<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[4610] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/03 02:34

SIDE-リニス

12月某日早朝。

私はすっかり馴染んだ遠坂邸の厨房で、せっせと朝のお勤めの真っ最中。
といっても、それももう終わるところなんですけどね。
「よし! これで朝食の下拵えは完了っと。あとは卵を焼いて、お味噌汁を温め直せば完成ですね。
 ……ふむ、士郎が帰ってくるまでまだありますし、お掃除でもしてますか」
凛の方は、まあ時間になればカーディナルが起こすでしょう。
留守を預かる身として、同時にお二人に仕える身として、過ごしやすい快適な住環境の提供を怠るわけにはいきません!! 決して、こうして部屋の隅や家具の裏を掃除していると落ち着く、というわけではありませんよ。

ああ、でも。
「お料理にお洗濯、お家も広いですからお掃除もやりがいがあります。
 なんて、なんて楽しいんでしょう♪」
凛も士郎も家事全般万能な方々ですけど、今はそれぞれお忙しい。
となれば、必然この家の家事の大半は私にゆだねられることになる。
もう、それが楽しくて楽しくてたまりません。
でも、できれば凛の部屋や工房も片づけたいのですが、さすがにそれは不味いみたいですし、自重するしかありませんか。しかし、いつか、いつかきっと!!

って、あら? 通信?
「はい、リニスです」
「ああ、朝早くからごめんねぇ。エイミィで~す」
珍しい。普段凛たちに連絡してくることはありますが、私にというのはなかなかないのに。
それも、何か連絡があるなら電話でもいいと思うのですが。

ああでも、まだ凛が寝ていますし起こすためにこちらに連絡したのかも。
「凛でしたらまだ寝てますけど……」
「ああ、そういうんじゃないの。どっちかって言うと士郎君絡み」
士郎? それなら直接連絡を取ればいいのでは?
今頃は、フェイト達をボッコボコにしている頃合いですね。
なんでも、危機回避能力の類を上げるためには適度に追い詰めるのが有効なんだとか。

「いやぁ、ちょっと手間取ちゃったけど、やっと士郎君のデバイスの登録が済んでさ。渡そうと思えば午後には渡せると思うんだ。
でもほら、士郎君結構忙しいでしょ。だから、代理ってことでリニスに受け取りに行ってもらおうかなって」
ああ、なるほど。本来、管理外世界に行くのには色々と手続きやら何やらが必要。当然、デバイスの持ち込みにも厳正な審査があるし、それ以外にももしもの時のためにデータベースへの登録が必要になる。
実際、凛やなのはさんの時もいろいろ面倒な手続きがありましたしね。

その上、ただでさえ士郎はその魔法の方向性から調整に手間取った。
古代ベルカ式ほどではないにしても、ミッド式に比べれば明らかに数の少ない近代ベルカ式。それも幻術特化なんて、「珍しい」どころか「モノ好き」の部類に入るその使用魔法。
それに加えて、それらの方向性が決まったのだって凛に比べてずっと後で、人工知能を付けたり外したりしていたため余計に時間がかかってしまったのだ。
やっと終わった、と溜息の一つもつきたい気持ちですね。

でも、エイミィさんの言うとおり二人とも割と多忙ですし、確かに私が行くのが良いでしょう。
「で、今日は大丈夫そう?」
「はい。アルバイトがありますけど、幸いシフトは午前中だけなので」
そうですね、本局まで行って最後の手続きを終えて帰ってくるとなると、戻るのは夕方ごろでしょうか。
それなら、受け取ったデバイスをそのまま士郎に渡しに行きましょう。
帰りがけに凛たちの様子を見ていってもいいですね。

「ん、じゃオッケーってことでいいね。向こうにもそう連絡しておくから。
 そうだね、午後二時ごろにでもウチに来てよ。中継ポートの準備とかしておくから」
「あ、ありがとうございます。では、士郎にもそう……」
「ああ、どうせだから秘密にしておけば? いきなり持って行ってびっくりさせるの。
 もちろん、こっちでもフェイトちゃん達にはまだ言ってないし、言わないつもりだけど」
なんというか、本当にそういうのが好きなんですね。

「まあ、別にかまいませんが」
「じゃ、そういうことで。またあとでねぇ」
やれやれ、この人の悪戯好きにも困ったモノです。
まあ、ほとんど実害のない可愛いものですから、別に目くじらを立てるようなものではないのですが。

なにはともあれ、今日は少し忙しくなりそうですね。



第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」



朝食を終え、まだどこか寝ぼけている凛を洗面所に連行して戻ってくると、エプロン姿の士郎に出迎えられる。
その顔には、抑えきれない苦笑が浮かんでいる。
「くっくっく……で、どうだった?」
「全く困ったモノです。普段はあれだけしっかりしてそつのない人なのに、どうしてあんなにも朝に弱いのでしょう?」
「まあ、アレは昔からだ。アイツと付き合っていくなら、うっかりを含めて、一生その辺の面倒を見るつもりでないとな」
少しばかり呆れる私に、士郎は長年の経験に裏付けられた確信を持ってアドバイスしてくれる。
つまり、どうやってもアレは治らないということでしょうか?

さあ洗い物をしよう、と思って台所に立つと、違和感に気付く。
「……………………………………食器はどこへ?」
「ああ、洗い物ならもう済ませておいたぞ。フライパンも皿も。
 朝の残りは大皿にまとめて冷蔵庫に入れてあるから、昼にでも……」
さも、それが当り前であるかのようにエプロンを外す士郎。

な、なんてことを……
「またそうやってサラッと家事をこなして!! 今日は当番じゃないでしょう!?
 なんで…なんで私の仕事を奪うんですか―――!!!」
「いや、泣くことはないだろ……!?」
泣いてなんかいません。ちょっと視界が滲んでいますが、これは汗です。誰が何と言おうと汗なんです。

「いえ、そもそも私がいるのに士郎が家事をしたがるのがおかしいのです!
 私は使い魔です、使用人なんです、言わばあなた方のサーヴァント(奴隷)!
 やはり当番制は廃止すべきです。家の事は私で充分、お二人にはもっと別のことに…………って、あ! ちょっと士郎! どこ行くんですか!?」
「悪い、俺持ち物のチェック忘れてた」
くぅ、逃げられましたか。ですが、いつの日か必ずこの家の家事の全てを我が手に、我が手に……!!



  *  *  *  *  *



「では二人とも、気を付けていってらっしゃい」
「ああ、いってきます」
「ま、そっちもバイト頑張んなさい」
「はい」
そう二人を見送り、私自身も外出の準備を進める。
どこかに遊びに行くとかではなく、これから素晴らしき労働が待っているのです。

やはり、いくら使い魔とはいえ家の仕事をするだけではいけません。
もちろん、庭の手入れや家の掃除を軽んじるわけではありません。ですが、それでもそれらにかかる時間は一日全てを使い潰すほどではないのも事実。いえ、徹底的やればそれくらいかかりますが……。
それに、ずっと家の中に引き籠っていてはニートと大差ありません。
そう、求職活動もせず、日々食っちゃ寝して食べ歩きを趣味にするようになっては、人(?)としておしまいなのです!



というわけで、アルバイト先の扉を開けてまずはごあいさつ。
「おはようございます!!」
「あ、リニスさん。今日も宜しくお願いしますね」
「はい! こちらこそ宜しくお願いします、桃子さん!」
喫茶翠屋、そこが今の私の勤め先。
士郎に紹介してもらい主にウエイトレスとして働いているのですが、職場環境は最高です!

アットホームな職場。尊敬できる上司。心を通い合わせられる同僚。
これです! これこそが私の求めていたモノなんです!!

そんな最高の職場に、一つ問題があるとすれば……
「あ! リニスさんリニスさん、おはようございます!」
「美由希さん!? が、学校はいいんですか?」
「え? ああ、今日開校記念日で休みなんです」
そう、この人の存在。いい人なんです。いい人なんですけど、何でそんなに私に親しくするんですか!?
それだけならいっそ嬉しい位なんですが、ある一つの事柄のせいで非常に………その……困るんです。

「そ、そうなんですか……。もうすぐお店もはじまりますし、早く準備を……」
「あ、その前にこれ試食してみてください」
ほら来たぁぁ――――!!
これです、これがあるから困るんです!
お願いですから、私を実験に使わないでください。

視線で桃子さんや士郎さんたちに助けを求めますが……
「さあアナタ、今日も一日がんばりましょ」
「ああ、そうだな。じゃあみんな、今日も宜しくお願いします」
『は―――――――い!!』
ううぅ……そんな白々しく目を逸らさないでください。
う、恨みますよぉ。

とはいえ、この無垢な目に対して拒絶の意志を表せない自分が一番の原因なんですよね。
我ながら………なんと情けない。
「えっと、今日は何を?」
「はい! 今日は梅サンドを作ってみました」
そうして差し出されたのは、何やら真っ赤なサンドイッチ。
悪夢が……悪夢が蘇るぅぅ――――!!!!
どうしてあなたはそんなに“梅”が好きなんですかぁ!!

この前はたしか……
「この間の梅ケーキの失敗を踏まえ、さらなる改良を加えたんです!
 率直な感想をお願いします!!」
「は、はい。でもあの、他の方々のご意見も伺って見るのも必要だと愚考しますが?」
はいそこ! いきなり厨房に全員で避難しないでください!!

「私もそうしたいんですけど、どうもタイミングが悪いみたいでみんな忙しいんですよ。
 でも、リニスさんだけはどんなに忙しくてもちゃんと相談にのってくれるじゃないですか!
 私、ホントに恭ちゃんと同じくらい尊敬してるんです!」
困った、心底困りました。そんな真摯な目で見られては拒絶できないじゃないですか……。

ああ、何であの時の私はこの人の相談に乗ってしまったんでしょう。
一枚のお皿を手に所存なさげにしている美由希さんが気になり、つい声をかけてしまったのが運のつき。
アレ以来妙に懐かれてしまい、事あるごとにこうして実験料理のモルモットにされているのです。
(ヤマ)ネコなのにモルモット(げっ歯類=ネズミ)とはこれいかに? って、そんなバカなことを考えてる場合じゃありません!!

ああ、どうしてあの時不審に思わなかったのだろう。
よく見れば、みんなあからさまに美由希さんを避けていたのに。

「ほら、私料理が下手じゃないですか……。
 いつまでもこれじゃダメだって思って……」
くぅ、その努力は応援したいのですが、何でそこで私を巻き込むんです。
というか、そもそも味見をしてますか? そして、珍妙なアレンジはしなくていいですから、普通にしましょうよ、“普通”に!

ホントに、なんで、どうして、どんな突然変異があれば、あの桃子さんの娘さんが、ここまでの料理音痴になれるんですか!! この人、自分で思っているよりはるかに料理が絶望的に下手なんです。
本人は善意で隠し味を入れていますが、それによって別の料理に生まれ変わるというかゲシュタルト崩壊を引き起こすというか……つまり非常に不味くなり、下手をすると走馬灯を見たりするんですよね……。

そんなこちらの心の内を知ってか知らずか、美由希さんはキラキラした目で言い募る。
「ご迷惑なのはわかってます。でもお願いします。私、料理ができるようになりたいんです!」
その熱意は素晴らしいのですが、私だって命は惜しい。
でも、この眼を悲しみに曇らせることなんてできるわけないじゃありませんか。

「……わ、わかりました。では、いただきます」
「は、はい、お願いします!!」
『おおおぉぉぉ~~~…………』
私が一つの決意をすると、周囲から小さなどよめきが広がる。

そして、小さな声で……
「リニスさん、本当に勇気がありますよねぇ」
「ええ、決して真似したくありませんが、本当に尊敬しますよ。
 美由希さんの料理はある種の劇薬なのに……」
「それも悪気が一切ないから大変なんですけどね。
 善意の工夫が人を不幸にするなんて……私、人って何なんだろうって思います」
「そういえば、美由希さんが以前クッキーを作った時、砂糖と卵と薄力粉の組み合わせで致死毒物を調合したことがあるって聞いたことがありますよ。もう材料以前の問題なんでしょうね」
「あ、それ私も聞いたことあります。
その際、某国の研究機関がまとめて買い取ろうとしたことがあるとかないとか……」
なんでしょう、この不吉極まりない会話は。皆さん、今度こそ私が死ぬとおっしゃってるんですか?

しかし、一度口にした事を撤回するわけにもいきません。
「で、ではいただきます」
「はい!!」
おねがいします、そんなドキドキワクワクした目で見ないでください。

サンドイッチを手に取り、匂いを嗅いでみる。
まあ、当然ですが梅の匂いしかしませんね。
少なくとも、これが致死性の猛毒という気はしません。

さっき彼女たちはあんなことを言っていましたが、実際には美由希さんの料理はかなりムラがあります。
それこそただ単純に不味いだけの料理の時もあれば、毒物というほどではないにしても、口に入れた瞬間に悶絶し走馬灯がよぎるようなものまで。
一つ共通点があるとすれば、どんなに上手く出来ても決して美味しくはないことでしょうか?
いえ、まがりなりにも食べられるモノを使って作った料理が毒物になる方がおかしいのです。
というか、普通にありえませんしね。
あくまでも、程度の差こそあれ「不味い」の範疇内だからこそ私だって口にするわけですし。

しかし、この時の私は大きな勘違いをしていました。
ムラがある以上、上もあれば下もあります。
今までに私が食べた物が、全て「まだマシ」な部類だったかもしれない可能性を失念していたのです。

そして、意を決して“それ”を口に入れると――――――――――――――――――――――暗転。



「……………ん。あれ? 私は何でこんなところに?」
おかしいですね、私は美由希さんの料理の試食をしようとしていたはずだったのに。
いつの間に休憩室のソファーで寝ていたのでしょう?

「あ、リニスさん起きました?」
「桃子さん。私はどうしてここに?」
「え? もしかして、憶えてません?」
「はぁ、何がでしょう?」
ちょうどいいタイミングで休憩室に入ってきた桃子さんに尋ねてみますが、何やら深刻な顔をしています。
私は何か、聞いてはいけない事を聞いたのでしょうか?

不思議そうにしている私をマジマジと観察していたかと思うと、突然引きつった笑みを浮かべながら誤魔化しだす桃子さん。
「あ、いえ。憶えていないならいいんですよ!
 ほら、ここのところ色々あって忙しかったですし、きっと疲れてたんですよ」
そうなのだろうか? 自分では自覚がありませんでしたが、もしかしたらそうなのかもしれませんね。
どことなく体がだるいですし、ちょっと気分も良くありません。
具体的には、頭痛に吐き気、手足の痺れに耳鳴りや関節の軋みまでします。

どうやら、本当にそうみたいですね。
「ああ、確かにちょっと変な感じがしますね」
「そ、そうでしょう~! 今日はもういいですから、ゆっくり休んでください。
 幸い今日は手も足りてますし、なんでしたらしばらく休みますか?」
「いえ、たぶん一日休めばすぐによくなると思いますので、明日からはいつもどおり出勤させていただきます」
桃子さんがどこか焦っている風なのが気になりますが、今日のところはお言葉に甘えましょう。
具合の悪い体で無理をしても、他の皆さんの迷惑になりますしね。

「では、申し訳ありませんが、今日はこれで失礼します」
「は、はい。お大事に~……」
やはり、どこか様子が変な気がしますが、まあ私のことを心配してくれているのでしょうね。

時間は、よかった。まだエイミィさんとの約束の時間には間に合います。
さっきはああ言いましたが、やはりやることはしっかりやっておかないと。
少なくとも、ちゃんと士郎のデバイスを受け取って、それを届けてから休むことにしましょう。



Interlude

SIDE-桃子

「桃子、リニスさんはどうだった?」
「ええ、あの様子なら大丈夫そうよ。ちょっと記憶が飛んでいたみたいだけど……」
まさか、あの子の料理であそこまで酷いことになるなんて。
食べた直後に倒れたと思ったら、白目を剥きながら全身を痙攣させ、口から泡を吹くんですもの。
まさかバイトさんを死なせ、娘を毒殺犯にするわけにもいかないし、あの手この手を使って救命措置を行ったのだけど、上手くいってよかったわ。
フィリス先生に教わった救命措置法が役に立った。

「ま、まあ、それくらいなら大丈夫だろう。俺も記憶が飛んだことくらいあるし……」
「でもあの子、まさか本当に毒物を作り上げてしまうなんて……恐ろしい子」
「ああ、あれだけのことになったのは確か「風芽丘ルス○ハリケーン事件」で、恭也に調理実習で作ったクッキーを食べさせた時以来か。いい加減その領域からは脱したと思ったが、認識が甘かった……」
悔いるようにうつむいているけど、正直こんなことは予想外もいいところよ。
最近はまだ食べられるものを作っていたけど、ここにきて再発するとはだれにも予想出来る筈がない。
これはもう、天才ならぬ“天災”よ。

やっぱり、あの子を厨房に立たせちゃいけないわね。
本人には悪いけど、これ以上犠牲者を出すわけにはいかないし。

Interlude out



一度家に帰った私は、手続きの準備を整えてからハラオウン家に行き、転送ポートを使って本局へと向かった。
まあその際、顔色が良くないことを心配されましたが、それは余談ですね。
しかし、そんなに青い顔をしてるんでしょうか?

「はい、ではこれで手続きの方は終了です。
 こちらの書類は大切に保管しておいてくださいね」
「ありがとうございます」
係官の方からデバイスと手続きを終えた旨を証明する書類やその他諸々を受け取り、窓口を後にする。

そこへ、同行してくれたエイミィさんが駆け寄ってきた。
「やっほ、ちゃんと終わったみたいだね」
「ええ。でも、仕方がないとはいえ、こうも時間がかかるのはちょっと……」
「まあ、こればっかりはね。変に悪用されたりしても大変だし、こういうのはしっかりやっておかないとさ」
それは、そうなんでしょうけどね。
局員でもない人間のデバイスを管理外世界に持ち込むのだから、無理もないと言えばそれまでなんですが。
ただ、お役所仕事の常というか、どうしても必要以上に時間がかかっている気がしてならないんですよね。

「そういえば、バルディッシュやレイジングハートの方はどうでした?」
「う~ん、やっぱりただの修理じゃなくてカートリッジシステムの追加もあるから、ちょっと時間がかかるねぇ。
 まあ、マリーの話だと、それでも数日中には仕上がるらしいよ」
そうですか。確かなのはさんが完治するのもそれくらいでしたから、ちょうどいいと言えばそうなんでしょうね。

「ちょっと見せてもらっても良い?」
「あ、はい。どうぞ」
特に拒む理由もなく、エイミィさんに待機状態のデバイスを渡す。
渡したのはカード形態のそれで、表面には見慣れないデザインの紋章が刻まれている。
それは、どこか剣をイメージさせた。

渡されたそれをしげしげと見ながら、エイミィさんはしみじみと呟く。
「しっかし、意外と士郎君は注文が多かったよね。
 材質から形状、それどころか重心まで事細かに指定してきたのはちょっと驚いたかな。
 こんなに時間がかかったのって、確かに色々設定が特殊だったり人工知能を付けたり外したりしたのもあったけど、その注文に応えるためってのもあったし」
「そうですね。でも仕方がないんじゃないでしょうか? 士郎は特化型ですし、アームドデバイスは魔法の発動を補助するだけじゃなくて、純粋に武装としての性能も要求されますから」
守護騎士たちのデバイスを見てもわかるが、重量や重心の配分、あるいはサイズなどは重要な要素になる。
となれば、当然そういった面に対するこだわりが出てくるものなのでしょう。
むしろ、その辺りが無頓着な方が怖いですけど。

一頻りいじり終えて満足したのか、エイミィさんはデバイスを私に返しながら思い出したように尋ねる。
「そういえば名前って、もう決まってるんだっけ? って、手続きするなら当然か」
「ええ、最後のところで必要だったので、この間決めてもらいました。
何の捻りもありませんが『フェイカー』と」
「ははは、まあ士郎君らしいかな。確かに彼の魔法はそういう感じだしね」
実直で飾り気に乏しい人ですから。あまり奇をてらったり、あるいは大仰な名前を付けたりしないだろうとは思いましたが、まさかそこまでストレートとは私も思いませんでしたよ。

バルディッシュの時は私が名前を付けましたが、あれは最後の贈り物になると思っていたからですしね。
今回はそういうわけではないので二人に名前を決めてもらいましたが、士郎の方は私が決めた方が良かったかもしれません。さすがに、ちょっとシンプル過ぎる気が……。

「じゃあ、私まだちょっとやることがあるから……」
「はい。それでは先に戻っていますね」
「うん。あ、それと夕飯の準備には間に合うから大人しく待っているようにって伝えておいて」
「フェイト達はともかく、アルフが暴れ出さないように、ですね」
いかんせん、士郎のシゴキは相当きついようで、帰って来る度にそれはもう飢えているようですから。

「ん、じゃお願い」
そういってエイミィさんは駆け足で去っていく。

さて、私も早々に戻ってこれを渡しに行きますか。



  *  *  *  *  *



海鳴へと戻った私は、そのまま士郎達の元へと向かう。

士郎とアルフしかいないと思っていたのですが、意外にも凛やフェイト、それになのはさんまでいました。
今日は珍しく合同訓練なのでしょうか?
「あ、リニスさん。こんにちは! どうしたんですか?」
「こんにちは、なのはさん。今日はちょっと士郎に届けモノを」
「え? 俺?」
訓練の手を中断し、みんなの視線が私に集中する。
ただし、奥で疲れ果てて倒れているアルフだけはピクリとも動かない。
そんなにきついんですか……。

「はい。どうぞ、士郎のデバイスですよ。やっと手続きが終わりました」
別にここにはいない手続き担当の局員に対して嫌味を言っているわけではありませんが、やはり時間がかかり過ぎたという思いはありますからね。これくらいは勘弁してもらいましょう。

それを聞いたフェイトやなのはさんの顔がパッと華やいだ。
「え!? 本当なのリニス!」
「わぁ、見せてください!」
本人そっちのけで盛り上がる二人。二人だって凛の訓練で疲れているはずなのに、そんなモノこのことを聞いた瞬間にどこ吹く風ですね。
対して、凛と士郎はそんな二人をやれやれと言った呆れ混じりの笑みで見ている。
エイミィさんの予定では、これで士郎を驚かせるはずだったのですが、周りが驚いている分本人は冷静みたいですね。

「あ、こういうタイプにしたんだ」
「でも、この方が士郎君らしいよね」
と、二人はキャッキャッとはしゃぎながら、交代交代に新品のデバイスをいじっている。

とはいえ、これではいつまでたっても話が進みませんか。
「はいはい。いい加減本人に渡しなさいね、アンタ達は」
手を叩いて注目を集めた凛は、フェイトたちからフェイカーを取り上げ、士郎に向かって投げる。
フェイトの顔は少し残念そうにしているが、反論する様子はない。
それが反論できないのか、それとも反論する意志そのものを凛に対して抱けなくなっているのかは定かではありませんが。

「コホン、では軽く説明を。
まず、待機状態はそのカード形態です。起動時は基本となる『スクータム』の他に、『サジタリアス』と『ジェミニ』の計三形態となりますね。
 形状や重量などは士郎の希望に出来る限り沿ったつもりですが、念のため後ほど確認してください。それと、材質は注文通り頑丈さを優先していますから、少し重いですよ」
「ああ、それで大丈夫だ。それに、だからこそ左腕に付けるんだしな」
そういえば、士郎の左腕は義手で、普通より膂力が強化されているんでしたね。

「あ、そうだ。そういえば、こいつを入れるスペースってつけられたか?」
そう言って士郎が掲げるのは、以前フェイトに渡したのとは異なる一対の剣型のアクセサリー。
形状は、士郎の使う双剣のそれですね。

「ええ、採寸を図ってピッタリになるようにしてありますから、ちゃんとはめ込めるはずです」
「そうか、ありがとな」
士郎が掲げてみせたのは、確か対魔力効果のある魔術品。
それで魔力への抵抗力をあげようというのでしょう。

そこへ、やっと復活してきたアルフも興味深げに参加してくる。
「あのさ、せっかくだから起動してみれば?」
「ん? ……そうだな。どうせここには結界が張ってあるから、人が入ってくるとも思えないし……」
「あ、うんうん。わたしも見たい!!」
「わ、わたしも!! シロウのバリアジャケットにも興味あるし!」
そんな二人の様子も手伝ってか、結局士郎は確認のためにフェイカーを起動してみることにしたらしい。
凛は何も言わないが、その眼からは興味深そうな光が見える。

「じゃ、Set up」
素っ気ない様子で、そう指示する士郎。
すると、瞬時にバリアジャケットが展開される。

それを見たフェイトとなのはさんは口をそろえて……
「「……わぁ……!」」
と漏らした。
私や凛、それにアルフはこれと言って反応を示さないが、それでも各々マジマジと士郎の様子を観察中。

それに気付いた士郎はどこか照れ臭そうだが、すぐに自分の恰好を確認する。
「ふむ」
基本は黒。というか全身黒一辺倒。
軍用のような無骨なブーツを履き、これまた黒いやけに留め金の多いパンツを履いている。
さらに、その上半身はやっぱり黒。正確には黒い革鎧。こちらの方は、部分的に白い縁取りがなされ、襟の部分は銀の金具で留められている。ただしこれには袖がなく、肩から先が丸出しとなっている。
本来なら、ここに戦闘時に着用しているあの紅い外套を羽織るところなのだが、今はまだ収納されていないのでこれだけとなる。
帰ったら、ちゃんとそっちの方もやらないといけませんね。

かつて、優れたベルカ式の使い手は騎士と呼ばれていましたが、なるほど、今の士郎の姿は騎士の印象に近い。
たしか、ベルカ式ではバリアジャケットではなく、騎士甲冑という風に呼ぶのでしたね。
ただ、自身の姿を確認する士郎の眼には、どこか懐かし気な、同時に苦笑するような光がある。
ふっと横を見ると、凛の眼にも似たような光があることに気付く。
なにかしら、二人にとって思うところのある衣装なのだろう。

そして、その左腕には……
「あ、デバイスは盾にしたんだ」
とはフェイトの感想。
そう、士郎の左前腕には五角形の盾が装着され、左手首から先は手甲の様なものでも覆われている。

「ああ。ほら、俺って武器なら掃いて捨てるほどあるし」
そのとおり。士郎にとってデバイスは決して攻撃手段ではない。
防御魔法を使えず、普段は双剣を使う士郎にとって盾型のデバイスの方が何かと都合がよかったのだ。

フェイトが納得した様子を見せるのに頷きながら、士郎が簡単に解説する。
「で、盾として使う以上、やっぱりある程度頑丈でないとな。
 こいつには魔術で補強もするから、砲撃級の攻撃にも少しは耐えられるはずだ」
まあ、元からそれを目指して設計したわけですしね。さすがにディバインバスターの直撃など受けてはひとたまりもありません。でも、並みの魔導師の砲撃であれば威力を半減するくらいはできる……と良いのですが。
その辺は一度試してみないとわかりませんしね。

「そっかぁ。うん、すごくカッコいいと思うよ。ね、フェイトちゃん!」
「え? あ、うん。わ、わたしもカッコいいと、思…う」
「ああ、まあお世辞でもうれしいよ。ありがとな」
最後の方はしりすぼみになるフェイト。そして、それをお世辞だと信じて疑わない士郎。
まったく、フェイトを見ればお世辞かどうかくらいわかりそうなものですけどね。

士郎は一頻り付け心地を確認すると、またすぐに待機状態に戻す。
フェイトなどはどこか名残惜しげだが、別にこの場であの恰好のままい続ける意味もない。
そのことがわかっているだけに、フェイトの方も残念そうなだけで何も言わない。

「さて、ありがとなリニス。文句のつけようがないよ」
「ええ、そう言っていただけると報われます。なにか違和感などありましたら、すぐに言ってくださいよ。
 非の打ちどころのないよう調整してみせますから」
士郎からの感謝の言葉に、私は微笑みながら自負と使命感を込めて答える。
ずさんな調整や整備をするなど、製作者としての矜持が許しません!

そんな私に、士郎は凛と視線を交しながら応じる。
「ああ、頼りにしてる。な?」
「まぁね、しっかり働いてもらうわよ」
そう、あの言葉はなにも士郎のみに対して言ったことではない。
当然、カーディナルもしっかり面倒を見るつもりでいる。

それを言葉にしなくてもわかってもらえることに、小さくない喜びを感じている私がいた。
(私は、幸せですね)
こうして頼りにしてもらえることは、使い魔冥利に尽きるというモノだろう。
この二人に出会えた幸運に、素直に感謝します。

そうして、凛と士郎はそれぞれフェイト達を連れて訓練に戻っていく。
さあ、私も家に戻って夕食の準備をしましょうか。



Interlude

SIDE-フェイト

うぅ、ちょっと名残惜しいけど、いつまでも訓練を中断しているわけにもいかないし、わたしとなのはは大人しく凛と一緒にさっきまで訓練していた場所に戻る。

凛は割と派手な性格をしているように思うんだけど、その実やらせることは恐ろしく地味だ。
なのはは慣れているのか黙々とこなすけど、これをひたすら続けるのは結構大変。
はじめは飽きてしまいそうになるんだけど、続けているうちにどんどん苦しくなる。

両手の間に作った魔力球に常に一定の魔力を注ぎ続けたり、あるいは指定された箇所に即座に魔力を集中させたりする訓練をひたすら続けることが、こんなにも大変だったなんて。
一応魔力制御なんかはリニスから魔法を習い始めた時に教わったけど、わたしの魔力制御は割と感覚的。
というか、大抵の魔導師はかなり感覚的に魔力を運用する。
それをここまで念入りに意識的に行い、なおかつ長時間持続する訓練なんて普通はあまりやらない。

だって、そんなことをしなくても、魔力の運用自体はある程度魔法に慣れてくればなんとなくで出来てしまう。
どこの世界に、一々歩く際に全身の関節の動きを意識する人がいるだろう。これはそういうことだ。
だけど、それを精密に、なおかつ淀みなく高速で行い続けるのはとてつもなく苦しい。
だからこそ、普段どれだけ無駄で不効率な粗い運用をしていたのかを痛感させられる。疲労すればするほどに。

何より驚いたのは、凛自身のこと。
凛はなのは同様わたしよりも魔法歴が短いのに、わたし達と同じことを楽々こなす。
どうも、魔術回路からもたらせられる魔力を扱い続けてきた経験が生きているらしい。
なんとなく、凛の強さの意味を理解できた気がした。
ただ才能があるだけじゃない。陰で地道に積み上げてきた基礎があるからこそ、彼女はこんなにも強いんだ。

凛は言っていた。
「いい? 格下ならともかく、同格以上と戦うなら今までみたいな魔力量任せの戦い方なんて通用しないわよ。
 ま、アンタ達の場合、なまじ量だけはあるからゴリ押しで何とかなる場合がほとんどだけどね」
言わんとすることはわかる。より上手く制御できている方が有利なのは、今更言うまでもない。
でも、最初に言われた時はムッとした。だって、わたしは自分の魔力制御にそれなりに自信があったから。
少なくとも、決して雑な部類ではないと。だけど、今はそれが正しかったのだと理解している。

わたしたちの倍の時間続けても、凛は全く疲れた様子を見せない。
だけど、それに対してわたしたちは、終わった時は息も絶え絶えになっている。
魔力のスタミナ的には余裕なんだけど、続けていくほどに精度が乱れていくことを実感する。
そして、それを何とか直そうとするから疲れてしまう。早い話、余計な力が入ってしまうのだ。
逆に、制御が乱れたまま続けたとしても、今度は魔力の浪費で疲労するのは眼に見えている。
だから、わたし達はまだ魔力量に任せたゴリ押しをしていると言われても仕方ないんだと思う。

そうして戦いを意識したからだろうか?
あの時心の中に芽生えた疑問がまた顔を出す。
シグナムと戦った時、士郎の体に現れた剣の群れ。
あれは、いったい何だったんだろう。

シロウに聞ければいいのだけど、どうしてもその勇気が持てない。
それに、シロウは満足のいくモノじゃなかったけど一応答えてくれた。
だから、たぶん聞いてもアレ以上の答えは返ってこない気もする。

となると、やっぱり……
「ねぇ、凛。ちょっといいかな?」
訓練の間の小休憩。その時を見計らって、思いきって凛に尋ねてみる。
シロウ自身に聞けない以上、その一番身近にいる凛に聞くしかない。
まがりなりにも恋敵である人に聞くのはどうかと思うけど、聞ける人が凛しかいないんだから仕方がない。

「ん? なに?」
「シロウの、事なんだけど……」
それを聞いた瞬間、凛の顔に納得の色が浮かぶ。
頭のいい凛の事だから、もしかするとこれだけでわたしが何を聞こうとしているのか分かったのかもしれない。
シロウ自身が凛にアレを私に見られたことを凛に話していた可能性は高いし、今のわたしはきっと深刻そうな顔をしている。それだけの情報があれば、彼女にならそのくらいの推測はできてしまうように思う。

「忘れなさい……って言っても無駄よね?」
「うん、忘れられたらいいんだけどね。ちょっと……無理そう」
正直、あんなモノを見たら忘れたくても忘れられない。
シロウの事を少しでも知りたいという欲求はもちろんあるけど、それ以上に、聞かれたくないだろうことまで詮索するのは気が進まない。

でも、あれはそういう問題じゃない。
アレが私の見間違いでなければ、シロウの体から剣が生えていたことになる。
もしアレがシロウにとっても制御できないものだったりしたら、もしかすると命に関わる怪我につながるかもしれない。
だって、アレがなくなった後のシロウの体は、見るも無残に引き裂かれていたんだから。
シロウが死ぬ、その想像が怖くて堪らない。だから、それを少しでも晴らしたいんだと思う。

少し思案したような凛だったけど、すぐに結論が出たのか口を開く。
「……まあ、この先またアレをやらないって保証もないし、っていうかアイツならやりかねないし……。
 そういう意味だと、少しは知っててもらった方が都合がいいか……」
「じゃあ!」
「ま、大雑把にね」
そう言って、凛は肩をすくめる。
ついでだからと、少し離れたところで倒れていたなのはを呼ぶ。

なのはにわたしが見たことのを概要を話し、そこで凛が眼鏡をかける。なんで眼鏡?
「フェイトちゃん、気にしない方がいいよ。なんでも“お約束”らしいから」
「そういうモノなの?」
「良くわかんないけど、そういうことにしとこう」
いいのかな? それで。

「ちょっと、聞かないなら別にそれでもいいんだけど、私は話していいわけ?」
「「どうぞ」」
「じゃ、あんまり長話してもしょうがないし、簡潔に行くわよ。
まず確認。士郎の属性は何?」
「え? 剣、だよね?」
凛からの突然の質問に、なのはと眼を見合せながら答える。なのはも首を振って肯定してくれた。

「そう、剣。魔術は術者の属性や適性に沿ったものを習得するのが一般的なんだけど、それはつまり自分の根本に近づくってことでもあるの。
 人間、というか全ての存在は程度の差はあれ根源の渦に繋がってるって説もあるし、そこから辿って行って根源を目指すのは割とよくある試みよ。
 で、その根本に近づけば近づくほど、それが顕著に体に現れるのもある意味当然よね」
つまり、士郎は剣という属性を持っていて、そこに近づいたからああいう体になったってこと?
だけど、それじゃあ……。

「治す方法って……ないの?」
「ないわ。っていうか、治すって発想がそもそも間違い。
 いい? 自身の根本に近づくのは別にそれ自体は何もおかしなことじゃない、いたって普通なの。体に異常があるわけでもないし、何かが変化したわけでもない。リンカーコアと同じよ。元々あったモノが目覚めただけ」
「あ………」
そう言われてしまうと、わたし達には何も言えない。
魔術的なことは門外漢だけど、言わんとすることはなんとなくわかってしまうから。

だけど、そこで凛はものすごく忌々しそうな表情でつぶやく。
「まあ、それを眠らせておくのが普通なんでしょうけどね。
 とはいえ、一度目覚めたモノを眠らせる方法なんてないし、仮にあってもそれは士郎の力を奪うってことよ。
 あのバカがそんなこと受け入れるわけないじゃない」
ああ、そうか。凛だってそのことを考えたことがないわけじゃないんだ。
もしかしたら方法があるのかもしれないけど、シロウがそれを受け入れるはずもない。
それこそ、戦ってでもそれを拒むのがシロウだと思う。

「ま、極力使わないように言ってあるけど、あのバカの事だし、無茶するなって言う方がそもそも無駄なのよね」
「そんな、それじゃ……」
凛の呟きを聞いて、なのはは酷く不安げな声を漏らす。

しかし、自分でも意外だけど、わたしはそのことにそれほど心が震えない。
凛の呟きを聞いていて、何かが心の中にストンと落ちてきた。
それが何なのか初めはわからなかったけど、すぐにそれが何だったのか理解する。

何となくそのことが嬉しくて、ついつい口元がほころぶ。
「………………そっか。じゃあ、簡単だね。
 シロウがそんなのを使わなくてもいいように、わたし達が強くなればいいんだ。
 わたし達が強くなればシロウがそんなのを使うこともないし、シロウが危なくなればわたし達が守ればいい。
 ただ、それができるくらいに強くなればいんだもの」
そう、簡単な、あまりに簡単なこと。
シロウがアレを使うのは止められない。なら、使わなくてもいいようになればいいんだ。
本当に、ただそれだけのこと。

そんなわたしを見て、なのはと凛が呆然とした表情をしている。
へぇ、凛でもそういう顔するんだ。と思っていたら、突然噴き出して笑いを堪え出した。
「……ぷっ! くく、くっくっく……」
「ふん、笑っていられるのも今のうちだよ。すぐに、凛もシロウも追い越すんだから。そうでしょ、なのは」
「え? いやぁ、それはさすがに、ちょっと……」
なんだか自信なさげななのはだけど、その眼には強い決意が見える。強くなる、その意志はなのはだって変わらない。
たぶん、凛を追い越す自分というのが想像できないんからこその弱気なんだろうけど、それはわたしも同じ。
正直、今のわたしにも到底二人を超えた自分というのが想像できない。

でも、やるんだ。
そうすれば、シロウがそんな危ないことをする必要はなくなる、
何より、わたしはシロウと肩を並べられるようになりたい。
そしていつかは、わたしがシロウを助けられるようになりたいんだ。
それが、半年前からずっと抱き続けたわたしの目標。

そう、だからわたしは笑ったんだ。
別に何も変わらない。今までわたしが目指してきたモノが、そのまま予防策になる。
ただ、目標に向かう動機がまた一つ増えただけ。そして、そのことが嬉しかったんだ。
願えば叶うなんてものじゃないけど、やらなければそこには届かない。
なら、やるしかないに決まってる。

嬉しかったのは、その決意を支えて、背中を押してくれる理由が増えたことに心強さを感じたから。
我ながら単純だけど、それでいいんだと思う。

「言うじゃない。でもね、そんな大口は今やってる訓練を鼻歌交じりに出来るようになってから言いなさい。
 それすらできないようじゃ、片腹痛くて私が腹痛になるっての」
「いいよ、凛がびっくりして今度は腰を抜かさせてあげるんだから! ね、なのは」
「にゃははは、そうなったら凛ちゃん大変だ。でも……うん、それわたしも見てみたい!」
「なのは……アンタね……」
さ、そうと決まったらこうしちゃいられない。
すぐにでも再開して、あっという間にできるようになってやるんだから。

Interlude out



深夜。
今私は最後の戸締りや火の元を確認して家の中を歩いている。

そういえば、訓練から返ってきた凛は、理由こそ定かではないが妙に上機嫌だった。
何かいい事でもあったんでしょうかね?
逆に、士郎の方はちょっと様子がおかしい。
それこそ、普段なら食後の家事を私から奪おうと虎視眈々なのに、今日は珍しくすぐに自室に篭ってしまった。
アレでしょうか、明日は雪? コタツはありましたかね?
なんでも、この世界では雪が降ったら猫はコタツで丸くなるのが「鉄の掟」らしいのですが……。ほら、一応私猫ですし(ソースはリンディ提督とエイミィさん)。

念のために様子を窺っておこうと士郎の部屋の前に来ると、明かりがついていることに気付く。
「士郎? 起きてるんですか?」
「ああ、リニスか。ちょっとやっておきたい事があってさ。
 開いてるから、なんだったら入ってきたらどうだ?」
どうも何かの作業中のようですが、やはり気になるので入ってみることにしましょう。

中に入ると、士郎が机に向かっている。勉強……というわけでもなさそうですね。
「何をしているんですか?」
「ああ、ちょっとデバイスに細工をな」
細工? 士郎がする細工となると、やはり魔術的なものでしょうか?

外側から覗き込むように見ると、どうやら彫刻刀の様なもので何かを刻みつけているようですね。
それは、ミッド式ともベルカ式とも違いますが、どう見ても魔法陣。
「これは?」
「ああ、魔力指向制御平面って言うんだ」
耳慣れない言葉だ。でも、その字面からしておおよその意味は想像できる。
つまり、魔力の流れを制御できるモノということでしょう。

「普通は魔術の実験なんかで使うもんなんだけどな、防壁としても使えるからさ。
 こうして実際に刻みつけられる土台があるわけだし、念のためな」
なるほど、だからデバイスの注文の際に「表面は出来るだけ滑らかで、かつ細工はしないように」と言っていたのですね。はじめから、こうすることを考えていたというわけですか。
魔術品の収納スペースにしても、盾の表面ではなく裏側だったのはそういうことだったんですね。

ということは、これがあればどんな魔力による攻撃も無効化できるのでしょうか?
私のそんな疑問に対する答えは……
「いや、さすがにこのサイズじゃ制御できる量にも限界があるからさ。
 たぶん、誘導弾あたりが関の山なんじゃないか?」
「そういうものですか」
まあ、それでも砲撃の威力の一部を削減することくらいはできるそうですが。
しかし、十重二十重に策を用意するとは、つくづく周到な方たちです。

そこで会話は途絶え、私はしばし黙々と作業する士郎の様子を見る。
何か手伝えることでもあればと思いますが、魔術に関しては無知に等しい私に出来ることはありませんね。
それなら、夜食の一つでも用意するとしましょう。
この様子だと、まだまだ時間がかかりそうですし。


そうして、私は一度士郎の部屋を後にし、台所で簡単に夜食と紅茶を用意する。
改めて士郎の部屋を訪れてそれらを置いてから、士郎に促されるまま自室に戻った。
少し申し訳なくはありますが、私がいつまでもウロウロしていては士郎も落ち着かないでしょうしね。

自室に戻り、しばらく士郎の部屋の方の様子を探り、そちらが一段落した様子を見せたことで私も床に着く。
どうか、このような平穏な日々が少しでも長く続くように、と祈りながら。



Interlude

SIDE-ヴィータ

あたり一面、見渡す限り砂漠の世界。
そこであたしは、一人次なる獲物を求めて空を翔けている。

アイリはあんまり体が丈夫じゃないし、そうそう連れて回るわけにもいかない。
だいたい、一日おきに休養と同行を繰り変えてしている。
まったく、なんだってこういて欲しくない時にいて、いて欲しい時にいないんだ、管理局の連中は。
アイリがいる時にサッサとこっちを見つけてくれれば、これ以上アイリを連れ回したりしなくていいのに。
そうすれば、これ以上アイリが辛い思いをすることなんてないんだ!

だから、たったいまこいつが現れたことも、あたしにとっては不機嫌の種にしかならない。
どうして管理局の人間ですらないこいつが出てくるんだよ。この間、思いっきり連中の邪魔してやがったし、少なくともあの連中の仲間じゃねぇのは確かなんだよな。
「てめぇ、この前の……」
「どうやら剣の騎士から聞いているようだな。話が省けて助かる」
進路を阻むように現れたのは、仮面をつけた男。
シグナムがあの白髪頭と戦った時に横槍を入れやがった野郎だ。
確かにこいつのおかげでシグナムは難を逃れたけど、それでもあの勝負に水を差したこいつに対して、いい感情を持てるわけがねぇ。

「何の用だよ。用がねぇんなら失せろ、あたしは忙しいんだ!」
「安心しろ、手間は取らせん。だが、一つ確認する。闇の書は持っているな?」
「答える必要なんてねぇだろ!」
ホントに、何なんだこいつ。この様子からしてやっぱり闇の書が目的みてぇだけど、あれは闇の書に選ばれた主でなきゃ使えねぇ。こいつが何をしたところで、欠片の力も使えやしねぇのに。

「嫌われたものだ。まあいい、持っていないのなら今すぐ呼べ」
「だから! なんであたしがてめぇの命令を聞かなきゃらなねぇんだ!!」
勝手なことばっか言いやがって、人の話聞いてねぇんじゃねぇか?
なんか薄気味悪いし、こんな奴の相手してる場合じゃねぇ。
無視してさっさと獲物を探しに行くか、いっそここでぶっつぶして蒐集してやった方がいいかもな。

そんなあたしの考えを読んだわけじゃねぇだろうけど、こいつはいきなり突拍子もないことを言い出す。
「簡単な理由だ。この場で私から蒐集しろ」
「……な…に?」
こいつ、正気か? いくら闇の書に何かしら用があるからって、そんなことを言い出すなんて普通じゃねぇ。
それに闇の書からの蒐集は言うほど楽なもんじゃない、される側がだけど。
魔導師の命とも言えるリンカーコアを著しく消耗させる以上、半端じゃない負担がかかる。
こいつ、そのことがわかってねぇのか?

「どうした? お前たちは闇の書を完成させなければならないのだろう? ならば、何を躊躇う」
「待て!! てめぇ、自分の言ってる意味がわかってんのか!?」
「無論だ。だが、それがどうした。お前が私を気遣う理由などないはずだが?」
「勘違いすんな! 別にそんなんじゃねぇ!!」
そう、別に気遣ってるとかそんな理由で聞いたわけじゃねぇ。
むしろ、その逆。いきなりこんなことを言い出す、こいつの腹の中が不気味に感じたから聞いたんだ。
だけど、同時に確信した。こいつは、闇の書からリンカーコアを蒐集されることの意味をわかってる。気遣うなんてことを言った以上、そういう目に会うってわかってるって言ったのと同義だ。
だからこそ、こいつに対する不信と警戒が増す。ホント、何なんだこいつ。

色々言いたいことはある、だけどまず聞かなきゃならないことはこれだ。
「………………何を、考えてやがる」
そう、それを聞かないことにはうなずけない。
素直に答えるとは思っちゃいないけど、それでも……。

「答えるつもりはない。何と答えても、意味がないからな」
「どういうこった?」
「わからんか? 仮に完全な善意の申し出だとしても、お前はそれを信じられるのか?
 その逆に、闇の書を利用するためだったとしても、お前達が蒐集を続けなければならないことに変わりはない。
 そら、何と答えたところで、お前がすることに変わりはない」
確かに、こいつの目的が何だったとしても、あたしがしなきゃならないことは一つだ。
それに、こいつの言うとおり善意の申し出だとしても信じられるはずがない。同様に、利用するのが目的でも、一刻も早く闇の書を完成させなきゃならない以上、あたしらに選択肢なんてない。

「闇の書は、真の主以外のシステムへのアクセスを認めない。それをわかってて言ってんだな」
「ああ、闇の書が完成すればそれでいい。アクセスになど興味はない」
どこまで本当なのかわかんねぇけど、こいつの魔力がかなり多いのは確かだ。
なら、蒐集対象としてはこれ以上ない格好の相手。なにせ、自分から蒐集させてくれるんだから。

もしかすると、自分の魔力を闇の書に取り込ませて、そこからアクセスするつもりなのかとも思った。
だけど、この様子だとそれもない。
今までそんな事をした奴はいなかったけど、その程度でアクセスできるほど闇の書は甘くない。
つまり、こいつは本当にアクセスする気がないってことになる。

それだけじゃ目的がわかんないけど、せっかくくれるって言ってんだから貰ってやるさ。
こいつが何を考えていようと、闇の書を自由にできるはずがないんだから。
アレは、あたし達も含めてはやてのモノなんだ。

だけど、あたしの一存で決めてもいいのだろうか?
「ちょっと待て、仲間にも聞く。それくらいは待てるだろ」
「構わん。だが、手早くすませろ、こちらにもそう時間はない」
管理局の連中に見つかりたくねぇとか、そんなところか。
それはこっちも同じだ。蒐集の最中に邪魔されちゃかなわない。

早速思念通話でシグナム達に大まかな事情を説明し、あたしの考えを伝える。
シグナムからの答えは……
『信用できん』
と、まあ予想通りの答えが返ってきた。

『だけどよ……』
『できんが、やるしかないだろう。我々には足踏みをしている時間はない』
やっぱり、そうだよな。それにこいつが何を考えてようと、その思惑ごとぶっつぶせばいい。
こいつが闇の書の力を欲してるんだとしても、あたしらがそれをさせなきゃいいんだ。

結論は出た。なら、やることをやるだけだ。
「いいぜ、やってやるよ。あとになって後悔しても遅ぇぞ」
「ご託は要らん、早くしろ」
へ、そっちがそう言うんなら、もうなにもいわねぇよ。

背にしまっておいた闇の書を取り出し、蒐集を始める。
『Sammlung(蒐集)』
「ぐ、がぁぁぁぁぁああぁぁぁっぁあぁぁ―――――――っ!!!!」
リンカーコアを食われる苦痛から、仮面の男が喉が裂けんばかりの苦悶の声を上げる。
まったく、何度聞いてもこれは慣れねぇ。



蒐集を終えると、案の定男は砂漠に身を横たえる。
ありゃあ、当分起き上ることもできねぇな。

急いでここを去った方がいんだろうが、このまま放置するのもどうかと思う。
ここには物騒な生き物だっているし、ここで野垂れ死にされても寝覚めが悪い。
とはいえ、いつまでもここにいるわけにもいかねぇし、どうすっかな。

適当な岩場まで運んでやったところで、まだ意識があるのか話しかけてきやがった。
普通、アレをやられるとスグに気絶するもんなんだけどな。
まだ意識があるなんて、どういう精神力してやがんだ。
「………行…け。こちらのこ………とは、こちらで…何とかす……る…………」
「……そうかよ」
少しばかり悩んだけど、本人がそう言ってんだからあたしがどうこう言うことじゃねぇか。
なにより仲間でもない、それこそ半分以上敵みたいな奴をそこまで心配してやるのもどうかしてる。

そう結論し、新たな獲物を求めて飛び立つ。
最後に一度だけ振り向き、言葉をかける。
「じゃあな。アンタの目的が何かは知らねぇし、次会った時は敵かもしれねぇ。
でも、今だけは礼を言っておくよ」
こいつの思惑がどこにあるにせよ、これで闇の書の完成に一歩近づいたのは間違いない。
なら、感謝の言葉の一つくらい言っておくのが礼儀だろう。

そのまま振り返ることなく飛び去ろうとするが、その最中、酷く小さい消え入りそうな声が耳に届いた。
「……言うな。礼など…………言わないでくれ………」
その声はどうしようもなく悲しそうで、今にも泣きだしそうだった。


アイツが何を考えてこんなことをしたのかは知らない。
だけど、アイツなりに何か強い決意があってそれをしてるってことだけはわかった。
そのせいか、少しだけ……アイツに対する嫌悪感や憤りが薄くなったのを自覚する。

そんなアイツを見たせいか、ふっと今自分がしていることを鑑みる。
正直、こんなことを続け、はやてを裏切り続けることには罪悪感が募る。
だけど、それではやてを助けられるのなら構わない。そして、これでまた一つそこに近づいた。
そのことだけは、純粋に喜んでいいのだと思う。

Interlude out






あとがき

さて、一応これで一段落を付けて、次からはまた戦闘パートに突入……の予定。
ただ、今度はそんなに長くならないかと。というか、一応予定では一話で終わらせるつもりですし。
ほら、なのはたちの訓練をしてる手前、無印の時みたいな裏方仕事(?)に回ることになるので。

今回の主なテーマはタイトル通り、リニスの海鳴での日々なんですが、美由希の料理下手はちょっと誇張しすぎたかも。モデルは、遠野さん家の沈黙ぐる目メイド翡翠さん。
美由希も料理が苦手らしいので、せっかくですから面白さを追求してみましたとさ。

あとは、最後のヴィータのところで出てきたのが誰なのかはまだ秘密です。
まあ、近々誰なのか分かると思いますし、割とわかりやすいかもしれませんけどね。
蒐集されて変装が解けないのは、単純に他の人に変身魔法をかけてもらっているからです。なんか、変身魔法は他の人にかけてもらうこともできる、みたいな事をコミック版で読みました。
グレアム一派は不評を買いまくっているので、ちょっと好感度を上げておこうと思ったり。
正直、あの人ならこれくらいはしそうに思ってます。ちなみに、この局面でそれをやったのは、まだ闇の書の完成まで幾分時間があるので、やるとしたらここしかないだろうと思ってのことです。だいたい、サウンドステージ01あたりですね。ちょうどつい最近仮面の存在を知られたわけですし、回復にかかる時間を考えてもタイミングとしても頃合いかと。原作を見る限り、ちゃんと蒐集の進行具合を把握してたみたいですしね。
それと、まがりなりにも自分たちに手を貸してくれた相手でなかったら、下手するとこの試みそのものが上手くいかない可能性もあるので、やはり今がちょうどいいと思いました。

最後に士郎のデバイス「フェイカー」についていくつか説明を。ってか、名前シンプル過ぎるなぁ。まあいいか、だって士郎だし。
さて、それはそれとして、フェイカーは五角の盾型の非人格型アームドデバイスで、左腕に装着する仕様です。待機形態は、クロスミラージュやデュランダルみたいなカード型になります。あと、待機形態の表面には士郎の令呪が刻まれていますね。正直、ストームレイダーの様なドッグタグ形態とどちらにするか悩んだのですが、すでに遠坂家伝来の宝石を持っていますので、首からかけるのを増やしても鬱陶しそうなのでやめました。
他にも二つの形態があり、サジタリアスとジェミニがあるのですがこの辺はまだ秘密。と言っても、サジタリアスの方は多分すぐにわかると思いますし、ジェミニも結構簡単かも。ちなみに、形体名はすべて星座からきていて、基本のスクータムは「楯座」です。まあ、十二星座と違って楯座の方は正確な発音がわかっていないので、もしかすると違うかもしれませんから、違った場合にはお教えください。
武装としての特徴は、とにかく頑丈なこと。もう徹底的に防御に重きを置いていて、その分普通のデバイスより幾分重めです。まあその辺は、義手に装着しそのギミックの一つである膂力の強化でカバーしてるんで、特に問題はないんですけどね。その上で、士郎謹製の対魔力能力を付加した干将・莫耶型のアクセサリーを埋め込み、さらに魔力指向制御平面を刻みつけたりして防御性能を上げています。まあ、これだけやっても並みの術者の砲撃の半減が関の山。ディバインバスターなんてくらったらひとたまりもありません。たぶん、並みの誘導弾位なら魔力指向制御平面で無効化はできるんですが、盾という性質上、一度に処理できる数はそう多くないので、同時多角的に攻められるとやっぱり弱かったり。う~ん、魔導師としての士郎の弱点である「幻術以外がほとんど使えない」を補うためのデバイスでもあるんですが、それでもなお結構微妙な性能かも。
ちなみに、知らない人もいるかもしれませんが、「魔力指向制御平面」は「プリズマ☆イリヤ」に出てくる代物で、一応公式設定(?)になるはずです。本編中に出したように、本来は実験などに使う代物なのですが、それを実戦に転用するのは魔術使いらしいかな、と思います。まあ、「プリズマ☆イリヤ」では神代の魔女っ子さんが普通に戦闘に応用してましたけど……。
次にデバイスとしての特徴ですが、これは単純に幻術特化。士郎が使う幻術魔法をサポートすることにのみ特化しています。おかげで、これから先はグラデーション・エアの扱いも少しは楽になり、また確実性も増すでしょう。一応カートリッジシステムを採用していて、これはリボルバー式の六連装となります。これで魔力不足を補うわけですね。
そしてバリアジャケットですが、これはもう単純にアーチャーそのままで。外套だけは前から使っている聖骸布ですが、それ以外はバリアジャケットで再現しただけです。本編中でも出しましたが、もちろん肩から先は剥き出しですよ~。

そういえば、アーチャーの装備一式を「赤原礼装」というらしいですね(某サイトの用語集より)。
やっぱり、あの外套からの命名なんでしょうか? 赤いから。
でもそれだと「赤原猟犬(フルンディング)」はどうなのやら? あっちも赤いと言えば赤いですけど。
それとも、アーチャーは「赤原○○」という一貫性を持たせるのが好きなんでしょうか?


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028311014175415