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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第22話「雲の騎士」
Name: やみなべ◆33f06a11 ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/17 17:01

SIDE-凛

私がなのはの元に駆け付けた時、すでに戦いは始まっていた。

赤と桜色、二色の光がビルの合間を飛び交い鎬を削る。
魔術なんて非日常の世界に生きる私ですら見慣れぬ光景。
半年前と違って、それをする側になってしまったのだから今更かもしれないけどね。
まあ、それ自体は予想通りだったので、そのまま近場のビルの屋上で観戦させてもらった。

途中からしか見ていないが、内容自体はそう悪くはなかったと思う。
襲われた事やあの子の性格を考えれば、受け身になってしまうのは無理もない。
年を考えれば、わずかな時間で思考を切り替えてちゃんと戦っていたのは驚嘆に値する。
半年前のあの子なら、襲ってくる理由を問いながら逃げ回るのがオチだっただろう。

それに、この半年で身に付けたモノを期待以上に活かしていたことを考えれば十分及第だ。
実際、それなりに見応えのある戦いだった。
これまでやってきたころの十分の一も出ればいい方だと思っていたが、なのはは本番に強い性質らしい。
半年前のフェイトの時もそうだったが、あの勝負強さは魔力以上の才能だ。

しかし、今回は相手が悪すぎた。
なのはもよく粘ったけど、さすがに今ので詰みだろう。
この半年の鍛錬の成果は確かに出ていたけど、その程度でどうこうなる相手じゃない。
あれは、なのはが半年前に戦っていたフェイトとは違う「本物」だ。
今のなのはのレベルじゃ、勝ち目どころか逃げる算段を立てることさえ困難を極める。
むしろ、あれの帽子を吹っ飛ばしただけでもたいしたものだ。
油断なんかもあっただろうけど、それでもあそこまで追い込められたのは出来過ぎなくらい。

本来、一対一でやるなら最低でも退路は確保済み、なおかつ万全の体調じゃないとどうにもならない。
早い話、望み得る限り最高の状況下でやることが条件。
最低限整えなければならない条件が「最高の状況」ってだけで、あの二人の力量差が如実に表れている。
今回は一つも満たされていなかったのだから、ある意味当然の結果かな。

それに、たぶんアレはまともな人間じゃない。
いくらなんでも、あんなチビがあれほどの戦闘能力を持っているのは不自然だ。
見た目からして、たぶん六・七歳くらい。
私たちみたいな特殊例でもない限り、子どもなのに一流の戦闘技術を持っている、なんてことは普通あり得ない。
いくら魔法でも、技術や経験はどうしても年齢に左右される。
特殊な環境で生きてきた可能性もあるけど、それにしたって妙だ。
はぁ、ま~た厄介そうなのに関わるわけかぁ。勘弁してほしいわ。

それに、あのちっこいのが使っていたのには覚えがある。
アレってたしか、以前士郎が言っていた「カートリッジ・システム」とかいうのだっけ。
話を聞く分には私の宝石みたいなものを想像していたけど、こっちよりずっと汎用性は高そうよね。

得られた情報から敵戦力の考察をするが、いい加減次の行動に移る頃合いかな。
「ふぅ、そろそろ加勢しないと不味そうね。
 なんか知らないけど相当頭に血が上ってるみたいだし、下手するとなのはがミンチにされちゃうわ」
あのキレっぷりだと、本当に何をするか分かったもんじゃない。
何がそんなに頭に来たのか知らないけど、かなりの激情家のようだ。

ああいった手合いは上手くすれば御し易いけど、下手な挑発は命取りなのよねぇ。
結果として、なのはの攻撃はあのチビの逆鱗に触れる最悪の挑発になったのだろう。
なのはがあのチビを誘導弾で袋にする少し前に到着したけど、吹っ飛んだのは妙なウサギをつけた帽子だったはずだ。
というか、あのデザインはどうなんだろう。あんまり私の趣味じゃないなぁ。
アレがそんなに大事だったのかしら?

いや、そっちの考察は後でもできる。
バリアジャケットも含めて、趣味は人それぞれだろう。
今は、急いでなのはを保護しないと……。

そう結論し、見学していたビルの淵を蹴り飛び降りる。



第22話「雲の騎士」



私はなのはを助けるべく、あの子が叩き込まれた窓の前まで大急ぎで降下した。

そこで目にしたのは、バリアジャケットとレイジングハートを砕かれた満身創痍のなのは。
そして、とどめを刺そうと鉄槌を振り上げているチビッ子の姿。
時間がない、その場で一粒の宝石を投げてチビッ子に仕掛ける。
投げた宝石は、座標を定める上での目印と術の補助をさせるのが目的。
「『Eins(一番) Belasteb Sie(重葬) Zunahmen und wird zerstört(愚者よ、地に眠れ)!!』」
親指に嵌め込んだ指輪が輝き、投げた宝石を中心に複雑な陣があらわれ、地属性の術を起動する。

するとチビッ子は……
ゴシャッ!!
「ぷぎゃっ!?」
突如進路を変え、頭から床に突っ込みキスをする。
盛大な激突音と同時に愉快な悲鳴を上げると、そのまま潰れたカエルの様に地べたにへばりつく。

この術の効果は「重力操作」だ。
あのチビの周囲の空間に干渉し、一定範囲内の重力を引き上げる。
並みの人間なら、立つどころか指一本動かせない重力がかかっているはずだ。
それどころか骨が折れていても不思議じゃないが、魔導師ならその限りではない。
しかし如何に魔導師でも、この重力ではそう簡単には動けないだろう。
それでも相手は近接特化のベルカ式みたいだし、念を入れておいた方がいい。

それにやや遅れ、なのはの周囲に金と緑二つの円形魔法陣が展開される。
そこから現れたのは、懐かしい二つの人影だった。
「ごめん、なのは。遅くなった」
紡がれるのは、柔らかくも優しい少年の声。
斜め後ろから、その手でなのはの肩を優しく支える。
彼は数ヶ月ぶりにこの地に訪れた、なのはの魔法の師「ユーノ・スクライア」。

満身創痍のなのはは、ユーノの方へ顔を向ける。
「……ユーノ、君?」
その顔同様声にも力はなく、どれほど追いつめられたかを物語っている。

そして、もう一つの人影「フェイト・テスタロッサ」はなのはとその前で潰れている奴との間に入り込む。
ちょうどチビッ子を境に、わたしと向かい合う形。
暗がりでも輝きを失わないその金髪は健在で、漆黒の斧を構え油断なく警戒する。
その姿は、まるで雛を守ろうとする親鳥のよう。
ただ、暗いせいでわかり辛いけどちょっと不機嫌そうなのはどういうことかしら。
大切な友達を傷つけられたんだから当然かもしれないけど、小さく「わたしの出番……」なんて声が聞こえる。
表情も若干沈んでいるし、一体何を言ってるのかしら?

そちらに気をとられていると、床にへばりついているチビッ子に変化があることに気付く。
「ぐぅ……な、仲間か」
そう言って床に手を突き、何とか上体を起こす。
ただし倒れた時にぶつけたようで鼻の頭は赤くなっており、眼もちょっと涙目になっている。
そのせいで、若干緊張感に欠ける。こんな時でなかったら、きっと吹き出してたわね。

だが、そんな光景とは裏腹に私は戦慄を覚える。
(…………冗談でしょ。
いくら魔法があるからって、この重力で体を起こすなんて……どこにそんなパワーがあるのよ)
あんな武器を使っている時点でパワー自慢だろうと思っていたが、ここまでとは。
どういう体の構造してるのよ。

呆れてものも言えない私に代わり、フェイトが問いに答える。
「……友達だ」
フェイトは厳かに告げる。
その声音が、フェイトにとってこの言葉が何よりも尊いものであることを如実に示している。

しかしまだ動けるなんて、ちょっと甘くて見てたかも。
さっさとバインドで拘束して、完全に動きを封じた方がいいか。
このレベルが相手となると、いくら士郎でもヤバいかもしれない。
さっさとこっちを片づけて、すぐにでも加勢した方がいいか。

私がバインドの準備をしていると、ユーノがなのはに治療系の魔法をかけている。
立ちあがろうと手をつきながら、赤いチビッ子は問いを重ねる。
「テメェら………管理局、か」
体にとてつもない力が加わっているにもかかわらず、話ができるのは純粋に驚きだ。
さすがに苦しいようで、その言葉はかなり途切れ途切れになっているけど。

その問いに、フェイトが律儀に答える。
「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ。
 民間人への魔法攻撃………軽犯罪では済まない罪だ。
 抵抗しなければ、弁護の機会が君にはある」
ただね、フェイト。その言い方だと、私までその嘱託魔導師ってのに勘違いされそうなんだけど。
私は別に、管理局の人間じゃないんだけどなぁ。

(まあ、せっかくの警告だけどこいつは聞かないでしょうね)
なんて思って、とりわけ強固に編んだバインドを使おうとしたところで、予想もしなかった事態になる。

ピシッ!!

そんな音が聞こえたかと思うと、結界の内側の床にヒビ割れが走る。
暗くてよく見えなかったが、結界の境目から内側は高重力のせいで陥没している。
特に、チビッ子とデバイスが潰れている部分はかかる負荷が大きいらしく、その陥没もより深い。

ヒビ割れは一気に大きくなり、そのまま“床”が抜ける。
「……は? う、うわぁああぁぁぁぁぁぁぁあぁ~~~~」
突然の事態に悲鳴を上げながら、チビッ子がデバイスもろとも奈落の底へ落下していく。
あ、周囲の壁に反射して、木霊みたいに悲鳴が反響してるわ。ドップラー効果のおまけつきで。
そのまま何かを突き破る音が数回、やがて一際凄まじい衝突音が響き、その後はうって変わって静かになる。

あちゃあ、力の加減を間違えたみたいね。
ビルの強度なんて気にしなかったし、加減をする余裕なんてなかったのは事実。
それに、中途半端なことをしたら逃げられたらだろう。
だから、これは事故よね、事・故。

とはいえ、あれを放ったらかしにしておくわけにはいかないか。
「上手いこと逃げられちゃったわね。
 私が追うから、ユーノとフェイトはなのはを頼むわ」
踵を返した私の背に、それはもう冷ややかな複数の視線がつき刺さる。
え~、え~、ど~せ私はうっかりしてますよ~だ。

「でも、凛。それなら、わたしが……」
「止めておきなさい。あれは今のアンタが一対一で手に負える相手じゃないわ。
 敵が一人とは限らない以上、アンタ達はまとまっておいた方がいい」
フェイトの提案は魅力的だけど、連中の数が把握できていない。

そもそも、戦闘に向かないユーノだけだと護衛としては心許ない。
だからもう一人くらい残っていて欲しいところだけど、それができそうなのは一人しかいない。
だけど、フェイトもこれくらいでは引き下がらず、代替案を出してくる。
「護衛はアルフも一緒なら大丈夫でしょ。
 一人でやるなんて言わないから、わたしも手伝わせて」
確かに、アルフならそれなりに安心して任せられる。てか、アイツいたのね。
それに、あれの相手を一人でするのが少し厄介なのは事実だ。
見る限り向こうもそれほど消耗してないみたいだし、二人掛かりならいけるか。

何より、フェイトから放たれる気迫が絶対に退かないと語っている。
友達を傷つけられたのが、よっぽど頭に来ているみたいね。
なにせ、この娘からすれば初めての同性の友達なのだから、無理もないか。
「はあ、わかったわよ。じゃあ、フェイトが前衛で私が後衛。
 私がアンタに合わせるから、普段通りにやりなさい。
ただし、あんまり深追いし過ぎんじゃないわよ。
アンタの役目は、攻撃が軽くなってもいいから『一撃離脱』を繰り返す事。いいわね」
「うん、ありがとう」
即席のコンビだが、これならそれなりに上手くやれるだろう。
フェイトのスピードならアイツを十分翻弄できるだろうし、私が後方から援護すればある程度フォローできる。
で、隙を見つけて魔術かバインドでとっ捕まえてやればいい。

問題があるとすれば、私が攻撃魔法にはほとんど手を付けていない事と、魔術の方は狙いが粗い事。
だけど、フェイトはスピードにモノを言わせたヒット・アンド・アウェイが得意。
なら、一撃入れて離れた時に攻撃すれば巻き込む心配はない。
そっちに専念して、フェイトの攻撃の威力が低くなっても問題はない。
その分は、私がフォローしてやればいい。

役割分担も決まったところで、アイツが外に出たらしく窓の割れる音がする。
重力操作は一定の範囲内でのみ作用する。
そうである以上、範囲外に出てしまえば負荷から解放される。
おそらく落下が止まったところで這い出てきたのだろう。
やっぱり、もう一度捕まえないといけないみたいね。

ああ、そういえば聞いておかないといけないことがあった。
「こっちに来たってことは、士郎の方はどうしたの?」
「士郎のところにはリニスが向かってる。
てっきり凛も向こうだと思ってたんだけど……」
なるほどね。
士郎の方に一人だけなのは、私も一緒だと思ったからか。
連絡がとれなかったのだから仕方がないけど、見事なまでに行き違いになったわけね。


だが、士郎の方にも加勢が行ったのなら一応安心できる。
今は目の前の敵に集中して、早いとこケリをつけてしまおう。
それが、一番士郎の助けになるのだから。

そう結論し、私とフェイトは今度こそ外に向かって飛び立った。



SIDE-士郎

凛がなのはの方へ向かって少し経った。
俺は相変らず例の蒼い犬こと、立派な犬歯を持つ狼と戦っている。
まあ、今は筋骨隆々で白髪の大男の姿になっているわけなのだが。

「おおおおぉぉお!!」
凄まじい気迫と共に繰り出される拳。
それを時に弾き、時にかわしていき決して触れさせない。
ただでさえ並みじゃないパワーがあるのに、その上魔力付与までされて数倍の攻撃力を持っている。
干将・莫耶の効果と外套以外の守りを持たない今の俺では、あんなモノをまともに受けたらただでは済まない。
数年かけてちゃんと鍛えれば話は別だろうが、この状況でそんな仮定に意味はない。

しかし、いつまでも受け身になっていては埒が明かないな。
凛に大見得を切った手前、情けない姿をさらすわけにはいかない。
怒涛の攻めの間隙を縫う形で、こちらからも急所目掛けて剣を振るう。
「ふっ!」
攻撃を裁いたことでできた逆胴の隙目掛け、干将を走らせる。
手甲でいなされるが、さらに莫耶を振り下ろす。

それを深く踏み込むことで、剣を振るう腕の軌道に自身の腕で滑り込ませ阻まれる。
干将を薙ぐことで振り払おうとするが、それも丸太の様な腕で止められる。
互いに押し切ろうと腕に力を込めるが、徐々にこちらが押されていく。
蹴りを放って仕切り直しをはかりたいところだが、それは百も承知のようで鋭い眼光で牽制される。
苦し紛れの蹴りでは、逆にこちらの体勢を崩すことになりかねない。

だが、このまま純粋な力比べを続けるのは分が悪い。
左腕に限れば力負けはしないが、それでも体重差があり過ぎる。
押し合いになれば勝ち目はなく、容易く体勢を崩される。
しかし、迂闊に退けば追撃されて不利になりかねない。
さて……どうしたものか。

そこで、奴の隆々とした腕の筋肉がさらに盛り上がる。
「ヌンッ!」
声と共に奴の後ろ足が地面を強く蹴り、その力を余すことなく腕に伝え俺を弾き飛ばす。

俺が着地する前に、奴の足元にベルカ式の魔法陣が展開される。
「テオラァァアァァー!」
雄叫びに呼応し、地面から数本の棘が突出してくる。
フェイトの様に電撃の類が付与されているわけではないので、直撃さえ受けなければ特に問題はない。
何度か掠めたりもしたが、これ自体に特殊な効果はないのだろう。

特殊効果があれば厄介だが、そんなモノは無いとわかっていれば怖くない。
手にした干将・莫耶で、突き出された棘を斬り倒していく。
しかし、着地したところで真横にある棘の影から殺気を感じる。

死角からの出現に反応が遅れる。
だが、体勢を低くしたアッパー気味の拳が繰り出されるのを眼の端で捕らえた。
即座にそちらを向きつつ、威力を殺すために僅かに飛びあがりながら刃を立てた干将を振る。
このまま左拳を潰す!

だが、敵も然る者。寸でのところで軌道が変わり、手甲と干将が擦れ合い文字通り火花を散らす。
それでもなお拳の勢いは衰えない。咄嗟に腕を盾にしてそれを防ぐが、骨に響く。
かなりの膂力で放たれたその威力は並ではなく、軽い子どもの体が宙に浮かせるのは容易い。

空を飛べない者にとって、空中は最悪の環境だ。
地に足がつくまで、できる行動が極端に制限される。
骨どころか内臓にまで響く衝撃に顔を顰めながら、状況を確認するべく吐き気を抑えて前を向く。

すると案の定、向こうもそのチャンスを見逃さずにたたみかけるべく、さらに踏み込んでくる。
同時に、先に放たれた拳でこちらの盾代わりにした腕を掴んで抉じ開ける。
そのまま腰を落とし、逆の拳を弓のように引き絞るのを見て血の気が引く。
死に体となった俺を睨み据え、地を踏み砕かんばかりの踏み込みが轟音を響かせる。

そうして顕わになった鳩尾目掛け、思い切り体重と踏み込みの反動を載せた正拳が繰り出される。
干将を持った腕は抑えられていて動かせない。
ならばと、莫耶を右腕に向けて横殴りに振り抜く。
しかし、右腕のスピードとこちらの体勢のせいで刃が切り裂く前に弾かれる。

だが、それは予想通りであり、こちらのねらい。
弾かれた反動を使い、空中で無理矢理身体を捻って狙いを外す。
その結果、脇腹を掠めるようにして必殺の剛腕は空を切る。

何とか回避したが、あまりの威力の為、服は引き裂かれ脇腹からは血が滲む。
それどころか、掠めただけにもかかわらず、内臓を持って逝かれた様な錯覚さえした。
こっちの鍛え方が足りないのもあるが、それを抜きにしたって恐ろしく重い拳だ。

アルフと同じ使い魔のようだが、有する経験・技量、全てにおいて上回っている。
時折出現する棘で死角を増やし、こちらがそれに対応している間に近づいてきて接近戦を仕掛けてくる。
だが、俺を倒すことに固執しないから厄介だ。
仕留め切れなければ躊躇せずに一端空中に移動し、そのまま結界に穴を開けようとする。

あくまでも目的は俺ではなく、凛かあるいはなのはなのだろう。
これは俺との戦闘はこいつにとってメリットがないからか、あるいはメリットが低いということを意味する。
さっきから幾度となく、この檻からの脱出を試みていることからも明らかだ。

地に足をつけ体勢を立て直している間に、改めて突破しようと空に向けて突っ込んでいく。
「させんよ!」
莫耶を大男に向けて大きく弧を描くように投げ放つ。
男が結界に到達する前に、莫耶が回転しながらその進路を塞ぐ。

それだけなら、僅かに今の場所にとどまって莫耶をやり過ごせばいい。
だが、干将・莫耶は互いに引き合う性質をもつ。
干将と引き合わせると、莫耶は突如進路を変え男に向かって飛来する。

物理的にありえない動きに対する、一瞬の驚愕。
だがすぐさま乱れた心を立て直し、真正面から飛来する剣を難なく回避する。
その隙に、出力を絞って小型化させた魔法陣を足元に展開し足場の代わりにする。
足とほぼ同じ大きさの階段を駆け上がり、男に接敵する。

強度に自信がないので、踏んだ瞬間に壊れないか冷や汗ものだ。
それにしても、魔法陣こそ出ているが一切魔法を使っていないのだから、我ながら情けないモノがある。
だが、リンカーコアが貧弱な俺としては、そう魔法を乱発するわけにはいかない。
要所で魔法陣を展開して足場の代わりにしているが、それ以外の魔法は極力使用しない方針だ。
そうでないと、あっという間に魔力切れになってぶっ倒れてしまうからなぁ。
これだって、回数はそう多くとれないのだ。

頭の片隅でそんなことを考えつつ、男が回避した莫耶を回収し思いきり跳躍する。
「はっ!」
飛び上がった場所は、ちょうど男の頭上。
体の捻転を使い、回し蹴りの要領で渾身の蹴りを放つ。

男はそれを、頑丈そうな手甲で防御する。
「ぐぉ!?」
しかし、魔力で脚力を水増しされた蹴りを受け切ることはできなかった。
踏みとどまろうとするも、剣を回避したことで体勢が崩れており、地に向けて弾き飛ばされる。

支えを失った俺は自由落下するが、落下しながらも干将・莫耶を投擲する。
左右から挟撃する形で迫る双剣を、半歩分下がることでかわす。
双剣は、目標を見失ったように彼方へと消えていく。
その隙を狙い、さらに追い打ちかける。
「『停止解凍(フリーズアウト)、全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)!!』」
男の真上に、回路に待機させていた七本の剣を投影し射出する。
さすがにこれだけではいつまでも抑えきれないが、次の行動に出るまでの時間稼ぎには十分。

投影したのは宝具ではなく新鍛の魔剣、防御魔法を貫くことはできずに防がれる。
だが、その衝撃まで殺しきれず地面に向かって再び吹き飛ばす。
そのまま地面に突っ込むほど鈍重ではないようで、男は空中で反転し片膝をつきながらも着地する。

俺自身は着地すると同時に接近戦に持ち込むべく地を蹴り、一気に距離を詰める。
同時に、干将・莫耶を再度投影して男へ袈裟掛けに斬りつける。

空に上がる前に斬りかかったことで、再び同じ土俵に引きずり込むことに成功した。
数度目の地上での接近戦へと移行し、つかず離れずの間合いを維持しながら剣を振るう。
完全に密着してしまえば素手である男の方が有利だが、離れ過ぎればまた飛ばれる。
ギリギリの中間地点を見極め、そこで剣を振るう。

作った隙を突く拳を弾き、こちらも剣を振るうが半歩下がってかわされる。
かわした勢いをそのままに回し蹴りが来るのを、僅かに屈んでやり過ごす。
蹴った足が地に着く前に反撃に出ようとするが、倒れ込む様にして頭上から肘が来る。
出鼻を挫かれたことで、前傾姿勢になりながらも腕を交差させて防ぐ。
この体勢では蹴りが届かない以上、できることは上から体重をかけるデカブツを押し退けるだけ。

そう判断し、震脚の反動も使って押し退ける。
ズンッ!!
そんな音を響かせながら、足元に生じた力と膝から腕にかけての筋力を総動員して奴を押し返す。

その勢いで奴の姿勢が僅かに仰け反り、そこを狙って胴を薙ごうと接近する。
しかし、その直前で唸りを上げる膝が顎に迫っているのに気付く。
それを半身になってやり過ごし、そのまま莫耶で薙ぐ。
剣を振るう腕を捕られ、勢いよく肘が降ろされる。
当たれば、確実に腕を折られるだろう。

そう、当たればの話だが……。
「ふむ。まさか、この程度で捕ったと思っているのかね?」
それに対し、柔術の体捌きに似た動きで重心の真下に入り込む。
そのまま、捕られた腕を上方へ突き上げることで奴の体が浮く。
体が浮いたことでバランスが崩れ、振り下ろされた肘は空を切る。

その隙を逃さず足を払い、完全に奴の体を地から離す。
追い打ちをかけるように干将で斬ろうとするが、スピードが乗り切る前に腕を掴まれ止まる。
しかし、それだけでは終わらない。
宙で死に体となった奴の体を捕られたままの両腕で操作し、天地をひっくり返す。
「ぬぉ!?」
このまま腕を捕り続けるのは危険と判断したのか、奴は即座に手を離そうとする。

だが、すでに遅い。
「そら! 捕られたのは貴様の方だ!!」
その言葉と共に、アスファルトの地面目掛け渾身の力で頭から叩き落とす。


この技の原型は、昔ルヴィアに習ったパイルドライバー。
それを発展・応用し、さらにいくつか御神流の技術を組み込んだ。
重心の下への入り込み方や技をかける直前の体勢を操作などがそれに当たる。
御神流は小太刀二刀以外にも、体術や投射術・縛糸まで使う幅の広い、また殺人術の面を色濃く残す流派。
いい加減恭也さんから逃げるのも限界だったし、腹を括って学べることは学ぶことにしたのだ。
その結果、技後の隙がなくなり、なおかつ殺傷性や応用性も上がっている。

それが、夏に忍さんの奸計で恭也さんと勝負をする羽目になったころのこと。
あの後恭也さんに提案し、士郎さん協力の下一連の流れを組み上げた。
それを初めに恭也さんが三日で会得し、次に俺が教えを受ける形で習得までに一月かかった。
まあ、俺は覚えが悪いので、文字通り体の芯に叩き込まれたのだが。

ただ、問題なのはその内容。
凛もルヴィアも十分加減を知らなかったけど、あの人たちはその上を行く。
なんでなのはが御神流を習えなかったのか、その理由がよーーーく理解できた。

なにせこれ一つ覚えるのに、失敗する度に復習という名目で技をかけられたのだ。
そのため、打ち身になること数知れず。捻挫や脳震盪を起こすこと数百回。受身を取り損ねた挙句、床板をぶち抜いて陸版犬神家になること数十回。
習い始めたその日から、モグラになる悪夢にうなされて飛び起きる毎日だった。

人の数倍頑丈で回復の早い俺でなかったら、間違いなく三日で死んでたぞ。
アレは相手が俺だったからなのか、それとも誰に対してもそうなのかは聞きたくない。
しかし、こうして役に立ったのだから、手を出して正解だったということか。


そんなことを再確認していると、手応えが妙なことに気付く。
アスファルトへ向けて、勢いを付けての脳天からの落下だ。
途中で手を離された分若干威力は落ちたが、それでもなお常人なら容易く死ねる一撃。
だが、これくらいやらないとダメージさえ期待できない相手なのだから、加減など一切していない。
戦闘不能とまではいかなくても、それなりにダメージになっていてほしいところだが……。

しかし、結果は期待していたモノとは全く違うモノだった。
受身を取られ、決定打どころかたいしたダメージにもなっていない。
よくもまあ、あの体勢から受身をとれるものだ。まるで曲芸じゃないか。
その見事さに思わず感心してしまいそうになるが、こちらとしてはたまったモノじゃない。

だが、それでもまだこの体勢は俺が有利。
トドメとばかりに双剣を交差させるように斬りかかる。
だが奴はそれを避けるのではなく、剣が届く前に骨を叩き折らんばかりの足払いを放つ。
バックステップでかわすと、蹴りの勢いを利用して向こうも起き上がる。

少し下がったが、ここはまだ間合いの内。
「おおぉ!!」
丸太の様な腕が突きだされ、それを干将で弾く。
奴としては、どうにかしてもう一度空に出たいはずだ。
だが、こちらとしてはそれをさせたくない。
この間合いを崩されないよう、あえて前へと踏み込み威力が乗る前に捌き続ける。

意図的に作った隙に放たれた拳を弾くと見せかけて、半身になることでかわす。
それにより僅かに体勢が前のめりに崩れ、立て直そうと足を出す。
「ヌルイ!」
その隙を突き、干将を手甲の継ぎ目に当て進行方向に向けて押す。
同時に、バランスを保つために出した足を蹴り払う。
自分以外の力が加わったことで、大きくバランスが崩れ男はつんのめる。

体勢を整える前に、目の前にある剛腕に向けて莫耶を振り下ろす。
斬り落とさないように僅かに浅くし、ただし深手を与えて腕を封じようとする。
それに対し、男はベルカ式特有の三角形のシールドを展開して防ぐ。
張られた楯はかなりの強度を有し、半ばまで切り裂いたところから剣が重くなる。

ギシッ

「はっ!!」
チャンスを逃すまいと、渾身の力を込めてシールドを断ち切る。
だが、完全に真っ二つにするころには男はその場からの離脱を終えていた。
おかげで、振り下ろした莫耶は虚しく空を切り、地を斬りつける。

格が低い方とはいえ、仮にも宝具である莫耶を防ぐなんて、どういう強度をしてるんだ。
完全に不意を打ったはずなのに、それでもなおこの強度。
こっちがパワー不足なこともあるが、生半可じゃない硬さだ。
防御魔法に限れば、なのははどころかユーノよりも上かもしれない。
万全の態勢で作ったものだったら、一体どれほどの硬さになるんだ……。

もし完全に守りに徹されたら、相当格の高い宝具でないとあの守りを破るのは難しいかもしれない。
そうなると、殺さずに済ませるのはかなり困難になる。
出来れば背後関係なんかも聞き出したいところだし、生け捕りにして情報が欲しい。
仲間の数、行動の目的、襲撃が今回限りとは限りない以上、そういった情報は欠かせない。
おかげで、思い切った攻撃ができない。

対策を講じていると、今度は男の方から仕掛けてくる。
(全く、考え事くらいさせろってんだ!)
受け身になるわけにもいかず、こちらも応じる形で前に出る。

ビキィィッ!

だが、それは誘いだった。
俺が飛び出したところで、異音が響き男は急ブレーキをかける。
「っ!!」
踏み出した足の真下の地面が割れ、そこから先ほどの棘が突き出す。
嵌められた! これでは、回避するだけで精一杯。
とてもじゃないが、この体勢では他に向ける余裕はない。
仮に何とか回避しても、まだあの男がいる。
体勢が崩れた隙を突き確実に仕留めに来るか、あるいは離脱を試みるだろう。

それに対し、咄嗟に干将を放り投げ内なる幻想を炸裂させる。
「ちっ、『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!』」
可能な限り小さくした爆風によって体を吹き飛ばし、棘から逃れる。
目の前で剣が爆発すれば、如何に屈強な戦士でも驚きが生じるだろう。
その驚きが、こちらの体勢を立て直す隙になる。

爆発の余波でゴロゴロと地を転がるが、大急ぎで軋む体に鞭打って起き上がる。
本来なら干将・莫耶を装備している者には対物理・対魔術の効果がある。
だから、この程度の爆発ならそれほど問題はない。
だが、いま俺の手にあるのは莫耶だけ。
これではその恩恵は得られない。
干将・莫耶は、両方揃って初めて意味を成す宝具だからだ。

だが、あの程度の爆発でせっかくの好機を見逃してくれるほど敵も甘くなかった。
一瞬驚いたようだが、すぐさまトドメを刺し来る。
「はあぁぁあぁ!!」
真上から響く裂帛の気合が、爆発の衝撃に軋む体を打つ。
この好機に、奴は離脱ではなくトドメを選択した。
離脱しようとして追われるくらいなら、ここで潰した方が確実と判断したのだろう。

不十分な体勢では、体重とスピードの乗った踵落としを捌き切れないと判断する。
その上、踵の真下にはシールドが張られ、斬撃への対策もされている。
このままシールドごと蹴り潰す気か。

右手の莫耶を強く握り、さらに左手で支えながら受ける。
「ぐぅ……!」
尋常ではない威力を持った蹴りを受け、かかる圧力に呻きながらも何とか耐えきる。
結果、アスファルトにはヒビが入り、僅かに足型のへこみができていた。

男は一端着地し、地を蹴って拳を構える。
直前で強く地面を踏み、その爆音と共に全体重と反動を拳に乗せる。
「つぁっ!」
莫耶が間に合わない。追撃をかけてきた重い拳を、腕を交差して防ぐ。
渾身の力が込められた突きに押され、数メートル後退する。

それ以上の追撃はない。攻め手を変えるのか、それとも……。
コンディションをチェックしながら、間合いが開き過ぎないように距離を詰める。
幸いにも深刻なダメージはない。
あとは、痛みを無視すればとりあえずは問題なく動かせる。

場の停滞を利用し、乱れた息を整えながら横眼で周囲の状況を確認してみる。
良く見ると、道路や隣家の塀などが戦闘の余波で半壊しているのがわかる。
ところどころ屋根や壁に穴が開いているのは、たぶん俺のせいだろうな。
これ、結界が解けた後で元にもどったりするんだろうか。
弁償なんてしたら、確実に我が家の家計が破綻してしまうぞ。

緊張感が緩まることはないが、お互いに警戒しながら出方を窺い、間合いを計りあう。
俺の目的が足止めである以上、この一種の膠着状態は狙い通りではある。
だが、この天秤はいつ向こうに傾くか分からない。
ほんの一瞬の油断でも奴は見逃さず、その僅かな時間で脱出を果たせる。

だが、逆にこちらに天秤が傾く可能性はかなり低い。
向こうは決して深追いしてこないし、無理に倒そうともしてこない。
チャンスがあれば先程の様な攻めもするが、それでもその戦い方は堅実だ。
おかげで、なかなか奴は安全ラインから先に踏み込まない。
天秤を引き寄せるには、強力な攻撃か魔法の使用が必要なのだ。

リスクを秤にかけ、選択するに足るリスクか思案する。
答えは………
「やはり、仕留めるか」
呟くようにして、意を決する。
つい先ほど、あまりのんびりしていられない事情ができたのだ。

さっき凛から送られてきた念話だと、なのはは相当な劣勢。
いや、たった今良いのを入れられて負けそうらしい
この男と戦っていれば納得だが、あまり消耗や負傷は期待できないようだ。

となると、凛はほとんど一人でそいつの相手をしなければならなくなる。
それも、「なのはを守りながら」だ。
なのはの成長のために様子を見ることにしたが、それが逆に仇になったか。
厄介そうなら転送すると言っていたが、それをする暇もなければ意味がない。

なら、結論は一つ。
早急にこの男をどうにかして、凛のもとへ向かわないと。
「すまんな、こちらも事情が変わってね。すぐにでも退場してもらう。
 あまり加減ができんのでな、全力で防御しろ。運が良ければ、重傷程度で済む」
莫耶を破棄し、奴の守りを破る武装を検索する。

イメージするのは、特に鮮烈な印象を与えられた剣の師、彼女の武装の一つ。
ただし、今回使うのは湖の精霊から授けられた神造兵装ではなく、彼女の手から永遠に失われたはずの剣。
アーサー王伝説の始まりとも言うべき「勝利すべき黄金の剣(カリバーン)」。
権力の象徴としての意味があり、武器としての精度はエクスカリバーには及ばないがそれ故に負担も少ない。

それに、あれほどの威力がないからこそ加減すれば目の前の敵を殺さずに倒せるはずだ。
それも奴の防御力次第ではあるが、あの堅さなら上手くいくだろう。
妙な話だが、お前のその堅牢さを信じさせてもらう。

回路への装填を終え、イメージを現実に投影させるべく呪文を唱える。
「……『投影、開始(トレース・オン)』」
僅かな発光と共に幻想は形を得て、俺の手に一振りの剣が顕現する。
比較的頻繁に使う部類に入る宝具だけに、干将・莫耶ほどではないが完成までにさほど時間はかからない。
手に伝わる重さが、こいつの投影にだいぶ慣れてきたことを実感させる。

華美な装飾が施された黄金の剣は、煌びやかさと同時に溢れんばかりの魔力を纏っている。
それを見た男は、俺が新たに手にした剣が見かけ倒しでないことを看破したのか、警戒の色を強める。
同時に、こちらがこの一撃で勝負を決するつもりであることを悟る。
腰を低くし、全身の力を溜め込んでいくのがわかる。
奴も、これに真っ向から受けて立つ覚悟のようだ。

互いに隙を探りながら、仕掛けるタイミングを計る。
数秒の睨み合いの後、砕かれた壁の一部が落下する音をきっかけに先手必勝と俺の方から打って出る。
それとほぼ同時に、奴も力強く大地を蹴り渾身の一撃をたたき込むべく疾駆する。

走りながら剣を上段に構え、奴を倒すのに必要な魔力を込めていく。
射程距離が目前に迫り、地を踏み砕かんばかりの勢いと共に最後の一歩を踏みこもうとする。

パキィィィィン!!!

だがその寸前、天からガラスが割れるような澄んだ音が鳴り響く。
同時に目の前を紅蓮の炎が通過して行き、機先を制され反射的に飛び退く。
「なんだ!?」
炎の出所を探そうと空を仰ぐと、砕かれた結界がガラスの破片のようになって降り注いでいた。
舞い散る破片は月の光を反射し、幻想的な光景を作り上げる。
落下する破片も、数秒と立たずに地に触れることなく消えていく。

そして、露わになった夜空にそいつはいた。
威風堂々と言う言葉が似合う、ピンクの髪をポニーテイルにした一人の剣士。
その体から溢れる闘気は炎を連想させ、同時に不倒を思わせる。

何よりも俺の目を引いたのは、その瞳。
その眼は、俺のよく知る人物のそれと、とても…とてもよく似ていた。
瞳の奥に強い意志と覚悟を宿し、それ以上に高潔な精神を写している。
かつて共に戦った、剣の師と同種の眼。
ただし、身内贔屓かもしれないが質の上では及ばないとも思う。

だが、剣士の姿を見たとき、確かに俺は幻視した。
始まりの夜、俺を紅い閃光から救ったあの時の光景を。
地獄に落ちたとしても忘れないと思ったあの時の光景を、かつてないほど鮮明に思い出したのだ。

その剣士は、凛としたよく通る声で男に語りかける。
「どうした? ザフィーラ。
 お前が手古摺るなど、珍しいこともあったモノだ」
「すまん。この男、見た目こそ幼いがかなりの手練でな」
やり取りからすると、剣士はこの男をかなり高く評価しているらしい。
そういえば、それまでは気合などばかりで、ちゃんと男が言葉を発するのを聞いたのは初めてだな。

とはいえ、アレだけの力と判断力を持っているのなら、この剣士の評価も当然か。
目の前のことに固執しない冷静さ、チャンスを見極める勘の良さは、俺自身厄介だと感じていたことだ。
その上、あの防御力だ。味方だったら、さぞ頼りになることだろう。
だが、風貌からあの剣士がマスターかと思ったが、どこか違う印象を受ける。

ザフィーラと呼ばれた男の言葉を聞いた剣士は、興味深そうに俺を見る。
「ほう、お前にそこまで言わせるか。
 こんな時でなければ、是非とも剣を交えてみたかったが、残念だ」
その言葉には、本心から俺との戦いを惜しんでいる響きが感じ取れた。
初対面だが、ああいうタイプはよほどのことがなければ嘘はつかない。俺の剣の師がいい例だ。
それだけ評価してもらったことを喜ぶべきか、それとも初めは低く見られたことを怒るべきか。

「ヴィータの援護に向かうぞ。
詳しい状況はわからんが、並外れた魔力を保持した者が一人、それには劣るがそれなりの者が一人いる。
 糧とすれば、かなり埋められるはずだ」
どうやら、狙いはより多くの魔力を保持している者らしい。
なんでそんな人間を狙うか分からないが、剣士の言う二人が誰を指すかは明白だ。
確かに、そっちに比べれば俺にかまっていても仕方がないだろう。
後半部分は不可解なところばかりだが、あまりいい話題ではなさそうだ。

もちろん、檻が壊れたからと言って、何もしないわけにはいかないし、そのつもりもない。
「行かせると、思っているのかね?」
剣を構えなおし、威嚇するよう二人に殺気をぶつける。
この程度で怯んでくれれば楽なのだが、その様子もない。
やはり、これまた難敵のようだ。
だが、迂闊に背を見せられない相手くらいには認識してくれたようで、その眼に油断はない。
このまま足止めしたいところだが、そう上手くいくか……。

そこで、ザフィーラと呼ばれた男が先ほどの俺の言葉に応える。
「これまでの戦いで貴様の力はある程度わかった。
 まだ底を見せてはいないようだが、我ら二人を同時に相手にするのは分が悪かろう。
貴様とて、それはわかっているはずだ」
その通り。
正直、一対一ならともかく、二人同時に相手をするのはかなり不利だ。
出来ないこともないが、その場合俺が負けるか、二人の死で俺の勝利となるかの二択。

なにより……
「貴様には空戦ができん。少なくとも、そのような素振りはなかった。
ならば、檻がなくなった今、我らを捕らえておく術があるか?」
そう、さっきまでは結界があったから何とか引き留めておけた。
アレを壊そうとする一瞬の間があったからこそ、空戦のできない俺でも足止めができていた。

だが、それがなくなった今、二人の行く手を遮るモノはない。
俺が止めようとしても、確実に一人は離脱できる。
連携などされたら、それこそ二人とも逃げるのは難しくない。

しかし、それでも妨害や手傷を負わせるくらいはできる。
奥の手も含めれば、苦しくはあるが足止めは十分可能。
「だからと言って、やすやすと行かせるわけにはいかんのだよ。
 私は、パートナーにこの場を任されているのでね」
アレだけの大言を吐いたのだ。
凛の期待や信頼を裏切るようなマネだけはできない。
俺たちにとって、互いへの信頼こそが何にも代え難い大切な宝なのだから。
それに泥を塗るようなマネ、できるはずがない。

そんな俺を見て、剣士の眼に好意的な光が生まれる。
「良い眼をしている。
仲間の信頼に全身全霊で応え、勝ち目が薄いとわかってもなお使命を全うしようとする、その気概は見事。
 若き騎士よ、名は」
「お褒めに預かり光栄だ。しかし、生憎と騎士などという柄ではないのだがね」
剣士からの惜しみない讃辞に皮肉気な笑みで応じ、その言葉を否定する。
確かに「アーチャー」は三騎士のクラスではある。
一応「エミヤ」はそれに該当するので、俺も騎士と言えなくはないかもしれない。

だが、俺が前の世界でやってきた所業を思えば柄ではないにもほどがある。
暗殺やテロ紛いのことを散々やってきたのだから、どちらかというと対極の部類だろう。
かつて出会った騎士たちは、タイプは様々だが俺などとは比べ物にならない位に気高く高潔だった。
彼らと同じ「騎士」という呼び方をされるような資格があるとは、到底思えない。
ただ、もしセイバーがこれを聞けば喜んでくれただろうか……。

そんなこちらの心情など気にせず、僅かに笑みを浮かべながら剣士は俺の言葉を否定する。
「謙遜することはない。私がお前に騎士の誇りを見たというだけだ。
 それに、騎士は柄でやるモノではない。
 騎士とは外見ではなく内面、心の在り方を指すのだからな」
俺の場合、その在り方こそ騎士らしくないってのに……。
はあ、こいつも自分でこうと決めたらテコでも動かない類の人間か。
これ以上俺が何を言っても、絶対に前言を撤回しないな。
それこそ、俺がこいつの評価を覆すほどの「何か」をしない限り、この評価が改めることはないだろう。

まあ、ここまで評価してもらって悪い気がしないのは確かだな。
「衛宮、衛宮士郎という。
 本来先に名乗るのが礼儀だろうが、今からでも名乗ってもらえないかね。
 それとも、私はそれに値しないのかな?」
名は隠すべきなのかもしれないが、あいつを思い出させるこの剣士に嘘をつきたくなかった。
それにこの世界で名前を使って呪詛をかける術者なんていないし、それほど警戒しなくてもいいだろう。
顔を見られている以上、調べればわかることだ。

そんな俺の指摘に、律儀に頭を下げる。
「衛宮か。そうだな、無礼を許してもらいたい。
 私はベルカの騎士、ヴォルケンリッターの将シグナム。そして我が剣、レヴァンティン」
やはり見た目から受けた印象通り、清廉潔白を旨とする騎士のようだ。
俺自身はどうやってもこういうタイプにはなれないが、その分こういう奴は好きだな。

しかし「レヴァンティン」、もしかして北欧神話の「レーヴァテイン」のことか?
解析するまでもなく思いっきりデバイスだし、その故事に倣ったんだろう。
だけど、次元世界に北欧神話って流れてるのか?
向こうからすれば、辺境の魔法文化さえない世界の一地方の神話でしかないんだぞ。

いや、次元世界の神話に出てくる剣の名前とか出されてもサッパリだけどさ。
そういう意味では親切なのか? 何の意味もないけど。
だが、なんでまたそんなマイナーな名前を……。
俺たちにとってはメジャーな名前だが、次元世界から見ればマイナーどころの話じゃないはずなんだがなぁ。

閑話休題。
思い切り思考が逸れてしまった。
邪魔が入ったのもあるが、呆れている場合じゃないし気を引き締め直す。

そういえば、こいつ「ベルカの騎士」とか名乗っていたな。
ということは、こいつもベルカ式の使い手か。しかも、見る限り俺などとは違って正統派の。
「では、この場はこれで退かせてもらおう。
 再びまみえることがあれば、その時こそ手合わせ願いたいモノだ」
「行かせない、と言ったはずだがね。
 それに、目前の敵に対して背を向けるなど、騎士にあるまじき行為だと思うのだが?」
弓を投影し、使い所を外してしまった剣を番えて牽制する。
距離がある上、相手は空。普通に構えるよりかは牽制になるだろう。
矢として加工はしていないが、それでも射るくらいはできる。

俺の挑発に対し、シグナムは僅かに苦笑を浮かべる。
「………ふっ、耳が痛いな。だが、挑発には乗れん。
たとえ恥だとしても、それでも行かねばならんのだ!
 レヴァンティン!!」
《Explosion》
シグナムの持つ剣が弾丸を装填し、その魔力を爆発的に引き上げる。

そして、俺はその弾丸の正体を知っている。
「それは、カートリッジか!?」
やはり、カートリッジ・システムを積んでいたか。
だとすると不味い。この攻撃は、生半可な威力ではないはずだ。
カートリッジは、たとえ一発でも相当な力を与えると聞いている。
実際に試した経験はないが、下手な対応をすれば命取りになる。

レヴァンティンと呼ばれた剣が炎を纏い、天高く掲げられ振り下ろされる。
「燃え上がれ!!」
その言葉のとおり、振り下ろされた切っ先から放たれ壁となった豪火が地を飲み込む。
俺もそれに飲まれる形となり、聖骸布を強化しつつカリバーンを射る。
豪火の壁は剣に貫かれ、その穴目掛けて弓と外套を盾代わりにして突っ込む。

開いた穴は小さく、突っ切りながらも炎と熱が服と肌を焼く。
穴が小さいのは仕方がない。
アレにはカラド・ボルグほどの周囲への干渉力はない。
威力が劣るとかいう問題ではなく、武器の性質としてそうなのだ。
同じ銃器でも拳銃とライフルでは、それぞれ異なる適所がある。
遠距離狙撃で拳銃が使いものにならないからと言って、それが欠陥品と言うわけではない。

しかし、この場において不向きだったのは否めないか。
腕で顔をかばいながら突っ切るも、周囲の熱は容赦なくこちらの身を炙る。
少なくとも、カラド・ボルグならもっと楽に突破できただろう。
まあ、今更そんなことを言っても意味がないのだが……。

もっと安全な方法もなくはない。
だが、こうして突っ切れば被害は少ないし、何より逃げられるわけにはいかない。
安全のために大きく避ければ、その分逃げる隙を生むことになる。

けれど、俺のその行動は徒労に終わる。
炎を抜けた時、すでに空に二人の姿はなかった。
放った剣は彼方に消え、手応えがなかったことから当たってはいないだろう。
イメージを見出すことなく苦し紛れに放ったようなものなのだから、これはある意味当然。

あの炎は、俺の眼を眩ませる為の囮でしかなかった。
後ろを振り返れば、そこには塀や樹に焦げひとつない元の静かな(半壊した)町並みだけがあった。
ちゃんと熱量も調整し、無用な被害を出さないようにしたのだろう。
目晦ましだとわかっていたにもかかわらず、見失ってしまった俺の落ち度だ。
口惜しさから歯噛みし、握りしめた拳の中で爪が食い込む。
唇と掌からは一筋の血が流れ出し、顎と拳を伝って地に滴り落ちる。

しかし、悔やんでいても状況が良くなるわけじゃない。
向こうには凛となのはの二人だけ。
引き換え、敵はヴィータというのに加えさらに二人増える。
確固撃破の為の布陣だったが、完全に裏目に出た。
ここでのんびりしている時間はないのだ。
手に持つ弓を消し、少しでも身軽にして急ごうとする。

だが、人生そう悪いことばかりじゃないらしい。
「士郎! 無事ですか!」
目の前に魔法陣があらわれたかと思う、そこから帽子を被った妙齢の美女があらわれる。
真面目そうな顔立ちは整っているが、今そこには焦りの色がある。

そして、その顔には見覚えがある。
何度かフェイトからのビデオメールで、俺たち専用に届けられたビデオに彼女が写っていた。
「リニス!? だが、どうしてここに? 君は今、フェイト達と一緒だったはずではなかったか」
そう、現在凛の使い魔をしているリニスだが、今はまだフェイトに付き合って向こうにいるはずだ。
近々フェイトがこっちに来ることになっていたし、それに合わせて凛のもとに戻る予定だった。

俺の疑問に、リニスは手短に答える。
「フェイトの裁判が終わり、その旨をなのはさんに連絡しようとしたら繋がらなかったので、それで……」
異常があることに気付き、大慌てで駆けつけたってところか。

リニスは周囲の状況を確認にしながら、自分たちの行動について説明する。
「なのはさんの方には、フェイトやアルフの他にユーノ君も行っています。
 この様子だと、凛も向こうにいるんですね」
「ああ」
おそらく、俺達に比べ戦闘能力の低いなのはの方に力を注いだのだろう。
結果として、向こうに戦力を集中できたのは運がよかった。
フェイト達もいるなら、すぐに全滅なんてことにはならないはずだ。

とはいえ、ゆっくりしていられる状況じゃない。
凛ならアイツら一人一人とも対等に戦えるだろうけど、他のみんなじゃ分が悪すぎる。
半年前から成長しているだろうが、いきなり敵のレベルが上がり過ぎだ。
なのはの状態もわからないし、早く行くに越したことはない。
幸い、リニスが来てくれたおかげで俺の機動力の低さがカバーできる。

だが、その前にすべきことがある。
上手くいけば、これで目の前の脅威を退けることだってできるのだから。
「士郎?」
一向に動こうとしない俺に、リニスが眉をしかめる。

それを気にせず、呪文を紡ぐ。
「『投影(トレース)、開始(オン)』」
ゲイ・ボルクを投影し構える。
そのまま一気に魔力を注ぎ、準備を整える。

「一体、何を?」
「フェイト達がいるのなら、クロノ達も近くにいるのだろう?
ならば、先に結界を破壊する。そうすれば、救援も送りやすいはずだ。
それに、結界がなくなれば連中も撤退するかもしれん」
俺の言葉にうなずき、肯定の意を示す。
このあたりの異変に気付いたのなら、管理局も動いているはずだと思ったがやはりか。
なら、この結界がなくなればもっと規模の大きい増援を期待できる。
俺達が直接向こうに向かうより、そっちの方が現実的な手段だろう。

結界破壊の主な手段は三つ。
一つは基点となる箇所を破壊する事だが、どうもここからでは距離があるように感じる。これではあまり現実的とは言えない。
もう一つは特殊効果による結界機能の完全破壊だが、そんなモノは俺の手持ちにはない。なのはの新型SLBならできるが、結界破壊向きの武装なんて持っていない。
ルール・ブレイカーにしても、基点に突き立てなければ意味がない。

となると、最後の一つ。維持できないくらいに結界そのものを破壊する事だ。
これには一撃の威力より、効果範囲こそが重要。そのため、使うなら対軍か対城宝具が望ましい。
事実、さきほど射った「勝利すべき黄金の剣」では、効果範囲が狭すぎて結界を貫通するだけに留まっている。
カラド・ボルグなら少しは効果範囲が広いが、それでも似たようなものだろう。

だからこそのゲイ・ボルク。
伝説に曰く。その槍は、敵に放てば無数の鏃をまき散らしたという。
ただし、今回はいつもと違う使い方をする。
伝承では、本来クー・フーリンはゲイ・ボルクを足で蹴って使用したと言う。
上方向に飛ばすのなら、普通に投げるよりこちらの方が向いている。

魔力を注ぎ終え、残すは真名の解放だけとなった槍の穂先を上に向け、軽く投げる。
軽い助走の後、強化した足を振りかぶり、真名と共に渾身の力で蹴りあげる。
「『突き穿つ(ゲイ)――――死翔の槍(ボルク)』!!!」
とても蹴っただけとは思えない速度で槍は飛翔し、結界に目掛けて夜空を翔る。

槍が結界に到達すると、轟音とともに空に閃光が発生する。
一瞬、昼夜が逆転したかの様な光が辺りを照らすが、それもすぐに治まる。
光と共に結界も消え失せ、残ったのは静寂な夜………のはずだった。
「これは!?」
隣にいるリニスの口から、驚愕の声が漏れる。
当然だ。今まさに消え失せたはずの結界が、1秒と経たずに復活したのだから。
俺だって今目の前で起こった事態には思考が付いていけない。

だが、すぐに事態を理解する。
「ちぃ! やられた。これも想定の上と言うことか」
答えは単純にして明解。壊されたのなら、また作ればいい。
改めて張り直したのか、それとも壊れたら作り直されるように設定していたのかは不明だが、そういうことなのだろう。
連中は、俺が結界を破壊しようとすることさえ織り込み済みだったのだ。

「もう一度、破壊しますか?」
「…………いや、それはできん。あと何度壊せば終わるのか分からない。
 次で終わりかもしれんし、十回必要かもしれん。
 試すには……リスクが高すぎる」
まんまと魔力の無駄遣いをしてしまった自分の不甲斐なさが許せなくて、声が震える。
さっきカリバーンにだいぶ魔力を使っちまったし、真名開放はあと一回が限度だろう。

次で終わればいいが、そうでなければ事実上の戦線離脱になる。
凛からの魔力供給があれば別だが、今まさに戦闘中なのに持っていくのは不味い。
凛も二人分の魔力消費となれば遠からず限界が来てしまう。
そんな危険を冒すわけにはいかない以上、結界破壊は断念せざるを得ない。
魔力供給は、本当にギリギリの時に使う最後の手段だ。
現状、クロノ達が一刻も早くこいつを何とかしてくれることを期待するしかない。

となると、今できることは一つか。
「リニス、頼めるか」
「もちろんです。私はお二人に仕える身。如何なるご命令にも従います」
そんな仰々しく、頭を下げなくてもいいんだがな。
凛はともかく、俺がそんなことをされても分不相応だろうに。

しかし、今はそんな話は後回しだ。
「感謝する。では、凛たちのところまで運んでくれるか」
「はい!」
一切の迷いのない、明瞭かつ簡潔な答えが勝ってくる。

リニスは俺を両手で抱え、早速空に飛び上がる。
こうして誰かに抱えられて運ばれるのも久しぶりだが、珍しい空の散歩を楽しむ余裕はない。
背中や首筋に当たる感触はこの際無視だ! 今はそれどころじゃない。

リニスは、さすがにフェイトの師だけのことはある。
フェイトには及ばないが、フェイトやプレシアに共通する得意分野「早く動くこと」をしっかり受け継いでいる。
その移動スピードは、人一人抱えていながらかなりのモノだ。

いや、ここからさらにペースが上がるとは思ってなかったけど。
「ソニック・ムーブの連続使用で、可能な限り速く向かいます。
 ただ、決して安全ではありませんし、速い分苦しいので気を付けてください」
つまり、事故の危険性が上がり、空気の抵抗やらなんやらで苦しくなるってことか。
後は、乗り物酔いっぽくなりやすいのかもしれない。

だが、それで早く着けるのなら望むところだ。
しかし、一つ気になることがある。
「病み上がりの体でそんなことをして、君は大丈夫なのかね?」
そう、リニスはほんの半年前までロクに歩くこともできなかった。
いくら使い魔がいろいろ融通のきく体とはいえ、それでも相当に苦しいんじゃないだろうか。

「……………確かに大丈夫とは言い切れませんが、今ならそこまで酷いことにはならないと思います。
 ですけど、おそらく着いた時に私にはそれほど力は残っていないでしょう。
 足手纏いになるかもしれませんが、それでも間に合わないよりはずっといいはずです」
たしかに、な。それと比べられては、もう何も言えない。
今の最優先事項は、凛たちのもとへ一刻も早く加勢に行くことなのだから。

それに、どうせリニスは止めても絶対に聞かない。それがわかってしまう。
だいたい、俺がジタバタしたってリニスの負担にしかならないのだ。
なら、大人しく運ばれればリニスはずっと楽になる。

だから俺に出来るのは、ただ信じて委ねることだけだ。
「わかった、頼む」
信じることこそが、今のリニスには何よりも力になるはずだ。
そう自分に言い聞かせて、その時が来るのをじっと待つ。

そう答えると、リニスは俺の方を見ながら心配そうに尋ねる。
「ですが、士郎の方こそ大丈夫なんですか?」
「心配は不要だ。見た目ほどひどくはない」
さっきの戦闘で爆発を受けたり、炎の中を突っ切ったりしたせいで、今の俺の恰好はひどいモノだ。
煤や焦げが目立ち、地を転がったからかなり汚れている。
だが、ダメージそのものはたいしたことはないので問題はない。

探るように俺の眼を見ながら僅かに逡巡するが、意を決して前を向く。
「……わかりました。では、行きます!!」
その声と共に、眼下を流れる街の明かりがさらに速くなる。

どうか間に合ってくれるよう、そしてリニスへの負担が少しでも軽くなるよう、俺はただ祈ることしかできない。
そんな自分にもどかしさを感じつつ、前方を睨む。



Interlude

SIDE-シグナム

辺りを包む結界に異変が起こったが、それもすぐに治まった。
念のための仕込みだったのだが、やっておいて正解だったか。

となりで空をかけるザフィーラが問うてくる。
「今のは、お前の仕業か?」
「ああ、放置すれば結界を破壊しようとするだろうとは思ったが、やはりだったな。
 あらかじめ、結界が破壊された時には次の結界が展開するようにしておいた。
 一回限りだが、十分効果があるだろう」
わざわざ敵を放置するのだ、それくらいのことは予想しておくべきだろう。
あまり得意ではないし、こういったことは参謀の担当なのだが、いないのだから仕方ない。

それに、この程度は将として当然の備えだ。
なにせ、たった一回でも効果がある。
後幾つの予備があるのか分からない以上、いつまでもそれにかまけているわけにはいかない。
そちらに時間を費やせば費やすほど、味方が窮地に陥るのだ。

予想外だったことがあるとすれば、結界を破壊する手段。
あまり魔力量は多くはなさそうだったから蒐集対象から外したが、先ほどの閃光と轟音を考えると短慮だったか。
より魔力の多い者を優先したのだが、まさかあれほどの攻撃力があったとは……。
上手く隠していただけで、実は相当な魔力保有者だったのか。
あるいは、あの黄金の剣のようなロストロギアと思しき武器を使ったのかもしれん。

しかし、あの剣はいったい何だ。
放たれる規格外の魔力に僅かに身が竦んだが、それ以上にその魔力の波動に圧倒された。
不気味なのではない、淀んでいるのでもない。むしろ、清澄で神々しささえ感じたほど。
ロストロギアの類だとは思うのだが、どうも腑に落ちない。
あれは、そんな言葉で評して穢していいようなモノではないように思えてならないのだ。

私がそんな考えに囚われていると、ザフィーラが呟く。
「……やはり、追ってくるのだろうな」
「あれが仲間を見捨てるように見えたのか?」
「ないな」
実際に戦ったザフィーラは私の言葉に即答する。
そう、あの少年が仲間を見捨てるはずがない。その程度のことは眼を見ればわかる。

ならば、すぐにでも再会することになるだろう。
場合によっては、今度こそ剣を交えることになるか。
それどころではないとわかっているが、それを考えると心が躍るのは私の悪い癖だ。

だが、できるなら奴と剣を交える前にすべきことを済ませたい。
そうすれば、余計なことを考えずに戦える。
アレだけの攻撃力を持つ以上、その魔力も相応かもしれない。
もしくは何らかのレアスキルかもしれないが、魔力はあるのだから蒐集しておいて損はないはずだ。

なにより、騎士としての自分が全力での戦いを望んでいる。
(早く来い。ザフィーラさえも唸らせたその力、私に見せてくれ)
ここ最近は手ごたえのない相手ばかりだったが、久方ぶりの好敵手かもしれない。
その期待に、私は笑みを抑えられずにいた。

Interlude out






あとがき

とりあえず一言。
相変らず戦闘シーンがド下手だぁ!!
全然進歩している気がしないのが鬱です。

気を取り直して、今回凛は見事にフェイトの原作第一話の見せ場を奪って行きました。
クロス作品なんですから、こういうこともありますよね。
あと、なのはに経験を積ませるために放置しましたが、結果的に裏目に出てます。
負けもいい経験になると考えての傍観でしたが、ヴィータが予想外に強かったということですね。
それでもギリギリまで手を出さなかったのは、追い詰められてこそ出てくる何かを期待したんじゃないかなぁ。
結局何も出てきませんでしたけど。

あとは、そんなつもりはなかったのですが、結果としてヴィータが愉快な災難にあってしまいました。
いや、潰れた拍子に鼻をぶつけて、鼻を押さえながら涙目になって睨むヴィータってかわいいと思うんですよね。そこまではしてませんけど。
一般的なビルの強度なんて作者は知りませんから、あれで床が崩落したのは話の都合です。
増幅された重力とともに落下スピードも加わり、その後の床はドンドン突き破っていきました。

最後に、リニスがこの程度で消耗してしまうのは病み上がりのせい……ではなく、凛が一番の原因です。
魔術師としてはともかく、魔導師としてのスペックはそれほど高くありませんからね。
外伝でも書きましたが、二人の契約はリニスが魔法的な使い魔なので一応魔導師の形式に則っています。
リニスは、元がSランクオーバー魔導師であったプレシアの使い魔だっただけに基本性能は高いのですが、凛ではその性能を引き出しきれません。
プレシアのそれと質の違う凛の魔力では完全には合致しませんし、量的にもかなり劣るのでどうしても能力が下がります。契約相手がフェイトなら、ほとんど変化ないと思いますけど。
また、凛の方にも少なからず負担をかけますが、こっちはそれほど重要じゃありません。
凛の場合、リンカーコアの魔力が多少減ってもそんなに困りませんから。
だからこそ、こちらの形式に則しているわけです。

さて、次でいよいよ本格的なバトルになります。
設定としては、二人はヴォルケンレベルが相手だと苦戦ないし不利になるので、それを上手く表現できるといいのですが。
苦手なりに工夫するつもりなので、しばしお待ちください。


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