それ、本当なん?」
「…………………」
答えはない。せやけど、その無言が何よりも雄弁に事実を物語っている。
それに暴走って言葉を考えれば、それが起こったらどうなるかある程度は想像もつく。
一つ言えるのは、きっと沢山の人にご迷惑をおかけすることになるっちゅうこと。

それはアカン。わたしのせいでそんなことになるなんて、絶対にアカン。
それを止めるには、きっとこの子の力が必要や。そう直感した。
「お願い。力を貸して」
「……………………………………無理です。私には止められません。
 自分ではどうにもならない力の暴走。あなたを侵食することも、暴走してあなたを喰らいつくしてしまう事も、なに一つ止められない」
そう告白する闇の書の声には、深い悲しみと悔しさが滲んどった。
きっと、この子も本当は止めたいんや。せやけど、それができずに苦しんでる。

「お眠りください、我が主。そうすれば、夢の中であなたはずっと優しい世界にいられます。
 誰もあなたを傷つけない。何もあなたを苦しめない。健康な体、愛する者達とのずっと続いていく暮らし。
 そこには、その全てがあります。私があなたにして差上げられるのは、それだけなのです。
 せめて、終わりの時が来るまで幸せな夢を見てください」
「……………ううん。もう夢は十分に見たよ。それに、やっぱりそれはただの夢や。
 凛ちゃんも言うとったやろ、『夢は醒めるもの』やて」
優しく、心からの慈しみを込めてそう伝える。
この子は何も悪ない。今の言葉にしても、自分に出来る精一杯の心配りや。

せやけど、だからといってずっとそこにいればええとも思わへん。
所詮は夢、現実やない。どこまで現実に近付けても、それは形も結果も無いただの空想や。
それに凛ちゃんも言うとった。いつも同じ夢じゃ飽きるって。
わたしも、その通りやと思う。現実は何が起こるかわからへん。せやから、楽しいんや。
わたしはそれを、アイリやウチの子たち、そしてみんなに教わった。
夢はすべて頭の中の事。そこに驚きはない。それじゃあ、いつかきっと飽きてまう。

なにより、わたしはみんなと一緒に生きたい。ここで終わりなんてまっぴら御免や。
せっかく幸せの意味を知れた。やっと、一緒にいてくれる家族を得た。
それやのに、たった半年でそれを手放す事になるなんて嫌や。
わたしは絶対に現実に帰る。みんなと一緒に、あの家に帰らなアカン。
きっと今も、アイリがわたし達を待っててくれてるはずやから。

「わたし、こんなん望んでない。あなたも同じやろ。違うか?」
「……私の心は、騎士たちと深くリンクしています。だから騎士たちと同じように、私もあなたやアイリスフィールを愛おしく思います。だからこそ、あなたを殺してしまう自分自身が許せない。アイリスフィールからあなたを奪ってしまう自分が憎くて堪らない」
その言葉一つ一つに、この子の行き場のない感情がこもっとる。
この子は、どれだけ一人で泣いてきたんやろ。どれだけ独りで苦しんできたんやろ。

そうまるで、この子はわたしの生き写しのようや。幸せを知った今ならわかる。
わたしは長いこと見て見ぬふりをしてきたけど、ずっとこの子の様に泣いて苦しんできたんや。
この子に比べれば、わたしなんてずっと軽いやろうけど、それでも………
「望むように生きられへん悲しさ、わたしにも少しはわかる。
 シグナム達と同じや。ずっと哀しい思い、寂しい思いをしてきた……」
「だったら、これからその分きっちり幸せにならなきゃね」
「え? 凛ちゃん?」
「私はね、きっちりした形が好きなのよ。頑張ってきた奴、努力してきた奴、苦しんできた奴、そいつらはその分だけ報われなくちゃ嘘だと思う。士郎も、はやても、守護騎士たちも、そして…………アンタもね」
そう言って、凛ちゃんはこの子に目を向ける。
そうや、この子も例外やない。ちゃんと、今までの分を取り返してオーバーするくらい幸せにならなアカン。
それ以外の結末なんて、わたしが認めへん。神様が許しても、わたしが許さへん。

「なにより、アンタは一つ大切なことを忘れてる。
 アンタは魔導書。で、はやてはそのマスター。なら、ウダウダ言ってないで、大人しくマスターに従いなさい。
 主人の意思と無関係に動く道具なんて道具とは呼ばない。アンタに道具としての誇りがあるのなら、主の意思に、願いに応えるのが当然でしょうが」
力強く、迷いなく紡がれる言葉は、どこまでも澄み切って心に響く。
そうや、今はわたしがこの子のマスターや。それなら、しっかり面倒見るだけやなくて、ちゃんとリードしてあげな。
でも、道具っちゅうのはちょっと後で訂正しておかなアカン。この子は道具やなくて、わたしの家族や。

凛ちゃんの言葉に励まされて、車椅子から何とか立ち上がろうとする。
そうすると、隣に立っていた凛ちゃんがわたしを支えてくれた。
「凛ちゃんの言う通りや。あなたのマスターは今はわたし。
 マスターの言うことは、ちゃんと聞かなアカン」
体を支えてもらいながら、手を伸ばしこの子の頬に触れる。
同時に、わたしの足下に三角形の純白の魔法陣があられた。

優しいこの子は、わたしのために膝を折って同じ目線にしてくれる。
そんなこの子の悲しみに満ちた紅い目を見て、なんとかこの悲しみを晴らしてあげたいと思う。
世界は残酷やけど、それだけやない。色々な輝きに溢れる、素敵な場所でもある。
それを知って欲しい。その眼に、いままで見れなかったたくさんのモノを見せてあげたい。

でも、ここは魔導書の中。できることはほとんどない。
じゃあ、わたしが今ここで、この子にしてあげられることはなんやろ。
魔導書のマスターや言うても、所詮わたしはロクに魔法も使えへん子どもにすぎない。
少し考えると、予想外にも簡単に出てきた。こんな無力なわたしにも、贈れるものがある。

そこで、ふっと凛ちゃんと目があった。
凛ちゃんは、まるでわたしの心のうちなんてお見通しと言わんばかりに、優しい笑顔でうなずいていくれる。
それによって勇気を貰い、最後の踏ん切りがついた。
(うん。確かに、背中押してもらったよ、凛ちゃん)
もうわたしには何の迷いもなく、この子の頬に両手を添えるしっかりと目を合わせた。

そして、できる限りゆっくり、優しく言葉を紡ぐ。
この子が今からわたしが告げる言葉、その全てを聞き逃さず、ずっと憶えていられるように。
「……名前をあげる。もう闇の書とか、呪いの魔導書なんて言わせへん。わたしが呼ばせへん!
 わたしは管理者や。こんなわたしでも………ううん、わたしにならそれが出来る!」
話しているうちに、言葉の端々に力と熱がこもっていく。
感情が抑えられへん。自分の中にある想いが、言葉に乗って溢れ出す。
この子を愛おしく想う気持ち、この子に幸せになって欲しいという願い。
湧き出てくる想いは止まる事を知らず、後から後から心を満たし口から溢れ出す。

そんなわたしの想いを受け止めてくれたのか、名前も無いこの子の眼に涙が浮かぶ。
それが、半年前にアイリの胸の中で泣いた自分に重なった。
せやけど、この子の心はまだ頑なで、頬に涙が伝いながらも首をふる。
「無理です。自動防御プログラムが止まりません。
魔導書本体からのコントロールを切り離すだけなら、今でも出来ます。
ですが、自動防御プログラムが走っていると、管理者権限が使えないのです。
管理局の魔導師が戦っていますが、それも……」
「外野から失礼。それ、止めるとしたらどうすればいいの?」
「外部から相当な出力の魔力ダメージを受ければ、一時的に停止する。しかし、それは………」
難しいっちゅうことか。それやったら、こっちから動きを妨害できれば……。

そう思って実行しようとしたところで、凛ちゃんが待ったをかける。
「ふむ、二つ聞きたい事があるんだけどいい?」
「?」
「ああ、先に今私の本体を捕らえている術の情報からお願い」
「……それは、相手を吸収し捕獲空間に閉じ込め、対象に深層意識で望んでいる夢を見せるという幻覚魔法だ。
 今お前の本体は、そこに囚われている」
確かにそれは、居心地のいい場所やろな。
時間が経てばともかく、すぐさま出ようと思える人は少ないかも。

「ふむふむ、なるほどね。よし! だったら、いい方法があるわよ」
「「え?」」
「その前に次の質問。今戦闘に参加してる奴の中に、士郎となのはかフェイトはいる?」
「って、外で戦ってるのって士郎君達なんか!?」
いや、考えてみれば不思議はないかも。士郎君と凛ちゃんは家族なんやから、関係者でもおかしくはない。
でも、なのはちゃんやフェイトちゃんもいる可能性があるってことは、もしかしてすずかちゃんやアリサちゃんもなんかな?

「赤き騎士と白い魔導師ならいる。だが、金髪の魔導師は私の中に……」
「オッケー、それで十分!
はやて、魔力ダメージの方は全部外の連中に任せて、アンタはそのまま管理者権限の使用準備に集中。
使えるようになり次第、すぐさま使えるようにね。アンタは万全の状態で事に当たりなさい」
「そ、それはええけど……。でも、どうやって………?」
「こっちから念話はいける?」
「主の意識がある今なら、思念通話の使用は可能だ」
ああ、つまりこっちから何をしてもらうかを伝えるっちゅうことか。
たしかにそれなら、作戦を伝えられるもんな。

「上等。この私からじゃ無理だから………はやて、向こうに伝えて欲しいことがあるんだけど……」
「ええけど……なに?」
「士郎に『袋を使え』ってのと、なのはに『全力でぶちかませ』でいいわ。
 士郎ならそれで意味が分かるから………ああ、だけど士郎相手に念話するのは不便だからやるならなのはね」
えっと、何で不便なんやろ。士郎君、思念通話苦手なんかな?
それに、わたしからすればなのはちゃんへの指示以外さっぱりや。
でも、ここは凛ちゃんを信じよう。魔法関係に関しては、どうも凛ちゃんの方が先輩っぽいしな。

そうと決まれば、善は急げや。大急ぎで思念通話を外に向けて発する。
『なのはちゃん……なのはちゃん! えっと、聞こえますか? はやて、八神はやてです!』
『え? は、はやてちゃん!?』
『あ、よかった。繋がった。なのはちゃん、わたしの声ちゃんと聞こえてる?』
『う、うん。聞こえてるよ。今、いろいろあって……』
『わかってる。うちの子と戦ってるんやよね』
凛ちゃんやこの子の言うとおり、外にはちゃんとなのはちゃんがいた。
信じてなかったわけやないけど、やっぱり驚きはある。でも、今はそれは後回しや。

『ごめん、なのはちゃん。いきなりで申し訳ないんやけど、その子を止めて欲しいんよ』
『え?』
『魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど、その子が走ってると管理者権限が使えへん。
 今そっちに出てるのは、自動行動の防御プログラムだけやから』
なのはちゃんからの反応は芳しくない。
たぶん、いきなりの状況の変化についていけてないんやと思う。

『それで、凛ちゃんからの伝言や。
士郎君に「袋」ってのを使ってもらって、なのはちゃんは「全力でぶちかませ」って』
『え? ど、どういう事?』
突然の事に、なのはちゃんは混乱しとる。まあ、無理もないと思う。

ついでに、凛ちゃんがあの子から聞いた魔法についても説明した。
『士郎君なら、それで分かるらしいんやけど………』
『と、とりあえず聞いてみるね』
そこで思念通話は切れる。
あとは、士郎君たちがきっとうまくやってくれると信じよう。

だけど、ここで変化に気付く。
「え? 凛ちゃん!?」
「ふむ、どうも時間切れみたいね。ま、ちゃんと間に合ったみたいだし、上出来かな」
凛ちゃんの体がいつの間にか半透明になり、向こう側が透けて見えるようになっていた。
それに時間切れって、もうなんか!? たしかに、こうして表に出てくると消耗が激しいとは聞いとったけど。

「せ、せやったら何とかせな!」
「何とかって何よ? っていうか、してどうするつもり?
 さっきも言ったけど、はじめからこの私は長持ちしないの。
するだけ無駄だし、そんなことするくらいなら自分の仕事に集中しなさい」
自分の事やのに、まるで凛ちゃんはその事に頓着しない。

でも、そのままじゃ消えてまうんやろ?
それでいいはずないやん。わたし、こんなに助けてもらったのに。
「まったく……士郎といいなのはといい、アンタも手がかかるわね。
 気にすることないわよ、はやて。これは泡沫の夢。この私は、弾けて消えるただの泡」
「でも……そうやからって、消えていいわけやない。もっと………」
「じゃあ、こう考えなさい。消えるんじゃなくて、これで私は完全にアンタの一部になる。
 それに、ここを出ればちゃんとそこに私はいる…………はずよね?」
「ああ、どうやらお前の本体も、それに金髪の魔導師も外に出ようとしているようだ」
「そ、なら問題ないわね」
気軽に、本当に気軽に凛ちゃんはそう言う。
泡沫の夢、その言葉に聞き覚えがある。あれはたしか、そう昨日の夜に見た夢。
ああ、アレは夢やなかったんやね。

初めからわかっていたからか、凛ちゃんの言葉には迷いがない。こういうのを「覚悟」って言うんやろか?
「でも、それは死ぬってことやろ? 怖くないんか?」
「別に。アンタ、夢を見ている時、目覚めることに抵抗を感じるの?
 私にとって、ここでこうしていることの方が現実感が希薄なのよ。まさに、夢の中って感じでね」
だから消えることに抵抗はないと、夢の住人が夢と共に消えるだけと、凛ちゃんはそう言う。
その顔があまりに晴れやかで、わたしはそれ以上何も言えへんかった。

「さて、いよいよホントに限界か。それじゃあね、はやて。
 もう手伝えないから、後は自力で…………訂正、その子と一緒に頑張んなさい」
途中まで言っていた言葉を、この子の方を見て言い直す。
凛ちゃんも、この子の事を認めてくれたってことなんかな。

凛ちゃんの体がどんどん薄くなっていく。本当に、もう直ぐこの人は消えてしまう。
引きとめることはできない。でも、伝えたきゃいけないことがある。
「凛ちゃん! ………………ありがとう」
「私からも礼を言う。そして、はじめは失礼した。お前がいなければ…………」
「別に、私がいなくても、はやては自力で何とかしてたかもしれないけどね。
それに、私は外から口出ししてただけの野次馬だし、気にしなくていいわよ」
わたし達に背を向け、凛ちゃんはヒラヒラと手をふる。

その背中に向けて、あの夜の事を必死に思いだしながら言葉を重ねる。
「それでも、わたしは凛ちゃんがいてくれて心強かった!
 ホンマに、魔法で勇気を貰ったみたいに………」
「そっか、なら小細工をした意味もあったかな。そういうことなら、一応お礼は受け取っておくわ」
スタスタと歩いていたのを一端止め、軽くこちらを見て笑いかけてくれる。

たぶん、次が最後の言葉になる。そう直感し、相応しい言葉を探す。
そして、口から出たのは…………
「おやすみなさい、お姉ちゃん」
「ええ。おやすみ、はやて」
そうして、あの夜わたしの「姉」と告げた女の子は世界に溶けるように姿を消した。
最後までその姿は颯爽としていて、いつか自分もああなりたいと素直に思う。

「よい、姉君を持たれましたね、主」
「まあ、その意味とかはまだよくわからへんのやけどな。
 そのへんは、外に出た時に凛ちゃんに直接聞こうと思うわ」
「ええ、それがよろしいかと」
うん。もしかしたら、ホンマに家族が増えるんかもしれへんし、楽しみが増えたわ。
これは、いつまでもここにいるわけにはいかへんね。

さあ、そろそろこの子に名前をあげな。
わたしの意図に気付いたのか、この子は再度わたしの前で膝を折った。
ちょうどいい高さにあるその頬に優しく触れ、心を満たす想いの全てを言葉に乗せる。
「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。
 強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール――――――――――――『リインフォース』」
そこで足元の魔法陣は輝きを増し、暗い世界を白く染めていく。

「気に言ってくれたか?」
「…………はい。私などには勿体ない、美しい名前です。その名と主に恥じぬ様、お仕えいたします」
「全く泣き虫さんやなぁ、リインフォースは………」
ハラハラと涙を流すリインフォースの頭を抱き寄せ、優しく撫でる。
体は大きいのに、どこかわたしよりも子どもっぽい。
これは、これからしっかり面倒見てあげなアカンな。

それと、一つ訂正や。
「仕えるんやない。家族として、一緒に生きるんや。できるか?」
「はい。何時如何なる時も、この身はあなたの家族。あなたを支え、共に生きることを誓います」
「うん。ええ子や」
誓いはなった。これで、晴れてわたし達は主従やなくて家族。
これからずっと、一緒に生きて行こう。

っと、どうやら防御プログラムが止まったみたいや。
ということは、凛ちゃんの言うとおり士郎君達が上手くやってくれたんやろ。
「新名称、リインフォース認識。管理者権限の使用が可能になります」
まあ、これでもまだ防御プログラムの暴走はとまらへん。
管理から切り離された膨大な力は、じきに暴れ出す。

そして、これはわたし達が何とかせなアカンことや。
とはいえ、わたしとリインフォースだけじゃ無理っぽい。
ちゅうことは、そこはウチの子たちや申し訳ないけど士郎君達の力を借りよう。

そこで、夜天の魔導書がわたしの手元に現れ、わたしはそれを優しく抱きしめる。
「いこか、リインフォース」
「はい、我が主」
さあ、しっかりきっちりなんとかしようやないか。

そうして、わたし達は白い光に包まれた。

Interlude out



SIDE-士郎

なのはのエクセリオン・バスターと、クロノのスティンガーブレイドの直撃を受けたかに見えた闇の書。
いや、事実直撃はしていたのだが、あの時は間が悪かった。
なんでも、はやてが管理者権限を握っていない状態ではどれだけのダメージもあまり意味がないらしい。
逆に言えば、はやてさえ管理者権限を握ってしまえば、攻撃する意味が出てくる。

それにしても、どうやら保険はちゃんと動いたようだな。
あるいは、凛が何らかの方法で内側から干渉したのかもしれない。
だが、とりあえずはやての意識は戻った。
管理者権限も握ったようだし、あとはそれを使えるようにしてやるだけ。

そして、そのための方策はもらっている。
「なのは、クロノ! 私が必ず奴の動きを止める。そこを突いてくれ。
 ユーノはバインドであの鬱陶しい触手を頼む」
「待ちな、あたしもやるよ」
「アルフ、体は良いのか?」
「まだ体中痛いけど、それくらいならやれるよ。なんなら、リニスも呼ぶかい?」
「いや、これだけいれば十分だろう。では、いくぞ!!」
それぞれの役割を確認し、各々最後の仕上げに動く。

俺は魔法陣を足場に跳躍を繰り返し、闇の書に向かう。
本体から切り離されたせいか、先ほどまでの動きのキレがない。
これなら、行けるか。

闇の書は動かない。奴の狙いが何なのかまでは分からんが、とにかくアレを使わせないとな。
「はぁっ!!」
直下から斬り上げるように剣を振るうが、それをこれまで以上に機械的な動作で回避する。

なるほど、自動行動の防御プログラムとはこういうことか。
「防御プログラム」であるせいか、自身から動くという能動的な性質は薄いように見える。
あくまで専守防衛、リスクは冒さず徹底して待ちの戦術か。
ああ、ありがたい。その方がこちらとしてもやりやすいからな。

そのまま体を回転させ、莫耶で切り払う。
ほぼ同じタイミング……いや、回転した分僅かに早く、闇の書が魔力の乗った拳で莫耶を持つ右腕に迫る。
ギリギリで軌道を変え何とか回避するが、かわりに莫耶を打たれた衝撃に負けて手放してしまう。

そのまま奴は、先ほど同様に魔力のこもった蹴りを放つ。
それを、左腕の盾で防御するが…………
「くっ、さすがに限界か!」
元よりヒビの入っていた盾は、俺の身を守る代わりに崩れ去る、
残ったのは手甲部とカートリッジシステム、そして核の部分だけ。
デバイスとしてはまだ使えるが、盾としては完全に死んだ。

しかし、フェイカーは最後までよく期待に応えてくれた。
フェイカーだけでなく、作ってくれたリニスにも心からの感謝を。
おかげで、最後の仕込みをする時間が出来た。

宙に浮いた状態のまま、落下が始まる前に莫耶を手離した右腕に干将を持ち変える。
反対に徒手空拳となった左腕で、奴の腕を掴む。
「パージ!」
声を発すると同時に、左上腕から何かが外れる音がした。

俺の体はそのまま重力に引かれるが、すぐさま足元に魔法陣を展開し着地する。
そうして、持ち変えた干将で再度斬りかかった。
奴はそれを迎撃しようと腕を上げようとするが、両腕がまるで手錠にでも繋がれたかのように動きを制限される。

それもそのはず、なにせ今奴の腕は…………
「そういえば、それを見せるのは初めてか。ご覧の通り、私の左腕は義手だ」
多関節構造の義手は、まるで蛇のように奴の両腕に巻き付き拘束している。
虚をつかれた事による一瞬の動き出しの遅れ、それが致命的なまでの隙となった。

だが、相手は魔導書。
腕を拘束され、反応の遅れから足が間に合わずとも、それ以上に上手く使えるものがある。
それは魔法。瞬時に防御魔法を展開する。

だが、そんな急造品では宝具は防げない。
「おおっ!!」
奴の防御魔法を干将で叩き斬り、触れ合うほどに接近する。
あともう一度剣を振るえば、この刃は奴に届くだろう。

だが刃を再度振る直前、闇の書が黒い光を放つ。
ここまでギリギリの状態ともなれば、より自身が頼りとするモノを使うだろう。
そして、奴はやたらと人を眠らせるのが好きらしい。

ならば…………
「ああ、きっとそうすると信じていたぞ!!」
見覚えのあるその発光は、凛とフェイトを捕らえた時のモノと同じ。
奴は俺を、二人同様に飲み込もうと言うのだ。

しかし、甘い。事ここに至るまでの一連の攻防は、全て予定通り。
待ち一辺倒の戦術のおかげで、好きなように事を運べた。
ついさっきまでであればこうも上手くはいかなかっただろうが、はやてが動き出したおかげだ。

俺の手には既に干将はない。
シールドを斬った時点で見えないように干将を捨て、体を影に懐からある物を取り出していた。
それは、さきほどなのはから伝えられた凛の指示した品。必要な魔力はあらかじめ注ぎ終えている。
はやてが目覚めたことで、「破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)」分の魔力を別の所に割けるようになった。

故に使える、二度目の宝具の真名開放。この手にある伝説の名は…………
「今度は、お前が眠れ―――――――――――――――――『世界を裏返す袋(キビシス)!!!』」
ギリシャの英雄ペルセウスが使用した、メドゥーサの首を収めるための袋。内を外に返す結界返しの宝具。
それは真名を呼ぶと共に瞬時に膨らみ、裏返しとなって俺を包んだ。

反転する世界の概念。袋の内側が外側となり、外側が内側になる。
この時、内側であるのは袋の中ではなく“外側”となっていた。
あの術は一種の結界であり、敵を自身の内に閉じ込める術。
外側のモノを取り込む捕獲空間だと言うのなら、この手にあるのは内側のモノを外側に裏返す女神の袋。
ならば、内と外が入れ替われば、必然その牢獄は袋の外側にいる闇の書自身に返る鏡となる。

闇の書の動きが止まった。自分を自分の内に閉じ込めるとすれば、なにが閉じ込められるか。
それは一つ、その中身。自らの術中に嵌まり、奴の中身は今その捕獲空間の中にある。
「いまだ、やれ!! 長くは保たんぞ!!!」
袋の外に出て、自由落下しながらなのはに向けてそう叫ぶ。
既にキビシスの袋は崩壊を始めている。このままだと、あと五秒保つかどうか。

元より剣の属性からはかけ離れている。
相性としては、最悪の部類といっていい宝具だ。
事実、今も遥けき古の理念で思考が灼けている。また、どうしても投影の構成が甘い。
そのせいで、真名開放をしたそばから崩壊がはじまり、効果も長持ちしない。
おそらく、あと数秒で奴は自身の捕獲空間から脱出するだろう。
その上、俺はこれでほぼ魔力切れ。これ以上、奴を捕らえておく術は俺にはない。

だが、それこそ一瞬でも効果があれば十分。その隙に、思い切りたたき込む準備は整っている。
「レイジングハート!!」
《A.C.S. stand by》
なのはの足元で、桜色の魔法陣が一際強い輝きを放つ。
同時に、先ほどと同じくレイジングハートから六枚の光の翼が大きく広がる。

「アクセルチャージャー起動。ストライクフレーム!」
《Open》
そうして、レイジングハートの先端から一本の魔力刃があらわれた。
その様は、いよいよ槍そのものだ。

なおも魔法陣は輝きを増し、そこに込められる力は天井知らずに上がっていく。
「エクセリオン・バスター、A.C.S.――――――――――――――――――ドライブ!!」
翼が羽ばたき、なのはがレイジングハートを手に闇の書に向けて吶喊する。
一気に加速したなのはは、そのはまま勢いを殺さずに突き進む。

そこで時間が来たのか、闇の書が動き始める。
しかし、すでに遅い。いかなる防御魔法であろうと、急造ではなのはのあの突進を防ぎ切れるものではない。
「いっっっっっっけぇぇぇぇ―――――――――――!!!」
張られたバリアは一瞬火花を散らし穂先を防ぐも、まるで紙の様に容易く貫かれた。
なのははそのまま進み、闇の書に槍の穂先を突き立てる。
刺さっているようにも見えるが、そこは非殺傷設定。
刺さっていても、肉体的なダメージは皆無。あるのはただ、魔力ダメージのみ。

そこで、レイジングハートが四発のカートリッジをロードする。
翼が一際大きく羽ばたき、その桜色の輝きを増していく。
そこで槍の穂先に魔力球が生じ、それが大きくなるにつれ闇の書の体が押される。
その結果、一度は突き刺さった穂先が、再度その姿を晒す。

だが、敵もすでに肉体の自由を取り戻している。それは何も、キビシスからの解放だけではない。
両腕を拘束していた義手を引き剥がし、自由になった両腕に魔力を蓄えていく。
魔法陣を展開して着地していた俺は、奴が無造作に捨てた義手を回収しつつなのはを見守る。
既に俺の役目は終わった。ここから先は、なのは“たち”の役目だ。

闇の書はなんとかなのはを突き放そうと、両腕に溜めた魔力で砲撃を放とうと構える。
おそらく、威力こそ低いが出の早い砲撃でなのはが撃つ前に吹き飛ばそうという考えだろう。

しかし、すでに遅い。俺となのはだけならば、その狙いは成功したかもしれない。
だが、こちらにはまだ三人の仲間がいる。
「ユーノ君、クロノ君、アルフさん…………お願い!」
「「「うん(ああ)!」」」
なのはの声とほぼ同時に、いつの間にか闇の書の真上を取っていた三人が、同時にバインドを放つ。
三色バインドはそれぞれ闇の書を拘束し、砲撃を阻む。

そして………
「ブレイク………シュ――――――――――ト!!!」
完全ゼロ距離からの、なのはの遠慮なしの砲撃。
それが、これ以上ない位に完璧な形で叩き込まれた。
それが直撃、はやての要望に不足なく答えたはずだ。

桜色の光が爆ぜ、なのはの姿が隠れる。
同時に、その光から二条の別の光が伸びた。
それは赤と金。囚われていた凛とフェイトの魔力光だ。

アルフはその光を眼で追い、その先にあるモノを見て声を漏らす。
「あ………………フェイト!!」
そこにいたのは、ザンバーフォームにしたバルディッシュを携えたフェイトだった。
中で何があったか知らないが、フェイトも頑張っていたのだろう。

だが、既に俺はそちらの方を見ていない。俺が見ているのは、もう一つの光の先。
回収した義手を嵌め直しつつ、十年来の相棒に向けて言葉をかける。
「まったく、君の寝坊にも困ったものだ。
とりあえず、作戦目標はクリアしてしまったぞ。見せ場を逃したな、凛」
「…………………」
はやてを起こしたのが本人なのか保険なのか鎌をかける意味もあって、あえて挑発的に声をかけてみる。
だが、反応がない。凛はただジッと俺の方を見て、穏やかな笑みを浮かべたままだ。
闇の書の捕獲空間の中で何かあったのかだろうか?

すると、凛はゆっくりとこちらに降りてきて身を寄せる。
「どうした?」
「ん? ちょっとね、懐かしい顔に会えてさ。
 それでいろいろ思うところがあったのと……………………生意気な口をきいた罰」
最後の単語に反応し、すぐさま身を離そうとする。
こいつのする罰だ。どうせロクなもんじゃない。

すでに腕はがっちりホールドされ、逃げたくても逃げられない。
諦めて大人しく罰を受けようと目を閉じると、予想外の感触が伝わってくる。
「……ん」
それは口付け。半年前の様に舌まで入れると言ったものではなく、この前の様に触れるだけの優しいキス。
中で何があったか知らないが、その眼からは一滴の涙が流れていた。
きっと、なにか大切な事があったのだろう。

周りを見ると、どうやらみんなフェイトとの再会を喜んでこちらには気づいていないらしい。
あるいは、こちらに気でも使っているのだろうか。
まあ、どっちでもいいさ。見られていないことには変わらない。
そのことに少し安堵しつつ、凛の体を軽く抱き寄せた。
凛もそれに抵抗はしない。少しの間、そうして凛の体温を感じる。
無事でよかった、心の底からそう思う。
凛が消えた時、目の前が真っ暗になり足元が崩れたような錯覚を覚えたから。

いつまでもそうしていては、さすがにフェイト達に見られてしまうので少ししてお互い僅かに離れる。
そこで地震でも起きたかのように、海と陸が鳴動を始めた。
『みんな気を付けて! 闇の書の反応、まだ消えてないよ!!』
通信はエイミィさんからのもの。

なるほど、本番はこれからということか。
まったく、どこまでも楽はさせてくれないらしい。
俺自身はほぼ魔力切れ。おおよそ、九割以上の魔力を使いきっている。
出来て数度の投影か、あとは強化くらいなモノ。とてもではないが、もう真名開放は無理だ。

だが、凛からの魔力供給があればまだ戦える。
さあ、最後の締めといこう。






あとがき

なんて言うか、前話で言った通りInterludeが長いですねぇ。
今話のおよそ半分はそれで占められています。というか、半分以上だったりします。
もうInterlude(幕あい)じゃありませんよね。
まあ、前話と元は一つだったので、合体させればちょうどいいくらいの比率になるはずなんですけど。
それにほら、タイトルがタイトルなんであっちの比重が重くなるのは仕方ありませんよ……ね?

それと、次回は最終決戦という名のフルボッコ……ではなく、凛が闇の書の中でどう過ごしていたかに触れます。
早い話、涙の意味とかそういう点ですね。
今回までが表の話なら、次は裏の話ってことになりますか。

ちなみに、士郎がキビシスを使ってましたが、十話あたりで持ってて使えるって言ってるんですよ。
長かった。あの時にちょこっと出しておいた物を、やっと回収できました。
闇の書のあの能力を見た時から、ずっと考えていた展開です。
なんか、あれってブレーカー・ゴルゴーンに似てません?
少なくとも私はそう思い、こういう形でやってみました。

それにしても、凛が目立つなぁ。
そして士郎は、ずっと子どもたちを助けてばっかりな気がします。
まあ、その方がらしいって言えばらしいんですがね。


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