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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第37話「似て非なる者」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/26 01:01

SIDE-ロッテ

戦闘区域上空で、万が一に備えて私たちはデュランダルの準備中。
眼下では、凛をはじめとした子どもたちが、闇の書相手に熾烈な戦いを繰り広げている。

しかし、アレだけの面子が揃ってもなお、覚醒した闇の書に手古摺らざるをえない。
それは仕方ない。はじめからわかっていたことだし、計画なんてのはいつだって順調には進まないもの。
でも……………中でもこれは最悪だ。
「これは、さすがに不味いかもだね」
「ああ、肝心の凛がこれじゃ………」
この計画の最大の要は凛だ。他の面子は、それこそいくらでも代用がきくけど、凛と士郎だけはそうはいかない。
そして、凛がいなければ八神はやてに闇の書の管理者権限を握らせることも不可能。
あの子が八神はやてを起こし、管理者権限を掌握させるバックアップをするのが計画。

その凛を闇の書の中に取り込まれてしまった以上、最善策はもう使えない。
となれば、次善の策。八神はやてと闇の書の繋がりを断つ。
これに関しては、凛から士郎が接敵できれば可能だと聞いている。
凛は取り込まれてしまったけど、士郎はいまだ健在。
なら、ここはアイツに任せるしかないか。それなら、少なくとも八神はやてだけは救える可能性が残る。
そして、こうなった以上いよいよ私らの出番が近い。

しかし、そう思っていた矢先にエイミィから通信が入る。
『リーゼ、聞こえる?』
「ああ。で、どうするんだい? やっぱり、予定通りこのまま第二次ラインに移るんだろ?」
『いや、それが………』
エイミィの歯切れは悪い。言いにくそうにしている……というよりも、困惑しているという方が正しいかな。

そうして聞かされたのは、予想だにしない事だった。
『それが………士郎君はこのまましばらく様子を見るって』
「はぁっ!? 何バカなこと言ってんだよ! 凛がやられた以上………」
『そ、そうなんだけど……士郎君が言うには、もう凛ちゃんの仕込みは動いているはずだから、ギリギリまで待つって。
それに、第二次ラインの作戦は触れられる距離まで近づけば一瞬でケリがつくから、暴走開始ギリギリでも問題はないらしいの』
ちぃ、アイツらの秘密主義にも困ったもんだ。
計画の内容は知ってたけど、実のところその詳しい方法まではほとんど知らされていない。
凛の仕込みが一度動き出せばそのまま勝手にやってくれるなんて聞いてないし、士郎のそれが具体的にどういうモノなのかまでは全然話してないからね、アイツら。

凛の奴は、ただ「そういう事が出来る」としか言わなかった。
さすがに、仕込みが動き出したらすぐさま効果が出るとまでは思ってなかったけどさ。
アイツらがそういう奴らだっていうのは知ってたけど、もう少しこっちを信用しろよな。

(………って無理か。自分たちがやってきた事とか考えると、文句を言いづらいんだよね)
弱みを握られてるのはこっちで、従わないなら計画前にクロノ達にバラして邪魔させるぞ、とか言って脅すし。
アイツの言うとおり、別に私たちは絶対いなきゃならない存在ってわけでもないんだけどさ。
凛の奴、絶対ロクな死に方しないね。

「じゃあ、このまま適当に距離を取って様子見に徹するって事?」
『えっと、それが一番なんだろうけど……無理っぽいかな。
 闇の書はまだなのはちゃんを狙ってるみたいだし、もう仕込みが動いているとはいえ、凛ちゃんやフェイトちゃんをあのままってわけにも…………』
なんでも、二人のバイタルはまだ健在で闇の書の内部空間に閉じ込められただけで、命に別条はないらしい。
まだ救出手段は検討中だけど、だからと言って放置ってわけにもいかない。
それに、私らのせいではあるけどまだ闇の書はなのはを攻撃中。
となれば、様子見に徹したくてもそれもできないか。

『それと士郎君が………』
「言っとくけど、私らは手が離せないよ。
極大凍結の準備は整ってるけど、あんなのと戦いながらそれを維持するなんて無理。
出来るとしたら、ちょっとした小技だね」
『いや、それでいいみたい。ほら、火柱が立ってるのって市街地でしょ?
 あれで火災も起きてるみたいだから、それの鎮火とか頼むって。
 ボウッと突っ立ってるんじゃなくて、少しは働けってさ』
いや、まあ準備が整っちゃってからは、確かに何もしてないようなモノだけど。
それは単に「しない」んじゃなくて、「できない」んだってわかってるだろうに……。
あのガキ、まさかアバラへし折った時の事恨んでるんじゃないだろうね。
…………………………………………………恨んでるかな?

とはいえ、確かに今できることと言ったらそれくらいか。
「………ふぅ、オッケー。こっちは任せな。ただし、これ以上市街地ぶっ壊されて仕事を増やされても迷惑だから、やるならもっと海の方でやって欲しいんだけど?」
『ああ、それはもうクロノ君と艦長の方から指示が出てて、そっちに闇の書を誘導中』
「了解。ついでに士郎の奴に、デカイ口叩いたんだからしっかりやれクソガキって伝えて」
せめて、これくらいは言っても罰は当たらないだろう。
ま、仮に当たるとしてもそんなもの糞喰らえだけどけどね。

『あ、あははは。リーゼ、士郎君のこと嫌い?』
「いや、別に。こういうやり取りも、それはそれで楽しいしよ」
「私も嫌いじゃないね。むしろ、やることをきっちりやる奴は好きだよ。ただ………」
『ただ?』
「「アイツに命令されるのは、なんかムカつく」」
嘘偽りのない正直な感想は、アリアと見事にハモった。さすが双子、息がピッタシだ。
っていうか、私らの方が年上なんだから、もう少し敬えっての。

ま、やることやって、きっちり八神はやてを救ってくれるのなら、その位我慢するのなんて安いモノだけどさ。
それこそ、なんならこの先ずっと下っ端扱いだって構わない。
だから、頼むよ。ちゃんと………………あの子を助けておくれ。



第37話「似て非なる者」



SIDE-士郎

凛とフェイトが闇の書に取り込まれたあと、俺たちはこの場で戦い続けるのは不味いと言うクロノの指示で、海岸か海上に戦場を移すべく、闇の書を誘導しながら移動している。
なんというか、戦いながらアレを誘導するのは酷く厄介だ。
離れ過ぎれば広域攻撃が来るし、近すぎればまた取り込まれてしまうかもしれない。
適度な距離を保ち、徐々に海へと近づいていく。

クロノ達は、はじめ凛が囚われたことで次善の策に移行しようとしていた。
本意ではないだろうが、そう判断せざるを得なかったのも無理はないだろう。
なのはなどはそれに反対し、なんとか二人を救出してもう一度やろうと主張した。
あるいは、それが無理でもなんとか闇の書に止まって貰ってはやてを起こそう、と。

俺は俺で、まさかこんなことになるとは思っていなかっただけに、当初は先走りそうになる自分を抑えるのに苦労した。しかし、凛は確かに安否不明だが、それは同時に致命的な事態に陥ったとも限らない事を意味する。
むしろ、ここで闇の書に致命的なダメージを与えれば、それこそ凛やフェイトを救えなくなるかもしれない。
それが歯止めとなり、なんとか自制心が働いてくれた。

そして、後にエイミィさんからもたらされた情報は、二人が一応無事であることを示すもの。
とはいえ、それでも不安や焦燥を覚えないわけではないが、希望があるのも事実。
ここで我武者羅に挑みかかっても、事態は好転しない以上軽率な行動はできない。

そうして葛藤しているうちにも議論が紛糾しそうになるが、そこで幾分冷静さを取り戻した俺が止めた。
皆は知らないことだろうが、凛が昨晩はやてに呑ませたのは、凛の宝石とそれを溶け込ませた水。
それらの宝石には、あらかじめ凛の魔力だけでなく、いくつかの魔術も付加してあった。
仕込みを発動させた後も凛がバックアップをするのが理想的だが、何らかのトラブルで出来なくなる可能性は無視できない。そこで、その時のためにいくつかの保険が掛けてある。
それらは、凛が魔力を流し込んだと同時に起動したはずだから。

今の凛の状態は正確には不明だが、念話やラインの繋がりは閉ざされている。
中に取り込まれた状態でもバックアップはできるかもしれないが、中の様子が分からない以上何とも言えない。
となると、今の頼みの綱はその保険。
あれが上手く動いてくれれば、はやて諸共凛とフェイトも助けられるかもしれない。

タイムリミットは、闇の書の暴走が始まる直前まで。
「破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)」は即効性だ。
刃を突き立て、真名を解放すればすぐさま効果を現わす。
だから、そこまでは待てる。それまでに、何とかはやてに管理者権限を握らせて欲しい。

そのためにも、やはり凛とフェイトの救出が急務だ。
保険が動いてくれているはずとはいえ、凛が直接やってくれた方が可能性は増す。
ならばどうやって二人を助けるかだけど、さしあたってできそうなのは魔力ダメージによるショック。
というか、それ以外に特に当てがないだけなんだが。

そうして、場面は海岸線へと移る。
「さて、これで市街地の被害拡大はないだろうが……………どうしたものか」
そう呟き、俺は海上へと目を向ける。
そこでは、なのはとクロノが闇の書相手に大立ち回りを演じていた。
ユーノも、バインドや防御魔法で二人を支援する。

引き換え、俺に出来る事と言えば砂浜から矢を射て、闇の書の邪魔をするくらい。
つまり、相変らず俺はこの戦いにほとんど絡めていないという事だ。
戦闘参加者全員が空戦タイプの中、俺一人だけが飛行能力を持たない。
そんな俺に対し、闇の書がわざわざ間合いを詰めてくるはずもなく、俺の攻撃はほとんどが弓による狙撃に限定される。あるいは、時折例の触手があらわれるので偶に双剣でそれらを斬り伏せるくらいだ。

狙撃による攻撃が無意味とまでは言わないが、やはり効果は薄い。
宝具級の矢ならいざ知らず、あの膨大な魔力にあかせた防御が相手だと、通常の矢を強化した程度では弱いのだ。
その上、なかなか矢が中るイメージを見いだせないのだから、本当にたまったものではない。
市街地ではそこまで動き回りはしなかったが、今は違う。自由に動き回れる分、その機動が読み切れない。
中るイメージさえ見えれば当たるとはいえ、そもそも見えなければ意味がないのだ。
さっきからずっと外れるイメージばかりで、射る機会が巡ってこない。

「宝具を使えば起死回生の一手にもなるが、『破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)』のために一回分は残さねばならん。
 となると、残るは一回分。問題は…………使い所か」
やはり、ネックは魔力量だな。俺単独だと、どうしても慎重にならざるをえない。
凛からの魔力供給があれば多少の乱発は問題ないが、今はそれがない以上その一回が戦況を左右する。
「破戒すべき全ての符(ルール・ブレイカー)」など、使わないに越したことはないんだがな。

だが、俺以外にとっては地形が変わったことはプラスに働いている。
凛とフェイトが取り込まれ、アルフも脱落して事実上戦力は半減状態。
それでも何とか拮抗していられるのは、地形が変わったのが大きいか。
遮蔽物がなくなり空間を広く使えるようになった分、三人の動きが良くなった。

このままでもしばらく保つだろうが、暴走まで時間がないか。
それに、前衛がいなくなった分、なのはやクロノにかかる負担も大きくなっている。
やはり、多少地形が良くなった程度で易々とどうこうできる相手でもないか。

事実、たったいまシールドを破られたなのはが海に叩きつけられた。
「不味いな…………ユーノ! アレを頼む!!」
「え? アレって……わかった!」
いつまでもこうして支援に回っていても、これ以上状況が良くなる兆しが見えない。
ならばと、ユーノにあらかじめ頼んでおいた魔法を使ってもらう。

そして、一端闇の書から距離を取ったユーノがそれを行使する。
「チェーンバインド、多角射出!」
海上のいたるところに淡い緑色の魔法陣が発生し、そこからチェーンバインドが伸びる。
あるモノは海に突き刺さり、あるものは互いに絡まり合う。
そうして、淡い緑色の鎖が蜘蛛の巣のように縦横無尽に張り巡らされ、巨大な「檻」が出来上がった。

「なのは! クロノ! 私が前に出る、外から援護を!!」
檻の中にいる闇の書に向け、俺もまた檻の中に身を投じる。
この鎖の檻は、奴の動きを制限し閉じ込めるだけでなく、俺にとっての足場となるのだ。

鎖の一本に着地し、そのまま鎖の上を駆けて接敵する。
「選手交代だ。ここからは、私に付き合ってもらおうか!」
インビジブル・エアで不可視化した双剣を手に斬り掛かり、檻から脱出しようとした闇の書を阻む。

しかし奴は、不可視の剣を当たり前のように見切ってかわす。
「なに!?」
別に剣が回避されること自体は驚くに値しない。
如何に見えぬ剣とはいえ、そのサイズには限りがある以上その間合いより離れてしまえば回避は出来る。
あるいは、武器の軌道から外れてしまえば鞭の類でもない限り問題はない。

だが、今奴がしたのはそんな生易しいモノじゃない。
闇の書は今、ミリ単位で“見切って”避けたのだ。
そんな真似、勘や偶然で出来るものじゃない。

それを確かめるため、さらに畳みかけるように剣を振るう。
時に胴を薙ぎ、時に唐竹で振り下ろし、あるいは突きを放つが、その尽くが紙一重で避けられる。
「貴様、見えているのか?」
「お前の透過は不完全だ。赤外線や周囲との温度差までは偽装しきれていない。
 ならば、私はそれを視てやればいい」
なるほど。「見ている」のではなく「視ている」のか。
人間の目には見えないが、奴は魔導書。なら、そんなモノを視ることもできたとしても不思議はないな。

それにしても、「不完全」とは手厳しい。しかし、言っていることはもっともか。
人間相手なら光の屈折操作だけでも問題ないが、専用の道具でも使われればすぐに化けの皮がはがれてしまう。
そんな半端なことでは、確かに不完全と言われても仕方がない。
これは忠告として受け入れ、精進するべきだな。

とはいえ、こいつ相手にインビジブル・エアが無意味なのは間違いない。
それどころか、この分だとグラデーション・エアにまでダメ出しを受けかねないな。
まったく、ほんのささやかなモノとはいえ、こちらの自信を呆気なく打ち壊してくれる。

しかし、無意味なモノに魔力を割いても浪費でしかないな。
インビジブル・エアを解除し、干将・莫耶を晒す。それを見て、奴の目が僅かに細められたのが妙に気になった。
「忠告痛み入る。では、その礼だ。私も一つ、君に忠告してやろう」
「なに?」
「たいしたことではない。君に道具を名乗る資格はない、ただそれだけのことだ」
先ほどまで無表情の見本のようだった闇の書の顔に、僅かに怒りの色が浮かぶ。
やはり、そこが奴の狙いどころか。これまでのやり取りで、奴にとっての怒りのツボは概ね把握した。
ここでそこを突き、怒りの矛先を俺に向けてやって攻撃を集中させれば、なのはたちの危険も減る。
いつまでも子どもたちに危険な目にあわせていては、年長者としての立つ瀬がないからな。

再度間合いを詰め、俺は双剣を、奴は両の拳を振るう。
だが、双方共に譲らず、互いの剣と拳は眼前の敵の体にまで届かない。
「どういう意味だ?」
「簡単な話だ。主を害する道具など道具とは呼ばん。
そういうのはな、『欠陥品』あるいは『粗悪品』と呼ぶのが正しい日本語だよ。
君がそうでなくて、いったい何がそうだと言うのかね?」
内面の苦々しさを押し殺し、表面的には嘲笑するように奴に笑みを向ける。
奴もそれでいいと思ってないのはわかっているけど、だからこそ奴にとって最も触れて欲しくない点だろう。
そんなところを突くことに罪悪感がないわけではないが、それでもこれで奴の意識がこちらに集中するのなら……。

そして案の定、闇の書………夜天の魔導書は怒りにその身を震わせる。
「お前に………お前に何がわかる! 私が……望んで主を殺そうとしているとでも言うのか!!」
その怒声とともに、闇の書は高速移動系の魔法で一瞬にして間合いを詰めてくる。
そのまま怒りに任せて振るわれた拳には、溢れんばかりの魔力が込められていた。
それが、何よりも奴の怒りの程を物語っている。
だが、いくら速くても冷静さを欠いているが故にそのモーションは単調で、動きを読むのは容易かった。

一瞬で間合いを詰められ回避は間に合わない。しかし、それを盾で受け止めつつ後方に飛んで威力を殺す。
「かはっ!?」
にもかかわらず俺の体は弾き飛ばされ、口から肺に貯まっていた空気の塊が吐き出される。
盾による防御と後方への退避、そのどれか一つでも間に合わなければ死んでいたかもしれないな。
事実、フェイカーには僅かにヒビが入っている。かなり頑丈なはずなのに、衝撃を逃してもこれか。

後ろに飛ばされながらも、手近なところにあった鎖を掴んでそれ以上飛ばされるのを防ぐ。
ぶら下がった状態のままでは格好の的。逆上がりの要領で体を回転させ、再度鎖の上に立つ。
「………ふぅ、図星を指されて激昂したのかね? 少なくとも、主を殺すのをやめようとはしていないようだが」
一度痛い目にあいながらも、懲りずに挑発を続ける。
それにしても、何が「感情などない」だ。そうやって、怒れるじゃないか。

鎖の上を駆け、時に別の鎖へと飛び移り、間合いを詰めていく。
並行して闇の書から放たれるダガーを叩き落とすが、檻の外からも二色の魔力弾が侵入し打ち漏らしを落としていく。なのはとクロノが、上手いことやってくれているのだろう。
そんな心強い援護射撃に頼もしさを感じつつ、体勢を低くして懐へと潜り込む。

そのまま、すれ違いざまに斬り抜けようとするも、寸でのところでかわされ剣は空を切る。
「なら、お前はどうだ。老若男女の区別なく殺し、命乞いをする者を淡々と斬り刻んだお前は、一体なんだ」
「…………何のことだ?」
正直、思い当たる節は多々ある。
前の世界では、およそあらゆる年齢・人種の人間を殺めたと言っても言い過ぎではない。

未だ薬の開発されていない凶悪な伝染病に感染した親子を、復讐にかられ村一つ滅ぼそうと暴走する老人を、より多くを救うためという言い訳の元で斬殺した。
あるいは、飢餓から来る栄養失調で余命幾許も無い青年を、半身が吹き飛ばされた事に気付かず助けを求める盲人を、救える者を救う時間惜しさに見捨てた事もある。
自分でも愚かな事だと、罪深い人でなしの所業だと思う。人の命を、そうやって計測するなど傲慢の極みだ。
罪に対する罰を迫られれば甘んじて受け入れるつもりだし、悪魔と蔑まれるのも当然だろう。

しかし俺はこの世界で、こいつや守護騎士たちの前でそれをしていないはずだ。
それなら、こいつがそんなことを知っているはずがない。
「憶えていないのか、それとも本当に違うのか……いや、私がお前を見間違う筈がない。
私が欠陥品なら、お前は血も涙もない『外道』ではないか!!」
言っている意味はわかる。俺がその名にふさわしい非人間だと言う事も事実だ。
だが、闇の書の言うことへの心当たりがない。一体こいつは、何のことを言っているんだ?

しかし、その間にも戦いの手が止まることはない。
奴は完全に攻撃の照準を俺に向け、ダガーによる牽制をしながら殴りかかる。
「憶えていないなど、知らぬなど認めない。
 お前は、その力の限りを尽くして全てを滅ぼした。七百年前のあの日」
七百年前? こいつの言っていることが何一つとして理解できない。
如何に俺が人形の体を持つとはいえ、七百年も前に存在する筈がないではないか。

困惑が俺の心を占める。言っている意味はわからないのに、俺の中の何かがそれを受け入れていた。
そのことが、より一層俺の中の混沌を大きくする。それにより隙が生じ、奴の拳が目の前にまで迫っていた。
「ちぃっ!!」
意図的に足を踏み外し、鎖からの自由落下を試みる。
結果、自殺行為とも言えるそれにより、ギリギリのところで奴の拳を回避できた。

大威力の砲撃や空間攻撃でもされれば一巻の終わりだが、今のところそれはない。
闇の書の行動パターンに段々とみんな慣れてきたおかげだ。
完全には読み切れないが、感情を僅かでも表すようになったおかげもある。
大威力攻撃に出ようとしても狙い澄ましたようなタイミングで邪魔が入ることで、術を封殺できているのだ。

とはいえ、だからと言って余裕があるわけでもない。
大威力攻撃を封じても、こいつは十分過ぎるくらいに強い。
このまま自由落下を続けても、それこそ良い的だ。

故に、直下にあった鎖に着地する事で落下を終える。
そのまま再度接敵することはせず、距離を保ったまま奴に向かって抗議の視線を向けて口を開く。
「まったく、わけのわからん話をゴチャゴチャと。
心当たりのある事ならいざ知らず、身に覚えのない罪を問われるのはさすがにいい気分はせんぞ。
冤罪は勘弁してもらいたいのだがね」
それはそれで前の世界で経験済みなだけに、嫌な記憶が蘇りそうだ。

そのまま鉄甲作用を付加した黒鍵を投じるも、奴は難なくそれを回避し俺の言葉を否定する。
「冤罪だと? 違う。あの時と体格こそ違うが、お前は紛れもないあの時の『赤き騎士』だ。
 お前の振るうその剣も、お前の使うその魔術も、その眼や髪・肌の色は奴と同じもの。
 なによりお前のその太刀筋は、奴のそれと寸分違わない」
なんだ、この違和感は。初めて奴が俺に向けて言葉をかけてきた時から、ずっと感じてきた違和感がある。
奴が俺の事を知っているかのように話すのはいい。守護騎士たちとリンクしているらしいし、そのせいだろう。
だが、どうして奴は、俺にその「赤き騎士」とやらの影を被せるんだ。
それほどまでに、俺とそいつは似ているのか?

……………………………………………いや、待て!
奴は、同じ剣、同じ魔術、同じ太刀筋と言わなかったか。
目や髪、肌の色が同じ程度に似ているなら、そんなのはいくらでもいるだろう。
広い世界・長い時を巡ってきたのなら、俺の容姿など特筆すべきものではないはずだ。
俺のこれは、あくまで「日本人」としては珍しい程度なのだから。
だが、俺と同じ剣や魔術、太刀筋の三つが揃った人間などいる筈がない。

この剣は干将・莫耶。地球の中国で生まれた剣。次元世界を放浪していたこいつが目にする機会などあるのか?
魔術にしても、この世界に魔術がないのはアイリスフィールの素性を明らかにした事で改めて確定した。
仮に過去魔術が存在していても、実戦で投影なんて使う奴がいたとは思えない。通常の投影なんて、役立たずの代名詞なのだから。
太刀筋にしてもそう。俺のこの剣は、ほぼ完全に我流。
いや、同じような剣術に行き着く位ならいい。しかし、同じ流派でも個々人で異なる太刀筋まで同じなどあり得るのか?

それら一つ一つでもおかしいのに、その三つが揃い踏みだと?
それは、一体どれだけ途方もない確率の偶然だ。そこまでくれば、この出会いは必然のレベルだぞ。
……………………って、ああ、一人だけいたな。
その三つ全てが符合して、七百年前にもいそうな奴。
まさかアイツ、こんなところでも後始末をさせられているのか?

できれば、俺の思い過ごし、奴の勘違いであってくれるといいんだが。
何となく、俺はすでにその可能性を受け入れ、事実として受け止めようとしていた。



Interlude

SIDE-はやて

深い深い暗闇の中、体に電流を流されたかのような衝撃が走った気がして、わたしは目を覚ました。
(ここは…………どこ? わたし……………なにしてたんやったっけ?)
あかん、頭がぼうっとして考えがまとまらへん。

ああ、せやけどなんて……………
「………………眠い……………眠い……………」
どうしようもないほどの眠気のせいで、今にもまた眠ってしまいそうや。
このまま眠ってしまえたら楽やのに、なんやこのまま眠ったらあかんような気もする。
わたしは何か、大切なことを忘れてるんやないやろうか?

そんな気がして、わたしは重い瞼を何とか開ける。
そこには見覚えのない筈の………………せやけど、どこか懐かしいような感じのする人が立っていた。
まるで、ずっとずっと一緒におったかのような安心感が、心を満たす。

……………………………………ああ。そういえば、わたしのすぐそばに、よく似た人がいたはずや。
流れる清流の様に綺麗な長い銀髪、まるで宝石のように澄んだ輝きを宿す深紅の瞳。
それらは、わたしにとって良く見知ったモノ。でも、顔立ちや雰囲気はその人とは似ても似つかへん。
あの人は、わたしの全てを包み込む様な温かさがあった。
でもこの人からは、静かで深い…………哀しみを感じる。
わたしの眼には、まるでこの人は今にも泣き出しそうに見えた。

幾度も落ちそうになる瞼と意識。それをその都度押し上げているうちに、その人が口を開く。
「そのままお休みを、我が主。あなたの望みは、全て私が叶えます。目を閉じて、心静かに夢を見てください」
その声に後押しされるように、わたしのなかの睡魔が力を増す。
やっとの思いで開いていた瞼も、まるで何十倍も重くなったかのように感じる。

でも、その人の言ったある一言が心に引っ掛かった。
(…………………………望み? 望みってなんや? わたしは、何を望んでたんやったっけ?)
望みはあったはず。せやけど、霞がかかったようにぼんやりとした頭は、それを思い出せへん。
なにか、とても大切な望みがあった気がするのに、それが何だったのか分からない。
思い出せへん筈がない。だってそれは、ついさっきまでかなっとった筈や。

そのことをどうしても思い出したくて、落ちそうになる瞼を必死に堪える。
これでも、我慢は得意や。少しの間位眠いのを我慢する位、なんてことない。
せやから、何としても思い出さな。それを思い出せへん事に比べれば、睡魔に耐えるくらい訳ない。

「悲しい現実は全て夢となる、安らかな眠りを貴女に。その中に、貴女の求めた幸福があります」
(それが、わたしの望みなん? 本当にわたしは、それを望んどったんか?)
どうしても、そのことに違和感をぬぐえない。
違うって、心のどこかで何かがそれを否定しているよう。

その何かを掬い上げようと、自分の心の中を必死に探す。
「夢は終わりません。夢には現し世の様な縛りもありません。夢は無限。なら、いかなる幸せも……………」
「う~ん…でも、夢はいずれ醒めるものよ。それに、いつも同じ様な夢ばっかりじゃさすがに飽きるでしょ。
 人生には適度な刺激があった方が楽しいって知らないの?」
わたしの後ろに人の気配が生まれたかと思うと、その気配の主が目の前の人の言葉を否定する。
いや、否定すると言うよりも、呆れ果てているという印象が強い。

目の前の銀髪の女性の顔は驚愕に歪み、わたしの背後を睨みつける。
「っ!? 何故お前がここにいる! ここは私と主だけの世界の筈!! いったい、どうやって…………」
姿は見えへんけど、わたしのすぐ後ろまで歩み寄ってくる足音がした。
同時に、まるでその反応が愉しくて仕方がないという風に、「クスクス」と小さな笑い声が聞こえてくる。

そうして、ヌッとわたしの横から手が伸びてきたかと思うと、その手は優しくわたしの頭の上に置かれた。
まるで、「よく頑張った」と褒めてくれるかの様に、その手はゆっくりとわたしの頭を撫でる。
その感触がこそばゆくて、知らず知らずのうちに顔が熱くなるのを自覚した。

そして、そのままその人は歩みをすすめわたしの隣にまでやってくる。
まず眼に入ったのは、鮮烈で目が覚めんばかりの「赤」。

いつの間にか、わたしの眠気は晴れていた。

Interlude out



SIDE-士郎

戦いは、一時の小康状態に入った。
俺は慣れない鎖の上での戦闘に息が上がり、奴は全てを話すまで生かしておいてやる、とばかりに俺を見下ろしている。
この状態こそが、この戦いの形勢を物語っているな。

ひと思いにバッサリと大怪我の一つでもさせられれば楽なのだが、なかなかそのチャンスが巡ってこない。
その上、仮にチャンスがあっても迂闊に斬り捨てるわけにもいかないのが困る。
なにせ、アレはまがりなりにもはやての体をベースにしているのだ。
ここで腕を斬り落としたり、あるいは胴体を深々と斬り裂いたりすれば、それだけで致命傷になりかねない。
闇の書からはやての救出はできましたが、致命傷を負っていてその後まもなく死亡、では話にならないのだから。
その上、凛やフェイトの事もある。見方によっては人質を取られた様なものだし、これでは滅多な事はできない。

なのはたちの様に魔力ダメージのみの攻撃ができれば気兼ねなくやれるが、そんなことを言っても無駄だ。
できないわけではないが、こいつ相手に決定打を与えられるほどの魔法と魔力が俺には無い。
まあ、ないものねだりをしても仕方がないし、今あるもので何とかするのが人生。
やるとすれば、なのはとクロノにそこを任せ、俺は二人の全力攻撃が当てられる状況を演出することか。

とはいえ、底なしの魔力とスタミナを持つこいつを相手に、それをするのは至難の業。
それどころか、俺自身いつまで保つか。ダメージは着実に蓄積し、スタミナも魔力もどんどん減っていく。
いい加減、ここらで勝負に出るべきかもしれないな。

そうして、俺がなんとか形勢をひっくり返す手を講じていると、闇の書は再び口を開く。
「まだ否定するか」
「知らんと何度も言っているだろう。
そもそも、常識的に考えて七百年前に私の影も形も無いことくらいわかりそうなものだがね」
そう、それが常識の範囲内ならな。
とはいえ、その七百年前にあった何かが抑止力が働くような状況だったとしたら、常識も何もあったモノではないが……それなら辻褄もあう。

そう、初めのうちは信じられなかったが、よくよく考えてみればあり得ない話ではない。
闇の書の暴走は、世界の破滅の危機さえ引き起こすと言う。
ならば、抑止力が………カウンター・ガーディアン(抑止の守護者)が動いても不思議はない。
なにせ、前の世界とこの世界は同じ魔術基盤を共有している。
それはつまり、世界の根幹の部分が同じである可能性が高いという事だ。
この推論が正しいとすれば、それは同じ幹から枝分かれした別の枝のような関係だろう。
それなら英霊の座から守護者が呼び出されることも、呼び出された守護者が奴であったとしても、あり得ないとは言い切れないのだ。

だから、こいつが俺とその「赤き騎士」とやらを同一視するのは、もしかすると至極当然なのかもしれない。
だが、例えそうであったとしても認められない事がある。それが、奴に関わることであるなら尚更だ。
「なんと言おうと、確かにお前はあの場にいた。それが変わるわけではない。
今でも良く憶えている。誰よりも絶望に沈んだ眼で数多の命を刈り取り、私と騎士達を…………そして、主を蹂躙した」
如何に闇の書といえど、さすがにカウンターガーディアンには勝てなかったか。
いや、そもそも抑止力は確実に対象を上回る規模で発生する。なら、勝てないのが当たり前だな。

すべて仮定の話だが、割と信憑性はありそうだ。
ジュエルシードの事を考えると、ロストロギアの暴走にはそれだけの危険性がある。
それに、それならシグナムが鶴翼のほとんどを読み切ったことも納得がいく。
正直、最後の一手さえもまがりなりにも反応されたのには驚いた。
おそらく、シグナムと戦った時にはオーバーエッジまでは使わなかったのだろう。
それが、最後の最後で読み切れない一手となったのだと思う。

しかし、こいつの言う「赤き騎士」がエミヤだったとしても、俺は闇の書の言う事を受け入れるつもりはない。
如何に似てようと、たとえ俺と奴が同じ起源を持つ同位体であろうと、それでも俺と奴は別の存在なのだから。
「何度も言うが、生憎と人違いだ。
どれだけ貴様が証拠を提示しようとも、私はそこを引くわけにはいかんな!」
元は同じ「エミヤシロウ」だが、これだけは絶対に認められない。
それは俺が俺であるために、何があろうと譲れない境界線。
殺戮を行った事ではなく、命乞いを無視した事でもなく、絶望に沈んだ眼をしていた事が、だ。

十年前、俺は奴のようにはならないと誓った。「衛宮士郎」は、決して「エミヤ」にはならぬと誓ったのだ。
例え同じ道を歩み、全て(理想)に裏切られても、それでも後悔だけはしないと。
俺は自分の末路を知っていた。それでも、自らその道を突き進んだ。それが、間違っていないと信じたから。
報酬など不要、感謝も不要、欲しいのは救われた命があるという事実、誰もが幸福だという結果、ただそれだけ。
泣いている誰かを見たくないだけ、理由なんてその程度のもの。そんな理由で、命を賭け続けたのだ。

いや、それも違うか。きっと、本当はそんな御大層なモノじゃない。
ただ綺麗だったから憧れた。かつて俺を救ってくれた切嗣の様になりたくて。
そうやって人を救い続ければ、いつかあの時の切嗣の様に笑えるかもしれないと、そう思ったから。
だから、全てが借りものでもよかったのだ。

アレから十年、数多の戦場を駆け抜け、幾度となく奴と同じこともした。
誰も死なさないようにと願ったまま、大勢のために一人に死んで貰う。
誰も悲しまないようにと口にして、その陰で何人かの人間には絶望を抱かせた。
そして死んだ。いつか見たあの赤い丘で、敵とかつて助けた人たちの手で息絶えた。
わかっていたことであり、それでもなお進んだ結果なのだから必然の結末。
そのことに後悔はない。卑小な我が身ながら、それでも救えた命もある。その事実だけで満足だった。

心の中をさまざまなモノが駆け巡り、知らず知らずのうちに口から言葉が溢れる。
「それに、絶望だと? はっ、笑わせるな!
 ならば良く見てみろ。私の眼に絶望が有るのか否か、それこそが証拠となろう!」
俺は奴とは違う。この身に絶望などなく、あるのは新たな夢。
かつての夢と比較しても劣らぬほど輝き、故に遠い夢。絶望になど、身を浸している暇はない。

アレは、俺などには過ぎた結末だったろう。
その道の果てには何もなく、奴の様にただ空虚に孤独な死を迎えるものと思っていた。
何一つとして本物を持たない偽りの様な人生だったはずなのに、最後の最後で本物を手に出来たのだ。
いや、違う。手にしたんじゃない。もう、ずっと前からこの手にあったのに気付かなかった。ずっと見ようとしなかっただけだ。
それは、宝石のような輝きを放つ宝物。もしかしたら、眩しくて見れなかったのかもしれない。あるいは、見てしまえば自分の中の何かが変わってしまうと思ったのかもしれない。

死の淵で、俺はやっとそれに目を向けた。そこで気付く「なるほど、確かにこれは直視できない」と。
眩しくて眩しくて、一度見てしまえば俺の中の何かを変えるには十分すぎた。
それでも、俺は見てしまったのだ。常に自分の隣に在り続けた、掛け替えのない宝石を。
ずっと見ていたつもりだったが、あの時初めて本当の意味で俺はそれに目を向けたのかもしれない。

そして変わった。変えられてしまった。もう、この輝きは手放せない。
その責任を取って貰わなければならないし、俺はこの輝きを守りたいのだ。
その機会まで与えられたからには、絶対に手放すものか。
「言っておくが、私はその男よりよほど諦めが悪いぞ。
 凛もフェイトも、そしてはやてもお前も…………救う事を諦めるつもりはない!!」
泣いている姿を見たくないからじゃない。俺がただ、失いたくないだけ。
アイツが与えてくれた輝きを、それによって照らされる多くの掛け替えのないモノを。
俺は前より欲張りになったのかもしれない。あるいは、やっと人間らしくなってきたのかもしれない。

だからだろうか………………いい気分だ。
「欲張り過ぎだ。多くを望んで何も手に出来なければ………」
「無意味かね? なるほど、実に正論だ。だが、それくらいでなければ張合いがないぞ」
ほんの少し前なら、きっとこんなことは言わなかったし、思わなかっただろう。
でも、今は自然とそう思う。以前の様な強迫観念ではなく、心からの希求で。

「もういい。お前も、もう眠れ」
「それは君が決めることではないな。むしろ、いい加減夢から覚めたらどうだ?
 悪夢ばかり見ているのは、さぞかし辛かろう!」
フェイカーを弓へと変え、特にイメージを見出すことなく手当たり次第に矢をまき散らす。
あまり趣味じゃないが、時にはこういう一見無駄撃ちに見えるモノも役に立つ。

迫りくる矢の悉くを回避し、闇の書からもダガーが放たれる。
気付いているかまでは分からないが、回避先を限定することで奴の位置を誘導していく。
そして、遂に奴が目的の場所にきた。
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」
真上を取っていたクロノは、闇の書に向けて無数の魔力刃を雨の如く降り注がせる。

百を超える「スティンガーブレイド」が爆散し、煙が辺りに立ち込めた。
これだけの数と質の攻撃、並みの術者であれば確実に落ちたはずだが、相手は闇の書。
これで終わるとは思っていない。その時に備え、俺もまた準備を進める。
「『――――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)』」
ここが勝負のかけ時と判断し、とっておきの一本を投影し魔力を注ぐ。

だが、そこで突如爆煙が晴れる。そしてそこには、漆黒の球体を天に向けて放つ、無傷の闇の書がいた。
「闇に染まれ。―――――――――――――デアボリック・エミッション」
球体は一定の高さまで上昇すると、そこで一気に膨張を開始する。
球体の周囲にある淡い緑色の鎖が飲み込まれ、破壊されていく。

俺を支える鎖も例外ではなく、見える範囲にある全ての鎖がバラバラと海へと落下する。
突如体は宙に投げ出され、空を飛べぬ俺には抗いようのない浮遊感に囚われた。
しかし、それでもなお俺は弓を引き、標的に向けて照準を合わせる。

そのまま限界まで弓を引き絞り、真名を告げると共に猟犬を解き放つ。
「奔れ! ―――――――――――――――『赤原猟犬(フルンディング)!!!』」
弓から放たれたのは、幾つかの刃が細い芯に螺旋を描いて巻き付く漆黒の矢。
俺の指から離れた魔弾は、赤光を纏いながら漆黒の球体の中心に向けて疾駆する。

あまり魔力を込める時間はなかったが、元から必殺の一撃を狙っていたわけではない。
ならば、ここまでの魔力充填でも問題ない。
まあそれでも、宝具の射出は負担が思いのほか大きかったのか、フェイカーのヒビが広がる
これは、もう一度キツイのを入れられたら不味いかもしれないな。

そうしている間にもこの手を離れた矢は膨張する球体へと突き進み、そのまま球体内部へと侵入する。
ぶつかり合うは暴虐の化身とも言うべき漆黒の球体と、標的に向けてまっすぐ空を翔ける赤光を纏う魔弾。
勝敗は―――――――――――――――――――魔弾に軍配が上がった。
矢はその名の通り猟犬のように球体を食い破り、中心を通って貫通する。
結果、核となる中心を貫かれた魔力の塊は、形を維持できずに霧散した。

それでも魔弾の勢いは微塵も衰えず、なおも天高く駆け抜けていく。
俺は、海に着水する直前に魔法陣を展開し、何とか着地する。
周囲を確認すると、なのはたちの無事な姿を確認できた。

そこで天を仰ぐと、そこには無傷の闇の書の姿。
球体の中心と奴の位置が離れていたせいで、矢は何の影響も与えることなく駆け抜けたのだ。
「…………………し……見ろ」
そんな奴に向け、忠告の言葉をかける。だが、いかんせん遠いせいか、奴の耳にまでは届かない。

そこまで親切にしてやる必要もないのだろうが、ここではやてを死なせては本末転倒。
肺いっぱいに空気を吸い込み、あらん限りの声量で怒鳴る。
「戯け!! 後ろを見ろ!!!!」
「なに? これは……!!」
ギリギリのところで気付き、奴は身は背後から迫る赤光をかわす。
奴の体スレスレを通り過ぎたのは、つい先ほど遥か彼方へと飛んでいったはずの魔弾だった。
同時に、回避したにも関わらず、闇の書の体が何かに煽られるように弾き飛ばされる。

フルンディングはただの矢ではない。真名開放を以て放たれれば、その速度は音の壁を超える。
しかし、それほどの「速さ」でさえもまた真の力とは言えない。これの真価は「スピード」ではないのだから。
フルンディングの真の力、それは例え何度外れようと射手が健在かつ狙い続ける限り、標的を襲う自動追尾能力。
まさに「猟犬」の名に相応しく、主の命あらばどこまでも敵を追う超音速の魔弾なのだ。

元より、俺の狙いは球体の破壊などではない。
狙いはあくまでも「球体の破壊」と「闇の書への攻撃」の二つ。
中るイメージがなかなか見いだせないのなら、避けられてもなお中る一射を放てばいい。

そして、寸前で避けたとはいえ、相手は超音速で飛ぶ猟犬だ。無事で済むはずがない。
突破された音の壁は衝撃波となり、近くにいる者を襲う。
猟犬の牙をかわしても、その身が巻き起こす風が爪となって獲物を切り刻むのだ。

体の周囲に溢れる魔力の壁のおかげでかろうじて防ぎ切ったようだが、なお矢も俺も健在。
ならば、猟犬はどこまでも闇の書を追いたてる。
如何に超音速の魔弾が相手でも、一度や二度ならば回避し、襲いかかる衝撃波を防げるだろう。
だが、一度衝撃波を受ける度にああも体勢を崩していては、いずれその牙が闇の書の身を裂く。

そうして、回避しては煽られるを幾度か繰り返す。
むしろ、超音速の攻撃をあれだけ回避し続けられるだけでも驚異的だな。

しかし、そろそろ限界か。奴が体勢を立て直すより早く、猟犬の牙が襲いかかる。
「そこまでだ。『ブロークン・ファンタズム(壊れた幻想)!!』」
牙が闇の書に届くより前に先に幻想を炸裂させ、爆風を生む。

さあ、これで場は整った。
「いまだ! いくぞ、なのは!!」
「オッケー、クロノ君! レイジングハート」
《Yes, my master》
「うん。エクセリオン・バスター、バレル展開。中距離砲撃モード!」
クロノの指示が飛ぶと同時に、なのはは爆風に吹き飛ばされる闇の書に向け照準を合わせる。
その手には、いつの間にかフルドライブのエクセリオンモードへと姿を変えたレイジングハートが握られていた。

なのはの魔力光と同色の光の翼が展開され、石突きが伸びる。
同時に、槍にも似たその先端に桜色の光が集まっていく。
《All right. Barrel shot》
そして、なのはが何かを撃ち出したように体を揺らした。

その何かは体勢を立て直しきれていない闇の書に当たり、まるで突風の様に体を煽る。
すると、その体は見えない枷で磔にされた。
「エクセリオン・バスター、フォースバースト!!!」
なのはの正面に巨大な桜色の魔力球が発生し、その輝きを増していく。
同時に、クロノもまた再度スティンガーブレイドを展開する。

さすがに、二度目の使用となるとキツイのか、クロノの顔には疲労の色が見えた。
しかし、それを気合いで抑え込み、先程よりなお多い刃を生み出していく。

それを見て取った闇の書は、何とか拘束を外そうとギシギシと体を揺らす。
この分だと拘束も長くは保たないか、と思った矢先……
「ブレイク………シュ――――ト!!!」
「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!!!」
なのはからは四本の極太の魔力が放たれ、うねりながら闇の書に迫る。
また、クロノがS2Uを振り下ろすと、無数の刃状に形成された魔力が雨となって降り注ぐ。

合計四本の砲撃と、光刃の雨が闇の書に襲いかかる。
直後、これまでで最大規模の爆発が生じた。
これで………ケリがついたかな?






あとがき

さぁて、これでケリが………つくのかな? つきそうにない感じ満々ですけどね。
まあ、これで着いたらちょっと拍子抜けな感じがしますし、そう簡単にはいかせませんよ。

凛が取り込まれた事で、士郎が冷静さを失うと考えた方がいましたが、そうはなりませんでした。
原作の方でも、割とすぐにエイミィから一応の無事は確認されたので、今回もそういう事にしています。
むしろ、取りこまれた状態で致命傷なんて与えたら、そっちの方が危なそうですしね。
それに、ここで士郎が暴走してしまうと、それこそ事態は収拾がつかなくなります。
というわけで、士郎にはこれまでの人生経験をいかんなく発揮(?)し、暴走まではさせませんでした。
いや、それでもなんか結構揺れ過ぎな気がするくらいですけどね、私の場合。

まあ、それはそれとして、士郎は本日一回目の真名解放となりましたが、残すところあと一回。
少なくとも、このまま凛からの魔力供給が無いとそれが限界です。
その一回は、はたして「何が」「どう」使われるのでしょう。
最悪なのはルール・ブレイカーですが、どうなる事やら。

そして、はやてとリインフォースのところに現れた赤い人影は誰なのか!?
って、普通にわかりますけどね。
問題なのは、どうやってそこに現れたかですけど。

とりあえず、次でその辺が全部判明する予定なので、乞うご期待…………?
あまり期待されすぎても、私的には嬉しかったり怖かったりなので、ほどほどが一番ですね。
というか、次回はほとんどはやての方の話になります。
今回出番が少なかった反動、とでも言えばいいのでしょうか? 
とにかく、次回はInterludeの比重がやたらと大きい可能性大。
どっちがメインなのか分からなくなってきますが、あくまで士郎や凛の視点がメインになるため、そんな事になってしまうのです。まあ、偶にはそんなのもあってもいい、くらいの気持ちで見てやってください。
まだお見せできる段階じゃありませんけど……。


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