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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 外伝その6「異端考察」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/29 00:26
SIDE-フェイト

シロウやなのはたちと別れて、二ヶ月が経とうとしている。

たった二ヶ月前のことなのに、もうずいぶん昔のように感じるし、でもつい昨日のことのような感じもする。
それはきっと、わたしの中であの時の出来事がまだ整理できていないから。

そう、いろいろなことがあった。
なのはや凛と敵対して、何度も戦った末に負けて、そして友達になると同時にライバルにもなった。
ライバルって言っても、なのははともかく凛に対しては一方的にわたしがそう思っているだけだけど。

シロウとも初めは敵だった。二度目に会った時からは一応仲間になって、たくさん心配させた。
まあ、結局は騙されていたってことになるんだけど。
でも、それに対して恨みや怒りはない。
それはきっと、偽りの仲間だったあの時にシロウが示してくれた気遣いが本心からのモノで、わたしにもう一度立ち上がる力と前に進む勇気をくれた人だから。

他にも、途中からクロノたちが介入してきて、もういないと思っていたリニスと再会した。
出会いや再会だけでも、こんなにたくさんのことがあった。
これらはきっと、わたしにたくさんのモノを与えてくれて、気付かせてくれた優しい思い出。

でも、そればかりだったらわたしの心はこんなにも混沌としてはいないはずだ。
そう、優しい記憶だけじゃない。
母さんに捨てられて、結局わかりあえないまま死んでしまった、悲しい記憶もある。
自分の中で、どう分類していいかさえ分からない記憶もある。
わたしはこれらの記憶にどう向き合っていいのか、かなりの時間が経ったにも関わらず答えが出ない。

リニスは……
「焦る必要はありませんよ。フェイトには、これから先たくさんの時間があります。
 今までフェイトは生き急いできましたから、一度足を止めてゆっくり考えましょう。
 アルフやクロノ執務官、エイミィさんやリンディ提督も力になってくれますから。もちろん、私も」
久しぶりに、すごく久しぶりに無理に人間形態をとって頭を優しくなでながら、そう……言ってくれた。
ここの人たちはみんないい人だから、リニスの言ったとおり、相談すれば真剣に向き合ってくれるのは間違いない。
それに、今は士郎やなのは、それに凛ともビデオメールのやり取りをしているから、三人に相談してもいいのだろう。あ、それとユーノも。

そう考えれば、わたしはきっとそう不幸な方じゃないんだろうと思える。
だって、少なくともわたしには心配してくれて親身になって相談に乗ってくれる人がたくさんいる。
それはきっと、何よりも得がたくて、これで不幸なんて言ったら罰が当たるくらいに幸せなことなのだろう。

ただ、まだみんなに相談することに踏ん切りがつかない。
心のどこかで、迷惑をかけたくないと思っているわたしがいる。
みんなはそんな風に思わないかもしれないけど、それでも心がそれを忌避している。

だから……だろうか?
最近のわたしは、ベッドに横になりながらシロウに貰った剣のペンダントを眺めていることが多くなった。
このペンダントを見ていると、混沌とした気持ちが穏やかになる。
そんな効果はないはずなのに、ただ見ているだけで心が温かくなるのだ。
あのペンダントには、錯覚かもしれないけどシロウの温もりが宿っている気がするから。


そうして、今日もわたしは一人ベッドに横たわりながら首から下げたペンダントを持ち上げて眺めていた。
シロウがいたら、きっと「女の子がだらしない」と言って注意してくるだろう。
今にもその声が聞こえてきそうで、それを想像すると口元がゆるんでしまう。

シロウは基本的に不愛想だけど、その実凄く面倒見がいい。
いろいろ細かく注意するけど、それは全て相手のことを思ってのことだ。
そこに個人的な不満や意地悪といった感情はない。
そうとわかっていると、あれはあれで気に駆けてもらっていることが伝わってきて嬉しくすらある。

コンッコンッ

そんなことを考えていると、与えられた部屋の扉をノックする音がして、その後耳慣れた声がかけられる。
「フェイト、ちょっといいか?」
声の主は、この艦内でわたしと一番年の近いクロノ。
シロウとちょっと似ているところがあって、いろいろとわたしたちのことを気にかけてくれる優しい人。
なんというか、「お兄ちゃん」という印象が強いかな?

ただ、今のわたしの恰好は人に見せられるようなモノじゃない。
寝ころんでいたことでおへそは丸出しで、スカートもちょっとめくれている。
その上、髪もボサボサだ
大急ぎで服や髪の乱れを整え、姿勢を正して声に応じる。
「クロノ、どうかしたの?」
今はまだ仕事中の時間のはずだけど、一体どうしたのだろう。
クロノもエイミィも、それこそリンディさんも暇さえあれば私の様子を見に来てくれる。

だけど、それは自由時間の話。
公私をきっちり分ける人たちだから、勤務時間中にやってくることはまずない。

でも、わたしには思い当たる節がある。
それはわたしの裁判のこと。
これはれっきとした仕事だから、勤務時間中に訪ねてきても何の不思議もない。
何か、問題でも生じたのだろうか?

わたしはあれだけの次元犯罪に加担していたから、場合によっては重い刑にかけられることも一応覚悟している。
いくらクロノたちが頑張ってくれているとはいえ、そう上手くいくとは限らない。
何かしら問題が発生しても、何の不思議もない。
わたしは、それだけのことをしてしまったのだから……。

わたしの声に若干の緊張が走っていることを察したのか、クロノは優しい声で用件を告げる。
「ああ、聞いていると思うが、明日には本局に向けて出発する。
それで、たった今ユーノもこっちに合流した。
 会おうと思えば会えるけど、どうする?」
そういえばそうだったっけ。
ジュエルシードの影響で荒れていた航路がやっと安定して、ようやくアースラも動けるようになった。
ユーノもそれに同行することになっていたから、動けるようになり次第こっちに移るとは聞いている。
でも、それって今日だったんだ。
てっきりギリギリまでなのはのところにいると思っていたのだけど、まあ何か理由があるのだろう。

とはいえ、クロノの申し出はうれしい。
ユーノとはあまり話したことはないけど、それでも彼と話したい事や謝りたい事がたくさんある。
だけど……
「えっと、いいの?
 だってわたし、今は裁判中なんだし……」
航路こそまだ安定していなかったけど、通信だけならもう問題ないみたいで、裁判の方は少し前に開廷した。
そんなわたしが、あんまり好き勝手やっているのはよくないはずだ。

まあ、アースラの外にこそ出られないけど、艦内ではかなり自由に過ごさせてもらっている。
だから、これは結構今更なことなのかもしれない。
だけど、やっぱり決まり事とかをそう無視していいはずがない。
わたしとしては、少しクロノたちに甘え過ぎていた気がする。
これからは、もう少し大人しようと決めたのがつい先日のことだ。

それを知ってか知らずか、クロノは気軽な口調で答える。
「それくらいなら大した問題じゃないさ。
 艦長が良いと言ってるんだから、僕ら下っ端に口出しなんてできないよ」
愚痴っぽくも聞こえるけど、どちらかと言うと呆れている風な印象が強い。
だけどやっぱり親子なわけで、なんだかんだ言ってもクロノはリンディ提督のことを尊敬しているみたい。
クロノの声には確かに呆れが混じっているけど、それと同じくらいに親愛の情が感じられる。
ちょっと…………ほんのちょっとだけ、羨ましいな。

「それに、僕らとしても君や使い魔組に用があるんだ」
「え? どんな?」
わたし一人か、アルフやリニスと一緒ならともかく、そこにユーノも入るというのはどういうことだろう。
思い当たることは裁判くらいだけど……。

ところで、さりげなくユーノもアルフ達と同じ扱いにしたよね。
わたしも初めは使い魔だと思ってたから人のことは言えないけど、わかっててやるんだからちょっとひどい。
ユーノやなのはが聞いたら怒るんじゃないかな?

だけどクロノは、全く悪びれもせずに続ける。
「別に今すぐじゃなくてもいいんだが、君さえよければ早めにやってしまいたいことがあってね。
内容については、その場でみんなと一緒に説明するよ」
裁判とかの話ならそういうだろうし、つまりはそれとは別の話ってことかな。
でも、そうなるとますますわからない。
わたしとユーノに共通した事柄なんて、ほとんどないのだから。

「えっと……今は全然大丈夫だから、すぐにでも行けるよ」
理由や目的はわからないけど、特に今忙しいわけじゃない。
どっちみちいずれはこの用件で呼び出されるみたいだし、なら今の内に済ませてしまう方がいいだろう。

「そうか。じゃあすまないが、今から会議室まで一緒に来てくれないか」
「うん」
そうして、わたしはクロノに促されて会議室へと移動した。



外伝その6「異端考察」



わたしが会議室に入った時にはみんな揃っていて、どうやらわたし達が最後だったみたい。
さっき聞いたメンバーの他に、リンディ提督やエイミィもいる。
このメンバーでする話しって、一体何だろう?

わたしが部屋に入ったことで必要な人間が揃ったらしく、リンディ提督が口を開く。
「ごめんなさいね、四人とも。
 特に、ユーノ君やフェイトさんはいきなり呼び出してしまって……」
初めにかけられたのは謝罪の言葉。
この人が優しくて細やかな気配りをする人だということは知っていた。
だけど、それでもやはりこう面と向かって言われると恐縮してしまう。

「いえ、そんなことはありません。わたしもちょうど暇でしたし」
「僕も特にすることはありませんでしたから」
わたしと同様の感想を持ったのか、ユーノも慌てた風で問題ないことをアピールする。

「そう言ってくれると助かるわ、ありがとう。
 じゃあさっそくで悪いんだけど、あなたたちに聞きたい事があるの。
 凛さんや士郎君の近くにいたあなたたちなら、私たちよりも詳しい魔術の情報を持っていると思ってね」
管理局がシロウたちの魔術に興味を持っているのは知っていた。
管理局としては明らかに未知の術式だし、他の術式との共通点もほとんどないと聞いている。
また、二人以外の魔術師にも当てはない。

そのため、事実上情報源は魔術師であるシロウと凛の二人だけになる。
その二人は魔術師のスタンスとして秘匿を貫いているし、最低限の情報しか明らかにしていない。
ユーノがどうかは知らないけど、わたしはそう多くを聞いたわけじゃない。
たぶん、リンディ提督たちの持つ情報と大差ないだろう。

だけど、ここに唯一の例外がいる。
それはリニスだ。
今のリニスは凛の使い魔。
つまり、リニスは凛の技術や知識をコピーしている可能性があるということ。

使い魔は術者の知識や技術をコピーすることが可能で、また成長もはやい。
そのため、一般的に使い魔の育成は人間のそれよりずっと簡単とされている。
また、精神リンクを用いることで感情や記憶を共有することもできる。
それは、リニスならこの場の誰も知らない情報を持っている可能性があることを意味している。

全員それに思い至ったのか、すべての視線がリニスに集中する。
そして、そんなわたしたちに対するリニスの答えはある意味予想通りのモノだった。
「それは無理ですね」
リニスの口から出たのは、簡潔な否定の言葉。
まあ、主である凛がそれを望まない以上、リニスがそれを実行するとは思えない。
リニスは凛やシロウに恩義を感じているし、関係だって悪いわけじゃない。
二人にとって不利益な行動を取る理由がないのだ。

「それはやっぱり、凛さんが秘匿する方針だから?」
確認するようにリンディ提督が問う。

だが、返ってきた答えはわたし達の予想と異なるモノだった。
「いえ、それは違います。話さないのではなく、私には『無理』なんです。
 そもそも私は、皆さんに伝えられるほどの情報を持っていませんから。
 それこそ、フェイト達の方が詳しい位だと思います」
それは、どういうことなのだろう。
言葉の通り受け取るなら、凛はリニスに何の情報も与えていないということになる。
それはつまり、リニスのことを信用していないってことになるんじゃ……。

だけど、そんなわたしの危惧は的外れなものであることをリニスが告げる。
「凛は言いました。
『伝えるだけなら方法はいくらでもあるんでしょうけど、それじゃ意味がないわ。
 こういう大事なことってのはね、やっぱり自分の口で言わなきゃ駄目だと思うのよ。
 だからアンタが帰ってきたら、その時に私たちの口から教えてあげる』だそうです」
それはなんというか、すごく凛らしい気がする。
凛とはビデオメールくらいでしか話したことはないけど、そんな僅かで一方的な対話でも凛の人となりを知ることはできる。
リニスの口から伝えられた凛の方針は、実に彼女らしいモノだった。

同時に、リニスの顔には誇らしさのようなモノがある気がした。
安易な手段に出ず、自分の口から自分の言葉で伝えようとしているのだ。
それに、凛の言葉を意訳すると「知りたければ早く帰ってこい」ということになるのだと思う。
リニスは母さんとあまりいい関係を築けなかったし、凛のそんな接し方はとても心地よいモノなのだろう。

「しかし、失礼かもしれないが、あの凛がよくそこまで君のことを信じたな」
リニスの言葉を聞いて、クロノが少し信じられないという顔で言う。
クロノはわたしより凛のことを知っているし、「簡単に他人を信じない」というのが凛への評価なのだろう。

リニスはクロノの言葉に気分を害したような様子を見せず、少し苦笑しているような声音だ。
「そうですね。凛の性格なら、無条件に他人を信じるなんてことはまずしないでしょう。
 実際、『もちろんタダでなんて教えないわよ。知りたいのなら、それに足る信頼を勝ち取って見せなさい』と、人の悪い笑みを浮かべながら言われましたから」
『あぁ~、なるほど(ねぇ)』
再度伝えられる凛の言葉に、満場一致で納得する。
これが、この場にいるみんなの凛に対して抱いている印象なのだろう。

「そう。つまり、この先はともかく今現在のあなたは本当に何も知らない状態なわけね」
「そうなります。
精神リンクは閉じられてますし、デバイスの作成などで必要なことは通信で済ませてますから」
まだ人間形態になるのはツライようで、リニスは以前同様アルフに抱えられたままだ。
だけど、その声は前よりずっと生き生きしている。
それは、母さんの元にいたころには聞いたことのないほど弾んだ声だ。

今のリニスは、凛に試されているような立場にいる。
それはある意味、使い魔であるにもかかわらず信じてさえもらえない不遇な立場とも取れる。
しかし逆に考えれば、頑張り次第でいくらでも向上の余地があることも示している。
以前のリニスにはその余地さえなかったことを思えば、ずっと状況は良くなっているんだろう。

それに、無条件な信頼は見方によっては思考を停止しているのと同じなのかもしれない。
その点で言えば、凛の求めるそれは内実を伴う信頼だ。
だからこういう風に試されるのは、ある意味充実しているのかもしれない。
少なくとも、凛はちゃんとそれに報いてくれる人だという確信がある。

「さすがに、全く教えていないのは予想外だったわ。
まあ、教えてもらえないのはわかっていたことだし、仕方がないわね。
 というわけで、やっぱり頼みの綱はあなたたちなのよ」
リンディ提督も、ある程度この展開は予想していたみたい。
その「ある程度」に、凛のあの発言までは入ってなかったみたいだけど。

リンディ提督に情報提供を求められ、わたしは自分がどうするべきなのか正直困っている。
他のことであればできる限り協力したいし、そこに迷いはない。
だけど、それにシロウ達が絡んでくるとなると話が別だ。

一体、どの程度までならシロウ達のことを話していいのか判断できない。
感情と理性は、それぞれ別の答えを導き出している。
今のわたしは、その狭間で揺れ動く振り子か天秤のようだ。

感情は、多くを知らないと言っても自分の持つ情報を漏らすのに抵抗を感じている。
シロウ達はできる限り魔術のことを隠そうとしていた。
それなのに、わたしが気安く口にしてしまったら、それはシロウの信頼を裏切ることになりそうな気がする。

だがそれとは逆に、理性はわたしの持っている情報なんて知られても困らないものなのだろう、と判断している。
裏切ることを前提にわたし達に近づいた以上、知られたくないことだったらそもそも教えるはずがないのだ。
だから、わたしに与えられた情報は外部に漏れることを前提にしているんじゃないだろうか。

そうして悩んでいると、ユーノは早々に返事をしてしまう。
「だけど、僕もそう詳しくは聞いてませんよ。
 知っていることは、ほとんどそちらに伝えてますから。
 フェイトは?」
そっか。考えてみれば、ユーノ達はアースラと行動を共にしていたんだ。
彼の知っていることは、すでにこちらに伝えてあったらしい。
ああ、それなら悩む必要なんてないよね。

結局、わたしは自身の天秤を感情の方に傾けることにする。
クロノたちには申し訳ないし、自分のことだったらいくらでも話していい。
だけど、万が一にもシロウ達の迷惑になるようなことはしたくないんだ。

協力関係を切った後、助けなくてもいいのにシロウはわたしを助けてくれた。
そんなシロウだから、もしかすると思わぬところで知られちゃ困ることを漏らしているかもしれない。
だから、当たり障りのないことを口にするにとどめる。
「えっと、わたしもそうかな。
 シロウの使っている武器に関しても、ほとんど聞いてないし」
まあ、クロノたちが一番聞きたいのはやっぱりシロウの武器のことだろう。
これに関しては、本当に何も知らないと言っていい。
せいぜい転送魔法みたいなものを使っているってことだけだ。
どっちみち、わたしには伝えられるようなことなんてないのだろう

しかし、改めて考えてみると、わたしはシロウのことをほとんど知らなかったのだと気付く。
わたし自身深く詮索しなかったし、しょうがないと言えばそれまでだけど、少しさびしい。
真正面から聞いても教えてくれそうにないし、どうにかして自力で突き止めるしかないのかな。
でも人の秘密を探るようなマネはしたくないし、どうすればいいんだろう。

この答も予想通りだったようで、クロノも特に気落ちした様子を見せない。
「やはりか。わかってはいたけど、本当に用心深い。
ところで、士郎の武器に関しては少しわかったことがあるんだ。エイミィ」
「ん、今準備してるからちょっと待って」
二人のやり取りを聞きながら、首から下げているペンダントを握る。
これはシロウが作ったもので、全てに決着をつけるために出したあの黄金の剣が元になっているらしい。
シロウの使う武器はいろいろ見たけど、あれはその中でも特に異彩を放っていた。
なんというか、画面越しでありながら神々しささえ感じたのだ。

直接シロウが使ったものってわけじゃないけど、それに関わる品。
しかし、これはシロウの使っていたどの武器とも比べられるものじゃない。
金属製で武器の形をしているという点以外、天と地ほどの格差がある。
これがシロウに作れる限界かはわからない。
だけど、あんな次元違いの武器を作れるなら、もっとこのペンダントも強力だろう。
それはつまり、あれらがシロウの手で作られたモノじゃないことも意味する。
そうでなければ、シロウがこれを作る際に手を抜いたということだ。

理屈じゃない感情の部分で、それだけはあり得ないと否定するわたしがいる。
これを渡してくれたときのシロウの真摯な瞳と言葉、手わたしてくれた手の温かさが嘘だとは思えない。
これは、シロウがわたしを守るために作ってくれたモノだ。
それを疑うようなことを考えてしまったことに、どうしようもない罪悪感が募る。
別にそう思ったわけじゃないけど、そんな可能性が頭をよぎっただけでも彼への侮辱でしかない。

そんなことを考えているうちにエイミィは作業を終え、モニターにシロウが使っていた武装の映像を映す。
「はい、できた。じゃあ、説明するね。
どうも士郎君の使った武器って、この世界じゃ結構有名みたいなのよ」
「どういうことですか?」
エイミィの発言に、不思議そうな顔で尋ねるユーノ。
てっきりユーノも知ってると思ったのだけど、わたし同様何を意味しているのかわからないらしい。

「えっと、士郎君が今まで使った武器の中で、名前がわかっているのが三つ……いや、四つだね。
 一つがアルフを拘束した『天の鎖』ってので、ジュエルシードの破壊に使った捻じれた剣が『カラド・ボルグ』、
クロノ君の砲撃を防いだ楯が『ロー・アイアス』、最後にフェイトちゃんのペンダントのモチーフになった『エクスカリバー』ね」
楯の方は初めて聞いたけど、他のは確かそんな名前だったっけ。
正確には、シロウが使うときにその名前を口にしていただけだから、本当にその武器の名前かはわからないけど。

「でね、これらって地球の神話や伝説なんかで出てくる武器や英雄の名前なのよ。
 ああ、『天の鎖』だけは違うけど、他は全部そうだよ」
へぇ、そんなすごいモノの名前がついてたんだ。
あれ? でも、確か概念武装って長い年月を経た武器っていうか器物なんだよね。
それってつまり、シロウの使っている武器は全部本物ってことになるの?

「それって、本物なの?」
気になったので、まさかとは思うけど確認してみることにする。

それに対し、クロノは慎重に答えを返す。
「さすがに伝説や神話が実際にあった事実ってことはないはずだから、それはないだろう。
 ただ、一から十まで全部フィクションとは言い切れないな。
 中には、事実が脚色されてそうなったものがあっても不思議じゃない。
 そこのフェレットもどきの意見は?」
「そうだな…………って、おい!! 誰がフェレットもどきだ!!!」
クロノが考古学者志望のユーノに意見を求める。
だけど、求め方がお気に召さないみたいで激昂するユーノ。
何と言うか、シリアスな雰囲気がぶち壊しだよ。

「場を和ませるジョークじゃないか。あんまり目くじらを立てるもんじゃない。
ツッコミはいいから、君の意見を聞かせてくれないか」
自分でからかったのに、随分ひどい返しだ。
あんまり冗談とか言うタイプじゃないと思ってたんだけど、人は見かけによらないみたい。

クロノの催促に、凄く不満そうな顔でユーノが渋々意見を述べる。
「むぅ~~……わかったよ。
 地球の神話とかは知らないけど、少しくらいは元になる事実があったんじゃないかな?
 それがどの程度原形を残してるか分からないけど、そういう人や名前の武器があった位はあると思う」
じゃあ、シロウが使っているのは、そのお話の元になった人が使っていたりした武器ってことになるのかな。
それこそ千年以上前にまでさかのぼれるお話もざららしいし、概念武装としては破格なんだと思う。

「まあ、そのあたりが妥当かしら。
 ただ気になるのは、士郎君が爆破させたっていう『カラド・ボルグ』ね。
 概念武装の詳しいところはわからないけど、壊れたから修理するってわけにはいかないんじゃないかしら。
 それが爆破ともなれば尚更よ」
それは、以前わたしも考えたことだ。
あの時は同じ物がたくさんあるか、あるいはいくつでも作れると思ったんだけど、今となってはどれも可能性が低い。

リンディ提督の意見に対し、エイミィが別の考えを述べる。
「だけど、士郎君はそのとき既にジュエルシードの危険性に気付いていたらしいですよ。
 あれの危険性を考えれば、いくら貴重な一品とは言え、惜しんではいられなかったんじゃないでしょうか」
エイミィの意見は、凄く説得力がある。
あの時の暴走がそのまま進んでいた場合、海鳴の街がなくなっていたかもしれないのだ。
それと天秤にかければ、どんなに貴重で強力な武器でも出し惜しんでいる場合じゃない。
わたしが同じ立場でも、シロウと同じことをしただろう。

「やっぱり……そうかしらね」
一応納得したみたいなリンディ提督だけど、そこにはまだ疑問の色がある。
一体、何がそんなに気にかかっているのだろう。

話題を切り替える意味もあるのか、エイミィが努めて軽い調子で別の話題を振ってくる。
「あと未確認だけど、士郎君の武装の中で一つ名前を推測できるモノがあるんだ。
 ついでに、もう名前のわかっている武器の説明もしちゃうね」
だけど、推測できる武器ってどれだろう。
一番使用回数の多いあの黒白の双剣かな?

だけど、そんなわたしの予想は外れた。
「ほら、士郎君が時の庭園に残った時にエクスカリバーと一緒に持ってた鞘があったでしょ。
 あれって多分、エクスカリバーの鞘なんじゃないかな?
 意匠とかにも共通しているところがあるし、結構可能性は高そうなんだよね」
そう言ってモニターに映し出されるのは、シロウが使った剣と鞘。
たしかに、配色とか真ん中のあたりに刻まれた文字みたいなのはよく似ている。

「能力的にもその片鱗みたいなものがあったし、もしそうだったらこれって結構凄いことなんだよ」
「どういうこと?
シロウが使ってるのは神話とかに出てくる武器みたいなものなんだから、全部凄いんじゃないの?」
とりあえず、今のところの推測だとそういうことになる。
神話に出てくる武器そのものじゃないにしても、能力以外の歴史的価値とかも凄いモノだということは、素人のわたしにも容易に想像できる。

ちなみに能力の片鱗というのは、伝承に語られるあの鞘に宿る『不死の力』のことらしい。
不死の力なんて言われてもよくわからないけど、アレに傷を癒す力があるのはわたし自身体験している。
傷を癒すってことは、確かに不死と繋がらなくはない。
もしかすると、シロウはまだあの鞘を使いこなせてないのかも。
もし使いこなせるようになれば、もっと強力な治癒能力が得られたりするのかな。

「うん、まあそうなんだけどね。あれはその中でも特別なのよ。
 エクスカリバーはね、大昔のイギリスって国の王様『アーサー王』の剣なの。
 その王様は円卓の騎士っていう人たちを束ねて、『騎士王』と呼ばれた名君だったんだ。
この世界では特に有名な大英雄で、いろんな韻文や散文なんかの題材にもなってるんだよ。
 ただ、この人はその鞘を盗まれちゃったみたいで、そのせいでその後破滅しちゃったんだけど……」
つまり、あれが本当にエクスカリバーの鞘なら、現代になってやっと剣と鞘が一つのところに集まったってことなのかな。
確かにそれは、歴史的に見ればとても凄いことなのかも。
でもシロウ、一体どこでそんなものを見つけてきたんだろう。

エイミィはこちらの反応を見ながら、これまでで名前のわかっている武器の説明に移る。
「他のも凄いよ。
カラド・ボルグは、アルスター伝説で有名なフェルグスって人の魔剣のこと。
なんでも、三つの丘の頂を切り落としたって伝承があるんだ」
なにそれ……。いくら伝説だからって、とんでもなさすぎない?

しかし、ここでエイミィが難しい顔をする。
「だけど、これに関してはちょっとおかしな所があるんだよね。
 映像を見せてもらったけど、伝承じゃあんな捻じれた剣じゃないはずなんだけどなぁ……」
映像というのは、バルディッシュやレイジングハートに残っていたあの時の記録のこと。
でも、伝承でもあんな形じゃなかったってことは、シロウが改造したのかな。
…………いや、さすがにそこまではしないよね。
たぶん、アレだけが全くの別物ってことなんだろう。うん、そうに違いない。

エイミィは気を取り直すように咳払いをし、続きを話す。
「ごほん。まあ、それは置いておくとして、ロー・アイアスはその名の通りアイアスって人が使った楯。
伝承によると、誰にも防げないと言われたヘクトールって人の投槍を防いだらしいんだ」
わたしにはよくわからないけど、なんだかすごいものばかりってことはわかる。
武器としての性能もそうだけど、それ以上に歴史的な価値とかが凄いんじゃないかな。
そういう武器を惜しげもなく使って、時には使い捨てにする戦い方って実は結構罰当たりなんじゃ。

「そ、そんなにすごいモノなの?
 どうやって手にいれたのか、一度士郎に聞いておけばよかったかなぁ」
と、なんだかユーノはちょっと残念そう。
考古学者志望のユーノからすれば、詳しいところを知らなくても士郎の持つ武器に興味をひかれるのだろう。

はっ!? そういえばわたし、士郎の鎖をおもいきり斬ったことがある。
アレって、大丈夫だったのかな……。
「ね、ねぇエイミィ。あの天の鎖ってどういうものなのか、わかる?」
正直言って、そうたいしたものじゃないことを切に祈ります。

「ああ、ごめんねぇ。そっちはまだ調査中なんだ。
 とりあえずその名前にヒットするモノはないんだけど、士郎君が使ったからにはそれ相応のモノなんじゃないかな」
出来れば、アレに限ってはショボイものであってほしい。
シロウ、お願いだからもう少し慎重に使って。
それがシロウの戦い方だってわかってるけど、それでもあんまり乱暴に使い過ぎるのはどうかと思う。

そこでエイミィが、突然アルフに話を振る。
「んん~~ところでアルフ」
「ん、なんだい?」
アルフはそれにちょっと驚いたみたいに反応した。
おそらく、自分に話が振られるなんて思ってなかったのだろう。

「あのさ、その鎖に捕まった時って、なんか変な感じとかした?
 何でもいいから情報が欲しいんだけど」
「って言われてもねぇ。勝手に動いて絡みついた以外、特におかしな所はなかったよ。
 普通の鎖より頑丈なのは、士郎が強化したかららしいし……」
当時のことを思い出すようにアルフは話すけど、やはり有力な情報は得られないみたい。
それに、確かに普通の鎖よりは頑丈だったけど、それでも特別硬かったわけじゃない。
やっぱり、あれだけは他のよりも劣るんじゃないかな。


これらの情報を踏まえたうえで、改めて情報交換が行われた。

みんなあまり期待はしていなかったみたいだけど、管理局側にとっては思わぬ成果があった。
シロウの武器に関して、わたしも含めててっきりあれがシロウの家で継承されてきたものだと思っていた。
でもそれは違って、シロウは衛宮家の魔術を継いでいないらしいことがユーノの口から明らかになった。

ユーノはみんなも知っていると思っていたみたいで、さっきは特に話すことじゃないと思っていたらしい。
だけど、クロノがシロウの武装に関する考察をしている時に、少し驚いた様子で訂正した。
ユーノによると、お父さんから引き継いだものは基本的になく、衛宮家の魔術と士郎の属性も関連性は薄い。

つまりシロウの持つ武装は、すべて自力で集めたか、作ったモノかのどちらかになる。
そして、概念武装の性質を考えると、一代であれらを作り上げるのには無理があるという結論に至った。
シロウ達が嘘をついているなら別だけど、その可能性は薄いらしい。
そんなものを簡単に作れるなら、シロウ自身の守りをもっと充実させているはずだから、とのこと。

少なくとも、母さんの雷撃を受けた時に他の防御用武装があればそれを使っていたはず。
それができなかったから、シロウはあんな大怪我をした。
シロウがそんな基本的な備えを疎かにするとは思えないし、やっぱりそういうことなんだろう。

ただ、わたし自身はあまりしゃべらなかったのだけど、それに関しては特に何も言われなかった。
たぶん、みんなわたし気持ちとかを慮ってくれたんだと思う。
申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、こうして気に掛けてもらっていることを実感するのは嬉しくもある。

いつか、違った形でちゃんと恩返しをしたいな。



そうして、概ね話せることを話しつくしたところで、エイミィがこれまでの話を総括する。
「う~ん、やっぱり聞いてみるものだね。
 私達の知らない部分が少なからずあったし、これで少しは情報を補完できたかな」
魔術の存在を公にしないだけならまだ何とかなるけど、これだけの事件に関わった人たちのことを上層部に報告しないのはさすがに無理らしい。
凛もそのあたりは承知しているみたいで、あえて情報を封鎖するようには言わなかったそうだ。
しても無駄だとわかっているのだろう。

今回の話し合いは、上層部への提出用の資料を作成するためのモノだったらしい。
少しでもこの人たちの役に立てたのなら、少しはお世話になっている分の恩返しになったんじゃないかな。

「協力してくれてありがとう。おかげで、報告書もちゃんと仕上がりそうよ。近々お礼をさせてもらうわ」
「いえ、そんな大丈夫ですから」
お礼を言いたいのはこっちの方なのに。
普段からたくさん世話になってるし、多分これからも……。

でも、そんなわたしの気持はさらっと流されてしまう。
「ええ、大丈夫なのよね。
 それじゃ、今度おいしいお菓子とお茶を振る舞うから楽しみにしててね♪」
教訓、言葉って難しい。
受け取り方次第で、全く違った解釈ができるんだもの。
今回の場合、リンディ提督が意図的に間違えているのはわかりきってるけど。

たぶん、これ以上何を言っても効果はない。
リンディ提督が浮かべる笑みには、それを確信させる何かがある。
だからわたしとしては、大人しく引き下がるしかないわけで……。
「……うぅ。それじゃあ、わたしは部屋に戻ります。
 アルフ達はどうするの?」
アルフは、結構艦内で力仕事なんか請け負っていたりする。
部屋の中で大人しくしているのなんて性に合わないらしい。
まあ素体が素体だから、しょうがないよね。

「う~ん、あたしはもう少しどっか手伝ってくよ。
 上手くすれば、ご褒美に肉も貰えるしぃ~♪」
アルフ、いつの間にか餌付けされてるんだ。
それと、あんまり意地汚いことしちゃダメだよ。

「僕もとりあえず部屋に戻るよ。
 実は昨日、なかなか美由紀さん離してくれなくて寝不足なんだ」
確か、なのはのお姉さんだっけ。
よくわからないけど、フェレットもいろいろ大変なんだ。

だけど、ここでわたしに対してストップが入る。
「あ、フェイトはちょっと残ってもらえませんか。
 少し、話し相手になってほしいんです」
そう言ってきたのはリニスだった。
話って、一体なんだろう。
それに、ここ使っちゃっていいのかな。

尋ねるようにクロノを見ると、静かにうなずき返してくれる。
「ああ、これから当分はこの部屋を使用する予定はないから大丈夫だよ。
 リニスからも、少し前に使用の許可を求められたから手続き上も問題ない」
あ、そうなんだ。
じゃあ、その話っていうのも思いつきとかってわけじゃないのかな。
これだけ入念に準備したってことは、きっと大切な話なんだろう。

「それじゃあ、私たちは先に出ているわね」
「使い終わったら戸締りをしっかりして、一度ブリッジに連絡してくれればいいからねぇ」
ここの戸締りって機械式だから、わたしたちじゃどうにもならないと思うんだけど。
たぶん、大切なのは後半だけで前半はただのおふざけなのだろう。
前々から思ってたけど、エイミィはこういう言い方が好きなんだ。
なんていうか、どんな時も余裕を持ってそうでちょっと尊敬する。



みんなが退出するのを待って、リニスの方へ歩み寄る。
思い出してみると、こうして二人で話すのは随分久しぶりな気がする。
こっちに来て再会してからはたいてい誰かと一緒だったから、もしかしたら初めてのことかもしれない。

なんでだろう。
まだ何も言っていないのに、すごく心臓がドキドキする。

そんなわたしの心を見透かしたかのような澄んだ瞳で、リニスがこちらを見上げる。
リニスの動物形態なんて、昔は一度も見たことがなかったのに今ではもう慣れてしまった。
また人間形態をとれるようになったら、その姿になれるまでにまた時間がかかりそうだ。
なんて、そんなどうでもいいことを考えてドキドキを忘れようとする。

そして、リニスがその口を開いて厳かに問う。
「フェイト、一つ聞かせてください。
 あなたは士郎のことが好きですか? 友人としてではなく、一人の異性として」
「え?」
言っている意味がわからなかった。
いや、問いの内容はわかるのだけど、何でそんなことを聞くのか理解できない。

わたしの意思と気持ちは、もうこの間のシロウたちとの別れ際に示したはずだ。
あの場にはリニスだっていたし、これは今更聞くようなことじゃない。

だけど、リニスの眼はその質問への答えを強く要求している。
どれだけ時間がかかっても、どれだけ待つことになっても、リニスはここでそれを待ち続ける。
そんな確信だけがあった。

そこにどんな意図があるかはわからないけど、それに対してはっきりと答えを返す。
「……うん、好き。友達とか、恩人とか、そういうの全部抜きにしてわたしはシロウが好き。
 今は離れ離れになってるけど、いつかまた会いに行って、もう一度この想いを伝えるつもりだよ。
 できるなら、この先ずっとシロウと一緒に歩いて行きたいから」
正直言って、相手が本人じゃないとしても、こうして面と向かって言うのはかなり気恥ずかしい。
シロウに対してああいうことをした時も恥ずかしかったけど、あれは半分勢いだったし。
なにより、負けたくなかったから。

数秒の沈黙。それを破ってリニスが口を開く。
「…………そうですか。では、言わせてもらいます。
 諦めなさい、フェイト。士郎と凛の絆は固く、あなたの入る余地はありません」
そうして出てきたのは、今まで聞いたこともない冷たい声音による言葉だった。

今度こそ、今度こそ本当にリニスの言っている意味がわからなかった。
別に、リニスが応援してくれるとは思ってなかった。
リニスは凛の使い魔で、そうである以上一応わたしは主の恋敵になる。

でも、だからと言ってこんなストレートに諦めろと言われるなんて思ってもみなかった。
せいぜいが、「私は凛の味方ですから」と言われる程度だと思っていた。
だけどこれは、その予想をはるかに上回っている。

呆然とするわたしに、リニスがさらに言葉を紡ぐ。
「もちろん、冗談などで言っているわけではありませんよ。
 実を言うと、私は先ほど少し嘘をつきました。
 私は眠っている間に凛の記憶の断片を垣間見て、少しですがあの二人のこれまでを知っています」
それは予想もしないことだった。
しかし、あり得ないとは言い切れない。
使い魔との契約にはまだわかっていないことも多いし、魔術師である凛とリニスの契約はかなりの特殊例だ。
一応こっちの魔法の方式に則っているけど、そういうことが起こっても不思議はない。
特に、リニスが目覚める前は魔術的な方法でやってたみたいだし。

だけど、そういったこととは別のところで納得する自分がいる。
わたしは、あの二人の間に何があったか知らない。
どれだけの時間を共有し、どんな思い出があるのか、本当に何も知らない。
わかっているのは一つ、あの二人がお互いのことをこれ以上ない位に大切にしているということだけ。

だけど、リニスは知っている。
例えそれが全体の万分の一に満たない断片でも、わたしの知らない二人を知っている。
先ほどの言葉は、それを知ったからこそ出てきたモノだったのだ。



SIDE-リニス

そうして私は、フェイトを追い込むべくさらに言葉を重ねる。
「詳しいことは言えませんし、私自身把握できていません。
 だけど一つ言えるのは、あの二人の間には何人たりとも割り込む余地がないということです」
これは、フェイトには残酷かもしれない。
今のフェイトにとって、士郎は大きな支えとなっている。
そんな状態で諦めさせるということは、精神的な支柱を失うことと同義だろう。
だけど、今ならまだ傷は小さくて済む。

わたしが垣間見た、二人の半生。
それは私の想像をはるかに凌駕するほどに荒唐無稽で、叫びだしたくなるほどに過酷で、狂ってしまいそうなくらいに惨たらしかった。
他人から見れば、苦難ばかりの人生でしょう。
頑張った分には到底足りない、その報い。
代わりに与えられるのは、人々からの怨嗟や侮蔑、そして憎悪。
真っ当な神経をしているのなら、一日と耐えられないであろう地獄がそこにはあった。

それでもなお、二人は世界を相手に戦い続けた。
いえ、厳密には世界を相手取っていたのは士郎だけ。
凛が戦っていたのは別のモノ。
世界を相手に必死に抗い続ける士郎を支え、決して彼の手を離さず、彼に降りかかる災厄を打ち払い続けた。

あえて凛が戦っていたモノの名前をあげるなら、それは「衛宮士郎」そのものでしょう。
放っておけばどこまでも飛んで行ってしまいそうな彼を引きとめ、彼が道を誤らないように導き、彼を傷つけるモノから守り抜く鞘。
それが今の私の主、遠坂凛という女性。
士郎の戦いが「顔も知らぬ誰か」の為なら、凛の戦いはその全てが「衛宮士郎」の為だった。

だが、決して彼のためとは口にせず、すべては「自分の為」と言って憚らない凛。
もし一度でも「士郎の為」と口にすれば、彼は必ず姿を消すとわかっていたのでしょうね。
彼は、自分のために彼女の人生が縛られることなど望んでいなかったから。
そしてそんな彼女だからこそ、士郎は最後の最後まで彼女と共にいられたのだろう。
故に、凛の記憶は地獄のような光景でありながら、決して光を失ってはいなかった。

そんな光景を断片的に垣間見た。
もっと古い記憶もあったけど、それは大半がぼんやりとしていて判然としなかった。
ただ、何とか判別できたものもいくつかあった。

顔こそわからなかったが、大きな手が幼い凛の頭を不器用に撫でている微笑ましい情景。
夕焼けで真っ赤に燃えるグラウンドで、越えられない高飛びをし続ける少年。
凛と同じ色の髪と瞳をした幼い少女に対し、凛がリボンで髪を結ってあげている、どこか悲しい光景。
銀の鎧と蒼のドレスを身に纏った金髪の少女が、月を背景に見えない何かを向けている姿。
朝焼けの中にたたずむ士郎らしき人物が浮かべる、安らかな笑顔。
他にも、誰かに背を預けるような形で見上げられた満天の星空や、長い金髪と袖のないドレスを着た気の強そうな少女と対峙する記憶もあった。
最後に、ボロボロと涙を流す凛に抱きしめられ、胸から僅かに血を流し呆然とした表情で一滴の涙を流す少女。

これらが凛にとって、どのような意味があるのかはわからない。
だが、あれほど鮮明だったのだから、それらは古い記憶の中でもとりわけ大切なものなのでしょう。
そして、いくつかの比較的近い過去の記憶を見てわかってしまった。
あの二人は、決して揺るがない。
どれほどの苦難、どれほどの危機も、二人からすればすべて過去に乗り越えたモノばかり。
今更それらが来たところで、とうの昔に乗り越えた試練ならばまた越えられる。

一見不安定で、いつ離れ離れになってもおかしくないように見える二人。
だけど、最後の最後までその手が離れることはなかった。
それこそが、二人の絆の証明。
何より、二人には誓いがある。
決して破るわけにはいかない、これ以上ないほどに神聖な家族との誓いが。

こんなものを見てしまって、どうしてフェイトの応援などできるだろうか。
勝ち目が億分の一もあればまだいい。
何かの奇跡で、その一を拾うことができるかもしれない。

しかし、それすらないのに勝負などさせられるわけがない。
初めから負けが確定しているのなら、少しでも傷を小さくするべきでしょう。
少なくとも、それが外から冷静に戦況を分析できる者の判断。

私の言葉を受け、その瞳に動揺を見せるフェイト。
「フェイトの中で、士郎がどれほど大きなウェイトを占めているか、私には知る術がありません。
 でも、一つだけ言えることがあります。
 あの二人の間に割って入ること、それだけは絶対にできません。
 それだけのモノが、二人の過去と、そして現在にはあるんです」
いっそ、二人の過去を見せるなり教えるなりできれば諦めも付くのでしょう。
しかし、それをするわけにはいかない。

完全に事情を把握できたわけではないが、それでもこれまでの情報と総合すればある程度想像できる。
だからこそ、あの二人がこれを隠そうとしていることがわかってしまう。
これを知られては、二人の立場を著しく悪くしてしまうかもしれない。
だから私にできるのは、こうして間接的な言い方で話すことだけ。

フェイトは、私にとっても娘同然の教え子。
叶うなら、どうかフェイトにはこれまでの苦しみの何倍という幸せを掴んでほしい。
でも、その相手が士郎ではダメ。

想っている間はいい。
しかし、この先もどんどんフェイトの中に占める士郎のウェイトは大きくなっていくのは、目に見えている。
大きくなればなるほど、その後の喪失は深く暗いモノになる。

今ならまだ、その喪失を埋めるのは困難ながら可能なはず。
フェイトの周りには、彼女を気遣ってくれる多くの人ができた。
リンディ提督でもいいし、エイミィさんでもいい、なんならクロノ執務官やユーノ君、あるいはなのはさんもいる。
士郎の穴を埋めるには足りないかもしれないが、それでも穴を小さくすことはできる。

フェイトはこれまでの一番の支えだったプレシアを失い、ただでさえ不安定になっている。
今はまだ時期尚早かとも思ったが、もう一度巨大な喪失を味わってあの子がどうなるか分からない。
耐えられるかもしれないし、耐えられないかもしれない。
どちらにせよ、いずれ来るのであれば早い方がリスクは少ないはずだ。

これが私個人のエゴであることは、重々承知している。
本来、私にそこまでフェイトに口出しする権利なんてない。
それでも、この子により幸を多い未来を望むのならこれしかないのだ。
もしくは…………。

しばしの沈黙。
今のフェイトは俯いていて、この角度だとその表情はこちらからも伺えない。
泣いていないのだけは間違いないでしょうが、その胸の内を察することはできない。

どれくらい経っただろうか。
フェイトが、久しく聞かなかった弱々しい声で問う。
「………本当に、わたしは凛に勝てないのかな……。
 どうやっても、シロウと一緒にいられないの?」
「一緒にいるだけならできます。ただしそれは、あなたの望む形ではありません」
嘘をつくことに意味はない。
この場で必要なのは、厳然たる事実だけ。

「気持ちに区切りをつけ、一友人として接するのがいいでしょう。
 幸い、次に士郎と再会するのは当分先です。
 気持ちを整理するには、いい時間になります」
おそらく、これが一番いい形なはず。
良き友人として接し、あくまで友として彼を支えにするのであれば何も問題はないのだから。

「……ねぇ、リニス。たぶん、リニスの言ってることは正しいよ。
 わたしから見ても、シロウと凛の間に何かあるのはわかるもの」
私が言うのもなんだが、フェイトは聡明な子だ。
だから、この結論に至るのは当然だろう。

「なら………………」
だから、私からかける言葉は一つだけ。

しかし、続きを口にしようとしたところで、フェイトが顔をあげる。
その顔には、強い決意が宿す笑みがあった。
「だけどね、それでもやっぱり諦めきれない。
 わたしが子どもだからかもしれないけど、勝ち目がないってわかってても捨てられないんだ」
そう宣言する顔には悲壮感はなく、あるのはただ不動の意思と覚悟のみ。
子どもらしいわがままなのかもしれないが、それでもその意志は本物であることを実感させる。

「リニスの言ったことをも含めて、必死に考えたけど……やっぱりダメ。
 士郎が言ってたんだ。
『自分が抱く想いが間違っていないと信じられるなら、胸を張って誇っていいんだ』って。
 間違っていると思えないのにこれを否定したら、きっとわたしは胸を張って生きられない。
この想いは、アリシアの記憶じゃなくて、紛れもなくわたし自身から零れた気持ち。
 これは、絶対に捨てられないんだ」
作られた命と植え付けられた記憶を持つフェイトだからこそ、それは譲れないモノ。
プレシアへの思いには、少なからずアリシアの記憶の影響があるだろう。
だけど、士郎への想いは間違いなくフェイト「だけ」のモノ。
ならば、捨てられるはずがない。フェイトがフェイトとして、前を向いて生きていくために。
そういう……ことなんですね。

「だから、このまま終わるなんてできないよ。
 それに、リニスの言うことは正しいと思うけど、誰にもそれは証明できない。
 本当に勝ち目がゼロなのか、試す以外に証明する方法なんてないんだもん。
 もしゼロじゃなかったら、ここであきらめたら本当にゼロになっちゃうしね」
私の後ろを必死に追いかけていた子が、いつの間にかこんなに大きくなって、自分の足で立てるようになっていたのか。
一つの可能性として考えてはいたけれど、まさか本当にそちらを選ぶとは……。
これは、考えられる限りで一番の苦難の道だというのに、思い切ったことをする。
それがわからないような子じゃないのに。

とはいえ、あと言えることと言えば念を押すくらいか。
「その先に待っているのは、絶望かもしれませんよ」
「その時はその時!
どうなるかなんてわからないんだから、今できることを精一杯やって、その結果を受け入れるよ。
 何もしないで諦めるより、ずっと良い」
どんな結果になっても受け入れる覚悟。
決して捨て鉢になっているわけじゃないし、だからと言って楽観しているわけでもなさそうだ。
ちゃんと現実を直視したうえでの選択なら、教師としてもう言うことはない。

ただし、少しくらい文句を言っても罰は当たらないでしょう。
「まったく、こんな無謀なことをする子に育てた覚えはなかったんですけどねぇ。
 どこかで育て方を間違えたんでしょうか……」
「そんなことないよ。リニスは立派にわたしを育ててくれた。
 こんな無謀な戦いに挑めるのも、リニスの教育の賜物だよ。
 もし間違っていたことがあるとしたら、それはリニス自身じゃないかな?」
それはつまり、何もかも私が原因だということですか?
少なくとも、わたしはそこまで無謀じゃないつもりなんですが。

「はあ、そんなに決心が固いなら好きになさい。
 ただし、私は凛の使い魔ですからね。
 あなたの妨害はしても、手助けはしないモノと考えてください」
ちょっと負け惜しみのような感じがするが、それは気にしないことにしよう。
教え子に負けたなどと、まだまだ認められないから。

「うん、ありがとうリニス。これでやっと対等だね」
「私と対等になった程度で満足していては、いつまでたっても凛と同じ舞台には立てませんよ」
あの人は本物の傑物。
私のような下っ端と対等になって喜んでいるようでは、まだまだ先行きが不安だ。


とはいえ、この様子ならその時が来ても大丈夫だろう。
もっと楽な道を選んで欲しかったのだけど、あなたが決めたのなら応援するのが親代わりだった私の勤め。
表立っては応援できないけれど、影ながら応援しますよ。

どのような結末になっても、自分なりに納得のいくよう頑張りなさい。
先ほどの宣言通り、『胸を張って生きていける』ように。



SIDE-リンディ

そんな二人の様子を、私たちはモニタールームで眺めている。

それに対するエイミィの感想は……
「いやはや。青春してるねぇ、フェイトちゃん」
本当に楽しそうね。
士郎君達と再会したら、場合によっては修羅場になるかもしれないのに。
まあこの子の場合、そんな空気さえ楽しんでしまえるのだろうけど。

「でも、本当に立派ね。あれだけの啖呵が切れるなら、特に心配することもなさそう……」
一時はどうなることかと心配したが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
はじめて会った時は色々あったせいもあって、どこか儚げで脆そうな印象があった。
だから、もしかすると立ち直れなくなってしまうんじゃないかとさえ危惧していた。

だが、それはあの時だけのモノだったのか、それともこの短期間でそれだけ強くなったのか。
どちらかはわからないけど、私が思っていた以上にあの子の心は強い。
むしろ、私の心配はフェイトさんへの侮辱だったかもしれないわね。

私がフェイトさんの強さに感銘を受けていると、無粋な怒声が割り込んでくる。
「艦長! それにエイミィも! いい年してデバガメなんてして、みっともないと思わないんですか!!」
「「何を怒ってるの? クロノ(君)」」
声の発生源は、後ろでバインドでグルグル巻きにされている不肖の息子。
そちらに向けて振り返らずに、怒りの訳を問う。
今はまだ感動的なシーンの真っ最中なのだ。他所を向いている場合じゃない。

ちなみに、拘束したのは私で協力はエイミィと他一人。
真面目なのはいいんだけど、もう少し融通のきく子にならないかしら。
何事も固いだけじゃダメよ、クロノ。

見事なまでに無力化されているにもかかわらず、クロノの眼光は衰えることを知らない。
そこには今は亡き夫の面影があり、親馬鹿かもしれないけど、少しだけ頼もしさが出てきたように思う。
ただし、今はなんとも情けない格好なので、それも雲散霧消してしまうのだけど。

「他人のプライベートを覗くようなマネをして、恥ずかしくないのかと言ってるんです!」
「覗きなんて失礼ね。
偶々用事があって艦内の様子を確認していたら、偶々二人の様子を見ちゃっただけよ。
 偶然なんだからしょうがないじゃない」
「そうそう、偶然偶然♪」
全くもう、覗きなんて非常識なマネするわけないじゃない。
息子にそんな風に疑われるなんて、お母さん悲しいわぁ。

私たちの言葉に、クロノがこれ以上ない位に苦々しい顔をする。
「世間一般では、そういうのを詭弁と言うんですよ、艦長」
本当に、我が子ながらどうしてこうかわいげがないのかしら。
少しはフェイトさんやなのはさんたちを見習ってほしいわ。
昔は「おかぁさぁ~ん」って、チョコチョコ後ろを追いかけてきて可愛かったのに。
時間の経過って残酷だわぁ。これが反抗期なのかしら。

「あれ? ところでアルフは?」
アルフも、初めは私たちと一緒に二人の様子を見ていた。
途中で乱入してきたクロノを拘束するのも手伝ってくれた。
いわば同志だったのだけど、今はモニターの前にはいない。

なぜなら、リニスがフェイトさんを追い詰めるような言動をし始めたところで……
「ぶっちめる!!」
と言って、向こうに乗り込もうとするんですもの。
仕方がないからクロノと一緒にグルグル巻きになってもらって、壁際に待機させたのだ。

でも、さっきから妙に大人しい。
初めのうちは、陸に上がった魚みたいにビッタンビッタンして暴れていたのに。
一体どうしたのだろう?

そんなエイミィの疑問に、クロノが疲れたような調子で答える。
「アルフならそこだよ。
 どうも主の成長が嬉しいらしくて、思いっきり号泣してる」
私たちが振り向かないことは承知しているようで、ため息交じりの声で解説してくれる。
アルフの声がほとんど聞こえないのは、必死で抑えているからだろうか。

よく耳を澄ませば、蚊の鳴くような声で……
「ぐずぐず、えっぐ……ふぇいとぉ~~……」
という声が聞こえてくる。
ちょっと、どういう顔をしてるのか気になるわね。
でも、モニターの方も捨てがたいし……困るわ。

それにしても、リニスったら嘘をついてたのね。
元からそういう性格なのか、それとも凛さんの影響を受けたのか知らないけど、一筋縄じゃいかない主従ねぇ。
まあ、そう詳しいことを知っているわけじゃないみたいだし、せいぜい「二人の背景を少し知っている」くらいかしら。
二人の背景はもちろん気になるけど、一番知りたいことは別にある。
たぶん、彼女もまだそのあたりは知らないんでしょうね。
さっきの話だと、「垣間見た」程度のようだし。

そこへ、クロノが真面目な口調で話しかけてくる。
「艦長。やはり、士郎にフェイトに作ったペンダントと同じか、あるいはその類似品を作ってもらえるよう依頼してみませんか?」
そこには、先ほどまでのようなしょうもない怒りや呆れはない。
あるのは、時空管理局の執務官としての顔だけだ。
グルグル巻きにされて転がされていると雰囲気台無しだけど……ここは気にしないことにしよう。

空気としては冗談を言えないこともないが、私も一提督として応じる。
いくら話を振った張本人が情けないことになっているとはいえ、内容自体は非常にシリアスなのだ。
「そうね。もし受けてもらえたら、現場の被害を減らせるかもしれないし」
万年人手不足の管理局には、人材発掘と並んで重要な事項として、現場に出る魔導師の生存率と負傷後の復帰率がある。
ただでさえ、AAA以上の強力な魔導師は数が少ない。
当然、彼らが投入されるのはより過酷な現場だ。場合によっては、単独での任務さえある。
一般の魔導師でも、欠員が出たからといってそう簡単には補充できない。
これが高ランク魔導師となれば尚更だ。

だが、士郎君の作ったペンダントには魔力ダメージを削減する効果があるらしい。
それを現場にいきわたらせることができれば、少なからず生存率や復帰率が上がるはずだ。
さらに、対物理など他の効果も付与できればなお良い。
人手不足の直接的な解消にはならないが、それでもこれがあるとないでは大違いだろう。

故に、量産は無理でも、定期的に一定数量を作って提供ないし売って貰えると大助かりなのだ。
凛さんは宝石に魔力を溜められるらしいし、もしかしたら士郎君と同じことができるかもしれない。
定期的にお金が入ってくるわけだから、彼らにとってもそう悪い話じゃない。

このことを知れば、多少高くてもいいから欲しいという人は大勢いるだろう。
そうなれば上だって重い腰を上げ、それなりに予算を組んでくれるはずだ。
そういうわけで、二人にはそういった発注を受けてもらいたい。
ただ、物が物だから魔術の安売りじみた行為に二人が乗ってくれるかが不安なのよね。

「まあ、一番なのはそれらの製造法の提供だけど、これはさすがに無理でしょうね。
 一応それも魔術みたいだし、凛さんが承諾するとは思えないわ」
「……ですね」
凛さんはお金に目が眩みやすいところがある。
だけど、決して譲れない一線ならいくらお金を積んでも意味をなさないだろう。
技術提供がその一線を越えているのは間違いない。

ただ、あのペンダントのように物に魔力を込められるのなら、もしかしたら武器に対しても可能かもしれない。
彼の持つ武器もそうやって作られた可能性があるけど、あのペンダントとは次元が違うから別物と見ていいだろう。
フェイトさんを守るために作った物らしいし、手を抜いているとは考え難い。
概念武装の性質や、彼自身のこれまでを振り返ってもやはり自作の可能性は低い。

仮に武器への魔力付与が可能だと仮定すると、その対象は彼の属性からして基本的には剣やナイフ。
だが、それで充分。
魔力の宿った刃物を提供してもらうだけでも、戦力の底上げになる。
魔導師が持ってもそれほど意味はないかもしれないが、これが一般局員なら話は別だ。
どの程度の魔力があれば魔導師に対して有効かはわからない。
だけど、魔導師に対して有効打になる武器を支給できれば、現場に出せる人員は大幅に増やせる。
これなら人手不足の一端を解消できるだろう。
もちろんその程度は、彼が一定期間に作れる数量によるのだけど。

管理局が「質量兵器の禁止」を謳っている以上、如何に人手不足でも質量兵器を使うことはできない。
陸の方で一部解禁しようとする動きがあるらしいが、今のところは基本的に禁止されている。
それというのも、質量兵器の使用が管理局の大義名分の一つを否定するのと同義だからだ。
だが、魔導師でないモノが魔導師を相手にしようとするなら、完全に不意を突くか質量兵器が必要だ。
故に、魔導師でない局員が出られる現場には制限がかかる。

しかし管理局の法では、拳銃のような小型の火器や刃物まで禁止されているわけではない。
ちゃんと許可さえ取れば、そういったものを所持することは認められている。
だから、そういった武器を作り、それを配備したとしても法には触れない。
すなわち、大義に全く矛盾しないことになる。
こんなことを考えていると、まるで法律の抜け穴を探すマフィアみたいね。

だが実際問題として、二人は預言とは無関係に管理局の未来を左右しうる人材なのだ。
局に入らなくてもいいから、二人とは出来る限り友好的な関係を築きたい。
それは、彼らの存在を知ればほとんどの局員が思うことだろう。

なにはともあれ、他の局員に知られる前にそれが可能かどうか確かめないと。
「まあ、とにかく一度話をしてみることね。
 ダメならダメで無理強いしても逆効果だし、その時は上には内緒ってことで、ね」
下手に知られれば、二人の人となりを知らない者の中には無理を押し通そうとする人が出てくるかもしれない。
そうなったら最悪だ。
あの二人は、その手の人間には絶対に手を貸さない。
丁寧に、誠意を持って話すことだけが唯一の道なのだ。

「それに関しては賛成です。
 なにより、平穏を望んでいる人の生活を乱すのは本意じゃありませんから」
「そういうことなら、情報管理はしっかりやらないといけませんね。
 そっち方面はお任せです」
二人の頼もしい部下は、そう言って賛意を示してくれる。
私は、家族と部下に恵まれているわね。

とりあえず、明日この世界を離れる前に挨拶がてら相談だけはしてみよう。
出来る限り早い答えが望ましいけど、ここはどっしりと構えた方がいいはずだ。
場合によっては、じっくり考える時間も用意すべきだろう。
その間の情報管理をちゃんと保障した上でね。

そうやって明日のことを考えていたら、突如背後から声がかかった。
「さて、何やら話がまとまったようですね。
 ではお聞きしますが、そこで一体何をやっているんですか? みなさん」
かけられるのは、優しさの中に絶対零度の冷たさを宿した声。
だけどその声は、本来ここにはいないはずの人のモノ。

だからだろう。相変わらず感涙にむせんでいるアルフを除いた全員揃って、間抜けな反応を示す。
「「「………あれ?」」」
しばしの間目を離していたモニターを見やると、そこには人っ子一人いない。

し、しぃまっったぁ~~!
考え事やこれからのことに夢中になって、ついモニターの変化を見落としてしまった。
憶えている最後の方の様子では、あの時点ですでに話を終えようとしていたところだった。
つまり、とっくに二人はあの部屋を後にしていたのだ。

だから、いま後ろにいるのは……。
「ギギギギ」なんて擬音が聞こえそうな動きで後ろを振り向く。
そこには、先ほどまで会議室にいた一人の少女と、その腕に抱きかかえられた一匹の山猫がいた。

リニスの眼には明らかな「呆れ」の色が浮かんでいる。
対して、フェイトさんの顔は先ほどのやり取りを見られたことによる羞恥で真っ赤に染まっている。
二人が会議室を出た時点で退散する予定だったのに、思い切り機を逸してしまったのだ。



その後のことは、まぁ詳しく語るまでもないだろう。

大雑把に説明すると、三人そろって仲良く正座させられて、リニスからのお説教を受けている。
始まってすでに二時間上経っているはずだが、一向に終わる気配がない
もう足の痺れさえ感じなくなってきた。
この様子だと、もう一時間以上は継続しそうだ。

世間一般の常識や良識というものを滔々語る山猫。
それをうなだれながら大人しく聞く、それなりの地位にある三名の人間。
傍から見れば、さぞやシュールに映っていることだろう。

クロノだけは「冤罪だ」と呟いていたけど、結局誤解が解かれることはなかった。
同時に、外野から向けられるささやかな軽蔑の視線が、私たちの心を何よりも深く抉る。
純真無垢な女の子から向けられるその視線は、あらゆるものに勝る破壊力を有しているのだ。


そうして、私たちの第97管理外世界「地球」での最後の夜が更けていく。






あとがき

唐突ですが、どなたか適切な文章量ってものを教えてください!
具体的には、字数で○○字以上○○字未満とわかりやすく。
……なに言ってるんでしょうね、私。
でも、結構真面目に悩んでます。

しかし、クロス作品なのに凛と士郎の両方が出ない話ってどうなんでしょうね。
一切関与していないわけでもないし、話題は二人のことなので変則的ではありますがあり……なのかな?
ちょっと自信がありませんが、大目に見てください。

さて、いい加減A’s編に入ろうと思っているので、これで当分は外伝に手をつけることはないと思います。
次の投稿がいつになるかは未定ですが、その時は多分第二部の開始になるはずです。
しかし、一番の問題が凛のバリアジャケットなのが何とも情けないですね。
まさかルビーにするわけにもいきませんし……さて、どうしたものでしょう。
これが決まらないことには途中で行き詰まってしまいすし、早めに決まるといいのですが……。
では、今回はこれにて失礼します。


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