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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第29話「三局の戦い」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/18 23:24

SIDE-リンディ

ある日の夕暮れ……というか、すでに日は落ちてるわね。
旧友でもあるレティと、モニター越しに世間話をしていると少々気になることを耳にすることになった。
「グレアム提督が?」
「そう。最近忙しかったみたいで、倒れちゃったのよ」
それは、なんとも心配になる話だ。あの人には私もクロノも、それどころか今は亡き夫もかなりお世話になった。
その上、今はフェイトさんの保護観察官まで引き受けてもらってるし、非常に気にかかる。

「容体は?」
「大丈夫よ、そこまで深刻じゃないみたいだから。
 そうね、復帰するのに一週間、本調子になるには二週間ってところらしいわ。
 あの人も相当な仕事人間だし、ここらで一度しっかり休んでもらった方がいいだろう、って言うのが大方の見方ね」
それなら良かった。
とりあえず、こちらの暦で年内、それも今月半ばには元通りになるらしい。
それなら、そこまで心配はいらないわね。

「ま、本人は『寄る年波には敵わない』なんて冗談言ってるし、あれならすぐにでも元気になるわよ」
「あらあら、まだ定年退職には早いのに……」
確かに管理局でももう年配の部類に入る方だけど、それを感じさせない若々しさも持っている人だ。
正直、そんな言葉が似合うような人ではない。あの人なら、もう二十年は現役でいられそうですもの。

とはいえ……
「教えてくれてありがと、近々お見舞いに行くことにするわ」
「ん~、あなただって忙しいんだし、無理していくのはどうかしらね?
 だからグレアム提督も、あなたには連絡が行かないようにしてたわけだし」
それはそうなんだろうけど、やはりいろいろお世話になった方のお見舞いにもいかないのはやっぱりね。
それに、せっかく情報封鎖していたのを漏らしたのはあなたなんだから、そこは連帯責任でしょ。

「そういえば、あなたが目をかけてる子。あの子の方はもう大丈夫なの?」
「? ああ、なのはさんね。今本局で診察を受けてるところよ。
 お医者様の話では、もう完治してる頃合いだから大丈夫だと思うわ」
「そう、よかったわね」
本当に。あの時は結局あんなことになってしまったから申し訳ない限りだったのだけど、それでも長引くことがなかったのは不幸中の幸いね。
それに、バルディッシュとレイジングハートの修理もちょうど終わったし、二人のことはこれで一安心かしら。

と、そこへ緊急事態を告げる警報が鳴り響く。
「これは!?」
「なにか、よくない事態が起こったみたいね。邪魔するのもアレだし、世間話はまた今度ってことで」
「ええ、ごめんなさい」
そう言って、レティからの通信が切れる。
まったく、二人の体勢が整うこのタイミングで事が起るのは、運が良いのか悪いのか。

そして、レティと入れ替わる形で別の通信が入る。
「都市部上空にて、捜索指定の対象二名を補足しました。
 現在は、強装結界内部にて対峙中です」
通信を入れてきたのは、借りられた武装局員一個中隊の中隊長。
優秀ね。少数とはいえ、相手はかなりの強敵。むやみに戦闘に持ち込まずに、そうしてくれたのは助かる。

「相手は強敵よ。交戦は避けて、外部から結界の強化と維持を!
 現地には、執務官を向かわせます!!」
当然、フェイトさんやなのはさんも前線に出ると申し出てくるだろう。
正直、二人にはあまり関わってほしくないのだけど、二人の戦力はその資質だけでも並みの武装局員を凌駕する。
守護騎士を相手にするには、あの二人と同等かそれ以上の力量が必要な以上、申し訳ないけど力を借りるしかない。本人たちも、そのために今日まで訓練をしてきたのだから。

それと、取引は取引だしね。
「エイミィ。念のため、凛さんたちにもこの情報を」
「はい」
場所はこの近辺だから、たぶん二人もすでに気付いている。
異世界ならいざ知らず、自分の足元に彼らがいる以上少なくとも様子を見に来るくらいはするはず。
一応場合によっては手伝ってくれるらしいとは聞いているけど、私にリニスを含めた三人への指揮権はない。
彼らがどう動くか、それは彼らの自由意思に任せるしかない。

まあ、なのはさんは凛さんの弟子で、フェイトさんはリニスの教え子だから、危なくなれば手を貸してくれるはずだ。士郎君にしても、あの子たちの事を気にかけてくれている。
なら、ここは彼らにフェイトさんたちの事を任せても良いだろう。



第29話「三局の戦い」



SIDE-凛

「おお、派手にやってるわねぇ」
私達が到着した時、すでに戦闘は始まっていた。
一応戦闘区域に入るわけだし、すでにデバイスを展開し、バリアジャケットも身に付けている。

守護騎士たちを囲んでいた武装局員の輪が開いたと思ったら、上をとっていたクロノがかなり規模の大きい攻撃をかました。
そのまま武装局員たちは結界の外に退避し、どうも結界の強化に回ったらしい。
クロノが息を切らせるほどの攻撃を受けた守護騎士たちだが、どうやらしっかり守っていたようだ。
多少攻撃は通っていたようだけど、あれじゃあ決定打にはほど遠いわね。

まあ、クロノのあの攻撃にはちょっと驚いたんだけど。
「クロノのアレ、もしかしてアンタを意識したのかしらね?」
「そういうわけではなかろう。
あの方が魔力の密度は高いのだから、単純に効率を考えてああなったのではないか?」
まあね。ただ単純に魔力をぶっ放すより、ああして固めて使った方が効率は良い。
ただし、それをするための時間やらなんやらで、使うまでに隙は多そうだけど。

「そら、彼女らも来たらしい」
「フェイト! なのはさん!」
士郎の言葉を聞き、リニスが声を上げる。
そちらの方を見ると、貯水タンクの上に立つなのはとフェイトの姿があった。
その後ろには、その相棒でもあるユーノとアルフもいる。

この距離だと二人の声は聞こえないけど、二人は自らの愛機を掲げる。
すると、体が浮き上がり各々の魔力光に準じた光に包まれる。

光が消えると、二人は若干以前とは意匠の異なるバリアジャケットに身を包んでいた。
さらに言えば、その手に持つ愛機達も僅かにその形状が変わっている。
(ふ~ん、カートリッジを組み込んで少し変わったってことか……って、服装まで変える意味は?)
その辺はまあ、気分の問題なのかもしれないから気にしたら負けか。

「では、行くか?」
「ま、ここにいてもはじまらないしね」
一応、あの子たちのサポートというか、様子を見るためにここにいるわけだし。
離れたところで観戦するのも良いけど、近い方が都合はいい。
あの子たちの戦闘に手を出す気はないけど、この前みたいに黒いのやら仮面やらが出てくることを考えると、やっぱりその方が確実だろう。私たちの目当てもそっちだし。

「ここなら屋上を飛び跳ねていけば大丈夫だろうし、アンタも一人でいいわよね?」
「無論だ」
「じゃ、私とリニスは先に行ってるから。行くわよ」
「はい」
リニスを促し、私たちは士郎に先行してなのはたちの元へ向かう。
士郎の方も、ビルの屋上を跳躍しながら私たちの後を追う。
いつまでもおんぶにだっこじゃ、カッコがつかないしね。

と、その最中、天空から轟音が響いた。
「あれは?」
「どうやら、フェイトのお目当ても来たみたいね」
まあ、とりあえずこれで役者はそろったのかな。

それはそうと、なのはたちの方は、なにやらあのチビッ子たちと話をしていたようだけど、今の音に話を中断しそちらの方を向いている。あの子たちの事だから、まず話し合いをしようとしたんだろうけど、遠めに見ても上手くいかなかったのは明白。
生憎、私は読唇ができるわけでもないので、話の内容まではわからないけど。ってか士郎じゃあるまいし、この距離で唇の動きなんて見えないっての。

私たちが到着したところで、なのはが宣言する。
「みんな手を出さないでね! わたし、あの子と一対一だから!!」
「マジか?」
「マジだよ」
いつの間にか移動していたクロノの呟きに、ユーノが肯定の意を示す。
で、フェイトやアルフの方もお互いお目当ての相手と一対一のつもりでいる。

さて、じゃあ役割分担といきましょうか。
「クロノ、一つ提案」
「なんだ?」
「リニスがフェイト、ユーノがアルフのサポートに回って、私たちとアンタで闇の書の捜索でもしてましょ。
あの連中は持ってないみたいだし、主かあの黒いのがどっかその辺にいるかもしれないしさ。
仮に今はいなくても、こうして閉じ込めている以上助けに来る可能性だってあると思うんだけど」
「ああ、それは僕も賛成だから構わない」
「え? だけど、なのはは良いの?」
私の提案に、特に異議を申し立てる気はないらしく、クロノは一応同意を示す。
だけど、ユーノはなのはだけ放置することに首をかしげている。

「確か闇の書って、同じ相手からは二度蒐集できないんでしょ? だったら、なのはは一応安全。
 サポートさせるっても、この前みたいな不意打ちをさせないためにだしね」
サポートの目的は、この前のなのはみたく不意をつかれて蒐集されるのを防ぐこと。
だからまあ、すでに蒐集された後のなのはにはサポートをつける意味はさほどない。
もちろん、なのはがもしあのチビを追い詰めれば何かしらの邪魔が入るかもしれないけど、その辺は自分で何とかしてもらおう。それも含めての戦闘なわけだしね。

「わかった」
「ああそれと、黒いのを見つけたらスグに私に教えなさいよ」
「まさか……」
クロノのその呟きを私は満面の笑みで封じる。
そんなの言うまでもない。当然、この前の借りをしっかり返させてもらうに決まってるじゃない。

と、そこへ士郎も遅れて到着した。
「聞いてた?」
「正確には途中までは見ていた、だがな」
まあ、さすがにアレだけ距離がある声を聞きとるのは無理か。
大方、私たちの唇の動きから大まかな話の内容を察しているのだろう。

「そ。じゃあアンタは結界の内側担当。私とクロノで外側ね」
「ああ、それでいい。僕は西、凛は東だ」
「では、散開するとしよう」
そうして私たちは、なのはたちを置いてそれぞれ散る。



Interlude1

SIDE-フェイト

シグナムとの打ち合い。
シロウ達の指示通り、射撃系の魔法で牽制しながらスピードを活かしてのヒットアンドアウェイを繰り返す。

「強いな、テスタロッサ。それに、バルディッシュ」
「あなたと、レヴァンティンも」
ああ、本当にこの人は強い。
スピードでは明らかにわたしに分があるのに、それでもなおこの人の攻撃はわたしを捉えてくる。
シロウ達の言うとおり、こまめに動いていなかったらいくつかいいのを貰っていたかもしれない。

でも、やっぱり今一つ気が乗らない。
「……なんだ、その顔は」
「あ、いえ……その、なんだが卑怯な気がして………」
そう、数日前にシロウが付けた右肩の傷。
それを利用するようにして、わたしはそちらからの攻撃に重点を置いている。

それを狙っていることはシグナムもわかっているらしく、全体的に見ればその反応は鋭い。
でも同時に、肩の傷のせいか動きそのものは鈍くなっている。
この方針が功を奏してるってことでもあるけど、やっぱりあまりいい気分じゃない。

そんなわたしの視線から言っている意味を察したのか、シグナムは右肩にそっと触れる。
「? ああ、この傷のことか。なるほど、大方衛宮の指示と言ったところだろう。全く抜け目ない」
そう語るシグナムの顔に暗いモノはない。それどころか、清々しいモノすらある。

「私が言うことではないのだろうがな、気に病むことはない。それも立派な戦術だ。
 むしろ、この傷を気にして手加減などすれば、私は決してお前を許さんし、二度と好敵手とは認めん」
険しい目で告げられるその言葉は、本当にどこまでもシロウが言っていたことそのままだった。
すごいな。シロウはたったあれだけのやり取りで、ここまでこの人を理解したんだ。

シグナムの体から発せられる気迫に、一瞬呑まれそうになるけどすぐに立て直す。
シロウの言うとおり、ここで手を抜くのは彼女への侮辱でしかない。
何より、わたしは明らかに格下。それなら胸を借りる気持ちで、全身全霊で挑むべきだ。
この人はわたしを好敵手と言ってくれた。なら、その言葉に恥じないよう、この人を失望させないよう持てる力の限りを尽くそう。

やっと、自分の中で気持ちが固まった。これで、迷わずに戦える。
「フェイト・テスタロッサ、行きます!!」
「応!! ヴォルケンリッター、烈火の将シグナムが受けて立つ!!」
互いに改めて名乗り、全力全開で戦うことを宣言する。

カートリッジで魔力の底上げを行い、隙を作らせるための射撃魔法を使う。
「プラズマランサー……ファイア!」
計八つの金色の魔力弾をシグナムめがけて撃ち出す。

「レヴァンティン!!」
シグナムはそれをレヴァンティンに纏わせた炎で弾く。

だけど、それくらいじゃこれは終わらない。
「ターン!」
その言葉と共に、弾かれた魔力弾が反転し再度シグナムに照準をつける。
そして、環状魔法陣で加速され、再びシグナムに襲いかかる。

でも、これだけならさっきまでと同じ。だから、さらにここでもう一手講じる。
《Load Cartridge. Haken Form!》
バルディッシュはわたしの意思をくみ取り、カートリッジをロードすると同時にハーケンフォームに姿を変える。

そして……
「ハーケン・セイバー!!」
思い切り振りかぶって、出力された魔力刃を放つ。それを続けざまに二度。
それらはプラズマランサーを迎撃しようとするシグナムの両サイドから襲いかかる。

それに気付いたシグナムは舌を打つ。
「ちぃ! レヴァンティン!」
《Schlange Form!》
連結刃になったレヴァンティンでそれらを同時に叩き潰すシグナム。
だけど、そのおかげでいったいが爆煙に包まれた。

「はぁぁ!!」
唯一あいていたシグナムの背後に回り、駆け抜けながら鎌を振るう。
もちろん、その斬撃はシグナムの右肩を狙っている。
この人を失望させない方法があるとすれば、それは躊躇うことなく戦うことだから。

「ふっ!」
だけどそれも、シグナムがギリギリのところで体を前に倒す事で寸でのところでかわされる。
僅かにそのピンクの髪を掠め、数本の細い線が宙を舞う。

そういえば、以前シロウが髪は女の命って言ってたっけ。
わたしが乱暴に髪をまとめたら、シロウにそうお説教されたことがある。
「ああ、その、ごめんなさい」
「まったく。肩の傷は気にしないことにしたようだが、今度は妙な事を気にするのだな、お前は」
「でも、髪は女の命らしいので」
呆れたようにそう語るシグナム。とりあえず、文句はわたしにそう教えた人に言ってください。

「外見的にはそうだが、私は女である前に騎士だ。それに、そもそも私を生き物として考えるのは……いや、これは主に対する侮辱になるな、忘れてくれ」
後半部分は言ってる意味がよくわからなかったけど、シグナムの顔には苦笑のようなものが浮かんでいる。
でもそれはどこか温かで、この人が主に対して忠誠以外の何かも抱いているような気がした。

「ま、まあそう言うんでしたらいいですけど……。
 それじゃあ、改めて………いきます!!」
それまでと違う、渾身のスピードに任せての突進。
このまま擦れ違いざまに一閃………できればいいんだけど、そう簡単に行くとは思っていない。

シグナムまであと一メートル余りとなったところで、直角で方向転換!
「くぅ!」
体にかかるGに思わず苦悶の声が漏れる。
さすがに、最高速度に近い状態で急激に向きを変えると負担が並みじゃない。
高速機動はなにも速ければいいわけじゃない。同時に、その状態で自在に動き回れてこそ。
そう言われて、この数日は魔力制御と同時にその訓練もしてきた、これはその成果。

これがうまくいけば……
「むっ! なに!?」
わたしの突然の方向転換にシグナムがいぶかしむ様な声を上げる、だけどもちろんそれだけじゃない。
移動しながら発動させた三発のプラズマランサーが、ちょうどわたしの影から現れる形でシグナムに迫る。

わたし自身を囮兼目晦ましにした攻撃。
それをシグナムは、寸でのところで気付いたにもかかわらず、危なげなく叩き落とす。
だけど、一瞬そっちに気を取られたおかげでわたしへの注意が逸れた。

シグナムの視界から外れたことを利用し、駆け抜けながらシグナムの背後を取る。
《Haken Slash!!》
「はあぁぁぁあ!!」
大上段から振り下ろした、全身全霊の一撃。

だけどそれは、まるでその行動を呼んでいたかのようなシグナムの反応で無に帰す。
「甘い!!」
そう言ってシグナムは振り返ることなく、わたしの攻撃をレヴァンティンで受け止める。
力勝負なっちゃダメ。わたしはウエイトが軽いし、何よりパワーで勝てるはずがない。

だから、こうなったらやることは決まっている。
「プラズマランサー…ファイア!」
密着状態でのプラズマランサー。回避は無理。これなら……!

直撃と同時に吹き上がる爆煙と衝撃。
それに押される形で、再度距離が開く。
「……しまった……」
「悪くない攻撃だった。しかし、手を変えるのが少々遅かったな」
煙の中から出てきたシグナムは無傷。
わたしがプラズマランサーを打つ直前、防御魔法を展開して防がれたんだ。
あと少し、ランサーを打つタイミングを早くできていれば、倒せないまでも一撃入れることはできたのに。

「だが、短期間で驚くべき成長だ。
まったく、素晴らしいの一言だな。これが伸び盛りというやつか?」
「…………それでも、当てられなければ意味がありません」
「ふっ、欲張りな事だ。いや、むしろそうでなくてはな」
以前と違い、それなりに渡りあえるわたしに称賛の言葉をかけてくれる、シグナム。
正直、つい口元がほころびそうになるけど、気を引き締めてムスッとした表情をするよう意識する。
シグナムの言うとおり、欲張りと言われようと、わたしの目標は褒められることじゃなくて勝つことなんだから。

「正直、衛宮と戦えぬことを残念に思う気持ちもあった。奴の投影魔術には興味があったからな。
だが、それはお前に対する侮辱だったようだ。非礼を詫びよう」
「あ、いえ。まだ、シロウの方が私より強いのは本当ですから」
シロウはシグナムを「バトルマニア臭がする」って言ってたけど、なるほど大当たり。
より強い相手と戦いたいというシグナムの在り方が、今の言葉に滲み出ている
だけど、それを一応理解できるわたしって、もしかして同類? その可能性は、ちょっと遠慮したいなぁ。

でも、待って。今シグナムが口にした言葉が頭に引っかかった。
「あの、シロウの魔術の事を知ってるんですか?」
「む? ああ、そういうことになるな。
 我らとて、伊達に年月を経ているわけではない……と言いたいところだが、これはとある筋からの情報だ」
それはつまり、この人たちには魔術に精通した仲間がいるってことなのかな。

「さて、こうして向き合っていても格好がつかんな。そろそろ……行くぞ!」
「はい!」
シグナムの気迫に応じて、わたしも改めて構えを取る。

こんな強い人に勝てるかどうかはわからない。
だけど、できる限りのことをしよう。
戦うと、強くなると決めたんだから。

Interlude1 out



Interlude2

SIDE-なのは

わたしは今あの赤い子、ヴィータちゃんと戦っているわけなのですが……
「高町なぬ…なぬ……………ええい、呼び難い!!!」
「逆ギレェ!?」
自分から名前を聞いておいて、発音しづらいからって怒鳴るのってどうなの!
わたしの名前、そんなに発音しづらいのかなぁ、ちょっとショック。

って、今はそれどころじゃない。
「ラケーテン・ハンマー!!」
「もう、それにはやられないよ!」
《Protection Powered》
あの突起の付いたハンマーで攻撃してきたけど、それをカートリッジを使った防御魔法で難なく防ぐ。
でも、本当に凄い。たった一つ新しいシステムを加えただけなのに、ここまで劇的に防御力が上がるなんて。

もちろんそれだけじゃないのはわかってるけど、やっぱりこの変化には驚きを隠せない。
一応この新しいプロテクションには改良を施してあって、そのおかげもある。
ただまんべんなく魔力巡らせるんじゃなくて、攻撃を受けた箇所に瞬時に集中させることで、防御性能の向上もはかっている。おかげで、使う魔力はカートリッジを差し引いてもそう多くない。
つまり、魔力の消耗を減らし、同時に防御力の向上を両立させた術式ということ。

もともとは凛ちゃんが考案・開発し、それをわたしも使わせてもらった。
それまでも存在は知っていたけど、わたしの魔力制御技術じゃほとんど扱えなかったから使わなかった術。
わたしはどちらかというと、制御とかより新しいモノや威力の向上に力を入れてきたから。
でも、この数日はひたすら魔力制御の訓練にあてた甲斐もあって、ほんの少しだけど扱えるようになった。
あの今までにも増して地味な特訓は、確かに成果を上げていることを実感する。

そうして、改めて変化に驚いていると……
《Master》
「あ! ごめん、レイジングハート。
 行くよ、ディバイン…バスター!!」
プロテクションを破れずにいるヴィータちゃんに向け、至近距離でのディバイン・バスターを放つ。

寸前でそれに気付き、ヴィータちゃんは回避する。
やっぱり、そう簡単には当たってくれないか。

今までのような攻撃じゃ、こっちの守りを突破できないと判断したのか、ヴィータちゃんの目つきが変わる。
「ったく、あれからほんの数日だぞ。それでこんだけ変わるなんて……化け物か、お前!」
「ちょ、それ酷くない!!?」
いくらなんでも、言うに事欠いて化け物はないでしょ!
確かに戦いの先生は「あくま」だけど、だからってわたしまでそんなこと言われるのは心外だよ。

「むぅ、こうなったらお話を聞かせてもらうついでに、その言葉も撤回してもらうんだから!!」
(勝てても、逆にその評価を確定させるだけな気もしますが……)
「え? 何か言った? レイジングハート」
《Don’t worry》
レイジングハートが何か言った気もするけど、今はそれどころじゃないし、別にいいか。

「レイジングハート、カートリッジ・ロード!」
《Load Cartridge》
カートリッジを二発ロードし、複数の弾じゃない、一際巨大な一発の魔力弾を形成する。
砲撃ではない、威力重視の誘導弾。少なくともそう見える攻撃。

それを見たヴィータちゃんは、こっちの期待通りの驚きの声を上げる。
「デカッ!?」
「いっけぇ―――!!」
その誘導弾の常識を無視した大きさの魔力の塊を、小細工抜きで一直線に飛ばす。

一度は驚いたみたいだけど、ヴィータちゃんはすぐに冷静になって鼻を鳴らす。
「はん、量より質かよ! そんな見え見えの攻撃、当たるほどノロマじゃねぇ!!」
回避するのではなく、それを見てもなおまっすぐ向かってくる。
うん、多分そういう人だと思ったからこれを使ったんだよ。

魔力弾に接近し、そのハンマーでたたきつぶそうとするヴィータちゃん。
でもね、そう簡単にはいかないよ。
「レイジングハート!」
《Divide》
レイジングハートが僅かに発光する。
そこで、今まさに魔力弾に向けてハンマーを振るヴィータちゃんの目の前で、魔力弾が――――――――割れる。

「なに!?」
ヴィータちゃんの一撃は見事に空振りし、勢い余って体勢が崩れた。

そこ目掛けて、割れてバラバラに散った誘導弾を一気にヴィータちゃんに殺到させる。
「えへへ、その逆。質より量だよ。ヴィータちゃん、そう簡単には当たってくれないもん」
普通に大きいのを当てようとしても無理だし、こういうのもありだよね。
たしかに小細工抜きで飛ばしたけど、弾そのものに細工をしてないなんて誰も言ってないもん。

まあ、アレって派手だけど威力はそれほどじゃないんだよね。
ああいうことができるようにしたは良いけど、一発一発の威力が落ちちゃったから。

煙がはれると、案の定これと言ったダメージはなさそう。
「……ブハ! ゲホッゲホ! や、やりやがったなぁ!!」
まあ、煙で少しむせてるみたいだけどね。

そんなヴィータちゃんに、努めて余裕たっぷりに振る舞いながら話しかける。
「さっきも言ったけど、先に襲いかかってきたのはそっちだよ♪
 文句は受け付けませ~ん」
う~ん、我ながらこういう言い方ってなんかヤだなぁ。
凛ちゃんたちからは「あのチビは結構単純そうだから、挑発とかすると効果的っぽいわよ。まあ、やり過ぎない程度に引っ掻き回してあげなさい」って言われたけど、やっぱり慣れないなぁ、こういうの。
士郎君もそうだけど、どうして凛ちゃんはああいう言葉がホイホイ出てくるんだろう。

「こ・の・野・郎~~!!
 今度という今度は頭にきた! アイゼンの頑固な汚れにしてやるから、覚悟しやがれ!!」
えっと、この前の時も結構怒ってたように見えたのですが……その時のことはスルーですか? そうですか。
……まあ、別にいいけど。

「いくよ、レイジングハート!」
《All right, my master》
半年間共に過ごしたパートナーは、詳しいことを言わずともその意味を察してくれる。
カートリッジがロードされ、十八の誘導弾が散開する。

だけど、今度のはさっきみたいに忙しなく動きはせず、それぞれある程度移動したところで滞空する。
「なんだ?」
ヴィータちゃんはその意味が分からないのかいぶかしんでいるけど、まだまだこれだけじゃ終わらないよ。

そのまま再度カートリッジをロードする。
「アクセル・シューター、シュート!!」
打ち出された誘導弾はヴィータちゃんを囲むようにして迫る。

もちろん、それを簡単に受けてくれるような相手じゃない。
だからこそ、さっきの誘導弾が意味を為す。
「いっけぇ―――!!」
《Go!》
ヴィータちゃんがかわした先、そこにある誘導弾が動きヴィータちゃんめがけて動き出す。

「なに!?」
それを寸でのところで回避するけど、今度はその隙をついてシューターが襲いかかる。

シューターはシールドに阻まれ、ヴィータちゃんには届かない。
でも、まだ落とされていないシューターはたくさんある。
それらを操作し、さまざまな方向からぶつけていく。
だけど、その尽くを時に避け、時に迎撃して対処される。
やっぱりそう簡単には当たらせてくれない。

いくつかのシューターを落としたところで、ヴィータちゃんが反撃に移った。
同時に、それに反応して滞空していた魔力弾が襲いかかる。
「ちぃ、邪魔だぁ!!」
その一声と共に鉄槌を振い、迫る魔力弾の全てを叩き落とされる。

勢いをそのままに、ヴィータちゃんはカートリッジ使った一撃を振りかぶる。
「グラーフアイゼン!!」
《Los!!》
「ぜぇええぇああぁぁあぁ―――――っ!!!」
「きゃあ!?」
以前のようにシールドごと叩きつぶされることはなかったけど、それでもその威力は凄まじい。
シールドにヒビが入り、わたしはかなりの距離は弾き飛ばされる。

「ちっ、防ぎ切りやがったか。
 それにしても、器用な奴だ。飛行魔法に防御魔法、その上攻撃魔法の二重起動かよ」
「……ケホケホ。う~ん、実を言うとちょっと違うんだけど、そういうことにしておいて」
「あ?」
わたしの言葉に、ヴィータちゃんは眉をしかめる。まあ、普通はわからないか。
でも、別に二重起動なんて大したものじゃないんだよねぇ。

っていうか、さすがに普通の攻撃魔法の二重起動なんてできないよ、わたし。
特に射撃系の場合、制御や誘導が大変だからなおさら難しい。わたしがしたのは、単なる「条件付け」。
一定条件を満たしたら動くように設定してるだけで、ほとんど攻撃じゃなくて罠の領分。
ヴィータちゃんがその条件を満たしてくれることを期待して、その辺に落とし穴を用意してるようなものだし。
おかげで融通は利かないけど、その分使うだけならかなり簡単。
ちなみに、その条件は「わたし以外の魔力の持ち主が近付いたらその人に向かって飛んでいく」っていうシンプルなモノ。追尾機能なんてほとんどないし、タネさえ分かれば結構簡単に対処できる。

でも……うん。わたし、ちゃんと戦えてる。
正直、カートリッジシステムが追加されて、これまでの訓練があったからってここまで戦えるかは不安だった。
やっぱり、凛ちゃんたちは凄いな。

せっかく鍛えてもらったんだもの。その期待に、しっかり応えるのが弟子の務めだよね。

Interlude2 out



Interlude3

SIDE-アルフ

「でぇえりゃぁぁああぁあ!!!」
「おぉおおおぉぉぉ!!!」
あたしと向こうの使い魔。お互いに小細工抜きで拳をぶつけあう。
互いの手甲が衝突し、激しい衝撃と火花が宙を舞う。

一瞬は拮抗したかに見えた互いの攻撃。だけど、最終的にはあたしが競り負けたたらを踏む。
(ちっ、やっぱり攻撃力じゃ分が悪いか)
そもそもウエイトでは向こうが上だし、ランクにしても向こうは推定AA相当。
引き換えこっちは、AAAクラスの魔導師であるフェイトの使い魔とはいえ、さすがに主のワンランク下なんてスペックはない。
使い魔持ちが少ない理由って、一応使い魔自身のランクが主よりかなり劣るからってものあるんだよね。
まあ、主より能力の高い使い魔ってのも矛盾してるから、当たり前なんだけど。

まあ、いいさ。そんなことはこっちも想定の範囲内。
基本性能じゃかなわない。そんなことはわかりきっている。
あたしがこいつに勝てるとしたら、フェイト譲りのスピードだけ。なら、それを活かす戦法をとればいいんだ。
まだ士郎から教わっているあれは形にさえなってないけど、あたしだって少しくらいは小細工を覚えたんだ。

真正面から対峙するあたし達。
だけど、そこで突然構えを解き肩の力を抜くあたしに、奴は不審そうな声を漏らす。
「む?」
敵を前にして構えを解くなんて無防備だと思うけどさ、これはしょうがない。
今のあたしじゃ、こうして一回リラックスしないとこれから使うやつは上手く出来ないんだから。

無造作に立つあたしに対して、何かあると判断したアイツは無闇に飛び込んできたりはしない。
全くもってその通りなんだけどさ、かかってきてくれた方がこっちは都合がいいのに。
「来ないのかい?」
不敵に笑いながらステップ踏む。来ないのなら、こういう手を使わせてもらうよ。
とはいえすぐには飛びかからない。まだ今はその時じゃない、時が来るまでこうしてステップを踏み続ける。

向こうは相変わらず警戒して様子を見ているけど、その瞬間はそう時をおかずに――――――――――来た!
「なに!?」
「もらい!!」
一瞬のうちに距離を詰め、側面に回り込んで拳を振るう。

「ぐぅ!」
「……やるじゃんか」
ちぇ、やっぱりそう上手くはいかないな。
直感か、それとも瞬時にあたしの狙いを看破したのか、とにかく奴はあたしの拳をその手甲で受け止めた。
完全に不意を突いたと思ったんだけどな。

別に、今のはそう特別な事をしたわけじゃない。
士郎と訓練してるあの動きはまだまだ使えたもんじゃないし、だからと言って何かしらの技を使ったわけでもない。
やったことは単純極まりない。単純すぎるけど、これってタイミングが難しんだよ。

「貴様、まばたきの瞬間を狙ったな」
「正解。一発くらいもらってくれてもいいだろうに、ケチだねアンタ」
つまりはそういうこと。ステップを踏んでいたのはタイミングを計るのと、その時が来た時にすぐに思い切り走りだせるようにするため。

士郎からはあの動き以外にも、独特の歩法? も教わっている。
なんでも、あの動きは士郎自身も使えないから完全な再現はまず無理。だから、いっそのことあたしにあった形に変形させちゃっても構わない、みたいなことを言っていた。
その一環として、既存の別の技術を取り入れてオリジナルに近いものに仕上げようという試みもしている。
だけど、そんな中の技の一つにしても、いくらなんでも数日でそれがモノになるわけじゃない。
今のあたしじゃ、そのほとんどがたどたどしく行うのがやっと。
まだ簡単な方のいくつかはできるようになったけど、向こうから来て貰わないとやっぱり使いづらい。
少なくとも、普通に向こうに近寄ってからそれらを使うのはまだ無理。

となってくると、こうして即席で出来るのは自分じゃなくて相手の動作を利用した技になる。
幸い、これくらいならタイミングさえ計れればあたしでもできるしね。
使い魔だからって一応生命体であることには変わらないし、眼がある以上はまばたきもする。
まばたきの瞬間は眼を閉じるんだから、気付かれずに接近するのには格好の瞬間だ。
だってのに、どうしてこいつはそれに反応できるんだよ。

とはいえ、こいつに対策なんてありゃしない。
まばたきを我慢はできても、そのままに一時間も過ごせるわけがないんだからね。
「正直、こんな小細工は趣味じゃないんだけどさ。
 でも、負けるのはもっとイヤなんでね。勝てるようになるまでは、こういうのを使わせてもらうよ」
「いや、なかなかに面白い芸だった。単純ではあるが、そう簡単にできることではない。
 しかし、こうすればどうだ?」
そう言って、奴は一気に飛びかかってくる。
なるほどね。確かにそれじゃあの技は使えない。
あたしには向こうが待ちの姿勢の時じゃないと使えないし、それは大正解さ。

だけどね、それこそ思う壺なんだよ。
接近してくるあいつに対して、あたしは向こうが間合いに入るのを待つ。
そして、互いの間合いに入った瞬間、野郎はそのぶっとい腕で殴りかかってくる。

それを、拳が触れる寸前を狙い士郎に習った足捌きでかわし、同時に野郎の側面に回り込む。
ギリギリまで粘った上で回りこんだことで一瞬見失い、奴の動きが鈍った。
そして、その隙を渾身の力を込めた拳を叩きこむ。

パンッ!!

「今度は死角を取りに来たか、つくづく見られるのが嫌いらしいな」
死角に回り込んだ上で打ちこんだ一撃は、突いたのとは逆の手で難なく防がれた。
士郎の言うとおり、向こうの経験はこっちの比じゃない。これだけやってもなお当たらないのかい。

だけど、こっちだってそれでいいとは思ってないよ!
「別に、そういうわけじゃないんだけど…ね!!」
右拳は向こうに握られている。それならと、渾身の力を込めて奴の頭に向けて蹴りを放つ。

「ヌルイ!」
それすらもさっき突き出した拳を引き戻して防がれる。

だけど、まだまだ!
右拳と左足は取られた。でも、あたしにはまだ片手と片足が残ってんだよ。
「ぐぉ!?」
その両方を使い、左拳で顎を、右膝で腹を蹴る。

「言っただろ? 別に隠れるのが好きなわけじゃないってね。
 元から、こっちの方が好みなのさ!」
急所にいいのを入れられてふらつくアイツに向けて、そう言ってやる。

生憎と、捕られるのだって想定済みさ。
士郎からは、多少体勢が悪くても殴ったり蹴ったりできるようにする訓練もつけられてんだ。
あのスパルタを通り越した、イジメじみたシゴキなめんじゃないよ。

しかし、かなりいいのを入れたはずなのに、アイツの手はあたしの手足を離さない。
「なるほど、確かにそのようだ。いい一撃だった。ならば、今度はこちらだ!!」
あたしの手足を持ったまま、奴は思い切り振りかぶりあたしを近くのビルに叩きつける。

「どうやら、少なからず驕りがあったようだ。
 それを正してくれたことには礼を言う。ここからはお前を獲物とは見ぬ。お前は……敵だ!」
「はっ、上等!」
威勢よく言い返すけど、今のは結構効いた。
全くあの馬鹿力。せっかくの新しい服がいきなり汚れちまったじゃないか。
こっちこそ、この礼はしっかり返してやるよ。

そうして、そこからは基本小細工抜きでの殴り合いに戻る。
「はぁああぁあぁぁぁぁ!!」
「おおおおぉぉぉおおぉ!!」
ああ、士郎には悪いけど、やっぱりこっちの方がしっくりくる。
確かに力負けしちまうし、こっちの方が不利なのはわかってるさ。
だけど、このほうがあたしらしい。

もちろんあの訓練を軽んじるわけじゃない。
要所で、いまのあたしに出来る範囲で教わったことを活かす。
今持てる全てを使わなきゃ、こいつには勝てない。
なら、なんだって使ってやるさ!

Interlude3 out



SIDE-士郎

いつぞや使った鉄製の小鳥型使い魔と自身の目を利用し、結界内部で怪しい人影がないかを捜索する。
一ヶ所に留まっていても仕方がないので、今は動き回りながらの並行作業だ。

と、そこへ……
『見つけた!! あの黒服だ!』
クロノからの念話が入る。場所は、どうやらここからそう離れていないらしい。
幸い、今は比較的結界の端に近いところにいたおかげだな。
ただし、凛が到着するには少しかかるだろうが。なにせ反対側だ。

『逃げられても面倒だ。先に確保する。君たちも急いで来てくれ』
クロノの判断は少々拙速過ぎる気もしないではないが、決して間違ったものではない。
まずは闇の書の確保。という意味でなら、その判断は正しい。

俺の方でも使い魔との繋がりを断ち、大急ぎでそちらに向かう。
その最中、クロノから異変を告げる念話が届く。
『な、なんだ、これは!?』
『!? クロノ、どうしたの!』
凛がクロノからの念話に反応し詳細を求める。
生憎、相変らず念話の下手な俺では、この状態でクロノに念話を送ることはできない。
ならば、足を止めることなく少しでも早くそこに向かわないと。

『わ、わからない。なにかが………』
と、そこで念話が切れた。
クロノがやられたのか、あるいは何かしら念話を妨害する何かを使われたのか。
どちらにせよ、クロノの身に何かがあったのは間違いない。送信はともかく、受信にかけては人並み以上に敏感な俺ですら拾えなくなったということは、つまりそういうことを意味する。

クロノと話せなくなった以上、あと相談できる相手は一人しかいない。
幸い、凛相手なら姿が見えなくても念話はできる。
『凛、どう思う?』
『真っ先に思いつくのは、やっぱり主が出てきた可能性かしらね。あとは、あの仮面か』
その点に関しては同意見だ。
ただ、主の安全を考えるのなら、闇の書の完成までは現場に出張る可能性は低そうに思うのだが。
やはり、一番ありそうなのはあの仮面の男か。

『まあいい、ここで何を言っても始まらん。先行する』
『あんまり無理すんじゃないわよ。なんなら遠距離攻撃でやってもいいし、とにかくクロノの状態確認を優先。
 私もすぐに追いつくから』
その言葉を聞きながら、結界の境界を越える。

凛の言うとおり、情報が少ない状況で無闇に飛び込むわけにはいかない。
それに、遠距離攻撃は苦手じゃない。ならば、凛が来るまではそれを念頭に置くべきだろう。
「フェイカー、フォルム・サジタリアス」
そう声をかけると、左腕に装着された盾が形を変えていく。
みるみるウチにその姿を変え、同時に腕の先にスライドしていつの間にか現れた握りを左手で握る。

そうして出来上がったのは無骨な弓。
サジタリアスとは十二星座の「射手座」。すなわち弓と縁のある星座でもある。
その名が示すとおり、このモードは遠距離攻撃用の弓となる形態だ。
以前は一々弓も投影しなければならなかったが、これだけでも魔力の節約になって大助かり。
いや、デバイス様々だ。

矢を投影し、いつでも射れる準備を整えながらクロノを探す。
「…………あれか! え?」
クロノを見つけるのにそう苦労はしなかった。
だいたいの位置は念話が切れる前に聞いていたし、とにかくまずそこを探したのですぐに見つけることができた。

だから、驚いたのは別の事。
目に映る光景に俺は思わず足どころか、呼吸さえも止まる。
『士郎? ちょっと、どうしたのよ!』
凛からの念話が来ている。だけど、今の俺にそれに構う余裕はない。

銀色の髪。ここから見える範囲で分かる特徴はそれだけだ。
その人物の足元に、銀色の針金のようなもので拘束されたクロノがいる。
顔は見えない。ここから見えるのは後姿だけだ。それだけにもかかわらず、俺にはその姿がある人物に被る。

だって、あそこにいるのは………
「………………イリヤ…スフィール?」
十年前、救うことはおろか、ロクに言葉すらかわせなかった雪の少女。
たった一人の家族を奪い、孤独の十年を過ごさせてしまったであろう姉。
あの人物の後ろ姿は、否応なく俺の中からその人の記憶を引きずりだす。

顔すら見ていないのに、俺にはそれが彼女であるという確信じみた思いが芽生えていた。






あとがき

はい、そんなわけでアイリとの初遭遇になりました。
と言っても、まだ遠くから確認しただけなんですけどね。
本格的に対面するのは次回かな?
それ以外だと、ちょっとアルフの戦闘がどうかと思わないでもないのですが、描写した時以外は本人の好み一直線の戦いが繰り広げられているので、その辺はご容赦ください。
フェイトやなのはの方は、それなりに各々の長所を活かした戦いになっているはず……と思いたい昨今。

というか、この前「今回は一話完結でいく」と宣言していたにもかかわらず、思いっきり裏切ってしまいました。
いやもう、ホント申し訳ございません。
一応自分の中の基準で、一話あたりの文章量に上限と下限を定める事にしまして、今回は上限オーバーしたのでキリのいいところで一度区切り、二話扱いにしました。
まあ、キリのいいところを見つけられなかった場合、多少オーバーしてもそれで通してしまうわけですが。
一応、今回がなのはたちの話だったので、次回は士郎達の話になる予定です。
次回こそはちゃんと終わらせますので、そこは大丈夫です。


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