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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第32話「幕間 衛宮料理教室」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/01/11 00:39

SIDE-アリサ

時刻は正午。
本来なら、楽しい楽しいお昼ご飯の時間。

にもかかわらず……
(………ホントに……なんなのよ、この空気は……)
理由こそ定かじゃないけど、えらく場の空気が微妙だ。
まあ、それも今に始まったことじゃなくて、ここ数日はずっとなわけだけど。

重いわけじゃない、かといってギスギスしているわけでもない。
強いて言うなら、どこか相手の出方を窺うようなのっぴきなさがある。
あるいは、相手の事を気遣いすぎて、逆にどうしていいか分からなくなってしまったような感じに近いかも。
とりあえず、わたしの浅い人生経験ではこの状況を上手く説明できない。
でも、その出所と原因くらいは察しがつく。

まず、その出所の方は……
「なのはちゃんフェイトちゃん……えっと、一体どうしたの?
 なんだか、さっきから固まってばっかりだよ」
そう、この二人。普段ならなのはも一緒になって士郎のお弁当から分け前をもらっているところなのに、今日も自分のお弁当にさえなかなか箸が動かない。
フェイトも、いつもなら士郎のお弁当を侵略するわたし達を控え目に制止するのに、今日もそれが無い。

そして、この二人の様子がおかしい原因と思しき人物はというと。
(やっぱり、なぁんか無理してるっぽいのよね)
眼の端で捕らえたのは、いつもと変わらない様子で凛とじゃれあう士郎。
ただし、その様子にはどこか無理があるように感じる。
具体的にどこがと聞かれると困るのだが、全体的に普段と様子が違う。
凛と初めて会った時もそうだけど、わたしのこの手の直感は外れたことが無い。

しかし、あんまりそういうのを表に出さない士郎が、わたしにもわかるくらいに様子が変というのも珍しい。
凛が気付いていていない筈がないけど、普段通りに接しているってことは、今はそれしかないと考えているってことか。この中では一番士郎との付き合いが長いわけだし、たぶんそれが正しいのだと思う。
とりあえず、様子がおかしい理由さえ知らないわたしにはそうとしか判断できない。
あの様子だと、なのはやフェイトも士郎がおかしい原因もわかっているんだろう。

この半年で知った士郎の性格を考えると、聞いてもきっと答えてはくれない。
なのはなんかと同じで、あれも自分の中にいろいろ溜め込むタイプだ。
違いがあるとすれば、何を溜めこもうとそれを引きずり出してしまう凛の存在。
どれほど上手く隠しても、きっと凛は相手が士郎なら必ずそれを見つけ出して、一緒に考えてあげるだろう。
それは幸せな事だと思うんだけど、解決の兆しがなさそうな以上慰めにもならない。
おそらく、そう簡単には答えのでない、それこそ答えの存在しない問題に頭を悩ませているのかもしれない。

だからわたしに出来るとしたら何とかこの場の空気を変えること。
そして、今この一時だけでも気分を楽にしてあげることなんだと思う。
それが、曲がりなりにも唯一と言っていい男友達に対して、わたしがしてあげられることのはず。



第32話「幕間 衛宮料理教室」



SIDE-士郎

何となく場の空気が微妙な昼食。
原因はまぁ、やっぱり俺なんだろう。
出来る限り普段通りにしているつもりなんだが、勘の鋭い人間の多いこの場では意味がないのかもしれない。

一応事情を知るフェイトやなのはなどは、俺のそんな様子により一層深刻そうだ。
(こんなことなら、あの時話すんじゃなかったかもな)
後悔先に立たずとは言うが、まさかこんなところでそれを実感することになろうとは。

凛の言ったとおり、アレが俺の知る「アイリスフィール・フォン・アインツベルン」であるはずはない。
彼女はすでに二十年前に死んでいる。死体こそ確認されていないが、聖杯が一応発現した以上それは事実。
ましてや、その直後に起こったあの大火災だ。中心にいたあの人の体が残るはずがない。
ならば、例え聖杯が完成するまで生きていたとしても、その瞬間に彼女は死んだのだ。
故に、あの銀髪の女性が切嗣の妻でイリヤスフィールの母親の「アイリスフィール・フォン・アインツベルン」であることはありえない。

そして、もう一つそれを裏付ける問題がある。
あの人が仮に俺の知る「アイリスフィール・フォン・アインツベルン」だとして、どうやってこちらに来たかだ。
それは並行世界の運営、すなわち第二の魔法を行使したことを意味する。
第三ならいざ知らず、アインツベルンの人間が第二を行使するのは不自然だし、やはりあり得ない。

これらの情報は、すべてあの人と俺の知る人物が別人であることを示している。
並行世界の可能性を思えば、この世界に魔術師がいて、よく似たホムンクルスを誰かが鋳造し、その人がアイリスフィールと同じ名を与えたという方が、まだあり得る可能性だろう。
そんな「偶然」があるからこその合わせ鏡、IFの可能性、並行世界なのだ。

そうと理解はできている。しかし、理解はできても納得できない。いや、させられないというのが正しいか。
とにかく、俺にはどうしても「アイリスフィール・フォン・アインツベルン」の名を持つ「ホムンクルス」の存在を、偶然や他人の空似で済ませられない。
だってそれは、あまりに「出来過ぎ」ではないか。

だが結局は、さっきの理屈によるその可能性の否定に立ち戻る。
つまるところ、この二つを堂々巡りしてしまっているということであり、感情と理性の折り合いがついていないのだ。
まったく、不毛もここに極まれりだ。答えが出ないならいざ知らず、同じところをぐるぐる回っているだけなんて、間抜けにもほどがある。

以前凛の言ったとおり、守護騎士か本人にそれを質すしかないのだろう。
そうとわかっているのに、同じことをぐるぐる考える自分に嫌気がさす。
ましてや、それで凛だけでなくみんなにまで心配をかけさせているんだから救いがない。

しかし、その答えが明確な否定であればいい。
だけど、もしそれが肯定だったら? 俺はその時、一体どうすればいい。
俺にはあの親子に対していくつもの罪がある。切嗣の後を継ぐと同時に引き継いだ切嗣の罪。イリヤスフィールを助けられなかった罪。そして、何も知らずにのうのうと生きていたことの罪。
俺は、どうやって償えばいいのだろう。

と、そこへアリサが思い出したように話題を振る。
「そういえばさ、フェイトの理数系成績についてはビミョーに納得いかないのよね。
 なのはもだけど、何で二人して理数系だけ抜群に成績がいいの!?」
ああ、そういえば、なのはとフェイトは文系の成績はいまいちだがそっちは学年トップ(満点)だったけな。
まあ、それを言ったらアリサは全教科学年トップ(満点)なわけだが……。

しかし、何でといわれても本人たちだって困るだろう。
俺や凛みたいな反則でもなし、出来るモノは出来るんだから仕方がないだろうに。
それを言ったら、全教科隙無しのお前はどうなんだよ。

「あー、フェイトちゃんうちのお姉ちゃんの数学の問題も解けてたから、わたしよりも上かも……」
とは、なのはの談。というか、それは初耳だ。
しかし、高校生が小学生に相談するのもどうかと思うが、それに答えられる小学生もどうだよ。
いくら魔法の構築や制御が理数系だからって、それはいくらなんでも凄過ぎだろう。

そこでフェイトが話をすり替えるように、少し切り口を変える。
「でも、それを言ったらアリサだってすごいよ。英語も日本語も完璧なんだし」
「えっへん、パーフェクトバイリンガル!」
それに気を良くしたのか、胸を張るアリサ。まあ、この年で二ヶ国語いけるのは確かに凄い。

しかし、忘れてはいないか? ここにバイリンガルどころではない人がいることを。
その人物は俺の横で「はーい」と手を上げ、素っ気なくこう語る。
「私、日本語と英語の他にドイツ語と北京語がいけるマルチリンガル」
「なっ!? なんですって―――――――――っ!?」
あまりの事実に、驚愕を露わにするアリサとびっくりした表情のすずか。
厳密には、凛のそれはアメリカ式ではなく、イギリス式のブリティッシュ・イングリッシュで、アリサはアメリカ英語の様だから少し違うんだけどな。まあ、その辺は俺もだが。
この辺はいろいろと複雑で細かい違いもあるが、関係ないので割愛する。

「……そういえば、凛ちゃんドイツ語話せたんだよね」
凛の詠唱はドイツ語であり、それを知るなのはは今思い出したように言う。
フェイトはまだドイツ語とかその辺の事をはよくわかっていないのか、きょとんとした顔だ。
ただ何となく、凄いことなんだろうなぁ、と思っている顔だな、あれは。

あまりの事に凍りついていたアリサだが、呻くように尋ねる。
「な、なんで北京語まで話せるのよ」
「あ、そう言えば凛ちゃん中華が得意だったよね。もしかしてそのせい?」
アリサの疑問に答えたのはすずか。
確かにそれはそうなんだが、普通中華が得意でも北京語に精通したりはしない。

「まあね、本格的にやろうとすると向こうの調味料とかも絡んでくるし、やっぱりできる方が便利なのよ」
そう凛は答えるが、それにしたって喋れるようにはならない。
正しくは、言峰から貰った嫌がらせじみた全頁向こうの文字のレシピや八極拳の秘伝書を読み解いているうちに読めるようになり、中途半端が嫌いな性格から喋れるようになってしまったのだ。
言峰の事だ。きっと、凛が悪戦苦闘するのを楽しそうに見ていたに違いない。

「それに、それを言ったら士郎だって英語は話せるし、ドイツ語の読み書きと簡単な会話くらいはできるわよ」
まあな、そうじゃないと遠坂家にある魔導書とか読めないし。
なにより、師匠の詠唱の意味さえわからなくてどうする、と穂群原時代に英語と並行して徹底的に叩きこまれたからな。発音などはいい加減だから複雑な会話は無理だが、それも筆談なら何とか。

まあ実を言うと、ラテン語とかギリシャ語、それにアラビア語とかも辞書を引けば読めないこともない。凛なら辞書も要らないだろう。この辺は魔術師的には必須だし、読めないと時計塔では話にならなかった。
だってなぁ、俺みたいな底辺でウロウロしている術者が閲覧できる範囲でさえ、魔導書はそんなのばっかりだったんだから。
他にも、暗号に楔形文字やら象形文字が使われているなんてザラだし、魔術師に語学は割と重要なのだ

そのことを知らずに敗北感によって打ちひしがれているアリサ。そこへ、あくまはさらなる攻勢に出る。
「それにねぇ、今どきバイリンガルなんて常識よ、常識。
 それであんなに威張るなんて、ねぇ?」
「ぐぎぎ……」
流し眼でそう言ってアリサを見やると、アリサがよくわからないうめき声をあげている。
いや、そこまで悔しがらなくても。その年でバイリンガルなら十分すごいぞ。

とはいえ、これは少々やり過ぎだ。そう思い、小声で凛に耳打ちする。
「おいおい、いくらなんでもこれは……」
「別にいいじゃない。現状に満足したら進歩はないわ。アリサにはもっと上を目指せる資質があるんだから、それを促したいと思うのは当然でしょ?」
それにしたって、なぁ。俺たちは二十代後半。引き換えアリサはまだ十代にさえなっていない。
比較するのがそもそも間違っていると思うんだけど……。

それに、こいつの事だからきっと裏がある。
「言いたいことはわかった。で、その心は?」
「う~ん……アリサっていじってみると案外楽しいのよね。
 なにより反応がかわいいじゃない。かわいいは正義なんだから。
 むしろ、もっといじり倒したいくらいなのよ」
そうだった、こいつはこういう奴だった。可愛ければなにをしてもいいなんて、絶対に間違ってると思うぞ。
それと、これ以上やるのは可哀そうなので、これくらいで勘弁してやってください。

しばしの間沈黙を保っていたアリサが、俯いたまま喋る出す。
「…………いいわ、そこまで言うんならやってやろうじゃない!
 こうなったら、ロシア語にスワヒリ語、それにアイヌ語を習得してやるわ!!」
はぁ、凛といいルヴィアといい、これだから重度の負けず嫌いは。
ロシア語はまだいいとして、なぜにスワヒリ語? そして、どうしてアイヌ語なんだ?
いや、アフリカなんかで使われるスワヒリ語を習得するのはわからないでもないんだが、ほとんど使う人も機会もないアイヌ語を何で覚えようとする? それもあれ、文字って文化もないんだけど。

それを聞いた遠坂さんは、狙いどおりって顔で笑ってらっしゃる。
また、そんな友人に各々圧倒されてしまっている様子。
「「あ、アリサちゃん……」」
「……アリサ、すごい」
なのはやすずかは良いとして、フェイト、確かに凄いんだがその反応はどうだろう。
むしろ、呆れるか止めるかした方がいい展開だと思うんだけどさ。

まあ、これはこれで平和な光景なのかもしれない。
それに、このドタバタのおかげで少しだけ気持ちが楽になった。
なら、そのことには素直に感謝しておこう。



  *  *  *  *  *



放課後。

帰宅の前に、とある用件で寄り道をすることになり、今はそのことが話題となっている。
寄り道にはリンディさんも関わってくるので、合流時間まで少し時間を潰す事となった。

で、その話題というのが……
「……な、なんだかいっぱいあるね」
と、携帯のカタログを見て圧倒されるフェイト。
まあ、最近は開発競争が凄いからなぁ。どこのメーカーも、少しでも売り上げの向上を目指そうと、どんどん新しい機種を出してるし。

「ま、最近はどれも同じような性能だし、見た目で選んでいいんじゃない?」
「でも、やっぱメール性能のいいやつがいいよね」
「カメラが綺麗だと、いろいろ楽しいんだよ」
という感じに、アリサ・なのは・すずかが各々意見を述べる。
みんな概ね機械に強いし、しっかり自分なりの方針を持って選んでいるらしい。

「う~~~ん…………」
そんな友人たちの意見を参考に、カタログとにらめっこをするフェイト。

それをよそに、なのはたちの議論は熱を帯び始める。
「でも、やっぱ色とデザインが大事でしょぉ」
「操作性も大事だよぉ」
とは、見た目重視のアリサと機能性重視のなのはの議論。
どっちも間違ってはいないと思うし、このあたりは純粋に個々の好みの問題だろう。

で、こっちでは……
「外部メモリついてると、いろいろ便利でいいんだけど」
「そうなの?」
「うん♪ 写真とか音楽とか、たくさん入れておけるし」
すずかに機能的な説明を聞くフェイト。
しかし、写真に音楽か、俺達には無縁の話だな。
厳密には、俺の横で素知らぬ顔をして会話から外れている奴にとって、だが。

だがここで、気づかいの出来るすずかが凛に話を振る。
「そうそう、メールとかに添付してお友達に送ったりもできるの。凛ちゃんはどう思う?」
「聞かないで」
その問いを、無碍もなく拒絶する凛。

一瞬にして場が固まる。ああ、やっぱり。
そこで、いち早くフリーズから解放されたなのはが尋ねてくる。
「……士郎君。凛ちゃんって、どのくらい携帯使えてるの?」
「通話が辛うじて、メールはおろかアドレス帳すら使えない。
 強いて言うなら、俺があいつのアドレス帳。待ち受けを変更するのに五年はかかるな」
いや、むしろ電話以外の機能を使うことは永遠に不可能かも。
だって、デジカメと聞いて「なにカメ?」と聞いてくるような奴なんだから。

それを聞き、同じく解放されたアリサも参加してきた。
「じゃあ凛って、どんな基準で携帯選んだのよ?」
「ひたすらに使いやすさ、あとデザインだな。アイツの希望を聞いて、俺が見繕ったって言うのが正しい」
ホントの事を言うと、俺は初めお年寄り向けの操作が簡単なのを薦めたのだが、それは断固として拒否された。
理由は簡単。あまりにもデザインを含めたその他諸々がシンプル過ぎる故に、そんなモノを持つのは「優雅」ではないかららしい。
アイツが使うことを考えると、それくらいの方がいいと思うんだけどなぁ。

「そういうアンタは?」
「俺も、やっぱり使いやすさ優先だな。目新しい機能とかは避けて通ったし」
「アンタ達、二人揃ってアナクロなのね」
失敬な。少なくとも凛ほどじゃないぞ。訂正を求める!!

とりあえず、ワンセグやデコメの意味くらいはわかるし、赤外線通信だってできるんだ。
誰だ? ドングリの背比べって言ったの。魔術師はアナクロがデフォなんですよ!
どっかの名物教授みたいに、ゲーマーなのが珍しいんだから。昭和生まれはこれでいいんだ!

「はいはーい。フェイト、とりあえずあの二人はあてにならないからこっちで相談しましょ。
 なのはとすずかもこっちに集合。あのアナクロコンビは役に立たないから、わたし達でしっかりフェイトを導くのよ」
「え? アリサ?」
「諦めよ、フェイトちゃん。これはアリサちゃんの言う通りだと思う」
「うん、わたしも」
「なのは! すずかまで!?」
こうして仲間はずれにされてしまう俺達。
ところでアリサ、これはさっき弄られた報復か? だとすると、何で俺まで……。

それに凛と違って言葉の意味とかくらいわかるんだから、参加させてくれたっていいじゃないか。
さみしいよぉ――――、せつないよぉ―――――――、仲間に入れてぇ―――――――――。
俺は機械音痴じゃないんだぞぉ―――――――。



  *  *  *  *  *



そうして、フェイトの携帯電話を買った帰り。

今日は、一応訓練は休み。あまり根を詰め過ぎても成長期の体にはよくないし、適度に休みを挿むのが基本方針。
どうせ、そんなことをしなくても勝手に頑張る連中だしな。
時々、こっちで無理にでも休みの時間を入れるくらいでないとバランスが悪い。

いま、俺はフェイトと二人で買い物中。
すずかやアリサとは途中で別れ、リンディさんもこの後本局で仕事があるとかで急いで帰ってしまった。
管理局の提督ともなれば、やはり何かと忙しいのだろう。
確か、アースラの武装追加がどうとか言っていたな。ついでに、クロノもそれに同行している。

なのはも帰ることになったのだが、せめて夜までは休ませるために凛が監視の意味もあってついて行った。
弟子の体調を管理するのも、師の務めという事だな。俺がフェイトに同行してるのも同様の理由。
まあ、これで夕飯あたりまでは二人ともゆっくり休めるか。

買い物をしているのは、「せっかくだから」とエイミィさんに帰り掛けに夕食の食材を頼まれたから。
買って間もない携帯を使い、フェイトが自宅に電話したところそういう返事がきた。

「で、エイミィさんは何を買ってくるようにって言ってたんだ?」
「それが、何を買うかはシロウに任せるって。
今日はせっかくシロウもいるんだから、この国の料理を教えてもらいたいって言ってた」
ほぉ、なるほどね。しかし、それは本当に俺まかせだな。
フェイトはこの国の料理どころか、そもそも料理そのものにあまり親しんでいない。
一応できるが、それこそ「一応」でしかない。となれば、食材選びもそこまで手慣れてはいないだろう。
やれやれ、これは責任重大だ。

まあ、これもまた一種の異文化交流。なら、しっかりこの国の料理というものを理解してもらいましょうか。
「わかった。それなら今は冬だし、やっぱり温まるモノがいいよな?」
「え? う、うん。わたしはシロウの作ってくれるものなら何でも……」
「いや、それが一番困るんだけど」
まったく、二人揃ってお任せでは困るんだぞ。自由度が高いってことは、それこそどれを作ればいいのか全て作り手にゆだねられるんだから。
作る側としては、できれば細かくない程度に要望を言ってほしいのだけど。

いや、よくよく考えればフェイトの知る和食というのはそう多くない。それも食べたのは半年ほど前。
となれば、今の時期に美味しいモノといわれても向こうも困るのか。
「むぅ……それじゃあ、肉じゃがをメインに揚げ出し豆腐で攻めてみるか……それとも、いっそ水炊きをみんなでつつくというのも……」
おお、考え出してみれば思いのほかたくさんアイデアが出て、逆に困ってきたぞ。
む、待てよ。それこそせっかくだから、フェイトも調理に参加できるモノの方がいいかもしれない。
例えば……餃子とかなら、皮とタネさえ用意しておけばフェイトもできる。
だけど、アレは中華だから和食にこだわるなら別のものにしないとな……。

などと、あれこれ悩んでいると……
「……クスッ」
「? どうしたんだ、フェイト。人の顔を見ていきなり笑って」
「え? あ、そういうんじゃないの。
ただ、料理の事を考えてる時のシロウって、真剣なだけじゃなくて楽しそうだなって思って」
何やらモジモジしながらそう語るフェイト。

真剣というのはわかるんだが、俺はそんなに楽しそうな顔をしていたのだろうか?
「うん、してた。わたし、戦ってる時より、そうして料理の事を考えてるシロウの方がいいな」
「ああ、あの口調のことか?」
「それもあるけど、それだけじゃない…かな?
そうやって、他の人の事を考えてる方がシロウに似合ってる気がする」
そう言って笑うフェイトの顔は、つい見惚れるくらいに綺麗で、思わず視線を逸らす。
夕日というのもあるのだろうが、その屈託のない笑みを向けられるのが気恥ずかしい。
不味いなぁ、こんなところを凛に見られたら殺されるかも。

しかし、こうやって誰かと一緒にこの商店街を歩いていると、よくここで一緒に買い物をしたある人物の事を思い出す。
(そういえば、シャマルは無事でいるかな?)
管理局を通してシャマルについての情報が入ってこない以上、きっと無事なんだろうとは思う。

ただ、こうなるとおそらくもう会うことがないのが、ちょっと残念か。
ああいうことがあった以上、とりあえずこの地に留まるのはあまり賢いとは言えない。
それなら、今頃はもう別の世界に避難しているだろう。
となると、もう彼女に料理を教えることはできそうにない。
できれば一人前になるまで面倒を見たかったが、諦めるしかないか。

と、懐かしき教え子であり友人でもある女性の事を考えていると、服の裾を引かれそちらを向く。
「えっと、何をしてるんですか、フェイトさん?」
理由は定かじゃないが、フェイトがム~ッと拗ねた感じで睨んでいらっしゃる。
すげぇ……よくわからんが、本能的に屈服させられてしまったぞ。おかげで、思わず敬語を使ってしまった。

凛の怒気や殺気とも違うし、桜のようなどす黒いオーラとも違う。
恐怖心はない。むしろ、こちらの罪悪感を刺激する視線だ。
なんというか、とりあえず土下座して謝りたくなる。
……そう、アレだ。小動物とかが寂しそうにしている時の眼。あれに近い。
それにしても、子犬や子猫じゃあるまいに。

フェイトは服の裾を引っ張っていた手を離し、ジトッとした眼で睨んでくる。
「……シロウ、今女の人の事考えてた」
あの、何でわかるんですか?
だけど、別に疚しいことを考えていたわけじゃありませんよ。

そんな感じの俺に対し、フェイトはますますさびしそうな眼で呟く。その眼には僅かに涙が浮かんでいる。
「否定……しないんだ」
「わ、悪かった、俺が全面的に悪かったから涙ぐむな!
 ちゃんと事情も説明するし、何かおごるから! だから、頼むから泣かないでくれ!」
ま、不味い。こんなところでフェイトに泣かれたら、俺はもう二度とこの界隈を歩けなくなる。
フェイトクラスの美少女を泣かしたとあっては、その瞬間に俺の評価はガタ落ち。
御近所の皆さんに、「やーね、あそこのお子さん女の子を虐めてましたよ」なんて噂されてしまう。
そんなのは嫌だぁ!!

「……うん。でも、何か買ってもらうのは悪いよ」
このあたりは、まあフェイトらしい。凛だと、クレープ屋で一番高いのを買わせたりするからな。

しかし、普段身の周りにいなかったタイプだけに、一体どうすればいいのか分からない。
凛や桜みたいなのなら悲しいけど慣れてるが、フェイトみたいな場合にはどうすればいいんだ?
「と、とにかくこっち。そこのベンチで一度休もう」
「……あ」
周囲の視線が痛く、気まずさもあってフェイトの手を取ってベンチに避難する。
さすがに路地裏とかに逃げる度胸はないけどな。そんなことすると、どんな想像を掻き立てるか考えたくもない。

とりあえず近くの店で大判焼きを買い、それをフェイトに渡す。
「え? 駄目だよ、こんなの貰うわけに……」
「いいから、受け取っておけって。どうせ、はじめからそのつもりだったんだから」
そう言って、少し押し付けるようにしてフェイトに持たせる。
今日は寒いし、もとからそうするつもりだったのだ。ただ、予定と違うプロセスが入ってしまったが。

「それに、こういうのも寄り道の醍醐味だ。堅いことは言いっこなしってことで、な?」
「う、うん」
肩をすくめながらそう言うと、フェイトは大判焼きに目を落とす。
その頬は心なしか赤く、やっぱり寒いのかな? どうせだし、俺の着てるコートでも掛けてやるか?

「あ、だ、大丈夫だから。それに、そんなことしたらシロウが風邪ひいちゃうよ」
「そうか? まあ、そう言うんならいいけど」
実際、コートを脱ぐとさすがに寒い。フェイトの言うとおり、長くそのままでいるとさすがに風邪を引くかも。
それに、無理に着せようにもフェイトも強く遠慮するから、これだと押し切るのは難しいか。

念のためフェイトの額に手をやり体温を見るが、少し熱いかも、くらい。
まあ、大判焼きを食べたら早めに買い物を済ませて、急いで帰ればフェイトが風邪を引くこともないか。
ただ、その間ずっとフェイトがうつむいていたのが気になったと言えば気になった。

フェイトは行儀よくその小さな口に少しずつ大判焼きを運ぶ。
俺は逆に豪快にどんどん食べていき、フェイトが半分食べる頃には完食した。
「さて。ああ、フェイトは急がずに食べてていいからな。
 その間に、俺はさっきの事情って奴を説明するから」
「あ……うん」
俺の方を見て、急いで食べようとしたフェイトを止める。
フェイトが猫舌かどうかは知らないが、こんなことで火傷させるわけにはいかない。
とりあえず、ハフハフして食べる姿に和むなぁ。

「さっき考えていたのは、シャマルって人の事だ。
 簡単に言うと、俺の友人で教え子かな?」
「教え子?」
「ああ、って言っても魔法とか戦闘とかじゃないけどな。
主に料理を教えてたんだ。最近会ってないから、どうしてるかなって思ってさ」
正直、フェイトにシャマルの事をどの程度説明するかは少し悩んだ。
別に魔導師であることも話してもいいのかもしれないが、フェイトを通じて管理局に知られるのもどうかと思い、それはやめた。もしシャマルが管理局から隠れていたのなら、それを知られるのは困るだろう。



そうして、俺は数ヶ月前の事を思い出しながらフェイトに話す。
そのためには、何故俺が「料理の師匠」なんて大層な役割に収まっているかについてまで話はさかのぼる。

ある日、いつものように商店街で買い物をしていると、見なれない美人さんを見かけた。
その人は八百屋や魚屋の入っては引っ込み、また入っては引っ込むを繰り返していたのだ。
その動作と相まって、眉間に寄った皺が可愛らしくさえあったけど。

そんなことを何度も繰り返していると、さすがに気になる。
まあ、その手にはメモがあり、店頭の品物と交互に見ていればある程度予想はつく。
つまりは、俺と同じ目的なのだろう。

そこで声をかけようとしたところで、ちょっと柄と頭の悪そうな三人組に絡まれた。
傍から見れば明らかに迷惑している。
なのに、それを察する感性がないのか、それともそれを察してなお無視するほど馬鹿なのか。
とにかく、しつこく話しかけている。

迷ったが、一応傍観することにした。
助けるのは簡単だが、それでは何の解決にもならない。
アレだけの美人なら、この先こうして声をかけられるのはそう珍しくない。
なら、ある程度はそういった連中への対処法を身につけねばならない。
せめて自力で助けを請うくらいはできないと、いいように振り回されてしまう。
あんまりやり過ぎる様なら、その時に止めればいいと結論した。

とはいえ、がんばってはいるのだがなかなか上手く断れずにいる。
引き換え、いつまでたっても望み通りの回答が得られないことに痺れを切らす男たち。
馴れ馴れしく肩に置かれた手で乱暴に掴んだところで、さすがに制止することにした。
「ちょっと良いですか? 困ってらっしゃるようですし、そろそろやめた方がいいと思いますよ」
とりあえず、穏便に注意することから始める。
あんまり聞きそうにはなかったが、それでも初めはこんなところだろう。

返ってきたのは、おおむね予想通りの応対。
「あ? ガキはさっさとお使い済ませてママん所へ帰んな」
なんというか、ありきたり過ぎて面白みの欠片もない。

だが、見た目はともかく俺は一応年上だ。ここは大人の対応をする。
「ですが、そちらの方はまだ買い物の途中みたいですし、また次の機会にした方がいいと思いますけど。
 なにより、あんまりしつこいと嫌われますよ」
最後の方で、ちょっと挑発するようなことを言ったのは無意識だった。
どうせ言ったって聞かない、という諦めもあったのかもしれない。

で、俺の予想は裏切られないわけで……
「ざけんじゃねぇぞぉ、んのガキィ!
 これは大人の話だからガキはすっ込んでろ!!」
という、実に素敵な返事を返してくれた。
大人の話というが、大人の姿勢や態度じゃない。
一度、一般常識というものを学びなおしてほしいなぁ……。

しかし、仏の顔も三度までという言葉がある。
それにならって、親切心も含めて三度目の忠告をすることにした。
「はあ……話というなら、とりあえずその手をどかすべきじゃないですか?
 なんにしても、女性に対して乱暴するもんじゃない。いい加減にしないと、警察よびますよ」
最大限の慈悲を込めて、公権力を引き合いに出し退かせようとする。
さて、上手くいってくれるといいんだが。

これでダメなら実力行使しようと思っていたが、その必要はなかった。
理由は簡単。向こうから仕掛けてきてくれたから。
「すっこんでろ!! このクソガキィ!!」
そんな下品な叫びと共に、素人丸出しの前蹴りが放たれる。

まったく、仮にもこっちは外見上子どもだぞ。
それに対して沸点が低すぎる。
せっかく穏便に済ませてやろうと思ったのに、ちょっと反省してもらおうか。

斜め前に進むことで蹴りを交わしつつ、死角を取りそのまま軸足にローキックを入れる。
それほど力は込めていないが、バランスを崩し無様に倒れ込む。

それでより一層頭に血が上ったのか、顔を真っ赤にして地面に手を着く。
面倒なので、その着いた手をさらに蹴りはらってやる。
支えを失い、再度無様に倒れる男A(仮)。

そのざまに、残りの二人は腹を抱えて笑っている。
だが、笑っていられるのもそう長くはなかった。
何度男A(仮)が立とうとしても、そのたびに支えとなる手や足が蹴りはらわれ倒れ込む。
そんなことが繰り返されていれば、連中の安っぽくてむやみに高いプライドも傷つく。

何度も転ばされているところを見ているうちに戦力差を感じてくれればと思ったのだが……。
とりあえず、自分が良いように転ばされることに疑問をもつ程度の想像力くらいは欲しいものだ。
二人の雰囲気が変わったところで、しょうがなく男A(仮)の肩を極めて少々痛がってもらう。
脅しの意味もあったのだが、これでも退いてくれないなら本当に実力行使するしかない。
できれば、あまり乱暴はしたくないんだがなぁ。

で、世の中そう上手くはいかず、本当にそうするしかなくなるわけで……
「……はぁ。加減はするが、後でちゃんと病院に行くことだ。
 無理にはめるとクセになるぞ」
なんでこんなことを言うかというと、男A(仮)の肩をそのまま外したから。
怪我をさせるのも本意じゃないし、これならはめてしまえば元通り。
ある意味一番穏便だろう。
この連中は悪い人間じゃない。ただ考えるということをしていないだけなのだ。

それを挑発と取ったらしく、血走った眼をする大の男三人。
それを危険と考えたのか、絡まれていた美人さんが制止する。
俺じゃなくて、男たちの方にだけど。
「あの~やめておいた方がいいと思いますよ。
 たぶんこの子、あなた方より強いですから」
そんなありがたい忠告を無視し、大人げなく襲いかかる三馬鹿。

「「はあぁぁ~~……」」
その様に、二人の溜息が重なる。
この瞬間、二人の心は一つになった。



まあ、あとは説明するまでもないだろう。
大の男三人がかりにもかかわらずいいように翻弄され、全員揃って仲良く逃走した。

予定通り外傷はない。
ただ、さすがに無傷で逃げてくれるはずもない。
仕方がないので、男A(仮)同様に関節を外してやった。
足を外すと後片付けが面倒なので、全員肩か肘、あるいは手首に限定したけど。

逃走する男たちの背中を無視し、美人さんが深々と頭を下げる。案外いい性格をしてるな。
「えっと、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「いえ、そこまでされるほどのことじゃありませんから」
それにさっきは気付かなかったが、この人只者じゃない気がする。
武道をやっている風ではないが、どこかそんな雰囲気がある。
もしかすると、俺の手助けなどいらなかったかもしれない。
ちょっと自信ないんだけど。

なにせ、さっきは遠目から見ただけで、その後は連中の相手をしていたからな。
ほんわかした感じの人だからわからなかったが、この事態にも全然動揺してない。
あんまり荒事向きには見えないのだが、同時にどこか「それっぽい」雰囲気があることに気付く。
とはいえ、その様子からこちらに敵意があるようにも見えないので、とりあえず気にしなくても大丈夫だろう。

ただ、この人何でこんなに緊張してるんだろう?
普通の人は気付かないだろうが、筋肉は緊張し、いつでも動けるよう肘や膝が僅かに曲がっている。
少しでも変な行動をしたら、その瞬間に逃げだしそうな印象を受ける。

俺、一応見た目は子どもですよ?
そりゃあ、大の男三人を簡単に追い払える以上、普通の子どもじゃないのは一目瞭然だ。
だけど、だからといってここまで身構えなくてもいいだろうに……。
俺はそんなに怪しい人物に見えるんだろうか?
う~ん、ちょっとショック……。

などということを考えていたら、いつの間にか目の前に美人さんの顔があった。
驚いて思わず仰け反るが、引いた分接近してきて相対距離は変わらない。
そのまま何やらマジマジとこちらの顔を見ていたかと思うと、ちょっと戸惑いながらこんなことを尋ねてくる。
「あの、失礼ですが……どこかでお会いしたことありませんか?」
「? いえ、特に覚えはありませんけど……。
まあ、この商店街ですれ違ったことならあるかもしれませんね」
「……………そうですか」
一応納得はしてくれたが、まだどこか釈然としない様子。
これだけの美人さんなら、忘れたくても忘れなさそうなものだし、多分面識はないはずだ。
あちらも自信がないのか、それ以上掘り下げようとはしなかった。

まあ、それはそれとして、当初の目的を聞いてみることにする。
「ところで、さっきから行ったり来たりしてましたけど、買い物ですか?」
俺の言葉に、それまでの緊張具合が嘘のように心底困った表情を浮かべる。
ああ、やっぱりね。

何やら気弱な表情を浮かべ、おずおずと聞いてくる。
「えっと、いつから見てました?」
「そんなに前じゃないですよ。十五分くらい前ですかね」
隠しても仕方がないので、正直に答える。

ただそれがどうしたのか、さらに落ち込む美人さん。
「それ、ほとんどはじめからです」
あちゃ、不味いことを言ったらしい。

「ああ、その、何に悩んでるんですか?
 俺で良ければ相談に乗りますよ」
なんか微妙な空気になりかけたので、それを払拭するためにも少し強引に話を変える。

結構苦し紛れだったが、ことのほか返ってきた反応は明るかった。
「是非!!」
思い切り手を握られ、輝く瞳で見つめられる。
本来色っぽさの欠片もないやり取りのはずなのだが、手を握る指の細さが、見つめてくる瞳が、こちらの鼓動を早くする。さすがに、こんなスキンシップをされると緊張する。

「あれ? でも、お料理できるんですか?」
なんか、今更な質問だ。
それだけ切羽詰まっていたという証明でもあるけど。

「信じられないかもしれませんが、得意分野です」
男、それも子どもがそこまで料理が得意ってのはあんまりない。
この人の危惧は当然だろう。

どこまで信じてくれたのかはわからないが、とりあえず相談はしてくれた。
「一応買う食材は聞いているんですが、どれを買っていいか分からなくて……」
なるほど。料理ができる人と、素人との間にありがちな齟齬だろう。

書いた方は何を作るか明確にイメージしているが、買う方はそれで何を作るのか細かく想像できない。
故に、どれが書き手の希望に沿うのか判断できないのだ。
つまり、料理のビジョンが立たず、買い物の戦略が立てられないということ。
一兵卒のこの人では、司令官級の上層部の意思を測りきれないのだ。

一見家庭的な人なのだが、人は見かけによらないということか。
「じゃあ、とりあえずそのメモを見せてください。
 一緒に買いながら選び方とか説明しますよ」
口頭で説明するだけではわかりにくい。
ならば、実際に現物を見ながら学んでもらうのが一番だ。

「あ、ありがとうございますぅ~~!」
いや、そんな涙目にならなくても。

ただ、やはりそれだけだとちょっと足りない気がする。
「でも、やっぱり料理を覚えるのが一番の近道なんですけどね」
「……あう。恥ずかしながら、苦手なんです」
ですよね。
得意だったら悩んだりしないのだから、予想通りと言えば予想通り。

中には例外がいるけど、大抵の料理ができない人はこれに悩む。
ちなみに、バゼットやカレンがその例外。
二人もできなかったけど、そういった悩みとは無縁みたいだった。
まあ、別に上手く判断出来ていたわけじゃない。
バゼットの場合、即断即決で迷わず安くて量の多いモノを選択していただけだったけど。
逆に、人の財布と思って無闇に高級そうなのを買うのがカレンだった。
自分の事ならいくらでも節制できるくせに、他人の金なら迷わず使い切るんだからいい性格してやがる。

「これを書いた人に教わるんじゃダメなんですか?」
「教わってはいるんですが、なかなか上達しなくて……。
 それに家族からも『微妙』とか言われて、あんまり期待してもらえないんです」
それはまた、大変だな。
家族なんだから、もう少し励ましてあげたりしてもいいだろうに。
そんなに希望がないのだろうか、この人は。

「……う~ん。よければ俺が教えましょうか?
 一応、和食には自信がありますし。密かに上達して驚かせるっていうのもあると思いますけど」
俺としては「一つの提案」程度の気持で発した言葉。深い意味なんて特にない。
別に普通の料理教室でもいいだろうし、家族からの意見を聞きながらでもいい。
ちょっと変わった意見で、気持ちの切り替え程度のつもりで発した言葉だったのだ。

だが、俺の予想を上回る食いつきを見せる。
「ほ、本当ですか!! お願いします、みんなをあっと言わせて見返したいんです。
 月謝なら払いますから、ぜひお願いします先生!!」
先生って……。
それに、俺の料理の腕も確認しないうちからそんなこと言っていいんですか?

とりあえず一度なだめ、後日詳しいことを決めることにした。
だがシャマルの熱意は冷めることを知らず、後日も同じくらいの、いやそれ以上の勢いで話が押し進められた。
ここに、主婦シャマルのための衛宮料理教室の開講が決定した。



で、その付き合いが結構最近まで続いていたと、まあそういうお話。

そんな話に対するフェイトのリアクションはというと。
「シロウ! わたしにも料理教えて!」
という対抗意識だった。

「なんでさ。エイミィさんから習えるだろ?」
「え? あ、そういえば……」
おいおい、同居人の事を忘れるのはさすがにどうだ?
せっかく一緒に住んでるんだから、俺よりそっちに習った方がいいと思うんだけどな。

「えっと、あの……そ、そう! わたし、和食に興味あるから!」
なんか、あきらかに今無理矢理に取ってつけた理由っぽいのは気のせいか?

まあ、本人がそう言ってるんだから、俺がどうこう言うことじゃないのか。
それに、俺なんかに教えられることなら協力を惜しむ気はない。
「そうか。それじゃあ、今日は水炊きにするか。鍋物はまず失敗が無いし」
一応フェイトは最低限の料理スキルがあるらしいから、はじめからこれでも大丈夫だろう。
ただ、フェイトが安堵のため息をついているのは気にしないのが礼儀なのかな?

さて、とりあえず方針が決まったことだし、さっさと買い物を済ませてマンションに行きますかね。
次元世界の皆さんに、和食の素晴らしさを知らしめてくれようではないか!



SIDE-凛

今私は士郎達と別れ、監視の意味もあってなのはの部屋にいる。
ほっとくとすぐにやり過ぎる子だから、こうしてちゃんと見張っていないと危なっかしくてかなわない。

そこで、ふっと最近影の薄いアイツの事を思い出す。
「そういえば、ユーノが探しものしてるのって無限書庫ってところなんだっけ?」
「え? うん。たしか本局にある、管理局の管理を受けてる世界の書籍やデータをすべて収めた巨大データベースって、ユーノ君は言ってたかな?」
それはまた、なんというか砂漠で一本の針を探すような作業だわ。
管理局の管理を受けてるってことは、少なくとも一つ一つが地球以上の文明があるはずだし、となればそこにあるあらゆる情報を網羅するとなるとそれだけで大事だ。
ましてや、それが管理している世界分すべてとはね。それだけあれば大抵のものは見つかるだろうけど、逆に今度は探すのが大変そうだ。

「凛ちゃん、もしかして興味あるの?」
「ん? まあ、“無限書庫”にはね」
それだけ色々あれば、もしかしたら私たちにとっても有用な情報が手に入る可能性もあるかもしれない。
たとえば、魔法が今の形で落ち着く前の原型の情報とか、ね。
その辺りまでさかのぼれば、もしかすると魔術との親和性を見つけ出せるかもしれないし。

ただし、私の発言をなのはは別の意味で取ったみたいだけど。
「そっかぁ、そう言えばこの前本局に行った時、リーゼさん達がわたしは武装隊員に向いてるって言ってたんだけど、凛ちゃんはどう思う?」
「ってか、リーゼって誰?」
そういえば、この前の戦闘を終えて少ししてから、なのははユーノに差し入れを持っていき、フェイトは嘱託関係の書類だか何だかで本局行ったんだったっけ。
ちなみに、私らは面倒だったり、士郎がそれどころじゃなかったりで行ってないけど。

「え? ああ、リーゼさん達って言うのはグレアム提督の双子の使い魔さん。
クロノ君の先生でもあって、近接戦闘教育担当のリーゼロッテさんと、魔法教育担当のリーゼアリアさん。二人まとめて呼ぶ時は、リーゼさんって呼ぶんだって」
ふ~ん、あのクロノを鍛えた張本人か。その上、あのグレアム提督の使い魔とはね。
そういえば、あの人倒れて入院したんだっけ。
そのお見舞いにも行くって言ってたし、その時にでも知りあったのかしらね。

まあ、それはそれとして。
「どうって言われてもねぇ。私は局のことなんてよくわかっちゃいないし、実際に籍を置いてるのが言うんだからそうなんじゃないの?」
「あれ? 凛ちゃん管理局に興味があるんじゃないの?」
「何勘違いしてるのか知らないけど、私が興味があるのは無限書庫の“中身”。入れ物のそのまた包装紙に興味はないわ」
「ほ、包装紙って……」
「それがダメなら陳列棚」
「……もういいです」
そういって、諦めたようにうなだれるなのは。
私からすれば、やっぱりその程度の認識でしかないんだけどね。
無限書庫の蔵書が中身なら、無限書庫が入れ物。で、それを抱えてる管理局はさしずめ包装紙とかその辺だろう。

「凛ちゃんは、管理局に入ろうとか思わないの?」
「全然」
「そんな…ノータイムで言わなくても……。ちょっと考えてみたりとかないの?」
「だからないってば。アンタが局入りするのは自由だけど、私にその気はないわよ」
別に、なのはが管理局に入ろうがどうしようがその辺はどうこう言う気はない。
この子の人生だし、それをどう歩みどんな結果に至ろうがそれは自己責任だしね。
まあ仮にも師であるわけだし、組織に身を置くってことがどういうことなのか、そのうちちゃんと教えておかないといけないか、とは思うけど。

「それって、士郎君も?」
「そうね……っていうか、この前リンディさんにそういう話されたし。私じゃなくて士郎が、だけど」
「え!? わたしされてないよ?」
「ふ~ん。でも、別に不思議なことじゃないでしょ。
嘱託のアンタ達がこのまま局入りする可能性は十分あるし、それならわざわざ粉かける必要もないんだから」
なのは達はちゃんとその可能性を視野に入れてるけど、私たちはその辺を全く考慮していない。
だからこそ、そういう話をしてその可能性を考えさせる意味がある。まあ、その程度の違いでしょね。

ただ、まだその辺はよくわかっていないなのはは少し首を傾げる。
「そういうモノなのかな? じゃあ、やっぱり士郎君は……」
「断ったみたいね。やり方は気にくわないけど……」
まあ、それ自体は問題じゃないし、予想通りの返答だから別にいい。
だけど、さすがに私の預かり知らないところでそういう話をされたのは気に入らない。

なので何日か前、一言文句を言いに行った。
「それで、今日はどうしたのかしら? もしかして、この前士郎君に話したこと?」
「わかっているなら話が早いわ。まあ、私がいたら問答無用で突っぱねられるって考えたのは当然だし、実際そういう時はそうするつもりだから置いとくけど……」
「ええ、わかってるわ。これからはちゃんとあなたを通す事にします。これでいい?」
「ふん、当然でしょ。士郎は私のなんだから」
こうして失敗した以上一々釘を刺す必要もないだろうけど、この辺ははっきりさせておかないといけない点だ。

「だけど、あなたも心配性ね。彼は私から見ても年に似合わずしっかりしてるし、ちょっと過保護すぎない?」
「放っておいて下さる? だいたい、心配の原因を作ってる張本人にだけは言われたくないんだけど」
「そこを突かれるとイタイのだけど、ちょっとズルくないかしら?」
「何をいまさら。鬼の居ぬ間に、と言わんばかりにコソコソやってた人が言えたことじゃなわね」
傍から見れば過保護かもしれないけど、それはアイツの危なっかしさを知らない人間の言だ。
士郎に限れば、どれだけ気を回しても回し過ぎということが無い。
むしろこっちの苦労をねぎらってほしいくらいよ。

「まあ、こうして失敗してしまったのだから大目に見てくれないかしら?
それに、あなた達の技術は何も私たちにとってのみ貴重なわけじゃない。わかってるんでしょ?」
そんなことは言われずともわかっている。
技術がありあまって困るなんてことはないし、あれらは武力としても使い道がある。
なら、欲しがる連中は大勢いるだろう。

憮然と押し黙る私に、リンディさんは悲しそうな眼で言い募る。
「俗な話になるけど、士郎君の武装は強力だし、あなたの技術にしても、転用すれば次元震や次元断層の抑制につながる可能性を秘めた技術よ。それは同時に、それらを引き起こす技術にもなりうるわ」
私自身は、次元震だの次元断層だのの抑制やら誘発やらには興味ない。
だけど問題なのは、「絶対に出来ない」と否定することができない点だ。
仮に否定できても、それを他の連中に信じさせられるとも限らないってのが厄介なのよね。

「情けない話だけど、情報なんてどこから漏れるか分からないわ。万が一漏れれば、あなた達の力と技術を野心や欲望、あるいは自分の理想のために『強制的』に利用しようと考える人はでるでしょうね。
 考えたくはないけど、管理局の中にだって……」
管理局とて一枚岩ではない、ということか。
それに、そういう連中なら前の世界で嫌というほど見てるし、その辺はわかってる。
むしろ、私欲で動いてくれる方が楽なんだけど……私心がないと諦めってものを知らないから。
正義感に燃えて暴走するってのも、わりとよくある話だしね。

まあ、この人に限れば、非道な手段に訴えたりすることはないだろう。
できる限りの手を打って同意を得ようとはするだろうが、それで無理なら渋々でも引く。
だけど、他の連中もそうとは限らない。この人が真に危惧しているのはそこだ。

「確かに、管理局に所属すればその危険は“多少”減るわね。
 強力な後ろ盾があれば外の連中は手が出し難くなるし、内側にしても確固とした立場があると迂闊に手は出せない。少なくとも、在野でプラプラしてるよりかは安全ね」
なんの地位もコネもない立場にいるなら、いくらでもやりようはある。人間二人の存在をいじるくらい簡単だ。
だけど、社会的に強固な立場を持つ存在となると、下手に手出しができなくなる。
無理を通そうものなら不自然な痕跡が残るし、そこから自分たちの所業がばれるのは避けたいだろう。

言いたいことはわかる。今に限れば、この人が打算やらなんやらを捨てて心配してくれてる。
それは、その真摯な目から信用できる。もし騙されたとすれば、私に見る目がなかっただけだ。
でも、だとしても……
「心配はありがたいけど、やっぱりダメ。悪いわね」
「そう、それじゃ仕方がないわね。戦闘要員でなくて、研究員として来てくれれば研究費だって出るのに」
う、それは魅力的だけど、やっぱり無理。
メリットがあるのは認める。だけど、長く組織とかと反目してきたせいか、どうしても生理的に受け付けない。
まあ、リンディさんだって別にそれほど期待してはいないのだろう。その顔には、困ったような笑みが浮かんでいるだけだ。

「まあ、一応そういう可能性も考慮しておいてちょうだい」
「ここは、そうさせてもらうわ、って答えた方がいいのかしら?」
「あらあら、困ったわね。それ、事実上の全否定よ。
……ところで凛さん、あなた運命の相手とかって信じる?」
「は?」
いきなり何を言い出すのやら。っていうか、話変わり過ぎでしょ。

そう思ったのだけど、妙に真剣な眼つきで見つめてくるものだから、何となく真面目に答えてしまった。
「運命の相手……ね。正直、どうでもいいかな? 何かが決めた筋書きだとしても、私は私の意思でアイツを選んだ。それだけは、誰にも否定させるつもりはないわ」
「ふふふ、あなたらしいわね。じゃあ、既婚者の立場から言わせてもらうけど、彼……絶対に手放しちゃダメよ。
 一生のうちにアレだけ想い合える人に出会えるなんて、奇跡に等しい幸運なんだから。
 その点で言えば、あなたも士郎君に負けず劣らぬ果報者ね」
「…………結局、何が言いたいわけ? そもそも、あなたはフェイトを応援してるんじゃなかったの?」
いやもう、ホント何が言いたいのかさっぱりだわ。

「そうね。確かにフェイトさんに幸せになってほしいけど、だからと言ってあなた達に不幸になってほしいわけじゃない。子どもの様な言い分かもしれないけど、みんなに幸せであって欲しいと思ってるだけよ」
「はぁ、別にそれは良いわ。似たような奴も知ってるし。それで?」
「あなたの方が士郎君との付き合いは長いからわかってるかもしれないけど……………彼は、危ういわ」
まるで、心臓を打ち抜かれたかのような錯覚を覚えた。
その眼には強い光があり、一切の虚言を許さない。間違いない、この人は“知っている”。

「この前士郎君を勧誘した時ね、そう感じたのよ。
 今と同じような話をしたんだけど、彼なんて言ったと思う?」
危険が迫るかもしれないって話へのアイツの反応か。そう言えば、断ったくらいしか聞いてなかったっけ。

だから、正直に首を振った。
それを確認したリンディさんは、その眼に強い憂いの色を宿しながら言葉を紡ぐ。
「“その時は、あなた達でも敵です”って、普段と何も変わらない口調と表情でそう言ったの。
なんでかしらね。殺気はおろか、瞳にわずかな揺らぎすらなかったのに……。
彼の眼が、言葉が…………私にはどうしようもなく怖かった」
そう言いながら、まるで震えを抑えつけるように肩を抱く。

「思わず聞いたわ。管理局を相手に勝てるのかって。
 そうしたら“無理でしょうね。それでも、その時はなりふり構いません。まだ見捨てられていないようなら、俺自身を売り渡してでも凛を護ります”ですって」
言葉の意味がまだよくわからないのか、その顔はこちらの様子を窺っている。
それがわかるだけに努めて平静を装うけど、それがとてつもなく難しい。

それにしてもアイツ、なんてバカなこと考えてるのよ!!
士郎の言葉の意味、それは「世界との契約」だ。
確かにそれをすれば、管理局相手に人一人守り切るくらいできるかもしれない。
でも、それじゃあ本末転倒だってのがわからないのかしら。

まあ、らしいと言えばらしい話だ。
かつてのアイツは「人を救う」ためなら手段を選ばず、自分の命すら蔑にした。
その「人を救う」が「私」に変わっただけ。
私を幸せにする→それには生きてなければならない→だから護る→そのためには手段を選ばない。
大方、こういう思考展開なのだろう。まったく、相変らず自分が視野に入ってない。

「言葉の意味までは計りきれないけど、彼はそうなったら本当に命を捨てるつもりよ。
 だから離さないで、彼の手を………決して」
命を捨てるなんて生温い。それはまさしく死後の売却。
人間の規格を外れた力を得る事と引き換えに、死した後世界の奴隷となり無限地獄に落ちるという事だ。

離す気なんて毛頭ないけど、今の話を聞けたのはありがたい。
考え方の方向性は前と変わったみたいだけど、それでも変わらずアイツは歪んでる。
そりゃ、生きてなければ幸せもへったくれもないけど、それでじゃあ意味がない。
私の幸せの前提は、アイツが「ただの人」であることだってのに。これは、まだまだ気が抜けそうにないわ。

と、数日前の事に思いを馳せていると、いつの間にかなのはの顔が目の前にあった。
「……凛ちゃん? 凛ちゃん!」
「え? どうかした?」
「どうかした、じゃないよ。わたしの話聞いてた?」
「ごめん、なんだっけ」
どうやら物思いに更けすぎたらしい。
なのはは全く話を聞いてなかったことが不満らしく、ムスッとしている。

ごめんごめん、と謝りつつなのはの機嫌が戻るのを待つ。
同時に……
(させないわよ、絶対に)
そう、決意を新たにする。

例え私を守るためでも、そんなバカなマネはさせない。
アイツは生きて、ただの人のまま幸せにしてやるんだから。



Interlude

SIDE-リンディ

アースラの試験航行を終え、グレアム提督のお見舞いも終わった私は旧友であるレティと話をしている。
「で、どうなの? そっちの方は」
「どうって?」
やっぱり、フェイトさんの事かしら。
こっちに来る前の通信でも彼女の事が話題になったけど、その話は一応その時に終えたはずなんだけど。

「あなたが目をかけている子たち、って言うのも気になるけど……今回は預言の方かしらね」
「ああ」
なるほど、そっちか。
確かに、通信で話すにはちょっとマズイ話題よね。

幸い、ここは個室だし防諜対策もしっかりしてるから安心して話せる。
「そうね、凛さんの能力は全容を把握したとは言わないけど、それでもある程度わかっているつもりよ。
だけど、まだ士郎君の事はわからない事だらけね。預言と合致する部分があまりに少なすぎるのよ」
「つまり、進展はなし、ってことね」
そういうこと。彼の能力は、それこそ結果自体はわかりやすい。
だけど、それと預言の内容が合致するのか……いや、そもそも預言の意味すらもよくわかっていないのよね。

「ただ、いくつか仮説なら立てられるわ」
「というと?」
私の言葉に、レティは身を乗り出して食いついてくる。

「まだ、確証も何もないから報告はできないのだけど……概念武装の性質を考えるとね、とんでもない怪物を想定しているように思えてならないのよ」
「怪物?」
「そう。例えば、凛さんが言っていた第七聖典。これは転生を阻む能力があるらしいわ。それって逆に言うと、転生する能力を持つ何かを想定してるってことじゃない? それも個体としての能力として」
「あ……!」
レティもその意味を理解したのか、口元を手で押さえ深刻そうな表情をする。
凛さんは、プログラムで括られた存在にどこまで概念武装が有効か、疑問を持っていた。
それはつまり、プログラム以外にそういった能力を持った何かが存在する可能性を示唆している。

それに、武器というのは必要だから作るのだ。
必要もないのにそんなモノは作らないし、そんな特殊な代物を試す相手もなしに作るとは思えない。
なにより、どうやって効果を確かめる。転生を阻むと言っても、実際に転生することが可能な何かがいなければそれは意味をなさないし、効果のほどを確かめようもない。

これは他の概念武装にも言える。エクスカリバーにアイアス、どれも破格の能力を持った武器だ。
だけど、なんでそんなモノを彼は戦闘に使用した?
あるから使った? 確かにそれもあるだろう。それを使うしか状況を打開できなかった? 確かにその通りだ。
しかし、あれらはあまりに強力過ぎる。なぜ、それほどの武器を彼の家は集めたのか。
それは、そういうものが必要な敵を想定していた気がしてならない。
アレだけの武器を持つということは、ただそれだけでその可能性を示唆する。

また、彼の戦い方も明らかに格上を想定している。
あれだけの武器を持つ彼が、なお想定しなければならない格上。それは、一体どんな怪物なのか。
単純に彼の考え方の問題かもしれないけど、疑え出せばいくらでも疑える。

どれも可能性の域を出ない。でないけど……
「確かに、無視できない可能性ね。そんな怪物がいるとなれば、王の実在も現実味を帯びるわ」
「ええ。もちろん、ただ研究のために必要だっただけかもしれないし、私が思う以上に、彼は自分を過小評価しているのかもしれない。
 もしかしたら私の考えすぎかもしれないわ……っていうか、そっちの方が有力よ」
「でも、疑うには十分すぎる代物よね。特に、ジュエルシードを消滅させたあの斬撃を放った剣は……」
そう、レティの言うとおり、アレは明らかに凄まじ過ぎる。少なくとも、地上で使うには向かない。
そのリスクを無視してでも必要な敵がいるのではないか、どうしてもそう考えてしまう。

だけど、アレが必要な敵って一体どんな?
「その子たちは、私たちの知らない何かを知っているのかしらね」
「できれば、そんなモノはいて欲しくないんだけど」
「まったくね……」
私のぼやきに、レティはそう返して紅茶をすする。

過ぎたる力は疑念を生む。なんていうのは、わかりきったことだったはずなんだけどね。
本来は、向こうがこちらを撃ってくるんじゃないかという疑心暗鬼。
しかしこの場合、それが必要な何かがいるんじゃないかという恐怖心を掻き立てる。
まさか、そんな意味でも使えるとは思わなかったわ。

あまり楽しくない想像にお互い沈み込んでしまった。
ちょっと気分を変えようと、もう一つの懸案事項に話を変える。
「それと……実は、もう一つあるの」
「え、まだ何かあるの? やめてよね、これ以上頭痛のタネを増やさないでよ」
「しょうがないでしょ、そういう仕事なんだから。
それでね。この前の戦闘で、フェイトさんが守護騎士の一人に聞いたらしいんだけど、士郎君の魔術を『投影魔術』と言ったらしいわ」
「? それがどうかしたの?」
レティは私の言わんとすることがまだよくわからないのか、首を傾げている。

「ねえ、おかしいと思わない? 普通、転送系の術に『投影』なんて名前を使うかしら?」
『投影』、意味としては「モノの影を平面に映し出す」「ある物の存在や影響が他の物の上に現れ出ること」などがあげられる。少なくとも、転送の類に付けるような名前とは思えない。

「まあ、言われてみればそうね」
「でしょ? だからと言って、投影って名前と彼の術の関連性はわからないし、そもそもその名称があってるかだってまだ確認していないわ。
 でも、もし本当にその名前だったとしたら……私は、なにかとんでもない勘違いをしていたかもしれない」
これまたさっきの可能性の話同様、何の確証もない推論だ。
だけど、もしかするとここに彼の能力に迫る鍵があるかもしれない以上無視はできない。

やれやれ、本当にどうしたものかしらね。あの子たちは。
闇の書事件以外にも、問題が山積みだわ。
あの子たちから直接話を聞ければ楽なんだけど……対応は慎重を要するのよねぇ。



そのまましばらく預言の事について話し合ったのだけど、やはり何の確証もない段階ではたいした進展はない。
まあ、わかりきっていたことではあるけど。
どちらかというと、今回のこれは情報の整理と共有が目当てだし。

そうして適当なところで話を区切ったところで、話は士郎君の人柄の方へと向く。
「そう言えば、あなたあの男の子を心配してたみたいだけど、どうなの?」
「…………なんて言うか、酷く純粋な子なんだと思うわ。
どこまでも一途で、愚直なまでに優しい。ただ、それが行き過ぎてるのよ」
正直、彼の人物像を言葉で上手く表現するのはかなり難しい。
表面的な部分は簡単なのだが、その深い部分を伝えるとなると言葉の選択に窮する。

実際、レティも私の表現からいい方向の印象を受けたようだ。
「? それって美徳だと思うけど?」
「私もそう思ってたけど、何事も行き過ぎはよくないってことなんでしょうね」
彼の場合、あまりにも自分を軽視し過ぎだ。凛さんがあれほど心配するのも納得がいく。
彼は放っておくと、どこまでも自分を犠牲にしてしまえる。
確か、あの世界の童話に似たような話があった気がするけど、その体現という感じだ。

私の様子から、どうやら厄介な話ということをレティも察したらしい。
「そう、あなたも大変ね。昔から世話焼きだったし、放っておけないんじゃない?」
「そうね。でも、幸い良いパートナーがいるみたいだから……」
どうやら、凛さんはそのことを承知の上で一緒にいるらしい。
わかっていなかったら危険だけど、そうではない。
彼の一番近くにいる彼女がちゃんと手綱を握っているのだから、きっと大丈夫。
まあ、フェイトさんとしては難関になるんでしょうけど。応援したいのはやまやまだけど、こればっかりは、ね。

ただ、やっぱり気が重いわね。
「どうしたの? そんな苦虫を山ほど噛み潰したような顔して」
「え? ああ。何というか、預言が外れていたらなぁって」
「まあ、肩透かしで終わってくれるに越したことはないけど……そういうことじゃなさそうね」
長い付き合いはありがたい。言葉にしなくても、ある程度こっちの様子を察してくれるんだから。

「ええ。不謹慎かもしれないけど、この際預言自体は当たっててもいいから、二人の所だけ外れててほしいわ」
「それはまた……」
驚いたというか呆れたというか、そんな感じのレティ。
でも、これは紛れもない本心。あの二人を見ていると、その生活を脅かしかねないあの預言が疎ましくなる。
あんな預言さえなければ、あるいは二人との共通性がなければ、二人は穏やかな生活を送れるはずなのに。

「まあ、気持ちは分かるわ。
静かに暮らしたい人の生活を乱すなんて悪趣味もいいとこだし、それがあんな子どもともなれば、ね」
全く以てそのとおり。私たちは、ああいう人たちの生活を守るためにこそ管理局に入ったのに。
これじゃ本末転倒も甚だしい。

はじめのうちは、預言を打破する光明に見えていた。
だけど、時間を置いて冷静になると、そのことを気付かされる。

「上に報告する?」
「まさか。他人の愚痴を密告するほど、私は暇じゃないわ」
「へぇ、友人とお茶する暇はあるのにね」
「こっちの苦労も知らないで……ホントに密告するわよ」
「今度向こうの美味しいお菓子でも持ってくるけど?」
「向こうのお酒も付けてくれたら、今回はそれで手を打ってあげるわ」
「ええ、もちろん♪」
買収成立。昔から好きだったものねぇ。
地位が上がってもこういう軽口を言い合える相手がいるのは、得難い幸運だ。

うちのクロノは妙に堅いから、ちょっとその辺が心配。
エイミィがそうかもしれないけど、まだまだ役者が違う。
あの子がエイミィと渡り合えるようになるのは、はてさていつになるのやら。
なんなら、そのままゴールしてもらってもいんだけど。

フェイトさんだと……なのはさんかしら。
ただ、二人ともそういう柄じゃないし、難しいかな。
まあ、なるようにしかならないか。

Interlude out



SIDE-士郎

買い物を終え、ハラオウン家へと戻ってきた俺達。
寝そべっているアルフにお土産のビーフジャーキーを与え、買ってきた食材を冷蔵庫に移す。

と、そこへ……
「や、お二人さん。ごめんね、なぁんか押し付けちゃったみたいで」
「別にいいですよ。どうせ通り道でしたから」
「うん。いつもエイミィに任せっきりなのは悪いし」
「いやぁ、二人ともいい子だねぇ。クロノ君なんかだと、僕は君の下僕じゃないって怒るのに」
「それ、なんか妙なモノ買わせるからでしょ?」
「え? なんでわかるの?」
やっぱりそんなところか。エイミィさんの事だから、ただクロノに買い物を頼むだけのはずがないと思ったんだ。
絶対、どこかでこの人の悪戯心を満たす愉快なイベントを用意しているはずだと思ったが、大当たり。

「化粧品とか、あとは男が手を出し難いモノを狙ってやってるでしょ」
「あははは。すごいねぇ、士郎君。もしかして、クロノ君の愚痴聞いたりしてる?」
「いえ、単なるシンパシーです」
さすがに下着とかは言いだしてないとは思うが、似たようなことなら凛もやりますからね。
正直、化粧品なんて言われても俺達には違いがよくわかりません。
何となく女の園っぽい空間だし、居心地が悪いんだよ、あそこ。

「ほぉ、それはそれで凄いんだけどね。もしかして心の友と書いて“しんゆう”と読むってやつ?」
「どちらかというと同類故の共感というか、同病相哀れむとかそういうのだと思いますけどね」
「あははは、そっかぁ」
割と皮肉交じりに言っているつもりなのだが、この人全然気にしない。
ポジティブな人って強いよなぁ。なるほど、クロノが勝てないわけだ。ある意味において相性が悪すぎる。

まあいい、クロノには悪いが俺では力になれそうにない。
さしあたって、とりあえずご依頼の料理から始めますか。
「お? で、今日は何を教えてくれるの?」
「寒いですし、やっぱり温まるモノって事で水炊きをやろうかと」
「何を水で炊くの? お米?」
「いえ、そういう意味じゃありませんから。というか、それだと単なる炊飯だし。
 まあ、最後は米を入れて雑炊にしますけどね」
知らない人が聞けば、そういうリアクションになるんだろうか?
でもこの人の場合、知っててそういうこと言ってそうだから判断に困る。

いや、それ以前に……
「今日はって、もしかして何度もやらせる気ですか?」
「ん? できないなら無理にとは言わないけど?」
くっ、嫌な聞き方するなぁ。クロノよりよっぽど人心掌握術が上手いんじゃないか?
俺の料理人としてのプライドを刺激してくるんだもの、やり辛いったらない。

「……できますよ」
「まあまあ、そうムスッとしないで。その代り、こっちの料理も教えるからさ」
まあ、別にいいですけどね。決して、知らない料理に興味を引かれたのではない。

「ってあれ? フェイトちゃんも作るの?」
「あ、うん。せっかくだから、わたしも教えてもらおうと思って」
「ほほぉ……………………………ごめんね、私急用を思い出した。
今のうちにやっておかなくちゃならない事があったんだった!」
そう言って、そそくさと台所を離れるエイミィさん。
今の間が一体何だったのかは定かじゃないが、一瞬目がキラリと光ったのが気になる。

って、それって本来の趣旨から外れるのでは?
「ちょっ、作り方とかはどうするんですか!?」
「ああ、それはフェイトちゃんから改めて聞くから気にしないで!」
いや、確かにフェイトなら忘れるとは思えないし、きっとちゃんと伝えるだろうとは思う。
本人が再現できるかはともかく、教えたことを伝えることが出来るかどうかと聞かれれば、たぶん出来るだろう。
う~ん、それならいいのか?

「あ、そうだ。夕食ってこっちで食べてく?
 お姉さんは大歓迎だし、フェイトちゃん的にも……ねぇ?」
「え、エイミィ!?」
そう言って、意味深な目をフェイトに向けるエイミィさん。
それに対し、顔を真っ赤にしてワタワタと手を振ってエイミィさんを制止しようとするフェイト。
とはいえ、結局は敵わないわけなのだが。AAAクラスの天才魔導師にも、敵わない人はいるんだよなぁ。

まあ、それはそれとして……
「どうしましょうか? 別に問題はないと思うんですけど……」
「うん。急な話だし、その辺はゆっくり考えてよ。
 つじつま合わせの言い訳くらいなら、付き合ってあげるからさ」
いや、別に浮気するとかじゃないんですから。
そうして少し悩む俺をよそに、エイミィさんはフェイトの方に歩いていく。

そして、エイミィさんはフェイトにすれ違いざま……
「しっかりね」
と、小声で耳元に話しかけて行った。なんのこっちゃ?
ただ、フェイトの顔がより一層赤くなったことだけは確かだけど。

待てよ、あと一つ確認しておかないと。
つい最近まではともかく、俺としては連中の動向は少しでも耳に入れたい。
この際だから、凛には悪いけど制止を振り切ることになることも覚悟している。
「そういえば、リンディさんもクロノもいませんから、今はエイミィさんが指揮代行なんでしたっけ?」
「責任重大」
とは、俺の確認を聞いたタレアルフの弁。
とりあえずだな、言ってる内容と格好があってないぞ。
ビーフジャーキーを咥えながら、床にべちゃあと毛皮みたいに寝そべっていてもなぁ。リラックスし過ぎだろ。

「うん、まぁね。全く、物騒極まりないのですよ。とはいえ、そうそう非常事態なんて、起るわけが……」
そこで鳴り響くのはアラート。そして警報を意味する赤い光の明滅。
なんというか、あまりにドンピシャ過ぎるタイミング。

「起こりましたね、非常事態」
「起こっちゃったね、非常事態」
などと、思わず間抜けなやり取りをする俺とエイミィさん。
まあ、それだけびっくりなタイミングだったってことで。

「って二人とも! そんな、ぼーっとしてる場合じゃないよ!?」
「あ、そうだった!? とりあえず、みんなは管制室に来て。
 それとフェイトちゃんはなのはちゃんに連絡! 士郎君は念のため凛ちゃんにこの事を伝えて!」
「あ、それなら凛は今なのはといるはずですから、まとめて伝えますよ」
「オッケー、それでお願い!」
やれやれ、せっかくの団欒がいきなりドタバタに代わってしまったな。

とはいえ、これで守護騎士たちに会えるか。
できれば、あの人に会って直接話を聞きたいんだが……。






あとがき

とまあ、結構半端なところで今回は終わりましたね。
どうも傾向として、こういう次に直接つながる終わりをしてないことに気付き、ちょうどいいのでやってみることにしました。
それと、多分初めてじゃないでしょうか。A’sに入ってから一度も八神家サイドの視点が出てこないのって。
これまで誰かしら出してたんですが、一度もないのはさすがに初のはず。
まあ、だからと言ってどうということはないんですけどね。
士郎の回想でちゃんとシャマルが出てましたし、前回は八神家メインでしたから。

そんなわけでシャマルとの出会いにもちょこっと触れましたが、なんか色々アレですね、すみません。
この二人の出会い方としては、ちょっとこれくらいしか思いつかなかったのです。
基本はhollowにおけるライダーのお買い物で、そこにプラスαしました。まあ、とりあえず一般人三人程度ではこんなものでしょう。

さて、これで今年の更新は今度こそ最後で。
何とか大晦日に間に合ってよかったですよ、ホント。
さしあたっては、「あけましておめでとうございます」が早く言えるようにしたいですね。
とりあえず、来年こそは良い年でありますように。それでは皆さん、良いお年を。


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