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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第18話「Fate」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/23 17:01

SIDE-士郎

一連の事件が一応終結してから、数日が経過した。

俺が目覚めたのは、リンディさんに救出されてから丸二日以上が過ぎた翌々日の深夜。
ずいぶんと長い間意識を失っていたらしい。

まあ、ここで終われば何も問題はなかった。
だが目が覚めてすぐ、いつものニヤニヤ笑い共にある写真を凛に見せられた。
そこには、リンディさんに「お姫様抱っこ」された俺が写っていたのだ。

何が悲しくて、この年でそんな目に会わなければならないのか。
知らない人間が見れば、さぞ微笑ましく、あるいは綺麗な光景に見えるだろう。
極上といっても差支えない美人さんが、幼い子供を抱きかかえながら優しい笑みを浮かべているのだ。
それには、宗教画のような神々しささえある。

俺も、それが自分でなければ同じ感想を持ったはずだ。
しかし、実際に抱えられているのは二十代後半の男。
それはあまりにもイタイし、何よりも恥ずかしい。
その時のことを覚えていないから尚更だ。

なんとか写真を奪取し焼却したが、まだマスターデータが残っている。
こいつを処分しないと、根本的な解決にはならない。
残っている限り、いくらでもプリントできてしまう。

とはいえ、凛に電子機器の操作なんてできるはずがないので、本来だったらそれほど問題ではない。
なにせ、FAXにさえ四苦八苦するような奴だ。
普段なら「デジタル」という言葉を聞いただけで挫折するところだ。
気長に、あるいは適当にやっていても十分な危険しかない。

ところが、今回思わぬところから伏兵が現れた。
その怨敵の名は「エイミィ・リミエッタ」。
若くして通信主任なんてやっているだけあって、電子機器の扱いはお手の物。
凛の数少ない弱点の一つを補う、最悪のパートナーが現れたのだ。
(おのれ~~、余計なマネを………)

当然、せっかく処分した写真はあっという間に再度印刷されてしまった。
おまけに、腹いせとばかりにアースラの全クルーにばら撒かれる始末。
それは、明らかに逆恨みだぁ!!

しかもエイミィさんの本質は、ある意味凛の御同類。
この人も凛に負けず劣らず、人を弄るのが好きらしい。
今までこの手の話題でからかってくるのは凛一人だったのに、それが二人になってしまった。

悪いことにデータはすでに無数にコピーされ、さまざまな端末に保存されている。
これでは、すべてを消去するなど事実上不可能だ。
プロフェッショナルならいざ知らず、俺にそこまでの知識と技能はない。
この先ずっと、この話題を二人がかりで弄られることが決定した瞬間だった(泣)。

しかし、捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったものだ。
あまりの絶望に打ちひしがれていると、何やら同情するような眼でクロノがこちらを見ていた。
というか、その瞳からは一滴の涙が流れていた。
その瞬間に悟った。
アイツは俺の理解者であり、同じ境遇にある同胞だ。
クロノの方でもそれを察したらしく、俺たちは無言で固い握手をかわしたのだった。

言葉なんて無粋なモノはいらない。
そんなものがなくても、俺たちは視線を交わすだけで互いの想いを共有できるのだから。
今更口にしなければならないことなど、あるはずがない。

仲間ができたからといって、状況が良くなったわけではない。
だが、共に待遇改善に向かって奮闘する同志ができたのは、不幸中の幸いだろう。
ああ、一人じゃないって素晴らしい……。



第18話「Fate」



今回は凛も少なからず傷を負った。
それは主に二つ。
どちらも決して軽くはないが、両者の扱いは全く違う。
片方はちゃんとした治療を受けられた。
だが、もう片方は徹底的に隠し通し、自力で治療するしかなかったのだ。

前者は、起源弾を撃ったことで右腕の骨に幾筋も入った細かいヒビ。
見た目からわかるとおり、起源弾を抜きにしてもあれ自体が半端な威力ではない銃だ。
腕に強化を掛けバインドで体を固定されていたため、反動で狙いがズレることはなかった。

しかし、そのせいでそれを分散させることなく受けてしまった。
まだ体の出来上がっていない子どもの身では、それは負荷が大きすぎる。
折れていないだけマシかもしれないが、決して軽んじていいモノではない。
大人でも関節をやられていて不思議じゃない。
それ故、堂々と治療を受けることができた。

後者が、宝石剣を使ったことによる反動で断線した左腕の筋肉だ。
こちらはそうはいかない。
宝石剣の反動だけでも隠さなければならないからだ。

なにせあの戦闘は、アースラでしっかり監視されていた。
どうやら、アースラの方で「サーチャー」なるモノを放って凛の動向を監視していたようなのだ。
おかげで、隠しておきたかった宝石剣のことを知られてしまう結果となった。
現実なんてそんなものとわかってはいるが、つくづく思うようにいかない。

プレシア殺害とは直接関係ないので、現状徴発するための大義名分はないはずだ。
また、アレ単体ではジュエルシードのように世界をどうこうするほどの力はないから、危険性はずっと低い。
これなら向こうとしても強く出られないだろう。

とはいえ、今回の一件で宝石剣を知られたのは迂闊の一言だ。
他に手もなかったので、宝石剣を使ったのはこの際仕方がない。
だが監視が付いていたのに気づけなかったのは、明らかな失敗だ。

サーチャーが機械的な道具だったのが盲点となった。
アレには機械的なモノと魔法によるモノの二種類があり、今回は前者が使われた。
当然、凛に気付かれないよう注意したからだろう。
魔力の発露がほぼ皆無なのだから、凛に気付けという方が無理か。

真っ当な魔術師であればある程、科学に対する警戒心は薄いものだ。
魔術師という人種は、例外は当然いるが、基本的には己を神秘と人智の中間の存在と信じて疑わない。
そのため「自身を脅かせるのは、同胞たる神秘の側の存在だけ」と考えている場合がほとんどだ。
戦闘時には魔術および魔力への警戒が中心となり、科学方面の脅威を軽視しがちになる

凛にもそんな傾向が少なからずあったが、徐々にその点は修正されている。
俺と一緒に幾度となく普通の戦場にも出ていたし、俺が魔術師相手にもあまり抵抗なくそういうものを使うからだ。
近代兵器で倒れる魔術師を何度も見ていれば、誰だってそれに脅威を感じるだろう。
そのため、科学の対魔術師戦における有効性と危険性に対する理解は、他の魔術師などよりはるかに深い部類だ。

だが、それでもアイツが本質的に魔術に傾倒しがちな生粋の魔術師であることに変わりはない。
アレだけ派手に魔力を使った戦闘をしていると、どうしても科学方面への警戒が薄くなる。
普段なら俺がフォローするところなのだが、その場に立ち会っていなかったのが一番の失敗だ。

まあ、最後の罠は完全にアイツが迂闊だったせいなので、弁護の余地はないけど。
昔に比べれば幾分マシになったけど、ああいう時に足元が疎かになる癖が一向に抜けない。
今回なんて、文字通り「足元」だったものな。
ずっと使ってこなかったとはいえ、存在そのものを失念するなんて……。

しかし、宝石剣の存在と能力は知られたが、まだ反動は知られていない。
無制限に魔力を行使することはできるが、反動の関係でアレは長く続かないのだ。
これは何としてでも隠し通さなければならない。

その存在を知れば、力ずくで奪おうとされるかもしれない。
ここの人たちがそんな強硬な手段に出てくるとは考えたくないが、あり得ないとは言い切れない。
迂闊に手が出せない存在と認識してくれている方が、こちらとしてはありがたい。


また、凛がプレシアを殺害したことで、何かしらの罪に問われる可能性があった。
なにせ、今回の事件とプレシアの殺害はまた別の話だ。
高次空間内にまで効力を持つ法など管理局にしかないし、殺人罪に問われても不思議はない。

だが、とりあえずその心配はないようだ。
理由は、凛がプレシアを殺害したことを立証できなかったためらしい。

プレシア殺害の際には、切嗣の起源を内包した起源弾が用いられた。
そのあたりも監視されていたので、銃の提出を求められるのは避けられない。
宝石剣と違い、こちらはプレシア殺害の証拠品でもある。
さすがにこれを突っぱねるのは難しく、最終的には渡すことになった。

「はあ、一応信用してお渡ししますが、扱いには気を付けてくださいよ」
正直渡したくはないのだが、下手に拒むとその方が後々面倒なことになりかねない。

俺のその言葉に、やはり相当な危険物だという危機感を強めたようだ。
「どういうこと? まさか、変なことをすると私たちもプレシア女史みたいな目にあうとか……」
ひきつった顔でリンディさんが聞いてくる。
それだけでなく、若干腰が引けていた。
プレシアの死に方を知っていては、その反応は自然なモノと言える。

その気はなかったのだが、結果としては脅かしてしまったようだ。
手を振りながら訂正する。
「ああ、そういうわけじゃないんですよ。
 ただそれ親父の形見なんで、あんまり手荒に扱わないでほしいだけです」
俺の手元にある切嗣の遺品なんて、これぐらいのモノだ。
他に持ってこなければならないモノはたくさんあったので、残りの遺品を持ってくる余裕はなかった。
この先墓参する機会だってないかもしれない以上、えげつない代物であっても大切にしたい。

そんな俺の心情が伝わったのか、神妙そうな顔で約束してくれる。
「わかりました。検査や解析にはかけますが、決して壊すようなことはしません」
それを聞いて安心した。
ここまで断言する以上、それを反故にすることはないだろう。

「ああ、それと調べればわかることですけど、弾の方には人骨が封入されています。
 それは親父の骨でして、あまり故人を辱めるようなことはしないでくださいよ」
それを聞いた時のリンディさんの顔は、それはもうびっくりしていたな。
人骨の入った弾丸だとは思いもしないのは当然だし、気味が悪いと感じるのも無理はない。
普通に考えて、人骨になんて触れたいとは思わないだろう。

それに、あれはある意味切嗣の遺骨だ。
もはや墓参すらできないところに来てしまった俺だが、今はこいつが墓の代わりだ。
それを暴かれ、隅々まで調べられるのはいい気分ではない。
時々、こいつを位牌や遺影の代わりにして手を合わせることがあるから尚更だ。

まあ、それを武器として使っている俺自身が、一番故人を辱めている気もするけどさ。
だが親父がああいう形で俺に託した以上、使わせるために残したはずだ。
なら、これはその思いに報いているともいえるので、毎度のことだが複雑な心境だ。

ちなみに、弾の中身について教えてはいるが、別に未使用の弾丸を渡したわけではない。
時の庭園は崩壊寸前だったので、リンディさんが最下層の瓦礫などを俺たちと一緒にまとめて転送したのだ。
かなり強引な力技だが、一々あの場で探す手間を考えれば効率的ではある。
半壊状態の時の庭園に踏み込むのはかなり危険なので、安全のためにもこれが一番だ。
これの目的は、証拠品の回収にある。
実際にプレシアを撃ち抜いたのがアレである以上、それを回収しようとするのは当然だ。

概念武装に近い性質を持つからといって、使えば跡形もなく消えるわけではない。
使った後の弾丸はちゃんとプレシアを貫通し、後ろの壁にめり込んでいた。
それがジュエルシードの影響で壁ごと崩れ落ち、瓦礫に埋まっていたのを捜索したのだ。

その後、アースラが保有する設備を総動員して入念な調査が行われた。
だがいくら調べても、幾ばくかの魔力が込められているということ以外、特に目立った結果は出てこなかった。
弾丸の構成材質を解析してみても、俺が話した以上の目立つ特徴はない。
少なくとも、リンカーコアに影響を与えられそうなものは含まれていない。

まあ魔弾の方を調べても、この人たちに何もつかめないのは当然だ。
フェイト達から聞いた魔法の話から、彼らが「起源」なんてものを知らないことは確認済み。
知らないものを、どうやって調べられようか。

この人たちにわかるのは、物理的な現象にほとんど限定される。
魔法が科学よりの存在であるが故に、科学に反する事柄は盲点になりがちだ。
起源は思い切り神秘の領分なので、これは彼らの力の及ぶところではない。

仮にそれを調べ気付けたとしても、たぶん肯定できないと思う。
なにせ起源は人、いや、その存在の根幹に根差す、生まれる以前から定められた方向性だ。
それは、どんな存在に生まれようとその方向性に縛られるということ。
つまり、生まれる前からそういう存在になると定められているようなモノだ。

この人たちの考え方からすれば、それは受け入れ難いだろう。
極端な例を挙げれば「犯罪者は始めからそうなるよう定められている」と言っているようなモノだ。
「殺す」という起源を持っていれば、少なからずそれの影響を受けるのだからあり得ないとは言い切れない。
故に、この人たちが起源の存在を知っても、容易に受け入れられるとは到底思えない。

それは起源を武器として利用する、あの魔弾を否定するのと同義だ。
受け入れられないものを認められるはずがないのだから。
そうである以上、彼らが起源弾を調べたところで出てきた結果を肯定するわけがない。

それに起源弾はその性質上、一回限りしか使用できない。
一度その効果を発揮すれば、封入されている骨はその力を失いただの骨になる。
回収された使用済みの起源弾は、中身を取り出した宝箱のようなモノだ。
そのため、どんな起源が込められていたかは引き起こされた結果から推測するしかない。

起源弾は擬似的な概念武装だが、あくまで「擬似的」なものでしかない。
本物の概念武装に比べれば、積み重ねられた概念の重みも深さも劣るが故の性質。
個人の内包する起源は概念武装に劣りはしない。あるいは上回っていることもある。

だが武器として加工する際に、その人物の起源の全てを込められるわけではない。
体の一部、例えば骨を用いていることからも、内包される起源が本来のそれに比べれば切れ端にすぎないことは明らかだ。
そのため、一度使用するだけでも込められた起源が擦り切れてしまう。
仮に、中核を成す加工された骨を別の弾丸に詰め替えても、それはただの弾丸のまま。
起源は擦り切れて使いものにならないので、一切効果を発揮しない。
それ故、起源弾にはリサイクルがきかない。

もし、起源を一切消耗しない武器にしようとするならば、その人物そのものを込めるしかない。
早い話が「生贄」にするということ。

切嗣のそれも、己が起源の全てを込めるには至っていない。
故に、一度使われたそれは込められた起源を失ったただの弾丸だ。
人骨が封入されている以外に、おかしな所などもはやない。

プレシアの死因も「魔力の暴走による自傷」というのが検死の結果だ。
強いてあげるなら、体に銃創のような古傷が確認されただけらしい。
その傷はどう見てもそう最近にできたモノには見えず、プレシアの死因とは別物と判断するしかない。
そのため、直接的な死因は「ジュエルシードの魔力が体内で暴走したことによるもの」とされた。

つまり、凛が何かをした証拠が出てこなかったのだ。
さすがに事情聴取はされたが、こちらは黙秘権を行使し一切の証言をしなかった。
無理矢理自白させる権限なんてあるはずもなく、真相は闇の中となったわけだ。

結果、証拠不十分ということで、凛が罪に問われることはなかった。
その上、証拠品としても不十分だったので、銃の方はちゃんと返却してもらった。

ほぼ間違いなくそうだと解っていても、それを証明し得るものがない以上、状況証拠だけでは罪には問えない。
もしもの時は「正当防衛」を言い訳にして、何とかしようと考えていたがその必要もなかったわけだ。

リンカーコアに何かしらの影響を与えるものとは予想しているようだが、それを証明できない。
封入されている骨が関係あることは、誰だって気づくだろう。
だが、それがどう作用したのか分からない以上、推測だけで決めつけることはできない。
そうなると推論の段階から先に進めないので、起訴することなど不可能だ。

最悪の場合、凛は拘束され本局とやらに連行される手筈が整っていたかもしれない。
そこで何をされるかはわからないが、俺たちにとっては望ましい展開じゃないのは確かだ。
そうならずに済んだのだから、良しとすべきだろう。

当然だが、俺も聖剣とその鞘のことについて聞かれた。
エクスカリバーの一閃は、ランクに換算することさえできないほどの威力だったらしい。
防御フィールドなしという条件付きなら、アースラの両断さえも可能な威力だったと聞く。
詳しいところが計測できなかったことを考えると、それ以上の可能性もあるな。

クロノに「ほとんど兵器のレベルだ」と言われたのには、苦笑を禁じ得なかったな。
英雄もまた兵器の一種、とは英雄王自身が言っていたことだ。
その英雄の切り札である宝具もまた兵器と言えるので、あながち間違ってはいない。

とりあえず、聖剣をはじめとした武装一式を徴発されなかったのはよかった。
渡す気などもちろんないが、そうなるとこの人たちとの関係は確実に険悪になる。
こんな巨大な組織に、真っ向から反抗するのは明らかに分が悪い。
やろうと思えば罪状くらいでっち上げられるだろうし、それをされると厄介だ。
無実を証明するのって、結構大変なんだよなぁ。

冤罪や押し付けられた罪で命を狙われたことは、一度や二度ではない。
俺自身の責任や罪でも追われていたが、それ以外も決して少なくはなかった。
その程度の権力はあるだろうし、やはりあまり目を付けられたくはない。

そうならずに済んだのは、それほど危険視されていないからだろう。
大層な代物でこそあるが、使う際の条件は結構厄介だ。
投影するまでは監視されていたため、あれの使用に難があることは知られている。
おかげで「参考までに調べさせてほしい」という以上の要請はされなかった。
兵器のレベルということは、逆に言えば兵器ならあれクラスの威力が出せるという事でもある。
自分たちには決して手を出せない領域というわけではないので、こうして見逃してくれているのだと思う。

まあ、宝石剣同様に押収する大義名分もなく、俺が作らなければ彼らには手の出しようがない。
強硬手段に出れる口実がない以上、今はこのあたりが限界なのには変わらないか。
少なくとも、アースラの上層部は筋金入りの善人だ。
さっき考えたような陰謀の類は、あまりやりそうにない。
今回は巡り合わせがよかったのだろう。

アヴァロンの方は、それほど追求されなかった。
エクスカリバー以上に、発動時の情報が集められなかったからだ。
ジュエルシードから解放されたエネルギーで計器が乱れていて、こちらにまで手は回らなかったらしい。
サーチャーは、聖剣を投影してすぐのジュエルシードから漏れた余波によって全滅したそうだ。

まさか「世界から隔離されていました」なんて言えるわけもない。
クロノたちには、強力な防御系の武装で防いだと説明している。
本当にそんなことが可能なのか、ものすごく疑われているけど……。
あの人たちに事の真偽を確かめる術はないのだから、まあ大丈夫だろう。

それらとは別に、いくつかの武装を提供してくれないかと頼まれたが、当然拒んだ。
万が一破損して消滅したら、俺の特異性がバレてしまうのでこれだけは譲れない。
その際に……
「俺にとって使える武装が減るのは、使える魔法が減るのに等しいので絶対にダメです。
この世界のどこかに、俺の武装を貯蔵しているところがありますから、そこを見つけることですね。
 宝探し、頑張ってください」
真実ともいえない、中途半端な情報を与えて誤解してもらうことにした。
まあ、実際に減るのは魔力だけで、武装はどれだけ出しても減らないんだけどな。

まさか俺の体内にそれがあるとは思わないはずなので、これで大丈夫だろう。
外界をいくら探しても、見つかりっこない。「灯台もと暗し」とは、このことかな。
皆さんには悪いが、的外れなところを探してもらうことにしよう。

あとついでに……
「まぁ、見つけたからといってあなた方には使えませんよ。
 俺の持ち物の中でも特に強力なのには所有権というのがあって、それはすべて俺にあります。
これを委譲しないことには真の力は発動できませんから、探しだしても無意味ですよ」
やるだけ無駄だからやめておけ、というようなことも言っておいた。
そもそも俺が投影しなければ、この人たちには手の出しようがないしな。
とはいえ、探そうといろいろ調べられれば、投影を破棄する時の様子で違和感を持たれるかもしれない。
諦めてくれるに越したことはないのだ。

これに対し、クロノがジト目で文句を言っていた。
「その様子だと委譲できるようだけど、君がそれをしてくれれば大助かりなんだが……」
「すると思うのか?」
心底不思議だ、と言わんばかりの顔で首をかしげながら聞いてやった。
そんな俺の言葉に返事はなく、代わりにすごーく苦々しい顔をしていた。
「委譲」なんて言葉を使うからには、それを移せるかどうかは俺の意思次第だ。
脅迫するという手もあるが、クロノは結構潔癖みたいだし、そういうことはしたくないのだろう。

少し悪い気もするが、さすがにこれは無理。
俺たちは志を同じくする同志だが、それはそれ、これはこれというやつだ。
待遇改善とこれは全く関係ないのだから、便宜を図ってやる義理はない。

こっちは身の安全がかかっているのだ。
負担や苦労を減らしてやりたいとは思うが、できることとできないことがある。
これは間違いなくできない事の部類なのだから、申し訳ないが諦めてもらおう。


手の内をだいぶさらし、隠したかったことも全てではないにしろ知られてしまった。
そんな中では、不幸中の幸いといったところだろう。

「最良」とは言えないが、それでも決して「最悪」ではなかったのだ。
ならば、そう悲観したモノではないと思う。



SIDE-凛

今私たちは、食堂で食事のついでにリンディさんたちと今後の話をしている。

現在士郎は、体の動作チェックの意味も込めて給仕と調理を仰せつかっている。
だが、リンディさんが口にするその奇怪な飲み物に絶句していた。
私も初めて見た時は、甘党云々以前にそもそも味の組み合わせとしてどうなのだろうと思ったものだ。

士郎もその考えに至ったらしく、苦言を呈していた。
すると……
「そんな!? あなたは私の生きがいを奪うというの!!?」
などと言って、今にも泣きそうな顔で迫っていた。
いい年した大人が、その程度で涙目にならないでほしいなぁ。

というか、何よその生きがい……。
これを聞いた時は、正直自分の耳とこの人の頭の中身を疑った。
真面目な時と、そうでない時のギャップがあり過ぎるだろう。
時の庭園内での時などは、心の内の苦悩を抑え込もうとするその毅然とした姿に、結構感心したんだけどなぁ。
せっかく上がった株が、また下落している。

ところで、アイツからすれば百歩どころか一万歩位譲ったのだろう。
「お願いします。日本茶にミルクを入れるのだけはやめてください」
と、土下座しながら説得していた。
年端もいかない子どもに土下座される大人というのは、かなり危ない構図だ。
全然そんなことはないのに、リンディさんが血も涙もない悪党に見えたもの。もしくは女王様。
見た目が与える印象の違いって、すごいなぁ……。

なぜミルクだけなのかというと「ミルクと砂糖どちらなら許容できるかと問われれば、苦渋の選択だが砂糖だから」らしい。
まあ、シンガポールや台湾・アメリカといった一部の地域では実際に存在する飲み物だ。
これなら「まだ」許せるというのはわかる。

だが、元の世界で世界中を渡り歩いたが、日本茶にミルクを入れる習慣なんて見たことも聞いたこともない。
ミルクの入った日本茶など、味以前に色合いから気色悪いと思う。
少なくとも、私には美味そうとは思えない。

士郎もそのことに言及していたが、それでもなお聞き入れてもらえなかった。
そこで、士郎が滞在している間は紅茶と菓子をふるまうことが決まった。
こうなれば日本茶が出ることもないので、士郎の眼にとまることもない。
しかし、それは遠ざけているだけにすぎず根本的には何も解決していない。
余談だが、士郎は戦闘要員としてではなく、料理人としてそれは熱心な勧誘を受けた。

まあ、士郎にとってはこれでも結構不満があるみたいだけど。
「ミルクティーなら問題ないし、砂糖の量は個人の好みの問題として割り切れなくもない。
風味や味わいのことで入れる量に文句の一つも言いたいが、日本茶よりはマシだ」
とは、拳を握りしめながら項垂れ肩を震わせる士郎の談だ。
つまり、本当はいろいろ口を出したいのを必死になって我慢しているのだろう。

こんなところの料理人になんてなったら、遠からず限界が来るわね。
どんな結果になるかはわからないが、誰にとっても良くない結果しかないのは目に見えている。
これは魔術云々を抜きにしても、断って正解だ。

士郎は何とか「ミルク日本茶砂糖入り」なんて怪飲料を撲滅したいらしい。
私としても、あれを見ていると日本茶を飲む気になれない。
士郎には何とか頑張ってほしい。
だが「上手くいく自信が全くない」と珍しく愚痴をこぼしていたっけ。
人事を尽くして天命を待つ気分なのだろう。
あまりに希望が薄いのが難点か。

ところで、海鳴に戻るのは明日にでも可能らしい。
だが、ユーノ達がミッドチルダというところに戻るのには、数ヶ月かかるとのことだ。

その間ずっとアースラの厄介になっているのは悪い、というのがユーノの主張だ。
そこへなのはが、また自分の家で暮らせばいいと提案し、ユーノもそれを受諾した。
ユーノは相変わらずのフェレット暮らしになるが、特に不満はないらしい。
クロノに「フェレットもどき」と呼ばれて怒っているが、案外あの生活が気に入っていたのではないだろうか。

そう思って士郎の方を向いてみると……
「そりゃあ、高町家の女性陣に限らず色々な人たちから可愛がられるし、羨ま………」
と、小声で呟いていたので思い切り睨んでやった。

すると、滝のような汗を流しながら、この様に訂正した。
「……もとい、衣食住の心配の要らない楽なポジションだからな。まあ、わからないでもないさ」
その間ずっと目が泳いでおり、口から出る言葉は大根役者のように棒読みだった。
だが、言いたいことが伝わったようでなによりだ。
もしあの先を言っていたら、ちょっときつめのお仕置きが必要になるところだったものね。
それに、こっちにいてもクロノといがみ合うだけだし、ユーノとしてもあちらの方が気楽だろう。

ただ、なのはは相変わらずユーノのことを異性として見ていないようだ。
あまりにも哀れで、涙が出そうだわ。
報われるかどうかはわからないが、せめて一日でも早く異性として見てもらえるように心から祈ってあげよう。
このままじゃ、あまりにも可哀そうだもの。
うすうす感づいてはいたけど、あの子の鈍感さは間違いなく士郎並みね。

そこで話は、プレシアの語った「アルハザード」に焦点が向けられた。
私たちの予想では、それこそが根源ということになる。
ユーノが言うには、そこには今はもう失われた秘術がいくつも眠る土地らしい。

叶わぬ望みはなく、あらゆる魔法はその究極の姿にまでいきついていたと言われている。
その中には、プレシアの求めた死者蘇生や、魔法の一つ時間旅行もあったらしい。
これだと、私たちの予想が的中している可能性は高い。

だが、はるか昔に次元断層に落ちて無くなった世界でもあり、その存在は確認されていない。
つまり、私たちの推測があっているかを確かめる術はないということだ。

今はプレシアが望んだことに対する、次元世界の常識が語られている。
「魔法を学ぶ者なら、だれでも知っている。
過去を遡ることも、死者を蘇らせることも、決してできないって」
これがこの世界の魔法の限界とされている領域。
アルハザードにあるとされる魔法は、そのどれもが現実には不可能とされるもの。
これが次元世界の魔導師が持つ共通認識だ。
その認識からすれば、プレシアの目的は気が触れた狂人の願望としか取られないわね。

「それを求めたために、プレシアはおとぎ話にも等しい伝承にすがるしかなかったんだろう」
クロノの顔には憐憫にも似た感情が見える。
重罪を犯そうとした相手でも、一方的に断罪しようとしない姿勢は立派と言える。

ところがプレシアは、それがただの伝説ではないことに確信をもったのだろう。
何がきっかけだったのかは、今となっては知る術はない。
だがそうでなければ、いくら命の期限が迫っているからといって、あんな強硬策に出るとは考えにくい。

リンディさんも、私と同様の考えらしい。
「彼女はもしかしたら、本当に見つけたのかもしれないわ。アルハザードへの道を。
 …あなたたちなら、何か知っているんじゃないのかしら?」
そのまま話は私たちに振られた。

まぁ、当然聞かれるとは思っていた。
あの時、思いっきり「根源」や「魔術的な意味での魔法」について話していたものね。
これではごまかしようもない。

解説は基本的に私の役目なので、士郎には余計な口を出させない。
下手なことを言って、余計な情報を与えないためだ。
こいつは妙に自覚が薄いというか、はずみで致命的なことを口にしかねない。
この十年でだいぶマシになったが、それでも用心に越したことはないのだから。
「アルハザードなんてもののことは知らないけど、根源の渦でいいなら知ってるわ。
 私の知っていることなんて、そう多くはないけどね」
そう前ふりをして、根源の渦のことについて話し始める。
実際、そうたいしたことを知っているわけじゃないしね。
教えられることなどたかが知れている。

「根源の渦というのは、世界の外側にあるとされる、次元論の頂点に在る“力”と言われているわ。
あらゆる出来事の発端、万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。アカシックレコードなんて呼ばれたりもするわ。
 私たち魔術師はそこを目指す。魔法へと至るためにね」
このことは知られたからって、別に問題はない。
私たちだってたいしたことは知らないのだから、隠すほどのことでもない。
辿り着く手段があるなら別かもしれないが、今のところ特に当てはないしね。
いや、一つだけ当てはあるが、それもいま直ぐに実現できるような事でもない。

「あなたたちの言う魔法というのは、私たちのそれとはだいぶ違うようね。
 プレシアに対して言っていた、あの三つの術とあなた自身が使っていたのがそうみたいだけど……。
 本当にそんなことが可能なの?」
確認するようにリンディさんが聞いてくるが、その声は非常に懐疑的だ。
まあ、当然の反応かな。
私たちの魔法の定義では、この人たちの常識から外れることが絶対条件なのだ。

五つの魔法の内、一つを除けば一応名称くらいなら知っている。
その中で詳細に関して知っているのが一つで、概要がわかるのが一つ。
それ以外だと、ほとんど内容は不明だ。

魔法ともなれば、協会の方でも最高機密扱いだった。
並みの魔術師だったら、どれか一つの名称を知ることさえ困難だろう。
本来なら、いくら色名持ちでもそう簡単には知ることのできない情報だ。
これだけ知ることができただけでも、僥倖と言える。

「私たちは魔法というものを、現代文明では再現できない“奇跡”と定義しているの。
簡単に言えば、どんなにお金や人、技術を無制限に用いてもできないことだって考えればいいわ」
一度区切って周りの様子を見る。
反応はいまいち。
途中だからというのもあるけど、相変らず信じられないと言わんばかりの顔だ。

こちらとしては、無理に理解してもらう必要はない。
出来ないならそれで構わないので、そのまま話を続ける。
「信じられないのは当然ね。だってそれは本来「あり得ない」はずのことなんだから。
そしてそれを可能とする者を、私たちは最大限の畏怖と羨望を込めて「魔法使い」と呼んでいるの」
このあたりは、まだなのはたちにも教えてはいなかったところだ。
とはいえ、別にここまではたいした問題ではない。
私たちにとって困るのは、お互いの秘奥に関して知られる事だ。
だから出来れば宝石剣の話題は避けたいのだけど……さて、上手くいくかしら。

そんな考えは決して表に出さず、仮面で本心を覆い隠す。
「魔法は過去に五つが確認され、私の知っているのはそのうちの三つだけ。
 それらもさわり程度がほとんど。具体的なところがわからないものの方が多い位だわ」
そう、不可能を可能とすることこそが魔法だ。
この人たちに可能なことだったら、それはもう魔法ではない。

ついでに、さりげなく話を第二魔法から逸らしている。
別に嘘は言っていないわよ。知っているのは「三つ」だけだもの。
それとは別にその一端を使えるのが「一つ」あるので、これは除外しても嘘にはならない。

ま、あまり意味はなさそうだけどね。
実際に使えるものがあってその存在を知っている以上、それについて聞いてこないはずがない。
もし上手くいけば儲け物だが、はじめからたいして期待していないのでダメでもともとでしかない。

当然ながら、リンディさんがそのあたりを見逃してくれるわけもなく、しっかりそこを追及してくる。
「その中であなたが使うのが「並行世界」に関わる事柄ということね。
 それだって未だ私たちにも不可能な領域ですもの、十分「魔法」の条件を満たしているわ」
リンディさんが確認するように言ってくる。はい、おっしゃるとおりです。
直接的にこの人たちの前では言ってないけど、プレシアの前ではしっかり言ってますからね。
ちゃっかり監視していたのだから、そう簡単に見逃してくれるほど甘くはない、か。

プレシアとの一戦で、私の秘奥について知られてしまった。
あの状況下ではほかに手がなかったとはいえ、私も士郎も手札をさらし過ぎたのは苦しい。
特に失敗があったわけでもないのにここまで上手くいかないと、いっそ清々しくさえある。

「なら、あなたは魔法使いということになるはずね」
これは厳密に言うと正しくはない。
私は確かに魔法に手をかけているが、その全てをモノにしているわけではないからだ。

とはいえ、これで諦めがついた。
こうしてちゃんと追求されてしまったからには、これ以上は悪あがきにすらならない。
遠坂の当主として、そんな見苦しいまねを続けるわけにはいかない。
「プレシアにも言ったけど、私に魔法は使えない。
 私にできるのは魔法の一端を再現するだけ。向こう側に、人も通れない小さな孔を開けるのが精々よ。
私の家は、五人しか確認されていない魔法使いの一人の弟子の家系なの。
宝石剣はその人から出された宿題」
一応、クロノたちの表情には理解の色がある。
つまりは「見習い」のようなものだと解釈しているのだろう。

「ちなみに、後継者となった家系はいまだに出ていないわ。少なくとも私は知らない」
とりあえず、そんな話は聞いたことがない。
爺さんの言っていたことからしても、未だ近づいた者さえろくにいないのだろう。

それにしても、もし本当にたどり着いた者が現れたらあの爺さん、一体どうするつもりなのかしら。
その場合は排除するのか、それとも大人しく隠居するのか……。
辿り着くつもりでいるけど、あれを敵に回すのは避けたいなぁ。

そんなことを考えていると、リンディさんが控え目に聞いてくる。
「できれば、あの剣をちょっと貸してほしいのだけど……」
控え目なのは、起源弾と違いこちらには回収するための大義名分がないからだろう。

リンディさんがしゃべっている最中だが、それ対する答えは一つしかない。
「嫌よ!」
リンディさんの求めを、無碍な言葉で拒絶する。
無論即答だ。いや、求めている最中に拒んだのだから、それ以前の問題か。

だって、考えるまでもないことだ。
アレは我が家の秘宝であり、魔法への足掛かりだ。
なんでそれを赤の他人に渡さなければならないのか。
渡したとして、無事に返ってくるかすらあやしい。
戻ってきたらバラバラにされていました、ではあまりにも馬鹿馬鹿しい。

だいたいアレを作るのに、一体どれだけのお金が必要だと思っているのか。
貸して欲しいならその十倍は持ってこい、というモノだ。

私の明らかな拒絶に、リンディさんはそれはもう悲しそうにしている。
「まだ、最後まで言っていないのに………」
その瞳には涙が滲んでおり、男ならさぞ慌てふためいたところだろう。
これだけの美人が泣いて頼めば、大抵のことは聞いてくれるでしょうね。

だが、私にそんなものは意味がない。
なのはみたいに人がいいなら別だが、あいにくとそんな可愛い性格はしていない。
だいたい、なんか演技臭いのよね……。

効果がなさそうなのを確認して、気を取り直したように話を進める。
ふん、やっぱり演技だったか。
「はあ、どうしても駄目かしら?
 もしかして、あなた以外が触れると呪われるとか……」
ふむ、おしいわね。
呪われはしないけど、私以外には使えないのは確かだ。
士郎も私の弟子なのだから、一応シュバインオーグの系譜ではある。
だけど、使わせてみても碌に起動させることさえできなかった。
それ故、宝石剣は私以外が持っていても何の意味もないのだ。

でも、特定の人間以外が触れると呪われるってのは悪くない。
悪くないのだが、私はあまり呪いの類は得意ではない。
強いて挙げれば「ガンド」は得意だが、あれは簡易式の呪いだ。
モノに込めたりなんてことはできない。

また、強力な呪術も持ち合わせていない。
魔術協会は、呪術は学問ではないって方針だった。
そのため魔術協会に籍を置く魔術師も、たいていはその方面に疎い。
遠坂の家も例外ではない。
おかげで、いい手段だとは思っていても、それを実行するための方法がない。
残念だけど、諦めるしかないかな。

「聞いてなかった? 私はね「嫌」と言ったのよ。
 渡すことはできるけど、私がそれをしたくないの」
私の言葉に、士郎を含めた全員が呆れたような乾いた笑みを浮かべている。
あまりにも簡潔であり、同時にわかりやすい答えなので他に反応のしようがないらしい。

「まあ、あながち間違ってもいないけどね。
 宝石剣は士郎の武装同様に、使える人間が限定されているわ。
 その資格を持っているのは、現状私と士郎だけよ」
むしろ、その基準は宝具より厳しいと言える。
だって宝具は士郎が頑張れば所有権を移譲できるが、こちらは私の正式な「魔術」の弟子にならない限り無理だ。
で、その私は弟子を取る気などさらさらない。

その性質上、仮に奪ったとしてもこの人たちには宝の持ち腐れだ。
解析しようにも、あれ自体は宝石の塊のようなものでしかない。
魔術を解さない彼らでは、そこに秘められた理論も術式も引き出すことはできないだろう。

「当然、私たちにその資格はもらえないのでしょうね」
物分かりがいいようで何よりだ。
もし仮に拝借できたとすれば、解析だけでなく、なんとか起動させようとするはず。
手にしても起動できないと知って、明らかに落胆している。

しかし、もっと強く要求されるかと思っていたのだが、思いのほか大人しく引き下がってくれた。
あまりにも素直だから、何か別の意図があるのではないかと不気味に思う。
今のところ交換条件が提示されているわけではないし、気にし過ぎなのかもしれないな。

「当たり前ね。あれは約二百年をかけて解き明かした、我が家の秘宝よ。
 一応言っておくけど、詳しいところを教える気もないわ」
まぁ、教えたからと言って理解できるとは限らない。むしろ無理だと思う。
この世界の技術の最先端をいく管理局にとってさえ「並行世界」は机上の空論の域をでない。
そのうえ、ただでさえ根底にあるものが真逆だ。魔術的に説明されて理解できるとは思えない。

「……それもがんばって、自分たちで再現するしかないということね。
 ところで、小さな孔しか開けられないということは、あなたでは並行世界に渡ることはできないということ?」
これまでのやり取りで、いくら頼んでも教えてもらえないことは分かっているのだろう。
無理に聞きだすという手もあるけど、それは避けたいらしい。
無制限に魔力を行使できる相手に、下手に喧嘩を売るのは良策とは言えない。
反動については教えていないので、消耗戦を仕掛けられる心配はなさそうだ。

このあたりは、こちらの目論見通りといえる。
士郎の武装にしても、実戦での使用に難があるとはいえエクスカリバーの威力を知っていては、下手に藪をつついて蛇どころか竜を出したくないはずだ。
他にも、この人たちが知らない宝具だってたくさんある。
少なくともアースラの戦力では、なりふり構わず全力を出した私たちを拘束するのは難しいと判断したようだ。

実を言えば、じっくり時間をかけさえすれば、拘束するのはそう難しいことではない。
私たちは、あまり長期戦に向いていないためだ。
所詮は個人にすぎないので、組織立って動かれると勝ち目がない。
休む暇を与えない持久戦になれば、確実に私たちが負ける。

宝石剣は反動の関係でそう長く使用できない。
士郎は固有結界など使ってはあっという間に魔力が枯渇してしまうので、短期決戦でしか使えない。
宝具にしても、そう何度も真名開放をしていてはすぐに魔力切れになる。
地道にゲリラ戦でもしかければ別だが、正面きっての戦闘になるとどうしても不利になる。

まぁその際にはこちらも全力で抗うので、それなりに被害を与えることになるだろう。
向こうは生け捕りが前提で、こちらはいざとなれば殺すことも辞さない。
そんなことにはならないに越したことはないので、少し安堵する。

現時点での関係の悪化は、向こうとしても避けたいらしい。
おそらく、今は聞ける範囲のことをできるだけ引き出そうというのだろう。
「そうね。大師父なら転移くらいなんてことないでしょうけど、私には無理ね。
 いつかは実現させる気でいるけど、気長にやるしかないわ」
できれば桜が生きているうちに一度向こうに戻ることができたら一番なんだけどな。
さすがに、こればかりはどうなるかはわからない。

現状、私単独での転位は無理。
移動するための方策はなくはないが、そのためには膨大な魔力を貯める装置を作らなければならない。
その上、魔力を貯める時間も必要だ。
更に言うと、たとえ準備が出来てもどこに繋がるかは完全にランダム。
せめて、行き先くらいは自力で決められないと試すこともできない。
前途は多難ということだ。

「他の魔法については何が分かっているの?
 できれば詳細を聞かせてほしいのだけど」
第二魔法については、聞いてもそれほど答えてはもらえないと考えたのか、切り口を変えて聞いてくる。

さすがに二百年前の人物が生きているとは思わないようで、そのことは聞いてこない。
実を言えば、この先遭遇する可能性は決してゼロではない。
あるいは管理局に喧嘩を売ってもおかしくない人なのだ。
その上私たちと違って、あの人だったら真っ向から管理局と戦っても勝ってしまいそうだしね。
その弟子の筋ということで、いらぬ危機感を持たれても困る。
また、説明が面倒でもあるのでそのことには触れないでおくのが無難だろう。

「時間旅行の方は想像どおりでいいと思うけど、詳しくは知らない。無の否定も同様よ。
 魂の物質化に関しては、少し知っている程度ね。
なんでも魂だけで物質界に干渉できる、高次元の存在へと進むためのものとか……」
そもそも魂の概念を知らない魔導師たちにこの話をしても、オカルトにしか聞こえないだろう。
魔導師たちは、使い魔製作の際に人造魂魄を憑依させる。
だがそれも「そういうようなモノ」でしかなく、他に表現のしようがないからだそうだ。

だから人造魂魄というのは、本当に人の手で創られたり、加工されたりした魂というわけではないらしい。
その在り方は、私たち魔術師の使役する疑似生命としての使い魔と酷似している。
魂だけの存在といわれても、一体どんな状態になるのか専門外ということもあって私にもピンとこない。
隣にいる士郎などなおさらだろう。

ちなみに、時間旅行や無の否定に関しては、以前士郎の家に居候していたバゼットから聞いたことだ。
死者の蘇生には第二の他に、このどちらかを用いることでも可能なのだと教えてくれた。
時計塔に所属して、私は一足飛びで「王冠(グランド)」にまで駆け上がった。
だが、それでもあまり魔法に関する情報は得られなかった。
その手の情報の大半は、時計塔の支配階級である「ロード」達が封鎖をかけていたせいで、多くを知ることができなかったのだ。

まあ私自身、第二魔法以外の情報は興味や関心はあっても、それほど重視していたわけでもない。
そのこともあって、手に入った情報はバゼットから聞いたのと大差ないものだ。
第三についてはバゼットも知らなかったらしく、こちらで蘇生が可能なのかは厳密に言うとわからない。

まあ、無理もないのかな。
第三は、協会でもずっと秘密にされてきた禁忌中の禁忌だもの。
封印指定の執行者は戦闘能力こそ高いが、位階は色名持ちには劣る。
バゼットも、あまりそういったことに興味なさそうだったし。
ただ、魂に関する魔法なわけだし、他の魔法は可能なのだから多分こちらでもできるのだと思う。

「それらなら、死者を蘇生できるということかしら……。
 ああ、でも物質化すべき対象がなかったら、それも無理よね」
リンディさんをはじめ、この場にいる全員が何とか理解しようとするが、進展はなかなかない。
魂なんてモノは、魔導師たちにとってもいまだ不明な点ばかりの事柄なのだから当然だ。
人造魂魄にしても、未だによくわかっていない事の方が多いらしい。
術式は確立されていても、その全てが解明できていないというのは、それだけ魂という存在が厄介なモノということだろう。

私たちとしても詳しく知っているわけではないので、助言することもできない。
できて、魂とは一般的に「内容を調べ」「器に移しかえるモノ」ということぐらいかな。
これではたいして役に立たない。
私たちの魂をこの体に定着させた桜だったら、もう少し詳しく説明できたのかな?
一応あの子の専門はそっち系だったので、私より詳しいのは確実だろう。

魂に関しては一応頭にとどめておく程度にしたのか、また別の話題を出してくる。
「これで最後の質問にするつもりだけど、いいかしら?」
質問自体は別にかまわない。
答えるかどうかは、聞いてからでも遅くない。
話したくない内容なら、話さなければいいだけだ。
尋問されているわけではないし、答える義務もないのだからそれはこちらの自由だもの。

私の沈黙を肯定ととったようで、リンディさんが最後の質問とやらをする。
「プレシア女史に対して「抑止力」とか「世界が動く」とか言っていたけど、それはどういう意味なのかしら?」
ふむ。これまでと違って、これに関してはあまり情報を出し渋る気はない。
抑止力云々に関しては、知っておいて貰った方がいいぐらいだ。
あまり派手に動き回って、抑止力が動いては管理局としては本末転倒の結果になりかねない。

アレらがどんな基準で動くのか諸説ある。
だが、明確な基準がわかっているわけではない。
何が引き金になるか分からない以上、少しくらい用心して動いた方がいいだろう。

この世界にどの程度私たちの世界の常識が通用するかはわからない。
だが魔術基盤がある以上、全く違った法則で括られているということもないはずだ。
少なくとも、ある程度共通する事柄が存在する。
なら、私たちの世界の常識を知るのは決して無駄なことではない。

「抑止とは、世界の崩壊を防ぐものよ。一応二種類にわけられるんだけど、アラヤとガイアって呼ばれるわ。
 アラヤは霊長全体の意志、ガイアは世界の意思ってところね。
極論すると、世界を滅ぼしてでも霊長を存続させるのがアラヤ。
逆に、人を滅ぼしてでも世界を存続させるのがガイアよ。
霊長と世界の内いずれかが致命的な状態に陥った場合、共倒れとなる危険性が高いの。
だから、結果的に同じ方向に向かって動くことが多いんだけどね」
ここまでが基本知識。これでもかなり簡略化しているので、いくらか説明不足な感はある。
なのはは……この段階ですでに混乱しているようだ。
まぁ時間ももったいないので、今は置き去りにしよう。

重要なのはこの先だ。
「で、ここからが本題。勘違いしないでほしいんだけど、それは人を救うというのと直結しないの。
 次元世界で滅んだ世界のうち、いくつそれに該当するかはわからない。
でも、抑止は「滅びの原因」となるモノを排除する。
そこに例外はなく、危険と判断したあらゆる存在を滅ぼすわ」
『えっ!?』
リンディさんをはじめ、クロノやエイミィさん、それにユーノもその言葉には驚愕する。
話の内容がよくわかっていなかったなのはも「滅ぼす」というあたりに反応する。
危険と判断されれば何であろうと滅びの対象になるというのは、彼らからすればあまりに乱暴と感じるだろう。

その上、この話にはさらに続きがある。
「その際の滅びは、原因だけでなく周囲の全てに及ぶことがあるわ。
滅びに直面した者を救うのではなく、滅びと無関係な人たちを救うべくその一帯を消す。
一つの世界そのものを滅ぼすなんて、一番手っ取り早い方法ね。他に世界なんていくらでもあるんだから」
複数の世界が存在する以上、一つなくなったぐらいならたいした問題ではない。
所詮、九を救うための一の犠牲でしかないからだ。
それが守護者のような直接的なものか、それとも人の意識に干渉しての間接的なものかを確かめる術はない。
だが、ジュエルシードを作った世界が滅んだ原因の可能性としては、十分にありうる。

非常に苦い表情をしていたリンディさんが、一同を代表して口を開く。
「たとえ私たちが干渉しなくても、どのみち抑止力とやらに潰されていたはず、ということね。
あなたたちの話通りなら、その場合の被害は生半可なことじゃ済まなかったでしょうけど。
 あるいは、私たちの行動も抑止力の影響を受けた可能性がある……と、そういうわけね」
その可能性はかなり高い。
並行世界の魔術師である私たちがやってきて、桁外れの魔力と才能を持つなのはがいる街。
そこにジュエルシードが落ちてくるなんてのは、出来過ぎなくらいだ。

「その可能性は高いわね。
もしそうだとしたら、いいように使われたみたいで癪だけど……。
 あなた達も気をつけなさい。あんまり派手にやってると、いつ排除されるかわからないわよ」
さっきも言ったが、抑止力の前に例外はない。
どれだけ彼らが世界を守ろうと腐心していようと、それを邪魔か危険と判断すれば抑止は動く。
管理局の在り方を考えると動くのはガイアの可能性が高いが、どっちが動いても関係ない。
アラヤの場合でも、滅びの要因に管理局が関わっていない保証などないのだ。

抑止力は絶対に勝利できるよう、抹消すべき対象を上回るように規模を変えて出現する。
故に、抑止力に抗う術はない。
一度動いてしまえば、誰にも求めることはできないのだ。

私の言っている意味がわかったのか、リンディさんたちは渋い顔をする。
自分たちが良かれと思ってすることでも、世界にそれがどう作用するかはわからない。
管理局は次元世界で手広く活動している。
その分、世界に目をつけられる可能性は高い。
今までは知らなかったようだが、彼らはいつもその危険と隣り合わせなのだ。

とはいえ、全ては結果が教えてくれる。
逆に言えば、結果が出るまではそれが正しかったのかは誰にもわからない。
ちょっと脅かしてみただけなのだが、思いのほかショックが大きかったようだ。
「ま、悩んでも仕方がないわ。実際のところがどうなのかなんて、調べる方法があるわけじゃないしね。
結果として被害は少なかったんだから、今回はこれで良しとしましょ」
言外に「これで終わり」という意味を込めて締めくくる。
確かめようもないことで悩んでも意味はない。

「待ってくれ! もう一つ聞きたいことがある」
これで終わりかと思ったが、クロノが待ったをかけてくる。
詳しいことを省いたとはいえ、これ以上特に話すことはないはずなんだけどな。

「魔術師は根源の渦とやらを目指すと言ったな。おそらくは君たちもそうなんだろう。
 君はプレシアに、根源に至ろうとする場合でも抑止力への対策が必要だと言っていた。
 それなら君たちが根源を目指すことで、抑止力が動いてしまうんじゃないのか?」
なるほど、これは確かに聞いておかなければならない。
もしそうなのだとしたら、管理局としては私たちを見過ごすことはできない。
そう何度も世界の危機を引き起こされてはたまらないのだから、クロノの危惧は当然だ。

「クロノの言うことは正しいけど、その心配はいらないわ。
 本来魔術師は、根源に至るために様々な準備をするものよ。
可能な限り世界に気づかれず、もし気づかれても抑止の影響を最小にできるようにね。
少なくとも、今回みたいな派手な結果を引き起こすようなヘマはしない」
危惧の対象が自分かそれとも世界かの違いこそあるが、多くの魔術師がその点に苦心してきた。
どうすれば世界からの干渉を最小にできるかは、根源を目指す上での最大の課題とも言える。

「今のところは特に有効な手もないし、気長にやっていくしかないわ。
 それに根源に至るだけがすべてじゃないし、直接魔法に至るのも手ね」
私はすでに魔法の一部に手が届いているのだから、これを突き詰めていくことで根源に行くのが当面の方針だ。
直接根源を目指すのではなく、魔法を手に入れることで根源に至るというのも一つの手段。
魔法とは、根源への道でもあるので、これでも至ることはできるはずだ。
これなら修正を受けないということではないけど、直接やるよりかはマシかもしれない。

どのみち、プレシアのような派手なことをするつもりはない。
自分たちの帰ってくるところくらい、ちゃんと守っておきたい。
今回、こんな危ない橋を渡ってまで守った居場所だもの。破滅と引き換えにするなんて論外だ。

クロノは一応納得したのか、浮かせていた腰を落ち着かせる。
「わかった。当面はその予定はないんだな。
君たちの方が抑止力の恐ろしさは知っているんだから、軽率なことはしないと思うし、信用もしている。
 もし根源の渦に挑むのなら、その時はこちらにも声をかけるように。
万が一に備えて、対処できる用意を整えるくらいはできるはずだ」
そういえば向こうでも、根源に至る実験の際には協会の監視がつくものだったっけ。
律儀にそれに従うかはまた別の問題だが、とりあえずそれに頷いておく。

もしそれをしようとすれば、管理局によって捕縛される可能性が高そうだけどね。
どれほど入念に準備をし、絶対確実な方策があったとしてもそれは変わらないだろう。
そんな危ないことをしようとするのを、黙って見逃してくれるとは思えない。
まあ、それも結構先の話なので今は気にしなくていい。

これで話し合いはお開きとなり、少しさめた食事に手をつけることになった。



SIDE-士郎

アースラから降りて、元の日常に戻って数日が過ぎた。
クロノからの連絡で、フェイトの今後の処遇が正式に決まったらしい。
そのため、当分は会うこともできなくなるそうだ。

これだけの事件なので、通常ならかなりの厳罰が科されることになるところらしい。
向こうの法なんて知らないし、クロノが嘘をつく理由もないのだからそういうことなのだろう。

だが、それはあくまで「通常」ならの話だ。
情状酌量の余地もあるということで、クロノをはじめ減刑のために尽力してくれることを約束してくれた。
二人だって被害者のようなモノだから、それを聞いた時には安堵のため息をついた。
もしあまりにひどい処罰を受ける様なら、無理にでも逃がしてしまおうかとさえ思ったほどだ。
その場合二人はお尋ね者になってしまうので、そうならずに済んだのは感謝すべきだろう。

さすがに、どれだけ上手くやったとしても最低数年間の保護観察は免れないらしい。
だがフェイトの境遇を鑑みれば、実刑に処される可能性はかなり低いようだ。
故に、そう悪いことにはならないという話だ。

リニスは、時々フェイト達に会いに行ったりしているらしい。
プレシアの死で気落ちしていたフェイトも、少しずつ元気を取り戻していると聞く。
本来ならできないのだが、そのあたりもリンディさんが目を瞑ってくれているそうだ。

そこで、その前に少しだけだが会えることになった。
このあたりはリンディさんたちに感謝しなくてはならない。
本来、護送中の重要参考人との面会なんて簡単にできるものではないから、相当骨を折ってくれたのだろう。

なのはとしても、何時かの申し出の答えを聞きたいはずだ。
そこで、しばし席を開けることにした。
その間に、リニスのことについて話をする。
「じゃあリニスはフェイト達について行って、管理局の方でリハビリするのか」
「そうなるね。
数年にわたって無理のある延命をしていたんだ。
いくら使い魔でも、時間をかけた専門的な治療が必要だよ」
当然と言えば当然か。
ただ眠っているだけでも相当に苦しいはずなのに、その状態でずっと念話で呼び掛け続けていたのだ。
体にたまった疲労は尋常なものではない。
こちらの使い魔について明るくない俺たちでは、ちゃんとした治療ができるはずもない。
ここは専門家に任せるのが一番か。

「そう、それじゃあ仕方がないか。
せっかく優秀な使い魔が手に入ったと思ったんだけど、しばらくはお預けね。
 フェイトのことにしても、気心の知れている相手は多い方がいいだろうし、その方がいいか。
でも、リハビリを終えて復帰できるようになったらどうするつもりなの?」
リニスはフェイトの魔法の師でもあったようで、心の支えにもなってやれるだろう。
そういう意味でも、フェイト達について行くのはいいことだと思う。
だが一応契約している身として、アルフに抱えられている山猫形態のリニスに凛が問う。

リニスはまだ体調が芳しくないようで、極力無理は避けるように言われているらしい。
今までずっと黙っていたのはそのせいだ。
だが凛の問いに応えるべく、リニスは少し苦しそうにその口を開く。
「もちろん戻ってきます。
 あなたたちには大きな、とても大きな恩があります。
私ができなかった決断を、代わりにさせてしまいました。
 その恩は、この身を以てお返しします」
プレシアを殺したのは、あらかじめ覚悟していたとはいえそうするしかない状況だったからだ。
いや、それは言い訳に過ぎない。
理由はどうあれ俺たちは一人の人間を殺し、その周囲の人たちを悲しませた。
それを「どうしようもなかった」なんて言葉で許されるはずがない。
責任というのであれば、形は違うが俺たちにもある。

それに、これはリニスの望んだ結果ではなかっただろう。
それでも、自分にできなかった決断をした凛に精一杯仕えることで、託した者の責任を果たすつもりでいる。

しかし「あなたたち」って……。なんかいつの間にか俺までその対象にされているけど、いいのだろうか?
俺、プレシアのことに関してはほとんど何も出来ていないのだけど。

まあ、こいつが戻ってきたら家族が一人増えることになるな。
昔のような大所帯になることはないと思う。
だが、こうして家族が増えていくのはあの頃のようで、少し心が弾む。


  *  *  *  *  *


もう時間が来たようで、クロノがフェイト達に別れを告げるように言っている。
リニスはともかく、裁判後のフェイトの処遇はまだ決まっていない。
だから、この先いつ会えるかわからない。
そもそもまた会ってくれるかさえ分からない。
なら、今のうちに伝えるべきことを伝えないといけない。

そう思って口を開きかけたところで、フェイトが先に言葉を発する。
「シロウ。わたしはあなたたちのことを恨んでなんかいないよ。
まだ、気持ちの整理はちゃんと付いていないけど。でも、二人には感謝してるくらいだから。
 私は、士郎のおかげでまた立ち上がることができた。
凛のおかげで、手遅れになる前に思いを伝えられた。
 間に合ったのは二人のおかげだから、これで…本当のわたしとしてやっていける」
まだ、プレシアのことを思い出すと辛いのだろう。
凛の方を見ることはせず、その笑顔はどこか苦しげだ。

だが、フェイトがこう言ってくれて少しだけ救われた。
正直、絶対に恨まれていると思っていたのだ。
凛はプレシアを殺し、俺はフェイトを欺き利用した。
どんな理由があっても、それは変わらない。
その憎しみを受け止めるのが、俺の責任だと覚悟していた。

「だから、もうそんな辛そうな顔しないで……。
 今ならわかる。シロウ、時々すごく辛そうな顔をしていたけど、そのせいだったんだね」
そう言いながら、フェイトはその白い手で俺の頬に触れる。
その顔には悲しそうな、それでいて優しい表情がある。

まったく、自分だってまだ苦しいくせに、そうやって人の心配をするのは悪い癖だ。
だが、この優しさがフェイトらしいと思う。
大丈夫。フェイトはプレシアのようにはならない。
どれほど辛くて苦しくて、やり切れないほどに悲しくても、道を踏み外すことはないだろう。
こうして他人の心配をし、現実から逃げず、悲しいこと以外にも目を向けられるのなら、フェイトはちゃんとやっていける。

それにしても……
「……気づいて、いたのか」
ずっと罪の意識を感じていたけど、顔には出していないつもりだった。
だから、少しばかり驚いた。
まだまだ俺は未熟であり、それだけフェイトの前で地が出ていたということなのだろう。
そんなことに気を遣わせてしまっていたようで、また違った意味で申し訳なくなる。

フェイトは俺の頬から手を離し、その手を差し出してくる。
「ねぇ、お願いがあるんだ。
 なのはと同じように、これからもわたしの友達でいてくれないかな」
躊躇いがちに紡がれるのは、以前と同じ関係を求めるささやかな願い。
本来なら破綻していて当然の関係を、フェイトは望んでくれている。

その資格が、俺にあるかはわからない。
だが、それでもフェイトがそれを求めてくれるのなら、俺はその思いに応えたい。
だから、返す言葉なんて一つしかない。
「ああ、もちろんだ。何があろうと、俺はフェイトの友達だ。
 いつでも、どんな時でも助けになることを約束する」
フェイトの手を取り、心からの約束をする。
償いとしてではなく、純粋に友人としての誓い。
俺の言葉に、久しく見ていなかったフェイトの混じり気のない純粋な笑みがこぼれる。
こうしてまた笑ってくれることに、心から感謝する。

せっかくなので、ポケットからあるものを取り出す。
こいつは、アースラを降りてからの数日で作った品だ。
アースラがこの地を離れる前に、クロノにでも頼んで渡してもらおうと思っていた。
こうして渡す機会があるのだから、やはり自分の手で渡すべきだ。
「フェイト。たいしたものじゃないんだが、これを貰ってくれないか」
そう言って、フェイトの右手を取って握りこませるようにして渡す。

手渡したのは、剣の形をしたペンダント。
剣の属性を持つ俺が作った、純銀製の剣のアクセサリーだ。
魔術的な処置を施しているので、それほど強くはないが対魔力の効果がある。
元来、銀は魔術的な意味合いの強い金属だ。少し加工するだけでもある程度の力を帯びる。
それを俺の属性に合致する形状にし、その上で魔術的な加工をしたことで結構な代物になったと思う。

俺たちのランクに換算してDくらい。
魔力避けのアミュレット程度か、それよりやや上といったところだ。
それでも、持っていれば多少は魔力によるダメージを削減してくれる。
ロンドンでの修業時代には、剣の他にもこんなものを凛によく作らされた。
もちろん売って、資金調達するために。これが結構いい値で売れるんだ。

これは顔も知らない誰かのためのものではなく、フェイトのためだけに作った贈り物。
もう会うことはないのではないかと思っていたので、思い出の品として作った。
だが、どうやら友好の品になりそうだ。

「これって、シロウが最後に使っていた剣と同じもの?」
ジュエルシードの後始末で、エクスカリバーの姿は見られている。
フェイトもその映像は見ていたのか、手に取ったペンダントを見て聞いてくる。

これが後に、フェイトの最大攻撃魔法のヒントになるのだから、世の中何がどう作用するか分からない。
使う瞬間は誰も見ていないが、あの時の剣で極光を放ったのは疑いようがない。
それを参考にしたらしい。

まぁ、規模や質は違うが見た目は似ている。
光り輝く剣を振り抜くと同時に、金色の光が敵を薙ぎ払うところなんてそっくりだ。
なので、それを聞いた時は「なるほど」と納得した。

本質のところは違っても、誰かが自分の大切なものを受け継いでくれるのは嬉しいモノ。
俺の魔術は特殊過ぎるから、そんな経験はしないだろうと思っていた。
それは、ある種の諦めに近かっただろう。
だが、俺はこの約半年後にその喜びを実感する事となる。

「ああ、エクスカリバーをイメージしている。
 少しぐらいなら魔力を防ぐ力があるから「御守り」とでも思って持っていてくれると、ありがたい」
この先フェイトがどんな道を歩いて行くにせよ、彼女を守ってくれるようにと願って作った品だ。
今までが苦しかった分、それに見合った幸せを手にしてほしい。
そのための道を斬り開いてくれるように、という願いも込めている。

渡された品を持つ手の甲にもう片方の手を被せ、胸元で大切そうに握る。
「………うん、ありがとう。ずっと、大切にするから」
フェイトは顔を赤くして、優しく微笑みながらお礼を言ってくれる。
その眼尻には、涙の雫が光っている。
ここまで喜んでもらえるなら、作ったかいがあったというものだ。

ただ、背中にとんでもない悪寒が走っているのはなぜなのか。
背中に突き刺さるのは、鋭くも不機嫌さに満ちた視線。
なのはは俺の横にいるから、この視線は凛以外にあり得ない。
なんでそんなに殺気立っているのだろう。
この様子だと俺が原因のようだが……。

むぅ。黙ってフェイトにプレゼントを用意したのが、そんなに気にくわないのだろうか。
凛にも協力してもらおうと思ったが、やはり自分の手で仕上げたかったので、それはしなかった。
結果的に除け者にしたようなモノだし、あとでちゃんと謝るべきだろう。


その上、このすぐ後に追い打ちをかけるような事態が起こった。
その点も含めて後で謝ったが、案の定ボコボコに殴られました。
それもベアもベア、グリズリー級のベアで……。
顔が原形を留めていたのは、奇跡としか言いようがない。
無論、凛の拳は俺の血に染まっていた。
いや、拳だけじゃなくて肘や膝も真っ赤だったけどさ。
あの拳の紅さが忘れられない。

まあ、後の方はわからんでもない。理不尽だとは思うが、諦めはつく。
だが、このプレゼントに関しては全く納得がいかない。
俺に女心なんてモノがわかるわけがないのは、情けない話だが自覚している。
そこで、腹を立てている理由を問うと……
「ああもう!! その鈍さがハラ立つわね!!!」
なんて言って怒鳴られた。
もちろん、素敵に鋭くも重い拳とセットで。

その後しばらく、口をきいてくれなかったもんなぁ。
仕方なくなのはたちに相談したら、何とも言えない微妙な表情をして口を閉ざしてしまった。
なんでさ………。


  *  *  *  *  *


別れも近づいてきた。

ゲートが現れ光を放つ。
当分会えないのはさびしいが、これで最後ではない。
また会えると信じて、笑って送り出してやろう。
「そうだ、シロウ。最後に、一つだけ聞いて欲しいんだ」
ゲートが開こうとしているところで、フェイトが話しかけてくる。

はて、まだ何か言っておかなければならないことでもあるのだろうか?
十分とはいえないまでも、それなりに時間はあったから結構話せたはずだ。
フェイトはさっきよりもさらに顔を赤くして、深呼吸をしている。

このままでは話す前に転移してしまうのではないかと危惧しているところで、フェイトが駆けだす。
『え!?』
フェイトの突然の行動に、全員が呆気に取られる。
まさか、このまま管理局から逃げるつもりじゃないだろうな。

確かに、しばらくは不自由な思いをするだろう。
しかし、それもよほどのミスを犯さなければ一時的なもののはずだ。
ここで管理局から逃亡すれば、それだけでお尋ね者になってしまう。
わざわざそんなリスクを背負う意味も理由もわからない。

だが、これは俺の勘違いだった。
フェイトは逃げるつもりなどなかった。
冷静に考えれば、この娘がそんなバカなマネをするはずがない。
駆けだした本当の目的は、俺にあったのだ。

俺のすぐ前まで駆け寄ってきたフェイトはそこで立ち止まり、紅潮した顔を近づける。
少し背伸びをしながら、俺の唇にその小さな唇をそっと合わせる。
まあ、早い話がキスをしたということだ。

時間にして一秒にも満たない、触れるだけの軽いキス。
唇を離したフェイトは、スグに一歩下がる。
そのまま、澄んだルビーを思わせるその紅い瞳で俺を見つめる。
そして、これ以上ない程顔を真っ赤にしながら、小声で……
「ふふ、キスしちゃった……」
と、呟いた。
その声は今まで聞いたことがない位に嬉しそうであり、同時に強い決意を感じさせる。
ところで、なんだか既視感が……。

そこで凛が、らしくもない絶叫を上げる。
「あ…あ゛あ゛ぁ~~~~~!!??」
遠坂の家訓も何も全てを忘れ去った絶叫は、むなしく空に消えていく。
今まで静かだったのは、フェイトの突然の行動に驚いていたからだろう。
これで案外、不意打ちに弱い奴だ。
こういう突発的な事態には、結構反応が遅れる。

凛の魂の底からの叫びを聞いて、やっとさっきの既視感の正体に気付く。
ああ、そうだ。これ昔、凛にいきなりキスされた時に言われたセリフと酷似している。
とすると、凛の反応はフェイトの行動と発言、どっちに対するものなのだろう?
なんて、ものすごくどうでもいいことを考えて現実逃避する。
この後に待ち受けていることを考えると、この場で意識を断ってしてしまいたい。

横目で見ると、他の連中も目を剥いて唖然としている。
フェイトの思わぬ大胆行動に驚いているのだろう。
フェイトを知る者なら、これは彼女らしくないと思って当然だ。

フェイトはその場で、はしたなくも大口を開ける凛の方を向く。
もう優雅も何もあったモノじゃないな、あれは。
そして、フェイトは素晴らしく綺麗な満面の笑みで宣戦布告する。
「わたし、負けないよ。
 いつか絶対に、シロウを振り向かせて見せるから」
何というか、ずいぶんとたくましくなったなぁ。
プレシアに出生の秘密を暴露された時の憔悴ぶりが、嘘のようだ。
俺の方は突然のことに対応できず、木偶のように突っ立っていることしかできないでいる。

宣言と共にフェイトは軽やかな足取りでゲートへと戻り、そこで改めて言葉を紡ぐ。
「シロウ――――あなたのことが、大好きです」
フェイトはその言葉が終わると同時に、光に包まれて消えてしまった。
まさか、別れ際にキスと告白の両方を同時にされるとは思わなかった。

正直、告白されるというのには慣れていない。
前の世界にいた時から、誰かに告白された経験など皆無だ。
俺は、一体どうすればいいのだろう?
フェイトはすでにこの場にいないのだから、返事をすることもできない。

ああ、考えてみれば凛以外にキスされるというのも初めてか。
今思えば、凛とは少し感触が違ったなぁ。
上手く言葉にできないが、ハリや弾力にわずかな違いがある。
今もその余韻は唇に残っており、思わずそこに触れる。

ロリコンの気はないつもりだが、さすがにこれは照れくさい。
しかし、いつまでも照れていることはできなかった。
凛の方からは凄まじい負の気配と、そら恐ろしい呟きが聞こえる。
「ふ~ん、そうなんだぁ。衛宮君てば、そうだったんだ……」
口調は穏やかなのに、何でこんなに怖いんだ。
呟きの内容だって、特に危険な単語があるわけではない。
恐ろしさを感じる要因なんてどこにもないはずなのに、聞いているだけで足は竦み背中に冷や汗が伝う。
背筋に走る悪寒は、さっきまでのとは比べ物にならないほどに冷たい。
背骨に液体窒素でも注がれたような気分だ。
この場は大丈夫だろうが、家に帰ったら折檻という名のリンチにあうのは確実だ。

できれば今すぐに逃げたいのだが……
「さて、別れも済んだことだし、私たちも帰りましょう。
 ああ、なのは。悪いけど、私と衛宮君はこのまま家に帰るわ。急用を思いついたの」
いつの間にかいつもの調子に戻った凛が、なのはたちに告げる。
しかし実ににこやかな顔で話してはいるが、身に纏う雰囲気は普段とはあまりに異質だ。
なんか、やたらと禍々しい王気(オーラ)が迸っている。

ああ、体の震えが止まらない……。
なのはやユーノも産まれたての小鹿のように震えている。
すでに俺は襟をつかまれ、脱出は不可能。
助けを求める視線を向けるが、誰も合わせてくれない。
……友情って、儚いものだな。

はあ、よくよく考えれば、なのはたちをこんな理不尽に巻き込んでしまうのは可哀そうか。
あまり気に病まないように、内心とは裏腹に朗らかに別れを告げる。
「じゃあななのは、それにユーノ。………生きていたらまた会おう」
最後の一言は、思わず言ってしまった率直な感想だ。
心のどこかで、まだ助けを求めているのかな?

言っているそばから、俺は引き摺られて行く。
明日には学校もあるのだが、はたして俺は無事登校できるのだろうか。
いや、それ以前に本当に俺は明日の朝日を拝めるのかな。

というか、なのはとユーノ。
何だ? その「この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)」って……。
それ確か、聖堂教会の連中が使う最大の対霊魔術だろう。
凛も一応キリスト教徒だったからそれも使えたはずだけど、習ったのか?
つまり俺はすでに迷える魂で、さっさと昇華(成仏)しろと言いたいのか?

二人に迷惑をかけまいと思ったが…………気が変わった。
一言文句を……いや、いっそ道連れにしようと思い手を伸ばす。

だが、時すでに遅くその手はむなしく空を掴む。
二人は、変わらず同情するような視線を俺に向けている。
傍から見たら、助けを求めているようだからな。
俺が手を伸ばしている意味を勘違いしているのだろう。

「ほら、急ぎなさい。衛宮君」
「……ま、待て! し、絞まる……首、が………」
というか、そんなことを考えている場合ではない。
今まさに窒息しそうだ。だ、誰か助けて……。

引き摺られ酸欠から徐々に薄れゆく意識の中、蒼い空を見上げて俺は思った。
(ああリニス、早く戻ってきてくれ。そうしたら俺の苦労も、きっと減るはずだ)
少なくとも、いさめる人間の有無は俺の精神衛生上、とても大きな意味を持つ。
気休めでもいいんだ。少しでも何とかしようとするその姿勢に、俺の心は救われるから。


ある日、幽霊屋敷と名高い洋館から断末魔の悲鳴が聞こえたとかで、学校で話題になる。
ある者は自殺した貴族の幽霊だと言い、ある者はその洋館で猟奇殺人が起こったからだと語る。
情報は錯綜し、真実に迫ることは誰にもできなかった。

真相を知る者がいないわけではない。
しかし、それを知る唯一の少女は話を聞ける状態ではなかった。
彼女はその話題が出る度に怯え錯乱してしまい、誰もが奇異に思いつつも介抱するに留まったからだ。
その際に彼女は「あくま~! あくまが来るよ~~!!」と泣き叫んでいたそうな。

だが、俺がそれを知るのは一週間後のことだった。



第一部 了



Interlude

SIDE-リンディ

私は今アースラの自室にて、報告書を作成している。
それは一連のジュエルシードをめぐる、プレシア・テスタロッサ事件のものではない。
そちらはクロノやエイミィも手伝ってもらい、すでに大方は仕上げている。
それとは別に、件の預言に関する報告書を作成しているところだ。

今回の事件で関わった二人の魔術師「遠坂凛」と「衛宮士郎」。
この二人が、預言に出てくる「紅き稀人」であると思われる旨を報告するものだ。
未だに不可解な部分は多いが、それでも凛さんが「原初の探究者」である可能性は非常に高い。
彼女の持つ宝石剣、その能力は「並行世界へ穴を穿つ」というモノ。
その能力を用いることで、無限に連なる並行世界から魔力をくみ上げ運用できる。
てっきり比喩表現だと思っていた「無限」が、事実だったことは驚きだ。
だが、そうでもなければ預言の「王」に対抗できないのかもしれない。

凛さんとの契約は「魔術とそれに関わるモノの存在を公表しない」というものだ。
これはあくまでも管理局内部での報告でしかなく、ちゃんと封鎖をかければ表に出てくることはまずない。
なので、とりあえずは契約に抵触しない。
凛さんの方でも、虚偽の報告ができるとは思っていないようで、それ自体は禁じなかった。

できれば預言のことを伝え協力を仰ぎたかったが、多分今の段階でそれをしても受けてはくれなかっただろう。
あんな能力を持っていては仕方がないが、彼女は組織と関わるのを極端に忌避している。
士郎君のことも、可能な限り隠し通そうと色々手を打っていた。

「異端の騎士」であろうと思われる士郎君の能力は、まだあまり分かっていない。
その状態で申し出ても、何かしらの言い訳を出して否定しようとするだろう。
実際、こちらにはまだ絶対にそうだと言える材料が不足している。

もしかすると、本当に違う可能性だって否定できない。
確実に協力してもらうには、言い逃れのできないほどの確証を突き付けるしかない。
士郎君のことが不明確な段階では、それは無理だ。
なんとかして「虚構の剣」と「世界を侵す」の意味を解き明かさなければならない。

それに密かに調査してわかったことだが、あの二人は存在があまりに希薄だ。
海鳴に現れるまでの足跡が、全く追えない。
それだけ念入りに過去を消し去ったのか…いや、それでもここまで完全に消しきれるものではない。
だとすると、別の……。

この推測が正しければ、最悪の場合管理局は二人の行方を完全に見失い、二度と接触できなくなる。
それだけは避けなければならない。
監視も避けるべきだ。
そう簡単に、同じ手に二度もかかってくれる子たちではない。
迂闊なことをしてそれに気付かれれば、本当に関係が断絶するかもしれない。

彼女たちはまず嘘をつかない。
苦し紛れの嘘は、逆に自分たちの首を絞めると知っているのだ。
だから事実のみを限定的に話すことで、与えられた情報からこちらに憶測させ、真実から遠ざけようとする。
下手な嘘はその憶測の道を消し、真実に近づかれる危険が増す。
そのため二人は、嘘をつくのではなく「重要なことを言わない」ようにしている。

だが、本当にそれしかないのなら嘘もつくだろう。
私の推測通りなら、凛さんは嘘をついたことになるし、それなら辻褄の合うことが多い。
士郎君を他所の魔術師だと思わせようとしたのも、存在を隠すのとは別に、外部に目を向けさせるのが目的の可能性がある。

または、彼女が「大師父」と呼ぶ人物が関与している可能性もある。
二百年も前の人物が生きているはずはないが、これまで何度も私たちの常識を覆すようなものを二人は見せてきた。
あまり常識というモノに捕らわれ過ぎては、重大な勘違いをするかもしれない。
それに、彼女は一言も「死んでいる」とは言っていない。
ならば、十分に可能性はある。

幸いにも、今のところ二人が姿を消す心配はなさそうだ。
少なくともこちらからの報酬を受け取り、リニスが戻るまで彼女たちとの繋がりは保たれる。
理由はわからない。
だが、もし逃げる気だったのなら、事件の最中か解決してスグにでもそうしているはずだ。
準備に時間がかかるのか、それとも別の条件があるのかもしれない。

さしあたって見失う心配がないのなら、焦ることはない。
預言の発現までどれくらい猶予があるかはわからない。
しかし、すぐにでもそれが発現しない限りは、少しずつ外堀を埋めつつ、言い逃れできない材料を集めていけばいい。
スグにでもそれが起こるのなら、できれば避けたいが強硬手段に出るしかない。
とりあえず、二人の居所さえ分かっていればまだ何とかなる。

あの預言が発現するようなら、二人にとっても他人事ではすまない。
次元世界全体が危機に陥るかもしれない以上、スグに逃げることができないのならば、巻き込まれる危険は十分にある。
非道い話だが、それならば内心はどうあれ協力してくれるはずだ。

重要なのは、最有力候補である二人の居所を把握した上で、預言の対象であるという確信を得ること。
世界を守るためにも、ミスは許されない。
万全を期すためにも、今は一度本局に戻って報告し、他の部署からの協力も取り付けるのが先決だ。
まずは気心の知れたレティや、信頼のおける人物であり、局の内外に大きな影響力を持つグレアム提督に今回のことを説明しよう。
二人ならフェイトさんのことも含めて、色々便宜を図ってくれるはずだ。

「こんなはずじゃなかった」ことばかりの世界だけど、何としてでも守って見せよう。

Interlude out





あとがき

ああ、やっと無印が終わりました。
かつてない達成感に満たされています。
三日坊主が基本の私が、よく最後までやりきったと思います。
自画自賛していて馬鹿みたいですけどね。

また、ここまでこのような拙作お付き合いくださった読者の皆さまには、感謝の言葉もありません。
万感の感謝をこめて、ありがとうございました!!

それと、大変勝手ながらしばらくの間休載させて頂きます。
A’sは改めて構想を練っていかなければなりませんし、実生活が就職に向けて忙しくなるので、当分執筆にはあまり力を入れられなくなります。
できれば半年以内、遅くとも今年中には再開したいと思っています。
もちろん暇を見つけて、気分転換も兼ねて執筆するつもりではいます。
ですが、本格的に再開するのはそれくらい先になるでしょう。
当面は外伝中心に細々書いていくつもりなので、そういう意味でも第二部であるA’s突入は随分先になります。
続きを楽しみにしてくださっている皆様には、大変申し訳ないと思います。
ですが、ご理解のほどお願いいたします。

最後のフェイトの行動は、前話での凛が原因です。
凛に対抗しようと思えば、あれぐらいは必要でしょう。
初めは頬にするつもりだったのですが、なんだか中途半端な気がしたのでこちらにしました。
まだディープをする勇気はないでしょうし、そもそも知っているんですかね?
少なくとも、私があのくらいの頃は知りませんでした。


さて、少しでも早く再開できるように頑張っていくつもりです。
その時が来たら、また応援して下さるとうれしいです。
それでは、この場はこれにて失礼いたします。


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