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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第23話「魔術師vs騎士」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/18 23:22

SIDE-凛

海鳴市ビル街上空。

色合いの異なる二種の赤と金の三色の光が接近と離脱を繰り返している。
それはつまり、フェイトと連携しての戦闘がまだ継続していることの証明。
二人掛かりなら捕らえることもできるだろうと思ったんだけど、そう上手くはいかないらしい。

フェイトはその持ち前のスピードを生かし、勢いよく間合いを詰める。
「はぁっ!」
スピードを緩めず、擦れ違いざまにサイス形態のバルディッシュを振るう。
だが、あの赤チビはそれを寸でのところで回避する。

フェイトはその場に留まらず、一気に駆け抜け二人の距離が開く。
そこを狙い、私もまた術を行使する。
「『Vier(四番)Drei-gezinkter(奔れ) Donner greift es an(三叉の稲妻)』」
三条の雷が、それぞれ三方向から赤チビに向かって襲いかかる。
しかし、奴はその内に一つに向かって突っ込み、手に持つ鉄槌で蹴散らし脱出する。

だけど甘い。
その動きを見せた時点で、次の手の準備は整っている。
「『Fixierung(狙え、),EileSalve(一斉射撃)!』」
左手の人指し指を向け、奴の退路に向けてガンドの雨をばらまく。
奴はそれを三角形の魔法陣を展開して一つ残らず防ぎ切る。
ガンドの真価はその攻撃力ではなく呪いとしての性質だから小揺るぎもしないのは仕方がない。
とはいえ、やっぱりこうも簡単に防がれるとムカつくわね。

まあ、目眩ましとしての効果は十分だし、狙い通りではあるんだけど。
「アーク…セイバー!!」
私からの攻撃への防御に集中していたチビッ子の背後から、気合の乗った声が届く。
すると、それにやや遅れて回転する金色の魔力刃が飛来する。

上手く背後を取れたし、迎撃は間に合わない。
直撃すれば、必倒は無理でも隙はできるだろう。なら、そこを突けば流れを持って行ける。
「ちぃっ、アイゼン!」
《Pferde!》
瞬時に両足に魔力の渦が出来上がり、一気に加速し私とフェイトの攻撃をかわす。
なるほど、迎撃できなきゃ避ければいいってことか。

でも、フェイトのアレには誘導性能がある。そう簡単には振り切れない。
「なめんな!」
進路を変更し、再度襲いかかる光刃をその鉄槌で叩き落とす。

私からもキツイのをお見舞いしたいところだけど、今はちょっと無理かな。
だって、あの子がすぐ後ろにまで迫っていて、ここで攻撃したら巻き込みそうだモノ。
《Scythe Slash》
フェイトは上段から、渾身の力を込めてバルディッシュを振り下ろす。

《Panzerhindernis》
それを赤い障壁を展開することで防ぎ、すぐさま離脱する。
一瞬遅れて、奴のいた場所に真紅のリングが発生し閉じる。
まったく、もう少し大人しくしてくれればとっ捕まえることもできたのに。
動いている相手を捕まえるのは難しいし、その上回避機動が上手いからなかなか捕まえられない。

それなら、嫌でも止まって捕まえさせてもらおうじゃないの。
「『Strudel(踊れ) der brennenden roten Tänze(紅蓮の渦)』!」
奴の逃げた方に向け、周囲をまとめて巻き込むかのような炎の渦を放つ。
これなら余波までは避けきれないでしょ!

その予想通り、何とかかわしこそするが、完全には避け切れずに体勢が崩れる。
そこにさらに追い打ちをかける。
「『Funf(五番), Ein Fluß wird schwer gefroren(凍てつけ 冬の川)』」
動きが鈍った瞬間をねらい、魔術による拘束をはかる。
その詠唱通り、バリアジャケットの端から氷が侵食していく。
このままいけば、人間の氷漬けの出来上がりだ。

しかし、奴は躊躇なく凍りついた箇所を引きちぎって浸食から逃れる。
少しでも躊躇えば手遅れだったろうに、思い切りのいい奴ね。
でも、それだけじゃ足りなわよ。
「フォトンランサー……ファイア!!」
既に真上を取っていたフェイトが、逃がさないとばかりに電撃を帯びた魔力弾を撃ち出す。
それだけでなく、自身もまたバルディッシュを構えて斬りかかる。

さぁて、どうするつもり?
避けても防っても、必ず次のフェイトの攻撃にさらされる。
それさえ凌いでも、さらに私もいるわ。
一つ間違えれば、その瞬間にアンタの負けよ。

そこで、チビッ子は赤い球体を手元に出現させる。
フォトンランサー事フェイトを吹っ飛ばす攻撃かと思い身構えるが、その予想は外れた。
《Eisengeheul》
奴が球体に向け鉄槌を振り下ろすと、その瞬間ハンパじゃない閃光と轟音を生む。
意表を突かれ、私とフェイトの動きが鈍る。
なるほどね。多少被弾してもいいから、私達の追撃を阻むのが目的か。

しかし、ここで反撃に転じられるのは不味い。
まだ耳鳴りがするけど、眼はとっさに庇ったからそれほど影響はない。
スグに奴の姿を探し、影が見えた方に向けて狙いも定めないガンドの乱射で牽制する。
フェイトの方を見ると、すぐ近くにいたせいもありまだ足元がおぼつかない。
頭を振って何とか立て直すのを見て、とりあえず大丈夫だろうと判断する。

どうも、向こうさんは今の機にフェイトを落とすつもりだったようね。
だけど、その前にガンドの嵐に曝されたことで一歩下がった。
そこを狙い、復帰したフェイトが再度斬りかかる。

とまあ、こんな感じで、今のところは別に分が悪いってわけじゃない。
フェイトは私の指示通り足を止めることなく動き回り、着実に相手の注意を惹きつける。
私はその隙を、時にガンドで時に炎や雷撃、あるいは氷で突く。
そうすると今度は私に注意が向き、逆にフェイトがすれ違いざまにバルディッシュを振るう。
基本はその繰り返し。
時々ヤバい瞬間もあるけど、そこは数の利。一人が危なくなっても、もう一人がカバーするだけのこと。

連携らしい連携は、実のところとっていない。
フェイトは自分の思うがままに動いているだけだし、私は動きまわるフェイトを利用しているにすぎない。
ただ、互いの行動が互いにとって好都合に作用しているだけ。
強いてあげるなら、私はフェイトを巻き込まないよう、ある程度二人の距離が開いた時に攻撃しているくらい。
あとは、今の様に相方が危なくなった時にカバーする位だろう。
ま、即席のコンビじゃこんなところか。

それでも着実に奴を追いこんでいるし、特に問題があるわけではない。
奴も自分の不利をよく理解していて、無理な攻勢には出てこない。
このまま続ければ、遠からずバインドが奴を捉えるだろう。

しかし、その程度向こうだってわかっているはずだけど、別に逃亡しようとする素振りもない。
となれば、何かを待っているのは明白。士郎の方も仲間と一緒に逃げられたらしいし、そいつらで間違いない。
出来ればそいつらが到着する前に仕留めたいのだが、なかなかそうはさせてくれない。
回避に徹してくれている分、こっちとしてもなかなか捉えられないのだ。
やっぱり、一筋縄じゃいかないわね。

なら、いっそこっちから逃げちゃうのも手なのだが、まだその目処が立たない。
さっきからユーノ達にやらせているんだけど、よほど強固な結界なのかまだ破れずにいる。
やっぱり、さっきのチャンスをものにできなかったのが痛い。
一度は結界が破れたんだけど、あっという間に元に戻るんだもの。
突然のことだったから対応が間に合わなかったわ。
士郎の仕業らしいけど、もう一回やらせるのはリスクが高い。
諦めて、アースラに期待するのが現実的か。

とはいえ、このままだとアレの仲間が来るのが先っぽいわね。
それなら、こっちも備えを整えるべきだろう。
『アルフ、ユーノ聞こえる?』
フェイトの攻撃と私の術に追い立てられているチビッ子に気付かれないよう、念話を使って二人に呼び掛ける。
この内容は、奴に知られるわけにはいかない。

それに対し、アルフから返事が来る。
『どうしたんだい?』
『士郎が抑えていた奴がこっちに向かってるみたい。それもおまけつきで。
 アルフはそのうちの使い魔の方を抑えて、フェイトはもう一人の方をお願い。
 ユーノは二人のサポート。やれるわね』
この際詳しい説明は抜きにする。そんなモノは後回しでいい。
いつ新手が到着するか分からない以上、指示は簡潔にしなければならない。
士郎の話じゃ、相当に厄介そうなおまけがついているみたいだしね。

そこで、フェイトが不安げな口調で聞いてくる。
『え? シ、シロウは?』
『ほぼ無傷らしいから安心しなさい。今はリニスが運んでる。
 士郎がついたらフェイトはそっちのサポート、ユーノはそのままアルフにつきなさい。
 士郎がつくまでは絶対に無理をしないで、足止めだけすればいいわ。
 アイツが着いたら、そこからは極力二対一で戦うこと。いいわね』
私の返事に、フェイトが安堵の吐息を吐くのが伝わってくる。
いくら向こうが飛べるからと言っても、あの士郎がむざむざ逃げられたほどの相手だ。
この子たちが真正面からやるには相手が悪い。
何としても、士郎がつくまで生き延びていて貰わないと困る。

『えっと、わたしがシロウについて大丈夫なの?』
フェイトが今度は別の心配をする。
まあ、気持ちはわかる。まだ自分と士郎じゃ実力差があるのを自覚しているのだろう。
格上にサポートしてもらうならともかく、その逆は難しい。
下手をすれば、逆に足を引っ張ることになりかねないのだから。

だけど、今回に限れば士郎にサポートは必須なのだ。
『むしろ、いてもらわないと困るのよ。
 アンタ、まさか士郎が飛べないの忘れたんじゃないでしょうね』
『……あ』
まさか、ホントに忘れてたのかしら。

向こうはわざわざ士郎と戦う必要なんてない。
なら、士郎の方から向こうの土俵に上がるしかないのだ。
『いい? アンタの仕事は士郎が戦う上での足場を作ることと、もしも落ちた時の補助。
 アンタはこの中で一番速いわ。つまり、士郎がもし落ちても拾える可能性が一番高いの、わかった』
『あ、ハイ!』
さて、これでとりあえず必要なことは伝えたかな。
後は臨機応変に対処するしかない。

『えっと、なのはは?』
『護りと癒しの結界とかあったわよね。それでも張って、中で大人しくさせてなさい。
 どのみちレイジングハートがあれじゃ、戦力として見るのは無理よ』
その上、体もガタガタだ。とてもじゃないけど、戦いの場に出すのは危なすぎる。
まだ伏兵がいないとは限らないけど、結界の中にいれば多少は保つ。
もし更に襲われるようなら、その間に助けに行けばいい。
ユーノの結界なら、その程度は期待していいだろう。

っと、そろそろ時間切れか。
『いろいろ聞きたいことはあると思うけど、それは全部後回し。
フェイトは一端下がりなさい。来たわよ』
彼方から飛来したのは、士郎の話通りガタイの良い男とポニーテイルの剣士。
フェイトも私の指示に従い、追撃をやめてこちらに戻る。
後方からは、アルフとユーノも向かってきている。

フェイトが一端下がったことで、チビッ子も仲間と合流する。
だけど、その間も私に対して恐ろしく険のこもった目を向ける。
これが、こいつの相手を私がすることにした理由。
どうやらさっきのことを根に持っているらしく、私だけは自分がぶっ飛ばすと言う目をしている。
下手に別の相手を向けると思惑と違う動きをしそうだし、それなら予想のつく組み合わせの方がましだ。

さあ、これで心置き無く一対一で戦えるわよ。
弟子が世話になった借り、しっかり返させてもらおうじゃないの。



第23話「魔術師vs騎士」



現れた剣士は、こちらへの注意を怠らずにチビッ子に声をかける。
「大丈夫か、ヴィータ。どうやら、お前の方もだいぶ手古摺っているようだな」
「うっせぇな、こっから逆転するとこだったんだ」
一応心配する剣士に、ヴィータと呼ばれた方が食って掛る。
どうやら、だいぶ小生意気な性格をしているらしい。こんな時にアレだけど、からかったら面白そう。

見たところ、この剣士がリーダー格のようで、ヴィータとやらを諭す。
「そうか、それはすまなかった。だが、甘く見ていい相手ではないのだろう?
 ザフィーラの方にいた者も、かなりの腕のようだった。
 お前が怪我などすれば、我らが主も心配する。無茶はほどほどにしておけ」
その言葉にヴィータは不機嫌そうにするが、あえて反論はしない。
意地とは別に、敵であっても評価すべき点は評価できるのだろう。

そこで、剣士の方がこちらに向き直る。
「待たせてしまったようだな。さっそく、始めよう」
「別に、私達はこのままでもいいんだけどね」
できれば、士郎が来るまで何とか引き伸ばしたいのが本音。
でも、あの様子だとそれも無理そうか。

「シグナム、あの赤いのはあたしがやる。
 ぜってぇに…ぶっ飛ばす!!」
ああ、やっぱり私をそういう対象として認識してたのね。
いや、まあね。さっき結構情けない目にあわせちゃったし、そんなことじゃないかなとは思ったのよ。

「ならば、残りの三人を私とザフィーラで相手をしよう。
 私の本命も、まだここには来ていないからな」
本命ってのは、やっぱり士郎のことなんでしょうね。
それなら、士郎がくれば一応私の思惑通りになるのかな。
ま、だからといって結果までそうとは限らないのだけど。

近くに他の連中がいたんじゃやりにくいし、挑発もかねて提案してみますか。
「別に私は構わないけど、ならちょっと場所をかえましょうか。
 アンタだって、仲間の前でさっきみたいな情けない格好を見せたくないでしょ?」
それに対し、ヴィータの顔がみるみるうちに赤くなる。さっきのことを思い出しているのだろう。
シグナムとやらの方は、「情けない格好?」といぶかしんでいる。

教えるのも面白そうだけど、ちょっとそんな余裕はなさそうかな。
なにせ、ヴィータってのは凶悪な笑みを浮かべ、その小さな体からは溢れんばかりの殺気が漲っている。
私の存在ごと、事実をなきモノにしようって腹積もりかしらね。
「上等じゃねぇか。その減らず口ごと、アイゼンの頑固な汚れにしてやる」
「威勢がいいのね。でも、七色(にじ)の宝石は相手が何であろうと撃ち倒すわ。
 せいぜい、その輝きに呑まれないことね」
内心で「お金かかるけど……」と付け足すが、そんなことはおくびにも出さない。
それに、魔を以て魔を制すのが魔術師の戦い。
相手が使うのが魔法であろうと、それが魔であるのなら負けるわけにはいかないのよ。

そのまま、私達は残りの面子を置き去りにしてビルの谷間に消える。
これで、とりあえずフェイト達を巻き込むことはなくなったはずだ。

あの子たちも、上手くやってくれるといいんだけど。
このあたりは、とにかく信じるしかないか。

士郎、さっさと来なさいよね。
そうすれば、逃げられた罰を少しは軽くしてあげてもいいんだから。



Interlude

SIDE-シャマル

いま私は、あるビルの屋上で足元に買い物袋を置いて、家に残る家族の一人と話をしていた。
主への嘘の伝言を頼み、急いで帰る旨は伝えてある。
そう、なるべく急いで確実にことを済ませなければならないのだ。

けれど、そんな私の胸を占めるのは、主に嘘をついたことではなく、今目の前で家族と戦う一人の少女への驚愕。
「なんで、彼女が……」
確かに彼女はかなりの魔力を有していた。
いずれはみんなに見つかり、蒐集の対象になるのもわかっていた。

だけど、なんで凛ちゃんが戦っているの。
それも、歴戦の騎士であるヴィータちゃんと対等に。
その事実を受け入れられなくて、私はただただ呆然としてしまう。

しかし、この光景を否定する材料を私は持たない。
つまり目の前で繰り広げられているのは、紛れもない事実。
けれど、どうしてもそれを信じられない自分がいる。
「どういうことなの?」
一体何に対する疑問なのか、自分自身ですら判然としない。
彼女が魔導師であることか、それともそれに気付かなかった自分のことなのか。

いや、問題はそこじゃない。
混乱する頭を何とか切り替え、今自分が考えなければならないことに思考を巡らせる。
もしこの場に自分がいることを知られれば、確実に主を危険にさらしてしまう。
彼女は私の名前も、私がこのあたりに住んでいることも知っている。
その情報があれば、遠からず主のもとに管理局の手が届くだろう。
それだけは何としても避けなければならない。

疑問で溢れかえりそうな頭が、無意識のうちにある魔法を起動させる。
「クラールヴィント。お願い」
《了解》
僅かな発光。
それが治まると、そこにはそれまでと全く違う私が立っていた。

髪形が変わり、今は腰まで届く長い漆黒のストレート。
顔の造形も変わり、眼は切れ長に顎は痩せこけて見える。
騎士甲冑も黒をベースとする、スーツのような印象のものになっている。
外見年齢も、普段のそれより十歳くらい上だ。

この不測の事態に対し、私がまず真っ先に選んだ行動は「変装」。
厳密には、「変身魔法」による外見の偽装だ。
今の私の最優先は、凛ちゃんに自分のことを知られないこと。
そのためには、たぶんこれが一番確実な方策。
これなら、とりあえず私だと気付かれることもない。

だけど、彼女がいると言うことはおそらく……
「士郎君も……ということよね」
聞きなれないハスキーな声でそう呟く。
ここにきて、彼が全くの無関係だと思うのは浅はか過ぎる。
凛ちゃんは士郎君の家族だ。なら、彼も魔導師と考えて間違いない。
まさか、こんなことになるなんて。

……いや、考えるのはよそう。
いま私がしなければならないのは、そんな解決の糸口のないことじゃない。
「蒐集」。今はただそのことにだけ集中すればいい。
他のことは、あとで考えよう。

クラールヴィントの準備はもう整っている。
術はいつでも使える。問題があるとすれば、あの結界。
「なんとかしてあそこから出てもらわないと、旅の鏡が使えない」
旅の鏡のような術は非常に繊細で、簡単な妨害でも効果を阻害される。
少なくとも、あの結界の内側には届かない。

その上、あの結界を張った子は相当な腕の持ち主。
おかげで、遠隔的に解除するのはまず不可能。
近づいて直接壊すか、あるいは中から出て来て貰わないと使えない。
でも、戦闘型じゃない私が近付くのは得策じゃないし……。
それに、途中で気付かれたり抵抗されるのも困る。

あの子の仲間は、今凛ちゃんを除いてかなりギリギリの戦いをしている。
なら、どこかでチャンスが来るかもしれない。
今はその時を待つのがいい。

必ず来るであろう、チャンスを。

Interlude out



やっぱり、あの子たちにはちょっと荷が重いか。

戦いは、さっきまでの様な私達に有利な展開とはほど遠いものになっている。
アルフもフェイトも押されっぱなしで、何とかやられないように耐えるので必死だ。
ユーノもできる限りサポートしているけど、少し妨害するのが限界。
とてもじゃないけど、二人に有利な状況を作ることはできずにいる。

できれば、援護したいところなんだけど……
「ぶっとべぇ!!」
目前でハンマーを振り回すチビのおかげで、とてもじゃないけどそんな余裕はない。

ハンマーの軌道をかいくぐり、そのまま宝石を持った拳で殴りつける。
「女の細腕だからって、甘く見んじゃないわよ!
『Zwei(二番)――――Feuer flackert in einer(我が手に) Hand auf(炎を灯す)!』」
指輪の効果で燃える拳が直撃する。
そこで手中の宝石に込められた魔力が炎となり、一気に燃えあがる。
手に持った宝石が効果を増幅させ、相手を火だるまに変える。

変える…はずだった。
「くっ、ギリギリで防御が間に合ったみたいね」
炎を受けたのは、あくまで直前に張られた障壁のみ。
向こうさんの体には、焦げ目一つ付いていない。
思っていた以上に堅いわね。

「テンメェ!!」
飛び退くわたし目掛け、先端を突起に変えブースターで推進力を増したハンマーが迫る。

回避が間にあわない、それなら。
「『Ein leuchtender(貫け) Stoßzahn greift es an(光の牙)!!』」
中指に嵌めた指輪が輝き、そこから魔力で構成された四本の光の槍が出現する。
そこに突っ込む形になり、光が炸裂し爆発と煙が巻き起こる。

その中から、一つの人影が弾き飛ばされる。
向こうは目立った外傷こそないが、衣装の至るところが裂けている。
先ほどの光の槍に突っ込んだにもかかわらず、上手いこと直撃は避けたようだ。
さすがに、余波で服はみすぼらしくなってしまっているが。

私の方はと言うと、結構悠々とした態度で外に出る。
ハンマーが直撃する寸前、カーディナルの柄で軌道を逸らしたのだ。
さすがに、魔術に面喰って勢いが弱くなってなかったら捌けなかったけどね。
それでも完全には捌き切れず、鉄槌が頭を掠め僅かに血が顔を伝う。

とはいえ、せっかくの好機。ここで畳みかける。
「『Acht(八番),Sieben(七番)!
Beschiesen(敵影、一片)ErscieSsung(一塵も残さず)!』」
この半年で魔力を貯めた宝石二つを使って吹き飛ばす。

方向性を持たせていない、純粋な魔力の塊が直撃したかに思われた。
だが、放たれた魔力を、今度は無理矢理ハンマーで打ち返しにかかる。
まったく、なんてデタラメなマネを。

魔力とハンマーが激突し、爆音と閃光が生まれる。
余波がこちらにまで届く中、あのチビッ子は弾かれたように後方のビルに衝突する。
これで仕留められればいいんだけど、そう上手くはいかないだろう。
「カーディナル!」
《了解。モード・ランサー》
私の呼び掛けに応じ、カーディナルがその形を変える。
ステッキの柄が伸び、私の身長とほぼ同じくらいの長さになる。
そして、頭にある宝石が輝きそこから赤い魔力刃が出力され、槍のような形態となる。

八極拳の使い手は、槍も得手とする。
綺礼には、殴り合いだけじゃなくてこういったことも一通り教わった。
子どもの体で使うには不向きだけど、やっぱり慣れている武器がいいと思ってこの形態を加えたのだ。

遠距離では魔術を、近距離ではデバイスと拳を使っての戦闘が今の私の基本。
ヴィータは距離を詰めるのが上手く、そして早い。
一々切り替えていたら、とてもじゃないけど追いつけない。
だから、はじめからいつ接近されても大丈夫なように備えておくのがいい。

だが、いつ出てきても対処できるようビルに注意を払っていたのだが、一向に出てくる気配がない。
まさか、あれで仕留められたとは思えないんだけど。
「っ!!」
そこで背筋に悪寒が走る。
反射的に槍を後ろに向けて振るうと、手ごたえがあった。

イヤ、手ごたえどころじゃないか。
今度は私がその威力に押され、ビルの壁面に向かって吹き飛ばされる。
反射的な行動だったから踏ん張りが足らなかったとはいえ、それでもここまで飛ばされるとはね。

壁に向かって受身を取り、かろうじてダメージを散らす。
痛みに耐えながら、先ほどまで自分がいたところを向く。
すると、そこにはバリアジャケットの一部が引き裂かれたヴィータがいた。
「ちっ、勘がいいじゃねぇか」
おそらく、粉塵に隠れてビルの裏から迂回してきたのだろう。
もし気づかなければ、あのハンマーの直撃を受けていたかもしれないわね。
突っ込むだけのイノシシみたいな動きが多かったけど、やっぱり一筋縄じゃいかないか。

でも、そこで終わりだと思ったのなら、甘い!
カーディナルの切っ先を向け、ある魔法を発動させる。
「レストリクトロック!」
その瞬間、リング状になった魔力がヴィータの体を拘束する。
この時を待ってたのよ。私の割と近くにいて、なおかつ一瞬でもその動きを止める瞬間をね。
これでやっと、大技が使えるってものよ。

懐から三つの宝石を取り出し、それを身動きの取れないヴィータに投げる。
同時に、中指にはめた礼装を向け詠唱する。
「ほら、全力で受けないと死ぬわよ。
『Drei(三番),Es scheint nicht(白き閃光が), daß ich überwältige(全てを覆う)!!』」
そこで、魔力を帯びた極大の光の塊が発生し、眼前にある全てのモノを飲み込んでいく。
ああは言ったけど、まあこれで死ぬことはないだろう。
でも、確実にダメージはあるはず。

そう、思ったんだけどね。
《警報! 上です!!》
「え、なに!?」
上から降ってきたのは、豪速で飛来する五つの鉄球。
まさか、はじめからこれがねらい!?
注意を自分に引き付けて、あらかじめ放って置いた誘導弾で叩くつもりだったのか。

私はとっさに、魔法ではなく魔術で持ってこれを防ぐ。
ここで魔法を選ばなかったのは、やっぱり私が根っからの魔術師だからなんでしょうね。
「『Werden Sie die(敵意を遮る) Mauer des Stahles(鋼の衣)!』」
空間を歪めるのでは間に合わないと判断し、外套そのもので鉄球を受ける。
あれは、発動から効果が表れるまでに若干のタイムラグがある。
こんな急場じゃ、満足のいく歪みが作れるとは限らない。

連続して衝突する鉄球の衝撃に、苦悶の声が漏れる。
「くぅっ!!」
今の外套は、鉄をはるかに超える強度がある。
それこそ、数トンの衝撃さえも受け切れるほどだ。
しかし、さすがに連続でやられるとキツイわね。

やり過ごした鉄球に向け、今度は叩き落とすための詠唱をする。
あんなのにいつまでもウロチョロされちゃ、鬱陶しくてかなわないわ。
「『Vier(四番),Viel Topfwiesel sind bereit(斬り裂け), es zu schneiden(数多の刃)!!』」
かざした手から風刃を放つ。
一発二発ではどうにもならないが、数撃てばその内に限界は来る。
予想通り、複数の刃がぶつかることで鉄球は限界を迎え四散する。

だけど、これで終わりじゃない。
まだ私は、ヴィータを仕留めたことを確認していない。
光は治まり、そちらに目を向けるとそこにはヴィータの影も形もなかった。
「しまっ……」
「ぶっとべぇ!!!」
真上から響くのは、聞き覚えのある声。
すぐさまそちらを向くと、ハンマーを振りかぶったヴィータがいた。
そのバリアジャケットの一部はぼろぼろで、どうやら完全には回避しきれなかったことがうかがえる。
だけど、戦闘不能に陥らせるには足らなかったか。
イヤ、むしろそれほどのダメージはないように見える。

それにしても、いつの間に。
とてもじゃないけど回避も防御魔法も間に合わない。
なにより、そんなことをすれば間違いなくなのはの二の舞だ。
「はっ!」
私はカーディナルを振り上げ、ハンマーの柄に打ちつけるようにして軌道を逸らそうとする。

しかし、私はまだこいつへの認識が甘かった。
勢いに乗った鉄槌は、そんなことお構いなしにこちらの槍を弾き、この身を捉える。
ギリギリのところで鉄槌と胴体の間に腕を入れ防ぐが、衝撃が突き抜け喘ぎが漏れる。
「あぐっ!?」
幸いだったのは、まだ外套の効果が残っていたことか。
そうでなかったら、骨を数本もっていかれてたわね。
まだ鉄以上の硬度を誇る外套のおかげで、決定打にはならなかったのだ。

だけど、その衝撃を完全に殺す事もまた不可能。
私は、まるで打たれたボールのように地面に向けて叩きつけられる。
まるで、体中の骨がバラバラになったかのような衝撃だ。

あわや、地面と仲良くハグする寸前、飛行魔法を使ってその勢いを殺す。
何とか間に合い、かろうじて地面との激突前に体勢を立て直せた。
体の状態を確認するけど、どうやら運良く重大なダメージは免れたみたい。

ホント我ながら、いい礼装を作ったものだと感心するわ。
それでも、ダメージは完全には殺しきれずどうも左腕にヒビが入ったかもしれない。
ちょっと痺れてて、それがヒビが入ったせいなのか、それとも衝撃によるモノなのかまだ判断がつかないけど。
これまでの経験からすると、どうも前者っぽいのよねぇ。

まあ、どちらにせよ、戦闘中に元通り動かせるようになるのは期待できないか。
そのうえ、内臓にもダメージがいってるみたいで口から血が滴る。
それにしても、あの攻撃からどうやって抜け出したのよ。

一端地面に降り立ち口元の血を拭ってから、再度空を舞いあがる。
ヴィータと同じ高度に戻ったところで、たいして期待はしてないけど尋ねてみる。
「いっつぅ~~……。一ついいかしら、どうやってあれを抜けたの? 結構自信があったんだけど」
「あん? そんなもん、力任せにぶっ壊しただけだ」
ホントかしら? こいつならできそうだから怖いわ。
思いっきりパワータイプだし、妙に説得力があるのよね。

ま、現実的なところだとバインドを破って、後方に下がったってところでしょうね。
あのバインドは結構硬かったはずだし、たぶんバインド破壊用の魔法を用意していたんじゃないかな。
こいつくらいのレベルなら、私がバインドを狙ってることくらい気付いていても不思議はない。

ところが、今度は何か探るような眼でこちらに問う。
「それより、あたしも聞きてぇことがある。テメエ、一体なにもんだ?
 ミッド式のはずなのに、なんかよくわかんねぇ術を使いやがる。
 魔導師はたくさん見てきたけど、宝石なんか使うやつは初めてだ」
「ん? 何のこと? 私が使ってるのは、ちょっとしたレアスキルだけど」
白々しくとぼけるが、こちらの言い分など全く信じていないのは明らか。
ま、いくら悩んだってわかるはずもないんだけどね。

「ところで、それってこの場で何か関係あるの?」
「ああ、ねえな。ぶっつぶす前に、聞いてみただけだ!!」
その言葉を皮切りに、再び交戦状態にはいる。


基本的なやり取りは変わらない。
接近してこようとするヴィータを、私が魔術で牽制し、ヴィータはそれをハンマーで蹴散らす。
ヴィータが誘導弾を使えば、私がガンドで撃ち落とし、撃ち漏らしたのは外套で軌道を逸らして回避する。
ついでに、一度やり過ごした誘導弾は念のために撃ち落とす。
接近されれば、ヴィータは渾身の一撃を入れようとハンマーを振りかぶり、私はそれを阻もうと手数中心に槍を振るう。

お互いに決定打を入れられないが、私の方が分は悪い。
腕の痺れもあるけど、一撃の威力では明らかにヴィータが勝っているせいだ。
おかげで、向こうの攻撃が入れば、場合によっては一撃でケリがつくかもしれない。
逆に、こちらの攻撃はなかなか向こうの守りを突破できない。

攻撃力、防御力、スピード、一通りの性能は向こうが上。
何とか拮抗できるのは、これまでの経験と魔術と言う異端のおかげだ。
見慣れぬ術に対する警戒心からか、間合いと攻めのタイミングには細心の注意を払っている。
まあ、間違っても消極的なんかじゃないけど。
ただ、何があっても対処しやすいように動いているのだ。

おかげで、術を使おうとする素振りだけでも牽制になる。
だけど、それでもこちらが不利なことは変わらない。
その上、ある程度術の傾向を把握すれば、より一層積極的に攻めてくるのは目に見えている。
そうなったら、ますます不利になるのは間違いない。

ここまで来たら、加減なんて考えながらやるなんて不可能だ。
っていうか、いつまでもそんなことを考えてたらこっちがやられる。
下手すると死ぬかもしれないけど、それくらいでないと勝つのは難しい。

だけど、生憎とヴィータはそれをやらせてくれるほど甘くない。
バインドも、さっきのことを考えるとあまり期待できないし。
その上、一撃の威力が半端じゃないおかげで、少しでも隙を見せればその瞬間にこちらが沈む。
とてもじゃないけど、長詠唱をするだけの余裕はない。
まったく、なのはが圧倒されるわけだわ。

ここからではよく見えないけど、フェイト達は無事かしらね。
チラチラ見えた限りだと、押されてこそいるけど一応まだ無事だったはず。
ユーノとアルフの方は、どうも上手いこと役割分担をしていたような気がする。
ユーノが守りを担当し、アルフが攻めを担当することである程度対抗出来ていたように見えた。
だけど、それもいつまでもつか分からない。
数的には有利とはいえ、これと同等の敵が相手だ。
なんとか、増援が来るまで持ちこたえてほしいけど。

あのバカ、早く来なさいよね。



SIDE-士郎

俺達が戦場に到着した時に見たのは、今まさに追い詰められているフェイトの姿だった。

あらかじめ凛から受けていた指示通り、リニスと別れ俺はフェイトの元へ急ぐ。
リニスはなのはの方へ向かい、お目付け役兼護衛をする手はずになっている。
俺は全速力でビルの上を駆け、時に跳躍して次のビルに移る。

フェイトの相手はシグナム。
レヴァンティンが炎を纏い、上段からの一閃がバルディッシュを両断する。
フェイトは勢いに負け後退するが、それは不味い!
その程度の回避では命取りだ。

だが幸いにも、二人は戦いながら俺の方に移動していた。
おかげで、フェイトまであとわずか。
渾身の力で跳躍し、フェイトの助けにはいろうとする。

けれど、それだけでは遅い。
その間にも、フェイトに向けて放たれた第二撃がバルディッシュの本体を打つ。
全体にひびが入り、あと一撃でも入れられれば、それでバルディッシュが大破するのは明白。
それだけじゃない。そうなれば、フェイト自身もただでは済まない。

そこで、自分の後ろに剣を投影し、躊躇なく炸裂させる。
「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!』」
背後で爆発が起こる。爆風に体が煽られ、跳躍の速度が増す。

バランスが崩れたが、進路だけは正常。
フェイトに第三撃が放たれる寸前、フェイトの視界の端に俺の姿が映る。
「え、シロ……」
フェイトの顔が一瞬驚愕のそれに変わる。
当然だ。今まさに剣が振り下ろされようとしているその寸前、剣の正面に割り込もうと言うのだから。

確かに、これの直撃を受ければただでは済まない。
だったら、直撃を受けなければいい。
「『凱甲、展開(トレース・オン)!!』」
その詠唱と共に、身を裂くような痛みを覚える。
ギチギチと言う耳障りな音が聞こえ、金属を擦るような音が体の内から響く。

そして、シグナムの剣が俺の体を捉えた。

ギィィィン!!

鉄と鉄を打ちつけ合うような音と、同時に発生する火花。
それと共に、俺は真下のビルに向かって弾き飛ばされる。
僅かに軌道が逸れたことで、フェイトを巻きまずに済んだのは幸いだった。
女の子を巻き添えにしたんじゃ、いくらなんでも格好がつかない。

「シロウーーー!!」
ビルの床を突き破りながら落下している最中、そんなフェイトの叫びが聞こえた。
ようやく止まったところでそちらに目を向けると、涙目になったフェイトが舞い降りてくる。



Interlude

SIDE-フェイト

シロウが私をかばって、ビルに叩きつけられた。
屋上部分を突き抜け、そのまま数階分下まで床を突き破っている。

敵に背を向ける危険も忘れ、大急ぎでシロウのもとへ向かう。
あんな無茶して、防御魔法もなしにあんなのを受けたらいくら非殺傷設定でも危険だ。
わたしは、またシロウに守られた。

シグナムがどうしているのか分からない。
私の後を追っているのか。それともあそこでこの光景を見ているのか。
だけど、そんなことは気にならない。
今は、とにかくシロウの安否を知りたい。

三階分降りたところで、やっとシロウを見つけた。
体が半分瓦礫に埋まっているけど、シロウはそんなことは全く気にせずに軽い口調で再会を喜んでくれる。
「なんというか、随分と騒々しい再会になったものだ。
 だが、元気そうで安心したよ、フェイト」
その声を聞いて、その笑顔を見て、体中から力が抜けた。
ああ、やっとわたしはここに帰ってきたんだ。そう思えた。

こんな時に不謹慎だけど、それでも胸が熱くなるのがわかる。
目に涙が浮かびそうになるのを抑えられない。
感極まって、思わずその胸に飛び込む。
ああ、やっぱりわたしはこの人が好きなんだ。それを再確認したような思いだった。

だけど、手が体に触れた瞬間、鋭い掌に痛みが走る。
「痛っ!? え、なんで?」
痛みを覚えた手を見ると、そこにはさっきまでなかったはずの切り傷があった。
そこからは血が流れ出し、気のせいでないことを証明している。

それも一つや二つじゃない。
幾本もの、細かい切り傷ができている。
まるで、刃物の束にでも手を付いたかのような。
まさか、何かの破片が刺さっているんじゃ。ここにはガラスだってあるし、金属の破片もある。
だとしたら、早く手当てをしないと大変なことになる。
その考えに至り、一気に血の気が引く。

すぐさま手が触れた部分を見ると、そこであり得ないモノを見る。
あったのは、シグナムの剣撃によってできた服の裂け目。
それだけならいい。あの剣を受けたんだから、その程度はあって当然だ。

けれど、問題はそこじゃなくて、その奥。
露出した血に濡れた褐色の肌。そして、その一部にひしめくキラリと光る何か。
理解できない。なんでそんなモノが、シロウの体を覆っているのか。
意味が分からない。なんでそんなモノが、まるでシロウの体から生えるようにして蠢いているのか。

「キィキィキィ」と、金属同士をこすり合わせるような音が漏れる。
「ギチギチギチ」と、得体の知れない何かがせめぎ合うような音が響く。
なんて、耳障りな音。なんて、気味の悪い音。
まるで、体から■が生えてきているみたい……。

そこにあったのは、ある意味では見慣れたモノ。
誰もが簡単に目にすることができる“刃”がそこにあった。
けれど、それは普段目にするハサミや包丁のそれとは全く違う。
明確に人を殺傷することを目的とした、“剣”に用いられる刃のような形をしている。

「なに……これ」
それは紛れもなく「刃の群れ」。
無数の刃が、まるで体を覆う鱗のように夥しいほどの剣がひしめいている。
刺さっているんじゃない。張り付いているのでもない。文字通り、シロウの体の“中”から出てきている。

それは一つ一つが血に濡れていて、その非現実感を強める。
まるで、できの悪いホラー映画でも見ているような気分さえする。
なんでこんなものが、シロウの体から……。

全身に怖気が走る。鳥肌が立ち、毛が逆立つのを実感する。
背中を嫌な汗が流れ、体の芯が凍ったように錯覚する。
一瞬の目眩。それを振り払い向きなおると、そこに―――――“刃”などなかった。
そう、幻だったかのように一本残らず跡形もなく消えていた。

だけど、残ったモノがある。
それはシロウの体に刻まれた無数の傷跡とそこから流れ出す血。
まるで、何度も何度も刃物を突き刺したかのような傷。
それが、さっきまで刃がひしめていたはずの場所に残されていた。

(いったい、いまのはなんだったの?)
夢であってほしいと思う自分。夢ではないと叫ぶ自分。
その双方がせめぎ合い、わたしの頭がぐちゃぐちゃになる。

混乱して何もできずにいるわたしに、シロウから声が掛かる。
「気にするな。これは剣でできた鎧で体を覆い、致命傷を避けるという術だ。
フェイトの眼がおかしいわけではないし、これと言って異常があるわけでもない」
そう言って、シロウはわたしの頭を撫で、優しく微笑みかけてくれる。
単純かもしれないけど、それだけで少し落ち着ける気がした。

だけど、あれはそれだけで説明できるモノじゃない。
確かにシロウは剣に関する事しかできないけど、それでもあんな方法でなくてもいいはずだ。
何より、あれは「体を覆う」と言うよりも「体から生えている」と言う方が正しかったように思う。

そういえば、以前士郎は『I am the bone of my sword.』と詠唱していたことがあった。
boneは骨。swordは剣。つまり、骨が剣で出来てるとでも訳すの?
ううん。さっき見たあれは、まるで『体が剣と一体化している』かのようだった。

その思考を、わたしはすぐに否定する。
(まさか、そんなはずがない)
きっと気にし過ぎだ。偶々そういう風に見えただけで、わたしの勘違いに決まってる。
剣と結びついた体なんて…あるはずがない。

そうだよね、シロウ…………。

Interlude out



SIDE-士郎

やれやれ、どうやら不味いモノを見られたようだな。
さすがに直撃を受けるわけにはいかなかったし、「剣鱗」を使ったが戻すのが遅すぎた。

「剣鱗」は、俺の体質を利用した緊急防御技。
体から無数の剣を生やし、それで外部からの攻撃を受け止める。
「肉を切らせて骨を断つ」と言う言葉があるが、これは「肉を切って骨を守る」ための戦術。
致命傷を防ぐために、自ら傷を負うという代償行為。
問題は、制御を誤ればそれが致命傷になって死ぬ可能性もあることか。

フェイトの方はあの説明で納得したとも思えないけど、無理にでも信じようとしてくれているみたいだな。
顔はまだ少し青いが、これ以上尋ねようという様子はない。
ありがたくもあるし、真実を教えられないことは申し訳ないと思う。

だが、今はそれどころじゃない。
優先すべきは目の前のことからだ。
「フェイト、いったん上に戻るぞ」
「え、む、無茶だよ! その傷じゃ……」
俺の言葉に、フェイトが心配そうな声を上げる。
さっきのを見たせいか、その顔はまだ青い。
だが、そのショックがありながら、すぐにこうして心配してくれる優しさはやはりフェイトらしい。

「大丈夫だ。戦闘に支障はない。
 それに、あちらも私を待っているようだ」
見上げると、上空でシグナムが佇んでいる。
早く上がってこいと言うことか。

しかし、それでもフェイトは納得しない。全く、心配性だな。
「でも……!」
「どのみち、バルディッシュがそれでは君はもう戦えまい。
 ただでさえ地力に差があるのだぞ。これ以上相棒に無理をさせてやるな」
事実、バルディッシュは本体を破損したのか軽く明滅している。
これ以上酷使すれば、最悪の場合完全に壊れてしまう。

「じゃあ、約束して。絶対に無茶はしないって。
 絶対に、元気に帰ってくるって」
涙目になりながら、フェイトはそう懇願する。
だが、困った。正直、シグナム相手に無茶をせず、なおかつ元気に戻るのはまず不可能だ。
では嘘をつくのかと言うと、この眼を相手に嘘は突きたくない。

となると、俺に応えられるのはこの程度か。
「前向きに、善処しよう」
「大丈夫、とは言ってくれないんだね」
「すまないが、できもしないことは言わないことにしている。
 嘘は……つきたくないからな」
今まで、どれだけの嘘を付いてきただろう。
「助ける」と「大丈夫」と言って、何度もそれを裏切ってきた。
嘘にしないように、全身全霊を尽くした。約束を守るために、全身全霊を費やした。
それでも、幾度となくそれらは嘘になった。

もう、これ以上嘘はつきたくない。
だから、苦笑を浮かべながら守れる約束だけを口にする。絶対に、それだけは守ると誓って。
「無事とはいかんかもしれないが、それでも必ず五体満足で帰って来よう。
 命は粗末にせんよ。それで許してはもらえないか?」
「…………………………シロウ、ズルイ。そんな目で言われたら、納得するしかないよ」
フェイトは呆れたように、だけどどこか悲しそうにうなずいてくれる。
それに対し、感謝と誠意を込めて「すまない」ともう一度謝罪の言葉を述べた。

だけど、上にあがる前に一つ頼み事をしておかないとな。
チョイチョイと手招きしながらフェイトを呼ぶ。
「ああ、フェイトちょっといいか?」
「え? うんって、ひゃん!?」
と、可愛らしい悲鳴を上げるフェイト。
フェイトの耳に口をよせ、小声で話しただけなんだけどな。
その間顔は見えなかったけど、ずっとフェイトの耳が赤かった気がする。
ちなみに、話が終わってもしばらくフェイトの顔は赤かった。

まあ、それはともかく。
やらないに越したことはないけど、これをやる時にはフェイトにも協力してもらった方がいい。
アレが相手である以上、策はいくら用意しても十分とは言えないだろう。
なら、せめてこの程度の小細工は必要だ。



打ち合わせと小細工の仕込みを終えた俺たちは再び屋上に上がり、空のシグナムと対峙する。

といっても、実際には見上げるような形なわけだが。
「思いのほか、早く剣を交えることになったな」
「ふむ、私は元から君と戦うつもりでいたのだがね。
 ところで、今回はもう逃げるのはやめたのかな?」
シグナムの感慨深そうな言葉に皮肉気に応じる。

向こうはそれに特に気分を害した様子もなく、むしろどこか嬉しそうな表情で答える。
「ああ、その必要もない。私達のターゲットは皆ここに集まっている。無論、お前も含めてな。
 なら、彼らに逃げられさえしなければ、お前を倒した後でも十分だ」
それを聞いて安心した。それなら、こちらも心置き無く戦える。
逃げようとする相手を牽制しながら戦うと言うのは、どうしてもやり辛い。
ただ目の前の相手の打倒にのみ集中できるのなら、それに越したことはない。

しかし、まずはなんとか同じ土俵に降りるよう誘導しないとな。
好き勝手に飛び回られては、やり辛くてかなわない。
まずは、距離を詰めた方がやりやすいと思ってもらおうか。
「そうか。だが、そう思い通りにはいかせんよ」
弓を投影し、矢を番える。
弦を限界まで引き絞るのを見て、シグナムも構える。

ピリピリとした空気が場を支配し、お互いに機を測る。
先に動いたのは、シグナムの方だった。
「はぁっ!!」
それに合わせ、俺もまた矢を離す。

シグナムはそれを回避しようとする。
だが、甘い。俺には、この矢がお前を捉える光景が見えているぞ。
その確信通り、回避した方に向けて矢が軌道を変える。
羽を弄り、軌道を変えるように仕込んでおいたのだ。

しかし、この程度でどうこうなるような相手ではない。
一瞬驚いたような表情を見せるが、剣を振るい飛来する矢を薙ぎ払う。
シグナムはすぐさまこちらに突っ込もうとするが、それは新たな矢によって阻まれる。
奴が剣を振るった瞬間に、次の矢を番え放ったのだ。
連射性を優先したせいで威力こそ落ちるが、これではそう簡単には近づけない。

だが、敵も只者ではない。
シールドやバリアで、時に炎を纏った剣で飛来する矢を叩き落とす。
威力重視にすれば、近づくチャンスを与えることになる。
ならば、ここは数で攻めるべきだろう。

さらに矢を番える回転を上げ、三射を全くの同時に射る。
どれだけ射る矢を増やそうと、一つとして外れることはない。
全ての矢は、まるで吸い込まれるようにシグナムを捉える。
それも全てが同じ軌道を描き、一点に集中してだ。
一射の威力は弱くても、一点突破ならあるいは。

それに対し……
「陣風!!」
シグナムは剣に纏った炎を衝撃波と共に発し、まとめて薙ぎ払う。

しかも、放たれた炎はこちらにまで迫ってくる。
それを回避しようと下がったところで、炎の中からシグナムが姿をあらわす。

やはりか、そんなことだろうと思ったよ。
「トラップシュート」
そう小さくつぶやくと、空から十本の矢が降ってくる。
シグナムは寸前で気づき、上空から降り注ぐ矢を叩き落とす。

あの炎は、何も俺にとってだけの目晦ましではない。
シグナムにとっても目の前を覆う幕となる。
それを利用し、あらかじめ空に向けて矢を射ていたのだ。

シグナムが矢に気を取られている隙に、俺は再度距離を取る。
意図せずしてできた場の停滞。お互いに、次の一手のために息を整える。
そこで俺に向けて、シグナムは信じられないモノを見るような眼で問う。
「……まさか、見えているのか」
動きが見えているのか、と言うわけではないのだろうな。
そんなことは今更聞くまでもないし、そうでなければここまで戦うこと自体ができない。

となると、その質問の意味はおそらく……
「ふむ、矢が君を捉える光景のことを言っているのなら常に見えているが、それがどうかしたのかな?」
「とてつもないことを当たり前のように言うのだな、お前は。
 私も弓の心得はあるが、実戦の中と限れば、その感覚は億の矢を射て一度あるかどうかだ。
 まさか、その境地に至っている者がいようとは……」
そういえば、これに対して理解を示した相手と言うのは初めてかもしれない。
大抵の場合、「信じられない」や「言っている意味が分からない」と言う反応が返ってくるんだけどな。
俺としては、当たり前のことをしているだけのつもりなんだが。

シグナムの顔を冷や汗が伝う。それだけ脅威に感じているのだろう。
「道理で、かわせる気がしなかったはずだ。
 その年で凄まじい技量だと思ったが、違ったな。その境地に至ってしまえば、もはや技は関係ない。
 長年の修練の果てに至ったというわけでもなさそうだが、何がきっかけだ?」
「ふむ、特にこれと言って変化を感じたことはないのだが……」
俺の場合、はじめて弓を持った時からこんな感じだったからなぁ。
シグナムの言う境地とやらにしても、あまり実感がない。

シグナムは一度大きく息を吐くと、無言のまま降下してくる。
「ほお、せっかくのアドバンテージを捨てることになるぞ」
「構わん。むしろ、空にいる方が分は悪そうだ」
別に、そんなことはないと思うんだけどな。
確かにかわすことは難しいだろうが、接近することはそうでもない。
さっきのは意表をついたが、次はそうはいかないだろう。
あのまま続ければ、おそらく最終的にはシグナムの剣は俺を捉える。

引き換え、俺の矢がダメージを与える可能性は低い。宝具を使うにしても、発動までの隙でやられる。
いや、この距離で弓を使うのがそもそも間違っているんだけどな。
まあ、だからこそこちらの長所のみを見せるようにして戦ったのだ。
このまま戦うのは不味い、そう思わせるようにしたが上手くいったらしい。

さて、せっかく同じ土俵に降りて貰った以上弓は枷にしかならない。
弓を破棄し、新たに干将・莫耶を投影し構えると、シグナムも剣を構える。
「安心するといい、フェイトに手は出させん。望み通り、思う存分剣を交えようか。
 しかし、白兵戦なら勝機があると?」
「無論だ。なにより、こうして戦う方が性に合う」
つまり、こういう真っ向からの斬り合いの方が好みで得意と言うことだろう。
いや、そういうタイプだろうとは思ったが、やっぱりか。

そして、シグナムは口を開き短く言葉を発する。
「では…いくぞ!」
その言葉と同時に、お互いに駆けだし剣を振りかぶる。

一合目は、単純な剣と剣のぶつかり合い。
だが、そこでいきなり差が出る。
体格の差、パワーの差、魔力の差、技量の差。
あらゆる差から、打ちあった剣は互角にはならず、俺の方が後方に押される。

そこに畳みかけるように、シグナムが間合いを詰める。
その勢いのままに放たれる袈裟斬りをかわすが、流れるような動作で薙ぎが放たれる。
それを弾き反撃に出ようとする。だが、弾いた反動で体がぶれる。
やはり体格の差は如何ともしがたい。
放たれる剣の一つ一つが重く、子どもの体では支えきれない。
せめて、あと五歳年を食っていれば、ここまでの差は生じないと言うのに。

必死で踏ん張り、受ける衝撃に耐え捌く。
ただでさえ一撃一撃が重いと言うのに、シグナムの剣は手数勝負なのかかなり速い。
おかげで、反撃の糸口がつかめない。まったく、手数勝負のくせにこの威力かよ。

攻撃を誘導したところで、捌いた際の反動から立ち直るころには次の剣が来る。
可能な限り受け流しているはずなのに、それでもなおこの威力。
立ち直るまでの時間は一瞬だが、それでもシグナムが次の剣を放つには十分。
このままでは、ただただ押されっぱなしだ。

しかし、そこで一際高い剣戟が響く。
シグナムの一撃により莫耶が弾かれ、そのまま俺の手を離れたのだ。
どうやら、俺が思っている以上にシグナムの剣圧は重いらしい。

無論、それだけに留まらない。
次の一撃で、さらに干将までが弾き飛ばす。
丸腰となり無刀となった俺と、必殺の一撃を放とうとするシグナムの視線がぶつかる。

だが、俺とてここでやられるつもりはない。
「クッ」
勝利を確信したシグナム。それに対し、口元を吊り上げ笑みを零す。
即座に次の干将・莫耶が投影され、放たれた突きを捌く。

俺の手に再び握られた短剣を見て、シグナムはいぶかしむ様な声を漏らす。
「む」
勝負を決めるつもりで放った一撃を防がれ、先ほど叩き落としたはずの武器があればその反応は当然。
それどころか、反応が薄い気さえする。
それだけでも、こいつの戦闘経験の豊富さがうかがえるな。
これくらいのことでは、僅かな動揺さえ見せない。

当然、この相手がその程度で攻めを緩めるはずもない。
むしろ、その剣戟は一層回転を上げていく。
際限なくリズムが上がり、奴の剣と俺の双剣が響かせる剣戟は、まるでよくできた音楽のよう。
理屈は分からないが、剣が戻ると言うのなら戻る前に叩き斬る、と奴の剣が語っている。
一瞬でも投影が遅れれば、本当にそれは実現しかねない。

フェイトには手を出させないと言ったが、そんなことは言うまでもなかったか。
今のフェイトでは、この剣戟に入り込むことすらできない。
近づいたが最後、その瞬間に彼女は切り刻まれることになりかねないのだ。
例え射撃系の魔法を使うにしても、今のフェイトの技量ではどこに隙があるかさえ分かるまい。
どの瞬間を狙っていいかさえ分からない以上、下手をすると俺をも巻き込むことになる。
あの子に、俺ごとシグナムを倒すなんてことができるはずもない。

しかし、拮抗しているように見えて、その実俺は終始押されっぱなしだ。
一歩も下がらず踏みとどまることが、これほど苦しいと感じたのは久しぶりだな。
その上、時折一際強力な一閃が放たれ、その度に手から剣が離れる。
義手の方は膂力の強化で持ちこたえているが、生身の方はそうはいかない。
むしろ、義手の柔軟性を使い、剣が手を離れた時に出来る隙をカバーしている状態だ。

だがそれも一瞬。
剣を手放したとしても、次の瞬間には新たな剣を握り、放たれた剣を確実に捌き受け流す。
いくつか腕ごと弾かれたために間に合わない剣もあるが、それは義手の可動域の広さに救われる。
奴もこの腕に奇妙さを覚えたようだが、特に気にした素振りもない。
ただそういう腕だと思うことにしたのだろう。
フェイト達なら隙もできるだろうが、そんな甘い相手ではないか。

むしろ、そんな俺をシグナムは貫くような眼光で射抜く。
油断など初めからなかったが、それでもどこかで侮りがあったのかもしれない。
こちらは子ども。ならば、シグナムの優位は揺るがないと。
確かにその通りだったが、それでもなお攻めきれない。
その事実が、シグナムの眼に鬼気迫る光を宿したのだ。

それにともない、剣戟もまた激しさを増す。
速くなったのではない。重くなったのでもない。込められる魔力量が上がったのでもない。
ただ、一撃一撃に込められる気迫が激しさを増したのだ。
そんな目に見えないモノが増しただけにもかかわらず、剣の質がさらに向上した気がする。

もちろん、俺とてこのまま押されっぱなしでよしとする気はない。
少しずつだが、お互いの立ち位置を動かしている。
しかし、剣戟が四十合に達しようとしたところで、シグナムが動きを見せる。
「レヴァンティン!」
シグナムの声に応えるように、レヴァンティンの刀身を炎が覆う。
それまでよりも一際を力強い一閃を、双剣を交差させるようにして受け、後方に弾き飛ばされる。

ああ、狙い通りだ。
「なに!?」
突然、俺の姿がシグナムの前から消える。
理由は簡単。先ほど俺達が出てきた穴に落ちたのだ。

一つ下の階に落ち、双剣をベルトに挟み込み投影した黒鍵を構える。
そのまま総身の力を込めた鉄甲作用を使い、黒鍵を屋上にいるシグナムめがけて投げ放つ。
気配を消さない限り、見えていなくても大まかな位置くらいはわかる。

だが、この程度でやられてくれるはずもない。
黒鍵を放ったことで天井が崩れ、そこに新たな穴が空き、埃が舞う。
埃のスクリーンにシグナムの影が映り、そこ目掛けて天の鎖を投じる。
突如現れた鎖に意表をつかれたのか、容易くその手に鎖が絡みつく。
あるいは、逆に引っ張り返して上に引き摺り出そうという魂胆か。

けれど、甘い。
俺一人の力ならともかく、天の鎖はそれ自体が動く。
何より、鎖の反対側はすでにビルに打ちつけてある。
この鎖を引くと言うことは、事実上このビルを引くのと同義だ。

予想外の重さにシグナムの動きが鈍る瞬間をねらい、ビルの中に引きずり込む。
さらにシグナムの真上に三本の剣を投影し、炸裂させる。
「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」
「ぐぅっ!?」
シグナムは爆発の衝撃をもろに受け、下の階へと勢いよく落ちていく。
俺自身もその後を追って階下へ身を投じる。

その落下も、シグナムがある階の床にたたきつけられることで止まった。
無銘の剣三本分では、やはりこの程度が限界らしい。
だが、それも含めて狙い通り。なぜなら、シグナムが行き着いたのは先ほど俺が落ちたのと同じ階。
同時に、ここはついさっき俺が小細工の仕込みをしたフロアでもある。

着地すると同時に体勢を立て直したばかりのシグナムに駆け寄り、渾身の力を込めて蹴りを見舞う。
「飛べ!」
震脚を利かせた蹴りはシグナムの鞘に阻まれるが、それでも奴を数歩分後退させた。
それと同時に天の鎖を網目状に張り巡らし、シグナムの行く手を阻む。

よし、奴を穴の直下からどかし進路妨害を果たした以上、ここに留まる必要はない。
俺はその場に右手をつく。
「『同調(トレース)、開始(オン)』」
掌から魔力を流し込み、足元の床を過剰に強化する。
行き過ぎた強化は逆効果となる。脆くなった床は容易く崩れ、俺はさらに下の階へ落下する。

俺の行動の意味が理解できないシグナムは、深追いせず周囲を警戒する。
だが、それが命取り。
「『―――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!』」
屋上に上がる前、ビルの各所に打ち込んでおいた剣を爆発させる。
このビルの構造はすでに解析済み。どの柱を壊せば崩れるか、手に取るようにわかっているからこそ出来る事だ。

つまり、俺が剣を爆発させたのは、ちょうどシグナムがいる階から上の階を支えるために必要な箇所。
それらが壊れればどうなるか。答えは簡単、そこから上の階がまとめて落ちてくる。
落ちてきた穴から抜けだそうにも、シグナムはすでにその真下にいない。
その上、シグナムのいるフロアには天の鎖を縦横無尽に張り巡らせてある。
鎖を排除しながらでは、どうしても脱出に時間を要する。
となれば、崩落するビルの餌食となるのは避けられない。
この結界内で起こった破壊が、元の場所に影響しないのはフェイトに確認済み。だからこそできる荒業だ。

鉄筋コンクリートが軋みをあげ、不気味な断末魔が響く。
爆発そのものは小規模でたいした振動や衝撃もなかったが、すでに崩壊は始まっている。
もう間もなく、上層階は壊滅することだろう。

とはいえ、そのままその場に居座れば俺もただでは済まない。
最悪の場合、連鎖的に崩壊してビル自体が倒壊し俺自身も巻き込まれる。
だから、爆破する前から駆け出し大急ぎで窓を突き破って、空中に身を躍らせた。

そのままだと地面に向かって真っ逆様だが、もちろん対策は講じてある。
「シロウ!」
外にはあらかじめ待機していたフェイトがおり、差し出された手を掴む。
ふぅ、打ち合わせどおり。ナイスタイミング。

絶妙のタイミングで拾ってくれたフェイトに引き上げられながら、つい先ほどまで自分がいたビルの方を見る。
目に入ったのは、十数階はあったはずのビルが地面に吸い込まれるように崩れる光景。
爆破のせいか、あるいは崩れた上層階の落下の衝撃に引き摺られたのか。
とにかく一つ言えるのは、ビル一棟丸々崩れ去ろうとしているということ。

狙い以上の破壊になってしまったが、逆でないだけマシか。
どうせ、これだけやっても結界が解ければすべてなかったことになる。
それなら、これくらいはやり過ぎの範疇に入らないだろう。

さて、これでカタがつけばいいのだが……。
やはりそれは、楽観的すぎるかな。

フェイトに掴まって隣のビルの屋上に移動しながら、そんなことを思う。






あとがき

と、まぁそういうわけで、組み合わせは凛とヴィータ、士郎とシグナムになりました。
本当は次の話と一緒だったのですが、なんか長くなってしまったので区切った次第です。ああ、なんか最近そんなのばっかりな気がします。
自分でも進行が遅いと思うんですが、やりたいことをやってるといつの間にかこうなってしまうんですよねぇ。なんでこうなっちゃうんでしょう。
この先数を重ねていけば改善するのか、甚だ疑問な点なんですよね。
でも、次で必ずこの戦闘も終わるので、やっと先に進めます。ああ、我ながら何でこんなにかかるんだろう。

しかし、今回の士郎は徹底的に奇策に走っていますね。
まあ、この機を逃すと、この手の奇策を使う機会がなさそうだからなんですけど。
構造解析ができる士郎は、きっとこういう発破解体とか得意だと思います。
なので、一度はやらせたかったことなんですよ。

それと、凛は凛であんまり魔法を使っていませんね。
これは、単純に凛が根っからの魔術師なので、魔法をメインにすることはないと思ったからです。
あくまでも補助であり、魔術で出来ないことをやるための手段という認識でしょうか。

ついでに、今回士郎の新技が出ましたので、それについての補足をします。
といっても、ほとんど作中に出てるんですけどね。

で、その新技ですが、固有結界の暴走を応用した術第二弾「剣鱗」です。
名の由来は、発動させると剣が魚や爬虫類の鱗みたいに見えるから。
元ネタは簡単で、HFの最後に言峰と戦った際の士郎をイメージして下さい。
アレの描写を読んだ時に、「上手く使えば防御技として優秀なんじゃないのかな?」と思ったのが始まりです。
体の一部分から剣を生やし、鎧のようにすると言うモノです。
並みの弾丸だったら軽く防げますし、たいていの斬撃も受け止められます。
士郎の場合、魔力ダメージを受けると簡単に落ちそうなのですが、これで受ければ受けるのはあくまで剣なので、とりあえず肉体やそれを通しての魔力ダメージはないということにしています。
まあ、使うとそれだけで表皮がエライことになるんですけどね。

次回でやっとこの戦闘が終わります。
思いのほか長くなってしまいましたが、ご勘弁ください。
本当は二話くらいで終わらせる筈だったのが、何でこうなったんでしょう?


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