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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第33話「露呈する因縁」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/11 00:39

SIDE-凛

やたらとコードやらモニターやらで占められた空間。
正直、私には何がなにやらわからないモノだらけだわ。

しかし、これはどうしたものかしらね……。
「文化レベル0。人間は住んでない、砂漠の世界だね」
呟きにも似た様子でそう漏らすエイミィ。
無数のモニターの一つ、そこにピンクの髪の美剣士と犬耳に尻尾の偉丈夫が映っている。

これまでは、まあ一応こっちの足元に現れてくれたから単純だったけど、今回はそうではない。
私自身としては、わざわざ別の世界に行ってまで連中と事を構えるというほど、この件に乗り気じゃない。
しかし、それはあくまで私自身の事。傍らに立つ相棒はそうはいかない。
士郎としては、何としても確認したい事があるだろう。

エイミィは忙しなくキーボードを叩くが、あまり状況はよくないらしい。
「結界の張れる局員の集合まで、最速で四十五分。まずいなぁ……」
四十五分、か。それだけあれば、あの連中なら十分あの場から移動できる時間だ。
見つかっていることに気付いてはいないだろうけど、それでも時間がかかり過ぎる。

フェイトの方でもそう判断したのか、アルフに目配せし、お互い頷き合う。
「エイミィ」
「ん?」
「わたしが行く」
「あたしもだ」
まあ、その辺が妥当なところだろう。
幸いというかなんというか、あそこにいるのは二人の目当ての人物たちだ。

「うん、お願「エイミィ、ちょっとタイム」……どうしたの、凛ちゃん?」
指揮代行ということでエイミィは二人に許可を出そうとしたけど、そこで口をはさむ。
結果、全員の視線が私に集中する事となった。

正直、あまり気は進まない。
それどころか、できれば縛りつけてでもこの場にとどめたいのが本音だ。
だけど、それはむしろ害悪にしかならない。
疑念はきっちり解消しておくべきだろうし、どのみちこいつは無理にでもついて行くだろう。
今はまだ悩んでいるようだけど、最終的に出すであろう結論は既にわかっている。

それに、こういう時に止めたって無駄なのは百も承知だ。
「フェイト、どうせだから士郎も連れて行きなさい」
「え? 凛ちゃん、いいの?」
疑問を口にしたのはエイミィ。
無理もないか。今までのスタンスを考えれば、むしろ手を出さない可能性の方が高いくらいなのだから。

士郎も士郎で、私の発言に驚いたのか目を丸くしている。
「ふん、いいわけないでしょ! でも、どうせ止めたって聞きやしないんだし、なら気の済む様にさせるだけよ。
 むしろ、フェイト達が近くにいた方がこいつもそこまで無茶できないだろうから、そっちの方がマシでしょ」
言っちゃなんだけど、こういう時は面倒見る相手というか気にかけなきゃいけない相手がいた方が安心できる。
一人だとどこまでも突っ走る奴だが、周りに人がいればある程度は自制するはず。
自分が暴走すればそのままフェイト達の危険に繋がるのだから、士郎でもそこまで危ないマネはできないだろう。
まあ、そのフェイトが危なくなったらその限りではないんだけど……。
でも、これよりいい手というのも浮かばないのよねぇ。あとは、本当に縛りつけるくらいしかないし……。

「…………凛」
「行ってきなさい。リニスにしてもそうだけど、アンタがフェイト達の事を放っておけるなんて思ってないわよ」
というのは、まあ、表向きの理由。

本当のところをここで言うとあとで面倒だし、念話でこっそり伝えることにする。
『フェイト達の事は置いておくとして。あそこに目当ての相手はいないけど、ここで待ってたからって会えるとは限らないしね。それに、聞きたい事を聞くだけならアイツらでも問題ないでしょ』
これは、管理局には知られていない方がいいだろう。
どんな結果になるにせよ、余計な情報を与えるつもりはない。

「ごめん。それと、ありがとう」
そう言って、士郎は律儀に頭を下げる。
私のもう一つの思惑に気付いているかまでは分からないけど、一応狙い通りになったから良しとしよう。

まあ、思惑と言ってもそう大層なモノじゃない。
とりあえずこれで士郎があれと直接対面する可能性は低くなった、程度のものだ。
今あそこにいないからって遭遇しないとは言い切れないけど、わざわざ後から敵の前に大将を晒すとは思えない。
なら、もしあの女があらわれるとすれば別の所だ。
もし出てくるようなら、士郎抜きで私が会えばいい。その方が、まだ安心できる。

「それじゃ、フェイトちゃんとアルフ、それに士郎君でむこうに向かって。
 なのはちゃんはバックス。ここで待機。
 凛ちゃんは…………………………まあ、お任せってことで」
「いいわよ、今回は手伝ってあげる。黒尽くめはサポートっぽいから、出るとすればあのチビと一緒でしょ。
リスクを考えると主単体で動き回るとも思えないし、なのはには私がつくわ」
とりあえず、この二手に分かれておけば特に問題はないだろう。

まあ、それはそれとして。
『士郎。わかってると思うけど、聞く内容には気をつけなさいよ。はぐらかし難いことを聞くと、後で面倒だから。
 それと、話なんてたいして聞いちゃくれないだろうし、質問は一つが限界だと思う。だからその一回で確証が取れそうで、なおかつ管理局に知られても困らない事を聞くこと。わかった?』
『それはまた、難易度の高いことを……』
『嫌ならいいわよ。この条件が飲めないなら行かせないから』
『……はぁ、了解』
『よし。それと、たいして期待してないけど……………無茶、するんじゃないわよ』
ラインを使った念話で必要なことを伝える。
士郎に無茶するな、なんて言うだけ無駄だろうけどね……。

そのまま、士郎はフェイトと一緒に部屋を後にした。
出来れば他人の空似であって欲しいけど、ここまで偶然が重なった以上一応覚悟はしておいた方がいいか。



第33話「露呈する因縁」



SIDE-士郎

凛にはいろいろ釘を刺されたが、とりあえず出向くのを認めてもらえたのはありがたい。
いざとなれば強行突破することも考えていたが、そうしなくて済んだのは幸いだった。

とはいえ、ならせめてアイツが出した条件だけはちゃんと果たさないとな。
ただでさえアイツには、迷惑と心配をかけどおしだ。
本当はこれ以上心配させたくないんだが、これはどうしても確かめないわけにはいかない。
そうである以上、最低限あれらの条件だけは守らないと。

「さて、見えてきたな」
「「え!? 見えるの!!」」
ああ、そういえば普通は見えないよな、この距離じゃ。
俺の言葉を聞いたフェイトとアルフは、何とか眼を凝らすが成果はなさそうだ。

「状況は、どんな感じなの?」
「あまり芳しくないな。動きに精彩が無い。肩の傷だけとは思えんし、もっと別の何かもあるのだろう。
 おそらくだが、遅かれ早かれあの蛇の化け物に捕まるな。
では、それを踏まえた上でどうするかね?」
横で俯き気味のフェイトにそう尋ねる。

しばし思案していたようだが、すぐに結論が出たのか顔を上げる。
「行くよ。このまま放っておくなんて、できないから」
漁夫の利を得た方がいいのは確かだが、それがわからないような子でもない。
なら、本人の好きにさせるか。俺としても、シグナムには聞きたい事がある。
そういう意味では、一度助けて貸しを作るのも悪くない。

「よし、ではここで二手に分かれよう。
 私はフェイトと共に行く。リニスはアルフに同行してくれ」
「わかりました」
フェイトと並ぶ形で飛んでいたリニスに指示を出し、俺はアルフの背から降りて魔法陣を展開しそこに乗る。
ここまでは狼形態のアルフに運んでもらったが、ここからは別行動だ。

というか、いつの間にかちゃっかりリニスもついてきてたんだよな。
段々と要領が良くなってきている気がするのだが、気のせいだろうか……。

そんな事を考えているうちに、アルフは人間形態をとりリニスと共に別方向へと移動しようとする。
「待て、アルフ」
「ん? なんだい?」
「わかっていると思うが、まだアレは使うな。
 多少は形になってきたが、まだアレを使えるだけの体ができていない。無理に使えば、反動で動きが鈍る。
 今の段階で決定打は望めない以上、使った後はまともに戦うことすらできなくなるぞ」
多少はコツをつかんできたのか、以前に比べれば一応動きの制御は出来るようになってきた。
とはいえ、そもそもアレを使うだけの下地が無かったせいか、一回使うだけでも体にかかる負担が大きい。
これでは、到底一対一での戦闘には使えないだろう。

「ちぇ、わかったよ」
「リニスも、もし危なそうであればすぐに退け」
「はい」
アルフは不満そうだが、リニスがついていれば大丈夫か。


そうして、リニス達と別れた俺たちはシグナムの元へと向かう。
ちなみにその間、俺は例によってフェイトに抱えられながらの移動となった。
はぁ、我ながら情けない。

まあ、それはともかく。
通常の視力でもシグナムを目視できるくらいまでの距離になったところで、フェイトが声を上げる。
「シグナム!?」
「待て、フェイト。それをどうするつもりだ?」
一端魔法陣を布いてそこに立ち、フェイトの腕を抑えて制止する。

「どうするって、とにかく助けないと!」
「助けるのは……まあ、いいだろう。戦うのは君だ。なら、好きなようにすればいい。
だがな、あれとて一応生き物だ。そんな攻撃をしては殺してしまうぞ。
 それに、これからシグナムと戦うというのに、今からそんなに魔力を使ってどうする。
 ここまで運んでもらった私が言うのもなんだが、より万全に近い状態で臨むべきだ」
今フェイトが使おうとしていたのは、クロノが使っていた「スティンガー・ブレイド」とやらの電撃付与型。
正確にはサンダーレイジの上位に位置する魔法らしいが、見た目はどう見てもあっちに近いよな。
まあそれはともかく、それだけの魔力をいきなり消費するのは、正直あまりうまくない。

俺の言わんとすることはわかるのだろうが、それでも納得いかなそうにしている。
「じゃあ、どうするの?」
「ふむ、ではこうしよう。フォルム・サジタリアス」
フェイカーを弓へと変え、矢を番える。

そのまま矢を放ち、シグナムを捕らえる触手を貫く。
「なに、これは……!」
突然の変化にシグナムは驚いている。

だが、今はそれどころではない。
今の攻撃で、蛇の化け物の意識がこちらに向いた。
「『投影(トレース)、開始(オン)』」
そこで、一振りの剣を投影する。
その剣は赤黒く、全体から凄まじいまでの凶々しい気配を放つ。

それと同時に、フェイトとシグナムが弾かれたように俺と距離を取った。
「「ッ!?」」
「なるほど、二人とも良い勘をしている。いや、むしろこれは当然の反応か?」
どうやら、二人とも反射的に飛び退いたらしく、自分自身の行動に驚いていることがその表情から見て取れた。
だが同時に、その眼には怯えの色も含まれている。この剣の危険性を、理性ではなく本能で感じ取ったか。

そんな二人から目を離し、剣を構えながら巨体を誇る蛇の化け物のような生き物と睨み合う。
「シロウ!?」
俺がこれで真っ向から戦うと思ったのか、動揺を抑え込んでフェイトが悲鳴のような声を上げる。

だが、元よりそんなつもりはない。
「待て、フェイト。よく見ろ」
「え?」
俺の言葉に従い、フェイトは再度奴の方を見る。

すると……
「逃げいていく?」
「ふむ。やはり、野生の生き物は察しが良くて助かる」
そう呟き、投影した剣を消去する。
まともに戦えば厄介、あるいは面倒な相手だったろう。
だが、さすがにわざわざあの魔剣と戦おうと思うほど鈍くはなかったか。
宝具としての精度も高いが、何よりあれの不吉さをこいつも悟ったのだろう。

なにせ、モノがモノだ。
強力な“報復”の呪詛を持つが、同時に持ち主の運命さえも破滅に追い落とす様な代物からな。
あんな不気味なモノと戦うくらいなら、怒りを鎮めて逃げることを選択したか。
自然の中で生き残るのは、強い生き物ではなく危機回避能力の高い生き物だ。
そういう意味で言えば、あれは長生きするかもしれないな。

「シロウ、今のは?」
「ダインスレフと言ってな、少々曰く付きの魔剣だ」
実を言うと少々どころの代物じゃないんだが、破滅のみをもたらすなんて言って心配させるわけにもいかない。
俺自身、こんな物騒なのをいつまでも持っているのは怖いから、早々に破棄したわけだし。

さすがに、宝具の投影となると普通の剣を投影するよりかは魔力を食う。
だが、それでも真名開放をしたわけではない。
消費した魔力とて、アレを戦わずに退散させたことを考えれば十分少ないと言っていいだろう。

と、そこへ……
「礼は言わんぞ。衛宮、テスタロッサ」
「えっと、お邪魔でしたか?」
「蒐集対象に逃げられてしまった」
「それは仕方がなかろう。ここで死なれては、君を捕まえることができなくなる。
 君には聞きたいこともあるのでね。死なれては困るさ」
恩を売って答えざるを得ない状況を作ろうかとも思ったのだが、これではそれは望めないな。
助けられた事と蒐集対象を逃がしてしまったことで、プラスマイナス0と言ったところか。

まあ、シグナムならあの状態からでも脱出できたとは思うし、それほど期待はしていなかったからな。
とはいえ、なら聞き方を変えるまでだ。有無を言わせずに勝手に聞くという方法で。
「生憎だが、答えるつもりはない。
聞きたいのであれば、私を「アイリスフィールは『冬木の聖杯、その護り手』か?」……な…に?」
元から、答えなど期待してはいない。こういう状況だからな、馬鹿正直に答えてくれる奴などまずいない。
だから、俺が求めていたのは問いに対するシグナムの反応、その種類。

そしてシグナムの反応は、明らかに意味不明な問いを聞いた時特有の困惑とは別物だ。
意味が分からないという点では同じだが、問いの意味ではなく何故俺がそれを知っているのかを問題としている。
これでも、それなりに駆け引きの心得はあるからわかる。あれは、そういう目だ。

最早答えなど必要ない。その反応だけで十分だ。
「やはり、知って…いるのだな」
ここで、俺たちの疑念は確信に変わった。
あの銀髪の女性「アイリスフィール」は俺たちの知る人物で、まず間違いない。

この世界に冬木という土地が存在しない以上、並行世界出身とみていいだろう。
少なくとも管理局の把握している範囲で存在しないのは、この半年の間にリニスに調べてもらってわかっている。
次元世界全体を見渡せばあるかもしれない。だが、管理局の把握していない土地にいながら、わざわざこちらに来るメリットもあまりない。シグナム達が地球を中心に行動している事からも、その可能性は低いだろう。
また、『聖杯の護り手』という言葉の意味を知り得る人物は限られる。その上『アイリスフィール』という名だ。
彼女がそうでない限り、シグナム達がこの言葉を知るはずがない。

まあ、かなり直接的な事を聞いてしまったが、誤魔化しようはある。
この場合の「冬木の聖杯」と「護り手」は、魔術師における隠語とでもしておけばいいだろう。
あながち間違いではないし、これだけでは知られてはならない領域を知られることはない。

(十年、か。長かったのか、それとも………)
そう、アレから十年が経った。「もう」なのか、それとも「まだ」なのかは俺にもよくわからない。

まったく、自分自身の事なのにな。心というのは、これだから厄介だ。
(いや、そんなことは……もう、どうでもいいのかもしれないな)
一つ言えるのは、十年間ずっと燻り続けたモノが、やっと行き場を見つたのだろうという事。

「バカな! 何故貴様が、それを知っている!?」
「この言葉の意味を知っているのならば、わかるだろう?」
俺の答えを聞き、シグナムの顔が苦悶に歪む。
気持ちはわかる。おそらくは、俺も似たような顔をしているのだろう。
俺はこの答えを期待していたのか、それともその逆なのか………。
自分自身ですら分からないほど、心が混沌としている。

「シロウ?」
「用は済んだ。あとは任せる」
「待て、衛宮!!」
「いいのか? あまり時間をかけると、本格的に管理局が動くぞ。そうなれば、君とてただでは済まん」
「…………………ちぃっ!」
俺の言葉の正しさを認めたのか、シグナムはフェイトと向き合う。
フェイトもチラリと俺の方を見たが、気持ちを切り替えてシグナムに対する。
これで、もう俺の出る幕はないな。
少なくとも、フェイトが蒐集されるような事態にでもならない限り、俺が手を出すことはないか。

それに、一つ確かなことがある。俺は…………ケジメをつけなければならない。
俺が『衛宮』であるが故に、『アイリスフィール』に対してその名の責任を果たす。
それが、俺に出来るただ一つの償いだろう。



SIDE-凛

エイミィの所で待機していたことで、しっかり士郎とシグナムのやり取りを聞くことができた。
(はぁ。まさか、一番嫌な可能性が現実になるとはね)
士郎の問いへのあの反応。それだけで十分すぎる答えになった。
一応覚悟はしていたとはいえ、まさか本当にそうだったとは……まったく、世界はつくづく悪趣味だ。

「ねぇ、凛ちゃん。聖杯の護り手って?」
「ああ、一種の専門用語ね。錬金術使っている連中のなかでも、ちょっと訳ありな術者をそう呼ぶのよ」
なのはの問いにそう答えるけど、正直頭の中はそれどころじゃない。
アレが本当にアイリスフィールであるのなら、迂闊に捕まえさせるわけにはいかなくなった。
下手に捕まえると、私たちの事までバレることになる。
何より、アレは一応士郎の母親に相当する人。本人が第四次や第五次の事を聞いてどんな反応をするかにもよるけど、あの人は士郎に希望か絶望のどちらかを与え得る人物だ。これは、扱いには慎重を要する。

と、そこへ再び緊急事態を知らせる警報が鳴り響く。
「な、もう一ヶ所!?」
驚きながらも、エイミィの手は淀むことなくキーボードを叩き、モニターの一つを切り替える。

そこに映っていたのは、闇の書を抱えるヴィータの姿だった。
「なのはちゃん!」
「はい」
「じゃ、私も行きますかね」
正直、今の事実を知れた時点でヴィータに用はない。
ただ、今この場で捕まっては困る。まだこっちは、この先どう対応していくか決めかねているのだから。
それに……。

そのことを考えているうちに表情が苦くなっていたのか、エイミィがちょっと的外れな心配をする。
「え、うん。それはありがたいんだけど、もしかしてあの聖杯の護り手っていうの相当ヤバい?」
「? まあ、厄介と言えば厄介だけど、危険はそれほどないわよ。
 錬金術の秘奥の一つではあるけど、闇の書みたいに物騒なモノってわけでもないし」
そう、危険は少ないんだけどねぇ。
厄介極まりないのよ。“私たちにとっては”って注釈がつくけど。

「ふ~ん、そっか。でもさ、どういう風の吹き回し? あそこにあの黒尽くめの人はいないのに」
「ああ、それ。まあ、らしくないなぁとは思うんだけどね。ちょっと、気になることがあって……」
「気になること?」
「ごめん、まだ確証がないから」
そう言って肩をすくめると、とりあえずエイミィは詳しく詮索はしなくなった。
まあ、上手く誤魔化せたようでなにより。
どうやら、私自身何が気になるのか掴み切れてないと思ってくれたらしい。それっぽい事は言ってみるものだ。

しかし、アレが本当に私たちの知るアイリスフィールなら、もはや他人事で済ますわけにはいかない。
となると、闇の書を利用しようとしていると思われるあの仮面の男もまた無視できない。
闇の書はどうでもいいけど、あの女をどうこうされるのは困るのよね。
こっちはこっちで、あの女に用があるのだから。
そのためにも、あの仮面の目的やらなんやらを掴む糸口を手に入れておきたいところだ。

「じゃ行くわよ、なのは」
「あ、うん」
さて、できればあの仮面には早々に出てきてほしんだけどね。
そうすれば、ヴィータを逃がしても不自然じゃないし。

なにより、あれの尻尾をつかめれば、まだわからないこともはっきりするかもしれない。
そう、闇の書やアイリスフィールの事だけじゃなくて、何でアイツが鉄甲作用の事を知っていたのか、とか……。



Interlude

SIDE-リニス

砂漠世界の上空。
そこで私は、アルフの戦いを少し離れた所から見守っている。

ただし、その光景はどこか異様なものであるけど。
「でやあぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
「おおぉぉぉぉぉぉ!!」
狼形態のアルフと、人間形態のザフィーラ。
それぞれ違う姿での戦いは、人と獣の戦いを見ている様。

アルフは動物形態特有の敏捷性で相手を翻弄しつつ、正面からだけでなく、隙を見て死角からの攻撃も行う。
対して、ザフィーラは人間形態であるが故の、手足の自由度を使った多彩な技で以て対応している。
それぞれがそれぞれの姿の特徴をよく活かした戦いだが、やはり第三者として見るとアルフの劣勢に見えた。

時に爪で引き裂き、時に牙で噛み付き、息をつかせぬ攻防が繰り広げられ、アルフの攻撃も通ってはいる。
事実、少なくない傷を負わせてはおり、ところどころに赤い線がザフィーラの体に描かれていた。
だが、それも紙一重の回避と防御によって付いたものにすぎず、経験豊富な敵はギリギリのところで捌いていく。
スピードでは上回っていても、そのスピードはほぼ完全に見切られているのだ。
ついた傷のほとんどは、見た目ほどのダメージを与えられずにいる。

一番の問題は、徐々にだがアルフが押されていっていること。
初めはわずかにザフィーラが有利程度だったのに、少しずつ天秤の傾きは大きくなる。
このままいけば、趨勢はほぼ明らか。段々と押されていき、最後には敗北するだろう。

そして、遂に……
「もらった!!」
アルフの胴体目掛け、回避不能のタイミングで重い一撃が放たれる。
これが当たれば即敗北、ということはないだろうが、それでも形勢はほぼ決まる。

だが、必中と思われた拳は虚しく空を切った。
「なに!?」
「はぁぁぁぁ!!」
その直後、ザフィーラの頭上にオレンジ色の影が出現する。

そうして、そこで再びその姿が消えた。
シャッ!!
「がっ!?」
次に姿を現したのは、ザフィーラの直下一メートルほどの位置。
ザフィーラは頭に鋭い一閃を受けたのか、少量ながらも血飛沫を上げながらアルフから距離を取る。

その一連の攻防に、思わず目を見開き言葉を失う。
正直、私には今の攻撃が牙によるものか、それとも爪によるものか、それともそのどちらでもないのかさえ分からない。それだけ迅い、閃きの様な一瞬の攻撃。
だが恐るべきことに、ザフィーラはギリギリのところでその攻撃を回避してみせたのだ。
その結果、本来は甚大なダメージを与える筈の慮外の一閃は、皮を裂き僅かに肉を抉るだけにとどまらせた。

アルフの声や気配を認識し、脳が命令してから動き出したのでは間に合わない。
ならば、答えは一つ。アルフが消えると同時に、咄嗟に危険を予知し動いたのだ。
そして、完璧な奇襲であったにも関わらず回避されたという事は、それだけの差が二人の間にある事を意味する。
私には、それが絶望的なものにしか思えない。これは、今すぐにでも撤退した方がいいのではないだろうか。

そんな私の思考を余所に、ストレッチでもするように全身を伸ばしながら呟く。
「あいちちち。あちゃあ、士郎の言うことを守らなかった罰かね、こりゃ」
特に四肢は慎重に伸ばしている所から、その部分が痛むことが分かる。

正直、遠目から見ていてもよくわからなかったけど、辛うじて部分的にその姿を捉える事は出来た。
それは、傍から見ても奇怪な動き。
ザフィーラの拳が触れる直前、一瞬にしてアルフが消えたかと思うと、無音のうちにあの体勢からでは不可能な筈の位置、ザフィーラの頭上に姿を現す。魔法陣を展開し足場とするその姿は、天井を這う蜘蛛を彷彿とさせた。
そして、アルフは再び消え、次に姿を現したのはザフィーラの足の下。私に見えたのはそれだけ。
士郎から聞いたことが本当なら、静止状態から一瞬の内に最高速を叩きだすが故に、眼が追い付かなかったという事になるのだろう。正直、この眼で見てすら、何も理解できなかった。

そうして、ザフィーラは斬り裂かれた額から血を滴らせながら、アルフに問う。
「……なんだ、今のは」
「さあね、ここで使うつもりじゃなかった秘密兵器ってところさ。
 その様子じゃ、何をしたのかまでは分からなかったみたいだし、これならもう一回使えそうだね」
確か士郎は、一回見せたらもう使えないだろうというようなことを言っていた。
だけど、相手が攻撃に集中した瞬間に使ったことで、運良く見切られはしなかったらしい。

とはいえ、見た限り四肢にかなりの負担がかかっている。
あれでは、さっきまでの様に動き回ることは難しいかもしれない。
アルフもそれを自覚しているのか、一つ溜息をつくと人間形態をとる。
少なくとも、完全な動物形態を取っているよりかは、こちらの方がまだ戦えると判断したらしい。

ザフィーラは先ほどのアルフの不可解な動きを警戒し、無理に攻めようとはせず、慎重に様子を見ている。
しばしの間にらみ合いが続くが、そこでアルフが口を開く。
「一つ、聞かせとくれ。アンタも使い魔…守護獣ならさ、ご主人様の間違いを正そうとしなくていいのかよ!」
「間違い? 何を以て間違いと言う」
「なにって……」
ザフィーラの返事に、アルフは言葉を詰まらせる。
それは、思ってもみない反応だったのだろう。

「なるほど、確かに我等の行いは犯罪と呼ばれるものだろう。
 否定はせん、いずれはその罰も受けよう。だが、それが間違いであるとなぜ言える」
「ど、どういう意味だよ……!」
「大切なモノを、愛しき者を守ろうとすることが間違いであると、貴様はそういうのか? 我と同じ守護の獣よ」
それはつまり、彼らは何かを守るためにこんなことをしているというのか。

「我等には、もはやこれ以外に術がない。罪は認めよう。非難も甘んじて受け入れよう。
 しかし我等が願い、何人たりとも否定はさせん!!」
「ぐあっ!?」
「アルフ!!」
相手の気迫に押され、一瞬アルフの動きが止まる。
その隙を突き、ザフィーラの拳がアルフを捉えた。

思わず体が動き、吹き飛ばされるアルフの体を支える。
「サンキュ、リニス。でも、これはあたし達の戦いなんだ。
 悪いんだけど、下がってておくれよ」
「すみません、出過ぎたマネをしてしまいましたね」
何とか防御が間に合ったのか、深刻なダメージは防げたらしい。
だけど、決して無視できるようなモノでもない。
これは、ますます分が悪くなってしまいましたか。

これは、本当にアルフを連れて離脱することも考えなくてはなりませんね。

Interlude out



SIDE-凛

ヴィータの進路から行く先を予想し、そこで私となのはが待ち構えていると、少ししてヴィータがあらわれた。
いやはや、さすがエイミィ。いい仕事してるわ。

で、顔を突き合わせての第一声は……
「でやがったな、高町なんとか!!」
「なのはだってばぁ、な・の・は!」
などという、さっきまでのシリアス感を返してほしいモノだった。

「はいはい、コントはそれくらいでいいから」
「ちょっ!? 凛ちゃんヒドイ!!」
「ちっ、今度はてめぇも一緒かよ」
あちゃ、どうやら相も変わらず敵視されてるらしいわね。
まあ、実際敵なんだからなにもおかしくはないんだけど。

ただまあ、こっちに敵意を向けられても困るのよねぇ。
「ああ、なんか盛り上がってるところ悪いけど、私は手を出す気はないから。
 アンタの相手は、こっちの高町なんとかさん」
「ええ!? 凛ちゃんまでヒドイよ!」
はいはい、文句なら後で聞いてあげるから、さっさとやることやっちゃいなさいよ。
あえて口にはしないけど、手をヒラヒラして促してやる。

すると、拗ねた表情をしながらもしぶしぶながらヴィータを向く。
「ヴィータちゃん、やっぱりお話聞かせて貰うわけにはいかない?」
「うるせぇ! 管理局の人間の言うことなんか信用できるか!!
 それも、二人で来てる時点で話し合う気なんかゼロじゃねぇか!」
おお、なるほど! 言われてみればそうかも。
数的優位を作ってる時点で対等な話し合いじゃないって言われれば、確かにその通りだ。

「特に、そこの赤いのとあの白髪は信用ならねぇんだ!
 話がしたいなら、とりあえずそいつらのいねぇ所で言え!!」
は? なんで私や士郎をそこまで警戒するのよ。
確かに私たちは魔術師だし、向こうもそれに気付いているようだけど、ここまで警戒される理由って何?

「おい、お前!」
「ん、私? とりあえず、お前呼ばわりはやめて欲しいわね」
「うるせぇ! あの白髪、いったい何なんだ! なんであんなヤバい奴と一緒にいんだよ」
どういうこと?
確かに士郎の能力は使い方によっちゃあかなりヤバいけど、詳しいところをこいつは知らないはずだ。

「あのさ、せめてわかるように言ってくれない?」
「んなもんあたしが聞きてぇよ! よくわかんねぇけど、アイツはなんかヤバい。そういう感じがするんだ。
 お前らも、命が惜しかったらあの野郎から離れた方がいいぞ」
ああ、つまりは直感ってことか。これじゃ話にならないわ。
でも、それにしては妙に具体的な事を言うわね。

と、そこでヴィータがその手にいつぞやの赤い魔力球を用意していることに気付く。
「ふん、まあいいさ。お前らはあたしに用があんのかもしれないけど、あたしにはねぇ。
 吼えろ、グラーフ・アイゼン!!」
《Eisengeheul》
あの時同様、ヴィータは魔力球に向かって鉄槌を振り下ろす。
すると、光と爆音により一時的にこちらの目と耳がふさがれる。
なるほど、この機に離脱しようって腹か。確かに、そういうのに向いてるわよね、あの術は。

光と音が止む頃には、すでにヴィータはかなり離れたところまで移動していた。
それに対しなのはは…………
「しょうがない、かな。
 行くよレイジング・ハート。久しぶりの長距離砲撃!」
《Load Cartridge》
二発のカートリッジをロードし、ディバインバスターの準備を整える。

とはいえ、さすがにこの距離であの小さな的を狙うとなると、かなり難しい。
士郎じゃあるまいに、などと考えているとなのはの異変に気づく。
「へぇ、これは驚いたわ。本番に強い性質のなのは知ってたけど、ここまでとは」
私の中に芽生えたのは、純粋な驚き。
今のなのはの様子は、普段のそれとまるで違う。どちらかと言えば、弓を射る時の士郎と僅かに重なった。

十年間、ずっとそばで見続けてきただけにそれがどういうモノなのか、私にはそれが何なのかすぐにわかった。
(士郎に比べれば浅いけど、あの境地に踏み込むか。それも、まさかこの年で……)
一応これって一種の境地なわけだし、普通一生がかりで覚えるもののはずなのにな。
それを、まだまだ浅いとはいえそこに踏み込むとはね。つくづくこの子の天性の才能には驚かされる。

となれば、この一撃が外れることはまずあり得ない。
だとすると、出てくるとなればそろそろかな。

「ディバイ―――ン・バスタ――――!!!」
砲撃形態のレイジング・ハートから放たれた魔力砲は、寸分違わずヴィータへと迫る。

そして……
「おお、見事命中。って当然か。なのは、今どんな感じだった?」
「え? どんなって……」
「難しく考えなくていいから、感じたことをそのまま言いなさい」
「えっと、なんて言うか、ヴィータちゃんとの距離が縮まったって言うか、周りが凄く静かに感じたけど……」
ふむ、士郎とでは感じ方が違うのかしら? それとも、これはまだ浅いせいなのか。

「ね、ねえ凛ちゃん、レイジング・ハート。ちょっと、やり過ぎた?」
《Don’t worry》
「大丈夫でしょ。ほら、よく見なさい」
「あ、あれって!?」
なのはは少し心配そうにしていたけど、私はそんなこと欠片も思っていない。
だって、この場でアイツらが捕まるのをあの仮面が良しとするはずがないのだ。
そうでないと、これまでの行動との整合性が取れない。

そして予想通り、煙が張れると人影は二つに増えていた。
で、ヴィータは無傷。つまり、あの仮面が完全に防いでみせたということ。
同時に何かしらのやり取りがあったのか、ヴィータが転送の準備にかかった。

そこへ、そうはさせまいとなのはが次弾を放とうとする。
「もう一発! ディバイ―――ン……」
「っ! なのは、待ちなさい!!」
私がそう声をかけるのと、なのはの周りに青い光の輪が出現するのはほぼ同時だった。

いや、それだけじゃない。私の周りにもそれはある。
「ちっ」
私は急いでその場を離れるが、砲撃体勢だったなのはは間に合わずバインドに捕まる。
にしても、あの一瞬でこの距離からバインド決めるなんて何者よ。

でもまあ、こうなることは一応これまでの事から予想済み。
さすがにあいつみたいに即興でこの距離からバインド決めるなんて芸当はできないけど、その分用意は万全。
「カーディナル」
《了解。リングバインド!》
なのはが一射目の砲撃をする段階から準備していた四重のリングバインドを発動させ、お返しとばかりに仮面を囲う。こんな反撃は予想外だったのか、一瞬動きが鈍りバインドの一つを避け損ねる。

とはいえ、その間にヴィータには逃げられてしまったが。
まあ、ヴィータはとりあえず逃がすつもりだったから別にいいけど、アイツを逃がすつもりは毛頭ない。
さあ、このまま洗いざらい吐いてもらおうか。
「と言いたいところだけど、これは長持ちしないわね」
慣れない長距離発動の上、向こうのバインド破壊はかなり強力だ。
たぶん、もってあと数秒。向こうが離脱するまでの時間を考えても、たぶん十秒ないかな。

となれば……
「カーディナル、転送いける?」
《無論です》
転送の難易度は、転送する対象の質量と数、そして転送先の距離で決まる。
転送と言うにはこの距離は短い、ならあとは転送対象が軽く数が少なければ発動も可能。

そもそも、奴が出てくることは織り込み済みだったのだ。
故に、バインドを含め奴が出てきた時のための準備はとうの昔に整っている。

転送したのは“私自身”。転送場所は奴の頭上。
懐から一粒の宝石を取り出し、奴に向けて投げ放つ。
「『――――Acht(八番)』」
うち一つを炸裂させ、その場を豪火で包み込む。

だが、ここで手を抜けば奴を逃がす事になる。もうリングバインドは解かれているのだから。
そしてヴィータの離脱は既に済んでいる以上、奴がこれ以上この場に留まる意味はない。
「ふっ!」
あんまり気は乗らないけど、私自身が作った豪火の中に突っ込む。
なんとしても、奴の尻尾を掴む手掛かりを手に入れなければならない。

辺りを埋め尽くす炎の中、かろうじて人影を発見しそこに向けてカーディナルを向ける。
「……いた! カーディナル、チェーンバインド」
《了解。チェーンバインド最高硬度、四本射出》
空中に描かれた魔法陣から四本のバインドが出現し、奴の四肢に向けて蛇の如くその身を躍らせる。

炎が晴れていく中、奴はそれを察知し寸でのところで回避する。
だけど、こっちだってただボウッと突っ立っているつもりはない。
「行くわよっ!」
カーディナルを待機形態にし、拳の中に宝石を握りこんで奴との距離を詰める。

手に持つ宝石の一つを弾くと、宝石が発光し目晦ましの役割を担う。
そのまま懐に潜り込み、足元に発生させた魔法陣を足場に、震脚を利かせた崩拳を放つ。
「まだっ!」
それだけでは終わらず、身をかがめて足払いというには余りに力のこもった蹴りを入れる。

勢いをそのままに一回転し、立ちあがりながら鳩尾に肘を叩きこむ。
その瞬間、私と奴の眼があった。
奴の眼は叩き込まれた一撃に対する苦悶の色をたたえ、私の眼はおそらく怪しい光を放っていただろう。
同時に、体を影にしながら逆の手を振るい、手に持っていた粉末状の宝石をまき散らす。

そして……
「飛んでけぇっ!!」
最後のトドメとばかりに、再度崩拳を叩きこむ。
本来なら、この全てを叩きこめた以上相当なダメージを負っているはず――――――なんだけど、寸でのところでシールドを張られ、威力を殺された。

接近戦はそれほどじゃないけど、魔法戦の錬度が高い。厄介だ。
って、あれ? こいつはたしか士郎に不意打ちかまして、白兵戦でも渡り合えるくらいの使い手のはず。
なのに、今の様子だとそんなことができるレベルには思えない。どういう事?

そんな疑問が頭を掠めたことで僅かに動きが遅れた。その隙に、私の周りに再度バインドがあらわれる。
「ちっ、やってくれるじゃない……!」
今度は回避が間に合わず、迫りくるバインドを掴み拘束される前に何とか止める。
そのままバインド破壊をかけ、掴んだバインドを引きちぎる。

その結果は……
「逃げられたわね」
《申し訳ありません。ちゃんと捕らえておければ……》
「アンタのせいじゃないから、気にしなくていいわよ。っと、なのはは……ああ、ちゃんと抜け出したみたいね」
なのはの方を見ると、自力でしっかり破れたらしくこっちに向かってくる。

「さて、そっちは大丈夫?」
「う、うん。凛ちゃんも大丈夫そうでよかった。でも……」
「まあ、気にしなくていいわよ。とりあえず、ここにいても仕方がないし、いったん戻りましょ」
それに、最低限の仕込みはできたしね。今はこれで満足しておけばいい。

とりあえず、いったんエイミィの所に戻って、必要なら士郎の方の加勢に行くとしますか。



SIDE-士郎

フェイトとシグナムの戦いは、以前よりなお熾烈なものとなっている。

フェイトの実力が上がったのもあるが、シグナムの動きは精彩に欠ける。
肩の傷だけではなく、全体的に動きが鈍い。
疲労がたまっているのか、それともさっきの俺とのやり取りが原因なのか。
一つ言えることは、フェイトにとっては好機ということだろう。

砂漠を舞台とした戦いは、一種舞踏の様な華麗さを併せ持っていた。
二つの光がぶつかっては離れ、離れてはぶつかるを繰り返す。
一進一退、まさにその言葉の通りの戦いだ。

だがやはり……
「一見互角だが、フェイトの方が分が悪いか。長引くと不味いな」
シグナムもフェイトの動きに対応しきれずにいるが、それでも寸でのところで回避し、あるいは巧みに防御する。
そうして決定打を入れさせない戦いをしつつも、カウンターで僅かずつとはいえダメージを与えているのは、さすがだ。まあ、相討ちに近い場面が多々見られるから、お互いのダメージはほぼ同じくらいだろう。

問題なのは、今は何とかスピードで対抗しているが、そろそろフェイトのスタミナがきつくなってきた事。
肩の傷のおかげで動きや反応が鈍いのが救いだが、それへの対処法であるカウンターがシグナムにはある。
このまま行くと、徐々にフェイトのスピードが落ち、いずれは…………。

そんな事を考察しつつ二人の戦いを観戦していると、フェイトが動く。
「サンダー・ブレイド……ファイア!」
フェイトは刃状に形成した十以上の魔力を射出し、シグナムめがけて殺到させる。

それに対しシグナムは、レヴァンティンを鞘におさめた状態でカートリッジをロードし、それを一気に抜き放つ。
「飛竜………一閃!!」
連結刃にしたレヴァンティンを振るい、襲いかかる魔力刃を叩き落とそうと唸らせる。

迫りくる魔力刃を弾き、その切っ先がフェイトを襲う。
だがその寸前、弾き飛ばされたはずの魔力刃が光を放つ。
「ブレイク!!」
フェイトの言葉に反応し、魔力刃が爆発を起こす。
その結果辺りは砂煙に覆われ、一時的に視界を封じられた。

外野から見ていても、かろうじて二人の影が見える程度。
アレでは、二人としてもお互いの位置を視認することはできないだろう。
しかし、だからこそ意味がある。

ギィン!!

一瞬、硬質の物同士をぶつけあうかのような甲高い音が響きわたった。
砂煙が張れると、そこにはさっきまでの位置を逆転させた二人がいる。
つまり、あの砂煙にまぎれフェイトがシグナムの攻撃を開始した上で接近し、シグナムも剣を戻して打ち合ったのだろう。

その結果は……
「相討ち……いや、シグナムの方が浅いか」
シグナムの体はグラリと揺らぐが、フェイトは少しよろめくだけで済む。
やはり、これを狙っていた者とそうでない者の差か。
シグナムのバリアジャケットには大きな裂け目ができているが、フェイトのそれは小さい。
それこそが、今の攻防での二人のダメージの差をあらわしている。

お互いに体勢を立て直し、再度向き合い武器を構える。
一時的ににらみ合いの形になったが、少ししてフェイトが動く。
「はぁ、はぁ………ふっ!」
「む…………そこか!」
一瞬、フェイトが姿を消したかと思うと、シグナムの背後に現れる。
スタミナが落ちてきているこの局面で、なおこの早さを維持できるのは見事だ。
だがシグナムも僅かに遅れてそれに反応し、背後でバルディッシュを振りかぶるフェイトに向けレヴァンティンを振るう。

しかしフェイトは、ここでさらに回転を上げる。
「なんだと!?」
本来なら、バルディッシュとレヴァンティンがぶつかり合い、鍔迫り合いにでもなるはずだった。
だがそこでフェイトは、またも高速機動を駆使し、振り向いたシグナムの背後を再度取る。

「はぁ!!」
今度こそバルディッシュが振るわれ、シグナムの背を斬り付ける。
シグナムも何とか回避しようとするも、反応が間に合わない。
ギリギリで前に飛ぶことでダメージを軽減するが、それでも弾き飛ばされ砂煙が上がる。

だが、まさかここにきてあそこまで動けるとは。
いや、むしろスタミナ切れが近いからこそ勝負を決めに来たのか。
だとすると、今ので仕留められなかったのは不味いな。
今のでいよいよスタミナの底が見えてきたらしく、フェイトは肩で息をしている。
何より、あんな無茶な高速機動を連続して行えば、まだ未成熟な体には負担が大きい。
たぶん、体には相当な痛みが走っているはずだ。

とはいえ、おそらくここが最後のチャンス。
ここで畳みかけなければ、フェイトの勝ちは遠のく。
如何に先ほど良い一撃を入れたとは言え、まだ十分にシグナムも挽回可能だ。
楽観視するには到底足りないだろう。

フェイトもそれを理解しているのか、右手は砲撃の準備を整え、今まさにそれを放とうとしている。
だがそこで、フェイトの背後に陽炎の様な揺らめきがあらわれた。
フェイトはその揺らめきに気付いていない。俺はそこに向けて駆け、手にした槍を振り下ろす。
「はっ!」
槍が砂地に叩きつけるが、狙ったような手ごたえはない。
だが、驚くには値しない。なぜなら、槍が振り下ろされる直前、揺らめきから人影が飛び出していたのだから。

その人影は少し離れた所に着地し、隠していた姿を晒す。それは予想通り、あの仮面の男だった。
「不意打ちは得意分野の様だが、される側に回った気分はどうかね?」
「ちっ!」
表情はわからないが、どうやらそれなりに不機嫌らしい。
ここでフェイトをやらせては、俺がこの場にいる意味がないからな。お前の好きにさせるつもりはないさ。

「シロウ!」
「気にするな。こちらは私が請け負う。それより、今はシグナムとの戦いに集中しろ」
背中合わせにそう言うと、フェイトは「うん」と一言答えそれ以上は語らない。

「プラズマ……スマッシャ――――――!!」
乱入者のおかげで一瞬間が空いてしまったが、フェイトはそのまま用意した砲撃魔法を行使する。
背中越しではそのせいかはわからないが、今の間はおそらくシグナムに対応の時間を与えてしまったはずだ。
となると、せっかくの好機を逃したことになるな。

いや、既に過ぎてしまったことを気にしても仕方がないか。
今はとにかく、これ以上二人の邪魔をさせないようこいつを叩き伏せるのみ。
「………今度は武器を消さんのか?」
「ああ、貴様程度を相手にあのような小細工もいらんだろう?」
というのはただの挑発で、本当はこの槍にインビジブル・エアは使えないだけなんだが。
なにせ、いま俺の手にあるのは魔を断つ赤槍「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)」だ。
インビジブル・エアで消そうにも、穂先の透過はこの槍の能力で無効化されてしまう。これでは効果半減だ。

「さあ、今日こそは素顔を拝ませてもらおう!」
そうして、槍を構える。

しばしの睨みあい、動き出したのはほぼ同時だった。しかし、攻撃に移るタイミングは同時ではない。
動き出しが同時なら、間合いが広いこちらの方が先に攻撃は届く。
「はぁ!!」
間合いに入ると同時に刺突三閃。額・喉・心臓に突きを放つ。
本来なら必殺の連撃。どれか一つでも当たれば、そのまま相手は即死だ。

だが、これまでの二度のやり取りで、この程度で討ち取れるほど甘い相手ではないことは承知の上。
これはむしろ、牽制の為のモノ。事実、三閃全てをギリギリで見切ってかわす。
その代わり、仮面の男の疾走が止まった。
奴のスタイルは肉弾戦をベースに、魔力弾を補助に使うもの。
ならば、距離を突き離し続ける限り、奴の攻撃はメインではない魔力弾に絞られる。
そして魔力で構成されたモノに対してこの槍は最強の矛と成り得るのだ。

槍の間合い、僅かに二メートル。
しかし、その二メートルの接近を決して許さない。
同時に、不用意にこちらから間合いを詰めることもせず一定の距離を保ちながら槍を振るう。
ランサーのような技を極めた男ならいざ知らず、俺にはアイツのようなマネは出来ない。
本来なら自殺行為であるはずの間合いを詰めるという行為を、必勝のそれに変える技量はないのだ。

だからこそ、定石に則って槍を振るう。
喉を、肩を、眉間を、心臓を、間隙なく貫こうと打突を放つ。
だが、そのどれもが奴に届かない。高速の連撃は、槍の柄を拳で打たれ僅かに軌道が逸れる。
しかし、同時に奴もまたそれ以上踏み込めない。
一撃ごとに奴を弾き、押し留め、後退させる。

互いに忙しなく動いてはいるが、状況は一種の膠着状態に入った。
俺は奴を攻めきれず、奴は俺の間合いに踏み込んでこれない。
どれほどの突きを放っても奴の体には届かず、何度踏み込もうとしてもそれは激しい打突に阻まれる。

そんな攻防を何度繰り返しただろう。
そこで互いに、状況を動かす一手を打つ。
「いけ!」
奴が放ったのは三発の魔力弾。
それに対し、俺は先ほどまでの打突から切り替え槍を薙ぐ。

薙いだ槍を使い迫る魔力弾を迎撃するが、落とせたのは二発まで。
残りの一発は槍の軌道を掻い潜り、俺へと迫る。
「つあっ!」
そこで、槍から左腕を離し、裏拳で魔力弾を殴った。
魔力弾は、盾に施された対魔力効果によって弾かれ、あらぬ方向に飛んでいく。

しかしここで、俺に隙ができた。
戦いの場で、諸手で持つべき槍から片手を離す愚行。
長さ二メートルにも及び長柄の得物を、どうして片手で振れようか。
仮に振れたとしても、その威力は貧弱に為らざるを得ない。
また、そんなことをすれば重量と遠心力で体を崩し、より致命的な隙を生むことになるだろう。

そう、それが必定。
だが侮るな。この槍のあるべき担い手は、その必定を覆した双槍の騎士。
当然、この槍にもその戦いの記憶が、技の知識が宿っている。
ならば、できない筈がない。槍の振るい方は、体の捌き方は、俺が知らずともこの槍が知っているのだから。

憑依経験を引っ張り出し、この一時この身にフィオナ騎士団随一の騎士の技を降ろす。
「おおおおっ!!」
「がはっ!?」
渾身の力を以て槍を薙ぎ、あり得ぬ筈の軌道を槍が描く。
本来なら貧弱な威力しかない筈の一撃は、その常識を打ち破る勢いと力を帯びて仮面の男を打ち据えた。

とはいえ……
「つぅ! やはり、体が出来ていないうちから無茶はするモノではないか」
右腕の筋肉が悲鳴を上げ、関節が軋む。
何とか踏ん張ることで体が流れることはなかったが、それでも体にかかった負担は大きい。

しかし、この好機を逃すわけにはいかない。
すぐさま槍を構えなおし、弾き飛ばされた奴に向けて一気に間合いを詰める。
「はっ!!!」
小細工抜き、全身の力を絞り抜いてこの一刺しに込めた。
この身は槍諸共一本の矢となり、奴を射抜かんと疾駆する。

ガッ

「なにっ!?」
驚きの声は俺のもの。
なんと奴は寸でのところで回避し、脇に挟む形で槍を抑えるという離れ業をやってのけたのだ。

だが、俺は見た。
槍が通過するとき、その穂先がかすめるようにして奴の服に触れると、そこが陽炎のように歪んでいたのを。
バリアジャケットがキャンセルされているのかと思ったが、それだけではない。
これは、体の表面に施されていた何らかの偽装がほつれていたのだ。

「がっ!?」
奴は槍を離すと、俺を蹴り飛ばして一端距離を取る。

数メートル飛ばされ、着地して体勢を立て直すと背後で轟音が響き渡った。
「なんだ!?」
思わず振り向くと、そこには高い砂の柱が上がっている。

そして……
「!? くっ、フェイトがやられたか……」
どうやら、向こうの方では決着がついたらしい。
砂の柱の手前には剣を振り下ろした姿勢のシグナムがおり、対してフェイトは砂の柱と共に地に落ち、身じろぎしない。それはつまり、フェイトが敗北したという事だ。

となれば、これ以上この場に留まっているわけにはいかない。
この場での最優先事項は、フェイトの保護だ。
状況はこれで二対一、シグナムも少なくない負傷を負っているが、それでもこちらの方が不利。
それに、このままではフェイトのリンカーコアが闇の書に蒐集されてしまう。
以前のなのはの事を思い出し、あんな目にあわせてはならないと心を決める。

とはいえ、そう簡単にこいつが俺を行かせてくれるはずもない。
ゲイ・ジャルグだけでは、こいつを足止めし、なおかつフェイトを連れて離脱するのには無理だ。
それならばと、それに見合った武装を検索し投影する。
「『投影(トレース)、開始(オン)』」
槍を左手で持ち、右手に投影したのは、かつて英雄王との戦いで見た氷の剣。

横目で見れば、すでにシグナムは蒐集の用意を整えている。いつの間にか、その手には闇の書があった。
急いで振り向き、そちらに向かって駆けだす。当然、奴もそれを追う。
「大人しく見ていろ。いずれ、これが正しかったとわかる時が来る」
「はっ、生憎だが子どもを犠牲にする正しさなど認めるつもりはないな。
 いや、犠牲にすることを前提にした正しさなどあるものか!」
「それは子どもの論理だ。なにも捨てずに何かを救うことなどできはしない!」
ああ、全くもって正論だ。俺の言ってることなど、単なる子どもの絵空事だろう。
俺とて多くの命を犠牲にしてきた。だが、一度としてそれを正しいなどと思ったことはない。
犠牲を出し、それを前提とした時点で、正当性なんてあるはずがないんだ。

「否定はせんさ。しかし、だからといってそれが正しいということにはならん!」
奴に背を向けたまま、後ろに向かって剣を振るう。

奴は苦も無く身をひねって避けるが、見切って避けたにもかかわらず奴の体を氷が覆う。
「なんだと!?」
「不用意に近づき過ぎだ。しばらくそこにいろ、フェイトを犠牲になどさせん!」
奴を討つ上では絶好の好機だが、今はそれどころじゃない。
既に闇の書が発光し、蒐集が始まろうとしている。時間がない。

「間に合わんか。ならば……いっっっけぇ!!」
左手に持った槍を振りかぶり、渾身の力で投擲する。

投げられた槍は寸分違わずシグナムへと飛翔するが、直前で気付いたシグナムは身を捻ってそれを避けた。
だが、それにより蒐集は邪魔され、闇の書から光が消える。
「これは……衛宮か!?」
「すまんな、せっかくの勝利だが賞品は無しだ」
槍に少し遅れてフェイトの元へと駆けより、彼女を抱き起こす。
既に意識はなく、体にはところどころ傷があるが深刻なモノはないことに安堵する。
とはいえ、まだ楽観できる状況ではないか。

まずは、目の前のシグナムを何とかしないと。
しかし、フェイトを抱えたまま戦うのは論外。となれば……
「お前も……凍れ」
シグナムに向け、仮面の男の時同様氷の剣を振るい動きを封じる。
そのままフェイトを抱き抱え、強化した脚力で砂を蹴った。

だが、シグナムの魔力変換資質は炎。体を覆う氷も、急激に溶かされこちらを追ってくる。
「ちっ、やはりそう簡単にはいかせてくれんか。エイミィさん、転送を!!」
フェイカーに付けられた通信機でそう要請するが、ジャミングがかかっているのか繋がらない。
俺では姿の見えない位置にいる人間に念話は送れないし、不味いな。

状況は移り変わり、先ほどまでは熾烈な戦闘が行われていたのが、一気に追撃戦となった。
後ろから迫るのはシグナムと仮面の男。
仮面の男の方は、体はまだ部分的に氷に覆われているが動きに支障はない。
「厄介だな、これでは追いつかれるのも時間の問題か。『凛、そういうわけだ。何とかならないか?』」
『オッケー。応援を寄越すから、それまで持ち堪えて。
なんなら、こっちの魔力も使っていいから踏ん張りなさい!』
唯一視界に入れずとも念話を繋げられる凛に助けを求め、心強い答えが返ってきた事に救われる。
とはいえ、この状況で持ち堪えろと言われてもな。
手元にあるのは右手に持つ氷の剣一振り。左手はフェイトを抱えていて塞がっているから、ゲイ・ジャルグはあそこに置き去りだ。魔力の使用許可が出たとはいえ、片手ではできることが限られるな。

足を止めるのは自殺行為だし、氷の剣では炎を使うシグナムとの相性が悪いのは先ほど証明されたばかり。
となれば……
「そら! 『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』!!」
右手の剣を後方に投げ放ち、ゲイ・ジャルグもろとも爆発させた。
その間に少しでも距離を稼ごうと、後先考えない全力疾走で駆け抜ける。

しかし、やはり飛べる者と地を駆ける者では、この状況下においては土台勝負にならない。
多少は距離を空けられたが、どんどん距離を詰められる。
剣弾を撃ち込んでまた爆発させるか…………いや、同じ手がそう何度も通じるとは思えない。
真名開放で蹴散らそうにも、魔力を貯め発動させるだけの時間、奴らがこちらを放置するはずもなし。
………不味いな、八方ふさがりか。

だがそこで、思わぬ援護射撃が入る。
「……………プラズマランサー……ファイア……」
「フェイト!?」
「シロウ………わたしの事は良いから…早く、逃げて」
「バカ言うな! お前を見捨てるわけないだろ!! だが、助かった。恩にきる」
まだかろうじて意識があったのか、フェイトは最後の力を振り絞って1発のランサーを放つ。
予想だにしない攻撃だったこともあり、シグナム達の動きが止まる。

とはいえ、最後の力を絞りきったフェイトは今度こそ俺の腕の中で崩れ落ちた。
蒐集こそされていないが、それでもシグナムから受けたダメージはフェイトに立ち上がる力さえ残していない。
魔法行使どころか、意識を保つのだって苦しかったはずだ。
俺も人の事を言えないのかもしれないが、本当に無茶をする……。
だが、おかげで助かったのも事実。これじゃ、強く言えないじゃないか。

しかし、せっかくフェイトが作ってくれた好機、それを活かさずしてどうする。
「『投影(トレース)、開始(オン)』」
凛からの魔力供給がある以上、出し惜しみはなしだ!

手にした宝具に最速で魔力を注ぎ込み、奴らが来る前に発動準備を整える。
発動に必要な最低限の魔力を注ぎ終えるのと、奴らとの距離が五メートルを切るのはほぼ同時。
俺は準備を終えた宝具を構え、全身のバネを使い引き絞る。
「――――――――――――――――――『雷霆金剛杵(ヴァジュラ)』!!!」
魔力で強化した全身の筋力、バネ、そして限界まで引き絞った捻転を使い渾身の投げを放つ。
シグナム達の前まで飛翔し、それは突如として爆ぜた。
周囲に稲妻をまき散らし、局地的な雷の雨を発生させる。

放たれたのは、古代インド神話における雷神インドラの神格象徴の一つ。
一度限りの射出宝具で、ダメージはB+相当。使用者の魔力に関係なくダメージ数値を出すお手軽兵装だ。
最低限の魔力でも、それとは無関係に一定の威力を発揮してくれるので、こういう時にはありがたい。
とりあえず発動させられればいいのだから。

ついでにヴァジュラを爆発させ、ダメ押しとする。
とはいえ、ヴァジュラ発動寸前のところであの二人が離脱するのが見えた。
おそらく、アレでは倒しきれていないだろう。
しかし、余波だけでもかなりの距離を吹き飛ばされたはずだ。
ならば、逃げるのなら今を置いて他はない。

再度砂漠を疾走していると、空から声がかけられる。
一瞬、もう追いつかれたのかと思ったが、その声はシグナムとは別のモノだった。
「士郎!!」
「フェイト!!」
空から来たのは、リニスとアルフ。
なるほど、凛の言っていたのはこの二人の事か。
大方、凛の方から念話で指示を出したのだろう。
ラインで繋がっているリニスとなら、通常の念話よりも高精度での連絡が可能だ。

ん? でも、待てよ。確か、アルフはザフィーラと戦っていたのではなかったか?
「フェイトは一応大丈夫だが、すぐにでも医者に見せたい。ところで、ザフィーラはどうした?」
「ごめん、振り切れなくてさ」
つまり、すぐにでも奴がやってくるということか。
なら、グズグズしている場合じゃないな。シグナム達もじきに追いついてくる。

「リニス!」
「はい! 転送の準備、完了しました。いけます!」
そうして、俺たちはギリギリのところでこの場を脱することに成功した。

管理局的には、目立った成果の無い戦闘だったろう。
だが、俺にとっては違う。シグナムから得た情報は、俺の中にある一つの決意を芽生えさせた。
俺は、あの人に会わなければならない。
この身が「衛宮士郎」であるが故に。

切嗣の罪だけではない、俺自身の罪の贖いをせねばならないから。






あとがき

はい、まずはあけましておめでとうございます。
どこまで進められるかはわかりませんが、今年もよろしくお願いいたします。

さて、これでやっと士郎達の方がアイリスフィールの正体についてほぼ確証を得ましたね。
この世界には冬木がない事になっていますし、聖杯戦争と思しき事件が無かったかもこちらに来た時に調べていたでしょう。そうなってくると「冬木の聖杯」を知っているかどうか、でほとんど絞り込めるはずです。
まあ、このことを尋ねた時点でまず間違いなくアイリスフィールも士郎達がご同郷だろうという確信を得られるはずです。ただし、それが切嗣と直接関係がある人物であるという確証を得るのは難しいとは思いますがね。
というか、正確にはそうとは考えたくないのかもしれませんけど……。

それと、士郎が使った「氷の剣」ですが、これはFateルートでギルガメッシュが使っていたもので、厳密にはどんなモノかまでは分かりません。もちろん名前もわかりません。
とりあえず能力だけはわかっているので、この場面では最適と思い引っ張ってきました。
後はゲイ・ジャルグにヴァジュラと結構大盤振る舞いだったかと思います。
まあ、それだけヤバい状況だったという事で……。

とはいえ、いよいよ物語も佳境です。さしあたって、次は最終決戦前最後のほのぼの系を予定してます。
その後どう転がって、そしてどんな結末を迎える事やら……。
とりあえず、やっぱりそれなりにハッピーエンドな終わりにしたいとは思いますけど、どうなるかなぁ。
ある意味一番の問題はリインフォースですね。彼女が生きてると、ツヴァイの出番がないし。
どうしましょ? そして、どうなるんでしょ? 何とか今年度中にそこまで行きたいなぁ。


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