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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第26話「お引越し」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/17 17:03

SIDE-士郎

今俺達がいるのは、管理局本局内にあるエレベーターの中。
メンバーは、俺と凛になのはとエイミィさん。
この先、どの程度まで管理局と連携を取っていくかは追々決めるとして、とりあえず今後の管理局側の方針を聞くためにブリーフィングルームに移動中だ。

と言っても、内容はまあ今更なモノだろうけど。
さっきのグレアム提督の話から、大よそのことは想像がつく。
なのはや俺たちの保護と併せて、海鳴に拠点を置くことになるのだろう。それも思いっきり近所。
そうでなかったら、さっきの取引の意味がない。


しかし、その道中でエイミィさんからちょっとしたサプライズな情報を耳にすることとなった。
「ああ、そう言えばね。
まだ本決まりじゃないんだけど、艦長がフェイトちゃんにウチの子にならないかって話をしてるんだ」
それはつまり、養子縁組と言うことか。
俺にとっては結構懐かしい響きだが、なのはは少し驚いたような表情をしている。
まあ、普段あまり聞くような話じゃないしな。
今の今までそんな話は全く聞いてなかったし、驚くのも当然か。

一応一般家庭のなのはからしてみればあまり馴染みのない話らしく、確認するように聞き返す。
「えっと、それって親子になるってことですよね。フェイトちゃんとリンディさんが」
「うん。あの事件でフェイトちゃん、天涯孤独になっちゃったでしょ。
 いくらアルフやリニスがいるって言っても、やっぱり色々あるしね」
確かに、世間的にはプレシアは大犯罪者で、フェイトはその娘だ。
親の罪が子に及ぶわけじゃないが、それでも多くの人間はそういう色眼鏡を通して見る。
その上、フェイトの出生を知った人間の中にはいろいろ言う連中も出てくるだろう。

そう言った連中から守るために、リンディさんの保護下にはいるというのは効果的だ。
管理局の高官で、その事件の担当でもあった人がフェイトを養子として迎える。
心ないことを言うような連中も、それだとあまり大きな声ではしゃべれない。

とはいえ、一番重要なのはリンディさんの親としての資質と二人の相性で、そんなのは二の次だけど。
しかし、それに関してはあまり心配はいらないだろう。
息子であるクロノは少し頭の固いところはあるが、人格的にこれといった歪みや欠落もないように思う。
それはつまり、アイツは周囲の人と環境に恵まれていたことを物語っている。
極稀に、あらゆる辛酸や悲劇を良い意味で糧にしてしまえる人間もいるが、それは本当に稀だ。
リンディさんとクロノの関係を見る限り、そんな特殊例であることはないだろう。
だからまあ、あの人ならきっとフェイトの心の傷を癒し、惜しみない愛情を注いでくれるはずだ。

相性の方も、半年もあればある程度はわかる。
まあ、長く付き合わなければ断定はできないが、そんなことは今気にしてどうこうなることではない。
こういうことは、実際にそういう関係になって、長い時間を共有しなければわからないのだ。
なら、あまり先のことを気にし過ぎてもしょうがない。
決めるのは本人たちだが、傍から見てもこれは良縁だと思う。
リンディさんとなら、きっといい親子関係を築けるんじゃないだろうか。

「まあ、フェイトちゃんもまだ気持ちの整理がついてないみたいなんだけどね。
 だから結論が出るのは、もう少し先かなぁ」
俺なんかはほとんど即答してしまったが、普通はそうだろう。
だが、多分フェイトとしても受ける方に気持ちは傾いているんじゃないだろうか。
とりあえず、その提案に乗ってもいいという気持ちがあるのは間違いない。
そうでなかったら、時間をかける必要なんてないんだから。

そこでエイミィさんが、「そうですか」と呟くなのはに意見を求める。
「なのはちゃん的にはどう?」
「えっと………なんだか、すごくいいと思います」
少し思案したなのはは、すぐに結論が出たのか顔をあげて答える。
その顔はどこか嬉しそうで、言葉の通り心から賛成しているのがわかる。

で、今度は俺に話が振られるわけで……。
「そっか。じゃ、そっちの実際に養子縁組をしたことのある人の意見は?」
なんというか、本当にあけすけですね。
普通、割りと聞きづらいことなんじゃないか? こういうのって。
これってつまり、親の死に触れる話題でもあるんだから。
まあ、その親の顔さえ思い出せない俺にとっては全然気にならないんだが。
しかし、我ながら親不幸だと、思わず苦笑しそうになる。

それに、この人の場合ちゃんと相手を選んでいるのだろう。
それだけでなく、この明るさが逆に好印象を与えるんだから、たいしたものだ。
「そうですね。フェイトがいいなら俺も賛成ですよ。
 クロノは面倒見もいいし、いい兄貴になりそうですしね」
「そうそう、その上結構気が合うみたいだし、いい感じの兄妹になるんじゃないかな」
そう言って、エイミィさんは心から嬉しそうにほほ笑む。
なんでも、クロノは最近前より幾分表情が柔らかくなったそうだ。
俺などにはよくわからないが、長い付き合いのエイミィさんが言うならそうなのだろう。
フェイトとの触れ合いは、クロノにもいい影響を与えているようだ。

「ところで、凛の意見は聞かないんですか?」
「ああ、そっちは別にいいの。どうせ聞いたって『本人たちの問題でしょ』って言って終わりだもん」
「当たり前でしょ。外野がとやかく言うような問題じゃないもの。
 私達は大人しく、成り行きを見守ればいいのよ」
たしかに、凛の意見はもっともだ。
そしてエイミィさん、凛の性格を見事に把握していますね。

凛の返答を聞いても……
「ほらね。まったく、つまんないのぉ」
という反応こそするが、特に気分を害しているようには見えない。
ただ、口を突き出して「ちぇ~」と、心からつまらなさそうにはしているが。

「でも、そうなったら面白そうではあるわね。
 特に、フェイトのクロノの呼び方には注目ね。
『お兄ちゃん』なんて呼ばれた日には、さぞかしいい反応をしてくれるんじゃないかしら」
「あ、やっぱりそう思う? いやぁ私もね、フェイトちゃんには期待してるのよ。
 是非とも、クロノ君を慌てふためかせて欲しいところなのですよ」
さっきまでの表情が嘘のように、その顔には人の悪い笑みが浮かんでいる。

そして、そのまま二人のあくまの悪巧みが進行する。
「こうなったら、まずはフェイトの洗脳からね」
「ふっふっふっ、その点は任せなさい。この話が持ち上がった時から、フェイトちゃんには『兄妹になったらお兄ちゃんって呼ぶのが鉄の掟なんだよ』って教えてあるから。
 なのはちゃんの例も挙げて教えたら、すごく簡単に受け入れてくれたわ」
なるほど、すでに準備は万端ですか。
クロノ、大変だとは思うが頑張れ。影ながら応援しているぞ。
きっとそのことをネタにさんざんからかわれるのだろうが、強く生きてくれ。
あと、くれぐれも俺を巻き込まないように。

俺となのはは、遠くない未来に来るであろうクロノの受難の日々を思い、静かに黙とうを捧げるのだった。



第26話「お引越し」



場所は変わって、地球の日本は海鳴市。

予想通りと言うか何と言うか、やっぱりアースラ組の拠点が置かれることになった。
それぞれの担当する役割ごとに、三つのグループに分かれることになる。
まあ、一か所に集まるのは部屋の大きさからして難しいし、これは当然か。

予想外だったのは、現在アースラが整備中で動かせないことくらい。
とはいえ、俺達にはあまり関係のない話だが。

フェイトは、やはり暫定的な保護者でもあるリンディさんたちと同居することになる。
家自体はなのはの近所で、俺たちの家からもそう離れていない。
一応俺達の保護と護衛も兼ねているのだから、これは当たり前だな。

ただ、それだけでなく、案の定フェイトは今回の一件にも関わるつもりでいるらしい。
リンディさんたちは、無理に付き合う必要はないと説得したらしいが、暢気に遊んでいられないと突っぱねられてしまったそうだ。
それはなのはにも言えることで、ユーノと一緒に参加を表明していた。
これまた説得には応じず、仕方無く前回の実績とリンディさんの裏技により、晴れて嘱託扱いとなることが決定。
いったいどんな裏技を使ったのやら。
普通こういうのって、ちゃんとした試験とかしないといけないんじゃないのか?

リンディさん曰く……
「あら、権力って言うのはこういう時に使うものよ」
と言うことらしい。
それは、いっそすがすがしいほどの職権乱用だと思うんですが……。

俺たちの立ち位置は、まだ微妙。
この件から手を引く気はないが、正直あまり関わりたくないのも事実。
凛としては、なのはのリンカーコアをやった奴さえどうにかできればいいという考えらしい。
他のことは管理局任せにするつもりだし、基本的にあの時の借りを返すのが目的。
なので、とりあえずは海鳴で連中があらわれた時に限定して俺と凛は動くことになる。
早い話、まだ何も決まっていないようなものだ。

なのは自身の方は、自分の尻は自分で拭けと言うスタンス。
つまり、ヴィータとやりたいのなら勝手にやればいいし、やるからには勝てと言う事だ。
フェイトもシグナムと再戦する気満々だし、アルフも目当てのお相手がいる。
当面は、忙しいクロノ達に代わって俺と凛でみんなを鍛えることになる。
とはいえ、一朝一夕でどうにかなるとも思えないんだが。


で、いま俺たちはハラオウン御一行様の引越しの手伝いに駆り出されている。
この情景を一言で表すなら、『戦場』……だろうか?
「リンディさぁん! この段ボールはどの部屋ですか? 『書籍及び資料』って書いてあるんですけどぉ!」
「ああ、それ仕事用よ。書斎の方に運んでおいて!
他に『書籍』って書いてあるのがあるから、そっちは書いてある名前の人の部屋に運んでね」
総司令官リンディ提督の下、俺たちは一致団結して敵軍(荷物)に対処している。
まあ、俺は一兵卒なので、上官の命令には絶対服従だし頭より手と足を動かすのが仕事。
なので、現在せっせと荷運びの真っ最中。

だが、この戦場にエイミィさんが爆弾を投下する。
「あ、ちなみに『書籍(秘)』って書いてあるのは絶対開けちゃ駄目だよ。それ、クロノ君秘蔵のお宝(オカズ)だから。
士郎君達くらいの子が見るのは早いから、あと五年くらい待とうね♪」
「ちょ、ちょっと待てエイミィ! 妙な事実を捏造するな!
勘違いするなよ、士郎。僕はそんな破廉恥なモノは持っちゃいないからな!!」
エイミィさんの爆弾に必死に弁解するクロノ。
そういう反応をするのはむしろ逆効果だと思うんだがな。
まあ、話題が話題だし無理もないか。

幸いだったのは、フェイト達は話の意味が分からないようで首を傾げていることか。
良かったな、クロノ。みんなから白い目で見られなくて。特にフェイト。
まだそういうのへの理解はないだろうし、バレたらきっと軽蔑される。
妹になるかもしれない相手にそういう目で見られるのは辛いだろう。

だがな、その辺を力説するってどうよ。
それに、いろいろ興味津津な年頃だろ?
逆に変な趣味があるんじゃないかと思われかねないから、適度に手を出すことをお勧めするぞ。

それにな、昔一成の奴も一冊も持っていなことで疑われたものだ。
疑惑の中には、俺に懸想してるんじゃないかというのもあった。
ああいうのはホント勘弁してほしいから、一般的な趣味の持ち主あることを証明してほしいとさえ思う。
正直、あの噂を耳にした時はいろいろ引いた。

まあ、エイミィさんならどれだけ上手く隠しても在り処を突き止めそうだけど。
そういう意味では、持たないというのは一番確実な手段なのかも。
アレの在り処を知られるということは、決して抗えない弱味を握られるのに等しいし。

それはそうと、こいつもいきなり妙なことを言い出すのはやめてほしい。
《あなたも床下とか天井裏とかに隠してますしね》
「あのさ、こんなところで適当なこと言わないでくれよ、カーディナル。誤解を解くのって大変なんだぞ」
たまたま凛の近くに来たら、いきなり小声でそんな事を云われるんだからたまったもんじゃない。
まったく、ないことないこと捏造するのはやめてくれ。

小声だったから他のみんなには聞こえてないのが幸いだったけど、凛はしっかり聞いていたから困る。
はぁ、そのニヤニヤした楽しそうな眼はやめてくれ。
まさか、俺の部屋を荒らす気じゃないだろうな。
見つかって困るモノはないけど、正直言って趣味が悪いぞ。

改めてクロノの方を見ると、リンディさんが母親としてごく当たり前だが余計なお世話なアドバイスをしていらっしゃる。
「クロノ、別に恥ずかしいことじゃないんだから、もっと堂々としてていいのよ。
 要は、行き過ぎてさえしまわなければいいんだから。
それと、履物の段ボールがどこにあるか知らない?」
「はい、母さんまで妙なことを言い出さない!! あと、僕はいたってノーマルなのであしからず!!
それより、先に食器を運びますから手伝ってください。遅れると、またエイミィにおかずを減らされますから」
うん、いい具合に場は混沌としているな。
フェイトやアルフなどはこの光景に慣れているのか、特に目立った反応は示さない。
つまり、これは日常茶飯事な光景なのか。
大変だな、クロノ。俺も人のこと言えないかもしれないけど。

それはそれとして、キッチン周りを担当しているエイミィさんは台所の主でもあるらしい。
クロノの話だと、この家の兵糧はエイミィさんが握っているのか。
リンディさんも料理はするみたいだけど、艦長職はやはり忙しいようであまりその機会はないようだ。
なんか、クロノは著しく立場が弱いように見えて、只ならぬ共感を覚えるな。
しかし、なんで俺の身の周りはこうも女性上位の体制が確立されているんだろう。

ちなみに他の面々の配置だが、クロノは基本俺同様荷運び担当で、リンディさんは総指揮を取りつつ玄関。
凛やフェイト、それになのはと使い魔一同(ユーノ含む)は各所に随時出張し、荷ほどきをしている。
俺もさっきはクロノと一緒に大型家電も運んだし、この後はそれぞれの自室以外の清掃をしなければならない。
その間に、住人組は自室の整頓にあたり、俺を除く助っ人はその手伝いだ。
正直、忙しくて目が回りそう。まさにここは戦場だな。

なにせ、普通の引っ越し業者に頼むわけにはいかないからその分負担が増す。
運ぶ込むものの中には、明らかに不審なモノがあるせいだ。
その上、一般の人に入られては困る部屋まである始末。
万が一のことがないように、中のことはすべて自分たちでやるしかない。


で、そんな朝から続く大騒動がやっと一段落つき、今フェイトとなのはは街を見下ろしている。
ここはマンションの上層階で、その見晴らしの良さは抜群。
さすがは時空管理局提督、いい部屋を見つけてきたものだ。

その眺めを楽しんでいるフェイトたちは、大はしゃぎしている。
ひきかえ、正規の管理局員組はこの家に仕込んだオーバーテクノロジーのチェックに余念がない。
ここに仕込まれている設備は、今の地球の技術水準からは明らかに逸脱している。
これだから、引っ越し業者に頼めなかったんだよなぁ。
荷物を置く前にある程度までやっておかないと、一度全部動かしてからやらなければならないのだから。
まあ、リンディさんは二人の様子を微笑ましそうに見ているけど。

それに対し、俺は窓ふきのために各部屋を回り、凛は優雅にソファーでおくつろぎ。
お互いに、はしゃぐフェイト達の声を聞きながら過ごしている。
「ほら、あそこがわたしの家。で、あっちが凛ちゃんたちの」
「ほんと、すごく近い」
まったく、さっきまであんなにドタバタしていたのに、元気なもんだ。

窓ふきを終えリビングに移動すると、なんとも可愛らしい光景が待っていた。
だが、俺としてはどこか哀れに感じてしまう。
「ユーノ、お前はまたその恰好か?」
「なのはやフェイトの友達の前だと、この姿でないと不味いからね」
なんというか、お前も大変だな。
表情はわからないが、声は若干沈んでいるし、頭をかく手の動きもどこか弱々しい。
良くは知らないが、本来の姿じゃないんだからいろいろ不都合があるだろうに。

「で、アルフの方は……何だそれ?」
「新形態、子犬フォーム!! どうだ! かわいいだろぉ~」
そこにあるのは、以前のような大型犬の姿ではなく、本人の主張通りのかわいらしい子犬。
前の様な大型犬の姿もかっこよかったが、これはこれで……。
まあマンションに住むのなら、こっちの方が都合がいいか。
だって、あっちは凄く目立つし。

だけど、リニスはいつものまま人間形態で立っている。
「リニスは変身と言うか、動物形態にはならないのか?」
「ええ、やっぱり耳や尻尾を出すのは恥ずかしくて……。
 それに動物形態と言うことは、つまり裸ってことですよ」
そういうものなのだろうか?
耳や尻尾のことはよくわからんが、毛皮があるから裸とも違うと思うんだけどな。

しかし、そこで背後から凛が別の理由を教えてくれる。
「リニスのそれは私の指示でもあるから、別に気にしないでいいわよ。
 ほら、私達って保護者がいないじゃない。リニスには海外の親戚ってことで、保護者役になって貰いたいのよ。
 いなくてもいいんだけど、いた方が何かと都合がいいしね。世間体とか」
なるほど。実際、学校の先生にも色々心配されている。
凛の言うとおり、保護者がいればそう言った心配をされることもなくなるだろう。

「戸籍の方もちゃんと用意してあるから、制度上も問題ないわよ」
別に言わなくてもいいことを。
しかし、誰ひとりとしてそれを気にしていない。
一応それって犯罪なんだが、放置してしまっていいのか? 管理局員よ。

某苦労性執務官曰く、「僕たちもその辺に関しては他人のことを言えないんだ」。ああ、なるほどね。
だが、某甘党提督曰く、「あらあら。じゃあ、聞かなかったことにしましょ」とのこと。
そんでもって、某悪戯好きな執務官補佐曰く、「う~ん、バレなきゃいいんじゃない?」らしい。
なんていうか、フリーダム過ぎやしませんか? 某提督と某執務官補佐。

俺が「それでいいのだろうか?」悩んでいると、なのはとフェイトがリビングに入ってくる。
そこで子犬形態のアルフやフェイレットのユーノを発見し、各々抱き寄せる。
「アルフちっちゃい、どうしたの?」
「ふふ~ん、かわいいだろぉ~」
アルフは、フェイトにさっき同様自分のかわいさを主張する。

「ユーノ君もフェレットモード久しぶりぃ」
「あ、あはははは…………」
ユーノからはどこかひきつった乾いた笑い声が漏れる。
そりゃあな、ああやって頬ずりされるのは複雑な気分だろう。
好意を持っている相手に、全く異性としてみられちゃいないのは間違いないのだから。
哀れなり、ユーノ。



  *  *  *  *  *



その後、アリサやすずかがやってきて、そのまま翠屋でお茶会と相成った。
リンディさんも同行し、高町夫妻に挨拶をするらしい。

だが、リンディさんを見てアリサが「フェイトのお母さん?」と尋ねた時のフェイトは、是非リンディさんに見せたかった。
なにせ、「まだ…違う」と赤くなりうつむきながら答えたのだから。
あれは、どう見ても前向きに検討しているのは間違いない。
本人が知ればさぞかし喜んだことだろうに、もったいない。

そうして、場所は翠屋に移る。
オープンテラスで俺と凛は紅茶を、それ以外はジュースを飲んで会話を楽しんでいる。
まあ、俺はあんまり参加していないのだが。

しかし…………
「ユーノ君久しぶりぃ」
「きゅ、きゅぅぅ~~……」
ユーノの奴はつくづく大変だな。
すずかは嬉しそうにしているが、当のユーノはどこか困ったような鳴き声をあげる。
罪悪感でも刺激されるのだろうか。

それに…………
「う~ん……なんかアンタのこと、どっかで見た気がするんだけどぉ……。気のせいかな?」
「ワフッ!?」
アルフはアルフで、アリサの反応に冷や汗を流しているように見える。
そう言えば、半年前に世話になったわけだし、いろいろ思うところがあるのかも。
まあ、単にバレないかビビっているだけかもしれないが。

なのははそれを微笑ましそうに見ている。
だが、さっきから周りをキョロキョロと見ていたフェイトが、真顔で妙なことを言い出す。
「ねえ。聞きたいことがあるんだけど、なんで誰もチョンマゲとマワシをしてないの?」
「「「「「はぁ???」」」」」
あのフェイトさん……あなたは一体何を言い出すんですか?
あまりのことに、全員口を揃えて素っ頓狂な声を漏らしてしまった。
アリサと凛など、座っていたイスからずり落ちている。

しかし、何故にフェイトの中では力士みたいなカッコした人が街中を闊歩していることになっているのか。
そりゃあ、いるところにはいるけどさ。
だが、少なくともどこにでもいるという認識は確実に間違っている。
それも、日常的にマワシを締めているなんてのは、勘違いどころの話じゃない。
あんな恰好で外をうろついたら、確実に不審者か変質者です。何よりも寒い。

だが、フェイトはそんな俺たちの反応が理解できないのか、頭の上に「?」マークを浮かべている。
頭痛で痛む頭を押さえながら、その理由を問う。
「……待て、一体その情報のソースはどこだ?」
「え? リンディ提…じゃなかった。リンディさんとエイミィが教えてくれたんだけど」
あの二人は、一体何を教えてるんだ……。
フェイトもフェイトだ、どうしてそれを信じるかなぁ……。

「フェイト、半年前にそんな格好の人はいたか?」
「だって……二人が『日本の冬のフォーマルな格好はチョンマゲとマワシだよ』って言ってたから。
 わたしがいたのは春から初夏にかけてだったし、そういう人たちの写真も見せてくれたよ。仲良くハグしてるの」
それはハグではなく、相撲というものです。
信じさせるために、季節限定の正装と言うことにしたのか。なんて無理矢理な。

ん? 待てよ。と言うことは、他の季節はなんだと思ってるんだ?
「一つ聞くが、他の季節のことはなんて言ってたんだ?」
「えっと、今の日本は他の国の文化が色々入ってきてて、結構適当になってるんだって聞いたよ。
 でも、年末年始でいろいろイベントの多い冬場だけは、ちゃんとした格好をするんだって」
いや、ある意味間違ってはいないのだが……。
実際、大晦日や元旦に和服を着る人は多い。
なるほど、確かに和風な服装は冬の正装と言えるかもしれない。

だが、正直あまりのアホらしさに脱力してしまって動けない。他の面々も同様だろう。
しかしそこで、腹を括ったのかアリサがさらなる質問を投げつける。
「ついでに聞くけど、他には何か言ってた?」
「他には……サムライとかニンジャっていう職業の人は別の恰好をするって教えてくれたよ。
 あと、日本の行政の長はショーグンって言うんだよね」
この時代、もう侍も忍者も将軍もいません。
あ、侍はいたか。ちょうど俺の二つ隣の席に座っているなのはの家族とか。
あの人たちだったら忍者の知り合いもいそうだから、あながち否定しきれないな。
そこでなのはと目が合うが、すぐさま逸らされた。なるほど、自覚はあるんだな。

しかし、だからと言ってこれを許していいわけではない。
この瞬間、俺は友人として、全力全開でフェイトの誤った日本観を訂正することを決意した。
これはたぶん、俺だけの決意じゃないだろう。
今時、日本を勘違いした外国人だってこんなことは言わないぞ。
早めに訂正しないと、フェイトがものすごく恥ずかしい思いをすることになる。
さすがにそれは可哀そうだ。

と、考えているそばから凛の奴ときたら……
「ん~~もしかして……フェイト、カミカゼ」
「え? ハラキリ?」
「「「「ごぶはっ!?」」」」
な、なんだその妙な合言葉は。
二人を除く全員が、揃って飲み物をぶちまけてしまったじゃないか。
お互いに顔にジュースやら紅茶やらをぶちまけてしまい、酷く気まずい雰囲気が出来上がる。
凛の奴はちゃっかり自分にかかりそうなモノはガードしてやがるし。

俺はいいとしても、他のみんなはこのままは不味いな。
女の子だし、顔がベトベトになるのは嫌だろう。俺だって十分気持ち悪い。
とりあえず、ハンカチを渡して顔を吹かせるか。

しかし、それにはさらに続きがあった。
「じゃあ、スキヤキ」
「テンプラ」
いったい、これは何のコントだ?
フェイトの事だ、きっと意味なんかわかっちゃいないな。
ただそういうものだと教わっただけなんだろう。なら、一番の被害者はフェイト自身だ。
だが、そうとわかっていても、もうまともにリアクションを取る気力もなく、俺たちはテーブルに突っ伏す。
だって、正直このやり取りはバカバカしいにも程があるぞ。


その後、何とか気力を取り戻し、俺たちはフェイトの珍妙な誤解を解いていった。
すると、本当のことを教えていくうちに、どんどんフェイトが赤くなる。
既に、遅かったのかもしれないな。
だが、遅すぎなかっただけでも良しとしよう。

それにしても、あの二人は何を考えているんだか。
いたいけな少女に、しょうもないことを教えるんじゃないっての。
あの二人のことだ、全部わかった上で噓八百教えたな。
もしかしたら、あの人たちもここまで鵜呑みにするとは思わなかったかもしれないけど。

実際、その後追求したらひどく驚いていた。
まさか、そんなことを本気信じるとは思わなかったんだな。冗談やシャレのつもりで教えたらしい。
俺だって驚いたし、まさかここまで純粋な人間がいようとは……。
さすがに、本人たちもそんな勘違いをしてなかったのが救いか。

同情の余地はなくもないが、当然ながら全面的にリンディさんとエイミィさんが悪いという結論に至る。
なので、もちろんその後、リニスをはじめみんなでお説教をしたのは言うまでもない。


今日の教訓1:オチャメも程々にしましょう。
今日の教訓2:冗談やシャレは相手を選びましょう。
今日の教訓3:何でもかんでも信じてはいけません。
――――――――――――――――――――――――以上。



Interlude

SIDE-リニス

あら? ヤケに外が騒がしいですね。
それにあの声は、フェイトたちでしょうか?

まあ、多分楽しんでいるんでしょうね。
さっきなのはさんと一緒だった時でさえ、私でさえ見たこともないようなはしゃぎようだった。
そこにさらに友達が増えたのですから、あれくらいは当然かもしれませんね。

やはり、こちらに来てよかった。
フェイトは今までずっと友達と言うモノがいなかった。
だけど、士郎や凛、そしてなのはさんと出会い以前よりずっと明るくなった。
そして今、さらにその友達の輪が広がっている。
これをきっかけに、フェイトにはより幸せな日々を送ってほしい。

私はリンディ提督に同行し、なのはさんの御両親に挨拶をしている。
一応私は、凛と士郎の保護者と言う立ち位置だ。
リンディ提督たちはこの先、どれくらいの間この地に留まるか分からない。
だけど、私はここで凛達と共に暮らすつもりでいる。

この人たちとは、きっと長いおつきあいになるだろう。
私もそういう経験はなかったし、緊張すると同時に嬉しくもある。

一通りの自己紹介を終え、なのはさんのお母様が確認するように尋ねてくる。
「えっと、リニスさんは凛ちゃんの御親戚でよろしかったですか?」
「ええ、凛はクオーターでして、私はその筋の親戚です。
 私自身、予てから日本で暮らしたいと考えていましたので……」
一応、表向きの理由はこういうこと。
半年前から、色々とそういう話を凛が周囲の人たちにしていたのだ。
おかげで、特にそのことに違和感は持たれていないみたい。

一応、他にも設定がある。
私は凛の遠縁で、生前の凛の父にお世話になり、その遺言に従い凛たちの保護者となることを承諾。
ただ、まだ学生の身であり、また私が通うのが海外の大学だったこともあって、これまでは別々に暮らしていた。
しかし卒業を機に、以前から希望していた日本での暮らしの為に来日。
時季外れになってしまったのは、諸々の手続きに手間取ったためとしている。

保護者となることを承諾したのは、私自身早くに親を亡くし、凛の父が後見人兼保護者をしてくれていたから。
特に祖国に思い残すこともなく、憧れもあった日本での暮らしを決意。
フェイトとは、彼女の母親が学生時代の恩師でその縁で知り合い、忙しい母親の代わりにアルバイトも兼ねて色々面倒を見ていた間柄。
母親の死後もその交流は続いており、それが新たな縁となってリンディ提督と知り合った。
とまあ、そういう具合になっている。

一通りのことを話し終え、リンディ提督と共に深々とお辞儀をする。
「そういうわけですので、これからしばらくご近所になります」
「まだ不慣れなことも多く、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそお世話になります」
「どうぞ、御贔屓に」
順番は、リンディ提督・私・なのはさんのお母様、お父様の順。
皆さんとても良い人たちのようで、これからの生活への不安が薄れていくのを実感する。

そこで、なのはさんのお父様が思い出したように尋ねてくる。
「そういえば、しばらくこちらにおられるのでしたら、フェイトちゃんの学校はどちらに?」
「はい、実は……」
それに答えようとしたところで、背後でお店の扉の開く音が聞こえる。
そちらを向くと、そこには大きな箱を抱えたフェイトが立っていた。

その顔には困惑の表情があり、出てくる言葉もしどろもどろだ。
「あ、あの、リンディさん。こ、これって、もしかして……」
「ええ、転校手続き取っておいたわ。
 通うのは週明けからになるけど、なのはさんたちと一緒の学校よ」
まさか、言ってなかったんですか?
フェイトの手にあるのは、これから通うことになる「聖祥小学校」の制服。
つまり、なのはさんだけでなく凛や士郎とも同じ学校に通うことになるということ。

フェイトのことを思ってのことなんでしょうけど、それにしたって秘密にしなくてもいいでしょうに。
フェイトときたら、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が真っ赤になっている。
そういえば、こんな表情も以前は見られなかったんですよね。

皆さん、その話を聞いてそれぞれ言葉を交わしている。
「ああ、それはいいですね。あそこはいい学校ですから。なあ、なのは」
「うん♪」
なのはさんのお父様はなのはさんに話しかけ、なのはさんも嬉しそうにうなずく。

「ええ、素敵♪ よかったわね、フェイトちゃん」
「は、はい。ありがとう、ございます」
なのはさんのお母様はフェイトに微笑みかけ、フェイトは包みで顔を隠すようにして抱きしめる。

「じゃあ、来週からは一緒に登校できるね」
「当然よ。せっかくだから、このまま学校までの道を案内するのもいいわね」
すずかさんとアリサさんは、週明けに思いを巡らし楽しそうにしている。

しかし、そこでリンディ提督が意味深な口調で先を続ける。
「ただね、どうもなのはさんと同じクラスにはなれないみたいなのよ。
 なんでも、一つのクラスに人を集め過ぎるわけにはいかないらしくて、これ以上は難しいようね」
まあ、クラスごとの人数のバランスと言うモノもありますから、仕方がありませんか。
それを聞き、さっきまであった和気藹々とした雰囲気が少しだけしぼむ。
別に会えなくなるわけではないが、それでもやはり残念な気持ちになるのだろう。

ところが、そこでまたリンディ提督の雰囲気が変わる。
「でも安心して、その代わり士郎君と一緒のクラスになったから♪」
「えっ!」
それだけ言うと、フェイトは耳まで赤くして頭から湯気が立ち上る。
完全に固まってしまったようで、身じろぎ一つしない。
この瞬間、フェイトの士郎への感情がこの場にいる全員に知れ渡ったのは言うまでもない。


同時に、士郎は学校初体験であるフェイトの世話係に就任することになるわけで……。
きっといろいろ大変でしょうが、頑張ってくださいね、士郎。
主に凛、あとフェイトやさっきの様子だとすずかさんもですか。
ええっと、こういうのを針の筵、あるいは自業自得と言うんでしたかね?

Interlude out



SIDE-士郎

「で、アンタはどう見るの? 士郎」
と、夕食後の団欒時に、凛が突然話を振ってくる。
俺はと言うと、リニスと一緒に台所で洗い物の真っ最中。

正直言って、脈絡がなさ過ぎて何を指しているのか分からない。
「それはモノによるだろ? いったい何のことを言ってるんだ?」
「あのねぇ、そんなの一つしかないでしょ。なのはとフェイト、それにアルフのこと。
 あの子たち、やる気満々だけど上手くいくと思う?」
それはやはり、シグナム達との戦いのことか。
一応三人の鍛錬を頼まれているし、それ自体は別に問題ない。
他の人たちはいろいろ忙しいし、手が空いているのが俺たちくらいなのだ。
なにより三人がやる気になっている以上、俺としては出来る限り力になりたい。

だが、それとは別に冷静に判断するとやはり苦しいと言わざるを得ないか。
「難しいな。シグナムはまだしも、残りの二人はほぼ無傷だ。
 その上、詳しい能力がわからない黒ずくめの女までいる。
 この短期間じゃ、やられないようにするのが精いっぱいじゃないか?」
部分的には上回っている点もあるが、戦闘経験や技量があまりにかけ離れ過ぎているのだ。
スピードや攻撃力で拮抗できても、それらを運用する技術がないのが問題。
どれだけ性能のいいマシンに乗っていても、それを活かせなければ意味がない。

そんなことは凛だってわかっているはずだ。
しかし、いったん引き受けた以上、手を抜くようなやつじゃないしな。
「とりあえず、基本的な担当としては私がなのは、アンタはフェイトとアルフね。
 シグナムとザフィーラって言ったっけ? あの二人と交戦してるアンタの方が適任でしょ」
まあ、それが無難なところか。

だが、いくら対策が立てられても、それだけで何とかできる相手とは思えないのだが。
「さっきね、エイミィから連絡があったのよ。
 なんでも、レイジングハートとバルディッシュが、カートリッジシステムを組み込むよう要請したみたい」
「それ、本当なんですか!!?」
凛の話を聞き、リニスが大声で聞き返す。
今までは戦闘に関しては素人に近いから発言は控えていたようだけど、それだけ驚いたということなのだろう。
なにせ、カートリッジシステムはまだ安全性に不安が残る機構だ。
俺のデバイスにも組み込まれる予定なので、リニスもそのことは知っている。当然と言えば当然の反応か。

ましてやそれが、ベルカ式ではなくミッド式のデバイスに組み込むとなれば、驚くのも無理はない。
「どうもね、マジみたいなのよ」
凛が呆れたように言うが、気持ちはわかる。主に似て、無茶なことを考える奴らだと思う。

だが、それなら……
「少なくとも、それで武器の差はなくなるな。
 だけど、それにしたって勝ち目が薄いのには変わらないぞ」
「まあね。でも、ないよりかはマシだと思うわ。
危なっかしくはあるけど、すぐに解決できる差なんてそれくらいだもの」
「お二人とも、別に止めないんですね」
そりゃあな。技術や経験なんて、一朝一夕でどうにかなるようなモノじゃないんだから、それくらいはしないと。
リニスの心配はわかるけど、戦おうと言うのなら、せめて少しでもいいから差は詰めておきたいところだ。
安全性に不安があるとわかっている以上、ヤバそうなら即刻止めればいい。

それに、万が一があってもそれはそれ。自分の力で痛い目をみるというのも大事だ。
自分の力がどういうものか知るには、痛みを以て知るのが一番。
そもそも、仮に事故が起きたとしても、これまでのデータから被害の規模はある程度わかっている。
一応とはいえ実装が認められた以上、それを基に安全対策にはかなり気を使っているはずだ。
それなら、事故が起きても大丈夫なように細工の一つや二つくらいはしてあるだろう。
少なくとも、突然大怪我を負ったりする可能性は低い。なら、当分は様子を見てやればいい。

そこで、リニスが思いついたようにカーディナルに尋ねる。
「そういえば、カーディナルは要らないんですか?」
《必要ありません。そんなモノがなくても、必ずやマスターの信頼に応えてみせます》
ほお、自信満々だな。まあ、こいつらの方針ともあわない代物だし当然か。

こいつらの基本方針は魔力の精密運用。
なのはたちほど魔力に恵まれていないからこそ、運用効率や技術の向上を目指している。
引き換え、カートリッジの使用は魔力の制御を困難にさせかねない。
精密運用を阻害するかもしれないようなモノを載せるくらいなら、今のままの方がいいと考えたのだろう。

凛にしても……
「ま、あったら便利そうだけど私も別に要らないかなぁ。
 不自然に魔力を上昇させるのって、なんか気持ち悪そうだし……」
まあな、凛の宝石と似ているけど別物なわけだから、この反応もわかる。
魔力を蓄えるという性質は同じでも、使い方がだいぶ異なるのだ。
宝石魔術が爆弾なら、カートリッジはドーピングに近い。気持ち悪いと考えるのも無理はないか。
実際、使い過ぎるのは体に良くないらしいし……。

っと、話が脱線していた。たしか、今後の指導方針についてだったか。
「フェイトの方は、もうほとんどすることは決まってる。
 シグナムの右肩の動きが鈍くなっている以上、そちらからの攻撃に重点を置かせるつもりだ。
 あとは、足を止めずに動き回らせることくらいか」
一方向からの攻めに重点を置く理由は、まだあの時の怪我が治りきっていないかもしれないから、でいい。
フェイトは渋りそうだが、下手な配慮は逆に失礼に値すると教えれば大丈夫だろう。
それは紛れもない事実だし、シグナムの性格だとそういう風に考えるだろうな。

凛もこの方針に同意を示す。
「ま、そんなところよね。スピードだけなら負けないし。
一撃貰うかスタミナが切れる前に決定打を入れられれば、万が一の勝機くらいはあるわ。
一撃でも直撃したら、ほぼ確実にアウトだけど」
そうなんだよなぁ。一発も受けずに戦うのが、フェイトが勝つための絶対条件だ。
アレを相手にそれをするのは至難の業だってのに。分が悪いにもほどがあるよ。
なにせ、HPの残りが1の状態でボス戦をやるようなもんだ―――――って、なんだこの例え。
まぁとにかく、現状フェイトに教えられることなんてこれくらいしかないんだよな。

しかし、フェイトはまだマシだ。少なくとも、一応の対策が立っている。
それだけで勝てるほど甘い相手じゃないとはいえ、あるとないでは大違いだ。
問題なのは、アルフの方。
「しかし、アルフはどうしたもんかな。アルフは基本的に格闘型だけど、向こうも同じなんだよな。
 同じようなタイプ同士だと、地力の差がそのまま出るし」
「それなんだけどね。アルフって、殺人貴のアレできないかしら?」
「殺人貴のアレって…………まさかあの体術のことか!?」
そういえば以前、「四脚獣なら習得できるかも」みたいなことを奴が言っていた気がする。

確かに、それなら狼形態のアルフになら可能性はある。
もしも人間形態でも素体に近い筋肉の付き方をしているなら、そっちでも使えるかもしれない。
だけど、一つ大問題がある。
「どうやって教えるんだよ。俺も凛も使えないんだぞ」
「うん、だからその辺は口頭で説明するしかないんじゃないかな。
 アンタは何度かアイツと戦ってるし、共闘したこともあるでしょ。
動きの違いを指摘するくらいはできるんじゃない?」
むぅ、やってみないとわからないが、それくらいならできるかも。
かなりアルフの資質頼りな部分があるけど、もし少しでも使えれば勝てる可能性が見えてくる。

別に相対的に上回る必要はない。
一瞬、あるいは一度でいいから隙ができれば、そこを狙うことができる。
それまでと全く違った動きなら対処も難しいし、元が暗殺術だ。
隙をつくのにはこれ以上ないほどに長ける。

まあ、一回限りの隠し玉ってところかな。二度目は絶対にやらせてくれないだろう。
短期間で身に付けた付け焼き刃じゃ、二度目以降は十中八九見切られる。
というか、そもそも一応の形になるかさえ怪しんだけどな。もし形になったら、それだけで驚きだ。
だが、それでも他に手はなさそうだし、やるだけやってみるか。

うわぁ、一応だけど方向性が決まっちまったよ。
あれ? そういえば、なのはの方はどうするんだ?
リニスも俺と同じ疑問に至ったようで、小首をかしげながら凛に問う。
「士郎の方は一応方針が決まったようですが、凛の方はどうなさるんですか?」
リニスは戦闘経験そのものが少ないので、俺たちの方針に特に異を唱える気はないらしい。
しかし、それでも聞きたいことはあるだろう。
それに、こうして気兼ねなく質問してくれるのはいいことだと思う。

凛はそれに対し、ちょっと困ったように返す。
「それなのよねぇ。たぶん、やることはこの前とそう変わらないと思う。
 スタイル変更なんて間に合わないし、する意味もないもの。今できることでやりくりするしかないわ。
カートリッジがあれば一つ一つの術の威力が上がるから、そこに期待かなぁ」
確かに、防御力が上がればこの前みたいになることもないだろう。
なのはの場合、一撃デカイのを当てられれば、それだけで優位に立てる一発逆転の可能性がある。
そう簡単にやられなくなるだけども、少しは状況が良くなるはずだ。

「とりあえず、カートリッジに振り回されないように制御能力の向上が中心でしょうね。
 そうすれば誘導弾の動きも良くなるだろうし、それだけ大きいのを当てやすくなるもの。
 ま、これはフェイトにも言えることだけど」
スグにできることと言ったらそれくらいか。
新しいものに手を出すくらいなら、今あるモノの精度を上げる方がいい。
アルフのそれと違って、付け焼き刃じゃ一回だって使えそうにない。
アルフに教えようとしているモノが、逸脱して特殊なだけなんだ。
あと、やらないよりマシなダメで元々の手段ってのもある。

しかし、こういう話をするということは……
「あの、やっぱり今回の件については積極的に関わる気はないんですか?」
と、リニスは少し控え目に尋ねる。
この件にはフェイト達も関わるし、やはり心配なんだろうな。
俺達も関わった方がフェイト達も安全だろうし、できれば手を貸してやってほしいと思っているかもしれない。
だが、今のリニスは凛に使える使い魔。あまり出過ぎたマネをするわけにはいかない、と思っているのだろう。

凛とてそれはわかっているはずだが、その口から出るのはあまり乗り気ではないという意思表示。
「う~ん。またこのあたりに現れたらその限りじゃないけど、他の世界に行ってまでどうこうって言うとね。
 借りは返すつもりだけど、これ以上管理局に関わるのは避けたいし」
悩みどころ、と言うわけか。
前回と違って、俺達が無理に関わらなければならない理由はない。
『闇の書』とやらは確かに危険そうだが、ジュエルシードと比べると数段脅威のレベルが落ちる。
まあ、まだそこまで詳しい情報は貰ってないんだが。

だけど……
「アンタ達はそういうわけにはいかないみたいね。やっぱり気になる?」
「……ええ、フェイト達が心配でないと言うと嘘になります」
「ああ、無理に関わらなくてもいいのはわかってる。でも、正直言うと……」
「はぁ……ま、アンタ達ならそう言うわよね。
リニスにフェイトの心配をするなって言うのは、言うだけ無駄だし。
 士郎の方も、被害者が出ている時点で放ってなんておけないでしょうけど」
そう、何もしないでいることを苦しいと感じる俺がいる。
自分に出来ることがあるのに……いや、なくてもきっと俺は何かしたいと思うだろう。
二十年かけて染みついた性分は、そう簡単には抜けてくれない。

何より、なぜシグナム達がそんなことをするのかが気になる。
あまり、私利私欲のために人を襲うような印象は受けなかったんだが。
その眼には、譲れないモノのために戦う強い意志の光があった。
なにか、そうせざるを得ない理由があるような気がしてならない。
まあ、アイツらが情報通りの存在なら、複雑な動機なんて必要ないのかもしれないが。

それに、問題なのはむしろ仮面の男の方。
クロノ達も一番警戒しているのは奴だ。
闇の書の完成が目的みたいだが、その理由が分からない。
一体何を考えている?

思考が脇道に逸れそうになったところで、凛が意外なことを言う。
「ふぅ、別にいいんじゃない。いっそ、思いっきり関わっちゃってもさ。
 どうせ士郎のことだから、アイツらが動いたと知ったら後先考えずに動きそうだもの。
 リニスにしてもフェイトとかアルフがヤバそうなら……やっぱり、ね」
むぅ、否定できない。例え一瞬前まで関わらないと決めていても、その瞬間に考えをひっくり返しそうだ。
前科を数え上げたらきりがないからな。
リニスの方も、否定できないらしく申し訳なさそうにうなだれる。娘みたいなもんだし、無理もないよな。

しかし、ここで凛がこんなことを言うとは思わなかったな。
「どうしたんだ? 普段だったら、無理矢理にでも止めそうなものなのに」
「私だって、やられっぱなしじゃ性に合わないのよ。
 なのはの借りはなのは自身に返させるとして、あの黒いのにはちゃんとお礼をしないとね」
その顔には、久しぶりに見る壮絶な笑みがある。
つまり、保身より流儀を取ろうと言うわけか。ああ、何ともお前らしい。
あの黒ずくめの方には、ご愁傷さまと言う感じもするけど。

「それに、管理局と関わりたくないってのも割と今更だしね。
 これ以上余計なことを知られなければ、関わるの自体はそれほど問題じゃないもの。
 別に管理局に入るわけじゃなし、要は手の内を知られなければいいのよ」
そういって、肩をすくめる凛。
ま、すでに関わっちまったんだから今更と言えば今更か。

しかし、さすがに無条件と言うわけにもいかない。
リニスはともかく、俺達にはバレると困ることが多いからな、仕方がないか。
「とはいえ、極力手を出さないように努力しなさい。
一応これはあの子たちの戦いだし、過保護も程々にすべきでしょ。
私達は私達の仕事をすればいいの。その点を厳守するなら、別にかまわないわ」
「わかった。できる限り努力する」
「はい、私もそれで構いません」
どこまで守れるか自信がないが、精一杯の誠意を持って約束する。たぶん、リニスも似たような感じだ。
とはいっても、凛からは「期待しないでおくわ」と言う返答が返ってきた。
信用ないなぁ…………当然だけど。


こうして、俺たちもまたこの件に関わることを決めた。
しかし、この相談が無意味となるほどの出会いがあることを、俺たちはまだ知らない。



一応今後の方針が決まったところで、凛がいきなり話題を変える。
「ところで、さっきフェイトと二人で話してたわよね。何を話してたの?」
ああ、やっぱり気付いてたのか。
別に何もなかったから、そんな怒りの中にさびしさのこもった眼で見ないでくれ。

別に隠す気なんてないし、正直に白状するから。
「まあ、何と言うか。半年前の再確認、かな?」
「ていうと、あの告白の続きか何か?」
まあ、だいたいそんなところか。
リニスも気になるらしく、興味深そうにこちらを見ている。

「ああ、改めて『好き』って言われた。だぁもう、そんな目で見るな!
 もちろん、ちゃんと俺の気持ちは伝えたんだけど。
『うん、わかってる。でも、まだ諦められそうにないんだ。もしかしたら、本当は何もわかってないのかもしれない。だから、もうしばらく時間をちょうだい』って言われたよ。
 これ以上、どうすればいいのさ……」
あんなに健気に想ってもらえて、嬉しくないはずがない。
だけど、俺はその想いに応えることはできない。
そのことはちゃんと伝えた。伝えたけど、フェイトはまだ時間を必要としている。

それに、これは俺の言葉だけでどうこうなる問題じゃない。
結局は、フェイト自身が自分の中で決着をつけなくちゃいけない事だ。
あまり急かしても逆効果になりそうだし、そこまで強く拒絶するのも気が引けてしまう。
俺にとってフェイトは友人であり、同時に妹とかの感覚に近い相手だ。
以前と同じは無理にしても、その関係までは壊したくないのが本音。
身勝手な言い分だってことはわかってるけど、ホントどうすればいんだよ……。

だが、頭を抱える俺に向けて、凛がジト~っとした眼で睨んでいることに気付く。
「どうしたんだ?」
「アンタね。今の話聞いていると、フェイトは『まだ諦められない』としか言ってないじゃない。
一言も『諦める』なんて言ってないんだから、全然諦める気ないわよ、あの娘」
……あれ? 確かに言われてみると、「時間が欲しい」としか言ってない。もしかして俺、まんまと騙された?
じゃ、あの悲しそうな顔は、もしかしなくても演技だったのか!?
………………女性は、皆女優と言うことか。

リニスはリニスで……
「フェイト、強くなりましたね」
と何やら感動してるし……って、泣くほどのことか!?
あの、なんですかそのリアクション。


そういうわけで、俺たちの関係は実は何も解決していないのだった。
こんな調子で、俺は今後も事あるごとに時に騙され、時にはぐらかされてしまうことになる。
当然、その度に凛からの天罰という名の制裁を受けることになるわけで……。



SIDE-アイリスフィール

私は片手を隣にいる子とつなぎながら、ビルの階段を上っている。
やがて扉の前に到達し、それを開く。

開けた先に待っていたのは、よく知る家族たち。
シグナム、シャマル、ザフィーラ。
この世界で出会った、かけがいのない家族。
そして、彼らは同じ目的のために歩む同士であり、一時とはいえ私に仕えてくれる騎士達。

特にシグナムは、どこかセイバーを彷彿とさせる雰囲気がある。
同じ剣士だからか、それとも気質が似ているのだろうか。
一つ言えるのは、セイバー同様私は彼女に全幅の信頼を置いているということ。
同時に、彼女もまた私に揺るぎなき忠義を誓ってくれている。
例えそれが、偽りの主に対するものであったとしても、彼女が捧げてくれる想いは本物。
なら、それだけで十分。

シグナムはこちらを向き、穏やかな口調で話しかけてくる。
「遅かったですね。主が夜更かしなさるということは、本でも読んでいたのですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、なかなか寝てくれなくて。
 何も知らないなりに、何か気付いているのかもしれないわね」
はやては優しく、とても気配りのできる子だ。
だから、もしかしたら私達の異変にも気付いているかもしれない。

そこで、私の手を握るヴィータが心配そうな視線を向けていることに気付く。
「でもさ、アイリ。本当に行くの? アイリが行く必要なんて……」
「足手纏いになるのはわかっているけど、それでも行かなければならないわ。
 管理局の動きも本格化している以上、どこかで私のことを印象付けておいた方がいいもの。
 そうすれば、もしもの時はやてにかかる危険が減るはずよ」
「そ、そういうわけじゃなくて……別に、アイリは待っていてくれたっていいんだし」
普段は強気な子だけど、こういうときは見た目相応になる。
それに、ヴィータの言葉はすべて私を気遣ってのもの。
それがわかるだけに、この子に対して愛おしさがこみ上げてくる。
はやてだけじゃない、ヴィータもまた私にとって娘のような存在なのだ。

その気持ちを隠すことなく、心の赴くままにヴィータを抱きしめる。
「ありがとう。だけど、ごめんなさい。
 私はあなたたちみたいに戦うことはできないから、せめてこれくらいはしたいの。
 それに、あなたたちになら私も治療くらいはできるしね」
普通の人間相手だと、私の治療はあまり使えるようなモノじゃない。
だけど、ある程度体に融通のきくみんななら十分使える。

抱きしめたことでヴィータの顔は見えないけど、その耳が赤くなっているのがわかる。
「それに、何かあっても守ってくれるんでしょ」
「あ、当たり前だろ! アイリのことは、あたしがちゃんと守るから……」
ええ、わかっているわ。だからこそ私は、何も恐れることなく戦場に迎えるのよ。
たとえこの身に、あなたたちほどの戦う力がないとしても、何も怖くない。

「じゃあ、行きましょうか。
 はやてを、私達の家族を運命の枷から解き放つために」
「「「はい(おう)!」」」
私のよびかけにそう応え、みんなは騎士甲冑を纏う。

そして、私はヴィータに連れられて遥か彼方の世界へと渡った。







あとがき

ああ、ここのところシリアス続きでしたが、やっとほのぼの路線に入れました。
まあ、またシリアスに入るんでしょうけどね。

士郎と凛は一応この件に関わることを決定しました。
まあ、今までは「どうしようか?」的な感じだったのが、「手伝いぐらいはしてもいいか」になったようなモノです。なんというか、消極的協力というのが妥当なところかと。
アイリを見ればもっと積極的に関わることになるんでしょうがね。

基本、シャマル以外の面子に関してはなのはたちの希望通りにやらせるつもりでいます。
ただし、そのための訓練なんかは二人が主に担当します。
あと、アルフに七夜の体術を教えてみると言う方針が持ち上がってますが、あれの性質を考えると使えそうなんですよね。
何より、アルフとザフィーラは戦い方が似ているので、長所を活かすのが難しそうですから、ああいう奇策を用いることを思いつきました。まあ、短期間でモノになるとは思えませんが。

葛木の蛇も候補ではあるのですが、アルフの好みには合わなさそうなんですよね。
アルフも動きまわるのが好きそうですし、蛇みたいにどっしりと構える戦い方は不向きに思えます。
それに士郎にしても見た回数が少ない上に、だいぶ昔のことなので教えるのは難しそうと判断し、今回は見送りました。

それと、なのはやフェイトの場合、カートリッジの使用自体は特に問題視していません。
シグナム達とやりあおうとするなら、少なくともそれくらいはしないと無理でしょう。
その上で、お互いの長所を活かせる作戦と戦術を叩きこむ予定です。

あとは、翠屋でのことは悪ノリが過ぎたかなぁと反省する気持ちがあるような、ないような。
改めて思ったことは一つ、バトルよりもはるかにギャグは難しい、ってことですかね。
正直、自分で何をやったら笑えそうかと考え、それを実際に書いてみると寒気がするんですよ。「うわ、何書いてんだろ」って言う感じに。


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