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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第36話「交錯」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/26 01:00

SIDE-リニス

凛の指示に従い、アイリスフィールさんの護衛につきながら避難したのはとある丘の上。
その間、アイリスフィールさんはずっと泣き続けていた。
無理もない。最愛の夫と愛娘を失えば、誰だってそうなるだろう。それが、プレシアを知る私にはよくわかる。
私自身に置き換えても、凛や士郎、そしてフェイトを失えば…………考えたくありませんね。

でも、丘の上に着くころにはアイリスフィールさんの涙は止まっていた。
とはいえ、体からは色彩として認識できそうなほどの悲哀が溢れ、それがただ無理をしているだけなのは明白。
正直……闇の書の真実や計画の事を話すべきか悩んだ。
アイリスフィールさんは、ついさっき夫と娘の死を知らされたばかり。
悲しみを癒すのは言うに及ばず、それどころか心を鎮めるための時間すら足りな過ぎる。
最悪の場合、彼女の心を壊してしまうのではないかという不安さえよぎった。
それだけ、アイリスフィールさんの纏う空気は重く、痛々しいものだったのだ。

だけど、アイリスフィールさん自身に乞われて、最終的に私は重い口を開いた。
話が進むにつれ、その顔にはそれまでとは別種の驚きの色が浮かべる。
自分達がしていたことが、まさかそんなモノだったとなれば当然の反応だろう。

全てを話し終えた頃には、目を赤く泣き腫らしてはいるが幾分落ち着きを取り戻しているように見えた。
「………………それが、真実なのね」
「ええ。それが、闇の書………夜天の魔導書にかけられた呪いです」
呪い。非科学的で突拍子もない言葉だが、魔術と言うモノを知ったことでそれが現実に存在するものであることを知っている。これはそれとは違うけど、まさに『呪い』の名に相応しい。

夜天の魔導書もその主と守護騎士たちも、その呪いの被害者なのだ。そして、この女性も。
「ですが、今あそこにはその呪いを解こうと頑張っている人たちがいます。
 ですから、どうか諦めないでください。
希望はあります。必ず、私の主とその仲間があなたの娘を救ってくれます」
まるで、自分自身に言い聞かせるようにそう言葉を紡ぐ。
今宵は聖夜。世界が祝福される日。そんな日に、悲劇などあってはならないのだから。

私の励ましに、少しさびしそうな表情をしながらアイリスフィールさんが問う。
「………………あなたは、あの子たちを信じているのね」
「……はい。あそこにいる人たちは、みんな強いですから。
 力だけでなく、心も。だから、きっと大丈夫ですよ」
何とか安心させようと、精一杯の笑顔を向ける。

「あなたは…行かなくていいの?」
「私は、凛にあなたを任されました。それは、主からの何よりの信頼の証だと思っています。
 それに、この場を投げ出すということは主を信じられず、同時に主の信頼を裏切るという事です」
そんなこと……できるはずもないし、するつもりもない。
凛たちなら大丈夫。私はそう信じている。

だから、私は私のすべきことをしよう。
それに、このアイリスフィールと言う女性の事は、多少だけど凛から聞いている。
詳しいことまでは聞いていないが、一通りの事情を知ればおのずと凛の意図もわかった。
凛たちにとっては、ある意味最重要人物。そんな人を任せるのに、管理局よりも私を選んでくれた。
それはつまり、戦力的に充実している管理局よりも頼りにされているという事だ。
不謹慎かもしれないが、これが嬉しくない筈がない。
なら、身命を賭してその信頼に応えてみせよう。それができずして、何の使い魔か。

「あなたは、私たちの事をどれくらい知っているの?」
「それは、あなたと凛や士郎との間柄を……と言うことですか?」
「………………………ええ」
「おそらく、あなた以上には知らないでしょう。凛たちは、特に自分たちの素性に対しては慎重ですから」
それが、さびしくないと言えば嘘になる。
だけど、それでも少しずつ凛たちは自分たちの事を教えてくれた。
秘密……と言うほどのものではないけど、昔の思い出や家族の事を時々聞かせてもらっている。

士郎には困った姉代わりの女性がいて、しょっちゅうその人に振り回されたこと。
凛には長く離れ離れだった妹がいて、放っておけずに色々やきもきしたこと。
二人共通の友人で、凛にとってはライバルと天敵の中間にいるような間柄の女性のこと。
そして、二人にとって掛け替えのない清廉で気高かった無二の親友のこと。

秘密とすら呼べない思い出の数々。だけどそれらの価値が、凛たちの『秘密』に劣るとは思わない。
知られても構わないものかもしれないけど、だからと言って大切でないことにはならないのだから。
むしろ、それらの事を語る時の二人の様子は、どこまでも穏やかなもの(一部例外を除いて)。
私は、そんな話を聞けるだけでも嬉しかった。その分だけ、二人との距離が縮まった気がしたから。

それに、これらは秘密そのものでこそないが、秘密を浮き彫りにするピースと成り得る。
聞いた思い出話を整理し、検証すればある程度までなら凛たちの秘密にも迫れるだろう。
でも、私はそれをするつもりはないし、何かに気付いても聞く気はない。
いつかきっと、凛たちから話してくれると信じ、その時を待つつもりだから。

まあ、そんなわけであまり多くは知らないんですけどね。
「あなたは、それで良いの? 何も教えてもらえないままで……」
「ええ。私たちにはまだまだたくさん時間があって、いくらでも待てますから。
急ぐ必要なんて、ないじゃありませんか」
「少し……羨ましいわね。切嗣とセイバーも、そう出来ていたら………いえ、無理かしら。
 切嗣にそんな気はなかったし、多分どれだけ時間があっても平行線のまま………」
そう語る、アイリスフィールさんの顔にはまた別のさびしさが宿る。
そういえば、セイバーという名前は知っていますけど……詮索するのは、野暮ですかね。

「私は、あの子たちのことを何も知らない。だから、信じていいかもわからない。
イリヤを救ってくれなかったあの男の子に、理不尽とわかっていても憤りを覚えてしまう。
もしかしたら、切嗣を死に追いやった原因があの女の子の父親かもしれないと思うと、どうしても敵愾心を抱いてしまう」
無理もない。私もまだ詳しい事情は知らないけど、そう言う風に捉えてしまう感情は、少なからず理解できるつもりだ。もしフェイトを見殺しにしたという人が目の前にいたら、もし凛や士郎を死に追いやった元凶かもしれない人と出会ったら、私も冷静でいられる自信はない。
どうしようもない事情があるかもしれないし、的外れな感情かもしれない。
それでも、そう感じずにはいられないかもしれないから。

でも、今のアイリスフィールさんの声音に、士郎に対して憎しみをぶつけていた時の様な激しさはない。
「だけど、やっぱり私は何も知らない。
だからその感情が、勘違いや的外れなモノなのかもしれないこともわかっているつもりよ」
「……………………………」
「………彼が、衛宮を名乗るあの男の子が『切嗣の息子』であるというのなら、私は信じてみようと思う。
 彼は切嗣の死を悼み、イリヤを死なせてしまったことを悔いていたわ。その償いのために、私の身勝手で的外れかもしれない復讐を受け入れ、今こうして私の『もう一人の娘』を救おうとしてくれている」
償いだけがすべてではないでしょうが、それは一面の事実。
でも士郎はきっと、それとは別に純粋にこの人の力になりたいのだろう。
そこには罪の意識からくる贖いもあるだろうが、それがすべてではない。彼は、そういう「お人好し」だから。

「士郎を………許せるのですか?」
「…………………………わからない。だけど、何も知らないまま彼を憎むことも…………もう出来ない。
 あんなにも必死にはやてを救おうとしてくれる恩人を、あんなにも悲しい目で二人の死を悼んでくれた子を……私は、どうすればいいのかしらね」
かぶりを振るその眼の奥には、整理のしようがない混沌とした光が揺れている。

だけど、今はそれでいいのだと思う。
性急に答えを出しても、それはきっとこの人にとっていいものとはなり得ないだろうか。
アイリスフィールさんの口から洩れた疑問に私は答えられないけど、無理に急ぐ事はないはずだから。

そうして私たちは、さまざまな光とぶつかり合う漆黒の光へと目を向ける。
どうか、皆が無事に帰ってきますようにと願って。



第36話「交錯」



SIDE-士郎

いま俺たちは、覚醒した闇の書が展開した閉鎖結界に閉じ込められている。

闇の書に取り込まれたはやては、俺たちのよく知る特徴からはあまりにかけ離れた姿となってしまった。
亜麻色のショートカットだった髪は長い銀髪へ、瞳の色も深紅に変わり、その眼からは涙が零れ頬を伝う。
また、年相応の少女のそれだった身長と体型は、成熟した女性のそれとなっていた。

何より、雰囲気の変化が著しい。
常に穏やかで優しい空気を自然と纏っていたはやてと違い、表情はなくどこまでも無機質。
冷徹にこちらを見やるその姿は、心などなく血も通わぬ人形を連想させて余りある。

そして、どうも奴はフェイト達を敵と認識しているらしい。
おそらく、はやてが最後に見た光景が原因だのだろう。
まあ、逃げ回られたりしない分マシなんだが……。
できれば大人しくしてもらって、さっさとはやてを起こしにかかりたいところだよな。

そういうわけで、とりあえず初めは穏便にと説得から開始となった。
ただし、フェイトやなのはだと敵と認識されている以上、面倒な事になりかねないので不可。
万が一にも凛になにかあっては計画自体がとん挫するし、俺も似たようなモノ。
リーゼ達は氷結魔法の準備で動けず、クロノは現場指揮官や責任者としての仕事がある。

となると、あとはアルフとユーノしかいない。
アルフは性格上説得の類にはあまり向かないという消去法で、最終的にユーノに決まった。
仮に攻撃されても、この中でも特に守りの堅いユーノなら助けに入るまで凌ぎ切れるだろうという計算もある。

そんなわけで、ユーノが説得にかかったのだが……
「えっと、できれば止まってくれませんか。
 僕達には、あなた方を助けるための方策があります。ですから……」
「我が主は、この世界が……自分の愛する者達を奪った世界が、悪い夢であって欲しいと願った。
 我はただ、それを叶えるのみ」
「待ってください!? その人たちを救うために……!!」
「主には、穏やかな夢の内で…………永久の眠りを」
うわっ、人の話全然聞いてねぇ!?
聞く耳持たずとは良く言うが、ここまで全面的にシャットアウトする奴も珍しい。

「そして、愛する騎士達を奪った者には永久の闇を!!」
そう宣言し、奴はそのまま戦闘態勢に入る。
いやぁ、一応事実なだけに反論のしようもないな。
守護騎士たちにいられると面倒だからこそのあの展開だったのだが、どちらにせよ苦労することに変わりはないってことか。ま、そういうもんだよな。

「下がれ、ユーノ!! 仕方ない、無理にでも止まってもらうしないか」
「クロノ! って、これは!?」
闇の書が何かの魔法を行使したかと思うと、地面から無数の触手のようなモノが出現する。
これはたしか、あの砂漠の世界にいた蛇の化け物の……。
そういえば、闇の書は吸収したリンカーコアの持ち主の魔法も使えるんだったか。
まさか、生き物そのものまで召喚できるとは思わなかったが。

そこでクロノが全員に向かって指示を飛ばす。
「まあ、残念ながら予定通りだな。そういうわけだ、各自持ち場につけ!
アルフは凛の護衛! 凛には八神はやてへの干渉に集中してもらう。士郎は遠距離から援護、飛べない君までフォローが回らない! それ以外は、僕と一緒に“闇の書”の拘束に回る! 行くぞ!!」
『応(うん・了解)!!』
クロノ宣言に、各々が威勢良く返す。士気は申し分なし、あとはただ行動するのみだ。
しかし、こういう時自分の能力の低さが嫌になるな。地を駆ける俺じゃ、あの広域攻撃から逃れるのは至難の業。
防御に力を割いて、もし出番が回ってきた時に魔力切れでした、じゃ済まない。そうである以上、それが最善だと分かってはいるが、やはりな……。

だが、そんなクロノの指示に反応し、闇の書の顔に僅かな愁いの色が現れる。
「お前たちも、私をそう呼ぶのだな………」
そういえば、こいつの本来の呼び名は別だったんだよな。
確かに、「闇の書」なんて呼ばれ方をして嬉しいはずもないか。

俺はある程度離れたビルの屋上まで移動し、狙撃に適したポイントを探す。
他の面々も、各々自身に襲いかかる触手をある者は切り裂き、ある者は魔力弾で吹き飛ばしている。
「時は動きだしてしまった。私がお前達を破壊するのが先か、それともお前達が私を破壊するのが先か。
………………それとも、今度もお前か? 赤き騎士よ。あの時のように」
そう言いながら、奴は大分離れたところにいる俺にわざわざその紅い瞳を向ける。
こいつは………いったい何を言っているんだ?

「破壊なんてしません! 絶対、はやてちゃんと一緒に助けてみせます!」
「だからお願い、話しを聞いて!」
なのはとフェイトは必死になって説得を試みるが、奴にそれを受け入れる様子はない。

「我は闇の書。我が力の全ては、主の願いをそのままに………」
「この………分からず屋! はやては、そんなこと望む様な子じゃないってことくらい、わからないの!」
フェイトはそう叫び、魔力刃を出力したバルディッシュを持って斬りかかる。

それに合わせて、なのはとクロノがそれぞれ誘導弾を放つ。
フェイトと闇の書が交錯し、闇の書が方向転換するのに前後して二人の誘導弾が襲いかかる。
しかしそれも……
「盾よ」
闇の書は静かにそう呟き、迫る誘導弾に片手を向ける。
すると、その前面にシールドが展開され、全ての誘導弾を受けきられた。

とはいえ、これで時間を稼げた。誘導弾に気を取られている隙に、再度迫ったフェイトが鎌を振るう。
「はぁっ!!」
「無駄だ」
だがそれを、フェイトの動きを先読みしていたように今度はバリア型の防御魔法で小揺るぎもせずに防ぐ。
厄介だな、反則的なまでの防御の堅さをしている。おそらくはユーノと同等かそれ以上と見るべきか。
魔力量が馬鹿げているのもあるが、今までに蒐集した際に取り込んだ魔法のレパートリーの多さが問題だ。
種類が多いと言うことは、それだけその時々に最適の魔法を選択できることを意味している。

何より、多種多様な魔法の中から最適なそれを迷うことなく瞬時に判断できるのが厄介きわまりない。
普通なら少しくらい迷いそうなものだが、そこはそれ相手は人間ではない。
その演算能力と処理能力は、人間とでは次元が違う。

とはいえ、だからと言って手をこまねいている時間はない。
防御に回って動きが止まっているのは、紛れもない好機。それを逃す手はないのだ。
「まだ! ストラグルバインド!!」
ユーノがバインドを使い、動きの止まった闇の書の四肢を拘束する。
奴なら容易く破壊できるだろうが、その一瞬が狙い目。

予想通り、闇の書に絡みつくバインドにはヒビが入る。
だが、今まさに奴が動けない事に変わりはない。故に、その機を逃すことなく……
「いけ!!」
俺は番えていた矢を放つ。さすがに、バインド破壊をしている最中ならば……。

しかしそれも……
「刃を撃て、血に染めよ―――――――――穿て、ブラッディダガー」
バインド破壊にやや遅れて発動した魔法により発生したのは、その名の通り血のように紅い無数の刃。
それらはまるで敵に襲いかかる蜂の様に俊敏に、かつ複雑な軌道を描いて襲いかかる。
それだけでなく、他の面々にも襲いかかり次々と小規模な爆発が起きた。

俺の放った矢も、闇の書に到達する前に迎撃され奴には届かない。
「私と騎士たちはリンクしている。故に、騎士たちの知ることは私も知っている」
なるほど、すでに守護騎士達相手に晒した手札は向こうも承知の上ということか。
俺の矢が当たる事が前提と言う事も、初見であっても奴にとっては承知の上ということらしい。

みんなの方は、どうにか防御が間に合ったようで、爆煙から出てきても特に負傷はない。
おそらく、アレ自体は威力の弱い攻撃で、牽制などに使うのが本来の使い方か。

しかし、不味いな。この様子だと、小技は効果が薄いと見た方がよさそうだ。
やるなら、問答無用で相手を叩きつぶす小細工抜きの一撃。
そう判断したのは俺だけではないのか、フェイトとなのはがそれを実行する。

いつの間にか、フェイトとなのはは闇の書を中心に対角の位置を取っていた。
そうして挟撃する形で放たれるのは、サンダースマッシャーの発展系となのはの十八番。
「プラズマ………スマッシャ――――!!」
「ディバイン………バスタ―――――!!」
だがそれも、奴が展開した楯で危なげなく防がれる。
あの二人の砲撃を受け止めて、小揺るぎもしないとは……。

しかし、こっちのターンはまだ終わっていなかった。たたみかける様に凛の声が響く。
「『Wahrheitball(真球形成)、Leichte Anstiege(魔光汪溢)―――――Herbst vom Himmel(天の原より来れ)』
全く、危なっかしくて見てらんないわ。ちょっとそこどいて、巻き込まれても知らないわよ!!」
「わぁ――――っ! 凛待って待って、まだ待って!
 フェイト! なのは! 早く逃げろ―――――――――!!」
凛に続いて、アルフの悲鳴じみた叫び声が木霊する。
いつの間にか上を取っていた凛の周りに、三つの巨大な魔法陣が描かれていく。陣を描くのは凛の中指に嵌められた指輪、その逆の手には宝石剣も握られている。という事は、宝石剣を供給器代わりにするつもりか。

それを見たフェイト達は慌ててその場を離れるが、そのままだと闇の書に回避の隙を与えてしまう。
なら、ここは俺がサポートするところか。そう判断し、足止めのために大急ぎであらん限りの矢を放つ。
「まったく、人使いの荒い師匠もいたものだ」
『頼りにしてるわよ、相棒』
俺のボヤキが聞こえたわけでもあるまいが、凛からそんな念話が届く。
アイツめ、やっぱり俺に足止めをさせるつもりだったのか。

闇の書をその場に釘付けにするべく、矢継ぎ早に矢を放つ。
放つ矢の描く軌道は多種多様。通常通り正面に向けて放つ矢がおよそ半数。
残りの半分をさらに二分し、片方は矢羽に細工を加える事によりその軌道が変わる。ある物は左右、またある物は直下から闇の書に襲いかかるべく、縦横無尽に空を奔る。
そして、最後の半分は上空に向けて放ち、重力に引かれた矢を奴の真上に落とす。

小細工を弄した甲斐あってか、奴は四方から飛来する矢に邪魔され思うように動けずにいる。
『まったく、そういう事はもっと早く言ってくれんかね? もし間に合わなかったらどうするつもりだ』
『ん? アンタなら間に合わせるでしょ?』
まあ、そりゃあな。長い付き合いだ。ただチャンスが来るまで大人しくしているとは思っちゃいない。
遅かれ早かれ、一発叩き込みに行くとは思っていたけどさ。

そうしている間にも凛の準備は着々と進み、宝石剣から供給される無制限の魔力が魔法陣に送られていく。
「『Zweihaunder(接続)――――――――――――――Es last frei(解放)!!』
 射角良し、出力良し、術式安定! いっちょ派手に行くわよ!!
『――――――――――――――Laß die Sonne fallen(堕ちろ、燐光の鎚)!!!』」
闇の書に向け、三つの魔法陣からバカみたいな魔力を宿した光の塊が落ちてくる。
虹色の光を宿すそれは、華麗であるが故に恐ろしい。
いくら時間があったからとはいえ、あんなモノまともに食らったら蒸発しかねないぞ。

それにしても、宝石剣から魔力供給を利用した高位魔術の三重起動とはまた大盤振る舞いを。
本来なら単発で使う筈の術を三つ同時。少しでも制御を誤れば、その瞬間に自爆して木っ端微塵か、はたまた蒸発か。伊達や酔狂で「緋」の称号を得たわけではないとはいえ……よくもまあ、あんなマネをする気になる。
自分の制御能力に絶対の自信がなきゃできんぞ、あんな暴挙。

ついでに、消費した宝石の金額が怖い。
宝石剣と指輪が中心とはいえ、それでも術の安定のために他の宝石も使っているはずだ。
協力する代償としてグレアム提督持ちにしてもらったけど、さすがにちょっと……。
これは、あの人の老後の生活資金を大幅に削ることになるかもしれないな。

そんな光景をポカーンと口を半開きにして見ていたクロノだったが、なんとか思考を復旧させて食ってかかる。
「………な、何やってるんだ凛!! 八神はやてを殺す気か!?
 というか、君は彼女への干渉に集中する手はずだろ!」
「ああ、もう煩いわね! ただチャンスが来るまで待ってるのも暇だったのよ。
やっぱり直接触れないと無理っぽくてさ、どうにも手応えがイマイチなのよねぇ。
ていうか、そもそもあんた達が不甲斐ないせいで全然そのチャンスが来そうにないんだから、別にいいでしょ。
 それに、これくらいで潰せるなら苦労はないんじゃない?」
暴論と言えば暴論だが、確かにこれで消えるような奴じゃないよな。
凛だって、一応その辺には留意して攻撃したはずだ……と思いたい。

もうもうと立ち込める煙が風によって払われると、そこには多少服や髪に焦げ目がついてこそいるが、ほぼ無傷の闇の書がいた。どうやったかは知らないが、アレを防ぎきったのか。
いや、よく見れば地面に刻みつけられた今の攻撃の跡が不自然だ。
魔法陣は正三角形の頂点上に展開され、そこからまっすぐに攻撃は放たれた。
なのに、地面に刻まれた跡は正三角形の形をしていない。
頂点の位置が歪なそれを見るに、何らかの方法でいなすなり逸らすなりして直撃を避けたらしい。
まったく、やる方もやる方なら捌く方も捌く方だ。どっちも十分過ぎるくらいにぶっ飛んでいる。

と、そこへ……
「眼下の敵を打ち砕く力を、今ここに――――――――――――撃て、破壊の雷」
「あれは!? シールドを張れ!! 広域攻撃が来るぞ!!」
アレはたしか、シャマルが以前使った結界破壊の砲撃。
しかし、あれならちゃんと守れば耐えきれる。それはすでにユーノとアルフが実証済み。

だが、全員が身構えるも何も起こらない。
その代わりに現れたのは、奴の手の前に生じたミッド式の魔法陣。それも俺たちのよく知る桜色の……
「咎人達に、滅びの光を」
「っ!? ちっ、やられた。今のは―――――――フェイントか!」
まんまと引っ掛かったことに思わず舌打ちする。相手の攻性能力を警戒するあまり、過敏になり過ぎた。
詠唱と共に、魔法陣に向けまるで流星の如く周囲の魔力が次々と収束し、巨大な魔力の塊を作り上げる。

止めに入ろうにも、すでに手遅れだ。もう術は起動している。
「不味いぞクロノ! この距離でスターライト・ブレイカーの直撃など受ければ、防御の上からでも落ちる!!」
「総員退避! 行けるところまで行くんだ!!」
ある程度離れている俺はともかく、すぐ近くで戦っていたみんなはもたない。
とにかく距離を稼いで、威力の拡散を図らないと。

なのはをフェイト、凛をアルフが抱え、ユーノとクロノも大急ぎで退避していく。
距離のある俺は、少しでも発射の邪魔をしようと矢を射続けるが、それも先程と同じく赤い刃で撃ち落とされ時間稼ぎにもならない。
「なのはは一度蒐集されている。という事は、アレはその時にコピーされたものか」
しかも、聞くところによると闇の書はコピーした魔法を自分向けに影響を与える性質もあるらしい。
つまり闇の書の影響を受けたあの「星の光」は、広域攻撃魔法としての特徴を持つという事を意味する。
最悪「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」か「全て遠き理想郷(アヴァロン)」を使って、俺自身が盾になるか。

しかし、事態への危機感の薄いなのははとぼけたことをのたまっていた。
「フェ、フェイトちゃん。こんなに離れなくても……」
「至近で食らったら防御も意味がない。回避距離を取らなきゃ」
フェイトはそんななのはの手を取り、忠告しつつ全速力で空を駆ける。

(あのバカ……自分の魔法への危機感が無さ過ぎるぞ)
半年前、防御が薄いとはいえ、あのフェイトを一撃で轟沈させたのを忘れたわけじゃあるまいに。自己認識の甘い奴め。
反対に、一度モロに食らったことのあるフェイトは、その危険性を文字通り身をもって知っているだけに、全力で逃げている。

だが、そうこうしているうちにも闇の書は感情を感じさせない声で詠唱を続け、着々と準備を進めていく。
「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」
……ヤバいな。俺もいい加減逃げないと、この距離でも俺ごときあっけなく落とせるだろう。
少なくとも、フェイカーの防御限界を軽くぶっちぎっている。

みんなと俺の距離も、もうそれほどない。
三つに分かれたグループのどれかと合流して、協力して防御するべきか。
となると、一番近いのはフェイト達だ。

そう判断を下し、大急ぎで二人と合流するべく移動を開始する。
ビルの屋上を時に駆け、時に飛び跳ねながら次々と飛び移っていく。
また、ビルとの距離が開き過ぎている時にはライダーの釘剣を投影し対処する。
釘剣を投げ放って近場のビルへと打ち込むことで固定し、そのまま身を躍らせるのだ。
そうして振り子の様に弧を描きながら空中を移動し、離れたビルへと着地する。
まるで、森の木々を渡る猿かどこぞの野生児の様だな、これは。

それを幾度か繰り返すうち、フェイトとなのはが俺に追いつく。
「わかっているな。あれが発射されたら、一ヶ所にかたまって………」
「うん。全力で防御、だよね」
「えっと、そこまでしなきゃダメなの?」
「「君(なのは)はもっと自分のデタラメさを自覚しろ(しなきゃダメだよ)!!」」
「はぅ………」
二人で危機感の薄いなのはにダメ出しすると、気圧されたなのはが小さくうなだれる。

しかしそこで、バルディッシュからとんでもない情報がもたらされた。
《左方向300ヤードに人影。魔力反応なし、一般人です》
「え!? シロウ!!」
「ちぃ、次から次へと……先に行け! 私も後から追いつく!!」
「うん。行くよ、なのは!」
普通人がアレを受けたら、本当にどうなるか分かったもんじゃない。下手すると、冗談抜きで死ぬぞ。

その人たちを保護させるべく二人を先行させ、全速力で後を追う。
どこの誰かは知らないが、間にあってくれよ。



Interlude

SIDE-すずか

(いったい、何が起こっているの?)
自分で言うのもどうかと思うけど、わたしも割と非常識の側の人間だから、いろいろなモノに耐性はある。
そんなわたしにとっても、この状況は理解の及ばない非常識の極み。

突然人がいなくなったと思ったら、辺りも急に暗くなってしまった。
遠目には、なんだかよくわからないけど「長い何か」まで身を捩っている。
その上、桜色の光を放つ丸いモノが遠くの空に現れた。

初めは「一族」の人たちの仕業かと思ったけど、違う。
いくらわたし達が色々と人間離れしているとはいえ、ここまで外れたことはできない。
それこそ、まるで全てが幻だったかのように全てが唐突に変化するなんて……。
それに遠くにいるあんなモノ、見たことも聞いたこともない。

でも、一つだけわかることがある。
それは、もし何かあったらわたしが今隣にいる親友を守らなければならないという事。
「だめ、やっぱり誰もいないよ。なんなのよ、これ?」
周囲の様子を見てきたアリサちゃんは、困惑したようにそう言う。

アリサちゃんはわたしと違って普通の人間。ここで何かあったら、為す術もなく傷ついてしまう。
だけど、わたしはちがう。わたしには戦う力が……抗う術がある。
なら、何かあった時アリサちゃんを守るのはわたしの役目。
普段、わたしはアリサちゃん達に守ってもらっている。だから、今はわたしが守らなきゃ。

もし必要なら、この『眼』を使おう。しばらく前から少しずつ練習して、使うまでの時間は短くなっている。
それなりに使いものになるだろう、とは、練習をみてくれた友達の言葉。
以前のわたしなら、どんな状況であろうと友達の前でこれを使う勇気を持てなかった。
「化け物」と「怪物」と恐れられ、友達に嫌われるのが怖かったから。
何より、そんな人から外れた自分が嫌いだった。

今でもそれは怖い。この力も正直好きにはなれない。
でも、それとの向き合い方と付き合い方を教えてくれた人たちがいる。
そんなわたしの秘密を知っても、変わらず接してくれる大切な友達。
その人たちが、ほんの少しの勇気をくれた。今の自分を受け入れる勇気を。

「とりあえず逃げよう。なるべく遠くへ」
そう言って、アリサちゃんはわたしの手を取り走り出す。
わたしもアリサちゃんに合わせて走る。

アリサちゃんが受け入れてくれるとは限らない。
アリサちゃんならきっと、という思いもあるけど、どうかはその時にならないとわからないから。
もしかしたらやっぱり怖がられて嫌われるかもしれない。
そのまま話が広まって、この街にいられなくなるかもしれない。
それは、わたしにとって足元が崩れ去るような不安と恐怖。

だけど、それよりもっと怖いモノがある。
それは目の前で大切な友達が血に染まる姿。傷ついて血を流して、冷たくなってしまうのが堪らなく怖い。
そして、力があるのにそれを使わずにそんな事になってしまったら、わたしは絶対に自分を許せない。
それに比べれば、『力』を使うことへの抵抗なんて小さなもの。

(大丈夫、絶対に守るから)
嫌われても構わない、と決意を固め、アリサちゃんの手を少し強く握る。
その事に少し驚いた表情をしたアリサちゃんだけど、そのままわたしの手を握り返してくれた。
それは、言葉に出来ないくらい心強く、同時に嬉しい。
実を言うと、ちょっと泣きそうだったのだけど、それだけで涙は引いてくれた。

そこへ、何かが地面とこすれる音がしたかと思うと大きな土煙が上がる。
何かが起こったことを察したアリサちゃんは、それから逃げるように走り出す。

そんなわたし達に、よく知る声がかけられた。
「あの、すみません! 危ないですから、そこでジッとしててください!」
この声は、もしかして………。思わずアリサちゃんの手を離し、足を止める。

それはわたしだけではなく、アリサちゃんも足を止め、同時に振りかえっていた。
「え?」
「今の声って……」
振り返った先はまだ土埃で覆われ、人影がかろうじて見える程度。
まだ、そこに誰がいるかはわからない。わかるのは、人影が二つあること。
一つは道路に、もう一つは少し高い所(おそらくは街灯の上)に。

土煙が徐々に晴れていき、段々とその人たちの顔が見えてきた。
「……………………なのは?」
「……………………フェイトちゃん?」
そこにいたのは、わたし達のよく知る二人。アリサちゃんと同じ、掛け替えのない友達だった。
二人は、見たことのない服装で杖のようなモノを持って、驚愕の表情を浮かべる。
何となく、わたしとアリサちゃんも同じような表情をしているんだと思った。

二人に少し遅れて、もう一つよく知る声が上空から響く。
「何をしている! 急げ、来るぞ!!」
空から降って来たのは、赤い人影。
彼もまた、わたしのよく知る友達。わたしに勇気をくれ、わたしの秘密を知ってなお変わらず接してくれる人。
そして、わたしにとってはある意味「友達以上」の想いを寄せる人だった。

不意打ちだったせいか、その声に思わず顔が熱くなる。
だけど、それと同時に気付く。彼がああいう口調をしている時は、非常事態の時。
ならきっと、今は切迫した状況にあるのだろう。

Interlude out



SIDE-士郎

フェイト達に追いつくと、そこにいたのはすずかとアリサだった。
なんだってよりにもよってこんなところに、とも思ったが理由なんてわかるはずもない。
一つ言えるのは、理由は何であれここに取り込まれてしまったという事。

とにかく時間がない。
もう光球は限界レベルまで大きくなっている。
おそらく、もう間もなく発射されるだろう。

とにかく二人の元に駆け寄ろうとしたところで、決して聞こえない筈の距離でありながら、その一言が聞こえた気がした。
「スターライト……………ブレイカー」
体が戦慄に震える。不味い、もう事情を説明している時間すらない。

思わず振り向くと、巨大な光球から一筋の光の線がこちらに向けて放たれる光景が見えた。
それはかなり離れた場所に着弾する。
だがそれで終わらずに、着弾したところから一気に桜色の光の塊が広がっていく。
次々とビルを飲み込んでいくその光景は、悪い冗談か悪夢のようだ。

しかし、いつまでも突っ立ってるわけにはいかない。
あれは、間もなくこちらにまで届く。なのはもそれに気付き、フェイトに声をかけた。
「フェイトちゃん、アリサちゃん達を」
「うん。二人とも、そこでジッとして!」
《Defensor Plus》
バルディッシュは二発のカートリッジをロードし、二人に半球状の防護膜を展開する。

よし、あとは……
「私が最前列で受ける! 次になのは、最後尾にフェイトだ! 全力で守れ!!」
「で、でも、もし防御が破れてあんなのの直撃を受けたら、わたしたちでも……」
「士郎君は、大丈夫なの?」
「説明している時間はない! 早くしろ!!」
有無を言わせぬ語調で指示を飛ばす。勝算はある、だから任せろと言外に告げて。
とはいえ、アレを使えば問題はないはずだが、万が一という事もある。
念のため、二人にもしっかり守っておいてもらわないと……。

そんな俺の指示に二人は一瞬逡巡する。
如何に俺の手に概念武装があるとはいえ、あの「破壊の具現」を防ぎ切れるか疑問をぬぐえないのだろう。
だが、真っ先に動いたのはフェイトだった。
「……うん! お願い、バルディッシュ!」
《Yes, sir》
フェイトはすずか達の前に立ち、バルディッシュの先端からシールドを出力する。

しかし、自体を目の前にしてやっとこの危険に実感を持ったなのはは、未だ踏ん切りがついていない。
「フェイトちゃん……!」
「シロウを信じよう、なのは。きっと、大丈夫だから」
「…………そうだね、レイジングハート!」
《Wide Area Protection》
フェイトの言葉に覚悟を決めたのか、なのはも俺のやや後ろに立ちカートリッジを二度ロードする。
そうして、バリアタイプの防御魔法をレイジングハートの先から展開した。

それを確認した俺は二人のさらに前に出て、右手を突き出しつつ片目を閉じ呪文を紡ぐ。
最速で自己の裡に埋没し、剣の丘からそれを引き上げる。
「『投影(トレース)、開始(オン)』」
作り上げたのは、一本の槍。目の前にまで迫る、桜色の光の壁の前にはまるで爪楊枝のようだ。
第三者が見れば、あまりに滑稽な姿に映るだろう。
この圧倒的な力を前に、小細工など無意味。津波を相手に人が出来ることなどたかが知れている。
ましてや、呑まれてしまえばあとは蹂躙されるが必定。

しかし、今ここにその必定を覆す。
その槍を両手で固く握りしめ、俺は迫りくる光の壁に対する。
槍を突き出し、やがて穂先が光の壁に触れる。その瞬間、桜色の壁が―――――――――――――引き裂かれた。
「………………………………………………すごい」
後ろから微かに聞こえたのは、はたして誰の声だったろう。
辺りを埋め尽くす光の奔流とそれに伴う轟音のおかげで、正確なところは判別がつかない。
完全無欠で一般人のアリサか、それともすずかだろうか。あるいは、全員だったかもしれないな。

同時に、それはある意味で当然の反応なのだろうとも思う。
実際、地面に以外のどこを見ても、ビルも木々も、その全てが桜色の光で塗りつぶされているのだ。
にもかかわらず、境界線でも引かれた様に、あるいはあらかじめ敷かれたレールの上を通る様に、光は俺たちを避けて通っている。
非常識な光景の中に生まれた、さらなる異常。これには、フェイト達も息をのんでいる事が気配でわかる。

しかし、皆にとっては驚愕するような光景でも、俺にとってはそうではない。
なぜなら、この手にあるのは魔を断つ赤槍「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)」。
およそ2メートルの赤い槍にして、穂と柄の間には先端から順にゲボ(贈り物、物惜しみしない)、ベルカナ(白樺の枝)、ナウシズ(困苦)、エイフワズ(櫟の木、材)、テイワズ(軍神テュールの象徴)が刻まれた魔槍。
ディルムッド・オディナが養父であるドルイドのアンガスから贈られた槍で、物理手段によってしか防御できない“宝具殺し”の槍。
その能力は、魔力によって編まれた代物や魔力の塊、魔術的な強化・能力付加の全ての無効化。
どれほどの破壊力があろうと、それが魔力による直接攻撃である限り、この槍が破れることはあり得ない。

槍の穂先に振れた瞬間魔力は霧散し、そこから円錐形に光の奔流は引き裂かれ隙間が生まれる。
まあ、俺のすぐ横を光の奔流が流れていく様は、圧巻を通り越して怖気を覚えるけど。
もしこれの直撃をコイツ(ゲイ・ジャルグ)無しで受けていたらと思うと……ゾッとする。
やはり、なのはは一度自分のとんでもなさを自覚すべきだ。

そうしているうちに、一時は果てが無い様にさえ思えた光の奔流にも終わりがやってくる。
桜色の光越しに向こう側の光景、本来あるべき街並みが見てとれた。
「――――――――――抉れ、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)」
あと僅かとなった魔力の壁を、槍を大きく振るって掻き消す。
そうして開かれたのは、先程までの光景が嘘のように静かな街並みだった。

とりあえず、今の攻撃の余波による建物の崩落などはないらしい。
それはつまり、攻撃対象を正確に指定、あるいは限定しているという事だろう。
広域攻撃なんてしてくるくせに、見境があるんだかないんだか……。

とりあえず周囲の安全確認を済ませ、その上で後ろのみんなの様子を見ると全員無事なようだ。
自分の状態もついでに確認するが、特に支障はない。槍を持っていた腕にも、痺れや痛みはない。
こうしてその効果を実感する度に思うが、宝具さまさまだな。

すずかたちについては、このままにしておくわけにはいかないが、たぶん大丈夫だろう。
既に事態を知ったユーノ達が、エイミィさんに避難要請をしているらしい。
まだ完全には余波が治まっていないが、治まり次第安全なところに転送してくれるそうだ。

見れば、すずかとアリサは互いに抱き合い身を寄せている。あんなモノを突然見たんだ、当然の反応だな。
そこへ、フェイトとなのはが二人に優しく声をかける
「もう、大丈夫」
「すぐ、安全な場所に運んでもらうから、もう少しジッとしててね」
「あの……なのはちゃん、フェイトちゃん。それに………士郎君」
「ねぇ、ちょっと………っ!? 後ろ!」
何かに気付いたアリサが、俺の方を指さして警告する。

しまった!? 今の余波で場が乱れていたせいか、反応が遅れた。
すぐさま手に持った槍に力を込め、迫ってきていたあの触手に向けて槍を薙ぐ。
「はぁっ!」
何とか間に合い、体に触れる寸前でそれを薙ぎ払う。スレスレで間に合ったか。
同時に、フェイト達もそちらから迫る何十という触手を魔力弾や魔力刃で叩き落とす。

しかし、俺達がそちらの事に気を取られている隙に、反対方向から件の蛇の化け物の尻尾のようなモノが迫る。
反応した時にはすでに遅く、すれは二人のすぐそばにまで迫っていた。
「すずか! アリサ! 逃げろ!!」
フェイト達にその場を任せ、何とか二人の助けに入ろうとするが致命的に遅い。
渾身の力でゲイ・ジャルグを投じるが…………間に合わないか。

絶体絶命のピンチの中、アリサが動いた。
「危ない! すずか!!」
「アリサちゃ……きゃっ!?」
アリサがすずかを突き飛ばす事で、なんとかすずかだけは窮地を脱した。
だがその結果、一人残ったアリサに向け、鈍い光を放つそれは振り下ろされる。

「アリサちゃん!?」
「アリサ!?」
それを見たなのはとフェイトが悲鳴を上げる。
だが、二人も目の前に迫る触手への対応に追われ動けない。

誰もが、アリサが叩き潰される光景を幻視した。
しかし、それは起こらない。なぜなら……
「な……なに、これ。どうなってるの?」
尾はアリサに触れる寸前でピタリと止まり、それ以上落ちてこない。
それどころか、内側に向けて徐々に縮んでいく。それと前後して、投げ放った槍が尾を捉え――――爆発する。

爆発によって吹き飛ばされた尾はアリサから少し離れたところに落ち、ジタバタとしばらく動いた後、息絶えたのかその動きを止めた。
誰もが不思議そうにしている。フェイトとなのはもお互いに顔を合わせ、首を振りあう。
おそらく、「自分じゃない」という意思表示だろう。
また、俺の能力ではこんな真似は出来ず、それはフェイト達も知るところだ。

ならば、後は消去法ですずかかアリサだが、アリサの呆然とした表情がその可能性を否定する。
故に、残る人物は一人だけ。皆の視線は、自然とその人物に集中する。
そして俺だけが、正確に事態を把握していた。
「すまない、助かった」
「う、ううん。よかった、アリサちゃんが………無事で」
まるでたった今全速力で短距離走をしてきたかのように、すずかの息は荒い。
だいぶ使用に慣れてきたとはいえ、それでも元から負担の大きい能力だ。
むしろ、あの一瞬で発動させられた練習の成果こそ評価すべきだろう。

とはいえ、さすがにあの質量と咄嗟の事だったせいか、本来の効果はあまり発揮されなかったな。
どちらかと言えば、咄嗟だったことが主な原因だと思う。なにせ、これでもまだ練習不足は否めないからな。
そうでもなければ十全に効果を発揮し、アレが相手でも難なくとはいかずともちゃんと潰せただろう。
すずかの能力には、それだけの力があるのだから。

赤みを帯びていたその瞳も、すぐに元の色に戻る。
だが、フェイト達も見ただろうな。
「いまの…すずかちゃんが?」
「………………………」
なのはの問いに、すずかは俯いて答えない。
しかし、この無言こそが何よりの肯定の証だ。

とはいえ、唯一事情を知る身として言わせてもらえば、今はそれどころではない。
みんなには悪いが、ここは話を先送りにさせてもらおう。
「話は後だ!! それに何を驚いている、フェイト・なのは。我々とて似たようなものだろう」
先天的な魔眼持ちは確かに希少だし、すずかのそれは強力だ。
だが、正直だからどうした。俺たちだって十分非常識な存在だろう。
アリサの反応はまだしも、お前達が驚くようなことか。もっととんでもないマネができるくせに。

「あ………にゃははは、そう言えばそうだね」
「うん。全然人の事言えないや」
ああ、そういう頭の柔軟なところはお前達の長所だよ。

さて、こちらはこれでよし。あとは、アリサか。
無理もないと言えば無理もないのだが、このままというわけにもいかないか。
……………まあ、やりようはあるな。半年程度の付き合いだが、そのくらいは把握している。

故に、できるだけ大仰に、持てる演技力の全てを以て「ワザとらしく」振る舞う。
胡散臭いくらいに「ワザとらしく」やるのがポイントだ。
「ところでアリサ、まさか怖くなったのかね? 君ともあろう者が、この程度の些事ですずかを拒絶すると?
 ああ、腰でも抜けたか? いや、まさか…………失禁ではなかろうな?
 親しい仲とはいえ、さすがに人前でそれは如何なものか……」
「ち、違うわよ! っていうか、何サラッととんでもなく失礼なこと言ってんのよ!!
 誰も漏らしてないし、腰だって抜けてない! あんまふざけたこと言ってると、その頭かち割るわよ!!」
「ああ、それでこそアリサ・バニングスだ。やっとらしくなってきたようで安心したよ」
いやはや、面白いぐらいに食いついてきたな。
俺の出した予想の恥ずかしさの余り、赤面しながら怒鳴りつけてくる。
というか、よく知ってたな「失禁」なんて言葉。お兄さんはそっちにビックリだ。

まあそれはそれとして、普通の人間ならそんな簡単な話じゃないはずなんだがな。
それに、こんな状況下でそうやってちゃんと羞恥心を感じて怒れるあたり、アリサはかなりの大物だ。
なにせ、アリサは非日常の世界の住人でもなければ人生経験豊富な大人でもない。
にもかかわらず、きっかけがあったとはいえ、すぐに「本来の自分」を取り戻せるのは非常に稀有な資質だ。
本当に、そういうところはさすがだよ。お前のそういうところには、尊敬の念さえ抱いてるくらいだ。

などと心の内で感心していると、アリサがワナワナと震えだす。
「あ………アンタまさか、はじめからそのつもりだったわけ!?
 だとしても、もっとやり方ってものがあるでしょうが!」
「さて、何のことかな? ああそれと、あまり慌てていると図星を指されたようにも見えるぞ」
「…………こ、こぉのぉ…ヴァカァ――――――――ッ!!」
叫びながら、手近なところにあった小石を投げ付けてくるアリサ。
もちろんそんなモノに当たるはずもなく、ヒョイヒョイと気軽に避ける。
不味いな、こうやってからかうのが癖になりそうなくらい期待通りの反応だ。

そこですずかとアリサの足元に、白い魔法陣が出現する。
やっと、来たか。もう少し早ければ面倒がなかったんだがな。
「ちょっと士郎! 何よ、これ!!」
「安心しろ。それで安全なところまで行ける。というか、なぜ私を怒鳴る」
「うっさい! 何もかもあんたが悪い!! あと、その話し方なんか気色悪いからやめろ!!」
ははは、酷い言われようだ。俺はお前のことを心配してやっているんだぞ。
こんな心配のされ方は有難迷惑という気はすっごくするが、それでも気遣っているのは嘘ではない。
それとアリサ、人を指さすもんじゃないぞ。

「アリサ」
「何よ!!」
「すずかを頼むぞ。だいぶ消耗しているようだからな、君が………守ってやってくれ」
「………………………………………………………………………………当たり前でしょ。友達を見捨てるような恥知らずじゃないわよ、わたしは。知ってるでしょ」
「ああ、確かにその通りだ」
アリサもこれで大丈夫だろう。元から、アリサがすずかを拒絶するなどとは思っていない。
アリサは確かに俺たちの中で一番「普通」な、一般的な常識の世界の住人だ。
しかし、それでもアリサが「非凡」な人物であるのも事実。
頭脳をはじめとした「能力」だけでなく、その「人格」もまた。そして、この反応こそがその証左だろう。

だが、間が悪かった。こんなタイミングで知れば、誰でも混乱してしまう。
そうなれば、如何にアリサといえどすずかの手を払ってしまうかもしれない。
しかし、普段のペースを取り戻せたようだし、もう大丈夫だろう。

「士郎! それになのはとフェイトも!
 どういうことなのか、あとできっちりしっかり説明してもらうからね!!」
「え、えっと………なんだかよくわからないけど、頑張って! それとケガしないでね!」
「ああ、任せろ。ちゃんと守ってみせるさ」
「むしろアンタが危ない!」
「うん。二人とも、士郎君の事しっかり見張っておいてね!」
おいおい、俺はそんなに信用がないのか?
言いたいことだけ言って、二人は光りに包まれこの場から姿を消す。
あの二人、一度ゆっくり腰を据えてその辺を話し合う(追及してやる)必要がありそうだな。

そこで、なのはが二人の事で訪ねてくる。
「士郎君、ユーノ君に二人の事を任せた方がよくないかな」
「いや、それならリニスに任せよう」
二人のことは確かに気がかりだが、ここで戦力を減らすのは不味い。
今だって、決して楽観できる状態ではないのだ。
ここで戦力が減れば、均衡が破られて押し切られるかもしれない。
そのままエイミィさんに頼んで、二人をリニスの元に送ってもらう。
リニスは戦闘区域にいるわけでもないし、安全地帯にいるなら大丈夫なはずだ。

そこへ凛とアルフ、ユーノとクロノが合流する。
四人ともちゃんと防ぎ切ったようで、特に負傷らしきものは見受けられない。
「士郎・なのは・フェイト、アンタ達ちゃんと生きてる?」
「勝手に殺さないでくれんか。そう簡単に死ぬほど往生際は良くないつもりだよ」
ただ、凛のこの物言いには異を唱える。心配してくれているのだろうが、もう少し言いようがあるだろう。

それはなのはも同意見らしく、ふてくされたように抗議する。
「凛ちゃん、そんな縁起の悪い事言わないでよぉ……」
「まったくだ。撃たれたのがスターライト・ブレイカーだと、尚更シャレにならん。
 半年前にフェイトが味わった恐怖が、よくわかる体験だった。あんなものを使うのは鬼か悪魔の類だな」
「そうそう……………………………って、士郎君ヒドイ!? わたしは鬼でも悪魔でもないもん!!」
「ゴメンなのは、わたしは概ねシロウに賛成」
「フェイトちゃんまで!? ヴィータちゃんもそんなこと言ってたし、皆わたしの事なんだと思ってるの!?」
「「…………………………」」
俺とフェイトはあえて無言。その意味を察したなのはは、地面に「の」の字を書いていじけ出す。
だけどな、そんなこと言いつつお前も一度頷いたじゃないか。
それはつまり、自覚してるかどうかはともかく、そういう認識があるってことだろ?

「はいはい、漫才はその辺でいいわよ。ま、それだけ減らず口が叩けるなら大丈夫ね。
 あとなのは、ナックルパート逝っとく? ダブル? トリプル?」
「立ちます! 立ちますから、気合い注入はいりません!!」
う~ん、スパルタ。相も変わらず、凛の指導方針は鞭が九割である。

そんな(一応)微笑ましいやり取りを眺めていたいところではあるが、状況はそれを許してくれない。
「そこまでだ! 来るぞ!!」
こちらが無事を喜んでいる間にも、闇の書からの攻撃が来た。
無数のブラッディダガーが飛来し、全員が散り散りに避ける。

そこへ、闇の書自身があらわれ、先ほどの触手群を再度召喚する。
「まったく、鬱陶しい!!」
飛来する無数のダガー、そして蠢く触手。
その両者を投影した干将・莫耶で叩き落とし、時には避け何とか闇の書に近づこうとするが叶わない。
他のみんなも、それぞれ邪魔モノを排除しようとするが、後から後から湧いてきてキリがない。

「鋼の軛」
闇の書が次に使ったのは、いつかザフィーラが使っていた魔法。
いくつもの白い棘が地中から出現し、皆の動きを阻む。
考えてみれば、守護騎士を取り込んだ以上その魔法も使えて当然か。

それらを回避しつつ、なのはが再度闇の書への説得を試みる。
「もうやめて!! ヴィータちゃん達ははやてちゃんを助けたかった。間違ってたかもしれないけど、それでも頑張ってた。でも、今あなたのしていることは、それを無かったことにしようとしているのと同じなんだよ!!」
「私は、ただ主の願いを叶えるだけだ。いや、せめてそれだけでも為さねばならない。
私が主にして差上げられることはそれだけなのだ」
「そんな………そんな願いを叶えて、それではやてちゃんはホントに喜ぶの!」
迫りくるダガーと触手を撃ち落としながら、なのはが叫ぶ。

「心を閉ざして、何も考えずに主の願いを叶えるための道具でいて、あなたは………………それで良いの!!」
「何を言っている。我は魔導書、ただの道具だ。是非もない」
「だけど!!「ああ、それはそれで構わんさ。それも一つの在り方だ」…士郎君!?」
なのはの言葉に割り込む形で、俺は奴に向けて言葉を紡ぐ。
別に、奴のそういうあり方を否定するつもりはない。道具として、感情など持たずにあるのもいいだろう。
奴が道具というのも事実だ。奴がそれで満足ならそれもいい。

だが、そうでないのならそれを認めるわけにはいかない。
「一つ聞かせろ。お前はそれで良いのか? 己の手で主を殺してしまって」
「良いわけがない。許せるはずもない。
だが私が私を許せずとも、私が私をどれだけ呪っても………何も変わりはしない。
こんな壊れた私に出来ることはただ一つ、主のこの願いを叶えることだけ。
絶望に沈むこの身には、それがただ一つの答えだ」
「違うな。お前は絶望したんじゃない、絶望から這い出す事を諦めただけだ」
きっと、こいつはもうずっと昔から止まっている。
絶望に打ちひしがれ、そこから抜け出す努力を放棄し、眼を閉じ耳を塞ぐ。

こいつが、そこにたどり着くまでどれだけ足掻いたのかは知らない。
いったい何度儚い希望に縋り、いったい何度絶望に叩き伏せられてきたのだろうか。
確かにそれは、俺には理解の及ばない地獄のような苦しみかもしれない。
だがそれでも、目の前にある希望から目を逸らすなど認めない。

「同じことだ。どちらにせよ、この身が絶望に沈んでいることには変わらない」
「いいや、違うな。絶望したとしても、願望はなくならない。
 こうしたい、こうでありたい、こうあって欲しい。どんな状況にあろうと、欲が尽きることはない。
お前はただ諦め、自分の願いを抑え込んでいるだけにすぎん! ある筈だ、お前の本当の望みが……」
「そんなもの、元より持ち合わせてはいない」
「はっ! 笑わせるな!!
 では、なぜお前はこんな事をしている? はやては命ずる事無く、ただ『望んだ』だけなのだろう?
 にもかかわらず、お前は『命無く』その望みを叶えようとしている。それは、お前が、『そうしたい』からに他ならない。ならば、それこそがお前が自発的に行動する理由……即ち願望だ。
『持っていない』など、赤子も騙せん幼稚な嘘にすぎん。
思い出せ! その先の願いを、望みを! お前は、本当はシグナム達が……羨ましかったんじゃないのか?」
確信があったわけじゃない。だけど、こいつの眼を見ているうちに……そんな気がした。

はやてと言葉を交わし、共に歩み、主を守るために力を振るえた守護騎士たち。
それは彼らにとっての本懐。たとえ望まぬ状況であったとしても、充実したモノだったろう。
だけど、こいつにはそれが出来ない。願っても願っても果たされない。
それをしたくとも、こいつが目覚めた時にはすでに終わりは間近。
その上、自分の存在そのものが主を食い殺してしまう。
それは、どれほどもどかしく、どれほど悔しいことだろう。

「私は道具だ。そのような感情はない。怒りも、悲しみも、願望も、何もありはしない」
「泣きながら言っても、説得力に欠けるぞ」
「この涙は主の涙。涙を流す機能など、私にはない」
まったく、これは筋金入りだ。何と言っても頑として受けいれない。

凛はまとわりついてくる触手やダガーを外套の効果による空間歪曲で逸らし、時に魔力刃を出力したカーディナルで斬り落とす。
また、それらに向けて明らかに不必要なまでの火力の攻撃をしながら、苛立ったように声を荒げる。
「『Brennen Sie(劫火よ、), verbrennt alle Schmutzigkeit(不浄を焼き尽くせ)!!』
ああ、もう! ジメジメジメジメ、鬱陶しい!! アンタね、自分が道具だってんなら出しゃばり過ぎなのよ!
 はやてが望んだのは『悪夢であって欲しい』なんでしょ。
なら、はやてを眠らせた後は大人しくしてなさいよね!!」
いや、一応守護騎士達を傷つけた相手に復讐したいって思ったのかもしれないし。
さすがにそれは、無茶苦茶だぞ。

同時に、一条の金色の光が翔け抜け、全ての触手とダガーを切り裂き叩き落とす。
それは、マントを消しより身軽となった、「ソニックフォーム」のフェイトだった。
ただでさえ薄い防御をさらに薄くし、その代わりに頭抜けたスピードを可能にする諸刃の刃。
危ないから使うなって言ったのに、あんまり心配させてくれるなよな。

「悲しみなどない? そんな言葉を、そんな悲しい顔で言ったって………誰が信じるもんか!!
 お願い、止まって。わたし達がちゃんと、あなた達を助けるから……そうすれば、あなたの望みもきっと叶う」
一時の小康状態。その機を利用し、フェイトもまた心からの説得を試みる。

しかしそれも、突如立ち昇ったいくつもの火柱にさえぎられる。
「はやいな、もう崩壊が始まったか。私もじき……意識を失くす。そうなれば、すぐに暴走が始まる。
 ならせめて、意識のあるうちに主の望みを…………………………………………叶えたい。
 お前達の言う通りだ。確かに私にも望みがある。せめて、主の望みを叶えたという事実が欲しい。
それが…………私の望みだ」
うおぅ、トコトンなまでに後ろ向きだな、おい!?
まったく、こいつが闇の書なのは、その性質じゃなくて抱える心の闇の方が原因だろ。
……………………いったい、どれだけこいつの絶望は深いんだ。

とはいえ、このままでは埒が明かない。
時間も差し迫っているし、何か奴に隙を作らせる方法はないものか。
時間切れで何もできなかったでは、笑い話にすらならない。

さらに速くなったフェイトが相手を翻弄するも、決定的な隙が出来ない。
俺やクロノ、それになのはも援護射撃をするが、それでもなお不動。
ユーノやアルフがバインドで拘束しても、それらと並行しながらバインド破壊をしてのける。
凛も、いつでも突っ込める体勢を整えながら、その機を掴めずにいた。

しかしそこで、アルフが小声で俺に告げる。
「あたしが何とかする。そのあとは………頼むよ」
こちらからの反応を確認せず、アルフは狼形態を取り、顔が地につきそうなほど低く構える。
そうか! それならいけるかもしれない。

「凛! アルフに続いて突っ込め! フェイト、反対側から凛と同じタイミングで飛べ!!」
俺は矢継ぎ早に指示を出しつつ、アルフの邪魔をさせまいと彼女に迫る攻撃を撃ち落とす。

そうして――――――――――――――――アルフが消えた。
「なっ!?」
驚きの声は闇の書からのモノ。そのわき腹には、三本の鋭い何かで引き裂いた跡がある。
そしてその手前には、一瞬のうちに後ろからすれ違ったアルフがいた。

俺の眼で何とか動きを終えるような、そんな刹那の交錯。
周囲を囲む高層ビルや街灯を利用し、それらを蹴って一瞬のうちに奴の背後を取って攻撃したのだ。
事実、アルフの足跡を現わすように、幾つかのビルの壁面には破損が見られ、街灯も数本へし折れている。
アルフは確かに、殺人貴の得意としたあの動きの一端をここに再現した。
気配の消し方が甘いし、奴ならもっと迅く・巧く、そして静かに動けるだろう。
壁面や街灯の破損が、技の粗さを物語っている。

しかし未熟ではあるが、それでもアルフの技が活路を開いた。
「いまだ、行け!!」
俺が叫ぶのとほぼ同時。
凛とフェイトは一気に間合いを詰め、闇の書に飛びかかる。

フェイトと凛では、確実にフェイトが速い。
当然、闇の書へと到達するのもフェイトの方が先。
だが、それはわずかな違いに過ぎない。その僅かな違いが、時間差攻撃となりタイミングにズレを生む。
フェイトの攻撃をかろうじて防いだ闇の書だったが、それに半瞬遅れて近づいてきた凛には間に合わなかった。

凛の左手が闇の書に触れ、奴の体が電撃でも受けたかのようにはねる。
あらかじめ、はやてのうちに流し込まれていた魔力が活動を始めたのだろう。
魔術刻印の光りが増し、さらに凛の手から魔力が注ぎ込まれる。
あとは、このまま凛がはやてを起こし、管理者権限を握らせることができれば……。

しかし、それとほぼ同時にアルフが力尽きた様に道路に落ちた。
俺はそちらへと移動し、倒れたアルフに襲いかからんとする触手を排除しつつ、その様子を見る。
結論は、無茶な動きをした事による反動。この前も一度やったようだが、あの時よりひどい。
あの時は緊急避難的に咄嗟にやった程度だったのに対し、今回は渾身の力を振り絞ってのモノ。
おそらくはその違いだろう。

これで、アルフは戦線離脱か。魔法は使えるだろうが、体が戦闘に耐えられない。
そう判断し、アルフをこの場から退かせる。
「エイミィさん! 今すぐアルフの転送を」
『了解!』
「悪いね、こんなところで」
「気にするな、君は十分な働きをしてくれた。あとはこちらが何とかしよう」
アルフに心からの労いの言葉をかける。
正直、アレを教えはじめた時には、こんな形で重要な役割を持つとは思わなかった。
アルフの頑張りに応えるためにも、何としても……。

しかし、闇の書も一筋縄ではいかない。体に触れる凛を突き放そうと、緩慢ではあるが動き出す。
それを阻もうと、ユーノとクロノ、それになのはがバインドで、俺も投影した鎖で奴を拘束する。
力の限り引き、奴の動きを阻む。

だが、そこで俺たちはミスに気づく。
魔法を使うのに、別に体を動かす必要はない。
そして、バインドが使えるのはこちらだけではないのだ。

闇の書の背後から黒い光の帯が現れ、すぐ間近にいた凛とフェイトに絡みつく。
二人は何とかそれを振りほどこうとするが、予想外の強固さに辟易する。
「げっ!? 邪魔よ、この……!」
「か、硬い! このままじゃ……」
「お前たちも、我が内で………眠ると良い」
奴はそう言い、魔導書の方の闇の書が光を放つ。

なにをする気か知らないが、絶対にそれをさせてはいけない事だけは間違いない。
「させるか……ちっ、どけ!!」
だがそれも、こちらに伸びた光の帯に邪魔された。
迫る帯の数は十を超え、それらを叩き斬るうちに時間が過ぎる。

そして、闇の書が一際強い光を放った時、それは起こった。
「あ…なんかヤバいかも。士郎、あとは………………」
「闇に―――――――――沈め」
「「あ、ああああああああああああああぁぁぁあぁぁぁあぁぁ……!!」」
二人はそれぞれの魔力光に包まれ、光の粒となり消え失せる。

「凛!!」
「フェイトちゃん!!」
「全ては、安らかな眠りの内に………」
闇の書はそう言って瞑目する。

まさか、主以外も取り込めたなんて………誤算もいいところだ。
凛とフェイトという戦力を失った以上、このままだと相当厄介なことなるぞ……。

同時に、みんなの間で重い空気が充満する。
誰もが思っただろう。「凛が消えた以上、この計画は失敗だ。もう第二次ラインに賭けるしかない」と。
唯一人の例外を除いて。






あとがき

はっきり言いましょう、闇の書ハンパねぇ!!
物語の進行上仕方がなかったとはいえ、異常なまでの強さ。
ま、まあそれでこそロストロギアってことで……。
ただ、はやてがこの異常な強さを引き継ぐと問題ありますね。さすがに強すぎます。
まあ、夜天の書が消えてしまえば魔力はともかく運用面では能力の低下は免れませんから、それでいいのかな?
しかし、それだとリインフォースが……。

それはそれとして、スターライト・ブレイカーを防御した時ですが、実は他に二つくらい案がありました。
まあ、わかると思いますが「アイアス」と「アヴァロン」ですね。
アイアスの方は、どの程度の破壊に止めるかのさじ加減が難しい。
対して、アヴァロンの方は「遮断」であり、この世界における究極の護りって触れ込みなのでドラマがない。
そういうわけで、本来防御用ではないゲイ・ジャルグを使ってみました。
というか、魔力による直接攻撃にはアレが一番ですよね。
ちなみに、今回のアレは別に真名開放とかではありません。
常時発動型の宝具であるゲイ・ジャルグに真名開放とかってあるのかよくわかりませんけど。

ちなみに、グレアムが影も形も出てきてませんが、これは本局の方で拘束されているからです。
一応責任者と言うか主犯なので、ある程度予想していたクロノがあらかじめ手を打っていたと思ってください。
それにグレアムを押さえておけば、それは使い魔であるリーゼ達を押さえたのとほぼ同義ですからね。
リーゼ達を一時的に自由に動けるようにするための、「代償行為」的なものだと思っておいてください。
まあ、本当はこれ以上参加人数が増えると私の手に負えなくなる、というのが一番の理由なんですけどね。
あまりにも人数が多すぎて、書くのが大変なんですよ。これ以上増えたら、もう許容量を超えてしまいます。
いや、結局は愚痴なんでしょうけど……。


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