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No.4610の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはReds(×Fate)【第二部完結】[やみなべ](2011/07/31 15:41)
[1] 第0話「夢の終わりと次の夢」[やみなべ](2009/06/18 14:33)
[2] 第1話「こんにちは、新しい私」[やみなべ](2009/06/18 14:34)
[3] 第2話「はじめての友だち」[やみなべ](2009/06/18 14:35)
[4] 第3話「幕間 新たな日常」[やみなべ](2009/11/08 16:58)
[5] 第4話「厄介事は呼んでないのにやってくる」[やみなべ](2009/06/18 14:36)
[6] 第5話「魔法少女との邂逅」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[7] 第6話「Encounter」[やみなべ](2009/06/18 14:37)
[8] 第7話「スパイ大作戦」[やみなべ](2009/06/18 14:38)
[9] 第8話「休日返上」[やみなべ](2009/10/29 01:09)
[10] 第9話「幕間 衛宮士郎の多忙な一日」[やみなべ](2009/11/29 00:23)
[11] 第10話「強制発動」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[12] 第11話「山猫」[やみなべ](2009/01/18 00:07)
[13] 第12話「時空管理局」[やみなべ](2009/01/31 15:22)
[14] 第13話「交渉」[やみなべ](2009/06/18 14:39)
[15] 第14話「紅き魔槍」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[16] 第15話「発覚、そして戦線離脱」[やみなべ](2009/02/21 22:51)
[17] 外伝その1「剣製」[やみなべ](2009/02/24 00:19)
[18] 第16話「無限攻防」[やみなべ](2011/07/31 15:35)
[19] 第17話「ラストファンタズム」[やみなべ](2009/11/08 16:59)
[20] 第18話「Fate」[やみなべ](2009/08/23 17:01)
[21] 外伝その2「魔女の館」[やみなべ](2009/11/29 00:24)
[22] 外伝その3「ユーノ・スクライアの割と暇な一日」[やみなべ](2009/05/05 15:09)
[23] 外伝その4「アリサの頼み」[やみなべ](2010/05/01 23:41)
[24] 外伝その5「月下美刃」[やみなべ](2009/05/05 15:11)
[25] 外伝その6「異端考察」[やみなべ](2009/05/29 00:26)
[26] 第19話「冬」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[27] 第20話「主婦(夫)の戯れ」[やみなべ](2009/07/02 23:56)
[28] 第21話「強襲」 [やみなべ](2009/07/26 17:52)
[29] 第22話「雲の騎士」[やみなべ](2009/11/17 17:01)
[30] 第23話「魔術師vs騎士」[やみなべ](2009/12/18 23:22)
[31] 第24話「冬の聖母」[やみなべ](2009/12/18 23:23)
[32] 第25話「それぞれの思惑」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[33] 第26話「お引越し」[やみなべ](2009/11/17 17:03)
[34] 第27話「修行開始」[やみなべ](2011/07/31 15:36)
[35] リクエスト企画パート1「ドキッ!? 男だらけの慰安旅行。ポロリもある…の?」[やみなべ](2011/07/31 15:37)
[36] リクエスト企画パート2「クロノズヘブン総集編+Let’s影響ゲェム」[やみなべ](2010/01/04 18:09)
[37] 第28話「幕間 とある使い魔の日常風景」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[38] 第29話「三局の戦い」[やみなべ](2009/12/18 23:24)
[39] 第30話「緋と銀」[やみなべ](2010/06/19 01:32)
[40] 第31話「それは、少し前のお話」 [やみなべ](2009/12/31 15:14)
[41] 第32話「幕間 衛宮料理教室」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[42] 第33話「露呈する因縁」[やみなべ](2010/01/11 00:39)
[43] 第34話「魔女暗躍」 [やみなべ](2010/01/15 14:15)
[44] 第35話「聖夜開演」[やみなべ](2010/01/19 17:45)
[45] 第36話「交錯」[やみなべ](2010/01/26 01:00)
[46] 第37話「似て非なる者」[やみなべ](2010/01/26 01:01)
[47] 第38話「夜天の誓い」[やみなべ](2010/01/30 00:12)
[48] 第39話「Hollow」[やみなべ](2010/02/01 17:32)
[49] 第40話「姉妹」[やみなべ](2010/02/20 11:32)
[50] 第41話「闇を祓う」[やみなべ](2010/03/18 09:55)
[51] 第42話「天の杯」[やみなべ](2010/02/20 11:34)
[52] 第43話「導きの月光」[やみなべ](2010/03/12 18:08)
[53] 第44話「亀裂」[やみなべ](2010/04/26 21:30)
[54] 第45話「密約」[やみなべ](2010/05/15 18:17)
[55] 第46話「マテリアル」[やみなべ](2010/07/03 02:34)
[56] 第47話「闇の欠片と悪の欠片」[やみなべ](2010/07/18 14:19)
[57] 第48話「友達」[やみなべ](2010/09/29 19:35)
[58] 第49話「選択の刻」[やみなべ](2010/09/29 19:36)
[59] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 前篇」[やみなべ](2010/10/23 00:27)
[60] リクエスト企画パート3「アルトルージュ・ブリュンスタッド 後編」 [やみなべ](2010/11/06 17:52)
[61] 第50話「Zero」[やみなべ](2011/04/15 00:37)
[62] 第51話「エミヤ 前編」 [やみなべ](2011/04/15 00:38)
[63] 第52話「エミヤ 後編」[やみなべ](2011/04/15 00:39)
[64] 外伝その7「烈火の憂鬱」[やみなべ](2011/04/25 02:23)
[65] 外伝その8「剣製Ⅱ」[やみなべ](2011/07/31 15:38)
[66] 第53話「家族の形」[やみなべ](2012/01/02 01:39)
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[4610] 第15話「発覚、そして戦線離脱」
Name: やみなべ◆d3754cce ID:fd260d48 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/21 22:51

SIDE-凛

いま私たちは、リンディさん直々にお説教をされている。
まあ命令を無視しわざわざ競争相手を助けたのだから、当然と言えばそれまでなのだけど。

お説教の内容は、私からすれば今更言われなくても分かっていることばかりだ。だが反省の色が全くない私と違って、なのはとユーノは神妙そうにうなだれている。
一応覚悟はあって飛び出したようだが、迷惑をかけたことには変わらないので、しっかり反省している。
リンディさんもそのあたりは察しているようで、そこまで追い詰めるようなことはしていない。
だがその点で言うと、反省する気が全くない私は、さぞかし厄介な問題児と思われていることだろう。
私は間違ったことをしたなんて「微塵」も思っていないので、反省も謝罪もしていない。

だが、後になって思う。あまり自分に正直過ぎるのも、時と場合によっては問題だ。
少しは「演技」というものをすべきだった、と。


「本来なら厳罰に処すところですが、結果としていくつか得るものもありました。
 よって、今回のことは不問とします」
二人へのお説教はこれで締めくくられた。
二人としてはもっときつく叱られると思っていたようで、ちょっと拍子抜けしたような表情でお互いの顔を見ている。
実際私も、説教が軽いのはともかく、まったく処分なしというのは甘いと思う。
理由としては、終盤が近付いてきて貴重な戦力でもある二人の士気を下げるようなことをしたくない、というのもあるのだろう。

「ただし! 二度目はありませんよ」
さすがにこんな温情がそう何度もあるはずもないので、少し語気を強めて二人に警告する。
少し場の空気が緩んできていたが、二人もその言葉に気を引き締めて頷く。

そして、二人へ釘を刺したリンディさんが、こちらを向く。
その顔は、なのはたちに向けていたものよりも厳しくなっている。
「そして凛さん」
やはり私は別ですか。まあ二人を先導したようなものだし、そこまで甘くないか。

「なにか?」
「確かにあなたたちには、ある程度の自己判断での行動を認めています。
ですが、それで甚大な被害が出てしまっては元も子もありません。
 今回あなたは二人を先導した、いわば主犯です。相応の処分は免れませんよ。
 しばし、アースラの自室にて謹慎を命じます」
この口ぶりだと、なのはたちは一度家に返すつもりのようだ。
説教をしても反省するそぶりさえないのだから、処罰されても仕方がない。仕方がないが、やはりその内容は軽い。これは事件が終わった後にも、何かしらのペナルティを課されるかもしれないわね。

だが、リンディさんが思っている以上に、この処罰は私にとって非常に困るモノだ。
せっかくアースラを降りる機会があるというのに、士郎との情報交換が必要なこの局面で艦を降りられないのはつらい。当分は相変わらずの艦内生活だと思っていたので、この状況で降りられるなんて期待していなかった。
隠れて艦から降りられればいいのだが、自力で降りられるわけでもないし、大人しくするしかないか。
処罰を受けるとしたら、この件が一段落してからだと思っていたのだが、あてが外れた。

こんな事なら、演技でもいいから反省しておけばよかったな。時すでに遅しなので、この思考も無意味なのだが。
なのはとユーノは何とか処罰を取り下げてもらおうとしているが、さすがにここを譲ると他への示しがつかないので、そうはいかないようだ。

話はそのまま、今回の雷撃の犯人と断定されたプレシアに移る。
これでフェイトとプレシアの関係は明確になった。
プレシアに関しては、追放後しばらくの動向はわかっているが、その後に行方不明になった。
それ以後のことや、家族関係のことなどはわかっていない。
アースラでも本腰を入れ、本局にも問い合わせてプレシアの情報を調べることにした。
一両日中にはわかるらしい。

なのはが言うには、攻撃が当たる直前にフェイトは「母さん」と口にし、そこには怯えているような響きがあったらしい。
士郎から聞いた通りなら、かなりの折檻、というか虐待を受けているということので、無理もない。

その後、なのははユーノと共に一度帰宅することになった。

私たちはまだ、アルフがプレシアに反抗し、重傷を負わされ逃亡したことを知らない。



第15話「発覚、そして戦線離脱」



SIDE-士郎

時刻は正午。
俺は今日もしっかり学校に通っている。

凛たちが管理局と接触し、向こうに滞在するようになってからも相変わらず俺は学校に通っているのだ。
この際だから俺も学校をサボって、フェイトの捜索に当たった方がいいとは思った。だが、それだと後々怪しまれる可能性があるので、それまで通り捜索は放課後に限定されることとなったのだ。

いや、世界には通いたくても学校に通えない子どもは大勢いるのだから、サボろうと思うのは非常に彼らに対して悪いな。だがそうとわかっていても、この切迫した状況ではそれを考えずにはいられない。
特に、先日の一件でまたフェイトがプレシアから虐待を受けているのではないかと心配でならない。
まず間違いなく、フェイトは心身ともに傷ついているだろう。そうとわかっていても、何もできない自分がもどかしい。

正直、今もこうしてのん気に昼食を食べているのには焦りを感じている。
そんな俺と違って、凛を除いたなのは・アリサ・すずかの三人娘は楽しそうに食事をしている。
三人からすれば、こうして一緒の時間を過ごすのも数日ぶりなので嬉しくて仕方がないのだろう。

今朝学校に来た時、なのはがいたのでてっきり凛も来ているかと思ったのだがそうではなかった。
向こうで何かあったのか気になるが、それならなのはがほとんど普段通りにふるまっているはずがない。
良くも悪くも、その時の心情が表に出やすい子だ。凛に何かあれば、あんな風に落ち着いてはいられないだろう。
ならば、凛の身はとりあえず無事なはずだ。

なのはが言うには、凛はまだ向こうで用事があって今日は戻ってこられなかった、という話だ。なのは自身、明日からはまたしばらく学校を休むことになるだろうと言っていた。
これは俺だけでなく、すずかやアリサをはじめとする周囲の人たち全員に対して与えられた情報だ。
ただそれとは別に凛からの伝言を預かってきたらしく、朝会った時に伝えてくれた。
その内容は、実にシンプルでわかりやすかった。

ただ一言「心配いらないから、安心しなさい」だそうだ。
やたらと多くの言葉を使うのではなく、簡潔に言い切ってくれたおかげで少し気が楽になった。
ここまではっきりと言えれば、余計な心配はいらないだろう。
まあ、そうとわかっていても心配なものは心配だし、不安がなくなるわけではない。
ただ、少しだけ安心できただけでも良しとしよう。

この前のことで、全てのジュエルシードが出そろった。それはつまりこの一件が、最終局面に向かいつつあることを示している。今日帰ってこれたのは、最終局面の前のお休みといったところだろう。
しかし、結局は予想にすぎない。それならばなぜ凛が帰ってこれないのか、これでは説明がつかない。
俺は一応表面上今回の一件とは部外者という扱いになっているから、正体を隠している身としては、直接本当のことを聞くことはできない。
つまり、俺に出来るのは今まで通りフェイトのことを探しつつ、凛が帰ってくるなり、何らかの連絡が来るのを待つだけだ。

ただ待つ事しかできないというのは、何でこんなに不安を煽るのだろうか。せっかく凛からの伝言のおかげで少しは不安が和らいだというのに、結局すぐに元に戻ってしまった。
不安に思っていても仕方がないとわかっているのに、上手くいかないモノだ。

そんなわけで、俺が微妙に暗い雰囲気を出しているのにいい加減がうっとうしくなったのか、アリサがこんな提案をしてくる。
「ところで!! 昨日帰る時にすごい大型で、毛並みがオレンジの額に赤い宝石みたいなものをつけた犬を拾ったのよ。よかったら見に来ない?」
確か、アリサの家はすずかの猫屋敷に対して犬屋敷だと聞いている。
拾った犬が大半らしいが、かなりの数を飼育しているらしい。
さすがはお金持ち。ペットというのは一匹や二匹でも結構大変なのに、たくさん飼うとなるとかかる負担は無視できない。
積極的に保護し、貰い手がつかないようならそのまま飼ってしまえるのだから、たいしたものだ。

それにしても、今聞いた情報だとどう考えてもアルフだよな。
なのはの方でも気づいたらしく、一度驚いた顔をした後何か考えている。
おそらく、なぜアルフが保護されるような状態になっているか考えているようだ。アリサの話だと、かなりの大怪我をしていたらしいし、そのことが気になるのだろう。

俺の方は少し向こうの状況を知っているだけに、大方の予想がつく。
十中八九、アルフがプレシアに反抗したのだろう。フェイトがひどい目にあわされているのを、あいつが黙っていられるはずがない。今までよく我慢していたとさえ思う。
そして今回、ついに我慢の限界に達したのだろう。
つまり、それだけフェイトがひどい目にあわされている可能性が高いことを意味している。

確かに会いたいとは思うが、なのはたちと一緒に行くと話をすることができない。
直接会話をすることができない以上、念話を使うしかない。だが、さすがにすぐそばで使えばなのはが気づくかもしれない。それは避けなければならない。

となると、俺の答えは必然こうなる。
「ああ、悪いんだが今日も用事があるんだ。
 俺は後日改めて、ってことでいいか?」
もちろんアルフに会わないわけではない。
申し訳ないが、バニングス邸に不法侵入させていただいて直接会わせてもらおう。
これなら、なのはのことを心配することなく話ができる。

俺の答えに対し、アリサはあからさまに不機嫌そうだ。
「え? またなの?
 なのはたちもそうだけど、アンタも最近忙しそうね。
 一体何やってるのよ」
最近放課後はずっとアリサやすずかとは別行動だったので、そう思うのが自然だろう。
実際、放課後から深夜まで駆けずり回るのはなかなかに大変だ。
子どもの体なので体力がないし、下手に夜の街を歩いていると補導されてしまうので注意がいる。
うん。忙しいというよりも、大変という方が正しいな。

ジト目を向けてくるアリサに、すずかが困ったような表情で話しかける。
「アリサちゃん。士郎君、今は一人暮らしだもん。きっといろいろ大変なんだよ」
そんなアリサに、すずかがフォローを入れてくれる。
こういう時、人のさりげない優しさが身にしみる。
アリサとしても、すずかにやんわりなだめられては強く出れないようで、渋々ここで追及は終えてくれる。


放課後、スグに俺は学校を飛び出し、準備を整えてバニングス邸に向かう。
出来る限り早くアルフと話したいが、話している最中になのはたちが来られては困る。
こちらは直線距離を進めるので先に着くことはできるだろうが、それでもたいして時間に余裕があるわけではない。詳しい話を聞こうと思えば、それでは足りないだろう。
話は夜になってからか、あるいは最悪の場合になるまでお預けだな。
とはいえ、なのはたちの動きも気になるし、様子を見るくらいはしておくべきだろう。
どうせ、今できることなどそれだけのなのだから。

それに一番嫌な展開になった時のことを想定するなら、その場にいた方がいい。
願わくは、今想像した嫌な展開にはならないでほしい。
まあ、多分無理だろうけどさ。



SIDE-凛

本来は謹慎中の身だが、私はクロノやエイミィと共にモニタールームとやらにいる。

なんでも怪我をしたアルフを、犬好きのアリサが見つけて保護したらしい。
そこへ一時帰宅していたなのはとユーノが、すずかも交えて遊びに行っている。
いまはなのはが二人に怪しまれないように一緒に遊びに行き、ユーノが話を聞いている。

ちなみに、向こうにいるなのはやユーノ、それにアルフはもし突然人が来てもいいように念話での会話だ。
なのははアリサやすずかと遊んでいる最中だし、フェレットや狼がしゃべっていたら地球では大騒ぎになるので、怪しまれないためにもこれは不可欠だ。
いくら近くに人がいないと言っても、これだけのお屋敷なのだから使用人が通りかかる可能性は否めない。下手に騒ぎを起こすリスクを負うべきではないだろう。
せっかく念話という一般人では聞くことのできない通信手段があるのだから、それを使うのは当然だろう。

そして、その様子をこちらのモニタールームで見ているわけだ。
重大な情報が聞ける可能性があるので、私の謹慎も解かれて同席させてもらっている。
現在はクロノが話しをしており、なのはもそれを念話で聞いている。
アルフは、フェイトの身柄の安全と保護を求めクロノもこれを了承した。

そこで語られた内容は、なのはたちにとっては驚くべきことであり、私にとってはすでに知っていることだった。
何か目新しい情報でもないかと期待したが、どうやらこの子たちも相変わらず多くを知らないらしい。
『これから、どうするのかな?』
なのはが不安をにじませて聞いてくる。

「プレシア・テスタロッサを捕縛する。アースラ攻撃だけでも、逮捕するには十分な理由になる」
クロノの返答は簡潔だ。海上でフェイトが攻撃された時、同時にアースラも攻撃されていた。
大義名分がある以上、もはや足踏みする理由はない。
こうしてアースラは、その任務にジュエルシードの回収だけでなく、プレシアの捕縛が加わることが決定した。

その後はなのはの意志の確認を行い、フェイトのことに関してはなのはに一任されることが決まった。
なのははフェイトに言った「友だちになりたい」という申し出の返事を聞きたいと言う。
そんななのはにアルフも、今独りぼっちになっていしまっているフェイトを助けてほしい、と懇願していた。

そこへ、クロノが別の話題を持ち出す。
「ところで、もう一つ教えてもらいたいことがある。
 君たちの協力者、アーチャーは何者なんだ?」
アルフの身柄を手に入れた以上、当然聞かれることだ。
できれば最後まで隠し通したかったことだが、こうなったらアルフはきっとしゃべるだろう。
最後にはすべてを出し抜くつもりだったが、どうやら失敗したらしい。
アイツの特異性に関しては、アルフ達も知らないのがせめてもの救いか。

『そ、それは……』
士郎との契約があるからか、それとも多少なり世話になった恩義があるからか、言いにくそうにアルフは黙り込む。

しかし、確実にフェイトのことを助けるには、情報の出し惜しみなどできる立場ではない。
管理局が手を抜くとは思えないが、それでも少しでも戦力を確保するに越したことはない。
今、士郎と連絡を取る手段が、アルフにはない。
そうなったら管理局に士郎を見つけてもらい、そこから協力を要請するのが確実だ。
結果士郎との約束を破り、その命を狙われる(少なくともアルフはそう思っている)ことになっても、フェイトの無事を優先させるはずだ。
彼女のことを詳しく知っているわけではないが、士郎から聞いた話と今の様子から、主を大切にする良き使い魔であることはわかる。それこそ、フェイトを救えるのなら自分の命とて惜しまないだろう。

「もし彼に脅迫されているのなら、心配はいらない。
君も、それにフェイトにも決して手を出させないことを約束しよう」
管理局からその保証があれば、もう話す事をためらう理由はなくなった。
できれば防ぎたかったことなのだけど、これでは手の打ちようがない。
いっその事、私の方からばらしちゃった方がいいかもしれないな。そうすれば、少しは追及も軽くなるだろう。

私がどうしようか考えていると、一瞬の逡巡を経てアルフは決心を固める。
『……わかったよ。アイツのことを教える。
 だから…お願いだよ。必ず、フェイトのことを助けて…』
「もちろんだ。約束する」
クロノは力強く答え、アルフも俯きながらも、僅かに頭を上下に動かして頷く。
士郎に対しての申し訳なさはあるようだが、それでも決心が固いのは見て取れる。

アルフが口を開こうとするところで、別の声が割って入る。
「……困るな。それでは契約違反というものだよ、アルフ」
アルフのいる檻の裏にある林から、変装した士郎が出てくる。
手には干将・莫耶があり、いつでもアルフを切りつけられる状態だ。

「君は、アーチャー!?
 やめろ!! 彼女は重要参考人だ。もし手を出すならば、この場で君を捕縛する」
クロノが焦った様子で警告する。
向こうに、以前使ったような映像を出す。
これで士郎も、この会話に参加することになった。

そういえば、たしか士郎には念話の傍受ができたんだったっけ。
アルフやユーノ、それになのははずっと念話で話していたのに事情を把握しているのはそのせいだ。
声に出していなかった以上、内容を把握するには念話に聞き耳を立てるしかない。

以前聞いた話だと、比較的近くで発信される念話に限定されるけど、ノイズ混じりの通信、あるいは盗聴でもしているような感覚で、それを聞くことができるらしい。外部から内側への魔力干渉に弱いアイツの特性が、こんな特技につながるとは…。
短所と長所は表裏一体、とはまさにこのことだ。アイツって、こんなのばっかしだなぁ。この能力の偏り具合は、実に士郎らしい。
拾える内容は断片的になることもあるが、誰にでもできるような事でもないらしいので、これはこれで貴重の技能だと言える。

ただしこの場合、聖骸布を着ているとかなり制限されるらしいので、傍受することを考えるのなら外套は脱いでおく必要がある。
一応欠点もあり、特に意識していなくても念話を拾ってしまうらしく、意識して拾わないようにしないと相当うっとうしいと言っていた。
おそらくは、学校でアリサからアルフの話を聞いていて、その場では誘いを断ったが、林に隠れていたのだろう。
アルフは特徴的な毛色をしているから、かなりわかりやすい。推測するのは簡単だ。
こちらから送られる念話はさすがに聞こえていないはずだが、アルフから送られた念話を盗み聞きしていたようだ。

「ふん。だが、どうやって拘束するというのかね?
 君はここにおらず、いるのは手負いと戦闘に向かない補助型が一人。高町なのはもすぐには動けまい。
 早急に始末をつけて離脱すれば、何も問題はない」
そう、今のクロノたちに士郎を捕らえる術はない。
士郎がこの場から逃走するのは容易だ。
逃げても追跡されるかもしれないが、伊達に元の世界で数年に渡りあの二大組織から逃げていたわけではない。
ただでさえ、魔術回路を閉じれば発見しにくいのだ。そう何度も通用することではないが、一度や二度振り切るくらいはできる。「魔力殺し」を使えばなおさらだ。
それがわかるからこそ、クロノの声には焦りが出る。この警告には意味がないのだ。

一応アルフは、この場に士郎が出てきたので、管理局との共闘を頼むことはできる。だが、管理局と共闘するということは、士郎の正体を知られるということになる。
士郎が管理局と関わり合いになり、正体が知られるのを恐れていたことをアルフは知っている。
どんなに譲歩したとしても、それは管理局とは別行動での活動までと考えているだろう。
だからと言って、この局面では管理局と関わらずに、士郎に手伝ってもらえることなどほとんどない。

ならば、アルフには選択の余地がない。
士郎にどんな事情があるとしても、管理局と共闘をしてもらうしかない。そのためには、士郎の本心がどうあれ、管理局と共闘するしかない状況に追い込むことだ。ならば、することは決まっている。
正体を明かし、どうやっても逃げられないようにすることで、管理局側につかねばならなくする。
正体が知られてしまえば、個人が巨大な組織から逃げ続けるのは至難だ。その瞬間に、士郎の選択肢はなくなる。

アルフもその結論に至ったらしく、躊躇いがちに口を開く。
「アンタには悪いと思う。たくさん世話になって、感謝もしてる。
 でも、あたしはフェイトの使い魔だ! 主を守るのが生きがいであり、存在意義なんだ。
 だから、殺されるとしても……死ぬ前に、アンタのことを伝えるよ」
実際アルフは殺されるとしても、息絶える最後の一瞬で士郎のことを教えるだろう。
念話があれば、死にかけでも情報を伝えることはできる。

こうなっては隠すことはできないので、いい加減諦めるしかなさそうだ。
「アーチャー、もういいわ。茶番は終わりにしましょう。
 アルフ、アンタの覚悟に免じて、私がそいつの正体を話すわ。
 それなら契約違反にはならないでしょ」
私の言葉に、士郎を除く全員が呆気に取られる。
私が言ったことの意味が分からないのだろう。

「む。いいのかね?」
よく言う。
元から、さっきのは駄目でもともとの脅しでしかなく、本当にそうする気なんてなかったくせに。
だいたい「いいのか」なんて聞いている時点で、ほとんどバラしているようなものじゃない。
このやり取り自体が今更だ。

「仕方がないわ。これ以上は隠しようがないもの。
 それとも何? 私の決定に、なにか文句でもあるの?」
確認するように聞いてくる士郎に、見えてはいないだろうが思い切り人の悪い笑みを浮かべてやる。

長い付き合いだ。いま私は映像に移っていないが、声の様子だけで、私の表情の想像がついたのだろう。
肩をすくめ、観念するように言ってくる。
「ふっ、まさか。君に逆らうなどあるわけがなかろう、マイ・マスター(我が師)。
 承知した。では、改めて自己紹介といこう」

そう言って士郎は、変装用の帽子とカツラ、そしてサングラスを取って素顔をさらす。
「はじめまして、でいいかね。遠坂六代当主凛が門弟、アーチャーこと衛宮士郎だ」

それに、一応知り合いのなのはとユーノが驚愕の声を上げる。
『「…………え? ええぇ~~~~~!!!?」』
なのははアリサ達といるのだが、声に出て怪しまれていないのか心配になるくらいのリアクションだ。

士郎のことは資料でしか知らないクロノが、問い詰めるように聞いてくる。
「どういうことだ! 確か君は、他所の魔術師のことは知らないんじゃなかったのか?」
「ええ、そうよ。だからあいつは私の弟子、つまりは身内よ。どこにも嘘はないはずだけど」
詰問にさらりと悪びれもせずに返され、さすがに怒る気もなくなったようだ。
他の面々は、相変わらず驚愕から復帰できていない。

「彼は魔術師ではないんじゃなかったのか?」
「そんなこと一言も言ってないわ。私はただなのはに、アンタだったら家族に教えるのか、って聞いただけよ」
ただ真実をぼかしたり、詭弁を使ったりしただけで、虚偽などしていないのだから責められる点もない。
勘違いするようなことは言ったが、実際に勘違いしたのはこいつらだ。まずは自分のうかつさを悔いるべきというもの。

「ぐっ。なるほど、つまりは最初からグルだったわけか。
 確かに、それなら納得がいく。彼のあの不可解な行動は、フェイト達を監視するためだったんだな」
やっと真実を知り、これまでいいように騙されてきたことに苦虫をかみつぶしたような顔をする。

だけど、士郎の行動に多少でも違和感を持っていたことは純粋に褒めてやろう。少なくとも、なのはやフェイト達はまったく気付かなかったわけだしね。
「へぇ、何がきっかけかは知らないけど、気付いてたんだ。さすがはクロノ執務官ね、たいしたものよ。
ついでに言うなら、ジュエルシードが出そろった時点で向こうの持ってる分を、全部強奪する手はずだったんだけどね。予定が狂ったわ。
ああ、それと別にジュエルシードで何かを企んでいたわけじゃないから、そんなことを疑っているとしたら勘繰り過ぎよ。あくまで万全を期するための作戦だったんだから」
ここまで知られてしまったのだから仕方がない、本来の予定を教えてやろう。
どうせこれは狂いに狂ってしまっているので、教えても問題ない。

ただし謂れのないことで疑われても困るので、ちゃんとそのあたりは説明する。
こっちでクロノが、私を敗北感一杯で睨んでいる中、向こうでも話が進んでいるようだ。


「つまり、あたしたちは騙されていたってわけかい?」
アルフは信頼していた仲間に裏切られたことで、悲しそうに聞いている。

「ああ、そうだ。だが勘違いしないでくれ。これは俺の発案であり、独断だ。凛は一切関与していない」
こんな時に罪を一人で背負おうとするのは、こいつの悪い癖だ。
前にも言ったが、承認した以上私たちは共犯だ。
こいつの罪ということは、私の罪でもある。
それくらいは一緒に背負ってやるというのに、まだわかっていないらしい。

「いや、いまはそのことはいいよ。フェイトを助けるのを手伝ってくれるのなら、文句はないさ。
ただ、一つだけ答えとくれ。フェイトのことを心配して、世話をしてくれていたのは、それも騙すためのウソだったのかい?」
アルフが、聞こえのいい嘘をつくことだけは絶対にやめてほしいという目で聞いている。
こんな目をされては士郎に嘘などつけるはずがないし、アイツはそんな器用に割り切れる奴じゃない。

「こんなことを言っても信じてもらえないだろうが、せめてその時が来るまでは、仲間としてお前たちに接しようと思っていた。
 フェイトへの配慮に、一切のウソがなかったことだけは確かだ」
士郎が悲しそうに返している。
本心を言えば罪悪感で一杯なくせに、それを我慢しどんな罵倒も侮蔑も甘んじて受けると言うように、目を閉じている。

「…………わかった、信じるよ。
アンタのことは信じられないけど、今でもアンタのことを信じているフェイトの人を見る目を信じる。
だから、絶対にフェイトを助けておくれ」
「ああ。誓って、必ず……」
アルフの言葉に、士郎は胸に手を置いて誓いを立てる。


これで士郎のアースラチームへの参加が決まった。

その際に、家で回復させている山猫をアースラに移し、専門的な治療を受けさせることになった。
それを見たアルフが大層驚き、山猫の名前と素性を明かした。名前は「リニス」といい、元はプレシアの使い魔だったらしい。フェイトの育ての親であり、魔法の師にして彼女のデバイス「バルディッシュ」の製作者だそうだ。ある日忽然と姿を消したので、てっきり使い魔としての役目を終え消えたと思っていたらしい。
これでは驚くのも無理はない。アルフとしては、幽霊でも見た気分だろう。

だが、そんな位置にいたのなら、何かまだ私たちの知らない情報を持っているかもしれない。
士郎が発見した時の様子から考えても、外部の人間に何か伝えたいことがあったことがうかがえる。
その情報がどう役に立つか分からないが、アースラの方でも全力で治療に当たるそうだ。

士郎は、そのままアースラに乗り込むのではなく、なのはの護衛についている。
プレシアが必要としているジュエルシードの数には届いていない以上、おそらくフェイトはなのはの持つ分を狙ってくるはずだ。
その際にフェイトの相手をするのは、本人の強い意向もあって、なのはが担当になった。

だが、どう決着を見るとしても、二人とも相当に消耗して余力がなくなるのは確実だ。
なのはが勝てば問題はないし、フェイトが勝っても消耗しているなら確保は容易い。
フェイトが動いた時点で、彼女の確保は確定すると言っていい。

だがそうなると、この前のようにプレシアからの攻撃を受けることも予想される。
なにせこちらは餌として手持ちのジュエルシードを使うのだから、勝負の結果とは別に、最低限それだけでも確保しようとするだろう。
フェイトが確保されれば、勝っても負けてもジュエルシードはプレシアの手には渡らない。
当然、その場から何とか強奪しようとするはずだ。
こちらに隙を作らせようするのなら、以前のような大威力での攻撃をするのが手っ取り早い。
そうなった場合に備えて、士郎には二人が攻撃された際の守護を任せられた。

あと、士郎の方は特に罪に問われることはないらしい。一応管理局側にとっても有益な情報を提供したし、今後は協力していくことも確認した。
あくまでも、事態をいい方向に進めるための潜入捜査の一環として扱ってくれるそうだ。



SIDE-士郎

時刻は明け方。

予想通りにフェイトがあらわれ、二人は互いの持つジュエルシードすべてを賭けて、最後の勝負をしている。
俺は海辺近くの林の中に隠れている。
万が一のための護衛である以上、存在を知られては意味がない。
ただし、俺はフェイト達の決闘に関与する気はない。
俺が警戒しているのは、もっと別のことだ。

こちらの思惑通りに事が進めば、プレシアが何かしらのアクションを起こすはずだ。
今回の俺は、そのアクションが起こった際に二人を守るのが役目。
ここのところ、気配を消して物陰に隠れるのが日常的になってきた。
なんか最近こんなことばっかりしているので、影が薄くなってやしないかと心配になってくる。


今回の勝負自体はどう決着がつこうと、さして大勢に影響はない。
重要なのは勝負がついた後。
プレシアが起こす行動こそが、時の庭園突入の足掛かりとなる。

時の庭園は高次空間内にあっても常に位置を変えているらしく、正確な位置を知ることはできない。
ただ、それだとフェイト達が時の庭園に戻ることができない。そのため、向こうにゲートを設置しそれを使っていたのだ。これを利用するには、専用の鍵が必要だ。
アルフもそれを持っていたのだが、プレシアから逃げた時点でそれは失効され使いものにならない。
動きやすさを考えれば地球の近くだろうが、それでも範囲が広い。これだけでは、絞り込むのはほぼ不可能だ。
そのためアルフから提供された情報は、時の庭園内部の地図だけとなる。

だが、その問題はすでに解決している。
時の庭園には、凛によって特殊な処理の施された宝石を俺が預かり、向こうに置いてきている。おかげで凛にはその位置がわかるので、時の庭園の位置はすでに判明している。
本来、凛のそれは多分に感覚的なのだが、今はそれを共有し座標に置き換えることができる奴がいる。そのおかげで、向こうの位置を掴むことができた次第だ。
全く、本当にここ一番で抜けている。「アイツ」が目覚めていなければ、危うく徒労に終わるかもしれなかったし、改めて時の庭園の位置を探さなければならないところだった。

とりあえず、凛にはプレシアの居場所は分かっているし、アルフからの情報提供もある。
すでに向こうの本拠地の位置と、内部構造の方はほぼ把握できている。
必要な情報がそろっている以上、すぐにでも突入したいところなのだが、二つの問題がある。

一つは、時の庭園に張られている防壁だ。
向こうだって馬鹿ではない。定められた正規のルート以外でやって来る者がいるとすれば、そいつはあからさまな侵入者だ。
それを阻むのは当然なのだから、あの防壁には相当な強度があると同時に、何らかのトラップが用意されている。
詳しいところは現在防壁を解析中だが、総合Sランクオーバーの魔導師が張っている防壁を抜くのは容易ではない。防壁の解析が終わり、侵入するための穴を開けられるようになるまでどれくらいかかるか、今のところ見通しは立っていない。
位置がわかっているにもかかわらず、こちらから打って出ることのできない理由がこれだ。

だが、向こうから何らかのアクションがあれば、一時的にその防壁に穴があくことになる。防壁を素通りすることもできるかもしれないが、それでも多少は防壁に影響を与えるだろう。
その瞬間を狙って防壁に干渉し、道を通すのが最も手っ取り早い侵入方法だ。
だからこそ、対戦の結果が大勢に影響がないにもかかわらず、少なからぬリスクを背負ってまで戦わなければならないのだ。

そして、二つ目はフェイト自身のことだ。
できるなら、ここでフェイトを確保してしまった方が、突入した時にやりやすくなる。
何よりも、プレシアがフェイトに余計なことを吹き込むかもしれない。
これだけは、何としても防がなければならない。

なのはには知らせていないが、すでにリニスは目覚めている。
凛が感知した宝石の位置の感覚を共有し、座標に置き換えたのもリニスだ。
保護してから大分経つし、これまでできる限りの治療はしてきたので、目覚めるまであと一歩だったようだ。
それでも相変わらずベッドの上で寝たきりだが、話はできるようになった。そこで、アルフも知らなかった秘密の通路や部屋などの情報も得られた。
だが最も重要なのは、リニスの知るプレシアとフェイトのこと。彼女からの情報と、本局から送られてきた情報を総合することで、俺たちはフェイトの真実を知り、プレシアの目的をある程度推測することができた。

しかし、まだ幼いフェイトやなのはが知るには、その真実はあまりに残酷で、俺たちも教えることをためらっている。
勝負の前に迷いを持たせたくないというのもあるが、何よりあの子たちはそんなことを知らなくてもいいのではないかと思う。
こんな真実は、だれのためにもならないのだから。

けれど、いざ突入した時にフェイトが立ちはだかると厄介だし、何より追い詰められた時にプレシアがフェイトに何をするかわからない。
プレシアはフェイトのことを、使い捨ての道具程度にしか考えていない。いや、むしろその感情は憎悪に近いだろう。
使い捨ての駒扱いなら、まだいい。しかし下手をすると、真実を突き付けフェイトの心が壊されるかもしれない。
もし真実を知るにしても、それにはもっと成長し、真実を受け止められるだけの強さとアイデンティティが確立されてからの方がいい。
少なくとも今の段階でそれを知るのは、あまりに酷だ。

勝っても負けても、フェイトは相当消耗するだろう。そこを確保し同時に時の庭園への道を通すのが、この戦闘のねらいだ。
そうすれば、フェイトがプレシアからいらぬことを吹き込まれる心配はなくなる。
また、ジュエルシードはプレシアを捕まえてしまえば何とでもなるので、こちらの持ち分さえ奪われなければそれほど重要ではない。
できればなのはが勝ち、フェイトとジュエルシードの両方を確保できるのが一番なのだが……。


戦闘は白熱し、互いに一進一退の攻防を演じている。
「しかし、この短期間でよくもここまで仕込んだものだ。
 本人の才能にも呆れるが、どんな手品を使ったのかね?」
本格的に戦闘訓練をするようになってからの時間を考えると、まるで魔法でも使ったかのような成長ぶりだ。
本来接近戦など論外なはずなのに、それも問題なくこなしている。
魔法の才はともかく、運動神経は壊滅しているなのはをこれだけやれるようにするのは、至難の技のはずなんだけどな。

「別に、そうたいしたことを教えたわけじゃないわよ。
 接近戦に関しては心得程度しか教えてないけど、あの子の家族は相当な剣士なんでしょ。
 普段どの程度見ているかは知らないけど、そこから学んでいることもあるんじゃないかしら」
いまはモニター越しに、アースラにいる凛と話をしている。
見ることも修業とは言うが、あれだけレベルの高い人たちのを見ていると、相応の影響があるのかもしれない。
一応、俺の方からフェイトのできることは一通り教えてあるとはいえ、それでもここまでやれるのは凛にとっても驚きらしい。
さすがにアルフは主を裏切るようなまねをしたくないのか、その点については情報を出そうとはしなかった。

「この分だと、一番弟子の座をおわれることになるかもね~」
あのあくまの笑みを浮かべながら、凛がそんなことを言ってくる。
別に正式に弟子にしたわけじゃないだろうに、こんなことを言って焚きつけてくるあたり、人が悪い。

「いやいや、出来の悪い弟子で申し訳ない限りだ。
 なに、先達はいずれ追い越されるものだ。これは、喜ぶべきことだと思うがね」
本音を言うと結構焦っているのだが、それを悟られるのも癪なのでこう返す。
まあ、それでもまだまだ俺の方が優位ではある。伊達に年と経験を積んではいない。
だが、今は負ける気はしないが、いずれは確実にあの二人には追い越されるだろう。というか、基本的な攻撃力や防御力・機動力では、すでに勝ち目がないかな?
これは、俺もうかうかしていられない。

しかし、元来衛宮士郎は「戦う者」ではなく「作る者」。
普通に戦って勝てないなら、勝てる状況と手段を作り上げればいい。
幸いにも二人の戦い方はよく知っているので、いくらでも対抗策は出せる。
俺はいつだって、そうやって勝利をおさめ生き延びてきた。

実際に追い越されても、そう簡単には負けはしないという自負もある。
多少の戦力差など、俺からすれば取るに足らない瑣末なことだ。
過去に戦ってきた相手には、多少どころか桁違いの戦力を有している奴もいた。そんな連中と命のやり取りをしてきたのだ。勝ったこともあれば、手も足も出ずに負けたこともある。それらに比べれば、あの二人はまだまだ「かわいい」と呼べるレベルだ。
勝てる可能性が1%でもあるのなら、その可能性を必ず手繰り寄せてみせる。
それが、衛宮士郎の戦い方なのだから。


戦いも終わりが見えてきた。

なのはを強敵として認識したフェイトが、切り札を切ってきた。
「ファランクスシフトか。フェイトのやつ、ここで決める気か」
以前聞いたフェイトの手持ちの魔法の中の、最強の一が発動する。
それを迎撃しようとするなのはは、バインドにとらわれて身動きが取れなくなっている。

「どうやら、これで終わりのようだな。やはり、元からある力の差を埋めきれなかったか。
 たとえ受け切っても、もう魔力はほとんど残るまい」
アルフやユーノが手を出そうとするが、それをなのはに止められる。
たしかに、これは戦闘ではなく「決闘」だ。ならば横槍を入れるのは、無粋というもの。
なのは自身、フェイトの全力の攻撃を受け切るつもりのようだ。
だがこれを受けては、なのはに勝ち目があるとは思えない。
何か秘策でもあれば別だが、それを実行する力すら残らないだろう。

驚いたことに、なのはは見事全弾受け切ってみせた。
驚愕し、動きを止めるフェイトの真上を取ったなのはは、最後の魔力で「ディバインバスター」を使った。
一体どういう防御力をしているのか。たとえ受け切ったとしても、反撃する余力などないと思ったのだが。
しかし起死回生の一撃も、フェイトに耐えきられてしまった。

これで、お互いに残った魔力はわずか。
これなら接近戦に秀でるフェイトの勝ちか、と思った矢先に、これまでで一番の出鱈目をなのはがやらかす。

「な、なに考えてんだ、あいつ!?
 周囲の魔力を使って、足りない分の攻撃力を補う気か?
 おい、凛! お前、こんなことまで教えたのか!?」
フェイトの頭上に移動したなのはは、そこで周囲に散らばった魔力をかき集めている。
その様は、天空の星々が集結していくかのようだ。
なのはの前にある光球は、加速度的にその大きさと輝きを増している。
一体、どれほどの威力を持たせる気でいるんだ。

「ああ、あれね…。ほら、前に言ったでしょ、なのはが私に秘密でやっている訓練があるって。
まさか本当にこの短期間でモノにして、あまつさえ実戦で使えるレベルになるとは思わなかったわ。
私が訓練を始める前に言っていた事と、以前見せた魔術師の技術をヒントにして、ユーノに協力して貰って編みあげたのよ……」
説明する凛の声は、呆れるような響きを含んでいるが、どこか投げやりになっている。
まぁ、無理もないか。俺だって、なんだか馬鹿馬鹿しい気分になってくる。
それだけなのはの成長は、予想外どころの騒ぎではないくらいに急激なのだ。もう進化と言っていいレベルだと思うぞ、これは。

それと、足りないのなら別のところから持ってくる、というのは魔術師にとっては常識だ。
一応、魔術がどういうものか教える際に、大気中の魔力を汲み上げるのも見せたことがあるらしい。
それを魔導師流にアレンジしたんだろう。まさか、それをこんな形で実行するとは…。

たしかに、以前なのはが凛には秘密で魔法を練習していると聞いたが、こんなものを考えていたのか。
あの時、凛の顔が引きつっていたのも納得だ。
ユーノから提供されたのは、あくまで理論だけだ。自力でこんなデタラメなことを考えて、それを見本もなしにほとんど独学で身につけようというのだ。呆れてモノも言えない心境になって、当然だろう。
しかも、それを本当に完成させてしまったのだから、呆れるのを通り越して馬鹿馬鹿しくなっても仕方がない。

普段の訓練とジュエルシード探しの合間を縫っての訓練の上、なのはの体調に変化があった場合には、凛から注意もされていただろうし、そう時間をかけて身につけたものではないはずだ。
短期間でこれほど戦えるようになったことだけでもすさまじいのに、それよりもずっと少ない時間でこれを編み出したのか。
なんでもこれは、ランクにしてSに届く高等技術らしい。
ヒントがあったとはいえ、それを教えられるのではなく、自分で身につけるなんて本当に天才だな。

「これがわたしの全力全開! スターライト・ブレイカー!!!!」
なのはがありったけの魔力と、周囲の魔力を用いた一撃を放つ。
あんなの、宝具の真名開放でもしなければ防ぐことも、かき消すこともできやしない。
なのは以上のランクの魔導師の中には、同じタイプの人もいるだろうから、これ以上の攻撃をできる人だっているかもしれない。魔法というのは、俺が思っていた以上にとんでもないようだ。

収束砲というらしいが、人間が出せる攻撃という意味では、最大級の威力を持っていると言ってもいいかもしれないな。宝具クラスでなくては比較対象にもできないなんて、まったく、なんて規格外。
あまりの光景に唖然としてしまう。

「本当の強者は、たとえ万分の一の勝機でもものにしてみせるとは言ったけど。
その点で言えば、なのはは本当にそうなのかもしれないな」
あまりの出鱈目ぶりに嘆息する。
いくら非殺傷設定があるといっても、あれでは殺しかねないのではないかと心配になる。
なのはは正しく「やるからには徹底的に」が流儀の、遠坂凛の弟子であることを確信した。
あれは将来、凛に次ぐ「あくま」になること間違いなしだな…。


勝敗は決した。海に落ちたフェイトを救出して、いまはなのはがフェイトを抱きかかえている。
バルディッシュからジュエルシードが出され、なのはがそれを取ろうと手を伸ばす。
動くとすればそろそろだな。
そんな予想は見事に的中し、先ほどまで晴れていた空から、膨大な魔力を帯びた紫電が降ってくる。

「やはりか! 『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」
林から出て、二人に向かってあらかじめ待機させていた楯を飛ばす。
今回はクロノとの時に使ったような半端なモノではなく、七枚すべてを投影した完全な形だ。
鞘を除けば、これが俺の持つ中で最強の守りだ。
そう簡単に破られはしない。

だが、同時に不安もある。
プレシアはジュエルシードを制御できると言っていた以上、その魔力を利用することができる可能性が高い。
それによって行われる攻撃は、生半可なモノではないはずだ。実際、雷撃から感じられる魔力は尋常ではない。

また、自然現象が相手ではアイアスといえども分が悪い。
如何にその花弁の如き守りの一枚一枚が古代の城壁に匹敵するとはいえ、その真価を発揮できなければどこまで耐えられるかわからない。
アイアスは、投擲兵器に対する絶対の防御力を誇る宝具だが、それはあくまで投擲兵器に対するものでしかない。
自然現象である雷は、これに該当しないのだ。
もし本物の落雷を相手にしたら、破られる可能性は十分にある。

落雷といっても、こいつの根底には魔力と人間の意思が通っている。
すなわち自然現象の姿を借りただけの、人為的なモノだ。
概念武装をはじめとした神秘側の武装は、物理的な意味合いよりも、そのうちにある本質こそ重視される。
形の上では落雷でも、その実明確な敵意や害意が宿っている。
そもそも魔法によって放たれている以上、他の魔力弾と同じモノと判定されるはずだ。
もしそうなら問題なく防ぐことができるはずだが、確証があるわけじゃない。

それこそが、俺の感じる不安だ。
それに、相手は神秘の欠片もない攻撃だ。
神秘同士のぶつかりあいならまず宝具に負けはないが、神秘性なんて全くないし、あの威力と雷という属性だ。
その上、投擲された攻撃かというと「そうだ」と言い切れない。
不確定要素が多すぎて、どんな結果になるかわからないのだ。
だからこそ、七枚すべてを投影し万全の守りを敷いた。

そして、念を入れて正解だったようだ。
アイアスは確かに雷撃を防いでいるが、徐々にヒビが入っていく。
雷撃という属性を帯びているせいか、それともデタラメな魔力が込められているせいかは不明だが、とにかく楯に亀裂が入っていく。

一枚目が破壊されてもまだ六枚あるが、この雷撃がいつまで続くかわからない。
そうなると、たかが一枚と妥協することはできない。
いや、すでに一枚目も限界だ。すぐにでも二枚目に到達する。
先ほどまでよりなお多くの魔力を楯に注ぎ込み、雷撃に対抗する。

しかし俺は、ここで致命的なミスをやらかした。
「え、ウソ!? 第二波来るよ、気を付けて!!」
エイミィさんからの警告が聞こえる。

「第二波だと!? ちっ、こちらの考えを読まれていたか」
先ほどの一条の雷光とは違い、広範囲に落雷が降り注ぐ。
範囲が広い分威力は第一波よりかは劣るが、それでもかなりの力だ。
これの直撃を受けてもただでは済まない。

ここで楯を引いては、二人の守りがなくなる。
二人とも消耗していて、とてもではないが防ぎきれるものではない。
アルフとユーノも、今は自分の分の防御で精一杯。二人に回す余力はない。
となれば、ここで楯を退くわけにはいかない。

だがそうなると、当然俺はあぶれることになり直撃を受ける。
もう一つアイアスを投影すれば防げるが、時間が足りない。「剣」の概念から外れる分、通常よりも作り上げるのに時間がかかる。今から投影しても間に合わない。
これほどの魔力を帯びた雷撃が相手では、聖骸布の守りも気休め程度にしかならないだろう。

もはや俺にできることはただ一つ。聖骸布に可能な限りの強化を施し、覚悟をきめてこの攻撃に耐えるしかない。
「が、ああぁぁぁぁぁ……」
高出力の電撃を受けて、意識が遠のいていく。
同時に楯が揺らぎ、ヒビ割れがどんどん侵食していくのが感じられる。

このままでは不味い。体を走る稲妻のせいで、楯の維持に集中できない。
体を苛む痛みと身を焼かれる灼熱感を無視して、楯の維持と魔力を注ぐのに全身全霊を傾ける。
意地でも二人を守りとおさなければ、俺がここにいる意味がない。そう自らを鼓舞し、意地を張りとおす。

攻撃そのものは一瞬で、すぐに雷撃はやんだ。
だが、それでもなお受けたダメージは甚大だ。僅かだが、何かが焦げる匂いもする。
とりあえず、命に別条はなさそうだ。過去、死にかけたことは何度もあるし、実際に俺は一度ならず死んでいる。
その経験から言って、今までにはもっとヤバい状態になったこともある。それよりはマシなので、多分大丈夫だ。
あれだけの雷撃を受けて、致命傷でないのがせめてもの救いだな。
全く、つくづく悪運が強い。

朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞って二人の安否を確認する。
楯はなんとかその役割を果たしたらしく、四枚目までが破られ五枚目もヒビだらけだが、二人は無事なようだ。
あのデタラメな第一波に続き、多少劣るにしても、それでもなお強力な第二波まで受けたのだ。こうして防ぎ切ってくれただけでも、感謝すべきだろう。
ジュエルシードは………持って行かれたか。あの雷撃は、回収する間の目眩ましだったのだろう。
そこまで確認したところで、力尽きた俺はその場に倒れ伏す。

どこからか声が聞こえる気もするが、俺の意識はそこで途絶えた。




あとがき

半月ぶりの更新ですが、予定より少し早く更新できました。

結構あっさり士郎のことがバレてしまい、不満がでないか心配です。
まあ、アルフがアースラに保護された時点で士郎のことを隠すのは無理なので、こんな展開になりました。
その代り、士郎は合流早々に戦線を離脱してしまいました。
次回は凛が大暴れ………の予定です。

皆さん期待していらっしゃるであろう、うっかりは発動するのでしょうか。でも「ここ一番で凡ミスをかます」と言いながら、UBWの終盤はミスらしいミスがないので、案外ピンチやクライマックスに強いのかな? なんて思います。少なくとも、父親である時臣のように「本当に命にかかわるほど重大な局面」でうっかりエフェクトが発動することはないのでしょう。
でも案外、士郎が無茶してプレシアと対峙したりするかもしれません。

今回アイアスが少し壊されましたが、正直結構迷いました。いっそ無傷にしてしまおうか、それとも守りきったけどかなりギリギリにしようか、いろいろ考えた結果です。
このほうが緊張感がありそうというのと、パワーバランスを取るためですね。ジュエルシードの魔力を利用しての攻撃を無傷で防いでしまったら、さすがにバランスがとれないでしょう。
まだ「最強の守り」である鞘だってあるんですから。これくらいがちょうどいいと思います。
ちなみに破壊されてしまった一番の理由は、純粋に威力が半端ではなかったせいです。
下手に神秘性が入ってこない分、単純な力勝負になった結果だと思ってください。

次回は、多分初めての外伝になります。
今回やっと士郎がアースラと合流したので、外伝を解禁できるようになりました。
先月終わりには書き上がっていたのですが、内容的に少しネタバレになってしまうので、今まで出せないでいた話になります。これでネタバレの心配がなくなったので、安心して皆さんの前に出すことができます。
最後の推敲をして、今月中にでも出せたらいいと思います。

それでは、今回はこれにて失礼します。


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