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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/31 15:37

注:連載一周年記念ということで、今回は皆様からお寄せいただいたアイディアから私が独断と偏見のみによって選出し、それを元に作りました。
また、今回は話しの都合上時間軸がズレ、StsにおいてJS事件が決着した後になります。
他にも、話の整合性などはかなり無視していますのでご了承ください。
あと、タイトルから見てもわかるとおり、基本この話はムサイ男どものみによって構成されていますのでお気を付け下さい。
最後に、ここで出ているいくつかの設定は暫定的なモノなので、実際にSts編に入った時は別の形になっているかもしれません。
というわけで、これは基本的に本編と全く関係ないことをご了承ください。



  *  *  *  *  *



SIDE-ヴァイス

時刻は早朝。
先日積もった雪はまだ残っており、ところどころで陽の光を反射している。
JS事件はかなりの被害を出したモノの一応は解決し、六課隊舎も復旧してだいぶ経つ。
アレから数ヶ月、まあ何とかそれなりに平穏な日々が過ぎていき、ついこないだ無事新年を迎えた。

そんな中、肌を刺す冷たい空気に身を震わせながら、なんで俺は朝っぱらから宿舎に向けて大声を張り上げなきゃならないんだろうなぁ?
「早くしてくださいよ、旦那ぁ! いい加減忙ねぇと、ホントに遅刻しすぜ!」
「すまん、待たせた」
そう言って、特に慌てた様子も見せずに宿舎から出てきたのは、機動六課が誇る料理長にして用務員兼バックヤード陣の副長「遠坂士郎」。
なのはさんをはじめとする隊長陣から一目も二目も置かれているにもかかわらず、大抵の場合厨房で料理をしているか、あるいは隊舎や宿舎の清掃や備品の整備ばかりしている歴戦の猛者。なんか矛盾してる気がする。
その体からは、味噌汁のいい匂いがする。案の定、居残り組の為に朝飯をしっかり用意していたらしい。
なんというか、ホントこういうところはマメだよなぁ、この人。
今日ぐらい、他の連中に任せてもいいだろうに。


とは言え、旦那やそのカミさんでバックヤードのトップである凛姐さんは、別に管理局の人間ってわけじゃねぇ。
管理局との関係を一言で表すと、『取引相手』というのが一番妥当だろう。
その取引の内容は、戦力だったり情報だったり、あるいは魔術を使った『商品』と多岐にわたる。

なにせ、唯でさえ人手不足の管理局。あれだけの戦力を借りられるなら多少の出費には目を瞑ってくれる。
その上、いつの間にやら妙な情報網を作り上げてるもんだから、裏情報なんかにも詳しい。
実際、その手の情報のおかげで解決した事件もいくつかある。蛇の道は蛇ってわけだ。
そんなわけで、一応お得意さんだったことが幸いしてJS事件に協力してくれたんだよなぁ。
まあ、それでも初めは見捨てようとしてたらしいが、詳しい経緯はここでは割愛する。

とはいえ、凛姐さんに言わせりゃ「これだけ長持ちしたんだから、そろそろ替え時じゃない?」ということになるんだがな。さすが姐さん、まるで家電製品の交換時期でも話すかのような気軽さだ。
とりあえず、金ヅルがなくなるから手を貸しただけってんだから半端ねぇわ。
それに、クロノ提督たちに「どうせなら、無くなった後の混乱を最小にする努力をした方がいいんじゃない?」というような提案をしたってもっぱらの噂だ。
無くなること前提にして話すあたり、あの人、マジで管理局の存亡そのものには興味がなかったらしい。


まあそれはともかく、やっと来た旦那に向けて、相変らず狼の姿をしているザフィーラの旦那が車の窓を開けて後部座席から顔をのぞかせる。
「安心しろ。これなら約束の時間には間に合うだろう」
「でも、ホントギリギリなんですから、早いとこ車を出すとしましょうや。な、ロウラン補佐官」
「ええ、ヴァイス陸曹も士郎さんも早く乗ってください。それと、ちゃんとシートベルトは締めてくださいよ」
やれやれ、相も変わらずお堅いねぇ。別に一々そんなこと確認する必要なないだろうに。
ま、曲がりなりにも管理局員とその関係者が、緊急でもないのに安全運転を怠るわけにはいかねぇんだろうが。

「まあ、間に合わんようなら私とザフィーラでグリフィスとヴァイスを担いで走ればいいのだが。
 エリオが私達に遅れることもないだろうしな」
「ふむ、妙案だな。その方が車より早いか」
「すんません、旦那方。俺はまだ良いとして、その場合補佐官の命が危ないんすけど」
正直、それは勘弁してほしい。この人たちは、それこそ車と同等以上の速度で走ることもできるが、その際にかかるGはシャレになんねぇ。

俺なら魔法を使えばそれにも耐えられる。
だが、完全生身の補佐官の場合、ぶち当る風圧だけでも相当にきついはずだ。
その上、普通に走っているだけならまだしも、ショートカットと称して急激な方向転換や跳躍なんてされた日には目も当てられない。
もし万が一障害物にぶつかったりしたら、その瞬間に補佐官は三途の川へおさらばしちまうかもしれねぇ。

そんな俺の不安を他所に、二人はそっぽを向きながら異口同音に……
「「安心しろ。冗談だ」」
と、のたまいやがった
はっきり言って、全く信用なんねぇんですがね。そもそもあんたら、そうそう冗談言うようなタイプじゃねぇし。
良く見れば、ロウラン補佐官の首筋には大量の汗が滲んでいる。

場の空気が悪くなっていることに気付いたのか、旦那は突然エリオの方に向き直る。
「ああ、そうだ。エリオ、念のためお前はこれでも持っていろ」
そう言って旦那は、右手に持っていたヤケにでかい包みを後部座席にいるエリオに投げ渡した。

「? 士郎さん。なんですか、これ?」
「弁当だ。お前の事だ、移動中に腹が空くのは目に見えている。
 とりあえず、目的地に着くまではそれでつないでおくと良い」
「あ、ありがとうございます!」
弁当? このボストンバッグみたいなのの中身が全部?
いや、こいつの食欲は尋常じゃねぇ。それこそ、その気になれば店一件食い潰すくらいわけねぇしな。
目的地までは半日近くかかるし、旦那の配慮は当然か。

ちなみに、面子が男ばかりなのは単純にその方がくつろげるから。
なにせ機動六課は大半が女。俺たち男衆の肩身の狭いこと。
せめてこんな時くらい、思う存分羽を伸ばしたいもんだ。
とまあ、それが主にして理由の全て。

「それでは、皆さん準備も整ったようですし、出発しますよ」
「「ああ」」
「はい」
「おう」
と、補佐官の確認にそれぞれ同意の声を上げる。
ちらりと隊舎の方を見ると、なにやら涙目になりながらチェーンバインドに拘束されているフェイト隊長がいた気がするが、多分の気のせいだ。
そのほかの拘束している面々が、必死になって引き留めようとしながらも徐々に引き摺られている光景なんて見ちゃいません。

しかしまあ、せっかくの慰安旅行だが、この面子とさらに合流してくる面子を考えると、無事に終わるのか甚だ心配になるわ。
まあ、とりあえず行くだけ行ってみますかね。
確か、場所は「秘湯ヴァルハラ温泉 鯖旅館」だったか。なんか、磯臭そうだな。
ま、一泊二日の短い旅行だ。精々楽しむとするか。



リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」



SIDE-グリフィス

ゲートポートまで車で行き、そこで待ち合わせをしていたお歴々と合流。
それで、そのまま別世界の保養地に移動した僕達。
今は、少し古びたバスに揺られながら、目的地となる鯖温泉の旅館に向かっている真っ最中。

そう、向かっているのですが、慰安旅行が始まって早々に場は混沌としています。
「おっしゃ、坊主! おめぇももっと飲め!!」
「あの、ナカジマ三佐。未成年にアルコールは……」
「気にすんな、気にすんな。今日は無礼講だ! 階級なんて鬱陶しいモンとはおさらばしちまえって」
早速出来上がっている中年オヤジ(ナカジマ三佐)をいさめてみる。
だが、「ガハハハ」と呵呵大笑していて、全然効果が無い。こんな時に、ナカジマ陸曹がいてくれたら……。

まだ十歳のエリオにお酒は不味いと何度も言っているのに、全然聞く耳持たないんだからこの人は。
というか、もうエリオもお酒が入っていてすでに手遅れかもしれませんが……。
ああ、これはフェイトさんに後で殺されるかも……。主に僕が。

正直、僕だってまだ死にたくない。こうなれば、このメンバー有数の良識人をあてにするしかない。
「クロノ提督もいい加減止めてくださいよ。なんでしたら、アコース査察官でもいいですから」
「あれ? 僕はついでかい?」
普段のあなたの行動を鑑みれば、極々当然の扱いですけどね。

「ん? まあ、いいんじゃないか? ブレーコーなわけだし。アハハハ」
すでにテンションと呂律があやしい。よく見れば、この人ももう真っ赤だ。
ああ、次元航行部隊の提督といえども所詮は人の子。酒が入れば、ただの単身赴任のお父さんということか。

不味いなぁ。この場でシラフなのはもう僕だけか。
アコース査察官はお酒に強いのか、比較的にまだまとも。
だけど、元が基本的にちゃらんぽらんな人だからあてに出来ないし。
ヴァイス陸曹も、ナカジマ三佐の酒宴に参加してエリオのコップにどんどん酒を注いでいる。
ザフィーラさんは、もう我関せずとばかりに犬に徹してるし。

残る常識の砦は……
「「ぐぅ~~~~…………」」
二人揃って爆睡中。
別にお酒が入ったせいではない。この二人は、とにかく時間さえあればさっきからずっと寝ている。
それどころか、二人とも乗り継ぎの時も寝ながら歩いていた。どれだけ睡眠時間削ってたんですか?

「まぁ、しょうがないよ。ユーノ先生は普段から無限書庫で徹夜の毎日だし。
その上、今日の為に十日間完徹していたらしいからね。休みを取ろうとすると、大抵こんな感じだって聞くよ」
無限書庫は管理局有数の激務で有名な部署だ。その責任者ともなれば、むしろ当然なのかもしれない。
曰く、「無限書庫に労災はない」。これは必要がないのではなく、あればあっという間に破綻してしまうからに他ならないという噂まであるほどだ。また、その原因が某提督によるものだとも。

その上、本人の責任感も相まって、最後に休暇を取ったのは二年以上前なんて噂もある。
慰安旅行に誘ってみたところ、部下の司書達の強硬な主張により今回の旅行に参加する事となったのだ。
あれほど心配されるとは、本当に命の危険があったんじゃないだろうか?
というか、せっかくの休暇なんですから、家で寝てるか、なのはさんとデートでもした方がいいのでは?
人が良すぎるのも考えモノだなぁ。きっと、せっかくの誘いを断るわけにはいかないと思ったんだろう。

で、もう一人の常識の砦はというと……
「JS事件が片付いたこともありましたし、士郎さんへの発注も最近とみに増えてますしね。
 士郎さんも、最近工房にこもりっきりで僕も久しぶりに会ったほどですよ」
まあそれでも、欠かさずみんなの食事だけは用意しているんだからすさまじい。
それどころか、いつの間にか備品の整備から隊舎の掃除まで済ませ、時には資料整理までされている。
つくづくブラウニーですね、あなたは。

ところで、士郎さんへの発注が増えた理由は割と簡単。
JS事件の折、士郎さんの魔剣をいくつか配備していたナカジマ三佐の108部隊は、AMF環境下でもかなりの戦果をあげた。そのおかげで、士郎さんへの注文はさらに増えてしまったのだ。
たぶん、この休みを捻出するために今月のノルマを大急ぎでクリアしたのだろう。

そんなわけで、この二人を無理やり起こして事態の収拾に当たらせるのはさすがに出来ない。
せめて、この一時くらいはゆっくり寝てもらいたい。
むしろ、その他のよっぱらいが狼藉を働かないように防壁になるべきなのだろう。

「ところで、アコース査察官はこっちに来て大丈夫だったんですか?
 そちらもお忙しいはずですけど」
「あははは、大丈夫大丈夫。ちゃんと抜け出してきたから」
どこが大丈夫なんですか? それ。
それに今、「ロゥゥォォォッサァァァァ~~~~~~~!!!!!!」というシスターシャッハの怒号が聞こえた気がしたのですが。どうやら、僕以上にあなたの命が危ないですね。鉄拳制裁で済めばいいのだけど。

ああ、どうやらクロノ提督もナカジマ三佐の酒宴に交じってしまったらしい。
もうあちらは僕の手に負えない。そう割り切って、こっちで比較的まだまともな人と話す事にしよう。
別に、現実から目を逸らしているわけじゃありませんよ?

「そういえば、行き先はヴァルハラ温泉の鯖旅館らしいですけど、査察官は何かご存知ですか?」
そう、実を言うといろいろ調べてみたのだがこんな温泉もこんな名前の旅館も全然見つからなかった。
ある日突然、ヴァイス陸曹が「アロハシャツを着た気のいい兄ちゃんから招待券貰ったんで行きましょうや」と誘ったのがきっかけ。
その後調べてはみたが、まったく情報がつかめなかったのだ。

だが、さすがにアコース査察官は少しばかり情報を有していた。
「ああ、まあ無理もないね。どうやら割と最近発見された温泉らしくて、まだそれほど情報は出回っていないみたいだよ。まあ、その点で言えば未知数であり、穴場でもあると言えるかもね。
 僕の方でも、あまり情報は手に入らなかったけど」
なるほど。つまり、行ってみないと本当にどんなところか分からないということか。
まあ、とりあえず当初の目的通りゆっくりできればいいのか。



SIDE-ユーノ

ああ、こんなにゆっくり寝たのはいつ以来だろう。
まさか、三時間も熟睡できるなんて。
ただ、なんでこんなにバスの中がお酒臭いのかな?
他にお客さんはいないから、あまり気にしなくてもいいのかもしれないけど。

って、ああ、どうやらエリオは長旅で疲れて寝てしまったらしい。
いくら強くなったといっても、このあたりはまだまだ子どもなんだなぁ。
出来ればこのままゆっくり寝させてあげたいけど、たった今旅館に着いたところだ。
起こすのも可哀そうだし、背負って部屋まで運ぶとしようか。

士郎の方は、寝ているみたいだけどまあ大丈夫かな。
寝ながら前でも見えているかのようにしっかり歩いている。
器用だなぁ、僕もああいうこと出来たら便利なんだろうなぁ(注:あなたもできます)。

で、宿の前には「歓迎 ヴァイス・グランセニック様御一行」と書かれたプラカードを持つ金髪赤眼の少年が立っている。年のころは、多分エリオとそう変わらない。
この旅館の従業員さんのお子さんとかかな?
「お待ちしておりました。鯖旅館へようこそ。
 僕はここのオーナーのギルといいます。皆さんごゆっくりお寛ぎください」
「え? 君がオーナーなの?」
「はい。まあ、信じられないのも無理はないかと思いますけど、これが事実なんですよ。
 厳密に言うと僕が建てたのではなく、元からあったモノを買い取ったんですけどね」
と、人好きのする朗らかな笑顔を浮かべている。
ただ、士郎を見た時の眼がどこか意味深だったのは気のせいかな?

しかし、この若さでオーナーになれるということは、彼は相当なお金持ちなんだろうな。
なんというか、凛が見たら「お金の匂いがする」とか言い出しそう。

まあ、それはそれとして……
「ところで、こちらの方は?」
アコース査察官がそう言って目を向けたのは、門前に立ち塞がるすんごいの。
身長およそ250㎝という巨人。一面の銀世界の中、上半身裸で腰巻しかしていない。もちろん裸足。
また、その露出した体は隆々とした筋肉におおわれており、寒さを感じていないかのように堂々としている。
ただ気になるのは、あの肘から出ている突起やヤケに体が黒いのは何故?

「ああ、彼はここの門番をしてるんですよ。
 安心して下さい。彼に勝てる生き物なんてまずいませんから」
なんというか、その言葉には凄まじい説得力がある。
上手く言葉に出来ないけど、生物としての次元が違う気がするよ。

ただ、さすがにこの格好はどうかと思うので、この巨人にちょっと尋ねてみることにする。
「えっと、寒くないんですか?」
「■■■■■■■■■■■―――――――――――――――――!!!!」
「ひ、ご、ごめんなさい~~~!?」
吠える大怪獣。慄く僕ら。
俺に触れればお前を次元世界の彼方まで吹っ飛ばすぞ、といわんばかりの大迫力。
もちろん、その返事はイエスなのかノーなのかさえ分からない。
通訳なしにこの方とのコミュニケーションは不可能なのだろうか?

僕等があまりの迫力に立ちすくんでいると、あの少年が間に入ってきた。
「あはは、すみません。彼はシャイなモノでして」
苦しい。苦しすぎるよ、その言い訳。絶対そういう問題じゃないと思う。

「あ、ほら君。大事なお客様をこんなところにいつまでも立たせているわけにはいかないよ。
 丁重にお部屋まで案内して」
そういって彼は誰もいないはずの方に向けて話しかける。

だけど、それにはちゃんと答えが返ってきた。
「承知いたしました」
『え?』
その場で意識のある旅行メンバー全員が驚きの声を上げる。
だって、そこには誰もいなかったはずなのに、いつの間にかこれまた上半身裸の男性が立っていた。
なんなの、この存在感の無さは。僕も散々空気とか言われてきたけど、そんなレベルじゃない。
というか、いくら酔っているとはいえ、あのクロノさえも気付かないなんて。

また、その人の外見はさっきの巨人とは全く違う。
決して筋骨隆々と言うわけではないのだけど、引き絞られた無駄のない肢体。
なぜかその右腕には漆黒の布が巻かれていて、同色の腰巻をしている。
だけど、何よりも目を引くのは……
「凄いですね、この旅館。裸エプロンならぬ裸ドクロ。
 青少年の夢を木っ端微塵ですよ」
そう、ヴァイス陸曹の言うとおり(?)、彼は奇妙な白いドクロのような面を付けている。
そのせいで、彼の顔は全く分からない。はっきり言って、不審者丸出しである。
大丈夫なの? この旅館。

そんなヴァイス陸曹の言葉に対し、彼は動じた風もなくこう答えた。
「御褒めに預かり光栄です。私に目を付けるとは、お客様もお目が高い」
「いえ、別に目を付けたというわけではありませんから。単純に、彼があなたに僕たちを任せただけですから。
 というか、そもそも気付きもしなかったのに目を付けるも何もないでしょう」
「イッツ・クール。では、ご案内いたします」
なんだろう、会話が微妙にずれている。



  *  *  *  *  *



幸い、と言えばいいのか。とにかく従業員に比べて旅館の中は比較的にまともだった。
むしろ、かなり古い建物のはずなのに非常に手入れが行きとどいている。
どうやら、特殊なのはあの警備員さんと案内してくれた人だけらしい。
そのことに、心の底から安堵する。
(よかった。本当によかった)
正直、あんな人ばかりだったら骨休めも何もあったもんじゃないし。

うん、だから気のせいだ。
窓の外に、なんだかよくわからないオニヒトデのお化けみたいなのがウヨウヨしてるのは気のせいに違いない。
そう、ましてや一際大きいそれの上に人なんか乗ってないし、「ジャンヌー♪ おぉー、ジャンヌ~♪ 貴女はいずこ~♪」なんて声(歌?)は絶対に聞こえない。

部屋は二つに分かれていて、僕と同じ部屋にはグリフィス補佐官の他に、士郎とエリオがいる。
もちろん、二人共まだ熟睡中。
もう片方の部屋には、クロノとアコース査察官、それにナカジマ三佐とヴァイス陸曹。
あっちは大丈夫だろうか?
ちなみに、ザフィーラは散歩に出かけてしまった。

と、そんなことを思っているうちに士郎が起きてきた。
「どうしたんだ? 二人とも。なんかやつれてないか?」
「「だ、大丈夫(です)」」
正直、士郎が羨ましくて仕方がない。
いつの間にか、外は元の静寂を取り戻していたのだから。
まあ、この士郎が今の今まで起きなかったのだから、きっと危険はないに違いない。そう信じよう。

「失礼いたします」
そんな声がふすまの奥から聞こえたかと思うと、丁寧にふすまが開けられ人が入ってくる。
端正な顔立ちに、少々長めの黒髪。几帳面な性格なのか、一つ一つの動作はどこか堅苦しささえ感じる。

だけど、一番気になるのは……
(な、なんでこの人はこんな陰気な表情をしているんだ)
そう、なんというか、まず目が死んでいる。
そして、全身から溢れるどんよりとした雰囲気。
例えるなら、頑張りすぎて無理をした挙句、燃え尽きちゃったような感じの人だ。

その直感通り、部屋の設備や金庫の使い方、あるいは室内電話の番号などを説明している間、終始彼はバツが悪そうな表情をしていた。
なんだってこんな人をこの旅館は採用したのだろう。
いや、何か理由があって今だけこんなにつらそうにしているのかもしれないが、明らかに場違いと言わざるを得ない。この旅館は、絶対に従業員の採用基準が間違っている。

しかし、そんな僕の心中とは別に、なぜか士郎が奇妙なことを言い出す。
「失礼。どこかでお会いしたことがないだろうか?」
「いえ、私は『貴殿』とはお会いしたことはございません」
「ふむ、そうですか。何か既視感があったのですが、気のせいでしたか」
ただ、士郎はどこかそれでも釈然としていないようである。

だから、だろうか。切り口を変えて話を振る。
「ところで、何か武術をやっておられるようですな。
あ、いえ、他意はありません。ただ、非常に素晴らしい足運びや姿勢なモノですから」
「ええ、剣を少々。その他に、いろいろなモノに手を出しております。
 以前は、とある高貴な方にお仕えしていたのですが、不義を働きまして……。
 その上、『人の心がわからない』などといった暴言まで吐いてしましました
 他にも……………………」
「申し訳ない。忘れてくれ」
そういって、士郎はそれ以上の詮索をやめた。
さすがに、そんな話を無理に聞き出すのは気が退けるというものだろう。
というか、話せば話すほど陰気なオーラが強くなる。
これ以上この人の身の上話を聞けば、カビが急速発生しそうだ。

「では、何か御用がありましたら、そちらからお呼びください」
そういって、この部屋にやたらと陰気な空気を振りまいた人物は去っていった。

なんだろう、慰安旅行のはずなのにどっと疲れた。



SIDE-ゲンヤ

ああ、あっちはちゃんと慰安旅行を満喫できてんのかねぇ。
どうも、そろいもそろって生真面目過ぎる。
こんな時でも、あれこれ職場のことを気にしてしっかり休めてねぇんじゃないかとこっちが心配になるぜ。

と、そんなことを考えていたところで、荒々しくふすまが開け放たれる。
そこから現れたのは、明らかに場に不釣り合いで、なおかつ季節感をおおいに無視したアロハシャツの男。
「よお、兄ちゃん。くつろいでるか? 酒持ってきたからよ、いっちょ飲もうぜ」
「っておお、アンタもいたのか! いいねぇ、ナカジマ三佐たちもどうっすか?」
「ああ、それじゃあ僕もご相伴にあずかろうかな。クロノ君もほら」
「飲んでばかりというのもどうかと思うが……」
外の冷たい空気に触れたおかげか、クロノ提督の酔いは少しばかり冷めたようだな。
さっきまでと変わって、お堅い口調が戻ってきている。

けどまぁ、アコース査察官はそんなことを毛ほども気にせず酌をしてるがな。
「まま、いいじゃないか。はい、グイッと」
「そうだぜ兄ちゃん。せっかくの酒だ、楽しく飲まなきゃ罰が当たるってもんだ。
それにな、顔見知りの金ぴか野郎の蔵からガメてきたもんだから、味は保証するぜ」
と、まあそんな感じでクロノ提督を巻き込んで再び酒宴が開催した。

俺自身向こうが気になっちゃいるんだが、それ以上にこの青髪のしっぽ頭が持ってきた酒の匂いが気になる。
今までに嗅いだこともねぇ、それはもう芳醇な香り。
いけねぇ、酒飲みの端くれとしてあれを無視するなんざ無理だ。

俺の中の葛藤はあっさりと決着がつき、酒宴に参加することに決める。
「おうおう、若ぇのばっかりで盛り上がんじゃねぇよ」
「うむ、何よりこのような美味い酒を余の居ぬところで飲むなど言語道断。というわけで、余も混ぜよ」
ん? なんか、聞きなれない声が混じった気がするな。

声の方を見ると、見覚えのない2mはあろうかという、赤毛の大男がいつの間にか居座っていた。
「ところで、あんた誰だ?」
「細かいことは気にするでない。酒宴が開かれ、そこに一人の男がいる。
 ならば、それは“のんべえ”以外の何者でもなかろう」
「はっ、ちげぇねぇ。さすがは彼の征服王。言うことが違う。そら、おっさんアンタも飲め」
「おっとっと。まあそうだな。んなこと、聞くだけ野暮ってもんか」
「わははは、そのとおりである。
どうじゃ、光の御子。ここは一つ余とお主、どちらが先に潰れるか勝負といこうではないか」
「おもしれぇ、のってやるぜ。ほらついでだ、厨房から肴もガメてきてあるぜ。
 黒んぼの野郎が作った奴だからな、味は確かだ」
「ん? なんだか士郎の味とよく似ているな?」
「ああ、言われてみればそうだねぇ。まあ、おいしいからいいじゃないか」
ほぉ、こんな寂れた旅館に士郎並みの料理上手がいやがるのか。
って、おいおい、ホントにこりゃあ士郎の味じゃねぇか。何もんだここの板前は?

そんな感じで気分よく酒を煽っていると、勢いよくふすまが開けられる。
決して乱暴じゃねぇのが開けた人間の性格を表してんな。
「待たれよ!! 光の御子ともあろう御方が、つまみ食いとは何事です。
 征服王もだ! 貴公、街へ買い出しに行くのではなかったか?」
「おう、そんなもんはとっくの昔に終わっとるわい。だからほれ、こうして労働の後の酒に舌鼓をうっとるのよ。
 いや、余からすれば容易いことであったぞ」
「であれば、次の仕事をするのが筋であろう! たしか、まだ雪掻きが残っていたはずだ。
 光の御子も、早く厨房の手伝いに来てください」
「ああ? だってよう、黒んぼの奴がアレコレうるせぇじゃねぇか。
 やれ使う洗剤の量が多いだの、やれ盛り付けに気をつけろだの……おめぇ、よくアレと一緒にいられるな」
ん? 泣き黒子が印象的な美丈夫が入ってきたと思ったら、突然二人に対して説教かましだしやがった。

「確かに、少々神経質なところのある御仁だが、客商売というのはそういうものでしょう。
 って、なにを……!?」
「いいからよ、おめぇもこっち来て飲め!!」
「む、いいことを思いついた! 最後まで残っておったモノの命令に負けた者は従うというのはどうだ?」
「もしかしてよ、負けたら臣下になれとか言い出すのか?」
「うむ、察しが良いな光の御子。これもまた一つの戦い。ならば、敗者は勝者に従うが道理。
 やはり、余はお主らが欲しくてたまらんのよ」
「はっ、まあ負けなきゃいいわけだからな。
 おめぇはどうする? まさか、この勝負から逃げるのか?」
「くっ、いいでしょう。挑まれて逃げるは武人の恥。
私が勝った場合は、お二人ともしっかり働いていただきますよ」
そうして、全員潰れるまで浴びるようにして酒をあおったってわけだ。
後半からは意識が飛んじまったが、ギンガに酒量制限されている最近じゃ味わえない気分の良さだったことだけは覚えている。
まあ、次の日は全員揃って二日酔いで苦しんだがな。

正直、おっさんの体には堪えたぜ。



SIDE-ザフィーラ

「ふむ、いいところだ。心が洗われる」
森の中を散策しているが、都会にはない澄みきった空気が全身を満たしていく。
時折チラホラ見かける小動物の足跡に、つい狩猟本能が刺激されるな。
せっかくだ、一度野生に還るのも悪くはないか(注:そもそもあんたに野生なんてありません)。

そうして獲物の行方を探そうと匂いをたどろうとしたところで、奇妙な音が聞こえることに気付く。
「………………………これは、風斬り音か」
それも、桁外れに鋭い。シグナムでさえ、これほどの鋭さは出せぬかどうか。
狩猟本能以上に掻き立てるモノを感じ、方針を変更しそちらに向かって見る。

そこにいたのは……
「ふっ! はっ!」
投げ上げた薪を一瞬のうちに割っている陣羽織姿の長髪の男だった。
だが、その手にあるモノが尋常ではない。
槍のような長さの刀。それを、特に苦もなくその男は自在に振っている。
アレだけの長さがあれば、扱うのは至難の業……いや、そもそも扱える人間がいたこと自体が驚きだ。

そういえば衛宮……いや、今は遠坂だったか。
まあ、とにかく。奴の獲物の中にアレとよく似た物があったはずだ。
まさか、同じような武器をとるモノがいようとはな。

だが、その風切り音が突然に止む。
「ほう、これは面妖な。奇妙な気配が近づいたと思えば、なぜこのような場所に化生がいる?」
「化生ではない。守護獣だ」
「おお、まさか言葉を解するとは思わなかったぞ。これはますますもって面妖な」
なにが楽しいのかはわからんが、こちらの反応にまるで子どものように喜んでいる。

「このようなところで何をしている?」
「なに、見ての通り薪割りよ。お主もそこの宿の客であろう?
 私はそこの者でな。こうして、上役から与えられた役目をこなしていだけよ」
これほどの剣腕を持った男がこのような場所で、本当にただ薪割りをしているとはどういう状況だ?

少々、この男に興味がわいたな。
「それほどの腕があって、なぜこのような場所でくすぶっている?」
「いや、別に好き好んでいるわけではないのだがな。
 ただ単に、今この宿にいる者は皆無職というやつなのだ。
 とりあえず、手に職を付けておこうとしたわけよ」
「外に出れば、もっと別の職もあるだろうに」
「それがな、なかなか上手くいかん。
 ほれ、昨今話題の派遣……だったか? 我等はその様なものでな。
多少事情は違えど、揃いも揃って所謂派遣切りのようなモノにあったのだ。
 その上、難儀な話だが雇い主(マスター)なしに外に出るわけにはいかぬときた」
事情はよくわからんが、新たな勤め先もみつけずに外に出るわけにはいかんといことか。
まあ、働き口もなしに山を降りても、路頭に迷うのが関の山かもしれん。
そういう意味で言えば、納得は出来るか。

「そうか、ならば降りる時があれば尋ねてくると良い。その時は働き口の斡旋ぐらいはしよう」
「おお、それはかたじけない。その時があれば、是非頼らせてもらおう。
 何分ロクな雇い主に恵まれなくてな、その時は良い雇い主を紹介してもらいたいものだ。
 いやはや、渡る世間に鬼はなしということか」
「……あーだっりぃ~~……なぁそこの忠犬。できればさぁ、オレにもいいところ紹介してくれねぇ?
 贅沢はいわねぇけどよ、しんどくなくて高給で週休6日くらいの仕事ってある?」
と、努めて視界から追い出していた全身刺青のバンダナ男が、労働を舐めきった戯言を口にする。
というか、この男さっきからずっと割るはずの薪の上に座ってサボっていた。
その全身から気だるげな気配を振りまき、やる気の欠片も見せないその様子は、本当に働く気があるのかすら疑わしい。

「いいだろう。その時は、特別きつい仕事先を紹介してやる。
 そうだな、エースオブエースの射撃訓練の的などどうだ? ただ逃げるだけでいいから、ある意味楽だぞ」
「うっわ。この犬、人の話全然聞いてませんよ!?
それに自慢じゃねぇけど、オレってメチャクチャ弱いからさ、的にすらならねぇと思うんだ。もっと別なの紹介してくれよ」
「それならせめて、与えられた仕事くらいしっかりこなせ。そうでなくば紹介することすらできん」
「これでも、駄犬は駄犬なりに頑張ってるんですけどね~。
つーか俺を真っ昼間から働かせるのが間違ってるんだよな。まったく、溶けるぜぇホントによぉ」
まったく、世も末だな。最近の漢はここまで堕落したのか。

よし、ここは一つ先達として気合を入れやろう。
このままこのような若者の未来が閉ざされるのは忍びない。
「小僧、腹と奥歯をくいしばれ!!」
「は? 5ットン!?」
瞬時に人間形態を取り、思いを乗せた熱い拳で気合を入れる。
ここまで曲がってしまった根性を直すには、やはりこうして叩いて直すよりほかはない!!

「どうだ?」
「ゲフッ……いや、どうもこうもねぇし。いきなり肉体言語に走るのはやめようぜ。
 猪木やアニマルだってもう少しマシだと思うんだけどよ。って、猪木とアニマルって誰だ?」
む? あの燃える闘魂を知っているのか。やはり気合を入れる一番の方法はこれだと思うのだが……。

「よし、たった今アンタに『燃える鉄拳(犬)』の称号をやろう。いい感じの破壊系称号だと思うんだけどよ、くれぐれも『人間凶器』とか『人間最終戦争』とかに進化しないようにしてくれ。オレのために。
 ってか、アンタの周り多いよね、そういうの。青いのとか、その姉とか、なにより青いのの上司」
破壊系称号か、こいつの言うとおり一番似合いそうなのはやはりたかま……ゲフンゲフン。
下手なことを考えるべきではないな。アレと『お話し』することになりかねん。
というか、なぜこやつはそんなことを知っている。

なんにせよ、ヴィヴィオには淑やかに育ってもらいたいものだが……無理か?



SIDE-エリオ

う~~ん、頭が痛い~。
どうしたんだろう? なんだか、クロノ提督たちと合流した後からの記憶がない。
そのせいか、せっかくの夕食もお茶碗20杯しかお代りできなかった。
やっぱり、体調が悪いのかなぁ?

「さて、食って寝てばかりいても仕方ない。
 ここは温泉旅館だ。ならば、温泉に入るのが当然の流れだな」
とは、士郎さん。
温泉か。僕は入ったことがないけど、普通のお湯と違って色々な成分が入っていて体にいいんだよね。
そういえば、キャロは入ったことがあるのかな? 以前は、いろいろなところを放浪していたらしいし、もしかしたら誰も知らないような温泉も知っているかも。

「あ、それじゃあ、クロノ達も誘おうか。
さっきの夕食のときにも来なかったし、ちょっと様子を見て行こうよ」
「そうですね。旅館の方の話だと、既に酒盛りをしていたらしいですけど、いい加減終わってるはずでしょう」
なんだろう? お酒って聞くと頭が余計に痛くなる。

まあ、それはともかく。
お風呂の支度をして、クロノ提督たちを誘いに部屋の外に出ようとしたところで、士郎さんが待ったをかける。
「む? ザフィーラ、ここはペットの入浴は禁止されているぞ」
「待て、誰がペットだ!?」
狼形態で言っても説得力無いよ。むしろ、外見的には見事なまでにペットだし。

「そういう意味で言っているのではない。風呂に入るのであれば、人間形態になれと言っているのだ」
「むぅ、仕方があるまい。こちらの方が楽なのだが……」
などと、珍しくブツブツ文句を言いながらも、結局ザフィーラは人間形態を取ることにしたみたい。
僕としては狼の姿の方がなじみ深いから、ちょっと違和感があるんだよね。

で、クロノ提督たちの部屋まで来たんだけど……
「あの、士郎さん。これって……」
「ああ、見事なまでに酒臭いな。ふすまを閉めていてこれとは、どれだけ飲んだんだ?」
「えっと、誘うのはやめた方がいいんでしょうか? お酒が入っている時にお風呂に入るのは危ないですよ」
「でもまあ、何も言わずに入ると後でうるさいかもしれないし、一応様子だけ見てみようか」
最後にユーノさんがそう締めて、僕たちは意を決してふすまを開ける。

すると、まるで視覚化できてしまいそうなほどのアルコール臭が溢れ出てきた。
そして、中からこれ以上ないほどに上機嫌な声がかけられる。
「おや? 士郎君じゃないか。どうしたんだい?」
何が楽しいのか、「アハハハハハ」と意味もなく笑いだしながらこちらを見るアコース査察官。
うわぁ、ものすごい真っ赤。

「ああ、これから風呂にでも行こうと思ってな。君たちも誘おうかと思ったのだが、その様子では無理か」
「なぁに言ってんですか。俺たちゃ、み~んな素面ですぜ」
「おう、その通りだ! せっかくだ、雪見酒としゃれこむのも悪くねぇ」
「ところで、アレクセイさんたちはどこへ?」
「ああクロノ君、それなら心配いらないさ。彼らなら、さっきオーナーに鎖で引き摺られて行ったよ」
なんだかよくわからないけど、他の人たちまで巻き込んでいたみたい。
だけど、鎖で引き摺られて行ったことのどこが心配いらないのかな?

「待て待て、そんな泥酔した状態で行くな!! まったく、少しは節度というモノをだな」
「そうですよ。権利には義務、自由には秩序が必要なのです。いい大人なら、節度ある振る舞いをしてください。
 ほら、ここにお子さんだっているんですから、よいお手本にならなければなりませんよ!」
あれ? 一番節度なさそうな外見の人が何か言ってる。

って……
「うわ!? い、いつからいたんですか!!」
「あら、お気付きでなかった? お部屋を出たあたりからお側に控え(ストーキングし)ておりましたよ。
 これは失礼いたしました。なにぶん、気配を消すのが癖になっておりまして」
ああ、びっくりした。一体どこの不審者かと思っちゃったよ。いや、十分すぎるくらい不審なんだけど。
特に、白いお面で顔が見えないあたりとか、右腕を黒い布でぐるぐる巻きにしてる所とか。
あと、なぜか天井から逆さ吊りになっているあたりなんて、もう不審過ぎるよ。

「いや! 僕たちは全~然酔ってなんかいないぞぉ、士郎。
 それに、せっかく温泉に来たんだからその温泉に入らなくてどうするんだ。ねぇ、三佐」
「おうよ、提督。その上、ちょうどいい具合に月まで出てやがる。風情があるじゃねぇか」
足元がおぼつかないクロノさんと、妙に口調が荒っぽいナカジマ三佐。
あの、絶対酔ってますよね。

ヴァイスさんやアコース査察官も似たような感じだし、この人たちを連れて行っても大丈夫なのかすごく不安だ。
「はぁ、仕方がありませんね。ご安心ください。風呂場には私の同僚がおりますから、彼らにこの方たちを見ていてもらうよう頼んでおきましょう。
 それなら、皆さんが目を離しても大丈夫かと」
うわぁ、見た目に反してなんて人間の出来た人だろう(失礼)。
恰好はアレだけど、こういう気配りができる人って本当に尊敬するなぁ(非常に失礼)。

「申し訳ない。お手数おかけします」
そう言って、士郎さんがお面の男性に頭を下げている。
なんか、その背中が非常に物悲しい気がします。



  *  *  *  *  *



場所は変わって、ただいま脱衣所。

結局クロノさんたちも一緒にお風呂に来たのだけど、そこで待っていたのは……
「「「「お待ちしておりました」」」」
な、なんでさっきの人と同じような格好をした人がこんなにいるの?
それぞれ背格好は違うのだけど、みんな全く同じ衣装を着ている。
まさか、これがここの制服とか言いませんよね?

さっきの人と同じような格好だけど、違いがあるとすれば右腕に巻かれた黒い布がないことくらい。
僕たちの前にいるのは四人だけだけど、その他にもたくさん同じ格好の人がいて、それぞれ脱衣所の掃除をしたり、あるいは体重計みたいな備品の整備をしたりしている。
一人でも十分すぎるくらい不気味な格好だったのに、こんなにわらわらいるとより一層気味が悪い。

そういえば、努めて気にしないようにしていたけど、この旅館ですれ違った人の大半が同じような格好だった気がする。何でこんなに自信がないかというと、すれ違った気はするのだけどどうにも確信が持てないから。
まるで気配を感じないせいで、勘違いした気になってしまったんだ。

僕が思わず顔が引きつるけど、そんなことは気にした素振りも見せず、代表者と思しき人が前に出る。
「そちらのお客様は我々にお任せください。もしもの時は、こちらで看護及びお部屋までお送りします。
 我等四人は、我々の中でも特に観察と医術に長ける者たち、安全は保証いたしますのでご安心ください」
えっと、つまり従業員の方々の中でもちゃんとした知識のある人たちってことですよね。
なんか、若干ニュアンスが違う気がするんだけど……。

さすがの士郎さんも、この異様な光景にどこか呑まれているようで、声にも力がない。
「え、ええ。では、お願いします」
「「「「御意!!」」」」
そう言って、彼等は突然僕たちの前から姿を消した。

僕達が困惑していると、天井から代表の人の声が聞こえてくる。
「我等の姿があっては、ゆっくりとお寛ぎになれないでしょう。
 ですので、こうして姿を隠しているのでございます。
それでも常に側に控え(ストーキングし)ておりますから、ご安心ください」
『は、はぁ……』
えっと、これも一種の気遣いだよね。
物陰から監視されているみたいで、かえって落ち着かないけど……。



SIDE-ヴァイス

「ああ~~~」
と、自分で言うのもなんだがおっさんくさい溜め息をつきながら湯に浸かる。
外が寒い分、温泉の熱さが身にしみるぜ。

それにしても、今も俺たちの様子を見ているらしいお面には感謝だな。
あのお面の連中が持ってきてくれた薬を飲んだが、とんでもなく不味かった。
不味かったのだが、その代わりだいぶ頭がはっきりしてきた。
おかげで、露天風呂から見える絶景と湯の心地よさを堪能できるってもんだ。
なんというか、見た目はとんでもなく怪しい奴だけど人は見た目じゃないってことか。
今も、旦那方の背中を流してるしな。

「しっかし、あの二人を見てると男しての自信がなくなってきませんか? 提督」
「言うな、陸曹。そもそも、あのマッチョコンビと比較するのが間違ってるんだ」
まあ、それはそうなんでしょうけどね。
ガチで白兵戦タイプのあの二人の場合、自然とあのガタイになるのはわかるんだ。
貧相な体をした格闘者なんて、そもそも存在として間違ってるしな。

だけどよ、武装隊に復帰することを決意して以来、俺も鍛え直しているんだがあの二人のようになれる気は全くしねぇ。
特に士郎の旦那の方は、全身に刻まれた傷跡もあってモロに古強者って感じだしな。
別にああなりたいってわけじゃないが、どこか羨望にも似た感情を持っちまうのは男の性だろう。

「で、そのへんお前さんはどう思う?」
「えっと、僕もいつかは二人みたいになりたいと思いますよ」
だろうなぁ。この年頃のガキなんて、だいたいああいう人間に憧れる。少なくとも俺はそうだった。
強い男ってのは、ただそれだけで憧れの対象になるもんだ。
特に、エリオのように実際に騎士を目指しているような奴なら尚更だろう。

だが、それを聞いて士郎の旦那は顔をしかめる。
「あまり、私は手本にはならないと思うのだがな。
 それに、私のように危なっかしいことをしていると、フェイトが泣くぞ」
あ、自覚あったんすね。
しかし、それは旦那にも十分言えることだと思うんですが。
まあ、旦那みたいな無茶した挙句、エリオが隻碗になったりしたらフェイトさんは泣くどころの話じゃないだろうけどな。下手すると、マジで首を吊りかねねぇし。

まあそれはそれとして、そんな二人のある意味対極にいるのがこっちの基本内勤組の二人。
「じゃあよ、あっちの二人みたいなヒョロヒョロはどう思う?」
と言って指し示すのは、ユーノ司書長にアコース査察官。
こう言っちゃあなんだが、あの二人に比べて見劣りするどころの話しじゃねぇ。
顔立ち同様、見事なまでの優男体形。つまり、余計なぜい肉はないが同様に目立った筋肉もない体形ということ。
まあ、あの二人の場合仕事が仕事だから体を鍛える必要性はそれほどない。
となれば、これまた当然と言えば当然なんだが。

「えっと、僕もいつか二人みたいに仕事のできる人間になりたいですよ」
ほぉ、ずいぶんと世渡りがうまくなったじゃねぇか。
ユーノ司書長は当然として、アコース査察官も勤務態度こそアレだが実際には敏腕だからな。

「あははは。うん、ありがとエリオ」
「そうかい、それじゃあ今度仕事のさぼり方を教えてあげよう」
「ロッサ。そのこと、騎士カリムとシスターシャッハに……」
「ご、ごめんよクロノ君! お願いだから、カリムとシャッハにだけは秘密にして」
おお、一瞬にして土下座しましたか、アコース査察官。
そんなに騎士カリムとシスターシャッハが怖いのかねぇ。
いや、シスターシャッハは普通に怖ぇか。俺の場合だと、シグナム姐さんにバレる様なもんだからな。

まあ、それはそれとして、こっちでチビチビやっているナカジマ三佐も実はかなりすげぇんだよな。
もういい年だろうに、体に緩んだところが見られねぇ。旦那たちほどじゃないが、それでも俺やクロノ提督以上の肉体を維持してやがる。
「それにしても、ナカジマ三佐もかなり鍛えてるんすね」
「ん? まあな。魔法抜きなら、部隊内でも俺と殴りあって勝てる奴はいないぜ」
「それって、ギンガさんもですか?」
「おうよ。魔法つかわれたら無理だが、魔法抜きなら今でも無敗だ。
 クイントが死んだ後、アイツらを鍛えたのは一応俺だぜ。
それに、若ぇ頃は俺もやんちゃしたもんだ。その度にクイントの奴に叱られたけどな、拳でよ。
ま、最近はさすがに膝と腰に来てキツイんだがな」
寄る年波には勝てねぇってことか。つーか、この年でそんだけできるだけで十分すぎると思うが。
やべぇな、俺も魔法抜きでやったら勝てねぇかも。

「しっかし、スバルもそうだが、いい加減ギンガの奴も仕事以外に目を向けてくんねぇかな?
 下手すると、マジでお局様になっちまうぞ」
「それを言い出したら、ウチのフェイトもです。士郎が結婚して諦めも付いたはずですし、そろそろ次の恋を探して欲しいんですが……」
「いや、それならはやての方が重症だろう。
 アレの場合、そこの騎士殿たちのおかげもあって男の影さえない始末だ」
なんつーか、気苦労の絶えない父親と兄貴の集いって感じだな。
あの人たちも大概仕事大好き人間だし、そりゃあ心配にもなるか。
ラグナ、頼むからお前はこうならねぇでくれよ。妹のそんな心配をするのは勘弁して欲しいからな。

だが、そこで士郎の旦那の発言にザフィーラの旦那が反論する。
「何を言う。我等は、単に主に相応しい男かどうかを見極めているだけにすぎんぞ」
「だからと言って、お前とヴィータ、そしてシグナムの三人に勝たねば交際は認めん、などという条件は間違っている。そんな事が出来る人間、次元世界全体でもいるかどうか……」
「別に勝つ必要はない。単に我等を認めさせられるかどうかの問題だ」
「では聞くが、はやてに近づこうとした男が尽く半殺しにされているという話に覚えはないか?」
「ああ、それはヴィータの仕業だろう。主に近づく男は、とりあえず殴ることにしているらしいからな」
「まったく、あのウリ坊は……」
なんか、酷く疲れてるっすね。ヴィータ副隊長も、ちょっと心配し過ぎな気もするしな。
たしかシャマル先生とリイン曹長が推進派で、全然うまくいかんと嘆いていたか。

「となると、あのメンバーの中で一番可能性があるのはなのはか」
「だがな、クロノ。その最有力候補の相手がこれだぞ。
私が言うのもなんだが、決心するまでに半世紀かかりかねん。
 その上、仮に決心しても恭也さんと士郎さんがいる。あの二人を説得するのは、真実命がけだ」
「え、なに?」
ジト目を向ける二人に対し、言っている意味が分からないらしくキョトンとしてる司書長。

それを見て、二人は盛大に溜息をつく。
「「はぁ~~~……。エリオ、とりあえずアレのようになってはいけないぞ」」
「は、はぁ」



SIDE-クロノ

風呂を上がってだいぶ経った。
まだ十歳のエリオはすでに床につき、他の面々は別室にて酒を飲んでいる。
というか、もう完全に場の雰囲気は宴会モード。
いったい、これで何度目だ?

手に持った酒をあおりながら、陸曹がふっと思いついたようにこんなことを言う。
「なんつーか、ここも妙な旅館っすよね。いるのはどいつもこいつも男ばっかり。
 まるで男子校じゃないっすか」
ああ、それは僕も思っていた。
普通仲居さんぐらいいてもよさそうなのに、ここにいるのは男ばかり。
それも、そのほとんどが仮面をつけた不審者。
こんなことで、この旅館はちゃんとやっていけるんだろうか。

と、そこへオーナーがやってきて事情を説明してくれる。
「う~ん、僕としても女将さんとかがいてくれると助かるんですけどねぇ。
 ただ、ウチには天然ジゴロや呪い級の女ったらし、略奪婚上等の人たちもいるので、迂闊に女性を雇うと大変なことになるんですよ」
そんなのばかりなのだとしたら、ここは事実上女人禁制の旅館だな。
これではフェイト達に紹介するわけにもいかない。

「まあ、僕の知り合いの女性陣は接客に向かないって言うのが一番の理由なんですけどね。
 だって、お客さんを食っちゃったり洗脳したり、あるいはちょっとセクハラしたらその場で手討ちにしちゃうような人を置くわけにはいかないでしょう?」
どうやら、オーナーの知り合いの女性はことごとく物騒な人たちらしい。
セクハラに関しては自業自得なのだろうが、それでもその場で手討ちにするのは不味い。
旅館で起こる殺人なんて、ミステリー小説の中だけで十分だ。

「ああ、もし男色の方がいるんでしたら適当に見繕いますよ。
 生憎受けの人はいませんが、責め系の人には事欠きませんので……」
「いや、さすがにそれは……」
「あ、そうですか。時代が変わったんですねぇ。昔は同性に手を出すのは珍しくなかったものですが、やっぱりそういうのは男女間でするほうが建設的ですよね。
僕の知ってる人は『真の英雄の前に男も女も関係ないと知れ』なんて言い出して、僕(自分)にフラグ立てようとするんですよ。……本気で死んでくれませんかね、あの人」
なんだかよくわからないが、彼は彼でいろいろ苦労しているらしい。

「ホント、何であんな大人になっちゃったんでしょうねー。
 でも、将来は変えられないんですよねー。
 ああ、未来がわかってるってこんなに鬱なんですねー」
どうやら、彼はその人物の後を継いだりしなければならない立場にいるらしい。
相当に困った性格の人物のようだし、そんな人の後を継ぐことに明るい未来を描けないのだろう。

と、そこへ話を聞いていたのか士郎が彼の手を握りしめながら同意を示す。
「わかる。その気持ちは凄くわかるぞ」
「ホントですか? よかった、ならお兄さんとは仲良しになれますね。
 嬉しいなぁ、よくやく大人になっても友達になってくれそうな人に会えました」
「安心すると良い。俺も、昔は未来自分の未来に絶望したりしたものだが、今はこうしてその未来を乗り越えた。
 きっと、君にもできるはずだ」
「ああ、すいません話聞いてます? 僕の場合もう変えようがないし、何より大人になっても友達でいてほしいって言ってるんですけど」
どうやら士郎の方もかなり酒がまわっているらしい。口調が地に戻っているしな。
それにしても、人の話を聞いているんだかいないんだか……。

なんとか理解してもらおうと、ギルオーナーは丁寧に説明し、その甲斐あって何とか士郎は理解したらしい。
で、その答えは……
「む。すまん、それは無理っぽい。なんだかよくわからんが、育ちきった君とは付き合えないと、俺の直感が告げている。根本から嗜好が合わないとかなんとか……」
「そんな……ショックです。マトモそうに見えて、お兄さんも子どもが良いというんですね。育ちきったら趣味じゃないなんて、なんて偏った人なんだろう」
「なるほど、士郎はそういう趣味だったのか。実年齢では二十近く離れていたフェイトにちょっかいを出したのは、そういうワケか」
「あ、やっぱりそういう人なんですね」
「どうもそうらしい。その上、大人になったらあっさり別の女性と結婚したからな」
「そんなワケあるか―――――!! 俺は別にフェイトに手を出した覚えなんてないぞ!!」
だが、実際問題としてそういう図式なんだ。諦めろ。

まあ、若干いい気味だ、という気持ちはなくもない。
これまで幾度となくエイミィや凛に弄られてきたが、その度に時に僕を生贄にし、時に見捨てて逃げてきたじゃないか。この程度の仕返しは、これまでの報いと思って受け入れてくれ。

「ところで、あっちでもお連れさんが呼んでますよ」
「あ、そうですか。ほら、行くぞ士郎」
「む? ああ。では、失礼する」
「ほどほどにしてくださいねぇ」
と言って、オーナーに送り出される僕たち。

「あのさ、二人とも。今更こんなこと言うものアレだけど、限度はわきまえようね」
「そうですよ。お二人ともいい年なんですから、自分の限界くらい守ってください」
とは、ユーノとグリフィスの未成年コンビ。
ナカジマ三佐たちは二人も引き込もうとしたのだが、二人は『未成年』という楯を使いなんとかその魔手から逃れている。その程度の理性は残っているらしい。

僕としてもあの酒乱たちからは逃げたいのだが、逃げられる気がしない。
「俺の酒が飲めねぇってのか!!」なんて言われて絡まれた挙句、無理矢理ラッパ飲みさせられる位なら、まだ自分から参加した方が被害は少ない。ま、悪あがきに過ぎないんだろうけどね。

どうせ、急性アル中寸前まで酒を飲まされ、地獄の二日酔いに苦しむことになるのさ~(←ヤケ)。



SIDE-ヴェロッサ

「はっはっはっはっ。いやぁ、昨日は飲み過ぎたみたいだねぇ。まったく頭が痛いよ」
「くぅ、そう思うのなら音量を下げてくれ。あ、頭が……」
そう言って頭を抱える士郎君。
うん、僕も気持ちはわかるよ。でも、正直ここまで来ると笑うしかないと思うんだ。
僕らの他にも、ナカジマ三佐やヴァイス陸曹も頭を抱えてうなっている。もちろんクロノ君も。
実際、僕自身笑ってこそいるが頭がガンガンして辛いんだよね。

「まったく、だからあれほど言ったんだよ。
ほら。いいかい、エリオ。これがダメな大人の姿だよ」
「は、はい…」
う~ん、なんだか酷い言いようじゃないですか? ユーノ先生。
まあ、自業自得と言えばそれまでなんだけど。
それにしても、エリオだって昨日はバスでかなり飲んだはずなのに、今日は全然尾を引いていない。
そうか、これが若さか。僕も若いつもりだったけど、もう年かなぁ。なんてね。

「みなさん、堪能していただけたようでなによりです。
 今後とも御贔屓に」
と、旅館を後にしようとする僕等を見送りにきたギルオーナー。
いや、彼もマメだねぁ。まあ、接客はこれくらいするモノなのかもしれないけど。

ところが、ここにきて士郎君は何やら首を傾げている。
「むぅ。昨日も思ったのだが、どこかで会ったことはないかね?」
「あれ、覚えてませんか? まあ、無理もないですね。その時は服装とか違ってましたから」
しかし、服が違ったくらいで、これの少年のことを忘れるものだろうか?

どこか釈然としないその様子に、彼はもう少しだけヒントを与えてくれる。
「ん~、服というより格好ですかね。それに、僕自身その時のことは他人事みたいな感じなんですよ。
 同じだけど、接点がないみたいな。
 そうですね、ボクはきっとお兄さんが特に嫌いな人間ですよ」
何やらとんでもないことを言っているはずなのに、少年の声に嫌味は全くない。
まるで、ただ単に淡々と事実のみを述べているかのよう。

「まあ、縁があればまた会うこともあるでしょうし、もしかしたらそのうち思い出すかもしれませんしね。
 ですから、あんまり気にしない方がいいと思いますよ。
 あっそれとこれお土産です。よかったらどうぞ」
「ああ、これはどうも御丁寧に」
そう言って、もはやおなじみになりつつある、いつの間にか背後に現れた件の仮面の従業員さんから受け取ったのは、かなりの大きさがある薄い箱、計8つ。
重量はそこそこあるし、多分定番の銘菓とかかな?

「いえいえ、ウチはまだ最近営業を始めたばかりですから。こういったこまめな心配りで、リピーターを獲得したいのが本音なんですよ」
なるほど。たしかに、こういった商売はリピーターの獲得が重要だろう。
そういう意味で言えば、彼の配慮は実に理にかなっている。

「ところで、これは?」
「あ、こちらは当旅館名物の『ウルクせんべい』と『シュメールまんじゅう』です。
 オーナーの故郷の味を再現いたしました。日持ちしますから、お知り合いの方にも配って差し上げて下さい」
「はぁ、そうですか」
普通、こういったモノってその土地の特産とかを使うんじゃないのかな?
オーナーの故郷の味を再現しても、別にここの名物にはならないと思うんだけど。

そこへ、さらに手提げ袋を渡される。
「サービスで『ペナント』に『ヴィマーナ・キーホルダー』。それに『世界最古の電池』と、同じく『世界最古の点火プラグ』などもお付けいたしました。
 他にも私のお勧め、この面のレプリカもありますよ」
う~ん、ますますわけのわからないラインナップだね。ていうか、なんですかそのOパーツ。
あと、面は普通に要りません。飾っても不気味だし。

まあ、せっかくくれるというのだから、貰っておくのが礼儀なんだろうね。
というわけで、とりあえずそれらのお土産を受け取ってバス停に向かおうとしたのだけど……
「ああ、すいません。昨夜の雪の影響でバスまだ動かせないんですよ。やっぱり事故は怖いですからね」
「ふむ、事情はわかったが、我々はどうやって帰ればよいのかね?
なにぶん、皆多忙の身でな。もう一泊、というわけにはいかんのだが」
「その点は安心してください。別の乗り物を用意してありますから。
 ジルさ~ん、お願いしま~す」
オーナーが旅館の方に向けて誰かを呼ぶ。

すると、旅館の裏手からオニヒトデのお化けのようなモノがズルズルと這い出てきた。
それを見て、士郎君がうめくように問う。
「な、なんだこれは?」
「バスの代わりの乗り物です。
ちょっと不気味で、ウネウネしてて、どこか生臭いですけど(たぶん)大丈夫ですよ。
じゃあ、ジルさん。皆さんをお願いしますね」
はっきり言ってこんなものには乗りたくないのだけど、帰りを遅くするわけにもいかない。
ここはぐっと我慢して、このUMAに乗るしかないのかな。

その乗り心地というか、触り心地はというと……
「なんというか、独特な感触だね」
「ユーノ。はっきりと、気色悪いと言ったらどうだ?」
士郎君の言うとおり、触り心地は最悪と言っていい。
なにより、真中にある口のような部分から漏れる臭気。これがもう生臭いといったらない。
しかも、ちょうど人がすっぽり入れるくらいの大きさなものだから、食べられてしまうんじゃないかと気が気でない。

その上、これの運転手というか飼い主と思しき人物もかなり怖い。
眼はギョロっとしていて、その視線は焦点があっておらずどこを見ているのかよくわからない。
こんな人に命を預けて大丈夫なんだろうか?

そんな心配をしているのは僕だけではないらしく、みんな揃って何とも言えない微妙な表情をしている。
そして、そんな僕たちを無視してオーナーはにこやかに別れを告げた。
「ではみなさん、またのご利用をお待ちしております」
「いざ行かん。ジャンヌの元へ―――――!!」
新しい発見だ。どうやら、この人は言動もかなり意味不明な人らしい。
全く持ってうれしくない発見だけどね。僕らの不安指数が10倍に膨れ上がったよ。

生きて……帰れるのかなぁ?



SIDE-士郎

さて、慰安になったのかどうなのか少々疑問ではあるが、とりあえず生きて帰ってこれただけでも良しとしよう。
クラナガンについた直後、ヴェロッサは待ちかまえていたシスターシャッハ率いる教会騎士団にドナドナされ、ユーノもそのまま無限書庫に直行してしまった。
なんでも、無限書庫の方はユーノがいない事で仕事が遅れまくっているらしい。
全く、落ち着きのない連中だ。

「クロノ提督とナカジマ三佐はどうなさいますか?
 このまま一度六課に顔を出していかれます?」
とは、グリフィスの言葉。
まあ、二人からしてみれば様子の気になる人間がいるわけだし、見ていきたいと思っているんじゃないだろうか?

「ああ、悪ぃな。そうしたいのはやまやまなんだが、これからナンバーズの様子を見なきゃならねぇんだ」
「僕の方も悪いが次の機会にさせてもらうよ。せっかくの休暇を自分の事に使ってしまったんだ、残り時間は家族サービスに使おうと思っているんでね」
「さすがに、子どもたちに『お帰りなさい』ではなく『いらっしゃい』、『行ってらっしゃい』ではなく『また来てね』といわれるのはキツイか?」
「当たり前だ。家に帰ったのに、まるっきりお客さん扱いなんだぞ。このままだと、『何で来たの?』とか言われかねない。さすがに、それだけは避けたい」
次元航行部隊の人間ともなると、ほとんど船乗りと変わらないからな。あるいは、単身赴任しているようなものだ。つまり、なかなか家に帰れないものだから、そういう扱いになってしまうということ。
エイミィさんは元同僚だし、リンディさんもその辺の事情はちゃんとわかってくれているが、子どもたちにそんな話がわかるはずもない。必然、クロノの扱いはお客さんのそれになるわけだ。

だが、そこでクロノが意味深な顔でこちらを見る。
「そういう君こそ、あまり工房に篭ってばかりいると僕と同じになるぞ」
「別に好き好んで篭っているわけではない」
「だとしても、だよ。向こうはこっちの事情なんて考慮してくれないからね」
ちっ、こいつが言うと現実味がありすぎる。

「まあ、肝に銘じておこう。とりあえず、ここで解散ということにするか。
 私はこのまま六課に戻るつもりだが、君たちはどうする?」
「ああ、俺は一度ラグナのとこに行って土産渡して来るんで、先に帰っててくだせぇ」
ふむ、他の面々は特に用事もないようだし、このまま六課に戻るとしよう。


で、帰ってみれば、立った一日あけていただけで六課は見る影もなく荒れ果てていた。
まったく、どうして一日でこれだけちらかせるんだ。
「あれじゃないっすか? 普段旦那が何でもやっちまうから、片づけるって習慣をみんな忘れてるんですよ」
とは、数時間遅れて戻ってきたヴァイスの談。

以後、少しだけ片づけの頻度を下げ、皆の社会復帰を促すことにするのであった。
正直、こんな体たらくでは他の部隊に行った時にお荷物扱いされてしまう。
仕事ができないのではなく、職場を汚すことで疎まれるなど馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

そんな、あまりに下らない事実を確認することで我々の旅行は終わった。








おまけ

「なんというか、実に素朴な味だな。このシュメールまんじゅうというのは」
「ええっと、なんでも100%無添加、自然素材を使用して世界最古のまんじゅうを再現したものらしいですよ」
「ということは、ウルクせんべいもそうか?」
「ええ、これまた世界最古のせんべいを再現したものだそうです」
「なんつーか、マジで味気ないっすね。女性陣が手を出したがらねぇはずだ」
「もそもそして口の中が乾きます。これじゃあ、あんまり食べられませんよ」
「そう言いつつ、すでにそれで三箱目なんだがな、エリオ」
というわけで、あまり評判の良くない土産をみんなで必死に完食したのであった。






あとがき

というわけで、終始男衆しか出てこないグダグダなお話しでした。
まあ、フルネームが出た人はいませんが、旅館の面子は全員サーヴァントです。理由は特にありません。
せっかく男しか出さない話なので、それならこいつらも出そうと思っただけです。
ちゃんと姿が出なかったのはアーチャーだけですが、彼はディルムッドと一緒に厨房で料理を作っていました。
士郎の方は、たまたま(?)知っている奴らと顔をあわさなかったのでスルーする結果になったんですけどね。

一番書きにくかったのは第四次のランサーですね。逆に描きやすかったのは第五次の(真)アサシンでした。
あとは臓硯とワカメを出すかどうか悩みましたね。特に、ワカメは出したかったんですけど、今回は見送りました。やっぱり彼は温泉より海が似合うと思うんですよ。
それと、途中で士郎の口調が曖昧になってますが、その辺は酔ってるからです。
他にも、ヘラクレスとランスロットで扱いというか、共にバーサーカ―なのに状態が違いますけど、あまりお気になさらず。これと言って理由があるわけではありませんが、二人ともアレだと差別化が面倒だったので。

ちなみに、余談ですが現時点ではSts時には士郎と凛は結婚している予定です。さらに、実は子どもができていたりとか、その子どもは中卒後間もなく生まれたとか、いろいろバカなことも考えていたりしています。
まあ、どこまでこの妄想が残るかはわかりませんけどね。


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