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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第25話「それぞれの思惑」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/17 17:03

SIDE-凛

甚だ不本意ながら、今私達は時空管理局の本局にいる。
っていうか、どう見たって「宇宙要塞」の類じゃないのよ、ここ。
アースラが宇宙戦艦だから……次は何が出てくるのかしらね? 怪獣? それとも、どっかの戦闘民族とか?
正直、要塞が出てきただけでもう十分だから、そろそろ終わりにしてほしいわ……。

で、なんでこんなところにいるのかと言うと、一番の理由は士郎となのはの治療のためだ。
士郎だけなら私一人で十分なのだが、なのははそうはいかない。
さすがにリンカーコアのことなんてわからないし、そっちは専門家に任せるしかない。
その弟子を他人に預けっぱなしにするわけにもいかないし、ついて行かざるを得なかった。

ちなみに、私も含む他の面子は割と軽傷。
と言っても、私も腕の骨にヒビが入ってるんだけど。
まあ、この程度なら完治までにはそうかからないでしょ。
士郎と一緒だったおかげで、いつの間にか治癒系の魔術もうまくなっちゃったし……。

それに、ここにいるのはなにも治療のためだけじゃない。
今回の一件のことで、リンディさんたちとも話をしたい。
あの連中には、ナメたマネしてくれた借りをしっかり返さないと気が済まない。
そのためにも、今は少しでも情報が欲しい。
連中の目当ては魔力みたいだし、今後また私達の前に現れないとは限らないなら尚更だ。


場所は士郎が運び込まれた病室。

医者の診断によると、主な外傷はあばら二本を折られたのと、剣鱗によって裂かれた皮膚。
あとは、思いのほか頬の傷が深い位だけど、剣鱗の傷と合わせて出血はすでに止まっている。
軽傷とはいえないが、昔に比べればたいしたことはない。
骨折にしても、こっちの技術と合わせれば完治にそう時間はかからないだろう。

だが、それはそれとしてやはり説教の一つでもしないと気が済まない。
「で、何か言い訳はあるかしら? 衛宮君。
 私の記憶が確かなら、なんだかすごい偉そうなことを言っていた気がするんだけど」
「あ、いや……それはぁ、その」
私の眼を見ることができず、眼を逸らしながら口ごもる士郎。

そんな士郎に向けて、カーディナルがボソッと一言。
《………役立たず………》
ああ、ああ、傷口に塩を塗りこんでるわねぇ。
士郎は士郎でぐうの音も出ないのか打ちひしがれている。
ああ、言葉の刃が突き刺さっているのが見えるようだわ。ついでに言うなら、こうグリグリと抉ってる。

しかし、カーディナルの攻勢はまだまだ続く。
《敵の一人でも道連れにして死ねばよかったのに……この早漏》
「ちょっと待て!! 今なんか凄いこと口走っただろ!?」
う~ん……なんていうか、カレンを彷彿とさせるわ、その物言い。どこで覚えたのよ、そんな言葉。

そのまま二人のケンカ(?)は治まる気配を見せず、私を置いてきぼりにして進んでいくわけで……。
《そもそも、あなたの様な駄犬がマスターと交際しているのが間違っているのです。
 というわけで、さっさと別れなさい》
「いや! それ今は関係ないだろ!!」
《関係ありますよ。こんな役立たずにマスターは任せられませんから。
 そうでしょ、この役立たず。どうなんですか、ミスター役立たず》
「だぁ~! 役立たず役立たず言うなぁ!!! どうもすみませんね、すべて俺が悪うございました!!」
《自覚があるのなら早々に縁切りしてくれませんかね……》
はぁ、あんたらホント反りが合わないのねぇ。
でも、士郎はさっきまでより元気になっている。
もしこれがこいつなりの気の使い方だとしたら、直角寸前の屈折ね。それも捻りまで入ってる。

とはいえ、そろそろ止めないといつまでたっても話が進まないか。
「はいはい、仲が良いのはわかったら、そこまでにしときなさい」
「《違うぞ、凛(違いますよ、マスター)!!》」
思いっきり揃ってるじゃないの。
あんたら、反りは合わないけど相性いいと思うんだけどなぁ……。

そこで士郎がさっきまでと違う、神妙な顔をしていることに気付く。
「凛、カーディナル………すまなかった」
なにも言い訳せず、ただそう言って士郎は頭を下げた。
やっぱり、相当責任を感じていたってわけか。

まあ実のところ、別にこの点に関してはそれほど怒っているわけじゃない。
敵の増援が来てしまったのだから、あの状況では抑えておけなかったのは仕方がない。
あのレベルで空戦ができる二人を抑えるのは、いくらなんでも無理がある。
だけど、一度はこうやって追及しないと、きっとこいつはしばらくの間このことを気に病む。
自分が抑えておけなかったせいでみんなを危険にさらし、なのはがああなってしまった責任の一端は自分にあると考えるから。

ホントにお人好しよね、アンタは。
「責任があると思うなら次につなげなさい。ゲイ・ボウを当てたんなら、次はもっとうまくやれるでしょ。
 ほら、いつまでも悔やんでないの」
部屋の隅に立てかけてある呪符と布で包まれた槍に目を配り、背中を叩く。
少し(かなり)痛そうにしているが、その顔はさっきより幾分マシになった。
よし、これならもう大丈夫かな。

じゃ、ここからがお説教の本番。
胸倉つかんで本格的に青筋を浮かべながら笑いかける。
「それはそれとして、あれほど剣鱗は使うなって言ったはずよね。私の話を聞いてなかったのかしら?
 その上隙を突かれてあばらを折られるって、いったいどういうこと?」
ああもう!! ホントに頭に来るわねぇ!
この話を聞いた時、私が一体どれだけ心配したと思ってんのよ、こいつ。
命に別条がないとわかってはいても、背筋が凍ったのを覚えている。

怪我自体は、昔に比べればはるかに軽い。だけど、だからといって安心していられるわけじゃない。
その上、剣鱗まで使っていた。士郎の制御能力は信頼しているけど、それでも怖いものは怖い。
あれは、もしも暴走すれば本当に死にかねない術なのだ。
士郎は割とぽんぽん使うけど、場合によっては体がバラバラになる可能性すらある。
まあ、夏に夜の一族関係で使ったアレも似たようなモノなんだけど。
しかし、どちらも半分近くは暴走させているような代物だ。少しでも制御を誤れば、それが致命傷になる
あの後もあれだけ説教(折檻)したというのに、それでもなおこいつは当たり前のように使うのだから、頭に来るのも当然だ。

しかも、こいつときたらそのことを全然反省していない。
「えっと、そうでもしないとフェイトが危なかったし……」
「そんなことわかってるわよ!
アンタがそんな状況で自分の身の安全を考えて行動できないことくらい、嫌と言うほど知ってるんだから」
それも含めての衛宮士郎だし、そういうところを含めて私はこいつを愛おしいと思う。

でもね、もう少しでいいから自分のことを大切にしてよ。
「別に人を助けるな、なんて言わないし、アンタが無茶するのは脊髄反射みたいなものなのも承知してる。
 だけどね、アンタのしたことは下手をすれば死んでいたっておかしくないの。
 私の許しも得ずに、勝手に死んだら許さないんだからね」
そう言って、ベッドに座る士郎の胸に体を預ける。
預けた体が、肩が震えているのを自覚する。

情けない話だけど、本当に怖かったのだ。
暴走なんてまずしないのはわかってる。剣鱗を使ったくらいじゃ、致命傷なんて普通は負わない。
だけど、物事に絶対はない。
もし剣鱗を使ったせいで内臓や血管に致命的な傷が付いたらと思うと、怖くて仕方がなかった。
士郎の体が冷たくなって、動かなくなるんじゃないかと思うと、どうしようもなく怖かった。
私をこんなに弱くした責任はアンタにあるんだからね。勝手に死ぬなんて………………絶対に、許さない。

《不本意ながら、あなたが死ぬとマスターが悲しみます。あなたの生死に興味はありませんが、それは困ります。
 そもそもあなたもマスターの所有物、勝手に死ぬ権利などありません。死ぬのなら縁を切ってからにしなさい》
ああ、そりゃ無理ね。こいつが何をしようと、絶対に縁切りなんてしてやらないし、させてやらない。
カーディナルだって、そんなことは百も承知のはず。
つまるところ、言ってる意味は私と同じだ。誰に似たのか知らないけど、ホントに素直じゃない。

僅かな沈黙が続き、士郎の手が私の背に回る。
「…………わかってる。本当に、ゴメン。
 もうしないなんて約束はできないけど、それでも勝手に死んだりはしない」
そうして、士郎は私の体を抱きしめる。
ああ、士郎じゃそれくらいが限界よね。できもしないことを言うような奴じゃない。
でも、少しだけなら安心してもいいのだろう。

その後しばらくの間、私達は何も言わずにお互いの温もりを伝えあった。



第25話「それぞれの思惑」



SIDE-士郎

少ししてリニスがやってきて、俺達は大慌てで体を離した。
幸いにもリニスにはみられていなかったみたいで、何やら不思議そうな顔をしていたから多分そうだ。
おそらく、何で俺達の顔がそんなに真っ赤になってるのか疑問に思っていたんだろう。

まあ、それはともかく。
なのはの方の検査を含めた諸々が終わったらしいので、俺達もそちらに向かうことにする。
俺の方は一通りの処置は済んでいるし、一応はもう動いていいと言われている。
医務室から出るときは、一声かけるようにいわているがそれさえしておけば問題ない。
俺は布で包んだ槍を片手に、凛たちと共に部屋を後にする。


で、なのはがいる医務室に入ったのだが、その光景に絶句する。
なにせ、フェイトとなのはが二人っきりでお互いに抱きしめ合っているのだ。
えっと、これは一体何事?

フェイト達の方も、俺達が入ってきた事に気付きこちらを向いている。
その顔はもう真っ赤で、口が半開きだ。
「ああ……なんというか、お楽しみの真っ最中だったみたいね。
 私達しばらく席を外すから、終わったら声かけて。ごゆっくり」
凛はそう言って部屋を後にしようとする。
たしか、こういうのを「百合」と言うんだったか?
そうか、二人にそんな趣味があったとは………いや、冗談だけどなさ。

しかし、結局は俺も凛に倣って部屋を出ようとする。だが、そこで待ったがかかる。
「にゃにゃ!! ま、待って! 違うよ。絶対何か勘違いしてるよね!!?」
「そ、そうだよ!! っていうか、何でシロウやリニスまで外に出ようとしてるの!?」
フェイトとなのはの二人が、俺と凛、そしてリニスの服の裾をつかむ。
なんというか、その顔も声もこれ以上ない位に必死だ。

けれど、凛様はそんな二人の主張を無視して、こう朗らかに告げておられる。
「なのは、フェイト、安心しなさい。私にそういう趣味はないけど、そんな人もいるって理解してるから。
 別に恥ずかしがることじゃないわ。ちょっと他の人と趣味が違うだけですもの」
《それも愛の形です》
ああ、完全に弄る気満々だな、凛。もう楽しくて楽しくて仕方がないという顔をしている。
それもカーディナルまで一緒になって。お前ら、ホントいい性格してるよな。

だが、凛のその顔にフェイト達は気付いていないらしい。
さらに顔は赤くなり、何とか誤解を解こうと必死にまくし立てる。
「だから違うのぉ!! それに、そういう趣味って何!? わたし達はいたって普通だよ!」
「そうそう。た、確かになのはのことは好きだけど………。
でも、凛が考えているようなことじゃないのは間違いないよ!」
やれやれ、そうやって必死になるから弄られるんだけどなぁ。
凛に弄られるのは、以前は俺の役目だったが今は二人に引き継がれたらしい。
助けたいのはやまやまだが、巻き添えになりたくないので距離を取る。
リニスもいつの間にか俺の横に立っている。

しかし、なのはたちの必死の弁解も虚しく、凛は更に話を発展させる。
「でもね、なのは、フェイト。今はまだキスまでにしておきなさい。アンタ達にその先はまだ早いから」
《具体的には、十八歳以上になってからをお勧めします》
「「その先って何!!?? お願いだから話を聞いてぇ~~~……」」
遂には涙目になって凛に縋りつく、フェイトとなのは。
全く凛の奴、さっきまでとうってかわって凄く生き生きとしているなぁ。

その後も凛は二人の言い分を無視し、どんどん話を勝手に進めていった。
その都度フェイトとなのはは、何とか訂正しようとするが全て徒労に終わる。
俺とリニスはと言うと、少し離れたところで他人のふりをして傍観していた。

一度は助け船を出そうかとも思ったが、結局それは断念した。
だってなぁ、いつの間にかギャラリーが集まっていたんだもの。
あの中心に入るような度胸は俺達にはない。

先達として俺が言えることは一言、二人とも「強く生きろ」!
そいつと関わっちまったのが運のつき。
早めに耐性を付けるか、対処の仕方を覚えないと泥沼だぞ。
まあ、それでもちょっとやそっとじゃ抜け出せないけど。



  *  *  *  *  *



先ほどの騒動は、騒ぎを聞きつけたクロノの活躍もあって無事治まった。

と言うと大げさだが、フェイト達にとってクロノはまさに救世主だっただろう。
たとえ、集まったギャラリーを解散させ、凛にほどほどにするよう言っただけだったとしても。
エイミィさんの事で、きっと慣れてるんだろうなぁ。あの背中からは、熟練の匠の技と気概が見えた。
なんというか、ご愁傷様です。


その後、レイジングハートとバルディッシュの様子を見にきたが、余り状態は良くないようだ。
双方共に本体部分が破損し、修理には時間がかかるらしい。
ちなみに、凛のカーディナルは一応無事。
細かな破損はあるが、それも自動修復だけで何とかなるレベルだ。
さすがにこのあたりは、戦いと言うモノに対する年季の違いと言ったところか。

そんなこと考えてたら、踏み砕かんばかりの勢いで右足を踏まれました。
巧妙に、フェイト達がこっちを見ていないタイミングで……。
「(右足をおさえて悶絶中)~~……な、何も言ってないぞ」
「考えるな」
抗議したら、そんな感じに凄まじい形相と硬い拳で脅迫されました。
どうやら、俺の自由権は著しく制限されているらしい。

まあ、凛の気持ちもわからんではないか。
(肉体的に若返ったとはいえ、俺たちもいい加減三十路近いしなぁ。
いろいろ気になるお年ごろということか…………ぐぼっ!!)
そんなことを思ってたらまたやられた! こう、ゼロ距離でガンドを水月に……。
こいつ、いつの間に読心なんてできるようなったんだ?


閑話休題。

シグナム達のことでフェイト達があれやこれや話しているところで、アルフがある疑問を口にする。
「ねえ、あの連中が使ってる魔法ってなんか変じゃなかった?」
アルフがそう思うのも無理はない。
現在、次元世界ではミッド式が主流だ。ベルカ式の使い手も決して少なくないが、ミッド式とは比べられない。
フェイト達も、今までベルカ式の使い手と会ったことがないのだろう。

アルフの疑問に、クロノが簡潔に答える。
「あれはベルカ式だ」
「ベルカ式?」
「詳しいところは士郎に聞いた方がいい。士郎も一応はベルカ式を使うから」
なんでこいつはそこで俺に話を振るかな。
確かにベルカ式を使うが、それでも俺の様な変則型よりクロノの方が説明に向いていそうなものを。

とはいえ、みんなの視線が集まっているし大雑把にでも概要を説明するしかないか。
「ベルカ式はその昔ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系だ。
 基本は対人戦特化で、遠距離や広範囲の攻撃をある程度度外視している。
 また、最大の特徴としてカートリッジシステムと呼ばれるものがある。
 これは、凛の宝石のようなモノをイメージしてくれればいい。
 弾丸に魔力を溜め込み、それを使用することで一時的に爆発的な破壊力を生みだすというものだ」
なのはなどはその説明で納得の表情を見せる。
凛の魔術について、それほど詳しいことを知っているわけじゃないが、概要程度は教えてある。
そのおかげで、割りと理解はしやすかったみたいだ。

「違いがあるとすれば、凛の宝石と違ってそれ単体では術を使えないってところか。
 凛の宝石なら、起動させるだけでも術を発動できるモノもあるからな。
 後は、ベルカ式の場合優れた使い手は騎士と呼ばれる。
 シグナム達が言ってなかったか? 『ベルカの騎士』って」
俺がシグナムと戦っている場にはフェイトもいたので、ちゃんと聞いていたらしく頷き返してくれる。
他にもベルカ式は近代と古代にわかれるんだが、概要程度ならこれでいいだろう。

一通りの説明が終わると、フェイト達はシグナム達のことでまたあれこれ話をしている。
そこで、クロノが俺に念話を送ってくる。
『士郎、一ついいか? あえて気にしないようにしてきたんだが、いい加減その槍はしまったらどうだ』
ああ、これのことか。
普段だったらさっさと消してるところだし、こんな物騒なモノを持ち歩かれては困るのだろう。
フェイト達には俺の魔力切れで戻せないと言ってあったけど、それだけでは納得しなかったらしい。
しかし、だとすればよく今まで放置していたな。

まあ、これだけ近くにいて顔も見えれば、俺の方からも念話が送れるのでそれに合わせる。
『悪いんだが、そういうわけにもいかないんだ。それをすると、せっかくの成果がなくなっちまう』
『どういうことだ? やっぱり、何か理由があるんだな』
俺の言葉を聞き、クロノの雰囲気が変わる。
さっきまでの頭痛を抑えるようなものではなく、真剣そのものだ。
それに、槍を出しっぱなしにしているのには、何らかの理由があるとは思っていたようだ。
まあ、そうでなかったら今まで放置しているはずもないか。

特に教えても問題ないだろうし、包み隠さず教えることにする。
『まあ、こいつもちょっと特殊な代物でさ。
 この槍で付けられた傷は、決して治ることがない。
 次にシグナムと戦う時があれば、その時は多少やりやすくなるはずだ』
当初の目的はシグナムの打倒ではなく、あくまでも増援が来るまでの時間稼ぎ。
次がある可能性は十分あった。だから、次につながる戦いを念頭に置いていたのだ。

『つまり、あの騎士は今日ほど強くはないということなのか?』
『そういうことになるな。動かせないほどの深手ではなかったけど、技のキレは落ちるはずだ。
 まあ、手負いの獣の例もあるし、必ずしも弱体化するとは限らないんだが』
逆に、そのことで奮起して一層厄介になる可能性もある。
少なくとも完全に潰したわけじゃないし、あまり期待し過ぎるわけにもいかない。

だが、それでも多少なりともその戦力を削げたことは貴重な情報なのだろう。
『なるほど、それはありがたい。
向こうはかなりの使い手だ。その戦力が少し落ちるだけでも助かる。
だけどさっきの口ぶりだと、いったん戻してしまうと効果がなくなるのか?』
『そういうことだ。あとは破壊されても同様だから、しばらくの間は厳重に保管しておくのがいいだろうな』
次の時はまた新たに投影してやればいいから、今あるこれはしまっておくのが最善だ。
まあ、今頃この槍の能力に気付いているだろうし、もう一度使おうとしても難しいだろうけど。
そういうモノとわかっていれば、何としてでも触れさせないようにするだろうし。

『そうか、念のため念話を使って正解だったな。この話、なのはやフェイトには知らせない方がいいだろう』
『同感だ。二人ともまだまだ甘い。悪いこととは思わないが、それも時と場合によるからな』
連中の狙いが魔力である以上、特にフェイトはこの一件に関わらなくてもまた遭遇する可能性がある。
そうなればまた戦うことになるかもしれないが、その時にこのことを知っていれば動きが鈍くなるだろう。
となれば、わざわざ教えておくようなことじゃない。

シグナムの動きに違和感を覚えるかもしれないが、その時は今回の傷が治りきっていない、とでも言えばいい。
あながち間違いじゃないし、シグナムの性格上負傷を理由に手加減されるのは好みそうにない。
僅かなやり取りしかしていないが、そう言う印象を受けた。
となれば、自らその点について何か言うとは考えにくい。
つまり、俺達が黙っていればフェイト達がこのことを知ることはない。

事情を知ったクロノは、珍しく冗談めかした口調で妙なことを言う。
『しかし、また物騒なモノを使ったな。
 傷が治らないなんて、まるで呪いだ。そんなものまで持っているのか、君は』
『え? いや、まるでも何も、正真正銘こいつは呪いの魔槍だぞ』
そう、こいつの能力は「不治の呪い」だ。
それも、その点に限ってはゲイ・ボルグよりもよほど強力な。
その呪いの強さは、回復どころかディスペルさえ不可能なほど。

それを聞いた瞬間、俺の近くにいたクロノはビクッと震え数歩下がった。
クロノの異変に気付き、フェイトがいぶかしむように尋ねる。
「……クロノ、どうしたの?」
「あ…いや、なんでもない。気にしないでくれ」
良く見ると、クロノの挙動不審な様子にみんなの視線が集まっている。
まったく、これじゃ密談の意味がないじゃないか。

そこでクロノは気を取り直すように咳払いをすると、改めて念話を送ってくる。
『コホン、ところで士郎。そんな危ない物の近くにいて、君は大丈夫なのか?』
いや、大丈夫というかなんというか、こいつは傷さえ負わなければ特に害はないからな。
魔槍や魔剣の中には、ただ持っていると言うだけで呪いが掛かる代物もある。
だが、こいつに限ってはそんなことはないので、別にただ持っているだけじゃ危険はないんだが。

………ああ、そういうことか。
つまり、呪いの魔槍と聞いて近くにいるだけでも呪いに侵されると思ったのか。
『その点は安心していいぞ。こいつの場合、持っているだけなら特に害はないからさ。
 取り扱いに注意は要るけど、それさえ守っていれば大丈夫だ』
『そ、そうか。それならいいんだが』
クロノはおっかなびっくりの様子ではあるが、一応納得したらしい。
俺の説明不足もあったし、ちょっと悪いことをした。

俺の説明に一応納得したのか、今度はクロノがフェイトに声をかける。
「さて、フェイト。そろそろ面接の時間だ。
 なのはと凛、それに士郎も一緒に来てくれないか?」
「嫌よ」
クロノの言葉が終わると同時に、凛が即答する。
クロノはあまりのことに硬直してしまっている。

「フェイトの用なんでしょ? だったら私達は関係ないじゃない。
 それに面接ってことは多分お偉いさんに会うんだろうけど、私そういうの興味ないから。
なのはだけ連れて行って勝手にやって頂戴」
「えぇ!? なんでわたし!」
いきなり指名され、面倒事を押し付けられたなのはが叫ぶ。
うん、俺もさすがにこれはないと思う。

俺だってお偉いさんに興味はないが、わざわざ呼びからには理由があるのだろう。
クロノも最初は硬直していたが、頭痛を抑えるように頭を抱えながら頼み込む。
「頼むから、そう言わないで一緒に来てくれ。君たちにとっても重要な話なんだ」
「じゃあ、しょうがないわね」
と、さっきの即答が嘘のように承諾する。
ああ、俺以外の面子は付いていけてないのか呆然としているな。

凛は唖然とするクロノに向けて、挑発的な笑みを向ける。
「なによ、その顔は?」
「いや、君はたった今拒否したんじゃなかったか?」
「そうよ。行きたくないのが本音。だけど、そうも言ってられないでしょ。
 どうせ話の内容は今回の件だろうし、それだったら無視するってわけにもいかないもの」
はあ、全部わかった上でこういうことをする奴なんだよなぁ。
付き合いの長い俺ならともかく、他のみんなは付いていくのが大変そうだ。

そのまま凛は、クロノたちを置いてさっさと外に出る。
「ほら、早くしなさいよ。道案内してもらわないと、どこに行っていいか分からないでしょ」
俺は凛の後を追いながら、クロノの肩を軽く叩く。
言葉にはしないが「頑張れ」という精一杯の思いを込めたのだが、どうやらちゃんと伝わったらしい。
ついでに、お偉いさんに会うのにこれを持っているのは問題だろうし、槍はリニスに預けておく。

クロノは一つ溜息をついて、哀愁の漂う背中で歩きだす。
南無南無……。



で、やってきたのはなかなかに立派な部屋。

何でもこの部屋の主ギル・グレアム提督は、管理局でもかなりのお偉いさんらしい。
どのくらい偉いのかはよく分からないが、立派な髭をたくわえた人の良さそうな壮年の男性だ。
この人はクロノの指導教官だったこともあり、ある意味師に当たる人と聞く。

話の内容は、フェイトの今後の処遇とちょっとした昔話。
この人はフェイトの保護観察官とやらでもあるようだが、特にその行動を制限する気はないらしい。
まあ、堅苦しくない話の分かる人で良かった、というところか。
また、なんでもこの人も地球出身らしく、同郷出身の俺たちに会ってみたかったそうな。
そのついでに、この人が魔法と出会った際の話も障り程度だが教えてもらった。
凛は終始興味なさげにしてたけど……。

ちなみに、紅茶を振る舞ってもらったのだが、正直出来に不満があったので許可を取って淹れ直させてもらった。
決して下手なわけではないのだけれど、満足いくモノとは言い難い。
せっかく肩書に見合ったいい葉を使っているのに、これではもったいない。

グレアム提督は、淹れ直した紅茶を一口飲んで「ほぉ」と感嘆のため息をつく。
「いや、まさかこの葉がこれほどいいものだとは知らなかった。
 私も紅茶にはうるさい方だと思っていたのだがね。どうやら、かなり損をしていたらしい。
 リンディ提督に聞いていたが、なるほど君の腕前は確かにプロ級だ」
と、そんな手放しの讃辞を受けてしまった。お茶くみにスカウトされたのだが、丁重に固辞させてもらった。
茶坊主になるために管理局に籍を置くというのは、いくらなんでも間抜けすぎる気がするし。
ちなみに、凛は私が仕込んだのだぞと得意気にし、フェイトはこちらに羨望の眼差しを向けている。
ただし、クロノやなのははものすごく呆れたような眼で俺を見ているけどな。

そうして、やっとグレアム提督は俺たちに関わる話に移る。
「さて、君たちに来てもらったのはほかでもない。
 詳しいことは後でリンディ提督たちから説明があると思うが、今回君たちが関わった事件にはあるロストロギアが関与していることがわかった。
 そして、その性質上今後君たちが再び襲われる可能性は十分にあってね。そこで、一つ取引をしたい」
取引、か。まず真っ先に思い浮かぶのは、俺たちに協力を求めることだよな。
文句なしにシグナム達は強い。
あれに対抗できる人材がどれだけいて、常に人手不足に喘いでいる管理局がこの件に何人動かせるか。
大勢いても動かせなければいないのと同じだしな。

まあ、交渉事は基本的に凛の領分なので、俺は口を噤み凛は普段と違う猫被り状態で交渉に臨んでらっしゃる。
「内容と条件によりますね。そこを話して頂かないことには、判断できませんもの」
「なに、それほど難しいものではないよ。単刀直入に言うと、海鳴市内での管理局員の滞在を認めてほしい。
 どうやら彼らは、地球から個人転送で行ける範囲内に出没しているようでね。
 また君たちの前に現れるかもしれんし、現地に拠点がある方が都合がいい。
 この件はアースラが担当することになるのだが、顔見知りならば君たちとしても安心できるはずだ。
 それに、その方が君たちのことも守りやすい。許してはもらえないかな?」
ふむ、予想に反して協力要請ではないのか。まあ、ジュエルシードの時とは違うし、当然と言えば当然か。
だけど、ちょっと裏がありそうな言い方だな。
それに、わざわざ俺たちに滞在の許可を求める必要なんてないはずなのだが。

「おかしなことをおっしゃいますね。別にあの街は私達のものではありません。
 なら、許可も何もないと思うのですが」
「確かにその通りだ。しかし、あの街が君たちのテリトリーなのも事実だろう?
 他人のテリトリーに入ろうと言うのだ、それ相応の礼節と言うモノがあると私は考えている。
 他の住民たちにとってはほぼ無関係な事だが、君たちにとってはそうではないからね」
なるほど。確かに、言っていることはもっともだ。
だが、そこで凛が小声で「この古狸」と呟くのが聞こえる。
どうやら俺以外の耳には届いていないようだが、この場で言うのはどうかと思うぞ。

「そういうことでしたら、僭越ながら許可を出させていただきます。
 特に管理局の行動に制限を設ける気はありませんので、その点はご安心ください。
 ただし、一つだけ条件があります。そちらの活動及び調査で判明したことは、こちらに報告していただきます」
まあ、あの街で動くのだからそれくらいはしてもらいたいところだな。
妙なことをするとかではなく、シグナム達のことを知る上で必要なのだ。
さっきグレアム提督が言ったが、また俺たちの前に現れる可能性は十分にあるのだから。

グレアム提督も凛の出した条件を快諾してくれる。
「もちろんだとも。君たちの足元で動くのだから、それくらいは当然だ」
なるほど、クロノが尊敬するわけだ。
権力を笠に着ることなく、礼節を持って誠意ある対応をしてくれる。
こういう人が、上からは信頼され、下からは慕われ、同僚からは頼りにされるのだろうな。
うん、魔術協会には絶対にいないタイプだ。


一通りの話を終え、俺たちは部屋を辞する。
クロノはグレアム提督と二・三言葉を交わしたようだが、その内容までは聞きとれなかった。
ただ「平静こそ常勝へのアリーナチケット」なんて、クロノらしからぬセリフが聞こえた気がする。
言わんとすることはわからないでもないのだが、何かが決定的に間違っている気がしてならない。



Interlude

SIDE-グレアム

あの子たちが退出したところで、それと入れ替わる形で私の娘が入ってくる。
任せておいた工作は、無事終わったようだな。
「父さま。手筈通り、闇の書に関するデータを一部書き換えておきました」
「ああ、すまない」
まだあの子たちは自らの身近な人間がこの件に関わっていることを知らない。
以前から続く監視で、魔術という技術を修める二人が守護騎士の一人と縁があることはわかっている。
だが、あの子たちにそのことを知られれば少々不味いことになる。
だからこそ、危険を承知で情報に手を加えたのだ。

なにせ、管理局が闇の書の存在を確認してかなりの年月が経っている。
それ以降、幾度となく守護騎士たちとの衝突は行われてきた。
そのため、ある意味あれほど情報の出揃っている未回収ロストロギアも少ない。
しかし今回に限っては守護騎士たちの正確な情報を手にされては困る。
故に、リスクを承知で情報の改ざんに手を出したのだ。

とはいえ、その甲斐あって目先の危険は回避できたか。
「これで、湖の騎士の正体に勘付かれる事を少しは遅らせられるな」
もう一人の娘ロッテからの報告によれば、湖の騎士は変身魔法でその姿を偽装したらしい。
ならば、管理局の情報をそれに合わせて改ざんすれば、しばらくの間は誤魔化せる。
少なくとも、今はまだ彼等を捕まらせるわけにはいかないのだ。

気になることがあるとすれば、それはクロノ達のこと。
だが、アリアはそれを否定する。
「ですね。クロノやリンディは闇の書と因縁がありますが、それでも詳しい情報はまだ持っていません。
 守護騎士の存在は知っていても、その顔までは知らないはずですから」
あの当時は、二人ともそれどころではなかったからな。
最愛の父と夫を亡くしたショックから立ち直るのに精一杯だった。
おかげで、闇の書そのもののことにはあまり触れていない。それなら、気付くにしても時間がかかるだろう。

それに、その後も無意識のうちにこの件を避けているような節がある。
言ってしまえば、トラウマの様なモノだったのかもしれない。
そういう意味で言えば、この件は過去を乗り越えるいい機会になるだろう。
あくまでも、一人の上司あるいは師としての意見だが。
いや、引きずっていると言うのであれば、私も人のことは言えんか……。

しかし、アレは完全な情報操作だ。
その責は私だけに留まればいいが、二人の娘にも及ぶことになるかもしれない。
「すまないな、お前たちまで巻き込んでしまって。
 捜査妨害に情報操作までしてしまえば、すべてが終わった後お前たちにまで……」
「父さま、それは私達に対する侮辱です。
 私もロッテも、これが正しいと信じています。例えそれが、間違った正しさであったとしても」
間違った正しさ、か。なるほど、それは言い得て妙だ。
私達のしようとしていることは、倫理や世間から見れば明らかに間違っているだろう。
しかし、これ以外に一体どうやってこの悲劇の連鎖を止められる。

闇の書の呪いは、何としてでも終わらせなければならない。
例えその結果、外道と罵られ悪魔と蔑まされようと、誰かがやらなければならない事だ。
その役目を、私が担うと言うだけの話。
誰かが負わねばならない汚名なら、私が引き受ければいいだけのこと。

そして、そのために必要ならどんな事でもしてみせる。
幼い子供たちを利用し、信頼してくれる部下や教え子を騙すことになろうとも。
それで、より多くの人々を救えるのなら……。

とはいえ、やはり懸念はある。手元の端末に映る、四人の情報に目をやる。
本当に、この子たちを関わらせていいものだろうか。特に、魔術師と名乗る二人を。
私が何も言わずとも関わってくるかもしれんし、あの子らの情報を得る機会は極力利用すべきだろう。
なにも、闇の書の一件が終われば、次元世界すべての問題が片付くわけではないのだから。

だが、不明な点が多いからこそ、あの子らがこちらの思惑を超えてしまうかもしれない。
そのための対策は立てておくべきか。
「アリア」
「ええ、わかっています、父さま」
多くを語る必要はない。アリアもまた、言わずともわかっていることだ。
この子らが障害と成り得るのは闇の書の完成まで。
完成さえしてしまえば、もはやこの子らの動きを心配する必要はない。
とにかく、それまでの間でこちらの思惑を超えそうになった時は妨害すればいい。
それが、二つを両立する唯一の方法だろう。

それに、最後の最後で守護騎士たちは邪魔になる。
彼らを排除するためにも、あの子らの存在は有用だ。
目の前に厄介な敵がいれば、それだけこちらに向く注意は低くなる。
そうなれば、最後の詰めがやりやすくなるだろう。



アリアが退出し、私は自身のデスクに向かう。

そこで、デスクに置かれている写真立ての一つを手に取る。
家族写真にしては異質だが、これは紛れもなく一つの家族を写したものだ。
そこには、あの子らと同じ年頃の少女が、これ以上ないほど幸せそうな満面の笑みを浮かべている。
同時に、その傍らには闇の書の守護騎士たち、そして未だに正体の掴めない一人の女性が写っていた。

そう、まだ彼女の下に現れたこの女性のことが分からない。
一体何者で、何が目的なのか。これまでの監視や彼女からの手紙では、素性以外で不審な点はみられない。
本当に、家族として彼女と暮らし、慈しんでいるように思える。
しかし、こうまで素性がわからないと、やはり無視はできない。
まず間違いなく、何かしら訳ありの人物のはずだ。

排除する機会はあった。
だが、偽善とわかっていても、少しでも長くあの子には幸福な日々を送ってほしい。
そう思うと、どうしても行動に移せなかった。これ以上の犠牲を出したくないという思いもある。
その甘さが、致命的な失敗の原因になるかもしれないと言うのに。

あるいは、だからこそあの子たちを関わらせようとしたのか。
この不確定要素に対するため、同様の要素を入れる。
そうすることで、両者に読み切れない局面を作る。
上手くすれば、私達の目的がやりやすくなるかもしれない。
どうせ、どちらの要素も完全には動きが読めないのだ。
ならば、利用できるモノは利用し尽くすべきか。

「………………ふぅ。年は、とりたくないものだ」
大義や建前のために自分の本音がわからなくなり、汚いことばかりが頭に浮かぶ。
もはや、管理局に入ったころの気持ちを思い出すことすら難しくなってしまった。

写真を見ながら、思わず言葉が漏れる。
「わかっていた…はずなのだがな」
そのことも含めて覚悟はしていた。しかし、まだそれも完全ではないらしい。
やはり、この写真を見ると罪悪感はぬぐえない。

本当に、彼女には申し訳ないことをする。
やっと願いがかなったというのに、私は彼女を生贄にしようというのだ。
大義があれば、行為を正当化できるなどと言う気はない。
私はこの罪を背負い、いずれ喜んで地獄に落ちよう。
その程度で許されることではないが、それでも甘んじて受け入れよう。

Interlude out



グレアム提督の部屋を辞し、少し歩いた。

フェイトやなのははグレアム提督に尊敬の念を抱いたようで、お互いに「良い人だったね」などと話している。
だが、凛はある程度歩いたところで苦々しく漏らす。
「まったく。とんだ曲者ね、あのオッサンは」
その言葉にフェイトやなのは、それにクロノが目をむく。
自分たちが尊敬する人をそんな風に言われれば、その反応は当然か。

しかし、俺はさっき凛が漏らした言葉を知っているのでその先を促す。
「そう言えば、さっきもそんなようなことを言っていたけどさ、どういうことなんだ?」
「どうもこうもないわよ。あの交渉の時、変だと思わなかった?
 一見すると誠意ある対応だけどね。早い話、私達のことを焚きつけてたのよ」
ここで言う私達とは、凛と俺のことなんだろうな。
焚きつけるというのも、まあ大体分かる。

フェイト達はよくわかっていないようだが、それは気にせず話を進める。
「それってやっぱり、あの『守る』ってあたりか?」
「そうよ。リンディさんからある程度こっちの性格を聞いていたんでしょうね。
 あれって遠まわしに、あとのことは自分達に任せて家に引っ込んでろって言ってるの。
 私達の陣地の中で起こることなのに、よ。
 そういう風に言われて、大人しくしているような性格じゃないってわかった上で言ってるから性質が悪いの」
確かにな。ただでさえ、身内がやられて大人しくしているような性格じゃない。
その上、そんな挑発まがいのことまで言われたら、間違いなく従わない。それが自分の足元となれば尚更だ。
少なくとも、またあの近辺に現れれば管理局など関係なく戦うことになるだろう。
そうすることで、逆に俺達という戦力を確保しようという考えなのか。

それに、これは別に上手くいってもいかなくてもどちらでもいいのだ。
ジュエルシードの時と違って、今回は十分な戦力を用意できるはず。
あの時と違って、大急ぎってわけではないから十分な準備ができる余裕があるし、後方との連携も取りやすい。
俺たちのことは、もし上手くいけば儲け物位にしか考えていないだろう。
仮に協力させるつもりだろうと言っても、そんなことはないとシラを切ってしまえば問題ない程度の挑発なんだから。

「それに、あの街での滞在を認めろってことはね。
 つまり、私達を囮に使おうってことでもあるのよ」
まあ、そういうことだろうなぁ。
どこの誰が襲われるか予想できない状況だが、一番可能性がありそうなのが俺たちだ。
なにせ一度襲われてるし、なのは以外はその目的を達成できていないらしい。
なら、もう一回俺たちの前に現れる可能性は十分ある。
少なくとも、あてもなく探すよりかは遥かにマシだ。

なるほど、あれは食えない人だな。
表面的には一切問題がないが、その実こちらを囮に使おうと言う魂胆なのだ。
にもかかわらず、突けるアラがないからリンディさんの時のような脅迫もできやしない。
その上、こちらの性格も考慮に入れているし、襲われれば迎え撃つ事は想定済み。
さらに挑発まで使って俺達がこの一件に関わるように仕向けている。
断ってもメリットはないし、むしろデメリットだらけだ。

凛としては「望むところ」ともいえる状況だが、そうなるよう仕向けられているのが不機嫌の理由。
主導権を握られているということなのだから、機嫌が良くなるはずがない。
だが、グレアム提督とて、それでいいと思っているわけじゃないんだろう。
一瞬だけど、どこか暗い面持ちが表に出ていた。まあそれも、すぐに消えてしまったが。
あの人なりに、よりより方向に進むよう考えてのものなんだろうな。

例えそれが、苦渋の選択だったとしても。



Interlude

SIDE-シグナム

時刻は夜。

食事を終え、私達は主と共に団欒のひと時を過ごし、もうじき主が眠られる頃合いだ。
それまでの間は、このまま静かに時が経つのを待つべきか。
少なくとも、主が眠られるまでこの家から出るのは望ましくない。
私達がしていることは、万が一にも主に知られてはならないのだから。

しかし、こうして穏やかな時間を過ごしていると今の自分の境遇には驚きを隠せない。
今まで様々な主に仕えてきたが、まさか私達がこれほど温かく迎えられる時が来るとは思ってもみなかった。
少なくとも、温かい食事や清潔な衣服、安心して休める自室など今までにはなかったものだ。
そして、私達に向けられる無償の信頼と愛情も。

新聞を読んでいると、後ろから声がかけられる。
「シグナム。肩の傷、今のうちにちゃんと治療したいから、ちょっと見せてくれる?」
一応、家に帰る前に軽い応急処置くらいはしてある。
特に、顔に傷があっては主に無用な心配をかけかねない。
そちらだけは、真っ先に治療したおかげですでに跡すらない。

だが、それ以外はほとんど後回しにした。
アレ以上帰りを遅くするわけにはいかなかったので、あの時は止血のみを目的としたのだ。
その際に使ったのは、魔法ではなく包帯などの道具だけになる。
傷の治療ならともかく、止血などの一つの行為だけなら道具を使った方が早く済む。
魔法の場合、出血箇所を治そうとするために時間がかかり、道具ならただ傷を塞ぐだけで済むからだ。

まあ、我々のようにある程度体に融通のきく者でないと、傷をしばらく放置する事などできはしないが。
「ああ、すまない」
シャマルにそう返し、私は服を脱いで肌を露わにする。
目を引くのは、肩にある衛宮に付けられた少々深い裂傷。
動かないと言うほどではないが、本来のそれより動きは鈍くならざるを得ないな。
早めに治療しておくに越したことはない。

肩の傷口に向けシャマルが治療を施す。だが……
「あれ? な、何で!?」
「どうした?」
「それが、いくら治癒をかけても傷が治らないの……」
そんなバカな。シャマルは補助のエキスパートだ。癒しはその本分とも言える。

その本分で、シャマルが失敗するとは考えにくい。
だが、だとするとその原因は。
「……あの槍、なのだろうな」
思い当たる節があるとすればそれだけだ。
確かに思い返してみれば異質な魔力を感じたが、まさか何らかの付加効果があったのか。
しかし、傷の治療を阻害する魔法など聞いたことがない。

いや、それを言い出せばきりがないか。
衛宮が使う魔法のうち、いくつか見慣れないものがあった。
あの時使ったのは、おそらくは転送魔法だと思うのだが、どうも通常のそれとは違う。
だとすると、あの槍に掛けられていたのも、そんな中の一つなのかもしれない。

「原理はわからんが、衛宮の目的はこれだったのか」
おそらく、衛宮は私達の戦いがこの一度限りでない可能性を考慮していたのだろう。
長期的に見て、こちらの戦力を削ぐのが目的。
まったく、つくづくしたたかな奴だ。
怒りはない。むしろ、それほどまでに周到なあの少年に感嘆する。
だが、ただの一刺しが高くついたな。

そこで、ザフィーラがシャマルに問う。
「シャマル、お前はあの少年と知り合いだったな」
「え、ええ。でも、魔導師だったのも今日初めて知った事だから……」
解決策はない、か。詳しい情報がない以上、これをどうにかする方法を見つけるのは難しい。
出来れば何とかしたいところだが、ないものねだりでしかないな。

そこへ、不機嫌を隠さずにヴィータが降りてくる。
どうやら、主はもう眠られたようだ。
「つーかさ、初めっからアイツらを襲ってればこんなことにはならなかったんだよな」
「ヴィータ、過ぎたことを言ってもはじまらん。
 シャマルの気持ちもわからんでもない。お前とて、親しい者を贄とすることには抵抗を覚えるだろう。
 それを蒸し返すのは、今必要なことか?」
ここで仲間の中で不和を起こすわけにはいかない。
おそらく、そろそろ管理局も本格的に動く。
そうなれば、より一層の団結が求められるのだから。

ヴィータとて、その程度のことはわかっている。渋い顔はするが、特に文句は言わない。
「わぁってるよ。だけどさ、シグナムは大丈夫なのかよ。
 その傷じゃあ、満足に剣を振るえないんじゃねぇか?」
「心配するな。この程度の傷で負けるほど、おまえたちの将は弱かったか?」
「べ、別に心配なんてしてねぇよ!!」
そうは言うがなヴィータ、顔を真っ赤にしていては説得力がないぞ。
お前は、こんなにも表情豊かだったのだな。

そこへ、穏やかな笑みを浮かべながら一人の女性がヴィータを諭す。
「あらあら。みんな、もう夜中よ。
 もう少し静かにしないと、ご近所迷惑になっちゃうわ」
声の方を向くと、そこには見なれた同居人の姿があった。
長い銀の髪が揺れ、真紅の瞳が私達に向けられる。
その瞳に映るのは、計り知れないほどの慈愛。
均整の取れた肢体と、優雅さ溢れる仕草。
歴代の主や過去に出会って人々の中でも、有数の気品を当たり前のように纏っている。
まさに、姫君という言葉がふさわしい。

だが、今は主はやてと共にベッドに入っているはずではなかったか。
「あ、アイリさん。はやてちゃんについてなくていいんですか?」
「ええ、もう寝ちゃったわ。それに、私としても今の状況は知っておきたいから。
 はやてが起きてたら聞けないしね」
そう言って、アイリスフィールの顔に苦笑が浮かぶ。
私達よりも少しだけ長く主はやてと共にある家族にして、母の慈愛を以て接する女性。

主はやては私達を信頼してくれているが、甘えると言うことはない。
しかし、彼女に対しては別だ。
実際に一児の母であったせいなのか、それとも包み込むような優しさからか。
主はやてだけでなく、私達全員が彼女をどこか心の拠り所としている部分がある。
この人は、そうさせてくれる雰囲気を持った女性なのだ。

そして、彼女は私達が何をしているか知っている。
共犯として、私達と共に罪を背負うと言ってくれる、もう一人の主。
なぜなら……
「もしもの時は、私が偽りの主を演じることになるんですもの。
 何があったか知っておかないと、いろいろ困るでしょ」
全員で口裏を合わせ、彼女を主に仕立て上げる。それが私達のかわした決まり。
主の正体に近づかれた時は、彼女が身代わりとなって主を守るために。
申し訳ないと思う。だが、同時に感謝もしている。

私達が主との誓いを破ることを決意した夜、彼女はこう言った。
「はやては行き場のない私に、新しい居場所をくれたわ。
 あの子は、私にとってもう一人の愛おしい娘。
 あの子を守りたいのは、私も同じよ」
アイリスフィールは、そう言ってくれた。
そのために、自身の身さえも差し出してくれたのだ。
だからこそ私達は、彼女をもう一人の主と定めている。
彼女の言葉になら、我らはこの身と命を賭すことができるから。

「ところで、さっきから一体どうしたの?」
「えっと実は……」
そうして、シャマルが今日あった出来事を報告する。
クラールヴィントに保存された映像も使い、可能な限り正確に。

だが、みるみるうちにアイリスフィールの顔色が変わる。
「そんな、嘘でしょ……。
 シャマル! この子たちの事知ってる限り教えて!」
アイリスフィールの顔に浮かぶのは、抑えきれないほどの驚愕。
まるで、幽霊でも見たかのような反応だ。

シャマルはその反応に驚き、恐る恐る答える。
「あ、はい。名前は衛宮士郎君と遠坂凛ちゃんです。
 何ヶ月か前から、時々お料理を教わってるんですけど……」
「衛宮と、トオサカ……ですって?」
二人の名を聞くと、アイリスフィールの眼が見開かれる。
そこから先のことなど聞こえてすらいない様子だ。いったい、どうしたというのだろうか?

ヴィータが不安そうに、アイリスフィールの顔を窺う。
「アイリ?」
「この子たちは、魔術師よ」
そこでアイリスフィールの口から、あり得ない単語が零れる。

「ちょっ、ちょっと待ってください。だって魔術は……」
「確か、アイリスフィールがいた世界の魔法体系で、この世界に使う者はいなかったはずでは」
「そのはずなんだけど……でも、この子たちが使っているのは間違いなくそうよ。
 宝石魔術に魔術刻印の光。ただ似ているというだけで済ますなんてできない。
 だけど、それにしたってこれは何の皮肉?」
まるで自嘲するかのような口調で、アイリスフィールは呟く。
そういえば、確か彼女の夫の名も……だとすれば、皮肉というのも頷けるな。
もはや、会うことは叶わないと思っていた人物と同じ名を持つ少年に出会う。
それもその相手が、同じ魔術師となればなおさらか。

ザフィーラは、冷静にこれの意味することを考察する。
「我々が気付かなかっただけで、この世界にも魔術が存在したということだろう。
 問題は、それが初めからなのか、それとも……」
「でも、最初から魔術師がいるなら、私がこの世界に来た時に異変に気付かないとは思えない。
 はやての話から考えて、かなり乱雑に並行世界への道を通したと見ていいわ。
 実際、二・三日で治まったとはいえ、私が気付いた時はまだ影響が残っていたもの。
表に出ていない以上秘匿前提でしょうし、それを放置するなんて考えられないわ」
主はやてのお話では、その時に非常に大きな地震があったという。
あまりにもタイミングが良すぎる以上、根拠もなく無関係と考えるのは浅慮だろう。
原因と思われる石も、かなり目立つ現象を起こしていたと聞く。
その上、数日に渡り影響が残っていたことも確認されている。

秘匿前提という方針が同じでも、それ以外の在り方が違う可能性もあるが、この際それは関係ない。
隠す以上は自分だけでなく他の者にもそれを徹底させなければ意味がない。
ならば、必然外部の異常にも敏感になるし、徒党を組んだ方が効率も良いのだから魔術師の組織もあるはずだ。
そして、そういった組織があるのなら気付かないということは考えにくい。
だが気付いたなら、どれだけ在り方が違ってもとりあえずこの家を調べに来るだろう。
ところが、そういった連中があらわれた様子もない。
これの意味するところは、そう言った魔術師の組織がない可能性が濃厚であるということだ。

「ですが、魔術師があの二人だけか、あるいは組織を作れないほど数が少ないという可能性もあります。
 その場合であれば、誰にも気付かれなかったとしても不思議はありません」
むしろ、これが現状では一番有力だろう。
なにせ、最後の可能性は、あまりにも弱いと言わざるを得ない。

最後の可能性。それは、アイリスフィールと同じ、あるいは似た世界からやって来たという可能性だ。
だがそれは、次元世界さえも包括した世界の“壁”を超えることを意味する。
そんなことが易々と出来ることではないのは、私達の常識とアイリスフィールの知識が裏付けている。
それも、彼女の後から誰も気付けないほど静かにだ。正直、それこそあり得ない。

その点は、アイリスフィールも基本的には同感らしい。
「そうね。確かに、シグナムの言うことが一番現実的だと思うわ。
 あのトオサカと同じ宝石魔術を使うのは少しでき過ぎな気もするけど、さすがにそれはないでしょうしね」
ん? 今のアイリスフィールの言葉には少々引っかかる部分があるな。
まるで、このトオサカという少女なら可能性があるかのように聞こえる。
それにその顔は、何か考えているのか少し俯き気味だ。

ヴィータもそのあたりが気になったのか、アイリスフィールの顔を覗きこむようにして尋ねる。
「ねぇ、アイリ。それってどういうことなの?」
「え? ああ、私の知るトオサカも宝石を使った魔術を使うの。
 それと同時に、第二の魔法使いの弟子の家系でもあるから、あり得なくはないとも言えるのだけど……」
私達にはよくわからないが、その第二の魔法とやらなら並行世界への移動ができるのだったか。
しかしアイリスフィールの口ぶりだと、やはり可能性はないとみていい。
少し気になる、程度だったのだろうな。

さて、一つの話には区切りがついた。そろそろ、次の話題に移るか。
「ところで、衛宮の魔術をどう見ますか?」
「映像だけだとちょっと自信が持てないんだけど、この子が使っているのは『投影魔術』なんじゃないかしら?
 ああ、心配しないで、私の知る衛宮の術とも全く違うものだから」
なるほど。それならやはり、衛宮もアイリスフィールとは無関係なのだろう。
それにしても投影魔術? それはいったいどういうものなのか。
てっきり転送の様なモノを使っていると思ったのだが、名を聞く限りそれとは別物のように思える。

全員の視線が集中する中、アイリスフィールが説明する。
「投影はね、オリジナルの鏡像を自身の魔力で複製するという魔術よ。
でもあまり使い勝手が良いとは言えないし、性能も本物には確実に劣るわ」
それだけ聞くと、まるで幻術の様な物をイメージしてしまうな。
衛宮が幻術を使ったせいもあるかもしれないが、魔力で何らかの物体の像を作ると言うのはそれに近い物がある。
違いがあるとすれば、それに実体があるか否かと言うことか。
たしかにそれなら、あの双剣が何対もあったことは納得がいく。

それを聞いたヴィータは、その問題点を指摘する。
「魔術のことはよくわかんねぇけど、そんなもんわざわざ作る意味あんのかよ」
「そうね。元々は儀式で使う道具なんかを用意できなかった時に、代用品として使う程度のものよ。
 投影は術者のイメージで作り上げるものなんだけど、人間のイメージなんて穴だらけだもの。
 そもそも継続時間が短い上に、十の魔力を使っても投影したモノの三か四程度の力しか持たないわ。
 そう言うわけでとても効率が悪いし、術そのものは高度だから割に合わないったらないのよ」
なるほど、消費する魔力や効果の効率の面から考えても、全くと言っていいほど旨味がない。
そんなことをするくらいなら、普通に材料を集めてレプリカを作った方がマシだろう。

……いや、待て。あれが投影だとしたら、腑に落ちないことがある。
「アイリスフィール。そうは言いますが、衛宮の使った武器は決して欠陥品などではありませんでした。
 むしろ、使う武装の全てが類稀な業物だった程です」
「ええ、シグナムの言うこともわかるわ。
投影された武器は十全な性能を有し、中にはかなり長い間存在しているモノもある。それは紛れもない事実よ」
そう言って、アイリスフィールは私の言葉を肯定する。
つまり、あの武器の数々は確かに投影の定義から外れると言うことだ。

となると、真っ先に思い浮かぶのは、やはり……
「それなら、これは投影って言うのとは違うんじゃないですか? それこそ転送みたいな」
と、いうことになるのだろうな。私もシャマルと同意見だ。
あらゆる点からこれは投影とはいえない以上、別の魔術か魔術以外の何かと考えるのが普通だろう。

しかし、アイリスフィールはそれを否定する。
「う~ん、確かにそうなんだけど……でも、この子のやってることはやっぱり投影っぽいのよ。
 私は以前、魔力で物質を編むところを何度か見たことがあるわ。それは投影とは別物だったけど、よく似た性質なのは間違いない。彼が武器を出す瞬間は、私の知るそれにとてもよく似ているの。
そもそも、転送は空間転移の一種。魔術でそれは“魔法の真似事”とまで呼ばれる代物よ。正直、そっちを使っている方が私には信じがたいわ。遠坂っていう女の子の方はどう見ても宝石魔術を使ってるし、一応魔術の常識を当てはめて問題ないと思うの。
それに、一応理屈は付けられるから絶対に不可能とは言えないわ」
なるほど。普通ならばあり得なくても、その矛盾をクリアできる何かがあれば説明は可能か。
問題点があるのなら、その点を改善すればいい。技術の進歩とはそういうものだからな。

「可能性は二つ。一つは、これが『現実を侵食する幻想』である場合」
「現実を侵食する幻想……ですか?」
「ええ、普通はこんなことあり得ないんだけど、それなら一応説明はつくわ。
 その言葉のとおり、イメージがリアルを侵す。つまり、現実の中に自分の居場所を作ってしまうの。
 ありえないことを説明するために別のありえないを持ち出すなんて、無茶苦茶な気もするのだけど」
正直、そう言われてもいまいちよくわからない。尋ねたシャマルも同様らしく、皆同様首をひねっている。
我々からしてみれば、イメージが現実に存在すること自体が信じがたいことなのだから。

だが、アイリスフィールがそういうのならそうなのだろう。
ヴィータも、理解できないながらそう言うモノと判断したようだ。
改めて映像を見ながら、アイリスフィールに問う。
「その現実云々ってので説明がつくならさ、そういうことなんじゃねぇの?」
「そうなんだけど……言ったでしょ、これは普通あり得ないの。もう一つの方が、ずっと現実的よ」
アイリスフィールは苦笑しながら否定し、別の可能性を示唆する。

「もう一つは、この女の子の宝石を核にしている場合よ。
 これを楔にすれば魔力の気化も防げるし、既にあるモノを投影で補強するのは割とよくある手段だから。
 まあ、核にするのは何も宝石である必要はないから、別のものかもしれないけれど……」
なんでも、本当ならただ核を用意するだけより、できる限り投影する物に近い方が良いらしい。
しかし、あるとないでは大違いらしく、宝石を核に据えるだけでも持続時間は飛躍的に伸びるだろうと言う。
そこに、あらかじめ何らかの術を仕込んでおけば効果はさらに増すとも……。

まあ、何と言うか、馴染みのない分野の話だけあって、いまいち理解しにくいな。
シャマルも同様なのか、この話をまとめ話題を変える。
「えっと、とりあえず士郎君の魔術は、宝石を利用した投影魔術らしいってことでいいんですよね。
もう一つ聞きたいんですけど、シグナムが士郎君に付けられた傷が治らないんです。
 そっちは何かわかりませんか?」
「治らない? シグナム、その時の映像って見れる?」
アイリスフィールの要請で、レヴァンティンのデータからその時の映像を引き出す。
以前はこうして映像を見せるだけでも驚いていたのだがな。
もう半年近くが経つ。さすがになれたのだろう。

この肩を切り裂いた、あの黄色の短槍を映し出す。
それを見たアイリスフィールの顔が、今日一番の驚愕に歪む。
「どうしたんだよ、アイリ」
「これは……宝具。それもゲイ・ボウ」
宝具。主はやてと共に、彼女のいた世界の話を聞いた時にその名を聞いたことがある。
確か以前聞いた話しでは、英雄たちの使った伝説の武器だったか。
厳密に言うと違うそうだが、英雄たちの伝説の象徴のようなモノと聞いている。

アイリスフィールは、その英雄たちを召喚し戦わせる聖杯戦争の参加者だったと聞く。
ゲイ・ボウもまた、聖杯戦争に参加した英雄の使っていたモノだったはずだ。
その現物を見たことのある彼女が言う以上、それは間違いないのだろう。
つまり、奴は宝具を投影したというのか。

そういえば、この槍を前にした時、私は言いようのない悪寒に襲われた。
今まで数多の敵と戦ってきたが、上手く言葉に出来ない得体の知れない感覚だった。
だが、アレが彼の呪いの魔槍だと言うのなら納得がいく。
あの悪寒は、本能的な恐怖に近いモノだったのだろう。

しかし、宝具の投影などと言うことが本当に可能なのだろうか。
「アイリスフィール。それは、可能か不可能かで言えばどちらになりますか?」
「特別相性の良い属性だったり、宝石を使ったりすれば可能かもしれないわ。
 膨大な魔力を宿した宝石を使えば、魔力の問題は何とかなると思う。
宝具級の魔力なんて、そうでもしないと賄えないもの」
つまり、それならば一応理屈は通るのか。
そういう意味でも、宝石を利用しているという可能性は現実味があるな。

これまでのことを総括し、アイリスフィールは衛宮をこう評した。
「それにしても、宝具を投影する贋作者(フェイカー)なんて聞いたことがないわ。
 他の術のことはわからないけど、この一点において彼は希代の術者よ。ある意味、怪物とさえ言えるほどの。
 もしかすると、槍のオリジナルも持っているかもしれないわね」
フェイカー、贋作者か。相手が幻術使いであることを考えると、実に的を射ている。
魔術師としてだけでなく、魔導師としても奴は贋作者と言うことか。

だが、槍のオリジナルか。
この能力が奴の一族で代々研究してきた成果だとすれば、確かにありうる話か。
イメージが重要と言っても、そのためにはやはり実物があった方がいいように思う。
ならば、数代かけて集めていたとしても不思議はない。あれは、その中の一つなのだろう。
できれば、一度奴のコレクションを見せてもらいたいものだ。
まあ、我らの関係を思えば叶うことはないのだろう。それが、残念と言えば残念か。

「……ふぅ。とりあえず、話を戻しましょうか。解呪する方法だけど、それ自体は単純よ。
 この槍を破壊するか、この子を倒すこと。確実なのは、槍を壊すことだけど」
なんでも、この槍で付けられた傷はどんな手段を使っても治らないらしい。
傷を負った状態が正常な状態になってしまい、それ以上の回復が不可能になる。
そういう呪いの宿った槍なのだそうだ。

しかし、こんなものさえも作り上げるとは……。
それに、これで一つわかった。衛宮の投影は、半永久的に存在し続ける可能性がある。
そうでなければ、この傷を与えた意味がない。

だが、一番の問題は……
「でも、それって凄く不味いわ。そうだとすると、この槍を破壊するのは不可能かもしれない。
 士郎君が武器を複製することができるなら、今回使った槍は保管して、別の槍を新しく作るはずですもの」
そう、シャマルの言うとおり、奴の能力がこちらの推測通りならそれが可能だ。
解呪しようと思うのなら、直接彼らの本拠地に踏み込む必要がある。

幸い、シャマルは彼らの家を知っている。それなら……。
しかし、アイリスフィールはそれを止める。
「家に向かうのはやめた方がいいわ。
 そこは魔術師の工房よ。魔術師相手に戦うとき、最も厄介なのが工房攻めだもの。
 工房は守りの為のモノではなく、攻撃の為のモノ。やってくる外敵を確実に処刑するための陣地よ」
つまり、そこを攻めようと言うのなら、敵の腹の中に入る覚悟がいると言うことか。
あの二人の力量を考えれば、その危険性は想像がつく。
二人の在り方が厳密にはわからない以上、迂闊に飛び込むわけにはいかないな。

だが、実際にそこに入ったことのあるシャマルはそれが信じられないらしい。
「で、でも私、何度も二人の家に入ってますよ」
「その時は敵と認識されていなかったんでしょうね。
 けれど、今回のことがあった以上、確実に警戒レベルは上がっているはずよ。
 できる限り、近づかない方がいいと思うわ」
私達は魔術師の危険性を知らない。
故に、アイリスフィールの意見は何よりも重い。

彼女は私達の力を知り信頼してくれている。
それでもなお、そこを攻めるのは危険だと言う。
ならば、迂闊に踏み込むわけにはいかないか。

「もしかしたら、シャマルが彼らのことを言わなかったのは、何かされていた可能性もあるわね。
 それくらいのことをする程度は、家の中ならできるでしょうし」
アイリスフィールの呟きに、シャマルが絶句する。
彼女の話だと、魔術師は我々より感知と隠蔽に長けるようだ。
ならば、シャマルが騎士であることも多少は気付いていたかもしれない。
そこで、念の為の仕込みくらいはしていたとしても不思議はないか。

だが、問題はそこではない。
「では、シャマルが我々の仲間であることもすでに……」
気付かれてしまっているのだろうか。

その危惧を、ザフィーラは否定する。
「おそらくだが、それはないだろう。
 何故かまでは分からんが、それならすでにここは管理局に包囲されているはずだ。
 それがないということは、まだ知られていないとみていい」
確かに、な。泳がされている可能性もあるが、そんなことにメリットはない。
自分たちでケリをつけようとしているのかもしれないが、それにしたところで可能性は薄い。
テスタロッサは管理局の嘱託だ。その繋がりを利用しない手はないだろう。

「そうね。とりあえず、次の蒐集からはできる限り私も同行するわ。
 これは私の夫が使っていた手なんだけど、あえて顔を見せた方が効果的だと思うの」
危険だとは思うが、アイリスフィールの言うことにも一理ある。
管理局が本格的に動く以上、そろそろこちらも情報操作をした方がいい。

ならば、ここから先我らは彼女を主として振る舞おう。
「我らヴォルケンリッター。
 騎士の誇りに賭けて、必ずや御身をお守りしましょう」
「ええ、頼りにしているわ。足手まといになってしまうけど、お願いね」
無論、全ては主はやての未来のために。
それが、この場にいる全員の共通の願い。

例えそれが、主の望んでいないことであったとしても。
それでも私達は、主に生きて幸せになって頂きたいのだ。
どうか、この身の不義理をお許しください。

Interlude out






あとがき

とりあえず、アイリによる士郎の魔術考察の回でした。
アニメの方のFateで、イリヤはアーチャーが宝具を投影したことに気付いていましたので、アイリにもわかるんじゃないでしょうか。
で、投影品が長時間存在し続けることを説明しようと思えば、やはりこういう考察になるかと思います。
これが今後の展開にどうかかわるのか、それとも大して意味がないのかは秘密です。
しかし、何でこの手の話をすると長くなるんでしょね。不思議だ。

あと、グレアムが凛たちを関わらせるように仕向けたのは、怪しまれないようにするためという理由もあります。
簡単に言うと、裏で動いていないとしたら自分ならきっとそう動くだろうと考えてのことです。
途中で気付かれては元も子もない以上、自分らしいと思われる行動を心がけるべきでしょう。
もちろん、凛や士郎が思惑以上に動かないよう、前回のようにリーゼ達が暗躍するわけですが。
それにあの性格ですから、遅かれ早かれ首を突っ込んでくると考えています。
なら、やっぱり利用することを前提にした方がいいという考えです。
と、少なくとも本人はそう思っています。
ですが、どこかでは魔術と言うモノに対する無知からくる期待もあるのかもしれません。
あるいは罪悪感から、イレギュラーを組み込むことで止めてほしいと思っているかもしれませんね。
本人としても、決して全面的にその手段を肯定しているわけじゃありませんので。

それと、シグナムの22話のカリバーンへの感想と、今回のゲイ・ボウへの感想の違いは宝具の種類の違いです。
カリバーンは聖剣の類なのに対し、ゲイ・ボウが魔槍の類だからですね。
カリバーンは畏怖を与えて、ゲイ・ボウは恐怖を与えたのだとでも思ってください。


次は、ちょっと久しぶりのほのぼの路線になります。
早めに出せるといいのですが、しばしお待ちください。


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