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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第27話「修行開始」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/31 15:36

SIDE-士郎

「では、今日から対守護騎士戦のための修行を始める!!」
整列した面子の前に立ち、仁王立ちしながらそう宣言する。

時刻は早朝。場所は家の近くにある裏山。
そこには、俺を筆頭にフェイトとなのは、それにアルフが整列している。
おまけで、訓練に全く関係ないクロノやエイミィさん、それにリンディさんとユーノまでなぜかいらっしゃる。
ユーノはともかく、あなた方は忙しいんじゃなかったでしたっけ?

「「「はい(おう)!」」」
三人はそれぞれ気合い満タンの顔をして、俺の宣言に応じる。
フェイトやアルフの怪我はもういいし、なのはの方もリンカーコア以外ならもう完治している。
つまり、体を動かす分にはこれといって問題はないのだ。

さて、まず手始めに……
「それじゃ、手始めに三人とも、魔法以外は何を使ってもいいから俺を倒せ、以上」
「って、ちょっと待ったぁーー!!」
何をするか言ったそばから待ったが入った。

全く、時間の浪費をするべきじゃないってのに。
そんな目をしながら、待ったをかけた張本人を睨む。
「なんだ、アルフ?」
「いや、意味わかんないし。てか、私ら三人を同時に相手するなんていくらなんでも無理だろ? ましてやアンタ素手じゃん」
「そ、そうだよ。それにわたしとなのはは一応武器も持ってるんだよ。そんなの危ないよ」
「いや、武器って言ってもただの棒だろ。いいから、かかってこい。
 意味も目的もこれが終わったらちゃんと説明するから」
不満タラタラのフェイトとアルフをなだめすかし、とにかくかかって来い、と手招きする。
まずやりあわなければ話が進まないのだ。
良く見ると、見学者一同も驚いたような表情をしている。
そんなに俺の発言は意外なことなのだろうか?

しかし、この中で唯一なのはだけは、むしろ嫌そうな顔で俺を見ている
「えっと、ホントにやらなきゃ駄目?」
「そう言ってるだろ。それに、三人がかりなら何とかなるかもしれないぞ?」
そんな俺の言葉を聞いても、なのはの顔はどこまでも懐疑的だ。口には出していないが、その眼は「なるかなぁ?」という心情を物語っている。

だが、なのはと違いアルフはあからさまに不満そうな顔をしている。
まあ、無理もないけど。今回は俺も魔術および魔法は使用しない。
つまり、今の俺は肉体的には子どもの域を出ない。
それを相手に三人がかかり、それも大人と同じ体格のアルフからすれば侮られたと思っても仕方がないか。

だからだろうか、アルフがちょっとよろしくない笑みを浮かべながら恫喝するように言葉を紡ぐ。
「いい度胸じゃんか。よし、泣いて謝っても許さないからね」
「ちょ、ア、アルフ!!」
「フェイトちゃん、とにかくやろう。士郎君の事だから大丈夫だよ。むしろ、危ないのはわたし達の方だし……」
さすがに、この半年凛と俺に徹底的に絞られただけあって、これから起こることの結末をなのはだけは正確に予想している。
さっきの嫌そうな顔にしても、自分たちの末路がわかっていたからこその表情なのだろう。

「じゃ、エイミィさん合図お願いします」
「あ、うん。だけど、ホントに大丈夫?」
「エイミィ、彼がそう言うんだから何か考えがあるのだと思うわ。
 とりあえず、ここは彼の意志を尊重しましょ。危なそうならクロノを放り込めばいいんだし」
「ちょっと、母さん!」
何気に酷いこと言いますね、リンディさん。

「あ、そうですね」
「おい!?」
あれかね。アースラでは、面倒事はとりあえずクロノを当たらせればいいとかっていう裏ルールでもあるのか?

エイミィさんはクロノの文句をさらりとスルーし、気を取り直したように何故か持っていたクラッカーを構える。
「それじゃ。よ~い、はじめ!!」

パァーーーン!!

「いくよ。フェイトちゃん、アルフさん。せーので、一斉攻撃」
「で、でもなのは」
「いいから行くよ、フェイト。士郎の鼻を明かしてやろうじゃんか」
いまいち気乗りしていないフェイトを尻目に、残りの二人は気合十分な様子で構えている。
とりあえず、今回は俺から攻める気はないので半身に構えながら三人の様子を見る。

まだフェイトはいろいろ言いたそうではあるが、二人に説得されやっと意を決したようだ。
「じゃあ、せーの!!」
そのなのはの掛け声と同時に、三人は別れ、三方からの同時攻撃を仕掛けてくる。

なのはは左、フェイトは右、そしてアルフが正面から迫る。
「鉄拳無敵!!」
その言葉と共に、握りしめられたアルフの拳が放たれる。
それに若干遅れ、なのはが躊躇なく、フェイトは少し躊躇い気味に棒を振り下ろす。

(まあ、悪くないけど、まだまだ温いか)
そんなことを思いつつ、アルフの拳を化勁で逸らしながら前に出て懐に入り込む。
そのすぐ後ろを、フェイトとなのはの棒が通り過ぎ、巻き起こされた風が後ろ髪を撫でる。

少し遅れて、三人がそれぞれ驚きの声を上げた。
「「「あ!?」」」
「アルフ、首に力を入れろ」
そう言って、二撃目に放とうとしている拳を威力が乗り切る前に腕ごと抑える。
同時に、ガラ空きのアルフの顎に掌底を叩きこむ。
顎が上がり、体勢がのけぞったところを狙い、追い打ちをかけるように震脚を利かせる。

そして……引き戻した右手を左手と揃え、アルフに向けてありったけの勁力を叩きこむ。
「ハッ!!」
八極の一手である双纒手。
足からの力を背中の筋肉で増幅して放つ、密着状態でも使える技だ。

全身の一致によるロスのない威力により、アルフの体が弾き飛ばされる。
アルフ相手にこれで終わったとは思えないけど、先に残りの二人を仕留めておくか。
いい感じに入ったし、しばらくは思うように動けないはずだ。

すぐさまフェイト達の方に向き直りながら、一端距離をあけるべく後方に向かって跳ぶ。
それにより、アルフと戦っていた隙を突こうとしていた二人の攻撃をかわす。
だが、着地と同時にフェイトに向かってすぐさま距離を詰める。

それに反応したフェイトがすぐに薙ぎを放つが、棒の下を拳で撃ち軌道を逸らす。
そのままスピードの落ちた棒を掴み、逆にそれを利用してフェイトを転ばせる。
「せい!」
「え? きゃあ!?」
倒れたフェイトにとどめを刺そうとするが、その前になのはが助けに入る。

それを掻い潜り、懐に潜り込んだところでちょっとした奇策に出る。
「すぅ~……わ!!!」
ふれあえそうなくらいの距離で、肺をいっぱいに使った大声をあげる。
それに驚いたなのはの体が一瞬硬直し、そこを狙って顎の先端に拳を擦らせる。

軽い脳震盪を狙ったそれはしっかりと成功し、なのはの体は糸の切れた操り人形のように倒れ込む。
「なのは!?」
起き上ったフェイトがなのはに気を取られている隙を突き、頸動脈を抑えて締め落とす。

力なく倒れたフェイトを地面に横たえ、やっとの思いで立ちあがったアルフに歩み寄る。
「さて、じゃあこれで終わりってことで」
そう言って、間合いに入ったことで放たれた拳を弾き、拳を顔面の手前で寸止めし決着を宣告した。



第27話「修行開始」



フェイトが気付くのを待ち、全員が復活したところでまたさっきのように整列させる。
なのはは軽い脳震盪を起こしただけだし、フェイトも気絶していただけ。アルフが一番ダメージが大きかったけど、かなり頑丈なのでもう元通り。
いや、手加減しながらは難しいけど、今回は上手くいき過ぎな位に上手くいったな。

「さて、今ので何がわかった?」
「何もわかるわけないだろ! 手も足も出ずにコテンパンにされただけなんだから!!」
まあ、一見するとそれだけなんだけどな。
実際には、アルフなら上手くやればもっと粘ることもできるんだが、いかんせん油断と不満から動きが荒かった。
おかげで隙だらけなもんだからこんなにうまく行ったのだ。

しかし、アルフの方からは欲しい答えが返ってきそうにないし、ちょっと残りの二人にも聞いてみますか。
「フェイトとなのはは?」
「うう。正直、全然勝てる気がしないってことしかわからないよ」
「士郎君、全然手加減なしなんだもん。勝てるわけないよぉ」
いや、思いっきり手加減はしてるんだけどな。容赦はあんまりしなかったけど。

だが、まあ一応欲しい答えが出たということにしておくか。
「そう、つまりはそういうことだ」
「「「なにが?」」」
三人そろって俺の言葉の意味が分からないのか、同じように首を傾げている。

「だから、二人が言っただろ。“勝てる気がしない”って。それでいいんだ。
 いいか? どんなことをやっても、どんな奇策を用いても、敵わない奴には絶対に敵わないんだ」
「で、でもそれは!!」
フェイトがそんなことはないと否定しようとするが、俺に言わせればこれは厳然たる事実でしかない。
この左腕を持って行った黒のお姫様しかり、聖杯戦争のサーヴァントしかり。
世の中には、どれほど知略を巡らし、どれほど力で圧倒しても、全てをひっくり返す絶対的な力(反則)が存在する。それを理解せずに戦いの中に身をおけば、いつかそれと遭遇した時に無為に命を散らすことになるのだ。
だから、まずはそれを知っていて貰わなければならなかった。

まあ、もちろんここで終わりにするつもりもないけどな。
「いいから聞け。幸い、今回三人の相手になるのは、そこまでぶっ飛んだ相手じゃない。
 だけど、今回三人は俺相手に手も足も出なかった。引き換え、向こうの白兵戦技能は俺以上。つまり、今のお前達があいつらと白兵戦なんてしようものなら確実に負ける。もしもなんて都合のいいものは存在しないと思え」
こと白兵戦に置いて、今の三人が守護騎士勢と戦えば、どんな策を用いても勝ち目はない。
すなわち、白兵戦における守護騎士は、三人にとって「絶対に敵わない相手」なのだ。

そこで、見学していたクロノが参加してきた。
「それはつまり、遠距離戦に徹しろということか?」
「そう言いたいところだけど、そうもいかない。向こうだってそれは弱点として認識しているだろうから、当然対抗策もあるはずだ。俺が言いたいのは、正確には自分の土俵で戦えってこと」
「シロウ、自分の土俵って?」
「持ち味を活かせって言い変えても良いな。
フェイトの場合なら、とにかくスピードを活かして翻弄しろってこと。
 いいか、自分の土俵に持ち込んだら、絶対にその中で戦え。そこから一歩でも出れば負ける。
 自分にとって、最も戦いやすい戦法と都合のいい状況を維持し続けるんだ」
それができれば苦労はないが、そもそもそれができなければ勝ち目がない。
なら、無理だろうとなんだろうとやるしかない。

「でもさぁ、向こうだってそう簡単にはやらせちゃくれないだろ。
 もっと、別の状況も考えておいた方が……」
「その必要はない。なぜなら、そんなモノは前提が間違っているからだ。
 お前達が守護騎士と戦う以上、全てが充実した状況でなければ戦う意味がない。
 それ以外の状況での戦闘という時点で選択を間違っているんだ」
その言葉を聞き、アルフはどこか不満そうにしているが特に反論はしてこない。
アルフだって馬鹿じゃない。自分とザフィーラとの戦力差くらいは承知しているはずだ。

「そういうわけだから、戦い方もそれに準じたものになるし、それが続けられなくなった時点で撤退、あるいは手の空いている奴が乱入することになるからな。それが嫌なら、何が何でも自分の持ち味を活かしきることだ。
 フェイトとなのはは、今後は俺と凛が立てた訓練メニューに従って訓練してもらう。メインは魔力制御能力の向上と、今言ったそれぞれの持ち味を活かす戦い方のために必要なモノを身に付けてもらう。
 アルフは別メニューで、そっちは俺が付きっきりになる。フェイト達は凛の指示をよく聞くように」
「え? シロウはわたし達の方はみてくれないの?」
「見てやりたいのはやまやまなんだが、こうして朝の訓練をする時くらいだろうな。朝は合同、放課後からは個別の訓練になるからそのつもりでいてくれ」
話を聞いたフェイトは残念そうにしているが、アルフの方は本当に俺が付きっきりでやらなければ意味がない。
こればっかりは、申し訳ないが諦めてもらおう。

「私の方はなにするんだい?」
「アルフにはとっておきを教えてやるよ。上手くいくかはアルフ次第だけどな」
「ふ~ん」
アルフは気のなさそうな反応を見せる。だが、本人は気付いていないのかその尻尾はブンブンと揺れていて、実は楽しみで仕方がないことを如実に告げている。
反面、フェイトの顔は残念そうなモノから不満そうなものに変わる。
そりゃあな、一人だけとっておきを教えるとなれば不満に思うのも無理はないけど、この状況でとっておきを教えるってことは、一番状況が苦しいのはアルフでもある証拠なんだぞ。

ふむ、時間もそろそろアレだし、最後にこれだけやっておくか。
「じゃあ、三人とももう一度並んでくれ。最後に、ちょっとやりたい事があるから」
「「「やりたいこと?」」」
「ああ。いいか、絶対にそこから一歩も下がるなよ。もちろん、座り込むのもなしだ。
 何があろうと、絶対に今のままの姿勢を維持しろ。そして、気をしっかり持て、いいな」
俺のやろうとしていることが分からないのか、外野も含めて全員揃って不思議そうな顔をしている。

さて、これが終わった時はどんな顔をしているのかな。



Interlude

SIDE-ユーノ

士郎の意図はわからないけど、なのはたちはどこか緊張した面持ちで士郎を見ている。
いったい、何を……。

そう思っていた瞬間、異変に気付く。
(な、なに? これ………)
訳が分からない、どうしていきなり体が金縛りにあったように固まってしまったのか。
意味が分からない、どうして突然意味もなく体が震えだしたのか。
まるで、気温が一気に数十度下がったかのような悪寒が走り、背筋が凍りつく。

体に力が入らない。無意識のうちに、歯がカチカチと鳴り始めた。
(………怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
いつの間にか、頭の中がそれでいっぱいになっていた。他のことが考えられない。
今の僕には、ただ無造作に立っているだけのはずの士郎が、まるで未知の怪物のように映る。

「やめろ、士郎!!!」
「士郎君!!!」
クロノとリンディ提督がそんな悲鳴じみた叫びを上げる。
まるで、今にも取り返しのつかない何かが起きようとしている、そんな現場にいるような追い詰められた顔をしている。

その声に反応したのか、士郎はゆっくりとこっちを向きながら口を開く。
「…………はぁ、まったく…………。
リンディさん、この程度で取り乱すなんて管理局提督として恥ずかしいですよ。クロノもだ」
その言葉を聞いて、さっきまであったどこか怪物じみた印象が消え去る。
まるで、さっきまで感じていたことが全て夢だったのかのように。

そこで気付いた。僕がいつの間にかその場に座り込んでいることに。
それだけじゃない、エイミィさんやなのはたちも僕同様座り込んでいる。
その上、立とうと思っても力が入らず立ち上がれない。
なのはたちに至っては、ただ座り込んでいるだけじゃない。その顔には隠しようのないほどの動揺と、おびえ切った表情があった。
立っているのは、クロノとリンディ提督、そして士郎だけ。

いや、それだけじゃない。気が動転していて気付かなかったのか、アルフの姿が見えない。
探そうとしたところで、なのはたちからずいぶんと離れた所からアルフの声が聞こえてきた。
「士郎! アンタ何のマネだい!!」
その声には、明らかに恐怖と敵意が含まれている。狼の姿だったら、間違いなく全身の毛を逆立てて威嚇の姿勢を取っていただろうことを容易に想像させる。今のアルフからは、そんな印象しか受けない。

「さすがだな、アルフ。伊達に狼が素体じゃないってことか。アレが何なのか、もうわかってるんだろ?」
「アンタ、あたし達を殺す気だったろう!!」
な!? 士郎が、なのはたちを殺す? そんなバカな。

アルフの言葉を聞き、フェイトが座り込んだままとがめるような声を上げる。
「ちょ、アルフ!? ダメだよ、そんなこと言っちゃ」
「しっかりおしよ、フェイト! 士郎は確かに「いや、殺気は出したけど殺す気はないぞ。その証拠に、今のからは“殺気”は感じても“殺意”は感じなかっただろ?」……は?」
殺気? 今のが? でも、何で士郎はそんなことをまるで当たり前のように……。

みんな、その士郎の言葉を聞いて呆然としてしまっている。
それを見た士郎は、驚いたようにクロノ達の方を見る。
「え? まさか、クロノ達も気付かなかったのか!? あんな中身のない空っぽの殺気なのに?」
いや、そんなこと言われても僕らにはわからないし。

「……わかるわけないだろ。君がどうかは知らないが、僕に分かるのは尋常じゃない殺気を感じたことだけだ」
「ああ、そう言えば膝が笑ってるな」
「ほっとけ!!」
殺気、言葉としては耳にするけど、アレが。
しかも、執務官として色々な事件に関わってきたクロノが、ここまで動揺するほどの。
士郎、君はいったい……。

そこでクロノより幾分落ち着きを取り戻しているリンディ提督が疑問を呈す。
「一つ……いいかしら。なぜこんなことを?」
「なぜって、それはシグナム達も今みたいな事が出来るはずだからですよ。
 今みたいに殺気や気迫にあてられて怯んだりすれば、それこそ命取りになります。
 なら、少しでも慣れておいて、気当たりに対する耐性をつけておかないと勝負になりませんから」
今士郎がした事と同じことが、彼らにもできる。その事実は、僕の目の前を暗くするのに十分すぎた。
それなら、次なのはたちが戦った時、今と同じことをされたら戦う前に終わってしまう。

そんな僕の様子に気付いたのか、士郎が安心させるような声でしゃべる。
「大丈夫だって。少なくとも、殺気だけで死んだ人間を俺は知らない。
 シグナム達にしても、動けなくなった相手にトドメを刺しに来る可能性は低そうだしな」
「そうは言うけどな……正直、僕は全力でこの場から逃げ出したかったぞ」
「それでもやるしかないさ。フェイト達が戦うつもりなら、な。
 まあ、戦闘中は気持ちや神経が昂ってるから意外と影響は受けないんだけどさ。俺も昔似たような経験をしたけど、その時も逆にそれどころじゃなくて殺気とかはあんまり気にならなかったな」
クロノの言葉に答える士郎の言葉には、どこか過去を振り返るような響きがある。
しかし、腰が抜けるほどの殺気さえも気にならない状況って、一体どんな状況なんだろう。

でも、だとするとこの訓練は本当に必要なんだろうか?
そう思って尋ねてみたんだけど……
「それはそうなんだが、いつ緊張の糸が切れるとも限らないだろ?
ほんの少し気が緩めば呑まれる可能性は十分にあるし、やっぱり慣れは必要だよ」
そう言って、肩を竦めながら問うような眼差しをなのはたちに向ける。
つまり、それでもやるのか、と言葉にせずに問いただしているのだろう。

なのはたちの答えは……
「やるよ。あの子たちが何でこんなことをするのか、ちゃんとお話を聞かせてもらいたいから。
 その為に必要なら……」
「わたしも! ここでやめたら、いつまでたってもシロウ達に守られてばっかりだもん」
「あたしもだ!!」
「やれやれ、別にやめてもだれも文句は言わないだろうに」
士郎は呆れた様子で肩をすくめる。
もしかしたら、今ので諦めてほしいという思いがあったのかもしれない。

何となく、そんな気がした。

Interlude out



SIDE-士郎

「おはよう」
教室に入りいつもどおりあいさつするが、やはりいつもどおり反応は薄い。
ただし、一ついつもと違うところがある。
何やらクラス全体がざわざわして落ち着きがない。

そのことにやや疑問を覚えつつ自分の席に向かうと、後藤君がこちらに歩み寄ってきた。
「おお衛宮殿、おはようでござる」
「ああ、おはよう。ところで後藤君、これは一体何事だ? なんか、妙にみんな浮き足立っているんだが」
「おや? 衛宮殿はご存じでない? どうやら今日転校生が来るらしいのでござるよ。それも海外からの留学生との情報も」
随分とまた情報が早いな。一体どこから……。

まあ、気持ちは分からないでもない。
新しいクラスメイトが来るとなれば、みんなの話題はそれでもち切りだろう。
「はぁ、それでか。だけど確かな情報なのか?」
「むむ、これは心外な。拙者の情報が信じられぬと申されるか?」
て、おいおい情報源は君か。

てっきり普通の時代劇ものでも見たのかと思ったが、もしかして……
「後藤君。昨日、忍者物とか見た?」
「うむ。実は昨日、再放送で大○ドラマ『六文銭』をやっているのでござる、ニンニン」
やっぱり。それで真田十勇士にでも感化されたのだろう。
でも、さすがに「ニンニン」はどうかと思う。

さすがは柔軟性の鬼。
どうしてドラマを見た程度でそんな情報収集能力が手に入るのか甚だ疑問だ。
しかし、そこは「誰色にでも染まる鏡のようなトレス能力」のなせる技ということか。

「写真もあるのでござるが」
「いや、別にいい。どうせすぐにお目にかかることになるわけだしな」
というか、俺の場合既にお近づきになった後だから、別にそんなモノは必要ないのだがね。
だけど、よくもまあ写真なんて入手できたものだ。時々、後藤君の潜在能力がそら恐ろしくなる。

しかし、この時点でこれだと、本人が来たらどれほどのことになるやら。
フェイトはあれで結構大人しい性格してるし、勢いに押されてエライことになりかねないな。



  *  *  *  *  *



で、そんな俺の予想は概ね当たっていたわけで。
「やれやれ、大人気だな」
「そうでござるなぁ。
衛宮殿の時も相当でござったが、やはり留学生ともなると皆の関心の度合いも違うのでござろう」
俺と後藤君が見ているのはクラスの後方に出来た黒山の人だかり。
案の定というかなんというか、やっぱりフェイトはクラスのみんなから質問の雨あられに晒されている。

フェイトはしどろもどろになりながらも、邪見にすることなく何とか質問に答えているが、困り果てているのが外から見ても丸わかりだ。
助けてやりたいのはやまやまだが、正直あの勢いをどうにかする自信がない。
こういうのは、仕切り屋の凛とかアリサとかに向いているのだが、生憎二人は別のクラス。

さて、どうしたものかと考えていると……
「む?」
なにか、尋常じゃない悪寒が走った。
それはどこか懐かしく、同時にものすご~く嫌な予感を感じさせる。
こう、額がなんかむずがゆい。

その気配の元を辿ると、なぜか廊下の方に目を向けることになった。
そして、そこで目にしたのはなぜか新品の消しゴムを持って微笑む凛。ついでに、どういうわけかオロオロしているなのはとすずかに、よろしくない感じに目の釣り上がったアリサがいる。
(は!? まさか)
その光景に、凄まじいまでの既視感を覚えた。

その瞬間……
「ぶげら!?」
凛の投げた消しゴムが、十年の年を越えて俺の額に突き刺さった。

突然の事態に騒然となるクラス。フェイトの向いていた視線が一気に俺に集中する。
「な、なに、今の音!? 何がどうしたの?」
「どうも、衛宮君が突然回ったらしいよ。椅子に座ったまま」
「ええ!! どうしたの衛宮君? 椅子にモーターでも付けたの? それはさすがに校則違反じゃないかな」
「忍法!? 今のは忍法でござるか衛宮殿!?」
「あ……いったぁ――――」
白昼の奇行に盛り上がるクラスメイト達。
さっきまで話題の中心だったフェイトは、一瞬忘却の彼方に吹っ飛ばされる。
椅子ごと床に倒れた俺を取り囲み、心配そう……ではなく、ワクワクとした珍獣でも見るような目で観察している。ちなみに、誰も手を貸してはくれない。

何とか起き上るが、その最中俺は見た。
皆の視線がこちらに集中しているのをいいことに、アリサとなのは、それにすずかがフェイトの手を取り教室の外に引っ張っていくのを。
なるほどそれが目的か。やり方に不満はあるが、それは後で文句を言ってやろう。
今はとりあえず、それに合わせるのが吉か。そうでないと、後でもっとひどい目にあうし。
「後藤君。今の、どう見えた?」
「む? どうって、にゃんと空中で一回転。衛宮殿が椅子に座ったまま、一人で側転したように見えたが。
 是非ご教授願いたい」
ああ、思い出した。これって、聖杯戦争中の出来事と同じなんだ。後藤君のセリフも含めて。
まあね、先生に指された瞬間、ぐるんと一回転したら大ウケ間違いなしだし、習得したいと思うのもわからないではない。だけど、むしろどうしたら自力でそんな真似が出来るか、俺の方こそ教えてもらいたい。

とはいえ、フェイトの避難は成功したようだし、まさか第二弾はないだろうと思うが、念のため廊下の方を見てみる。そこには……
「げっ!?」
弾丸としか思えない消しゴムを一投したあくまが、第二弾を放とうとこちらを見ている。
それも「あれ? 案外これ楽しいじゃん!」という感じの笑みを浮かべながら。
俺は射的の的じゃねぇ!!

「すまん後藤君。ちょっと用事が出来たから俺はこれで」
とりあえず、これ以上被害を拡大されないためにもあちらと合流するのが吉だろうと判断し、弁当を持って席を立つ。

それにしても……イタイ。
床に打ちつけた腰より、消しゴムが当たったおでこの方がじんじんしてるぞ、くそ。
昔より威力が上がってるんじゃないか? 額から血が出ていないのが不思議なくらいだ。

「む、そうでござるか」
申し出を断られて心底残念そうな後藤君。忍者に感化されている今の彼にとって、アレを習得できないのは普段以上に残念なのだろう。
しかし申し訳ないが、どうやったらできるか俺にもわからないので諦めてくれ。


廊下に出て真っ赤になったおでこを摩りながら、魔弾の射手に喰ってかかる。
「いきなり何すんだ、凛!!」
「ふん、いつまでもぼんやりしてるからよ。
 別にいいでしょ、ちゃんとフェイトを救出できたんだから。ほら、早くお弁当食べに行くわよ」
全くもって悪びれもせずにのたまう凛。
終わりよければすべて良しとは言うが、やられた方は全然よくないぞ。

「だけどな、いくらなんでも人を一回転させるのはやり過ぎだって昔も言ったぞ。下手したら死んでるっつの」
「へ? その程度で死んじゃうようなやわな鍛え方をした覚えはないわよ」
「えっと、それってわたしもそうなるってこと?」
俺達の会話を聞いて、俺同様凛に鍛えられているなのはが疑問の声を上げる。
たぶん、そういうことなんじゃないか?

そんな俺達を見て、慣れていないフェイトはアワアワしている。
だが、すずかやアリサは慣れたもので落ち着いた様子だ。
「あのさ、痴話喧嘩はそれくらいにしてそろそろお昼を食べに行くわよ」
「そうだね。ここであんまりのんびりしてると、またフェイトちゃんが捕まっちゃうし」
むう、いろいろ言いたいことはあるが、まあそっちが優先か。

フェイトはしばしのその場で呆然としていたが、小声でなのはに声をかける。
「……………ねぇ、なのは。もしかして、いつもこんな感じなの?」
「え? にゃはは、今日は一段とだけど、だいたいこんな感じかな?」
別に、俺は好き好んでこんな目にあってるわけじゃありませんよ!?
単純に、そこのあくまの傍若無人さが全ての原因だ。

平穏な学生生活、カム・ヒア――――!!
…………………………………………………なんだろう、泣きたくなってきた。



SIDE-凛

放課後。
予定では私の指導の下、なのはとフェイトの訓練をする……はずだったのだけど、それを変更して二人はアリサやすずかと寄り道の真っ最中。

ただし、私と士郎は別行動。
私はクロノ達に呼ばれて。士郎はアルフの訓練のために。
なのはとフェイトには一応訓練メニューを渡してあるし、二人とも怪我の方はもういいと言っても、こういう時間を持っても別にいいだろう。というわけで、今日のところは二人は自主訓練という名の休みにあいなった。

「で、話しって一体何?」
「ああ、そのことなんだが、武装局員の一個中隊を借りられることになった。
 だからまあ、フェイトやなのはに無理に手伝ってもらう必要はない。無論、君たちも」
「ふ~ん。でも、なのはたちはそれじゃ納得しないでしょ」
「やっぱり、そう思うか」
こいつとしては、できる限り二人を荒事に巻き込みたくはないのだろうが、言って聞くような子たちでもない。
そんなことは重々わかっているのだろうが、それでもやはり思うところはあるのだろう。

「だけど、別にそれが本題ってわけじゃないでしょ?」
「まあね。一つ聞きたいんだが、何で二人に任せることにしたんだ?
 士郎の口ぶりだと、まず勝ち目がないはずなのに」
「別に特別な理由があるわけじゃないわよ。あれは二人のケンカ。なら二人にやらせればいいだけよ」
これは一応紛れもない本心なのだが、クロノはそれでは納得いかないらしい。
まあ、別に理由がないわけじゃないんだけどね。

「君の性格からして、勝ち目のない戦いをさせるとは思えないから、一応勝算はあるんだと思う。
 だけど、できる限り早く守護騎士の捕縛を為したいのがこっちの本音だ。だから、参戦するなら君たちにも加勢してほしい。二人が負うリスクは、少しでも減らしたいんだ」
なるほどね。確かに私達が直接加勢すれば、勝算は跳ね上がる。
なのはたちのことが心配ならそれの方がいいし、そうすればより迅速に守護騎士たちを捕らえられるだろう。

だけどねぇ……
「生憎その気はないわ。他人のケンカに首を突っ込むほど野暮じゃないし、何より守護騎士の捕縛にはそれほど意味もないしね」
「どういうことだ?」
「あんた達があいつ等を捕まえたいのは、そこから闇の書の主を見つけたいからでしょ?」
「あ、ああ」
「でもねぇ、多分尋問どころか拷問したって、あいつ等は主の事をはかないと思うわよ」
そう、別に連中の事を深く理解したわけじゃないけど、そういう印象を受けた。
捕まえたとしても、得られる情報は皆無だと思うのよねぇ。

「拷問なんかするわけないだろ!! だけどまあ、それはわかる。しかし、捕まえるだけでも戦力を削ぐことになるんじゃないか?」
「それはそうなんだけどね。そうなったらどうすると思う? たぶん、警戒を強めてもっと足取りがつかめなくなるわよ。それこそ、ここから思いっきり離れた世界に高飛びするくらいはあると思うわ」
むしろ、何で未だにそれをしていないかの方が不思議なくらいだけど。何か理由がありそうな気はするけど、結局は向こうの事情なんてわかるはずもなし。考えるだけ無駄なのよね。

その可能性に一応納得したのか、クロノの顔は苦い。
「なんでか知らないけど、向こうはまだこのへんをウロチョロしてるんでしょ?
ならそれを利用しない手はないわ。できる限りこっそりと主を探して、見つけてから総攻撃ってのが理想的でしょ。主を引きずり出すってのも手だけど、逃げられた挙句ほとぼりが冷めるまで引き籠られる方が面倒だもの」
「なるほど。いざ主を捕まえる際には、フェイト達に守護騎士たちの足止め役をさせて、その間に主を捕獲するってことか」
御名答。正直、なのはたちが勝てるなんて思ってはいない。勝機がないとは言わないけど、可能性は恐ろしく低いのが実情。それなら、いっその事そういう役目をしてもらった方がいい。
もちろん、本人達には秘密にしてね。

で、そうなってくると別に守護騎士が減ってようが揃ってようがそれほど重要じゃない。
いや、もちろん少ないに越したことはないけどね。
それでも足取りがつかめなくなることに比べれば、こっちの方が断然マシだ。

「まあ、主を見つけるったってそうそうスグには目星がつかないだろうし、守護騎士の連中が見つかった時にでも、連中が持っている筈の闇の書を確保するのが現実的だろうけど……」
「ああ、僕もその意見には賛成だ」
主が表に出てくる可能性は低いけど、蒐集をするためには闇の書が不可欠。
なら連中がいる所には確実にあるはずだし、それさえ押さえられれば被害の拡大は防げる。
となれば、やっぱりこれが一番有効な手段だろう。まあ、被害云々には興味ないんだけど。
一応意見を求められたわけだし、これくらいはいいか。

「そういえば、闇の書の事でわかったことってあるの?
 ちゃーんと情報は渡して貰わないとね。そういう契約だし」
「わかってるよ。闇の書の特徴に、転生機能と無限再生機能というものがあるんだ」
「転生?」
「ああ、早い話、何度破壊しても復活してしまうってことだ。そのため、闇の書の完全破壊は不可能とされている。対策があるとすれば、完成前の捕獲くらいだな。一度完成してしまえば、次元干渉クラスの力を行使できるから、正直まともに対峙して手に負える相手じゃない」
それはまた、面倒極まりない代物だ。
手っ取り早く消し飛ばせれば楽なのに、それをしても根本的な解決にはならないとは。

だけどそれなら……
「第七聖典でもあれば、わりと楽なのかもしれないけどねぇ」
「第七聖典? なにそれ」
私のボヤキに対し、台所で食事の支度をしていたエイミィが反応を示す。

「う~ん、簡単に言うと転生批判の概念武装でね。
これなら、もしかすると闇の書の転生を阻止できるかもしれないかなぁって」
「本当か!」
「だけど残念。生憎、私達持ってないのよ。ちなみに所在も不明。それに、特殊能力の類じゃなくてそっちのはプログラムの一種でしょ。となると、概念武装がどこまで効果があるか」
概念武装って言うのは、要は対オカルト兵器だ。実際、第七聖典にしても霊的ポテンシャルの高い相手には脅威になるけど、普通の人間にはただの物騒な武器でしかないし。
こっちの魔法は、私達のそれほどは曖昧な代物じゃない。どちらかというと、機械なんかに使われるプログラムに近い。それ相手に、一体どこまで効果があるかはちょっと疑問。

その点で言えば、ルール・ブレイカーもどこまで効果があるか。
あれはあくまでも対魔術宝具。魔術以外を想定していない以上、魔法相手にどの程度の効果が見込めるかは不安がある。
概念武装の類って、ある意味そういう融通の利かなさがあるからなぁ。こう、決められた事柄を実行する代わりに、その範囲外にあるモノにとっては脅威がないって具合に。
闇の書との繋がりだけならどうにかなりそうだけど、闇の書の「完全破戒」となると厳しいか。ロストロギアって言っても、あれもデバイスと似たような技術で作られている以上機械に近い部分があるだろうし、そんなの相手じゃ効果は期待できないかも。
ま、試してみなきゃ分からないけどね。

それに、ルール・ブレイカーの事はわざわざ言うつもりもないし。
あれって、アルフやリニスみたいな使い魔にとっては天敵だろうし、下手に警戒心を煽るつもりはない。
闇の書の捕獲ができた時にでも、こっそり試してみればいい。

しかし、対闇の書に有効そうな代物の情報を得たことで、エイミィはさらに追及してくる。
「じゃあさ、似たような概念武装ってないの? ほら、なんかこうさ」
「再生を阻止するって言うなら、士郎がシグナムに使ったような『不治の呪い』を持ったのか、あるいは『屈折延命』系かしらね」
「それってどういうの?」
「簡単に言うと、治癒系魔法の無効化ね。不治の呪いの場合は怪我そのものが治らないけど、屈折延命は自然の理にかなう回復ならできるから、自然治癒に任せれば治るわよ」
ルール・ブレイカーはランクこそCだけど、使い方によっては究極の切り札にもなる代物だし、できれば情報を渡したくないのが本音。だからまあ、悪いけどここは丁重に秘密にさせてもらいましょうか。
別に、ルール・ブレイカーの事を聞かれてるわけでもなし。

それを聞いたエイミィは、残念そうに天井を仰ぐ。
「そっかぁ、それじゃあ無理そうだね。まあ、さすがにそうなんでもありなわけじゃないかぁ」
ごめん、実を言うと割と何でもありな部分もある。
要は、定められたルールの中ではほぼ無敵に近いのが概念武装。
闇の書の場合、そのルールの中にいるかどうかが微妙だから何とも言えないけど、もし範囲内ならあなた達の悩みの一部はきれいに解消するわ。

「そういうこと。確か、士郎も転生をどうこうってのは持ってなかったはずよ」
アイツの場合、一体何があるのか完全には把握できていないのがネックなのよねぇ。
もしかするとホントにそういうのを持ってるかもしれないし、念のため一応確認してみるか。



SIDE-士郎

場所は近くにある森。こういうところでないと人目があり過ぎるし、アレを教えるとなるとこういう場所しかないんだよなぁ。だって、明らかに人間技じゃないし。

「それで、あたしに何を教えてくれんのさ」
「ああ、といっても俺自身は使えないから、俺の記憶にある動きを伝えるしかないんだけどな」
「はぁ? なにそれ」
アルフの不満ももっともだが、俺にアレを使えってのがそもそも無理なんだ。
だからまあ、こればっかりは我慢してもらうしかない。

「悪いな。あれはまともな人間に使えるようなモノじゃないが、アルフならたぶん使えるはずだ。
 いいか、これは俺の知り合いが使っていた技なんだが、簡単に言うと高速移動術だ」
本来は屋内向きの身体技能らしいが、魔法陣を足場に使えば自分限定だがそれと似たような地形効果は得られる。
それなら、たとえ開けた場所であっても、アルフになら使えるはずだ。

何よりあの体術は、反応できない速度で動くのではなく、「反応できない様な動きをする」もの。
殺人貴にしても、スピードそのものは人間の限界を出ることはなかったが、それでもなお人外連中を翻弄する動きを見せた。無論、あの動きをするにはそれを可能にする肉体が必要だが、真髄はスピードではなくその動きの方にある。
壁や天井を走り、静止状態から一瞬で最高速度に達するさながら蜘蛛の動作を獣の速度で行うような動きを習得できれば、あるいはザフィーラの隙をつけるかもしれない。

俺の説明を聞き、一応興味を引かれたらしい。
「じゃあ、サッサと始めようよ。それとさ、なんかコツみたいなのないの?」
「むぅ、強いて言うなら気配を消すことと、できる限り姿勢は低くした方がいい位か。
 あとはやりながら模索するしかない。それと、やるなら狼形態の方がいいぞ。アイツが言うには、四足獣の方が向いてるらしいからな」
へぇ、と頷くと、一瞬の後にアルフはオレンジ色の毛並みの大型犬に姿を変えた。
どうやら、素直に言うことを聞く気にはなってくれたらしい。

「でもさぁ、高速移動ったって、魔法抜きそんなことできんのかい?」
「まあ、似たようなものならなくはないぞ。中国拳法にある活歩とか、あとはなのはの家族が使う神速とか」
どっちも種別は違うのだが、あえて言うなら両方を混ぜたような代物というのが俺の印象。

一般的な武術におけるその手の技は、厳密には近づくことを気付かせなかったり、あるいは長い距離を少ない歩数で接近する技術を指す。
御神の剣士の神速の場合だと、意識集中を極限まで高めることで引き起こされる「感覚時間の引き延ばし」をさらに超え、肉体の方をその感覚に追いつかせる技術がそれになる。これの場合、普段は無意識下で掛かっている肉体のリミッターを外し、肉体の「本当の意味での限界能力」を引き出すものだ。
俺の見た限り、殺人貴の体術は一瞬で最高速度に達する時に限定して脳のリミッターを外し、同時に「敵に接近を気付かせない」技術を用いているように思う。もちろんそれだけで使えるものじゃないが、基本はこんなところのように思った。前者の方は、いくらなんでも常にリミッターを外しっぱなしにできるはずもないし、たぶんそうやって負担を軽減していたんじゃないかと思う。
まあ、この両方を使うためにはかなり特殊な体が必要だし、特に後者の方は普通の武術のそれとはだいぶ違うから、アイツみたいな筋肉の付き方じゃないと使えないのだろうが。

どっちも容易いモノじゃないが、前者の方は魔法である程度代用がきく。
あとは、どれだけ後者を突き詰められるかがカギか。
「いいか、アルフ。これを使うときは魔力のほぼ全てを身体強化に回せ。残りは足場の形勢だけでいいから、他に魔力を回す必要はない。
 ただそうなると相当なスピードが出るし、それをどれだけ制御できるかが重要なポイントになるから、そこは体で覚えてもらう」
そのまま、記憶をたどりながら殺人貴の奴の初動時の姿勢を思い出し、それをアルフに伝えていく。
しかし、こうして教えてみて再確認するが、アイツどういう体の構造してやがったんだ?



で、その結果はというと……
「まあ初日だし、今日のところはこんなところか」
「きゅう~~~~~…………………………………」
俺の目の前には、頭に山ほどたんこぶを付けたアルフが転がっている。
全身擦り傷だらけなのだが、特に酷いのが頭。なんというか、ほぼ全魔力を身体強化に費やしているせいか、案の定スピードの制御が恐ろしく困難なことが判明した。

まあ、お約束というかなんというか、とりあえずスピードは出ているのだが、そのまま正面の木に突っ込んでは頭を打ち、止まろうとして転んでは擦り傷を作るの連続。
とてもじゃないが、これでは動きも何もあったモノではない。攻撃に転じるなんて夢のまた夢。
普段と違い、体捌きだけでスピードをコントロールしなければならないものだから、慣れない事を続けたことにより疲労困憊という感じでもある。
むぅ、いっそ別案を考えた方がいいかも。

「えっと、なんだ。提案しておいてなんだけど、やめるか?」
「やだ!!」
どうやら、途中で投げ出すのはプライドが許さないらしい。
完全にへばっていたはずなのに、拒絶の声は今日聞いた中で一番元気だ。

「あたしだってわかってるさ。アイツとあたしは戦い方が似てる。あたしの方がスピードはあるけど、それでも翻弄できるってほどじゃない。フェイトみたいな戦い方をしても、きっと勝てない。
 だからアンタは、これをあたしに教えようと思ったんだろ?」
そう、フェイトが主であるおかげか、アルフのスピードはザフィーラを上回る。だが、それも決して圧倒的なモノじゃない。となると、他にいい案がないのも事実。

アルフの眼は揺るぎなく、たとえ何と言ってもやめようとはしないだろう。
なら、提案した者としての責任くらいは取らないとな。
「わかった。ちゃんと最後まで付き合うよ。とりあえず、今日はゆっくり休め。
明日からはこれの前に、必要最低限の身体強化をした上での体捌きの訓練もやる。オリジナルのそれには及ばないだろうが、それでも相手の意識の裏や死角に入り込む技術を得るだけでも意味はあるだろうしな。
ただし、俺が良しというまでこれの実戦使用は禁止だ」
「わかってるよ。せっかくのとっておきなんだ。できるようになった時には対策が出来てました、なんて嫌だからね」
本当の意味で完成できれば、そんな心配はいらない気もするんだがな。
だけど、それをするにはそれこそ最低でも年単位での研鑽が必要だ。
付け焼き刃で出来るのは、精々たった一度の為の切り札を仕込むことくらい。

「まあ、その他にも俺の知ってるので良ければ歩法とか体捌きとかを教えるよ。
 アルフの場合、魔法よりもそっちの“技”とかの方が有効そうだし」
「んん? よくわかんないけど、その辺は任せた」
全幅の信頼、と言えば聞こえはいいが、どちらかというと考えることやめてないか?

「さて、じゃあ今日はこれ位にして帰るか。夕飯前には帰らないといけないんだろ?」
こっちの方はリニスのおかげでそっちの心配をせずに訓練につき合えるから、まあありがたくはある。
そう確かにありがたいのだが、俺の仕事を持っていかれてる気がしてさみしい。

と、そこでアルフが寝そべったまま神妙そうな声で尋ねてくる。
「ねぇ、士郎。アイツらさ、なんで闇の書の完成を目指してるのかな?」
「どういうことだ?」
「フェイトが言ってたんだけどさ、アイツらからは悪意みたいなものは感じなかったって。あたしもそう思った。
 だけど、アイツらはああいうことをしてる。そこにどんな理由があるのかなって」
シグナム達がしているのは、犯罪云々をはともかくとしても人を傷つける行為だ。
だが、そこに悪意を感じなかった。だからこそ、その根底にある理由が気にかかるのかもしれないな。

「理由か。あるのかな、理由」
「え? だって、理由もなく」
「いや、アイツらはさ、闇の書の守護騎士なんだろ。
だったら、アイツらにとってはそれをするのは『当たり前』なんじゃないかなってさ」
「当たり前って、どういうことだい?」
「俺はアイツらじゃないからわからないけど、守護騎士たちにとって闇の書の蒐集は意志以前の、存在理由そのものなんじゃないか? だったら、それこそが理由なのかもしれない」
そう、そのために存在するのなら、それをするのは当たり前のことになるから、それ以外の理由や動機なんてないかもしれない。
もちろん、主には何らかの、例えば力欲しいとかみたいな理由はあるだろうけど、アイツらにそれは必要ない。
別にそんなモノがなくても、主さえそれを許すならこれといった理由がなくても不思議はない。

そう、かつての俺が人を助けるのに理由を必要としなかったように。
それが存在理由なら、それ以外のモノは必要ないんだ。
正義の味方は人を助けるもので、それを目指していた俺にとって人を助けるという行為は、それ自体が存在理由だった。そこに報酬や感謝は要らない。なぜなら、俺にとってそれをするのは当たり前で、むしろしないことこそが悪だったから。
存在理由に反することが悪で、逆にそれに沿うことが善なら、あるいは……。

「そんなもんかね?」
「わからないよ。あくまでも一つの可能性だ。その辺は、本当に実際に聞いてみるしかない」
ただ、一つ言えるのは別にアイツらに特別な理由は要らないってだけだ。
だからと言って、特別な理由がないことにはならない。
もしかしたらあるのかもしれない、存在理由などとは違う、今だからこそあるどうしても譲れない理由が。



Interlude

SIDE-シャマル

「どうだった、シグナム?」
「いや、やはり芳しくない。今のところ悪化はみられないが、それもいつまで保つか。
 やはり、この世界の医療技術では、主の御身体は……」
無理もない、と言えばそれまでの事。
なにせ、この世界に魔法に関する知識を持っている人自体が皆無に近い。
そんな人たちに、闇の書からの侵食を防ぐ手立てを講じろというのがそもそも無理と言わざるを得ない。
石田先生はよくしてくれるし頑張ってくださっているけど、こればっかりはどうにもならない。

いえ、それこそ管理世界の最新医療でも無理な可能性が高い。
だって、闇の書の一部である私達にすら有効な手立てが浮かばないのだから。

でも、救いがあるとすれば……
「この前の蒐集でだいぶページは稼げたし、ゴールが近づいてきたわ。
 それに、アイリさんのおかげで少しは侵食のスピードが落ちているはずよ」
アイリさんははやてちゃん自身に魔術を施し、これ以上の侵食を抑えるよう防壁のようなモノを形成した。
術式の違いもあるからそこまで劇的な効果は期待できないけど、それでも少しは効果があるらしく、僅かにはやてちゃんの症状の悪化は抑制される。私達はそうして稼いだ時間を使い、何とか期限以内に闇の書を完成させなければならない。

と言っても、それ自体はやはり気休めに過ぎない。
やらないよりはマシ、という程度でしかないのだ。
捻出できた時間は、あまりに少なすぎる。

そんなことはシグナムだってわかっているけど、あの人の頑張りを無碍にするようなことを口にするはずもない。
「ああ。だが、そのせいでアイリスフィールは……」
そう、確かにはやてちゃんの症状の進行は抑えられているけど、同時にアイリさんに負担をかける結果になった。
あの人は、本来こうして生きていること自体が不思議な人らしい。
生きるために魔力の大半を自分の生命維持に回すことになり、魔術行使にはかなりの疲労を伴う。
今のところ日常生活を送る分には問題ないけど、魔術を使うと必ず長時間の休息を必要としてしまう。

その上、はやてちゃんの防壁は定期的に修復及び整備しないといけないし、その度にアイリさんは体調を崩す。
はやてちゃんの前では見せないけど、今だって……
「ええ、アイリさんも今は魔法陣の中で休んでいるわ。
 私達に付き合って他の世界に行くようにもなったし、負担もかなりかかってるみたい」
「やはりか」
シグナムの顔には、ぬぐい切れない苦渋が浮かぶ。無理もない。だって、私も同じ気持ちだから。
本当はあの人にそんな無理をしてほしくないけど、それでもそれが必要だとわかってしまう自分が、必要だからとあの人に無理をさせている自分が許せない。

元来、ホムンクルスという存在は生命体としては脆弱らしいのに、それでこんな事を行っていればそれは当然の結果。だけど、それでもなおあの人ははやてちゃんの為に私達と行動を共にしている。
それがどれだけ自身に負担をかけているか、本人が一番わかっているはずなのに。
それが「母親」というものなのかしら。愛する我が子のためになら、いくらでも自分を犠牲に出来ることこそが。

「ヴィータちゃんは、この事を……」
「どうだろうな。アイリスフィールは、特に主はやてとヴィータの前では気丈に振る舞っている。
 気付いていないかもしれんし、思いを汲んで気付いていないふりをしているのかもしれん」
さすがに、シグナムでも確認する気にはなれないのね。
確認してしまえばそのことに気付くきっかけになるし、逆にヴィータちゃんの心の堤防を崩す結果になるかもしれない。どちらにせよ、それは望ましい結果とは言えない。

「やはり、方法は一つか」
「ええ、一刻も早く闇の書を完成させる。それだけが二人を救うことのできる方法よ。
 少なくとも、私達に出来る範囲では」
あるいは、私達の思いもよらない解決策があるのかもしれない。
だけど、今の私達にそれを知る術はないし、あるかどうかもわからないそんなモノに縋るわけにもいかない。

ダメね。こんな事だと、はやてちゃんに不審に思われてしまう。こんな、暗い顔をしてるんじゃ。
「はぁ。なんだか、こうなってくると聖杯を欲しがる人たちの気持ちがわかるわね」
「万能の願望器、か。確かに、もしそれがあるならば、是が非にでも手に入れたいところだがな。
 しかし、無いものねだりをしても仕方がない」
本当に。こんなことを考える様じゃ、私も相当まいってきてるのかしら。

でも、こんなところで弱気になっている場合じゃない。
やっとゴールが見えてきたんですもの、絶対にたどり着いてみせる。
そうでなければ、今この手にある温もりが、愛おしさがみんななくなってしまう。
それは、かつての私であればなんの痛痒も感じなかったこと。だけど、今の私にとっては身を引き裂かれること以上の苦痛。

守って見せる、絶対に。

Interlude out






あとがき

さて、いつの間にやら連載一周年。早いものです。
元々は、なんとなく頭の中で思い描いていたことをただ羅列してみただけだったのに。
それが段々と設定っぽくなって、次にプロットの様なものを書きだし、とりあえず書き出してみたら一話出来上がってしまい、あとはもう衝動の赴くまま書きまくっていたんですよね。
それである程度出来上がり、ちょっと人の評価が気になって出してみたら、あっという間に一年。
凄いなぁ。まさか私が一年もこんな頭脳労働の様な事を続けられるとは、正直思ってもみませんでした。

それと以前、いくつか疑問できていましたが、士郎が七夜の体術を教えてますけど、士郎自身は使えませんし再現も不可能です。なぜなら、士郎にはそれを使うことのできる肉体がないからです。これは、七夜の体術が七夜の血族か、あるいは四脚獣でないと習得できないという異常性が理由となります。
近親交配を繰り返しているうちに、そういうことができる体になったんですかね? 浄眼の定着や退魔衝動も含めて、これもある種の定向進化ってやつなんでしょうか?
一応七つ夜もUBWに登録してあるのでしょうが、士郎にはあの動きができない以上、彼にとってはただの短刀にすぎません。憑依経験を活かす事が出来ないのですから、使用する意味がないのです。
それだけでなく、そもそも使えないために、憑依経験を引き出しても実感としてそれがどういう動きなのか掴み辛く、上手く言葉にして伝えられないのもあります。こういった事情から、士郎はあくまでも自分がその眼で見た志貴の戦い方を思い出し、それのイメージに当てはめながらアルフに指導しているだけです。
そんなわけで、士郎自身は割とこれの習得は長丁場だろうと思っています。付け焼き刃でモノになるとは思ってませんし、この訓練を通して何かしらアルフに得るものがあるんじゃないだろうかという考えですね。
仮に出来上がっても、志貴のそれとは若干違うものになるだろうと予測しています。なにせほとんど技名だって知りませんし、多分に我流のようなものですから。

ああそれと、もう一話ほど日常編をやってから次の戦闘に入るつもりです。
そういえば、そろそろ士郎のデバイスも届くころなので、たぶんそれに関連した話しになる……のかな?


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