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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第34話「魔女暗躍」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/15 14:15

SIDE-士郎

場所は、アースラの会議室。
アースラがまた使えるようになったことで、一応本部もここに移された。

そのアースラの会議室で、俺たちはつい先ほどの戦闘について話している。
「リンディさん、フェイトは?」
「大丈夫。あちこち傷だらけだけど、痕が残ることもないし、二・三日休めばそれもなくなるそうよ。
 これも全部、士郎君の対応が早かったおかげね。改めてお礼を言うわ、ありがとう」
「……いえ、そんなことは………………」
正直、素直にそうとは思えない。
本当は、もっとうまくやることもできたんじゃないだろうか。
俺がもっとしっかりしていれば、最後の場面でフェイトが無理に魔法を使うこともなかったのだから。

「とはいえ、あんな状態で無理して魔法を使ったから、今日は一日安静にしておくべきでしょうね。
 まったく、なのはさんといいフェイトさんといい、無茶が過ぎるわ」
そう言って、リンディさんは「やれやれ」と言う表情をして呆れている。
引き合いに出されたなのははと言うと、眼を逸らして笑ってごまかしていた。

と、そこで話は俺達が戦っていた時の駐屯所の方に話が移る。
「そう言えば、エイミィ。駐屯所のシステムが落ちたって聞いたけど、何かわかった?」
「うん、みんなが出てしばらくして、駐屯所の管制システムがクラッキングで、あらかたダウンしちゃったんだ。
それで、指揮や連絡が取れなくて…………ごめん、私の責任だ」
凛からの問いに、エイミィさんは俯いて謝罪する。
なるほど、あの時通信が取れなかったのはそう言うわけだったのか。

「まあ、あんまりに気にしない方がいいよ。幸い、そこまで悪いことにはならなかったんだしさ。
それに、エイミィがすぐにシステムを復帰させたから、アースラと連絡が取れて、こうして迅速にフェイトの治療に当たれたんだし。なぁ?」
そう言って慰めるのは………えっと「リーゼロッテ」さん、だったか?

たがそこで、リンディさんが疑問を呈する。
「でも、おかしいわね。向こうの機材は管理局で使っているモノと同じシステムなのに。
 それを外部からクラッキングできる人間なんて……いるものなのかしら?」
「いないということはないんじゃありませんか? 結局は人の作ったものですし」
「まあ、士郎君の言うことももっともなんだけど、さすがに防壁も警報も全部素通りでシステムをダウンさせるなんて、いくらなんでも………」
そうエイミィさんは言うが、可能不可能で言えば可能だろう。
この手の技術というものは、結局はイタチごっこだ。
どれだけ新しいモノを作っても、それを破る者がいて、だからより優れたものを開発する。
それは同時に、そう言うレベルの技術者が関与しているということになるんだが。

「エイミィ、対策の方は?」
「はい、ユニットの組み替えはしてますけど、もっと強力なブロックを考えないと……」
「そんな技術者を抱えているとすると、もしかしたら組織だって動いているのかもしれないね」
とはリーゼロッテさんの言。
もしそうだとすると、かなり厄介な話だな。
他の面々も同じ意見なのか、深々と溜息をつく。ただ一人、凛を除いて。
興味がないのか、それとも……。

そこで一端会議は打ち切られ、アースラに司令部を移す旨を伝えられる。
フェイトの事はリンディさん達が見てくれるそうで、俺たちは一度アースラを降りる事となった。



第34話「魔女暗躍」



SIDE-アイリ

「冬木の聖杯、彼は本当にそう言ったの? シグナム」
「ええ、間違いありません。アイリスフィールはその護り手か、と聞かれました」
これは、どういうことなの?
この世界に冬木はなく、同時に聖杯戦争らしき儀式が行われた様子もない。
にもかかわらず、あの衛宮士郎という少年は「聖杯」を知っている。

この世界にはない筈のそれを知るということは、つまり………。
「アイツは、アイリと同じ世界の出身ってことなのかよ?」
「わからん。証拠となるモノは、その言葉以外に何一つとしてないのだ。だが、無関係で済ますこともできまい」
名前程度なら偶然で済むけど、さすがにこれはそうはいかない。
一つ言えるのは、遠坂の子は私の知るそれである可能性が濃厚だろうということ。
その場合、時間軸的には私の時より後からきたことになるか。

だとすれば、聞けるかもしれない。私の知らない、第四次の結末を……。
「どちらにしても、今の段階では推測の域を出ん。確証を得るには、奴と直接話をするしかあるまい」
「そうだな。アイリスフィール、あなたはどうなさいますか?」
「………………え?」
「私は、闇の書の完成を第一と考えます。申し訳ありませんが、今この件であなたに協力することはできません。
ですが、それでも私はあなたの意志を尊重したいと思います。もし、あなたが望まれるのでしたら……」
つまり、私個人が彼と会い、言葉を交わす分には何も言わないとシグナムは言うのだろう。
それは、この状況下にあってはシグナム達にとってリスクしかない。
それでもそれを認めてくれるのは、彼女の純粋な厚意。

それはありがたい。彼女の思いやりに、心から感謝する。だけど……
「………いいえ、“私たち”には時間がない。何より、私の事で危険は冒せないわ」
「よろしいのですか?」
「違うわよ、シグナム。私がそうしたいの。言ったでしょ? あなた達だけに背負わせはしないって」
「………ありがとう、ございます。アイリスフィール、我等がもう一人の主よ」
気にならないと言えば嘘になる。できるならば、彼から今すぐにでも事の真相を聞きたい。
でも、それは今すべきことじゃないし、今一番したい事でもない。
今の一番は、はやて。私のもう一人の娘。彼らから話を聞くのは、後でもいいのだから。
そう、それは今じゃなくてもいいんだ。だから、今ははやての事を考えないと………。

ヴィータは一度心配そうにこちらに視線を向け、話を切り替えるように疑問を口にする。
「ところでさ、シグナムは大丈夫なのかよ? なんか、かなり派手な攻撃くらったみたいじゃんか」
「ああ、危ういところだったが何とか回避が間に合った。
 しかしどうした? ヤケに衛宮の事を警戒しているように思うが」
「あたしにもよくわかんねぇ。よくわかんねぇけど、なんかアイツを見てるとすげぇヤな感じがするんだ。
 なんつーか、心のどっかが引っかかるんだ」
ヴィータの眼には、どこか怯えのようなモノがあった。
宝具を使う彼の能力は確かに危険だ。ヴィータの反応も、実際に英霊たちの戦いを見た身としては理解できる。
でも、どこかヴィータのそれは私のと違う気がしてならない。
ヴィータのソレはまるで、背後から迫る影に怯えているかのように感じる。

そこで、シャマルもヴィータの意見に賛意を示す。
「そうね。私も初めて士郎君と会った時、なんだか変な感じがしたわ。
 見覚えがあると言うか………シグナムやザフィーラは?」
「いや、特にそういったものはなかったように思うが、シグナムはどうだ?」
「…………………………そういえば、衛宮と戦っている時に違和感を覚えたな。
 なんと言っていいのか分からんが、普段以上に体が動いたと言うか………」
それは、極限状態で意識が研ぎ澄まされてたとか、そういう話ではないのだろうか。
でもそれなら、シグナムはきっとそう言うはず。じゃあ、それとも違うということ?

「なんだ、自慢かよ?」
「そういうわけではないのだが…………そうだ、あの負けを覚悟した時。あの時、特にそう感じた。
 まるで、奴の剣筋を先読みしているような、そんな感じだ。
まあ、最終的にはああいう結果になったわけだが………」
と言われても、実戦経験の少ない私にはよくわからない。
だけど、シグナムに読心なんて能力はない以上、そんなことはできないはずなんだけど……。

「どちらにせよ、奴が厄介な敵であることには変わらん。
 お前たちの奇妙な感覚は別にしても、気を抜いていい相手ではない。今はそれで十分だろう」
ザフィーラのその言葉に、皆が同意する。情報が少ない……というよりも、あまりに曖昧過ぎるのだ。
これでは考察のしようがないし、皆もそこはわかっている。

そうして、気を取り直すようにシグナムが話をはやての事へと向けた。
「そうだな。確かにお前の言う通りだ。
ところでシャマル、主はやてのご容体はどうだ?」
「それが、あまりよくないの。普段は努めて元気にしてけど、よく調べてみると闇の書の侵食スピードが上がっているわ。もう、アイリさんの防壁もほとんど役に立たなくなってる」
「つまり、残された時間は……」
「あまりないわ。これまでアイリさんの防壁で稼いだ時間があるけど、それも……」
あまり多くはないということね。
シャマルの予想では、遠からず目に見える形で影響が出始めるだろうと言う。

「石田先生とも相談して、用心のために近日中に一度検査入院することになりそうなの。
 病院にいれば何かあっても安心だし、今ははやてちゃんには安静にしてもらっていた方がいいわ。
蒐集にしても、はやてちゃんがいない方がはかどるはずよ。
それに、私たちがいないところで胸を押さえて苦しそうにしている時があるみたいなの」
「主はやては、辛くとも我慢してしまう方だからな。早めに気付けただけでも、良しとすべきか。
 それに、蒐集に集中できるというのであればその方がいいのだろう。主には申し訳ないが」
本当に。我慢強いのは別にそう悪いことでもないのだけど、あの子の場合はちょっと問題だ。
私たちは家族なのだから、もっと頼ってくれてもいいのに。

と、そこでシャマルが酷く戸惑った様子で私たちに告げる。
「それと、一つ悪い知らせがあって……。
近々、すずかちゃんとそのお友達がはやてちゃんに会いに来るそうなんです」
「それがどうかしたの?」
「それ自体はいいことなんですけど、問題はその顔ぶれで……」
顔ぶれ? すずかちゃんが悪い友達と付き合っているという感じはしないけど、それがどうしたというのだろう? あの子の友達なら、きっとみんないい子たちだと思うのだけど。

そこで何かに気付いたのか、シグナムの表情が歪む。
「…………………………まさか」
「そのまさかなのよ。テスタロッサちゃんとなのはちゃん、それに士郎君や凛ちゃんまで一緒で。
 みんな、すずかちゃんのお友達だから……」
言葉を重ねるごとに、シャマルの声は悲鳴じみていく。

「落ちつけ、シャマル! それで、それはいつだ?」
「とりあえずは明後日。入院するって話も知ってるから、その前に一度会いに来るそうよ」
たしかに、それは見事なまでのバッドニュース。
管理局の関係者であるあの子たちに知られては、全てが閉ざされてしまう。
それだけは、何としてでも防がないと。

でも、救いがあるとすれば……
「それなら、私たちさえ会わないようにすれば、一応大丈夫なはずよ。
 はやての魔法資質はほとんど闇の書の中なんでしょ?」
「ええ。よほど詳しく調べられなければ、おそらくは……」
「じゃあ、その時は念のために私たちは席を外しましょ。そうね、シャマルもいない方がいいかしら」
「…………ですね。私も一応士郎君に顔は知られてますし、いたら怪しまれるかもしれません」
彼らにはすでに「八神」と名乗ってしまっているらしいけど、その姓自体はそこまで珍しいモノじゃない。
なら、なんとでも誤魔化しようはあるだろう。とにかく、まず会わないことが第一だ。
今できることと言ったら、それくらいしかない。

最悪の場合、はやてを連れてこの世界から逃げることも考えなきゃいけないけど……。
でも、それはできれば避けたい。
そんなことをすればはやてにもこのことがバレてしまうし、何よりはやての体にかかる負担は無視できない。
今はただでさえ微妙な状態なのに、何がきっかけで体を壊すか……。

だとすれば、スパートをかけるのなら今しかないだろう。
「シャマル。さっきの入院の件だけど……」
「はい、早めに手続きをしておきます。たぶん、二・三日中には」
はやてには申し訳ないけど、一度入院してもらってその間に一気に事を進めるべきだ。

それと、一度この家の周りの結界や警報は消しておいた方がいいわね。
あの子たちが来た時に結界の存在に気付かれると不味いし、不審なモノはすべて取り除いておかないと。
それに、当日は何かしら理由を付けて私とシャマルが外に出る理由を用意しておかないといけない。
シャマルはまだしも、私は決して顔を見られるわけにはいかないのだから。

はやてにも、私たちの名前は隠して貰わないといけないわね。
おかしく思うかもしれないけど、それとなく話しておかないと。



Interlude

SIDE-アリア

「で、あの仮面の男の調査は進んでるの?」
「それが全然だよ。戦闘区域には網を張ってる。なのに、いつもその網の目をかいくぐってくるんだ」
そう語るクロノの顔には、隠しきれない苦渋がある。
まあ、こうも好き勝手動かれちゃ立つ瀬がないわよね。
事実上、仮面の男に一矢報いているのは協力者たちであって、正規の局員は出しぬかれてばかりなんだから。

しかし、真実を知る身としては、当然と言うかなんというか。
この段階で尻尾をつかまれちゃ話にならないんだけどね。
「まあ、いつまでも好きにさせるつもりはないさ。
そう何度もこっちの目をかい潜れると思ったら大間違いだってことを教えてやる、手痛い教訓付きでね」
「おお、やる気満々。やっぱり、可愛い妹が心配なのかな?」
「ああ………………ってなに言わせるんだ!? べ、別にフェイトの為とか、そんなんじゃないからな!
 こ、これは………そう! 管理局執務官としての矜持であって、そんな私情は一切欠片もない!!」
「はいはい、ツンデレツンデレ。クロノってアレだよね。『お前に娘はやらん!』って言って殴り合うタイプ?」
うわぁ、なんか思いっきり具体的にイメージできるわ。
待てよ、この場合は『娘』じゃなくて『妹』になるのかな? ああ、フェイトも苦労するなぁ。

「誰がツンデレだ!!」
アンタ以外に誰がいるってのさ。
そんな顔を真っ赤にして言っても、全然説得力がないぞ。

「ゴホンッ! ところで、ユーノの調べ物の方はどうだ?」
「ん? ああ、あの子。いや、たいしたもんだよ。
普通、年単位で調べなきゃならない無限書庫から、この短い期間で必要な資料をバンバン見つけてるんだからね。とんでもない捜索能力だわ」
いやはや、あの子がもっと前から局にいてくれれば、私らの調べモノも楽だったろうに。
こっちが十年近くかけて見つけた物を、あの子は数日で見つけるんだから。
私らの十一年は何だったのかって話よね。

そこでクロノは、多分少し前から考えていたであろう事を口にする。
「これはまだ一つの案でしかないんだが、無限書庫を管理する正式な部署を作れないかな?」
「それってやっぱ、あのスクライアの子の言ってた事が理由?」
「ああ。言ってただろ? 『探せばちゃんと欲しいモノが見つかる』って。
 それが出来ないのは、無限書庫が整理されていないのと、それができる人材発掘がおこなわれていないからだ。
 ユーノのような人材を集めて部署を立ち上げれば、整理も進むだろうし、上手くすれば数年で……」
「まあね。ただ、どこも人手不足の管理局だ。
それだけの能力がある人間を、どの部署もそう簡単には手放してくれないよ」
前線に出るタイプでないとはいえ、後方勤務であれだけの能力を持った人間はどこでも欲しがる。
なにも、人手が足りないのは前線だけじゃないんだから。

「だけど、それでもだよ。長期的に見れば、あそこが活用されるのは大きなメリットがある。
 むしろ、使われていない今の状況こそ、宝の持ち腐れだ。今回、それを再確認した」
「ま、ごもっともだよ。いくら資料があるからって、活用できなきゃないのと同じだもんね。
 つまり、父様や私らにもコネで掛け合って欲しいってこと?」
「ああ、頼めるか? 一介の執務官や提督からの働き掛けじゃ、それだけの規模の部署の立ち上げは不可能だ」
だろうね。普通、一つの部隊を立ち上げるだけでも、最低将官クラス数人の連名が必要だ。
ところが、こいつはそんな生易しいモノじゃない。
クロノやリンディ、あとはレティが頑張った程度でどうにかなるモノじゃないわ。

「それともう一つ」
「ん? まだなんかあるの?」
「ああ、できれば『魔術』の研究チームも作りたい。凛の魔術は、次元震や次元断層の抑制につながる可能性があるからね。何より、今回みたいに魔術師と敵対した場合に対応できる体制を整えたい」
なるほど。確かに、私らじゃ魔術への対抗手段はほぼ皆無。
まともにやりあえる能力ばかりならいいけど、わけわかんない術を使うような奴とはち合わせたら大変だ。
なにせ未知な部分の多いジャンル。最低でも対抗手段くらいないと話にならないか。

とすると、そこに必要不可欠なのは……
「やっぱ、凛たちにそこに来てほしいって思ってる?」
「まあね。ただ、無理に局員になってほしいと言うつもりはないし、その望みは薄いだろう。
 だから、アドバイザーか顧問の様な立場でも用意できればと思ってる」
つまり、有識者として意見を求められる関係作りをしたいわけか。
まあ、あの子らのスタンスを考えるとその辺が妥当だね。

それに、当ては他にもあると言えばあるって考えかな?
「闇の書事件が上手くいけば、あの主と司法取引でもして、引き込むこともできるかもしれないしね」
「そうだな。あんまりそう言うのは好きじゃないんだが……」
やれやれ、相変らず潔癖だ。まあ、そうしていられるうちはそれでいいだろう。
いつか、潔癖なだけじゃやっていけなくなるんだ。

「いずれにしても、やるとしたら茨の道だよ?」
「わかってるさ。上の説得に協力者の確保に始まって、予算をもぎ取って人材も集めなきゃならない。
その他諸々、やることは山積みだ。考えるだけで頭が痛くなる」
まあまあ、いつだって先駆者ってのは苦労するものさ。頑張りな、若人よ。

だけど、先の事を考えるのは良いけど目の前の事もしっかりやらないとね。
「その辺は手伝ってやるけど、とりあえず今は闇の書事件に集中しなよ。
 ここで失態なんてやらかしたら、今の話だってご破算だ」
「ああ、そうだな」
そう応えるクロノの顔はどこまでも苦い。
スクライアの子から上がった情報を考慮すれば、無理もない。
なんてったって、「闇の書の完全封印は不可能」って定説を強化するだけなんだから。

何とか闇の書の主に管理者権限を握らせられれば、その限りじゃないのかもしれない。
でも、闇の書が今の形になってから、未だかつてそれを成し得た者はいない。
外からバックアップなりフォローしようにも、主以外が干渉すればそのまま主を吸収して転生。
これじゃ、こっちから管理者権限の掌握を促す事も出来やしない。
つまりは、ほとんどお先真っ暗ってわけだ。

その上、守護騎士やら仮面の男やらで悩みどころは多いんだから大変だ。
(とはいえ、まさかクロノも邪魔してるのが身内の仕業とは思ってないか)
だけど私は気付いてなかった、この時クロノが私を睨む様に見ていたことを。

そしてもう一人、私に目を付けている奴がいたことにも。

Interlude out



SIDE-凛

今日は休日。

私は今、士郎と一緒に海鳴を歩いている真っ最中。ちなみに、士郎の手には山と積まれた荷物がある。
早い話、私の買い物に付き合わせてその荷物持ちをさせているということ。
午後にはすずかの紹介で「八神はやて」という人物と会うことになっているけど、午前中は自由に過ごせるしね。
なのはたちにも今日の訓練は中止と伝えてあるし、久しぶりに二人きりの時間を満喫中だ。

だと言うのに、女心のわからない朴念仁は素っ頓狂な事を聞いてくる。
「なあ凛、こんなにいろいろ買うんならリニスも一緒の方が良かったんじゃないか?」
はぁ、十年経っても進歩のない奴め。
普通、二人きりで外に出て、一緒に買い物してりゃあ馬鹿でもその意味がわかりそうなものなのに。
だいたい、リニスがついてこなかったのだって気を使ったからだ。それすら分からないのかしらね?

「いいのよ。リニスはリニスでやりたい事があるみたいだし。
それに、私は“士郎”と来たかったんだから」
「……ああ、その……すまん」
一部分を強調してやると、やっと理解したらしい。全く、ここまで言ってやっと意味がわかったか。
本来、こう言うのを言わせんのはマナー違反でしょうが。
ああもう、顔が熱い。あんまり恥ずかしいこと言わせんじゃないわよ。

「ほら! やっと状況を把握したみたいだし、次の店行くわよ」
「おいおい、まだ買うのか? 正直、そろそろ手がいっぱいなんだが……」
「はぁ、アンタのそれは死んでも治らないってことか」
「何がだ?」
まったく、クリスマス間近だってのにこういうことを聞いてくるのよね、こいつは。
この時期に年越しと大掃除以外の目的での買い物と言えば、だいたい一つだろう。
文字通りの意味で、士郎のこれは一度死んだくらいじゃ治らないらしい。

仕方ない。忘れてるのかどうか知らないけど、一つヒントをあげましょ。
「じゃあ問題。朴念仁で唐変朴で、どうしようもなく女心のわからない衛宮士郎と言うバカは」
「酷い言われようだな」
「事実でしょ。で、その鈍ちんはというと、誕生日やらクリスマスといったイベントでは、何をプレゼントしたら喜ばれるのかさっぱりわからないために、いつだってギリギリまでプレゼントが決まらず、最終的に実用品なんて色気のないモノをプレゼントしてしまうのです。
 さあ、そんな救い難い絶望的なまでの鈍感男が、今回に限って気の利いたプレゼントを用意できているのでしょうか?」
「うぐ!? 悪かったな、例によってその通りだよ」
「私は長い付き合いだからそういう奴だってわかってるけど、今年はなのはたちとクリスマス会でプレゼント交換とかするんだから、少しは気を利かせなさいよね。あの子たち楽しみにしてるんだし。
 というわけで、これからデパートで見繕うわよ。私がアドバイスしてあげるから、頑張んなさい」
まあ、フェイトやすずかあたりなら何を選んだって、士郎のプレゼントってだけで喜ぶだろうけど。
いや、この年でクリスマス会とかプレゼント交換とかはアレだけど、肉体年齢を考えると、しょうがないか。
そういえば、真っ当にクリスマスとか新年とかを祝うのは何年ぶりだっけ?

まあ、これで私宛のプレゼントとかは凝ったモノを頑張って選ぶ奴なんだけどさ。
恋人同士ってことで、手編みのマフラーやらセーターやらをせっせと編んでくれたりしたのはいい思い出だ。
って、どう考えてもそれは私の担当のような気がするけど。
ちなみに、例によって今年もこっそり編んでいるのを私は知っている。

だけど、そういう関係ではない女友達に渡すプレゼントとなるとアウト。
これまでだと、なぜか「湯たんぽ」や「腹巻」とかを用意していた。
相手が藤村先生ならそれでもよかったけど、それを貰った時の桜の表情ときたら……。
まあ、それはまだマシだ。とち狂って指輪やらなんやらを選ばないかの方が心配だし。
今回は交換会だからその心配はないはずだけど、いらぬ誤解を招くようなモノを選ばせるわけにはいかない。
しっかり監視しておかないと、何を買うか分かったもんじゃないのよね。前科がないわけじゃないし……。

「はぁ、ご教授お願いします」
「よろしい。じゃ、これからデパートに行って、それから翠屋で一休みといきましょ。
 その後は……ちゃんとエスコートしなさいよね」
「ああ…………って、俺が決めるのか!?」
「あのねぇ、女をしっかりエスコートするのが男の甲斐性でしょうが」
「普段は思いっきり引っ張り回す癖に。だいたい、いきなり引っ張り出された俺にアテなんかあるわけないだろ」
大丈夫よ。結局は午前中いっぱいの話なんだから。
残り時間を考えれば一・二ヶ所も回ればすぐに時間になるし、そんなに肩肘張るモノじゃない。

で、当の士郎はと言うと。
「むぅ、映画……ダメだな。今何をやってるのか分からないし、適当に選んではずれを引いたらアレだ。
それに、恋愛映画なんて見たら眠っちまう。そうすると後が怖い。
 ウィンドウショッピングをしようにも、さっきまでやってたのがそれだし………」
あははは、困ってる困ってる。

でも………うん、楽しいな。
適度に士郎をからかって、こうして一緒にいられれば十分楽しめる。
悩みに悩みまくっている士郎の横顔を見ていると、それだけで心が安らぐ。



  *  *  *  *  *



結局、士郎がデートコースとして選んだのはボーリング。
まあ、こいつにしては頑張った方だと評価してあげよう。
ちなみに、何ゲームかしてスコアはお互い平均250オーバー。久しぶりにやったけど、まずまずな成績かな。

それと、荷物の方は翠屋に行った時に預かってもらえた。
昼食を翠屋で取ることを条件にされたけど、あそこのクオリティに不満などあるはずもない。
というか、もとからそのつもりだったので全然問題なし。

そうして、私たちは荷物を置きにいったん家に帰ってから、なのはたちとの待ち合わせに向かっている。
「そう言えば、あんたさっき自転車見てたけど、欲しいの?」
「ん? まあ、買い物に行く時とかに便利だなとは思うけど、買うとなると悩みどころだな」
ふむ、プレゼント交換用じゃなくて、こいつ専用のプレゼントってことで買うのもいいか。
それに、今はあえて言及しなかったが、私が買い物をしている時こいつがチラチラと洒落たネックレスとかペアリングとかを見つつ、財布の中身を気にしていたのを見逃してはいない。
こっちに来て最初のクリスマスだ。その程度の奮発は御愛嬌だろう。

「凛、少しいいか?」
「ん? なに?」
「これから八神はやてって子に会うだろ? その八神ってあの八神だと思うか?」
ああ、シャマルの事か。特別珍しい姓じゃないけど、この決して広くない街でとなると無視できない。

「ん~、まあどっちでもいいんじゃない?
 確かにシャマルから聞いてた親戚の情報に符合する点は多いけど、だからどうしたって話だし」
「まあな。もしかしたらシャマルがまだこの世界に残ってるかもと思ったんだが……」
「どうかしらね。ま、縁があればまた会えるわよ」
とは言いつつも、実を言うとちょっと気にかかっていることがある。
前々から少し疑問だったのだが、本当にシャマルは闇の書と無関係なのだろうか?

考えてみれば妙な話だ。
私たちは前情報なしの状態で、シャマルが事を起こすにしては非合理的だと判断してシャマルを可能性から除外した。だけどあれはシャマルではなく、その「仲間」だったとしたら……それなら話は別なのだ。
シャマルが何らかの理由で仲間に私たちの存在を明かしてなかったとしたら、初戦での行動も納得がいく。
単にアイツらは、あの段階ではシャマルから何も聞いていなかっただけと言うことになるから。

また、シャマルは「騎士」で、誰かに仕えている。なら、その誰かが闇の書の主ではないとは言いきれない。
姿なんて魔法でいくらでも偽装できることを考えると、一番怪しいのはあの黒尽くめか。
内面に封鎖がかかっていたのも、あれが守護騎士であったなら納得がいく。
プログラムであり主を守る存在であるのだから、重要な情報はそう簡単には引き出せないようになっていて当然。

以前は事を起こす気がなかったようだけど、状況が変わった可能性は否めない。
なんでも、ユーノからの情報によると、闇の書は長く収集が行われないと主を侵食するらしい。
長く蒐集はしていなかったが、最近侵食に気付き、大慌てで蒐集を始めたとしたらどうだろう。
命がかかっているのだ、以前の方針を変えたとしても不思議はない。
闇の書の守護騎士達がそのことを知らなかったのは妙だが、闇の書の完成がすなわち破滅であるという情報があることを考えると、いろいろと記憶に欠損があるのかも。
そうでないと、あの連中がわざわざ主を破滅させるようなモノを完成させようとする理由が分からない。

以上の事から、シャマルが敵でないという根拠は崩壊した。
そして、アイリスフィールが主と言うのもどこまで信じられたものか。
そもそも、ホムンクルスに主の資格があることが疑問だった。
だって、ホムンクルスは人造の存在。一から十まで人の手で設計されている。
そんな存在にリンカーコアがあるのだろうか? 魔術師はリンカーコアの存在を知らないのに。
アレがご同郷である可能性がほぼ確定に近い現状だと、尚更怪しい。
少なくとも、アレが本物の主でない可能性は決して低くないだろう。

まあ、要点をまとめると、シャマルが闇の書の関係者である可能性が出てきて、アイリスフィールが主である可能性が低くなったということだ。
そして、シャマルが闇の書の関係者であり、八神はやてとつながりがあると仮定すると、その八神はやてにも主の可能性が出てくる。
少なくとも、彼女の症状はその可能性を示唆するには十分だ。
とりあえず、一度シャマルとはやての身辺調査をしておこう。それで何かしらわかるかもしれない。

まあ、士郎には余計な事を言わないように釘をさしておくべきだろう
それに、仮面の男についても尻尾を掴めそうだし、すべてはそっちがはっきりしてからだ。

まあ、それはそれとして……
「ところで、何でアンタはそんなに行く前から疲れてるわけ?」
「当たり前だろ。どれだけ買い物に付き合わされたと思ってるんだよ」
って、言われてもねぇ。女の買い物に時間がかかるのは世の理。
で、それに付き合って苦労するのが男の役目でしょうが。

「というか、そもそもアンタ、ほとんど突っ立ってただけじゃない。
 私が似合ってるかって聞いても『いいんじゃないか』の一点張りだったでしょ」
「ほっといてくれ。俺だって、必死に気の利いたセリフを言おうと考えたんだよ」
その成果がアレ? アンタ、とことんそういうのが向かないわねぇ。

そこで士郎が、ふてくされたように小声で呟いたのを聞き逃す私じゃない。
「だいたい、お前は美人で見栄えがいいんだから、何着たって似合うじゃないか……」
「ん~? 何か言ったかしら衛宮君? 私、今ちょっと聞き逃しちゃった♪
だから、もう一度“大きな”声で言ってくれない?」
「な!? ば、バカ言うな! そんなこと、こんな往来で出来るか!?」
「へぇ~、言えないようなこと言ってたんだぁ~♪」
まあ、ある意味殺し文句って言えなくもない内容だったけどね。
実際、頬が緩みそうなのを必死に抑えてるし。

とはいえ、この年になってその程度、もっと堂々と言えるようになりなさいよ。
これじゃ、甘々の睦言なんて夢のまた夢ね。
まあ、そういうのはさすがに柄じゃないか……。

そうして、顔を真っ赤にしてそっぽを向く士郎。
ありゃ、ちょっとからかいすぎたかな。
そうね。私だって睦言なんて言うような性質じゃないけど、偶にはこんなのもありかな?

ふっと頭に浮かんだことを、そっぽを向いて私を視界に入れていない士郎に対して実行することを決める。
(ふふふ、隙だらけ♪)
「なぁっ!? お、お前!」
そっと頬に口付けし、士郎が振り向く前に離す。
振り向いた士郎を横目で見ると、手で頬を押さえながら顔をさらに真っ赤にしていた。
まったく、十年経っても反応が可愛いんだから。

そのまま士郎の腕を取り、無理矢理腕を組んで引っ張る。
「ほら、行くわよ士郎! 早くしないと、なのはたちに置いてかれちゃうしね」
「ま、待てバカ! こんな人目のある場所で何やってんだ!!」
「そう? じゃあ、人目がなければいいんだ。ふ~ん、そうなんだ~♪」
まあ、実際一目はかなりあるんだけど、そのどれもが微笑ましいモノを見えるように暖かい。
この体だからこその特権ってところかしら。

「だ、誰もそんなこと言ってないだろうが!」
「そっか、士郎はしたくないんだ……」
「お前な、そういう言い方卑怯だぞ」
「もう、大事なことなんだからはっきりしなさいよね」
そう言って微笑みながら下から見上げてやると、いよいよ士郎の狼狽の度合いはピークに達する。
少ししょんぼりしたと見せかけて、すぐに笑顔を向けてやると面白いように慌ててくれるからやめられない。
それに、答えなんて今更聞くまでもないし、この反応を見れば一目瞭然だ。
だけど、それでもやっぱり直に言葉で聞きたいと思うのが人情だろう。

しばしの沈黙。急かすことなく、ただじっと士郎の眼を見て答えを待つ。
周りの目が気になるのか、せわしなく周りの様子を気にしていたかと思うと、耳に顔を寄せて小声でつぶやく。
「……バカ、そんな判りきったこと訊くな。
 その、なんだ……………………………………………………………………………………そのうちやり返してやるから、覚悟しとけよ」
「ん、よろしい。今回はそれで勘弁してあげるわ」
そのうちってのがちょっと気にくわないけど、今はそれで良しとしよう。

などと思っていた私は大バカだった。
アレから十年。こいつだって、いつまでもあの頃のままなはずがない。
それがこういう方面であろうと、それは変わらない。

つまり、何が言いたいのかと言うと……髪をかきあげられたかと思ったら、そのまま露わになったおでこに温かくて柔らかなモノが押し付けられたのだ。
「え?」
「言っただろ、やり返すって。油断大敵だ」
………やられた。まさか、こんなに早く行動に移すとは。
ヤバいなぁ。さすがにこのタイミングは想定してなかったから、赤面するのを抑えられない。
あーあ。これじゃ、私も士郎の事を言えないなぁ。

でもせっかくだ、プライドやら見栄やらにはしばらく眠っていてもらおう。
「お、おい……」
「ほら、行くわよ、士郎♪」
その気持ちを隠すことなく、身を寄せ密着させる。
やっぱり、言葉だけでなく体でも想いを伝えないとね……。

「士郎…………離したら、許さないからね」
「……当たり前だろ。そっちこそ、離すなよ」
小声で囁いた私の言葉にそう答えて、士郎の手が方に回された。

分厚い冬物越しなのに、温かさが伝わり沁み込んでくる。
(……うん。やっぱり、いいな)
自分が想われてると言うことを実感できるのは、いつだって幸せな気持ちになれる。
それが、自分が想っている相手なら尚更だ。



SIDE-士郎

などという、ちょっとどうかしてたんじゃないかってやり取りをした後、俺たちは必死に外面を整えてフェイト達と合流した。正直、ちゃんと整えられたのか心配だったが、フェイト達の反応を見るに上手く言ったようだ。
と言うか、上手くいっていてほしい。そうじゃなきゃ死ぬ! 恥ずかしさの余り、このまま悶死しそう!

いやもう、勢いって怖い! 別に凛とそういうことをするのは吝かじゃないというか、望むところと言うか……。
だからと言って、あんな人目の多いところで何やってんだ俺は。熱に浮かされたバカップルじゃあるまいに。
ほんの数分前の俺は、一体何を考えていたのか自分でもわからないくらい恥ずかしい。
喝! 煩悩退散! しばらく自重しようと心に決めた。

で、六人でやってきたのはすずかの友だち「八神はやて」の家。
なーんか、どっかで聞いた覚えがあるんだけどなぁ。どこだったっけ?

「はやてちゃん? こんにちは、すずかです」
「あ、すずかちゃん。どうぞどうぞ、鍵は開いてるから入って」
インターフォンを鳴らすと、関西圏独特のイントネーションで中へと促される。
むぅ。この声、どこかで聞き覚えが………。

「「「「「「こんにちはー」」」」」」
「こんにちは、いらっしゃーい♪」
出迎えてくれたのは、車イスに座ったショートカットの女の子。
むむむ、どこかで見覚えがあるような………。

失礼とは知りながら、思わず目を細めてじっと見てしまう。
なんかこう、喉元まで出かかっているのだが……。
「すずかちゃん以外は『はじめまして』と、『お久しぶり』やね。
 八神はやて言います。ちなみに、平仮名で『はやて』や」
「…………………………………………待てよ」
その時、ふっと閃いた。確かしばらく前にも、こんな言葉を聞いたような覚えが。

確かアレは…………まだ、なのはとフェイトが出会う前………。
『わたしは八神はやて。平仮名で、はやてや。よろしゅうな、士郎君!』
「あ…ああ!? はやて、八神はやてか!!」
「あははは、やっと思い出したみたいやね。ひどいなぁ、あんなこと言うとったのに」
「ああ、その……すまん」
いや、言い訳のしようもない。もう完全に、これでもかと言わんばかりに忘れていた。
そうだよ、覚えがあったはずだ。だって半年前、思いっきり会っていたんだから。

「ほらな、すずかちゃん。やっぱり忘れとった♪」
「はやてちゃん、笑って言うようなことじゃないと思うんだけど。
 それと士郎君、正直少し見損なったよ」
「はい、弁解の言葉もありません」
玄関で正座し、深々と土下座する。いやもう、ホント申し訳ない。
半年前『強いて言うなら、お互い名前を知っていたら、この先もしすれ違ったりした時、相手のことを思い出すかもしれないだろう?』なんて言った張本人が忘れてどうするよ。

事情知った他の面々は揃って冷たい視線を向ける。
「ごめんね士郎君、ちょっとフォローできない」
「シロウ、さすがにそれは………」
「「最低」」
うう、泣きたい。特に、最後の一言が堪える。
見ないでくれ、そんな軽蔑した眼で俺を見ないで――――――!?

そんな感じで、俺への罰が勝手に決められ、その後居間へと移る。
ちなみに、俺は責任を取って一人床でちょこんと正座。

居間に通された俺たちは、翠屋のケーキなど食べながら雑談中。
なのだが、はやては聞き捨てならないことを口にする。
「ま、これで賭けはわたしの勝ちやね、すずかちゃん♪」
「あ!? はやてちゃん、しー! それ秘密!!」
お前ら、そんなことしてたのか。
何かを問う必要はない。俺がはやての事を覚えていたかどうか、と言うことを賭けの対象にしていたのだろう。

とはいえ、さすがに自分を賭けの対象にされてたとなると良い気分はしない。
はやてには負い目があるからむりなので、ジト眼ですずかを睨む。
「すずか?」
「ちょ、ちょっと待って! わたしはちゃんと覚えてるって思ってたんだよ!
 むしろ、忘れてた士郎君が悪いんだから!」
むぅ、そこを突かれると弱る。
全面的に俺が悪いだけに、強く出れる筈がないけど。

「まあ、初犯ってことで今回は許してあげるわ。せやけど、これに懲りたら女の子は大切にせなあかんよ」
なんか、昔親父にそんなこと言われたよな。
今度、お詫びの品でも贈るとしよう。このままだと俺の株が下がりっぱなしだ。

などと思っていたら、アリサの奴が………
「じゃ、士郎には罰ってことで、はやての命令を一つ聞くってのはどう?」
「あ、ええね、それ。どうせやから無理難題押し付けたろか? それとも………」
「はやてちゃん、許すんじゃなかったの?」
「すずかちゃん。世の中にはな、『それはそれ、これはこれ』って素敵な言葉があるんやで?」
前会った時は知らなかったけど、いい性格してるよな、はやて。

「ほどほどでお願いします。主に精神的な意味で」
「わたしも鬼やないからな。生かさず殺さずでいくから、安心してええよ♪」
それのどこをどう安心しろと言うんだ。
というか、鬼だったら殺すのか? それ以前に、俺にはそんなことを笑って言うお前が鬼に見えるぞ。

しばしの思案が続くと、突然はやては「ポンッ!」と手を打ち友人たちに怪しい視線を向ける。
「そやなぁ、お嫁に貰っ「「「はやて(ちゃん)!!!!」」」て、ちゅうのは冗談として」
まんまと嵌められた三人(あえて誰かは言わない)。もうちょっと冷静になれよ、お前ら。
まだ二回しか会ったことのない人間に、それも九歳がそんなことを要求するわけないだろうが。

「ん~……うん、決めた。そのうち泊りに来てくれると嬉しいな。
 目一杯おもてなしするから。もちろん、みんなも一緒に♪」
「え? わたしたちもいいの?」
「水臭いで、フェイトちゃん。そんなん当たり前やん。ちゅうか、バンバン泊りに来てほしい位やし」
助かった。もっととんでもないことを言われるかと思ったけど、割と無難だ。
別に友達の家に遊びに行って泊まるくらい全然問題なし。
むしろ、この程度で済む事に小躍りしたい気分だ。

だが、世の中そんなに甘くないわけで。
「でも、それだと命令じゃないわよね。もっと他にないの?」
アリサ――――!! 何余計なこと言ってんだ!
このまま済ませれば、どこにも角が立たず全て丸く収まるのに。

「あ、そう言えばそうやな。せやったら、近くにスーパー銭湯ができたやろ?
 そこに一緒にいこ。もちろん女湯に。士郎君同い年やし、問題ないやん」
「勘弁してください。ホント、それ以外だったら何でもしますから、それだけは許して!」
確かに肉体年齢はそんなもんだが、実年齢は三十路近いんですぅ。
そんな犯罪行為、誰がやるか!!

必死で土下座した甲斐あって、なんとかその提案は退けられた。
他の女性陣が恥ずかしがったのもあるが、はやて自身ほとんど冗談だったんだろう。というか、そう信じたい。
「今の慌てふためき方やと、ちょ~っと一度連れてきたい気もするけど、まあええわ」
「御慈悲に感謝します。お嬢様」
「よろしい。ん~、でもそれやったらどないしよ?」
「まあ、今すぐ決めなきゃならない事でもないでしょ。ゆっくり考えたら?」
「そやね。じゃ、しばらく保留ってことで」
凛の一言で、とりあえずこの件は先送りとなった。
まだ安心はできないが、ひとまず助かった。凛には感謝だ。

「そういえばはやて、入院するってホントなのか?」
「うん。まあ、入院ちゅうても緊急やないから。
 ほとんど検査とかがメインやね。その間の状態次第やけど、クリスマス前に退院できたらええなぁ」
そういってはやては笑うが、それは決して言うほど楽なモノじゃない。
普通たいしたことがないのなら、クリスマスの間位は一時帰宅するくらいはできないこともない。
それが出来ないということは、それだけ病状が芳しくないと言っているようなものだ。
みんなの前では気丈に振る舞っているが、その実どれだけ苦しんでいるのだろうか。

そこで、最も付き合いの長いすずかが確認するように尋ねる。
「確か、入院は明日からなんだよね?」
「ん? そうやよ」
「それじゃ、時々お見舞いに行くよ。ね、みんな」
「当然よ。そうだ、25日の昼間にクリスマス会をやるつもりなんだけど、もし来れそうなら来ない?」
「ありがとな、すずかちゃん、アリサちゃん。でも、ええんか?」
「「「「もちろん♪」」」」
フェイトやなのはも一緒に、笑いながら同時にそう応えた。
その傍らで、凛は「やれやれ」という笑みを浮かべながら肩をすくめる。

「士郎。そういうわけみたいだし、料理一人前追加ね」
「別にそれは構わないんだけどさ、まさか俺一人でやるのか?」
「何か文句ある?」
「ありません。俺は救いようのない大バカ者ですから、喜んでご奉仕させていただきます」
うう、はやての事をすっかり忘れていたせいで立場が弱い。元からだけど、なお一層弱い。泣いていいですか?

しかしそこで、はやてが今の話題に興味を持つ。
「士郎君、もしかして料理得意なん?」
「うん。士郎君はお料理上手だよ」
「っていうか、それを言ったら凛もだけどね」
「にゃははは、二人とも家事全般得意で、仕事を取られるってリニスさんが言ってたっけ」
「え? 仕事を取るのはシロウで、凛は片づけが下手って聞いたけど?」
リニスめ、何妙なことを言いふらしてるんだよ。

とまあ、こんな感じで辺りが夕焼けに染まるまで俺たちは新たな友人との談笑を楽しんだ。



Interlude

SIDE-グレアム

「父様。あんまり根を詰めると、体に毒だよ」
「ロッテか」
自室で闇の書のデータや今回の事件の報告書に目を通していると、娘の一人にたしなめられる。
私もいい年だ。ロッテの言う通り、あまり無理をしては体が保たんか。

まだこの老いぼれには役目がある。
その時が来る前に潰れてしまっては、全てが水泡に帰してしまう。
そんな無様なマネだけは、決してするわけにはいかないのだ。

娘の忠告を聞きいれることにし、一度資料を閉じロッテに視線を向ける。
「どうだ? 様子は」
「まあ、ぼちぼちかな。クロノたちも頑張ってるけど、闇の書が相手だから。やっぱり、一筋縄じゃ……」
「そうか」
当たり前だ。そう簡単にどうこうなるなら、苦労はない。
それに、我々が妨害までしているのだ。

「すまんな。お前たちまで付き合わせてしまって」
「何言ってんの父様。私もアリアも父様の使い魔なんだから、父様の願いは私たちの願い。
 デュランダルももう完成してるし、今度こそ上手くいくよ」
そう言って微笑みかけてくれる娘に、心から感謝する。
私一人であれば、もしかすれば道半ばでくじけていたかもしれない。
ここまでこれたのは、ひとえに娘たちのおかげだ。

「ああ、そうだな。
 そういえば、アリアはどうした?」
「ああ、アリアなら無限書庫の調査をしてるスクライアの子、あの子の手伝いをしてたはずだけど……。
 あれ? でも、おかしいな。もういい加減、こっちに来ても良い時間なのに」
時間を確認したロッテは、焦れたように落ち着かない。
確かにおかしい。アリアは生真面目で、時間にもう細かい性分だ。
遅れる時は必ず連絡してくるはずなのだが……。

少々気になるな。無限書庫に問い合わせるか、念話で確認しておくか。
と考えていると、部屋の扉が開き、アリアが入ってくる。
「もう、遅いぞアリア! 何やってたのさ! アリア?」
アリアの様子がどこかおかしい。
まるで、金縛りにでもあってるかのように体は強張り、顔は苦虫をかみつぶしたような表情をしている。

それを不審に思い、アリアの元に寄ろうとすると予期せぬ声が響く。
「ごきげんよう、グレアム提督。御加減はいかがですか? 入院したと聞いて心配していましたから」
アリアの後ろから出てきたのは、およそこのような場所には好き好んで来そうにはない少女、遠坂凛。
柔らかな笑みを浮かべ、澄んだ声音で話す様は実に洗練されている。

だが、だからこそ違和感が増す。
とはいえ、あちらが表面的にとはいえ礼儀を守っている以上、それを正直に表に出すわけにもいかないが……。
「ああ、君達にも心配をかけてしまったね。だが、見ての通り無事退院できたよ」
「そうですか、それは良かった。忙しくてお見舞いにも行けず、申し訳ありません」
「いや、それは構わないよ。むしろP・T事件や今回の闇の書事件の事で、君たちにはいろいろ感謝しているくらいだ。それに、こうして様子を見に来てくれたじゃないか。それで十分だ。
 ところで、今日はどんな用かな? 申し訳ないが、アポイントなしと言うのはさすがに困る」
「そうですね。親しき仲にも礼儀ありと申しますし、不躾でした。申し訳ありません。
 ですが、早急にお耳に入れておきたい事がありまして」
「ほう、何かな?」
そう問いながらも、最大級の警戒を以て彼女に対する。
普通、孫ほど年齢の離れた少女相手にここまで警戒するのは滑稽だろう。
だが、この少女相手に油断が禁物であることは身に染みてわかっている。
たった一度話した仲だが、その一度で私は彼女をそういう人物に位置付けた。

そうして、彼女が口を開こうとしたところでアリアが叫ぶ。
「父様! 彼女を拘束してください!」
「あら? 驚いた。声帯だけとは言え、自力で私の束縛を破るなんて思わなかったわ。たいした忠誠心ね」
「アンタ、アリアに何をした!!」
声を荒げ、敵意をむき出しにするロッテ。
だが、私は動けない。どういうことかはわからないが、今アリアの命は彼女の手のうちにある。
ここで迂闊なことをすれば、アリアの身になにが起こるか分からない。
事実上、アリアを人質に取られているのと同義なのだ。

凛君は一度アリアに目を向けると、すぐにこちらに視線を戻す。
アリアはそれ以上しゃべれないのか、悔し気に歯を噛み締めるが口を開く気配はない。
今のやり取りで、アリアの口を封じられたのか。

そんなアリアの様子に満足したのか、凛君は剣呑なロッテの様子にも動じた素振りを見せない。
まるで、それさえもが予定調和であるかのように……。
「えっとリーゼロッテ……だったわよね? いいから落ち着きなさい。
 私は別に事を荒立てる気なんてないんだから。今日はね、話し合いにきたの。
 彼女にはここまでの道案内を頼んだだけで、別に危害は加えてないわ」
「それは、信じてもいいのかね?」
「遠坂の名誉と誇りに懸けて。なんなら、もっと即物的にこの首も懸けましょうか?」
そう言いながら、彼女は気軽に自分の首筋を手刀で「トントン」と叩く。
一見すれば適当に言っているようにも見受けられる態度だが、そうではない。
むしろその逆で、一切の虚勢を含まないその気楽さが、彼女の本気と覚悟を証明していた。

だが、ロッテはそうと受け取らなかったらしい。
「そんなこと信じろっての? ふざけるな!」
「いたって真面目なんですけどねぇ」
「…………いいだろう。信じよう」
「父様!!」
「ロッテ、彼女の望みは話合いだ。嘘をつけば、それ自体が成立しない以上、その可能性は低い。
 それに、どのみちアリアが彼女の手のうちにある以上、迂闊なことはできない」
なにより、彼女のようなタイプの人間があそこまで言ったのだ、それなりに信用できる。
私が言うのもなんだが、犯罪者の類が言っても信用ならない。だが、これでも人を見る目はあるつもりだ。

「それで、話というのは?」
「まったく、突っ立ったまま話をするというのは、さすがに無粋じゃありません?
 せめて、座って話をするくらいの余裕を持っていただきたいのですが……」
不味いな、ペースを握られている。
こちらはまだ状況を把握できていない上に、人質まで取られて迂闊に動けない。
引き換え、彼女はどこまでも自然体で、まるで世間話でもしてるかのような気楽さだ。

警備員を呼ぼうかとも思ったが、下手に刺激するべきではないか。
まだ、彼女の話の内容さえ分からない。
警備員を呼ぶにしてもタイミングがある。少なくとも、今はまだその時ではない。

彼女の要望に従い、大人しくソファに腰掛ける。
アリアと凛君に対峙する形で座るが、ロッテだけは私の傍らに立ったまま彼女を睨む。
「さて、それじゃあ話を始めようと思うのですけど、よろしいですか?」
「ああ」
「そうですね。押し掛けたのはこちらですし、ここは譲りましょう。先に聞いておきたいことはあります?」
「………アリアは、どうなっているのかね?」
「ご安心ください。体には傷一つ付けていません。
 ちょっと束縛をかけて行動を制限させてもらってますけど、それだけですから」
束縛? バインドの類ではないようだし、魔術特有の技術か。
なるほど、それならアリアがまんまとかかってしまったのも頷ける。
こちらに魔術的な知識は皆無。当然、特殊な術への対抗手段もほぼない。

「眼を見るだけで、そんなことができるとは………」
「さすがですね、今の一瞬でそこまでわかりましたか。ちょっと眼球に細工をしていまして。
 でも、実を言うと私のはたいしたことないんですよ。本当に強力なのは先天的な魔眼持ちですから」
我々からすれば彼女のそれでも十分強力だ。何かしら発動条件があるかもしれんが、わからなければ意味がない。

「私の質問には答えてもらったのだから、次は君の番と言う事になるのかな?」
「ええ、そうなりますね。では、単刀直入に―――――――――――――――――――――――あなたの目的は何かしら、黒幕さん?」
「「「っ!?」」」
彼女の言葉が見えない矢となって私の心臓を貫く。
まさか彼女は、事の真相にすでに辿り着いているというのか……!?

だが、ここで動揺を顔に出すわけにはいかない。何とか外面を整え、シラを切ろうとする。
「なんの「しらばっくれようとしても無駄ですよ。あの仮面があなたの手の者……っというか、ここにいるリーゼアリアであることはもうわかってますから。この前の戦闘の時に、こっそり発信機代わりのモノを付けさせてもらいました。ここまで言えばわかるでしょう?」くっ………」
報告で上げられた映像はすでに見ている。しかし、あの時にそんなことをしていたとは……。
初めから、倒すためではなく尻尾をつかむために動いていたというわけか。
しかし、発信機の類には細心の注意を払っていたはず。ということは、魔術的な仕込みか。

「あとは……そうですね、士郎のアバラを折ったのはリーゼロッテの方なんじゃありません? 確か、リーゼロッテがクロノの近接戦闘の師匠で、リーゼアリアのほうが魔法の師匠という話ですし……この前戦った時の感触だと、リーゼアリアに士郎と正面から近接戦で互角に渡り合えるだけの技量はなさそうでしたから。
まあ、その件については今は関係ないので置いておきましょう。ああ、言うまでもないかもしれませんが、別に水に流すわけではありませんよ。貸し借りはハッキリさせる主義なので♪」
にこやかに笑みを浮かべながらそう締めくくり、凛君は泰然とした態度でこちらを見据える。
対して、私は無表情を装うことしかできない。
すなわち、それこそが私たちの形勢を物語っている。

私の使い魔である二人が動いていた以上、私が無関係と考える方が不自然だろう。
二人の独断ということにすることもできなくはないが……だとしてもだ。
アリアは一瞬驚愕に顔を歪め、すぐに頭を垂れた。ロッテも、口惜しそうに歯噛みしながらも意気消沈している。
私は、彼女たちを甘く見ていたらしい。

おそらく、ここで彼女を捕らえても意味がない。
一人で来たということは、まだあの少年と使い魔がいる。
二人がこのことを知っているのはまず間違いない以上、ここで凛君を捕らえてもその二人から情報が漏れる。
そうなれば、確実にリンディやクロノが動く。
彼女を人質にし、その上で彼らと交渉する手もあるが、それも無意味だろう。
この少女が、その可能性を考慮していないはずもない。
ならば、捕まらない自信か、あるいは捕まっても問題ない理由がある。

「その様子だと、すでに逃げる算段は付いているということか」
「当然ですね。ここは私にとって敵地も同然、退路くらい確保してくるのは常識でしょう。
知ってます? 外部に対してどれだけ守りが堅牢でも、内側からだと割と簡単に出られるんですよ」
その通りだ。この本局とて、その例に漏れない。
むしろ、外への守りが堅ければ堅いほど内側は無防備なモノ。設備などのハードではなく、それを扱うソフトウェアたる人の心が……。突然本局内に敵が現れる可能性を否定はせずとも、そんなこと思いもよらないからだ。
その上、一度この部屋を出てしまえば、逃げ出すことくらい訳はないだろう。

捕らえるとすれば、今この場しかない。しかしそれも、アリアを人質に取られていればまず不可能だ。
仮にアリアを無視して攻撃しても、アリアを盾にすれば私たちの初撃くらいは防げる以上、脱出は問題ない。
盾となる者を連れてこられ………いや、そもそもここまで侵入させてしまった時点で詰んでいる。

終わった。まさか、計画も大詰めにきてこんな形で阻まれるとは……。
出来る事と言えば、彼女の知る情報に穴がないか探り、そこに活路を求めるしかない。
もっとも、その望みは果てしなく薄いが。
「君は、どこまで知っているのかね?」
「たぶん、概ねのところは知ってるんじゃないでしょうか?
 つい先日『八神はやて』と言う女の子と知り合ったんですが、私『八神』と言う姓に覚えがありまして。
 気になったのでちょっと調べてみたら、いろいろ面白い情報が出てきましたよ。
 まあ私も、まさか家族構成を調べた程度で一気にここまでわかるとは思いませんでしたけど……」
そう語る少女の顔には、苦笑が浮かび「これまでの苦労はなんだったのか」と言っているような印象を受ける。
しかし、守護騎士たちの裏も取られたか。

「あと個人的には、その八神はやてが本当の主なんじゃないかなぁと思ってます。
 だって、守護騎士たちの行動は少し不自然ですから。主を守ることを考えるのなら、わざわざ主の姿を晒すのは悪手でしかありませんもの。あれは、こちらを誘導しようとしたブラフなんじゃないでしょうか」
そこまで掴まれているか。
もし主の存在を誤解してくれていればあるいは、とも思ったが…………。

だがそこで、ロッテが凛君に食って掛る。
「ちょっと待ちな! 何で父様が黒幕だって決めつけてるんだよ!
 もしかしたら、アリアが闇の書の力を手に入れようとして裏切ったのかもしれないじゃないか!」
そう叫ぶロッテの顔には、明らかな苦渋が浮かぶ。
私を守るために双子の姉妹を切り捨てる、それが苦しくない筈がない。
しかし、それに対してアリアはまるで「それでいい」と言うように、穏やかな目をしていた。

ロッテはよく頑張っている。とはいえ、この少女はその程度で誤魔化されるほど甘くはない。
「そうでしょうか? むしろ私は、闇の書を封印ないし破壊するために動いているんだと思ってますけど?
 闇の書が主以外に手が出せない以上、手に入らないとわかっているモノを欲しがるなんてあり得ませんもの」
「はん! それじゃ辻褄が合わないね。
なんで封印しようとしてるのに、わざわざ完成の手助けをしようとするんだよ」
「別におかしなことじゃないでしょ。暗躍して状況をコントロールした方が何かとやりやすいし、完成後の対処手段に心当たりがあれば問題ありませんしね。
 おそらく、闇の書自体への干渉が難しいらしいし、外部からの力づくなんじゃないかしら?」
そこまで読みきっているか。いや、闇の書の性質を考えれば必然その結論に至る。
アルカンシェルにしたところで、形は違えどその本質は同じだ。
主諸共破壊するか、それとも停止させるか、その違いでしかない。

「だ、だったら、なんでこんなまだるっこしい方法を………」
「確かに、せっかく地位も権力もある人なんだから、こんな遠回りな手段を使うのはオカシイですね。
 普通に管理局の戦力やらなんやらを使えばいいんですし……」
「そ、そうだろ! 適当なこと言ってんじゃないよ!」
凛君は、それまでの自信に溢れた調子から、一転して言い淀んで見せる。
そこをロッテは、活路を見つけたとばかり食いつく。焦りもあるのだろう、それが罠であるとも知らずに……。

狩人が獲物が罠にかかったのを見逃すはずもなく、凛君の口調が変わる。
「それが、真っ当な方法ならの話だけどね。どうせ、管理局的には認められない手段なんでしょ。
 何かまではわからないけど、人道的に……あるいは道徳的に問題があるとか……。
 それなら管理局の手を借りられず、こそこそ暗躍する理由も説明がつくわ。
 ついでに、あなた達が黒幕なら……えっと『くらっきんぐ?』とか、士郎の戦い方にヤケに精通していた件も納得がいくしね」
それまでの表面的には礼儀を守った柔らかなものから、槍のように鋭く相手の心を貫くものへと。

そして、その口から語られた推測は、活路など元より存在しないことを私たちに突きつける。
つまり、ロッテはいいように彼女の掌で遊ばれていたのだ。
あえて活路のようなものを与え、そこに誘導してからトドメを刺す。
それも、そこには「言質を取るため」などといった戦略的な目的はない。
やっている事は誘導尋問じみているが、一度として私たちの言葉を拾い上げていないのがその証左。
彼女からすれば、何となくやってみた程度の認識なのかもしれない。

しかし、それも当然だ。なにせこれまでの話からして、彼女はその言葉通り概ねのところを把握しているのは明らか。いまさら、私たちの証言など必要ないくらいのところまで……。
詳細までは把握されていないだろうが、それでも大筋に穴はない。
そして、把握されている範囲だけでもこの計画を挫くには十分だ。

ロッテも力なく座り込む。もはや、どのような抗弁も全て徒労に終わるだろうと悟ったのだろう
「ロッテ…………もういいんだ」
「なんでさ! 父様は、もうこんなことを起こさないようにしようとしてるんじゃないか。
 もうこれ以上、誰も泣かなくていいように……」
その瞳からは涙があふれ、すすり泣く声も聞こえてくる。
それはアリアも同様で、自由にならない体ながら涙を必死にこらえていた。

だが、こうなってはもはや手遅れ。
彼女たちをこの件に関わらせてしまった事がそもそも失敗であり、初めから彼女たちを遠ざけておくべきだった。
後できることと言えば、諦めてすべてを明かすことくらいか……。
「両親に先立たれ、体を悪くしていたあの子を見て心は痛んだ。だが、運命だとも思った。
孤独な子であれば、それだけ悲しむ人は少なくなる。
彼女の父親の友人を騙り、生活の援助をしたりもしたのは、せめて永遠の眠りにつくまでの間くらい、幸せにしてやりたかったからだ。
………偽善だな。結局彼女に幸福を与えたのは私ではなく、守護騎士たちと誰とも知れぬ女性だったのだから」
まったく、本当に偽善だ。いや、その偽善も彼女にささやかな幸福すら与えることができなかった。
できることと言えば、私は結局はやて君の未来を閉ざすことだけ。
改めて思い返してみれば、自分の道化ぶりがあまりにも滑稽になってくる。

しかし、そんな私の告白に、彼女は思いもよらない言葉を返してきた。
「ああ……なに悲劇の主人公やってんのか知らないけど、別に私はあなた達の邪魔するつもりはないわよ」
「な…に?」
「考えても見なさいよ。邪魔するつもりなら、はじめからリンディ提督たちにリークしてるでしょ?」
確かに、冷静になってみればその通りだ。
彼女にはそもそも、こうして謎解きをすること自体が無意味なのだから。

では、彼女の目的はいったい………。
「詳細が分からないから想像になるけど、多分はやてを犠牲にするつもりでしょ?
だけど、私は別にあなた達を否定する気はないわ。
 真っ当な方法じゃどうにもならないってんなら、真っ当じゃない方法をやるしかないのも驚くほどの事じゃないしね」
彼女のその素振りは、先ほどまでと変わらず気楽なモノ。
だからこそ、尚更その言葉が本心からのものであることを実感させる。

「はっきり言うとね。私ははやてが犠牲になったからって、特に痛痒は感じない。
 昨日今日知りあった他人が犠牲になっても、殺人事件のニュースを見たのと大差ない感慨しか湧かない」
そう語る彼女の眼はどこまでも冷え切り、何の感情も見せない。
いや、見せないのではなく本人の言うとおり湧かないのだろう。
私に対する義憤や嘲笑もなければ、はやて君への同情や憐憫もない。

そうであるが故に彼女の言葉は何よりも酷薄で、私の脳裏に「魔性」という単語がよぎらせる。
「自分で言うのもなんだけど、私は度量の狭い人間よ。
 輪の外にいる人間がどうなろうと、内側の人たちさえ無事ならそれでいい。
 気は進まないけど、必要なら外の人間を犠牲にすることも厭わない。
 今回もそういう話でしょ? はやてを犠牲にすれば、私の周りの人間は無事なんだから」
だから、私がしようとしていることも黙認すると言うのか。
この場に来たのは、あくまでも事実関係を把握しようとしただけであり、自分の知らないところで状況を操作されるのが、ただ気にくわなかっただけと?

しかし、話はそこで終わらなかった。
「でも、一つ聞いておきたいんだけど、あなたははやてを犠牲にすることをどう思ってるの?」
「君にとって、それは重要なことなのかね?」
「ん? 別に。知らなくてもいい…というか、本当にどうでもことだと思うわよ。
ただ、ちょっと知り合いと重なったから聞いてみただけっていう、純粋な好奇心とでも思ってちょうだい」
その顔にはどこか懐かしさのようなモノがあり、同時に呆れと言うかそういう感情が見えた。
その表情の変化を見たことで、私はやって眼の前の少女が人間なのだと実感することができ、思わず安堵する。
おそらく、そこにそれまで彼女から感じていた「魔的」な雰囲気と違うものが混じっていたからだろう。

とはいえ、いつまでもそうして胸をなでおろしてばかりもいられない。
彼女の問いに答えるべく、しばし思案し出た答えは「何も語る資格がない」というものだった。
「…………………………特に、語ることはないよ」
「はぁ……やっぱり、あなた達のそういうところ少し似てるわ。
アイツはもっと徹底してたけど、そうやって理解を求めないあたりがね」
そう言って、凛君は深々と溜息をつく。
なんというか、全身から苦労しているという気配が滲み出ているな。

「まあ、いいわ。じゃあ、ここからが本題」
本題? どういうことだ。
話はこれで終わりなのではないのか。

凛君は表情を引き締め、その眼からはこちらの心臓を射抜くような鋭い光が宿っている。
そうして彼女は私の前に手を差し出す。
「取引といきましょう、ギル・グレアム」
「取引?」
「ええ、損はさせないわよ」
その一言は、まるで悪魔の囁きの様にこちらの心に染み渡る。
いったい、彼女は何を考えているんだ。

だが、疑問を覚えると同時に、彼女の瞳から目を離せない自分にも気付く。
まるで、何か良くないものに魅入られたかのようで、「魔性」としか表現しようのない何かだった。
だとしたら私が先程感じたものは、彼女の「魔性」のほんの一端に過ぎなかったのかもしれない。

そんな彼女の魔的な雰囲気は部屋の中を埋め尽くし、いつの間にかリーゼ達も微動だにしなくなっていた。
「あなたが知っていることを洗い浚い吐きなさい。事と次第によっては、私たちも手を貸してあげる」
「それで、私にどんなメリットがあるのかね?」
「八神はやてを救う、その可能性の一欠片では足りない?」
彼女の雰囲気に呑まれないよう、絞り出すようにして喉から出た問いへの答えは、私の想像の遥か外のもの。
“はやて君を救う”それは私が求め続け、ついには見つけられずに諦めた可能性だった。

しかし、彼女の協力を得ることでそこに光が見出せるのだとしたら…………。
「待ってくれ! 君は先ほど、はやて君を犠牲にすることを苦にしないと言ったはずだ。なのに、なぜ?」
「確かに、八神はやてが犠牲になっても知ったことじゃないわ。
 だけど、アイリスフィールとはちょっと因縁があってね。彼女の家族には生きててもらわないと困るのよ」
私には、彼女の言うことの半分も理解できていないだろう。
しかし、凛君には凛君なりのはやて君を救いた理由があるらしい。
それなら、理由はそれで十分ではないか。

「いったい、どうするつもりなのかね?」
「外からの力づくはダメ。闇の書への直接干渉もダメ。
なら、やることは簡単よ。“はやて”に………闇の書の管理者権限を握らせる!!」
瞳の奥に強い意志の光を宿して宣言し、差し出したその手を力強く握る。
管理者権限の掌握。それが出来れば、闇の書の暴走を止め管理下おけるかもしれない。
そうなれば、はやて君どころか闇の書………いいや、夜天の魔導書そのものを救うことになる。

「そんなことが…………」
「やってみないとわからないけどね。
でも、闇の書じゃなくてはやて自身への干渉ならいけるはずよ。内面干渉はこっちの領分だから」
アリアに施したのも、その一つと言うことか。だがだとしても、それを受けるかどうかは別の問題。
むしろ、普通に考えればとてもではないがそんな提案には乗れない。
そんな……できるかどうかも分からない賭けに出て、全てを水泡に帰してしまうわけにはいかないのだ。

本来なら取るに足らない与太話、あるいは当てにならない机上の空論と斬って捨てるはずの言葉。
しかし、それはあくまでも我々(魔導師)の常識に過ぎないのではないか。
彼女は魔導師とは別の法則を操り、我々の常識から逸脱した“魔術師”。
それならば、あるいは………心のどこかで、私はその微かな希望に縋ろうとしている事を自覚する。

それに、ここでこの手を払ってもメリットがない。
(彼女がリンディ提督たちに話してしまうかもしれないことを考えれば、彼女の案が実行可能かどうかに関わらず、一度こちら側に引き込んでしまう方がいいのだろう。そうすれば、最悪でも時間稼ぎくらいにはなる)
いや、そんなことは所詮言い訳に過ぎないのかもしれない。
私の心の天秤は、本当はもう傾いてしまっているのではないか。

気がつくと、いつの間にか握りこまれていた繊手は開かれ、眼がそのか細い手から離せずにいた。
もしかすると、それこそが何よりも明白な答えだったのかもしれない。
しばしの葛藤を経て、躊躇いながらも差し出されたその小さな手を―――――――――――――――握り返した。
「契約成立……ということで、いいのかしら?」
「まずは話を聞かせてもらおう。
見込みがなさそうであれば、躊躇なくこの手を払うという事を忘れないでほしいがね」
「それなら問題ないわ。言ったはずよ、損はさせないって」
そうして、私たちはどちらからともなく力強く互いの手を握り合う。
互いの間にあるのは、友好でも信頼でもない。それは「もう逃げ場はないぞ」という意思表示に近かった。
だが、何処かそれを好ましく思う自分もいる。私と彼女との間には、そのくらいの方がいいのかもしれない。

クリアせねばならない課題は多い。
彼女のやろうとしていることが、現実的に可能かどうかも考えなければならない。
なにより、失敗した時の為の次善の策を実行できるよう、綿密な計画も必要だ。

しかし、ここに一筋の光明が見えた。
今までなかった、希望の光が………。

そこでふっと、この年若い取引相手のことを思う。
(それにしても…これは、確かに「魔女」だ)
人を惑わす「魔性」は帯び、こうして物語の陰で暗躍する様は魔女の呼び名に相応しい。
だが今は、この魔女との出会いに感謝しよう。

Interlude out






あとがき

というわけで、クロノより一足早く凛は真相に迫りました。
まあ、これは単純にシャマルの事を知っていたことが大きいですね。
そうでなかったら、はやての身辺調査をしてみようとは思わなかったでしょうから。

それと、士郎ならともかく、凛だったら特にグレアムのやり方に文句を言うとは思えないんですよね。
別に、彼女からしてみればはやて個人は単なる顔見知り程度ですから。
グレアムの方針にしても、正当性はともかく、これまでのものよりか有効性はありますからね。
色々問題点はありますが、それでもしばらく封印出来るだけでも意味があると思います。
ただし、それも含めてグレアムの意向や思いなんて凛からすれば知ったこっちゃありません。
単純に、そこにアイリスフィールというピースが入ってきたので、士郎の事を慮って今回の様な提案をしました。
ここではやてに何かあると、さらに士郎が罪の意識に苛まれそうですから。

それと、凛がアリアに施した仕込みについてちょっと補足を。
まず、発信機代わりというのは前回接近戦をした時に使った粉末状の宝石ですね。
アレが体にこびりついていて、そこから尻尾を掴んだ形になります。
さすがに最初は驚いたでしょうね。足取りを掴んだと思ったら、まさかこんな身近にいたんですから。
そこからはやての調査結果などを踏まえて、今回の考察に至ったわけです。

そして、アリアにかけた束縛は基本的には魔眼によるモノとなります。魔眼は後天的に付与することもできるそうなので、凛がそれをしていたとしても不思議はないでしょう。あれ、いろいろ便利ですから。
これまた前回の戦闘の時、一度目を合わせた際に魔眼を使って種を植え付け、今回グレアムとの交渉のためにアリアに会った際に、警戒していないところを狙って全力で束縛をかけたという感じです。
さすがに戦闘行動中であっても一発で術中にはめられるのは強力すぎるので、こういうまだるっこしい段階が必要としました。
つまり、アリアは前回の戦闘後絶対に凛に会わなければ術中に落ちることもなかったわけです。

でも、書いていて一番大変だったのは凛と士郎の短時間デートですけどね。
正直、フラグを立てるイベントくらいならともかく、もうくっついた後となるといろいろ大変なんですよ。
恋愛話とか書いている人たちすげぇ、と心底思いました。
読むのはともかく、書くのがどれだけ向いていないのかを実感させられましたよ。
やりたいのに出来ないジレンマです。正直、何度投げ出そうと思ったことか。

というわけで、その辺へのツッコミは特に控え目でお願いします。
なにせ、私のライフポイントはもうゼロ間近なので……。
どなたか、砂糖を吐かせる書き方を教えてください、切実に!!


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