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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 外伝その4「アリサの頼み」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/01 23:41

SIDE-士郎

………………唐突だが、とりあえず状況を確認してみようと思う。

確か、今日は夏休み直前の土曜日だったはずだ。
降り注ぐ日差しは強く、気温もすでに夏真っ盛りと言っていい。
風はあまりなく、前日に降った雨のせいか湿度が高い。
おかげで、ジメジメして実際の気温よりもかなり暑い気がする。
まあ、今は冷房の利いたところにいるので関係ないが……。

そんな日だからか、駅前まで出ても出歩いている人はかなり少なかった。
俺としても、こんな日に外に出るのは正直億劫だった。
しかし、家の調味料の在庫が少し心もとなくなってきたので、仕方なく散策も兼ねて街に出た。
それが昼食のすぐあと。本来ならすぐに終わる様な用事。
だが、凛に頼まれた漢方やら薬草やらの調達もあったので、少し時間がかかった。

それが不味かったのか、いま俺は見慣れぬ黒塗りのリムジンに乗っている。
別に好き好んで乗っているわけじゃない。
帰路で人通りの少ない道を通っていると、突然この車に引きずり込まれたのだ。

正直、自分でも情けないと思う。
こんな簡単に拉致されるなんて、平和ボケもいよいよ重症だ。
いくら日中で日が高いと言っても、その手の輩はやる時にはやるモノだ。
そこが人通りの少ない路地ならなおさらだろう。
フェイト達と初めて会った時も思ったが、ここまで来るとさすがに自分でも呆れ果てる。
一度、本格的に鍛え直した方がいいかもしれないな。

しかし一つ言い訳をさせてもうなら、この連中からは全く悪意や害意の類が感じられなかった。
そのおかげで、事が起こる直前になるまでまるで意識しなかった。
実際、車の中に引きずり込もうとする手はなぜか丁寧で、俺の持っていた荷物もしっかり引き入れてくれている。

生ものもあったから、放置せずに済んだのはよかった。
この気温じゃ、すぐにというわけじゃないが、遠からず傷んでしまう。
それはさすがにもったいない。食べ物を粗末にするのは食材、作ってくれている方々、双方に対しての侮辱だ。
だからまあ、変な話だがすこ~しだけ感謝している。

とはいえ、逃げようと思えば簡単に逃げられる。
魔術を使えばなんてことはないし、単純に体術だけでもその辺の有象無象など相手にならない。
今すぐこのリムジンを占拠する方法なんて、軽く十は挙げられる。

では、なぜ俺は大人しくしているのか。
答えは簡単、目的を聞いてからでも遅くはないからだ。
これが月村家に対し害意を持つ勢力とやらの行動なら、せめて背後関係くらいは聞きだしたい。
なんならこのまま拠点まで付いて行って、そこで暴れてもいい。

とりあえず、今すぐ脱出してもそれほどメリットはない。
月村家関係でないとしても同様だ。
そう思って大人しくしていたのだが、少々違和感を覚える。

だって誘拐の類なら、せめて両脇を固めるようにして俺が逃げ出さないように見張るぐらいはするはずだ。
だが、どういうわけかそれはない。
俺を引きこんだ黒服の男が右隣に座っているだけだ。
別に拘束しようとする素振りもない。
一体何がしたいんだ?

まあ、そのおかげで左側の窓から外を見ることができる。
窓は定番のスモークガラスで、外の景色はかなり見づらい。
だが別に見えないこともない。
その光景が俺の中の違和感を一層強くする。

なにせ、窓から見える風景には何やら見覚えがある。
この風景の先にあるモノに思い当たり、俺は首をかしげる。
良く気配を探ってみると、この黒服もその手の人物特有のピリピリした空気がない。
むしろ、「ああ馬鹿馬鹿しい」と言わんばかりの投げやりな雰囲気すらある。

っと、どうやら目的に着いたようだ。
扉が開かれ、右隣にいる人と同じ黒服の男性が恭しく頭を下げている。
……ああ、何となくオチが見えた。
目的も理由もサッパリだが、とりあえずこれが誰の指示によるものかおおよその想像がついた。
アイツめ、一体何を考えてるんだ。

リムジンから降りた俺の目に飛び込んだのは、案の定御立派なお屋敷。
そして、およそ二十メートルほど先で仁王立ちする知人の姿だ。

なんだろう、よくわからんが頭痛と胃痛、そしてただならぬ倦怠感が体にのしかかる。
この先に何が待っているか知らんが、どうせくだらないことだろう。
そう思ったが、とにかく聞くべきことを聞かねばならない。
「いろいろ言いたいことはあるが、とりあえず一つ。
 ……………帰っていいか?」
「却下!!」
俺の切実な願いへの答えは、実にアッサリ切って捨てられた。
ああ、どうせそうだろうと思ったよ。

空は快晴だが、俺の心は曇天です。今にも雨が降りそう。具体的には眼から。
それを何とか堪え、次の言葉を紡ぐ。
「そうか。じゃあもう一つ。
 俺をどうする気だ?」
普通はこちらが先なのだろうが、正直聞きたくなかった。
だが、聞かないと始まらない。
今すぐ逃げだすのも手だが(というかそうしたい)、それをすると後が怖そうなのだ。
だってコイツ、凛と同じ匂いがするんだもの。
下手なことをすると、後日ロクな目に合わないだろう。
なんで俺の知り合いって、この手の女傑が多いのかなぁ。

深々とため息をつく俺。
その意味を察しているわけではないだろうが、目の前の人物がキツイ目を向ける。
「わたしの婚約者になりなさい」
返ってきた答えは、ある意味俺の予想通りであり、同時に予想の斜め上を行くモノだった。

「……………」
空を見上げながら言葉の意味を咀嚼する俺。

しばしの沈黙を破り、やっとの思いで出たのはこの一言だった。
「…………なんでさ」



外伝その4「アリサの頼み」



「要約すると、アリサの爺さんがお見合いをさせたがっているから、その場凌ぎのウソに付き合えってことか?」
屋敷に入り、テラスで優雅なアフタヌーンティーなどふるまわれながら聞いた話をまとめるとこんなところだ。

なんでもアリサの祖父は、それはもうアリサを可愛がっているらしい。
アリサの母が妊娠したと聞けばベビー用品の山を送り、出産したと知ればおもちゃや絵本をトラック一台分送りつけたという(無論、それぞれ別なので計二台分)。
小学校に入学する時には、聖祥学園そのものを買収しようとしたらしい。
去年のクリスマスプレゼントには南海の孤島を、誕生日にはヨーロッパの古城を送ろうとしたとかなんとか。
その他にも挙げ出したらきりがない。
はっはっはっはっ。正気じゃねぇぞ、そのじじい。
ま、そんな人の息子の割には常識人のアリサの父の奮闘により、それらの蛮行は未然に防がれたそうだ。

ちなみにその爺さんは日本嫌いらしく、現在は欧州に住んでいる。
で、アリサの親父さんは大の日本好きなんだとか。
そのため、バニングス一家が日本に住むことになった時はそうともめたようだ。
当人は日本に近づくのも嫌で、ここ数十年断固として訪日していないんだとか。
何か嫌な思い出でもあるのかね。
だが、そのせいでかわいい孫と一緒にいられないのを嘆き、そんな極端な行動に出ているらしい。
なんてチグハグな親子だろう。

まあ、それは置いておく。問題はこの先だ。
普通に考えて、それだけかわいがっているなら変な虫がつくのは嫌がるだろう。
高町家はちょっと例として問題だが、程度の差はあれそういうものな気がする。
その爺さんも、一応そういう考えの持ち主だという。
だが、どういう経緯を経たのかは不明だが「先に相応しい相手を用意してしまえばいい」という結論に至ったらしい。
また、「早く曾孫を抱きたい」と事あるごとにのたまっているのだそうだ。
アリサはまだ十歳未満だぞ?

とにかく、さっさと婚約者を決めることで「変な虫がつくのを防ぐ」と「曾孫を一日でも早く抱く」の二つを両立させる気だという。
正直、俺には理解不能な発想だが、本人は割とどころかいたって真面目なんだとか。

で、アリサがそんなことを承服するはずもない。
自分の相手くらい自分で決めたいし、何よりそんな下らん理由で押し付けられるなど御免だという。
言い分は実にもっともだが、それが通じるような良識はないらしく、向こうもそう簡単には引き下がらない。
色々紆余曲折を経て、最終的にアリサ自身の選んだ相手とそのじい様の選んだ人物が対決して、勝った方に従うということになったそうだ。
なに、その超展開?

しかし困ったことに、アリサにはそんな相手がいない。
またその爺さんの選んだ相手であり、そんな条件を出してくるあたり将来有望な人物なのだろう。
そんな相手に勝てそうな人物となると、かなり限られてくる。
アリサ自身売り言葉に買い言葉な勢いでその条件を飲んでしまったので、後先考えていなかったのだという。

だが幸運にも、アリサには相手はおらずともそれ以外の条件を満たしている知り合いがいた。
そう、アリサの数少ない男友達であり、それなりに学業優秀な俺に白羽の矢が立ったのだと。

いやぁ、ツッコミどころが多すぎてどこから突っ込んだものやら。
とりあえずわかったのは、俺の行動がアリサの未来を決定するらしいということだ。
その他のことは気にしない方がいい。うん、きっとそうだ。

「まあ、そういうことね。わかってると思うけど、アンタが適任だから頼んだのよ。
 アンタとなら、とりあえず嘘が本当になることもないしね」
まあ、俺にはすでに凛がいるからな。
凛に捨てられない限り、そんな可能性は微塵もない。

それに能力的に見ても、俺はいろいろ反則だからまず負けることはない。
だって中身は二十代後半だぞ。アリサの相手にしようと言うのだから、年齢も近いはずだ。
どんなに離れても、せいぜい中学生くらいだろう。
そんな相手に勉学の類で負けたら、さすがに自殺したい。運動関係でも同様だ。
万が一にも芸術関係だったら、負けることもあるかもなぁ。

「はあ、別にいいけど。とりあえず、それっぽくしてればいいんだな。
 で、その対決とやらはいつなんだ?」
突然拉致されたことには言いたいこともある。
だが、正直馬鹿馬鹿してくてやってられん。文句を言う気も失せてしまった。

そう、やってられんのだが、友人の頼みを無碍にもできない。
アリサはかなり本気で困っているみたいだし、なおさらだ。
「ん、ありがと。そのうちお礼はするから。
 時間の方は明日、場所はチューリッヒだから今すぐ出発よ」
「…………は?」
おかしいな、眼ほどではないが耳の良さには自信がある。少なくとも悪い部類じゃない。
だが、今アリサが行ったことは正直信じがたい。何かの冗談じゃないのか。

「何よ、そのマヌケ面は。そうでもなければ、あんな強引な手を使うわけないじゃない。
 というわけで、すぐに空港に行くわよ」
呆気に取られる俺を無視し、アリサは堂々とした歩調でテラスを出る。
俺は事態についていけず、呆然としたまま黒服の皆さんに両脇を抱えられ引きずられる。
そのまま再びリムジンに押し込まれ、空港に連行されるのだった。



SIDE-アリサ

全くお爺様にも困ったモノだわ。
だいたい、なんでこの年で婚約者を作らなくちゃならないのよ!
いい年して、無駄に行動力があるから性質が悪いのよねぇ。

とはいえ、何とか士郎を捕まえることができたのは幸いだ。
はじめ凛の家に行き不在なのを知った時は、正直焦った。
おかげで人手をかき集めてのローラー作戦を敢行したのだが、無事発見できた時は安堵のため息をついたものだ。

なにせ士郎はこのお見合い破談作戦には必要不可欠な人材なのだ。
こいつには、とりあえず欠点らしい欠点がない。
テストはわたし同様いつも満点、運動神経も抜群だ(まぁ、凛もだけど)。
その上家事全般に秀で、にぶちんではあるが気配りもできる。
これならお爺様が連れてくるどっかの誰かにも対抗できるだろう。

何よりありがたいのは、こいつがどう見ても日本人には見えないところだ。
お爺様は日本嫌いの日本人嫌いだから、わたしの連れてきたのが日本人だと知ればそれだけで暴れかねない。
だが、誰が白髪の日本人小学生がいると想像するだろう。
適当に偽名でも名乗らせれば、まさに万全の備えと言える。

ちなみに、その際の名前は「ウェーバー・ベルベット」だそうだ。
何でも、昔少しお世話になった人の名前なんだとか。
まあ、わたしにとってはどうでもいい事だけど。


だが、今のわたしには少し別の問題が浮上した。
その問題は、ある意味お見合いよりも深刻で重大だ。
それは…………
「……なんで、アンタ達がここにいるのよ……」
場所は、チューリッヒでも有名な高級ホテルの一室。
もうそろそろお見合いの時間だ。
私はオレンジのドレスに着替え、薄い化粧をさせられてその時が来るのを待っている。

だがそんなわたしの目の前には、最も親しい三人の友人のうち二人がいる。
うち一人は表面的には泰然と、もう一人は心臓に良くない笑顔で座っている。
どうやってここを突き止めたのか知らないが、遠路遥々追ってきたらしい。
いや、御苦労様です、としか言えないわ。

「別に私の方は驚くほどのことじゃないでしょ。
 一度家に来たんだから、何かあったっていうのはわかるし」
まあ、アンタはね。妙に勘が良いし、こいつなら何かに気付いても不思議じゃない。

本来なら、わたしが連れてきたわけでもない凛がここにいるのは不自然極まりない。
小学生一人で海外に出るなんて普通無理だろう。
まあ、その無理を押し切りそうなやつではあるけどさ。
だが、もう一人の方を利用したと考えれば不思議じゃない。

そう結論し、よろしくない気配を放つもう一人に話しかける。
「ってことは、すずかは凛に引っ張られてきたの?」
凛一人でここまで追ってくるのは難しいが、すずかなら月村家のコネやら権力で何とかしてしまえる。
多分、凛がすずかの家に強襲して脅迫したんじゃないかなぁ、と考えている。

しかし、そんなわたしの言葉にすずかは心底不思議そうに首をかしげる。
「え? そんなのじゃないよ。
 偶々わたしもアリサちゃんの後を追いかけようとしている時に、凛ちゃんと会って一緒に行くことにしただけだもの」
「ちょっと待ちなさい!! なんでアンタが今回のことを知ってるのよ。
 まさか……盗聴器なんてしかけてないでしょうね」
友人を疑うのは嫌だが、それくらいでないと説明がつかない。
すずかはともかく、忍さんはそういうのを作るのが好きだからなぁ。
絶対にないと言い切れないのが、ちょっとどうかと思う。

「やだなぁ、アリサちゃんってばぁ」
わたしの質問にいつものやわらかい笑顔で返すすずか。
でもその先を続ける様子はない。わたし自身その先を聞くべきなのか迷っている。
その先に来るセリフが「そんなわけないよ」ならいい。
だが、「そんなのあたりまえじゃない」だったらと思うと、深く聞く気になれない。
仮に盗聴器が設置してあるとして、どうやって仕掛けたのやら。
そういうもののチェックはかなり小まめにしているはずなのに。

家にしてもそれ以外にしても、うちの情報管理とセキュリティのレベルはハンパじゃない。
それすらもかいくぐり、この情報を手に入れた月村家に戦慄を覚える。
だいたい今回のお見合いの話は、士郎を捕まえた日の午前中に決まったことなのだ。
まだそれから二十四時間ほどしか経っていない。
ほんと、一度家の中を総点検した方がいいかもしれないわね。

ちなみに、その結果が白だったことをここに追記する。


「それで、アリサちゃん」
「え、なに?」
「お見合いの席で士郎君を婚約者として紹介するって、どういうこと?」
うわぁ、なんか凄くいい笑顔をしているんだけど、それがどうしようもなく怖いのはなぜなのかしら。
おかしいわね。カーテンは開いていて日差しだって入ってきているのに、なぜか室内が暗く感じるわ。

すずかの持っている情報は間違ってはいない。いないのだが、微妙に不足がある。
誰よ、すずかにこんな中途半端な情報渡したの!
凛の方は興味なさ気にしているけど、こちらをチラチラ見ている。
この様子だと、凛の持っている情報もすずかの持っているそれと大差なさそうだ。

不味いわね。さっさと説明しないと取り返しのつかないことになる。
このままだと、また「黒すずか」が降臨してしまう。
それどころか凛も荒れ狂うかもしれない。
凛が嫉妬に狂うとどうなるのか知らないけど、まあ碌なことにならないのは想像に難くない。

「ま、待ちなさいすずか。それ誤解だから!?」
「誤解って、何が?」
お願いだからその笑顔で詰め寄るのはやめて。
特にその眼。暗く澱んだ眼からは、なんだか不気味な光が放たれている。

ああもう!! その眼で見られてると、生きた心地がしないのよぉ!
人選間違ったかなぁ。もっと無難な誰かがいればそっちを選んだんだけど、他にいなかったのよねぇ。
とりあえず黙っていれば問題ないと思ったんだけど、甘かった。
こんなことなら、多少苦しくても恭也さんを引っ張ってくればよかったかも。

そんな感じでわたしが後悔していると、いつの間にか背後に回った凛が肩に手を置いて話しかけてくる。
「ええ、そうね。微に言って細を穿つ説明を要求するわ。
 安心して。ちゃんと説明してくれれば、士郎みたいに調教する気はないから」
それは、士郎はすでに調教が決定してるってこと?
アイツも苦労してるわねぇ。

それと、あんまり肩を握る力を強くしないで。
地味に痛いから。

だが、ここで思わぬ横槍が入る。
「お嬢様。お時間ですので、ロビーにお越しください」
これを幸運と取るか、それとも不運と取るか。
このときのわたしはそれを幸運と取った。
どうせ後で説明すればいいし、一刻も早くこの場から逃げ出したかったのだ。

だが、わたしは馬鹿だった。
これは幸運などではなく、地獄の歯車が導き出した、とっておきの不幸だったのだ(主に士郎にとっての)。
この時のわたしは、まだ自分の運命を知らずに能天気に逃げだした。
「悪いわね! そういうわけだから、詳しい説明はまた後で。それじゃ!!」
凛の手を払いのけ、脱兎のごとく扉に駆けていくわたし。

「あ!? こら、待ちなさい!!」
誰が待つか! こっちは人生かかってるのよ。
説明なら後でいくらでもしてあげるから、それまで待ってなさい!

「……アリサちゃん、今の内に全部吐いちゃった方がいいのに。
 そう。そういう態度なら、わたしにも考えがあるよ。くすくす」
ややさびしそうな声のすずか。普段なら立ち止まるところだが、その内容はヤケに物騒だ。
おまけに、一言一言が背筋に絶対零度の矢となって突き刺さる。
士郎と関わるようになってからというもの、知らない一面を見る機会の多い事。
喜んでいいのか微妙だけどね。



SIDE-ノエル

「まったく、アリサは一体何を考えているのかしら。
今までそんなそぶりを見せてこなかったけど、まさかあの子まで士郎にちょっかい掛けようってんじゃないでしょうね。
ただでさえすずかに加えてフェイトまで参戦してきて鬱陶しくなってきたのに。
ましてや両親だけじゃなく祖父にまで紹介って、いくらなんでも先走り過ぎでしょ!」
怒り心頭、と言わんばかりの調子で不満を口にする凛さん。
普段は年不相応に冷静で大人びているのに、今は年相応に見えます。
なんだかんだと言っても、やはり恋人が他の女性と仲良くしているのは面白くないのですね。

ところで、「フェイト」というのは最近なのはお嬢様とお友達になられたという、あの「フェイト」さんのことでしょうか。
一体どういう経緯で仲良くなられたのかすずかお嬢様もご存じでない様子ですが、凛さんはだいぶ詳しいところを知っているみたいですね。
普段のすずかお嬢様ならそのあたりを追求しそうですが、今は目の前のことに集中していてそれどころではないご様子ですね
「うふふふ。アリサちゃんには、後でじっっっくりお話聞かせて貰わなくちゃ」
こちらからでは顔はわかりませんが、すずかお嬢様の声は穏やかです。
そう、声は穏やかなのに、言っている内容と合致していません。
それと、それはたぶんお嬢様のセリフじゃないと思いますよ。

「まったく、士郎も士郎よ。
こう、呼ばれたらホイホイついていく習性は何とかならないかしら。
帰ったら、念入りに体と心の両方に今回の教訓を刻む必要があるわね。
それこそ血がにじむなんてのじゃ足りないわ。
骨の髄にまで刻んでやらないと。そう、物理的な意味でもね」
何やら物騒なことをおっしゃっていますが、まさか本気じゃありませんよね?
物理的に骨に刻んでは、大変なことになりますよ。

それにしてもこの二人、会話が成立していませんね。
会話のように聞こえますが、お互い言いたいことを言っているだけな気がします。

今、私たちは士郎さんとアリサさんのいるホテルの真向かいのビルの屋上にいます。
ここからだと、お二人のいる部屋を覗くのにちょうどいいのだそうで。
忍お嬢様、いつの間にこんなところを見つけられたのですか?

しかし、十歳くらいの少女二人がビルの屋上で這いつくばって双眼鏡をのぞいているのは中々シュールですね。
「不審人物」なんてもので片づけていい状態じゃありません。
屋上で人がいないのが幸いしましたが、たぶん人がいてもすぐさま逃げ出しますね、これは。

なにせ、縁でお二人の様子を監視しているすずかお嬢様からは、それはもう禍々しいオーラが滲み出ているのですから。
なんというか、この地獄の鬼も裸足で逃げだしそうな空気は心臓に悪いですね
お嬢様、いつの間にこのような気迫を纏えるようになられたのでしょうか。

ただ後に凛さんは、この時のことを何やら懐かしそうに……
「まるで、桜が隣にいるかのような錯覚すらしたわ。
桜に似た雰囲気のある子だとは思ってたけど、こんなところまで似ているとは……。
並みの人間だったら、扉を開けた瞬間に回れ右して逃げ出すでしょうね」
と述懐していらっしゃいましたね。
それを聞いた士郎さんは薄ら寒そうに首をすくめていましたけど、一体どのような方なのでしょう。

また凛さんはこうもおっしゃっていました。
「ま、桜なら地獄の最下層である阿鼻地獄の鬼さえ慄かせるでしょうけど、それに比べればまだまだ甘いわ。
いまのすずかじゃ、一層目の等活、あるいは二層目の黒縄あたりが限界かな」
本当に何モノですか? その「桜」さんという方は。
話を聞く分には、どうしても人外の怪物しかイメージできませんよ。

とはいえ、出来ればお嬢様にはこれ以上進化して欲しくはありませんね。
その方に近づくのもできれば避けていただきたい。
今でさえ、あの子が不憫過ぎます。
そう思い、意を決してすずかお嬢様に声をかける。
「すずかお嬢様。気持はわかりますが、少し抑えてください。
 ファリンが壁際で涙目になってますよ」
そう、私たちと一緒にここまで来た私の妹は、今壁際でイヤイヤと首を振りながら目に涙を浮かべている。
これ以上下がりようがないのですが、背中が壁にぶつかっていながらなお下がろうと足をバタバタさせています。
なんというか、若干錯乱しているような気が無きにしも非ずと言ったところですね。

いや、気持ちはわかりますよ。
私自身、今まで知らなかったすずかお嬢様の一面に恐れおののいている真っ最中なのですから。
こういう時、感情が表に出にくいというのは不利ですね。
周りからは冷静なように見えるようですが、決してそんなことはありません。
この場に踏みとどまっているだけで、かなりの労力がいるのですから。
先ほど声をかけるのも、かなりの勇気が必要でした。
ファリンと私の反応の違いは、性格と人生経験の差でしょう。

それにしても、忍お嬢様。何がそんなに楽しいのですか?
私のすぐ横でこれ以上ないと言わんばかりにいい笑顔をしていらっしゃいますが、その理由を考えると頭痛がしそうです。
すずかお嬢様を焚きつけるだけ焚きつけて放置して、無責任にもほどがあるでしょうに。
それに……
「うふふ。何やってるのかなぁ、アリサちゃん?
 楽しそうだねぇ。そんなに士郎君のことを紹介できるのがうれしいのかなぁ?
 その手を握ったら、あとで紅に染めちゃうぞ♪」
すずかはお嬢様は人の話全然聞いてませんし。
それに「紅」って、親友を血だるまにでもなさる気なのですか、お嬢様。
それと、その独り言非常に怪しい上に怖いですよ。

それにしても、すずかお嬢様は「楽しそう」とおっしゃりますが、実際のところどうでしょう。
なんというか、どちらかというとアリサさんはイラ立っているように見えますけど。
そもそも、ご家族に紹介するというには明らかに様子が変です。

アリサさんのご両親は、士郎さんやアリサさんと同じ側に座っています。
そして、テーブルを挟んだ向かい側には、見事な口ひげを蓄えたアリサさんのお爺様と十七・八の金髪の男性が座っておられます。
ところで、あの方はどなたですか? 該当する人物がいないのですが。
アリサさんにお兄さまはおられませんし、士郎さん同様あの中では明らかに異物です。

それに、士郎さんは士郎さんでなんだか目が死んでます。あれは、腐った魚の眼ですね。
推察するに、思考を放棄し「なるようになれ」というやけっぱちな気分のように見受けられます。
士郎さん自身、今の状況は不本意でしかないのでしょう。

おそらく、すずかお嬢様や凛さんに渡された情報に嘘や捏造されたものはないのでしょう。
ですが、決して事実でもなさそうですね。あの雰囲気は、明らかにお二人の予想しているそれと違います。
私自身詳しい情報をいただいていませんが、それくらいは察しがつきます。

おおかた、情報源であり、ここまで連れてきた忍お嬢様が、「面白そうだから」と情報を歪曲させたのでしょう。
忍お嬢様の悪ふざけにも困ったモノです。
「がんばれ~~」などとのんきに声援を送っていないで、何とかしていただけないものでしょうか。
さっきから近づいてきたカラスや鳩が、五メートル手前から一目散に逃げていくのですよ。

「……はぁ」
お二人ともまだ気付いていないみたいですけど、からかわれているのに気付くのが先か、それともタガが外れるのが先か。
早めに教えてしまえば被害は最小になるのでしょうが、今のお二人に何を言っても耳に入りそうにありません。
故に、遠からず訪れるであろう、士郎さんとアリサさんの悲劇が容易に想像できてしまう。
その事実に、思わず天を振り仰ぐ。
今の私に事態を打開する手はない。とはいえ、せめて冥福ぐらいは祈るべきかもしれませんね。

「ほんとうね。アリサ、大概にしないとあとで…………殴っ血KILLわよ!!」
「ここから言っても聞こえませんよ」
凛さんの物騒な発言に、つい突っ込んでしまいました。
まあ、私の発言は一切気にとめておられないようですが。

ここからはお二人の様子はわかりませんが、それでよかったと思います。
なにせ、お二人の双眼鏡からは「ミシミシ」という嫌な音が聞こえてきます。
もし今のお二人の顔が見えたら、私もファリン同様に錯乱しているかもしれません。

いけませんね。疲れているのでしょうか。
お二人の背に、般若や修羅の幻が見える気がします。
具体的には、お嬢様が般若で凛さんが修羅ですね。

すずかお嬢様、以前はあんなに内気でしたのに(間違った方向に)お強くなられましたね。
ノエルは、嬉しいのか悲しいのか分かりませんが涙が止まりません。

「あっ!? 奥に入ってく!! 行くよ、凛ちゃん!!」
どうやら中で変化が起こったらしく、すずかお嬢様が動き出しました。

ですが、凛さんはそれよりもっと早い。
すずかお嬢様が立ちあがろうとしたときには、すでにこちらに向かって走ってきているのですから。
一体いつの間に。いつ動いたのかまったく気付きませんでしたよ。
「すずか、早くしなさい!! 忍さん、盗聴器とかないの!?」
普段の冷静さをかなぐり捨てた凛さんが、乱暴な口調で忍お嬢様に詰め寄っています。

それに対する答えは……
「あるわよ。ハイ」
満面の笑みでポケットから端末を出すお嬢様。
そんなものまで用意してたんですか。

凛さんは操作の仕方がわからないらしく、差し出された端末を見つめしばし呆然としていますね。
苦手とは聞いていましたが、ここまでとは。
その間にすずかお嬢様が端末を強奪し、扉から出て行かれてしまいました。
「あ!? ちょっと待ちなさい!」
大慌てでその後を追う凛さん。

「じゃ、私たちも行きましょ。ほらファリンも行くわよ」
「え、ええぇ~~~!?」
涙目のままお嬢様に連行されるファリン。
これ以上あの二人の壮絶な気迫にあてられたくないのでしょうね。
私も激しく同意します。

とはいえ……
「……はあ」
再度溜息をつき、その後を追う私。
忍お嬢様付きのメイドとして主をほおっておくわけにもいきませんし、私に選択の余地はありません。

それに二人が暴走した時止める人間が必要でしょう。
お嬢様はきっと手を出されないでしょうし、ファリンはあの調子。
これでは、私がその役をやるしかありませんね。

できれば、穏便に片付いてくれるといいのですが。
きっと、それはかなわないのでしょうね。



SIDE-士郎

終わった。
どうしようもなく馬鹿馬鹿しくて、どうしようもなく無駄な戦いがやっっっと終わった。

とりあえず一言。
「なあ爺さん、病院に行った方がいいんじゃないか? 主に精神科」
うん、今の俺の心情はこれに尽きる。

九歳の子どもの見合い相手に、なんで十八歳の男を連れてくるかね。
年の差、倍だぞ。
アリサの三倍の年齢の俺が言えた義理じゃないが、それでもこれは正気を疑う。

「なんじゃと、この小僧!? 貴様なんぞにアリサはやらんからなぁ!!」
まあ、貰っても困るのだが……。
これは口が裂けても言えないな。言ったが最後、アリサに何をされるか分かったもんじゃない。
大体、これはそれ以前の問題だろうに。
本人の了承なしに婚約者決めようってのが、そもそも間違ってるんだよなぁ。

閑話休題

正直、このジジイが十八歳の男を連れてきた時は驚いた。
おそらく十歳前後、精々クロノと同じくらいを想定していたのに、この年齢を連れてくるとは思わなかった。
このジジイの中の判断基準を一度調べさせてもらいたくなったよ。

勝負の内容は、思いのほかシンプルで卑怯だった。
てっきり勉強関係もやらされるかと思ったのだが、そっち関係は一切なし。

まあ、助かったのだけどさ。
一応大卒程度の学力はあるつもりだが、それでもここ数年は戦場暮らしだったからだいぶ忘れている。
語学系はそうでもないが、それ以外はかなり怪しい。
相手が十八歳だということを考えると、飛び級でもしていれば俺と同等かそれ以上の学力があっても不思議じゃない。
むしろ、わざわざ連れてくるからにはそれくらいあって当然だと思う。

また、芸術系や家柄自慢の類もなかったのはありがたかった。
だけどさぁ、外見九歳の子供と十八歳のガタイのいい男でこれを競わせるのはどう考えておかしいだろう。
この爺さんは思いのほか武闘派らしく……
「伴侶の身も守れなくてどうする! というわけで、この場で決闘してもらう」
ということになった。

なにが「というわけ」なのか分からんが、普通に考えて問題あり過ぎるだろう。
アメフトのラインマン並みの筋肉を搭載した青年VS(見た目)細身の小学生
どこからどう見たって弱い者いじめにしか見えん。
勝負内容を聞いたアリサが、70年代的に「ズコー!」とこけていたのが印象的だったな。
もちろん復活するなり食って掛ったわけだが、それをキレイに無視してこの爺は決闘を開始しやがった。

真っ当な常識を持つ人間なら、結果など論ずるまでもないだろう。
そう、「常識」の範疇内なら。
俺は、その常識に思いきり喧嘩売るような存在だ。
だからまぁ、当然常識的な結果になどなるはずもないわけで。

相手の方は見た目通り大層なパワーを有していた。
スピードだってそう捨てたモノじゃない。
技術だってあった。紳士のスポーツと名高いボクシングを、ほぼプロレベルで身に付けていた。
まあ、小学生相手に拳を振るっている時点で紳士も何もあったもんじゃないが。

だが、所詮はその程度。
一般の同じ年頃なら、十中八九トップクラスの実力だろう。
恭也さんを引き合いに出すのは間違っているかもしれないが、あの人みたいに飛びぬけて強いわけじゃない。

それにボクシングなんかが相手だと、この身長差はかなり有利に働く。
向こうは身長190センチ近く。真正面に拳を突き出せば、余裕でこちらの頭の上だ。
必然、放たれるパンチはほぼ全て下に向けてのモノになる。
アッパーやフックの類など、打ちづらいことこの上ないだろう。ボディーだってやりにくいはずだ。

おかげで、懐に入りやすいったらなかった。
放たれる拳は、人外連中を相手取ってきた俺からすれば止まっているのと大差ない。
かいくぐって懐に入り込み、密着状態にしてしまえばこちらのモノ。
なにせ、一度入ってしまえばこれ以上ない安全地帯だ。後は煮るなり焼くなり思うがまま。

さすがに腹は分厚い筋肉で固められており、強化なしの素の俺の腕力でこれに痛手を与えるのはちょっと面倒。
それならということで、貫通力の高い勁を急所の水月に打ち込み動きを止める。
そのまま膝カックンの要領で膝の裏に蹴りを入れ、体勢を崩す。
後は飛びあがって顔面に掌底を入れてやれば、仰向けに倒れてくれるわけだ。
あんまり苦しめても可哀想なので、倒れた後とどめに顎につま先で蹴りを入れて昏倒して貰った。

まあ、なんだ。相手を見た目で判断してはいけない、という良い実体験になったんじゃないか、たぶん。
ところがこの爺さん。その結果に納得がいかないらしく、さっきから駄々っ子のように文句ばかり言っている。
いい加減疲れてきたので、俺としてはさっさとご退場願いたいわけだ。

「見苦しいわよ、お爺様。約束通り、大人しく婚約の件は諦めてよね」
さっきまで心配そうにしていたアリサは一度「ああ、心配して損した」と言った後、満面の笑みで要求している。
そりゃあ、アリサとしては嬉しいだろうな。
これで鬱陶しい見合いだの婚約だのから解放されるんだから。

「ぐぬぬぬ……仕方があるまい。お前たちの婚約を認めよう。
 わかっておるだろうな小僧。もしアリサを泣かせてみぃ、その時は生まれてきた事を後悔させてやるからな!」
なんだ、その脅迫は。
口惜しげにしていたかと思ったら、一瞬の落胆。そして、これ。
切り替えが早い云々以前に、この爺さんのとっぴな発言にはいい加減うんざりしてきた。

しかし、婚約者ねぇ。
俺たちには全然そんな気がないのだが、この演技はまだ続けなくてはいけないのだろうか?

そんなことを考えていると、せっかく終結に向かっていた事態を引っかき回す闖入者が、扉を蹴破る音とともに現れた。
「ちょぉっっっと待ったぁぁーー!!」
ああ、なんか聞き覚えがあるぞ、この声。
おかしいなぁ、ここにはいないはずなんだけどなぁ。
嫌だなぁ、そっちの方を向きたくないなぁ。

というわけで、知らぬ存ぜぬを決めこもうとする俺。
だがまぁ、そんな都合よくいくわけがないわけで。
「「カッカッカッ」」という足音が、俺のすぐ後ろで止まる。ちなみに、音の数は二つ。
背中には滝のような冷や汗が流れ、顔にはカエルもびっくりするぐらいの脂汗が滲んでいる。

そして、俺の肩に置かれる二つの手。
「「士郎(君)~~~~」」
「いだだだだ!!? ほ、ホントに痛い!!」
まるで、万力のような力で握られる俺の肩。
つ、爪が食い込む~~!!

「げっ!?」
あからさまに「不味い」という顔をするアリサ。
その瞳に映った像を俺の眼が捉える。
そこには、二鬼の悪鬼羅刹がいた。



SIDE-忍

すずかと凛ちゃんがお見合い会場に突入するのにやや遅れ、私とノエル、それに涙目のファリンが到着する。
目の前には、蝶番が取れかけて傾いた扉がある。
半壊した扉の外から覗き込む様に、中の様子を見る。

「さぁ、どういうことなのか説明してもらおうかしら、士郎。
 洗いざらい、キリキリ吐きなさい」
士郎君の襟首を掴んで、締め上げる形で宙づりにする凛ちゃん。
当の士郎君は口腔から泡を吹いている。あれじゃ喋るのは無理じゃないかなぁ……。
というか、意識があるかさえ怪しいわね。

で、我が妹はというと……
「どうしたの、士郎君? 黙ったままじゃわからないよ。
 カニさんみたいに泡をふく芸はいいから、はやくしてくれないかな。
この後には、アリサちゃんにも聞かなきゃならないんだから」
私でさえ見たことがない笑顔で、アリサちゃんに死刑宣告している。
それにしても士郎君のアレを「芸」か。わざと言っているとしたら、あの子も辛辣になったわ。
あの様子だと素で言っているみたいだけどね。

アリサちゃんは逃げたのかな、と思い見回してみる。
いやまぁ、ね。今のあの二人がアリサちゃんを逃がすとは思えないんだけどさ。

だけど、だからこそおかしいな。どこにもアリサちゃんが見当たらない。
(もしかして、本当に逃げおおせたのかしら? でも声はするって、あれは……)
ああ、私も年かなぁ。それとも、無意識的に視線から外してたのかしら。
アリサちゃんはいた。それもすずかのすぐそばに。
厳密には、首をすずかにがっちりホールドされているのだ。
服なら脱いで逃げることもできるけど、あれじゃあ逃げられないわ。
なんかこう、いつでも首をへし折れますって感じに握ってるわね、あの子。

さすがのアリサちゃんも絶望に震えているかと思ったが、意外にもそれは違った。
「わははは! つまりその小僧は嘘っぱちというわけじゃな。
 では、あの約束は無効じゃ、無効! 次こそはお前に相応しい男を連れてくるから、楽しみにしとれよぉ!!」
何やら元気にまくし立てるご老人。確かあれってアリサちゃんのお爺さんだっけ。

それに対してアリサちゃんはというと……
「ふざけんじゃないわよ!! お見合いなんて、もうごめんだわ。二度と連れてくるなぁ!」
絶望的状況にもかかわらず元気いっぱいに叫んでいる。
状況がわかってないのか、それとも単に忘れているのか。

アリサちゃんの御両親は……ああ、いたいた。
窓際の椅子に座ってお茶飲んでるわ。
うん、見て見ぬふりを決め込んでいるようね。
たぶん、この状況じゃ一番賢明なんじゃないかなぁ。

ところで、あそこに転がってる黒いのは何かしら?
みんな気にしてないみたいだし、おそらく大したことはないのだろう。

って、あれ? その黒い物体が身じろぎしている。
ああ、よく見たらさっきアリサちゃんのおじいさんの横に座っていた人じゃない。
なんであんなところで寝てたのかしらね?

おぼつかない足取りですずかたちの方へ歩いていくが、何をするつもりだろう。
背後から二人に話しかけているみたいだけど、二人揃って無視してる。

どうやら彼はあまり気の長い方ではないらしい。
焦れてきたのか二人の肩に乱暴に手をやる。
あちゃぁ、止めに入った方がいいかもしれないわね。

そう考えて身を乗り出すと……
「「邪魔(です)!!!」」
と、かなりすごい剣幕で怒鳴る二人。

振り向きざまにすずかの肘が彼の鳩尾に、凛ちゃんの膝が股間を打つ。
すずか、鳩尾に肘だと下手すると死ぬわよ。特に、私たちの力だとシャレにならない。
それと凛ちゃん、男の人相手にそれはエグイわ。

ほら、せっかく起き上ったのにまた悶絶して倒れちゃったわよ。
プルプルと震える背中が哀れだわ。
場の空気を呼んでいなかったとはいえ、さすがにアレはちょっと、ねぇ。

そのまま突っ伏した名も知らぬ誰かを無視して士郎君への追及を再開する二人。
自分の半分ほどの年齢の少女に歯牙にもかけられない男かぁ。
なんていうか、特別運の悪い人っているのねぇ。


「お嬢様。これは、どうすればよろしいのでしょうか?」
ノエルが困惑も露わに聞いてくる。
ああ、珍しい表情ね。あなたがこんな反応するなんて、長い付き合いだけど初めてじゃないかしら。

いやまぁ、気持ちはわかるわよ。こんなカオス、一体どう対処していいか分からないわよね。うん、私もよ。
「それは、あまりに無責任ではないでしょうか。
 ある意味これは、お嬢様が仕組んだ事なんですから」
まあ、元凶って言えば元凶よね。
私がすずかや凛ちゃんにリークしなければ、とりあえずこんなことにはならなかっただろう。

だが……
「ノエル。これ、人間に何とかできると思う?」
「……………………」
私の質問に、沈黙で持って答えるノエル。
まあ、それが何よりも雄弁にこの状況を説明してる。

「ノエル。この場合の沈黙って、できないって肯定しているのと同じよ」
別に恥じることじゃないわ。
この状況を収拾できる人がいれば、私もあってみたいモノ。
いやぁ、半ば私が仕組んだようなものとはいえ予想をはるかに超えてるわ。

「それじゃ、みんなが落ち着くまで待つとしましょ」
たぶん、これがこの状況での最善だ。
適当に騒げばみんな落ち着くだろう。


思いのほかこの混乱は長く続き、事態が沈静化したのは二時間後のことだった。






あとがき

外伝アリサ編をお読み頂き、ありがとうございます。
コンセプトは「ドタバタ」かな? すいません、ちょっと自分でも自信ありません。
後、穴だらけなのはあまり気にしないで下さると助かります。

今回、士郎には一片の非がないにもかかわらず不幸な目にあってもらいました。
アリサの外伝を考えている時に、皆さんからお寄せいただいたアイデアに「アリサが誘拐される」と行ったものがあり、それそのままだとつまらないので「逆にアリサに誘拐してもらおう」というのが発端です。
後は、久々にすずかの黒化が書きたかっただけですね。

さて、次の予定としては夜の一族関係をやろうと思っています。
他にはフェイト編と凛との甘々が書けたらいいんですが、もし上手くいかなさそうならやらないかもしれません。
どうなるかは多分に流動的であり、また作者の気分とアイデア次第です。

今月中にもう一度出せたらいいんですが、暇を見つけるか、気分転換に書いてる状態なので、いつになるやらといった感じです。
まあ、気長にお待ちください。


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