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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 外伝その2「魔女の館」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/29 00:24

SIDE-なのは

フェイトちゃんとお別れしてから二週間。

最近になって、凛ちゃんや士郎君もわたしと一緒に本格的に魔法の勉強をしている。
これまで戦うための魔法が中心だったので、わたしも基礎から勉強し直している状態。
ほとんど感覚で魔法を組んでいるようなものだったので、これがなかなか新鮮なわけで……。

先生はもちろんユーノ君。
凛ちゃんや士郎君は魔術ならともかく、魔法に関してはわたし同様素人なので一緒に教わっている。
まぁ凛ちゃんはともかく、士郎君は適性のある魔法体系が違うらしいので、クロノ君に送ってもらった教本とにらめっこしていることが多いのだけど……。
ユーノ君もベルカ式というのは詳しくないようで、あまり力になれないのを申し訳なさそうにしている。
そのため、士郎君の魔法の勉強はなかなかはかどらないみたい。

凛ちゃんに言わせると「才能の欠片も無いのが一番の原因」ということになるのだけど。
あの遠慮のなさは本当にすごいと思う。
士郎君は士郎君で「ないならないでやりようはあるさ」と言って、あまり気にしていないようだった。
あの二人の間では、あの程度のやり取りはもう当たり前みたい。
もしかすると、本当に仲がいいというのはああいう風なことを言うのかもしれない。

そんな士郎君と違い、凛ちゃんはユーノ君も驚くほどのスピードで新しい魔法を習得している。
魔術と魔法の違いはあるし魔力の質も違うらしいけど、そんなことは関係ないと言わんばかりだ。
ユーノ君が言うにはわたしも人のことを言えないらしいけど、その才能には驚かされる。

凛ちゃんは基本的に、魔術であまり充実していないサポート系の魔法に力を入れている。
魔術だからこそできること、魔法だからこそできることがあるようで、両方の良いとこ取りを目指していると聞いた。
攻撃の方は魔術だけで十分と考えているみたい。
特別魔力に恵まれているわけじゃないから、消費の大きい大威力攻撃の適性は低いらしい。
そのせいか、あまり攻撃魔法の練習には積極的ではないみたい。

なんでも、適性の低い技術に力を入れるだけ無駄なんだとか。
良くわからないけど、そういうものなのかな?
わたしなんかは、苦手なところはちゃんと克服した方がいいと思うんだけど。
克服できるモノとそうでないモノがあって、これは基本的に後者の方らしい。

ただ、例外的にその弱点を補えるわたしの収束砲には興味があるみたい。
師匠権限ということで、半ば脅迫されるような形で教えることになった。
まだわたしが教えた基本形を習得する段階ですけど、いずれは自分なりにアレンジすると言っている。
凛ちゃんなら簡単に出来てしまいそうだから、不思議だなぁ。

でも、あの笑顔で要求するのはやめてほしい。
すずかちゃんみたいに目が笑っていないってわけじゃないんだけど、言葉にできない迫力があるんだもの。


ところで、二人の魔力光を知るのはわたしにとって一つの楽しみだった。
わたしなりに予想していたので、それが当たっているかどうかはやはり興味がある。
凛ちゃんも士郎君も、なんとなくイメージ的に「赤」っぽいと思っていたのだけど、それは大当たり。
士郎君の魔力光は「赤銅」っていう赤っぽい色だったので、一応予想通り。

凛ちゃんも、まさにイメージ通りではあったのですが、ある意味それ以上だった。
凛ちゃんの魔力光は「赤色」。
でも、それは私が想像していたものよりもずっと深くて鮮やかな赤。
これをただ「赤」と表現していいのか、今でもわからない。

ううん。わたしがその瞬間に思ったのは、本当はそんなことじゃない。
失礼だと思うし、多分言ったら怒られると思う。
でも凛ちゃんの魔力光を見たとき、わたしは思ったんだ。
「まるで、血の色みたい」と。
こんなことは絶対に言えないので、ユーノ君にも言っていない。

ちなみに、もう一つの可能性として考えていたのが「虹色」。
凛ちゃんの魔術師としての属性が「五大元素複合属性」っていうなんでもありみたいな属性らしいので「ありそうかな」と思ったんだけど違った。
こう何でもできるから、あらゆる色を内包する魔力光っていうのはすごく似合っていると思ったんだけどなぁ。
もしそっちだったら、それはそれで面白そうだったんだけどね。
それにもしそっちだったら、あんなことは思わなかったのに……。

ただ、これは士郎君の勉強するベルカ式では特別な色なんだとか。
なんでも、大昔の次元世界の王様のお家独特の魔力光らしい。
今では次元世界の宗教にもなっているそうで、それが出たら大事件になっていたかもしれないそうだ。
そんな大事にならなかったことを考えれば、これでよかったのだと思う。

まあ、凛ちゃんに言わせると……
「世の中に一体どれだけの人間がいると思ってるのよ?
 地球だけでも何十億よ。次元世界全体だったら数えるのも馬鹿馬鹿しいわ。
 全員が魔導師ってわけじゃないけど、それでも相当な数になるのは間違いないわよ。
それだけいれば、同じ魔力光を持った人間なんて見つけるのにそう苦労はしないわ。
 それがどれだけ珍しいって言っても、あり得ないってことはないでしょ」
ということになるみたい。

かなり乱暴な気はする。でも、納得かな?
世の中には同じ顔の人が三人はいるって言うし、同じ魔力光の人がいたって何も不思議なことはない。
今までそのお家の人しか確認されなかったかもしれないけど、だからといって他に出てこないとは限らない。
凄く珍しい魔力光の人が突然現れることもあると思う。

まあそんな感じで、わたしの好奇心は一応満たされたのだった。
今は学校の勉強とは別に、三人でみんなには秘密の魔法の勉強をしている。


これは、わたしたちが穏やかな日常を取り戻してすぐのある日のことだった。



外伝その2「魔女の館」



SIDE-凛

ああ、気分悪い………。

今の私の状態を一言で表すなら、これに尽きる。
原因はわかっている。
私の左腕に刻まれた魔術刻印だ。

これを刻むというのは、ある意味他人の臓器を移植するようなモノ。
今私を苛んでいるのは、一種の拒絶反応だ。
何百年もかけて血統操作しているような家系でもないし、これは避けられない。

もうどれくらい気分が悪いかというと、女性特有の「あの日」が微熱があるかないかというレベルの風邪なのに対し、こちらは40度の高熱がある状態だ。あるいはインフルエンザだろうか。
元は人形なので、オリジナルの私の体と比べると刻印との適合率が少なからず下がっているのだと思う。

魂を定着させると、体がそれの影響を受けるのでほとんど元の体と変わらない状態になる。
だがそれはあくまで「ほとんど」でしかなく、完全に同じ状態になるにはしばらくかかるのだろう。
あるいは、完全には無理かもしれない。
その上世界からの修正を受けて若返ったのだから、それがより顕著に表れても不思議じゃない。

だからといって、そんな理由で学校を休むのは遠坂の家訓と私のプライドの両方から許されない。
そこで、心配そうにしている士郎を無理矢理説得(脅迫)して今日も元気に登校したのだ。

とはいえ、出来る限り外面は整えているが、ちょっと気を抜くとボロが出そうだ。
おかげで登校してから今まで、気が休まることがない。

しかし、今さっきHRも終わったのでやっと帰ることができる。
今は士郎が隣の教室から出てくるのを待っている状態だ。
アイツさえ出てくれば、家に戻ってゆっくり休むことができる。
それまでの辛抱だ。

そう思っていたのに、今少々厄介な奴に捕まっている。
どうしてこう勘が良いのかしらね、この娘は。
「ねえ、凛ちゃん。
 なんだか具合が悪そうだけど、本当に大丈夫?」
心配そうな声で聞いてくるのは、私の友人兼弟子の高町なのは。
残りの友人二人は、今日は塾とは別の習い事があるので先に帰宅している。

本来なら、この後は三人で魔法の練習兼勉強という予定だった。
だが私の状態が芳しくないので、今日は別の予定が入ったということにして休息を取ることになっている。
別に私がそう提案したわけではなく、士郎がいつの間にか勝手に話をつけていたのだ。

私のことを心配してのことだろうし、別に悪い気はしない。
だが、それの何が気になったのか、なのはがしきりに私の様子を気にかけるようになった。
いや、この様子だと初めから私の様子がおかしい事に気が付いていたのだろう。

外面は完璧だったはずだ。
少なくとも、すずかやアリサは不審に思っていなかった。
あの子たちも大概お節介だから、気が付いていたならなのはと同じ反応をしていたのは間違いない。
この子は、一体どこに異変を見つけたのだろう。
心底不思議でならない。

フェイトの時もそうだったが、なのはのこういうところで発揮される勘は異常に鋭い。
観察力あるいは洞察力が優れているのは良い事だが、今の私にとっては悪いが迷惑でしかない。

とはいえ、変に嘘をついてもこの子の確信を覆せそうにはない。
諦めて、少しだけ白状することにしよう。そうしないと納得しそうにない。
「はあ。確かにちょっと調子は悪いですど、そんな気にするほどじゃありませんよ。
 まっすぐ家に帰って、あとはゆっくり休むから心配いりません。」
一応学校なので、誰が聞いているともわからない。
相手はなのはだが、念のためいつもどおり猫を被っておく。

それに、これは本当のことだ。
状態については少し嘘をついているが、これはそう長引くものじゃない。
今は偶々周期が合わなくなっているが、それも明日には治せる。

私の言葉に一応納得がいったのか、少し疑わしそうな眼をしつつも頷く。
「う~ん、ならいいけど。
 まあ、士郎君もすぐに出てくるだろうし、それなら大丈夫かな?」
それは、私よりも士郎の方が信用できるということかしら?
もしそうなら、甚だしく心外だ。
私が何度アイツの無茶に付き合わされ、そのたびにどれだけ苦労させられたか教えてやりたい。

教えてやりたいが、それを話すと私たちの秘密にも触れてしまう。
別になのはを信用していないわけではないし、この子なら知ったところで驚くだけで済むだろう。
その程度にはこの子を知っているつもりだ。

だが、情報なんてどこから漏れるか分からない。
その危険は少しでも減らしたいし、知らせなきゃいけないわけでもないのだから、わざわざ話す事でもない。
「その反応にはいろいろ聞きたいこともありますが、今回はいいでしょう。
 運が良かったですね、高町さん」
にっこりと微笑みかけてやると、なのはの顔が一気に真っ青になる。
私の言わんとしていることがわかったのだろう。
「後でしっかり追及するから、覚悟しなさい」という意味を込めて言ったのだが、しっかり伝わったみたいね。

何事も上下関係というのは大事だ。
私たちは友達だが、同時に師弟でもある。
そのあたりを再確認させてやるとしよう。

「えっと、凛ちゃん……。
 う、うん、わたしの勘違いだったみたい。凛ちゃんはとっっっっても元気だよ!」
慌てて何か言っているが、もう聞く耳持たない。
なのはの言うことは一切無視し、士郎が出てくるのを待つことにする。

聞こえてくる中の様子だともうそろそろ終わりそうだし、さっさと帰ることにしよう。
後日の楽しみもできたことだし、今日は英気を養うのに費やすべきだ。



SIDE-なのは

ふえ~ん……。
何故だかわからないけど、とっても凛ちゃんの機嫌を悪くしちゃったみたいだよぉ。

いけない!
このままだと、またあの地獄のような特訓が再開されるかもしれない。
あの時は自分から望んでやってもらったのだけど、しばらくして心底後悔した。

大急ぎで強くならなくちゃならなかったから、あれは仕方ないと思う。
だけど、それでも少しくらい加減してもらえばよかった。今はそう確信している。
いま思い出すだけでも背筋に悪寒が走って、体が震える。
アレは完全にトラウマだよぉ。

士郎君も以前凛ちゃんの指導を受けたらしいし、きっとわたしのこの気持ちを理解してくれるはず。
士郎君が一週間休んでから学校に来るようになって、学校で流れている噂に反応するわたしを見た時の表情が、それを確信させる。
だって、あんなに目に涙をためて優しい微笑みをしていたんだもの。
間違いなく、士郎君も同じような体験をしたんだ。

『えっと……なのは、大丈夫?』
わたしの肩のユーノ君が心配そうに聞いてくる。
ありがとう、ユーノ君。心配してくれて。
こうして支えてくれる人がいるから、わたしはあの恐怖と戦えるんだよ。

心の中でお礼を言って、念話で答える。
『うん、まぁ大丈夫だよ。
ユーノ君頼りになるから、何も心配いらないしね』
『え!? べ、別に僕はそんな大層なことは……』
なんだか照れているみたいだけど、これは紛れもないわたしの本心。
凛ちゃんはわたしを導いてくれていたけど、それと同じようにユーノ君はいつも支えてくれた。

凛ちゃんに士郎君がいるみたいに、わたしにはユーノ君がいてくれる。
どんな時も前を向いて戦えたのは、いつでも背中を守って押してくれる人がいたからだ。
わたしたちもいつか、凛ちゃんたちみたいに言い合えるようになれるかな?

あんな風に、皮肉って言うのかな? を言いあえるようになりたいとは思わない。
というか、さすがにあれはわたしには無理そうだしね。
でも、あんな感じに何があっても揺るがない信頼関係を築けたら、それはとっても素敵だと思う。
それはユーノ君に限らず、フェイトちゃんだったり凛ちゃんたちだったり、わたしの大好きなみんなと。

『ところで、なのは。
 いつも魔法の練習をする方向とは違うみたいだけど、どこに行くの?』
ああ、そっか。
まだユーノ君には、今日の目的地を言ってなかったっけ。

『うん、今日はね凛ちゃんたちのお家に行ってみようと思うんだ』
そう、もう友達になって結構経つのに、わたしはまだ一度も二人のお家には行ったことがない。
だから凛ちゃんのお見舞いのついでに、ちょっとお邪魔してみることにしたのです。
一応さっき士郎君には了解を取ってあるので、問題はないはず。

『あ、そうなんだ。
 確かに凛たちの家が幽霊屋敷って呼ばれている以外、あんまりどういうところなのか知らないよね』
凛ちゃんたちのお家にそんな噂があるのは知っている。
それをより強くしたのが、フェイトちゃんとのお別れをした日の夜に響いたと言われる断末魔。

たぶん、いや間違いなくその原因はあの二人だろう。
士郎君、一週間で学校に来られるようになって本当によかったなぁ。
あの時は、もう会えないかと思ったもの。

『それにね、ちょうどいいから改めてお願いしたいこともあるんだ』
『お願いしたいこと?』
そう、前々から考えていたことなんだけど、あの時は大変でそれどころじゃなかった。
でも、一通りのことに決着がついた今ならいけると思う。
ふふふ、そう簡単には諦めないからね。

『うん。まあ、それは着いてからのお楽しみってことで……』
今言ってもいいんだけど、どうせなら一緒に驚いて欲しいしね。

『別にいいけど。
僕も凛たちの家っていうのには興味あるし、それはそれで楽しみかな』
ユーノ君は少し首を傾げているけど、私と同じ様に二人のお家には興味があるみたい。
魔術師さんのお家なんだから、きっとそれっぽい雰囲気があるんだろうなぁ。
だって、そうじゃなかったら幽霊屋敷なんて呼ばれないはずだしね。
でも魔術は隠すモノだって言うし、そんなわかり易い雰囲気でいいのかな?


わたし達は、お互いに勝手なイメージを離しながら一路凛ちゃんたちのお家を目指すのでした。


  *  *  *  *  *


で、着いたところは、もうこれ以上ない位にイメージ通りの「幽霊屋敷」。

「ふわぁ、本当にこんなところあるんだねぇ」
わたしも海鳴には結構詳しいつもりだったけど、こんな所があるなんて知らなかった。
眼の前にたたずむのは、とても立派な洋館。
でも、すずかちゃんやアリサちゃんのお家と比べればずっと小さい。
まあ、あの二人のお家を比較対象にするのがそもそもの間違いなんだけどね。

だけど、今それは置いておこう。
それよりも由々しき問題があるのだから。
それは……
「ねえ、やっぱり呼び鈴、ないよね」
「うん、なさそう」
そう、どこからどう見てもこのお家の門にはそれらしきものがないのです。
一体どうやって呼べばいいんだろう。
勝手に入っちゃまずいだろうし、こんなところで大声で呼ぶのも恥ずかしいし。

すずかちゃんたちのお家はもっとすごい洋館だけど、それでもかなり機械化されているので何の問題もない。
でもそういったものがないお家の場合、どうやって入れば失礼にならないのかよくわからない。
今時、呼び鈴さえないお家っていうのはそうそうないから、当然その場合に対処するための知識や経験もない。

二人でどうしようか悩んでいると、救いの手が差し伸べられた。
「…………………何やってるんだ? 二人とも」
腕を組んで悩んでいるわたし達にかけられたのは、どこまでも不思議そうな聞きなれた男の子の声。
顔を上げてみると、格子状の門の向こうに士郎君が声と同じ不思議そうな顔で立っていた。



士郎君のおかげで、何とか無事にお家の中に入れてもらえた。
あのままだったらご近所の皆さんに不審者と思われるかもしれないし、本当にいいタイミングで来てくれたよ。

私の安堵した様子を見て……
「ああ、いい加減それもどうにかしないとなぁ。
 客なんて全くと言っていいほど来ないから後回しにしてたけど、やっぱりないと不便だもんな」
頭をかきながらそんなことを言っていた。
うわぁ……。本当に人来ないんだ。

こんな雰囲気だと仕方ないかもしれないけど、それでもそれってどうなんだろう。
なんでも結界が張られていて、よっぽどしっかりした目的意識がないと来る気をなくすようだ。
わたしも頑張って探ってみたけど、全然わからない。
そういったことが素人だってこともあるけど、補助が得意のユーノ君も言われるまで気付かなかったらしい。
これじゃあ管理局の人たちが魔術師さんの存在に気付かなかったのも、しょうがないのかもしれない。

で、初めて入った二人のお家は、外観と違ってとってもきれいに掃除されている。
結構古いお家なのに、床はピカピカで壁にも染みひとつない。
すずかちゃんやアリサちゃんのお家と比較しても遜色ないというか、もしかしてそれ以上?
以前聞いた話だと、これは全部士郎君がやっているらしい。
本当に家事が得意なんだと再認識する。ここまで徹底していると凛ちゃんの言うとおり趣味としか思えない。

でも、だからこそわからない。
扉が開けた瞬間に漏れ出した、このものすごい匂い。
少しでも気を抜くと、お昼御飯がひょっこり顔を出してしまいそう。

ユーノ君も同じ気持ちみたいで、その小さな手で鼻を抑えている。
あ、かわいい……。

なんでも特別なお薬を作っていて、これはその匂いらしい。
やっぱり凛ちゃん、病気だったりするのかなぁ?
そんなわたしの心のうちはお見通しのようで、士郎君が事情を教えてくれる。
「病気ってわけでもないから、そんなに心配しなくて大丈夫だ。
 ちょっと刻印が疼いて体調がすぐれないだけだから、薬を飲んで休んでいれば明日には元気になる」
刻印って、確か魔術刻印のことだっけ。
体に直接刻むらしいし、何となくだけどわかる気がする。
お父さんも時々体の傷が疼くって言って、調子が悪そうにしている時がある。
それと似たようなモノなんだろう。

そういえば士郎君、少しゲッソリしているように見える。
まあこの匂いの元の側にずっといれば、しょうがないのかな?

とりあえず、一応納得はいった。
魔術のことはよく知らないし、そういうものなのだろうと考えよう。
ところで、ふっと思いついたことを聞いてみる。
「あれ、士郎君は平気なの?」
別に一緒のタイミングで調子が悪くなるとは限らないし、今は平気なだけかもしれない。
けれど、士郎君だって魔術師なんだから、凛ちゃん同様に刻印は持っているはず。

「ん? ああ、俺は刻印は持ってないからその心配はないな」
返ってきたのは素っ気ない返答。
でも、それはおかしい。
士郎君は最初お父さんから魔術を習って、その後は凛ちゃんの弟子になったと聞いている。
だったらお父さんから貰った刻印があるはずだ。

さすがにこれでは説明不足だと思ったのか、補足してくれる。
「刻印は血縁者じゃないと継承できないってのは聞いてるんだろ?
 俺は養子だったからさ、そのせいだ」
これは初耳。
普段はそんな感じはしないけど、実は士郎君ってすごく家庭事情が複雑なんじゃ……。
生き別れのお姉さんも亡くしてるって聞いたし、わたし達と出会う前にどんなことがあったんだろう。

「まあ、仮に実の親子だったとしても親父は刻印を譲ったりはしなかっただろうけど……。
 実際、衛宮の魔術は全く教わってないからな。それこそ、内容だって知らなかったくらいだ」
その顔には、苦笑しているような表情があった。
それは、実の親子でなかったことに対するものだろうか。それとも、どちらにしても譲ってもらえなかったことにだろうか。
わたしには一体どちらなのか、あるいはもっと別の何かなのかは判断できない。

「え? でもそれって変じゃないのかな。
 魔術は一子相伝で、外には漏らさないんだよね。
わざわざ養子にしたんだから、それは後継者にするためじゃないの?」
ユーノ君の言葉を聞いて、確かにそれがおかしいことに気付く。
血縁じゃないから刻印を継げないのは仕方がない。
でも、今まで研究してきたことを全く教わらないなんてことがあるんだろうか?

「理由は二つある。一つは、俺の適性が衛宮の魔術と合致しないからだ。
 親父の遺品を調べてわかったことだが、衛宮の魔術は「時間操作」に関わることだ。
 体内時間を早めて高速で動いたり、物体の時間を逆行させて復元させたりなんかがわかりやすいところだな」
うわぁ。なんだかよくわからないけど、それって凄そう。
わたしやフェイトちゃんの使う、高速移動用の魔法とは全く別ってことだよね。
もしかして、時間を止めたりなんてこともできるのかな?

でも、それで納得がいった。
士郎君の属性は剣で、時間操作なんてこととはどう考えても合わない。
士郎君が言うには、どんなに才能のない人でも一つくらいは適性のある魔術があって、士郎君もそれに合わせて訓練したみたい。

「だけどまあ、多分こいつはそんなに重要じゃないんだろう。
 一番の理由は、切嗣は俺が魔術と関わることを望んでいなかったからだろうな」
重要じゃないって言うのはわかる。
だって、後継者にするつもりだったら初めから適性のある人を選べばいいだけなんだもの。
だけど、望んでいなかったのに何で士郎君に魔術を教えたのかな。
ううん。それ以前に、何で養子にしようと思ったんだろう。

「じゃあ、何で士郎は魔術のことを知ったの?
 だって、隠すことが前提で伝える気もなかったのなら、士郎はその存在そのものを知らないはずだよね」
そう、ユーノ君の言う通りだ。
関わらせたくないのに、何で士郎君は魔術のことを知っていたんだろう。

「さあな。それは俺にもわからない。
 隠し事をしたくなかったのか。それとも、もっと別のなにかがあったのか。
なにせ切嗣が魔術を教えてくれたのは、俺が頑固に頼み込んだからだからな。
消極的だったのは間違いない」
それは、なんとなくわかるなぁ。
何で魔術を習おうと思ったのかはわからないけど、士郎君は一度決めたら絶対に引きそうにない。
それこそ、どれだけ突っぱねても食い下がったんだと思う。
その場面を想像して、思わず笑ってしまいそうになる。

「たださ、切嗣は事あるごとに言っていたよ。
 こんなものは覚えない方がいいし、いつ捨てても構わないんだってさ」
ああ、でも凛はきっと怒るからこのことは言わないでくれよ、と士郎君は付け加えた。
なんだか、士郎君のお父さんはわたしのイメージしていた魔術師像とだいぶ違う。
そして、きっとそれは普通の魔術師の在り方じゃないんだと思う。
だって、それなら凛ちゃんが怒る理由がないモノ。

でも、なんとなくだけど士郎君のお父さんは士郎君をとても大切にしていたのだと思う。


わたし達は居間みたいな場所に案内され、イスに座っている。
失礼とは思いつつも、ついつい部屋の中を見回してしまう。

すずかちゃんやアリサちゃんのお家で慣れたつもりだったけど、ここも相当に凄い。
毛足の長いふかふかの絨毯が敷かれ、その上にはよくわからないけど、なんだか古めかしくて高そうな家具が置かれている。

あのスタンドなんて、変なことしたら簡単に壊れちゃいそう。
ああいうのって、どうやってキレイにするんだろう?

あ、なんかすごく立派な時計。
なんていうんだろう? おっきい箱みたいで、振り子が中で動いてる。

うちは和風の家だから、こういう雰囲気はどうにも緊張してしまう。
(注:この屋敷の家具の九割は、士郎がヒィヒィ言いながら投影させられたパチモノである)

わたし達を居間に案内した士郎君は、今は地下室にいる。
お薬の方はほとんど仕上がっていて、もう出来上がっているころらしい。
せっかくなので、薬を持っていく時に一緒に行くことになった。

それにしても、地下で作っているのにこの匂いってことは、完成品はどれだけすごいんだろう。
なんとなく、絵本に出てくるような魔女の鍋でコトコト煮込んでいる姿をイメージしてしまう。
あ、あと地下牢とかありそう。凛ちゃんの趣味で……。

だけど、正直お茶とかお菓子を出されなくてよかった。
こんな状態で食べ物を見たら、多分凄く悲惨なことになったと思う。
わたしだって女の子。そんな恥ずかしいことはすっごく困る。

それでも好奇心はある。
ちょっと地下の様子を見てみたいけど、士郎君からは……
「念のため言っておくけど、地下に降りるのはやめておいた方がいいぞ。
 魔術師の工房は、基本的に来る者拒んで去る者逃がさずだ。
 なのはは一応凛の弟子だから大丈夫かもしれないけど、それでもちょっと命の保証はできない」
と言われている。それも冗談なんかじゃなくて、心底真剣な表情で言っていた。
それだけでも信憑性は十分すぎる。
だけど、命の保証がないって一体何があるんだろう。

「まあ、なんだ。好奇心を満たすために命をかけるというのも、一つの生き方だと思うぞ。うん」
そんなことをあんな微妙な顔で言われても、余計に不安になるだけだよ。
すずかちゃんのお家のセキュリティも相当過激だけど、それ以上ってことなのかな?

うう、すごく気になる。気になるけど、それ以上に怖くて近寄れない。
凛ちゃんの場合、本当にシャレにならないものを仕掛けていそうなんだもの。

だけど、わたしは知らなかった。
実は、頭から牛乳を被ったりするトラップが仕掛けてあったり、中はダンベルやエキスパンダーのようなトレーニング器具が散乱していたり、そんなわたしのイメージからかけ離れた所であることを。
まあ、それを見たら凛ちゃんのイメージが木っ端微塵に壊れることは間違いないけど。
そしてその結果、きっとわたしは記憶を失うくらいのお仕置きを受けることになるのだ。

わたしが好奇心と理性のはざまで揺れ動いていると、立ちこめている匂いがさらにひどくなる。
士郎君が言うには薬草とかを煎じたものらしいけど、この匂いは殺人的だよ。
でも匂いが酷くなったってことは、きっと……
「悪い。待たせた。大丈夫かって、明らかに大丈夫じゃないよな」
うん、全然大丈夫じゃありません。
なんだろう、鼻の奥がツーンとして、眼がショボショボするような気がする。

士郎君が持っているのは、コップ一杯の何やらドロリとした毒々しい色の液体。
喫茶店の娘として、あんな物を飲み物とは考えたくない。だから液体で充分!

本音を言えば、あれは人が口にしていいモノではないと思う。
だってこう、本能が警鐘を掻き鳴らしている。
たぶん薬は薬でも「毒薬」の方ではないだろうか。
もしかして士郎君、この期に凛ちゃんを亡き者にするつもりなんじゃ!?

それは駄目だよ!
いくら普段の扱いがアレだからって、そんな迂闊なことをしちゃいけない。
そもそも、この程度のことで凛ちゃんがどうこうなるなんて想像できない。
だって凛ちゃんはRPGのラスボス、あるいはゲームバランスを無視した隠しボスみたいな存在なんだよ。
ステータス異常なんて全部無効化されちゃうよ。
きっとその後には、前以上に凄いお仕置きが待っているに違いない。

早く、早く止めないと。
「あのな、なのは。匂いは酷いけど、これ一応本当に薬だぞ」
あれ? もしかして声に出てたのかな?

「えぇ!? じゃあ、それ本当に害ないの!!」
ユーノ君も驚いてる。
うん、気持ちはわかる。凄くよくわかる。
見た目、匂い、伝わる気配、どれをとっても毒にしか思えない。

「いや、体臭が変化するくらいはあるけど、特に有害ってことはないはずだ。
 それにしたって、長いこと常飲した場合だな」
ああ、なるほどだからなんだ。
凛ちゃんはわたし達と同い年なのに、もう香水とかを使っている。
わたしなんかは「大人だなぁ」位にしか思ってなかったけど、きっとそれも理由の一つなんだろう。
でも、魔術師って大変なんだなぁ。

「あ、そうなんだ。あのさ、よければちょっと舐めてみてもいいかな?」
さすがは学者志望のユーノ君。わたしよりずっと好奇心が旺盛だ。
わたしにアレに挑む勇気はありません。

「むぅ……あまりお勧めはしないけど、まあ一度舐めてみればわかるか」
そう言って士郎君はコップを差し出す。

ユーノ君が一口舐めると………
「きゅうぅ~~~……」
そのまま倒れてしまった。

「ゆ、ユーノ君!!」
「うえ!? そんなにか!!」
あとでわかったことだけど、変身魔法で動物になるとその姿の影響を受けるらしい。
簡単に言うと嗅覚だったり味覚だったり、そういった五感が普段より鋭敏になるんだとか。

それにしても、そんなに不味いの~!?
わたしは不謹慎にも「ああ、好奇心に負けなくてよかった」と心底安堵していた。

倒れたユーノ君は、口から泡を吐き体はピクピクと痙攣している。
フェレット形態だからわかりにくいけど、ものすごく顔色が悪い。
「え、えっと心臓マッサージ? それとも人工呼吸?」
「落ち着けなのは! とりあえず、水を注いで胃の洗浄を……」
うん、わたしだけじゃなくて士郎君もいい感じに動転している。
今のユーノ君の体に素人がそんなことしたら、あっという間に水風船になっちゃうよ。

そんな感じでドタバタしているわたし達の元へ、救いの怒声がかけられる。
「うるさ――い!!! おちおち休んでもいられないわ。
 全員まとめて外に出なさい!!」
あ、凛ちゃん思ってたより元気なんだ。



「「どうもすみませんでした」」
場所は変わって凛ちゃんの部屋。
わたしと士郎君は、二人仲良く土下座しています。
ユーノ君はそばのテーブルの上で気絶したまま。
これは、今日中に起きればいい方かな。

「アンタらね、私のことを本当に心配してるの?
 それとも体調を崩させるのが目的なの、どっち?」
弁解のしようもございません。
アレだけ騒いでいたら、この反応は当然だろう。

「え、えっと心配しているのは本当だよ。
 でも、ちょっと不測の事態がありまして……」
「ふ~ん。高町さんのお家では、ああやって人の心配をするモノなのね。それは知らなかったわ。
でも、私としては静かにしていてもらいたいから、今後はこういうのは控えて欲しいのだけど、よろしくて?」
うう、一言ひとことがすごく刺々しい。
その顔にはありありと「不機嫌」の三文字が浮かんでいる。

それにしても凛ちゃん、アレを一息に飲み干したりして大丈夫なのかな?
だって、ユーノ君はあまりの不味さで倒れて痙攣までしたんだよ。
わたしは飲んでないけど、あんな物オブラートで包むか糖衣錠でなきゃ飲めないよ。液状だから無理だけど。

凛ちゃんが言うには……
「やっぱり「良薬は口に苦し」でしょ。
 美味しいお薬って効かなそうじゃない」
ということになるらしい。
言わんとすることはわかる。でも、わたしはやっぱり飲みやすい方がいいと思う。
たとえお子様と言われて笑われても、わたしの考えはきっと正しいはず。

だけど、一気に飲み干しても凛ちゃんの様子に特に変化はない。
慣れ? 慣れなの? あれって慣れれば飲めるようになるの?
正直、わたしの眼には凛ちゃんが以前映画で見た地球外生命体に見えました。

あれ? でもわたしって、別の世界の人と知り合っているからそれとあんまり変わらないのかな?
考えてみると、リンディさんのお茶とは真逆のベクトルだけど、飲みたくないという意味では同じかも。


さて、だいぶ横道にずれたけど、一応目的の一つだったお見舞いはできた。
思っていたよりも元気みたいだし、そんなに心配しなくてもよかったのかも。
だから、そろそろもう一つの目的に移ろうと思う。
「ねぇ凛ちゃん。改めてお願いしたいんだけど、わたしに魔術を教えてくれないかな」
その言葉と共に空気が変わった。
それまでのどこか緩かった空気が引き締まる。
手にはじっとりと汗をかいているし、心臓も凄いドキドキしている。

僅かな沈黙。
わたしは凛ちゃんが口を開くのをじっと待つ。
そうしてだいたい一分くらいたったころ、凛ちゃんが重々しく言葉を発する。
「なんでアンタが魔術を習いたいのか知らないし、どんな覚悟があるかも知らない。
 だけど私の答えは一つ。Noよ」
やっぱり。たぶんそう言われるとは思っていた。
魔術は隠すもので、わたしは弟子は弟子でも魔術の弟子ではない。
だから、わたしに魔術を教えるのは本来のこの師弟関係の目的からは外れる。

「それってやっぱり、魔術を隠すためなんだよね」
そういうモノということは一応わかっている。
でも、わたしはもっと凛ちゃんたちのことを知りたいし、魔法とはまた別の何かというのにも興味がある。
それに「魔術だからこそできることがある」と凛ちゃんは言っていた。
だったら魔術を勉強すれば、わたしにできることがもっと増えるはずだ。

「そうね。確かに魔術は隠すものよ。
 でもね、私は魔術師としてだけじゃなく、一友人としてもアンタに魔術を教える気はないわ」
「友人として」それはつまり魔術師の在り方を無視しても教えないということ。
なんで? 隠すことを無視するなら、別に誰に教えてもいいんじゃないの?

「覚えておきなさい。
 自分以外のために先を目指す者。自己よりも他者を顧みる者。そして…………誰よりも自分が嫌いな者。
 これが魔術師としての素質よ。
 アンタに魔術回路があるかどうかなんて問題じゃない」
そう言って、凛ちゃんをちらりと士郎君を見る。
士郎君はその視線に苦笑しているだけで、何も言わない。
士郎君がそうだってことなの?
でも、そんなのって……。



SIDE-凛

「その様子だとわかったみたいね。
本来、こんな条件を満たしている奴なんていない。こんなの矛盾の塊だもの。
私だって、そういう意味では素質がないとも言えるわ。
 アンタの場合、前二つは多分満たしてる。でも、最後の一つはさすがに無理。
 なのは、アンタはそんなに自分が嫌い?」
こうして聞いてみたけど、正直「もしかしたら」という思いがある。
これまで見てきたなのはの在り方。
そこから私なりに考えると、なのはに今言った素質がないと確信が持てない。

なのはは妙に自分を犠牲にするところがある。
幼いころの経験が原因のようだが、それでもちょっと度を超えていると思う。

人間の思考には必ず主観、あるいは願望が入る。
だからこの考察にも、少なからず私の主観が入るのは避けられない。
その私の目から見て、多分だけどなのはは自分を嫌っている。

ただし、それは「無力な自分」だ。
家族が大変だった頃、何も出来ずただ良い子でいるしかなかった自分、そのころの無力感が原因だと思う。
だから、今のなのはは違う。今のなのはには魔法という力がある。
でも、それでなのはの自分への思いが払拭出来たかはまだわからない。
こればっかりは、長い時間をかけて見ていくしかない。
もしかすると、逆にこの力に依存してしまうかもしれない。

「でも、それだったら凛ちゃんだって魔術師になるべきじゃないんじゃないの?」
わたしの質問には答えず、なのはは次の問いをする。
やっぱり、そう簡単に諦めるつもりはなさそうだ。

それにこの様子だと、ある一面においては自分を嫌っているということを自覚しているわけではなさそう。
まあ、それにしたって私の推測でしかないから、絶対確実にそうとは言い切れないのだけどね。
このあたりのことを見つけ出し引き摺りだすのは、綺礼やカレンの得意分野だ。
あの二人なら、ほんの少し言葉を交わすだけでも、容易くこの子の危なっかしさの原因を把握するだろう。
私だと、確信を持つにはまだちょっと弱い。

「そういうことになるわね。
 でもね、私や士郎はもうこっちの世界に足を踏み入れているわ。
だから、アンタとは立場が違うのよ。今更抜ける気もないしね」
眼で問うと、士郎も首肯で返す。
私たちは、この道から抜けるにはすでに遅すぎる。
ま、私の場合は士郎と違ってはじめから選択肢なんてなかったんでしょうけどね。

「それにね。魔術は何代にも渡って受け継がれてきた「命の成果」よ。
 その責任は自分一人だけのモノじゃないわ。
 私は遠坂の人間として生まれた。だからこれを次の世代に残さなければならない。
 私達はね、そのために生まれてそのために死ぬのよ」
魔術というのは本来そういうものだ。
衛宮切嗣のような例こそが稀有と言っていい。
いや、本来あんなあり方をしている魔術師はいないのだ。

「なのは。アンタもいつかは誰かと結婚して、多分子どもを産む。
 その時、アンタは自分の子にその責任を負わせられる?」
はっきり言って、魔術師なんてのは究極の人でなしだ。
子どもは生まれるところを選べない。
にもかかわらず、そんな重苦しい責任を負わせられるのだ。
少なくとも、真っ当な親ならそんなことはしないだろう。

「……………………」
なのはは黙り込んでしまった。
まあ、十歳にもならないような子どもに結婚やら出産やらの話をしてもしょうがない。
早い話、家族を巻き込む覚悟があるかどうかの問題だ。
それが「今の」なのか、それとも「未来の」なのかの違いでしかない。

で、なのはは自分以外に迷惑がかかるのを良しとしない。
それは身内だって例外ではない。この子の場合、唯一の例外が自分なのだ。
だから、こう言えばそんなことに手を出せるはずがない。

まあこの子の性格上、なるとしたら士郎と同様の魔術使いだろう。
だから、士郎みたいに一代限りの術師で済ませることもできなくはない。
昔の私なら受け付けられなかっただろうけど、ずいぶんと丸くなったモノだ。
でもだからといって、わざわざこんな世界に関わることはないのだ。

「まあ、勘違いしないでほしいんだけどね。
 私は別に自分が不幸だなんて思ってないわ。後を継ぐのは義務だけど、私はこれが楽しいからやってるのよ」
そう、結局私は楽しいから魔術師を続け、楽しいからここまで士郎に付き合ってきたのだ。
だから一片の悔いもないし、自分の人生を悲観したこともない。

「それにね、こっちのには非殺傷設定なんて気の利いたものはないのよ。
 アンタ、それでも本当にこっちに手を出す気?」
魔術を学ぶということは、早い話が人を傷つけるといことだ。
非殺傷ならその心配がかなり軽減されるのだから、こっちに手を出すべきではない。

「でも、それならそういうことができるようにすればいいんじゃないかな?」
まあ、それも一つの発想だろう。
でも、それを確立するのにどれだけの時間と労力がかかることやら。
第一、そもそもできないという可能性が高い。

「たぶん無理だと思うわよ。
 以前言ったでしょ、魔力の質そのものが違うって」
おそらくだが、一番の問題はリンカーコアと魔術回路の違いだろう。

非殺傷設定は攻撃対象の魔力値にダメージを与え、そのかわりに肉体へのダメージをなくすものだ。
それはつまり、魔力の貯蔵庫であるリンカーコアにダメージを与えると言うことだ。
リンカーコアへのダメージは、ちょっとやそっとでは致命的なことにはならない。
少なくとも魔力の暴走自体が稀有であり、たとえなっても大規模の暴走でないとそうひどいことにはならない。
だからこそ、リンカーコアにダメージを与えてもそれほど深刻なことにはならないのだろう。

ところが魔術回路の場合だと話が違ってくる。
魔術回路そのものにダメージなんて与えたら、それこそ簡単に致命的なことになりかねない。
まあ、ふつうの攻撃が直撃してもシャレにならないのだから、危険性はあまり変わらない。
だから、仮に魔術回路に直接ダメージを与える攻撃手段を確立しても意味はない。
都合よくリンカーコアにのみダメージを与えるのも無理だろう。
同質のモノに影響を及ぼすのは当然だ。磁石じゃないんだから、同じ極同士だと反発するってこともない。

ただの人間でも、少しは魔力を帯びている。
だいたい魔術回路から得られる魔力は、生命力を変換したモノだ。
だったら、影響を与えるのも当然生命力になる。

「なのは、改めて言うわ。
やめておきなさい。これは、あなたには不要なものよ」
「でも、それなら凛ちゃんたちも魔術で戦うのはやめた方がいいんじゃないの?」
むう、生意気にも本当によく粘るわね。
こっちは今魔術云々抜きにして、純粋な善意から言ってやっているのに。

「生憎だけど、私たちはあんたほど甘くもないし優しくもないわ。
 もし私たちの日常を侵す人間がいるなら、それは等しく敵よ。
 敵に容赦する気はないし、二度と刃向えないようにするのが私の流儀。そう教えたでしょ」
そういう意味で言えば、直接肉体にダメージを与えるしかない私たちの特性は脅しとしては有効だ。
徹底的に叩き潰し、恐怖を刷り込む上では魔法よりこちらの方が都合がいい。
本物の馬鹿が相手だと、非殺傷設定なんてしてたらいつまでたっても懲りないかもしれないしね。

「そうだな。それにあれだ。大体の場合、初代の魔術師ってのはそうたいしたことはできない。
 俺は例としては問題があるかもしれないけど、それでもだ」
確かに士郎は例としては極端だ。
基本的なところは及第以下なのに、固有結界なんてとんでもないモノを持っていたりする。

でも、士郎の言うことは正しい。
私なら一通りのことは教えられるけど、それでも初代の魔術師の役目は土台作りと言っていい。
初歩的な魔術を一々覚えていかなきゃならないし、古くからある儀式や供物なんかを使う煩雑なモノが中心だ。
それなりのモノに仕上げるなら、適性のある分野に特化させるしかない。

「ま、何かの参考にはなるかもしれないし、適性を調べるくらいはしてあげるわよ」
もしあんまりにも適性があるようなら、その時は適当に嘘をつけばいい。

だが、リンカーコアと違ってさすがにそれはないだろう。
これは一つの可能性だが、多分この世界の住人は先天的に優れた魔法の資質を持っていたのだと思う。
でもこの世界の住人は、魔法ではなくより汎用性の高い科学技術一辺倒になることを選んだ。
人間に限らず、生物は不要な機能はどんどん削っていく。

科学技術にのみ絞り込んだ事で、必要とされないリンカーコアがどんどん弱体化した可能性がある。
まあ、それでもその技術レベルは、次元世界のそれに遠く及ばないのだけど。
士郎は魔法以外にも、ベルカの歴史なんかも齧っている。
それによれば、向こうさんは千年以上前から今の地球をはるかに超える技術を有していたらしい。
これじゃ、比べるのも馬鹿馬鹿しいわ。

とにかく、この仮説でいくと、なのはの場合一種の先祖返りのようなものだろう。
家族全員ロクに魔力がないのだから、これ以外だと突然変異しか考えられない。
たぶん管理局の見解は、突然変異の方だろう。
だが、ああも当たり前のように使える姿を見ると、遺伝子や本能にその使い方が刻まれているような気さえする。
ならば、それが元からあった機能である可能性は決して低くはない。

ま、所詮は一つの可能性でしかないんだけどね~。
ただ、ちょっと別の視点で考えてみただけだもの。
別に正しくても間違っていても、どっちでもいいし。


で、調べた結果はというと……
「あるにはあったけど、本数は三本。属性は五大元素の地属性ね。
 たぶんだけど、アンタの防御の固さとかはこの影響があるんじゃないかしら。
 魔術特性、及び起源にも特に目立つモノなし。以上」
結構簡易的な調べ方だったので、魔術特性や起源の方は実を言うと詳しいところはわかっていない。
でも簡単に調べただけでも、そう目を引くところもなかったから嘘は言っていない。
回路にしても同様だ。むしろ有ったこと、それも三本も有ったことに驚いたくらいだ。

士郎の場合は、古い先祖に魔術師でもいたんじゃないかと思う。
そうでないとあの本数はちょっとあり得ない。
まあ、いつだって例外はいるんだけどね。
あのカレー司祭なんて、今の想像どおりでもあり得ないくらいの本数を保持している。

まあ、これなら適性のある魔術は多そうだけど、逆に極められるものがなさそうなのよね。
初代の魔術師は、士郎レベルとは言わないけど、多少イロモノなぐらいがちょうどいいと思う。
少なくとも魔術を「使う」のが目的なら、それぐらいでないと意味がない。
その上魔力量は微小。これじゃ、士郎とは違った意味で出来ることが限られる。

「えっと、それってつまり……」
「こと魔術に関しては、見事なまでに才能がないってことよ。
 魔導師風に言うなら、先天資質F以下ってところ。
 よかったわね。完全に芽がないこともわかったんだし、これで諦めがつくでしょ」
なのは撃沈。そんなテロップが似合いそうなくらいにうなだれている。
でもまあ、よかったよかった。これで面倒事がなくなった。

「別にいいじゃない。それでも総合的に見れば、士郎よりよっぽど才能があるんだから」
「う~~ん、なんか微妙」
「……おい、それはどういう意味だ」
あははは、アンタも言うようになったじゃない。
士郎なんかと比較されても、そりゃあ自信を持っていいんだかわからないわよね。
でも残念。他にちょうどいい比較対象がいないのよ。


そうしてなのはは、しょんぼりしながら帰って行った。

あ、そう言えばユーノ置きっぱなし。
相変らずテーブルの上でぐったりしてるけど、普段に増して影が薄いから忘れていったわね。
どうしよっか。……とりあえず、玄関先にでも吊るしておこうかな?
ここにいられても邪魔だし。


その後、三十分ほどして大慌てで引き返してきたなのはによって、ユーノはカラスから救出されるのだった。





あとがき

無印終了後、初の投稿になります。
考えてみると士郎の視点が一度も入らないのは、これが初めてじゃないでしょうか。

凛の魔力光はいっそ虹色にしてしまおうか結構悩んだのですが、結局無難な色にしました。
ただでさえ厄介な境遇なのに、これ以上増えても収集がつかなさそうですしね。
それに凛自身は魔導師としては特に目立つ点はないので、これでいいでしょう。
なんでも、凛の魔術師としてのステータスをレーダーチャートで表すと綺麗な円形を描くらしいです。
なので、魔法でも同様の状態を考えています。
魔力量がとんでもなかったり、レアスキルをもっていたりするわけでじゃありませんから。
魔術にしても魔法にしても「すべての能力が高いなら特殊能力や特化技能なんざいらねぇ」っていうバルトメロイの縮小版みたいな人だと思ってます。
でも、弱点はやはり魔力量ですね。あとお財布……ってこれは関係ありませんか(うっかりは言わずもがな)。

なのはの魔術師としての資質は、士郎よりさらに下です。
間桐さん家の雁夜さんよりもなお下、ワカメパパの鶴野さんくらい低いです。
(実際どれくらい低いかは知りません。あくまでもイメージです)
もっと資質が高くて、なにより性質が魔術師向きの人がいれば弟子をとる可能性は、無きにしも非ず程度。
時臣さんだったり橙子さんだったり、結構ホイホイ弟子にしてますからね(時臣はちょっと違うかな?)。
その中でもゼル爺は最たる例でしょう。あの人は何考えてんだかまったくわからない。さすが魔法使い!
そのため、このあたりの基準がよくわかりません。

ところで、今後は士郎たちの家は「遠坂邸」で統一します。
実質的な家主であり支配者なので、これでいいでしょう。
そのうち(十年かそこらで)士郎も「遠坂」姓になるんですから(予定)。
メインにしている視点によって「士郎の家」だったり「凛の家」だったりするので、使い分けが面倒なのです。

それと今後の執筆予定としては、ユーノ・アリサ・フェイト・夜の一族関係の外伝をやりたいと考えています。
しかし問題があります。というか問題だらけ。
正直、ユーノとアリサの外伝のネタが浮かばない。
普段地味なんで少しくらい目立たせたいのですが、だからこそ困っているわけで……。
それにフェイトの方だと、凛と士郎が名前しか出てこないというかなり変な話になってしまいそうなんですよね。
そういうのってアリなんでしょうか?
まあ厳密に言うと、フェイトではなくアースラ組のお話になるんでしょうが……。

後は、凛と士郎の甘い話ができたらいいですね。
そういうのは苦手なんですが、やっぱりそういうイベントはやりたいんですよ。

もしかしたら挫折して、いきなりA’sに入るかもしれませんがご容赦ください。


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